JP7009146B2 - アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法、複極式電解槽 - Google Patents

アルカリ水電解用隔膜及びその製造方法、複極式電解槽 Download PDF

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Description

本発明は、高分子樹脂繊維と無機化合物を含む高分子多孔膜とで構成されるアルカリ水電解用隔膜及びその製造方法、それを用いたアルカリ水電解用複極式電解槽に関する。
隔膜は濃縮、精製、濾過、透析など様々な分野で利用されており、その素材、孔径、厚みなどを最適化する為、開発が盛んに行われている。また、近年は目的ごとにさらなる高性能化や機能特化を目指して、特に、燃料電池や再生可能エネルギーなどの新エネルギー分野やリチウムイオン二次電池等の蓄電池分野では、安全性と性能を両立する隔膜の需要が日に日に高まっている。とりわけ広い温度、圧力、pHの範囲でも使用できる隔膜の開発要求は非常に高い。
水素は、石油精製、化学合成材料、金属精製、定置用燃料電池等、工業的に広く利用されている。近年は、燃料電池車(FCV)向けの水素ステーションやスマートコミュニティ、水素発電所等における利用の可能性も広がっている。さらに、再生可能エネルギーの導入が進むにつれて、電力網の需給バランスを維持する必要が出てきたため、大容量の電力を長期間貯められる水素ストレージのニーズも高まっている。かかる観点から、高純度の水素の製造技術に注目が集まっている。
水素の工業的な製造方法の一つとして、水の電気分解がある。この方法は、化石燃料を改質する水素の製造方法に比べ、高純度の水素が得られるという利点がある。水の電気分解では、導電性を高めるために、水酸化ナトリウムや水酸化カリウム等の電解質を添加した水溶液を、電解液として用いることが一般的である。この電解液に、陰極と陽極によって直流電流を印加することで、水を電気分解する。
電気分解(以下、単に「電解」という場合がある。)を行うための電解槽は、隔膜を介して陽極室と陰極室に仕切られている。陽極室では酸素ガスが生成し、陰極室では水素ガスが生成する。隔膜には、この酸素ガスと水素ガスが混合しないように、ガス遮断性が求められる。
水の電気分解において電気(電子)を運ぶ媒体はイオンである。そのため、電気分解を効率よく行うために、隔膜には、高いイオン透過性が求められる。かかる観点から、特許文献1では高いイオン透過性を発現する隔膜として、微多孔膜構造を有する隔膜が考えられている。
加えて、電気分解を長期間効率よく安定して行うために、電解槽を構成する陽極、陰極、及び隔膜には物理的、及び化学的安定性が求められる。かかる観点から、隔膜は耐久性に優れた材料を用いて、ガス遮断性と高いイオン透過性を両立することが求められる。
また、物理的、及び化学的安定性が高い材料として、ポリフェニレンサルファイドがアルカリ水電解用の基材や隔膜材料として用いられることがあり、特許文献2においては、親水性付与の為に表面へプラズマ処理等がなされているが、高温アルカリ環境下では表面に形成された親水基が分解される恐れがある。また、特許文献3では、隔膜の強度を持たせる為に平織物が用いられているが、大面積化や大量生産が困難である。
国際公開第2013/183584号 特開2016-89197号公報 特開2014-152407号公報
さらに、本発明者が鋭意検討した結果、難溶解性のポリマーの高分子樹脂繊維を抄紙する不織布作成技術を適用し、高分子樹脂繊維不織布をアルカリ水電解用隔膜として用いる場合、疎水性が継時的に強くなり気泡が付着することでイオン導電性が低くなる課題を見出した。さらに繊維の極細化によって機械強度が減少し、ハンドリングの際や長期運転時において膜破れやピンホールが発生するという課題があった。
アルカリ水電解用隔膜には、高イオン導電性と高ガスバリア性及び高機械強度を両立することが求められ、形態としてはイオン交換膜と多孔膜に大別される。高い導電性を出すためには、電解液の高電導度を直接利用できる多孔膜が優れているが、ガスバリア性と両立するためには多孔膜の孔径をサブミクロンサイズで精密に制御しなければならない。
一方、高い電解性能が期待できる高濃度・高アルカリ環境で使用できる高分子は、耐加水分解性が高いPTFEやPPSに限られ、このような難溶解性のポリマーで多孔膜の細孔を制御することは容易ではない。難溶解性のポリマーの高分子樹脂繊維を抄紙する不織布作成技術を適用し、高分子樹脂繊維不織布をアルカリ水電解用隔膜として用いる場合、疎水性が継時的に強くなり気泡が付着することでイオン導電性が低くなる課題を見出した。さらに繊維の極細化によって機械強度が減少し、ハンドリングの際や長期運転時において膜破れやピンホールが発生するという課題があった。
本発明は、上記した問題に鑑みなされたものであり、長期間安定して高いイオン伝導性とガスバリア性・機械強度を有する隔膜を得ることを目的とし、長期に亘り低いセル電圧を保ったまま高効率で水素製造を可能とする大型の工業用水電解槽を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、適切な繊維径を有する細い高分子樹脂繊維と太い高分子樹脂繊維とを適切な割合で含有させ、さらに無機化合物を適切な割合で含有させることにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
[1]
少なくとも1種類の高分子樹脂繊維と、無機化合物とを含む高分子多孔膜で構成され、
前記高分子樹脂繊維が、少なくとも、0.1μm以上5μm未満の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(A)と、5.0μm以上100μm以下の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(B)とで構成されており、前記高分子樹脂繊維100質量%に対して、前記高分子樹脂繊維(A)を20質量%~80質量%、前記高分子樹脂繊維(B)を20質量%~80質量%有し、
前記無機化合物の含有量が、前記高分子樹脂繊維(A)及び前記高分子樹脂繊維(B)と前記無機化合物との合計量100質量%に対して50質量%~90質量%含む
ことを特徴とする、アルカリ水電解用隔膜。
[2]
前記無機化合物が、親水性無機粒子である、[1]のアルカリ水電解用隔膜。
[3]
前記高分子樹脂繊維(A)の平均繊維径(Da)と、前記親水性無機粒子の平均一次粒径(Di)との比(Di/Da)が0.05~3の範囲である、[2]に記載のアルカリ水電解用隔膜。
[4]
気孔率が30%以上90%以下であり、最大孔径が0.2μm以上2μm以下である、[1]~[3]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜
[5]
前記高分子樹脂繊維が、ポリフェニレンサルファイドであり、前記高分子多孔膜の膜厚が100μm以上500μm以下である、[1]~[4]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜。
[6]
前記高分子樹脂繊維の一部が、前記高分子樹脂繊維と結着している、[5]に記載のアルカリ水電解用隔膜。
[7]
前記無機化合物が、少なくともジルコニウムを含む、[1]~[6]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜。
[8]
前記高分子多孔膜が、さらに多孔性支持体を含む、[1]~[7]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜。
[9]
前記多孔性支持体が、メッシュ、不織布、織布、及び不織布と前記不織布に内在する織布とを含む複合布からなる群より選ばれるいずれか1種である、[8]のアルカリ水電解用隔膜。
[10]
前記多孔性支持体が、ポリフェニレンサルファイドを含む、[8]又は[9]に記載のアルカリ水電解用隔膜。
[11]
[1]~[10]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜を備え、
陰極及び陽極を含む複数の複極式エレメントが、前記アルカリ水電解用隔膜を挟んで重ね合わされ、
前記アルカリ水電解用隔膜が前記陰極及び前記陽極と接触してゼロギャップ構造が形成されている
ことを特徴とする、アルカリ水電解用複極式電解槽。
[12]
(A)前記高分子樹脂繊維と前記親水性無機粒子とを70:30~30:70の体積比で含むスラリーを300~1000g/m2の目付で湿式抄紙することによりウェブを形成する工程、
(B)前記工程(A)で得られた前記ウェブを60℃~90℃で乾燥した後、120℃~260℃、30MPa~70MPaの条件でホットプレスする工程、
を含む、[1]~[10]のいずれかのアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
多孔膜の孔径制御を目的とした細い高分子樹脂繊維と無機化合物とによって、高イオン導電率と高ガス遮断性とを両立したアルカリ水電解用隔膜を提供することができ、さらに、引っ張り破断強度向上を目的とした太い高分子樹脂繊維を含有させて長期運転時における膜破れやピンホールの形成を抑制することができる。本発明によれば、長期に亘り低いセル電圧を保ったまま高効率で水素製造を可能とする大型の工業用水電解槽を提供することができる。また、大面積化が容易で、大型のアルカリ水電解槽用の隔膜工業的に提供することができる。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の全体について示す側面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例のゼロギャップ構造を(A)に示す破線四角枠の部分について示す側面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の電極室部分について示す平面図である。 本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例を備えるアルカリ水電解装置の概要を示す図である。 実施例7で作製した膜の表面SEM像を示す写真である。図中の実線で囲まれている箇所が、バインダー繊維がつぶれて繊維同士が結着している箇所であり、図中の破線で囲まれている箇所が繊維同士は結着していない箇所である。
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
(アルカリ水電解用隔膜)
(高分子多孔膜)
