JP7023766B2 - 水力発電所の出力配分装置および水力発電システム - Google Patents

水力発電所の出力配分装置および水力発電システム Download PDF

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Description

本発明の実施形態は、水力発電所の発電出力、流量および貯水量を決定する出力配分装置および水力発電システムに関する。
一般に、水力発電機は発電出力を広範囲に且つ短時間で調節することができる。また、揚水発電機や同期調相機を用いれば、大容量の無効電力を調整可能である。さらに、可変速揚水発電機では揚水運転中でも自動周波数制御が可能である。これらの水力発電機を備えた水力発電所によれば、負荷が変化しても電力系統の周波数や電圧を一定の範囲に保つことができる。
このような水力発電所によれば、電力系統の品質および安定度の向上に寄与することが可能である。水力発電所が上記の効果を発揮するためには、水力発電所を最適な出力で運用することが重要である。したがって、水力発電所の発電出力、流量および貯水量に関して、経済的な出力配分を行う必要がある。
ここで、水力発電所の発電出力、流量および貯水量の関係について、図9を用いて説明する。図9のグラフでは、水力発電所の発電出力、流量および貯水量の関係における一般的な傾向を示している。貯水量1~3のグラフでは、貯水量1から貯水量3になるにしたがって貯水量が大きくなっていく。
発電出力、流量および貯水量の関係における一般的な傾向として次の点を挙げることができる。すなわち、貯水量が一定であれば流量が大きいほど発電出力が大きい。また、貯水量が大きいほど単位流量当りの発電量が多い。すなわち、同じ流量であれば貯水量が大きいほど発電出力が大きい。
しかし、貯水量が変動すれば、貯水量の大小によって、流量と発電出力の関係は変わってくる。すなわち、貯水量が大きくて流量が少ない場合と、貯水量が少なくて流量が大きい場合とでは、どちらの方が、発電出力が大きくなると一概に決めることができない。例えば、図9のグラフにおいて、貯水量が小さく流量が大きい貯水量1のグラフ上のポイントa1と、貯水量が大きく流量が小さい貯水量3のグラフ上のポイントb1を比較した場合、発電出力はb1<a1となる。つまり、貯水量が少なくとも流量が大きければ、大きな発電出力を得ることができることがある。
また、その反対に、流量が少なくとも貯水量が大きければ、大きな発電出力を得ることができる場合がある。例えば、貯水量が小さく流量が大きい貯水量1のグラフ上のポイントa1と、貯水量が大きく流量がポイントa1より小さい貯水量3のグラフ上のポイントb2とを比較すると、ポイントb2の方がポイントa1よりも発電出力が大きいことは明白である。
このように、水力発電所の発電出力は、少なくとも流量と貯水量の多変数関数となっている。そのため、発電出力、流量および貯水量に関して、それぞれの最適値を求めることは非常に面倒であった。水力発電所では、水車効率および発電効率を一定と仮定すれば、発電電力が流量と有効落差の積に比例する。有効落差とは水力発電所の実質的な水位落差であり、水位が決まれば水位-貯水量特性に従って貯水量も決まる。そこで、水力発電所の水位落差の変動は無視して貯水量を固定値とし、流量および発電出力の最適値を求めることが考えられる。
ところが、流量と発電出力との関係は一般に非線形であり、また上に凸とも下に凸とも限らない。すなわち、流量と発電出力との関係を示す流量-発電出力特性(以降、PQ特性とも略記する)は、非線形かつ非凸な関数である。このため、貯水量を固定したとしても、非線形で非凸な関係である発電出力および流量については計算機で扱うことが困難であった。したがって従来では、貯水量について固定値とするだけではなく、PQ特性に関しては、2次関数または3次関数で近似して、水力発電所における発電出力と流量の最適値を求めることが一般的であった。
特開2015-125665号公報
最近では、発送電分離や電気料金の自由化などを背景として、水力発電所を電力会社から独立したカンパニーとして分離させる可能性が生じている。水力発電所が電力会社から独立分離する場合、水力発電所単独での経済性を割り出し、発電出力を高い精度で最適に制御して、経済性を高めることが求められると予想される。
また、水力発電所の経済性を高めるためには、揚水動力費用や起動費用および停止費用、さらには需給バランスや予備力などを細かく勘案して発電コストを極力抑える必要がある。その上で、水力発電所の発電出力、流量および貯水量に関して高い精度で最適な値に決め、経済的な出力配分を行うことが重要となる。
