本発明の電解コンデンサは、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有し、該誘電体層と上記陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置されている陽極と、上記空間に充填されているイオン伝導性電解質と、を備え、上記陽極と上記陰極との間に電圧を印加することにより、上記イオン伝導性電解質と接触している上記陰極の導電性高分子層がレドックス容量を発現するコンデンサである。但し、本発明では、上記イオン伝導性電解質として、非プロトン性有機溶媒と、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオンと、該アニオンに対する対カチオンと、を含む電解液が使用される。本発明の電解コンデンサは、以下に示す、陰極形成工程、陽極形成工程、及び電解液充填工程により製造することができる。以下、各工程について詳細に説明する。
(1)陰極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陰極は、導電性基体と、該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する。導電性基体としては、陰極における導電性基体から導電性高分子層に対してレドックス反応を進行させるための電子の供給が可能であれば、集電体として機能する基体を特に限定なく使用することができる。このような導電性基体は、1層の導電層から成っていても良く、複数層の異なる導電層から成っていても良い。複数層から成っている場合には、導電層間に絶縁層が存在していても、絶縁層の一部が破壊されて導電層間が導通していれば、導電性基体として使用することができる。例えば、従来の電解コンデンサにおいて陰極のために使用されている、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属の箔、或いは、これらの弁金属箔に化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させた箔を、導電性基体として使用することができ、アルミニウム-銅合金等の合金を導電性基体とすることもできる。弁金属箔の表面には、一般に自然酸化皮膜が存在しているが、これに加えて、ホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理により形成した化成酸化皮膜が存在していても、酸化皮膜の表面に無機導電性材料を含む無機導電層を設けることにより、導電性基体として使用することが可能になる。無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、無機導電層と弁金属箔とを導通させれば良い。無機導電層を形成する無機導電性材料の種類及び無機導電層の形成方法には特別な限定がない。例えば、炭素、チタン、白金、金、銀、コバルト、ニッケル、鉄等の無機導電性材料を真空蒸着、スパッタリング、イオンプレーティング、塗布、電解めっき、無電解めっき等の手段により酸化皮膜上に積層することにより無機導電層を設ける過程で、酸化皮膜の一部を破壊し、無機導電層と弁金属箔とを導通させることができる。
弁金属箔としては、アルミニウム箔又は必要に応じてエッチング処理を施したアルミニウム箔が、電解液に対して良好な耐腐食性を示すため好ましい。アルミニウム箔を使用する場合には、一般に自然酸化皮膜或いは化成酸化皮膜が存在しているため、上述したように、酸化アルミニウム皮膜上に無機導電層を設け、この過程で酸化アルミニウム皮膜の一部を破壊し、無機導電層とアルミニウム箔とを導通させるのが好ましい。無機導電層としてチタン蒸着膜を使用する場合には、蒸着処理における周囲雰囲気中の原子を含ませることができ、例えば、窒素や炭素を含ませて窒化チタン蒸着膜及び炭化チタン蒸着膜とすることができる。上記無機導電層が、カーボン、チタン、窒化チタン、炭化チタン及びニッケルから成る群から選択された少なくとも1種の無機導電性材料を含む層であると、耐久性に優れた陰極が得られるため好ましい。また、中でも、炭化チタン蒸着膜やカーボン蒸着膜は、以下に示す電解重合において安定した特性を示す重合膜を与えるため好ましく、カーボン塗布層は生産性に優れるため好ましい。
上記導電性基体の表面には、導電性高分子層が設けられる。上記無機導電層が設けられている場合には、無機導電層の表面に導電性高分子層が設けられる。この導電性高分子層は、電解重合膜であっても良く、化学重合膜であっても良く、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を用いて形成しても良い。
電解重合膜の形成は、モノマーと支持電解質と溶媒とを少なくとも含む重合液に上記導電性基体と対極とを導入し、導電性基体と対極との間に電圧を印加することにより行われる。対極としては、白金、ニッケル、鋼等の板や網を用いることができる。電解重合の過程で、支持電解質から放出されるアニオンがドーパントとして導電性高分子層に含まれる。