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、少なくとも1種類の高分子樹脂繊維と、無機化合物とを含む高分子多孔膜で構成される。
高分子樹脂繊維は、少なくとも0.1μm以上5μm未満の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(A)と、5.0μm以上100μm以下の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(B)とで構成されている。ここで、前記高分子樹脂繊維100質量%に対して、高分子樹脂繊維(A)を20質量%~80質量%、高分子樹脂繊維(B)を20質量%~80質量%有する。
高分子多孔膜は、無機化合物を、高分子樹脂繊維(A)及び高分子樹脂繊維(B)と無機化合物との合計量100質量%に対して50質量%~90質量%含む。
((高分子樹脂繊維))
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜を形成する高分子樹脂繊維は、細孔制御や無機化合物の担持を担う細い径を持つ繊維(A)と、機械強度や繊維(A)の担持を担う太い径を持つ繊維(B)とを含むことが第一の特徴である。
高分子樹脂繊維(A)の繊維径は、0.1μm以上5.0μm未満の範囲のものである。0.1μm以上であれば、高いイオンの透過性を実現することができ、また、後述する無機化合物の担持力が高く、長期に渡って親水性を保持し易い。5.0μm以下であれば、高ガス遮断性を実現することができる。
一方、繊維(B)の繊維径は、5.0μm以上100μm以下の範囲のものである。5.0μm以上であれば、十分な機械強度を得ることができ、100μm以下であれば、多孔膜を薄膜化することで高いイオンの透過性を実現することができ、また繊維(A)の担持力が高まり、長期に渡って多孔構造を維持することができる。
また、高分子樹脂繊維(A)と高分子樹脂繊維(B)との含有割合は、高分子樹脂繊維100質量%に対して、繊維(A)が20質量%~80質量%、繊維(B)が20質量%~80質量%であることが好ましく、高分子樹脂繊維100質量%に対して、繊維(A)が30質量%~70質量%、繊維(B)が30質量%~70質量%であることがより好ましい。含有割合がこの範囲であれば、イオン伝導性、ガスバリア性、機械強度を両立した隔膜を得ることが可能である。
なお、高分子樹脂繊維の繊維径は、X線CTを用いて測定することができ、繊維の断面積と等価な面積を与える円の直径として定義される。
繊維(A)の平均繊維径(Da)は、0.2μm~4.0μmの範囲であることが好ましく、0.2μm以上であれば、高いイオンの透過性を実現することができ、4.0μm以下であれば、高ガス遮断性を実現することができる。さらに好ましくは0.3μm~3.0μmの範囲である。
一方、繊維(B)の平均繊維径は、10μm~40μmの範囲であることが好ましく、10μm以上であれば、十分な機械強度を得ることができ、40μm以下であれば、多孔膜を薄膜化することで高いイオンの透過性を実現することができる。さらに好ましくは15μm~35μmの範囲である。
本実施形態の高分子樹脂繊維としては、耐加水分解性が高い、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が望ましく、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が特に好ましい。
なお、高分子樹脂繊維の平均繊維径は、X線CTを用いて測定することができる。
(((バインダー繊維)))
本実施形態の高分子樹脂繊維の一部は、高分子樹脂繊維と結着していることが必要である場合がある。高分子多孔膜の強度を高めるためには、高分子樹脂繊維はお互いに強く結着していることが好ましい。
但し、全体が結着してしまうと、細孔がつぶれてしまい、高分子多孔膜のイオン伝導度が低下してしまう。また、全く結着していないと、隔膜としての強度を保てない。一部分が結着していると、無機化合物を保持しながら細孔を形成することができ、強度とイオン伝導度のバランスが取れたアルカリ水電解用隔膜を提供することが可能となる。
バインダー繊維としては、非晶性PPS繊維が好ましい。バインダー繊維は、前述の高分子樹脂繊維(A)であっても高分子樹脂繊維(B)であってもよく、これらの混合物であってもよい。
通常、高分子多孔膜の結着性は、ホットメルト系やエマルジョン系等の接着剤又は接着用の熱可塑性繊維を用いることで達成されているが、高温高濃度アルカリ環境に耐性のある手法は限られている。その中で、高分子樹脂繊維のフィブリル化により結着性を高める方法や、ホットプレスによって高分子樹脂繊維同士を熱融着させる方法が有力である。もっとも好ましい方法は、非晶性PPS繊維を含有させ、ホットプレスする方法である。この場合、ホットプレスの温度は、130℃~260℃が好ましく、圧力は5MPa~50MPaが好ましい。
(((犠牲材)))
本実施形態の抄紙工程において犠牲材となる繊維を添加し、製膜した後に、前記犠牲材を選択的に除去させることによって、犠牲材が存在していた領域が空隙になり、気孔率を制御することができる。好ましい材料としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリビニルアルコール、ポリ乳酸、セルロース等の溶解性高分子樹脂繊維や、Si、Al23等の無機繊維が挙げられる。繊維径の小ささや、抄紙性、除去性の観点から、セルロースナノファイバー(CNF)が特に望ましい。除去する方法としては、他の構成材料に悪影響を与えないものであれば特に制限されない。具体的には、溶解、分解、溶融等を利用することができ、例えばセルロースを犠牲材に用いる場合は、強酸等で加水分解除去させることができる。
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜を形成する高分子多孔膜は、無機化合物を含むことが必要である。また、高分子多孔膜は、必要に応じて、さらに多孔性支持体を含む。
[無機化合物]
本実施形態において、隔膜は、高い電解液透過性、高いイオン透過性及び高いガス遮断性を発現するために、無機化合物を含有していなければならない。無機化合物は隔膜の表面に付着していても良いし、一部が多孔膜を構成する高分子材料に埋没していても良い。また無機化合物が隔膜の空隙部に内包されると、隔膜から脱離しにくくなり、隔膜の性能を長時間維持できる。
無機化合物としては、例えば、ジルコニウム、チタン、ビスマス、セリウムの酸化物又は水酸化物;周期律表第IV族元素の酸化物;周期律表第IV族元素の窒化物、及び周期律表第IV族元素の炭化物からなる群より選ばれる少なくとも1種の無機物が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性の観点から、ジルコニウム、チタン、ビスマス、セリウムの酸化物、周期律表第IV族元素の酸化物が好ましく、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化チタン(TiO2)がより好ましい。これら無機化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。無機化合物の表面は、極性を帯びている。水溶液である電解液内における、極性の小さな酸素分子や水素分子と、極性の大きな水分子との親和性等を踏まえると、極性の大きな水分子の方が無機化合物と吸着し易いとと考えられる。よって、このような無機化合物が膜表面に存在することで、膜表面には水分子が優先的に吸着し、酸素分子や水素分子等の気泡は膜表面に吸着しない。その結果、隔膜の表面への気泡の付着を効果的に抑制することができる。
無機化合物の形態は、特に限定されるものではないが、高分子樹脂繊維を均一に覆うことができる点で、親水性無機粒子であることが特に好ましい。
親水性無機粒子の平均一次粒径(Di)は、特に限定されないが、20.0nm以上300nm以下であることが好ましく、25.0nm以上250nm以下であることがより好ましい。親水性無機粒子の平均一次粒径(Di)が、この範囲であると、隔膜孔内に取り込まれた際、そこで凝集して形成される二次粒子の粒径が隔膜の孔径より大きくなり、隔膜から親水性無機粒子が脱落することを抑制できる。また、親水性無機粒子の二次粒子の表面積を増加させて、隔膜の細孔内を一層親水化することができる。また、隔膜から脱落した親水性無機粒子が、多孔体電極の細孔を閉塞することを防止して、過電圧の上昇を防止することができる。
隔膜中の親水性無機粒子の平均一次粒径(Di)は、次の方法で求めることができる。測定サンプルを膜表面の垂直方向から走査型電子顕微鏡(SEM)で観察し、親水性無機粒子が観察できる倍率で撮像した。その画像を、画像解析ソフトを用いて2値化し、凝集していない10点の無機粒子のそれぞれに対して絶対最大長を測定し、その個数平均を求める。
親水性無機粒子の平均二次粒径は、特に限定されないが、隔膜からの脱落防止及び多孔膜孔内の親水化の観点から、0.2μm以上10μm以下であることが好ましく、0.5μm以上8.0μm以下であることがより好ましい。平均二次粒径は、親水性無機粒子が隔膜中で形成している二次粒子の状態の平均粒径である。
なお、平均二次粒径は、隔膜から高分子樹脂を溶解除去して残った親水性無機粒子を測定試料として、レーザー回折・散乱法により、体積分布から平均二次粒径を計測することができる。より具体的には、後述する実施例に記載の方法によって求めることができる。
本実施形態において、高分子多孔膜に含まれる高分子樹脂繊維(A)及び前記高分子樹脂繊維(B)と無機化合物との合計量100質量%に対する無機化合物の質量割合は、50質量%以上90質量%以下でなければならない。
高分子樹脂繊維(A)及び前記高分子樹脂繊維(B)と無機化合物との合計量100質量%に対する無機化合物の質量割合が50質量%以上であると、例えば電解中も隔膜内部の親水性をより高くでき、発生するガスが隔膜を通って反対側の電極室に抜けるのを防ぎやすい。さらに、電解液が隔膜内に浸透することが出来る為、隔膜の電圧損失をより低く保つことが出来る。一方で、高分子樹脂繊維(A)及び前記高分子樹脂繊維(B)と無機化合物の合計量100質量%に対する無機化合物の質量割合が90質量%以下であると、隔膜の気孔率をより高く制御し易い。より好ましくは60質量%以上80質量%未満である。
本実施形態において、無機化合物は高分子樹脂繊維の表面に付着していても良いし、一部が高分子樹脂繊維に埋没していても良い。また、無機化合物が隔膜の空隙部に内包されると、隔膜から脱離しにくくなり、隔膜の性能を長時間維持できる。
[多孔性支持体]
