以下に、本発明にかかるモータ制御装置の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
実施の形態.
実施の形態にかかるモータ制御装置1について図1〜図5を用いて説明する。図1は、モータ制御装置1の構成を示す。図2は、通常制御モードに切り換えられた状態におけるモータ制御装置1の構成を示す。図3は、弱め磁束制御モードに切り換えられた状態におけるモータ制御装置1の構成を示す。図4は、座標軸の定義を示す図である。図5は、変数名の定義を示す図である。
以下の説明に使用する座標軸では、図4に示すように、d軸がロータの磁束軸(N極側が+方向)であり、q軸がd軸と直交する軸であり、θeが回転磁界の回転角度(固定座標α軸との位相差)であり、ωeがd−q軸の電気角速度であるものとする。また、以下の説明に使用する主な変数名を図5に示す。
モータ制御装置1は、モータMに流れるモータ電流をq軸電流とd軸電流とに分解してモータMのベクトル制御を行う。モータMは、例えば、突極比が1より大きなモータである。モータMでは、回転数が高くなると、その発電作用による逆起電力が大きくなり、それ以上回転数を上昇させることが困難になる(すなわち、電圧飽和状態になる)ことがある。
それに対して、モータMにおける磁束を弱める弱め磁束制御を行うことができれば、逆起電力を抑制でき、回転数をさらに上昇させることができる。そのため、モータ制御装置1は、制御モードとして、例えば、通常制御モード及び弱め磁束制御モードを有し、電圧飽和状態に近くなったことなどに応じて、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ切り換え、電圧飽和状態から遠くなったことなどに応じて、弱め磁束制御モードから通常制御モードへ切り換えるように構成されている。
すなわち、弱め磁束制御モードは、モータMへの印加電圧の飽和に対応するモードである。例えば、通常制御モードから弱め磁束制御モードへの切り換えは、モータMへの印加電圧が飽和した際に行われてもよいし、モータMへの印加電圧が飽和する直前(電圧飽和状態に近くなったことが検出された際)に行われてもよい。
弱め磁束による高回転域制御方法では、電圧ベクトルの位相を進角させることで、モータMにおける磁束を弱めることが一般的である。この方法では、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換える際に、モータ定数のミスマッチによる切換点の不連続性に起因して切り換えショック(切り換え時における電圧・電流の急激な変動)が発生する可能性がある。
また、本発明者が検討したところ、通常制御と弱め磁束制御との間の切り換えにおいて、モータ定数のミスマッチ以上に、各制御器の内部状態の違い(複数の制御器の間における内部状態の違い、及び各制御器における時系列的な内部状態の違い)による切り換えショックが大きくなる可能性があることを見出した。
仮に、モータ制御装置1において、電圧ベクトルの位相を進角させる弱め磁束制御方法を採用する場合、通常制御モードでは、q軸電流及びd軸電流を操作してベクトル制御を行い、弱め磁束制御モードでは、電圧ベクトルの位相を操作してベクトル制御を行うことになる。そのため、通常制御モードと弱め磁束制御モードとのそれぞれ専用の制御器を用意しておき、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの間で切り換える際に、動作させる制御器も切り換える必要がある。
例えば、通常制御モード専用の制御器として、q軸電流指令を演算するためのq軸電流指令演算部と、d軸電流指令を演算するためのd軸電流指令演算部とを用意し、弱め磁束制御モード専用の制御器として、位相誤差指令を演算するための位相誤差指令演算部を用意しておく場合を考える。この場合、q軸電流指令演算部及びd軸電流指令演算部を動作させてq軸電流及びd軸電流を操作する通常制御モードにおいて、弱め磁束制御で動作させるべき位相誤差指令演算部の内部状態が不定である。また、逆に、位相誤差指令演算部を動作させて電圧位相を操作する弱め磁束制御モードにおいて、通常制御で動作させるべきq軸電流指令演算部及びd軸電流指令演算部のそれぞれの内部状態が不定である。そのため、通常制御モードと弱め磁束制御モードとの間の切り換えを行った際に、q軸電流指令演算部及びd軸電流指令演算部と位相誤差指令演算部との間の内部状態の違いにより、大きな切り換えショックが発生する可能性がある。
一方、電圧ベクトルの位相を進角させるのではなく、d軸電流を操作することで、モータMにおける磁束を弱めることも考えられる。
仮に、モータ制御装置1において、操作すべきd軸電流の値、すなわちd軸電流指令値をトルク指令値及び回転数の組み合わせごとに所定の値として予め実験的に求めておき、求められた所定の値とトルク指令値及び回転数との組み合わせをテーブルとしてモータ制御装置1に予め設定しておく場合を考える。この場合、テーブルにおける複数の所定の値のそれぞれは、ゼロと異なる値になると考えられる。モータ制御装置1において、通常制御モードでは、ゼロに固定されたd軸電流指令値をd軸電流PI演算部に入力し、弱め磁束制御モードでは、トルク指令値及び回転数に応じてテーブルから求められたd軸電流指令値をd軸電流PI演算部に入力することになる。そのため、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ切り換える際に、d軸電流指令値をゼロから所定の値へ急激に切り換え、d軸電流PI演算部を実質的に停止させた状態から動作させる状態へ急激に切り換えることになる。これにより、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ切り換える際に、d軸電流指令値が入力されるd軸電流PI演算部の内部状態が急激に変動するので、d軸電流PI演算部における時系列的な内部状態の違いにより、大きな切り換えショックが発生する可能性がある。
また、通常時における制御電流は制御器の修正量を内包しており、回転座標系といえども直流値とは限らない。仮に、これらの定数や制御器のミスマッチを切換時に補正する処理を施すと、切換に修正時間を要するなどの時間ロスが発生するので、制御の追従性が悪化する可能性がある。
そこで、本実施の形態では、電流制御器は通常時と同じ構成とし、速度制御器を通常制御モードではq軸側、弱め磁束制御モードではd軸側(ゲインは負値とする)に切り換えることにより、制御器の構成を切換の前後で極力変化させない様にして簡潔な制御で弱め磁束制御を実現することを目指す。
具体的には、図1に示すように、モータ制御装置1は、駆動部10、検出部50、演算部20、電圧指令生成部30、及び積分部60を備える。
駆動部10は、3相の交流信号U、V、WをモータMへ供給することにより、モータMを駆動する。駆動部10の内部構成は、後述する。
検出部50は、少なくとも2相の電流の振幅を検出(ピックアップ)する。具体的には、検出部50は、電流センサ51、及び電流センサ52を含む。電流センサ51は、U相の電流iUの振幅を検出し演算部20へ供給する。電流センサ52は、W相の電流iWの振幅を検出し演算部20へ供給する。電流センサ51、及び電流センサ52は、それぞれ、電流値をAD変換してデジタルコンピュータで制御可能な信号として演算部20へ供給しても良い。
演算部20は、検出された電流ベクトル(iU,iW)を検出部50から受け、推定回転角度θe’を積分部60から受ける。演算部20は、電流ベクトル(iU,iW)及び推定回転角度θe’に応じて、推定角速度ωe’及び推定角速度ωm’を求める。
具体的には、演算部20は、3相−2相変換器(UVW/d−q)21、軸誤差演算処理部22、PLL制御器23、ローパスフィルタ(LPF)24、及び変換器25を含む。