電解重合用重合液の溶媒としては、所望量のモノマー及び支持電解質を溶解することができ電解重合に悪影響を及ぼさない溶媒を特に限定なく使用することができる。例としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランが挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。水を溶媒全体の80質量%以上の量で含む溶媒、特に水のみからなる溶媒を使用すると、緻密で安定な電解重合膜が得られるため好ましい。
電解重合用重合液に含まれるモノマーとしては、従来導電性高分子の製造のために用いられているπ-共役二重結合を有するモノマーを特に限定なく使用することができる。以下に代表的なモノマーを例示する。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。
まず、チオフェン及びチオフェン誘導体、例えば、3-メチルチオフェン、3-エチルチオフェン等の3-アルキルチオフェン、3,4-ジメチルチオフェン、3,4-ジエチルチオフェン等の3,4-ジアルキルチオフェン、3-メトキシチオフェン、3-エトキシチオフェン等の3-アルコキシチオフェン、3,4-ジメトキシチオフェン、3,4-ジエトキシチオフェン等の3,4-ジアルコキシチオフェン、3,4-メチレンジオキシチオフェン、3,4-エチレンジオキシチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンジオキシ)チオフェン等の3,4-アルキレンジオキシチオフェン、3,4-メチレンオキシチアチオフェン、3,4-エチレンオキシチアチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンオキシチア)チオフェン等の3,4-アルキレンオキシチアチオフェン、3,4-メチレンジチアチオフェン、3,4-エチレンジチアチオフェン、3,4-(1,2-プロピレンジチア)チオフェン等の3,4-アルキレンジチアチオフェン、チエノ[3,4-b]チオフェン、イソプロピルチエノ[3,4-b]チオフェン、t-ブチル-チエノ[3,4-b]チオフェン等のアルキルチエノ[3,4-b]チオフェン、を挙げることができる。
また、ピロール及びピロール誘導体、例えば、N-メチルピロール、N-エチルピロール等のN-アルキルピロール、3-メチルピロール、3-エチルピロール等の3-アルキルピロール、3-メトキシピロール、3-エトキシピロール等の3-アルコキシピロール、N-フェニルピロール、N-ナフチルピロール、3,4-ジメチルピロール、3,4-ジエチルピロール等の3,4-ジアルキルピロール、3,4-ジメトキシピロール、3,4-ジエトキシピロール等の3,4-ジアルコキシピロールを挙げることができる。さらに、アニリン及びアニリン誘導体、例えば、2,5-ジメチルアニリン、2-メチル-5-エチルアニリン等の2,5-ジアルキルアニリン、2,5-ジメトキシアニリン、2-メトキシ-5-エトキシアニリン等の2,5-ジアルコキシアニリン、2,3,5-トリメトキシアニリン、2,3,5-トリエトキシアニリン等の2,3,5-トリアルコキシアニリン、2,3,5,6-テトラメトキシアニリン、2,3,5,6-テトラエトキシアニリン等の2,3,5,6-テトラアルコキシアニリン、及び、フラン及びフラン誘導体、例えば、3-メチルフラン、3-エチルフラン等の3-アルキルフラン、3,4-ジメチルフラン、3,4-ジエチルフラン等の3,4-ジアルキルフラン、3-メトキシフラン、3-エトキシフラン等の3-アルコキシフラン、3,4-ジメトキシフラン、3,4-ジエトキシフラン等の3,4-ジアルコキシフラン、を挙げることができる。
モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンからなる群から選択されたモノマーを使用するのが好ましい。チオフェン環の3位と4位の置換基は、3位と4位の炭素と共に環を形成していても良い。特に、3,4-(エチレンジオキシチオフェン)は、高いレドックス活性を示し、耐熱性にも優れた導電性高分子層を与えるため好ましい。
電解重合用重合液に含まれる支持電解質としては、従来の導電性高分子に含まれるドーパントを放出する化合物を特に限定なく使用することができる。例えば、ホウ酸、硝酸、リン酸、タングストリン酸、モリブドリン酸等の無機酸、酢酸、シュウ酸、クエン酸、アスコット酸、酒石酸、スクアリン酸、ロジゾン酸、クロコン酸、サリチル酸等の有機酸に加えて、メタンスルホン酸、ドデシルスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、1,2-ジヒドロキシ-3,5-ベンゼンジスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ナフタレンジスルホン酸、プロピルナフタレンスルホン酸、ブチルナフタレンスルホン酸等のスルホン酸及びこれらの塩が例示される。また、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリマレイン酸等のポリカルボン酸、ポリスチレンスルホン酸、ポリビニルスルホン酸等のポリスルホン酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
