以下、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法及びそれに用いる熱処理装置について詳細に説明する。なお、以下の各図において共通する構成については同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
[正極活物質]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法によって製造される正極活物質は、リチウムイオン二次電池の正極の材料として用いられる。この正極活物質は、結晶構造としてα−NaFeO2型の層状構造を有し、リチウムと遷移金属とを含んで組成されるリチウム複合酸化物(リチウム複合化合物)である。
本実施形態に係る製造方法で製造される正極活物質は、具体的には、下記式(1)で表される組成を有する。
Li1+aM1O2+α ・・・(1)
(但し、前記式(1)中、M1は、Li以外の金属元素であって少なくともNiを含み、a及びαは、−0.1≦a≦0.2、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。)
前記式(1)で表される正極活物質は、ニッケルを含有しているため、4.3V付近までの範囲で、LiCoO2等と比較して高い充放電容量を示すことができる。また、ニッケルを含有しているため、LiCoO2等と比較して、原料費が安価であり、入手し易い点で有利である。前記式(1)において、M1当たりにおけるNiの割合は、好ましくは60原子%以上であり、より好ましくは70原子%以上である。
本実施形態に係る製造方法によって製造される正極活物質は、下記式(2)で表される組成を有することが好ましい。
Li1+aNixCoyM21−x−y−zM3zO2+α ・・・(2)
(但し、前記式(2)中、M2は、Mn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、M3は、Mg、Ti、Zr、Mo及びNbからなる群より選択される少なくとも一種の元素であり、a、x、y、z及びαは、−0.1≦a≦0.2、0.7≦x<1.0、0≦y<0.3、0≦z≦0.25、0<1−x−y−z<0.3、−0.2≦α≦0.2、を満たす数である。)
前記式(2)で表される正極活物質は、ニッケルの一部が、M2で表される元素、或いは、更にコバルトやM3で表される元素で元素置換されているため、充放電に伴う結晶の構造変化が抑制され、充放電サイクル特性がより良好となる。また、熱的な安定性も高くなるため、高温保存時の安定性がより向上した正極活物質となる。
ここで、前記式(1)及び(2)におけるa、x、y、z及びαの数値範囲の意義について説明する。
前記式におけるaは、−0.1以上、且つ、0.2以下とする。aは、一般式:LiM1O2で表されるリチウム複合化合物の量論比、すなわちLi:M1:O=1:1:2からのリチウムの過不足量を表している。リチウムが過度に少ないと、正極活物質の充放電容量が低くなる。一方、リチウムが過度に多いと、充放電サイクル特性が悪化する。aが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
aは、−0.02以上、且つ、0.05以下としてもよい。aが−0.02以上であれば、充放電に寄与するのに十分なリチウム量が確保されるため、正極活物質の充放電容量を高くすることができる。また、aが0.05以下であれば、遷移金属の価数変化による電荷補償が十分になされるので、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
ニッケルの係数xは、0.7以上、且つ、1.0未満とする。リチウム以外の金属元素当たりのニッケルの割合が高いほど、高容量化に有利であり、ニッケルの割合が70原子%を超えていると、十分に高い充放電容量が得られる。よって、xを前記の数値範囲に規定することで、高い充放電容量を示す正極活物質を、LiCoO2等と比較して安価に製造することができる。
xは、0.75以上、且つ、0.95以下としてもよいし、0.75以上、且つ、0.90以下としてもよい。xが0.75以上であれば、より高い充放電容量が得られる。また、xが0.95以下であれば、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングが生じ難くなるため、充放電容量や充放電サイクル特性の悪化が抑制される。
コバルトの係数yは、0以上、且つ、0.3未満とする。コバルトが添加されていると、結晶構造が安定化し、リチウムサイトにニッケルが混入するカチオンミキシングが抑制される等の効果が得られる。そのため、充放電容量を大きく損なわず、充放電サイクル特性を向上させることができる。一方、コバルトが過剰であると、原料費が高くなるので、正極活物質の製造コストが増大してしまう。よって、yを前記の数値範囲に規定することで、良好な生産性をもって、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性とを両立させることができる。
yは、0.01以上、且つ、0.20以下としてもよいし、0.03以上、且つ、0.20以下としてもよい。yが0.01以上であれば、コバルトの元素置換による効果が十分に得られ、充放電サイクル特性がより向上する。また、yが0.20以下であれば、原料費がより低廉となり、正極活物質の生産性がより良好になる。
M2の係数1−x−y−zは、0を超え、且つ、0.3未満とする。マンガン及びアルミニウムからなる群より選択される少なくとも一種の元素(M2)が元素置換されていると、充電によってリチウムが脱離しても層状構造がより安定に保たれるようになる。一方、これらの元素(M2)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。1−x−y−zが前記の数値範囲であれば、正極活物質の結晶構造を安定に保ち、高い充放電容量と共に、良好な充放電サイクル特性や、熱的安定性等を得ることができる。
M2で表される元素としては、マンガン、アルミニウム等が好ましい。このような元素は、高いニッケル含有量を有する正極材の結晶構造安定化に寄与する。中でもマンガンが特に好ましい。マンガンが元素置換されていると、アルミニウムが元素置換される場合と比較して、より高い充放電容量が得られる。また、リチウム複合化合物の焼成時、ニッケルの酸化反応が十分に進行しなくとも、原料中のマンガンが原料の炭酸リチウムと十分に反応できるので、高温の焼成時においても炭酸リチウムが残存した状態とならなくて済む。その結果、熱処理温度が723℃前後を超える場合にも、炭酸リチウムが液相を形成せず、結晶粒の粗大化が抑制される。つまり、結晶粒の粗大化を抑制して、高温でニッケルの酸化反応を進めることができるため、高い充放電容量を示す正極活物質を効率的に得ることができる。
M2で表される元素としてマンガンが元素置換されるとき、M2の係数1−x−y−zは、0.02以上であることが好ましく、0.04以上であることがより好ましい。M2の係数1−x−y−zが大きいほど、マンガンの元素置換による効果が十分に得られる。すなわち、より高温でニッケルの酸化反応を進めることが可能になり、高い充放電容量を示す正極活物質をより効率的に得ることができる。また、M2の係数1−x−y−zは、0.18以下であることが好ましい。M2の係数1−x−y−zが0.18以下であれば、元素置換されていても充放電容量が高く保たれる。
