JP6993971B2 - レーザー溶着用樹脂組成物及び成形品、複合成形品及びその製造方法、並びにレーザー光透過性向上方法 - Google Patents

レーザー溶着用樹脂組成物及び成形品、複合成形品及びその製造方法、並びにレーザー光透過性向上方法 Download PDF

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Description

本発明は、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び成形品、複合成形品及びその製造方法、並びにポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法に関する。
樹脂製の成形品同士を接合する技術として、熱溶着が知られている。熱溶着は、接合させる成形品の表面を加熱して溶融させ、溶融した面同士を密着させて接合させる技術である。熱溶着のうち、熱源としてレーザー光を用いるものが、レーザー溶着である。図1は、一般的なレーザー溶着方法についての説明図である。図1に示すように、レーザー溶着では、光源1から発せられるレーザー光2を透過する樹脂組成物で形成されたいわゆる透過側成形品3と、レーザー光2を吸収する樹脂組成物で形成されたいわゆる吸収側成形品4とを、接合させたい面同士が対向するように重ね合せ、透過側成形品3側から吸収側成形品4側に向けてレーザー光2を照射する。レーザー光2の照射により、重ね合せた界面が発熱して溶融し接合される。そのため、透過側成形品3に用いられる樹脂組成物は、レーザー光の透過率が高いほど(吸収率が低いほど)好ましく、吸収側成形品4に用いられる樹脂組成物は、レーザー光の吸収率が高いほど(透過率が低いほど)好ましい。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、耐熱性、耐薬品性、電気的特性、機械的特性、及び成形加工性等の種々の特性に優れるため、多くの用途に用いられている。ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、それ自体が不透明な結晶性樹脂であり、カーボンブラック等の着色剤で容易に着色することもできるため、吸収側成形品4としては容易に用いることができる。反対に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂を透過側成形品3に用いる場合は、樹脂のレーザー光の透過性を高める必要がある。ポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光の透過性を高める方法としては、例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂に、ポリカーボネート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂等の結晶化度が低く透明性の高い樹脂をアロイ材として添加する方法がある(特許文献1)。
また、得られる成形品の機械的強度を高める等の目的で、樹脂組成物中に無機充填剤を含有させる場合がある。しかし、無機充填剤を含有させると、レーザー光が散乱して透過率が下がってしまう。そこで、ポリプロピレン樹脂のレーザー光透過性を損なわせないために、当該樹脂と同程度の屈折率を有する無機充填剤を用いる技術がある(特許文献2)。
特開2004-315805号公報 特開2005-1350号公報
本発明は、レーザー光の透過性が高いレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び成形品を提供することを課題とする。また、複合成形品及びその製造方法、並びにポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法を提供することを課題とする。
上述のように、ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、それ自体が不透明でレーザー光の透過性が低いため、たとえ無機充填剤の屈折率を工夫したとしても、レーザー光の透過性をそれ以上高めることは難しい。しかしながら、驚くべきことに、本発明者は、通常は無機充填剤として用いられる層状ケイ酸塩鉱物のうち所定の粒径のものを含有した場合に、アロイ材を用いずともポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光の透過性を高めることができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
本発明に係るレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂と、平均一次粒子径が1.0μm以上5.0μm以下の層状ケイ酸塩鉱物を含むレーザー光透過性向上剤とを含有することを特徴とする。
本発明において、レーザー光透過性向上剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下であることが好ましい。層状ケイ酸塩鉱物が、タルクを含むことが好ましい。
本発明において、さらに無機充填剤を含有することができる。本発明は、レーザー光透過側成形品用の樹脂組成物とすることができる。
本発明に係るレーザー溶着用成形品は、上記いずれかに記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含むことを特徴とする。この成形品は、光路長1.5mmにおける波長800nm~1000nm(特に900nm~1000nm)のレーザー光透過率が、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いた成形品よりも高くなるように構成することができる。
