以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図面において、互いに直交するX軸とY軸とZ軸とを含む三次元直交座標系を用いて説明する。なお、図中、同一または相当部分については同一の参照符号を付して説明を繰り返さない。
(実施形態1)
図1~図8を参照して、本発明の実施形態1に係るプラズモニック構造体1を説明する。まず、図1~図4を参照して、プラズモニック構造体1の構造を説明する。図1は、プラズモニック構造体1を示す斜視図である。図2は、プラズモニック構造体1を示す平面図である。図3は、図2のIII-III線に沿った断面図である。図4は、プラズモニック構造体1による光吸収の原理を示す図である。図4は、図2のIII-III線に沿った断面図に相当する。図4では、図面の簡略化のため、断面を示す斜線を省略している。
図1~図4に示すように、プラズモニック構造体1は、複数の共振部3と、ベース層5とを備える。ベース層5は略平板形状を有する。
複数の共振部3は、ベース層5上に配置される。複数の共振部3は規則的に配置される。具体的には、複数の共振部3は周期構造を有する。更に具体的には、複数の共振部3は、所定の周期Tで配置されている。更に具体的には、複数の共振部3は、ベース層5の主面12上に、正方格子状に並んでいる。そして、隣り合う共振部3と共振部3とは間隔SPを有する。
共振部3の各々は略円柱形状を有する。共振部3の各々はベース層5(具体的にはベース層5の主面12)から突出している。共振部3は第1特定面9を有している。第1特定面9は、共振部3の互いに対向する一対の底面のうち、誘電体(図4では気体又は真空の空間)と接している底面である。第1特定面9は、略平坦面であり、略円形形状を有する。第1特定面9はエッジ7を有する。エッジ7は、第1特定面9の外縁であり、略円である。
共振部3の各々は、直径Dを有し、高さHを有する。共振部3の直径Dは、具体的には、第1特定面9の直径である。共振部3の高さHは、ベース層5の主面12に対する高さを示す。
引き続き、図1~図4を参照して、共振部3及びベース層5の組成を説明する。ベース層5は、第4族元素を含む第1化合物(以下、「第1化合物C1」と記載する。)によって構成される。共振部3の各々は、第4族元素を含む第2化合物(以下、「第2化合物C2」と記載する。)によって構成される。
第4族元素は遷移金属である。具体的には、第4族元素は、ハフニウム(Hf)、チタン(Ti)、又は、ジルコニウム(Zr)である。第1化合物C1は、第4族元素の窒化物である。第2化合物C2は、第4族元素の窒化物である。第1化合物と第2化合物とは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。ただし、第1化合物と第2化合物とは同じであることが好ましい。製造が容易になるからである。第4族元素の窒化物は、ハフニウムナイトライド(HfN)、チタンナイトライド(TiN)、又は、ジルコニウムナイトライド(ZrN)である。
第1化合物C1の誘電率の実部は、第1化合物C1の種類に応じた波長域において、負の値を有する。具体的には、第1化合物C1の誘電率の実部は、可視光の波長域(400nm~750nm)の一部又は全部で負の値を有し、赤外光の波長域(750nm~1mm)の一部又は全部で負の値を有する。第2化合物C2の誘電率の実部は、第2化合物C2の種類に応じた波長域において、負の値を有する。具体的には、第2化合物C2の誘電率の実部は、可視光の波長域の一部又は全部で負の値を有し、赤外光の波長域の一部又は全部で負の値を有する。
従って、第1化合物C1及び第2化合物C2の各々は、プラズモニック材料の一種である。プラズモニック材料とは、表面プラズモン・ポラリトンが発生する材料のことである。換言すれば、表面プラズモン・ポラリトンを発生させるためには、誘電率の実部が負の値を有することが要求される。
具体的には、第4族元素の誘電率の実部は、第4族元素の種類に応じた波長域において、負の値を有する。従って、第4族元素の窒化物の誘電率の実部は、第4族元素の窒化物の種類に応じた波長域において、負の値を有する。
以下、本明細書において、誘電率の実部が負の値を有する物質を「負誘電体」と記載する。また、本明細書において、「誘電体」は、誘電率の実部が正の値を有する物質である。空気及びその他の気体、並びに、真空の空間は、「誘電体」である。
第1化合物C1及び第2化合物C2の各々の融点は、プラズモニック材料である貴金属(例えば、金又は銀)の融点よりも高い。金の融点は1064℃であり、銀の融点は962℃である。
具体的には、第4族元素の融点は、プラズモニック材料である貴金属の融点よりも高い。ハフニウムの融点は2233℃、チタンの融点は1668℃、ジルコニウムの融点は1855℃である。従って、第4族元素の窒化物の融点は、プラズモニック材料である貴金属の融点よりも高い。ハフニウムナイトライドの融点は3330℃、チタンナイトライドの融点は2930℃、ジルコニウムナイトライドの融点は2980℃である。
例えば、ハフニウムナイトライドの融点(3330℃)は、高融点金属として周知であるモリブデンの融点(2623℃)及びタンタルの融点(3020℃)よりも高い。例えば、ハフニウムは、半導体製造プロセスとの親和性が高い。
次に、図4を参照して、プラズモニック構造体1による高効率な光吸収の原理を説明する。図4に示すように、プラズモニック構造体1に光LTが入射すると、共振部3の第1特定面9と誘電体(図4では気体又は真空の空間)との界面11には、表面プラズモン共鳴によって、表面プラズモンが励起され、更に、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。共振部3が負誘電体だからである。表面プラズモンとは、負誘電体と誘電体との界面における負誘電体内の電子の集団的振動のことである。表面プラズモン・ポラリトンとは、表面プラズモンと光との結合によって生成される表面電磁波のことである。
表面プラズモン・ポラリトンは、第1特定面9上を第1特定面9に沿って伝搬する。そして、共振部3は、第1特定面9のエッジ7のうち互いに対向する部分7a間で表面プラズモン・ポラリトンを共振させる。つまり、表面プラズモン・ポラリトンは、互いに対向する部分7a間で往復する。その結果、第1特定面9には、表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生する。換言すれば、第1特定面9は、共振部3の外面のうち表面プラズモン・ポラリトンの定在波が存在する面である。更に換言すれば、第1特定面9は、共振部3の外面のうち界面11に対応する面である。
表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生するため、共振部3は、特定の波長又は特定の波長域の光LTを効率良く吸収できる。つまり、共振部3は比較的高い吸収率を有する。効率良く吸収できる光の波長は、共振部3のサイズによって制御できる。なぜなら、共振部3のサイズに依存して、表面プラズモン・ポラリトンの定在波の周期が異なるからである。具体的には、共振部3のサイズが大きくなる程、効率良く吸収できる光LTの波長を大きくできる。
「共振部のサイズ」は、第1特定面9の大きさを示す。第1特定面9の大きさは、第1特定面9の直径D又は面積によって表される。
加えて、ベース層5は略平板形状である。従って、ベース層5の主面12は、複数の共振部3にわたって広がっている。その結果、主面12では、広い波長域にわたって光LTの吸収が抑制される。具体的には、ベース層5の吸収率(つまり、ベース層5による光の吸収率)は、共振部3の吸収率(つまり、共振部3による光の吸収率)よりも小さい。
従って、実施形態1によれば、プラズモニック構造体1の全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収できる。つまり、プラズモニック構造体1は、効率良く吸収できる「特定の波長又は波長域の光」を強調できる。
物体の吸収率とは、物体による光の吸収率のことである。具体的には、物体の吸収率とは、物体に入射する光のエネルギーのうち物体が吸収する光のエネルギーを、物体に入射する光のエネルギーで割った値のことである。物体の吸収率は、ゼロ以上1以下の値である。キルヒホッフの法則によれば、物体の吸収率は、物体の放射率と等しい。物体の放射率とは、物体による光の放射率のことである。具体的には、物体の放射率とは、物体が熱放射で放出する光のエネルギーを、物体と同温の黒体が放出する光のエネルギーで割った値のことである。放射率は、ゼロ以上1以下の値である。本明細書において、放射は「ふく射」と同義であり、放射率は「ふく射率」と同義であり、熱放射は「熱ふく射」と同義である。
なお、光LTは、白色光であってもよいし、特定の波長を有する光であってもよい。
また、プラズモニック構造体1は、高効率な光吸収の原理と同様の原理によって、高効率な熱放射を実現できる。物体の熱放射とは、物体が熱を電磁波(光を含む。)として放出することである。
