ところで、ワイパー等によりノズルプレートの表面を払拭する払拭動作において、ノズルプレートの表面の撥液膜が削られる虞がある。特に、噴射する液体として酸化チタン等の顔料が含まれるインクを用いる場合、当該インクに含まれる顔料が研磨剤のように作用し、払拭動作による撥液膜の摩耗が顕著になる。その結果、ノズルプレートの表面において、十分な撥液性が得られない虞がある。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、その目的は表面に形成された撥液層の劣化を抑制したノズルプレート、液体噴射ヘッド、液体噴射装置、及び、ノズルプレートの製造方法を提供することにある。
本発明のノズルプレートは、上記目的を達成するために提案されたものであり、液体が噴射されるノズルが一の面側に開口されたノズルプレートであって、
架橋したフッ素樹脂を含む撥液層が前記一の面側に形成されたことを特徴とする。
この構成によれば、フッ素樹脂を含む撥液層が形成されるため、ノズルプレートの一の面側に撥液性を付与することができる。また、撥液層が架橋したフッ素樹脂を含むため、架橋していないフッ素樹脂と比べて、耐摩耗性を向上させることができる。その結果、ノズルプレートの一の面側における撥液性の劣化を抑制できる。
上記構成において、前記撥液層は、前記一の面側と架橋していることが望ましい。
この構成によれば、撥液層のノズルプレートへの接着性(密着性)を向上させることができる。その結果、撥液層の剥離を抑制できる。
また、上記各構成の何れかにおいて、前記液体から保護する保護層が前記一の面側に形成され、
前記保護層に前記撥液層が積層されたことが望ましい。
この構成によれば、たとえ撥液層の一部にピンホールやクラック等の欠陥が生じたとしても、保護層によりノズルプレートの一の面側を保護することができる。
さらに、上記構成において、前記保護層は、導電性を有することが望ましい。
この構成によれば、ノズルプレートの一の面側における帯電量を低減することができる。
また、上記各構成の何れかにおいて、前記ノズルは、前記開口を含む第1の部分と、前記第1の部分と連通する第2の部分とを有し、
前記第1の部分における前記開口の径は、前記第2の部分の径より大きく、
前記撥液層は、前記第1の部分に形成されたことが望ましい。
この構成によれば、ノズルの開口の縁における撥液層が摩耗することを抑制できる。
さらに、上記構成において、前記第1の部分は、前記開口の縁の角を切り欠いた形状に形成されたことが望ましい。
又は、前記第1の部分は、前記開口の縁の角を斜めに面取りした形状に形成されたことが望ましい。
或いは、前記第1の部分は、前記開口の縁の角を丸めた形状に形成されたことが望ましい。
これらの構成によれば、ノズルプレートの第1の部分の加工が容易になる。
また、本発明の液体噴射ヘッドは、上記各構成の何れかのノズルプレートを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、液体噴射ヘッドの信頼性を向上させることができる。
さらに、本発明の液体噴射装置は、上記構成の液体噴射ヘッドを備えたことを特徴とする。
この構成によれば、液体噴射装置の信頼性を向上させることができる。
そして、本発明のノズルプレートの製造方法は、液体が噴射されるノズルが開口された一の面側に、架橋したフッ素樹脂を含む撥液層が形成されたノズルプレートの製造方法であって、
前記一の面側に架橋前の未架橋フッ素樹脂を含む未架橋フッ素樹脂含有層を積層する未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と、
酸素濃度が所定値以下の低酸素雰囲気下において、前記未架橋フッ素樹脂含有層を加熱した状態で放射線を照射して、架橋前の前記未架橋フッ素樹脂含有層を架橋させて前記撥液層を形成する架橋工程と、を含むことを特徴とする。
この方法によれば、ノズルプレートの一の面側に耐摩耗性を向上させた撥液層を形成できる。これにより、撥液層の劣化が抑制されたノズルプレートを作製できる。
上記方法において、前記ノズル内に形成された前記撥液層の少なくとも一部を除去する除去工程を含むことが望ましい。
この方法によれば、ノズルが撥液層で塞がれることを抑制できる。
また、上記方法において、前記除去工程は、前記ノズルに対応する位置に貫通孔が形成されたマスクを前記一の面側から前記撥液層に重ね合わせた状態で前記一の面側からイオンビーム又は放射線を照射することにより、前記ノズル内に形成された前記撥液層の少なくとも一部を除去することが望ましい。
この方法によれば、ノズル内の撥液層を容易に除去できる。
また、上記方法において、前記除去工程は、前記一の面側とは反対側の面側からイオンビーム又は放射線を照射することにより、前記ノズル内に形成された前記撥液層の少なくとも一部を除去することが望ましい。
この方法によれば、ノズル内の撥液層を一層容易に除去できる。
さらに、上記各方法の何れかにおいて、前記架橋工程の後、前記撥液層の表面を研磨する研磨工程を含むことが望ましい。
この方法によれば、放射線の照射により撥液層の表面がダメージを受けたとしても、このダメージを受けた部分を除去することができる。
また、上記各方法の何れかにおいて、前記未架橋フッ素樹脂含有層積層工程は、前記未架橋フッ素樹脂の粒子と前記未架橋フッ素樹脂の粒子を分散させる分散媒とを含むディスパージョンを前記一の面側に塗布するディスパージョン塗布工程と、
前記一の面側に塗布された前記ディスパージョンから前記分散媒を蒸発させる乾燥工程と、を含むことが望ましい。
この方法によれば、ピンホールやクラック等の欠陥が少ない平滑な未架橋フッ素樹脂含有層を作製できる。これにより、欠陥が少ない平滑な撥液層を作製できる。
さらに、上記方法において、前記ディスパージョンに含まれる前記未架橋フッ素樹脂の平均粒径は、前記一の面側に形成される前記撥液層の膜厚の半分以下であることが望ましい。
この方法によれば、未架橋フッ素樹脂の粒子に起因する表面の凹凸を抑制でき、より平滑な撥液層を作製できる。
又は、上記各方法の何れかにおいて、前記未架橋フッ素樹脂含有層積層工程は、前記未架橋フッ素樹脂を含む樹脂シートを前記一の面に密着させるシート配置工程を含むことが望ましい。
この方法によれば、一の面側に未架橋フッ素樹脂含有層を容易に積層できる。
さらに、上記各方法の何れかの前記架橋工程において、前記ノズルから吸引しながら前記未架橋フッ素樹脂を架橋させることが望ましい。
この方法によれば、ノズルの内部に撥液層を形成できる。
また、上記各方法の何れかにおいて、前記未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と、前記架橋工程と、を交互に少なくとも2回以上繰り返すことが望ましい。