さらに、ボロジサリチル酸、ボロジ蓚酸、ボロジマロン酸、ボロジコハク酸、ボロジアジピン酸、ボロジマレイン酸、ボロジグリコール酸、ボロジ乳酸、ボロジヒドロキシイソ酪酸、ボロジリンゴ酸、ボロジ酒石酸、ボロジクエン酸、ボロジフタル酸、ボロジヒドロキシ安息香酸、ボロジマンデル酸、ボロジベンジル酸等のホウ素錯体、式(I)又は式(II)
(式中、mが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、nが1~8の整数、好ましくは1~4の整数、特に好ましくは2を意味し、oが2又は3の整数を意味する)で表わされるスルホニルイミド酸、及びこれらの塩も支持電解質として使用可能である。
塩としては、リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、アンモニウム塩、エチルアンモニウム塩、ブチルアンモニウム塩等のアルキルアンモニウム塩、ジエチルアンモニウム塩、ジブチルアンモニウム塩等のジアルキルアンモニウム塩、トリエチルアンモニウム塩、トリブチルアンモニウム塩等のトリアルキルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等のテトラアルキルアンモニウム塩が例示される。
これらの支持電解質は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良く、支持電解質の種類に依存して、重合液に対する飽和溶解度以下の量で且つ電解重合のために充分な電流が得られる濃度、好ましくは水1リットルに対して10ミリモル以上の濃度で使用される。
水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させた電解重合液を用いると、ボロジサリチル酸イオンをドーパントとして含む導電性高分子層により、コンデンサ容量の周波数依存性が改善され、高い周波数の条件下でも高い容量が得られるため好ましい。また、水を多く含む溶媒、好ましくは水を80質量%の量で含む溶媒、特に好ましくは水のみから成る溶媒に、支持電解質としてボロジサリチル酸及びその塩を溶解させ、さらに陰イオン界面活性剤を共存させて、該界面活性剤により上記モノマーを上記溶媒に可溶化又は乳化させた電解重合液を用いると、コンデンサ容量の周波数依存性がさらに改善されることが分かっている。使用可能な陰イオン界面活性剤を例示すると、脂肪酸塩型界面活性剤、例えば、ラウリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム及びステアリン酸ナトリウム、アミノ酸型界面活性剤、例えば、ラウロイルグルタミン酸ナトリウム、ラウロイルアスパラギン酸ナトリウム及びラウロイルメチルアラニンナトリウム、硫酸エステル型界面活性剤、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム及びミリスチル硫酸ナトリウムのようなアルキル硫酸エステル塩、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム及びポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムのようなアルキルエーテル硫酸エステル塩、スルホン酸型界面活性剤、例えば、デカンスルホン酸ナトリウム及びドデカンスルホン酸ナトリウムのようなアルカンスルホン酸塩、オクチルベンゼンスルホン酸ナトリウム及びドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルベンゼンスルホン酸塩、イソプロピルナフタレンスルホン酸ナトリウム及びブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムのようなアルキルナフタレンスルホン酸塩、ポリスチレンスルホン酸ナトリウムのような高分子スルホン酸塩、テトラデセンスルホン酸ナトリウムのようなオレフィンスルホン酸塩、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウムのようなスルホ脂肪酸エステル塩、及び、アルキルリン酸エステル型界面活性剤、例えば、ラウリルリン酸ナトリウム、ミリスチルリン酸ナトリウム及びポリオキシエチレンラウリルリン酸ナトリウム、が挙げられる。上記陰イオン界面活性剤は、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良く、所望量のモノマーを可溶化或いは乳化させるのに十分な量で使用される。上記陰イオン界面活性剤がスルホン酸型界面活性剤及び/又は硫酸エステル型界面活性剤であると、特に周波数特性に優れた電解コンデンサが得られるため好ましい。
電解重合は、定電位法、定電流法、電位掃引法のいずれかの方法により行われる。定電位法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して1.0~1.5Vの電位が好適であり、定電流法による場合には、モノマーの種類に依存するが、1~10000μA/cm2の電流値が好適であり、電位掃引法による場合には、モノマーの種類に依存するが、飽和カロメル電極に対して0~1.5Vの範囲を5~200mV/秒の速度で掃引するのが好適である。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
