JP7015976B2 - レーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末 - Google Patents
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Description
この金属AMのうち、レーザーを用いたSLM(セレクティブレーザーメルティング)法では、レーザー光として、ファイバーレーザーなど近赤外波長のレーザー光を用いている。適用する金属材料としては、これまで、主にレーザーの吸収率が良好であるマルエージング鋼、ステンレス鋼(SUS)、チタン(Ti)などが用いられている。
また、以下の特許文献2に記載のように、CrとSiの少なくともいずれかを所定量含有させた銅合金粉末をアトマイズ法などにより作製し、この銅合金粉末にレーザーを照射し、溶融結合することで相対密度の高い積層造形物を製造する技術が開示されている。
しかしながら、先の特許文献1に記載の銅合金粉末を用いる技術においては、酸化被膜の形成によって積層造形物中の酸素濃度が上がり、それに伴って銅合金粉末の熱伝導率が低下する問題を有していた。
また、特許文献2では銅合金粉末にCrやSiを添加するとレーザー光の吸収率がどのような影響を受けるのか記載されていない。その上、CrやSiを添加すると銅の電気伝導率や熱伝導率を低下させるおそれがあり、積層造形を用いた熱交換部材などへの適用時に、熱交換特性を低下させるおそれがある。
(2)本発明の一形態に係るレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末において、Bを0.011質量%以上4.67質量%以下含有し、1064nm波長のレーザーに対してレーザー吸収率が16%~27%であることが好ましい。
(3)本発明の一形態に係るレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末において、平均粒子径が32μm以上60μm以下であることが好ましい。
(5)本発明の一形態に係るレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末において、平均粒子径が40μm以上50μm以下であることが好ましい。
このため、本発明の一形態に係る金属積層造形用銅合金粉末を用いることにより、近赤外波長のレーザー光で発熱させて積層造形を行う場合に有効な金属積層造形用銅合金粉末を提供できる。
本発明に係る第1実施形態の銅合金粉末は、B(ホウ素)とS(硫黄)の1種又は2種を0.003質量%以上5.0質量%以下含有し、残部不可避不純物とCu(銅)からなる銅合金粉末である。
銅合金粉末のBとSの含有量について、BとSの1種又は2種を0.003質量%以上5.0質量%以下含有することで、1000nm近傍の近赤外波長領域でのレーザー光を用いた場合に15%以上の優れたレーザー吸収率を得ることができる銅合金粉末を提供できる。添加元素量が0.003質量未満では、十分なレーザー吸収率が得られない。添加元素量が5.0質量%を超えると銅合金粉末を製造するためのインゴットを製造する場合の溶解鋳造時に偏析や割れが発生し、均一なインゴットを作製できない問題がある。銅合金粉末製造用のインゴットに添加元素が均一に分散されていない場合、目的の組成の銅合金粉末を得ることができなくなる。
銅合金粉末におけるS含有量について、0.005質量%以上4.6質量%の範囲を選択することができ、20%以上のレーザー吸収率を得るためには0.02質量%以上4.6質量%の範囲を選択することが好ましい。ただし、レーザー吸収率はSを1質量%を超える量含有させても殆ど向上しないため、純銅に比べてレーザー吸収率に優れた上に、製造コストの面から見て、Sの含有量を0.02質量%以上1.0質量%以下程度含有させることが望ましい。
このため、Cuに対しSの添加とBの添加は共存できる同等の作用効果と考えられ、Cuに対しSとBを両方添加してレーザー吸収率を向上させることができる。
本実施形態の銅合金粉末において、平均粒子径(50%メディアン径)として20μm以上80μm以下の範囲を選択できる。この範囲内であっても、30μm以上60μmの範囲を選択することができる。