すなわち、プラズモニック構造体1が通電によって発熱するか、又は、プラズモニック構造体1を加熱すると、光吸収の場合と同様に、共振部3の第1特定面9と誘電体(図4では気体又は真空の空間)との界面11には、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。そして、第1特定面9に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生するため、共振部3は、特定の波長又は特定の波長域の光を効率良く放射できる。つまり、共振部3は比較的高い放射率を有する。効率良く放射できる光の波長は、共振部3のサイズによって制御できる。なぜなら、共振部3のサイズに依存して、表面プラズモン・ポラリトンの定在波の周期が異なるからである。具体的には、共振部3のサイズが大きくなる程、効率良く放射できる光の波長を大きくできる。
加えて、ベース層5の主面12では、広い波長域にわたって光の放射が抑制される。具体的には、ベース層5の放射率(つまり、ベース層5による光の放射率)は、共振部3の放射率(つまり、共振部3による光の放射率)よりも小さい。
従って、実施形態1によれば、プラズモニック構造体1の全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く放射できる。つまり、プラズモニック構造体1は、効率良く放射できる「特定の波長又は波長域の光」を強調できる。
以上、図1~図4を参照して説明したように、実施形態1によれば、プラズモニック構造体1は、比較的高い融点を有しつつ、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有することが可能である。
すなわち、第1化合物C1及び第2化合物の各々は第4族元素を含む。従って、第1化合物C1及び第2化合物の各々は比較的高い融点を有する。加えて、共振部3を構成している第2化合物C2は負誘電体である。従って、共振部3には、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。そして、共振部3は、表面プラズモン・ポラリトンを共振させる。その結果、プラズモニック構造体1は、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有する。
また、実施形態1によれば、共振部3はベース層5から突出している。従って、表面プラズモン・ポラリトンを共振させる構造である共振部3を容易に形成できる。
さらに、実施形態1によれば、プラズモニック構造体1は、複数の共振部3を備える。従って、プラズモニック構造体1の全体で吸収又は放射する光量を多くできる。
さらに、実施形態1によれば、共振部3のサイズを制御することによって、効率良く吸収又は放射できる光の波長を容易に選択できる。
例えば、共振部3のサイズに応じて、0.8(つまり、80%)以上の吸収率で吸収される光の波長が定まり、又は、0.8(つまり、80%)以上の放射率で放射される光の波長が定まる。従って、共振部3のサイズを制御することによって、0.8以上の吸収率で容易に光を吸収でき、又は、0.8以上の放射率で容易に光を放射できる。
プラズモニック構造体1は、高い融点と、大きな吸収率又は放射率とを有するため、高温環境下においても耐久性の高い吸収体又は放射体として効果的に機能することができる。従って、プラズモニック構造体1を含むデバイス(不図示)は、高温環境下においても安定して動作する。
吸収体は、電磁波(光を含む。)を吸収して、吸収した電磁波のエネルギーを熱に変換する物体である。放射体は、発熱したことによる熱又は加熱により受け取った熱のエネルギーに応じたエネルギーを有する電磁波(光を含む。)を放射する物体を示す。
例えば、プラズモニック構造体1(具体的にはベース層5)に通電する。その結果、プラズモニック構造体1が発熱し、プラズモニック構造体1は、発熱したことによる熱(ジュール熱)のエネルギーに応じたエネルギーを有する電磁波(光を含む。)を放射する。つまり、共振部3は、プラズモニック構造体1(具体的にはベース層5)への通電に応じて電磁波(光を含む。)を放射する。
例えば、プラズモニック構造体1(具体的にはベース層5)をヒーター(不図示)によって加熱する。その結果、加熱により受け取った熱のエネルギーに応じたエネルギーを有する電磁波(光を含む。)を放射する。つまり、共振部3は、プラズモニック構造体1への加熱に応じて電磁波(光を含む。)を放射する。
特に、プラズモニック構造体1は、高い融点と、大きな吸収率又は放射率とを有するため、高温環境下においても耐久性の高い完全吸収体又は完全放射体として効果的に機能することができる。完全吸収体とは、特定の波長において吸収率が約1.0(つまり、約100%)の物体のことである。完全放射体とは、特定の波長において放射率が約1.0(つまり、約100%)の物体のことである。
さらに、実施形態1によれば、共振部3のサイズを制御することによって、可視光又は赤外光の波長域において、効率良く吸収又は放射できる波長を容易に選択できる。
例えば、可視光の吸収率が0.8(つまり、80%)以上になるように、又は、可視光の放射率が0.8(つまり、80%)以上になるように、共振部3のサイズが設定される。従って、0.8以上の吸収率で容易に可視光を吸収でき、又は、0.8以上の放射率で容易に可視光を放射できる。
例えば、赤外光の吸収率が0.8(つまり、80%)以上になるように、又は、赤外光の放射率が0.8(つまり、80%)以上になるように、共振部3のサイズが設定される。従って、0.8以上の吸収率で容易に赤外光を吸収でき、又は、0.8以上の放射率で容易に赤外光を放射できる。
例えば、共振部3は、プラズモニック構造体1(具体的にはベース層5)への通電に応じて可視光又は赤外光を放射する。例えば、共振部3は、プラズモニック構造体1(具体的にはベース層5)への加熱に応じて可視光又は赤外光を放射する。例えば、可視光を放射する場合、プラズモニック構造体1を可視光光源として利用できる。
特に、プラズモニック構造体1は、高い融点と、大きな吸収率又は放射率とを有するため、可視光又は赤外光の波長域において、高温環境下においても耐久性の高い完全吸収体又は完全放射体として効果的に機能することができる。
次に、図5(a)~図8を参照して、可視光の波長域でのプラズモニック構造体1の有効性を説明する。
まず、図5(a)及び図5(b)を参照して、高融点材料の比誘電率を説明する。高融点材料は、ハフニウムナイトライド、チタンナイトライド、タングステン(W)、タンタル(Ta)、及びモリブデン(Mo)である。
図5(a)は、高融点材料の比誘電率の実部を示す図である。図5(a)において、縦軸は比誘電率の実部(ε´)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。本明細書において、比誘電率の実部は、誘電率の実部を真空の誘電率で割った値を示す。図5(b)は、高融点材料の比誘電率の虚部を示す図である。図5(b)において、縦軸は比誘電率の虚部(ε´´)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。本明細書において、比誘電率の虚部は、誘電率の虚部を真空の誘電率で割った値を示す。
図5(a)に示すように、曲線HfNは、ハフニウムナイトライドの比誘電率の実部を示す。曲線TiNは、チタンナイトライドの比誘電率の実部を示す。曲線Wは、タングステンの比誘電率の実部を示す。曲線Taは、タンタルの比誘電率の実部を示す。曲線Moは、モリブデンの比誘電率の実部を示す。
ハフニウムナイトライドの比誘電率の実部は、可視光の波長域の全部(400nm~750nm)において負の値を有する。チタンナイトライドの比誘電率の実部は、可視光の波長域の大部分(460nm~750nm)において負の値を有する。従って、ハフニウムナイトライド及びチタンナイトライドは、他の高融点材料(タングステン、タンタル、及びモリブデン)よりも、可視光を吸収又は放射する高融点プラズモニック材料として好適である。
その結果、実施形態1によれば、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライド又はチタンナイトライドであると、可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1が、比較的高い融点を有しつつ、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有することが可能である。
ハフニウムナイトライドの比誘電率の実部が可視光の波長域の全部において負の値を有する点で、ハフニウムナイトライドは、チタンナイトライドよりも、可視光を吸収又は放射する高融点プラズモニック材料として好適である。
従って、実施形態1によれば、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライドであると、より広い可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1が、比較的高い融点を有しつつ、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有することが可能である。
