以下、例示的な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1には、本実施形態に係る吸気温度制御装置が適用された過給機付エンジン1(以下、単にエンジン1という)の構成を示す。エンジン1は、燃焼室17が吸気行程、圧縮行程、膨張行程及び排気行程を繰り返すことにより運転する4ストロークエンジンである。エンジン1は、四輪の車両(ここでは、自動車)に搭載される。エンジン1が運転することによって、車両は走行する。エンジン1の燃料は、この構成例においてはガソリンを主成分とする液体燃料である。
(エンジンの構成)
エンジン1は、シリンダブロック12と、その上に載置されるシリンダヘッド13とを有するエンジン本体10を備えている。エンジン本体10は、シリンダブロック12の内部に複数の気筒11が形成された多気筒エンジンである。図1では、一つの気筒11のみを示す。エンジン本体10の他の気筒11は、図1の紙面に垂直な方向に並んでいる。
各気筒11内には、ピストン3が摺動自在に内挿されている。ピストン3は、コネクティングロッド14を介してクランクシャフト15に連結されている。ピストン3は、気筒11及びシリンダヘッド13と共に燃焼室17を区画する。尚、「燃焼室」は、ピストン3が圧縮上死点に至ったときの空間の意味に限定されない。「燃焼室」の語は広義で用いる場合がある。つまり、「燃焼室」は、ピストン3の位置に関わらず、ピストン3、気筒11及びシリンダヘッド13によって形成される空間を意味する場合がある。
シリンダブロック12における各気筒11の周囲には、ウォータジャケット12aが設けられている。ウォータジャケット12aには、エンジン本体10を冷却するエンジン冷却液が流通している。詳細な図示は省略するが、エンジン冷却液は、ウォータジャケット12aを通った後、シリンダヘッド13内に設けられたウォータジャケットを通って、エンジン本体10の外部に流出する。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、吸気ポート18が形成されている。吸気ポート18は、燃焼室17に連通している。吸気ポート18には、吸気弁21が配設されている。吸気弁21は、燃焼室17と吸気ポート18との間を開閉する。吸気弁21は、動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。本実施形態では、可変動弁機構は、吸気電動S-VT(Sequential-Valve Timing)23(図4参照)を有している。吸気電動S-VT23は、吸気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、吸気弁21の開時期及び閉時期は、連続的に変化する。尚、吸気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、排気ポート19が形成されている。排気ポート19は、燃焼室17に連通している。排気ポート19には、排気弁22が配設されている。排気弁22は、燃焼室17と排気ポート19との間を開閉する。排気弁22は動弁機構によって、所定のタイミングで開閉する。この動弁機構は、バルブタイミング及び/又はバルブリフトを可変にする可変動弁機構とすればよい。本実施形態では、可変動弁機構は、排気電動S-VT24(図4参照)を有している。排気電動S-VT24は、排気カムシャフトの回転位相を所定の角度範囲内で連続的に変更するよう構成されている。それによって、排気弁22の開時期及び閉時期は、連続的に変化する。尚、排気動弁機構は、電動S-VTに代えて、油圧式のS-VTを有していてもよい。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、気筒11内に燃料を直接噴射するインジェクタ6が取り付けられている。インジェクタ6は、その噴口が燃焼室17の天井面の中央部分(厳密には、中央よりも僅かに排気側の部分)から、その燃焼室17内に臨むように配設されている。インジェクタ6は、エンジン本体10の運転状態に応じた量の燃料を、エンジン本体10の運転状態に応じて設定された噴射タイミングで燃焼室17内に直接噴射する。
シリンダヘッド13には、気筒11毎に、点火プラグ25が取り付けられている。点火プラグ25は、燃焼室17の中の混合気に強制的に点火をする。点火プラグ25は、本実施形態では、吸気側に配設されている。点火プラグ25の電極は、燃焼室17の中に臨んでかつ、燃焼室17の天井面の付近に位置している。尚、点火プラグ25は、排気側に配置されていてもよい。また、点火プラグ25を気筒11の中心軸上に配置する一方、インジェクタ6を、気筒11の中心軸よりも吸気側又は排気側に配設してよい。
本実施形態において、エンジン本体10の幾何学的圧縮比は、13以上30以下に設定されている。後述するようにエンジン1は、該エンジン1の暖機後の全運転領域において、燃料と吸気との混合気を点火プラグ25により火花点火させるSI(Spark Ignition)燃焼と、燃料と吸気との混合気を圧縮自着火させるCI(Compression Ignition)燃焼とを組み合わせたSPCCI(Spark Controlled Compression Ignition)燃焼を行う。SPCCI燃焼は、SI燃焼による発熱と圧力上昇とを利用して、CI燃焼をコントロールする。エンジン1の幾何学的圧縮比は、レギュラー仕様(燃料のオクタン価が91程度)においては、14~17とし、ハイオク仕様(燃料のオクタン価が96程度)においては、15~18としてもよい。
エンジン本体10の一側面には吸気通路40が接続されている。吸気通路40は、各気筒11の吸気ポート18に連通している。吸気通路40は、燃焼室17に導入する吸気が流れる通路である。図1及び図2に示すように、本実施形態に係る吸気通路40は、外気温と同じ温度の新気を吸気通路40に取り入れる第1空気取入部141と、外気温よりも高い温度の新気を吸気通路40に取り入れる第2空気取入部142とを有する。各空気取入部141,142の構成については後述する。
吸気通路40における各空気取入部141,142の直下流側の部分には、新気を濾過するエアクリーナー41が配設されている。吸気通路40の下流端近傍には、サージタンク42が配設されている。サージタンク42よりも下流の吸気通路40は、気筒11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の下流端が、各気筒11の吸気ポート18に接続されている。
吸気通路40におけるエアクリーナー41とサージタンク42との間には、スロットル弁43が配設されている。スロットル弁43は、弁の開度を調整することによって、燃焼室17の中への新気の導入量を調整するよう構成されている。
吸気通路40には、スロットル弁43の下流に、機械式過給機44(以下、単に過給機44という)のコンプレッサが配設された過給側通路40aが設けられている。過給機44は、燃焼室17に導入する吸気を過給するよう構成されている。本実施形態において、過給機44は、エンジン本体10によって駆動される過給機である。過給機44は、例えばリショルム式としてもよい。過給機44の構成は特に限定されない。過給機44は、ルーツ式、ベーン式、又は遠心式であってもよい。