本発明に係る複合成形品は、上記いずれかに記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品とが、レーザー溶着された複合成形品である。本発明において、熱可塑性樹脂組成物が、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物であることが好ましい。
本発明に係る複合成形品の製造方法は、上記いずれかに記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品の少なくとも一部と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品の少なくとも一部とを重ね合せ、第1の成形品側からレーザー光を照射して第1の成形品の少なくとも一部と第2の成形品の少なくとも一部とを溶着することを特徴とする。
本発明に係るポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に、平均一次粒子径が1.0μm以上5.0μm以下の層状ケイ酸塩鉱物を配合することを特徴とする。
本発明によれば、レーザー光の透過性が高いレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物及び成形品を提供することができる。また、複合成形品及びその製造方法、並びにポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法を提供することができる。
レーザー溶着についての説明図である。
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
[樹脂組成物]
本実施形態のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物(以下、「樹脂組成物」ともいう。)は、レーザー溶着用のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物であり、ポリブチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PBT系樹脂」ともいう。)と、所定の粒径を有する層状ケイ酸塩鉱物を含むレーザー光透過性向上剤とを含有する。以下、PBT樹脂、レーザー光透過性向上剤の順に説明する。
(ポリブチレンテレフタレート系樹脂)
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ブチレンテレフタレートを主成分(例えば、50質量%~100質量%、好ましくは60質量%~100質量%、さらに好ましくは75質量%~100質量%程度)とするホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)又はコポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又はポリブチレンテレフタレートコポリエステル)等が挙げられる。
コポリエステル(ブチレンテレフタレート系共重合体又は変性PBT樹脂)における共重合可能なモノマー(以下、「共重合性モノマー」ともいう。)としては、テレフタル酸を除くジカルボン酸、1,4-ブタンジオールを除くジオール、オキシカルボン酸、ラクトン等が挙げられる。共重合性モノマーは一種で又は二種以上組み合わせて使用できる。
ジカルボン酸としては、例えば、脂肪族ジカルボン酸(例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカンジカルボン酸、ドデカンジカルボン酸、ヘキサデカンジカルボン酸、ダイマー酸等のC4-40ジカルボン酸、好ましくはC4-14ジカルボン酸)、脂環式ジカルボン酸(例えば、ヘキサヒドロフタル酸、ヘキサヒドロイソフタル酸、ヘキサヒドロテレフタル酸、ハイミック酸等のC8-12ジカルボン酸)、テレフタル酸を除く芳香族ジカルボン酸(例えば、フタル酸、イソフタル酸;2,6-ナフタレンジカルボン酸等のナフタレンジカルボン酸;4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルメタンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルケトンジカルボン酸等のC8-16ジフェニルジカルボン酸)、又はこれらの反応性誘導体[例えば、低級アルキルエステル(ジメチルフタル酸、ジメチルイソフタル酸(DMI)等のフタル酸又はイソフタル酸のC1-4アルキルエステル等)、酸クロライド、酸無水物等のエステル形成可能な誘導体]等が挙げられる。さらに、必要に応じて、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸等を併用してもよい。
ジオールには、例えば、1,4-ブタンジオールを除く脂肪族アルキレングリコール(例えば、エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、デカンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状C2-12脂肪族グリコール、好ましくは直鎖状又は分岐鎖状C2-10脂肪族グリコール)、(ポリ)オキシアルキレングリコール(複数のオキシC2-4アルキレン単位を有するグリコール、例えば、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジテトラメチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール等)、脂環族ジオール(例えば、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA等)、芳香族ジオール(例えば、ハイドロキノン、レゾルシノール、ナフタレンジオール等のC6-14芳香族ジオール;ビフェノール;ビスフェノール類;キシリレングリコール等)等が挙げられる。さらに、必要に応じて、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール等のポリオールを併用してもよい。