図5(b)に示すように、曲線HfNは、ハフニウムナイトライドの比誘電率の虚部を示す。曲線TiNは、チタンナイトライドの比誘電率の虚部を示す。曲線Wは、タングステンの比誘電率の虚部を示す。曲線Taは、タンタルの比誘電率の虚部を示す。曲線Moは、モリブデンの比誘電率の虚部を示す。
ハフニウムナイトライドの比誘電率の虚部は、可視光の波長域の全部において、他の高融点材料(チタンナイトライド、タングステン、タンタル、及びモリブデン)の比誘電率の虚部よりも小さい。従って、可視光の波長域の全部において、ハフニウムナイトライドのエネルギー損失は、他の高融点材料のエネルギー損失よりも小さい。その結果、ハフニウムナイトライドは、可視光の波長域において、他の高融点材料よりも、エネルギー損失の小さい高融点プラズモニック材料として好適である。
チタンナイトライドの比誘電率の虚部は、可視光の波長域の全部において、他の高融点材料(タングステン及びモリブデン)の比誘電率の虚部よりも小さい。従って、チタンナイトライドのエネルギー損失は、他の高融点材料のエネルギー損失よりも小さい。その結果、チタンナイトライドは、可視光の波長域において、他の高融点材料よりも、エネルギー損失の小さい高融点プラズモニック材料として好適である。
実施形態1によれば、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライド又はチタンナイトライドであると、可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1のエネルギー損失を小さくできる。
特に、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライドであると、より広い可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1のエネルギー損失を小さくできる。
次に、図6(a)及び図6(b)を参照して、プラズモニック材料の比誘電率を説明する。プラズモニック材料は、ハフニウムナイトライド、金(Au)、アルミニウム(Al)、及び銀(Ag)である。
図6(a)は、プラズモニック材料の比誘電率の実部を示す図である。図6(a)において、縦軸は比誘電率の実部(ε´)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。図6(b)は、プラズモニック材料の比誘電率の虚部を示す図である。図6(b)において、縦軸は比誘電率の虚部(ε´´)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。
図6(a)に示すように、曲線HfNは、ハフニウムナイトライドの比誘電率の実部を示す。曲線Auは、金の比誘電率の実部を示す。曲線Alは、アルミニウムの比誘電率の実部を示す。曲線Agは、銀の比誘電率の実部を示す。
ハフニウムナイトライドの比誘電率の実部の値は、可視光の波長域の全部において、典型的なプラズモニック材料である金の比誘電率の実部の値と同程度である。従って、ハフニウムナイトライドは、金と同様に、可視光の波長域において、プラズモニック材料として好適である。
その結果、実施形態1によれば、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライドであると、可視光の波長域においても、金と同様に、表面プラズモン・ポラリトンを発生できる。
図6(b)に示すように、曲線HfNは、ハフニウムナイトライドの比誘電率の虚部を示す。曲線Auは、金の比誘電率の虚部を示す。曲線Alは、アルミニウムの比誘電率の虚部を示す。曲線Agは、銀の比誘電率の虚部を示す。
ハフニウムナイトライドの比誘電率の虚部の値は、可視光の波長域の全部において、典型的なプラズモニック材料である金の比誘電率の虚部の値と同程度である。従って、ハフニウムナイトライドは、金と同様に、可視光の波長域において、エネルギー損失の小さいプラズモニック材料として好適である。
その結果、実施形態1によれば、第1化合物C1及び第2化合物C2がハフニウムナイトライドであると、可視光の波長域においても、金と同様に、エネルギー損失を小さくできる。
次に、図7(a)及び図7(b)を参照して、プラズモニック材料及び高融点材料の吸収率を説明する。プラズモニック材料かつ高融点材料は、ハフニウムナイトライド及びチタンナイトライドである。高融点材料は、タングステン、タンタル、及びモリブデンである。
図7(a)及び図7(b)は、プラズモニック材料及び高融点材料の吸収率を示す図である。図7(a)及び図7(b)は、厳密結合波解析法(RCWA法)によるシミュレーション結果を示している。図7(a)及び図7(b)において、縦軸は吸収率を示し、横軸は光の波長(μm)を示す。
図7(a)及び図7(b)に示すように、曲線HfNは、平板形状を有するハフニウムナイトライドの吸収率を示す。曲線TiNは、平板形状を有するチタンナイトライドの吸収率を示す。曲線Wは、平板形状を有するタングステンの吸収率を示す。曲線Taは、平板形状を有するタンタルの吸収率を示す。曲線Moは、平板形状を有するモリブデンの吸収率を示す。
ハフニウムナイトライドの吸収率は、可視光の波長域の大部分において、他のプラズモニック材料(チタンナイトライド)及び他の高融点材料(タングステン、タンタル、及びモリブデン)の吸収率よりも小さい。従って、ハフニウムナイトライドは、他のプラズモニック材料及び他の高融点材料よりも、可視光の吸収を抑制するベース層5の材料として好適である。
チタンナイトライドの吸収率は、可視光の波長域の半分以上の部分において、他の高融点材料(タングステン及びタンタル)の吸収率よりも小さい。従って、チタンナイトライドは、他の高融点材料よりも、可視光の吸収を抑制するベース層5の材料として好適である。
また、物体の吸収率と放射率とは等しい。従って、ハフニウムナイトライドは、他のプラズモニック材料(チタンナイトライド)及び他の高融点材料(タングステン、タンタル、及びモリブデン)よりも、可視光の放射を抑制するベース層5の材料として好適である。チタンナイトライドは、他の高融点材料(タングステン及びタンタル)よりも、可視光の放射を抑制するベース層5の材料として好適である。
以上、図7(a)及び図7(b)を参照して説明したように、実施形態1によれば、ベース層5を構成する第1化合物C1がハフニウムナイトライド又はチタンナイトライドであると、ベース層5による可視光の吸収又は放射を効果的に抑制できる。従って、可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1の全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収又は放射できる。
特に、第1化合物C1がハフニウムナイトライドであると、より広い可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1の全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収又は放射できる。
次に、図8を参照して、ハフニウムナイトライド及び黒体の熱放射スペクトルを説明する。図8は、ハフニウムナイトライド及び黒体の熱放射スペクトルを示す図である。図8は、熱放射スペクトルの理論値を示している。図8において、縦軸は光の放射強度(Wm-2m-1)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。
図8に示すように、曲線A1は、平板形状を有するハフニウムナイトライドの熱放射スペクトルを示す。曲線A2は、黒体の熱放射スペクトルを示す。ハフニウムナイトライド及び黒体の各々の温度は、2500℃である。
ハフニウムナイトライドによる光の放射強度は、可視光の波長域の全部において、黒体による光の放射強度よりも小さい。例えば、500nmの波長の光では、ハフニウムナイトライドの放射強度は、黒体の放射強度の約1/4である。例えば、600nmの波長の光では、ハフニウムナイトライドの放射強度は、黒体の放射強度の約1/5である。例えば、700nmの波長の光では、約1/6である。
従って、ハフニウムナイトライドは、共振部3が特に高い放射率(例えば、約1.0)で可視光を放射する場合でも、可視光の放射を抑制するベース層5の材料として好適である。
また、物体の吸収率と放射率とは等しいため、ハフニウムナイトライドは、共振部3が特に高い吸収率(例えば、約1.0)で可視光を吸収する場合でも、可視光の吸収を抑制するベース層5の材料として好適である。