この方法によれば、撥液層が厚膜な場合においても、撥液層の厚さのばらつきを抑制できる。
以下、本発明を実施するための形態を、添付図面を参照して説明する。なお、以下に述べる実施の形態では、本発明の好適な具体例として種々の限定がされているが、本発明の範囲は、以下の説明において特に本発明を限定する旨の記載がない限り、これらの態様に限られるものではない。また、以下においては、液体噴射ヘッドの一種として、液体噴射装置の一種であるインクジェット式プリンター(以下、プリンター)1に搭載されたインクジェット式記録ヘッド(以下、記録ヘッド)3を例に挙げて説明する。
図1は、プリンター1の斜視図である。プリンター1は、記録紙等の記録媒体2(着弾対象の一種)の表面に対してインク(液体の一種)を噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、記録ヘッド3、この記録ヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向に移送する搬送機構6等を備えている。ここで、上記のインクは、液体供給源としてのインクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、記録ヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジがプリンターの本体側に配置され、当該インクカートリッジからインク供給チューブを通じて記録ヘッドに供給される構成を採用することもできる。
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。したがってパルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向(記録媒体2の幅方向)に往復移動する。キャリッジ4の主走査方向の位置は、位置情報検出手段の一種であるリニアエンコーダー(図示せず)によって検出される。リニアエンコーダーは、その検出信号、即ち、エンコーダーパルス(位置情報の一種)をプリンター1の制御部に送信する。
記録媒体2が搬送される領域(又は、印刷領域)に対して主走査方向の一端側(図1中、右側)に外れた位置には、記録ヘッド3の待機位置であるホームポジションが設定されている。このホームポジションには、キャップ11及びワイパー12が設けられている。キャップ11は、ホームポジションに待機する記録ヘッド3のノズル面23(後述)を封止する、例えば、弾性体からなる部材である。また、ワイパー12は、ホームポジションに待機する記録ヘッド3のノズル面23を払拭する部材である。本実施形態におけるワイパー12は、エラストマー等の弾性体からなり、ブレード状に形成されている。なお、ワイパー12としては、綿、絹等の布からなるシート状の部材を用いることもできる。また、本実施形態におけるワイパー12は、ノズル22の配設方向であるノズル列方向に沿ってノズル面23を払拭するように構成されている。
次に記録ヘッド3について説明する。図2は、記録ヘッド3の構成を説明する要部の断面図である。図3は、ノズルプレート21の断面を拡大した模式図である。なお、記録ヘッド3の構成はノズル列方向に直交する方向において概ね左右対称であるため、図2では一方の構成のみを表している。また、図3においては、図2とは逆にノズル面23が上方になるように表している。さらに、以下の説明では、便宜上、ヘッドケース16側を上方(又は上側)、ノズル面23側を下方(又は下側)として説明する。本実施形態における記録ヘッド3は、図2に示すように、アクチュエーターユニット14及び流路ユニット15が積層された状態でヘッドケース16に取り付けられている。
ヘッドケース16は、合成樹脂製の箱体状部材であり、その内部には各圧力室30にインクを供給する液体導入路18が形成されている。この液体導入路18は、後述する共通液室25と共に、複数形成された圧力室30に共通なインクが貯留される空間である。本実施形態においては、2列に並設された圧力室30の列に対応して液体導入路18が2つ形成されている。また、ヘッドケース16の下側(流路ユニット15側)の部分には、当該ヘッドケース16の下面(流路ユニット15側の面)からヘッドケース16の高さ方向の途中まで直方体状に窪んだ収容空間17が形成されている。流路ユニット15がヘッドケース16の下面に位置決めされた状態で接合されると、後述する連通基板24に積層されたアクチュエーターユニット14が収容空間17内に収容されるように構成されている。さらに、収容空間17の天井面の一部には、ヘッドケース16の外側の空間と収容空間17とを連通する挿通開口19が開設されている。この挿通開口19を通じて図示しないFPC(フレキシブルプリント基板)等の配線基板が収容空間17内に挿通され、当該収容空間17内のアクチュエーターユニット14に接続される。
本実施形態における流路ユニット15は、連通基板24及びノズルプレート21を有している。ノズルプレート21は、連通基板24の下面(圧力室形成基板29とは反対側の面)に接合されたシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。本実施形態では、このノズルプレート21により、後述する共通液室25となる空間の下面側の開口が封止されている。また、ノズルプレート21には、複数のノズル22が直線状(列状)に開設されている。この複数のノズル22からなるノズル22の列(すなわち、ノズル列)は、ノズルプレート21に2列形成されている。各ノズル列を構成するノズル22は、一端側のノズル22から他端側のノズル22までドット形成密度に対応したピッチで、例えば主走査方向に沿って等間隔に設けられている。なお、ノズルプレートを連通基板における共通液室から内側に外れた領域に接合し、共通液室となる空間の下面側の開口を、例えば可撓性を有するコンプライアンスシート等の部材で封止することもできる。また、以下の説明においては、ノズル22が開口するノズルプレート21の外側の面(図2における下面、本発明における一の面に相当)を、ノズル面23と称する。
