本開示にかかる空気電池は、正極と、負極と、前記正極と負極との間に配置されるセパレータと、電解液とが外装体の内部に収容され、前記外装体の前記正極側の表面に空気孔が形成された空気電池であって、前記空気孔の表面が、撥水性と通気性とを備えた保護シートで被覆されている。
本開示にかかる空気電池は、上記の構成を備えることで、正極側の外装体に形成された空気孔の表面が撥水性と通気性とを備えた保護シートで被覆され、空気孔への水の浸入を防止することができる。このため、空気電池の表面が水で覆われてしまった場合でも、空気孔内に浸入した水が残留して長時間酸素の透過を妨害し、空気電池からの電力供給が停止する事態を回避できる。
本開示の空気電池において、前記保護シートが、樹脂製の不織布からなる多孔質部材で構成されていることが好ましい。このようにすることで、撥水性と通気性とを両立させた保護シートを容易に構成することかできる。
また、前記正極と、前記負極と、前記セパレータと、前記外装体とがいずれもシート状部材で構成され、全体としてシート状に形成された空気電池であることが好ましい。シート状の空気電池を用いることで、軽量で、かつ、可撓性を有する空気電池を実現することができる。
本開示にかかるデバイスは、身体に直接装着されるデバイスであって、皮膚に接触する機能素子と、前記機能素子を動作させる駆動回路部と、電源として本願で開示する空気電池とを備えている。
本開示にかかるデバイスは、上記の構成を備えることで、本願で開示する空気電池の特長を活かして、被装着者がデバイスを装着した状態で入浴して、空気電池の表面が水で覆われる状態となった場合でも、被装着者が水から上がった後すぐに正極への空気の供給が再開されて、生体データの測定などの動作を続けることができる。
本開示にかかるデバイスでは、前記保護シートが、前記機能素子と、前記駆動回路部と、前記空気電池を収容する前記デバイスの外殻部材の一部であることが好ましい。このようにすることで、空気電池の外装体の表面に別途保護シートを付加せずにすむため、デバイス全体の構成を簡素化することができる。
以下、本開示にかかる空気電池と、この空気電池を用いたデバイスについて、図面を参照して説明する。
なお、本実施形態の説明で用いる、空気電池とデバイスの構造を説明するための各図面は、空気電池、および、デバイスを構成する各部材の形状とその配置位置の相互関係とをわかりやすく説明するものであり、各図に示した部材の大きさは、必ずしも実際の大きさを反映するものではない。
また、以下実施形態としての説明はあくまでも例示であって、本開示にかかる空気電池、および、デバイスそれぞれの構成部材は、以下の説明に記載されたものに限定されない。
(実施の形態)
図1は、本実施形態にかかる空気電池の構成を説明するための断面構成図である。
図2は、本実施形態にかかる空気電池を上面から見た図である。
図1は、図2において、A-A’で示す部分の断面を示している。また、便宜上、図1の上下方向を、本実施形態で示す空気電池10の上下方向として説明する。
空気電池10は、正極1と負極2とを含む発電要素をはじめとする各部材をシート状に形成することで全体として可撓性を有するシート状に構成されている。
図1にその断面を示すように、本実施形態にかかるシート状の空気電池10は、それぞれがシート状に形成された、正極1と負極2、正極1と負極2との間に配置されたセパレータ3と、図示を省略する電解液とが、その周囲部分がシールされたいずれもシート状に形成された正極1側の外装体6と、負極2側の外装体5との間に密閉されて構成されている。また、正極1と、正極1側の外装体6との間には、空気を透過するが水分(電解液)は透過しない撥水膜4が配置されていて、正極1側の外装体6に形成された空気穴7から撥水膜4を介して、正極1に正極活物質である空気(酸素)が供給される。
さらに、本実施形態にかかる空気電池10では、正極1側の外装体6に形成された空気穴7の表面を覆うように、保護シート20が形成されている。
(正極)
正極1は、触媒層を有するもの、例えば、触媒層と集電体とを積層した構造のものを使用することができる。
触媒層には、触媒やバインダなどを含有させることができる。
触媒層に係る触媒としては、例えば、銀、白金族金属またはその合金、遷移金属、Pt/IrO2などの白金/金属酸化物、La1-xCaxCoO3などのベロブスカイト酸化物、WCなどの炭化物、Mn4Nなどの窒化物、二酸化マンガンなどのマンガン酸化物、カーボン[黒鉛、カーボンブラック(アセチレンブラック、ケッチェンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、サーマルブラックなど)、木炭、活性炭など]などが挙げられ、これらのうちの1種または2種以上が使用される。
なお、触媒層は、電解液の成分を除く重金属の含有量が、1質量%以下であることが好ましい。重金属の含有量が前記のように少ない触媒層を有する正極の場合、特別な処理などを経ずに廃棄しても環境負荷が小さい電池とすることができる。この点からも、触媒としては前述のカーボンを使用することがより好ましい。
また、正極の反応性をより高める観点からは、触媒として使用するカーボンの比表面積は、200m2/g以上であることが好ましく、300m2/g以上であることがより好ましく、500m2/g以上であることが更に好ましい。なお、カーボンの比表面積は、JIS K 6217に準じたBET法によって求められる値であり、例えば、窒素吸着法による比表面積測定装置を用いて測定することができる。なお、カーボンの比表面積の 上限値は、通常、2000m2/g程度である。
触媒層における触媒の含有量は、20~70質量%であることが好ましい。
触媒層に係るパインダとしては、PVDF、PTFE、フッ化ビニリデンの共重合体やテトラフルオロエチレンの共重合体[フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF-HEP)、フッ化ビニリデン-クロロトリフルオロエチレン共重合体(PVDF-CTFE)、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-TFE)、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン-テトラフルオロエチレン共重合体(PVDF-HEP-TFE)など]などのフッ素樹脂バインダなどが挙げられる。これらの中でもテトラフルオロエチレンの重合体(PTFE)または共重合体が好ましく、PTFEがより好ましい。触媒層におけるパインダの含有量は、3~50質量%であることが好ましい。
触媒層を有する正極の場合、例えば、前記触媒、バインダなどを水と混合してロールで圧延し、集電体と密着させることにより製造することができる。また前記の触媒や必要に応じて使用するバインダなどを、水や有機溶媒に分散させて調製した触媒層形成用組成物(スラリー、ペーストなど)を、集電体の表面に塗布し乾燥した後に、必要に応じてカレンダ処理などのプレス処理を施す工程を経て製造することもできる。