本実施形態の高分子多孔膜が含有し得る多孔性支持体としては、メッシュ、不織布、織布、不織布と該不織布に内在する織布とを含む複合布等が挙げられる。これらは、1種単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
本実施形態における多孔性支持体としては、耐加水分解性が高い、ポリフェニレンサルファイド(PPS)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体(ETFE)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)が望ましく、ポリフェニレンサルファイド(PPS)が特に好ましい。
本実施形態における隔膜には、さらなる機能の付与を目的として、隔膜の機能を阻害しない範囲で、繊維(A)、繊維(B)以外の高分子樹脂繊維や、高分子多孔膜以外の物質が含まれていても良い。隔膜は、例えば、酸化防止剤、熱安定化剤等の添加剤を含有しても良いし、隔膜には、フッ素系樹脂等のコーティングを施しても良い。
特に、本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、高分子樹脂繊維(例えば、PPS)と高分子多孔膜に含まれる無機化合物(例えば、ZrO2)との分散状態を好適化する観点から、SBラテックスを含有することが好ましい。
本実施形態における隔膜では、高分子樹脂繊維(A)の平均繊維径(Da)と、親水性無機粒子の1次粒径(Di)との比(Di/Da)が、0.05~3の範囲であることが好ましく、0.1~2の範囲であることがより好ましく、0.2~1の範囲であることが特に好ましい。
Di/Daが0.05以上であることにより、隔膜孔内に取り込まれた際、そこで凝集して形成される二次粒子の粒径が隔膜の孔径より大きくなり、隔膜から親水性無機粒子が脱落することを抑制でき、Di/Daが3以下であることにより、隔膜から脱落した親水性無機粒子が、多孔体電極の細孔を閉塞することを防止して、過電圧の上昇を防止することができる。
(隔膜の孔径)
本実施形態における隔膜は分離能、強度など適切な膜物性を得る為に孔径を制御しなければならない。また、アルカリ水電解においては、陽極から発生する酸素ガス及び陰極から発生する水素ガスの混合を防止し、かつ電解における電圧損失低減する観点から、隔膜の孔径を制御しなければならない。
隔膜の平均孔径が大きい程、隔膜のイオン透過性が良好であり、電圧損失を低減しやすい傾向にある。また、隔膜の平均孔径が大きい程、アルカリ溶液との接触表面積が小さくなるので、ポリマーの劣化が抑制される傾向にある。
一方、隔膜の平均孔径が小さい程、隔膜の分解能は高くなり、電解においては隔膜のガス遮断性が良好となる傾向にある。さらに、後述する粒径の小さな親水性無機粒子を隔膜に担持した場合、欠落せずしっかりと保持することができる。これにより、親水性無機粒子の高い保持能力を付与でき、長期に亘ってその効果を維持することができる。
また、隔膜の最大孔径は隔膜の分離精度を高める為、制御されなければならない。具体的には、平均孔径と最大孔径の差が小さい程分離性能は高くなる傾向にある。特に、電解においては、隔膜内の孔径のばらつきを小さく保てる為、ピンホールが発生して両電極室から発生するガスの純度が低下する可能性を低く出来る。
かかる観点から本発明の隔膜においては、隔膜の平均孔径は、0.1μm以上1.0μm以下であることが好ましく、また最大孔径は0.2μm以上2.0μm以下の範囲であることが好ましい。
孔径がこの範囲であれば、優れたガス遮断性と高イオン透過性の両立も達成できる。また、隔膜の孔径は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜として使用する場合は、90℃で上記の孔径の範囲を満足させることが必要である。
また、アルカリ水電解用隔膜として、より優れたガス遮断性と高いイオン透過性を発現できる範囲として、平均孔径が0.1μm以上0.5μm以下であることが好ましく、また最大孔径が0.5μm以上1.8μm以下であることがより好ましい。
隔膜の孔径は、隔膜の中心から両表面へと厚み方向に向かって略対称に制御することが好ましい。隔膜の孔径分布が対称であると、例えば隔膜を電解槽に組み込む際に表裏どちらでも同様の機能が発現でき、ハンドリング性も向上する。また、電解中に異物が隔膜内部に詰まりにくくなる。さらに、隔膜の孔径は、隔膜の表面から厚み方向に内部に向かって、徐々に小さくなることがより好ましい。孔径が内部に向かって徐々に小さくなると、例えば使用中に隔膜の表面に異物による傷がついた場合であっても、高い分離能を維持することが出来る。
隔膜の平均孔径と最大孔径とは、以下の方法で測定することが出来る。
隔膜の平均孔径とは、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定した平均透水孔径をいう。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを任意の耐圧容器にセットして、容器内を純水で満たす。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から純水が透過してくる際の圧力と透過流量の数値を記録する。平均透水孔径は、圧力が10kPaから30kPaの間の圧力と透水流量の勾配を使い、以下のハーゲンポアズイユの式から求めることが出来る。
平均透水孔径(m)={32ηLμ0/(εP)}0.5
ここで、ηは水の粘度(Pa・s)、Lは隔膜の厚み(m)、μ0は見かけの流速でありμ0(m/s)=流量(m3/s)/流路面積(m2)である。また、εは気孔率、Pは圧力(Pa)である。
隔膜の最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定することが出来る。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとする。このサンプルを純水で濡らし、隔膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットする。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始する。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とする。最大孔径はヤング-ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めることが出来る。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは隔膜表面と水の接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
(隔膜の気孔率)
適切な分離能の発現や目詰まりによる寿命の短縮防止の観点から、隔膜の気孔率を制御しなければならない。また、隔膜を電解に使用した場合はガス遮断性、親水性の維持、気泡の付着によるイオン透過性低下の防止、さらには長時間安定した電解性能(低電圧損失等)が得られるといった観点から、隔膜の気孔率を制御しなければならない。隔膜の気孔率は、平均孔径及び最大孔径が上記範囲にある孔が、隔膜に占める割合と関連するものともいえる。隔膜の高い機能、特にアルカリ水電解用隔膜におけるガス遮断性や低電圧損失の両立性を発現させるために、隔膜の気孔率の下限は30%以上であることが好ましく、35%以上であることがより好ましく、40%以上であることが更に好ましい。また、気孔率の上限は80%以下である必要があり、70%以下であることがより好ましい。隔膜の気孔率が上記上限値以下であれば、多孔構造を保持することが出来る。
ここで、隔膜の気孔率εとは、アルキメデス法により求めた開気孔率をいい、以下の式により求めることができる。
気孔率ε(%)=(ρ1-ρ2)×100
ρ1は、飽水密度(g/cm3)、すなわち、開気孔内が水を含んで飽和した状態のサンプルの密度を表す。ρ2は、乾燥密度(g/cm3)、すなわち、開気孔内から水が十分
に除去されて乾燥した状態のサンプルの密度を表す。ρ1及びρ2は、それぞれの状態のサンプルについて、w:重量(g)、d:厚みcm)、s:厚み方向に垂直な面の面積cm2)を測定し、ρ=w/(d×s)として求めることができる。
隔膜サンプルの水接触面が低吸水性であって、サンプルが水を含んだ状態と乾燥状態との間で厚みや面積が有意に変化しない場合には、d及びsは一定値とみなすこともできる。 気孔率εは、具体的に、25℃に設定した室内で次の手順で測定することができる。純水で洗浄した隔膜を3cm×3cmの大きさで3枚に切出して、シックネスゲージで厚みdを測定する。これら測定サンプルを純水中に24時間浸し、余分な水分を取り除いて
重量w1(g)を測定する。続いて、取り出したサンプルを50℃に設定された乾燥機で12時間以上静置して乾燥させて、重量w2(g)を測定する。そして、w1、w2、及びdの値から気孔率を求める。3枚のサンプルについて気孔率を求め、それらの算術平均値を隔膜の気孔率εとする。
そして、隔膜の気孔率と膜表面の開口度は相関性がある。例えば、気孔率が大きい程、開口度が高くなる傾向にある。また、開口度が高い程、後述する親水性無機粒子の効果を受けやすく、より高い親水性を維持する傾向にある。これらの理由から本実施形態の隔膜の開口度は、前記した孔径の範囲に多孔構造を制御した上で制御することが好ましい。高い親水性を維持する観点から、開口度は20%以上にする必要があり、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましい。一方で親水性無機粒子の担持や隔膜表面の強度を維持する為、開口度は80%以下である必要があり、75%以下であることがより好ましく、70%以下であることが更に好ましい。
本実施形態における隔膜の開口度は以下の方法で求めることが出来る。まず、隔膜表面画像をSEMで取り込む。次に、この画像を画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)で2値化し、孔と孔以外の部分を分ける。続いて、得られた2値化像を分析し画像全体に対する孔の割合を求め、これを開口度とする。開口度はそれぞれ観察箇所の違う3枚以上のSEM画像から得られた開口度の平均値を用いる。
上記のような孔径と気孔率を有する隔膜をポリフェニレン共重合体でなすことにより、他のポリマーに比べて機械強度が高く丈夫で、高い機能を有する隔膜構造を実現することが出来る。その上、広い温度、圧力、pHの範囲でも長期に亘って上記隔膜が安定して機能を発現することを見出した。