化学重合膜の形成は、溶媒にモノマーと酸化剤の両方を溶解させた液を用意し、この液を刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法、又は、溶媒にモノマーを溶解させた液と、溶媒に酸化剤を溶解させた液とを用意し、これらの液を交互に刷毛塗り、滴下塗布、浸漬塗布、スプレー塗布等により上記導電性基体の表面に適用し、乾燥する方法により行うことができる。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができる。これらの溶媒は、単独で使用しても良く、2種以上を混合して使用しても良い。モノマーとしては、π-共役二重結合を有するモノマー、例えば、電解重合のために例示したモノマーを使用することができる。これらのモノマーは、単独で使用しても良く、2種以上の混合物として使用しても良い。モノマーとしては、3位と4位に置換基を有するチオフェンから選択されたモノマーが好ましく、特に3,4-エチレンジオキシチオフェンが好ましい。酸化剤としては、p-トルエンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、アントラキノンスルホン酸鉄(III)等の三価の鉄塩、若しくは、ペルオキソ二硫酸アンモニウム、ペルオキソ二硫酸ナトリウム等の過硫酸塩等を使用することができ、単独の化合物を使用しても良く、2種以上の化合物を使用しても良い。重合温度には厳密な制限がないが、一般的には10~60℃の範囲である。重合時間にも厳密な制限はないが、一般的には1分~10時間の範囲である。
さらに、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を上記導電性基体の表面に塗布、滴下等の手段により適用し、乾燥することにより、導電性高分子層を形成することもできる。上記分散液における分散媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、エチレングリコール、アセトニトリル、ブチロニトリル、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、γ-ブチロラクトン、酢酸メチル、酢酸エチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ニトロメタン、ニトロベンゼン、スルホラン、ジメチルスルホランを使用することができるが、水を分散媒として使用するのが好ましい。上記分散液は、例えば、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩と、酸化剤とを添加し、化学酸化重合が完了するまで攪拌し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により酸化剤及び残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。また、水に、モノマーと、ドーパントを放出する酸又はその塩を添加し、攪拌しながら電解酸化重合し、次いで、限外濾過、陽イオン交換、及び陰イオン交換等の精製手段により残留モノマーを除去した後、必要に応じて超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。さらに、上述した化学酸化重合法又は電解重合法により得られた液をろ過して凝集体を分離し、十分に洗浄した後水に添加し、超音波分散処理、高速流体分散処理、高圧分散処理等の分散処理を施すことにより得ることができる。分散液中の導電性高分子の粒子の含有量は、一般的には1.0~3.0質量%の範囲であり、好ましくは1.5質量%~2.0質量%の範囲である。
薄い導電性高分子層を備えた陰極の使用により、陰極のサイズを減少させることができ、ひいてはコンデンサの単位体積当たりの容量を向上させることができる。陰極の導電性高分子層の厚みは、200~2450nmの範囲であるのが好ましい。導電性高分子層の厚みが200nm未満であると、高温耐久性が低下する傾向が認められ、また、導電性高分子層の厚みが2450nmより厚いと、容量の温度依存性が大きくなる上に、電解コンデンサの小型化に寄与しにくくなる。
陰極の導電性高分子層は、電解重合により形成するのが好ましい。電解重合により、上記導電性基体の表面に、少量のモノマーから機械的強度に優れた導電性高分子層を短時間で形成することができる。また、電解重合は薄く緻密で均一な導電性高分子層を与え、200~2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を容易に得ることができる。一方、化学重合膜は、膜質が不均一である上に薄くても3μm程度の厚みを有するため、コンデンサの小型化に適さない。また、分散液を用いて200~2450nmの範囲の厚みを有する好適な導電性高分子層を得るためには、一般に上記導電性基体に対する分散液の適用及び乾燥の工程を繰り返し行わなければならず煩雑である。その上、現在のところ理由は明らかでないが、分散液から得られた導電性高分子層を有する陰極を備えた電解コンデンサは、同じ厚みを有する電解重合膜を有する陰極を備えた電解コンデンサと比較して、低い容量と高い等価直列抵抗とを有することが分かっている。