正極合剤層を有する正極や触媒層を有する正極に係る集電体には、例えば、チタン、ニッケル、ステンレス鋼、銅などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンの網、多孔質シート;などを用いることができる。正極に係る集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
また、正極の集電体には、シート状外装体を構成する樹脂製フィルムや、樹脂製フィルムと金属フィルムとの積層体の一部を利用することもできる。この場合、例えば、樹脂製フィルムや前記積層体の、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンペーストを塗布して集電体としたり、前記積層体の金属層を集電体としたりし、この表面に前記と同様の方法で正極合剤層や触媒層を形成することで、正極とすることができる。前記のカーボンペースト層の厚みは、30~300μmであることが好ましい。
(負極)
負極2には、亜鉛系材料やマグネシウム系材料(マグネシウム材料とマグネシウム合金材料とを纏めてこのように称する)、アルミニウム系材料(アルミニウム材料とアルミニウム合金材料とを纏めてこのように称する)などの金属材料を含有するものが使用される。このような負極では、亜鉛やマグネシウムやアルミニウムといった金属が、活物質として作用する。
金属材料を含有する負極の具体例としては、亜鉛系粒子(亜鉛粒子と亜鉛合金粒子とを纏めてこのように称する)やマグネシウム系粒子(マグネシウム粒子とマグネシウム合金粒子とを纏めてこのように称する)やアルミニウム系粒子(アルミニウム粒子とアルミニウム合金粒子とを纏めてこのように称する)などを含有する負極が挙げられる。
亜鉛合金粒子の合金成分としては、例えば、インジウム(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、ビスマス(例えば含有量が質量基準で0.005~0.05%)、 アルミニウム(例えば含有量が質量基準で0.001~0.15%)などが挙げられる。
また、マグネシウム合金粒子の合金成分としては、例えば、カルシウム(例えば含有量が質量基準で1~3%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.1~0.5%)、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.4~1%)、アルミニウム(例えば含有量が質量基準で8~10%)などが挙げられる。
さらに、アルミニウム合金粒子の合金成分としては、例えば、亜鉛(例えば含有量が質量基準で0.5~10%)、スズ(例えば含有量が質量基準で0.04~1.0%)、ガリウム(例えば含有量が質量基準で0.003~1.0%)、ケイ素(例えば含有量が質量基準で0.05%以下)、鉄(例えば含有量が質量基準で0.1%以下)、マグネシウム(例えば含有量が質量基準で0.1~2.05%)、マンガン(例えば含有量が質量基準で0.01~0.5%)などが挙げられる。
金属粒子を含有する負極の場合、その金属粒子は、1種単独でもよく、2種以上であってもよい。
なお、電池の廃棄時の環境負荷の低減を考慮すると、負極に使用する金属材料は、水銀、カドミウム、鉛およびクロムの含有量が少ないことが好ましく、具体的な含有量が、質量基準で、水銀:0.1%以下、カドミウム:0.01%以下、鉛:0.1%以下、およびクロム:0.1%以下であることがより好ましい。
亜鉛系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が75μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が100~200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
また、マグネシウム系粒子およびアルミニウム系粒子の粒度としては、例えば、全粒子中、粒径が30μm以下の粒子の割合が50質量%以下のものが好ましく、30質量%以下のものがより好ましく、また、粒径が50~200μmの粒子の割合が、50質量%以上、より好ましくは90質量%以上であるものが挙げられる。
なお、上記説明における金属粒子の粒度は、レーザー散乱粒度分布計を用い、粒子を溶解しない媒体に、これらの粒子を分散させて測定した、体積基準での累積頻度50%における粒径(D50)である。
金属粒子を含有する負極の場合には、必要に応じて添加されるゲル化剤(ポリアクリル酸ソーダ、カルボキシメチルセルロースなど)やバインダを含んでもよく、これに電解液を加えることで構成される負極剤(ゲル状負極など)を使用することができる。負極中のゲル化剤の量は、例えば、0.5~1.5質量%とすることが好ましく、バインダの量は、0.5~3質量%とすることが好ましい。
金属粒子を含有する負極に係る電解液には、電池に注入するものと同じものを使用することができる。
負極における金属粒子の含有量は、例えば、60質量%以上であることが好ましく、65質量%以上であることがより好ましく、また、95質量%以下であることが好ましく、90質量%以下であることがより好ましい。
金属粒子を含有する負極は、酸化インジウム、水酸化インジウムなどのインジウム化合物を含有していることが好ましい。負極がインジウム化合物を含有することによって、金属粒子と電解液との腐食反応による水素ガス発生をより効果的に防ぐことができる。
負極に使用するインジウム化合物の量は、質量比で、金属粒子:100に対し、0.03~1であることが好ましい。
また、負極には、前記亜鉛系粒子と同じ組成の亜鉛系シート(亜鉛箔や亜鉛合金箔など)や、前記マグネシウム系粒子と同じ組成のマグネシウム系シート(マグネシウム箔やマグネシウム合金箔など)といった金属シートを用いることもできる。このような負極の場合、その厚みは、10~500μmであることが好ましい。
また、金属材料を含有する負極には、必要に応じて集電体を用いてもよい。金属材料を含有する負極の集電体としては、ニッケル、銅、ステンレス鋼などの金属の網、箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル;カーボンのシート、網;などが挙げられる。負極の集電体の厚みは、10μm以上300μm以下であることが好ましい。
負極の集電体には、前記正極の場合と同様に、シート状外装体の内面となることが予定される面にカーボンベーストを塗布して用いたり、シート状外装体を構成する金属層を用いたりすることができる。カーボンベースト層の厚みは、50~200μmであることが好ましい。
(セパレータ)
セパレータ3としては、樹脂製の多孔質膜(微多孔膜、不織布など)や、セロファンフィルムに代表される半透膜などの、各種電池で一般的に採用されているセパレータが挙げられる。なお、シート状電池の短絡防止および負荷特性を向上させる観点からは、半透膜をセバレータに使用することが好ましい。
樹脂製の多孔質膜からなるセパレータを構成する樹脂としては、例えば、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、エチレン-プロピレン共重合体などのポリオレフィンなどが挙げられる。