(隔膜の厚み)
本実施形態の隔膜の厚みは、適切な膜物性及び電解性能を得る為に制御されなければならない。アルカリ水電解においては、隔膜の機械強度と電解効率を高める為に適切に制御されなければならない。
かかる観点から、隔膜の厚みは100μm以上500μm以下でなければならない場合がある。隔膜の厚みが100μm以上であれば、隔膜が破れにくくなり、衝撃に対する強度が一層向上する。この観点より、隔膜の厚みの下限は、200μm以上であることがより好ましく、300μm以上であることが更に好ましい。
一方で、隔膜の厚みが500μm以下であれば、製膜時に厚み斑を少なくでき、孔径の制御がしやすくなる。また、隔膜を電解に使用した場合、孔内に含まれる電解液の抵抗によりイオンの透過性を阻害されにくく、一層優れたイオン透過性を維持すことができる。かかる観点から、隔膜の厚みの上限は、400μm以下であることがより好ましく、350μm以下であることが更に好ましい。
(機械強度)
本実施形態の隔膜の引張破断強度は、10MPa以上45MPa以下であることが好ましい。この引張破断強度を有する隔膜であれば、電解槽に組み込む際のハンドリング性が高く、破れやピンホールが発生しにくい隔膜となる。また、隔膜の引張破断強度は実際に使用する温度域において制御されることが好ましい。従って、例えば90℃の環境下での電解用隔膜として使用する場合は、90℃で上記の引張破断強度の範囲を満足させることが必要である。引張破断強度は、JIS K 7161に準じた方法により測定することができる。
(耐加水分解性)
本実施形態において、長期間安定した性能を得る観点から、隔膜は高い耐加水分解性を有することが好ましい。隔膜電解中は常に高温高濃度のアルカリ溶液に浸漬される為、加水分解性が不十分だと高分子樹脂繊維が徐々に劣化して脆くなる可能性がある。脆くなった高分子樹脂繊維は、循環する電解液や発生するガスによって浸食され、高分子多孔膜の孔が大きくなり、気孔率も大きくなる。その結果、ガス遮断性が低下し、両電極から発生するガスが混合してガス純度が低下しやすくなる。
(接触角)
多孔膜の水接触角は、特に限定されないが、ガス遮断性及び電解液透過性の観点から、10°以上110°以下とすることができ、20°以上100°以下であることが好ましく、30°以上90°以下であることがより好ましい。水接触角がこの範囲であると、電極で発生したガスが電極表面へ付着して電極反応を阻害するのを防止することができ、電解効率を一層高めることができる。
多孔膜の水接触角は、多孔膜の表面を構成する高分子等の材料の親水性を制御することにより、制御することができる。ここで、多孔体電極の水接触角とは、多孔体電極の表面に水を滴下し、水滴が多孔体電極と接する部位から水滴の表面に接線を引いたときに、接線と多孔体電極表面のなす角度である。
多孔体電極の水接触角は、市販の接触角計を用いて、θ/2法により測定することができる。
(ゼロギャップ構造)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽では、特に限定されないが、図2に示すように、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触した、いわゆる「ゼロギャップ構造」Zが形成されていることが好ましい。「ゼロギャップ構造」は、電極全面にわたり、陽極と隔膜とが互いに接触し、且つ、陰極と隔膜とが互いに接触している状態、又は、電極全面にわたり、極間距離が隔膜の厚みとほぼ同じとなる距離で、陽極と隔膜との間及び陰極と隔膜との間に隙間のほとんど無い状態、に保つことのできる構造である。
アルカリ水電解において、隔膜と、陽極や陰極との間に隙間がある場合、この部分には電解液の他に電解で発生した大量のガスバブルが滞留することで、電気抵抗が非常に高くなる。
一方、ゼロギャップ構造を形成すると、発生するガスを電極の細孔を通して電極の隔膜側とは反対側に素早く逃がすことによって、陽極と陰極の間隔(以下、「極間距離」ともいう。)を低減しつつ、電解液による電圧損失や電極近傍におけるガス溜まりの発生を極力抑え、電解電圧を低く抑制することができる。
ゼロギャップ構造を構成する手段は、既にいくつか提案されており、例えば、陽極と陰極を完全に平滑に加工して、隔膜を挟むように押し付ける方法や、電極と隔壁との間にバネ等の弾性体を配置し、この弾性体で電極を支持する方法が挙げられる。
なお、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽において、ゼロギャップ構造を構成する手段の好ましい実施形態については、後述する。
(アルカリ水電解用複極式電解槽)
以下、上述した陰極、陽極、隔膜を備える、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例について、図を参照しながら説明する。
なお、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽は、下記で説明するものに限定されるものではない。また、アルカリ水電解用複極式電解槽に含まれる、陽極、陰極及び隔膜以外の部材も、下記で挙げられるものに限定されず、公知のものを適宜選択、設計等して用いることができる。
図1に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の全体についての側面図を示す。
図2に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例のゼロギャップ構造を(A)に示す破線四角枠の部分についての側面図を示す。
図3に、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽の一例の電極室部分についての平面図を示す。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽は、図1に示すとおり、陽極と、陰極と、陽極と陰極とを隔離する隔壁と、隔壁を縁取る外枠とを備える複数の電解セル65が隔膜を挟んで重ね合わせられている複極式電解槽50である。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽では、特に限定されないが、隔膜4が陽極2a及び陰極2cと接触したゼロギャップ構造Zが形成されていることが好ましい(図2参照)。
そして、本実施形態における複極式電解槽では、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより電解液が通過する電極室5が画成されており、電極室5には隔壁に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6が設けられている(図2、図3参照)。
((複極式エレメント))
一例のアルカリ水電解用複極式電解槽に用いられる複極式エレメント60は、図2~図3に示すように、陽極2aと陰極2cとを隔離する隔壁1を備え、隔壁を縁取る外枠3を備えている。より具体的には、隔壁1は導電性を有し、外枠3は隔壁1の外縁に沿って隔壁1を取り囲むように設けられている。
なお、本実施形態では、複極式エレメント60は、通常、隔壁に沿う所与の方向D1が、鉛直方向となるように、使用してよい。具体的には、図2、図3に示すように隔壁1の平面視形状が長方形である場合、隔壁に沿う所与の方向D1が、向かい合う2組の辺のうちの1組の辺の方向と同じ方向となるように、使用してよい(図1~図3参照)。そして、本明細書では、上記鉛直方向を電解液通過方向とも称する。
本実施形態では、図1に示すとおり、複極式電解槽50は複極式エレメント60を必要数積層することで構成されている。
図1に示す一例では、複極式電解槽50は、一端からファストヘッド51g、絶縁板51i、陽極ターミナルエレメント51aが順番に並べられ、更に、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7、複極式エレメント60が、この順番で並べて配置される。このとき、複極式エレメント60は、陽極ターミナルエレメント51a側に陰極2cを向けるよう配置する。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までは、設計生産量に必要な数だけ繰り返し配置される。陽極側ガスケット部分7から複極式エレメント60までを必要数だけ繰り返し配置した後、再度、陽極側ガスケット部分7、隔膜4、陰極側ガスケット部分7を並べて配置し、最後に陰極ターミナルエレメント51c、絶縁板51i、ルーズヘッド51gをこの順番で配置する。複極式電解槽50は、全体をタイロッド51r(図1参照)や油圧シリンダー方式等の締め付け機構で締め付けることによりー体化され、複極式電解槽50となる。
複極式電解槽50を構成する配置は、陽極2a側からでも陰極2c側からでも任意に選択でき、上述の順序に限定されるものではない。
図1に示すように、複極式電解槽50では、複極式エレメント60が、陽極ターミナルエレメント51aと陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置され、隔膜4は、陽極ターミナルエレメント51aと複極式エレメント60との間、隣接して並ぶ複極式エレメント60同士の間、及び複極式エレメント60と陰極ターミナルエレメント51cとの間に配置されている。
また、本実施形態における複極式電解槽50では、図2、図3に示すとおり、隔壁1と外枠3と隔膜4とにより、電解液が通過する電極室5が画成されている。
詳細には、電極室5は、外枠3との境界において、電極室5に電解液を導入する電解液入口と、電極室5から電解液を導出する電解液出口とを有する。より具体的には、陽極室5aには、陽極室5aに電解液を導入する陽極電解液入口と、陽極室5aから導出する電解液を導出する陽極電解液出口とが設けられ、陰極室5cには、陰極室5cに電解液を導入する陰極電解液入口と、陰極室5cから導出する電解液を導出する陰極電解液出口とが設けられる。
なお、図1~図3に示した例では、長方形形状の隔壁1と長方形形状の隔膜4とが平行に配置され、また、隔壁1の端縁に設けられた直方体形状の外枠3の隔壁1側の内面が隔壁1に垂直となっているため、電極室5の形状が直方体となっている。
複極式電解槽50には、通常、電解液を配液又は集液する管であるヘッダーが取り付けられ、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの下方に、陽極室5aに電解液を入れる陽極入口ヘッダーと、陰極室5cに電解液を入れる陰極入口ヘッダーとを備えている。また、同様に、隔壁1の端縁にある外枠3のうちの上方に、陽極室5aから電極液を出す陽極出口ヘッダーと、陰極室5cから電解液を出す陰極出口ヘッダーとを備えている。