そのため従来では、貯水量を固定値としていたが、これを改め、水位落差の変動を考慮して貯水量の最適値を求めることが要請されている。また、PQ特性については、2次あるいは3次関数を用いた近似よりも一層詳細な近似を行って、水力発電所の発電出力および流量の最適値を求めることが期待されていた。
本実施形態は、上記の課題を解決するために提案されたものであり、その目的は、水位落差の変動および流量-発電出力特性の非線形性及び非凸性を同時に扱える数値計画問題として定式化して、これを解くことにより、水位落差の変動や、PQ特性の非線形性及び非凸性を考慮に入れつつ、発電出力、貯水量および流量の最適値を高い精度で計算することができ、精度および経済性の改善を図ることが可能な水力発電所の出力配分装置を提供することにある。
上記目的を達成するために、本実施形態に係る水力発電所の出力配分装置は、次のような構成要素を備えている。
(1)水力発電所の発電出力、流量および貯水量を計算する出力配分計算実行部。
(2)前記出力配分計算実行部にて用いられるデータを格納し、貯水量区分ごとのPQ特性、および、PQ特性区分ごとのPQ特性を格納するデータ格納部。
(3)前記出力配分計算実行部に備えられており、予め与えられた区分数に分割された貯水量の区分を表す変数と、流量-発電出力特性であるPQ特性を区分線形近似で表してどのPQ特性区分に発電出力および流量が存在するかを表す変数と、どの時間帯にどのくらいの発電出力、流量および貯水量で水力発電所を運転するかを表す変数と、を有し、出力配分期間の全時間帯の収益最大化または運転コスト最小化を目的関数とし、各時間帯の貯水量の上下限および発電出力の上下限を制約条件として、数理計画問題の定式化を行い、貯水量区分ごとのPQ特性、および、PQ特性区分ごとのPQ特性を前記データ格納部から取得して区分線形近似し、PQ特性が時間帯で変化することを考慮に入れて、貯水量区分、流量および発電出力に関する制約を設定する定式化手段。
(4)前記出力配分計算実行部に備えられており、前記数理計画問題を解く求解手段。
第1の実施形態の構成を示すブロック図。 第1の実施形態における出力配分処理を示すフローチャート。 第1の実施形態に係る水力発電システムの概要を示すブロック図。 第2の実施形態における出力配分処理を示すフローチャート。 第3の実施形態の構成を示すブロック図。 管路形状と運転する発電機の組合せにより鉄管損失が変化することを説明するブロック図。 第3の実施形態における運転パターン決定処理を含むフローチャート。 第3の実施形態における出力配分処理を示すフローチャート。 水力発電所の発電出力、流量および貯水量の一般的な関係を説明するグラフ。
(1)第1の実施形態
本発明の第1の実施形態について図面を用いて具体的に説明する。第1の本実施形態は水力発電所の出力配分装置および水力発電システムである。
(水力発電システムの概要)
図3に示すように、第1の実施形態に係る水力発電システム7は、揚水発電所に適用されており、複数の発電機1(図3では4台)を有するものである。発電機1には運転制御部5が接続され、運転制御部5には出力配分装置6が接続されている。出力配分装置6は、本実施形態の一態様であり、水力発電所の発電出力、流量および貯水量を計算して、出力配分を行う装置である。
水力発電システム7においては、上ダム2および下ダム3をつなぐ管路4が設けられている。管路4は鉄管より構成されている。水力発電システム7では上ダム2から下ダム3へ管路4を通して水が流れることによって発電機1の水車が回転し、発電機1が発電するようになっている。
水力発電システム7において、発電機1による発電は通常、電力需要が高い時間帯に行われる。また、発電機1は、夜間などの電力需要の低い時間帯では、ポンプの役割を果たし、下ダム3から上ダム2へ水を汲み上げている。発電機1が発電とポンプを同時に行うことはない。発電機1には運転制御部5が接続されている。運転制御部5は、出力配分装置6から発電出力、流量および貯水量を読み込み、発電出力、流量および貯水量を制御指令として、発電機1へ出力するようになっている。これにより、水力発電システム7は、最適な出力で運用され、周波数や電圧の調整を可能としている。
(構成)
図1は第1の実施形態に係る水力発電所の出力配分装置6のブロック図を示している。図1に示すように、出力配分装置6は、データ格納部10と、出力配分計算実行部20を備えている。データ格納部10はメモリおよびデータベースにより構成されている。データ格納部10には出力配分計算実行部20にて用いられるデータが格納される。
