以下、実施形態の可変速の多相電動機駆動装置を、図面を参照して説明する。なお、以下の説明では、可変速の多相電動機駆動装置を単に多相電動機駆動装置とよぶ。また、同一または類似の機能を有する構成に同一の符号を付す。そして、それらの構成の重複する説明は省略する場合がある。なお、電気的に接続されることを、単に「接続される」ということがある。以下の説明に示す「基本波」とは、多相電動機の回転周波数に同期した信号成分の中で、周波数が最も低い成分をいう。また、「2n+1次高調波成分」とは、基本波の周波数に対する高調波成分であって、特に指定がなければ電流、電圧、電力の中の何れかに含まれる奇数の1又は複数の次数の高調波成分のことである。なお、座標変換に係る座標系として直交座標系を例示するが、これに制限されることはなく2つの軸の成分を独立に扱える2つの軸を有する座標系に代えてもよい。なお、「大きさが等しい」場合には、略等しい場合も含む。
(第1の実施形態)
図1Aは、実施形態の多相電動機駆動装置の構成図である。
図1Aには、多相電動機1と、多相電動機駆動装置2と、速度制御装置3と、回転角度検出器4(PS)とが示されている。
多相電動機駆動装置2は、単相インバータ21、22、・・・、2Mを備える。多相電動機駆動装置2は、単相インバータ21、22、・・・、2Mを夫々稼働させることにより多相電動機1を駆動する。
多相電動機1は、各相に対応する複数個の巻線(不図示)を備えており、各巻線の相互間が電気的に絶縁されている。各巻線は、単相インバータ21、22、・・・、2Mの出力に夫々接続されている。多相電動機1は、単相インバータ21、22、・・・、2Mから交流電力が各巻線に供給されることによって駆動する。以下、多相電動機1の界磁が永久磁石型であるものを例示して説明するが、これに代えて電磁石型であってもよく、その場合には励磁の磁極方向を永久磁石型の磁石方向に置き換えるとよい。多相電動機1の軸には、回転角度検出器4が取り付けられている。回転角度検出器4の出力は、速度制御装置3の入力に接続されている。回転角度検出器4は、多相電動機1の軸の機械角を検出し、検出結果である機械角を速度制御装置3に供給する。
速度制御装置3は、各単相インバータ21、22、・・・、2Mに共通に設けられ、図示されない上位制御装置から送信される速度指令を受ける。この速度指令は、時間的に変化するものであってよい。速度制御装置3は、基本波電流指令ICOMを各単相インバータ21、22、・・・、2Mに送る。各単相インバータ21、22、・・・、2Mは、基本波電流指令ICOMに応じた交流電流を多相電動機1の巻線に流す。Mは、例えば2以上の自然数である。
速度制御装置3は、例えば、速度検出回路31(d/dt)と、減算器32と、速度制御器33(PI)と、電気角演算回路34と、電流位相演算回路35とを備える。速度検出回路31の入力には、回転角度検出器4から出力される機械角が供給される。速度検出回路31は、回転角度検出器4から供給される機械角を微分することによって実速度を導出する。減算器32の第1入力には、外部から上記の速度指令が供給され、第2入力に速度検出回路31の出力が接続され、出力に速度制御器33の入力が接続されている。減算器32は、第1入力に供給される速度指令と、第2入力に速度検出回路31から供給される実速度との速度偏差を求め、その速度偏差を速度制御器33に供給する。速度制御器33は、比例積分制御などにより、その速度偏差を使用し、速度検出回路31の出力信号が外部からの速度指令に追従するように基本波電流指令ICOMを導出する。電気角演算回路34の入力は、回転角度検出器4の出力に接続されている。電気角演算回路34は、多相電動機1の極数に基づいて機械角から電気角を導出する。電流位相演算回路35の入力は、速度制御器33の出力に接続されている。電流位相演算回路35は、基本波電流指令ICOMに基づいて、基本波電流指令ICOMとそのトルク成分の何れかに応じた多相電動機1の巻線電流の電流進み角を導出する。速度制御器33の出力と、電気角演算回路34の出力と、電流位相演算回路35の出力は、各単相インバータ21、22、・・・、2Mの入力に夫々接続されている。上記のとおり、速度制御装置3は、多相電動機1の誘起電圧位相に対して電流進み角を調整することができる。
次に各単相インバータ21、22、・・・、2Mについて説明する。単相インバータ21、22、・・・、2Mの各入力には、速度制御器33からの基本波電流指令ICOMと、電気角演算回路34からの電気角と、電流位相演算回路35からの電流進み角とに関する情報が夫々供給される。単相インバータ21、22、・・・、2Mは、少なくとも上記の各情報に基づいて、互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機1の各巻線に交流電力を出力する。各単相インバータ21、22、・・・、2Mの基本的な構成は同一であるため、単相インバータ21を例示してこれについて説明する。単相インバータ21は、インバータ主回路5(インバータ部)と、制御部6とを備える。
インバータ主回路5は、例えば、複数のスイッチング素子を組み合わせたブリッジ回路で、直流電圧を交流に変換して、対応する多相電動機1の巻線に交流電力を供給する。インバータ主回路5は、制御により多相電動機1に対する交流電力の供給を調整する。例えば、インバータ主回路5の出力は、多相電動機1にケーブルを介して接続されている。インバータ主回路5と多相電動機1とを繋ぐ電路には電流検出器51が設けられている。電流検出器51は、インバータ主回路5と多相電動機1との間に流れる電流を検出し、その検出結果である実電流の値を制御部6に供給する。なお、以下の説明において、上記の実電流の値のことを、単に実電流ということがある。
制御部6は、基本波電流指令ICOMに基づいてインバータ主回路5が多相電動機1の巻線に流す電流を調整する。制御部6は、例えば、基本波電圧指令発生部60と、加算器65と、PWM回路66(PWM)と、高調波制御部91とを備える。なお、PWM回路66は、スイッチング制御部の一例である。
基本波電圧指令発生部60は、電流指令演算器61Aと、減算器62A、62Bと、D軸電流制御器63Aと、Q軸電流制御器63Bと、直交座標逆変換器64と、加算器69、71、72と、直交座標変換器67と、低域通過フィルタ68A、68B(LPF)と、相間位相差補正回路70と、余弦演算器73(cos)と、振幅演算器74と、乗算器75とを備える。
電流指令演算器61Aの入力は、速度制御装置3における速度制御器33の出力に接続されており、速度制御装置3から基本波電流指令ICOMが供給される。電流指令演算器61Aは、基本波電流指令ICOMに基づいてインバータ主回路5が巻線に流す電流の基準値を調整する。
例えば、電流指令演算器61Aは、速度制御装置3から供給された基本波電流指令ICOMを、電流進み角を基準に直交回転座標上に展開し、真D軸方向の成分と、これと直交する真Q軸方向の成分に分ける。真D軸方向の成分をD軸電流指令と定義して、真Q軸方向の成分をQ軸電流指令と定義する。
例えば、この基本波電流指令ICOMを、真Q軸から電流進み角分の位相の進んだ電流指令ベクトルと見做して、その電流指令ベクトルを真D軸と真Q軸に投影する。ここでは、多相電動機1の界磁極である永久磁石の磁束ベクトルの方向を真D軸、それと直交する界磁極による誘起電圧ベクトルの方向を真Q軸としている。この場合、多相電動機1の巻線に流す電流のベクトルの方向は真Q軸より電流進み角だけ位相を進めた方向になる。この位相関係を図2及び図3に示す。図2は、実施形態の多相電動機の誘起電圧と電流の位相関係を説明するための図である。図3は、実施形態の電流ベクトルの位相関係を説明するためのベクトル図である。図2は、(a)に誘起電圧波形を、(b)にその位相を、(c)に電流波形を、そして(d)に電流位相を示している。これにより、誘起電圧位相に対し、電流位相は電流進み角分だけ進んだ位相となっていることが分かる。これをDQ直交回転座標で表わすと図3が得られる。すなわち、Q軸電流と同相の誘起電圧に対し、電流指令ベクトルは電流進み角分だけ位相が進んでいる。尚、図3に示すベクトル図は、以下に説明するように指令通りに制御された実運転状態も示しているので、この場合電流指令ベクトルは、実電流も示す意味で単に電流ベクトルと呼称する。