3相−2相変換器21は、U相の電流iUの振幅の検出値を電流センサ51から受け、W相の電流iWの振幅の検出値を電流センサ52から受ける。また、3相−2相変換器21は、回転座標系の推定回転角度θe’を積分部60から受ける。3相−2相変換器21は、例えば、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iU,iW)を回転座標系(d−q座標系)における電流ベクトル(Id,Iq)へ変換する。回転座標系(d−q座標系)は、互いに交差するd軸とq軸とを有する。あるいは、例えば、固定座標系(UVW座標系)における電流ベクトル(iU,iW)から電流ベクトル(iU,iV,iW)を推定し、推定された電流ベクトル(iU,iV,iW)を回転座標系(d−q座標系)における電流ベクトル(Id,Iq)へ変換してもよい。
なお、電流ベクトル(Id,Iq)における各成分は、検出された電流ベクトル(iU,iW)から変換されたものなので、以下では、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iqと呼ぶことにする。
3相−2相変換器21は、d軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqを電圧指令生成部30及び軸誤差演算処理部22へ出力する。
軸誤差演算処理部22は、d軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqを3相−2相変換器21から受け、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令生成部30から受ける。軸誤差演算処理部22は、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*に応じて、推定回転角度θe’における推定誤差を軸誤差Δθとして求める。軸誤差演算処理部22は、求められた軸誤差ΔθをPLL制御器23へ出力する。
なお、軸誤差演算処理部22において、ロータの回転位置は、何らかの方法で既知であるとする。例えば、ロータの回転位置は、公知のセンサレス方式で推定してもよいし、又はセンサ(エンコーダ)による検出値を受けて認識するものであっても構わない。なお、以下では、センサレス方式で推定する場合について例示的に説明しているが、センサ(エンコーダ)による検出値を受けて認識する場合については、「推定角速度」を「実角速度」と読み替えれば、以下の説明をそのまま適用できる。
PLL制御器23は、軸誤差Δθに応じて、直前に推定した推定角速度ωe’を修正する。PLL制御器23は、修正された推定角速度ωe’を積分部60及びローパスフィルタ24へ出力する。
ローパスフィルタ24は、PLL制御器23による修正で発生するノイズ(修正ノイズ)が多い場合にその修正ノイズを除去するため、推定角速度ωe’に対してローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ24は、処理後の推定角速度ωe”を変換器25へ出力する。
変換器25は、推定角速度ωe”をロータの機械的な推定角速度ωm’に変換する。すなわち、変換器25は、固定座標系(UVW座標系)における回転磁界の推定角速度ωe”を極対数Pn(Pnをモータの極対数とする)で割る(極対数の逆数1/Pnをかける)ことにより、モータMにおけるロータの機械的な推定角速度ωm’を求める。変換器25は、求めた推定角速度ωm’を電圧指令生成部30へ出力する。
電圧指令生成部30は、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、及び推定角速度ωm’を演算部20から受け、角速度指令ωm*を外部(例えば、図示しない上位のコントローラ)から受ける。電圧指令生成部30は、d軸電流検出値Id、q軸電流検出値Iq、推定角速度ωm’、及び角速度指令ωm*に応じて、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令値Vq*を生成して駆動部10及び演算部20へ出力する。なお、電圧指令生成部30の詳細は、後述する。
積分部60は、推定角速度ωe’を積分して推定回転角度θe’を求める。
具体的には、積分部60は、積分器61を有する。積分器61は、回転磁界の推定角速度ωe’を積分することにより、固定座標系(UVW座標系)における回転磁界の位相角θe(図4参照)の推定値である推定回転角度θe’を算出する。積分器61は、算出された推定回転角度θe’を駆動部10及び演算部20へそれぞれ出力する。
駆動部10は、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*を電圧指令生成部30から受け、推定回転角度θe’を積分部60から受け、制御信号VDCを外部(例えば、図示しない上位のコントローラ)から受ける。駆動部10は、d軸電圧指令値Vd*、及びq軸電圧指令値Vq*、推定回転角度θe’、及び制御信号VDCに応じて、3相の交流信号U、V、WをモータMへ供給することにより、モータMを駆動する。
具体的には、駆動部10は、2相−3相変換器(d−q/UVW)11、PWM変調器12及びインテリジェントパワーモジュール(IPM)13を有する。
2相−3相変換器(d−q/UVW)11は、d軸電圧指令値Vd*及びq軸電圧指令Vq*、すなわち回転座標系(d−q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd*,Vq*)を電圧指令生成部30から受ける。2相−3相変換器11は、推定回転角度θe’を積分部60から受ける。2相−3相変換器11は、例えば、推定回転角度θe’に応じて、回転座標系(d−q座標系)における電圧指令ベクトル(Vd*,Vq*)を固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu*,Vv*,Vw*)へ変換する。
PWM変調器12は、固定座標系(UVW座標系)における電圧指令ベクトル(Vu*,Vv*,Vw*)、すなわちU相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*を2相−3相変換器11から受ける。PWM変調器12は、制御信号VDCに応じて、U相電圧指令Vu*、V相電圧指令Vv*、W相電圧指令Vw*をPWM信号に変換してインテリジェントパワーモジュール13へ供給する。これにより、PWM変調器12は、インテリジェントパワーモジュール13を介してモータMを駆動する。
インテリジェントパワーモジュール13は、PWM信号をPWM変調器12から受ける。インテリジェントパワーモジュール13は、例えば図示しない複数のスイッチング素子を有し、PWM信号に従って複数のスイッチング素子を所定のタイミングでスイッチング動作させることで電力変換動作を行い、生成された3相の交流信号U、V、WをモータMへ供給することにより、モータMを駆動する。
次に、電圧指令生成部30の構成について図1〜図3を用いて説明する。なお、以下では、
の代わりにId ̄と表し、
の代わりにIq ̄と表し、
の代わりにωm
〜と表すことにする。
電圧指令生成部30は、切り換え部39、モード制御部71、前置フィルタ31、減算器32、乗算器38、速度制御器33、d軸電流計算処理部34、q軸電流計算処理部44、第2の演算器35、第1の演算器45、d軸電流制御器36、q軸電流制御器46、第1の初期値付与部48、第2の初期値付与部49、非干渉化制御器41、減算器37、加算器47、ローパスフィルタ(第1のローパスフィルタ)42、ローパスフィルタ(第2のローパスフィルタ)43を備える。
切り換え部39は、q軸電流制御器46及びd軸電流制御器36が動作している状態を維持しながら、通常制御モード時の構成(図2参照)と弱め磁束制御モード時の構成(図3参照)とを切り換える。
具体的には、切り換え部39は、複数のスイッチSW1〜SW3を有する。
スイッチSW1は、第2の演算器35をd軸電流計算処理部34及び速度制御器33の一方に接続する。すなわち、スイッチSW1は、第2の演算器35に接続された端子T13、d軸電流計算処理部34に接続された端子T11、及び速度制御器33に接続された端子T12を有する。スイッチSW1は、端子T13を端子T11及び端子T12の一方に接続する。
