以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態により本発明が限定されるものではない。以下の実施形態で示すモータ制御装置は、空気調和機の室外機などに用いられ、停止時に風などの外力により逆回転する場合があるプロペラファンを回転させるモータを駆動する永久磁石同期モータの制御装置として説明するが、これに限られず、空気調和機のコンプレッサを回転させるモータや、その他のモータ一般に広く適用できる。
なお、以下に示す実施形態は、一例を示すに過ぎず、開示技術を限定するものではない。また、以下に示す実施形態およびその変形例は、矛盾しない範囲で適宜組合せて実施できる。また、以下に示す実施形態およびその変形例は、開示技術にかかる構成および処理について主に示し、その他の構成および処理の説明を簡略化または省略する。また、以下に示す実施形態およびその変形例において、同一の構成および処理には同一の符号を付与し、既出の構成および処理の説明は省略する。
実施形態の説明に先立ち、モータの起動制御について説明する。図1は、基本技術にかかるモータ起動制御を説明するための図である。空気調和機用の室外機などプロペラファンを負荷とするモータは、停止状態であっても、プロペラファンが受ける風などの外力により、空転している場合がある。外力によって起動時に影響を受けるモータの場合、外力により逆回転方向に空転しているときが、負荷が重い重負荷状態である。また、モータは、正回転方向に空転しているときが、負荷が軽い軽負荷状態である。このようなモータは、軽負荷状態の場合が、停止状態の場合よりも軽負荷である。このように、例えばプロペラファンを負荷とするモータは、起動時に、プロペラファンの逆回転と正回転の間での広範囲の負荷状態が考えられる。
このように、逆回転と正回転の間の広範囲の負荷状態を考慮してモータをスムーズに起動させるために、一例として、図1に示すような複数の区間に区切られた段階を経てモータの起動制御が行われる。図1に示すように、複数の区間として、時間軸の正方向に、「停止区間」、「過渡領域」および「安定回転領域」を含む「定回転区間」、「調整区間」、「通常運転区間」の各区間がある。
「停止区間」は、モータに給電されていない領域である。「停止区間」では、モータは、例えばモータに接続されているプロペラファンに風や雨などの外力が加えられると、空転する。この場合、モータが駆動する際にモータにかかる負荷は、例えば、モータに接続されているプロペラファンと、風雨である。「定回転区間」は、上述のように、モータの状態により「過渡領域」および「安定回転領域の2つの領域に分かれる。
「過渡領域」は、モータが空転していない停止状態であれば回転子が回転磁界に引き込まれて回転を開始し、逆転方向に空転していれば減速→停止→正転と回転方向を転換後に同期回転を開始し、正転方向に空転していれば回転磁界の回転数(角速度)に合わせて加速または減速するといった、安定回転に至るまでの過渡的な挙動を示す領域である。
「安定回転領域」は、「過渡領域」で回転を開始した電動機が、回転磁界に同期して安定した定回転を続けている領域である。「調整区間」は、「モード移行」時に、センサレス方式によりモータの運転を行う「通常運転」へスムーズに移行できるように、印加電圧や回転数等の運転モードの切り換えタイミングを調整する領域である。例えば、誘起電圧を回転子の位置検出に利用しているシステムであれば、誘起電圧が確実に検出できる回転数まで回転数を増加させる。「通常運転区間」は、センサレスベクトル制御駆動などの回転子の位置を検出したモータ駆動を行う領域である。「モード移行」とは、「調整区間」と「通常運転区間」との切り換わりのタイミングである。本実施例では、「調整区間」と「通常運転区間」とが切り換わることで同期運転モードから、センサレス方式によりモータの運転を行うモードである通常運転モードへのモード移行が行われる。
「調整区間」におけるモータへの印加電圧と、モータの回転数は、「モード移行」のタイミングに大きく影響する。「モード移行」時に印加電圧または回転数、あるいはその両方が最適値から大きく乖離していると、通常運転に切り換える際に切り換えショックが発生する。これは、「定回転区間」から「調整区間」までの「起動区間」と、「通常運転区間」とで、駆動電流の位相が大きく異なるために発生するもので、「通常運転区間」において電流制御器が過剰反応することによって起こるものである。切り換えショックにより、電流ハンチングや急激な速度変動が発生し、それによりモータに振動や異音が発生し、著しい場合は脱調して停止したり、ハンチングした電流で過電流保護機能が働いて自己停止するなどの事態となる。
そこで、かかる事態を回避するためには、「モード移行」するタイミングで、「起動区間」と「通常運転区間」との駆動電流の位相を等しくすることが望ましく、一般的には印加電圧や回転数の上昇量などを事前測定等により最適値とすることで実現している。しかし、プロペラファンを接続したモータのように、外力によって負荷状態が変動する場合は、前述の方法では、「モード移行」時の切り替えショックを完全に防止することは難しい。
そこで、「定回転区間」の「安定回転領域」において、モータの負荷状態を検出し、「調整区間」における印加電圧や回転数の変化量などを、検出した負荷状態に合わせて可変することで、「通常運転区間」への「モード移行」をスムーズに行うことができる。以下の実施形態では、「安定回転領域」において、検出した負荷状態に応じて「調整区間」における印加電圧や回転数などの起動パラメータの変化パターンを可変とする。
[実施形態1]
(実施形態1にかかるモータ起動制御)
図2は、実施形態1にかかるモータ起動制御を説明するための図である。実施形態1では、起動時の「定回転区間」の「安定回転領域」における印加電圧(δ軸指令電圧Vδ*)および回転数(指令角速度ωe*)でのモータの通電電流からモータの負荷量を推定する。そして、モータの負荷量の推定結果から、「モード移行」時のδ軸指令電圧Vδ*(モード移行電圧値)をVc1とVc2の間の値に決定する。「過渡領域」の時間は、システムにより異なるので、システムに合わせた時間を予め決めておき、その時間が経過すると、「安定回転領域」に入ったとしてモータの通電電流から負荷量を推定する。すなわち、「安定回転領域」は、負荷量の推定に要する時間ということになる。