電流指令演算器61Aの2つの出力は、夫々減算器62Aの第1入力と減算器62Bの第1入力とに夫々接続され、さらに夫々が振幅演算器74の入力に接続されている。電流指令演算器61Aは、D軸電流指令を減算器62Aの第1入力に供給し、Q軸電流指令を減算器62Bの第1入力に供給する。減算器62Aの第2入力は、低域通過フィルタ68Aの出力に接続されている。減算器62Bの第2入力は、低域通過フィルタ68Bの出力に接続されている。
低域通過フィルタ68A、68Bは、その入力が、直交座標変換器67の出力端子であるD軸出力とQ軸出力とに夫々接続され、その出力が、減算器62Aと減算器62Bの第2入力と、高調波制御部91の入力とに夫々接続されている。低域通過フィルタ68A、68Bは、直交座標変換器67のD軸出力とQ軸出力とから夫々出力される信号の低域成分を透過させる。
減算器62Aは、直交座標変換器67から低域通過フィルタ68Aを介して与えられるD軸電流を、電流指令演算器61Aから供給されるD軸電流指令から減算する。減算器62Bは、直交座標変換器67から低域通過フィルタ68Bを介して与えられるQ軸電流を、電流指令演算器61Aから供給されるQ軸電流指令から減算する。減算器62Aの出力は、D軸電流制御器63Aの入力に接続されている。減算器62Aは、その出力値をD軸電流制御器63Aの入力に供給する。減算器62Bの出力は、Q軸電流制御器63Bの入力に接続されている。減算器62Bは、その出力値をQ軸電流制御器63Bの入力に供給する。D軸電流制御器63Aは減算器62Aの出力信号を使用してD軸電流がD軸電流指令に追従する様に比例積分制御等により、D軸電圧指令を生成する。Q軸電流制御器63Bは減算器62Bの出力信号を使用してQ軸電流がQ軸電流指令に追従する様に比例積分制御等により、Q軸電圧指令を生成する。D軸電流制御器63Aの出力は、直交座標逆変換器64の入力端子であるD軸入力に接続されている。D軸電流制御器63Aは、D軸電圧指令を直交座標逆変換器64のD軸入力に供給する。Q軸電流制御器63Bの出力は、直交座標逆変換器64の入力端子であるQ軸入力に接続されている。Q軸電流制御器63Bは、Q軸電圧指令を直交座標逆変換器64のQ軸入力に供給する。直交座標逆変換器64は、D軸電流制御器63A及びQ軸電流制御器63Bから夫々供給されたD軸電圧指令及びQ軸電圧指令を、DQ位相θを基準位相として直交座標逆変換を行う。
上記のように構成された基本波電圧指令発生部60は、基本波電流指令ICOMに基づいて、多相電動機1の巻線に基本波電流を流すようにインバータ主回路5の出力電圧を制御するための基本波電圧指令を発生する。
加算器65の第1入力は、直交座標逆変換器64の出力Aに接続され、加算器65の第2入力は、高調波制御部91の出力に接続され、加算器65の出力がPWM回路66に接続されている。直交座標逆変換器64は、導出した主電圧指令を、加算器65を介してPWM回路66に供給する。なお、上記の場合、直交座標逆変換器64は、D軸電圧指令及びQ軸電圧指令に基づいて、直交固定座標系のA軸成分とB軸成分の各成分に変換する。上記の主電圧指令は、電流検出器51により検出された実電流と同位相になるA軸成分である。後述するように、直交座標変換器67は、DQ位相θを基準にして、そのA軸に供給される実電流を変換する。直交座標逆変換器64は、そのDQ位相θと同一の基準位相を用いて上記の逆変換をすることにより、A軸成分を上記の主電圧指令にする。
PWM回路66は、加算器65の出力値により、インバータ主回路5をPWM制御などによりスイッチングさせる。例えば、PWM回路66は、主電圧指令と三角波キャリアとの比較によるパルス幅変調を行ない、ゲートパルス信号を生成して、そのゲートパルス信号をインバータ主回路5に供給し、単相インバータ21の出力電圧を制御する。なお、上述した加算器65の第2入力には、高調波制御部91から合成高調波補正指令が供給される。これについての詳細は後述する。
ここで、直交座標変換について簡単に説明する。直交座標変換には、順変換であるDQ変換と逆変換である逆DQ変換の2つがある。
直交座標変換器67を例示してDQ変換について説明する。直交座標変換器67は、入力端子であるA軸入力とB軸入力と、出力端子であるD軸出力とQ軸出力と、基準位相入力とを有する。直交座標変換器67は、基準位相入力に供給されるDQ位相θを基準位相として、以下の式(1)と式(2)とによって直交固定座標から直交回転座標への座標変換(DQ変換)を行なう。なお、直交座標変換器67に関する詳細な説明は後述する。
D = Acosθ + Bsinθ ・・・(1)
Q = -Asinθ + Bcosθ ・・・(2)
直交座標逆変換器64を例示してDQ逆変換について説明する。直交座標逆変換器64は、入力端子であるD軸入力とQ軸入力出力端子であるA軸出力とB軸出力と、基準位相入力とを有する。直交座標逆変換器64は、基準位相入力に供給されるDQ位相θを基準位相として、以下の式(3)と式(4)によって直交回転座標から直交固定座標への座標変換(逆DQ変換)を行なう。なお、直交座標逆変換器64に関する詳細な説明は後述する。
A = Dcosθ - Qsinθ ・・・ (3)
B = Dsinθ + Qcosθ ・・・ (4)
例えば、DQ位相θを以下のように定める。
多相電動機1の各巻線が生成する磁束の軸は、多相電動機1の設計により定まる角度が設けられている。多相電動機1の各巻線の電気的な位相を対比すると、各巻線の電気的な位相には、上記の角度に対応する位相差が生じる。各巻線すなわち各相に供給する電流の位相を揃えるとすれば、各相に通電すべき電流の位相は、相毎にこの位相差分だけずらすことが必要である。
最初に、各相の基準位相(DQ位相θ)について説明する。例えば、相間位相差補正回路70は、上記のように定められた各相間の位相差に関する値を、相ごとに代えて供給する。相間位相差補正回路70の出力は、加算器69の第1入力に接続されている。相間位相差補正回路70は、加算器69の第1入力に当該相の位相差に関する補正位相を供給する。加算器69の第2入力には、速度制御装置3の電気角演算回路34の出力が接続され、加算器69の出力には、加算器71の第1入力が接続されている。加算器69は、速度制御装置3の電気角演算回路34から供給される電気角に対して、相間位相差補正回路70で定められた単相インバータ21特有の補正位相を加算して、誘起電圧位相を導出する。この誘起電圧位相を各部の処理に用いる基準の位相にする。なお、加算器71は、誘起電圧位相をπだけ進めた位相を生成し、それを基準のDQ位相θにする。これは一般的な3相インバータのDQ変換に用いる演算手法と符号を合わせるためである。上記により、各相のDQ位相θが生成される。
次に、直交座標変換器67について説明する。直交座標変換器67のA軸入力には、電流検出器51の出力が接続されており、電流検出器51によって検出された交流の電流量を示す値(実電流)が供給される。直交座標変換器67のB軸入力には、この実電流に対応する仮想の電流の値が供給される。直交座標変換器67は、A軸入力に供給される実電流の値と、B軸入力に供給される仮想の電流の値と、基準位相入力に供給されるDQ位相θに基づいて、DQ変換を実施する。
例えば、実電流の期待値に対応する仮想の電流を規定して、上記の実電流の期待値とDQ位相θとに基づいて、電流指令ベクトルを定義する。例えば、この電流指令ベクトルは、基本波電流指令ICOMの大きさと、DQ位相θに対する位相情報とによって特定される。この電流指令ベクトルと大きさが等しく、同電流指令ベクトルに直交する位相を有する仮想の電流を定義する。直交座標変換器67のB軸入力には、この仮想の電流の値が供給される。
例えば、加算器72の第1入力には、加算器71の出力が接続されており、加算器72からDQ位相θが供給されている。加算器72の第2入力には、電流位相演算回路35の出力が接続されており、電流位相演算回路35から電流進み角が供給されている。加算器72の出力には、余弦演算器73の入力が接続されている。加算器72は、加算器71から供給されるDQ位相θに対し、電流位相演算回路35から供給される電流進み角を加算して、その結果を余弦演算器73の入力に供給する。余弦演算器73は、電流進み角が加算されたDQ位相θの余弦(cos)を導出する。余弦演算器73の出力には、乗算器75の第1入力が接続されている。