以上、図8を参照して説明したように、実施形態1によれば、ベース層5を構成する第1化合物C1がハフニウムナイトライドであると、共振部3が特に高い放射率(例えば、約1.0)で可視光を放射する場合又は特に高い吸収率(例えば、約1.0)で可視光を吸収する場合でも、ベース層5による可視光の放射又は吸収を効果的に抑制できる。従って、可視光の波長域においても、プラズモニック構造体1の全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収又は放射できる。
(実施形態2)
図9~図12を参照して、本発明の実施形態2に係るプラズモニック構造体1Aを説明する。実施形態2に係るプラズモニック構造体1AがMIM(metal‐insulator‐metal)構造を有している点で、実施形態2は実施形態1と異なる。以下、実施形態2が実施形態1と異なる点を主に説明する。
まず、図9~図11を参照して、プラズモニック構造体1Aの構造を説明する。図9は、プラズモニック構造体1Aを示す斜視図である。図10は、プラズモニック構造体1Aを示す平面図である。図11は、図10のXI-XI線に沿った断面図である。
図9~図11に示すように、プラズモニック構造体1Aは、複数の共振部3と、ベース層5と、誘電体層21とを備え、MIM構造を有する。誘電体層21は略平板形状を有する。誘電体層21はベース層5上に配置される。誘電体層21は、誘電体によって構成される。誘電体層21を構成する誘電体の誘電率の実部は、正の値を有する。誘電率の実部が正の値を有する限り、誘電体層2を構成する誘電体の種類は特に限定されない。誘電体層21を構成する誘電体は、例えば、石英、酸化アルミニウム、ガラス、酸化インジウムスズ(ITO)、フッ化マグネシウム、又はフッ化カルシウムである。誘電体層21の厚みtと共振部3の高さHとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
複数の共振部3は、誘電体層21上に配置される。具体的には、複数の共振部3は、誘電体層21の主面22上に、正方格子状に並んでいる。共振部3の各々は誘電体層21(具体的には誘電体層21の主面22)から突出している。共振部3の各々は高さHを有する。共振部3の高さHは、誘電体層21の主面22に対する高さを示す。
なお、ベース層5は、実施形態1と同じ第1化合物C1によって構成される。共振部3の各々は、実施形態1と同じ第2化合物C2によって構成される。
次に、図12を参照して、プラズモニック構造体1Aによる高効率な光吸収の原理を説明する。図12は、プラズモニック構造体1Aによる光吸収の原理を示す図である。図12は、図10のXI-XI線に沿った断面図に相当する。図12では、図面の簡略化のため、断面を示す斜線を省略している。
図12に示すように、共振部3は、実施形態1と同じ第1特定面9に加えて、第2特定面25を有している。第2特定面25は、共振部3の互いに対向する一対の底面のうち、誘電体層21と接している底面である。第2特定面25はエッジ23を有する。エッジ23は、第2特定面25の外縁であり、略円である。
プラズモニック構造体1Aに光LTが入射すると、実施形態1と同様に、光LTの波長に応じて、界面11には、表面プラズモン共鳴によって、表面プラズモンが励起され、更に、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。そして、実施形態1と同様に、第1特定面9には、表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生する。
又は、プラズモニック構造体1に光LTが入射すると、光LTの波長に応じて、共振部3の第2特定面25と誘電体層21との界面27には、表面プラズモン共鳴によって、表面プラズモンが励起され、更に、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。共振部3が負誘電体だからである。
表面プラズモン・ポラリトンは、第2特定面25上を第2特定面25に沿って伝搬する。そして、共振部3は表面プラズモン・ポラリトンを共振させる。具体的には、共振部3は、第2特定面25のエッジ23のうち互いに対向する部分23a間で表面プラズモン・ポラリトンを共振させる。つまり、表面プラズモン・ポラリトンは、互いに対向する部分23a間で往復する。その結果、第2特定面25には、表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生する。換言すれば、第2特定面25は、共振部3の外面のうち表面プラズモン・ポラリトンの定在波が存在する面である。更に換言すれば、第2特定面25は、共振部3の外面のうち界面27に対応する面である。
実施形態2によれば、第1特定面9又は第2特定面25に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生するため、共振部3は、特定の波長又は特定の波長域の光LTを効率良く吸収できる。つまり、共振部3は比較的高い吸収率を有する。効率良く吸収できる光の波長は、共振部3のサイズによって制御できる。なぜなら、共振部3のサイズに依存して、表面プラズモン・ポラリトンの定在波の周期が異なるからである。具体的には、共振部3のサイズが大きくなる程、効率良く吸収できる光LTの波長を大きくできる。
「共振部のサイズ」は、第1特定面9及び/又は第2特定面25の大きさを示す。第1特定面9の大きさは、第1特定面9の直径D又は面積によって表される。第2特定面25の大きさは、第2特定面25の直径D又は面積によって表される。なお、表面プラズモン・ポラリトンが発生する限りは、第1特定面9の大きさと第2特定面25の大きさとが、同じでもよいし、異なっていてもよい。
さらに、光LTの波長に応じて、第1特定面9で表面プラズモン・ポラリトンが共振し、かつ、第2特定面25で表面プラズモン・ポラリトンが共振する場合には、第1特定面9での表面プラズモン・ポラリトンの共振と第2特定面25での表面プラズモン・ポラリトンの共振とのカップリングにより、特定の波長又は特定の波長域の光LTを更に効率良く吸収できる。換言すれば、光LTの波長に応じて、第1特定面9で表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生し、かつ、第2特定面25で表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生する場合には、第1特定面9での表面プラズモン・ポラリトンの定在波と第2特定面25での表面プラズモン・ポラリトンの定在波とのカップリングにより、特定の波長又は特定の波長域の光LTを更に効率良く吸収できる。
加えて、実施形態2では、実施形態1と同様に、ベース層5の主面12では、広い波長域にわたって光LTの吸収が抑制される。従って、誘電体層21が透明又は半透明である場合でも、実施形態1と同様に、プラズモニック構造体1Aの全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収できる。
また、プラズモニック構造体1Aは、高効率な光吸収の原理と同様の原理によって、高効率な熱放射を実現できる。放射率と吸収率とは等しいからである。そして、効率良く放射できる光の波長は、共振部3のサイズによって制御できる。具体的には、共振部3のサイズが大きくなる程、効率良く放射できる光の波長を大きくできる。また、ベース層5を備えるため、誘電体層21が透明又は半透明である場合でも、プラズモニック構造体1Aの全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く放射できる。
以上、図9~図12を参照して説明したように、実施形態2によれば、実施形態1と同様に、プラズモニック構造体1Aは、比較的高い融点を有しつつ、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有することが可能である。なぜなら、ベース層5が第1化合物C1によって構成され、各共振部3が第2化合物C2によって構成されるからである。その他、実施形態2では、実施形態1と同様の効果を有する。
(実施形態3)
図13~図16を参照して、本発明の実施形態3に係るプラズモニック構造体1Bを説明する。実施形態3に係るプラズモニック構造体1Aが共振部3ごとに誘電体層31を備えている点で、実施形態3は実施形態2と異なる。以下、実施形態3が実施形態2と異なる点を主に説明する。
まず、図13~図15を参照して、プラズモニック構造体1Bの構造を説明する。図13は、プラズモニック構造体1Bを示す斜視図である。図14は、プラズモニック構造体1Bを示す平面図である。図15は、図14のXV-XV線に沿った断面図である。
図13~図15に示すように、プラズモニック構造体1Bは、複数の共振部3と、ベース層5と、複数の誘電体層31とを備え、MIM構造を有する。複数の誘電体層31は、それぞれ、複数の共振部3に対応している。複数の誘電体層31は、ベース層5上に配置される。複数の誘電体層31は規則的に配置される。具体的には、複数の誘電体層31は周期構造を有する。更に具体的には、複数の誘電体層31は、所定の周期Tで配置される。更に具体的には、誘電体層31は、ベース層5の主面12上に、正方格子状に並んでいる。そして、隣り合う誘電体層31と誘電体層31とは間隔SPを有する。従って、複数の誘電体層31は互いに離間して配置される。