負荷量の推定が完了すると、「調整区間」における印加電圧の変化量を割り出し、印加電圧の変化量に従って、Vc1からVc2までの範囲で、「モード移行電圧値」を決定する。「モード移行電圧値」を決定する手法は、例えば、予め決めておいた「モード移行電圧値」をテーブル化しておき、推定した負荷量と対応する「モード移行電圧値」のデータをメモリに格納されたルックアップテーブルから取得するようにする。
なお、図2では、「通常運転区間」へ移行する回転数を一意的に決めるという観点から、回転数の変化パターン(モード移行回転数)を1種類としたが、1種類に限られず、可変パターンとしてもよい。
以下、印加電圧Vの与え方について、適用例を説明する。
(通常運転区間においてモータが定回転数で駆動されている状態の電圧と電流)
図3は、通常運転区間においてモータが定回転数で駆動されている状態の電圧と電流を示すベクトル図である。印加電圧Vは、制御座標系であるγ-δ軸上のベクトルとして表わされるが、図3では、一例として次のようにする。
モータの起動中は、モータの回転子の位置が成り行きであるので、電圧位相は問題にならないが、起動処理を行った後の通常運転(位置検出運転)への移行時を考慮し、q軸に相当するδ軸に主電圧を設定する回路構成とする。
図3は、下記(1-1)式および(1-2)式の定常状態(微分項が0)におけるSPM(Surface Permanent Magnet)モータの電圧電流方程式を図示している。
上記(1-1)式および(1-2)式において、“R”はUVWの各相あたりの巻線抵抗、“ωe”は電気角の角速度、“L”はインダクタンス(L=Ld(d軸インダクタンス)=Lq(q軸インダクタンス))、“φ”は永久磁石回転子の磁束量(線間実効値)、“Vd”はd軸電圧、“Vq”はq軸電圧、“Id”はd軸電流、“Iq”はq軸電流である。モータのリラクタンストルクを0と仮定すると、負荷電流Iqはq軸上にあり、負荷電流Idは0である。モータへの印加電圧Vのd軸成分Vdとq軸成分Vqは、巻線抵抗Rの電圧降下分を含めて、図3に示す通りである。
また、モータの起動時は、モータの回転子の回転位置を制御していないため、γ-δ軸とd-q軸との間には軸誤差Δθがあるため、軸誤差が0でない場合におけるγ-δ軸の定常時電圧電流式は、微分項と微小項をともに0として、下記(2-1)式および(2-2)式のようになる。
モータは、起動時の同期運転から「モード移行」を経て図3に示す運転状態へ移行することを考慮して、d軸に対応するγ軸電圧Vγ*を、上記(1-1)式と対比させて、下記(3)式とする。
ここで、上記(3)式におけるωe*は、同期運転の指令角速度(電気角)、Iδはδ軸の電流である。同期運転の指令角速度(電気角)ωe*と、δ軸指令電圧Vδ*は、上述のように、想定した最大負荷に対応するように予め試験的に決定された値である。なお、γ軸電圧Vγ*の設定については、上記(3)式に限られるものではなく、例えば0としてもよい。
次に、「定回転区間」における負荷の推定方法について説明する。
(通常運転区間においてモータの回転が安定した状態の電圧と電流を示すベクトル図)
図4は、通常運転区間においてモータが回転磁界に追従して正転方向へ回転を開始し、さらに回転が安定した状態の電圧と電流を示すベクトル図である。図4に示す状態の期間は、図1に示す「定回転区間」の「安定回転領域」に相当する。
上記(3-1)式によるモータのγ軸電圧を上記(3)式で与えたとき、電流を検出する手段により検出したIδが現在のδ軸電流であると仮定すると、同期運転なので指令角速度ωe*と実回転角速度ωeが等しくなるので、Iγは、下記(4-2)式に示すように、上記(2-1)式および(3)式がほぼ等しいとおくことにより、下記(4-1)式のように求まる。
また、Iδは(4-1)式と(2-2)式から、下記(5)式のようになる。
なお、上記(5)式では、回転子は回転磁界に同期しているとして、ωeをωe*で置き換えている。上記(5)式を書き換えると、下記(6-1)式および(6-2)式のようになる。ただし、下記(6-2)式におけるφは、下記(6-3)式で示される値である。
すなわち、ωe*が一定であれば、γ軸電流およびδ軸電流は、Δθの関数となる。
図5は、通常運転区間においてモータが回転磁界に追従して正転方向へ回転を開始し、回転が安定した状態の定回転数で駆動されている状態において、負荷が重くなった場合の電圧と電流を示すベクトル図である。図5は、図4の状態からさらに負荷が重くなった場合を示す。
外力による負荷が増加すると、γ-δ軸に対するd-q軸の遅角は、図4のΔθ1から、さらに図5のΔθ2へと減少する。すなわち、γ-δ軸に対するd-q軸の位相差が、Δθ2のように、さらに狭くなる。この時、δ軸指令電圧Vδ*とVγ*によって生成される印加電圧Vのq軸成分が増加するので、q軸電流も増加する。すなわち、負荷が増加すると、軸誤差Δθが図4に示すΔθ1から図5に示すΔθ2へ減少することになり、q軸側の駆動電流Iqが増加する。
また、モータのトルクTMは、下記(7)式によるので、q軸側の駆動電流Iqの増加の結果として、同期角速度ωe*を維持するためのトルクが増加して、負荷の増分と釣り合って、モータの回転を維持することができる。なお、下記(7)式におけるPnは、モータの極対数である。
このように、外力により負荷が増加した場合は軸誤差Δθが減少方向に遷移し、逆に負荷が減少した場合は、軸誤差Δθが増加して、実回転角速度(同期角速度)ωeを維持するように自動的に調整される。この状態を上記(6-2)式に適用すれば、負荷が大きくなったときは第2項が増加するのでIδは減少し、負荷が小さくなったときは第2項が減少するのでIδが増加する。
よって、想定される最大負荷に打ち勝つだけのδ軸指令電圧Vδ*を予め決めておき、「安定回転領域」で電気角速度ωe*で同期回転を行う(図2参照)ことにより、「安定回転領域」におけるIδを観測することによって負荷の大きさを知ることができる。