振幅演算器74の第1入力と第2入力には、電流指令演算器61Aの2つの出力が夫々接続されており、振幅演算器74の出力には、乗算器75の第2入力が接続されている。振幅演算器74は、例えば、次の式(5)により電流指令演算器61Aから出力されるD軸電流指令及びQ軸電流指令から上記の仮想の基本波電流の基本波電流指令振幅を導出する。
乗算器75は、振幅演算器74によって導出された基本波電流指令振幅と、電流進み角が加算されたDQ位相θの余弦(cos)とを乗算して、仮想余弦波を生成し、その仮想余弦波を直交座標変換器67のB軸入力に供給する。仮想余弦波は、上記の仮想の電流の値に相当するものである。なお、仮想余弦波は、その振幅については基本波電流指令の大きさと等しく、且つ基本波電流指令のベクトルの位相と直交するものであればよい。即ち上位装置から入力される基本波電流指令ICOMを用いるなど他の演算手法により振幅を導出してもよい。或いは、仮想余弦波の位相については、実電流の基本波の位相の情報を用いる方法で生成されてもよい。
なお、理想的には実電流の振幅と位相を用いるとよいが、単相交流の電流値から振幅と位相の情報を抽出するには、相応の複雑な演算処理が必要になる。良好に制御できている定常状態であれば、上記の電流指令ベクトルによる方法で、その振幅と位相を利用することで代用できる。電流指令ベクトルを用いる方法は、上記の通り簡素な構成でありながら、上記の演算処理に必要な情報を提供できる。このようにして生成された仮想余弦波が、直交座標変換器67のB軸入力に供給される。
高調波制御部91は、その入力が、直交座標変換器67の2つの出力と、低域通過フィルタ68A、68Bの出力と、加算器71の出力とに夫々接続され、その出力が、加算器65の第2入力に接続されている。高調波制御部91は、基本波電流指令ICOMと、検出された実電流とに対応する奇数次高調波電圧指令を生成し、これに基づいた合成高調波補正指令を生成する。
図1Bを参照して、実施形態の高調波制御部91の一例について説明する。図1Bは、実施形態の高調波制御部91の構成図である。
高調波制御部91は、例えば、高調波電流指令生成器61Bと、高調波電圧生成器95と、位相角オフセット生成器93と、減算器76A、76Bと、加算器94とを備える。
高調波制御部91は、その入力が、直交座標変換器67の2つの出力と、低域通過フィルタ68A、68Bの出力と、速度制御器33の出力と、加算器71の出力とに夫々接続され、その出力が、加算器65の第2入力に接続されている。
減算器76Aの第1入力には、直交座標変換器67からD軸電流の値が供給され、減算器76Aの第2入力には、低域通過フィルタ68Aの出力が接続され、減算器76Aの出力が高調波電圧生成器95の第1入力に接続される。減算器76Bの第1入力には、直交座標変換器67からQ軸電流の値が供給され、減算器76Bの第2入力には、低域通過フィルタ68Bの出力が接続され、減算器76Bの出力が高調波電圧生成器95の第2入力に接続される。減算器76Aは、低域通過フィルタ68Aの入出力間の差分を導出し、少なくとも基本波を除き、奇数次高調波成分を抽出する。減算器76Bは、低域通過フィルタ68Bの入出力間の差分を導出し、少なくとも基本波を除き、奇数次高調波成分を抽出する。減算器76Aと減算器76Bは、上記の夫々の差分、すなわち夫々の奇数次高調波成分を、高調波電圧生成器95に夫々供給する。
高調波電流指令生成器61Bは、1つの入力と、複数の出力を備える。高調波電流指令生成器61Bの入力には、基本波電流指令ICOMが供給される。高調波電流指令生成器61Bは、基本波電流指令ICOMに基づいて、後述する高調波電圧生成器95の次数に対応させた奇数次高調波電流指令を生成し、これを高調波電圧生成器95に供給する。例えば、高調波電流指令生成器61Bは、3次の高調波に対する3次高調波電流指令ICOM3、5次の高調波に対する5次高調波電流指令ICOM5、2n+1次の高調波に対する2n+1次高調波電流指令ICOM2n+1などを生成し出力する。なお、nは任意の自然数である。これらを纏めて示す場合には、奇数次高調波電流指令という。奇数次高調波電流指令は、多相電動機1の巻線に所定の奇数次高調波電流(2n+1次高調波電流)を流すためのものである。高調波電流指令生成器61Bの一例を図5に示し、詳細については後述する。
位相角オフセット生成器93は、例えば、複数の出力を備える。基本波の位相に対する奇数次高調波電流成分の位相角は、多相電動機1の設計データ、或いは無負荷で多相電動機1を回転させたときの誘起電圧波形から位相角オフセット(高調波オフセット角)として求められる。位相角オフセット生成器93は、後述する高調波電圧生成器95の次数に対応させて、各次数の位相角オフセットを予め設定し、高調波電圧生成器95に供給する。例えば、位相角オフセット生成器93は、3次の高調波に対する3次高調波オフセット角θoffset3、5次の高調波に対する5次高調波オフセット角θoffset5、2n+1次の高調波に対する2n+1次高調波オフセット角θoffset2n+1などを生成し出力する。これらを纏めて示す場合には、位相角オフセットという。位相角オフセットの大きさは、次数に夫々対応させて決定される。
高調波電圧生成器95は、(3+2N)個の入力とN個の出力とを備える。(3+2N)個の入力のうちの3つの入力には、DQ位相θと、減算器76A、76Bの出力信号とが供給される。また、残りの2N個の入力には、高調波電流指令生成器61Bの出力信号と、位相角オフセット生成器93の出力信号とが供給される。例えば、Nは、次数が互いに異なる高調波の数に定める。
高調波電圧生成器95は、高調波生成器951、952、・・・、95Nを備える。例えば、高調波生成器951、952、・・・、95Nは、夫々3次、5次、・・・、2n+1次の高調波を生成するように割り付けられている。
高調波生成器951、952、・・・、95Nの入力は、減算器76A、76Bの出力と、高調波電流指令生成器61Bの出力と、位相角オフセット生成器93の出力と、加算器71の出力と、電流位相演算回路35の出力に夫々並列に接続されている。
減算器76A、76Bが出力する差分と、加算器71が出力するDQ位相θとが、高調波生成器951、952、・・・、95Nの入力に並列に与えられる。高調波電流指令生成器61Bが生成する奇数次高調波指令と、位相角オフセット生成器93が生成する位相角オフセットとが、高調波生成器951、952、・・・、95Nの入力に夫々独立に与えられる。
高調波生成器951、952、・・・、95Nは、減算器76A、76Bから供給される奇数次高調波成分と、高調波電流指令生成器61Bから供給される奇数次高調波指令と、位相角オフセット生成器93から供給される位相角オフセットと、DQ位相θとに基づいて、3次、5次、・・・、2n+1次の高調波電圧指令を夫々生成する。なお、上記の各高調波電圧指令は、DQ位相θに対して、位相角オフセット分の位相差を付加したものであってよい。その位相差の大きさは、設計的に予め定めることができる。あるいは前述のように多相電動機1を無負荷で回転させた時の誘起電圧から求めることができる。この高調波生成器951、952、・・・、95Nの詳細については後述する。
高調波生成器951、952、・・・、95Nの出力は、加算器94の各入力に夫々接続されている。加算器94は、高調波生成器951、952、・・・、95Nから夫々供給される3次、5次、・・・、2n+1次の高調波電圧指令を加算して、加算された結果を合成高調波補正指令として加算器65に供給する。
高調波電圧生成器95に含まれる高調波生成器951、952、・・・、95Nの基本的な構成は同一であるため、まず高調波生成器951を例示してこれについて説明する。
高調波生成器951は、直交座標変換器77と、減算器78A、78Bと、高調波電流制御器79A、79Bと、直交座標逆変換器80と、2次DQ位相演算器811と、3次DQ位相演算器821と、加算器89A、89Bと、を備える。
高調波生成器951は、3次高調波電圧指令を生成する。2次DQ位相演算器811は、その入力が加算器71の出力に接続され、その出力が加算器89Aの第1入力に接続されている。2次DQ位相演算器811は、DQ位相θを2n倍にした信号を出力する。2次DQ位相演算器811の場合、nの値は1である。