誘電体層31の各々は略円柱形状を有する。誘電体層31の各々はベース層5(具体的にはベース層5の主面12)から突出している。誘電体層31の各々は、直径Dを有し、厚みtを有する。誘電体層31の直径Dは、具体的には、誘電体層31の底面の直径である。誘電体層31の厚みtと共振部3の高さHとは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。誘電体層31は、誘電体によって構成される。誘電体層31を構成する誘電体は、実施形態2に係る誘電体層21を構成する誘電体と同様である。
共振部3の各々は、対応する誘電体層21上に配置される。具体的には、共振部3の各々は、対応する誘電体層21から突出している。共振部3の直径Dと誘電体層21の直径Dとは略同一である。共振部3の各々は高さHを有する。共振部3の高さHは、誘電体層31の主面32に対する高さを示す。
なお、ベース層5は、実施形態1と同じ第1化合物C1によって構成される。共振部3の各々は、実施形態1と同じ第2化合物C2によって構成される。
次に、図16を参照して、プラズモニック構造体1Bによる高効率な光吸収の原理を説明する。図16は、プラズモニック構造体1Bによる光吸収の原理を示す図である。図16は、図14のXV-XV線に沿った断面図を示している。図16では、図面の簡略化のため、断面を示す斜線を省略している。
図16に示すように、共振部3は、実施形態2と同じ第1特定面9と、第2特定面25を有している。第2特定面25は、共振部3の互いに対向する一対の底面のうち、誘電体層31と接している底面である。第2特定面25はエッジ23を有する。エッジ23は、第2特定面25の外縁であり、略円である。その他、第2特定面25の機能は、実施形態2に係る第2特定面25の機能と同じである。
そして、実施形態3では、実施形態2と同様に、光LTの波長に応じて、界面11には、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。又は、実施形態3では、実施形態2と同様に、光LTの波長に応じて、共振部3の第2特定面25と誘電体層31との界面27には、表面プラズモン・ポラリトンが発生する。従って、実施形態3によれば、実施形態2と同様に、第1特定面9又は第2特定面25に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生して、共振部3は、特定の波長又は特定の波長域の光LTを効率良く吸収できる。
さらに、実施形態3では、実施形態2と同様に、光LTの波長に応じて第1特定面9での表面プラズモン・ポラリトンの共振と第2特定面25での表面プラズモン・ポラリトンの共振とのカップリングにより、特定の波長又は特定の波長域の光LTを更に効率良く吸収できる。換言すれば、光LTの波長に応じて第1特定面9での表面プラズモン・ポラリトンの定在波と第2特定面25での表面プラズモン・ポラリトンの定在波とのカップリングにより、特定の波長又は特定の波長域の光LTを更に効率良く吸収できる。
加えて、実施形態3では、実施形態2と同様に、ベース層5の主面12では、広い波長域にわたって光LTの吸収が抑制される。従って、実施形態2と同様に、プラズモニック構造体1Bの全体において、共振部3によって特定の波長又は特定の波長域の光LTだけを効率良く吸収できる。
また、プラズモニック構造体1Bは、高効率な光吸収の原理と同様の原理によって、高効率な熱放射を実現できる。放射率と吸収率とは等しいからである。
以上、図13~図16を参照して説明したように、実施形態3によれば、実施形態2と同様に、プラズモニック構造体1Bは、比較的高い融点を有しつつ、比較的大きな光の吸収率又は放射率を有することが可能である。なぜなら、ベース層5が第1化合物C1によって構成され、各共振部3が第2化合物C2によって構成されるからである。その他、実施形態3では、実施形態2と同様の効果を有する。
次に、本発明が実施例に基づき具体的に説明されるが、本発明は以下の実施例によって限定されない。
図3、図11、図15、及び図17(a)~図29を参照して、本発明の実施例1~実施例12を説明する。実施例1~実施例7に係るプラズモニック構造体は、図3に示すように、実施形態1に係るプラズモニック構造体1であった。実施例8~実施例10に係るプラズモニック構造体は、図11に示すように、実施形態2に係るプラズモニック構造体1Aであった。実施例11及び実施例12に係るプラズモニック構造体は、図15に示すように、実施形態3に係るプラズモニック構造体1Bであった。
図17(a)、図23(a)、図24、図25(a)、図26(a)、図27、図28(a)、及び図29において、縦軸は共振部3の直径D(nm)を示し、横軸は入射光の波長(nm又はμm)を示す。図17(a)、図25(a)、及び図28(a)において、図中右側のスケールは、0.2から1.0までの吸収率(又は放射率)を濃淡によって表している。図23(a)、図26(a)、図27、及び図29において、図中右側のスケールは、0.0から1.0までの吸収率(又は放射率)を濃淡によって表している。図24において、図中右側のスケールは、0.3から1.0までの吸収率(又は放射率)を濃淡によって表している。スケールの示す濃淡によって吸収率(又は放射率)が表される。
図17(b)、図17(c)、図23(b)、図25(b)、図25(c)、図26(b)、図28(b)、及び図28(c)において、縦軸は、Z軸(図3、図11、又は図15)に平行な方向の長さを示し、ベース層5の主面12の位置を原点(ゼロ)にしている。横軸は、X軸に沿った長さを示し、共振部3の中心軸線の位置を原点(ゼロ)にしている。図中右側のスケールは電場を濃淡によって表している。スケールの示す濃淡によって電場が表される。電場|E|は、入射電場|E0|で標準化されている。濃淡が淡い領域ほど(つまり、白色に近い領域ほど)、電場が増強されていることを示している。
(実施例1)
図17(a)~図17(c)を参照して実施例1を説明する。実施例1では、可視光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1の吸収率の変化と、共振部3近傍の電場分布とを算出した。
プラズモニック構造体1の条件は次の通りであった。すなわち、共振部3及びベース層5の各々は、ハフニウムナイトライドによって形成された。ハフニウムナイトライドの融点は3330℃であり、ハフニウムナイトライドの抵抗値は10-3(Ω・cm)であった。共振部3の直径Dは50nm以上250nm以下であった。共振部3の高さHは80nmであった。共振部3の周期Tは300nmであった。
プラズモニック構造体1への入射光の条件及びシミュレーション法は次の通りであった。すなわち、プラズモニック構造体1に対して直線偏光を垂直に入射したときのシミュレーションを行った。シミュレーションは、有限差分時間領域法(FDTD法)に基づいて行った。直線偏光の進行方向はベース層5の主面12に直交し、直線偏光の電場ベクトルは、ベース層5の主面12に平行であった。
図17(a)は、実施例1に係るプラズモニック構造体1の吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図17(a)に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。破線L1と破線L2とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L3で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
図17(b)は、実施例1に係るプラズモニック構造体1の第1吸収条件での共振部3近傍の電場分布を示す図である。図17(c)は、実施例1に係るプラズモニック構造体の第2吸収条件での共振部3近傍の電場を示す図である。
図17(b)に示すように、シミュレーションによって、第1吸収条件での電場分布が算出された。第1吸収条件は、図17(a)の点P1に対応し、共振部3の直径Dが150nmであり、波長が540nmであることを示した。点P1での吸収率は約1.0であった。図17(b)に示すように、第1吸収条件では、共振部3のエッジ7(図4)及びエッジ7の近傍で電場が増強された。電場の増強は、第1特定面9(図4)に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生していることを示していた。
図17(c)に示すように、シミュレーションによって、第2吸収条件での電場分布が算出された。第2吸収条件は、図17(a)の点P2に対応し、共振部3の直径Dが100nmであり、波長が750nmであることを示した。点P2での吸収率は約0.2であった。図17(c)に示すように、第2吸収条件では、共振部3のエッジ7(図4)及びエッジ7の近傍の電場は、第1吸収条件での電場よりも弱かった。