M3の係数zは、0以上、且つ、0.25以下とする。マグネシウム、チタン、ジルコニウム、モリブデン及びニオブからなる群より選択される少なくとも一種の元素(M3)が元素置換されていると、正極活物質の活性を維持しながらも、充放電サイクル特性等の諸性能を向上させることができる。一方、これらの元素(M3)が過剰であると、ニッケル等の他の遷移金属の割合が低くなり、正極活物質の充放電容量が低下する。zが前記の数値範囲であれば、高い充放電容量と、良好な充放電サイクル特性等とを両立させることができる。
前記式におけるαは、−0.2以上、且つ、0.2以下とする。αは、一般式:LiM1O2で表されるリチウム複合化合物の量論比、すなわちLi:M1:O=1:1:2からの酸素の過不足量を表している。αが前記の数値範囲であれば、結晶構造の欠陥が少ない状態であり、高い充放電容量と良好な充放電サイクル特性が得られる。
正極活物質の結晶構造は、例えば、X線回折法(X-ray diffraction;XRD)等によって確認することができる。また、正極活物質の組成は、高周波誘導結合プラズマ(Inductively Coupled Plasma;ICP)発光分光分析、原子吸光分析(Atomic Absorption Spectrometry;AAS)等によって確認することができる。
リチウム複合化合物の一次粒子の平均粒径は、0.1μm以上、且つ、2μm以下であることが好ましい。平均粒径がこの範囲であると、正極における充填性が良好になるため、成形密度が高い正極を製造することができる。また、粉末状のリチウム複合化合物の飛散や凝集が低減されるので、取り扱い性も良くなる。リチウム複合化合物は、二次粒子を形成していてもよい。リチウム複合化合物の二次粒子の平均粒径は、正極の仕様等にもよるが、例えば、3μm以上、且つ、50μm以下とすることができる。
リチウム複合化合物のBET比表面積は、0.1m2/g以上、且つ、2.0m2/g以下であることが好ましい。粉末状のリチウム複合化合物のBET比表面積がこの範囲であると、成形密度や電極反応速度や体積エネルギ密度が十分に高い正極を製造することができる。リチウム複合化合物のBET比表面積は、より好ましくは0.6m2/g以上、且つ、1.2m2/g以下である。
リチウム複合化合物の粒子破壊強度は、10MPa以上、且つ、200MPa以下であることが好ましい。粒子破壊強度がこの範囲であると、正極を作製する過程でリチウム複合化合物の粒子が破壊され難くなり、正極集電体にリチウム複合化合物を含む正極合剤を塗工して正極合剤層を形成するとき、剥がれ等の塗工不良が発生し難くなる。リチウム複合化合物の粒子破壊強度は、例えば、一粒子当たりの計測が可能な微小圧縮試験機を用いて測定することができる。
[正極活物質の製造方法]
本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、前記のリチウム複合化合物を、炭酸リチウムを原料として用いて、固相法で合成する方法に関する。
前記式(1)で表される正極活物質は、ニッケルを含有しているため、焼成時、ニッケルの酸化反応が不十分であったり、リチウムが引き抜かれたりすると、2価のニッケルで構成される不活性な相を生じ易い。そのため、ニッケルを安定な2価から3価まで十分に酸化し、結晶の純度や均一性が高いリチウム複合化合物を焼成することが望まれる。
ニッケルを十分に酸化させて、結晶の純度や均一性を高めるためには、焼成炉の炉内雰囲気を高い酸素濃度に保つことが望ましい。また、原料として用いる炭酸リチウムから二酸化炭素が脱離するため、炉内雰囲気について攪拌や排気を行うことが望ましい。しかし、適切な炉内雰囲気を保つには、酸素の継続的な供給を要し、大量の酸素ガスを供給し続けると多大なコストがかかる。
そこで、本実施形態においては、リチウム複合化合物を焼成炉で焼成するにあたり、未反応の酸素を含んでいる焼成炉から排出されたガスを焼成炉に返送し、リチウム複合化合物の焼成に再利用する。
図1は、本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法のフロー図である。
図1に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、炭酸リチウムと前記式(1)中のLi以外の金属元素を含む化合物とを混合する混合工程S10と、前記混合工程S10を経て得られた前駆体を焼成して前記式(1)で表されるリチウム複合化合物を得る焼成工程S20と、を有している。
混合工程S10では、リチウムを含む原料として、少なくとも炭酸リチウムを用いる。炭酸リチウムは、酢酸リチウム、硝酸リチウム、水酸化リチウム、塩化リチウム、硫酸リチウム等と比較して安価であり、容易に入手することができる。また、炭酸リチウムは、弱アルカリ性であるので、焼成炉等へのダメージが少なくなる利点がある。また、炭酸リチウムは、融点が比較的高いため、固相法による合成時、液相が形成されて結晶粒が粗大化するのを避けることができる。
混合工程S10では、ニッケルを含む原料として、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル、酸化ニッケル、硫酸ニッケル、酢酸ニッケル等のニッケル化合物を用いることができる。ニッケル化合物としては、これらの中でも、特に、水酸化ニッケル、炭酸ニッケル又は酸化ニッケルを用いることが好ましい。
混合工程S10では、炭酸リチウムやニッケル化合物と共に、コバルトを含むコバルト化合物や、M2で表される元素を含む金属化合物や、M3で表される元素を含む金属化合物等を混合することができる。コバルト化合物や金属化合物としては、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、酢酸塩、酸化物、水酸化物等を用いることができる。これらの中でも、特に、炭酸塩、酸化物、又は、水酸化物を用いることが好ましい。
混合工程S10では、炭酸リチウム等の原料を、それぞれ秤量し、粉砕及び混合して粉末状の混合物を得る。原料を粉砕する粉砕機としては、例えば、ボールミル、ジェットミル、サンドミル等の一般的な精密粉砕機を用いることができる。原料の粉砕は、湿式粉砕としてもよい。湿式粉砕して得た原料スラリーは、例えば、乾燥機によって造粒乾燥させることができる。乾燥機としては、例えば、噴霧乾燥機、流動床乾燥機、エバポレータ等を使用することができる。
混合工程S10では、炭酸リチウム等の原料を、平均粒径が0.5μm以下になるまで粉砕することが好ましく、平均粒径が0.2μm以下になるまで粉砕することがより好ましい。原料がこのような微小な粒径に粉砕されていると、炭酸リチウムとニッケル化合物等との反応性が向上し、炭酸リチウムから二酸化炭素が脱離し易くなる。また、粉砕物の混合度が高くなって焼成が均一に進み易くなり、リチウム複合化合物の一次粒子の平均粒径を、容易に適切な範囲に制御し得るようになる。
焼成工程S20では、熱処理装置の焼成炉において酸素濃度が少なくとも45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が少なくとも0.02%以下の雰囲気下で、熱処理温度を少なくとも450℃以上、且つ、900℃以下の範囲として熱処理を行う。焼成工程S20において、混合工程S10を経て得られた前駆体、すなわち、混合後に水洗、造粒乾燥等の適宜の処理を施された混合物が、酸素濃度が高く、二酸化炭素濃度が低い雰囲気下で焼成されて、層状構造を有するリチウム複合化合物が形成される。なお、焼成工程S20は、熱処理温度が一定の範囲に制御される一段の熱処理で行ってもよいし、熱処理温度が互いに異なる範囲に制御される複数段の熱処理で行ってもよい。
炭酸リチウムを原料としてリチウム複合化合物を焼成するときの代表的反応としては、次の反応式(I)、(II)がある。
0.5Li2CO3+Ni2+O+0.25O2 → LiNi3+O2+0.5CO2・・・(I)
0.5Li2CO3+M3+O1.5 → LiM3+O2+0.5CO2・・・(II)