なお、図1~図3に示す複極式電解槽50に取り付けられるヘッダーの配設態様として、代表的には、内部ヘッダー型と外部ヘッダー型とがあるが、本発明では、いずれの型を採用してもよく、特に限定されない。
本実施形態の複極式電解槽50では、陽極入口ヘッダーで配液された電解液が、陽極電解液入口を通って陽極室5aに導入され、陽極室5aを通過し、陽極電解液出口を通って陽極室5aから導出され、陽極出口ヘッダーで集液される。
そして、本実施形態における電極室は、図2、図3に示すとおり、隔壁1に沿う所与の方向D1に対して平行に配置される複数の整流板6を備える。
整流板6は、電極室5内における気液の流れの乱れにより電極室5に生じる対流を低減して、局所的な電解液の温度の上昇を抑制する。
特に、図1~図3に示した例では、複数の整流板6が、隔壁1に沿う所与の方向(図示の例では、電解液通過方向)D1に垂直な方向に、一定の間隔(ピッチ)で設けられている。
また、一例の複極式電解槽50では、整流板6は、電極室5の高さとほぼ同じ長さを有し、隔壁1に垂直に設けられており、隔壁1に沿う所与の方向D1(図示の例では、電解液通過方向)について所定のピッチで貫通孔を有している。
なお、本発明において、電極室5の形状は、図1~図3に示す例の直方体に限定されることなく、隔壁1や隔膜4の平面視形状、外枠3の隔壁2側の内面と隔壁2とのなす角度等により、適宜変形されてよく、本発明の効果が得られる限り、いかなる形状であってもよい。
なお、本発明において、電極室5における整流板6の配設態様は、図1~図3に示す例に限定されない。
本発明において、整流板6の数や整流板6の隔壁1に沿う所与の方向D1に垂直な方向についての一定の間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。ここで、整流板6の間隔は、一定でなくてもよい。
また、本発明において、整流板6の長さ、整流板6と隔壁1とのなす角度、貫通孔の数や貫通孔の隔壁1に沿う所与の方向D1についての一定の間隔(ピッチ)は、本発明の効果が得られる限り、適宜定められてよい。ここで、貫通孔の間隔は、一定でなくてもよい。
なお、図1~図3に示す例では、隔壁1、陽極2a、陰極2cがいずれも所定の厚みを有する板状の形状であるが、本発明はこれに限定されることなく、断面において全部又は一部がジグザグ状、波状となる形状であってもよく、端部が丸みを帯びている形状であってもよい。
(ゼロギャップ構造)
ゼロギャップ型セルにおける複極式エレメント60では、極間距離を小さくする手段として、電極2と隔壁1との間に弾性体であるバネを配置し、このバネで電極2を支持する形態をとることが好ましい。例えば、第1の例では、隔壁1に導電性の材料で製作されたバネを取り付け、このバネに電極2を取り付けてよい。また、第2の例では、隔壁1に取り付けた電極リブ6にバネを取り付け、そのバネに電極2を取り付けてよい。なお、このような弾性体を用いた形態を採用する場合には、電極2が隔膜4に接する圧力が不均一にならないように、バネの強度、バネの数、形状等必要に応じて適宜調節する必要がある。
また、弾性体を介して支持した電極2の対となるもう一方の電極2の剛性を強くすること(例えば、陽極の剛性を陰極の剛性よりも強くすること)で、押しつけても変形の少ない構造としている。―方で、弾性体を介して支持した電極2については、隔膜4を押しつけると変形する柔軟な構造とすることで、電解槽50の製作精度上の公差や電極2の変形等による凹凸を吸収してゼロギャップ構造Zを保つことができる。
より具体的には、整流板6(リブ6)の先端に集電体2rを取り付け、その集電体2rの上面側、つまり、隔壁1側とは反対となる側に導電性弾性体2eを取り付け、さらに、その上面側、つまり、導電性弾性体2eに隣接して隔膜4側となる部分に電極2を重ねた少なくとも3層構造を構成することが挙げられる。集電体2rと導電性弾性体2eとによって弾性体が構成される。
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50では、図2に示すように、陰極2c又は陽極2aと隔壁1との間に、導電性弾性体2e及び集電体2rが、導電性弾性体2eが陰極2c又は陽極2aと集電体2rとに挟まれるように、設けられている。
(アルカリ水電解装置)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽を用いることができる、アルカリ水電解装置の一例を図4に示す。
アルカリ水電解装置70は、本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽50に加えて、送液ポンプ71、気液分離タンク72、水補給器73以外にも、整流器74、酸素濃度計75、水素濃度計76、流量計77、圧力計78、熱交換器79、圧力制御弁80などを備えてよい。
(アルカリ水電解)
本実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽を備えたアルカリ水電解装置に電解液を循環させて電解を行うことにより、高密度電流運転や変動電源運転後の場合でも、優れた電解効率及び高い発生ガス純度を維持して、高効率なアルカリ水電解を実施することができる。
本実施形態のアルカリ水電解に用いることができる電解液としては、アルカリ塩が溶解されたアルカリ性の水溶液としてよく、例えば、NaOH水溶液、KOH水溶液等が挙げられる。
アルカリ塩の濃度としては、特に限定されないが、20質量%~50質量%が好ましく、25質量%~40質量%がより好ましい。
中でも、イオン導電率、動粘度、冷温化での凍結の観点から、25質量%~40質量%のKOH水溶液が特に好ましい。
電解セル内にある電解液の温度は、特に限定されないが、80℃~130℃であることが好ましい。
上記温度範囲とすれば、高い電解効率を維持しながら、ガスケット、隔膜等の電解装置の部材が熱により劣化することを効果的に抑制することができる。
電解液の温度は、85℃~125℃であることがさらに好ましく、90℃~115℃であることが特に好ましい。
本実施形態のアルカリ水電解において、電解セルに与える電流密度としては、特に限定されないが、4kA/m2~20kA/m2であることが好ましく、6kA/m2~15kA/m2であることがさらに好ましい。
特に、変動電源を使用する場合には、電流密度の上限を上記範囲にすることが好ましい。
本実施形態のアルカリ水電解において、電解セル内の圧力としては、特に限定されないが、3kPa~1000kPaであることが好ましく、3kPa~300kPaであることがさらに好ましい。
電極室当たりの電解液の流量その他の条件は、アルカリ水電解用複極式電解層の各構成に応じて適宜制御すればよい。
以上、図面を参照して、本発明の実施形態のアルカリ水電解用複極式電解槽について例示説明したが、本発明のアルカリ水電解用複極式電解槽は、上記の例に限定されることはなく、上記実施形態には、適宜変更を加えることができる。
(ガス遮断性評価)
本実施形態の隔膜のガス遮断性の評価指標の1つとして、隔膜のバブルポイントの評価が挙げられる。本評価方法におけるバブルポイントは、隔膜を純水で十分に濡らして、孔内を純水で満たした後、隔膜の片側面を窒素で加圧し、隔膜の反対側面から、150mL/分の割合で気泡が連続して発生してくるときの圧力とする。隔膜のガス遮断性が低いほど、バブルポイントの値は小さくなり、隔膜のガス遮断性が高いほど、ガスが通過し難いため、バブルポイントの値は大きくなる。
隔膜のバブルポイントは、特に限定されないが、10kPa以上であることが好ましい。隔膜のバブルポイントが10kPa以上であれば、0.2μm以上のピンホールが無い為、隔膜の分離能を担保できる。また、隔膜を電解に使用した場合、陰極室と陽極室に差圧がついた場合であっても、発生したガスが容易に隔膜を透過できないため、酸素と水素の混合を効果的に抑制できる。かかる観点から、隔膜のバブルポイントは100kPa以上であることがより好ましい。
(イオン透過性評価)
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜を用いて電解を行う際のセル電圧の評価指標の1つとして、隔膜のイオン透過性が挙げられる。イオン透過性が高ければ、電解時の電気抵抗を低減でき、これに伴ってアルカリ水電解用隔膜に起因する電圧損失も低減できる。この点、本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は高いイオン透過性を維持できるので、これを用いることで、電解時のセル電圧を小さくできる。
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜を用いて電解を行う際のセル電圧は、例えば、以下の方法によって評価することができる。ニッケル電極の間に隔膜を設置し、隔膜によって隔てられた両電極室を90℃、30質量%のKOH水溶液で満たす。両電極間に電流密度0.60A/cm2の直流電流を印加し、長時間電解する。電解開始後24時間の両電極間の電位差を測定し、この両電極間の電位差をセル電圧とする。なお、電解中はKOH水溶液中の水が、電解により消費されるため、KOH濃度が一定になるように純水を定期的に添加させる。また電解セル内に電極から発生した、酸素、水素が滞留しない様に、ポンプで両電極室内の電解液を循環させる。かかる条件で運転した場合、本実施形態の隔膜を使用した場合のセル電圧は、特に限定されるものではないが、好適な一例を挙げるならば、電流密度0.60A/cm2時に1.80V以下とすることができ、さらには1.75V以下とすることができ、運転条件によって一層セル電圧を低下させることができる。隔膜における電圧損失を低減することができるならば、少ない電力量で効率的に水の電気分解が行える。さらには、長期に高電流密度で運転した場合も、電圧損失による発熱で電解槽内の電解液を加熱し過ぎるといったリスクや、電解槽や電極等の材質の劣化を早めるといったリスク等を軽減することができる。
(隔膜の製造方法)
本実施形態のアルカリ水電解用隔膜は、特に限定されず公知の方法で製膜できる。例えばカード式・エアレイド式等の乾式法や、抄紙等の湿式法、スパンボンド法・メルトブロー法等が挙げられる。本発明の特徴を広い面積で安定して発揮させる上で、以下に説明する二つの工程を有する抄紙法が好ましい。
(工程A)高分子樹脂繊維と親水性無機粒子とを70:30~30:70の体積比で含むスラリーを300~1000g/m2の目付で湿式抄紙することによりウェブを形成する工程。