次に、起動パラメータとして与えるモータへの印加電圧Vの大きさを変更した場合について述べる。
負荷が一定の状態でモータへの印加電圧Vを増加させると、それに伴って、q軸側の電流が増加して(7)式によるモータトルクが上昇する。しかし、負荷トルクが変わらないので軸誤差Δθが大きくなる方向に遷移して、q軸側の電圧配分量が減少し、その結果、q軸側駆動電流を減少させて、負荷トルクと平衡する。
なお、印加電圧Vを下げた場合は、逆のプロセスで帰還作用が働く。起動パラメータの角速度に関しても同様で、速度を上げればΔθが小さくなり、その分q軸分配量が増加してモータの出力が増える。速度を下げた場合は逆の状態となり、モータの出力と負荷が釣り合う。
負荷量の検出に用いる評価量としては、下記(8)式で表される|I|(|*|は*の大きさを表す)を用いる。なお、負荷量の検出に用いる評価量として、上述の(6-1)式または(6-2)式のIδを用いてもよい。
(負荷量と、検出した電流値との相関)
図6は、負荷量と、検出した電流値との相関を概念的に示す図である。図は、(8)式のシミュレーション結果の一例を示す。図6では、負荷量を横軸に取り、電流値|I|を縦軸に取る。図6において、横軸の正方向ほど重負荷となり、縦軸は上記(8)式で示される負荷に対する電流値|I|を示している。図6から、負荷の増加に対して電流値|I|が減少する傾向が分かる。
(検出した電流値と、既知データとの相関)
図7(a)は、検出した電流値と、既知データとの相関を概念的に示す図である。図6に示す負荷特性をモータの起動時の可変制御に反映させるため、実施形態1では、以下の手法を取る。図7(a)に示す既知データは、モータを駆動するマイクロコンピュータ等の制御装置の内部メモリに保存される参照データである。
例えば、負荷がプロペラファンの場合、外部からの風による空転を考えると、逆回転方向に空転する風向きであれば負荷が重くなり、正回転方向の空転であれば負荷が軽くなる。逆回転時であれば、起動開始にあたり、予め決められたδ軸指令電圧Vδ*の初期値と、角速度ωe*をモータに供給すると、逆回転が停止したのち正回転方向に回転を開始して「定回転区間」に入る。
よって、「定回転区間」で電流の測定を開始するためには、モータの回転が安定するまでの遅延時間を考慮して電流測定を開始する。この遅延時間の考慮は、図1に示す「過渡領域」である。
図7(a)では、横軸を測定電流値(|I|またはIδ)、縦軸を負荷量としている。負荷量および既知データの相関を含む参照データは、予め試験等により決めておくデータであり、横軸左端xaが想定する最大負荷(仕様上の上限)である。
また、参照データの作り方として、無負荷を挟んで正回転方向の軽負荷状態まで定義しておけば、負荷電流の測定値から正回転方向または逆回転方向の空転方向を推定することも可能となる。
さらに、参照データが、関数(あるいは近似関数)で表されるのであれば、負荷量を数式から決定できる。例えば、1次関数として傾きαを予め定めておけば、比例式から負荷量を算出できる。なお、1次式に限らず、2次以上の高次数や指数関数であってもよい。また、参照データは、非線形のデータとして離散的なデータとしてテーブルに保存されておいてもよい。その場合は、測定電流に対して近い負荷量を採用するか、2データ間を線形補完して負荷量を決定する。
このようにして負荷量が決定できれば、「モード移行」に必要な電圧や回転数などを決定できる。実施形態1にかかるモータ起動制御では、負荷量を測定して重負荷であれば、モード移行電圧VcとしてVc2を選択し、軽負荷であればVc1を選択すればよい。一例として、図7のxaが|I2|、xbが|I1|、ybがVc1、yaがVc2であり、相関関係が傾き一定(α)の一次関数であるとすれば、電流の測定値|I|から容易にモード移行電圧Vcを求めることができる。
また、軽負荷ybを正回転方向の空転負荷、重負荷yaを逆回転方向の空転負荷とすれば、電流|I2|と|I1|の間に停止時の負荷電流|I0|が存在するので、図7のy0がモータ停止時のパラメータとして既知であれば、電流値の大小関係から空転状態における回転方向を推定できる。
(実施形態1にかかるモータ制御装置の構成)
図8は、実施形態1にかかるモータ制御装置の構成の一例を示すブロック図である。実施形態にかかるモータ制御装置100は、モータ1が接続される。モータ1には、例えば、プロペラファン1aが取り付けられている。モータ制御装置100は、マイクロコンピュータ10、PWM(Pulse Width Modulation)生成器27、PM(Power Module)28、1シャント電流検出器を構成するシャント抵抗29を有する。
また、マイクロコンピュータ10は、減算器11、速度制御器12、減算器13、q軸電流制御器14、加算器15、第1スイッチ16、励磁電流制御器17、減算器18、d軸電流制御器19、第2スイッチ20、加算器21、γ軸電圧生成器22、第3スイッチ23、積分器24、負荷検出部25aおよび運転モード切換部25bを有する起動処理部25、d-q/UVW変換器26、電流検出器30、UVW/d-q変換器31、位置推定器32、除算器33を有する。
なお、図8の破線で示すように、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23は、起動処理部25と接続され、運転モード切換部25bの制御により、各スイッチの接続状態が切り換えられる。第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23は、共通接点16-0、共通接点20-0、共通接点23-0それぞれが、それぞれの接点16-1、接点20-1、接点23-1と接続されているとき、モータ1の起動時の回路構成となる。他方、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23は、共通接点16-0、共通接点20-0、共通接点23-0それぞれが、それぞれの接点16-2、接点20-2、接点23-2と接続されているとき、モータ1の通常運転への「モード移行」後の回路構成となる。