(但し、式中、Mは、Ni、Mn、Co等の遷移金属を示す。)
前記反応式(I)に示されるように、ニッケルを含有するリチウム複合化合物を焼成するとき、ニッケルを安定な2価から3価に十分に酸化させ、結晶構造を生成する反応の標準生成ギブズエネルギを超えるために、高い酸素分圧を必要とする。特に、雰囲気の酸素濃度が45%未満であると、焼成の初期の段階、例えば、720℃未満のような低温において、炭酸リチウムの分解が進まず、残留量が顕著になることが確認されている。初期の段階で炭酸リチウムが大量に残留すると、その後の段階において結晶粒が粗大化し易くなるため、比表面積が小さくなり、充放電サイクル特性等が悪化する傾向がある。
また、前記反応式(I)、(II)に示されるように、炭酸リチウムを原料としてリチウム複合化合物を焼成するとき、炭酸リチウムの反応と共に二酸化炭素が脱離する。特に、雰囲気中に二酸化炭素が0.02%(200ppm)以上の濃度で滞留すると、炭酸リチウムとニッケル化合物との反応が大きく阻害されると共に、リチウム複合化合物の結晶に取り込まれる炭酸成分の量も顕著になり、充放電容量等が大きく低下する傾向がある。
そこで、焼成工程S20では、特に、酸素濃度が少なくとも45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が少なくとも0.02%以下に制限した雰囲気下で熱処理を行うものとする。熱処理の間に生じる酸素濃度の低下や、二酸化炭素濃度の増大は、主として、焼成炉に供給される酸素ガスによって解消される。しかし、ニッケルを3価まで十分に酸化し、結晶の純度や均一性が高いリチウム複合化合物を焼成するために酸素ガスの供給を続けると供給コストがかかる。そのため、本実施形態では、焼成工程S20において、焼成炉から排出されたガスを焼成炉に還流する機能を備えた熱処理装置を用いる。
図2は、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造に用いられる熱処理装置の構成を示す図である。
図2に示すように、焼成工程S20で用いられる熱処理装置1は、焼成炉10と、酸素供給装置(酸素供給手段)20と、酸素流量調整バルブ24と、熱交換器30と、冷却水流量調整バルブ34と、ブロア40と、流量センサ42と、返送流量調整バルブ(再利用ガス流量調整手段)44と、二酸化炭素除去装置(二酸化炭素除去手段)50と、乾燥装置(水分除去手段)60と、温度センサs1と、酸素センサ(酸素濃度検知手段)s2と、二酸化炭素センサ(二酸化炭素濃度検知手段)s3と、を備えている。
熱処理装置1は、酸素ガスの気流下や、焼成炉10から排出された後に焼成炉10に戻される再利用ガスの気流下や、酸素ガスと再利用ガスとを混合した混合ガスの気流下、焼成工程S20の熱処理を実施する機能を備えている。熱処理装置1においては、焼成炉10から排出されたガスの少なくとも一部が、二酸化炭素や水分が除去された後に焼成炉10に戻され、リチウム複合化合物の焼成に再利用される。
焼成炉10は、連続式及びバッチ式のいずれの熱処理炉で構成することもできる。焼成炉10は、気流による炉内攪拌、及び、炉内雰囲気の調整が可能である限り、電気炉、マッフル炉、雰囲気炉、高周波炉等の適宜の方式であってよい。
焼成炉10としては、具体的には、ロータリーキルン、ローラーハースキルン、トンネル炉、プッシャー炉、ベルト炉、バッチ炉等を用いることができる。焼成炉10には、混合工程S10を経て得られた前駆体が投入され、酸素ガスの気流下や、再利用ガスの気流下や、酸素ガスと再利用ガスとを混合した混合ガスの気流下、焼成されたリチウム複合化合物(焼成物)が回収される。
焼成炉10は、炉内雰囲気に開口しており、炉内にガスを流入させるガス入口10aと、炉内雰囲気に開口しており、炉内のガスを炉外に排出するガス出口10bと、を有している。ガス入口10aは、ガス供給管210を介して酸素供給装置20と接続されている。酸素供給装置20は、焼成炉10に高濃度の酸素ガスを供給し、ガス入口10aから導入された酸素ガスが、焼成炉10内に気流を形成する。酸素供給装置20の下流には、酸素流量調整バルブ24が備えられており、焼成炉10に供給される酸素ガスの流量が制御されるようになっている。一方、ガス出口10bは、ガス排気管220を介して系外と連通しており、焼成炉10内のガスは、気流によってガス出口10bから系外に排気され得るようになっている。
酸素供給装置20は、図2において、PSA(Pressure Swing Adsorption)式の酸素製造装置によって構成されている。酸素供給装置20は、吸着塔に圧縮空気を導入することにより、窒素等の濃度が低減した高濃度の酸素ガス(酸素−窒素混合ガス)を生成する。そして、その酸素ガスを所定の吐出圧力に昇圧し、ガス供給管210に供給する。酸素供給装置20は、90%以上の酸素濃度を供給可能であることが好ましく、92%以上の酸素濃度を供給可能であることがより好ましい。酸素濃度が90%以上であれば、通常の性能の酸素製造装置で、必要な焼成炉10内の酸素分圧を確保することができる。
なお、酸素供給装置20は、例えば、酸素ガスを貯留するガスタンク、ガスボンベ等や、VSA(Vacuum Swing Adsorption)式、PVSA(Pressure Vacuum Swing Adsorption)式、PTSA(Pressure Thermal Swing Adsorption)式、気体分離膜式等、その他の方式の酸素製造装置によって構成されてもよい。また、酸素供給装置20から焼成炉10に向けて酸素ガスを供給するブロア等を、ガス供給管210上に備えてもよい。
図2に示すように、焼成炉10のガス出口10bとガス入口10aとの間は、焼成炉10外において管路を介して閉環状に接続されている。ガス供給管210及びガス排気管220の途中には、熱交換器30が備えられている。熱交換器30は、高熱側がガス排気管220に接続されており、低熱側がガス供給管210に接続されている。熱交換器30の高熱側の下流には、熱交換したガスの温度を測定する温度センサs1が設置されている。
熱交換器30は、気体−気体で熱交換を行う静止型、回転型等の適宜の熱交換器で構成される。なお、熱交換器30は、図2において、三流体で熱交換を行う構成とされており、ガス供給管210を通じて供給されるガスと、焼成炉10から排出されたガスに加えて、冷却水が供給されるようになっている。熱交換器30に供給される冷却水の流量は、温度センサs1による計測の下、冷却水流量調整バルブ34によって所定の流量に調整されるようになっている。
熱交換器30は、焼成炉10から排出されたガスと焼成炉10に供給されるガスとの間で熱交換を行い、焼成炉10から排出されたガスの排熱を利用して、焼成炉10に導入される酸素ガスや、再利用ガスや、酸素ガスと再利用ガスとを混合した混合ガスを加熱する。このような熱交換器30を備えることにより、ガスの導入に伴う焼成炉10内の温度低下を、エネルギ効率良く抑制することができる。また、焼成炉10から排出されたガスと冷却水との間で熱交換を行うことにより、熱交換器30から排気されるガスを、ブロア40の耐熱温度以下まで強制的に冷却させることができる。
図2に示すように、ガス排気管220の熱交換器30の下流には、焼成炉10のガス出口10bから排出されたガスを焼成炉10のガス入口10aに返送するガス返送管230が接続している。ガス返送管230は、焼成炉10のガス出口10bとガス入口10aとの間を、配管等を介して焼成炉外で連通している。ガス返送管230の途中部には、ブロア40と、流量センサ42と、返送流量調整バルブ44と、二酸化炭素除去装置50と、乾燥装置60とが、この順に配置されている。ガス返送管230の他端は、ガス供給管210の熱交換器30の上流に接続している。