樹脂製のセバレータの場合、空孔率は30~80%であることが好ましく、また、厚みは10~100μmであることが好ましい。
また、セロファンフィルムなどの半透膜をセパレータに使用する場合、半透膜のみでセパレータを構成してもよい。しかしながら、半透膜は強度が小さいため、電池組み立て時の破損などの問題が発生しやすい。よって、特定の重合体で構成されるグラフトフィルムと、半透膜とを積層した積層体でセパレータを構成することも推奨される。
グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、例えば、幹ポリマーであるポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレンなど)に、(メタ)アクリル酸またはその誘導体が、グラフト重合した形態を有するものである。ただし、グラフト重合体は前記の形態を有していればよく、ポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法により製造されたものでなくともよい。
前記グラフト重合体を構成する(メタ)アクリル酸またはその誘導体とは、下記一般式(1)によって表されるものである。なお、下記一般式(1)のうち、R1はHまたはCH3であり、R2はHまたはNH4、Na、K、Rb、Csなどの親水性置換基を意味している。
前記のグラフトフィルムやセロファンフィルムは、これらのフィルムを構成する重合体自身が、電解液を吸収してイオンを透過する機能を有するものである。
前記グラフトフィルムを構成するグラフト重合体は、下記式(2)で定義されるグラフト率が、160%以上であることが好ましい。グラフト重合体のグラフト率とグラフトフィルムの電気抵抗には相関関係があるため、グラフト率が上記のような値のグラフト重合体を用いることで、グラフトフィルムの電気抵抗が、20~120mΩ・in2の好適値となるように制御することができる。なお、グラフトフィルムの電気抵抗は交流式電圧降下法(1kHz)により得られる値である。雰囲気温度を20~25度とし、25プラスマイナス1度の40%KOH(比重:1.400プラスマイナス0.005)水溶液中にフィルムを浸潰し、5~15時間後に取り出して、電気抵抗を測定すればよい。
グラフト率(%)=100×(A-B)/B (2)
式(2)中、A:グラフト重合体の質量(g)、B:グラフト重合体中の幹ポリマーの質量(g)である。
なお、前記式(2)の「B(グラフト重合体中の幹ポリマーの質量)」は、例えば、グラフト重合体を、幹ポリマーであるポリオレフィンに、(メタ)アクリル酸やその誘導体をグラフト重合させる方法で形成する場合には、このグラフト重合に用いる幹ポリマーの質量を予め測定しておけばよい。また、前記グラフト重合体において、グラフト率が100%を超える場合があるのは、グラフト重合に用いるモノマー[(メタ)アクリル酸やその誘導体]同士が重合して、グラフト分子が長鎖となる場合があるからである。前記式(2)で定義されるグラフト重合体のグラフト率の上限値は、400%であることが好ましい。なお、前記の「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸と メタクリル酸とを纏めて表現したものである。
セロファンフィルムのみで構成されるセパレータの場合、その厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、また、40μm以下であることが好ましく、30μm以下であることがより好ましい。
さらに、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体で構成されるセパレータの場合、グラフトフィルムとセロファンフィルムとの合計厚みで、例えば、30μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、また、70μm以下であることが好ましく、60μm以下であることがより好ましい。
さらに、グラフトフィルムとセロファンフィルムの積層体で構成されるセバレータの場合、グラフトフィルムの厚みは、例えば、15μm以上であることが好ましく、25μm以上であることがより好ましく、また、30μm以下であることが好ましい。
セパレータを構成するためのグラフトフィルムとセロファンフィルムとの積層体としては、例えば、株式会社ユアサメンブレンシステムから「YG9132」や「YG9122」、「YG2152」の名称で市販されているものが挙げられる。
また、セロファンフィルムや、セロファンフィルムおよびグラフトフィルムと、ビニロン-レーヨン混抄紙のような吸液層(電解液保持層)とを組み合わせてセパレータを構成しでもよい。このような吸液層の厚みは20~500μmであることが好ましい。
(外装体)
シート状の外装体5、6を構成する樹脂フィルムとしては、ナイロンフィルム(ナイロン66フィルムなど)、ポリエステルフィルム[ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムなど]などが挙げられる。樹脂フィルムの厚みは、20~100μmであることが好ましい。
シート状外装体5、6の封止は、正極1側のシート状外装体6の端部と負極2側の外装体5の端部との熱融着によって行うことが一般的であるが、この熱融着をより容易にする目的で、樹脂フィルムに熱融着樹脂層を積層してシート状外装体5、6として用いてもよい。熱融着樹脂層を構成する熱融着樹脂としては、変性ポリオレフィンフィルム(変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムなど)、ポリプロピレンおよびその共重合体などが挙げられる。熱融着樹脂層の厚みが20~100μmであることが好ましい。
また、樹脂フィルムには金属層を積層してもよい。金属層は、アルミニウムフィルム(アルミニウム箔。アルミニウム合金箔を含む。)、ステンレス鋼フィルム(ステンレス鋼箔。)などにより構成することができる。金属層の厚みが10~150μmであることが好ましい。
また、シート状外装体5、6を構成する樹脂フィルムは、前記の熱融着樹脂層と前記の金属層とが積層された構成のフィルムであってもよい。
シート状外装体の形状は、後述するデバイス100の形状に合わせて、平面視で四角形としている。しかし、本実施形態で説明する空気電池10に用いられるシート状外装体5、6の平面視形状は四角形には限られず、デバイス100の形状に合わせて、三角形、五角形、六角形、七角形、八角形などの多角形や、円形や楕円形であってもよい。また、デバイス100を絆創膏型として、シート電池10の表面積をなるべく大きくするために、シート電池の形状をデバイスの外観形状と同じ形状とする場合には、全体としては略四角形状で各コーナ部を丸く形成したもの、長手方向の両端部をそれぞれ半円形としたものなどとすることもできる。
図1、図2に示したように、本実施形態にかかる空気電池10では、正極1側の外装体6の正極1と重なる部分に、空気穴7が形成されている。