データ格納部10に格納されるデータには、PQ特性を示すデータ、貯水池の貯水量に関して設けた貯水量区分データや、水位-貯水量特性データ、設備データ、運用制約データなどがある。設備データとしては、発電出力上下限、貯水量上下限、起動費用、停止費用などがある。運用制約データとしては、貯水池の初期水位および最終水位、発電機の停止計画などがある。
出力配分計算実行部20は、プログラムに従って動作するコンピュータにより構成される。出力配分計算実行部20では、水力発電所における流量最適値31、発電出力最適値32および貯水量最適値33を作成するための計算を行っている。出力配分計算実行部20には、数理計画問題の定式化を行う定式化手段21と、数理計画問題を解く求解手段22とが設けられている。
定式化手段21が定式化する数理計画問題としては、例えば混合整数計画問題が用いられる。定式化手段21は、データ格納部10から各種のデータを読み込み、状態変数、制約条件および目的関数を設定して、数理計画問題として定式化する。状態変数としては、次のような変数を有している。
a)所与の区分数に分割された貯水量の区分を表す変数。
b)貯水量により変化するPQ特性を区分線形近似で表してどの区分に流量および発電出力が存在するかを表す変数。
c)どの時間帯にどのくらいの発電出力、流量および貯水量で運転するかを表す変数。
また、定式化手段21は、制約条件として、各時間帯の貯水量の上下限、流量の上下限、発電出力の上下限、水量条件、発電所の起動または停止を設定する。貯水量の上下限における制約式を、下記の式(1)~式(5)に示す。
Figure 0007023766000001
式(1)は、出力時間tにおける水力発電所の貯水量が上限以下であることを示している。式(2)は、出力時間tにおける水力発電所の貯水量が下限以上であることを示している。式(3)は、水力発電所の貯水量が、ある貯水量区分の上限以下であることを示している。式(4)は、水力発電所の貯水量が、ある貯水量区分の下限以上であることを示している。式(5)は、水力発電所の貯水量が、ただ1つの区分のみに存在することを示している。
水力発電所の流量の上下限における制約式を、下記の式(6)、式(7)に示す。式(6)は、区分流量が上限以下であることを示している。式(7)は、区分流量が下限以上であることを示している。
Figure 0007023766000002
水力発電所の発電出力に関する制約式を、下記の式(8)~式(13)に示す。
Figure 0007023766000003
式(8)は、水力発電所の発電出力が上限以下であることを示している。式(9)は、水力発電所の発電出力が区分線形近似された直線以下の範囲にあることを示している。
Figure 0007023766000004
式(10)は、水力発電所の発電出力が区分線形近似された直線以上の範囲にあることを示している。式(11)は、流量区分状態と運転停止状態との整合性を示している。すなわち、水力発電所が運転を停止しているなら流量区分状態は全て0である。また、水力発電所が運転状態にあり発電しているなら流量区分状態のうちのいずれか一つは1である。なお、式(12)は、ポンプ入力を示している。式(13)は、発電機1では発電とポンプは同時にしないことを示している。
水力発電所の水量条件における制約式を式(14)~式(16)に示す。式(14)は、貯水量バランスを示している。式(15)は、貯水量始端条件を示している。式(16)は、貯水量終端条件を示している。
Figure 0007023766000005
水力発電所の起動または停止における制約式を式(17)~式(19)に示す。
Figure 0007023766000006
式(17)は、水力発電所の発電出力が当該発電所合計出力区分以下の値となることを示している。式(18)は、水力発電所が運転中の場合、発電出力はただ一つの発電所合計出力区分にのみ存在し、水力発電所が停止の場合、発電所合計出力区分は全て0となることを示している。式(19)は、水力発電所の起動停止に関する条件の一貫性を示している。
さらに、定式化手段21は、目的関数として、出力配分の期間における全時間帯の収益最大化または運転コスト最小化を設定する。目的関数として式20、式21を示す。
Figure 0007023766000007
式(20)は、収益の最大化を設定するものである。式(20)では、出力配分期間におけるトータルの発電価値-(発電コスト+揚水コスト+起動費用+停止費用)の最大値を求める。
Figure 0007023766000008
