本開示はイオン伝導材料、それを含むコアシェル構造、ならびにそれにより形成される電極および金属イオン電池を提供する。本開示の実施形態は、正極材料の構造および表面の強化と改質を行うもので、サイズの小さい円筒型電池(電池容量<5Ah)または大型の角型電池およびアルミラミネート包装電池(電池容量>50Ah)のいずれに応用されても、構造安定性が高く、かつ優れた耐化学性を備える改質正極材料を提供できる。
本開示のいくつかの実施形態により提供されるコアシェル構造は、コア粒子(例えば高ニッケル正極材料)の表面に安定性の高い多機能の膜層が形成される。いくつかの実施形態では、この膜層は、イオン伝導特性を有し得る複合材料層、例えば有機無機複合構造層を含む。この有機無機複合構造層には少なくとも窒素含有高分岐ポリマーおよびイオン伝導材料が含まれ、このうち窒素含有高分岐ポリマーはイオン伝導材料のキャリアとなり得る。例えば、イオン伝導材料は窒素含有高分岐ポリマー構造中に分散して埋め込まれる。いくつかの実施形態では、イオン伝導材料はリチウム含有線状重合体または改質プルシアンブルーであり、このうちリチウム含有線状重合体はイオン伝導セグメントを有し、改質プルシアンブルーはイオン伝導基を有して、有機無機複合構造層にイオン伝導特性を持たせる。
いくつかの実施形態では、この膜層に含まれる有機無機複合構造層は、イオン伝導特性および電子伝導特性を同時に発揮することができる。いくつかの実施形態において、有機無機複合構造層のイオン伝導材料に含まれるリチウム含有線状重合体は、電子伝導セグメントをさらに有し、例えばリチウム含有線状重合体は、チオフェン構造を有する共重合体であり、電子伝導特性を発揮する。いくつかの実施形態において、リチウム含有線状重合体はスルホン酸リチウム基を含んで、イオン伝導特性を発揮する。また、上記有機無機複合構造層は導電材料をさらに含み、導電材料は第1の導電添加剤、導電ポリマー、またはこれらの組み合わせを含んでいてよく、これによりこの有機無機複合構造層の導電特性が高まる。例えば、いくつかの実施形態において、有機無機複合構造層のイオン伝導材料は改質プルシアンブルー(イオン伝導基を有する)であってよく、この場合、導電材料を加えることによって、有機無機複合構造層にイオン伝導特性および電子伝導特性を同時に備えさせることができる。
また、いくつかの実施形態では、コア粒子の表面における膜層は、上記した有機無機複合構造層だけでなく、その他の材料層を含んでいてもよく、例えば、有機材料層および/または粘着層を含んで、実施形態により提供されるコアシェル構造の特性を増強および/または向上させることができる(詳細は後述する)。
本開示のいくつかの実施形態により提供されるコアシェル構造は、良好なイオン伝導効果を有する(または良好な電子伝導効果およびイオン電導効果を同時に有し得る)のみならず、コア粒子(例えば正極材料)と電解液との反応を抑制してコア粒子表面を保護し、正極材料表面の相変化の発生を低減すると共に正極材料構造の膨張収縮率を低減することもできる。よって、実施形態のコアシェル構造を電池に適用すると、高温下における電池のサイクル寿命および安全性を増加させることができる。
以下、本開示のいくつかの実施形態による有機無機複合構造層のイオン伝導材料、このイオン伝導材料を含むコアシェル構造、ならびにコアシェル構造により形成される電極および金属イオン電池について説明する。
いくつかの実施形態において、イオン伝導材料は、例えばイオン伝導セグメントを有するリチウム含有線状重合体であり、例としてイオン伝導セグメントを有するチオフェン構造の共重合体である。1例において、前記イオン伝導セグメントはスルホン酸リチウム基を含む。
いくつかの実施形態において、イオン伝導材料は例えばスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体であり、それは式(1)で示される構造を有する。
式中、Rは独立にC6〜C30のアルキル基であり、mおよびnの値はいずれも30より大きい正の整数、例えば30<m≦100、30<n≦100であり、また例えば50≦m≦100、50≦n≦100である。Mおよびnの値はいずれも正の整数である。Meはメチル基である。