空気穴7を介して、外部の空気が取り込まれて空気中の酸素が正極活物質として機能し、電力が供給される。なお、空気穴7は、一例として直径が50μmから1mm程度の円形の開口で、正極1側の外装体6にレーザー照射法や機械的なパンチング法などによって形成される。
図2では、空気穴7として、縦方向と横方向とにそれぞれ3個ずつ、合わせて9個の空気孔7がマトリクス状に形成されている例を示したが、空気孔7の個数や配置形状には制約はなく、正極1で必要とされる量の酸素が供給できる範囲で、平面視したときになるべく均等に分散させた形で配置することが好ましい。また、空気穴7の形状も、例示した円形のものに限らず、矩形や、楕円形状などでもよい。
また本実施形態で説明する空気電池10では、正極1側の外装体6の一つの辺近傍の内側面、すなわち、負極2側の外装体5と対向する側の表面に、2つの電極端子9が形成されている。
電極端子9は、蒸着や印刷法などによって形成された金属薄膜やカーボンペーストなどの導電体で構成され、図2では上側に位置する一方が正極1とリード線8などによって接続されている。また、図示は省略するが、他方の電極端子9は、負極2と電気的に接続されている。図1、図2に示すように、負極2側の外装体5の端部を電極端子9の略中間部分に位置するようにシールすることで、電極端子9の一部を空気電池10の下側面に露出させることができ、電極端子9を空気電池10の下方に配置される駆動回路部20の電源端子21と接触させることができる。さらに、正極1側の外装体6において電極端子9が形成されている部分に対向する負極2側の外装体5に開口部を設けることによって、電極端子9を空気電池10の下方側に露出させる構成とすることもできる。このようにして、駆動回路20の上に空気電池10が積層された状態で、空気電池10から駆動回路部20に駆動電力が供給できる。
なお、空気電池10の電極端子は、図示したように正極1側の外装体6の内側面に形成する方法の他に、負極2側の外装体5を貫通するようにビア構造で形成することによっても、空気電池10の下側に配置される駆動回路部の電源端子と接触させることができる。また、空気電池10の側方から、外方へ延出する電極端子を形成して、この電極端子に駆動回路部の電源端子を接続する構成とすることもできる。この場合には、空気電池10の側方からの電極端子の延出量をなるべく小さくして、デバイス100の面積の増大を最小限にする必要がある。
また、上記実施形態では、空気電池10の2つの電極端子9を、空気電池10の一辺の近傍に並べて配置した例を示したが、空気電池10の2つの電極端子9の形成位置を離すことも可能であり、例えば、図1、図2における左側の辺の近傍に、2つめの電極端子9を配置する構成とすることもできる。
(撥水膜)
シート状の空気電池10の正極1と正極1側の外装体6との間には、撥水膜4が配置されている。撥水膜には、撥水性がある一方で空気を透過できる膜が使用される。このような撥水膜の具体例としては、PTFEなどのフッ素樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレンなどのポリオレフィン;などの樹脂で構成された膜などが挙げられる。撥水膜の厚みは、50~250μmとすることができる。
なお、正極1側の外装体6と接水膜4との聞に、外装体6内に取り込んだ空気を正極に供給するための空気拡散膜を配置してもよい。空気拡散膜には、セルロース、ポリビニルアルコール、ポリプロピレン、ナイロンなどの樹脂で構成された不織布を用いることができる。空気拡散膜の厚みは、100~250μmとすることができる。
(電解液)
2つのシート状外装体5、6内に収容される電解液の電解質塩としては、特に限定はされないが、塩酸、硫酸および硝酸より選択される強酸と、アンモニアや、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなど金属元素の水酸化物に代表される弱塩基との塩が好ましく用いられ、そのうち、アンモニウム塩または特定の金属元素の塩がより好ましく用いられる。
より具体的には、Cl-、SO4
2-、HSO4
-、および、NO3
-より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩であり、硫酸アンモニウム、硫酸水素アンモニウム[(NH4)HSO4]、塩化アンモニウム、硝酸アンモニウムなどのアンモニウム塩;硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウムなどのアルミニウム塩;硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化水酸化マグネシウム[MgCl(OH)]、硝酸マグネシウムなどのマグネシウム塩;硫酸鉄(II)、硫酸アンモニウム鉄(II)[(NH4)2Fe(SO4)2]、硫酸鉄(III)、塩化鉄(II)、硝酸鉄(II)などの鉄塩;が例示される。
このように、強酸と弱塩基との塩を含有する水溶液は、負極活物質である金属材料を腐食させる作用が比較的小さく、また、比較的高い導電率を有している。よって、良好な放電特性を実現することができる。
電解液のpHとしては、3以上12未満とすることで、安全性を向上させた、環境負荷が小さく、かつ、放電特性が良好な空気電池を実現することができる。なお、電解液のpHは、3以上、好ましくは5以上であって、12未満、好ましくは10以下、より好ましくは7未満である。前記の電解質塩を用いることにより、電解液のpHを前記範囲に調整しやすくなるだけでなく、皮膚への刺激性が比較的低い電解液を構成することができるので、例えば、電池の外装体が傷ついて電解液が漏出しデバイスの被装着者の皮膚などに付着した場合でも、トラブルを生じる可能性が低いため、身体に直接装着されるデバイスの電源として好適な電池とすることができる。
電解液として使用する水溶液は、電解質として、Cl-、SO4
2-、HSO4
-、および、NO3
-より選択される少なくとも1種のイオンと、Alイオン、Mgイオン、Feイオンおよびアンモニウムイオンより選択される少なくとも1種のイオンとの塩のうちの1種のみを含有していればよいが、2種以上を含有していてもよい。
ただし、Cl-イオンとFe3+イオンとの塩[塩化鉄(III)]については、その他のイオンの組み合わせによる塩に比べて負極活物質である金属材料を腐食させる作用が強いため、塩化鉄(III)以外の塩を用いることが好ましく、負極活物質である金属材料を腐食させる作用がより低いことから、アンモニウム塩を用いることがより好ましい。
なお、前記した強酸と弱塩基との塩であっても、過塩素酸塩は、加熱や衝撃により燃焼や爆発の危険を生じることから、環境負荷や廃棄時の安全性の観点から、電解液として使用する前記水溶液に含有させないか、あるいは含有しても過塩素酸イオンの量がわずかであること(具体的には100ppm未満、より好ましくは10ppm未満)が好ましい。
また、前記強酸と弱塩基との塩のうち、塩化亜鉛や硫酸銅などに代表される重金属塩(鉄の塩を除く)は、有害であるものが多いため、環境負荷や廃棄時の安全性の観点から、電解液として使用する前記水溶液に含有させないか、あるいは含有しても鉄イオンを除く重金属イオンの量がわずか(具体的には100ppm未満、より好ましくは10ppm未満)であることが好ましい。