スイッチSW2は、第1の演算器45を速度制御器33及びq軸電流計算処理部44の一方に接続する。すなわち、スイッチSW2は、第1の演算器45に接続された端子T23、q軸電流計算処理部44に接続された端子T22、及び速度制御器33に接続された端子T21を有する。スイッチSW2は、端子T23を端子T21及び端子T22の一方に接続する。
スイッチSW3は、減算器32を速度制御器33及び乗算器38の一方に接続する。すなわち、スイッチSW3は、減算器32に接続された端子T33、速度制御器33に接続された端子T31、及び乗算器38に接続された端子T32を有する。スイッチSW3は、端子T33を端子T31及び端子T32の一方に接続する。
例えば、通常制御モードにおいて、図2に示すように、スイッチSW1が端子T13を端子T11に接続し、スイッチSW2が端子T23を端子T21に接続し、スイッチSW3が端子T33を端子T31に接続するように切り換えている。
あるいは、例えば、弱め磁束制御モードにおいて、図3に示すように、スイッチSW1が端子T13を端子T12に接続し、スイッチSW2が端子T23を端子T22に接続し、スイッチSW3が端子T33を端子T32に接続するように切り換えている。
第1の初期値付与部48は、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換えられる際に、d軸電流検出値Idに応じた値、すなわちローパスフィルタ43に通したd軸電流検出値Id ̄を弱め磁束制御モードにおける積分制御の初期値として速度制御器33に入力させる。なお、速度制御器33は、後述のように、例えば、積分器を有している。
具体的には、第1の初期値付与部48は、スイッチSW5を有する。スイッチSW5は、ローパスフィルタ43を速度制御器33に接続する。すなわち、スイッチSW5は、ローパスフィルタ43に接続された端子T52、及び速度制御器33に接続された端子T51を有する。スイッチSW5は、端子T52及び端子T51の接続を導通させたり遮断させたりする。
例えば、通常制御モードにおいて、図2に実線で示すように、スイッチSW5が端子T52及び端子T51の接続を遮断させているが、通常制御モード中の通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換えられる直前のタイミングになると、図2に破線で示すように、スイッチSW5が端子T52及び端子T51の接続を導通させる。これにより、ローパスフィルタ43に通したd軸電流検出値Id ̄が積分制御の初期値として速度制御器33に入力される。そして、初期値の入力が完了すると、再び、図2に実線で示すように、スイッチSW5が端子T52及び端子T51の接続を遮断させている状態に戻る。
なお、弱め磁束制御モードにおいて、図3に示すように、スイッチSW5は、端子T52及び端子T51の接続を遮断させている。
第2の初期値付与部49は、弱め磁束制御モードから通常制御モードに切り換えられる際に、q軸電流検出値Iqに応じた値、すなわちローパスフィルタ42に通したq軸電流検出値Iq ̄を通常制御モードにおける積分制御の初期値として速度制御器33に入力させる。
具体的には、第2の初期値付与部49は、スイッチSW6を有する。スイッチSW6は、ローパスフィルタ42を速度制御器33に接続する。すなわち、スイッチSW6は、ローパスフィルタ42に接続された端子T62、及び速度制御器33に接続された端子T61を有する。スイッチSW6は、端子T62及び端子T61の接続を導通させたり遮断させたりする。
例えば、弱め磁束制御モードにおいて、図3に実線で示すように、スイッチSW6が端子T62及び端子T61の接続を遮断させているが、弱め磁束制御モード中の弱め磁束制御モードから通常制御モードに切り換えられる直前のタイミングになると、図3に破線で示すように、スイッチSW6が端子T62及び端子T61の接続を導通させる。これにより、ローパスフィルタ42に通したq軸電流検出値Iq ̄が積分制御の初期値として速度制御器33に入力される。そして、初期値の入力が完了すると、再び、図3に実線で示すように、スイッチSW6が端子T62及び端子T61の接続を遮断させている状態に戻る。
なお、通常制御モードにおいて、図2に示すように、スイッチSW6は、端子T62及び端子T61の接続を遮断させている。
モード制御部71は、ローパスフィルタ43を通したd軸電流検出値Id ̄を受け、ローパスフィルタ42を通したq軸電流検出値Iq ̄を受ける。モード制御部71は、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄に応じて、例えば、制御モードを通常制御モードに切り換え(移行)すべきか否かを判定したり、弱め磁束制御モードに切り換え(移行)すべきか否かを判定したりする。モード制御部71は、判定結果に応じて複数のスイッチSW1〜SW3を制御する。
例えば、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、d軸電流検出値Id ̄に基づいて、通常制御モードへ切り換えるべきか否かを判定する。モード制御部71は、例えば、最大トルク/電流曲線TIC(図6参照)におけるq軸電流検出値Iq ̄に対応したd軸電流の値をd軸電流基準値Idjとして求める。
このとき、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、負の領域にあるd軸電流検出値Id ̄がd軸電流基準値Idj未満であること(図9参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が通常制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す最大トルク/電流曲線TIC上における点A〜点Bの曲線上)に達していないと判断し、通常制御モードへ切り換えるべきでないと判定する。
また、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、負の領域にあるd軸電流検出値Id ̄がd軸電流基準値Idj以上であること(図10参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が通常制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す最大トルク/電流曲線TIC上における点A〜点Bの曲線上)に達したものと判断し、通常制御モードへ切り換えるべきであると判定する。
そして、モード制御部71は、通常制御モードへ切り換えるべきであるとの判定結果に応じて、スイッチSW6を一時的にオンさせた(図3に示す実線の状態→破線の状態→実線の状態と変化させた)後、複数のスイッチSW1〜SW3を図3に示す状態から図2に示す状態に切り換える。すなわち、モード制御部71は、弱め磁束制御モードから通常制御モードに切り換える際に、q軸電流検出値Iq ̄を通常制御モードにおける積分制御の初期値として速度制御器33に入力させるように第2の初期値付与部49を制御し、その後、弱め磁束制御モード時の構成(図3参照)から通常制御モード時の構成(図2参照)に切り換えるように切り換え部39を制御する。
あるいは、例えば、モード制御部71は、通常制御モードにおいて、q軸電流検出値Iq ̄及びd軸電流検出値Id ̄に応じた誘起電圧Voに基づいて、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきか否かを判定する。モード制御部71は、例えば、q軸電流検出値Iq ̄及びd軸電流検出値Id ̄に応じて、誘起電圧Voを求める(後述の式3,4参照)。また、モード制御部71は、例えば、最大誘起電圧値Vomを保持している。最大誘起電圧値Vomは、例えば、電圧飽和状態に対応した電圧値として予め実験的に取得されたものでも良いし、後述する式12により求めてもよい。