さらに、式(1)で示される構造のリチウム含有線状重合体は、下式(2)で表されるイオン伝導セグメントを有する。
本開示のいくつかの実施形態によれば、上式(1)および式(2)で示される構造中、イオン伝導セグメントのイオンO−およびスルホン酸イオンSO3 −は、電解液中のフッ素イオンF−がコア粒子に近付くのを阻止し、コア粒子の金属イオン(例えばニッケルイオン)溶出を防ぎ、ひいては材料の構造の安定性を高めることができる。さらに、式(1)および式(2)で示される構造中のリチウムイオンLi+はコア粒子のリチウムイオンの導電性を高めることもできる。
本開示のいくつかの実施形態によれば、式(1)で示される構造のリチウム含有線状重合体は、下式(3)で表される電子伝導セグメントをさらに含む。
上式(1)で示される構造中の電子伝導セグメント(式(3))は主に導電ポリマーのセグメントを含み、その電子移動度は0.1cm2/Vsより大きい。
さらに、本開示のいくつかの実施形態によれば、別のイオン伝導材料が提供され、それは改質プルシアンブルーである。該改質プルシアンブルーはイオン伝導基を有している。
いくつかの実施形態において、改質プルシアンブルーは分子式K4Fe(CN)6で表される構造を有する。
1例では、例えば硝酸カリウムでプルシアンブルーを改質して、イオン伝導特性を有する改質プルシアンブルーを得る。
いくつかの実施形態において、コア粒子表面を被覆する材料層に改質プルシアンブルーを採用して材料層にイオン伝導の特性を持たせる場合、材料層は導電材料、例えば導電添加剤、導電ポリマー、またはこれらの組み合わせをさらに含んでいてよく、これにより有機無機複合構造層にイオン伝導および電子伝導の特性を同時に持たせるようにしてもよい点に留意されたい。導電添加剤は導電性炭素材、例えば導電性カーボンブラック(Super Pなど)、カーボンナノチューブ(CNT)、片状導電性グラファイト、グラフェン、またはこれらの組み合わせであってもよい。
実施形態により提供される上記有機無機複合構造層を含むコアシェル構造は金属イオン電池に適用可能であり、このコアシェル構造は金属イオン電池の電極の正極材料となって、正極にてイオン伝導/電子伝導の経路を提供することができる。上述によれば、実施形態のコアシェル構造は例えばコア粒子とコア粒子表面を被覆する有機無機複合構造層とを含み、この有機無機複合構造層は窒素含有高分岐ポリマーおよびイオン伝導材料を含み、このうちイオン伝導材料はリチウム含有線状重合体または改質プルシアンブルーである。上述した式(1)で示される構造およびK4Fe(CN)6は、それぞれリチウム含有線状重合体および改質プルシアンブルーのうちの1組の例である。実施形態により提供される有機無機複合構造層は少なくともイオン伝導特性を備えており、金属イオン電池の正極パフォーマンスを高めることができる。
さらに、本開示のいくつかの実施形態によれば、有機無機複合構造層に含まれる窒素含有高分岐ポリマーは、イオン伝導材料(例えばリチウム含有線状重合体または改質プルシアンブルー)を分散させて、イオン伝導材料がそれに埋め込まれることによりイオン伝導材料のキャリアとなり得る。反応時間が十分あれば、窒素含有高分岐ポリマー中でイオン伝導材料に相互侵入高分子網目(IPN)重合体構造を形成させることができ、ひいてはこの材料層の加工可能性を高めることができる。いくつかの実施形態において、イオン伝導材料を分散させて埋め込まれる窒素含有高分岐ポリマーは、イミド系化合物とバルビツール酸とが共重合してなるハイパーブランチポリマーであってよい。前記イミド系化合物は、ビスマレイミド(例えばN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン(N,N’-bismaleimide-4,4’-diphenylmethane))、マレイミド(例えばフェニルメタンマレイミド(phenylmethane maleimide))、またはこれらの組み合わせであってよい。例として、窒素含有高分岐ポリマーはビスマレイミドとバルビツール酸とが共重合してなるハイパーブランチポリマーであるか、または窒素含有高分岐ポリマーはマレイミドオリゴマーとバルビツール酸とが共重合してなるハイパーブランチポリマーである。なお、実施形態による窒素含有高分岐ポリマー中に分散して埋め込まれるイオン伝導材料は、良好なイオン伝導特性をなお備えるという点に留意されたい。