電解液の導電率は、80mS/cm以上であることが好ましい。よって、電解液として使用する前記水溶液における前記電解質の濃度(1種のみを用いる場合は、その濃度であり、2種以上を用いる場合は、それらの合計濃度)は、このような導電率を確保できるような濃度とすればよく、通常は、5~50質量%である。なお、電解液の導電率の上限値は、通常700mS/cm程度である。
電解液には、インジウム化合物が溶解していることが好ましい。電解液中にインジウム化合物が溶解している場合には、電池内での水素ガスの発生をより良好に抑制することができる。
電解液に溶解させるインジウム化合物としては、水酸化インジウム、酸化インジウム、硫酸インジウム、硫化インジウム、硝酸インジウム、臭化インジウム、塩化インジウムなどが挙げられる。
インジウム化合物の電解液中の濃度は、質量基準で0.005%以上であることが好ましく、0.01%以上であることがより好ましく、0.05%以上であることが特に好ましい。また、1%以下であることが好ましく、0.5%以下であることがより好ましく、0.1%以下であることが特に好ましい。
また、電解液には前記の各成分の他に、必要に応じて公知の各種添加剤を添加してもよい。例えば、負極に用いる金属材料の腐食(酸化)を防止するために、酸化亜鉛を添加するなどしてもよい。なお、酸化亜鉛は、負極に添加することもできる。
(保護シート)
図1、図2に示すように、本実施形態にかかる空気電池10では、正極1側の外装体6の表面に、保護シート20が配置されている。
本実施形態の空気電池10では、保護シート20は、外装体6の表面のうち、空気孔7が形成されている領域を選択的に覆う矩形状部材とされている。しかし、保護シート20の形状は図示したものには限られない。保護シート20は、空気孔7の表面を覆っている限りにおいて各種形状に形成することができ、例えば、正極1側の外装体6のほぼ全体を覆う形状とすることができ、また、複数個が形成された空気孔7の周辺部分のみをそれぞれ個別に覆う形態とすることもできる。
保護シート20は、撥水性と通気性とを備えたシート状部材であり、一例として、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ナイロン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ウレタン、ゴム部材などの樹脂を材料とする不織布が好適に用いられる。
保護シート20の厚みは、図1、図2に示すような、シート状の空気電池10の場合には、50μm~300μm程度のものを、また、後述するコイン型の空気電池の場合には、100μ~2mm程度のものを用いることができる。
その他、保護シート20としては、本実施形態のように不織布が用いられる場合には、目付が数十~数百g/m2程度、ガーレが5s/100cc以上、耐水圧が80kPa以上のものを好適に用いることができる。
なお、保護シートは、撥水性と透気性を備えたシート状部材であれば特に限定はされず、不織布以外にも、前記不織布について例示されたような材質の微多孔フィルムなどを用いることもできる。
保護シート20は、例えば、外装体6に面する側の表面に、ホットメルト接着剤などの接着剤層を形成することで外装体6の表面に配置できる。なお、保護シート20と外装体6の表面との間に隙間が生じないように、熱溶着などの処置をすることが好ましい。
(空気電池の諸元と保護シートの効果)
上述した各部材で構成されるシート状の空気電池10の全体形状は、一例として、長辺が30~50mm、短辺が20~35mmとすることができる。なお、空気電池10の厚みは、より薄く構成することが好ましく、例えば、保護シート20なしの状態で1mm以下、保護シート20を含めた最も厚い部分の厚さが1.2mm以下とすることが好ましい。なお、空気電池10の取り扱い上必要となる剛性を考慮すると、厚みの最小値は一例として0.2mm、保護シート20を含めて0.3mmとすることができる。
次に、4種類の電解液を用いて、実施例としての4つのシート状空気電池を実際に作成して放電容量を確認した。
それぞれのシート状空気電池において、正極、負極、電解液、セパレータ、撥水膜、外装体は以下の材料を用いた。
<正極>
DBP吸油量495cm3/100g、比表面積1270m2/gのカーボン(ケッチェンブラックEC600JD(商品名:ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ社製)):30質量部と、アクリル系分散剤:15質量部と、SBR:60質量部と、水:500質量部とを混合して触媒層形成用組成物を作製した。
集電体として多孔性のカーボンシート〔厚み:0.25mm、空孔率:75%、透気度(ガーレー):70秒/100ml〕を用い、前記触媒層形成用組成物を、乾燥後の塗布量が10mg/cm2となるよう前記基材の表面にストライプ塗布し、乾燥することにより、触媒層が形成された部分と形成されていない部分とを有する集電体を得た。この集電体を、触媒層の大きさが15mm×15mmで、その一端に、触媒層が形成されていない5mm×15mmの大きさのリードとなる部分を有する形状に打ち抜いて、全体の厚みが0.27mmの正極(空気極)を作製した。
<負極>
添加元素としてIn:0.05%、Bi:0.04%およびAl:0.001%含有する亜鉛合金箔(厚み:0.05mm)を、活物質として機能する15mm×15mmの大きさの部分と、その一端にリードとなる5mm×15mmの部分とを有する形状に打ち抜いて負極を作製した。
<電解液>
電池1 20質量%の硫酸アンモニウム水溶液(pH=5.3)
電池2 20質量%の塩化アンモニウム水溶液(pH=4.3)
電池3 20質量%の塩化ナトリウム水溶液(pH=7)
電池4 30質量%の水酸化カリウム水溶液(pH=14)。
<セパレータ>
ポリエチレン主鎖にアクリル酸をグラフト共重合させた構造を有するグラフト共重合体で構成された2枚のグラフトフィルム(1枚当たりの厚み:15μm)を、セロハンフィルム(厚み:20μm)の両側に配置したものを用いた。
<撥水膜>
厚みが200μmのPTFE製シートを用いた。
<外装体>
アルミニウム箔の外面にPETフィルムを有し、内面に熱融着樹脂層としてポリプロピレンフィルムを有する2.5cm×2.5cmの大きさのアルミラミネートフィルム2枚を用いた。
<保護シート>
2.5cm×2.5cmの大きさの通気性多孔質フィルム「ブレスロン(商品名:二トムズ社製)」(厚さ:0.25mm)を用いた。
<電池の組み立て>
上記した2枚の外装体であるラミネートフィルムにおいて、正極側に配置される一方のラミネートフィルムには、正極の触媒層の配置位置に対応して、直径0.5mmの空気孔9個を、縦4.5mm×横4.5mmの等間隔(空気孔同士の中心間距離は5mm)でマトリクス状に形成し、その内面側に、ホットメルト樹脂を用いて撥水膜を熱溶着させた。また、負極側に配置されるもう一方のラミネートフィルムには、正極および負極のリードが配置される部分に、リードと外装体との熱溶着部の封止性を高めるため、外装体の辺と平行に、変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムを取り付けた。