このとき、モード制御部71は、通常制御モードにおいて、求められた誘起電圧Vo(定誘起電圧楕円F01)が最大誘起電圧値Vom(定誘起電圧楕円F0)未満であること(図7参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が弱め磁束制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す斜線ハッチングの領域)に達していないと判断し、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきでないと判定する。
また、モード制御部71は、通常制御モードにおいて、求められた誘起電圧Vo(定誘起電圧楕円F02)が最大誘起電圧値Vom(定誘起電圧楕円F0)以上であること(図8参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が弱め磁束制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す斜線ハッチングの領域)に達したものと判断し、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきであると判定する。
そして、モード制御部71は、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきであるとの判定結果に応じて、複数のスイッチSW1〜SW3を図3に示す状態に切り換える。すなわち、モード制御部71は、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換える際に、d軸電流検出値Id ̄を弱め磁束制御モードにおける積分制御の初期値として速度制御器33に入力させるように第1の初期値付与部48を制御し、その後、通常制御モード時の構成(図2参照)から弱め磁束制御モード時の構成(図3参照)に切り換えるように切り換え部39を制御する。
前置フィルタ31は、角速度指令ωm*を外部から受ける。前置フィルタ31は、角速度指令ωm*に対して、角速度指令値の急激な変動を緩和する処理を施す。前置フィルタ31は、処理後の角速度指令ωm〜を減算器32へ出力する。
減算器32は、角速度指令ωm〜と推定角速度ωm’との差分である速度差分Δωmを求める。すなわち、減算器32は、角速度指令ωm〜を前置フィルタ31から受け、推定角速度ωm’を演算部20から受ける。減算器32は、角速度指令ωm〜から推定角速度ωm’を減算する。減算器32は、減算結果を速度差分Δωmとして速度制御器33側へ出力する。
例えば、通常制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW3が図2に示す状態に切り換えられている場合、減算器32は、速度差分ΔωmをスイッチSW3経由で速度制御器33へ出力する。
あるいは、例えば、弱め磁束制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW3が図3に示す状態に切り換えられている場合、減算器32は、速度差分ΔωmをスイッチSW3経由で乗算器38へ出力する。
乗算器38は、速度差分Δωmを受けた場合、速度差分Δωmに負のゲイン「−G」(例えば、−1)をかける。乗算器38は、速度差分に負のゲインをかけた値(−G×Δωm)を速度制御器33へ出力する。
速度制御器33は、速度差分Δωmに応じて、電流指令値を生成する。速度制御器33は、例えば、積分器及び比例器を有し、速度差分Δωmに応じて、積分器及び比例器を用いて電流指令値を生成する。
例えば、通常制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW2,SW3が図2に示す状態に切り換えられている場合、速度制御器33は、速度差分Δωmを減算器32から受け、速度差分Δωmから電流指令値を生成し、生成された電流指令値をq軸電流指令値Iq*としてd軸電流計算処理部34及び第1の演算器45へ出力する。
あるいは、例えば、弱め磁束制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW1,SW3が図3に示す状態に切り換えられている場合、速度制御器33は、速度差分に負のゲインをかけた値(−G×Δωm)を乗算器38から受け、速度差分に負のゲインをかけた値(−G×Δωm)から電流指令値を生成し、生成された電流指令値をd軸電流指令値Id*として第2の演算器35へ出力する。
d軸電流計算処理部34は、例えば通常制御モードにおいて、q軸電流指令値Iq*を速度制御器33から受ける。d軸電流計算処理部34は、q軸電流指令値Iq*に対して所定の計算処理を行い、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Id*に変換(Id*を計算)する。d軸電流計算処理部34は、例えば通常制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW1が図2に示す状態に切り換えられている場合、変換されたd軸電流指令値Id*を第2の演算器35へ出力する。
q軸電流計算処理部44は、例えば弱め磁束制御モードにおいて、d軸電流検出値に応じた値Id、すなわちローパスフィルタ処理が施されたd軸電流検出値Id ̄をローパスフィルタ43から受ける。q軸電流計算処理部44は、d軸電流検出値Id ̄に対して所定の計算処理を行い、d軸電流検出値Id ̄をq軸電流指令値Iq*に変換(Iq*を計算)する。q軸電流計算処理部44は、例えば弱め磁束制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW2が図3に示す状態に切り換えられている場合、変換されたq軸電流指令値Iq*を第1の演算器45へ出力する。
第2の演算器35は、d軸電流指令値Id*と、ローパスフィルタ処理が施されていないd軸電流検出値Idとを受けて、d軸電流指令値Id*とd軸電流検出値Idとの差分であるd軸電流差分ΔIdを求める。
例えば、通常制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW1が図2に示す状態に切り換えられている場合、第2の演算器35は、d軸電流指令値Id*をd軸電流計算処理部34から受け、d軸電流検出値Idを演算部20から受ける。第2の演算器35は、d軸電流指令値Id*からd軸電流検出値Idを減算する。第2の演算器35は、減算結果をd軸電流差分ΔIdとしてd軸電流制御器36へ出力する。
あるいは、例えば、弱め磁束制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW1が図3に示す状態に切り換えられている場合、第2の演算器35は、d軸電流指令値Id*を速度制御器33から受け、d軸電流検出値Idを演算部20から受ける。第2の演算器35は、d軸電流指令値Id*からd軸電流検出値Idを減算する。第2の演算器35は、減算結果をd軸電流差分ΔIdとしてd軸電流制御器36へ出力する。
第1の演算器45は、q軸電流指令値Iq*と、ローパスフィルタ処理が施されていないq軸電流検出値Iqとを受けて、q軸電流指令値Iq*とq軸電流検出値Iqとの差分であるq軸電流差分ΔIqを求める。
例えば、通常制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW2が図2に示す状態に切り換えられている場合、第1の演算器45は、q軸電流指令値Iq*を速度制御器33から受け、q軸電流検出値Iqを演算部20から受ける。第1の演算器45は、q軸電流指令値Iq*からq軸電流検出値Iqを減算する。第1の演算器45は、減算結果をq軸電流差分ΔIqとしてq軸電流制御器46へ出力する。
あるいは、例えば、弱め磁束制御モードにおいて、切り換え部39によりスイッチSW2が図3に示す状態に切り換えられている場合、第1の演算器45は、q軸電流指令値Iq*をq軸電流計算処理部44から受け、q軸電流検出値Iqを演算部20から受ける。第1の演算器45は、q軸電流指令値Iq*からq軸電流検出値Iqを減算する。第1の演算器45は、減算結果をq軸電流差分ΔIqとしてq軸電流制御器46へ出力する。