以下、関連する図面を参照しながら、いくつかの実施形態のコアシェル構造に含まれる膜層およびその構成材料について説明する。
図1は、本開示のいくつかの実施形態によるコアシェル構造の局部説明図である。いくつかの実施形態において、電池の正極材料となり得るコアシェル構造10は、コア粒子12と、コア粒子12の表面12aを被覆する有機無機複合構造層14(即ち、上述した材料層)とを含む。いくつかの実施形態において、正極材料のコア粒子は、リチウムコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルト酸化物、リチウムニッケルコバルトマンガン酸化物、またはリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物を含む。いくつかの実施形態において、有機無機複合構造層14は窒素含有高分岐ポリマーおよびイオン伝導材料を含み、イオン伝導材料は例えば前述したリチウム含有線状重合体または改質プルシアンブルーであり、このうち改質プルシアンブルーはイオン伝導基を有し、リチウム含有線状重合体はイオン伝導セグメントを有する。
いくつかの実施形態において、イオン伝導材料は、窒素含有高分岐ポリマーに分散して埋め込まれる。窒素含有高分岐ポリマーは例えばイミド系化合物とバルビツール酸とが共重合してなるハイパーブランチポリマーである。
いくつかの実施形態において、有機無機複合構造層14は導電材料をさらに含み、導電材料には第1の導電添加剤、導電ポリマー、またはこれらの組み合わせが含まれ得る。このうち、第1の導電添加剤は例えば導電性炭素材を含み、かつ該導電性炭素材は、導電性カーボンブラック(例えばSuper P,Timcal Co.)、片状導電性グラファイト、カーボンナノチューブ、またはグラフェンから選ばれる。いくつかの実施形態において、第1の導電添加剤には前者のうちの2つまたは2つ以上の組み合わせが含まれる。
電池の正極材料に使用されるコア粒子12は高ニッケルイオン(Ni4+)を含んでおり、高ニッケルの材料表面は非常に吸水性が良いため、粒子表面にLi2CO3およびLiOHが形成され、後の電池充電の際にCO2ガスが発生して、密閉状の電池を膨張させ、電池の安全性に影響を及ぼす。発生したガスはコア粒子12間の距離を押し広げ、電子伝導経路に影響を及ぼし、コア粒子12間のインピーダンスを増加させ、ひいては電子伝導経路を破壊して、短絡を形成し、電子を伝導することができなくなる。コア粒子12に関しては、電子の伝導がブロックされてしまうと、リチウムイオンの伝導も影響を受ける。よって、本開示のいくつかの実施形態によれば、図1に示される有機無機複合構造層14は、電解液中の溶媒系とコア粒子12との界面間(例えばNi4+を含む)の反応を有効に抑制して、不要なガスの発生を回避することができるため、材料の劣化速度を緩やかにして取り出せる容量を高めることができる。
さらに、いくつかの実施形態において、コア粒子12はマンガンイオン(例えばMn3+)を含む。マンガンイオンMn3+はコア粒子12表面で相変化を生じてMn2+を形成し易い。マンガンイオンMn2+は、溶出し続けると、負極に移動し、マンガン原子を形成して負極に堆積する。そして、堆積量が増加するにつれて樹枝状の微細な導線が形成され、セパレータを通過し、正極に到達する。これはマイクロショート現象である。マイクロショートが起こると、電池は自己放電し、容量が減り続ける。本開示の実施形態によれば、コアシェル構造10の有機無機複合構造層14に含まれる窒素含有高分岐ポリマーは、その官能基が金属イオンにキレート配位するため、コア粒子表面における相変化の発生、およびマンガンイオン(Mn2+)の溶出を有効に抑制することができる。
さらに、本開示のいくつかの実施形態によるコアシェル構造は、コア粒子の表面に形成される複合構造膜層が2層または2層以上の材料層を含む。
図2は、本開示のいくつかの実施形態による別のコアシェル構造の局部説明図である。図1のコアシェル構造に比べ、図2のコアシェル構造10’は、コア粒子12の表面と12aと有機無機複合構造層14との間に形成される有機重合体層13をさらに含んでおり、この構成により、電解液中で溶媒系がコア粒子12に直接接触することによる侵蝕をさらに回避し、かつコア粒子12の金属イオン溶出をより一層防ぐ。例えば、コア粒子12表面におけるマンガンイオンの相変化およびマンガンイオン(例えばMn2+)の溶出をより一層防止する。