式(21)は、トータルの発電価値である収益が決まっていることを前提として、その条件下で、運転コストの最小化を設定するものである。式(21)では、(出力配分期間における発電コスト+揚水コスト+起動費用+停止費用)の最小化を求める。
以上の制約式に用いた各記号の内容については下記の表1~表3の一覧表にて示す。
(表1)
Figure 0007023766000009
(表2)
Figure 0007023766000010
(表3)
Figure 0007023766000011
求解手段22は、定式化手段21にて定式化した数理計画問題を解くソルバーであり、水力発電所に所属する各発電機1の各時間帯における発電出力、流量および貯水量の最適値31~33を求める。また、求解手段22は、求解結果をデータ格納部10へ書き込む。
(出力配分処理)
図2のフローチャートを参照して、出力配分計算実行部20による出力配分処理について説明する。図2において、S101~S107が定式化手段21による処理ブロックであり、S108、S109が求解手段22による処理ブロックである。
S101では、定式化手段21は、データ格納部10から貯水池の貯水量区分データを読み込み、貯水量を所与の区分に分割する。S102では、定式化手段21は、貯水量に関する制約条件として、上記の式(1)~式(5)を設定する。
具体的には、貯水量を所与の区分数Lに分割し、分割された貯水量のそれぞれの区分における最大貯水量を、
Figure 0007023766000012
とする。貯水量の区分点は、以下の式(22)のように与える。
Figure 0007023766000013
また、連続値となる貯水量を、
Figure 0007023766000014
として、時間帯tで区分lに存在するときに「1」を、その他の場合は「0」を取るような0-1変数、
Figure 0007023766000015
を導入する。本実施形態では、これらの変数を用いて、上記の式(1)~式(5)のような制約条件を設定している。
S103では、定式化手段21は、貯水量区分毎のPQ特性をデータ格納部10から取得して区分線形近似する。S103にてPQ特性を区分線形近似したことから、各貯水量区分において発電出力は、流量の一次式で表現することができる。この一次式の傾きおよび切片は次のように表すことができる。
Figure 0007023766000016
上記の式において、時間の添え字を持っているのは水力発電所の各発電機1が作業等で停止する場合に、PQ特性が時間帯で変化することを考慮している。
さらに、S104では、定式化手段21は、流量および発電出力に関する制約を設定する。このとき、貯水量の区分線形近似に伴って、流量にも区分が発生する。そのため、流量の区分点を、
Figure 0007023766000017
と表すことにする。
また、これに対応する区分発電出力を、
Figure 0007023766000018
と表す。本実施形態では、これらの変数を用いて、上記の式(6)~式(13)のような制約条件を設定している。
S105では、定式化手段21は、水力発電所の水量条件として、上記の式(14)~式(16)のような制約条件を設定する。さらに、S106では、定式化手段21は、水力発電所の起動および停止に関連する制約を設定する。具体的には上記の式(17)~式(19)のように制約条件を設定する。
S107では、定式化手段21が目的関数を設定する。最終的に収益最大化を行いたい場合には、式(20)を目的関数として設定し、コスト最小化を行いたい場合には式(21)を目的関数として設定する。以上のように、定式化手段21は上記処理ブロックS101~S107を経て、数理計画問題として混合整数計画問題を定式化する。
続いて、S108では、求解手段22が、定式化された混合整数計画問題を解いて、各発電機1の各時間帯における流量、発電出力、および貯水量の最適値31~33を求める。S109では、求解手段22は、S108の求解結果の各変数および目的関数値を、データ格納部10へ書き込む。
(作用と効果)
以上述べたように、本実施形態に係る出力配分装置6では、出力配分計算実行部20が数理計画問題の定式化手段21と、数理計画問題を解く求解手段22とを有している。定式化手段21は、次のような状態変数、目的関数および制約条件を設定して数理計画問題を定式化している。状態変数としては、所与の区分数に分割された貯水量の区分を表す変数と、貯水量により変化するPQ特性を区分線形近似で表してどの区分に発電出力および流量が存在するかを表す変数と、どの時間帯にどのくらいの発電出力、流量および貯水量で水力発電所を運転するかを表す変数と、を設定する。また、制約条件として、各時間帯の貯水量の上下限および発電出力の上下限を設定し、目的関数として、出力配分期間の全時間帯の収益最大化または運転コスト最小化を設定する。