本実施形態におけるノズルプレート21の表面には、図3に示すように、例えば、熱酸化膜(SiO2)及びこれに積層された酸化タンタル膜(TaOx)や窒化タンタル膜(TaN)等からなる保護層39が形成されている。この保護層39は、耐インク性を有し、ノズルプレート21の表面を保護する層である。また、この保護層39としては、窒化タンタル膜(TaN)等の導電性を有するものが望ましい。このように保護層39に導電性を有するものを使用し、例えば、当該保護層39と図示しない固定板(記録ヘッド3を固定する板)やアース線等とを導通すれば、後述するようにフッ素樹脂を含む撥液層40が形成されてもノズル面23が帯電することを抑制できる。換言すると、ノズルプレート21のノズル面23側における帯電量を低減することができる。なお、保護層39は1つの層からなる単層構造でも良いし、複数の層が積層してなる積層構造でも良い。複数の層で構成される場合は、最表面の層が耐インク性を有するように構成すればよい。また、この保護層39は、ノズル22の内面やノズル面23とは反対側の面にも形成されている。
ノズル面23における保護層39の表面には、撥液層40が積層されている。本実施形態においては、ノズル面23の全面に撥液層40が形成されている。この撥液層40は、架橋したフッ素樹脂を含む層であり、撥液性を有する。すなわち、撥液層40は、インクに対する接触角が90°以上となっている。また、撥液層40は、ノズル面23(詳しくは、ノズル面23の保護層39)とも架橋し、ノズル面23に接合されている。なお、撥液層40は、必ずしもノズル面23の全面に形成される必要は無く、ノズル面23の少なくともノズル22が形成された領域に亘って形成されていればよい。また、本実施形態では、図3に示すように、ノズル22の内周面におけるノズル面23側の開口近傍にも撥液層40が形成されている。このため、ノズル22内におけるインクのメニスカスは、この撥液層40が形成された領域よりも奥側の保護層39が露出した領域に形成される。
ここで、撥液性に含まれるフッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、又は、これらを組み合わせたもの等を用いることができる。また、フッ素樹脂としては、重合性基を有さないものが望ましい。このように、重合性基を有さないフッ素樹脂を用いることで、不要な物質が重合反応で結合することを抑制でき、撥液性の低下を抑制できる。さらに、撥液層40の厚さ(膜厚)は、1μm以上、70μm以下であることが望ましい。このように膜厚を設定することで、十分な耐久性を得ることができる。なお、撥液層40を形成する方法に関し、詳しくは後述する。
連通基板24は、図2に示すように、流路ユニット15の上部(ヘッドケース16側の部分)を構成するシリコン製の基板である。この連通基板24には、液体導入路18と連通し、各圧力室30に共通なインクが貯留される共通液室25と、この共通液室25を介して液体導入路18からのインクを各圧力室30に個別に供給する個別連通路26と、圧力室30とノズル22とを連通するノズル連通路27とが、異方性エッチング等により形成されている。共通液室25は、ノズル列方向に沿った長尺な空部であり、2列に並設された圧力室30の列に対応して2列に形成されている。また、個別連通路26及びノズル連通路27は、ノズル列方向に沿って複数形成されている。
本実施形態におけるアクチュエーターユニット14は、図2に示すように、圧力室形成基板29、振動板31、アクチュエーターの一種である圧電素子32、及び、封止板33が積層されてユニット化された状態で、連通基板24に接合されている。なお、アクチュエーターユニット14は、収容空間17内に収容可能なように、収容空間17よりも小さく形成されている。
圧力室形成基板29は、アクチュエーターユニット14の下部(流路ユニット15側の部分)を構成するシリコン製の基板(例えば、シリコン単結晶基板)である。この圧力室形成基板29には、異方性エッチングにより一部が板厚方向に除去されて、圧力室30となるべき空間がノズル列方向に沿って複数並設されている。この空間は、下方が連通基板24により区画され、上方が振動板31により区画されて圧力室30を構成する。また、この空間、すなわち圧力室30は、2列に形成されたノズル列に対応して2列に形成されている。各圧力室30は、ノズル列方向に直交する方向に長尺な空部であり、長手方向の一側の端部に個別連通路26が連通すると共に、他側の端部にノズル連通路27が連通する。
振動板31は、例えば、圧力室形成基板29の上面に形成された二酸化シリコン(SiO2)からなる弾性膜と、この弾性膜上に形成された酸化ジルコニウム(ZrO2)からなる絶縁体膜と、からなる。この振動板31における各圧力室30に対応する領域は、撓み変形が許容される駆動領域35であり、圧電素子32が積層されている。本実施形態における圧電素子32は、所謂撓みモードの圧電素子である。この圧電素子32は、例えば、振動板31上に、下電極層、圧電体層及び上電極層が順次積層されてなる。この上電極膜又は下電極膜のうち何れか一方が各圧電素子32に共通に形成された共通電極となり、他方が各圧電素子32に個別に形成された個別電極となっている。そして、下電極層と上電極層との間に両電極の電位差に応じた電界が付与されると、圧電素子32はノズル22から遠ざかる方向あるいは近接する方向に撓み変形する。これにより、圧力室30の容積が変化し、当該圧力室30内のインクに圧力変動が生じることになる。そして、この圧力変動を利用することで、圧力室30内のインクをノズル22から噴射することができる。なお、本実施形態における圧電素子32は、ノズル列方向に沿って2列に並設された圧力室30に対応して、当該ノズル列方向に沿って2列に形成されている。
封止板33は、図2に示すように、圧力室形成基板29の上面(詳しくは、振動板31の上面)に接合されたシリコン単結晶、金属、又は、合成樹脂等からなる基板である。この封止板33の下面には、当該封止板33の下面から封止板33の板厚方向の途中まで窪んだ圧電素子収容空間36が形成されている。そして、この圧電素子収容空間36内に、圧電素子32の列が収容されている。本実施形態では、2列に形成された圧電素子32の列に対応して、圧電素子収容空間36が2列に形成されている。なお、2つの圧電素子収容空間36の間の部分には、封止板33が板厚方向に貫通された開口が形成されている。この開口内において、挿通開口19を通じて挿通された配線基板の端子と、圧電素子32から延在された配線の端子とが接続される。
次に、記録ヘッド3の製造方法、特に、ノズルプレート21の製造方法について詳しく説明する。なお、本実施形態においては、ノズルプレート21となる基板41(例えば、シリコンウエハー)に撥液層40を形成した後、個々のノズルプレート21に分割する方法を例示する。図4及び図5は、ノズルプレート21の製造工程を表した、ノズルプレート21(基板41)の断面における状態遷移図である。また、図6は、架橋工程における放射線の照射を説明する模式図である。