減算器11は、モータ制御装置100へ入力された速度指令値(指令回転数)ωm*から、除算器33から出力された、推定された現在の角速度である実速度(機械角実速度)ωmを減算した速度偏差(機械角速度偏差)Δωを速度制御器12へ出力する。
速度制御器12は、減算器11から出力された速度偏差Δωが小さくなるようなq軸電流指令値Iq*を生成し、減算器13へ出力する。なお、速度制御器12は、図示しないPI制御器と接続されるため、積分器がq軸電流指令値Iq*を保持する。従って、通常運転に「モード移行」する際、「モード移行」直前に生成したδ軸電流指令値Iδ*で積分器を初期化する。
減算器13は、速度制御器12から出力されたq軸電流指令値Iq*から、UVW/d-q変換器31から出力されたq軸電流Iqを減算してq軸電流偏差ΔIqを生成し、q軸電流制御器14へ出力し、加算器15へ出力する。
q軸電流制御器14は、減算器13から出力されたq軸電流偏差ΔIqからq軸電圧指令値Vq**を生成し、加算器15へ出力する。加算器15は、上記(1-2)式に基づき、q軸電圧指令値Vq**からq軸電圧指令値Vq*を生成する。
第1スイッチ16は、運転モード切換部25bの制御により、共通接点16-0が接点16-1および接点16-2のいずれか一方と接続される。第1スイッチ16は、接点16-1が共通接点16-0と接続された状態では、起動処理器25から出力されたδ軸電圧指令値Vδ*をd-q/UVW変換器26へ出力する。また、第1スイッチ16は、接点16-2が共通接点16-0と接続された状態では、加算器15から出力されたq軸電圧Vq*を、d-q/UVW変換器26へ出力する。
励磁電流制御器17は、速度制御器12から出力されたq軸電流指令値Iq*からd軸電流指令値Id*を生成し、減算器18へ出力する。
減算器18は、励磁電流制御器17から出力されたd軸電流指令値Id*から、UVW/d-q変換器31から出力されたγ軸電流Iγを減算してd軸電流偏差ΔIdを生成し、d軸電流制御器19へ出力する。
d軸電流制御器19は、減算器18から出力されたd軸電流偏差ΔIdからd軸電圧指令値Vd**を生成する。
第2スイッチ20は、運転モード切換部25bの制御により、共通接点20-0が接点20-1および接点20-2のいずれか一方と接続される。第2スイッチ20は、接点20-1が共通接点20-0と接続された状態では、“0”を加算器21へ出力する。また、第2スイッチ20は、接点20-2が共通接点20-0と接続された状態では、上記(1-1)式に基づくd軸電圧Vdを生成するように、d軸電流制御器19から出力されたd軸電圧指令値Vd**を加算器21へ出力する。
加算器21は、第2スイッチ20の接点20-1が共通接点20-0と接続された状態では、γ軸電圧生成器22から出力されたγ軸電圧指令値Vγ*に“0”を加算することになるので、γ軸電圧指令値Vγ*を、d-q/UVW変換器26へ出力することになる。また、加算器21は、第2スイッチ20の接点20-2が共通接点20-0と接続された状態では、上記(1-1)式に基づき、d軸電流制御器19から出力されたd軸電流指令値Vd**と、γ軸電圧生成器22から出力されたγ軸電圧指令値Vγ*とを加算することにより、d軸電圧指令値Vd*を、d-q/UVW変換器26へ出力することになる。
γ軸電圧生成器22は、第3スイッチ23を介してd-q/UVW変換器31と接続されている場合に、上記(3)式をもとに、UVW/d-q変換器31から出力された現在のδ軸電流Iδと、起動処理部25から出力された角速度ωe*とからγ軸電圧Vγ*を算出し、加算器21へ出力する。γ軸電圧Vγ*は、初期値0から、モータ1の加速に伴い更新され、徐々に負側に大きくなって、やがて一定値に収束する。
第3スイッチ23は、運転モード切換部25bの制御により、共通接点23-0が接点23-1および接点23-2のいずれか一方と接続される。第3スイッチ23は、接点23-1が共通接点23-0と接続された状態では、起動処理部25から出力された同期運転の指令角速度(電気角)ωe*を、γ軸電圧生成器22へ出力する。また、第3スイッチ23は、接点23-2が共通接点23-0と接続された状態では、位置推定器32から出力された実回転角速度ωeを、γ軸電圧生成器22へ出力する。
積分器24は、回転角θeを出力する。ここで、回転角θeは、積分器24が第3スイッチ23により起動処理器25と接続されている状態では、起動処理器25から出力された指令角速度ωe*に基づく制御角(制御軸(γ-δ軸)の回転角度)となる。また、積分器24が第3スイッチ23により位置推定器32と接続されている状態では、軸誤差Δθがほぼ零となるため、位置推定器32から出力された、推定された角速度ωeに基づく現在のロータの位置θeとなる。
起動処理部25は、負荷検出部25aおよび運転モード切換部25bを有する。起動処理部25は、モータ1の起動時、すなわち図1に示す「定回転区間」および「調整区間」において、δ軸指令電圧Vδ*をd-q/UVW変換器26へ出力する。また、起動処理部25は、モータ1の起動時において、同期角速度ωe*を、γ軸電圧生成器22へ出力する。
起動処理部25の負荷検出部25aは、モータ1の起動時において、UVW/d-q変換器31から出力されたd軸電流Id(γ軸電流Iγ)およびq軸電流Iq(δ軸電流Iδ)をもとに上記(8)式により算出される負荷に対する電流値|I|から推定されるプロペラファン1aの空転による負荷量を検知する。
起動処理部25の運転モード切換部25bは、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23それぞれの共通接点16-0、20-0、23-0を、接点16-1、20-1、23-1、または、接点16-2、20-2、23-2それぞれのいずれかに接続する。運転モード切換部25bは、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23それぞれの接点の接続を切り換えることにより、「モード移行」を行う。