前記ビスフェノール類としては、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン(ビスフェノールF)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン(ビスフェノールAD)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)、2,2-ビス(4-ヒドロキシ-3-メチルフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-3-メチルブタン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)-4-メチルペンタン等のビス(ヒドロキシアリール)C1-6アルカン;1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロペンタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン等のビス(ヒドロキシアリール)C4-10シクロアルカン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルエーテル;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン;4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルフィド;4,4’-ジヒドロキシジフェニルケトン、及びこれらのアルキレンオキサイド付加体が例示できる。アルキレンオキサイド付加体としては、ビスフェノール類(例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールAD、ビスフェノールF等)のC2-3アルキレンオキサイド付加体、例えば、2,2-ビス-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパン、ジエトキシ化ビスフェノールA(EBPA)、2,2-ビス-[4-(2-ヒドロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、ジプロポキシ化ビスフェノールA等が挙げられる。アルキレンオキサイド付加体において、アルキレンオキサイド(エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等のC2-3アルキレンオキサイド)の付加モル数は、各ヒドロキシル基に対して1~10モル、好ましくは1~5モル程度である。
オキシカルボン酸には、例えば、オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸、ヒドロキシフェニル酢酸、グリコール酸、オキシカプロン酸等のオキシカルボン酸又はこれらの誘導体等が含まれる。ラクトンには、プロピオラクトン、ブチロラクトン、バレロラクトン、カプロラクトン(例えば、ε-カプロラクトン等)等のC3-12ラクトン等が含まれる。
好ましい共重合性モノマーとしては、ジオール類、又はジカルボン酸類が挙げられる。ジオール類としては、C2-6アルキレングリコール(エチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキサンジオール等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレングリコール等)、繰返し数が2~4程度のオキシアルキレン単位を有するポリオキシC2-4アルキレングリコール(ジエチレングリコール等)、ビスフェノール類(ビスフェノール類又はそのアルキレンオキサイド付加体等)等が挙げられる。ジカルボン酸類としては、C6-12脂肪族ジカルボン酸(アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸等)、カルボキシル基がアレーン環の非対称位置に置換した非対称芳香族ジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらの化合物のうち、芳香族化合物、例えば、ビスフェノール類(特にビスフェノールA)のアルキレンオキサイド付加体、及び非対称芳香族ジカルボン酸[フタル酸、イソフタル酸、及びその反応性誘導体(ジメチルイソフタル酸(DMI)等の低級アルキルエステル等)]等が好ましい。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂としては、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)及び/又は共重合体(ポリブチレンテレフタレートコポリエステル)が好ましく、共重合性モノマーの割合(変性量)は、通常、45モル%以下(例えば、0~40モル%程度)、好ましくは35モル%以下(例えば、0~35モル%程度)であってもよく、30モル%以下(0~30モル%程度)であってもよい。単独で使用する場合、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.01~30モル%程度の範囲から選択でき、通常、1~30モル%、好ましくは3~25モル%、さらに好ましくは5~20モル%(例えば、5~15モル%)程度である。ホモポリエステルと併用する場合、共重合体において、共重合性モノマーの割合は、例えば、0.1~45モル%程度の範囲から選択でき、通常、1~40モル%(例えば、5~40モル%)、好ましくは10~35モル%程度であってもよい。