d軸電流制御器36は、d軸電流差分ΔIdに応じて、d軸電圧指令値Vd**を生成する。d軸電流制御器36は、例えば、積分器及び比例器を有し、d軸電流差分ΔIdに応じて、積分器及び比例器を用いてd軸電圧指令値Vd**を生成する。
すなわち、d軸電流制御器36は、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換えられる際に、d軸電流差分ΔIdを継続的に受けており、動作している状態が維持されている。また、d軸電流制御器36は、弱め磁束制御モードから通常制御モードに切り換えられる際に、d軸電流差分ΔIdを継続的に受けており、動作している状態が維持されている。これにより、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの間の切り換え前後におけるd軸電流制御器36の内部状態を互いに近いものとすることができる。
また、d軸電流制御器36は、通常制御モード用の制御器及び弱め磁束制御モード用の制御器として共通化されている。すなわち、d軸電流制御器36は、通常制御モード及び弱め磁束制御モードのそれぞれにおいて、d軸電流差分ΔIdを継続的に受けており、d軸電流差分ΔIdに応じて、d軸電圧指令値Vd**を継続的に生成する。これにより、通常制御モードにおけるd軸電流制御器36の内部状態と、弱め磁束制御モードにおけるd軸電流制御器36の内部状態とを、互いに近いものとすることができる。
q軸電流制御器46は、q軸電流差分ΔIqに応じて、q軸電圧指令値Vq**を生成する。q軸電流制御器46は、例えば、積分器及び比例器を有し、q軸電流差分ΔIqに応じて、積分器及び比例器を用いてq軸電圧指令値Vq**を生成する。
すなわち、q軸電流制御器46は、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換えられる際に、q軸電流差分ΔIqを継続的に受けており、動作している状態が維持されている。また、q軸電流制御器46は、弱め磁束制御モードから通常制御モードに切り換えられる際に、q軸電流差分ΔIqを継続的に受けており、動作している状態が維持されている。これにより、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの間の切り換え前後におけるq軸電流制御器46の内部状態を互いに近いものとすることができる。
また、q軸電流制御器46は、通常制御モード用の制御器及び弱め磁束制御モード用の制御器として共通化されている。すなわち、q軸電流制御器46は、通常制御モード及び弱め磁束制御モードのそれぞれにおいて、q軸電流差分ΔIqを継続的に受けており、q軸電流差分ΔIqに応じて、q軸電圧指令値Vq**を継続的に生成する。これにより、通常制御モードにおけるq軸電流制御器46の内部状態と、弱め磁束制御モードにおけるq軸電流制御器46の内部状態とを、互いに近いものとすることができる。
非干渉化制御器41は、ローパスフィルタ42から出力されたq軸電流検出値Iq ̄とローパスフィルタ43から出力されたd軸電流指令値Id ̄とを用いて、q軸電圧指令値Vq**とd軸電圧指令値Vd**とを非干渉化させる。具体的には、非干渉化制御器41は、q軸側非干渉化器41q及びd軸側非干渉化器41dを有する。
q軸側非干渉化器41qは、d軸電流検出値Id ̄をローパスフィルタ43から受け、d軸電流検出値Id ̄に応じて、q軸電圧指令値Vq**を非干渉化するための非干渉化補正値Vqaを求める。q軸側非干渉化器41qは、非干渉化補正値Vqaを加算器47へ出力する。
d軸側非干渉化器41dは、q軸電流検出値Iq ̄をローパスフィルタ42から受け、q軸電流検出値Iq ̄に応じて、d軸電圧指令値Vd**を非干渉化するための非干渉化補正値Vdaを求める。d軸側非干渉化器41dは、非干渉化補正値Vdaを減算器37へ出力する。
減算器37は、d軸電圧指令値Vd**を非干渉化補正値Vdaで補正する。すなわち、減算器37は、d軸電圧指令値Vd**をd軸電流制御器36から受け、非干渉化補正値Vdaをd軸側非干渉化器41dから受ける。減算器37は、d軸電圧指令値Vd**から非干渉化補正値Vdaを減算する。減算器37は、減算結果を非干渉化後のd軸電圧指令値Vd*として駆動部10及び演算部20へ出力する。
加算器47は、q軸電圧指令値Vq**を非干渉化補正値Vqaで補正する。すなわち、加算器47は、q軸電圧指令値Vq**をq軸電流制御器46から受け、非干渉化補正値Vqaをq軸側非干渉化器41qから受ける。加算器47は、q軸電圧指令値Vq**と非干渉化補正値Vqaとを加算する。加算器47は、加算結果を非干渉化後のq軸電圧指令値Vq*として駆動部10及び演算部20へ出力する。
ローパスフィルタ42は、q軸電流検出値Iqを演算部20から受ける。ローパスフィルタ42は、q軸電流検出値Iqに対してローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ42は、処理後のq軸電流検出値Iq ̄を、モード制御部71、非干渉化制御器41、及び第2の初期値付与部49へ出力する。
ローパスフィルタ43は、d軸電流検出値Idを演算部20から受ける。ローパスフィルタ43は、d軸電流検出値Idに対してローパスフィルタ処理を施す。ローパスフィルタ43は、処理後のd軸電流検出値Id ̄を、モード制御部71、q軸電流計算処理部44、非干渉化制御器41、及び第1の初期値付与部48へ出力する。
仮に、ローパスフィルタ42及びローパスフィルタ43がない場合、弱め磁束制御モード時では、出力電圧が飽和すると、電流制御器の急峻な変化に対して電圧が出力できない(PWMフルデューティなど)などの理由から、制御器が過補正してモータMが脱調停止する可能性がある。
それに対して、本実施の形態では、d軸電流検出値Id及びq軸電流検出値Iqをそれぞれローパスフィルタ42,43に通して、急峻な変化を除去した値を制御に使用することで安定性を確保できる。
具体的には、通常時から弱め磁束制御への移行判定、あるいはその逆の復帰判定に使用し、切換時に速度PI制御器の積分メモリをその平均値で初期化することにより、切換ショックの無いモード移行を実現できる。
また弱め磁束制御モード時のq軸電流計算処理部44におけるq軸電流の生成処理で、ローパスフィルタ42を通過させたd軸電流検出値Id ̄をq軸電流制御器46の参照電流値の計算要素として使用することにより、電圧飽和に伴う電流波形の歪みを極力減少させることができる。
次に、モータ制御装置1の動作について図6を用いて説明する。図6は、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの切り換え動作を示す図である。
モータ制御装置1により制御されるモータMは、上述のように、例えば、突極比が1より大きなモータである。
モータMは、d軸のインダクタンスLdに対するq軸のインダクタンスLqの比である突極比Lq/Ldが1より大きなモータであり、例えば、IPM(Interior Permanent Magnetic)モータである。
IPMモータは、例えば、回転子の内部に永久磁石を埋め込んだ埋込磁石構造を有している。d軸は、回転子の磁極がつくる磁束の方向(永久磁石の中心軸)を表し、磁束軸とも呼ばれる。q軸は、d軸と電気的、磁気的に直交する軸(永久磁石間の軸)を表し、トルク軸とも呼ばれる。図示しないが、d軸電流Idによる鎖交磁束は、透磁率の低い磁石が途中にあるために制限されるのに対して、q軸電流Iqによる鎖交磁束は、磁石より透磁率の高い材質(例えばケイ素鋼)中を通るので大きくなる。IPMモータは、その定常運転時において、d軸の磁気抵抗がq軸の磁気抵抗より大きくなり、d軸のインダクタンスLdがq軸のインダクタンス(inductance)Lqより小さくなる。すなわち、d軸のインダクタンスLdに対するq軸のインダクタンスLqの比である突極比Lq/Ldが1より大きな値になっている。