(工程B)工程(A)で得られたウェブを60℃~90℃で乾燥した後、120℃~260℃、30~70MPaの条件でホットプレスする工程。
以下各工程について詳細に説明する。
(工程A)
原料としては、本実施形態のアルカリ水電解用隔膜についての説明で記載のとおりとしてよいが、例えば、平均繊維径2μmのPPS繊維、平均繊維径20μmのPPS繊維、平均一次粒径(Di)50nm以下のZrO2粒子、任意選択的に、ラテックスを使用することが望ましい。バインダー繊維は、追加的に使用してもよく、PPS繊維に含まれる非晶性PPS繊維を用いてもよい。
ラテックスとしては、天然ゴムラテックス、BRラテックス、MBRラテックス、SBラテックス等が挙げられ、特に、接着性・配合安定性の観点から、SBラテックスが好ましい。
ラテックスは、ZrO2粒子をPPS表面へ接着させることが可能であり、上記混合物を水中に分散させ、湿式抄紙法によりメッシュ上へウェブを形成させることができる。
混合物に添加されるSBラテックスは、特に限定されないが、混合物の合計を100質量部としたときに、5質量部以上20質量部以下であることが好ましい。この範囲であれば、ZrO2粒子がPPS表面に十分浸透し、混合物の分散状態も良好となるため、均質性の高い隔膜を得ることができる。
バインダー繊維としては、PPS繊維に含まれる非晶性PPS繊維が好ましい。
高分子樹脂繊維と親水性無機粒子との体積比は、70:30~30:70が好ましい。ここでの高分子樹脂繊維は、前述の高分子樹脂繊維(A)及び高分子樹脂繊維(B)としてよい。
目付は、100~700g/m2が好ましい。
(工程B)
乾燥温度は、特に限定されないが、高分子樹脂繊維のガラス転移点未満が望ましい。
ホットプレス温度は、特に限定されないが、高分子樹脂のガラス転移点以上融点未満が好ましい。ホットプレス圧力は、200~280℃が好ましい。前記した非晶性PPSを含有させた場合は130~240℃が最も好ましい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
[実施例1]
メルトブローン法で作製した平均繊維径が2μmの綿状PPS繊維(旭化成製)35gを200℃のオーブンで2hr熱処理を行った後、蒸留水6965gと混合し、ホランダビーター(東洋精機製作所製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPPS-水懸濁液を作製した。
上記懸濁液104gにPPS短繊維(繊維径:20μm、繊維長さ:5mm、KBセーレン社製)425mgを添加し、さらにSBラテックス(旭化成製、商品名:L5930)を125mg添加した。
上記混合液とは別に酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、平均一次粒径(Di):30nm、第一稀元素化学工業社製、以下ZrO2と記載)1420mgを蒸留水200g中へ加え、ホモジナイザー(IKA製、T25デジタル)にて、25000rpm、1minの条件で分散した水-ZrO2分散液を作製して上記混合液に添加し、抄紙用懸濁液を作製した。
そして上記抄紙用懸濁液を内側の断面が7cm×7cmである角柱型のバッチ式抄紙機の上流側に目付420g/m2で投入し、目開き50μmのポリエステル繊維シートを挟んで、下流側を絶対圧力で10kPaの減圧にすることによってポリエステル繊維シート上に不織布ウェブを作製した。作製したウェブを90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、ポリエステル繊維シートを外し、バッチ式のホットプレス機(井元製作所製)で160℃・40MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は1.0μm、気孔率は40%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.85Vであり、引張破断強度は20MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例2]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を85g、20μm径PPS短繊維の量を520mgに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は1.0μm、気孔率は35%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.90Vであり、引張破断強度は30MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例3]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を126g、20μm径PPS短繊維の量を315mgに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は0.6μm、気孔率は60%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.75Vであり、引張破断強度は15MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例4]
エレクトロスピニング法で作製した平均繊維径が200nmの綿状PP繊維35gと蒸留水6965g混合し、ホランダビーター(東洋精機製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPP-水懸濁液を作製した。上記懸濁液126.6gにPPS短繊維(繊維径:20μm、繊維長さ:5mm、KBセーレン社製)312mgを添加し、さらにSBラテックス(旭化成製、商品名:L5930)を125mg添加した。
上記混合液とは別に酸化ジルコニウム
(「EP酸化ジルコニウム」、平均一次粒径(Di):30nm、第一稀元素化学工業社製、以下ZrO2と記載)1420mgを蒸留水200g中へ加え、ホモジナイザー(IKA製、T25デジタル)にて、25000rpm、1minの条件で分散した水-ZrO2分散液を作製して上記混合液に添加し、抄紙用懸濁液を作製した。
以上の抄紙液を用いた他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は0.4μm、気孔率は70%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.71Vであり、引張破断強度は8MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例5]
メルトブローン法で作製した平均繊維径が2μmの綿状PPS繊維(旭化成製)35gを200℃のオーブンで2hr熱処理を行った後、蒸留水6965gと混合し、ホランダビーター(東洋精機製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPPS-水懸濁液を作製した。上記懸濁液102gにPPS短繊維(繊維径:20μm、繊維長さ:5mm、KBセーレン社製)384mgを添加し、さらにSBラテックス(旭化成製、商品名:L5930)を124mg添加し、さらに平均繊維径400nmのセルロースナノファイバー(旭化成製、以下CNFと記載)を248mg添加した。
上記混合液とは別に酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、平均一次粒径(Di):30nm、第一稀元素化学工業社製、以下ZrO2と記載)1340mgを蒸留水200g中へ加え、ホモジナイザー(IKA製、T25デジタル)にて、25000rpm、1minの条件で分散した水-ZrO2分散液を作製して上記混合液に添加し、抄紙用懸濁液を作製した。
そして上記抄紙用懸濁液を内側の断面が7cm×7cmである角柱型のバッチ式抄紙機の上流側に目付420g/m2で投入し、目開き50μmのポリエステル繊維シートを挟んで、下流側を絶対圧力で10kPaの減圧にすることによってポリエステル繊維シート上に不織布ウェブを作製した。作製したウェブを90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、ポリエステル繊維シートを外し、バッチ式のホットプレス機(東洋精機製)で160℃・40MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、PPS-ZrO2-CNF複合シートを得た。
得られたシートを90wt%のH2SO4水溶液に24hr浸漬し、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は0.9μm、気孔率は45%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.78Vであり、引張破断強度は14MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例6]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を89.4g、20μm径PPS短繊維の量を447mgに、CNFの量を396mgに変更した他は実施例5と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは350μm、最大孔径は1.1μm、気孔率は40%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.79Vであり、引張破断強度は13MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった。
[実施例7]
メルトブローン法で作製した平均繊維径が2μmの綿状PPS繊維(旭化成製)35gを、蒸留水6965gと混合し、ホランダビーター(東洋精機製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPPS-水懸濁液を作製した。
上記懸濁液18.4gにPPSカットファイバー(平均繊維径:4μm、繊維長さ:3mm、KBセーレン社製)174mgを添加し、さらにPPS短繊維(平均繊維径:20μm、繊維長さ:5mm、KBセーレン社製)174mgを添加し、さらに非晶性PPS繊維(平均繊維径:25μm、繊維長さ:5μm、KBセーレン社製)43mgを添加し、さらに平均繊維径400nmのCNFを75mg添加した。