過給機44とエンジン本体10との間には、電磁クラッチ45が介設している。電磁クラッチ45は、過給機44とエンジン本体10との間で、エンジン本体10から過給機44へ駆動力を伝達したり、該駆動力の伝達を遮断したりする。後述するように、ECU100が電磁クラッチ45の遮断及び接続を切り替えることによって、過給機44は駆動状態と非駆動状態とが切り替わる。つまり、電磁クラッチ45は、過給機44の駆動と非駆動とを切り換えるクラッチである。このエンジン1は、過給機44が、燃焼室17に導入する吸気を過給することと、過給機44が、燃焼室17に導入する吸気を過給しないこととを切り替えることができるよう構成されている。
過給側通路40aにおける過給機44の直下流には、インタークーラー46が配設されている。インタークーラー46は、過給機44において圧縮された吸気を冷却するよう構成されている。本実施形態において、インタークーラー46は液冷式であって、インタークーラー冷却液が流通している。インタークーラー冷却液は、前記エンジン冷却液とは別の冷却液である。
吸気通路40には、バイパス通路47が接続されている。バイパス通路47は、過給機44及びインタークーラー46をバイパスするよう、吸気通路40における過給機44の上流側の部分とインタークーラー46の下流側の部分とを接続する。バイパス通路47には、該バイパス通路47を開閉するエアバイパス弁48が配設されている。本実施形態において、エアバイパス弁48はオン/オフ式の弁である。
過給機44を非駆動状態にしたとき(つまり、電磁クラッチ45を遮断したとき)には、エアバイパス弁48を開き状態(オン状態)にする。これにより、吸気通路40を流れるガスは、過給機44をバイパスして、エンジン1の燃焼室17に導入される。エンジン1は、非過給、つまり自然吸気の状態で運転する。
エアバイパス弁48を開いた状態で、過給機44を駆動状態にしたとき(つまり、電磁クラッチ45を接続したとき)には、吸気は、スロットル弁43を通過した後、過給側通路40aに流入する。過給側通路40aの過給機44を通過した吸気の一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。このとき、エンジン本体10の燃焼室17には、過給機44が非駆動状態のときと同様に、エンジン諸元に応じた量の吸気が導入される。これにより、過給機44が駆動状態であっても、非過給状態で燃焼室17に吸気を導入することができる。尚、過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧を超える時をいい、非過給時とは、サージタンク42内の圧力が大気圧以下になる時をいう、と定義してもよい。
一方で、エアバイパス弁48を閉じた状態(オフ状態)で、過給機44を駆動状態にしたときには、過給状態で燃焼室17に吸気が導入される。このときの吸気量は、非過給状態で燃焼室17に導入される吸気量よりも多い。尚、エアバイパス弁48は、その開度を連続的に変化させることが可能な弁で構成されていてもよい。
エンジン本体10の他側面には、排気通路50が接続されている。排気通路50は、各気筒11の排気ポート19に連通している。排気通路50は、燃焼室17から排出された排気が流れる通路である。排気通路50の上流部分は、詳細な図示は省略するが、気筒11毎に分岐する独立通路を構成している。独立通路の上流端が、各気筒11の排気ポート19に接続されている。
排気通路50には、複数の触媒コンバーターを有する排気ガス浄化システムが配設されている。上流の触媒コンバーターは、図示は省略するが、エンジンルーム内に配設されている。上流の触媒コンバーターは、三元触媒511と、GPF(Gasoline Particulate Filter)512とを有している。下流の触媒コンバーターは、エンジンルーム外に配設されている。下流の触媒コンバーターは、三元触媒513を有している。尚、排気ガス浄化システムは、図例の構成に限定されるものではない。例えば、GPFは省略してもよい。また、触媒コンバーターは、三元触媒を有するものに限定されない。さらに、三元触媒及びGPFの並び順は、適宜変更してもよい。
吸気通路40と排気通路50との間には、外部EGRシステムを構成するEGR通路52が接続されている。EGR通路52は、排気の一部を吸気通路40に還流させるための通路である。EGR通路52の上流端は、排気通路50における上流の触媒コンバーターと下流の触媒コンバーターとの間に接続されている。EGR通路52の下流端は、吸気通路40における過給機44の上流に接続されている。EGR通路52を流れる排気(以下、EGRガスという)は、吸気通路40に導入される時には、バイパス通路47のエアバイパス弁48を通らずに、吸気通路40における過給機44の上流に入る。
EGR通路52には、液冷式のEGRクーラー53が配設されている。EGRクーラー53は、EGR通路52を通るEGRガスを冷却する。EGR通路52には、EGR弁54が配設されている。EGR弁54は、EGR通路52を流れるEGRガスの流量を調整するよう構成されている。EGR弁54の開度を調整することによって、冷却したEGRガスの還流量を調整することができる。EGR弁54は、オン/オフ式の弁で構成されていてもよく、開度を連続的に変化させることが可能な弁で構成されていてもよい。
(エンジンの冷却システム)
次に、エンジン1の冷却システムについて説明する。図2に示すように、エンジン1の冷却システムは、エンジン本体10にエンジン冷却液を流通させてエンジン本体10を冷却する第1冷却経路60と、インタークーラー46にインタークーラー冷却液を流通させて、過給機44を通過した後の吸気を冷却する第2冷却経路70と有する。
第1冷却経路60には、第1ポンプ61と、第1冷却経路60を流れるエンジン冷却液を冷却する第1ラジエータ62と、第1冷却経路60を循環するエンジン冷却液の流量を調整する流量コントロール弁63とが設けられている。
第1ポンプ61は、エンジン本体10のクランクシャフト15に連動して駆動される機械式のポンプである。第1ポンプ61の吐出口は、エンジン本体10のウォータジャケット12aに接続されている。
第1ラジエータ62は、エンジン本体10のウォータジャケットを通って、シリンダヘッド13から排出されたエンジン冷却液を冷却する。第1ラジエータ62は、エンジン1が搭載された車両の前進走行時の走行風により、エンジン冷却液を冷却する。
流量コントロール弁63は、第1ラジエータ62から排出されて第1ポンプ61に流入するエンジン冷却液が通る経路の途中に配置されている。つまり、流量コントロール弁63は、第1冷却経路60におけるエンジン本体10への入口側に配置されている。本実施形態において、流量コントロール弁63は、電気式のサーモスタット弁で構成されている。具体的には、流量コントロール弁63は、サーモスタット弁に電熱線を内蔵させた弁である。流量コントロール弁63は、基本的には、エンジン冷却液の温度が、予め設定された設定液温以上であるときに、その温度に応じて開くように構成されているが、電熱線に電流を流すことで、エンジン冷却液の温度が設定液温未満のときでも開くことができるようになっている。
図3には、流量コントロール弁63のエンジン冷却液の温度に対する特性の一例を示す。図3において、横軸に示すエンジン冷却液の温度は、流量コントロール弁63の位置での温度であり、第1ラジエータ62に流入するエンジン冷却液の温度とは異なる。