加算器89Aの第1入力が、2次DQ位相演算器811の出力に接続され、加算器89Aの出力が、直交座標変換器77の基準位相入力に接続されている。加算器89Bの第1入力が、3次DQ位相演算器821の基準位相入力に接続され、加算器89Bの出力端子が、直交座標逆変換器80の基準位相入力に接続されている。加算器89Aと加算器89Bの第2入力は、位相オフセット生成器93の複数の出力のうち対応する高調波次数の出力に接続されている。
加算器89Aは、2次DQ位相演算器811から供給されるDQ位相θを2n倍にした2nθの値に、位相角オフセット生成器93から供給される3次高調波オフセット角θoffset3の値を加算して、その和を、直交座標変換器77の基準位相の信号として出力する。加算器89Bは、3次DQ位相演算器821から供給されるDQ位相θを2n+1倍にした2nθ+θの値に、位相角オフセット生成器93から供給される3次高調波オフセット角θoffset3の値を加算して、その和を、直交座標逆変換器80の基準位相の信号として出力する。
直交座標変換器77は、A軸入力とB軸入力と、D軸出力とQ軸出力と、基準位相入力とを有する。直交座標変換器77のA軸入力とB軸入力には、減算器76A、76Bの出力が夫々接続され、減算器76A、76Bから出力される偏差が供給される。直交座標変換器77の基準位相入力には、2次DQ位相演算器811からDQ位相θを2倍にした信号が加算器89Aを経て供給される。上記の通り、加算器89Aを経て直交座標変換器77の基準位相入力に供給されるDQ位相θを2倍にした信号には、DQ位相θに対する3次高調波オフセット角θoffset3が設定されている。
直交座標変換器77は、A軸入力に供給される減算器76Aの出力信号と、B軸入力に供給される減算器76Bの出力信号とに基づいて、加算器89Aを経て基準位相入力に供給されるDQ位相θを2倍にした信号を基準にしてDQ変換を実施して、その結果をD軸出力とQ軸出力から夫々出力する。直交座標変換器77によるDQ変換と直交座標変換器67によるDQ変換との組み合わせにより、実電流に対してDQ位相θを3倍にした信号を基準にしてDQ変換を実施した場合のように、実電流に含まれる3次高調波の成分が直流に変換される。つまり、直交座標変換器77の出力は、実電流に含まれる2n+1次高調波電流を2n+1倍の周波数で回転する直交回転座標に投影したD軸成分及びQ軸成分になる。なお、2次DQ位相演算器811の出力が3倍ではなく2倍となっている理由は、式(1)及び式(2)のDQ変換によって、基本波成分は直流成分になるのと同様である。つまり、直交座標変換器67による変換によって各周波数成分の次数が1段下がることにより、直交座標変換器67から直交座標変換器77の入力に供給される信号において、電流検出器51の出力信号である実電流に含まれる2n+1次高調波成分が、基本波の2n倍の周波数成分になるからである。
減算器78Aの第1入力が、直交座標変換器77のD軸出力に接続され、減算器78Aの出力が、高調波電流制御器79Aの入力に接続されている。減算器78Bの第1入力が、直交座標変換器77のQ軸出力に接続され、減算器78Bの出力が、高調波電流制御器79Bの入力に接続されている。減算器78Aの第2入力には零または微小値が供給され、減算器78Bの第2入力には、例えば、高調波電流指令生成器61Bの3次高調波電流指令ICOM3に対応する出力が接続されている。
高調波電流制御器79Aは、減算器78Aの出力値に対する比例積分制御等を行って、減算器78Aの第1入力信号が算器78Aの第2入力信号に追従するようにD軸電圧補正指令を生成する。減算器78Bは、高調波電流指令生成器61Bの出力値の1つである3次高調波電流指令の値から直交座標変換器77のQ軸出力からの出力値を減算して、その差を高調波電流制御器79Bの入力に供給する。高調波電流制御器79Bは、減算器78Bの出力値に対する比例積分制御等を行って、直交座標変換器77のQ軸出力が3次高調波電流指令ICOM3の値に追従するようにQ軸電圧補正指令を生成する。
直交座標逆変換器80は、D軸入力とQ軸入力と、A軸出力とB軸出力と、基準位相入力とを有する。直交座標逆変換器80のD軸入力には、高調波電流制御器79Aの出力が接続されていて、高調波電流制御器79AからD軸電圧補正指令が供給される。直交座標逆変換器80のQ軸入力には、高調波電流制御器79Bの出力が接続されていて、高調波電流制御器79BからQ軸電圧補正指令が供給される。直交座標逆変換器80は、3次DQ位相演算器821から加算器89Bを経て基準位相入力に供給されるDQ位相θを3倍にした信号を基準にしてDQ逆変換を実施して、直交座標逆変換器80の出力値の座標系を固定座標系に戻す。上記の通り、加算器89Bを経て基準位相入力に供給されるDQ位相θを3倍にした信号には、DQ位相θに対する3次高調波オフセット角θoffset3が設定されている。直交座標逆変換器80の出力値には、インバータ主回路5の出力に含まれる3次高調波電流を、3次高調波電流指令ICOM3にするための、主電圧指令の補正量が含まれる。これを3次高調波電圧指令という。直交座標逆変換器80のA軸出力は、加算器94の入力の1つに接続されている。直交座標逆変換器80は、その出力値を加算器94に供給する。
高調波生成器952、・・・、95Nについても、上記の高調波生成器951と同様である。
高調波生成器952は、直交座標変換器77と、減算器78A、78Bと、高調波電流制御器79A、79Bと、直交座標逆変換器80と、4次DQ位相演算器812と、5次DQ位相演算器822と、加算器89A、89Bと、を備える。
高調波生成器952は、5次高調波電圧指令を生成する。高調波生成器952の高調波生成器951に対する相違点の概要を示す。高調波生成器952におけるnの値は2であり、4次DQ位相演算器812が、DQ位相θを4倍にした信号を生成し、5次DQ位相演算器822が、DQ位相θを5倍にした信号を生成する。直交座標変換器77は、4次DQ位相演算器812から基準位相入力に供給されるDQ位相θを4倍にした信号を基準にしてDQ変換を実施する。直交座標逆変換器80は、5次DQ位相演算器822から基準位相入力に供給される信号としてのDQ位相θを5倍にした信号を基準にしてDQ逆変換を実施して、直交座標逆変換器80の出力値の座標系を固定座標系に戻す。この出力値には、インバータ主回路5の出力に含まれる5次高調波電流を、5次高調波電流指令ICOM5にするための、主電圧指令の補正量が含まれる。これを5次高調波電圧指令という。
高調波生成器95Nは、直交座標変換器77と、減算器78A、78Bと、高調波電流制御器79A、79Bと、直交座標逆変換器80と、2n次DQ位相演算器81Nと、2n+1次DQ位相演算器82Nと、加算器89A、89Bと、を備える。
高調波生成器95Nは、2n+1次高調波電圧指令を生成する。高調波生成器95Nの高調波生成器951に対する相違点の概要を示す。高調波生成器95Nにおけるnの値は、自然数である。この実施形態の場合では、高調波生成器95Nのほかに高調波生成器951、952があることから、nの値は3以上になる。この場合、2n次DQ位相演算器81Nが、DQ位相θを2n倍にした信号を生成し、2n+1次DQ位相演算器82Nが、DQ位相θを2n+1倍にした信号を生成する。直交座標変換器77は、2n次DQ位相演算器81Nから基準位相入力に供給されるDQ位相θを2n倍にした信号を基準にしてDQ変換を実施する。直交座標逆変換器80は、2n+1次DQ位相演算器82Nから基準位相入力に供給される信号としてのDQ位相θを2n+1倍にした信号を基準にしてDQ逆変換を実施して、直交座標逆変換器80の出力値の座標系を固定座標系に戻す。この出力値には、インバータ主回路5の出力に含まれる2n+1次高調波電流を、2n+1次高調波電流指令ICOM2n+1にするための、主電圧指令の補正量が含まれる。これを2n+1次高調波電圧指令という。
加算器94の入力は、高調波生成器951、952、・・・、95Nの出力が夫々独立して接続されており、出力が、加算器65の第1入力に接続されている。加算器94は、高調波生成器951、952、・・・、95Nから夫々供給される3次、5次、・・・、2n+1次の高調波電圧指令を加算して合成高調波補正指令を導出し、合成高調波補正指令をその出力から加算器65に供給する。
図5は、実施形態の高調波電流指令生成器61Bの構成図である。高調波電流指令生成器61Bは、高調波電流分配器610と、乗算器611a、612a、・・・、61Naとを備える。