以上のような本実施形態では、定式化手段21が、水力発電所の発電出力、流量および貯水量を、数理計画問題である混合整数計画問題に落とし込んでいる。このとき、状態変数として、貯水量の区分状態を表す変数と、どの区分に流量および発電出力が存在するかを表す変数を導入する。貯水量の区分状態を表す変数は、貯水量の変化によるPQ特性の変化を考慮するために導入したものである。また、どの区分に流量および発電出力が存在するかを表す変数は、PQ特性を区分線形近似で表したものである。
したがって、本実施形態によれば、水位落差の変動およびPQ特性の非線形性及び非凸性に関して、連続変数と離散変数を含む混合整数計画問題として把握することができ、これらを同時に扱うことを可能となる。その結果、水位落差の変動を考慮して、貯水量の最適値33を求めることができる。また、PQ特性の非線形性および非凸性を考慮し、2次あるいは3次関数を用いた近似よりもさらに詳細な近似を行って、発電出力および流量の最適値31、32を求めることができる。これにより、各発電機1の各時間帯での流量、発電出力および貯水量の全ての最適値31~33を求めることが可能となる。
さらに本実施形態では、定式化手段21が制約条件として、起動費用および停止費用を設定している。したがって、発電コストに反映される起動費用および停止費用を考慮することができ、その上で、各発電機1における発電出力、流量および貯水量の最適化が可能となる。その結果、第1の実施形態に係る水力発電システムでは、いっそう高い精度で水力発電所の運用最適化を図ることができる。
以上のような出力配分装置6を備えた水力発電システムでは、出力配分計算実行部20が作成した水力発電所の流量最適値31、発電出力最適値32および貯水量最適値33を、運転制御部5が読み込む。そして、運転制御部5は、これらの最適値31~33を、水力発電所の運転を制御する制御指令として、各発電機1へ出力する。このような水力発電システムによれば、最適な発電出力、流量および貯水量で、各発電機1を運転することができる。
したがって、水力発電システムは、高効率の出力配分での運用が可能であり、優れた経済性を発揮することができる。そのため、水力発電所を電力会社から独立したカンパニーとして分離させるといった状況にあっても、これに柔軟に対応可能であり、電力系統の品質および安定度の向上に貢献することができる。
しかも、本実施形形態では、数理計画問題を解く求解手段22が、目的関数である出力配分期間に含まれる全時間帯の収益合計最大化または運転コストの最小化の最適解を求めることで、各発電機1の流量、発電出力および貯水量の最適値31~33を決めることができる。したがって、発電出力、流量および貯水量の全てに関して、確実に最適値を求めることが可能である。
(2)第2の実施形態
本発明の第2の実施形態に係る水力発電所の出力配分装置について、図4のフローチャートを用いて説明する。第2の実施形態の基本的な構成は、第1の実施形態の構成と同一である。第1の実施形態の構成との相違点として、第2の実施形態では、定式化手段21が、数理計画問題における制約条件として、需給バランス条件および予備力条件を設定している。
需給バランス条件の制約式を式(23)に示し、予備力条件の制約式を式(24)に示す。
Figure 0007023766000019
(出力配分処理)
図4のフローチャートにおいて、S101~S109に示した処理ブロックは、上記第1の実施形態のそれと同様であるため、説明は省略する。第2の実施形態では、S106の後、S201にて、定式化手段21が、需給バランス条件および予備力条件を設定する。
(作用と効果)
第2の実施形態では、需給バランス条件および予備力条件を全て満たした上で、各発電機1における各時間帯での発電出力、流量および貯水量に関して同時に最適化している。第2の実施形態においては、需給バランス条件を制約条件に組み込むことで、水力分担負荷に対して運転コストを最小とする出力配分を実施することが可能となる。
条件水力分担負荷とは、水力部門が実際に種々の電力取引等を行い、最終的に確定した結果である。したがって、第2の実施形態によれば、出力配分期間に含まれる全時間帯の最終的な運転コストの最小化を、実状に則して実現することができる。また、第2の実施形態では、予備力を制約条件に組み込んでいるため、予備力を確実に確保してアンシラリーサービスを的確に実施することができる。これにより、水力発電所としての信頼性をさらに高めることが可能である。