焼成炉10から排出されたガスの少なくとも一部は、ガス排気管220から系外に排気されることなく、ブロア40の稼働によって、ガス返送管230の側に分流される。分流されたガスは、二酸化炭素除去装置50と乾燥装置60に送られた後、ガス供給管210に合流する。そして、酸素供給装置20から供給される酸素ガスに混合され、熱交換器30で加熱された後、焼成炉10に再び導入される。
分流されて焼成炉10で再利用される再利用ガスの流量は、流量センサ42による計測の下、返送流量調整バルブ44によって所定の流量に調整されるようになっている。焼成炉10から排出されたガスは、未反応の酸素を大量に含んでいる。そのため、焼成炉10から排出されたガスの少なくとも一部は、所定の流量で焼成炉10に還流され、焼成炉10の炉内攪拌や炉内雰囲気の調整に再利用される。
二酸化炭素除去装置50は、焼成炉から排出されたガスに含まれる二酸化炭素を除去する。焼成炉10から排出されたガスには、焼成中に炭酸リチウム等から脱離した二酸化炭素が混在している。二酸化炭素除去装置50が備えられていると、大量の二酸化炭素が焼成炉10に戻るのが防止されるため、二酸化炭素が炭酸リチウムとニッケル化合物との反応を阻害したり、炭酸成分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれたりするのが抑制される。そのため、再利用ガスの再利用率を高くした場合にも、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を焼成することができる。
二酸化炭素除去装置50は、図2において、再利用ガスをアルカリ性化合物の水溶液(アルカリ水溶液)に接触させて二酸化炭素を除去する化学吸収式の湿式洗浄装置とされている。焼成炉10から排出されたガスは、アルカリ性化合物の水溶液中に通され、アルカリ性化合物との中和反応によって二酸化炭素が捕捉される。このような形態であると、二酸化炭素を含むガスが焼成炉10に戻るのを、より確実に防止することができる。また、酸素ガスと混合される再利用ガスについて、流量変動、脈動等が生じ難くなるため、焼成炉10内の雰囲気をより安定に保つことができる。
アルカリ性化合物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等の各種の化合物を用いることができる。これらの中でも、コスト削減の観点、ニッケルを含む原料等から不純物として分離回収して利用できる点等から、水酸化ナトリウムが特に好ましい。なお、二酸化炭素除去装置50としては、化学吸収式の他、ポリエチレングリコール、エーテル等の溶液に二酸化炭素を吸収させる物理吸収式、ゼオライト等の吸着剤に二酸化炭素を吸着させる吸着式、膜分離の原理で二酸化炭素を分離する気体分離膜式等、その他の装置を用いることもできる。
乾燥装置60は、二酸化炭素除去装置50から排出されたガスに含まれる水分を除去する。水溶液を使用する化学吸収式の二酸化炭素除去装置50を用いる場合や、原料として水酸化物等を用いる場合には、再利用ガスに水分が含まれ得る。水分を含むガスが焼成炉10に還流されると、水分がリチウムと反応してアルカリ化合物を生成したり、水分がリチウム複合化合物の結晶に取り込まれたりする虞があり、電気化学的に不活性な異相が生成したり、電池を構成する電解液が劣化したりする。これに対し、乾燥装置60が備えられていると、水分が焼成炉10に戻るのが防止される。そのため、再利用ガスの再利用率を高くした場合にも、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示し、電解液を劣化させ難いリチウム複合化合物を得ることができる。
乾燥装置60としては、例えば、シリカゲル等の吸着剤に水分を吸着させる吸着式、ガスを低温に冷却して凝結水を分離する冷凍式、ガスを加熱して水分を蒸発させる加熱式、膜分離の原理で水分を分離する分離膜式等、適宜の装置を用いることができる。なお、水分が脱離しない原料を用いる場合や、二酸化炭素除去装置50として乾式の装置を用いる場合は、乾燥装置60の設置を省略してもよい。
酸素センサs2は、焼成炉10の炉内雰囲気に対応した酸素濃度を検知するために備えられる。酸素センサs2は、図2において、ガス供給管210とガス返送管230との合流点よりも下流、且つ、熱交換器30よりも上流の区間に設置されており、ガス入口10aにおける酸素濃度を検知するように配置されている。このような配置により、供給される酸素ガスや、再利用ガスや、酸素ガスと再利用ガスとを混合した混合ガスを一括的に測定することができる。
なお、酸素センサs2は、図2に示すような配置に代えて、焼成炉10のガス出口10bよりも下流、且つ、ガス排気管220からガス返送管230への分流点よりも上流の区間に設置し、ガス出口10bにおける酸素濃度を検知するように配置してもよい。また、ガス入口10aの側とガス出口10bの側の両方に設置して酸素濃度を検知してもよい。
二酸化炭素センサs3は、焼成炉10の炉内雰囲気に対応した二酸化炭素濃度を検知するために備えられる。二酸化炭素センサs3は、図2において、ガス供給管210とガス返送管230との合流点よりも下流、且つ、熱交換器30よりも上流の区間に設置されており、ガス入口10aにおける二酸化炭素濃度を検知するように配置されている。このような配置により、閾値を超える二酸化炭素が焼成炉10に戻されるのを確実に防止することができる。
なお、二酸化炭素センサs3は、図2に示すような配置に代えて、焼成炉10のガス出口10bよりも下流、且つ、ガス排気管220からガス返送管230への分流点よりも上流の区間に設置し、ガス出口10bにおける二酸化炭素濃度を検知するように配置してもよい。また、ガス入口10aの側とガス出口10bの側の両方に設置して二酸化炭素濃度を検知してもよい。
次に、熱処理装置1における焼成雰囲気の制御方法について説明する。
熱処理装置1では、焼成炉10に前駆体を投入して焼成を行うとき、はじめに、酸素供給装置20から焼成炉10に酸素ガスを供給する。酸素ガスの流量は、焼成炉10の種類、焼成炉10の構造や形状、焼成炉10に投入する前駆体の量等に応じて調整することができる。酸素ガスを供給することにより、焼成炉10の炉内雰囲気を、酸素濃度が少なくとも45%以上となる範囲で、より高い酸素濃度の気流下に維持し、ニッケルの酸化反応を進行させると共に、炭酸リチウムから脱離した二酸化炭素を焼成炉10内から排除する。
熱処理装置1では、酸素ガスを供給して焼成を行う間、供給する酸素ガスの酸素濃度や焼成炉10の炉内雰囲気等に応じて、ブロア40を稼働させることができる。返送流量調整バルブ44を所定の開度にした状態でブロア40を稼働させることにより、焼成炉10から排出されたガスが、二酸化炭素除去装置50と乾燥装置60に送られて二酸化炭素や水分を除去された後、ガス供給管210に返送される。焼成炉10から排出されたガスは、少なくとも一部を継続的に返送することが好ましい。焼成炉10から排出されたガスの少なくとも一部を継続的に返送し、残部を系外に継続的に排気すると、不要なガス成分の排出が続けられるため、焼成炉10の炉内雰囲気、配管の圧力の状態等を安定的に保つことができる。
系外に排気せず焼成炉10に返送して再利用するガスの再利用率(返送流量/(返送流量+排気流量))は、焼成炉10に供給する酸素ガスの濃度、焼成炉10に投入する前駆体の量、焼成の進行の度合い等にもよるが、例えば、0.60以上、好ましくは0.80以上となるように制御することができる。焼成炉10には反応量と比較して過剰量の酸素ガスが流される。そのため、焼成炉10を通じた酸素濃度の低下や二酸化炭素濃度の増大は、数%程度である。そのため、このような再利用率で炉内雰囲気を保つことが可能であり、炉内雰囲気を保ちながらも、反応で消費されなかった酸素の大半を再利用して酸素の供給コストを十分に削減できる。