高調波電流分配器610において、基本波電流指令ICOMに応じた高調波電流を重畳するための高調波電流係数が各高調波の次数に対応させて予め設定されている。高調波電流分配器610は、高調波電流係数を夫々出力する。
乗算器611a、612a、・・・、61Naは、第1入力が速度制御装置3に接続され、第2入力が高調波電流分配器610に接続され、出力が高調波電圧生成器95の高調波生成器951、952、・・・、95Nの入力に夫々接続される。速度制御装置3から供給される電流指令ICOMが分配され、分配された信号が乗算器611a、612a、・・・、61Naの第1入力に夫々供給される。乗算器611a、612a、・・・、61Naの第2入力には、高調波電流分配器610から各高調波の電流振幅を規定する信号が個別に供給される。上記の各乗算器は、第1入力からの信号と第2入力からの信号とを乗算し、その積を夫々出力する。例えば、3次の高調波の場合には、乗算器611aは、電流指令ICOMと高調波電流分配器610から供給される3次の高調波電流値とを乗算して、その積を高調波電圧生成器95に供給する。5次以上の場合についても同様である。
上記の高調波電流指令生成器61Bは、基本波電流指令ICOM(基本波電流成分)に各次数の高調波電流係数を乗算して各次数の高調波電流指令を生成する。なお、高調波電流指令生成器61Bは、基本波周波数によって高調波電流係数を変化させてもよい。高調波電流指令は、電流実効値に対するトルクの比(トルク/電流実効値)が最大化するようにそれが事前に決定される。或いは、高調波電流指令生成器61Bは、運転中の基本波出力電流または電力を検出してそれに応じた高調波電流指令を決定してもよい。
例えば、高調波電流指令生成器61Bは、上記の電流実効値に対するトルクの比(トルク/電流実効値)が最大化するように高調波電流振幅を決定する。以下、高調波電流振幅の決定方法の一例について説明する。運転中の電流波形と基本波周波数が既知であるならば、電流波形について高速フーリエ変換処理などによる周波数分析を行うことで、基本波と高調波成分の振幅もしくは実効値を取得できる。取得した基本波実効値、高調波実効値などを用いて、次の式(6)に従って全電流実効値Irmsを算出できる。
例えば、高調波電流指令生成器61Bは、取得されたトルク又は電力から、次の式(7)により(トルク/電流実効値)の微分(偏微分)を導出して、電流実効値に対するトルクの比(トルク/電流実効値)が最大化するように高調波電流振幅を決定してもよい。例えば、高調波電流指令生成器61Bは、上記の最適化処理を、電流指令が変更されるごとに実施してもよい。
上記の式(7)において、(t-1)とtは、高調波電流の変更前後を示す識別情報である。また、Tはトルクを表す。
本実施形態では速度制御を行っており、高調波を注入することでトルクが大きくなるならば、速度制御に必要なトルク(基本波電流)は減少する。高調波電流指令生成器61Bは、上記の必要なトルクの変化を、上記の式(7)の微分値(変化分)に基づいて検出する。高調波電流指令生成器61Bは、例えば、微分値(変化分)が零又は正の値をとるように、高調波の注入量を調整するとよい。なお、上記の式(7)におけるトルクと電流実効値のデータは、互いに隣接する時刻歴データであって、電流指令を変えたときを挟む1対のデータになる。
なお、電流指令を変えたときを挟む1対のデータだけではなく、これに代えて、電流指令を変えたときを挟む複数の時刻歴のデータに対する統計的処理の結果を利用してもよい。例えば、高調波電流指令生成器61Bは、統計的処理の一例として、電流指令を変えたときの前後の夫々について、100個の時刻歴データの平均値を取り、平均値のデータに基づいて上記の式(7)の演算を実施してもよい。これにより、瞬時値に含まれるノイズ、制御の過度応答の影響を低減させて、最適条件の評価におけるデータの信頼性を向上させることができる。
或いは、高調波電流指令生成器61Bは、上記の最適化処理された結果を保持していて、電流指令が変更されるごと最適化処理を実施することなく、保持されている結果に基づいて高調波電流指令を生成してもよい。例えば、高調波電流指令生成器61Bは、上記の式(7)に従う導出方法に変えて、速度制御器33の出力値に比例する方法を用いてもよい。これによれば上記のような最適化を目的とする演算処理を実施しなくとも、各次数の高調波電流指令を得ることができるため、各次数の高調波電流指令を得ための処理を簡素化できる。特に、対象にする高調波が複数の次数を含む場合、自由度が高まり最適化処理の演算負荷が増加する。そのため、最適化処理が困難となる条件の下では、速度制御器33の出力値を用いて高調波電流振幅を決定することで、処理を簡素化することができる。
次に、各高調波の次数ごとの電流振幅の規定方法の一例を示す。例えば、高調波電流分配器610は、基本波無負荷磁束に対する各次数高調波無負荷磁束の比を、各高調波の次数ごとの電流振幅を規定する高調波電流係数として出力する。この場合、上記の比は、次の式に基づいて決定する。
ここで、基本波トルクT1stとn次高調波トルクTnとを夫々導出するための演算式を式(8)と式(9)に示す。
T1st=P×Ψ1st×Iq1st ・・・(8)
Tn=P×Ψn×Iqn ・・・(9)
上記の式(8)と式(9)において、Pが多相電動機1の極数を示し、Ψ1stが基本波無負荷磁束を示し、Iq1stが基本波のQ軸電流を示し、Ψnがn次高調波無負荷磁束を示し、Iqnがn次高調波のQ軸電流を示す。式(8)と式(9)は、基本波のD軸電流とn次高調波のD軸電流を0にした場合のものである。式(8)に示すように基本波トルクT1stは、多相電動機1の極数Pと、基本波無負荷磁束Ψ1stと、基本波のQ軸電流Iq1stの積である。高調波の場合も基本波の同様である。
次に、基本波トルクT1stとn次高調波トルクTnと全出力トルクTの関係を示す式を式(10)に示す。式(10)に示すように、全出力トルクTは、基本波トルクT1stとn次高調波トルクTnの和になる。
T=T1st+Tn ・・・(10)
上記の式(8)から式(10)に示した関係を利用して、基本波無負荷磁束に対する各次数高調波無負荷磁束の比knを決定するための式を、式(11)に示す。
kn=Ψn÷Ψ1st ・・・(11)
例えば、3次の高調波の場合には、乗算器611aは、基本波電流指令ICOMと高調波電流分配器610から供給される3次の高調波に対する比k3とを乗算して、3次高調波電流指令ICOM3を生成する。高調波電流指令生成器61Bは、3次高調波電流指令ICOM3を用いることで、基本波電流振幅に基づいて大きさの調整が可能な3次高調波電流を通電させることができる。5次以上の場合についても同様である。
なお、特定の次数に対応する高調波電流分配器610の出力値を零または微小値にした場合、多相電動機駆動装置2は、出力電流に含まれる当該次数の高調波成分を減少させるように動作する。
上記のように、高調波電流分配器610の出力値を所望の値にすることにより、基本波周波数を超える高調波を利用して、多相電動機1の出力トルクを増強した所望の値に調整できる。
図6を参照して、基本波と各次数の高調波を組み合わせの例について説明する。図6は、実施形態の基本波と各次数の高調波を組み合わせについて説明するための図である。図6に示すグラフの横軸が時間、縦軸が電圧の振幅を示す。横軸に示す期間は、基本波の1周期分である。このグラフには、基本波の波形ほか、高調波として、3次、5次、7次、9次、11次の奇数次の波形が夫々描かれている。振幅が適宜決定されたこれらの高調波を基本波に重畳することにより所望の合成波形を生成できる。
例えば、巻線に誘起される電圧(誘起電圧)のモデル化を試みる。誘起電圧を簡易的にモデル化するためには、多相電動機1を発電機として用いるとよい。各巻線を電気的に無負荷の状態にして、多相電動機1の軸を駆動して、その際に各巻線に発生する波形を、誘起電圧と定義する。これにより、誘起電圧の位相と振幅情報を得ることができる。上記のモデル化の手法に代えて、多相電動機1の構造に基づいて設計的に決定してもよい。なお、この設計的に決定する方法は、既知の方法を利用できる。
巻線に誘起される電圧(誘起電圧)をモデル化した結果の一例を、次の式(12)に示す。