(3)第3の実施形態
本発明の第3の実施形態に係る水力発電所の出力配分装置について、図5~図8を用いて具体的に説明する。図5はブロック図、図6は鉄管損失を説明するためのブロック図である。鉄管損失とは、管路4を構成する鉄管に水が流れるとき、水の乱流や摩擦などによって流速が低減して水のエネルギーが失われることである。管路4の構成が異なれば、鉄管損失も変化する。
図7は運転パターン決定処理を含むフローチャート、図8は出力配分処理を示すフローチャートである。なお、第1の実施形態の構成要素と同一の構成要素については同一符号を付して説明は省略する。
(構成)
図5に示すように、第3の実施形態には、第2のデータ格納部10a、第2の出力配分計算実行部20a、PQ特性計算部40が設けられている。第2の出力配分計算実行部20aには定式化手段21と第2の求解手段22aが設けられている。
PQ特性計算部40は、プログラムに従って動作するコンピュータにより構成される。PQ特性計算部40は、水力発電所に所属する発電機1の号機運転パターンを列挙する。例えば、当該発電所に発電機が4台ある場合、可能な号機運転パターン数は、
Figure 0007023766000020
があり得ることになる。
Figure 0007023766000021
は、m個の中からn個選ぶ組合せを意味する。
PQ特性計算部40は、水力発電所の管路情報41を読み込み、これに基づいて、列挙した各号機運転パターンにおける管路4での鉄管損失を計算し、号機運転パターンのうちで、所与の貯水量区分および流量に対応する最効率運転パターンを決定する。最効率運転パターンとは、単位流量当たりの発電出力が最大となる号機運転パターンである。なお、貯水量区分とは、既に述べたように、水力発電所における水位落差変動を考慮するために設定したものである。
(鉄管損失)
ここで、水力発電所における管路4の鉄管損失の変化について、図6を用いて説明する。複数の発電機1を持つ水力発電所では、複数ある発電機1のどれかを選択して運転することが多いが、運転する発電機1の組合せによって、管路4の形状が変わるので、鉄管損失も変化することになる。
例えば、図6に示す水力発電システムでは、上ダム2から2本の鉄管が延びており、各鉄管はそれぞれ2本の鉄管に枝分かれした管路形状となっている。図6左側の運転例1では、4台の発電機1のうち、点線で囲んだ右端部の発電機1と左端部の発電機1が運転中である。そのため、上ダム2から延びる2本の鉄管にそれぞれ1Q分の水が流れて、右端部の発電機1と左端部の発電機1に水が流れ込む。
一方、図6右側の運転例2では、4台の発電機1のうち、点線で囲んだ左寄りの2台の発電機1が運転中である。そのため、上ダム2から延びる2本の管路4のうち1本の鉄管に集中して2Q分の水が流れ、下流側で分岐して2本の鉄管に流れて、左端部の発電機1と、それに隣接する発電機1に水が流れ込む。一般に、鉄管損失は鉄管の単位断面積当たりの流量に比例する。つまり、同じ径の鉄管であれば、そこに流れる水量が少ないほど、鉄管損失は少なくなる。したがって、1Q分の水が流れる鉄管と、2Q分の水が流れる鉄管とでは、前者の方が鉄管損失は少ないと言える。
また、運転例1、2の管路形状を考えた場合に、鉄管損失は流量の非線形な関数として計算することができる。したがって、図6の運転例1側と運転例2側で、鉄管の物理的な形状が同じであっても、鉄管損失の非線形性により2h(Q)≠2h(Q)である。つまり、同じ水力発電所であっても、運転例1と運転例2では鉄管損失が一致しないことが分かる。
PQ特性計算部40は、こうした鉄管損失を号機運転パターンごとに計算する。例えば、発電機1が4台ある例では上述したように号機運転パターンは15通りある。そして運転パターン決定部40は、所与の貯水量区分および流量に対応した、単位流量当たりの発電出力が最大となる運転パターンを、最効率運転パターンとして決定する。
PQ特性計算部40は、決定した最効率運転パターンを、第2のデータ格納部10aに書き込むようになっている。また、PQ特性計算部40は、最効率運転パターンに基づいて所与の流量に対する発電所単位の発電出力を求め、これも第2のデータ格納部10aに書き込むようになっている。
第2のデータ格納部10aには、PQ特性計算部40が決定した最効率運転パターンのデータや、最効率運転パターンでの発電所単位の発電出力のデータなどが、追加されて格納される。第2の求解手段22aは、第2のデータ格納部10aから、最効率運転パターンのデータを取得し、当該最効率運転パターンに従って、水力発電所に所属する発電機毎の流量最適値34、発電機毎の発電出力最適値35を求めるようになっている。