上述した工程により導電性基体の表面に導電性高分子層を形成した後、図1を参照して説明した方法により、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗を測定し、測定された接触抵抗が1Ωcm2以下であれば、陰極における導電性基体から導電性高分子層に対してレドックス反応を進行させるために十分な量の電子が供給され、上記電解液と接触している陰極の導電性高分子層がレドックス容量を信頼性良く発現するため好ましい。また、導電性基体と導電性高分子層との接触抵抗は、0.06Ωcm2以下であるのが特に好ましい。0.06Ωcm2以下であると、高い周波数の条件下でも高い容量が得られ、広い周波数の範囲で高い容量を示す電解コンデンサが得られる。
(2)陽極形成工程
本発明の電解コンデンサにおける陽極は、アルミニウム、タンタル、ニオブ、チタン、ジルコニウム等の弁金属からなる基体と、該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する。陽極のための基体としては、弁金属の箔に公知の方法により化学的或いは電気化学的なエッチング処理を施すことにより表面積を増大させたものが好ましく、エッチング処理を施したアルミニウム箔が特に好ましい。基体の表面の誘電体層は、基体にホウ酸アンモニウム水溶液、アジピン酸アンモニウム水溶液、リン酸アンモニウム水溶液等の化成液を使用した化成処理を施す公知の方法により形成することができる。
(3)電解液充填工程
この工程では、上記陰極形成工程において得られた、導電性基体と該導電性基体の表面に設けられた導電性高分子層とを有する陰極と、上記陽極形成工程において得られた、弁金属からなる基体と該基体の表面に設けられた上記弁金属の酸化物からなる誘電体層とを有する陽極とを、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、非プロトン性有機溶媒と、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオンと、該カルボン酸のアニオンに対する対カチオンと、を含む電解液を充填する。
非プロトン性溶媒としては、従来の電解コンデンサにおいて使用されていたものを特に限定なく使用することができ、例えば、γ-ブチロラクトン、δ-バレロラクトン、γ-バレロラクトン等のラクトン;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、イソブチレンカーボネート等のカーボネート;スルホラン、3-メチルスルホン、エチルメチルスルホン等のスルホン;アセトニトリル、プロピオニトリル等のニトリル;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル;N-ホルムアミド、N-メチルアセトアミド、ヘキサメチルホスホリックアミド等のアミド;ジメチルスルホキシド等のスルホキシド;を挙げることができる。また、本発明に悪影響を及ぼさない限りにおいて、プロトン性溶媒、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、メチルセロソルブ、水が含まれていても良い。
上記溶媒には、該溶媒中で、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオン及び該カルボン酸のアニオンに対する対カチオンを与える化合物が溶解させられる。25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸としては、例えば、ギ酸、グリコール酸、乳酸、サリチル酸、1-ナフトエ酸、マンデル酸、2,4-ジヒドロキシ安息香酸、2,5-ジヒドロキシ安息香酸、2,6-ジヒドロキシ安息香酸等のモノカルボン酸;シュウ酸、マロン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、リンゴ酸等のジカルボン酸;クエン酸、トリメリット酸等のトリカルボン酸;ピロメリット酸等のテトラカルボン酸が挙げられる。上記対イオンを与える化合物としては、例えば、アミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニア、アミン、アルカリ金属塩が挙げられる。上記カルボン酸は、対カチオンとの塩、例えば、アミジニウム塩、ホスホニウム塩、アンモニウム塩、アミン塩、アルカリ金属塩の形態で非プロトン性溶媒に添加されても良い。電解液における非プロトン性溶媒は単一の化合物であっても2種以上の混合物であっても良く、カルボン酸のアニオン及び対カチオンも単一の化合物であっても良く2種以上の混合物であっても良い。また、本発明に悪影響を及ぼさない限りにおいて、25℃における水中での酸解離定数が4.0を超えるカルボン酸のアニオン、例えば、酢酸アニオン、アジピン酸アニオン、安息香酸アニオン、アゼライン酸アニオン、1,6-デカンジカルボン酸アニオンが含まれていても良く、カルボン酸アニオン以外のアニオン、例えば、ボロジサリチル酸アニオン、ボロジ蓚酸アニオンが含まれていても良い。