d-q/UVW変換器26は、積分器24から出力された回転角θeを用いて、2相のd軸電圧指令値Vd*およびq軸電圧指令値Vq*を、3相のU相出力電圧指令値Vu*、V相出力電圧指令値Vv*、W相出力電圧指令値Vw*へ変換する。そして、d-q/UVW変換器26は、U相出力電圧指令値Vu*、V相出力電圧指令値Vv*、W相出力電圧指令値Vw*をPWM生成器27へ出力する。
PWM生成器27は、d-q/UVW変換器26から出力されたU相出力電圧指令値Vu*、V相出力電圧指令値Vv*、W相出力電圧指令値Vw*と、PWMキャリア信号から、PWM駆動信号(U,V、W、X、Y、Z)を生成し、PM28へ出力する。
PM28は、PWM生成器27から出力された6相のPWM駆動信号をもとに、モータ1のU相、V相、W相それぞれへ印可する3相交流電圧を、外部から供給される直流電圧Vdcをチョッピングして生成し、各相の交流電圧をモータ1のU相、V相、W相へ印加する。
電流検出器30は、PWM生成器27から出力された6相PWMスイッチング情報と、シャント抵抗29によって1シャント電流検出方式で検出された母線電流から、モータ1のU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを算出する。なお、電流検出方式は、2つのCT(Current Transformer)でU相電流IuおよびV相電流Ivを検出し、残りのW相電流Iwを、Iu+Iv+Iw=0の関係式より算出する2CT方式であってもよい。電流検出器30は、算出したモータ1のU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、UVW/d-q変換器31へ出力する。
UVW/d-q変換器31は、積分器24から出力された回転角θeを用いて、電流検出器30から出力された3相のU相電流Iu、V相電流Iv、W相電流Iwを、2相のd軸電流Idおよびq軸電流Iqへ変換する。そして、UVW/d-q変換器31は、d軸電流Idを減算器18、起動処理部25の負荷検出部25a、位置推定器32へ、q軸電流Iqを減算器13、起動処理部25の負荷検出部25a、γ軸電圧生成器22、位置推定器32へ、それぞれ出力する。なお、減算器18、起動処理部25の負荷検出部25a、位置推定器32へ入力されるd軸電流Idは、制御軸(γ-δ軸)のγ軸電流Iγで代用し、減算器13、起動処理部25の負荷検出部25a、γ軸電圧生成器22、位置推定器32へ入力されるq軸電流Iqは、制御軸(γ-δ軸)のδ軸電流Iδで代用する。
位置推定器32は、UVW/d-q変換器31から出力されたd軸電流Id(Iγ)およびq軸電流Iq(Iδ)から、モータ1の誘起電圧を推定し、さらに現在の角速度ωeを推定する。位置推定器32は、推定した現在の角速度ωeを除算器33へ出力するとともに、第3スイッチ23の接点23-2と接続されている。
(実施形態1にかかるルックアップテーブル)
図9は、実施形態1にかかるモータ制御装置におけるルックアップテーブルの一例を示す図である。実施形態1にかかるルックアップテーブル25a-1は、起動処理部25の内の所定のメモリ領域に格納されている。ルックアップテーブル25a-1は、「検出電流値」「モード移行電圧」のカラムを有する。ルックアップテーブル25a-1は、図6および図7を参照して説明した、推定される負荷量に対応する検出電流値と、既知データとの相関関係を具体化したテーブルの一例である。
図9において、例えば、「検出電流値」が“|I1|”である場合に、「モード移行電圧」“Vc1”が対応する。起動処理部25は、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」に応じた「モード移行電圧」を、ルックアップテーブル25a-1から取得する。そして、起動処理部25は、「定回転区間」から「調整区間」へ移行後、「モード移行」時までの「調整区間」で、「定回転区間」における起動電圧であるδ軸指令電圧Vδ*から、「モード移行」時における「モード移行電圧」までδ軸指令電圧Vδ*を増加させる(図2参照)。
例えば、起動処理部25は、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」“|I1|”に応じた「モード移行電圧」“Vc1”を、ルックアップテーブル25a-1から取得する。そして、図2に示すように、起動処理部25は、「定回転区間」において起動電圧のδ軸指令電圧Vδ*でモータ1を起動し、「調整区間」へ移行後、「モード移行」時まで、起動電圧のδ軸指令電圧Vδ*から「モード移行電圧Vc1へ、δ軸指令電圧を増加させる。
(実施形態1にかかるモータ起動処理)
図10は、実施形態1にかかるモータ制御装置におけるモータ起動処理の一例を示すフローチャートである。実施形態1にかかるモータ起動処理は、モータ1の起動時に、モータ制御装置100の起動処理部25により実行される。起動処理部25の運転モード切換部25bは、ステップS11の実行前に、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23の共通接点16-0、20-0、23-0それぞれを、接点16-1、20-1、23-1に接続する。
先ず、ステップS11では、起動処理部25は、起動電圧Vδ*をモータ1に印可し、起動回転数ωe*を出力する。次に、ステップS12では、起動処理部25は、「定回転区間」の「過渡領域」の時間を超過したか否かを判定する。起動処理部25は、「定回転区間」の「過渡領域」の時間を超過したと判定した場合(ステップS12Yes)、ステップS13へ処理を移す。一方、起動処理部25は、「定回転区間」の「過渡領域」の時間を超過していないと判定した場合(ステップS12No)、ステップS12の処理を繰り返す。
次に、ステップS13では、起動処理部25は、負荷検出部25aにより、負荷量を示す電流値|I|を測定する。次に、ステップS14では、起動処理部25は、負荷検出部25aによる電流値|I|の測定が終了したか否か、つまり「安定回転領域」が終了したか否かを判定する。負荷を正確に検出するためには、安定回転領域で負荷検出を行う必要があり、負荷検出が終了した場合には安定回転領域を終了させてよい。起動処理部25は、負荷検出部25aによる電流値|I|の測定が終了したと判定した場合(ステップS14Yes)、ステップS15へ処理を移す。一方、起動処理部25は、負荷検出部25aによる電流値|I|の測定が終了していないと判定した場合(ステップS14No)、ステップS13へ処理を戻す。