まず、ノズルプレート21となる基板41の所定の位置にノズル22を形成する。ノズル22は、例えば、レーザーやボッシュ法等により、ノズルプレート21を貫通した状態に形成される。次に、基板41の表面に保護層39を形成する。保護層39は、例えば、熱酸化によりノズルプレート21の表面に熱酸化膜(SiO2)を形成した後、スパッタリング法、ALD法(原子層堆積法)、化学気相成長法、真空蒸着法等により、例えば酸化タンタル膜(TaOx)等の層を形成してなる。
ノズルプレート21に保護層39を形成したならば、図4に示すように、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程において、ノズル面23側に架橋前の未架橋フッ素樹脂を含む未架橋フッ素樹脂含有層43を形成(積層)する。具体的には、重合性基を有さない未架橋フッ素樹脂粒子が分散媒(未架橋フッ素樹脂の粒子を分散させる液体。本実施形態では、水系の液体)中にコロイド状に分散しているディスパージョン(例えば、PTFEディスパージョン、PFAディスパージョン、FEPディスパージョン等)をノズル面23に形成(塗布)するディスパージョン塗布工程と、ノズル面23に形成されたディスパージョンを乾燥させる(すなわち、ディスパージョンから分散媒を蒸発させる)乾燥工程と、を経る。これにより、図4に示すように、未架橋フッ素樹脂からなる未架橋フッ素樹脂含有層43がノズル面23に形成される。なお、ディスパージョン塗布工程においてノズル面23にディスパージョンを均一に塗布する方法としては、例えば、霧化式スプレーによりディスパージョンを霧状に噴射してノズル面23をコーティングするスプレーコート、ノズル面23上にディスパージョンを供給し、基板41を高速回転させる事により遠心力でディスパージョンを薄膜状に形成するスピンコート、ディスパージョンの液中に基板41を浸漬させるディップコート等を採用することができる。この際、乾燥工程において分散媒が除去されるため、目標とする撥液層40の膜厚よりも厚めにディスパージョンを塗布することが望ましい。また、ディスパージョンに含まれる未架橋フッ素樹脂粒子の平均粒径は、目標とする撥液層40の膜厚の半分以下であることが望ましい。このようにすれば、未架橋フッ素樹脂含有層43の表面に未架橋フッ素樹脂粒子に起因する凹凸が形成されることを抑制できる。その結果、より平滑な撥液層40を作製できる。本実施形態においては、平均粒径が0.15μm~0.35μmの未架橋フッ素樹脂粒子を含むディスパージョンが使用されている。
ノズル面23側に未架橋フッ素樹脂含有層43を形成したならば、未架橋フッ素樹脂含有層43を架橋して撥液層40を形成する架橋工程に移行する。この架橋工程では、酸素濃度が所定値以下の低酸素雰囲気下(例えば、酸素濃度が1000ppm以下)において、未架橋フッ素樹脂含有層43を加熱する。例えば、未架橋フッ素樹脂含有層43がPTFEから成る場合、その融点である327℃以上に加熱する。また、未架橋フッ素樹脂含有層43から成る場合、その融点である310℃以上に加熱する。さらに、未架橋フッ素樹脂含有層43がFEPから成る場合、その融点である275℃以上に加熱する。そして、図5及び図6に示すように、この状態(すなわち、低酸素雰囲気下で基板41を加熱した状態)で未架橋フッ素樹脂含有層43に、例えば、50kGy~300kGyの照射線量の放射線を照射する。これにより、未架橋フッ素樹脂含有層43が架橋され、撥液層40となる。なお、図5における矢印は、放射線の照射イメージを表している。また、放射線としては、α線、β線、γ線、X線、電子線等を用いることができる。
ここで、放射線の照射方法について、図6を参照して説明する。なお、図6におけるハッチング部分は、放射線の照射範囲を示し、破線で表す領域はノズルプレート21となる領域を示している。本実施形態における放射線の照射範囲は、基板41の相対移動方向(図6における白抜き矢印参照)に対して略直交する方向に長尺なライン状に設定されている。また、基板41は、放射線の照射範囲の長尺方向と、ノズル列方向、すなわち、ワイパー12による払拭方向(図6における矢印の方向)とが揃うように配置されている。そして、放射線を照射しつつ、放射線に対して基板41を相対的に移動させる。これにより、基板41の全面に放射線が照射され、基板41の全面の未架橋フッ素樹脂含有層43が架橋される。その結果、図3に示すようなノズル面23に架橋したフッ素樹脂を含む撥液層40が形成される。すなわち、ノズルプレート21のノズル面23に耐摩耗性を向上させた撥液層40が形成される。また、ノズル面23の保護層39と撥液層40が架橋反応し、撥液層40がノズル面23に強固に接合される。なお、同時に放射線が照射される範囲は、同時に架橋反応が進むため、結合が強固になり易い。このため、本実施形態のように、放射線の照射範囲の長尺方向と、ワイパー12による払拭方向とを揃えることで、当該払拭方向における撥液層40の耐摩耗性を向上させることができる。その結果、払拭動作に対するノズルプレート21の耐久性を一層向上させることができる。これにより、プリンター1の信頼性がさらに向上する。
なお、放射線の照射範囲は、上記で例示した範囲に限られない。例えば、放射線の照射範囲を基板41全体が入るように設定し、基板41を移動させずに一度の放射線の照射で全てのノズルプレート21となる領域における未架橋フッ素樹脂含有層43を架橋させることもできる。また、放射線の照射範囲を1つ又は複数のノズルプレート21となる領域に合わせるように設定し、照射範囲を相対的に移動させて、複数回に分けて放射線を照射することで全てのノズルプレート21となる領域における未架橋フッ素樹脂含有層43を架橋させるようにしても良い。さらに、点状に照射する放射線を用いて、基板41を相対移動させつつ各ノズルプレート21におけるノズル22の周辺を照射することで、ノズル22の周辺に形成された未架橋フッ素樹脂含有層43のみを架橋させることもできる。