なお、ホモポリエステル(ポリブチレンテレフタレート)と共重合体とを組み合わせて使用する場合、ホモポリエステルとコポリエステルとの割合は、共重合性モノマーの割合が、全単量体に対して0.1~30モル%(好ましくは1~25モル%、さらに好ましくは5~25モル%)程度となる範囲であり、通常、ホモポリエステル/コポリエステルの質量比は、99/1~1/99、好ましくは95/5~5/95、さらに好ましくは90/10~10/90程度の範囲から選択できる。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂は、テレフタル酸又はその反応性誘導体と1,4-ブタンジオールと必要により共重合可能なモノマーとを、慣用の方法、例えば、エステル交換、直接エステル化法等により共重合することにより製造できる。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂の含有量は、全樹脂組成物中50質量%以上100質量%未満とすることができ、好ましくは、60質量%以上100質量%未満とすることができ、より好ましくは65質量%以上99.9質量%以下とすることができる。
(レーザー光透過性向上剤)
レーザー光透過性向上剤は、不透明な樹脂であるポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性を向上させる作用を有する無機材料である。樹脂組成物のレーザー光の透過性が高まるので、樹脂組成物を用いて製造された成形品をレーザー溶着の透過側成形品として用いることができる。
レーザー光透過性向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物を含む。レーザー光透過性向上剤は、層状ケイ酸塩鉱物であるように構成することもできる。層状ケイ酸塩鉱物は、通常は、得られる成形体の機械的物性を向上させるための無機充填剤として用いられる場合が多く、無機充填剤を含有する樹脂は、光が散乱されて光透過性が低下することが知られている。しかしながら、本発明者の研究により、所定の粒径を有する層状ケイ酸塩鉱物は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光透過性を向上させる作用を有することが新たに分かった。よって、本実施形態では、所定の粒径の層状ケイ酸塩鉱物をレーザー光透過性向上剤として用いる。
層状ケイ酸塩鉱物は、少なくとも金属酸化物成分とSiO成分とからなる層状の鉱物である。層状ケイ酸塩鉱物としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、パイロフィライト、セリサイト、バーミキュライト、スメクタイト、ベントナイト、スチーブンサイト、モンモリロナイト、バイデライト、サポナイト、ヘクトライト、ノントロナイト等を挙げることができ、これらから選ばれる1種又は2種以上を用いることができる。中でも、タルクが好ましい。層状ケイ酸塩鉱物は、表面が処理されたものでもよく無処理のものであってもよい。また、天然物に対応する人工合成物を使用することもできる。人工合成物としては、従来公知の各種の方法、例えば固体反応、水熱反応、および超高圧反応などを利用した各種の合成法から得られたケイ酸塩鉱物が利用できる。
層状ケイ酸塩鉱物の平均一次粒子径は、1.0μm以上5.0μm以下である。平均一次粒子径が1.0μm以上5.0μm以下である場合に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光透過性を向上させることができる。平均一次粒子径は、好ましくは、1.5μm以上5.0μm未満であり、より好ましくは、2.0μm以上又は2.0μmを超え、4.0μm以下又は4.0μm未満である。なお、「平均一次粒子径」とは、樹脂組成物に配合される前の層状ケイ酸塩鉱物について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値である。例えば、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3等を用いて算出することができる。層状ケイ酸塩鉱物のアスペクト比は、特に限定されず、例えば、1以上10以下とすることができる。
レーザー光透過性向上剤の含有量は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、0.01質量部以上20質量部以下とすることが好ましい。より好ましくは、0.5質量部以上15質量部以下であり、さらに好ましくは、1.0質量部以上15質量部未満である。下限値は、5.0質量部以上とすることもできる。層状ケイ酸塩鉱物の含有量が0.01質量部以上20質量部以下の範囲内の場合に、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のレーザー光透過性をより向上させることができる。また、層状ケイ酸塩鉱物の含有量が0.01質量部以上のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いた成形品は、成形品内におけるレーザー光透過率のバラつきを小さくすることができる。
(無機充填剤)
本実施形態の樹脂組成物は、得られる成形品の機械的物性を向上させる目的で、無機充填剤を含んでいてもよい。無機充填剤としては、繊維状充填剤、板状充填剤、又は粉粒状充填剤を挙げることができる。繊維状充填剤としては、例えば、ガラス繊維、アスベスト繊維、カーボン繊維、シリカ繊維、アルミナ繊維、シリカ-アルミナ繊維、アルミニウムシリケート繊維、ジルコニア繊維、チタン酸カリウム繊維、炭化ケイ素繊維、ウィスカー(炭化ケイ素、アルミナ、窒化珪素等のウィスカー)等の無機質繊維;脂肪族又は芳香族ポリアミド、芳香族ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアクリロニトリル等のアクリル樹脂、レーヨン等で形成された繊維等の有機質繊維を挙げることができる。板状充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、ガラスフレーク、グラファイト等を挙げることができる。粉粒状充填剤としては、例えば、ガラスビーズ、ガラス粉、ミルドファイバー(例えば、ミルドガラスファイバー等)、ウォラストナイト(珪灰石)等を挙げることができる。なお、ウォラストナイトは、板状、柱状、繊維状等の形態であってもよい。これらの無機充填剤のうち、安価であり入手しやすいこと等から、ガラス繊維が好ましい。