銅合金粉末の平均粒径が20μm未満では、銅合金粉末粒子の凝集を生じやすくなり粉末としての流動度が低下するおそれがある。銅合金粉末としての流動度が損なわれると、積層造形機を用いて積層造形を行う場合に粉末床に対する銅合金粉末の供給に支障を来すおそれがある。銅合金粉末の平均粒径が80μmを超えると、積層造形時に形成する粉末床の1層あたりの厚みが増加してしまい、造形精度が低下するおそれがあるため、金属積層造形用として不適となるおそれがある。
このため、金属粉の薄膜層にレーザー光を照射した場合に照射部分の金属粉が素早く加熱溶融することが要求される。従って、上述のようなレーザー吸収率の高い銅合金粉末であれば、効率良く加熱溶融させて積層造形することができ、積層造形用として好適な粉末となる。
不可避不純物については、その濃度を低くすることで電気伝導率や熱伝導率の特性が向上することになる。一方、不可避不純物の濃度を必要以上に低減しようとすると、製造プロセスが複雑となって製造コストが大幅に上昇してしまう。そこで、本実施形態では、ガス成分(C,N、O)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上50質量ppm以下の範囲内に、ガス成分(C,N,O)の濃度を総計で10質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内に設定している。
ガス成分(C,N、O)を除く不可避不純物の濃度を総計で5質量ppm以上50質量ppm以下の範囲内に、ガス成分(C,N,O)の濃度を総計で10質量ppm以上10000質量ppm以下の範囲内とするために、原料としては、純度99~99.9999質量%の高純度銅や無酸素銅(C10100,C10200)を用いることができる なお、製造コストの上昇を確実に抑制するためには、ガス成分(C,N、O)を除く不可避不純物の下限を10質量ppm以上とすることが好ましく、15質量ppm以上とすることがさらに好ましい。一方、電気伝導率や熱伝導率を確実に向上させるためには、ガス成分(C,N、O)を除く不可避不純物の上限を45質量ppm以下とすることが好ましく、40質量ppm以下とすることがさらに好ましい。
本実施形態において銅合金インゴットを製造する方法は、一例として、純度99.99質量%以上99.9999質量%未満の高純度銅及びCu-SもしくCu-Bの母合金を原料として用いて、表記載の組成となるように調整した。また、SもしくはBについては、純度99.9質量%以上のSもしくはBと純度99.9質量%の純銅とから各々の元素の母合金を作成し、その母合金を用いて調整した。
「銅合金粉末の製造方法」
本実施形態の銅合金粉末の製造方法は、一例として、銅合金の溶湯を高速で空間に滴下し、高圧ガス噴霧により球に類似する形状などの銅合金粉末を得る手法として知られているガスアトマイズ法によって製造することができる。
分級工程には、篩分法や重力分級、遠心分級などを利用することが出来る。
銅合金粉末のレーザー光吸収率の測定には、一例として、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「紫外可視近赤外分光光度計U-4100」を用いて測定することができる。
一般的にレーザー式金属積層造形機に広く用いられるファイバーレーザーの波長である1064nmにおけるレーザー光吸収率を比較し、銅合金粉末のレーザー光吸収率の特性向上を評価することができる。
なお、レーザー光吸収率は、測定によって求められる全反射率を用いて、吸収率=「1-全反射率」にて算出することができる。
また、レーザー光吸収率の測定に際しては、レーザー光の吸収率に及ぼす粉末粒度の影響を抑えるため、得られた銅合金粉末を直径30mm、高さ5mm程度の成形体に加工することで、測定用のサンプルとした。成形体の作成は、粉末成形法により、直径30mmの円筒金型を用いて、500MPa程度で加圧成形することで得た。
銅合金粉末の平均粒子径(メディアン径:50%粒子径)の測定には、一例として、マイクロトラック・ベル株式会社製の「MT3300EXII」を用いることができ、レーザー回折・散乱法にて平均粒子径の測定を行うことができる。