このような突極比が1より大きなモータMでは、後述の式8に示されるように、インダクタンスの突極性を利用したリラクタンストルクにより、モータMへの印加電圧、すなわちPWM電圧が飽和した後も回転数を上昇させることができる。PWM電圧の飽和後は、負値のd軸電流を増加させてリラクタンストルクの増加を図ることができる。
図6に示すモータMの運転特性では、最大トルク/電流曲線TIC、定誘起電圧楕円F0〜F2、定トルク曲線T1,T2、最大トルク/誘起電圧曲線TVCが示されている。
モータ制御装置1は、通常制御モードにおいて、図6に示す最大トルク/電流曲線TICにおける点A〜点Bに沿ってd軸電流及びq軸電流を制御する。モータMは定常状態(任意の回転数で定速運転)で運転しているとして、電流の時間変化に伴う誘起電圧項を無視すると、モータM(同期電動機)の電圧電流方程式は下記の式1となる。
図6に示すモータMの運転特性では、定トルク曲線T1と最大トルク/電流曲線TICとの交点である点Bは、PWMがフルデューティになり電圧が飽和した状態(電圧飽和点)でのモータMの出力トルクと負荷トルクとが一致する点を示す。なお、点Bの位置は、負荷の状態により異なる。
よって、点Bまでは任意の回転数で効率よくモータM(同期電動機)を制御できることになる。点A〜点Bの区間に於いては、最大トルク/電流曲線TIC上で運転するのが最も効率が良く、マグネットトルクとリラクタンストルクとの相乗効果が最適に働くように負側にd軸電流を制御する。
速度制御のためq軸側の電流を制御器でフィードバックして制御した場合、その時に最大トルク/電流曲線TIC上をトレースするためのd軸電流値は、以下の式2で与えられる。この式2に則って制御する方式を、通常制御モード(最大トルク/電流制御モード)と呼ぶことにする。
点Bにおいて更に交差している定誘起電圧楕円F0は、点Bでの電圧飽和時の誘起電圧を示す曲線である。誘起電圧は、モータM(同期電動機)の駆動電圧から、巻線抵抗による電圧降下分を差し引いた電圧であり、上記の式1から、下記の式3で表される値となる。
誘起電圧のスカラ値Voは、下記の式4に示すようになる。
因みに、モータM(同期電動機)に与えられる駆動電圧のスカラ値は、下記の式5に示すようになる。
ところで、定誘起電圧楕円F0〜F2は、それぞれ、式4に示す誘起電圧のスカラ値Voが一定となるd軸電流とq軸電流との軌跡である。誘起電圧のスカラ値Voは、点Bにおいては、飽和電圧から抵抗による電圧降下分を引いた値が最大値となる。また、誘起電圧は、上記の式3に示されるように、角速度ωeの関数でもあり、各定誘起電圧楕円F0〜F2の軌跡は、モータM(同期電動機)が定速度で運転する軌跡でもある。
もし、図6の点Bで負荷が上昇したとして、定誘起電圧楕円F0をトレースするd軸電流、q軸電流にて制御すれば、点Bでの速度を維持し続けることができる。負荷がT2であれば定トルク曲線T2と定誘起電圧楕円F0との交点(点C)で示されるd軸電流、q軸電流に合せることにより速度維持が可能である。なお、定トルク曲線は、上にいくほどトルクが大きくなる(例えば、T2>T1)。
定誘起電圧楕円F0〜F2は、モータM(同期電動機)の回転数上昇とともに、その径が小さくなる。図6では、定誘起電圧楕円が回転数の上昇とともにF0→F1→F2の方向に径が縮小する。
図6に示す点A〜点Bの区間におけるベクトル図(モータM(同期電動機)の特性により異なる)の例を、図11に示す。なお、図11のベクトル図は説明のため拡大してある。よって、以降のベクトル図(図12、図13)とは縮尺が異なることに注意されたい。
図11に示すφ0は磁束の大きさを示し、磁束の大きさφ0は次の式6に示すように求められる。
次に、電圧飽和点Bにおけるベクトル図を図12に示す。ベクトル線分の意味は、図11中に示した値と同様である。電圧飽和点Bでは、駆動電圧が最大値となっているので、この時の誘起電圧Voを最大誘起電圧値Vomとする。ただし、誘起電圧は前述の通りモータMの駆動電圧から抵抗による電圧降下分を差し引いた値なので、駆動電流値により最大値は多少変化する。よって、定数値として与える場合は、全運転領域で抵抗による電圧降下分を考慮した値としなくてはならない。
電圧飽和点Bでは、PWM電圧が飽和しており、通常制御モードではそれ以上回転数を上昇させることが困難であるので、モータ制御装置1は、通常制御モードから弱め磁束制御モードに切り換える。弱め磁束制御モードでは、誘起電圧Voを最大誘起電圧値Vomに維持したままモータM(同期電動機)の回転速度を上昇させる制御を行う。
もし、負荷が回転数によらず一定であれば、図6の定トルク曲線T1の線上を左方向に推移することになる。定トルク曲線T1と交差する定誘起電圧楕円の径は縮小方向となるので、モータM(同期電動機)の速度を上昇させることが出来る。
しかし、コンプレッサ負荷の場合、回転数の上昇とともに負荷が増加するので、定トルク曲線は上方向に推移する。例えば、ある状態のコンプレッサ負荷がトルクT2(定トルク曲線T2)まで上昇したとすれば、定誘起電圧楕円はF0〜F1まで推移可能であり、モータM(同期電動機)は定誘起電圧楕円F1上まで速度を上昇させることが出来る。
よって、弱め磁束制御モードでは、回転数の上昇指令に対して、図6の点B、点C、点D、点Eが囲む領域(斜線ハッチングの領域)内で適切なd軸電流、q軸電流を選択する制御を行うことになる。
誘起電圧の上限値を最大誘起電圧値Vomとした時の、定誘起電圧楕円を示す式は、上記の式4のVoをVomに書き換えて、次の式7となる。等号の場合が、PWMの出力限界の場合である。
図6より、定誘起電圧条件下で回転速度を上昇させるには、負のd軸電流を増加させれば良いことが分る。ベクトル図では図13の様になる。図13からd軸電流の絶対値が増加してd軸側磁束とq軸側誘起電圧が減少し、電流角がリラクタンストルク寄りに進角したことが分る。
突極比のあるモータM(同期電動機)では、出力トルクTは、次の式8で計算される。
式8において、Pn×φa×Iqの項がマグネットトルクを示し、Pn×(Ld−Lq)×Id×Iqの項がリラクタンストルクを示している。弱め磁束制御モード(図13参照)では、q軸電流Iqが通常制御モード(図11参照)より減少することがあるので、マグネットトルクは減少するケースもある。
しかし、突極比Lq/Ldが1より大きな値であると、(Ld−Lq)が負の値になっているので、負側にd軸電流を増加させれば、マグネットトルクの減少分を補うように、リラクタンストルクを増加させることができ、切り換え前のトルクを維持することができる。
式8のトルク式からTが一定になる様に描いた曲線が、図6の定トルク曲線T1,T2である。
次に、通常制御モードにおけるベクトル制御アルゴリズムについて図14及び図15を用いて説明する。図14は、通常制御モードにおける電圧指令生成部30の一部の構成を示す図である。図15は、前置フィルタ31の内部構成を示す図である。
前置フィルタ31は、角速度指令ωm*の急激な変動を緩和して制御器群の過剰な反応を抑える働きをする。前置フィルタ31は、例えば、図15に示すような単純な一次遅れ構成とすることができる。前置フィルタ31は、加算器31a及び積分器31bを有する。加算器31aは、角速度指令ωm*と、積分器31bにより演算された角速度指令ωm〜とを加算して、加算結果を積分器31bに入力する。積分器31bは、入力された加算結果に対して、係数KPRをかけるとともに積分を行う。積分器31bの係数KPRは下記の式9の様にする。式9におけるKI,KPは次段の速度制御器33の積分および比例係数である。なお、速度制御器33は、例えば、積分器及び比例器に加えて、微分器を有してもよい。
また、d軸電流計算処理部34は、次の式10に示す計算処理を行って、q軸電流指令値Iq*をd軸電流指令値Id*に変換する。
次に、弱め磁束制御モードにおけるベクトル制御アルゴリズムについて図16を用いて説明する。図16は、弱め磁束制御モードにおける電圧指令生成部30の一部の構成を示す図である。