(運転パターン決定処理)
以下、PQ特性計算部40による処理について、図7のフローチャートに従って説明する。まずS301では、水力発電所の貯水量区分に関してループする。S302では、当該水力発電所の流量の最小値をセットする。S303では、考えられる号機運転パターンを全て列挙する。
S304では、PQ特性計算部40が、S303で作成した各々の号機運転パターンについて、所与の流量Qで運転した場合の鉄管損失を、管路情報41を元に計算する。そして、PQ特性計算部40は、そのうちで最も効率が良い号機運転パターン、つまり単位流量あたりの発電出力が最も多い最効率運転パターンを採用する。D301では、PQ特性計算部40は、採用した最効率運転パターンを、第2のデータ格納部10aに書き込み、第2のデータ格納部10aはこれを格納する。
S305では、PQ特性計算部40は、S304で求めた最効率運転パターンを、発電所単位のPQ特性と損失水頭に反映させ、所与の流量に対する発電所単位の発電出力を求める。D302では、求めた発電出力のデータを第2のデータ格納部10aに格納する。S306では、あらかじめ画面等で設定されたステップΔQだけ流量を増加させ、その値を流量Qにセットする。S307では、水力発電所の最大流量を超過していないかチェックし、予め画面等で設定された最大値を超過した場合には処理を終了する。
(出力配分処理)
図8は、第3の実施形態における第2の出力配分計算実行部20aによる出力配分処理を示すフローチャートである。第3の実施形態では定式化手段部21による処理ブロックS101~107および第2の求解手段22aによる処理ブロックS108に関しては、第1の実施形態または第2の実施形態に記載の内容と同様である。そのため、これらの処理ブロックS101~108についての説明は省略する。以下、第2の求解手段22aの処理について図8のフローチャートに従って説明する。
S402では、第2の求解手段22aが、第2のデータ格納部10aから最効率運転パターンを取得し、その結果を号機配分結果とする。ここで号機配分結果とした最効率運転パターンは、第2の求解手段22aがS108で求めた貯水量および流量を元にして、PQ特性計算部40による処理ブロックS304(図7のフローチャートに図示)で決めた最効率運転パターンを取得し、その結果を号機配分結果とする。第2の求解手段22aは、号機配分結果から、発電機毎の流量最適値34、発電機毎の発電出力最適値35、発電所単位での貯水量最適値33と求める。S403では、発電機毎の流量最適値34、発電機毎の発電出力最適値35、発電所単位での貯水量最適値32を、第2のデータ格納部10aに書き込む。
(作用と効果)
以上述べたように、第3の実施形態では、PQ特性計算部40が鉄管損失を号機運転パターンごとに計算することで、貯水量区分および流量に対応した最効率運転パターンを決定する。そのため、水力発電所の運用に際して、発電所ごとに異なる管路4の形状および鉄管損失を考慮に入れて、発電所単位でのPQ特性を正確に獲得することができる。
また、第3の実施形態においては、貯水量区分および流量に対応した最効率運転パターンを、号機配分結果として発電機毎の流量最適値34、発電機毎の発電出力最適値35、発電所単位での貯水量最適値33と導くことが可能である。したがって、発電出力および流量における最終的な配分結果を、発電機1ごとに決めることができる。そのため、発電出力および流量の最適値について、より高い精度で設定することが可能である。
(4)他の実施形態
上記の実施形態は、本明細書において一例として提示したものであって、発明の範囲を限定することを意図するものではない。すなわち、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の範囲を逸脱しない範囲で、種々の省略や置き換え、変更を行うことが可能である。これらの実施形態やその変形例は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、計算負荷の軽減化を図るために、定式化手段における制約条件として、起動費用および停止費用のも一方だけを選んでもよいし、需給バランス条件および予備力条件の一方だけを選んでもよい。また、発電機の設置数や、鉄管の物理的な形状や寸法、管路の全体としての形状などは適宜選択可能である。
1…発電機
2…上ダム
3…下ダム
4…管路
5…運転制御部
6…出力配分装置
7…水力発電システム
10…データ格納部
10a…第2のデータ格納部
20…出力配分計算実行部