ところで、撥液層40の厚さが比較的厚い場合やノズル22の径が相対的に小さい場合、或いは、ディスパージョンの粘度が低い場合等において、ノズル22内に入り込んだ撥液層40によりノズル22の開口面積が狭められて、インクを正常に噴射できない虞がある。また、ノズル22の開口全体が撥液層40により塞がれる虞もある。このため、架橋工程後において、ノズル22内に形成された撥液層40の少なくとも一部を除去する除去工程を経ることが望ましい。ノズル22内に形成された撥液層40を除去する方法としては、例えば、ノズル22に対応する位置に貫通孔45が形成されたマスク44をノズル面23側から撥液層40に重ね合わせ、この状態でノズル面23側からイオンビーム又は放射線を照射することにより、ノズル22内に形成された撥液層40の少なくとも一部を除去する方法がある。図7は、イオンビームを用いた撥液層40の除去を説明する模式図である。なお、図7における白抜き矢印は、イオンビームの照射イメージを表している。マスク44は、モリブデンやタングステン等のイオンビームで破損されない材質から成る板状の部材である。このマスク44には、図7に示すように、ノズル22に対応する位置に貫通孔45が形成されている。なお、本実施形態における貫通孔45の径は、ノズル22の径よりも僅かに小さく形成されている。そして、除去工程においては、マスク44をノズル22の中心と貫通孔45の中心とが揃うように基板41に対して位置合わせして撥液層40上に配置する。この状態で、マスク44の上方(基板41とは反対側)からイオンビームを照射する。これにより、マスク44で被覆されていない部分、すなわち、貫通孔45内に露出する部分の撥液層40を容易に除去することができる。その結果、図8に示すように、ノズル22内における撥液層40の一部が除去されて、ノズル22の開口が広げられる。従って、ノズル22の一部又は全部が撥液層40で塞がれることによるインクの噴射不良を抑制できる。なお、本実施形態においては、ノズル22の内周面におけるノズル面23側の開口近傍に撥液層40を僅かに残したが、マスク44の貫通孔45の大きさを調整することで、ノズル22内における撥液層40の全部を除去することもできる。
上記の方法で、基板41に撥液層40を形成したならば、カッター等により個々のノズルプレート21に分割する。これにより、ノズル面23に撥液層40が形成されたノズルプレート21が作製される。その後、分割されたノズルプレート21を連通基板24の下面に接合し、アクチュエーターユニット14を連通基板24の上面に接合する。そして、アクチュエーターユニット14が収容空間17内に収容されるようにヘッドケース16を連通基板24に取り付けることで、記録ヘッド3が作成される。
このように、本発明におけるノズルプレート21のノズル面23側には、フッ素樹脂を含む撥液層40が形成されるため、ノズルプレート21のノズル面23側に撥液性を付与することができる。また、撥液層40が架橋したフッ素樹脂を含むため、架橋していないフッ素樹脂と比べて、耐摩耗性を向上させることができる。その結果、ノズルプレート21のノズル面23における撥液性の劣化を抑制できる。その結果、ワイパー12による払拭動作に対するノズルプレート21の耐久性が向上し、ひいては記録ヘッド3及びプリンター1の信頼性が向上する。また、撥液層40がノズル面23と架橋することでノズル面23に接合されたので、撥液層40のノズルプレート21への接着性(密着性)を向上させることができる。その結果、撥液層40の剥離を抑制できる。さらに、ノズルプレート21を製造する際(具体的には未架橋フッ素樹脂含有層積層工程)において、ディスパージョンをノズル面23に形成する方法を採用したので、ピンホールやクラック等の欠陥が少ない平滑な未架橋フッ素樹脂含有層43を作製できる。その結果、欠陥が少ない平滑な撥液層40を作製できる。そして、たとえ撥液層40の一部にピンホールやクラック等の欠陥が生じたとしても、ノズル面23が保護層39で覆われているため、保護層39によりノズルプレート21のノズル面23を保護することができる。
ところで、ノズルプレート21の製造方法は、上記した第1の実施形態に限られない。例えば、図9及び図10に除去工程の変形例を例示する。本変形例における除去工程においては、図9に示すように、ノズル面23とは反対側の面側からイオンビームを照射する。これにより、ノズル面23にはイオンビームが当たらないため、ノズル面23の撥液層40が除去されない一方、ノズル22内の撥液層40にはイオンビームが当たるため、図10に示すように、ノズル22内に形成された撥液層40の少なくとも一部が除去される。これにより、ノズル22の開口が広げられ、ノズル22が撥液層40で塞がれることによるインクの噴射不良を抑制できる。なお、イオンビームの強度、照射時間等を調整することで、ノズル22内に残る撥液層40の量を調整することができる。本実施形態においては、図10に示すように、ノズル22の内周面におけるノズル面23側の開口近傍に撥液層40が僅かに残るようにしているが、ノズル22内の撥液層40を完全に除去することもできる。
また、未架橋フッ素樹脂を架橋する際の放射線の強度が強い場合、ノズル面23の撥液層40の表面がダメージを受ける虞がある。特に、未架橋フッ素樹脂含有層43の厚さに応じてこれを架橋させるために必要な放射線の強度も高くなるため、撥液層40の厚さを厚くしたい場合に撥液層40の表面がダメージを受け易い。このような場合には、図11に示すように、架橋工程の後に研磨工程を行うことで、撥液層40の表面を研磨することが望ましい。なお、図11における破線は、研磨される前の撥液層40を表している。撥液層40を研磨する方法としては、例えば、CMP(化学機械研磨)法やイオンビームを照射する方法等を用いることができる。このように、撥液層40を研磨することで、撥液層40の表面がダメージを受けたとしても、このダメージを受けた部分を除去することができる。また、撥液層40の厚さを調整することもできる。なお、研磨工程は、架橋工程の後であれば、どのようなタイミングで行っても良い。例えば、個々のノズルプレート21に分断する前の基板41の状態で行っても良いし、個々のノズルプレート21に分断された後、アクチュエーターユニット14や連通基板24が接合された状態で行っても良い。
さらに、図12~図15における第2の実施形態におけるノズルプレート21の製造方法においては、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と、架橋工程と、を交互に繰り返して撥液層40を形成している。具体的に説明すると、まず、第1の実施形態と同様に基板41にノズル22及び保護層39を形成する。次に、第1の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程において、第1の実施形態における未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と同様に、第1の未架橋フッ素樹脂薄層43aをノズル面23に形成する。そして、第1の実施形態における架橋工程と同様に、第1の架橋工程において、低酸素雰囲気下で第1の未架橋フッ素樹脂薄層43aを加熱し、放射線を照射する(図12参照)。これにより、第1の未架橋フッ素樹脂薄層43aが架橋され、ノズル面23に第1の撥液薄層40aが形成される。