図6に示す点Bを境に更にモータM(同期電動機)の速度上昇を図る場合、d軸電流によるリラクタンストルクを積極的に使用することになる。
図6において、例えば負荷トルクがT1のままであったとすれば、増速に伴いd軸電流、q軸電流は、定トルク曲線T1上を左方向に移動する。このとき、d軸電流は増加するが、逆にq軸電流は減少することになる。
コンプレッサ負荷の場合、増速につれて負荷も上昇するので、d軸電流、q軸電流とも電流制限がかかるまで増加の傾向となる状態が一般的とは思われるが、本発明者による検討の結果、q軸電流(q軸電圧)が常に増加方向とは限らないということが分かったので、制御アルゴリズムにこれを反映させなくてはならない。
そこで、弱め磁束制御モード時はリラクタンストルクを主制御として、速度制御をd軸側に移すように電圧指令生成部30の構成を切り換える。弱め磁束制御モードに移行すると、電圧指令生成部30の構成が図14に示す構成から図16に示す構成に切り換わる。
図16中のローパスフィルタ(LPF)43はd軸電流の急峻な変動を抑える為に挿入している。基本的に弱め磁束制御モード時はPWMの電圧出力が飽和しているので、変動値に瞬時に対応するだけの電圧を出力できないケースが多い。特に弱め磁束制御モードでは、速度追従をd軸側で行うのでq軸側の逐次修正と競合して、発散による制御不能な状態に陥らない様にするため、q軸電流指令値を作るd軸電流にローパスフィルタ43を挿入している。
ローパスフィルタ43は、例えば一次遅れフィルタとし、そのカットオフ周波数を例えば数十(Hz)とする。
また、q軸電流計算処理部44は、上記の式7の定誘起電圧式から導かれる次の式11に示す計算処理を行って、ローパスフィルタ43に通したd軸電流検出値Id ̄をq軸電流指令値Iq*に変換する。
式11で使用する最大誘起電圧値Vomは、線間2相変調の場合、d軸電流及びq軸電流の平均電流値と巻線抵抗値を用いて、次の式12により求められる。ここで、VDCは直流母線電圧である。
なお、最大誘起電圧値Vomを求める際に直流母線電圧VDCにかける係数は、変調の方式により異なる。例えば、線間2相変調の場合、式12に示すように、1/√(2)である。あるいは、例えば、3相変調の場合、√(3)/(2×√(2))である。すなわち、3相変調の場合、式12における1/√(2)を√(3)/(2×√(2))に置き換えた式により、最大誘起電圧値Vomを求めることができる。
本アルゴリズムは、d軸側に速度制御を移したという以外、特に制御器のパラメタは通常制御モード時と同一としてある。ただし、d軸電流は増速に対して負側に増加するので、図16に示す通り負のゲイン「−G」(例えば、−1)を付加している。
また、非干渉化制御器41の計算値も、前述の理由から、ローパスフィルタ43に通したd軸電流検出値Id ̄、及びローパスフィルタ42に通したq軸電流検出値Iq ̄を適用した以下の式13,14としている。これらの式13,14を使用すると、制御による変動値を抑えることができ、電流波形を滑らかにでき高調波を減少できる。
なお、過渡的な修正分を電流PI制御器(d軸電流制御器36、q軸電流制御器46)が受け持つとすれば、非干渉化項はモータM(同期電動機)の電圧電流方程式で定速運転時の定常項(式1)を与えるものであるから、あまり急峻に反応しなくても良いと思われる。そこで、通常制御モード時も非干渉化項に式13,14を適用している。
すなわち、通常制御モード時と弱め磁束制御モード時とで、式13,14を共通に適用できれば、モード切換に伴うローパスフィルタ42,43の動作の不連続性を回避できる。
次に、モード制御部71における制御モードの切り換え(移行)の判定について図7〜図10を用いて説明する。図7及び図8は、通常制御モードから弱め磁束制御モードへの切り換え動作を示す図である。図9及び図10は、弱め磁束制御モードから通常制御モードへの切り換え動作を示す図である。
通常制御モードから弱め磁束制御モードへの切り換え(移行)の判定を行うための判定式、及びその逆の切り換え(移行)の判定を行うための判定式を以下に示す。
通常制御モードから弱め磁束制御モードへの切り換え(移行)の判定を行うための判定式は、例えば、式7を磁束式の形で適用すると、式12がPWMの飽和電圧であるので、その上限電圧を指令回転数ωe〜(=ωm〜×Pn)で除した磁束が、通常制御モードの上限磁束となる。この磁束値と、インダクタンスから計算した平均磁束との差分を、下記の判定式(式15)とする。
式15が満たされる時(すなわち、fVj(IN)が負の時)、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ切り換える。式15を計算する為に、d軸電流とq軸電流は、それぞれ、ローパスフィルタ43,42に通過させた値Id ̄,Iq ̄を採用している。
仮に、判定式に瞬時値を適用するとモード切換点の直近で頻繁に判定式が反応して、その結果、大きな速度脈動が発生する可能性があり、モード移行点が不連続点となりやすい。
そこで、式15では、平滑した電流値Id ̄,Iq ̄を採用することで、モータ制御装置がヒステリシスを持つような構成にしなくても、モード移行点が不連続となりにくいために、切り換えによるハンチングを抑制できる。
なお、式15は磁束の形としたが、誘起電圧Voの形として式15における右辺第二項の磁束に指令回転数を掛けて、上限電圧すなわち最大誘起電圧値Vomと比較しても良い。
例えば、図1に示すモータ制御装置1では、モード制御部71は、通常制御モードにおいて、求められた誘起電圧Voが最大誘起電圧値Vom未満であること(図7参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が弱め磁束制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す斜線ハッチングの領域)に達していないと判断する。例えば、現在の制御点が図7に示す制御点CP1である場合、定誘起電圧楕円F0が最大誘起電圧値Vomに対応しているので、制御点CP1を通る定誘起電圧楕円F01の誘起電圧値Vo1は、最大誘起電圧値Vom未満の値となる。この制御点CP1は、最大トルク/電流曲線TIC上における点Aから点Bに至る制御領域(通常制御モードの制御領域)の途中の点であり、斜線の制御領域(弱め磁束制御モードの制御領域)に接続される点Bまで達していない。このとき、モード制御部71は、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきでないと判定する。
例えば、図1に示すモータ制御装置1では、モード制御部71は、通常制御モードにおいて、求められた誘起電圧Voが最大誘起電圧値Vom以上であること(図8参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が弱め磁束制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す斜線ハッチングの領域)に達したものと判断する。例えば、現在の制御点が図8に示す制御点CP2である場合、定誘起電圧楕円F0が最大誘起電圧値Vomに対応しているので、制御点CP2を通る定誘起電圧楕円F02の誘起電圧値Vo2は、最大誘起電圧値Vom以上の値となる。この制御点CP2は、最大トルク/電流曲線TIC上における点Aから点Bに至る制御領域(通常制御モードの制御領域)を通過した点であり、斜線の制御領域(弱め磁束制御モードの制御領域)に接続される点Bまで達している。このとき、モード制御部71は、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきであると判定する。
また、弱め磁束制御モードから通常制御モードへの移行の判定を行うための判定式は、上記の式2を使用する。すなわち、ローパスフィルタ43,42に通過させた値Id ̄,Iq ̄と角速度指令ωm*とで式2を計算して、d軸電流値の大小により移行判定を行うため、判定式は、下記の式16としている。
式16が満たされる時(すなわち、fVj(OUT)が0以上の時)、弱め磁束制御モードから通常制御モードへ切り換える。