熱処理装置1では、焼成炉10から排出されたガスをガス供給管210に合流させるとき、酸素供給装置20から供給される酸素ガスの流量を、焼成炉10に導入されるガスの流量が一定となる流量に調整することが好ましい。返送された再利用ガスに、流量が一定となるように流量を調整した酸素ガスを混合すると、焼成炉10から排出されたガスを十分に高い流量比で再利用しつつ、焼成炉10の炉内雰囲気や気流の状態、配管の圧力の状態等についても安定に保つことができる。
熱処理装置1では、焼成炉10に返送して再利用するガスの流量を、酸素センサs2によって検知される酸素濃度が規定値以上になる流量に調整することができる。返送流量調整バルブ44によって調整される再利用ガスの流量が大きすぎると、焼成炉10に導入されるガスの流量を一定にさせる流量の酸素ガスと混合したとき、焼成炉10の酸素濃度が十分に高くならない場合がある。しかし、検知される酸素濃度に基づいて流量を調整すれば、焼成炉10から排出されたガスを適切な時期に再利用しながら、焼成炉10の酸素濃度を確実に高く保つことができる。
また、熱処理装置1では、焼成炉10に返送して再利用するガスの流量を、二酸化炭素センサs3によって検知される二酸化炭素濃度が規定値以下になる流量に調整することもできる。焼成炉10から排出されたガスの二酸化炭素濃度が高すぎると、二酸化炭素除去装置50から排出される再利用ガスの二酸化炭素濃度も高くなり、焼成炉10における反応が阻害されたり、リチウム複合化合物の結晶の純度が低くなったりする虞がある。しかし、検知される二酸化炭素濃度に基づいて流量を調整すれば、二酸化炭素除去装置50の性能にかかわらず、焼成炉10の二酸化炭素濃度を確実に低く保つことができる。
なお、各ガスの目標濃度値は、大気圧下を前提として規定されているが、焼成炉10の炉内雰囲気は、大気圧に制御してよい他、陽圧に制御してもよいし、負圧に制御してもよい。炉内雰囲気を陽圧に制御すると、焼成炉10への意図しないガスの流入や、排出されたガスの逆流を防止することができる。また、焼成炉10に返送して再利用するガスの流量の調整は、酸素濃度のみに基づいて行ってもよいし、二酸化炭素濃度のみに基づいて行ってもよいし、両方に基づいて行ってもよい。焼成炉10に導入するガスの流量は、具体的には、前駆体の重量当たり、0.5〜50m3/kg程度とすることが好ましい。
なお、図2に示す熱処理装置1では、ガス返送管230がガス供給管210に接続しており、ガス返送管230を通じて返送される再利用ガスと酸素供給装置20から供給される酸素ガスとが、合流してから焼成炉10に導入されるようになっている。しかしながら、ガス返送管230は、ガス供給管210に接続せず、独立して焼成炉10に接続されてもよい。このような接続の場合、酸素センサs2や二酸化炭素センサs3は、焼成炉10内に設置することができる。また、熱交換器30等の機器は、適宜、設置が省略されてもよいし、設置位置が変更されてもよい。
以上の熱処理装置1を用いて実施する焼成工程S20は、ニッケルの含有率が60〜70%を超える正極活物質を焼成する場合等には、図1に示すように、第1熱処理工程S21と、第2熱処理工程S22と、第3熱処理工程S23と、を有することが好ましい。なお、これらの工程については、第2熱処理工程S22及び第3熱処理工程S23が、酸素濃度が45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%以下の雰囲気下で行われればよく、少なくとも一つの工程で熱処理装置1が用いられればよい。
第1熱処理工程S21では、混合工程S10で得られた混合物を200℃以上、且つ、400℃以下の熱処理温度で、0.5時間以上、且つ、5時間以下にわたって熱処理して第1前駆体を得る。第1熱処理工程S21は、混合工程S10で得られた混合物から、リチウム複合化合物の合成反応を妨げる水分等を除去することを主な目的として行われる。
第1熱処理工程S21において、熱処理温度が200℃以上であれば、不純物の燃焼反応等が十分に進むため、以降の熱処理で不活性な異相等が形成されるのを防止することができる。また、熱処理温度が400℃以下であれば、この工程でリチウム複合化合物の結晶が形成されることが略無いため、水分、不純物等が含まれるガスの存在下、純度が低い結晶相が形成されるのを防ぐことができる。
第1熱処理工程S21における熱処理温度は、250℃以上、且つ、400℃以下であることが好ましく、250℃以上、且つ、380℃以下であることがより好ましい。熱処理温度がこの範囲であれば、水分、不純物等を効率的に除去する一方、この工程でリチウム複合化合物の結晶が形成されるのを確実に防ぐことができる。なお、第1熱処理工程S21における熱処理時間は、例えば、熱処理温度、混合物に含まれている水分や不純物等の量、水分や不純物等の除去目標、結晶化の度合い等に応じて、適宜の時間とすることができる。
第1熱処理工程S21は、雰囲気ガスの気流下や、ポンプによる排気下で行うことが好ましい。このような雰囲気下で熱処理を行うことにより、水分、不純物等が含まれているガスを効率的に排除することができる。雰囲気ガスの気流の流量や、ポンプによる時間当たりの排気量は、混合物から生じるガスの体積よりも多くすることが好ましい。混合物から生じるガスの体積は、例えば、原料の使用量や、燃焼や熱分解でガス化する成分の原料当たりのモル比等に基づいて求めることができる。
第1熱処理工程S21は、酸化性ガス雰囲気下で行ってもよいし、非酸化性ガス雰囲気下で行ってもよいし、減圧雰囲気下で行ってもよい。酸化性ガス雰囲気としては、酸素ガス雰囲気及び大気雰囲気のいずれであってもよい。また、減圧雰囲気としては、例えば、大気圧以下等、適宜の真空度の減圧条件であってもよい。
第2熱処理工程S22では、第1熱処理工程S21で得られた第1前駆体を450℃以上、且つ、800℃以下の熱処理温度で、0.1時間以上、且つ、50時間以下にわたって熱処理して第2前駆体を得る。第2熱処理工程S22は、炭酸リチウムとニッケル化合物等との反応により、炭酸成分を除去すると共に、ニッケルを2価から3価へと酸化し、リチウム複合化合物の結晶を生成させることを主な目的として行われる。
第2熱処理工程S22において、熱処理温度が450℃以上であれば、炭酸リチウムとニッケル化合物等との反応により、層状構造の形成が進むため、多量の炭酸リチウムが残留するのを防止することができる。そのため、以降の熱処理で炭酸リチウムが液相を形成し難くなり、結晶粒の粗大化が抑制されて、高い充放電容量を示す正極活物質が得られる。また、熱処理温度が800℃以下であれば、粒成長が過度に進行することが無いので、正極活物質の充放電容量が高くなる。
第2熱処理工程S22における熱処理温度は、550℃以上であることが好ましく、600℃以上であることがより好ましく、650℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度がこのように高いほど、炭酸リチウムの反応がより促進し、炭酸リチウムの残留がより確実に防止される。特に、前記式(2)中、M2で表される元素としてマンガンを元素置換するとき、マンガンの係数1−x−y−zが0を超え、且つ、0.075未満の場合は、600℃以上とすることが好ましい。一方、マンガンの係数1−x−y−zが0.075以上の場合は、反応温度が下がるため、550℃以上とすればよい。
第2熱処理工程S22における熱処理温度は、700℃以下であることが好ましく、680℃以下であることがより好ましい。熱処理温度がこのように低いほど、粒成長がより抑制されるため、正極活物質の充放電容量が高くなる。また、炭酸リチウムが溶融し難くなり、液相が形成され難くなるため、結晶粒の粗大化をより確実に抑制することができる。