図3に示すように、流量コントロール弁63は、非通電時には、エンジン冷却液の温度が95℃~96℃であるときに開き始める。一方で、通電時には、エンジン冷却液の温度が95℃未満であっても開くことができる。図3に示すように、流量コントロール弁63が開き始める温度は、電熱線に流す電流が大きいほど低くなる。また、温度が一定であるときの流量コントロール弁63の開度は、流量コントロール弁63の開度が全開よりも小さい範囲において、電熱線に流す電流を大きくするほど大きくすることができる。尚、本実施形態において、設定液温は95℃~97℃に設定されている。また、流量コントロール弁63は、サーモスタット弁ではなく、例えば、ソレノイド弁などの電磁式の弁であってもよい。
流量コントロール弁63への通電量は、エンジン本体10の運転状態や外気温等に基づいて、エンジン冷却液の温度が適切な温度となるように調整される。
尚、図示は省略しているが、第1冷却経路60はEGRクーラー53も通っている。つまり、EGR通路52を通るEGRガスは、エンジン冷却液と熱交換をして冷却される。
第2冷却経路70には、第2ポンプ71と、第2冷却経路70を流れるインタークーラー冷却液を冷却する第2ラジエータ72とが設けられている。
第2ポンプ71は、電力によって駆動される電動式のポンプである。第2ポンプ71は、供給される電力が大きいほど、インタークーラー冷却液の吐出量が多くなるように構成されている。
第2ラジエータ72は、インタークーラー46から排出されたインタークーラー冷却液を冷却する。第2ラジエータ72は、第1ラジエータ62の下側に隣接して配置されている。第2ラジエータ72は、エンジン1が搭載された車両の前進走行時の走行風により、インタークーラー冷却液を冷却する。第2ラジエータ72で冷却されたインタークーラー冷却液は、第2ポンプ71に流入する。
エンジン1の冷却システムは、第1及び第2ラジエータ62,72に走行風を通風させる機構として、グリルシャッタ81と、ラジエータファン82とを有する。
グリルシャッタ81は、第1及び第2ラジエータ62,72の車両前側に設けられている。グリルシャッタ81は、エンジン1が配設されるエンジンルーム内に取り入れる空気の流量を調整する。グリルシャッタ81は、車幅方向に延びる軸周りにそれぞれ回動する複数のフラッパ81aで構成されている。グリルシャッタ81は、各フラッパ81aが上下方向に対して垂直になったときに全開となり、各フラッパ81aが上下方向に対して略平行になったときに全閉となる。エンジンルーム内に取り入れる空気の流量、すなわち、第1及び第2ラジエータ62,72を通風する走行風の風量は、各フラッパ81aの上下方向に対する角度により調整される。各フラッパ81aの上下方向に対する角度(すなわち、グリルシャッタ81の開度)は、電動で調整可能に構成されている。尚、ここでいう「上下方向」とは、車両に対する上下方向であって、路面の面直方向に相当する。
ラジエータファン82は、第1及び第2ラジエータ62,72の車両後側でかつ第2空気取入部142の車両前側に設けられている。ラジエータファン82は、回転することにより走行風を前記エンジンルーム内に引き込んで、走行風が第1及び第2ラジエータ62,72を通風するのをアシストする。ラジエータファン82は、回転数が高いほど走行風を引き込む量が多くなるように構成されている。ラジエータファン81は、電動で回転数を調整可能に構成されている。
グリルシャッタ81から取り入れられた走行風は、第1及び第2ラジエータ62,72を流れる各冷却液と熱交換して、各冷却液を冷却する。第1及び第2ラジエータ62,72を通った走行風は、ラジエータファン82の車両後側に流れる。
(吸気通路の新気取入構造)
前述のように、本実施形態において、吸気通路40は、第1及び第2空気取入部141,142の2つの空気取入部を有する。図2に示すように、第1空気取入部141は、各ラジエータ62,72よりも車両前側、具体的には、グリルシャッタ81よりも車両前側に位置している。第1空気取入部141は、外気そのもの(加熱等されていない空気)を吸気通路40に取り入れる。一方、第2空気取入部142は、各ラジエータ62,72よりも車両後側、具体的には、ラジエータファン82の車両後側に位置している。第2空気取入部142は、第1及び第2ラジエータ62,72を通って、ラジエータファン82の車両後側に流れた空気(走行風)を吸気通路40に取り入れる。つまり、第2空気取入部142からは、第1及び第2ラジエータ62,72を流れる冷却液との熱交換により温められた空気が取り入れられる。このため、第2空気取入部142は、外気温よりも温度の高い空気を吸気通路40に取り入れる。
第1及び第2空気取入部141,142には、吸気調整弁143が設けられている。吸気調整弁143の弁体は、第1及び第2空気取入部141,142のそれぞれに配置されており、各弁体は連動して動作するようになっている。具体的には、第1空気取入部141の弁体の開度が大きくなるほど、第2空気取入部142の弁体の開度が小さくなるようになっている。このように、吸気調整弁143により、第1及び第2空気取入部141,142から取り入れられる空気の総量を変化させない一方で、第1空気取入部141から吸気通路40に取り入れられる空気量と第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられる空気量との割合を変化させることができる。したがって、各弁体の開度を調整することで、吸気通路40に取り入れる空気(新気)の温度を調整することができる。図示は省略するが、本実施形態に係る吸気調整弁143は、各弁体を1つの軸で連結することで、各弁体の開度を連動して変化させるようにしている。尚、第1空気取入部141に設けられた吸気調整弁143と、第2空気取入部142に設けられた吸気調整弁143とは、それぞれ独立して開度を調整可能に構成されていてもよい。
(エンジンの制御系)
エンジン1の制御装置は、エンジン1を運転するためのECU(Engine Control Unit)100を備えている。ECU100は、周知のマイクロコンピュータをベースとするコントローラーであって、図4に示すように、プログラムを実行する中央演算処理装置(Central Processing Unit:CPU)101と、例えばRAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)により構成されてプログラム及びデータを格納するメモリ102と、電気信号の入出力をする入出力バス103と、を備えている。ECU100は、制御部の一例である。
ECU100には、図1及び図4に示すように、各種のセンサSW1~SW8が接続されている。センサSW1~SW8は、検知信号をECU100に出力する。センサには、以下のセンサが含まれる。
すなわち、吸気通路40におけるエアクリーナー41の下流に配置されかつ吸気通路40を流れる新気の流量を検知するエアフローセンサSW1、サージタンク42に取り付けられかつ燃焼室17に供給される吸気の温度を検知する吸気温度センサSW2、排気通路50に配置されかつ燃焼室17から排出した排気ガスの温度を検知する排気温度センサSW3、排気通路50における上流の触媒コンバーターよりも上流に配置されかつ排気ガス中の酸素濃度を検知するリニアO2センサSW4、上流の触媒コンバーターにおける三元触媒511の下流に配置されかつ排気ガス中の酸素濃度を検知するラムダO2センサSW5、エンジン本体10のシリンダヘッド13に取り付けられかつエンジン冷却液の温度を検知する液温センサSW6、エンジン本体10に取り付けられかつクランクシャフト15の回転角を検知するクランク角センサSW7、アクセルペダル機構に取り付けられかつアクセルペダルの操作量に対応したアクセル開度を検知するアクセル開度センサSW8である。