上記混合液とは別に酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、平均一次粒径(Di):30nm、第一稀元素化学工業社製、以下ZrO2と記載)1310mgを蒸留水200g中へ加え、ホモジナイザー(IKA製、T25デジタル)にて、25000rpm、1minの条件で分散した水-ZrO2分散液を作製して上記混合液に添加し、抄紙用懸濁液を作製した。
そして上記抄紙用懸濁液を内側の断面が7cm×7cmである角柱型のバッチ式抄紙機の上流側に目付420g/m2で投入し、目開き50μmのポリエステル繊維シートを挟んで、下流側を絶対圧力で10kPaの減圧にすることによってポリエステル繊維シート上に不織布ウェブを作製した。作製したウェブを90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、ポリエステル繊維シートを外し、バッチ式のホットプレス機(東洋精機製)で240℃・15MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、PPS-ZrO2-CNF複合シートを得た。
得られたシートを90wt%のH2SO4水溶液に24hr浸漬し、90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、バッチ式のホットプレス機で240℃・5MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは350μm、最大孔径は1.0μm、気孔率は40%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.80Vであり、引張破断強度は27MPaだった。SEM観察によると、一部の繊維が結着しており、超音波洗浄による膜全体の結着性評価では、結着性有りだった。
[実施例8]
エレクトロスピニング法で作製した平均繊維径が2μmの綿状PTFE繊維35gを、IPA6950gと混合し、ホランダビーター(東洋精機製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPTFE-IPA懸濁液を作製した。またメルトブローン法で作製した平均繊維径が2μmの綿状PPS繊維35gを蒸留水6965gと混合し、ホランダビーター(東洋精機製)で2hr叩解処理を行い0.5wt%のPPS-水懸濁液を作製した。
上記PTFE-IPA懸濁液34.8gと上記PPS-水懸濁液18.4gを混合し、PPSカットファイバー(平均繊維径:4μm、繊維長さ:3mm、KBセーレン社製)174mgを添加し、さらにPPS短繊維(平均繊維径:20μm、繊維長さ:5mm、KBセーレン社製)174mgを添加し、さらに非晶性PPS繊維(平均繊維径:25μm、繊維長さ:5μm、KBセーレン社製)43mgを添加し、さらに平均繊維径400nmのCNFを75mg添加した。上記混合液とは別に酸化ジルコニウム(「EP酸化ジルコニウム」、第一稀元素化学工業社製、以下ZrO2と記載)1310mgを蒸留水200g中へ加え、ホモジナイザー(IKA製、T25デジタル)にて、25000rpm、1minの条件で分散した水-ZrO2分散液を作製して上記混合液に添加し、抄紙用懸濁液を作製した。
そして上記抄紙用懸濁液を内側の断面が7cm×7cmである角柱型のバッチ式抄紙機の上流側に目付420g/m2で投入し、目開き50μmのポリエステル繊維シートを挟んで、下流側を絶対圧力で10kPaの減圧にすることによってポリエステル繊維シート上に不織布ウェブを作製した。作製したウェブを90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、ポリエステル繊維シートを外し、バッチ式のホットプレス機(東洋精機製)で240℃・15MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、PPS-ZrO2-CNF複合シートを得た。
得られたシートを90wt%のH2SO4水溶液に24hr浸漬し、90℃のオーブンで2hr乾燥させた後、バッチ式のホットプレス機で240℃・5MPa・10分間の条件でホットプレスを行い、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは350μm、最大孔径は1.2μm、気孔率は43%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.82Vであり、引張破断強度は13MPaだった。SEM観察によると、一部の繊維が結着しており、超音波洗浄による膜全体の結着性評価では、結着性有りだった。
[比較例1]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を21g、20μm径PPS短繊維の量を841mgに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは360μm、最大孔径は10.0μm、気孔率は40%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に2.20Vであり、引張破断強度は41MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった
[比較例2]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を174g、20μm径PPS短繊維の量を76mgに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは370μm、最大孔径は0.3μm、気孔率は80%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.70Vであり、引張破断強度は3MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった
[比較例3]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を168g、20μm径PPS短繊維の量を632mg、ZrO2の量を368mgに、SBラテックスの量を204mgに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは370μm、最大孔径は15.0μm、気孔率は10%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に2.50Vであり、引張破断強度は17MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった
[比較例4]
抄紙用懸濁液に用いた2μm径PPS-水懸濁液の量を185g、20μm径PPS短繊維の量を19mg、ZrO2の量を18.0gに変更した他は実施例1と同様の方法で、アルカリ水電解用隔膜を得た。
得られた隔膜の厚みは340μm、最大孔径は1.0μm、気孔率は40%であった。そして得られた隔膜を使用した場合のセル電圧は、電流密度0.60A/cm2時に1.80Vであり、引張破断強度は2MPaだった。繊維どうしの結着は無しであった
[物性の測定・評価方法]
以下、隔膜についての物性の測定・評価方法について説明する。
<最大孔径>
隔膜の最大孔径は、完全性試験機(ザルトリウス・ステディム・ジャパン社製、「Sartocheck Junior BP-Plus」)を使用して以下の方法で測定した。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルを純水で濡らし、膜の孔内に純水を含浸させ、これを測定用の耐圧容器にセットした。次に、耐圧容器を所定温度に設定した恒温槽内で保持し、耐圧容器内部が所定温度になってから測定を開始した。測定が始まると、サンプルの上面側が窒素で加圧されていき、サンプルの下面側から150mL/分の割合で気泡が連続して発生してくるときの窒素圧力を、バブルポイント圧力とした。最大孔径はヤング-ラプラスの式を変形させた下記バブルポイント式から求めた。
最大孔径(m)=4γcosθ/P
ここで、γは水の表面張力(N/m)、cosθは隔膜表面と水との接触角(rad)、Pはバブルポイント圧力(Pa)である。
<親水性無機粒子の平均一次粒径>
隔膜の親水性無機粒子の平均一次粒径の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM、日立ハイテクノロジーズ社製、「Miniscope TM3000」)を使用して行った。まず、隔膜を芯材も含めて所定の大きさに切り出して、これをサンプルとした。このサンプルに対して、マグネトロンスパッタ装置(真空デバイス社製、「MSP-1S型」)を用いて1分間メタルコーティングを行った。次に、このサンプルをSEMの観察用試料台にセットして測定を開始した。このとき、SEMによる観察が測定対象の膜表面の垂直方向から行えるように、測定試料である隔膜をセットした。測定を開始し、観察対象の無機粒子が見えるように倍率を調節(2万倍以上が好ましい)して撮像し、その撮像画面を画像として保存した。得られた画像は、画像解析ソフト(三谷商事社製、「WinROOF」)を用いて2値化し、凝集していない10点の無機粒子のそれぞれに対し絶対最大長を測定し、その個数平均を算出した。この平均を、親水性無機粒子の一次粒径とした。
<気孔率>
隔膜の気孔率は、電子天秤を用いて、25℃に保った室内で測定した。
隔膜を3cm×3cmの大きさ(9cm2)で3枚に切出して測定サンプルとし、シックネスゲージで厚みd(cm)を測定した。次いで、測定サンプルを純水中に24時間浸し、余分な水分を取り除いて、重量w1(g)を測定した。続いて、これらを50℃に設定した乾燥機内で12時間以上静置して乾燥させて、重量w2(g)を測定した。
測定対象の隔膜は、水接触面が非常に低吸水性であり、測定サンプルが水を含んだ状態と乾燥状態とで厚み及び面積が有意に変化しなかった。そのため、厚みd及び面積を一定値とみなして、下記式で、w1、w2の値から気孔率を求めた。
気孔率(%)={(w1-w2)/(d×9)}×100
3枚の測定サンプルについてそれぞれ気孔率を求め、それらの算術平均値を隔膜の気孔率εとした。
<繊維の結着性有無>
高分子樹脂繊維の結着性は、SEM観察と超音波洗浄による繊維脱離有無を調査することによって、評価した。
また、超音波洗浄により膜全体としての結着性を評価した。
隔膜を3cm×3cmの大きさ(9cm2)で3枚に切出して測定サンプルとし、1.5Lの蒸留水を入れた超音波洗浄機(Branson社製、Model:1800)に投入し、周波数40kHz、音圧190Pa、190dbの超音波洗浄処理を10分間行うキャビテーション試験後にサンプルを取り出し、液中に含まれる高分子樹脂繊維の含有量がキャビテーション試験前のサンプルに含まれる高分子樹脂繊維の1質量%未満であれば結着性有りとし、1質量%以上であれば、結着性無しと判断した。