25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオンに対する対カチオンがアミジニウムカチオンであると、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が顕著に増大するため好ましい。アミジニウムカチオンを例示すると、1,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン、1-エチル-3-メチルイミダゾリウムカチオン、1-メチル-2,3-ジメチルイミダゾリウムカチオン等のイミダゾリウムカチオン;1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムカチオン、1,3-ジメチル-2,4-ジエチルイミダゾリニウムカチオン、1,2-ジメチル-3,4-ジエチルイミダゾリニウムカチオン等のイミダゾリニウムカチオン;1,3-ジメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン、1,2,3-トリメチル-1,4,5,6-テトラヒドロピリミジニウムカチオン、1,3-ジメチル-1,4-ジヒドロピリミジニウムカチオン等のピリミジニウムカチオン;ホルムアミジニウムカチオン、アセトアミジニウムカチオン、ベンジルアミジニウムカチオン等の鎖状アミジニウムカチオンが挙げられる。
これらの電解液には、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオンに対する対カチオンが、該カルボン酸のカルボキシ基1個当たり、0.44~1.0個含まれているのが好ましい。この範囲内で陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が増大するからである。また、これらの電解液に上記カルボン酸と上記対カチオンとから構成される溶質が多く含まれていると、陰極の導電性高分子層によるレドックス容量が増大する。上記電解液における上記カルボン酸のアニオンと上記対カチオンとから構成される溶質の含有量は、少なくとも0.1Mの濃度であり、多くとも上記電解液における飽和溶解量であるのが好ましい。
これらの電解液には、上述した溶媒及び溶質に加えて、公知の添加物が含まれていても良く、例えば、コンデンサの耐電圧性の向上を目的として、リン酸、リン酸エステル等のリン酸化合物、ホウ酸等のホウ酸化合物、マンニット等の糖アルコール、ホウ酸と糖アルコールとの錯化合物、ポリエチレングリコール、ポリグリセリン、ポリプロピレングリコール等のポリオキシアルキレンポリオール等が含まれていても良く、さらに、特に高温下で急激に発生する水素を吸収する目的で、ニトロフェノール、ニトロ安息香酸、ニトロアニソール、ニトロベンジルアルコール等のニトロ化合物が含まれていても良い。
例えば、帯状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層した後これを巻回することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液を含浸させることにより、この工程を実施することができる。また、所望形状の上記陰極と上記陽極とをセパレータを介して陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように積層することにより形成したコンデンサ素子に上記電解液を含浸させることにより、この工程を実施することができる。複数組の陰極と陽極とをセパレータを間に挟んで陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とが対向するように交互に積層したコンデンサ素子に上記電解液を含浸させても良い。セパレータとしては、セルロース系繊維で構成された織布又は不織布、例えば、マニラ紙、クラフト紙、エスパルト紙、ヘンプ紙、コットン紙、レーヨン及びこれらの混抄紙や、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート及びこれらの誘導体などのポリエステル系樹脂、ポリテトラフルオロエチレン系樹脂、ポリフッ化ビニリデン系樹脂、ビニロン系樹脂、脂肪族ポリアミド、半芳香族ポリアミド、全芳香族ポリアミド等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、トリメチルペンテン樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、アクリル樹脂等で構成された織布又は不織布、ガラスペーパー、ガラスペーパーとマニラ紙、クラフト紙との混抄紙等を使用することができる。上記電解液の含浸は、開口部を有する外装ケース内に上記コンデンサ素子を収容した後に実施しても良い。
また、陰極の導電性高分子層と陽極の誘電体層とを絶縁性のスペーサを介して対向させることにより形成したコンデンサ素子の上記スペーサにより形成された空間に上記電解液を充填することにより、この工程を実施しても良い。