上記の式(12)において、nが次数を示し、ωが角速度を示し、tが時間を示す。この式(12)は、誘起電圧を矩形波として同定したものである。誘起電圧を矩形波として同定できる多相電動機1であれば、図6のグラフの原点部分に示すように、基本波の位相0°と、各高調波の位相0°とが原点で一致する。さらに、式(12)からわかるように、基本波と各高調波の振幅を示す係数が正の値をとり、各波の位相0°が一致する。これにより、少なくとも0°近傍の各高調波の波形を合成した波形の値は正の値をとり、基本波も正の値をとるため、基本波より速く回転するように指令する信号を合成できることがわかる。
なお、多相電動機1の誘起電圧を矩形波として同定できない場合には、図6に示した式を適用できないが、このような場合には、各波形の位相進め角を基本波の位相進め角に一致させずに、個々にその値を決定するとよい。位相角オフセット生成器93は、上記の誘起電圧に整合するように、位相進め角の位相(位相角オフセット)を各高調波に付与するための位相角オフセット情報を生成する。設計的に求めることが困難な場合は、前述のように無負荷にて多相電動機1を回転させ誘起電圧波形から各高調波の位相角オフセット情報を得ても良い。
なお、各高調波の次数ごとの電流振幅を規定するための高調波電流係数を下記の方法で決定してもよい。例えば、高調波電流分配器610は、基本波無負荷磁束に対する各次数高調波無負荷磁束の比から、各高調波の次数ごとの電流振幅を規定することに代えて、多相電動機1の出力トルクに対するインバータ電流の実効値の比(全出力トルクT/電流の実効値)が最大化するように各次数の電流振幅を決定して、その比に基づいて各高調波の次数ごとの高調波電流係数を規定してもよい。また、多相電動機1及びインバータ主回路5の効率や損失を考慮して、基本波電流に対する高調波次数ごとの高調波電流係数を定めてもよい。
上記の実施形態によれば、インバータ主回路5と、制御部6とを備える。インバータ主回路5は、互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機1の各巻線に交流電力を出力する制御により多相電動機1に対する前記交流電力の供給を調整する。制御部6は、インバータ主回路5を制御する。制御部6は、基本波電圧指令発生部60と、高調波制御部91と、加算器65と、PWM制御部66とを備える。基本波電圧指令発生部60は、基本波電流指令ICOMに基づいて、前記巻線に基本波電流を流すようにインバータ主回路5の出力電圧を制御するための基本波電圧指令を発生する。高調波制御部91は、nを任意の自然数と定義したとき、前記巻線に所定の2n+1次高調波電流を流すための高調波電圧指令を発生する。加算器65は、前記基本波電圧指令の出力値と前記高調波電圧指令の出力値とを加算する。PWM制御部66は、加算器65の出力値により、インバータ主回路5をスイッチングさせる。高調波制御部91は、高調波電流指令生成器61Bと、位相角オフセット生成器93とを備える。高調波電流指令生成器61Bは、基本波電流指令ICOMに基づいて、前記巻線に流す電流の2n+1次高調波成分を決定する。位相角オフセット生成器93は、多相電動機1の誘起電圧に含まれる2n+1次高調波成分の位相に整合させた位相で前記巻線に2n+1次高調波成分の電流を流すように2n+1次高調波成分の電流位相を決定する。これにより、多相電動機1の電流の基本波の位相を基準に所望の電流位相に所望の高調波電流を重畳させることで発生トルクを増やすことができる。
また、単相インバータ21、22、・・・2Nは、互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機1の各巻線に交流電力を出力する。インバータ主回路5は、単相インバータ21、22、・・・2Nに含まれ、制御部6の制御により多相電動機1に対する交流電力の供給を調整する。制御部6は、基本波電流指令ICOMに基づいてインバータ主回路5が巻線に流す電流の奇数次高調波成分をその巻線に流れた実電流の位相に対して所望の位相で注入するように、多相電動機1の位相に整合させた位相で多相電動機1の巻線に流す電流の奇数次高調波成分を多相電動機1の巻線に流す電流の基本波成分に重畳させる指令値を、インバータ主回路5に供給する。その指令値は、多相電動機1の出力トルクの変動を大きくするものである。これにより、多相電動機1の電流の基本波の位相を基準に所望の電流位相に所望の高調波電流を重畳させることで発生トルクを増やすことができる。
なお、図1の回路においてn=1のみにすれば、3次高調波電流を低減し出力電流波形を制御できる。また、図1の回路においてn=2のみにすれば、5次高調波電流を低減し出力電流波形を制御できる。このように、特定の次数のみを選択して構成することもできる。
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態において、電流位相に、電流指令ベクトルの位相を用いる事例について説明したが、これに代えて、本変形例では、実電流の位相誤差や変動を補正して求めた位相を用いる一例について説明する。
なお、上記の実施形態では、電流指令演算器61に与える基準位相を電流進み角にした。さらに、直交座標変換器67及び直交座標逆変換器64の基準位相であるDQ位相を、多相電動機1によって誘起された電圧に基づいて導出した。これによって、図3に示したように電流指令ベクトルを真D軸と真Q軸に展開し、これらの2軸に対して所謂フィードバック電流制御を行うことを可能にした。ただし、真D軸と真Q軸の座標系を利用して電流指令ベクトルを展開すると、位相誤差に起因する誤差が生じることがある。このような場合には、下記の方法を選択してもよい。
図4を参照して、制御D軸と制御Q軸の概念を導入し、この制御DQ軸が真のDQ軸に対して回転位相補正角分進んだ位相にある場合の電流ベクトルの位相関係について説明する。図4は、実施形態の制御D軸と制御Q軸の概念を用いて電流ベクトルの位相関係を説明するためのベクトル図である。図4に示す座標系に、制御D軸と制御Q軸とを軸に持つ座標系を定める。この制御D軸と制御Q軸とを軸に持つ座標系において、制御Q軸の方向が有効電力の方向になる。
電流進み角は真Q軸からの電流ベクトルの進み角である。この場合、電流指令演算器61Aに与える基準位相は電流進み角から回転位相補正角を減算した位相角になる。そこで、制御部6は、この位相角で電流指令ベクトルを制御D軸と制御Q軸上に展開してD軸電流指令とQ軸電流指令を導出する。直交座標変換器67及び直交座標逆変換器64に供給される基準位相であるDQ位相θは、フィードバック電流制御の帰還量である電流位相が、D軸電流指令とQ軸電流指令により定まる位相に合うように決定される。DQ位相は、与えられた共通の電気角に対して、相間位相差補正回路70で定められる位相角を加算して個別にシフトした誘起電圧位相に、更に回転位相補正角を加算した値にする。このようにして、真D軸と真Q軸とは回転位相補正角分ずれたDQ軸による制御が可能となる。
上記の変形例によれば、真D軸と真Q軸の座標系に対する位相誤差が生じている場合についても、その位相誤差による影響を軽減することで、第1の実施形態と同様の効果を奏する。
(第2の実施形態)
図7Aと図7Bを参照して、第2の実施形態について説明する。
図7Aは、実施形態の多相電動機駆動装置の構成図である。この実施形態が第1の実施形態と相違する点は、奇数次高調波電流のD軸成分及びQ軸成分の導出方法に関する点である。第1の実施形態では、奇数次高調波電流のD軸成分及びQ軸成分を、基本波のD軸電流及びQ軸電流から導出する事例について説明した。この実施形態では、これに代えて、奇数次高調波電流のD軸成分及びQ軸成分を、実電流と仮想正弦波の差分に基づいて導出する一例を示し、第1の実施形態との相違点を中心に説明する。
図7Aには、多相電動機1と、多相電動機駆動装置2Aと、速度制御装置3と、回転角度検出器4(PS)とが示されている。
多相電動機駆動装置2Aは、単相インバータ121、122、・・・、12Mを備える。多相電動機駆動装置2Aは、単相インバータ121、122、・・・、12Mを連携させることにより多相電動機1を駆動する。単相インバータ121、122、・・・、12Mは、前述の単相インバータ21、22、・・・、2Mに対応する。単相インバータ121、122、・・・、12Mと他の構成との接続関係は、前述の単相インバータ21、22、・・・、2Mを参照する。