繊維状充填剤の平均径は、例えば、1μm~30μm(好ましくは3μm~20μm)程度、平均長は、例えば、100μm~5mm(好ましくは300μm~4mm、さらに好ましくは500μm~3.5mm)程度であってもよい。また、板状又は粉粒状充填剤の平均一次粒子径は、例えば、10μm~500μm、好ましくは15μm~100μm程度とすることができる。これらの無機充填剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用することができる。なお、繊維状充填剤の平均径及び平均長、並びに板状又は粉状充填剤の平均一次粒子径は、樹脂組成物中に配合される前の繊維状充填剤、板状又は粉状充填剤について、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した値であり、上記層状ケイ酸塩鉱物の平均一次粒子径の測定で用いる装置と同様の装置を用いて算出することができる。
無機充填剤の含有割合は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、5質量部以上100質量部以下、好ましくは10質量部以上80質量部以下、より好ましくは15質量部以上60質量部以下とすることができる。この数値範囲内とすることで、上記したレーザー光透過性向上剤の作用を維持しつつ、得られる成形体の機械的物性や寸法精度を向上させることができる。
(他の添加物)
樹脂組成物には、種々の添加剤、例えば、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤、熱安定剤等)、難燃剤、滑剤、離型剤、帯電防止剤、染顔料等の着色剤、分散剤、可塑剤、核剤等を添加してもよい。この場合の添加物の含有量は、例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、0質量部を超え20質量部以下とすることができる。なお、着色剤については、意匠面の要求から、レーザー光吸収側成形品と同様の色目、特に黒色系への着色が必要となる場合、レーザー光透過性を損なわないよう、染料系の着色剤を用いるか、あるいはレーザー光透過率を損なわない顔料(例えばBASF社のルモゲンブラックなど)を用いることが望ましい。
また、樹脂組成物には、必要に応じて、他の樹脂(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂等)を含有することもできる。他の樹脂としては、オレフィン系エラストマー、スチレン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、コアシェルポリマー等を挙げることができる。
本実施形態のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、レーザー光透過性向上剤を含有するので、透明性の高い樹脂をアロイ材として添加しなくても、レーザー光透過性を有している。そのため、樹脂組成物は、アロイ材を含有しないように構成することもできる。一方、樹脂組成物のレーザー光透過性をより一層高めるために、アロイ材を添加することもできる。アロイ材としては、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート系樹脂、スチレン系樹脂等を挙げることができる。アロイ材を添加する場合、その含有量は、従来のPBT系樹脂組成物に対する添加量よりも低くすることができ、例えば、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して、0質量部を超え40質量部以下(例えば20質量部)とすることができる。
(樹脂組成物)
本実施形態の樹脂組成物は、粉粒体混合物や溶融混合物(ペレット等)であってもよい。この樹脂組成物を用いて形成された成形品は、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いて形成された成形品よりも、レーザー光の透過率が高い。そのため、樹脂組成物は、レーザー溶着するための成形品を製造するのに適している。特に、レーザー光透過側成形品を製造するのに適している。
[成形品]
成形品は、上記した樹脂組成物を用いて形成することができ、上記樹脂組成物を含む。この成形品は、光路長1.5mmにおける波長800nm~1000nmのレーザー光透過率が、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いて形成された成形品よりも高い。レーザー光透過性は、例えば、射出成形により形成された縦80mm×横80mm×厚み1.5mm(サイドゲート、ゲート幅2mm)の成形品において、800nm~1000nmの波長のレーザー光透過率が20%以上、例えば23%以上である。なお、レーザー光透過率は、分光光度計を用いて測定した値である。
成形品は、樹脂組成物を慣用の方法で成形して得ることができる。例えば、(1)各成分を混合して、一軸又は二軸の押出機により混練し押出してペレットを調製した後、成形する方法、(2)一旦、組成の異なるペレット(マスターバッチ)を調製し、そのペレットを所定量混合(希釈)して成形に供し、所定の組成の成形品を得る方法、(3)成形機に各成分の1又は2以上を直接仕込む方法、等で製造できる。なお、ペレットは、例えば、脆性成分(ガラス系補強材等)を除く成分を溶融混合した後に、脆性成分(ガラス系補強材等)を混合することにより調製してもよい。
成形方法は、押出成形、射出成形、圧縮成形、ブロー成形、真空成形、回転成形、ガスインジェクションモールディング等の慣用の方法を用いることができるが、通常、射出成形により成形される。