第2熱処理工程S22における熱処理時間は、0.5時間以上、且つ、50時間以下とすることが好ましく、2時間以上、且つ、15時間以下とすることがより好ましい。熱処理時間がこの範囲であると、炭酸リチウムの反応が十分に進むため、炭酸成分を確実に除去することができる。また、熱処理の所要時間が短縮されて、正極活物質の生産性が向上する。
第2熱処理工程S22は、酸素濃度が45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%以下の雰囲気となるようにガスの気流下で行う。雰囲気の酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高いと、ニッケルの酸化が十分に進まず、2価のニッケルが残留し易くなる。その結果、ニッケルがリチウムサイトに置換し易くなり、正極活物質の充放電容量が低下する可能性が高くなる。また、炭酸リチウムが残留し易いため、液相が形成され易くなり、結晶粒が粗大化すると共に、比表面積が小さくなる可能性が高くなる。そのため、第2熱処理工程S22における酸素濃度は、50%以上であることが好ましい。また、二酸化炭素濃度は、0.01%以下であることがより好ましい。
第2熱処理工程S22においては、焼成炉から排出されたガスの少なくとも一部を、二酸化炭素や水分を除去した後、焼成炉に返送して再利用することが好ましい。再利用するガスの流量の調整は、少なくとも二酸化炭素濃度に基づいて行うことが好ましい。
第3熱処理工程S23では、第2熱処理工程S22で得られた第2前駆体を755℃以上、且つ、900℃以下の熱処理温度で、0.5時間以上、且つ、50時間以下にわたって熱処理してリチウム複合化合物を得る。第3熱処理工程S23は、第2前駆体中のニッケルを2価から3価へと十分に酸化させると共に、層状構造を有するリチウム複合化合物の結晶粒を適切な大きさまで粒成長させることを主な目的として行われる。
第3熱処理工程S23において、熱処理温度が755℃以上であれば、ニッケルを十分に酸化し、充放電容量が高いリチウム複合化合物を得ることができる。また、熱処理温度が900℃以下であれば、リチウムが揮発し難く、層状構造を有するリチウム複合化合物の分解が抑制されるため、焼成後に得られる結晶の純度が低くなるのを避けることができる。
第3熱処理工程S23における熱処理温度は、800℃以上であることが好ましく、820℃以上であることがより好ましく、840℃以上であることがさらに好ましい。熱処理温度がこのように高いほど、ニッケルがより確実に酸化されるし、リチウム複合化合物の粒成長を促進させることができる。
第3熱処理工程S23における熱処理温度は、890℃以下であることが好ましい。熱処理温度がこのように低いほど、リチウムがより揮発し難くなるため、層状構造を有するリチウム複合化合物の分解をより確実に防止することができる。
第3熱処理工程S23における熱処理時間は、0.5時間以上、且つ、15時間以下とすることが好ましい。熱処理時間がこの範囲であると、ニッケルを十分に酸化し、結晶の純度が高く、高い充放電容量を示すリチウム複合化合物を得ることができる。また、熱処理の所要時間が短縮されて、正極活物質の生産性が向上する。
第3熱処理工程S23は、酸素濃度が45%以上、且つ、二酸化炭素濃度が0.02%以下の雰囲気となるようにガスの気流下で行う。雰囲気の酸素濃度が低く、二酸化炭素濃度が高いと、ニッケルの酸化が十分に進まず、2価のニッケルが残留し易くなる。その結果、ニッケルがリチウムサイトに置換し易くなり、正極活物質の充放電容量が低下する可能性が高くなる。また、炭酸リチウムが残留し易いため、結晶粒が粗大化して、比表面積が小さくなったり、不活性な異相が生成したりする可能性が高くなる。そのため、第3熱処理工程S23における酸素濃度は、50%以上であることが好ましく、70%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましい。また、二酸化炭素濃度は、0.01%以下であることがより好ましい。
第3熱処理工程S23においては、焼成炉から排出されたガスの少なくとも一部を、二酸化炭素や水分を除去した後、焼成炉に返送して再利用することが好ましい。再利用するガスの流量の調整は、少なくとも酸素濃度に基づいて行うことが好ましい。
[リチウムイオン二次電池]
次に、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を正極に用いたリチウムイオン二次電池について説明する。
図3は、リチウムイオン二次電池の一例を模式的に示す部分断面図である。
図3に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池100は、非水電解液を収容する有底円筒状の電池缶101と、電池缶101の内部に収容された捲回電極群110と、電池缶101の上部の開口を封止する円板状の電池蓋102と、を備えている。
電池缶101及び電池蓋102は、例えば、ステンレス、アルミニウム等の金属材料によって形成される。正極111は、正極集電体111aと、正極集電体111aの表面に形成された正極合剤層111bと、を備えている。また、負極112は、負極集電体112aと、負極集電体112aの表面に形成された負極合剤層112bと、を備えている。
正極集電体111aは、例えば、アルミニウム、アルミニウム合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、15μm以上、且つ、25μm以下程度の厚さにすることができる。正極合剤層111bは、前記のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含んでなる。正極合剤層111bは、例えば、正極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した正極合剤によって形成される。
負極集電体112aは、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金等の金属箔、エキスパンドメタル、パンチングメタル等によって形成される。金属箔は、例えば、7μm以上、且つ、10μm以下程度の厚さにすることができる。負極合剤層112bは、リチウムイオン二次電池用負極活物質を含んでなる。負極合剤層112bは、例えば、負極活物質と、導電材、結着剤等とを混合した負極合剤によって形成される。
負極活物質としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。負極活物質の具体例としては、天然黒鉛、石油コークス、ピッチコークス等から得られる易黒鉛化材料を2500℃以上の高温で処理したもの、メソフェーズカーボン、非晶質炭素、黒鉛の表面に非晶質炭素を被覆したもの、天然黒鉛又は人造黒鉛の表面を機械的処理することにより表面の結晶性を低下させた炭素材、高分子等の有機物を炭素表面に被覆・吸着させた材料、炭素繊維、リチウム金属、リチウムとアルミニウム、スズ、ケイ素、インジウム、ガリウム、マグネシウム等との合金、シリコン粒子又は炭素粒子の表面に金属を担持した材料、スズ、ケイ素、リチウム、チタン等の酸化物等が挙げられる。担持させる金属としては、例えば、リチウム、アルミニウム、スズ、インジウム、ガリウム、マグネシウム、これらの合金等が挙げられる。
導電材としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。導電材の具体例としては、黒鉛、アセチレンブラック、ファーネスブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック等の炭素粒子や、ピッチ系、ポリアクリロニトリル(PAN)系等の炭素繊維が挙げられる。これらの導電材は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。導電材の量は、例えば、合剤全体に対して、3質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