例えば、図1に示すモータ制御装置1では、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、d軸電流検出値Id ̄がd軸電流基準値Idj未満であること(図9参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が通常制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す最大トルク/電流曲線TIC上における点A〜点Bの領域)に達していないと判断する。例えば、現在の制御点が図9に示す制御点CP3である場合、制御点CP3のd軸電流値Id3は、最大トルク/電流曲線TICにおける制御点CP3のq軸電流値Iq3に対応したd軸電流基準値Idj3未満の値となる。この制御点CP3は、斜線の制御領域(弱め磁束制御モードの制御領域)の途中の点であり、最大トルク/電流曲線TIC上における点Aから点Bに至る制御領域(通常制御モードの制御領域)に接続される点Bまで達していない。このとき、モード制御部71は、通常制御モードへ切り換えるべきでないと判定する。
例えば、図1に示すモータ制御装置1では、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、d軸電流検出値Id ̄がd軸電流基準値Idj以上であること(図10参照)に応じて、d軸電流検出値Id ̄及びq軸電流検出値Iq ̄が通常制御モードに対応した制御領域(例えば、図6に示す最大トルク/電流曲線TIC上における点A〜点Bの領域)に達したものと判断する。例えば、現在の制御点が図10に示す制御点CP4である場合、制御点CP4のd軸電流値Id4は、最大トルク/電流曲線TICにおける制御点CP4のq軸電流値Iq4に対応したd軸電流基準値Idj4以上の値となる。この制御点CP4は、斜線の制御領域(弱め磁束制御モードの制御領域)を通過した点であり、最大トルク/電流曲線TIC上における点Aから点Bに至る制御領域(通常制御モードの制御領域)に接続される点Bまで達している。このとき、モード制御部71は、通常制御モードへ切り換えるべきであると判定する。
なお、モード制御部71は、移行に伴う初期化処理の制御も行う。例えば、モード制御部71は、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ移行する場合、速度制御用PI制御器(速度制御器33)の積分器をd軸電流のLPF通過値で初期化させ、その逆の場合、速度制御用PI制御器(速度制御器33)の積分器をq軸電流のLPF通過値で初期化させる。
以上のように、実施の形態では、モータ制御装置1において、ローパスフィルタ(第1のローパスフィルタ)42が、q軸電流検出値Iqに対してローパスフィルタ処理を施してq軸電流検出値Iq ̄を生成し、生成されたq軸電流検出値Iq ̄を非干渉化制御器41へ出力する。ローパスフィルタ(第2のローパスフィルタ)43は、d軸電流検出値Idに対してローパスフィルタ処理を施してd軸電流検出値Id ̄を生成し、生成されたd軸電流検出値Id ̄を非干渉化制御器41へ出力する。非干渉化制御器41は、ローパスフィルタ42から出力されたq軸電流検出値Iq ̄とローパスフィルタ43から出力されたd軸電流検出値Id ̄とを受ける。非干渉化制御器41は、q軸電流検出値Iq ̄とd軸電流検出値Id ̄とを用いて、q軸電圧指令値Vq**とd軸電圧指令値Vd**とを非干渉化させる。これにより、ローパスフィルタ処理が施されたq軸電流検出値Iq ̄とローパスフィルタ処理が施されたd軸電流指令値Id ̄とを用いて、q軸電圧指令値Vq**とd軸電圧指令値Vd**とを非干渉化させるので、d軸電流及びq軸電流の急峻な変動を緩和して非干渉化を行うことができ、非干渉化による制御値の急峻な変動を抑えることができる。この結果、モータ電流の波形を滑らかにでき高調波を減少できる。さらに、非干渉化による制御値の急峻な変動を抑えることができるので、例えば通常制御モードと弱め磁束制御モードの間で制御モードを切り換える場合に、通常制御モードと弱め磁束制御モードの間の切り換え前後におけるq軸電圧指令値及びd軸電圧指令値の安定した非干渉化を実現でき、切り換えショックを低減できる。
また、実施の形態では、モータ制御装置1において、第1の演算器45が、q軸電流指令値Iq*とローパスフィルタ処理が施されていないq軸電流検出値Iqとを受け、両者の差分を取ることでq軸電流差分ΔIqを求めてq軸電流制御器46へ出力する。また、第2の演算器35が、d軸電流指令値Id*とローパスフィルタ処理が施されていないd軸電流検出値Idとを受け、両者の差分を取ることでd軸電流差分ΔIdを求めてd軸電流制御器36へ出力する。これにより、過渡的な修正分をq軸電流制御器46及びd軸電流制御器36に受け持たせることができるとともに、上記のように、非干渉化による制御値の急峻な変動を抑えることができる。この結果、定常状態だけでなく過渡状態での応答性を高めつつ、モード切り換え時のショックを低減できる。
また、実施の形態では、モータ制御装置1において、モード制御部71が、通常制御モードにおいて、ローパスフィルタ42から出力されたq軸電流検出値Iq ̄及ローパスフィルタ43から出力されたd軸電流検出値Id ̄に応じた誘起電圧Voに基づいて、弱め磁束制御モードへ切り換えるべきか否かを判定する。これにより、ローパスフィルタ処理が施されたq軸電流検出値Iq ̄とローパスフィルタ処理が施されたd軸電流検出値Id ̄とを用いることができ、d軸電流及びq軸電流についてそれぞれ急峻な変動を緩和できる、すなわち変動の平均をとることができるので、通常制御モードから弱め磁束制御モードへ切り換えるべきか否かをd軸電流及びq軸電流の通常制御モードでのモータ駆動を通じて得られた平滑された値、すなわち変動における中間値で判定できる。また、モード制御部71は、弱め磁束制御モードにおいて、ローパスフィルタ処理が施されたd軸電流検出値Id ̄に基づいて、通常制御モードへ切り換えるべきか否かを判定する。これにより、ローパスフィルタ処理が施されたd軸電流検出値Id ̄を用いることができ、d軸電流について急峻な変動を緩和できる、すなわち変動の平均をとることができるので、弱め磁束制御モードから通常制御モードへ切り換えるべきか否かをd軸電流の弱め制御モードでのモータ駆動を通じて得られた平滑された値、すなわち変動における中間値で判定できる。したがって、モード移行点が不連続となりにくいため、切り換えショックを小さくできる。
また、実施の形態では、モータ制御装置1において、切り換え部39が、モード制御部71の判定結果に応じて、q軸電流制御器46及びd軸電流制御器36が動作している状態を維持しながら、通常制御モードにおいて速度制御器33からq軸電流制御器46側へ電流指令値がq軸電流指令値Iq*として出力され、弱め磁束制御モードにおいて速度制御器33からd軸電流制御器36側へ電流指令値がd軸電流指令値Id*として出力されるように、切り換える。これにより、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの間の切り換え前後におけるd軸電流制御器36の内部状態を互いに近いものとすることができ、通常制御モード及び弱め磁束制御モードの間の切り換え前後におけるq軸電流制御器46の内部状態を互いに近いものとすることができるので、各電流制御器のゲインを変えることなく、安定した制御の切り換えを行うことができる。すなわち、各制御器の構成を切り換え前後で極力変化させないようにしているため、各制御器における時系列的な内部状態の違いによる切り換えショックを低減できる。
また、実施の形態では、速度制御器33、d軸電流制御器36、及びq軸電流制御器46が、それぞれ、通常制御モード用の制御器及び弱め磁束制御モード用の制御器として共通化されている。これにより、通常制御モードと弱め磁束制御モードとのそれぞれ専用の制御器を用いる場合に比べて、各制御器の間の内部状態の違いが切り換えショックに与える影響を低減できる。