ステップS15では、起動処理部25は、ステップS13で測定した電流値|I|をもとにルックアップテーブル25a-1を参照し、運転モードの切り換えタイミングであるモード移行電圧Vcを決定する。次に、ステップS16では、起動処理部25は、起動電圧Vδ*および起動回転数ωe*の増加を開始する。なお、起動電圧Vδ*の増加は、ステップS15で決定された「モード移行電圧Vcまでの増加であり、起動回転数ωe*の増加は、所定の起動回転数までの増加である。
次に、ステップS17では、起動処理部25は、「調整区間」の開始後、「モード移行」時間に到達した(ステップS15で決定したモード移行電圧Vcに起動電圧が至るまでの所定時間が経過した)か否かを判定する。起動処理部25は、「調整区間」の開始後、「モード移行」時間に到達したと判定した場合(ステップS17Yes)、ステップS18へ処理を移す。一方、起動処理部25は、「調整区間」の開始後、「モード移行」時間に到達していないと判定した場合(ステップS17No)、ステップS17を繰り返す。
次に、ステップS18では、運転モード切換部25bは、「調整区間」から「通常運転区間」へ「モード移行」を実行する。この際、運転モード切換部25bは、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23それぞれの共通接点16-0、20-0、23-0を、接点16-2、20-2、23-2に接続する。ステップS18が終了すると、起動処理部25は、実施形態1にかかるモータ起動処理を終了する。
以上の実施形態1によれば、例えば、モータに接続されたプロペラファンが外風により正転または逆転することによりモータが正回転または逆回転することで発生するモータの電流値を負荷量の判定に用い、一定回転数で起動した後、起動パラメータであるモード移行電圧Vcを変更し、負荷に適応した電圧と回転数を供給することで、モータ起動の際、ハンチングなどを抑えた滑らかな起動を行うことができる。
[実施形態2]
図11は、実施形態2(および実施形態3)にかかるモータ起動制御を説明するための図である。実施形態2では、上述の「調整区間」でのモータ起動制御を、次のように行う。すなわち、図11に示すように、「調整区間」の制御をA点で二分し、「調整区間」のA点までは実施形態1と同様に、起動電圧Vδ*と起動角速度ωe*を増加させて、起動に必要な回転数までモータを加速させる。
「調整区間」のA点までは、起動電圧Vδ*と起動角速度ωe*は、想定される最大負荷に対して脱調せずに同期運転が継続できるパターンとする。さらに、起動角速度ωe*は、A点で少なくとも「通常運転区間」で必要とされる角速度まで加速可能なパターンとする。「調整区間」での加速パターンは、最大負荷に対応できるように設定されているので、モータには「通常運転」時よりも大きな電力が供給され、d-q軸はγ-δ軸に対して進角状態となっている。
よって、d-q軸はγ-δ軸に対して進角状態となっている状態で「モード移行」を行うと、各制御器の過剰反応により、ハンチングなどの状態を引き起こす。そこで、「調整区間」のA点までは、決められた起動電圧Vδ*と起動回転数ωe*のパターンで加速し、A点以降は起動電圧Vδ*の増加を停止して一定値とし、起動回転数ωe*のみを増加させていく。
このようなモータ起動制御を行うことにより、モータの加速に伴いd-q軸とγ-δ軸との位相差が減少していき、過剰分の電力が次第にq軸側へ分配されていく。図11は、その際の電流変化をIdとIqに基づく電流値の大きさ|I|として表わしており、A点以降は加速にともない最適な位相角に近付くため、電流値は減少する。
つまり、「調整区間」においてモータの加速を続けると、γ-δ軸がd-q軸と一致する方向に動き、「通常運転区間」における最適位相差に近付くので、この近傍で「モード移行」することにより、ハンチングが低減された状態でモータの運転を「通常運転」に移行させることができる。なお、さらにモータの回転数を増加して増速を続けると、電力不足となってやがてトルク不足により脱調してモータが停止する。
モータの出力電力は、角速度とトルクの積なので、負荷トルクが大きいほど、低い角速度で最適位相に達する。この考察から、「モード移行」に最適なタイミングは、負荷が大きいほど「調整区間」における経過時間が短い方向へ移動し、また、最適タイミングにおける電流値|I|は、負荷が重いほど大きな値となる。他方、負荷が軽いほど、「モード移行」に最適なタイミングは、「調整区間」における経過時間が長い方向へ移動し、また、最適タイミングにおける電流値|I|は、負荷が小さいほど小さい値となる。
図11に基づき具体的に説明すると、図11の|I2|は、負荷が重い場合の電流特性であり、A点で定電圧加速が開始され、最適位相に近付くにつれ電流が減少し、B2点において最適位相となる。さらに、B2点を超えて加速すると、位相が遅角方向となり、トルク不足に近付くため、電流値|I2|は増加に転じ、やがて脱調してモータが停止する。
よって、図11の重負荷時の電流値|I2|の状態では、B2点までの時間Ts2で「モード移行」すると、ハンチングなどを起こさずに円滑にモータを「通常運転」に移行させることができる。
また、図11の|I1|は、|I2|の状態よりも負荷が軽い場合の特性を示したもので、この場合の最適な「モード移行」のポイントは、B1点となり、B1点までの時間をTs1とすれば、Ts1>Ts2である。
よって、モータの空転時の負荷を推定することができれば、負荷が加わった状態から「モード移行」までの時間Tsを調整することができるので、最適な「モード移行」のタイミングが得られることになる。
図7(b)を参照しつつ、実施形態2にかかる負荷量に応じて「モード移行」に必要な時間について説明する。負荷量に応じて「モード移行」に必要な時間として経過時間Tsを用いる場合、負荷が重い方がTsが小さくなるので、図7(b)に示すyaをTsの最小値Ts2、ybをTsの最大値Ts1と定義し、負荷量との比例関係から、実施形態1と同様に、負荷に対応した「モード移行」に最適な時間Tsを決定できる。