図17(b)及び図17(c)に示すシミュレーションの結果から、共振部3のエッジ7及びエッジ7の近傍の電場が強い程、吸収率(又は放射率)が大きいことを確認できた。
(実施例2)
図18を参照して実施例2を説明する。実施例2では、プラズモニック構造体1の熱放射スペクトルの理論値を算出した。共振部3の直径Dは220nmであった。プラズモニック構造体1のその他の条件は、実施例1と同じであった。
図18は、実施例2に係るプラズモニック構造体1及び黒体の熱放射スペクトルを示す図である。図18において、縦軸は光の放射強度(Wm-2m-1)を示し、横軸は光の波長(nm)を示す。図18に示すように、曲線B1は、プラズモニック構造体1の熱放射スペクトルを示す。曲線B2は、黒体の熱放射スペクトルを示す。
黒体が2300℃になるエネルギーを、プラズモニック構造体1及び黒体の各々に与えたときの熱放射スペクトルの理論値が算出された。従って、曲線B2は、2300℃の黒体の放射強度を示した。一方、曲線B1に示されるように、プラズモニック構造体1の放射強度は、可視光の波長域内の特定の波長(具体的には、約630nm)で強いピークを示した。ピークの出現した理由は、ベース層5の放射率が抑制されているためであると推測できた(図8参照)。
プラズモニック構造体1の放射強度の最大値は、黒体の放射強度の最大値の2倍以上であった。従って、プラズモニック構造体1は、黒体と比較して、小さなエネルギーによって大きな放射強度を達成できた。
具体的には、プラズモニック構造体1の放射強度の最大値は、黒体が3000℃になるエネルギーを黒体に与えたときの黒体の放射強度の最大値と略等しかった。換言すれば、黒体が2300℃になるエネルギーをプラズモニック構造体1に与えることで、黒体が3000℃になるエネルギーを黒体に与えたときと同程度の放射強度の最大値を達成できた。更に換言すれば、プラズモニック構造体1は、黒体と比較して、省エネルギーの完全放射体であった。また、吸収率は放射率と等しいため、プラズモニック構造体1は、省エネルギーの完全吸収体であることを確認できた。
プラズモニック構造体1の放射強度は、黒体の放射強度と比較して、可視光の波長域内の特定の波長(図18の例では、約630nm)において強いピークを示した。従って、プラズモニック構造体1によって狭帯域光源(例えば、赤色の光を放射する光源)を実現できると推測できた。
(実施例3)
図19を参照して実施例3を説明する。実施例3では、可視光の波長域において、共振部3の高さHの変化に対するプラズモニック構造体1の吸収率の変化を算出した。共振部3の直径Dは150nmであった。プラズモニック構造体1のその他の条件は、実施例1と同じであった。プラズモニック構造体1への入射光の条件及びシミュレーション法は実施例1と同じであった。
図19は、実施例3に係るプラズモニック構造体1の吸収率と共振部3の高さHと波長との関係を示す図である。図19の横軸及びスケールは、図17(a)と同じであり、縦軸は共振部3の高さHを示す。
図19に示すように、シミュレーションによって、共振部3の高さH及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。破線L4で囲まれた領域(図中、破線L4より左側の領域)では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L5で囲まれた領域(図中、破線L5より左側の領域)では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
(実施例4)
図20(a)及び図20(b)を参照して実施例4を説明する。実施例4では、可視光の波長域において、プラズモニック構造体1の吸収率の偏光依存性が算出された。共振部3の直径Dは150nmであった。プラズモニック構造体1のその他の条件は、実施例1と同じであった。プラズモニック構造体1への入射光の条件は実施例1と同じであった。ただし、入射光の偏光角を変化させた。また、シミュレーションは、厳密結合波解析法(RCWA法)に基づいて行った。
図20(a)は、実施例4に係るプラズモニック構造体1への入射光の偏光角θaを示す図である。図20(b)は、実施例4に係るプラズモニック構造体1の吸収率と偏光角θaと波長との関係を示す図である。図20(b)の横軸及びスケールは、図24と同じであり、縦軸は偏光角θaを示す。
図20(a)に示すように、入射光の偏光角θaは、基準線BLに対して入射光の偏光方向(具体的には電場ベクトルEの方向)のなす角度を示した。基準線BLはX軸に平行であった。
図20(b)に示すように、シミュレーションによって、入射光の偏光角θa及び波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。各波長において、吸収率(又は放射率)は、偏光角θaに依存することなく一定であった。また、400nm~600nmの波長域では、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L6と破線L7とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
(実施例5)
図21(a)~図22(b)を参照して実施例5を説明する。実施例5では、可視光の波長域において、プラズモニック構造体1の吸収率の入射角依存性が算出された。共振部3の直径Dは150nmであった。プラズモニック構造体1のその他の条件は、実施例1と同じであった。また、シミュレーションは、厳密結合波解析法(RCWA法)に基づいて行った。
図21(a)は、実施例5に係るプラズモニック構造体1に入射するp偏光の入射角θb1を示す図である。図21(b)は、実施例5に係るプラズモニック構造体1の吸収率とp偏光の入射角θb1と波長との関係を示す図である。図21(b)の横軸及びスケールは、図17(a)と同じであり、縦軸は入射角θb1を示す。
図21(a)に示すように、入射角θb1は、矢印kで示すp偏光の入射方向と垂線VLとがなす角度を示す。垂線VLは、光反射面(紙面に垂直な面)に直交する。共振部3に対するp偏光の電場ベクトルEの方向は、矢印kで示す入射方向に垂直で、かつ、光入射面(紙面に平行な面)に垂直な方向である。また、共振部3に対するp偏光の磁場ベクトルHの方向は、矢印kで示す入射方向に垂直で、かつ、光入射面に平行な方向である。
図21(b)に示すように、シミュレーションによって、p偏光の入射角θb1及び波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。各波長において、吸収率(又は放射率)は、入射角θb1に若干影響を受けたに過ぎなかった。従って、各波長において、吸収率(又は放射率)が、p偏光の入射角θb1に大きく依存しないことを確認できた。
また、破線L8と破線L9とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L10と破線L11とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
図22(a)は、実施例5に係るプラズモニック構造体1に入射するs偏光の入射角θb2を示す図である。図22(b)は、実施例5に係るプラズモニック構造体1の吸収率とs偏光の入射角θb2と波長との関係を示す図である。図22(b)の横軸及びスケールは、図17(a)と同じであり、縦軸は入射角θb2を示す。
図22(a)に示すように、入射角θb2は、矢印kで示すs偏光の入射方向と垂線VLとがなす角度を示す。共振部3に対するs偏光の電場ベクトルEの方向は、矢印kで示す光入射方向に垂直で、かつ、光入射面に平行な方向である。また、共振部3に対するs偏光の磁場ベクトルHの方向は、矢印kで示す光入射方向に垂直で、かつ、光入射面に垂直な方向である。
図22(b)に示すように、シミュレーションによって、s偏光の入射角θb2及び波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。各波長において、吸収率(又は放射率)は、入射角θb2に若干影響を受けたに過ぎなかった。従って、各波長において、吸収率(又は放射率)が、s偏光の入射角θb2に大きく依存しないことを確認できた。
また、破線L12と破線L13とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L14で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
(実施例6)
図23(a)及び図23(b)を参照して実施例6を説明する。実施例6では、赤外光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1の吸収率の変化と、共振部3近傍の電場分布を算出した。共振部3の直径Dは200nm以上1400nm以下であった。共振部3の高さHは200nmであった。共振部3の周期Tは1500nmであった。プラズモニック構造体1のその他の条件は実施例1と同じであった。プラズモニック構造体1への入射光の条件及びシミュレーション法は実施例1と同じであった。