例として、図5に、実施例7で作製した膜の表面SEM像を示す。図5中の実線で囲まれている箇所が、バインダー繊維がつぶれて繊維同士が結着している箇所であり、図5中の点線で囲まれている箇所が繊維同士は結着していない箇所である。
この指標を基に、すべて実線で囲われているような状態になっている場合を“全体結着”、一部実線で囲われているような状態になっている場合を“部分結着”、すべて点線で囲われているよう状態になっている場合を“結着なし”と判断した。
<引張破断応力>
温度23℃、湿度65%RHの雰囲気下において、JIS K 7161に準じた方法で測定した。アルカリ水電解用隔膜の縦方向、横方向に沿って、それぞれ幅10mm、長さ100mmに切り出したものを試験片とした。「オートグラフAGS-1kNX」(島津製作所社製)を用いて、チャック間長さ50mm、引張り速度100mm/分の条件で、試験片について引張り試験を行い、縦方向、横方向それぞれ5回の測定値の相加平均を引張破断強度(MPa)の測定値とした。下記評価基準により評価した。
[評価基準]
◎:縦方向及び横方向の引張破断強度の平均が25MPa超
○:縦方向及び横方向の引張破断強度の平均が10MPa超25MPa以下
△:縦方向及び横方向の引張破断強度の平均が5MPa超10MPa以下
×:縦方向及び横方向の引張破断強度の平均が5MPa以下
[電解試験]
実施例及び比較例の隔膜を用いて、電流密度が10kA/m2の高電流密度下で連続して2500時間通電し、アルカリ水電解を行った。
2500時間後、各実施例及び比較例ごとに4つの電解セルの対電圧の平均値を算出し、セル電圧(V)として評価した。
以下、使用した複極式電解槽及び電解システムについて説明する。
[複極式電解槽]
陽極ターミナルエレメント、陰極ターミナルエレメント、4個の複極式エレメントから
構成される、図1のような、複極式ゼロギャップ構造の電解槽を作製した。各電解槽には
それぞれの実施例及び比較例の隔膜が組み込まれている。
電極は、陽極及び陰極共にNiエクスパンドメタルを用いた。
電解槽のヘッダー管の配設は外部ヘッダー型とした。
<ガスケット>
ガスケットは、厚み4.0mmの内寸60mm×50mmの四角形状のもので、
内側に隔膜を挿入することで保持するためのスリット構造を有するものを使用した。スリット構造は、隔膜の縁部を収容するためにガスケット内側に0.4mmの隙間を幅方向6mmに設けた構造とした。このガスケットは、フッ素系ゴムを材質とし、100%変形時の弾性率が4.0MPaであった。
<導電性弾性体>
導電性弾性体は、線径0.15mmのニッケル製ワイヤーを織ったものを、波高さ5m
mになるように波付け加工したものを使用した。厚みは5mmであり、50%圧縮変形時
の反発力は150g/cm2、メッシュ数は5メッシュ程度であった。
<複極式エレメント>
複極式エレメントは、90mm×70mmの長方形で、陽極及び陰極の面積は58mm×48mmとした。また陽極室の深さ(陽極室深さ)は10mm、陰極室の深さ(陰極室深さ)10mmとし、材質をニッケルとした。高さ11mm、厚み1.5mmのニッケル製の陽極リブと、高さ11mm、厚み1.5mmのニッケル製の陰極リブを溶接により取り付けたニッケル製の隔壁の厚みは2mmとした。
集電対として、厚み1mm、開口部の横方向長さ4.5mm、縦方向長さ3.2mmのニッケルエキスパンドメタルを用いた。上述した導電性弾性体を、集電対上にスポット溶接して固定した。このゼロギャップ複極式エレメントを、60mm×50mmの隔膜を介してスタックさせることで、陰極と陽極が隔膜に押し付けられたゼロギャップ構造を形成した。
[電解システム]
上記複極式電解槽を、図4に示す電解装置70に組み込んでアルカリ水電解に使用した。
以下、図4を参照しながら、電解システムの概略を説明する。
気液分離タンク72及び外部ヘッダー型の複極式電解槽50には、電解液として30%KOH水溶液が封入されている。この電解液は、送液ポンプ71により、陽極室と陽極用気液分離タンク(酸素分離タンク72o)との間、陰極室と陰極用気液分離タンク(水素分離タンク72h)との間をそれぞれ循環している。電解液の流量は、流量計77で測定して10L/minに、温度は、熱交換器79によって120℃に調整した。循環流路の電解液接液部には、SGP炭素鋼配管にテフロン(登録商標)ライニング内面処理を施した、20Aの配管を用いた。
気液分離タンク72(72h及び72o)は、高さ500mm、容積0.02m3のものを使用した。各気液分離タンク72h及び72oの液量は、設計容積の50%程度とした。整流器74から、各電解セルの陰極及び陽極に対して、所定の電極密度で通電した。
通電開始後のセル内圧力は、圧力計78で測定し、陰極側圧力が301kPa、酸素側圧力が300kPaとなるとように調整した。圧力調整は、圧力計78の下流に圧力制御弁80を設置し、これにより行った。
なお、整流器74としては、(株)三社電機製作所社製のKCA2F7-15-2500CLを用いた。
酸素濃度計75としては、アドバンストインストゥルメンツ社製のGPR-2500を用いた。
水素濃度計76としては、理研計器(株)社製のSD-D58・ACを用いた。
圧力計78としては、横河電機(株)社製のEJA-118Wを用いた。
流量計77、熱交換器79、送液ポンプ71、気液分離タンク72(72h及び72o)、水補給器73等は、いずれも当該技術分野において通常使用されるものを用いた。
Figure 0007009146000001
本発明によれば、多孔膜の孔径制御を目的とした細い高分子樹脂繊維と無機化合物とによって、高イオン導電率と高ガス遮断性とを両立したアルカリ水電解用隔膜を提供することができ、さらに、引っ張り破断強度向上を目的とした太い高分子樹脂繊維を含有させて長期運転時における膜破れやピンホールの形成を抑制することができる。本発明によれば、長期に亘り低いセル電圧を保ったまま高効率で水素製造を可能とする大型の工業用水電解槽を提供することができる。本発明によれば、アルカリ水電解槽用の隔膜の大面積化が容易で、大型の隔膜を工業的に提供することができる。
1 隔壁
2 電極
2a 陽極
2c 陰極
2e 導電性弾性体
2r 集電体
3 外枠
4 隔膜
5 電極室
5a 陽極室
5c 陰極室
6 整流板(リブ)
7 ガスケット
50 複極式電解槽
51g ファストヘッド、ルーズヘッド
51i 絶縁板
51a 陽極ターミナルエレメント
51c 陰極ターミナルエレメント
51r タイロッド
60 複極式エレメント
65 電解セル
70 電解装置
71 送液ポンプ
72 気液分離タンク
72h 水素分離タンク
72o 酸素分離タンク
73 水補給器
74 整流器
75 酸素濃度計
76 水素濃度計
77 流量計
78 圧力計
79 熱交換器
80 圧力制御弁
D1 隔壁に沿う所与の方向(電解液通過方向)
Z ゼロギャップ構造

Claims (11)

  1. 少なくとも1種類の高分子樹脂繊維と、無機化合物とを含む、不織布を有する高分子多孔膜で構成され、
    前記高分子樹脂繊維が、少なくとも、0.1μm以上5.0μm未満の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(A)と、5.0μm以上100μm以下の範囲の繊維径を有する高分子樹脂繊維(B)とで構成されており、前記高分子樹脂繊維100質量%に対して、前記高分子樹脂繊維(A)を20質量%~80質量%、前記高分子樹脂繊維(B)を20質量%~80質量%有し、
    前記無機化合物が、親水性無機粒子であり、
    前記無機化合物の含有量が、前記高分子樹脂繊維(A)及び前記高分子樹脂繊維(B)と前記無機化合物との合計量100質量%に対して50質量%~90質量%含む
    ことを特徴とする、アルカリ水電解用隔膜。
  2. 前記高分子樹脂繊維(A)の平均繊維径(Da)と、前記親水性無機粒子の平均一次粒径(Di)との比(Di/Da)が0.05~3の範囲である、請求項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  3. 気孔率が30%以上90%以下であり、最大孔径が0.2μm以上2.0μm以下である、請求項1又は2に記載のアルカリ水電解用隔膜
  4. 前記高分子樹脂繊維が、ポリフェニレンサルファイドであり、前記高分子多孔膜の膜厚が100μm以上500μm以下である、請求項1~のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  5. 前記高分子樹脂繊維の一部が、前記高分子樹脂繊維と結着している、請求項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  6. 前記無機化合物が、少なくともジルコニウムを含む、請求項1~のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  7. 前記高分子多孔膜が、さらに多孔性支持体を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  8. 前記多孔性支持体が、メッシュ、不織布、織布、及び不織布と前記不織布に内在する織布とを含む複合布からなる群より選ばれるいずれか1種である、請求項に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  9. 前記多孔性支持体が、ポリフェニレンサルファイドを含む、請求項7又は8に記載のアルカリ水電解用隔膜。
  10. 請求項1~のいずれか1項に記載のアルカリ水電解用隔膜を備え、
    陰極及び陽極を含む複数の複極式エレメントが、前記アルカリ水電解用隔膜を挟んで重ね合わされ、
    前記アルカリ水電解用隔膜が前記陰極及び前記陽極と接触してゼロギャップ構造が形成されている
    ことを特徴とする、アルカリ水電解用複極式電解槽。
  11. (A)前記高分子樹脂繊維と前記親水性無機粒子とを70:30~30:70の体積比で含むスラリーを300~1000g/mの目付で湿式抄紙することによりウェブを形成する工程、
    (B)前記工程(A)で得られた前記ウェブを60℃~90℃で乾燥した後、120℃~260℃、30MPa~70MPaの条件でホットプレスする工程、
    を含む、請求項1~のいずれか一項に記載のアルカリ水電解用隔膜の製造方法。
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