銅合金粉末の流動度の測定は、JIS Z-2502に準拠し、銅合金粉末50gがオリフィスから落下するまでの時間を測定し、評価した。
更に、上述の如く20~80μmの平均粒径を有する銅合金粉末であるならば、一般的なレーザー積層造型機において一般的に用いられる1層あたりの粉末積層厚さに対し十分に小さい径としているので、均一な粉末積層が可能であり、造形不良を引き起こすことなく積層造形ができる。
また、前述の銅合金粉末であるならば、BとSを好適な含有量としているため、電気伝導率の低下を最小限に抑えることが可能であり、積層造形容易性を備えた上に電気伝導性と熱伝導性の両立を実現できる。
「合金元素の測定」
得られた各種組成の銅合金インゴットについて高周波誘導プラズマ発光分光分析法及びガス成分分析法(NDIR、TCD)を用いて合金元素の濃度測定を行った。また、ガスアトマイズ法により得られた各種組成の銅合金粉末について高周波誘導プラズマ発光分光分析法及びガス成分分析法(NDIR、TCD)を用いて合金元素の濃度測定を行った。
各組成の粉末成形体に対し、株式会社日立ハイテクサイエンス社製の「紫外可視近赤外分光光度計U-4100」を用いてレーザー光吸収率を測定した。
レーザー光の波長は一般的にレーザー式金属積層造形機に広く用いられるファイバーレーザーの波長である1064nmに設定した。
なお、ここで測定したレーザー光吸収率は、測定によって求められる全反射率を用いて、吸収率=「1-全反射率」にて算出した。
「平均粒径(メディアン径)」
得られた銅合金粉末試料の平均粒径(メディアン径:50%粒子径)はマイクロトラック・ベル株式会社製の「MT3300EXII」を用い、レーザー回折・散乱法にて測定した。
各種組成の銅合金インゴットを板状に圧延し、切断して板状の試料を作製し、各試料について、JIS C2525に準拠し、4端子法により導電率(%IACS)を測定した。
「流動度」
得られた分級後の各種銅合金粉末を用い、JIS Z2502に準拠する流動度(sec/50g)を測定した。
以上の測定結果をまとめて以下の表1、表2、表3に示す。
Cuに対し0.005~4.53質量% のSを含有させた銅合金からなる実施例1~9のインゴットは問題無く作成可能であったが、Sを5.26質量%含有させた銅合金からなる比較例3のインゴットは鋳造後に圧延した際にわずかな加工で大きな割れが発生し、偏析が確認されたため、評価をそこで中断した。
参考例1~9のインゴットの導電率は91.9~98.2%IACSを示す良好な導電率を示した。
比較例2の試料はS含有量が0.001質量%であり、S含有量が少ないため、1064nm波長のレーザーに対するレーザー吸収率が9.1%であり、低い結果となった。
比較例4の試料はSの添加量が望ましい範囲、導電率に優れ、レーザー吸収率にも優れているが、平均粒径が12μmであり、粒径が小さすぎるため、流動度の値が大きくなりすぎた。
JISZ2502に準拠する流動度は、規定のオリフィスから測定対象の粉末が流出するのに要する時間を示すため、流動度の値が大きいことは、粉末の流動度が悪いことを意味する。このように微細径の銅合金粉末の流動性が悪いのは、粉末同士が凝集して大きな粒径の凝集粒子となる結果、流動性を損なったと解釈できる。
比較例5の試料はSの添加量が望ましい範囲、導電率に優れ、レーザー吸収率にも優れているが、平均粒径が90μmであり、粒径が大きすぎるため、積層造形用原料としては、充填密度の低下や造形品の精度低下に繋がるため不適である。
図1から、Cuに対するS含有量として、0.005質量%以上を選択すると、優れたレーザー吸収率を得られることがわかる。
以上説明の結果から、Sを0.003質量%以上5.0質量%以下含有し、残部不可避不純物とCuとした銅合金粉末にあっては、優れた導電率とレーザー吸収率を示すことが明らかとなった。また、この銅合金粉末において、平均粒径を20~80μmの範囲とするならば、流動性に優れる。このため、参考例1~9の銅合金粉末は、積層造形用として好適な銅合金粉末であることがわかった。