図23(a)は、実施例6に係るプラズモニック構造体1の吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図23(a)に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。略V字状の破線L15で囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、略V字状の破線L16で囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
図23(b)は、実施例6に係るプラズモニック構造体1の第3吸収条件での共振部3近傍の電場分布を示す図である。図23(b)に示すように、シミュレーションによって、第3吸収条件での電場分布が算出された。第3吸収条件は、図23(a)の点P3に対応し、共振部3の直径Dが1000nmであり、波長が1600nmであることを示した。点P3での吸収率は約1.0であった。図23(b)に示すように、第3吸収条件では、共振部3のエッジ7(図4)及びエッジ7の近傍で電場が増強された。共振部3のエッジ7及びエッジ7の近傍の電場が強い場合に、吸収率(又は放射率)が大きいことを確認できた。電場の増強は、第1特定面9(図4)に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生していることを示していた。
(実施例7)
図24を参照して実施例7を説明する。実施例7では、可視光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1の吸収率の変化を算出した。共振部3及びベース層5の各々は、チタンナイトライドで形成された。プラズモニック構造体1のその他の条件は実施例1と同じであった。プラズモニック構造体1への入射光の条件及びシミュレーション法は実施例1と同じであった。
図24は、実施例7に係るプラズモニック構造体1の吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図24に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。破線L17で規定される領域(図中、破線L17より左側の領域)では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L18と破線L19とで囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
実施例7では、図17(a)に示す実施例1と比較して、約1.0の吸収率(又は放射率)を有する領域がブロードになっていた。従って、可視光の波長域では、実施例1(ハフニウムナイトライド)の方が、実施例7(チタンナイトライド)よりも、狙った波長域又は波長だけに対して、吸収率(又は放射率)を約1.0にすることができた。
(実施例8)
図25(a)~図25(c)を参照して実施例8を説明する。実施例8では、可視光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1Aの吸収率の変化と、共振部3近傍の電場分布とを算出した。
プラズモニック構造体1Aの条件は次の通りであった。すなわち、共振部3及びベース層5の各々は、ハフニウムナイトライドによって形成された。共振部3の直径Dは50nm以上250nm以下であった。共振部3の高さHは80nmであった。共振部3の周期Tは300nmであった。誘電体層21は石英(SiO2)であった。誘電体層21の厚みtは20nmであった。
プラズモニック構造体1Aへの入射光の条件及びシミュレーション法は、実施例1と同じであった。
図25(a)は、実施例8に係るプラズモニック構造体1Aの吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図25(a)に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1の吸収率(又は放射率)が算出された。破線L20と破線L21とで囲まれた領域、及び、破線L22で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L23と破線L24とで囲まれた領域、及び、破線L25で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
実施例8では、図17(a)に示す実施例1と比較して、約1.0の吸収率(又は放射率)を有する領域(破線L23と破線L24とで囲まれた領域)が、ややブロードになっていた。従って、可視光の波長域では、実施例1(非MIM構造)の方が、実施例8(MIM構造)よりも、狙った波長域又は波長だけに対して、吸収率(又は放射率)を約1.0にすることができた。
図25(b)は、実施例8に係るプラズモニック構造体1Aの第4吸収条件での共振部3近傍の電場分布を示す図である。図25(c)は、実施例8に係るプラズモニック構造体1Aの第5吸収条件での共振部3近傍の電場を示す図である。
図25(b)に示すように、シミュレーションによって、第4吸収条件での電場分布が算出された。第4吸収条件は、図25(a)の点P4に対応し、共振部3の直径Dが120nmであり、波長が470nmであることを示した。点P4での吸収率は約1.0であった。図25(b)に示すように、第4吸収条件では、共振部3のエッジ7(図12)及びエッジ7の近傍で電場が増強された。
図25(c)に示すように、シミュレーションによって、第5吸収条件での電場分布が算出された。第5吸収条件は、図25(a)の点P5に対応し、共振部3の直径Dが120nmであり、波長が770nmであることを示した。点P5での吸収率は約1.0であった。図25(c)に示すように、第5吸収条件では、共振部3のエッジ23(図12)及びエッジ23の近傍で電場が増強された。
図25(a)~図25(c)にシミュレーションの結果により、共振部3のエッジ7及びエッジ7の近傍の電場が強い場合、又は、共振部3のエッジ23及びエッジ23の近傍の電場が強い場合に、吸収率(又は放射率)が大きいことを確認できた。電場の増強は、第1特定面9又は第2特定面25(図12)に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生していることを示していた。破線L20と破線L21とで囲まれた領域は、第1特定面9に発生した表面プラズモン・ポラリトンの定在波に起因しており、破線L22で囲まれた領域は、第2特定面25に発生した表面プラズモン・ポラリトンの定在波に起因していることを確認できた。
(実施例9)
図26(a)及び図26(b)を参照して実施例9を説明する。実施例9では、赤外光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1Aの吸収率の変化と、共振部3近傍の電場分布を算出した。共振部3の直径Dは400nm以上1400nm以下であった。共振部3の高さHは100nmであった。共振部3の周期Tは1500nmであった。誘電体層21の厚みtは100nmであった。プラズモニック構造体1Aのその他の条件は実施例8と同じであった。プラズモニック構造体1Aへの入射光の条件及びシミュレーション法は実施例8と同じであった。
図26(a)は、実施例9に係るプラズモニック構造体1Aの吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図26(a)に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1Aの吸収率(又は放射率)が算出された。破線L26と破線L27とで囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L28と破線L29とで囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
実施例9では、図23(a)に示す実施例6と比較して、約1.0の吸収率(又は放射率)を有する領域が、赤外光の広い波長域で確認できた。従って、赤外光の波長域では、実施例9の方が、実施例6よりも、広範な波長域から、吸収率(又は放射率)を約1.0にする波長を選択できることを確認できた。
図26(b)は、実施例9に係るプラズモニック構造体1Aの第6吸収条件での共振部3近傍の電場分布を示す図である。図26(b)に示すように、シミュレーションによって、第6吸収条件での電場分布が算出された。第6吸収条件は、図26(a)の点P6に対応し、共振部3の直径Dが1000nmであり、波長が3550nmであることを示した。点P6での吸収率は約1.0であった。図26(b)に示すように、第6吸収条件では、共振部3のエッジ23(図12)及びエッジ23の近傍で電場が増強された。共振部3のエッジ23及びエッジ23の近傍の電場が強い場合に、吸収率(又は放射率)が大きいことを確認できた。電場の増強は、第2特定面25(図12)に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生していることを示していた。