本発明では、陰極の導電性高分子層は上記電解液と直接接触している必要があり、陰極の導電性高分子層は陽極と直接接触せず上記電解液を介して陽極と接続(導通)しているが、陽極の誘電体層は上記電解液と直接接触していてもよく、他の導電性材料を介して上記電解液と間接的に接続していても良い。好適な他の導電性材料として導電性高分子層を挙げることができる。この導電性高分子層は、上記陽極形成工程において陽極を形成した後、陽極の誘電体層の表面に電解重合法又は化学重合法により形成することができ、また、導電性高分子の粒子と分散媒とを少なくとも含む分散液を陽極の誘電体層の表面に適用して乾燥することにより形成することもできる。この導電性高分子層については、上述した陰極の導電性高分子層の形成に関する説明がそのまま当てはまるため、これ以上の説明を省略する。陽極の誘電体層に隣接して導電性高分子層が設けられている場合には、この導電体層と陰極の導電性高分子層とが空間を開けて対向するように配置して組み合わせた後、上記空間に上記電解液を充填すれば良い。
外装ケース内に収容されて封止されたコンデンサ素子の陽極と陰極との間に電圧が印加されると、上記電解液と接触している上記陰極の導電性高分子層にレドックス容量が発現するため、電解コンデンサの単位体積当たりの容量が顕著に増大する。レドックス容量発現の過程で、上記陰極の導電性高分子層に上記電解液中のイオンが取り込まれる。非プロトン性有機溶媒と、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下であるカルボン酸のアニオンと、該カルボン酸のアニオンに対する対カチオンと、を含む電解液の使用により、該電解液と接触している陰極の導電性高分子層によるレドックス容量の発現量が、上記カルボン酸に代えて25℃における水中での酸解離定数が4.0を超えるカルボン酸を用いた電解液を使用した場合と比較して増大する。
本発明を以下の実施例を用いて説明するが、本発明は以下の実施例に限定されない。
(1)カルボン酸の酸解離定数及びカルボキシ基の個数に対する対カチオンの個数の影響
実施例1
エッチング処理を施したアルミニウム箔の表面に、皮膜耐圧5Vの酸化アルミニウム皮膜を形成し、投影面積2cm2に打ち抜き、酸化アルミニウム皮膜の表面に0.431gm-2の量のカーボンを蒸着して、導電性基体を得た。
ガラス容器に蒸留水50mLを導入し、40℃に加熱した。この液に、0.030Mの3,4-エチレンジオキシチオフェン(以下、3,4-エチレンジオキシチオフェンを「EDOT」と表し、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェンを「PEDOT」と表す。)と0.04Mのボロジサリチル酸アンモニウムと0.04Mのブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムとを添加して撹拌し、ブチルナフタレンスルホン酸ナトリウムによりEDOTを水に可溶化させた電解重合用重合液を得た。
次いで、上記導電性基体(作用極)と、10cm2の面積を有するSUSメッシュの対極とを、上述した電解重合用重合液に導入し、500μA/cm2の条件で定電流電解重合を2分間行った。重合後の作用極を水で洗浄した後、100℃で30分間乾燥し、カーボン蒸着膜上のPEDOT層の厚みが350nmである陰極を得た。なお、PEDOT層の厚みは、500μA/cm2の条件での定電流電解重合を時間を変えて複数回実施し、各回の実験において得られたPEDOT層の厚みを原子間力顕微鏡或いは段差計を用いて測定し、PEDOT層の厚みと電荷量との関係式を導出した後、導出した関係式を用いて電解重合の電荷量をPEDOT層の厚みに換算して求めた値である。
この陰極のPEDOT層の表面に、図1を参照して説明した方法に従い、カーボンペースト及び銀ペーストを介して銅箔を固定し、銅箔とアルミニウム箔との間について交流インピーダンス測定を行ったところ、上記導電性基体とPEDOT層との接触抵抗は0.9Ωcm2であった。
γ-ブチロラクトンにジカルボン酸であるマレイン酸(25℃における水中での酸解離定数:1.92)と対カチオンを与える化合物としてのトリエチルアミンとを溶解させて電解液を調製した。マレイン酸の濃度は0.9Mに固定し、トリエチルアミンの濃度は0.8~1.8Mの範囲で変更した。得られた電解液に、上記陰極(PEDOT層と導電性基体とを有する陰極)を導入し、30℃の条件下で120Hzにおける陰極の容量を測定した。
実施例2
0.9Mのマレイン酸に代えて0.9Mのジカルボン酸であるフタル酸(25℃における水中での酸解離定数:2.94)を使用した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
実施例3
0.9Mのマレイン酸に代えて0.9Mのモノカルボン酸であるサリチル酸(25℃における水中での酸解離定数:2.97)を使用し、トリエチルアミンの濃度を0.4~0.9Mの範囲で変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
実施例4:
0.9Mのマレイン酸に代えて0.9Mのモノカルボン酸であるギ酸(25℃における水中での酸解離定数:3.75)を使用し、トリエチルアミンの濃度を0.4~0.9Mの範囲で変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
比較例1
0.9Mのマレイン酸に代えて0.9Mのモノカルボン酸である安息香酸(25℃における水中での酸解離定数:4.21)を使用し、トリエチルアミンの濃度を0.4~0.9Mの範囲で変更した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
比較例2
0.9Mのマレイン酸に代えて0.9Mのジカルボン酸であるアジピン酸(25℃における水中での酸解離定数:4.42)を使用した点を除いて、実施例1の手順を繰り返した。
図2に、実施例1~4及び比較例1,2についての陰極の容量と、各カルボン酸におけるカルボキシ基の個数に対する対カチオンの個数と、の関係を示す。実施例2において用いた0.9Mのフタル酸と0.8Mのトリエチルアミンとを含む電解液を使用して、上記導電性基体の30℃、120Hzにおける容量を測定すると168μFcm-2であり、陰極の容量が大幅に増大しているが、この容量の大幅な増大はPEDOT層によるレドックス容量の発現に起因している。また、図2より、実施例1のマレイン酸アニオンを含む電解液、実施例2のフタル酸アニオンを含む電解液、実施例3のサリチル酸アニオンを含む電解液、及び実施例4のギ酸アニオンを含む電解液を使用すると、比較例1の安息香酸アニオンを含む電解液及び比較例2のアジピン酸アニオンを含む電解液を用いた場合に比較して、陰極の容量が顕著に増大することが分かる。したがって、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下のカルボン酸アニオンを含む電解液が、陰極のPEDOT層によるレドックス容量を顕著に増大させることが分かった。
また、図2より、25℃における水中での酸解離定数が4.0以下のカルボン酸アニオンを含む電解液において、使用されたカルボン酸のカルボキシ基の1個当たり約0.5個のトリエチルアミンが含まれている電解液を使用すると、陰極の容量が顕著に増大することが分かる。図2より、電解液には、トリエチルアミン、すなわち対カチオンが、使用されたカルボン酸におけるカルボキシ基の1個当たり0.44~1.0個の量で含まれているのが好ましいと判断された。
(2)対カチオンの種類及び溶質濃度の影響
実施例5
γ-ブチロラクトンにジカルボン酸であるフタル酸(25℃における水中での酸解離定数:2.94)と対カチオンを与える化合物としての1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩とを溶解させて電解液を調製した。フタル酸の濃度を0.1M~1.2Mの範囲で変更し、フタル酸と1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩の濃度を同一にした。得られた電解液に、上記陰極(PEDOT層と導電性基体とを有する陰極)を導入し、30℃の条件下で120Hzにおける陰極の容量を測定した。
実施例6
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてエチルジメチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.3Mの範囲で変更し、フタル酸とエチルジメチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例5の手順を繰り返した。
実施例7
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてトリエチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.3Mの範囲で変更し、フタル酸とトリエチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例5の手順を繰り返した。
実施例8
対カチオンを与える化合物として、1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウム塩に代えてジエチルアミンを使用し、フタル酸の濃度を0.1M~1.1Mの範囲で変更し、フタル酸とジエチルアミンの濃度を同一にした点を除いて、実施例5の手順を繰り返した。
図3に、実施例5~8についての陰極の容量を示す。図3には、PEDOT層を備えていない導電性基体を実施例5で用いた電解液に導入し、30℃、120Hzの条件下で測定した容量も示されている。図3における導電性基体の容量と実施例5における陰極の容量との顕著な差は、PEDOT層によるレドックス容量の発現に起因している。図3より、アミジニウムカチオンの1種である1,2,3,4-テトラメチルイミダゾリニウムカチオンが、陰極のPEDOT層によるレドックス容量を顕著に増大させることが分かる。また、図3より、電解液中に、フタル酸アニオンと対カチオンとから成る溶質が0.1M~1.3Mの範囲、好ましくは0.3M~1.2Mの範囲で含まれていれば、十分に増大したレドックス容量が得られることが分かる。