次に各単相インバータ121、122、・・・、12Mについて説明する。各単相インバータ121、122、・・・、12Mの基本的な構成は同一であるため、単相インバータ121を例示してこれについて説明する。単相インバータ121は、インバータ主回路5(インバータ部)と、制御部6Aとを備える。
制御部6Aは、例えば、基本波電圧指令発生部60Aと、加算器65と、PWM回路66と、正弦演算器84(sin)と、乗算器85と、高調波制御部92とを備える。
基本波電圧指令発生部60Aは、電流指令演算器61Aと、減算器62A、62Bと、D軸電流制御器63Aと、Q軸電流制御器63Bと、直交座標逆変換器64と、加算器69、71、72Aと、直交座標変換器67と、相間位相差補正回路70と、余弦演算器73と、振幅演算器74と、乗算器75とを備える。
加算器72Aは、前述の加算器72に対応する。加算器72Aの出力は、余弦演算器73の入力と正弦演算器84の入力とに接続されている。加算器72Aは、加算器71から供給されるDQ位相θに対し、電流位相演算回路35から供給される電流進み角を加算して、その結果を余弦演算器73の入力と正弦演算器84の入力とに夫々供給する。正弦演算器84は、電流進み角が加算されたDQ位相θの正弦(sin)を導出する。正弦演算器84の出力には、乗算器85の第1入力が接続されている。乗算器85の第2入力は、振幅演算器74の出力に接続されている。乗算器85は、振幅演算器74によって導出された電流指令振幅と、電流進み角が加算されたDQ位相θの正弦(sin)とを乗算して、仮想正弦波を生成する。乗算器85の出力が高調波制御部92に接続されており、乗算器85は、その仮想正弦波を高調波制御部92に供給する。
高調波制御部92は、その入力が、電流検出器51の出力と、乗算器85の出力と、加算器71の出力と、電流位相演算回路35の出力とに夫々接続され、その出力が、加算器65の第2入力に接続されている。高調波制御部92には、電流検出器51により検出された実電流と、その実電流と同相の乗算器85から出力される仮想正弦波と、加算器71から出力されるDQ位相θが供給される。高調波制御部92は、基本波電流指令ICOMと、検出された実電流とに対応する奇数次高調波電圧指令を生成し、これに基づいた合成高調波補正指令を生成する。
図7Bを参照して、実施形態の高調波制御部92の一例について説明する。図7Bは、実施形態の高調波制御部92の構成図である。
高調波制御部92は、例えば、高調波電流指令生成器61Bと、減算器86と、位相角オフセット生成器93と、高調波電圧生成器95Aと、加算器94とを備える。
減算器86の第1入力には、電流検出器51の出力から実電流帰還が供給され、減算器86の第2入力には、乗算器85の出力から仮想正弦波が供給される。減算器86の出力が高調波電圧生成器95Aの入力に接続される。減算器86は、電流検出器51からの実電流帰還と乗算器85からの仮想正弦波との差分を導出し、少なくとも実電流における基本波成分を除き、奇数次高調波成分を抽出する。減算器86は、上記の差分、すなわち夫々の奇数次高調波成分を、高調波電圧生成器95Aに供給する。
高調波電圧生成器95Aは、複数の入力とN個の出力とを備える。高調波電圧生成器95の複数の入力には、DQ位相θと、減算器86の出力信号と、各次数の高調波電流指令と、各次数の位相角オフセットとが夫々供給される。
高調波電圧生成器95Aは、高調波生成器951A、952A、・・・、95NAを備える。例えば、高調波生成器951A、952A、・・・、95NAは、夫々3次、5次、・・・、2n+1次の高調波を生成するように割り付けられている。Nは、次数が互いに異なる高調波の数である。
高調波生成器951A、952A、・・・、95NAの入力は、減算器86の出力と、高調波電流指令生成器61Bの出力と、位相角オフセット生成器93の出力と、加算器71とに夫々接続されている。
減算器86から出力される差分と、加算器71から出力されるDQ位相θとが、高調波生成器951A、952A、・・・、95NAの入力に夫々独立に与えられる。高調波電流指令生成器61Bから出力される奇数次高調波指令と、位相角オフセット生成器93から出力される位相角オフセットとが、高調波生成器951、952、・・・、95Nの入力に夫々独立に与えられる。
高調波生成器951A、952A、・・・、95NAは、減算器86から供給される奇数次高調波成分と、高調波電流指令生成器61Bから供給される奇数次高調波指令と、位相角オフセット生成器93から供給される位相角オフセットと、DQ位相θとに基づいて、3次、5次、・・・、2n+1次の高調波を夫々生成する。なお、上記の各高調波は、DQ位相θに対して、位相角オフセット分の位相差を付加したものであってよい。その位相差の大きさは、設計的に予め定めることができる。あるいは、前述のように多相電動機1を無負荷で回転させた時の誘起電圧から求めることができる。
加算器94の各入力には、高調波生成器951A、952A、・・・、95NAの出力が夫々接続されている。加算器94は、高調波生成器951A、952A、・・・、95NAから夫々供給される3次、5次、・・・、2n+1次の高調波電圧指令値を加算して、加算された結果を合成高調波補正指令として加算器65に供給する。
高調波生成器951Aは、直交座標変換器87と、低域通過フィルタ88A、88Bと、減算器78A、78Bと、高調波電流制御器79A、79Bと、直交座標逆変換器80と、3次DQ位相演算器831とを備える。
3次DQ位相演算器831は、その入力が加算器71の出力に接続され、その出力が加算器89Aの第1入力に接続されている。3次DQ位相演算器831は、DQ位相θを2n+1倍にして出力する。3次DQ位相演算器831の場合、nの値は1である。
加算器89Aの第1入力が、3次DQ位相演算器831の出力に接続され、加算器89Aの出力が、直交座標変換器87の基準位相入力と直交座標逆変換器80の基準位相入力とに接続されている。加算器89Aの第2入力には、位相角オフセット生成器93の複数の出力のうちの1つが接続されている。
加算器89Aは、3次DQ位相演算器831から供給されるDQ位相θを2n+1倍にした2nθ+θの値に、位相角オフセット生成器93から供給される3次高調波オフセット角の値を加算して、その和を、直交座標変換器87と直交座標逆変換器80の基準位相の信号として出力する。
直交座標変換器87は、入力端子であるA軸入力とB軸入力と、出力端子であるD軸出力とQ軸出力と、基準位相入力とを有する。直交座標変換器87のA軸入力には、減算器86の出力が接続され、減算器86が出力する偏差が供給される。B軸入力には0が供給される。直交座標変換器87の基準位相端子には、3次DQ位相演算器831から加算器89Aを経てDQ位相θを3倍にした信号が供給される。直交座標変換器87は、A軸入力に供給される減算器86の出力信号と、B軸入力に供給される0の値とに基づいて、基準位相入力に供給されるDQ位相θを3倍にした信号を基準にしてDQ変換を実施して、その結果をD軸出力とQ軸出力とから出力する。
直交座標変換器87の出力は、実電流に含まれる2n+1次高調波電流を2n+1倍の周波数で回転する直交回転座標に投影したD軸成分及びQ軸成分になる。高調波生成器951Aの場合、nは1である。直交座標変換器87の2つの出力は、夫々低域通過フィルタ88A、88Bの入力に夫々接続されている。3次高調波を基準にした成分は、直交座標変換器87によって、変換後の信号における直流成分に変換される。なお、DQ位相θを3倍にした信号には、DQ位相θに対する3次高調波オフセット角θoffset3が設定されていてもよい。
低域通過フィルタ88A、88Bは、その入力が、直交座標変換器87の2つの出力に夫々接続され、その出力が、減算器78A、78Bの第1入力に夫々接続されている。低域通過フィルタ88A、88Bは、直交座標変換器87が出力するD軸電流及びQ軸電流に含まれる低域成分を透過する。
減算器78Aの第1入力が、低域通過フィルタ88Aの出力に接続され、減算器78Aの出力が、高調波電流制御器79Aの入力に接続されている。減算器78Bの第1入力が、低域通過フィルタ88Bの出力に接続され、減算器78Bの出力が、高調波電流制御器79Bの入力に接続されている。減算器78Aの第2入力には零または微小値が供給され、減算器78Bの第2入力には、高調波電流指令生成器61Bの複数の出力のうちの1つが接続されている。