撥水膜を有するラミネートフィルムを下にして、その撥水膜の上に、前記正極、前記セパレータおよび前記負極を順に積層し、さらに、もう1枚のラミネートフィルムを、前記正極および前記負極のリードの上に前記変性ポリオレフィンアイオノマーフィルムが位置するようにして重ねた。次に、2枚のラミネートフィルムの周囲3辺を互いに熱溶着して袋状にし、その開口部から電解液を注液した後、開口部を熱溶着して封止してシート状空気電池とした。
さらに、外装材の表面に前記した保護シートを、ホットメルト樹脂を用いて熱溶着させ、厚みが、約1.2mmの電池とした。
このようにして作製した空気電池を大気中で10分間放置した後、電池の設計容量に対して100時間率相当の電流で0.5Vまで放電した時の放電容量を測定した。その結果を表1に示す。
市販のボタン型空気電池の電解液として用いられている高濃度のアルカリ電解液を用いた空気電池(電池4)に対し、より安全性の高い電解液を用いた空気電池(電池1~3)においても、十分な放電容量を得ることができた。特に、強酸と弱塩基との塩を電解質塩とした電池1および電池2では、市販のボタン型空気電池の電解液と同様の構成とした電池4と同程度の優れた特性が得られた。
以上の結果より、本実施形態で説明した空気電池は、薄型で取り扱いの容易性や安全性が高く、しかも、比較的大容量の空気電池となり、身体に直接装着されるデバイスの電源として好適であることがわかる。
また、電池1と、比較のために、外装材の表面に前記保護シートを取り付けなかった以外は、電池1と同様にして作製した電池Aについて、以下の条件で電池が水に濡れた際の影響を調べた。
電池1と電池Aとを作製後に大気中で10分間放置し、10分間経過後にそれぞれの電池に3.9kΩの放電抵抗を接続して放電を開始させ、放電開始から10分後の電池の閉回路電圧(CCV)を試験前電圧として測定した。次いで、1cmの深さで水を張った水槽に正極側を上にして電池を沈め、そのまま30分間静置した。その後水槽から電池を取り出し、大気中でさらに10分間静置した後、電池のCCVを試験後電圧として測定した。
この時の測定結果を表2に示す。
外装体の空気孔の表面を、撥水性と通気性とを備えた保護シートで被覆した電池1では、電池を水に浸しても、保護シートがあるため空気孔が水で塞がれることがなく、電池を水から引き上げるとすぐに電池内に空気が流入し、電池の機能を良好に維持することができた。
一方、外装体の空気孔の表面を保護シートで被覆しなかった電池Aでは、空気孔の中に水が入って空気の流通が遮断されたため、電池を水から引き上げても電池内に空気が流入せず、電池の機能が低下する結果となった。
以上説明したように、本実施形態にかかる空気電池10では、正極1側の外装体6に形成された空気孔7の表面を、撥水性と通気性とを備えた保護シート20で覆っている。このため、空気電池10の表面が水で覆われた状態となっても、保護シート20が水分を遮って、空気孔7内に水分が侵入するのを防止することができる。
空気孔7内に水分が侵入すると、侵入した水分は外装体6の内側に形成されている撥水膜4に遮られるので正極1にまで到達することはほとんど無いが、空気孔7の表面の表面張力の結果、外装体6の表面から水分がなくなった場合でも、空気孔7内に水分が長時間留まり、空気の侵入を阻害して長時間正極活物質である空気が正極に到達できない状況が続いてしまう。
本実施形態にかかる空気電池10では、保護シート20の表面に付着した水分は、空気孔7にまでは到達せず、保護シート20の表面から水分がなく無くなると直ちに、保護シート20を介して正極1に空気が供給され、空気電池10からの電力供給を再開することができる。
なお、保護シート20の表面に水分が付着しても、短時間であれば、電池内に残存している空気により電力を供給することは可能である。また、保護シート20の表面に付着した水分の面積が小さければ、水滴に覆われていない部分から保護シート20の内部の空孔を通じて外装体の空気孔に空気を供給することも可能である。
従って、本実施形態にかかる空気電池をデバイスの動作電源とすることにより、前記デバイスを身体に装着したまま入浴したり、シャワーを浴びたりしても、デバイスを作動させ続けることができると考えられる。
[デバイス]
次に、上記実施形態にかかる空気電池10を、動作電源として備えたデバイス100について説明する。
図3は、本実施形態にかかるデバイスの構成を説明するための断面構成図である。
本実施形態で説明するデバイスは、例えば、被装着者の体温を検出する医療用パッチであり、直接皮膚に貼り付けて使用するものである。
図3に示すように、本実施形態にかかるデバイス100は、上記説明したシート状の空気電池10と、駆動回路部30と、被装着者の皮膚に接触する機能素子40と、デバイス100の機能素子40側の表面に形成された接着層50とを備えている。
空気電池10は、上述のように、正極1と負極2とを含む発電要素をはじめとする各部材をシート状に形成することで全体として可撓性を有するシート状に構成されている。本実施形態にかかるデバイス100では、空気電池10の正極1側の外装体6が、デバイス100の機能素子30が配置されている下側とは反対側の上側の表面に配置されている。このようにすることで、デバイス100を被装着者が装着した状態で、正極1に正極活物質である空気を供給するための外装体6に形成されている空気孔7が外側に位置し、通気性を有する保護シート20で覆われた状態で、正極1空気が供給される。このため、例えばシート状空気電池をデバイス全体の外殻を構成する外殻部材の内部に配置した場合などと比較して、外殻部材が不要となることに加えて、空気電池の空気孔とデバイスの外部とを連通する開口などを外殻部材に形成する必要が無く、デバイス全体を簡易な構成とすることができ、デバイスの小型軽量化と、低コスト化とを実現できる。
また、本実施形態に示すデバイス100では、駆動回路部30に空気電池10を積層する構成としているため、デバイス100の面積に対する空気電池10の面積の比率を100%に近づけることができる。このため、空気電池10と駆動回路部30とを並べて配置する場合と比較して、デバイス100の面積が同じ場合では空気電池10の面積をより大きくすることができ、電池容量の大容量化を実現できる。また、空気電池10の面積が同じ場合であれば、デバイス100の面積を小さくすることができる。
さらに、本実施形態にかかるデバイス100では、機能素子40として、たとえば被装着者の体温を検出するためのセンサプレートなどの、薄板、または、薄膜などで構成された厚さの薄い部材を備えている。このため、機能素子40を駆動回路部30と積層して配置することができる。
このように、機能素子40を駆動回路部30と積層配置することによって、駆動回路部30の面積をデバイス100の面積全体まで広げることができるため、駆動回路部30における各種回路部品の配置位置における設計裕度が広がり、例えば接続配線を短くしたり太くしたりすることで抵抗値成分を減らして、より低消費電力で動作する駆動回路部20を実現することができる。また、アンテナ素子を備える場合には、面積を大きくしてアンテナ特性を向上することや、比較的面積が大きくてもより厚さの薄い回路部品を選択するなどして、駆動回路部30、ひいては、デバイス100全体の薄型化を実現できる。