成形品の形状は、特に制限されないが、成形品をレーザー溶着により相手材(他の樹脂成形品)と接合して用いるため、通常、少なくとも接触面(平面等)を有する形状(例えば、板状)である。また、本発明の成形体はレーザー光に対する透過性が高いので、レーザー光が透過する部位の成形品の厚み(レーザー光が透過する方向の厚み)は、広い範囲から選択でき、例えば、0.3mm~5mm、好ましくは0.5mm~3mm(例えば、1mm~2mm)程度であってもよい。
前記成形品は、レーザー溶着性に優れているため、通常、レーザー溶着により相手材の樹脂成形品と溶着させるのが好ましいが、必要であれば、他の熱溶着法、例えば、振動溶着法、超音波溶着法、熱板溶着法等により他の樹脂成形品と溶着させることもできる。
[複合成形品]
複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いて形成され該樹脂組成物を含む第1の成形品と、熱可塑性樹脂組成物を用いて形成され該熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品とが、レーザー溶着された複合成形品である。第1の成形品と、第2の成形品とは、レーザー溶着により接合され一体化されている。複合成形品は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品の少なくとも一部と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品の少なくとも一部とを重ね合せ、第1の成形品側からレーザー光を照射して第1の成形品の少なくとも一部と第2の成形品の少なくとも一部とを溶着して得ることができる。レーザー光を照射することにより、第1の成形品と第2の成形品との界面が少なくとも部分的に溶融して接合面が密着され、その後、冷却することにより二種の成形品を接合、一体化して1つの複合成形体とすることができる。
第2の成形品を構成する熱可塑性樹脂組成物としては、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂と相溶性のある樹脂組成物であれば特に制限されず、例えば、オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂等を含む樹脂組成物を挙げることができる。これらの樹脂のうち、前記ポリブチレンテレフタレート系樹脂を構成する樹脂と同種類又は同系統の樹脂(PBT系樹脂、PET系樹脂等の芳香族ポリエステル系樹脂)、ポリカーボネート系樹脂又はその組成物で相手材を構成してもよい。例えば、第1の成形体を本実施形態のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物で形成し、第2の成形体を、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂で形成してもよい。
第2の成形品は、レーザー光に対する吸収剤又は着色剤を含んでいてもよい。前記着色剤は、レーザー光の波長に応じて選択でき、無機顔料又は有機顔料を用いることができる。無機顔料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、酸化鉄赤等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、酸化チタン等の白色顔料等を挙げることができる。有機顔料としては、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等を挙げることができる。これらの吸収剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。吸収剤としては、通常、黒色顔料又は染料、特にカーボンブラックが使用できる。カーボンブラックの平均粒子径は、通常、1nm~1000nm、好ましくは10nm~100nm程度であってもよい。着色剤の割合は、第2の成形品構成する組成物全体に対して0.1質量%~10質量%、好ましくは0.5質量%~5質量%(例えば、0.5質量%~3質量%)程度である。
レーザー光の照射は、通常、第1の成形体側から第2の成形体の方向に向けて行われ、光吸収性を有する第2の成形体の界面で発熱させることにより、第1の成形体と第2の成形体とを融着させる。なお、必要によりレンズ系を利用して、第1の成形品と第2の成形品との界面にレーザー光を集光させ接触界面を融着してもよい。レーザー光源としては、特に制限されず、例えば、色素レーザ、気体レーザ(エキシマレーザ、アルゴンレーザ、クリプトンレーザ、ヘリウム-ネオンレーザ等)、固体レーザ(YAGレーザ等)、半導体レーザ等が利用できる。レーザー光としては、通常、パルスレーザが利用される。
(用途)
本実施形態で得られる複合成形品は、高い溶着強度を有し、レーザー光照射によるPBT系樹脂の損傷も少ないため、種々の用途、例えば、電気・電子部品、オフィスオートメート(OA)機器部品、家電機器部品、機械機構部品、自動車機構部品等に適用できる。特に、自動車電装部品(各種コントロールユニット、イグニッションコイル部品等)、モーター部品、各種センサー部品、コネクター部品、スイッチ部品、リレー部品、コイル部品、トランス部品、ランプ部品等に好適に用いることができる。
[PBT系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法]
ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法は、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に、平均一次粒子径が1.0μm以上5.0μm以下の層状ケイ酸塩鉱物を配合するというものである。これにより、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性を向上することができ、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を、レーザー溶着に用いる透過側成形品の製造に用いることができる。このメカニズムは現段階では明らかではないが、後述する実施例に示すように、所定の粒径を有する層状ケイ酸塩鉱物を含むポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物は、層状ケイ酸塩鉱物を含まない場合や、粒径が所定の範囲外の層状ケイ酸塩鉱物を含有する場合よりも、レーザー光透過性が向上した。層状ケイ酸塩鉱物の種類や含有量及び好ましい粒子径の範囲については、上述のとおりであるのでここでは記載を省略する。