ECU100は、これらの検知信号に基づいて、エンジン本体10の運転状態を判断すると共に、各デバイスの制御量を計算する。ECU100は、計算をした制御量に係る制御信号を、インジェクタ6、点火プラグ25、吸気電動S-VT23、排気電動S-VT24、スロットル弁43、過給機44の電磁クラッチ45、エアバイパス弁48、EGR弁54、流量コントロール弁63、第2ポンプ71、グリルシャッタ81、ラジエータファン82、及び吸気調整弁143に出力する。
例えば、ECU100は、クランク角センサSW7の検知信号に基づいてエンジン本体10のエンジン回転数を算出する。ECU100は、アクセル開度センサSW8の検知信号に基づいてエンジン本体10のエンジン負荷を算出する。
また、ECU100は、エンジン本体10の運転状態(主に、エンジン負荷及びエンジン回転数)と予め設定したマップとに基づいて目標EGR率(つまり、燃焼室17の中の全ガスに対するEGRガスの比率)を設定する。そして、ECU100は、目標EGR率とアクセル開度センサSW8の検知信号に基づく吸入空気量とに基づき目標EGRガス量を決定するとともに、EGR弁54の開度を調整することにより、燃焼室17の中に導入する外部EGRガス量が目標EGRガス量となるようにフィードバック制御を行う。
さらに、ECU100は、所定の制御条件が成立しているときに空燃比フィードバック制御を実行する。具体的にECU100は、リニアO2センサSW4、及び、ラムダO2センサSW5によって検知された排気中の酸素濃度に基づいて、混合気の空燃比が所望の値となるように、インジェクタ6の燃料噴射量を調整する。
(エンジンの吸気温度制御)
図5は、温間時(つまりエンジン本体10の暖機後)における、エンジン1の運転領域マップを例示している。エンジン1の運転領域マップは、負荷及び回転数によって定められており、負荷の高低及び回転数の高低に対し、三つの領域に分けられている。具体的に、三つの領域は、アイドル運転を含みかつエンジン回転数が所定回転数Ne未満の低回転でかつエンジン負荷が所定負荷Tq未満の低い領域A、エンジン回転数が所定回転数Ne以上の高回転でかつエンジン負荷が所定負荷Tq未満の領域B、エンジン負荷が所定負荷Tq以上の領域Cである。ここで、所定回転数Neは、例えば3500rpm程度としてもよい。本実施形態において、エンジン本体10の暖機後とは、液温センサSW6で検知されるエンジン冷却液の温度が80℃以上でかつ吸気温度センサSW2で検知される吸気の温度が25℃以上の状態をいう。
エンジン1は、燃焼安定性の向上及び燃費の向上を主目的として、領域A~Cの全領域において、SI燃焼とCI燃焼とを組み合わせたSPCCI燃焼を行う。このSPCCI燃焼を安定して行うために、ECU100は、該エンジン1の冷却システムを利用してエンジン本体10に導入する吸気の温度を制御する。以下、各領域におけるエンジン1の運転について、図6~図9を参照しながら詳細に説明をする。
(低負荷低回転領域A)
エンジン本体10が領域Aにおいて運転しているときには、エンジン1は、気筒11(燃焼室17)内の混合気のA/F又はG/Fが、理論空燃比よりも大きい状態でSPCCI燃焼を行う。具体的には、A/F又はG/Fが25以上となるようにインジェクタ6から燃料を噴射して、所望のタイミングで点火プラグ25を作動させる。つまり、領域Aは、気筒11内に形成される混合気の空燃比A/F、若しくは、気筒11内の全ガス重量Gと該気筒11内に供給される燃料の重量Fとの関係であるG/Fが相対的に低いリーン運転領域に相当する。リーン状態でSPCCI燃焼(特に、CI燃焼)を安定して行うためには、圧縮開始時における気筒11内の混合気の温度を高くすることが好ましい。そこで、ECU100は、第1吸気温度Ta1以上の吸気がエンジン本体10に導入されるように、各デバイスを作動制御する。尚、第1吸気温度Ta1は、例えば80℃程度である。
具体的には、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるとき、図6に示すように、ECU100は、第1空気取入部141が全閉となりかつ第2空気取入部142が全開となるように、吸気調整弁143に制御信号を出力する。また、ECU100は、過給機44が非駆動状態となりかつバイパス通路47が開き状態となるように、電磁クラッチ45及びエアバイパス弁48に制御信号を出力して、電磁クラッチ45を遮断状態にさせるとともに、エアバイパス弁48を全開状態にさせる。また、ECU100は、第1ラジエータ62に高温のエンジン冷却液が流入するように、流量コントロール弁63への通電をオフにする。また、ECU100は、第2空気取入部142から第1吸気温度Ta1以上の吸気が取り入れられるように、グリルシャッタ81の開度の調整及びラジエータファン82の回転数の調整を行う。また、ECU100は、EGR弁54を全閉にさせる。
流量コントロール弁63への通電をオフにすると、エンジン冷却液が設定液温以上になるまでは、流量コントロール弁63は開かない。このため、エンジン冷却液が設定液温未満の状態では、エンジン冷却液は循環せずに、エンジン本体10の熱によって温められる。エンジン冷却液が設定液温以上になると、流量コントロール弁63が開き始めて、エンジン冷却液が第1冷却経路60を循環し始める。これにより、第1ラジエータ62に、設定液温以上の高温のエンジン冷却液が流入する。第1ラジエータ62に流入するエンジン冷却液は、流量コントロール弁63を通った後、エンジン本体10により温められた後のエンジン冷却液である。このため、第1ラジエータ62に流入するエンジン冷却液の温度(液温センサSW6で検知される温度に相当)は、設定温度よりも高い。尚、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、流量コントロール弁63の開度は、流量コントロール弁63の位置におけるエンジン冷却液の温度が、図3のグラフの「領域A」となる範囲で変動する。
ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1となるようにグリルシャッタ81及びラジエータファン82を作動制御する。ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1未満のときには、グリルシャッタ81の開度を全閉にさせるとともに、ラジエータファン82の回転数を0にする(つまり、ラジエータファン82を非駆動状態にする)。これにより、エンジン冷却液が第1液温Tw1未満のときには、エンジン冷却液はあまり冷却されず、その液温が上昇する。ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1以上になったときには、グリルシャッタ81を開くとともに、ラジエータファン82の回転数を上昇させる。第1ラジエータ62に高温のエンジン冷却液が流入する状態で、グリルシャッタ81を開くとともにラジエータファン82を駆動させると、第1ラジエータ62を流れる高温のエンジン冷却液と熱交換した高温の走行風が、ラジエータファン82の車両後側に流れる。これにより、高温の走行風、すなわち第1吸気温度Ta1以上の吸気(新気)が第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられる。尚、第1液温Tw1は、設定液温よりも高い温度であって、例えば105℃程度である。