第1の撥液薄層40aを形成したならば、第2の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程において、第1の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と同様に、第2の未架橋フッ素樹脂薄層43bをノズル面23に再度形成する。これにより、図13に示すように、第1の撥液薄層40aに第2の未架橋フッ素樹脂薄層43bが積層される。この状態で、第2の架橋工程において、第1の架橋工程と同様に、低酸素雰囲気下で第2の未架橋フッ素樹脂薄層43bを加熱し、放射線を照射する(図14参照)。これにより、第2の未架橋フッ素樹脂薄層43bが架橋され、第2の撥液薄層40bとなる。また、第1の撥液薄層40aと第2の撥液薄層40bとが架橋される。その結果、図15に示すように、第1の撥液薄層40aと第2の撥液薄層40bとからなる撥液層40が形成される。なお、その後の工程は、上記した第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
このように、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と、架橋工程と、を交互に繰り返して撥液層40を形成することで、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程及び架橋工程が1回の場合と比べて、未架橋フッ素樹脂含有層43、ひいては撥液層40の厚さのばらつき(ムラ)を抑制できる。また、未架橋フッ素樹脂含有層43の厚さのばらつきを抑制できるため、架橋反応の進行度合いのばらつきも抑制でき、ひいては撥液層40の硬さのばらつきを抑制できる。このような効果は、特に、撥液層40の厚さが厚い場合に顕著になる。要するに、一度に形成される未架橋フッ素樹脂含有層43の厚さが厚ければ厚いほど、その厚さがばらつき易いため、本実施形態においては、未架橋フッ素樹脂含有層43を形成する工程を複数の工程に分けることで、一度に形成される未架橋フッ素樹脂含有層43の厚さを薄くし、その厚さがばらつくことを抑制している。
なお、第2の実施形態では、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と架橋工程とを2回繰り返したが、これには限られない。未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と架橋工程とを交互に2回以上繰り返しても良い。また、各未架橋フッ素樹脂含有層積層工程(第2の実施形態では、第1の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程及び第2の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程)において、ディップコートによりノズル面23にディスパージョンを塗布する場合、ディスパージョンの液に基板41を浸漬した後、当該液から基板41を引き上げる方向(以下、浸漬方向)をそれぞれ異なるようにすることが望ましい。例えば、第1の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程における浸漬方向と第2の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程における浸漬方向とが略直交するようにする。このようにすれば、ディップコートによるディスパージョンの塗布ムラが発生する虞がある場合でも、撥液層の厚さのばらつきを抑制できる。さらに、各架橋工程(第2の実施形態では、第1の架橋工程及び第2の架橋工程)において、放射線の照射に対する基板41の相対移動方向をそれぞれ異なるようにすることが望ましい。例えば、第1の架橋工程における基板41の相対移動方向と第2の架橋工程における基板41の相対移動方向とが略直交するように設定する。このようにすれば、撥液層の硬さのばらつきを抑制できる。また、各未架橋フッ素樹脂含有層積層工程、特に、第1の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程以降の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程(例えば、第2の未架橋フッ素樹脂含有層積層工程)において、ノズル面23に塗布するディスパージョンの液は、フッ素系不活性液体や界面活性剤等を含む液体であることが望ましい。このようにすれば、液体をはじきやすい第1の撥液薄層上に第2の撥液薄層をより平滑に形成できる。
ところで、以上においては、ノズル22の内周面におけるノズル面23側の開口近傍に撥液層40が薄く残るように構成されたが、これには限られない。例えば、図16~図18に例示するノズルプレート21の変形例においては、ノズル22の内周面におけるノズル面23側の開口近傍に、より多くの撥液層40が残るように構成されている。なお、図16は、ノズルプレート21の第1の変形例を説明する模式図である。また、図17は、ノズルプレート21の第2の変形例を説明する模式図である。さらに、図18は、ノズルプレート21の第3の変形例を説明する模式図である。
具体的に説明すると、第1の変形例においては、図16に示すように、ノズル22が第1の部分46と第2の部分47と、を備えている。第1の部分46は、ノズル面23側の開口を含む部分であり、ノズル22の基礎となるノズルプレート21及び保護層39が第2の部分47の径よりも大きくなった部分である。換言すると、ノズルプレート21及び保護層39で形成されるノズル22(狭義のノズル、本発明におけるノズルに相当)は、ノズル22の延在方向(本変形例においては、ノズルプレート21の板厚方向)における途中からノズル面23側の開口に向けて拡径した第1の部分46を有している。すなわち、ノズル22の基礎となるノズルプレート21及び保護層39において、第1の部分46における開口の径は、第2の部分47の径より大きく形成されている。第2の部分47は、第1の部分46と連通する部分であり、第1の部分46に接続される位置からノズル面23とは反対側の面側の途中まで、ノズル面23に垂直な方向に沿って延在されている。なお、図19~図24に示すように、ノズル22における第2の部分47を間に挟んで第1の部分46とは反対側の部分であって、ノズル面23側とは反対側の開口を含む部分は、第1の部分46の径よりもさらに大きな径に形成されている。要するに、ノズル22のノズル面23側とは反対側の開口径は、ノズル22のノズル面23側の開口径よりも大きく形成されている。なお、ノズル22のノズル面23側の開口径をノズル22のノズル面23側とは反対側の開口径と同じ大きさの径に形成しても良い。或いはノズル22のノズル面23側の開口径をノズル22のノズル面23側とは反対側の開口径よりも大きく形成しても良い。