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
[実施例1~4、比較例1~4]
以下に示す材料を用い、表1,2に示す含有割合で2軸押出機(日本製鋼所株式会社製、30mmφ)により250℃にて混錬しペレットを作製した。なお、タルクの平均一次粒子径は、株式会社セイシン企業製、動的画像解析法/粒子(状態)分析計PITA-3を用いて測定した。
ポリブチレンテレフタレート系樹脂(PBT):ウィンテックポリマー社製、固有粘度0.95dl/gのPBT
タルク1:平均一次粒子径2.6μmのタルク
タルク2:平均一次粒子径3.4μmのタルク
タルク3:平均一次粒子径6.2μmのタルク
タルク4:平均一次粒子径0.6μmのタルク
ガラス繊維(GF):日本電気硝子社製、商品名「ECS03T-187」、平均径13μm、平均長3mm
[評価]
実施例及び比較例で得られたペレットを用いて、射出成形機(ファナック株式会社製)により、シリンダー温度260℃及び金型温度80℃の条件で成形品(縦8cm×横8cm×厚さ1.5mm、サイドゲート)を成形した。
(レーザー光透過率)
得られた成形品のゲート側部から2cm×2cmを切り出して試験片とし、積分球を使用した分光光度計(日本分光社製、型式:V570)を用いて、波長940nmでの試験片のレーザー光透過率を測定した。結果を表1,2に示した。
Figure 0006993971000001

Figure 0006993971000002
表1,2から明らかなように、実施例1~4の樹脂組成物を用いて形成された成形品は、層状ケイ酸塩鉱物を含有しない樹脂組成物を用いて形成された比較例1の成形品、及び、粒径が所定の範囲外である層状ケイ酸塩鉱物を含有する樹脂組成物を用いて形成された比較例2~4の成形品よりも、レーザー光透過率が向上した。この成形品は、波長800nm~1000nmのレーザー光透過率が、23%以上と高く、レーザー溶着の際の透過側成形品の製造に有用である。
1 光源
2 レーザー光
3 透過側成形品
4 吸収側成形品

Claims (10)

  1. 熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のみを含み、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した平均一次粒子径が1.0μm以上3.4μm以下の層状ケイ酸塩鉱物であるレーザー光透過性向上剤とを含有前記層状ケイ酸塩鉱物が、タルクを含む、レーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
  2. レーザー光透過性向上剤の含有量が、ポリブチレンテレフタレート系樹脂100質量部に対して0.01質量部以上20質量部以下である、請求項1に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
  3. さらに無機充填剤を含有する、請求項1または2に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
  4. レーザー光透過側成形品用の樹脂組成物である、請求項1からのいずれか一項に記載のレーザー溶着用ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物。
  5. 請求項1からのいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む、レーザー溶着用成形品。
  6. 光路長1.5mmにおける波長800nm~1000nmのレーザー光透過率が、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を用いた成形品よりも高い、請求項に記載の成形品。
  7. 請求項1からのいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品とが、レーザー溶着された複合成形品。
  8. 熱可塑性樹脂組成物が、レーザー光透過性向上剤を含有しないポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物である、請求項に記載の複合成形品。
  9. 請求項1からのいずれか一項に記載のポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物を含む第1の成形品の少なくとも一部と、熱可塑性樹脂組成物を含む第2の成形品の少なくとも一部とを重ね合せ、第1の成形品側からレーザー光を照射して第1の成形品の少なくとも一部と第2の成形品の少なくとも一部とを溶着する、複合成形品の製造方法。
  10. 熱可塑性樹脂として、ポリブチレンテレフタレート系樹脂のみを含む、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物に、CCDカメラで撮影した画像を解析し、加重平均により算出した平均一次粒子径が1.0μm以上3.4μm以下の層状ケイ酸塩鉱物を配合する、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法であって、前記層状ケイ酸塩鉱物が、タルクを含む、ポリブチレンテレフタレート系樹脂組成物のレーザー光透過性向上方法
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