ECU100は、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1以上の状態で出来る限り維持するために、グリルシャッタ81の開度を低開度で調整する。具体的には、ECU100は、グリルシャッタ81の開度を、上下方向に対するフラッパ81aの鋭角側の角度が30°未満の範囲で調整する。
第2空気取部142から取り入れられた高温の吸気は、図6に示すように、バイパス通路47を通って、サージタンク42に流入する。その後、前記高温の吸気は、エンジン本体10の燃焼室17に導入される。
図7は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときの、ECU100の処理動作を示すフローチャートである。図8は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときの、各種装置の駆動状態の一例を示すタイムチャートである。図7に示すフローチャートにおいて、吸気調整弁143は、第2空気取入部142が全開になるように調整されており(図8参照)、流量コントロール弁63は、通電をオフにされている(図8参照)。
まず、ステップS1において、ECU100は、各センサSW1~SW8からの情報を読み込む。
次のステップS2では、ECU100は、液温センサSW6により検知されるエンジン冷却液の温度が、第1液温未満であるか否かを判定する。ECU100は、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1未満であるYESのときには、ステップS3に進む一方で、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1以上であるNOのときには、ステップS4に進む。
前記ステップS3では、ECU100は、グリルシャッタ81の開度を全閉にさせるとともに、ラジエータファン82の回転数を0にする。これにより、第1ラジエータ62を流通するエンジン冷却液が冷却されなくなり、図8に示すように、エンジン冷却液の温度が上昇する。
前記ステップS4では、ECU100は、グリルシャッタ81の開度を大きくするとともに、ラジエータファン82の回転数を上昇させる。これにより、第1ラジエータ62を流通するエンジン冷却液が冷却されて、図8に示すように、エンジン冷却液の温度が低下する。尚、ECU100は、エンジン負荷が大きいほどグリルシャッタ81の開度を大きくしたり、エンジン負荷が大きいほどラジエータファン82の回転数を高くしたりしてもよい。
以上のように、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、液温センサSW6により検知される検知温度が第1液温Tw1になるように、グリルシャッタ81及びラジエータファン82に制御信号を出力する。これにより、第1吸気温度Ta1以上の吸気がエンジン本体10に安定して導入されるようにしている。
以上のように各デバイスを作動制御することにより、エンジン本体10が領域Aで運転しているときには、高温(第1吸気温度Ta1以上)の吸気がエンジン本体10に導入される。これにより、エンジン本体10が領域Aで運転しているときに、SPCCI燃焼を安定して行うことができる。
また、ECU100は、エンジン本体10が領域Aで運転しているときには、インタークーラー46にインタークーラー冷却液が供給されるように第2ポンプ71に制御信号を出力する。これは、エンジン本体10の運転状態が、領域Aから過給機44を駆動させる領域(例えば、領域C)になったときに、インタークーラー46による吸気の冷却を応答性よく行うためである。ECU100は、単位時間当たりにインタークーラー46に供給されるインタークーラー冷却液の流量が第1流量となるように、第2ポンプ71に制御信号を出力する。
(低負荷高回転領域B)
エンジン本体10が領域Bにおいて運転しているときには、エンジン1は、気筒11(燃焼室17)内の混合気のA/F又はG/Fが理論空燃比付近となる状態でSPCCI燃焼を行う。具体的には、A/F又はG/Fが14.5~15.0となるようにインジェクタ6から燃料を噴射して、所望のタイミングで点火プラグ25を作動させる。つまり、領域Bは、A/F又はG/Fが相対的に高いリッチ運転領域に相当する。領域Bでは、エンジン回転数が高いため、SPCCI燃焼(特に、CI燃焼)を安定して行うためには、圧縮端温度を高くして、圧縮着火を発生しやすくしておく必要がある。そこで、ECU100は、エンジン本体10が領域Bにおいて運転しているときにも、第1吸気温度Ta1以上の吸気がエンジン本体10に導入されるように、各デバイスを作動制御する。
具体的には、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときには、図9に示すように、ECU100は、第1空気取入部141が全閉となりかつ第2空気取入部142が全開となるように、吸気調整弁143に制御信号を出力する。また、ECU100は、過給機44が駆動状態となりかつバイパス通路47が開き状態となるように、電磁クラッチ45及びエアバイパス弁48に制御信号を出力して、電磁クラッチ45を接続状態にさせるとともに、エアバイパス弁48を全開にさせる。また、ECU100は、流量コントロール弁63への通電をオンにする。また、ECU100は、第2空気取入部142から第1吸気温度Ta1以上の吸気が取り入れられるように、グリルシャッタ81の開度の調整及びラジエータファン82の回転数の調整を行う。また、ECU100は、EGR弁54を開き状態にさせて、EGRガスを導入させる。
流量コントロール弁63への通電をオンにすると、エンジン冷却液が設定液温未満の状態であっても、流量コントロール弁63が開く。このため、エンジン冷却液が設定液温未満の状態であっても、エンジン冷却液は第1冷却経路60を循環する。これにより、第1ラジエータ62に第1液温Tw1未満のエンジン冷却液が流入する。尚、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときには、流量コントロール弁63の開度は、流量コントロール弁63の位置におけるエンジン冷却液の温度が、図3のグラフの「領域B」となる範囲で変動する。
ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときには、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1未満であっても、グリルシャッタ81を開くとともに、ラジエータファン82を駆動させる。より具体的には、ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1未満でかつ第2液温Tw2より大きい値となるように、グリルシャッタ81の開度及びラジエータファン82の回転数を調整する。このとき、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときと比較して、グリルシャッタ81の開度を大きくするとともに、ラジエータファン82の回転数を高くする(図11参照)。第1ラジエータ62を流れるエンジン冷却液と熱交換した走行風は、ラジエータファン82の車両後側に流れた後、第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられる。このとき、第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられる吸気(新気)の温度は、外気温よりも高いが、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときよりは低い。尚、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときには、ECU100は、グリルシャッタ81の開度を中開度で調整する。具体的には、ECU100は、上下方向に対するフラッパ81aの鋭角側の角度が30°以上60°未満の範囲で調整する。また、第2液温Tw2は、第1液温Tw1よりも低い温度であって、例えば、90℃程度である。
前述したように、バイパス通路47が開き状態で、過給機44を駆動状態としたときには、図9に示すように、過給機44を通過した吸気の一部は、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。このため、第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられた吸気の一部は、過給機44により一時的に圧縮された後、バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流する。バイパス通路47を通って過給機44の上流に逆流した吸気は、再度、過給機44を通る。これにより、吸気通路40内の吸気は、過給機44及びバイパス通路47を介して吸気通路40内で循環される(リサーキュレーションされる)。これにより、過給機44が駆動状態であっても、非過給状態で燃焼室17に吸気を導入することができる。
リサーキュレーション中の吸気は、過給機44により圧縮されるため、温度が上昇する。また、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときには、EGR弁54が開き状態であるため、リサーキュレーションされる吸気には、EGRガスが取り込まれる。EGRガスは、第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられた吸気よりも高温である。このため、EGRガスが取り込まれた吸気の温度は上昇する。
ECU100は、リサーキュレーション中の吸気(新気+EGRガス)が過剰に高温にならないようにするために、インタークーラー46にインタークーラー冷却液が供給されるように第2ポンプ71に制御信号を出力する。これにより、リサーキュレーション中の吸気はインタークーラー46によって冷却される。このとき、ECU100は、単位時間当たりにインタークーラー46に供給されるインタークーラー冷却液の流量が第2流量となるように、第2ポンプ71に制御信号を出力する。第2流量は、第1流量よりも多い流量であって、リサーキュレーションされている吸気の温度が第1吸気温度Ta1未満にならないような流量である。
以上のように、エンジン本体10が領域Bで運転しているときには、吸気のリサーキュレーションやEGRガスの導入により吸気が温められる。このため、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1未満であっても、第1吸気温度Ta1以上の吸気をエンジン本体10の燃焼室17に導入することができる。これにより、エンジン本体10が領域Bで運転しているときに、SPCCI燃焼を安定して行うことができる。
(高負荷領域C)
エンジン本体10が領域Cで運転しているときに、エンジン1は、燃焼室17内の混合気のA/F又はG/Fが理論空燃比付近の状態でSPCCI燃焼を行う。具体的には、A/F又はG/Fが14.5~15.0となるようにインジェクタ6から燃料を噴射して、所望のタイミングで点火プラグ25を作動させる。つまり、領域Cは、A/F又はG/Fが相対的に高いリッチ運転領域に相当する。エンジン負荷が高負荷の状態では、燃料の噴射量が多いため、適切な燃焼トルクを得るためには、出来る限り多くの吸気(新気)が必要となる。また、エンジン負荷が高負荷の状態では、燃料の噴射量が多いため、エンジン本体10の温度が高すぎると、圧縮の途中で混合気が自着火して、意図しないタイミングでの燃料の早期着火が発生してしまう。このため、エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、SPCCI燃焼を安定して行うために、温度が低く密度の高い吸気(特に新気)をエンジン本体10に導入する必要がある。エンジン本体10を適切に冷却する必要がある。そこで、ECU100は、第2吸気温度Ta2以下の吸気がエンジン本体10に導入されるとともに、エンジン本体10が適切に冷却されるように、各デバイスを作動制御する。尚、第2吸気温度Ta2は、第1吸気温度Ta1よりも低い温度であり、例えば60℃程度である。
具体的には、エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、図10に示すように、ECU100は、第1空気取入部141が全開となりかつ第2空気取入部142が全閉となるように、吸気調整弁143に制御信号を出力する。また、ECU100は、過給機44が駆動状態となりかつバイパス通路47が閉じ状態となるように、電磁クラッチ45及びエアバイパス弁48に制御信号を出力して、電磁クラッチ45を接続状態にさせるとともに、エアバイパス弁48を全閉状態にさせる。また、ECU100は、流量コントロール弁63への通電をオンにする。また、ECU100は、エンジン冷却液及びインタークーラー冷却液が冷却されるように、グリルシャッタ81の開度の調整及びラジエータファン82の回転数の調整を行う。また、ECU100は、EGR弁54を開き状態にさせて、EGRガスを導入させる。
前述したように、流量コントロール弁63への通電をオンにすることで、エンジン冷却液が設定液温未満の状態であっても、流量コントロール弁63が開く。このため、エンジン冷却液が所定液温未満の状態であっても、エンジン冷却液は第1冷却経路60を循環する。これにより、第1ラジエータ62に設定液温未満のエンジン冷却液が流入する。尚、エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、流量コントロール弁63の開度は、流量コントロール弁63の位置におけるエンジン冷却液の温度が、図3のグラフの「領域C」となる範囲で変動する。
ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、グリルシャッタ81を開くとともに、ラジエータファン82を駆動させる。このとき、ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第2液温Tw2になるように、グリルシャッタ81の開度及びラジエータファン82の回転数を調整する。具体的には、ECU100は、グリルシャッタ81の開度を、高開度、すなわち、上下方向に対するフラッパ81aの鋭角側の角度(直角を含む)が60°以上90°以下となる範囲で調整する。また、ECU100は、ラジエータファン82の回転数を、エンジン本体10の運転状態が領域A及びBであるときよりも高くする。これらにより、エンジン本体10の運転状態が領域A及びBであるとき(つまり、エンジン負荷が低負荷であるとき)と比較して、第1及び第2ラジエータ62,72を通風する走行風の風量が増大する。これにより、第1及び第2ラジエータ62,72を流れる各冷却液を積極的に冷却して、エンジン本体10を適切に冷却することができる。
一方、吸気系では、吸気(新気)は、第1空気取入部141から吸気通路40に取り入れられる。エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、EGR弁54が開き状態であるため、第1空気取入部141から吸気通路40に取り入れられた吸気には、EGRガスが取り込まれる。また、エアバイパス弁48を全閉状態であるため、吸気(新気+EGRガス)は、過給側通路40aに向かって流れる。電磁クラッチ45が接続状態であり、過給機44は駆動状態であるため、前記通路に向かって流れた吸気は、過給機44により過給される。これにより、吸気の温度は上昇する。
ECU100は、過給機44により過給された吸気の温度を第2吸気温度Ta2以下にすべく、インタークーラー46にインタークーラー冷却液が供給されるように第2ポンプ71に制御信号を出力する。このとき、ECU100は、単位時間当たりにインタークーラー46に供給されるインタークーラー冷却液の流量が第3流量となるように、第2ポンプ71に制御信号を出力する。第3流量は、第2流量よりも多い流量である。このように、インタークーラー46に供給するインタークーラー冷却液の流量を増加させることによって、吸気の温度を第2吸気温度Ta2以下にすることができる。また、前述したように、エンジン本体10の運転状態が領域Cであるときには、エンジン本体10の運転状態が領域A及びBであるときと比較して、第2ラジエータ72を通風する走行風の風量が増大される。このため、インタークーラー冷却液の温度は、エンジン本体10の運転状態が領域A及びBであるときと比較して低くなっている。これにより、吸気の温度を、より効率的に第2吸気温度Ta2以下にすることができる。
過給機44により過給されかつインタークーラー46により第2吸気温度Ta2以下に冷却された吸気は、サージタンク42を介してエンジン本体10の燃焼室17に供給される。
以上のように各デバイスを作動制御することにより、エンジン本体10が領域Cで運転しているときには、低温(第2吸気温度Ta2以下)の吸気がエンジン本体10に導入されるとともに、エンジン本体10が適切に冷却される。これにより、エンジン本体10が領域Cで運転しているときに、SPCCI燃焼を安定して行うことができる。
(エンジン本体の運転状態の変化に伴う各デバイスの作動)
図11は、エンジン本体10の運転状態の変化に伴う各デバイスの作動状態の変化を示すタイムチャートである。尚、図11のタイムチャートでは、グリルシャッタ81の開度等、図8のタイムチャートとは縦軸のスケールが異なるものがある。
先ず、時間t0において、エンジン本体10の運転状態が領域Cであったとする。このとき、前述したように、ECU100は、エンジン冷却液の温度が第2液温Tw2になって、吸気温度が第2吸気温度Ta2以下になるように各デバイスを作動制御する。
次に、時間t1において、エンジン本体10の運転状態が領域Cから領域Bに移ったとする。このとき、ECU100は、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1未満でかつ第2液温Tw2より高い状態で、吸気温度が第1吸気温度Ta1となるように各デバイスを作動制御する。具体的には、ECU100は、グリルシャッタ82の開度を小さくしかつラジエータファン82の回転数を下げる。これらにより、エンジン冷却液の温度を第1液温Tw1未満でかつ第2液温Twより高い温度にする。ECU100は、吸気調整弁143を作動させて、第2空気取入部141から新気が取り入れられるようにする。また、図11では図示を省略しているが、ECU100は、電磁クラッチ45を接続状態にして、過給機44を駆動状態にするとともに、エアバイパス弁48を全開にして、吸気の一部を吸気通路40内でリサーキュレーションさせる。さらに、ECU100は、単位時間当たりにインタークーラー46に供給するインタークーラー冷却液の流量が減少するように(第3流量から第2流量にするように)、第2ポンプ71に制御信号を出力する。これらにより、吸気温度を第1吸気温度Ta1にする。
そして、エンジン回転数が減少して、時間t2において、エンジン本体10の運転状態が領域Bから領域Aに移ったとする。このとき、ECU100は、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1になるとともに、吸気温度が第1吸気温度Ta1になるように各デバイスを作動制御する。具体的には、ECU100は、流量コントロール弁63への通電を停止させる。これにより、流量コントロール弁63は、エンジン冷却液の温度が設定温度以上になるまでは開かないようになる。また、ECU100は、グリルシャッタ82の開度を小さくしかつラジエータファン82の回転数を下げる。
前述したように、具体的には、ECU100は、図7に示すように、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1以上になるまでは、グリルシャッタ82を全閉にしかつラジエータファン82の回転数を0にする。これらにより、エンジン冷却液の温度を第1液温Tw1にする。そして、ECU100は、液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1以上になったときには、グリルシャッタ81を開きかつラジエータファン82の回転数を上昇させる。図11に示すように、このときのグリルシャッタ81の開度及びラジエータファン82の回転数は、エンジン本体10の運転状態が領域Bであるときの、グリルシャッタ82の開度及びラジエータファン82の回転数よりも低い。これにより、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン本体10の運転状態が領域B,Cであるときと比較して、第1ラジエータ62を通過する空気の流量が減少する。第1ラジエータ62を通過する空気の流量が減少することで、第1ラジエータ62を通過する空気は、第1ラジエータ62を流通する冷却液との熱交換により満遍なく加熱される。これらの結果、第2空気取入部142から第1吸気温度Ta1の吸気が吸気通路40に取り入れられるようになる。尚、図11では図示を省略しているが、前述したように、ECU100は、電磁クラッチ45を遮断状態にして、過給機44を非駆動状態にするとともに、エアバイパス弁48を全開にしてバイパス通路47を介してエンジン本体10に吸気を導入させるようにする。
(まとめ)