減算器78Bは、低域通過フィルタ88Aの出力値に、高調波電流指令生成器61Bが出力する複数の指令値のなかの1つを加算して、高調波電流制御器79Bの入力に供給する。3次高調波電流指令ICOM3は、複数の指令値の一例である。
高調波電流制御器79Aは、減算器78Aの出力値に対する比例積分制御等を行って、減算器78Aの第1入力信号が算器78Aの第2入力信号に追従するようにD軸電圧補正指令を生成する。高調波電流制御器79Bは、減算器78Bの出力値に対する比例積分制御等を行って、低域通過フィルタ88Bの出力値が3次高調波電流指令ICOM3の値に追従するようにQ軸電圧補正指令を生成する。
直交座標逆変換器80の入力端子であるD軸入力には、高調波電流制御器79Aの出力が接続されていて、高調波電流制御器79AからD軸電圧補正指令が供給される。直交座標逆変換器80の入力端子であるQ軸入力には、高調波電流制御器79Bの出力が接続されていて、高調波電流制御器79BからQ軸電圧補正指令が供給される。直交座標逆変換器80は、3次DQ位相演算器831から加算器89Aを経て基準位相入力に供給されるDQ位相θを3倍にした信号を基準にしてDQ逆変換を実施して、直交座標逆変換器80の出力を固定座標系に戻す。直交座標逆変換器80から出力される情報には、3次高調波電流の補正量が含まれる。直交座標逆変換器80のA軸出力は、加算器94の複数の入力のうちの1つに接続されている。直交座標逆変換器80は、その出力値を加算器94に供給する。なお、DQ位相θを3倍にした信号には、DQ位相θに対する3次高調波オフセット角θoffset3が設定されていてもよい。
高調波生成器952Aは、高調波生成器951Aの3次DQ位相演算器831に代えて、5次DQ位相演算器832を備える。高調波生成器95NAは、高調波生成器95NAの3次DQ位相演算器831に代えて、2n+1次DQ位相演算器83Nを備える。
なお、高調波生成器952A、・・・、95NAについても、上記と同様に、直交座標変換器87の入力Bには0を与え、DQ位相θを入力とする2n+1次DQ位相演算器83Nからの出力信号を基準にして直交座標系へDQ変換を行う。
例えば、2n+1次DQ位相演算器83Nは、DQ位相θを2n+1倍にした2θn+θを、加算器89Aを経て直交座標逆変換器80に出力する。低域通過フィルタ88Aは、得られたD軸電流値の直流成分を得る。低域通過フィルタ88Bは、Q軸電流値の直流成分を得る。これにより、低域通過フィルタ88A及び88Bの出力は、第1の実施形態の場合と同様に、実電流に含まれる2n+1次高調波電流を、DQ位相θの2n+1倍の周波数で回転する直交回転座標に投影した場合のD軸成分及びQ軸成分になる。以降の制御は、第1の実施形態と同様の手法を適用することができるため、詳細な説明は省略する。
なお、仮想正弦波を作成する構成は、図7Aに示す構成に限らず、例えば、乗算器75が出力する仮想余弦波を、演算によって仮想余弦波の位相をシフトさせるようにしても良い。
図7Bの回路はn=1とすれば、3次高調波電流を生成することができ、或いは、n=2とすれば、5次高調波電流を生成することができる。
上記の実施形態によれば、第1の実施形態と同様の効果を奏する。なお、正弦演算器84は、基本波電流指令ICOMまたは実電流の基本波の振幅と等しく、且つ基本波電流指令ICOMまたは実電流の基本波と同相の仮想正弦波を生成する。高調波制御部92は、上記の実電流と上記の仮想正弦波の差分を直交座標変換器87に与え、その2軸の出力の各々に低域通過フィルタ88A、88Bを介して出力し、低域通過フィルタ88A、88Bの成分ごとの出力を高調波制御部92の検出された出力値とする。これにより、多相電動機駆動装置2Aは、高調波制御部92によって実電流に含まれた奇数次高調波を検出することができ、検出した奇数次高調波に対してその振幅を増やすことができる。
以上説明した少なくともひとつの実施形態によれば、多相電動機駆動装置は、インバータ部と、制御部とを備える。インバータ部は、互いに絶縁された複数相の巻線を有する多相電動機の各巻線に交流電力を出力する制御により前記多相電動機に対する前記交流電力の供給を調整する。制御部は、前記インバータ部を制御する。前記制御部は、基本波電圧指令発生部と、高調波制御部と、加算器と、スイッチング制御部とを備える。基本波電圧指令発生部は、基本波電流指令に基づいて、前記巻線に基本波電流を流すように前記インバータ部の出力電圧を制御するための基本波電圧指令を発生する。高調波制御部は、nを任意の自然数と定義したとき、前記巻線に所定の2n+1次高調波電流を流すための高調波電圧指令を発生する。加算器は、前記基本波電圧指令の出力値と前記高調波電圧指令の出力値とを加算する。スイッチング制御部は、前記加算器の出力値により、前記インバータ部をスイッチングさせる。前記高調波制御部は、高調波電流生成器と、位相角オフセット生成器とを備える。高調波電流生成器は、前記基本波電流指令に基づいて、前記巻線に流す電流の2n+1次高調波成分を決定する。位相角オフセット生成器は、前記多相電動機の誘起電圧に含まれる2n+1次高調波成分の位相に整合させた位相で前記巻線に2n+1次高調波成分の電流を流すように2n+1次高調波成分の電流位相を決定することにより、所望の位相で所定の高調波電流を重畳して、多相電動機の出力トルクをより高めることができる。
上記の制御装置は、その少なくとも一部を、CPUなどのプロセッサがプログラムを実行することにより機能するソフトウェア機能部で実現してもよく、全てをLSI等のハードウェア機能部で実現してもよい。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると同様に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれるものである。
例えば、図1A及び図7Aにおいて、直交座標逆変換器64が出力する主電圧指令には式(3)に示したA軸成分を使用し、これに呼応して直交座標変換器67には、実電流をA軸成分として入力し、仮想余弦波をB軸成分として入力しているが、主電圧指令に式(4)に示すB軸成分を使用し、直交座標変換器67のB軸成分に実電流を、A軸成分に仮想余弦波を入力する構成も可能である。要は、実電流を制御する軸に直交する軸の成分として仮想余弦波を電流応答として入力すればよい。なお、「仮想余弦波」と記載したが、余弦波/正弦波の違いは、単に位相関係の違いであり上記位相関係に整合する位相で仮想波を作れるのであれば、その演算に余弦(cos演算)/正弦(sin演算)のどちらを用いるかは任意である。
なお、「仮想余弦波」と「仮想正弦波」は、検出された信号に含まれる成分そのものではなく、位相情報をもとに波形が生成されたことを示している。「仮想余弦波」と「仮想正弦波」は、上記と同様の手法で生成された「余弦波」と「正弦波」に代えることができる。
また電流進み角、回転位相補正角は何れも正の値として説明したが、何れかが負であっても両者が負であっても良い。
また、第2の実施形態において、実電流と同相、同振幅の仮想正弦波を用いて奇数次のDQ変換をして奇数次高調波のDQ成分を導出したが、実電流そのものをフィルタリングすることによって奇数次高調波を導出することも可能である。また、第1の実施形態において、直交座標変換器67の出力値から高域通過フィルタ又は帯域通過フィルタで奇数次高調波を抽出することも可能である。しかし、この何れの場合も交流の電流量をフィルタリングすることになるので、位相ズレによる誤差が発生し、検出精度が低下する可能性がある。また、基本波周波数の上昇にとともに、フィルタによる位相遅れは増加するので、高調波電流の位相を精度よく抽入することは困難である場合が多い。しかし、本実施形態では、座標変換により高調波を検出しているので、高調波電流の位相を精度よく検出することが可能なため所定の位相で所定の高調波成分を注入することができる。
また、上記の実施形態においては、全て直流量と交流の電流量を分離抽出するフィルタリングを行っているので、基本波の周波数(運転速度に対応)が変化しても誤差は生じ難い。しかしながら、運転速度が低い領域では、奇数次高調波の周波数も低周波となる。このため、運転速度の低下に応じて低域通過フィルタのカットオフ周波数を低下させるようにしても良い。
更に、図1における電流指令演算器61は制御部6の内部に設ける構成としたが、共通に設けられた速度制御装置3の内部に設け、D軸電流指令及びQ軸電流指令を単相インバータ21に与える構成としても良い。