結着剤としては、一般的なリチウムイオン二次電池に用いられる適宜の種類を用いることができる。結着剤の具体例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン、ポリヘキサフルオロプロピレン、スチレン−ブタジエンゴム、ポリアクリロニトリル、変性ポリアクリロニトリル等が挙げられる。これらの結着剤は、一種を単独で用いてもよいし、複数種を併用してもよい。また、カルボキシメチルセルロース等の増粘性の結着剤を併用してもよい。結着剤の量は、例えば、合剤全体に対して、2質量%以上、且つ、10質量%以下とすることができる。
正極111や負極112は、例えば、一般的なリチウムイオン二次電池用電極の製造方法に準じて製造することができる。例えば、活物質と、導電材、結着剤等とを溶媒中で混合して電極合剤を調製する合剤調製工程と、調製された電極合剤を集電体等の基材上に塗布した後、乾燥させて電極合剤層を形成する合剤塗工工程と、電極合剤層を加圧成形する成形工程と、を経て製造することができる。
合剤調製工程では、材料を混合する混合手段として、例えば、プラネタリーミキサ、ディスパーミキサ、自転・公転ミキサ等の適宜の混合装置を用いることができる。溶媒としては、結着剤の種類に応じて、例えば、N−メチルピロリドン、水、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ジメチルスルホキシド、テトラヒドロフラン等を用いることができる。
合剤塗工工程では、調製されたスラリー状の電極合剤を塗布する手段として、例えば、バーコーター、ドクターブレード、ロール転写機等の適宜の塗布装置を用いることができる。塗布された電極合剤を乾燥する手段としては、例えば、熱風加熱装置、輻射加熱装置等の適宜の乾燥装置を用いることができる。
成形工程では、電極合剤層を加圧成形する手段として、例えば、ロールプレス等の適宜の加圧装置を用いることができる。正極合剤層111bについては、例えば、100μm以上、且つ、300μm以下程度の厚さにすることができる。また、負極合剤層112bについては、例えば、20μm以上、且つ、150μm以下程度の厚さにすることができる。加圧成形した電極合剤層は、必要に応じて正極集電体と共に裁断して、所望の形状のリチウムイオン二次電池用電極とすることができる。
図3に示すように、捲回電極群110は、帯状の正極111と負極112とをセパレータ113を挟んで捲回することにより形成される。捲回電極群110は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンサルファイド等で形成された軸心に捲回されて、電池缶101の内部に収容される。
セパレータ113としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレン−ポリプロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド樹脂、アラミド樹脂等の微多孔質フィルムや、このような微多孔質フィルムの表面にアルミナ粒子等の耐熱性物質を被覆したフィルム等を用いることができる。
図3に示すように、正極集電体111aは、正極リード片103を介して電池蓋102と電気的に接続される。一方、負極集電体112aは、負極リード片104を介して電池缶101の底部と電気的に接続される。捲回電極群110と電池蓋102との間、及び、捲回電極群110と電池缶101の底部との間には、短絡を防止する絶縁板105が配置される。正極リード片103及び負極リード片104は、それぞれ正極集電体111aや負極集電体112aと同様の材料で形成され、正極集電体111a及び負極集電体112aのそれぞれにスポット溶接、超音波圧接等によって接合される。
電池缶101は、内部に非水電解液が注入される。非水電解液の注入方法は、電池蓋102を開放した状態で直接注入する方法であってもよいし、電池蓋102を閉鎖した状態で電池蓋102に設けた注入口から注入する方法等であってもよい。また、電池缶101は、電池蓋102がかしめ等によって固定されて封止される。電池缶101と電池蓋102との間には、絶縁性を有する樹脂材料からなるシール材106が挟まれ、電池缶101と電池蓋102とが互いに電気的に絶縁される。
非水電解液は、電解質と、非水溶媒と、を含んで組成される。電解質としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4等の各種のリチウム塩を用いることができる。非水溶媒としては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート等の鎖状カーボネートや、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート等の環状カーボネートや、メチルアセテート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート等の鎖状カルボン酸エステルや、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン等の環状カルボン酸エステルや、エーテル類等を用いることができる。電解質の濃度は、例えば、0.6M以上、且つ、1.8M以下とすることができる。
非水電解液は、電解液の酸化分解、還元分解の抑制や、金属元素の析出防止や、イオン伝導性の向上や、難燃性の向上等を目的として、各種の添加剤を添加することができる。このような添加剤としては、例えば、リン酸トリメチル、亜リン酸トリメチル等の有機リン化合物や、1,3−プロパンスルトン、1,4−ブタンサルトン等の有機硫黄化合物や、ポリアジピン酸無水物、ヘキサヒドロ無水フタル酸等の無水カルボン酸類、ホウ酸トリメチル、リチウムビスオキサレートボレート等のホウ素化合物等が挙げられる。
以上の構成を有するリチウムイオン二次電池100は、電池蓋102を正極外部端子、電池缶101の底部を負極外部端子として、外部から供給された電力を捲回電極群110に蓄電することができる。また、捲回電極群110に蓄電されている電力を外部の装置等に供給することができる。なお、このリチウムイオン二次電池100は、円筒形の形態とされているが、リチウム二次電池の形状は特に限定されず、例えば、角形、ボタン形、ラミネートシート形等の適宜の形状であってもよい。
リチウムイオン二次電池100は、例えば、携帯電子機器、家庭用電気機器等の小型電源や、電力貯蔵装置、無停電電源装置、電力平準化装置等の定置用電源や、船舶、鉄道車両、ハイブリッド鉄道車両、ハイブリット自動車、電気自動車等の駆動電源等、各種の用途に使用することができる。
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれに限定されるものではない。
[正極活物質の製造]
本発明の実施例として、焼成炉から排出されたガスを再利用する製造方法により、正極活物質を製造した。また、本発明の対照(比較例)として、焼成炉から排出されたガスを再利用しない製造方法により、正極活物質を製造した。
(比較例1)
はじめに、出発原料として、炭酸リチウム、水酸化ニッケル、炭酸コバルト及び炭酸マンガンを用意した。次に、各原料を、原子比でLi:Ni:Co:Mnが、1.04:0.80:0.10:0.10となるように秤量し、粉砕機で粉砕すると共に湿式混合してスラリーを調製し、得られたスラリーをスプレードライヤで造粒乾燥させて混合粉とした(混合工程S10)。