以上のように、本実施形態では、第1ラジエータ62を通過した空気を新気として吸気通路40に取り込む第2空気取入部142を備え、エンジン1が、A/F又はG/Fが相対的に低いリーン運転領域(領域A)であるときには、A/F又はG/Fが相対的に高いリッチ運転領域(領域B,C)であるときと比較して、第1ラジエータ62に流通させるエンジン冷却液の温度を高くするとともに、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を減少させる。第2空気取入部142は、第1ラジエータ62を通過した空気を新気として取り込む(厳密には、第2ラジエータ72を通過した空気も新気として取り込んでいる)ため、第2空気取入部142から吸気通路40に取り入れられる空気は、第1ラジエータ62を流通するエンジン冷却液と熱交換して温められた空気である。エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、第1ラジエータ62に流通させるエンジン冷却液の温度を高くするため、第1ラジエータ62を通過した空気の温度は、エンジン本体10の運転状態が領域B,Cであるときと比較して高くなる。また、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン本体10の運転状態が領域B,Cであるときと比較して、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を減少させるため、第1ラジエータ62を通過する空気は、第1ラジエータ62を流通するエンジン冷却液との熱交換により満遍なく加熱される。これらにより、第2空気取入部62から吸気通路40に取り入れられる空気の温度は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときの方が領域B,Cであるときよりも高くなる。この結果、エンジン本体の運転状態がリーン運転領域(領域A)であるときには、エンジン本体10の運転状態がリッチ運転領域(領域B,C)であるときと比較して、温度の高い吸気をエンジン本体10に導入することができる。
また、第1ラジエータ62を通過した空気を新気として吸気通路40に取り込むには、本実施形態の如く、空気取入部(第2空気取入部143)を第1ラジエータ62の車両後側に設けるだけでよいため、複雑な構成は必要ない。
したがって、簡単な構成で、リーン運転領域(領域A)における圧縮開始時の混合気の温度を高くして、リーン運転領域での燃焼安定性を向上させることができる。
また、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン本体の運転状態が領域B,Cであるときと比較して、グリルシャッタ81の開度を小さくすることにより、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を減少させる。グリルシャッタ81は、車両に一般に設けられている装置であるため、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を調整するための新たな機構を設ける必要がない。したがって、より簡単な構成で、リーン運転領域における圧縮開始時の混合気の温度を高くして、リーン運転領域での燃焼安定性を向上させることができる。
また、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン本体10の運転状態が領域B,Cであるときと比較して、ラジエータファン82の回転数を小さくすることにより、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を減少させる。ラジエータファン82は、車両に一般に設けられている装置であるため、第1ラジエータ62を通過する空気の流量を調整するための新たな機構を設ける必要がない。したがって、一層簡単な構成で、リーン運転領域における圧縮開始時の混合気の温度を高くして、リーン運転領域での燃焼安定性を向上させることができる。
また、本実施形態では、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン本体10の運転状態が領域B,Cであるときと比較して、流量コントロール弁63の開度を小さくして、第1冷却経路60を循環するエンジン冷却液の流量を小さくすることで、第1ラジエータ62に流通させるエンジン冷却液の温度を高くする。流量コントロール弁63は、供給する電力の大きさに応じて開度を調整可能であるため、第1冷却経路60を循環する冷却液の流量は、容易に調整することができる。よって、より一層簡単な構成で、リーン運転領域における圧縮開始時の混合気の温度を高くして、リーン運転領域での燃焼安定性を向上させることができる。
また、本実施形態では、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、液温センサSW6により検知される検知温度が第1液温Tw1になるように、グリルシャッタ81及びラジエータファン82に制御信号を出力する。これにより、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、エンジン冷却液の温度が第1液温Tw1に維持される。この結果、簡単な構成で、リーン運転領域における圧縮開始時の混合気の温度を高くして、リーン運転領域での燃焼安定性をより効果的に向上させることができる。
ここに開示された技術は、前記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、前述の実施形態では、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、液温センサSW6により検知される検知温度が第1液温Tw1になるように、グリルシャッタ81及びラジエータファン82に制御信号を出力していた。これに限らず、グリルシャッタ81及びラジエータファン82の一方にのみ制御信号を出力してもよい。また、例えば、まず、ラジエータファン82の回転数のみを調整し、その調整後、一定期間経過しても液温センサSW6の検知結果が第1液温Tw1にならなかったときに、グリルシャッタ81の開度を調整するような制御を行ってもよい。
また、前述の実施形態では、ECU100は、エンジン本体10の運転状態が領域Aであるときには、液温センサSW6により検知される検知温度が第1液温Tw1になるように、グリルシャッタ81及びラジエータファン82に制御信号を出力していた。これに代えて、又はこれに加えて、ECU100は、吸気温度センサSW2により検知される検知温度が第1吸気温度Ta1になるように、グリルシャッタ81及びラジエータファン82の少なくとも一方に制御信号を出力してもよい。
また、前述の実施形態では、吸気通路40の空気取入部は、第1空気取入部141と第2空気取入部142との2つがあった。これに限らず、吸気通路40の空気取入部は第2空気取入部141だけでもよい。ただし、エンジン負荷が高負荷であるときに、第2吸気温度Ta2以下の吸気をエンジン本体10に供給するという観点からは、第1空気取入部141を設けることが好ましい。
前述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本開示の範囲を限定的に解釈してはならない。本開示の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本開示の範囲内のものである。