(実施形態2にかかるルックアップテーブル)
図12は、実施形態2にかかるモータ制御装置におけるルックアップテーブルの一例を示す図である。実施形態2にかかるルックアップテーブル25a-2は、実施形態2にかかるモータ制御装置100Aのマイクロコンピュータ10Aが有する起動処理部25A(図1参照)の内の所定のメモリ領域に格納されている。ルックアップテーブル25a-2は、「検出電流値」「モード移行時間」のカラムを有する。ルックアップテーブル25a-2は、図6および図7を参照して説明した、推定された負荷量に対応する検出電流値と、既知データとの相関関係を具体化したテーブルの一例である。
図12において、例えば、「検出電流値」が“|I2|”である場合に、「モード移行時間」“Ts2”が対応する。起動処理部25Aは、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」に応じた「モード移行時間」を、ルックアップテーブル25a-2から取得する。そして、起動処理部25Aは、「定回転区間」から「調整区間」へ移行後、「調整区間」のA点までの間に、「定回転区間」における起動電圧であるδ軸指令電圧Vδ*から所定電圧まで、δ軸指令電圧Vδ*を増加させる(図11参照)。
例えば、起動処理部25Aは、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」“|I2|”に応じた「モード移行時間」“Ts2”を、ルックアップテーブル25a-2から取得する。そして、図11に示すように、起動処理部25Aは、「定回転区間」において起動電圧のδ軸指令電圧Vδ*でモータ1を起動し、「調整区間」へ移行後、「調整区間」のA点までの間に、「定回転区間」における起動電圧であるδ軸指令電圧Vδ*から所定電圧まで、δ軸指令電圧Vδ*を増加させる。その後、起動処理部25Aは、δ軸指令電圧Vδ*が所定電圧に至ってから“Ts2”だけ時間が経過したB2点において「モード移行」させる。すなわち、起動処理部25Aは、B2点を「モード移行」のタイミングと決定する。
(実施形態2にかかるモータ起動処理)
図13は、実施形態2にかかるモータ制御装置におけるモータ起動処理の一例を示すフローチャートである。実施形態2にかかるモータ起動処理は、モータ1の起動時に、モータ制御装置100Aの起動処理部25Aにより実行される。起動処理部25Aの運転モード切換部25bは、ステップS21の実行前に、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23の共通接点16-0、20-0、23-0それぞれを、接点16-1、20-1、23-1に接続する。
図13に示すステップS21~S24は、図10に示すステップS11~S14と同様である。次に、ステップS25では、起動処理部25Aは、ステップS23で測定した電流値|I|をもとにルックアップテーブル25a-2を参照し、運転モードの切り換えタイミングであるモード移行時間Tsを決定する。次に、ステップS26では、起動処理部25Aは、起動電圧Vδ*および起動回転数ωe*の増加を開始する。なお、起動電圧Vδ*の増加は、所定電圧までの増加であり、起動回転数ωe*の増加は、起動回転数の所定の増加率での増加である。
次に、ステップS27では、起動処理部25Aは、「調整区間」の開始後、A点時間(起動電圧Vδ*が増加して前述の所定電圧まで達した時間)に到達したか否かを判定する。起動処理部25は、起動処理部25Aは、「調整区間」の開始後、A点時間に到達したと判定した場合(ステップS27Yes)、ステップS28へ処理を移す。一方、起動処理部25Aは、「調整区間」の開始後、A点時間に到達していないと判定した場合(ステップS27No)、ステップS27を繰り返す。
次に、ステップS28では、起動処理部25Aは、「調整区間」におけるA点時間以降、起動電圧Vδ*を前述の所定電圧の一定値で出力する。次に、ステップS29では、起動処理部25Aは、前述のA点時間からTs時間のカウントを開始する。ここでのTsとは、ステップS25で決定したモード移行時間Tsである。
次に、ステップS30では、起動処理部25Aは、ステップS29のTs時間カウント開始後、Ts時間経過したか否かを判定する。起動処理部25は、ステップS29のTs時間カウント開始後、Ts時間経過したと判定した場合(ステップS30Yes)、ステップS31へ処理を移す。一方、起動処理部25は、ステップS29のTs時間カウント開始後、Ts時間経過していないと判定した場合(ステップS30No)、ステップS30を繰り返す。
次に、ステップS31では、運転モード切換部25bは、「調整区間」から「通常運転区間」へ「モード移行」を実行する。この際、運転モード切換部25bは、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23それぞれの共通接点16-0、20-0、23-0を、接点16-2、20-2、23-2に接続する。ステップS31が終了すると、起動処理部25は、実施形態2にかかるモータ起動処理を終了する。
以上の実施形態2によれば、例えば、モータに接続されたプロペラファンが外風などにより正転または逆転することによりモータが正回転または逆回転することで発生する電流値を負荷量の判定に用い、一定回転数で起動した後、一定電圧を印可し続けた際の検出電流値が極小となる経過時間を、負荷に適応した「モード移行」のタイミングと決定することで、モータ起動の際、ハンチングなどを抑えた滑らかな起動を行うことができる。
[実施形態3]
図11を再び参照し、実施形態3にかかるモータ起動制御を説明する。実施形態3では、上述の「調整区間」における最適な「モード移行」ポイントを決定するモータ起動制御に用いる指標として、実施形態2の時間Tsに代えて電流値Isを用いる。