また、機能素子40を駆動回路部30と積層して配置する構成であるため、センサプレートである機能素子40を、平面視したときにデバイス100の略中心部に配置することができる。このようにすることで、機能素子40の周囲に接着層50を形成することができるため、接着層50の接着剤によってデバイス100をしっかりと皮膚に装着することができ、被装着者の動きや発汗、デバイス100の装着部分に水がかかってしまった場合などでも、センサプレートである機能素子40が被装着者の皮膚に密着した状態を維持することができる。
[駆動回路部]
駆動回路部30は、例えばフィルム基板上に銅などの金属薄膜で形成された配線と、メモリ、プロセッサ、送受信回路などとして機能する薄膜チップ化された、1つ、または複数の電子回路、外部との通信のために用いられる金属薄膜で形成されたアンテナ素子など、既知の薄膜電子回路部品として実現できる。なお、図面が煩雑となることを回避するため、駆動回路部30における各構成要素部材の図示は省略する。
駆動回路部30の機能は、当然ながらデバイス100の目的に沿うように設計されていて、例えば、被装着者の体温を測定する場合には、後述する機能素子40であるセンサプレートの温度を、例えばセンサプレートを流れる電流値の変化などで検出するとともに、測定された体温の数値を、連携するスマートフォンなどの外部の機器からの制御信号によって、または、駆動回路部30自体が備えるロジック回路による制御にしたがって、アンテナ素子から外部機器へと送信する。
また、機能素子が薬液を被装着者に注射するユニットである場合には、駆動回路部30自体が備えるタイマー機能によって、または、外部機器からの操作信号にしたがって、所定の時間に、被験者の皮膚から所定量の薬液が注射されるように制御する。
なお、駆動回路部30における、空気電池10の接続電極9の配置位置に積層される部分には、空気電池10からの電力を駆動回路部30に伝達するための電源端子31が形成されていて、電源端子31と各種の薄膜電子回路部品との間を接続する配線によって空気電池10からの電力が電子回路部品に供給される。
[機能素子]
図3に示す機能素子40は、薄膜、または、薄板状のセンサプレートであり、被装着者の皮膚に直接触れることで、体温や脈拍、呼吸数などの生体情報を検知可能な部材である。
機能素子40は、デバイス100の目的とする機能を果たす限りにおいて、例えば金属箔、樹脂膜の表面に金属やカーボン等の導電性部材を等形成したもの、または、駆動回路部30を構成する樹脂製基板の空気電池10が積層される側の面とは異なる面に形成された薄膜など、各種の形態で実現できる。機能素子40と駆動回路部30との間は、駆動回路部30を構成する電気回路部品の少なくとも一部の突出部分に直接接触して、または、駆動回路部30の機能素子40が配置される面に形成された配線等の導電手段を介して接続される。
なお、図示は省略するが、機能素子として、小型の注射針と被装着者に注射する薬液が収容された薬液容器、さらに、薬液容器から子予定量の薬液を押し出すポンプユニットを備えた構成とすれば、所定の時間に被装着者に対して注射する医療用デバイスを実現することができる。
このような場合は、図3示したデバイスの場合と比較して、機能素子40の厚みが厚くなるため、機能素子と駆動回路とを積層する構成とすると、デバイスの厚さが厚くなってしまって、皮膚への装着が困難になったり、被装着者に強い違和感を与えたりする原因となることが懸念される。このような場合は、機能素子と駆動回路部とを積層せずに横に並べて配置する構成として、デバイスとしての厚さが厚くなることを防止することができる。
なお、この場合にも、機能素子と駆動回路部とを並べた構成全体を覆うように、シート状の空気電池10を積層配置することで、空気電池10の面積を大きく維持して電池容量を確保することができる。また、空気電池10の正極1側の外装体6を、駆動回路部30や機能素子40の配置されている側とは反対の側に配置することで、正極活物質である空気を容易に取得できる構成とすることができ、空気孔7の配置位置を保護シート20で覆った構成とすることができる。
また、さらに機能素子の厚みが厚い場合には、機能素子と、駆動回路部および空気電池10との積層体とを横に並べた構成とすることができる。この場合においても、空気電池10の正極1側の外装体6を、駆動回路部30が配置されている側とは反対の側に配置することは言うまでもない。
なお、機能素子の配置されていない領域の空気電池10と駆動回路部30との下方側の表面には、以下に述べる接着層50を形成して、デバイス100を容易に被装着者の皮膚に貼着できる構成とすることができる。
[接着層]
本実施形態にかかるデバイスでは、図3に示すように、駆動回路部30の内の機能素子40が配置されていない部分に接着層50が設けられている。
接着層50は、直接皮膚に接触するものであるため、一定以上の時間貼着していてもかぶれなどが生じないことが確認された医療用として認証された接着剤で形成されている。
なお、接着層50は、大きさや厚さ、重量などのデバイス100の諸元と、デバイス100が装着されることが想定される人体の部分の可動性との両面から、その接着力が検討されて、材料の選択と、形成場所とその面積が決定される。
以上のように、本実施形態に示すデバイス100は、被装着者の皮膚に直接接触する機能素子40と、駆動回路部30と、シート状の空気電池10とが積層して構成されているため、デバイス100としての面積の小型が実現でき、特に、パッチタイプ、絆創膏タイプの医療用デバイスとして、被装着者の各種の身体データを取得することができる。また、空気電池10の正極1側の外装体6に空気孔7を設ける構成としているため、空気電池10をデバイスの100の外殻を構成する部材の内部に配置して、デバイスの外殻に形成された開口と空気電池10の外装体6に形成された空気孔7とを空間的に接続する部材が不要となり、デバイスとしての小型軽量化が実現できる。
また、駆動回路30の動作電源として、本願で開示する外装体6の空気孔7の表面を覆う保護シート20を備えた空気電池10を用いているため、デバイスの小型軽量化が可能な構成でありながらも、デバイス100表面の水が、空気穴7に侵入して留まってしまうという事態を回避できる。このため、例えば被装着者が、デバイスを装着した状態で入浴するような場合であっても、デバイス100表面の水分が無くなると比較的短時間で、空気電池10からの電力の供給を再開することができる。
[別の構成のデバイス]
次に、本実施形態のデバイスの別の構成例として、空気電池が備える保護シートがデバイスの外殻部材の一部を構成する場合の例を説明する。
図4は、本実施形態にかかるデバイスの別の構成例の構成を説明するための断面構成図である。
また、図5は、本実施形態にかかるデバイスの別の構成例を説明するための上面図である。