続いて、混合粉300gを、縦300mm、横300mm、高さ100mmのアルミナ容器に充填し、連続搬送炉を用いて焼成してリチウム複合化合物の焼成粉を得た(焼成工程S20)。具体的には、連続搬送炉によって、大気雰囲気下、350℃で1時間にわたって熱処理して第1前駆体を得た(第1熱処理工程S21)。そして、第1前駆体を、酸素濃度99%以上の雰囲気に置換した連続搬送炉によって、酸素気流中、650℃で10時間にわたって熱処理して第2前駆体を得た(第2熱処理工程S22)。その後、第2前駆体を、酸素濃度99%以上の雰囲気に置換した連続搬送炉によって、酸素気流中、800℃で10時間にわたって熱処理してリチウム複合化合物を得た(第3熱処理工程S23)。
図4は、比較例1における焼成工程の概要を示す模式図である。
図4に示すように、比較例1に係る製造方法では、連続搬送路から排出されるガスを、再利用すること無く、全て系外に排気した。全連続搬送路の雰囲気の圧力は、ゲージ圧で約10Paの微陽圧に制御した。比較例1に係る製造方法で得られた焼成粉は、目開き53μm以下に分級した後、正極活物質として以降の測定に供した。
(実施例1)
第3熱処理工程において、図2に示す主構成を有する熱処理装置1を使用し、連続搬送路(焼成炉)から排出されたガスを再利用した以外は、比較例1と同様にして正極活物質を製造して測定に供した。
なお、熱処理装置1としては、連続搬送路の焼成炉10と、酸素供給装置20と、酸素流量調整バルブ24と、熱交換器30と、ブロア40と、返送流量調整バルブ44と、二酸化炭素除去装置50と、乾燥装置60と、酸素センサs2と、二酸化炭素センサs3と、を備える装置を使用した。熱交換器30においては、再利用するガスを300℃まで予熱した。また、二酸化炭素除去装置50は、アルカリ性化合物の水溶液に接触させて二酸化炭素を除去する湿式洗浄装置の形態とし、12質量%の水酸化ナトリウムの水溶液を使用した。乾燥装置60としては、エアドライヤを使用した。
図5は、実施例1における焼成工程の概要を示す模式図である。
図5に示すように、実施例1に係る製造方法では、第3熱処理工程において、酸素濃度が93%、二酸化炭素濃度が10ppmの酸素ガス(酸素−窒素混合ガス)を連続搬送路(焼成炉10)に供給した。連続搬送路に返送して再利用するガスの再利用率は、連続搬送路の酸素濃度が少なくとも90%以上となるように、返送流量調整バルブ44で調整した。連続搬送路に導入するガスの流量は、前駆体の重量当たり、5m3/kgとした。
実施例1に係る製造方法では、安定状態において、ガスの再利用率(流量比)が0.80、再利用ガスの酸素濃度が89%、二酸化炭素濃度が100ppmとなった。そして、連続搬送路に導入される混合ガスの酸素濃度は90%、二酸化炭素濃度は82ppmとなった。その結果、焼成工程の全体で消費された酸素量は、比較例1に対して、約60%に低減した。
(実施例2)
第3熱処理工程に加えて第2熱処理工程においてもガスを再利用した以外は、実施例1と同様にして正極活物質を製造して測定に供した。なお、熱処理装置1としては、第2熱処理工程で使用した装置や実施例1と同様の装置を、第3熱処理工程においても使用した。
図6は、実施例2における焼成工程の概要を示す模式図である。
図6に示すように、実施例2に係る製造方法では、第3熱処理工程において、実施例1と同様の条件で熱処理を行った。そして、第2熱処理工程において、酸素濃度が93%、二酸化炭素濃度が10ppmの酸素ガス(酸素−窒素混合ガス)を連続搬送路(焼成炉10)に供給した。連続搬送路に返送して再利用するガスの再利用率は、連続搬送路の二酸化炭素濃度が少なくとも100ppm以下となるように、返送流量調整バルブ44で調整した。連続搬送路に導入するガスの流量は、前駆体の重量当たり、5m3/kgとした。
実施例2に係る製造方法では、安定状態において、ガスの再利用率(流量比)が0.23、再利用ガスの酸素濃度が91%、二酸化炭素濃度が400ppmとなった。そして、連続搬送路に導入される混合ガスの酸素濃度は92.6%、二酸化炭素濃度は100ppmとなった。その結果、焼成工程の全体で消費された酸素量は、比較例1に対して、約50%に低減した。
(比較例2)
第2熱処理工程を二酸化炭素濃度が0.02%を超える雰囲気下に制御した以外は、実施例2と同様にして正極活物質を製造して測定に供した。なお、二酸化炭素濃度は、第2熱処理工程の連続搬送路から排出されたガスを所定の再利用率(流量比)で酸素ガスと混合させることによって制御した。熱処理装置1としては、実施例2と同様の装置を、第2熱処理工程及び第3熱処理工程において使用した。
比較例2に係る製造方法では、第3熱処理工程において、酸素濃度が93%、二酸化炭素濃度が10ppmの酸素ガス(酸素−窒素混合ガス)を連続搬送路(焼成炉10)に供給した。連続搬送路に返送して再利用するガスの再利用率は、連続搬送路の酸素濃度が少なくとも90%以上となるように、返送流量調整バルブ44で調整した。連続搬送路に導入するガスの流量は、前駆体の重量当たり、5m3/kgとした。
図7は、比較例2における焼成工程の概要を示す模式図である。
図7に示すように、比較例2に係る製造方法では、安定状態において、ガスの再利用率(流量比)が0.74、再利用ガスの酸素濃度が78%、二酸化炭素濃度が400ppmとなった。そして、連続搬送路に導入される混合ガスの酸素濃度は81.8%、二酸化炭素濃度は300ppmとなった。その結果、焼成工程の全体で消費された酸素量は、比較例1に対して、約35%に低減した。
[正極活物質の評価]
次に、実施例及び比較例に係る正極活物質を正極の材料として用いて、リチウムイオン二次電池をそれぞれ作製し、放電容量と充放電サイクル特性を評価した。
はじめに、正極活物質と、結着剤と、導電材とを混合し、正極合剤スラリーを調製した。そして、調製した正極合剤スラリーを、厚さ20μmのアルミ箔に塗布し、120℃で乾燥させた後、電極密度が2.6g/cm3となるようにプレスで圧縮成形し、直径15mmの円盤状に打ち抜いて正極を作製した。また、負極活物質として金属リチウムを用いて負極を作製した。
続いて、作製した正極と負極を用いて、リチウムイオン二次電池を作製した。非水電解液としては、体積比が3:7となるようにエチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを混合した溶媒に、濃度が1.0mol/LとなるようにLiPF6を溶解させた溶液を用いた。
実施例及び比較例のリチウムイオン二次電池のそれぞれについて、以下の条件で、充放電を行い放電容量と、50サイクル後の容量維持率を測定した。充電は、充電電流を0.2CAとして、充電終止電圧4.4Vまで定電流、定電圧で行い、放電は、放電電流を0.2CAとして、放電終止電圧2.5Vまで定電流で行って放電容量を測定した。その後、充電電流及び放電電流を1.0CA、充電終止電圧を4.4V、放電終止電圧を2.5Vとして50サイクルの充放電を繰り返した。50サイクル後に測定した放電容量を、1サイクル後に測定した放電容量で除した値を容量維持率として求めた。これらの結果を表1に示す。
表1に示すように、焼成炉から排出されたガスを再利用する製造方法を用いた実施例1や実施例2によっても、比較例1と同等の放電容量や充放電サイクル特性が得られた。一方、再利用ガスの二酸化炭素濃度が高く、炉内雰囲気の二酸化炭素濃度が0.02%を超える比較例2では、放電容量が低くなり、充放電サイクル特性も悪化した。再利用ガスに含まれる二酸化炭素が十分に除去されていれば、焼成炉の酸素濃度が適切に保たれる範囲で、ガスの再利用率を増大させることが可能であり、焼成の進行に応じて最大数十%の酸素消費量の削減が可能であることが確認された。