Cuに対し0.005~4.65質量%のBを含有させた銅合金からなる実施例10~18の溶解インゴットは偏析無く作成可能であったが、Bを5.11質量%含有させた銅合金からなる比較例8のインゴットは鋳造後に圧延した際にわずかな加工で大きな割れが発生し、偏析が確認されたため、評価をそこで中断した。
実施例10~18の溶解インゴットの導電率は86.5~98.1%IACSを示す良好な導電率を示した。
実施例10~18のインゴットから得られた銅合金粉末のレーザー吸収率は16.9%~26.7%の範囲の優れた値を示した。また、実施例10~18は、平均粒径32~60μmの範囲であり、流動度が19~25sec/50gの範囲であり良好な流動度を示した。
比較例7の試料はB含有量が0.001質量%であり、B含有量が少ないため、レーザー吸収率が9.7%であり、低い結果となった。
比較例9の試料はBの添加量が望ましい範囲、導電率に優れ、レーザー吸収率にも優れているが、平均粒径が16μmであり、粒径が小さすぎるため、流動度の値が大きくなりすぎた。流動度は規定のオリフィスから測定対象の粉末が流出するのに要する時間を示すため、流動度の値が大きいことは、粉末の流動度が悪いことを意味する。
図2から、Cuに対するB含有量として、0.005質量%以上を選択すると、優れたレーザー吸収率を得られることがわかる。
以上説明の結果から、Bを0.003質量%以上5.0質量%以下含有し、残部不可避不純物とCuとした銅合金粉末にあっては、優れた導電率とレーザー吸収率を示すことが明らかとなった。また、この銅合金粉末において、平均粒径を20~80μmの範囲とするならば、流動性に優れる。このため、実施例10~18の銅合金粉末は、積層造形用として好適な銅合金粉末であることがわかった。
Cuに対し0.02~2.20質量%のS及びBを含有させた銅合金からなる実施例19~23の溶解インゴットは偏析無く作成可能であったが、S及びBを各3.0質量%含有させた銅合金からなる比較例11のインゴットは鋳造後に圧延した際にわずかな加工で大きな割れが発生し、偏析が確認されたため、評価をそこで中断した。
実施例19~23のインゴットの導電率は90.5~97.9%IACSを示す良好な導電率を示した。また、これら実施例19~23のインゴットのレーザー吸収率は18.9%~31.5%の範囲の優れた値を示した。
実施例19~23のインゴットから得られた銅合金粉末は、平均粒径40~50μmの範囲であり、流動度が19~25sec/50gの範囲であり良好な流動度を示した。
表3に示す実施例19~23の試料と比較例10の試料が示すレーザー吸収率のSとBの合計含有量依存性を図3に示す。
図3から、Cuに対するSとBの合計含有量として、0.005質量%以上を選択すると、優れたレーザー吸収率を得られることがわかる。
Claims (5)
- Bを0.003質量% 以上5.0質量%以下含有し、残部不可避不純物とCuからなり、平均粒子径が20μm以上80μm以下であり、1064nm波長のレーザーに対して15%以上のレーザー吸収率を有することを特徴とするレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末。
- Bを0.011質量%以上4.67質量%以下含有し、1064nm波長のレーザーに対してレーザー吸収率が16%~27%であることを特徴とする請求項1に記載のレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末。
- 平均粒子径が32μm以上60μm以下であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末。
- BとSの2種を合計で0.006質量%以上2.25質量%以下含有し、残部不可避不純物とCuからなり、平均粒子径が20μm以上80μm以下であり、1064nm波長のレーザーに対して18.9%以上のレーザー吸収率を有することを特徴とするレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末。
- 平均粒子径が40μm以上50μm以下であることを特徴とする請求項4に記載のレーザー吸収率に優れた金属積層造形用銅合金粉末。
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