また、図16に示すように、本変形例における第1の部分46の内面は、ノズル面23側の開口の縁から一段下がった段差状(換言すると、ノズル面23側とは反対側に奥まった段差状)に形成されている。すなわち、第1の部分46は、ノズルプレート21のノズル面23側の開口の縁の角を切欠いた状態に形成されている。なお、このような段差状の切欠きは、ノズルプレート21をエッチング等により加工することで形成できる。そして、この第1の部分46の内部に撥液層40が形成されている。本実施形態においては、ノズル22のノズル面23側の部分のうち第2の部分47の内面と第1の部分46に形成された撥液層40の表面とが略同じ位置に揃えられている。換言すると、ノズル22(撥液層40の表面も含む広義のノズル)のノズル面23側の部分(すなわち、第1の部分46と第2の部分47とを合わせた部分)がストレートに形成される。なお、撥液層40の表面が、ノズル22の第2の部分47の内面と異なる位置(例えば、当該内面よりも内側の位置又は外側の位置)に形成される構成(すなわち、ノズル22の第1の部分46に段差が形成される構成)を採用することもできる。
また、第2の変形例においては、図17に示すように、第1の部分46の内面がノズル22の開口の縁の角を斜めに面取りした形状、すなわちC面取り形状に形成されている。このような面取り形状は、例えばノズルプレート21をエッチング等により加工することで形成できる。そして、本変形例でも、この第1の部分46の内部に撥液層40が形成されている。また、本変形例でも、ノズル22のノズル面23側の部分のうち第2の部分47の内面と第1の部分46に形成された撥液層40の表面とが略同じ位置に揃えられている。なお、その他の構成等は、上記した第1の変形例と同じであるため説明を省略する。
さらに、第3の変形例においては、図18に示すように、第1の部分46の内面がノズル22の開口の縁の角を丸めた形状、すなわちR面取り形状に形成されている。本変形例においては、ノズルプレート21にR面取り形状が形成されず、保護層39にR面取り形状が形成されている。このような面取り形状は、保護層39の厚さを調整して角に成膜される保護層39の表面に丸みを帯びさせることで形成できる。なお、エッチング等によりノズルプレート21自体にR面取り形状を形成することもできる。そして、本変形例でも、この第1の部分46の内部に撥液層40が形成されている。また、本変形例でも、ノズル22のノズル面23側の部分のうち第2の部分47の内面と第1の部分46に形成された撥液層40の表面とが略同じ位置に揃えられている。なお、その他の構成等は、上記した第1の変形例と同じであるため説明を省略する。
これら第1~第3の変形例のように、第1の部分46に撥液層40を形成することで、ノズル22のノズル面23側の開口の縁における撥液層40が摩耗することを抑制できる。これにより、ノズル面23のノズル開口の縁における撥液性の劣化を抑制できる。すなわち、ワイパー12の払拭動作により摩耗し易いノズル22のノズル面23側の開口の縁における撥液層40の膜厚を厚くできるため、当該領域における撥液層40が摩耗したとしても、撥液性を保つことができる。その結果、ノズル面23のノズル22の開口の縁にインクが付着することをより確実に抑制できる。したがって、ノズル22から噴射されるインク滴にノズル面23に付着したインクが干渉してインク滴の飛翔方向が曲がる等の不具合を抑制できる。また、上記したように第1の部分46の内面を段差形状、C面取り形状、又は、R面取り形状に形成したので、エッチングや保護層39の製膜により第1の部分46を容易に作製できる。換言すると、ノズルプレート21の第1の部分46の加工が容易になり、ひいてはノズルプレート21の加工が容易になる。さらに、第2及び第3の変形例のように、第1の部分46の内面を面取り形状に形成することで、架橋工程において上方から放射線を照射する際に、この第1の部分46の内面に放射線を当て易くなる。その結果、第1の部分46の内面における保護層39と撥液層40とが架橋反応し易くなり、撥液層40を第1の部分46内に強固に固定することができる。
ところで、上記した第1の実施形態及び第2の実施形態におけるノズルプレート21の製造方法では、ディスパージョンを用いて未架橋フッ素樹脂層43、ひいては撥液層40を形成したが、これには限られない。図19~図24に示す第3の実施形態におけるノズルプレート21の製造方法では、樹脂シート48を用いて撥液層40を形成している。なお、第3の実施形態におけるノズルプレート21の製造方法は、上記した各実施形態及び各変形例で例示したノズルプレート21の何れにも適用できるが、以下においては、図16に示す第1の変形例のノズルプレート21を例示して説明する。図19~図24は、ノズルプレート21(基板41)の断面における状態遷移図である。
まず、第1の実施形態と同様に基板41にノズル22及び保護層39を形成する。この際、ノズル22に第1の部分46等も形成する。次に、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程において、ノズル面23側に架橋前の未架橋フッ素樹脂を含む未架橋フッ素樹脂含有層43を積層する。具体的には、図19に示すように、ノズル面23側を上方に向けて基板41をステージ49上に載置する。なお、このステージ49には、図示しない吸引ポンプ及び図示しない加熱機構が取り付けられている。また、ステージ49の内部には、吸引ポンプと接続される図示しない気体流路が形成されている。このため、吸引ポンプを作動すれば、ステージ49上の基板41等がステージ49側に吸着される。また、加熱機構を作動すれば、ステージ49が加熱され、ステージ49上の基板41等が加熱される。次に、ステージ49上に載置された基板41に、重合性基を有さない未架橋フッ素樹脂を含む樹脂シート48(例えば、PTFEシート、PFAシート、FEPシート等)を重ねて配置する。