20a…第2の出力配分計算実行部
21…定式化手段
22…求解手段
22a…第2の求解手段
31…流量最適値
32…発電出力最適値
33…貯水量最適値
34…発電機毎流量最適値
35…発電機毎発電出力最適値
40…PQ特性計算部
41…管路情報
S101…貯水量を所与の区分に分割するステップ
S102…貯水量に関する制約を設定するステップ
S103…貯水量区分毎のPQ特性をデータ格納手段から取得し区分線形近似するステップ
S104…流量および発電出力に関する制約を設定するステップ
S105…水量条件に関する制約を設定するステップ
S106…発電機の起動停止に関する制約を設定するステップ
S107…目的関数を設定するステップ
S108…制約条件のもとで目的関数を最大化または最小化する問題を求解するステップ
S109…求解結果である発電出力、流量および貯水量を記録するステップ
S201…需給バランス条件または予備力条件を設定するステップ
S301…貯水量区分数に関してループするステップ
S302…流量に最小値をセットするステップ
S303…所与の流量で運転する際に考えられる号機運転パターンを全て列挙するステップ
S304…最も効率的な号機運転パターンを決定するステップ
S305…発電所単位のPQ特性と損失水頭に反映するステップ
S306…流量を設定された流量刻みΔQだけ増加させるステップ
S307…流量が最大値を超過するかチェックするステップ

Claims (6)

  1. 水力発電所の発電出力、流量および貯水量を計算する出力配分計算実行部と、
    前記出力配分計算実行部にて用いられるデータを格納するデータ格納部と、を備え、
    前記出力配分計算実行部は、
    予め与えられた区分数に分割された貯水量の区分を表す変数と、流量-発電出力特性であるPQ特性を区分線形近似で表してどのPQ特性区分に発電出力および流量が存在するかを表す変数と、どの時間帯にどのくらいの発電出力、流量および貯水量で水力発電所を運転するかを表す変数と、を有し、
    出力配分期間の全時間帯の収益最大化または運転コスト最小化を目的関数とし、各時間帯の貯水量の上下限および発電出力の上下限を制約条件として、数理計画問題の定式化を行う定式化手段と、
    前記数理計画問題を解く求解手段と、を備え
    前記データ格納部は、貯水量区分ごとのPQ特性、および、PQ特性区分ごとのPQ特性を格納し、
    前記定式化手段は、貯水量区分ごとのPQ特性、および、PQ特性区分ごとのPQ特性を前記データ格納部から取得して区分線形近似し、PQ特性が時間帯で変化することを考慮に入れて、貯水量区分、流量および発電出力に関する制約を設定することを特徴とする水力発電所の出力配分装置。
  2. 前記定式化手段は、起動費用および停止費用を制約条件として、数理計画問題の定式化を行うことを特徴とする請求項1に記載の水力発電所の出力配分装置。
  3. 前記定式化手段は、需給バランス条件を制約条件として、数理計画問題の定式化を行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の水力発電所の出力配分装置。
  4. 前記定式化手段は、予備力条件を制約条件として、数理計画問題の定式化を行うことを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の水力発電所の出力配分装置。
  5. 水力発電所の管路情報から水力発電所に所属する発電機の号機運転パターンの鉄管損失を計算し、前記号機運転パターンのうちで、所与の貯水量区分および流量に対応し、且つ単位流量当たりの発電出力が最大となる最効率運転パターンを決定して、発電所単位の流量-発電出力特性を導く流量-発電出力特性計算部を備え、
    前記データ格納部には、前記最効率運転パターンを格納し、
    前記求解手段は、前記最効率運転パターンを取得し、当該最効率運転パターンに従って、水力発電所に所属する発電機毎の発電出力最適値および発電機毎の流量最適値を求めることを特徴とする請求項1~4のいずれか1項に記載の水力発電所の出力配分装置。
  6. 請求項1~5のいずれか1項に記載の出力配分装置を備え、ポンプ機能を兼ねた発電機を有する水力発電システムであって、
    前記出力配分計算実行部が作成した水力発電所の発電出力、流量および貯水量を読み込み、発電出力、流量および貯水量を制御指令として前記発電機へ出力する運転制御部を備えたことを特徴とする水力発電システム。
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