図11のB2点における電流値Is2は、負荷状態によって大きさが変化し、負荷が大きいほど大きな値となるので、B1点のIs1と比較するとIs2>Is1となる。よって、負荷量に対する電流値Isの値を予め試験的に求めておき、検知した電流値の大きさ|I|がIsを下回った時点で「モード移行」を実行することにより、「モード移行」に最適なタイミングが得られる。
図7を参照しつつ、実施形態3にかかる負荷量に応じて「モード移行」に必要な可変値について説明する。可変値としてIsを用いる場合、負荷が重い方がIsが大きくなるので、図7に示す、yaをIsの最大値Is2、ybをIsの最小値Is1と定義し、一次関数で補完することにより、実施形態1および2と同様に、電流の大きさ|I|を以って、「モード移行」に最適な時間(図11に示すB1点およびB2点)が求まる。
(実施形態3にかかるルックアップテーブル)
図14は、実施形態3にかかるモータ制御装置におけるルックアップテーブルの一例を示す図である。実施形態3にかかるルックアップテーブル25a-3は、実施形態3にかかるモータ制御装置100Bのマイクロコンピュータ10Bが有する起動処理部25B(図1参照)の内の所定のメモリ領域に格納されている。ルックアップテーブル25a-3は、「検出電流値」「モード移行時電流値」のカラムを有する。ルックアップテーブル25a-3は、図6および図7を参照して説明した、推定された負荷量に対応する検出電流値と、既知データとの相関関係を具体化したテーブルの一例である。
図14において、例えば、「検出電流値」が“|I2|”である場合に、「モード移行時電流値」“Is2”が対応する。起動処理部25Bは、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」に応じた「モード移行時電流値」を、ルックアップテーブル25a-3から取得する。そして、起動処理部25Bは、「定回転区間」から「調整区間」へ移行後、「調整区間」のA点までの間に、「定回転区間」における起動電圧であるδ軸指令電圧Vδ*から所定電圧まで、δ軸指令電圧Vδ*を増加させる(図11参照)。
例えば、起動処理部25Bは、負荷検出部25aにより検知された、負荷量に対応する「検出電流値」“|I2|”に応じた「モード移行時電流値」“Is2”を、ルックアップテーブル25a-3から取得する。そして、図11に示すように、起動処理部25Bは、「定回転区間」において起動電圧のδ軸指令電圧Vδ*でモータ1を起動し、「調整区間」へ移行後、「調整区間」のA点までの間に、「定回転区間」における起動電圧であるδ軸指令電圧Vδ*から所定電圧まで、δ軸指令電圧Vδ*を増加させる。その後、起動処理部25Bは、電流値Isが低下して極小値Is2の値を取ったB2点において「モード移行」させる。すなわち、起動処理部25Bは、B2点を運転モードの切り換えタイミングと決定する。
(実施形態3にかかるモータ起動処理)
図15は、実施形態3にかかるモータ制御装置におけるモータ起動処理の一例を示すフローチャートである。実施形態3にかかるモータ起動処理は、モータ1の起動時に、モータ制御装置100Bの起動処理部25Bにより実行される。起動処理部25Bの運転モード切換部25bは、ステップS41の実行前に、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23の共通接点16-0、20-0、23-0それぞれを、接点16-1、20-1、23-1に接続する。
図15に示すステップS41~S44は、図13に示すステップS21~S24と同様である。次に、ステップS45では、起動処理部25Bは、ステップS43で測定した電流値|I|をもとにルックアップテーブル25a-3を参照し、運転モードの切り換えタイミングとしてモード移行の際の電流値であるモード移行時電流値Isを決定する。次のステップS46~48は、図13に示すステップS26~S28と同様である。
次に、ステップS49では、起動処理部25Bは、ステップS43で測定した電流値|I|と、ステップS45で決定したモード移行時電流値Isとを比較する。ステップS50では、起動処理部25Bは、ステップS43で測定した電流値|I|が、ステップS45で決定したモード移行時電流値Is以下か否かを判定する。なお、電流値|I|と、モード移行時電流値Isとの一致とは、これらの差が所定範囲内である場合を含んでもよい。起動処理部25Bは、ステップS43で測定した電流値|I|と、ステップS45で決定したモード移行時電流値Isとが一致すると判定した場合(ステップS50Yes)、ステップS51へ処理を移す。一方、起動処理部25Bは、ステップS43で測定した電流値|I|と、ステップS45で決定したモード移行時電流値Isとが一致しないと判定した場合(ステップS50No)、ステップS49へ処理を移す。
次に、ステップS51では、運転モード切換部25bは、「調整区間」から「通常運転区間」へ「モード移行」を実行する。この際、運転モード切換部25bは、第1スイッチ16、第2スイッチ20、第3スイッチ23それぞれの共通接点16-0、20-0、23-0を、接点16-2、20-2、23-2に接続する。ステップS51が終了すると、起動処理部25は、実施形態3にかかるモータ起動処理を終了する。
以上の実施形態3によれば、例えば、モータに接続されたプロペラファンが外風などにより正転または逆転することによりモータが正回転または逆回転することで発生する電流値を負荷量の判定に用い、一定回転数で起動した後、一定電圧を印可し続けた際の検出電流値が極小となった時点を、負荷に適応した「モード移行」のタイミングと決定することで、モータ起動の際、ハンチングなどを抑えた滑らかな起動を行うことができる。
以上、実施形態を説明したが、上述した内容により本願が開示する技術が限定されるものではない。また、上述した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。さらに、上述した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。さらに、実施形態の要旨を逸脱しない範囲で構成要素の種々の省略、置換および変更のうち少なくとも1つを行うことができる。