ここで、図19に示すように、基板41のノズル面23に単に樹脂シート48を配置しただけでは、当該樹脂シート48が撓んだり皺が寄ったりして、基板41と樹脂シート48との間に隙間が生じる虞がある。このため、本実施形態においては、図20に示すように、吸引ポンプの作動によりノズル22を介して樹脂シート48を吸引することで(図20における白抜き矢印参照)、当該樹脂シート48を基板41に吸着している。これにより、基板41のノズル面23に樹脂シート48が密着する。すなわち、ノズル面23側に未架橋フッ素樹脂含有層43が積層される。なお、基板41のノズル面23に樹脂シート48を密着させることができれば、吸引ポンプにより樹脂シート48を吸引する方法に限られない。例えば、クランプで基板41と樹脂シート48とを把持したり、静電気力を利用して基板41と樹脂シート48とを密着させたり、樹脂シート48を間に挟んで基板41の上方から透明な板で押圧したりする方法を採用することができる。また、基板41のノズル面23に樹脂シート48を密着させた状態で、加熱機構の作動により熱を加えて樹脂シート48の一部をノズル面23に溶着し、仮止めする方法を採用することもできる。なお、樹脂シート48をノズル面23に配置し、当該樹脂シート48をノズル面23に吸着(密着)させる工程が本発明におけるシート配置工程に相当する。
樹脂シート48を基板41に吸着し、ノズル面23側に未架橋フッ素樹脂含有層43を積層したならば、未架橋フッ素樹脂含有層43を架橋して撥液層40を形成する架橋工程に移行する。本実施形態においては、図21に示すように、ポンプの作動により樹脂シート48をステージ49側に吸引しながら(図21における白抜き矢印参照)、加熱機構の作動により未架橋フッ素樹脂含有層43(すなわち樹脂シート48)を第1の実施形態における架橋工程と同様の条件で加熱する。そして、この状態で第1の実施形態における架橋工程と同様に、未架橋フッ素樹脂含有層43に放射線を照射する(図21における矢印参照)。これにより、未架橋フッ素樹脂含有層43が架橋され、撥液層40となる。ここで、本実施形態においては、吸引ポンプを作動させてノズル22から樹脂シート48を吸引しながら、未架橋フッ素樹脂含有層43を架橋させるため、図22に示すように、ノズル22を覆う部分の撥液層40がステージ49側に撓んだ状態に形成される。これにより、ノズル22が第1の部分46を有する構成においては、未架橋フッ素樹脂含有層43がノズル22の第1の部分46に入り込んで架橋され易くなる。すなわち、第1の部分46に撥液層40を形成し易くなる。
その後、除去工程において、ノズル22を覆う、或いは、ノズル22内に入り込んだ撥液層40を除去する。例えば、図23に示すように、第1の実施形態における除去工程の変形例と同様に、ノズル面23とは反対側の面側からイオンビームを照射する(図23における白抜き矢印参照)。これにより、図24に示すように、ノズル22を覆う、或いは、ノズル22内に入り込んだ撥液層40が除去され、第1の変形例で例示したノズル22が形成される。なお、第1の実施形態における除去工程と同様に、ノズル22に対応する位置に貫通孔が形成されたマスクをノズル面23側から撥液膜40に重ね合わせ、この状態でノズル面23側からイオンビーム又は放射線を照射することにより、ノズル22に対応する領域の撥液層40を除去することもできる。また、第1の実施形態と同様に、架橋工程の後に研磨工程を行うことで、撥液層40の表面を研磨することもできる。さらに、樹脂シート48を用いた場合でも、第2の実施形態におけるノズルプレート21の製造方法と同様に、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程と、架橋工程と、を交互に繰り返して撥液層40を形成することもできる。なお、その後の工程等は、上記した第1の実施形態と同じであるため、説明を省略する。
このように、本実施形態においても、ノズルプレート21のノズル面23にフッ素樹脂を含む撥液層40が形成されるため、ノズルプレート21のノズル面23側に撥液性を付与することができる。また、撥液層40が架橋したフッ素樹脂を含むため、架橋していないフッ素樹脂と比べて、耐摩耗性を向上させることができる。その結果、ノズルプレート21のノズル面23における撥液性の劣化を抑制できる。また、撥液層40がノズル面23と架橋することでノズル面23に接合されたので、撥液層40のノズルプレート21への接着性(密着性)を向上させることができる。その結果、撥液層40の剥離を抑制できる。さらに、本実施形態においては、未架橋フッ素樹脂含有層積層工程がシート配置工程を含み、このシート配置工程において樹脂シート48をノズル面23に密着させたので、ノズル面23側に未架橋フッ素樹脂含有層43を容易に積層できる。また、樹脂シート48を用いて未架橋フッ素樹脂含有層43を形成したので、ピンホールやクラック等の欠陥が少ない平滑な撥液層40を作製できる。そして、架橋工程において、未架橋フッ素樹脂含有層43(すなわち樹脂シート48)をノズル22から吸引しながら、この未架橋フッ素樹脂層43を架橋させ、第1の部分46に撥液層40を形成したので、第1の部分46の内部に撥液層40をより確実に形成できる。なお、ディスパージョンを用いて未架橋フッ素樹脂含有層43を形成した場合でも、未架橋フッ素樹脂含有層43をノズル22から吸引しながら、この未架橋フッ素樹脂層43を架橋させることもできる。この場合でも、第1の部分46の内部に撥液層40をより確実に形成できる。
また、上記した各実施形態では、シリコン製のノズルプレート21を例示したがこれには限られない。例えば、金属製のノズルプレートを採用することもできる。さらに、ノズルプレート自体が、耐インク性を有する場合、ノズルプレートの表面の保護層を無くすこともできる。この場合、ノズルプレートの表面に撥液層が直接架橋し、接合される。また、上記した各実施形態では、圧力室30内のインクに圧力変動を生じさせる駆動素子として、所謂撓み振動型の圧電素子を例示したが、これには限られない。例えば、所謂縦振動型の圧電素子や、発熱素子、静電気力を利用して圧力室の容積を変動させる静電アクチュエーター等の各種アクチュエーターを採用することができる。
そして、以上においては、液体噴射装置として、液体噴射ヘッドの一種であるインクジェット式記録ヘッド3を備えたインクジェット式プリンター1を例に挙げて説明したが、本発明は、他の液体噴射ヘッドを備えた液体噴射装置にも適用することができる。例えば、液晶ディスプレイ等のカラーフィルターの製造に用いられる色材噴射ヘッドを備えた液体噴射装置、有機EL(Electro Luminescence)ディスプレイ、FED(面発光ディスプレイ)等の電極形成に用いられる電極材噴射ヘッドを備えた液体噴射装置、バイオチップ(生物化学素子)の製造に用いられる生体有機物噴射ヘッドを備えた液体噴射装置等にも本発明を適用することができる。ディスプレイ製造装置用の色材噴射ヘッドでは液体の一種としてR(Red)・G(Green)・B(Blue)の各色材の溶液を噴射する。また、電極形成装置用の電極材噴射ヘッドでは液体の一種として液状の電極材料を噴射し、チップ製造装置用の生体有機物噴射ヘッドでは液体の一種として生体有機物の溶液を噴射する。