なお図4は、図5中のB-B’矢示線方向から見た断面構成を示している。
図4、図5に示した別の構成のデバイス200は、図3に示したデバイス100と比較して、デバイスの主面方向である図中左右方向に張り出した外殻部材120を有している。
外殻部材120は、一例としてポリエチレン(PE)などの樹脂製のシート状部材であって、空気電池10の保護シート20として使用できるだけの通気性と撥水性とを備えている。
この別の構成例のデバイス200のように構成することで、デバイス200の上面全体を覆う外殻部材120によって、デバイス200全体の強度を向上させるとともに、空気電池10への空気の供給を確保し、さらに、駆動回路部30や、機能素子40に対しての防水性能を発揮することができる。
なお、図4、図5に示すように、駆動回路部30の大きさよりも大きな外殻部材120を備えることで、駆動回路部30の表面のみならず外殻部材120の表面に渡って接着層50を拡張して形成できるため、デバイス200の装着力も向上することとなる。
なお、図4、および、図5では、デバイス200の表面全面を覆う一体ものとして形成された外殻部材120を備えた例を説明したが、外殻部材120のうち、空気電池10の外装体6における空気孔7の配置部分のみを、上述の保護シート20と同様の撥水性と通気性とを備えた部材で構成して、他の部分は、別の部材で構成することができる。特に、図4、図5に示した構成の外殻部材において、通気性が必要なのは空気電池10の空気孔7から空気が取り込まれるようにするためであり、デバイス200の他の構成要素を覆う部分では、特に通気性は必要とされない。
このため、図3のデバイス100において保護シート20で覆われている部分以外を、撥水性のみを有する部材で構成することや、保護シート20で覆われている部分以外は、保護シート20に求められるような、高い撥水性や通気性を有していない部材で形成することで、デバイス200の外殻部材120をより低コストで実現できる可能性がある。
[空気電池の別の構成例]
図6は、本実施形態で説明した空気電池についての、別の構成例を示す断面図である。
図6で示す空気電池300は、図1に示したシート状の空気電池ではなく、コイン型(またはボタン型)として知られる少し厚みを持った空気電池である。
本実施形態にかかる空気電池においては、その動作状態において、正極に空気を取り込む空気孔の表面を覆う、撥水性と通気性とを備えた保護シートが備えられていれば、図6に示すコイン型の空気電池としても実現することができる。
図6に示すように、本実施形態の別の構成の空気電池300において、空気電池内部の構成は従来公知のものであり、正極触媒層(正極)310と、負極320と、セパレータ330と、集電体340とが積層して構成されている。なお、電解液の図示は省略する。また、正極触媒層310の表面側(図中下側)には、撥水膜350と拡散紙360とが積層形成されていて、金属プレートとしての正極(+)端子301に形成された空気孔370から入った空気を、正極触媒層310のより広い面積に正極活物質である空気中の酸素が供給されるようになっている。空気電池300の側面までを構成する金属製の正極端子301と絶縁性のガスケット380を介して、図中の上面側には負極(-)端子が形成されている。
本実施形態の別の構成の空気電池300では、正極端子301の表面に、撥水性と通気性とを備えた保護シート400が形成されていて、正極端子301に形成された空気孔370の表面を覆っている。
このように構成することで、本実施形態の別の構成の空気電池300においても、空気電池の正極端子301側の表面に水がかかった場合でも、保護シート400の撥水性によって空気孔370に水分が侵入することを防止することができ、水分が取り除かれると短時間で電力供給の再開が可能となる。
なお、図1、図2に示したシート状の空気電池100よりは厚みが厚く、また、電池自体には可撓性はないが、図6に示すコイン型空気電池300は、厚みも3~5mm程度以下と比較的薄く構成でき、重量も数gと従来からのマンガン電池としてのコイン型電池と略同等にできるため、特許文献3として示した従来技術でのように、絆創膏型の測定デバイスなどの動作電源として採用することができる。このとき、正極301に空気を取り込むために、外側に配置される正極301の表面に保護シート400を備えることで、デバイスが水に濡れた場合でも、空気孔370への水分の侵入が防げるため、表面から水分が除去されると短時間で電力の供給が再開できる空気電池を実現することができる。
また、このような保護シート400を備えたコイン型の空気電池300を動作電源として備えたデバイスを実現することができる。
以上のように、本実施形態で示す空気電池は、正極に正極活物質を供給するために形成されている空気孔の表面を、撥水性と通気性とを備えた保護シートで被覆されている。このため、空気電池の表面に水がかかった場合でも、保護シートによって空気孔内に水が浸入することを防止できる。このため、水が除去されると、再び正極に空気が供給され、空気電池からの電力の供給が再開される。
また、本実施形態で示すデバイスは、上記した本実施形態にかかる空気電池を動作電源としているため、デバイスの表面が水で覆われる事態となった場合でも、水が除去されるとすぐに空気電池からの電力供給が再開されるため、デバイスの動作が長時間停止してしまうという事態を回避することができる。
なお上記実施形態の説明において、空気電池の外装体としてアルミ箔などの金属薄膜を積層した樹脂フィルムを用いる例を示した。このようにすることで、外装体の内部に封入される電解液の漏れをより確実に防ぐことができるが、駆動回路部に積層して配置された外装体を樹脂フィルムと金属薄膜の積層体として形成した場合には、駆動回路部に形成されるアンテナ素子をシールドしてしまい、駆動回路部と外部の機器との通信を妨げる恐れがある。
このため、駆動回路部のアンテナ素子の上には、外装体の金属薄膜などの金属成分が配置されないよう、外装体およびリードの形状や配置を調整し、外部との通信を妨げないようにすることが好ましい。
たとえば、駆動回路部のアンテナ素子部分を他の回路部分とは離して配置して、空気電池の外装体の少なくとも金属箔が形成されている部分以外に設けたり、外装体に切り欠きを設けることにより、アンテナ素子部分を露出させたりすることなどによって電波がシールドされないようにしたりすることができる。さらに、駆動回路部と外部機器との間の通信手段が赤外線通信である場合には、空気電池の外装体の一部を透明にして、赤外線が透過できる構成とすることが好ましい。
また、以上の説明では省略したが、本願で開示する空気電池では、デバイスを動作させる前の状態では、空気電池の空気孔から空気が侵入しないように保護シートごと空気孔を覆うカバー部材が用いられる。
さらに、本願で開示するデバイスの場合は、被装着者に装着する前の状態で接着層の表面を覆う剥離シートが用いられる。
なお、本願で開示するデバイスにおいて、機能素子の配置側に接着層を形成することは必須の要件ではなく、例えばデバイスを腕時計のようなベルト状部材、または、空気電池の空気孔部分に開口部が形成されたテープ状部材などによって、被装着者の身体の所定部分に装着することができる。