(実施例10)
図27を参照して実施例10を説明する。実施例10では、赤外光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1Aの吸収率の変化を算出した。プラズモニック構造体1Aはチタンナイトライドによって形成された。プラズモニック構造体1Aのその他の条件は実施例9と同じであった。プラズモニック構造体1Aへの入射光の条件及びシミュレーション法は実施例9と同じであった。
図27は、実施例10に係るプラズモニック構造体1Aの吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図27に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1Aの吸収率(又は放射率)が算出された。破線L30と破線L31とで囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。
実施例10と実施例9(図26(a))とを比較すると、赤外光の波長域において、実施例9(ハフニウムナイトライド)の方が、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)を達成できる点で、実施例10(チタンナイトライド)よりも優れていた。
(実施例11)
図28(a)~図28(c)を参照して実施例11を説明する。実施例11では、可視光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1Bの吸収率の変化と、共振部3近傍の電場分布とを算出した。
プラズモニック構造体1Bの条件は次の通りであった。すなわち、共振部3及びベース層5の各々は、ハフニウムナイトライドによって形成された。共振部3及び誘電体層31の各々の直径Dは50nm以上250nm以下であった。共振部3及び誘電体層31の各々の周期Tは300nmであった。共振部3の高さHは80nmであった。誘電体層31の厚みtは20nmであった。誘電体層31は石英(SiO2)であった。
プラズモニック構造体1Bへの入射光の条件及びシミュレーション法は、実施例1と同じであった。
図28(a)は、実施例11に係るプラズモニック構造体1Bの吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図28(a)に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1Bの吸収率(又は放射率)が算出された。破線L32と破線L33とで囲まれた領域、及び、破線L34で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L35と破線L36とで囲まれた領域、及び、破線L37で囲まれた領域では、可視光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
実施例11(MIM構造)では、図25(a)に示す実施例8(MIM構造)と同様の吸収率特性(放射率特性)が得られた。
図28(b)は、実施例11に係るプラズモニック構造体1Bの第7吸収条件での共振部3近傍の電場分布を示す図である。図28(c)は、実施例11に係るプラズモニック構造体1Bの第8吸収条件での共振部3近傍の電場を示す図である。
図28(b)に示すように、シミュレーションによって、第7吸収条件での電場分布が算出された。第7吸収条件は、図28(a)の点P7に対応し、共振部3の直径Dが120nmであり、波長が480nmであることを示した。点P7での吸収率は約1.0であった。図28(b)に示すように、第7吸収条件では、共振部3のエッジ7(図16)及びエッジ7の近傍で電場が増強された。
図28(c)に示すように、シミュレーションによって、第8吸収条件での電場分布が算出された。第8吸収条件は、図28(a)の点P8に対応し、共振部3の直径Dが120nmであり、波長が720nmであることを示した。点P8での吸収率は約1.0であった。図28(c)に示すように、第8吸収条件では、共振部3のエッジ23(図16)及びエッジ23の近傍で電場が増強された。
図28(a)~図28(c)にシミュレーションの結果により、共振部3のエッジ7及びエッジ7の近傍の電場が強い場合、又は、共振部3のエッジ23及びエッジ23の近傍の電場が強い場合に、吸収率(又は放射率)が大きいことを確認できた。電場の増強は、第1特定面9又は第2特定面25(図16)に表面プラズモン・ポラリトンの定在波が発生していることを示していた。破線L32と破線L33とで囲まれた領域は、第1特定面9に発生した表面プラズモン・ポラリトンの定在波に起因しており、破線L34で囲まれた領域は、第2特定面25に発生した表面プラズモン・ポラリトンの定在波に起因していることを確認できた。
(実施例12)
図29を参照して実施例12を説明する。実施例12では、赤外光の波長域において、共振部3の直径Dの変化に対するプラズモニック構造体1Bの吸収率の変化を算出した。共振部3及び誘電体層31の各々の直径Dは、400nm以上1400nm以下であった。共振部3及び誘電体層31の各々の周期Tは1500nmであった。共振部3の高さHは100nmであった。誘電体層21の厚みtは100nmであった。プラズモニック構造体1Bのその他の条件は実施例11と同じであった。プラズモニック構造体1Bへの入射光の条件及びシミュレーション法は実施例11と同じであった。
図29は、実施例12に係るプラズモニック構造体1Bの吸収率と共振部3の直径Dと波長との関係を示す図である。図29に示すように、シミュレーションによって、共振部3の直径D及び入射光の波長を変化させたときのプラズモニック構造体1Bの吸収率(又は放射率)が算出された。破線L38と破線L39とで囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約0.8(約80%)以上の吸収率(又は放射率)であった。特に、破線L40と破線L41とで囲まれた領域では、赤外光の波長域内で、約1.0(約100%)の吸収率(又は放射率)であった。
実施例12と実施例9(図26(a))とを比較すると、異なるMIM構造であっても、同様に優れた吸収率(又は放射率)を有していることを確認できた。
以上、図17(a)~図26(b)及び図28(a)~図28(c)を参照して説明したように、実施例1~実施例9及び実施例11では、プラズモニック構造体1、1A、1Bが完全吸収体になり得ることを確認できた。また、吸収率は放射率と等しいため、プラズモニック構造体1、1A、1Bが完全放射体になり得ることを確認できた。実施例1~実施例9及び実施例11では、「特定の波長」は、可視光の波長域内の波長又は赤外光の波長域内の波長であった。
以上、図面(図1~図29)を参照しながら本発明の実施形態について説明した。但し、本発明は、上記の実施形態及び実施例に限られるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の態様において実施することが可能である(例えば、下記に示す(1)、(2))。また、上記の実施形態に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせることによって、種々の発明の形成が可能である。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の厚み、長さ、個数、間隔等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合もある。また、上記の実施形態で示す各構成要素の材質、形状、寸法等は一例であって、特に限定されるものではなく、本発明の効果から実質的に逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
(1)実施形態1~3において、プラズモニック構造体1~1Bは、ベース層5が第1化合物C1によって構成され、共振部3が第2化合物C2によって構成される限りは、図1~図4及び図9~図16に示された構成に限定されない。例えば、プラズモニック構造体1~1Bは、単数の共振部3を備えていてもよい。複数の共振部3の配置は特に限定されず、例えば、複数の共振部3が、三角格子状又は矩形格子状に配置されていてもよいし、非規則的に配置されていてもよい。共振部3及び誘電体層31の形状は、特に限定されず、例えば、多角柱形状又は錐台形状(円錐台形状又は角錐台形状)であってもよい。共振部3の形状と誘電体層31の形状とが異なっていてもよい。また、第1化合物C1及び第2化合物C2の誘電率の実部は、表面プラズモン・ポラリトンを発生できる限り、ゼロであってもよい。
(2)実施形態1~3に係るプラズモニック構造体1~1Bは、例えば、熱放射可視光光源、熱放射近赤外線エミッター、太陽熱発電の完全吸収体、又は耐熱性プラズモニック材料として適用可能である。