図2に示されるように、いくつかの実施形態において、有機重合体層13はコア粒子12の表面12aを覆い、有機無機複合構造層14は有機重合体層13の表面13aを直接覆う。いくつかの実施形態において、有機重合体層13は窒素含有−ベンゼン環含有重合体を含む。窒素含有−ベンゼン環含有重合体は、例えばビスマレイミド重合体、ポリイミド、またはイミド系相互侵入高分子網目重合体構造の材料である。
よって、上述したいくつかの実施形態により提供されたコアシェル構造は、高ニッケル正極材料表面(Ni4+)と電解液との反応を抑制して、粒子表面を保護し、かつ正極材料表面で生じる相変化を低減すると共に正極材料構造の膨張縮小率を低く抑えることができ、このコアシェル構造材料を電池に適用すると、高温下での電池のサイクル寿命および安全性が向上し得る。
さらに、いくつかの実施形態により提供されたコアシェル構造において、有機無機複合構造層14中のイオン伝導材料は少なくともイオン伝導特性を備えており、コア粒子12のリチウムイオンの伝導性を高めることができる。いくつかの実施形態において、リチウム含有線状重合体をイオン伝導材料とした場合、例えば上記のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体は、イオン伝導セグメントおよび電子伝導セグメントを兼ね備え、コア粒子12表面上の有機無機複合構造層14に良好な電子伝導およびイオン伝導効果を同時に持たせることができ、これにより粒子表面を覆う有機無機複合構造層14の正極材料の放電比容量およびエネルギー密度に対する影響を抑え、ひいては電池の放電性能を高めることができる。当然に、いくつかの他の実施形態において、有機無機複合構造層14中のリチウム含有線状重合体がイオン伝導セグメントのみを有するか、または改質プルシアンブルーがイオン伝導基のみを有する場合には、有機無機複合構造層14に導電材料(導電添加剤および/もしくは導電ポリマー)を加えることによって、有機無機複合構造層14にイオン伝導および電子伝導の特性を同時に持たせることもできる。
また、本開示のいくつかの他の実施形態によるコアシェル構造は、コア粒子の表面に形成される複合構造膜層が三層材料層を含んでいる。
図3は、本開示のいくつかの実施形態によるまた別のコアシェル構造の局部説明図である。図2のコアシェル構造と比較して、図3のコアシェル構造10’’は、有機無機複合構造層14の表面14aを覆う粘着層15をさらに含んでいる。粘着層15の設置によって、形成されたコアシェル構造を直接プレス (例えば圧延)により互いに粘着させれば、集電体フリーの電極(current collector-free electrode)を形成することができ、従来のスラリー混錬プロセスでは集電体に均一に塗布された正極材料を形成するのが困難であるという問題を改善することができる。図3におけるコア粒子12、有機重合体層13および有機無機複合構造層14の形成および材料については上述を参照されたく、ここで重複説明はしない。
図3に示されるように、いくつかの実施形態の粘着層15はバインダーおよび第2の導電添加剤を含む。いくつかの実施形態において、バインダーは、例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリビニルピロリドン(PVP)、またはこれらの組み合わせである。第2の導電添加剤は例えば導電性炭素材を含み、かつ該導電性炭素材は、導電性カーボンブラック(例えばSuper P,Timcal Co.)、片状導電性グラファイト、カーボンナノチューブ(CNT)、グラフェンまたはこれらの組み合わせから選ばれる。
また、本開示のいくつかの実施形態によれば、粘着層15は固体電解質をさらに含む。いくつかの実施形態において、固体電解質は例えば、リン酸リチウムアルミニウムチタン(略称LATP、化学式は例えばLi1+xAlxTi2-x(PO4)3)、タンタルドープリチウムランタンジルコニウム酸素(略称LLZTO、化学式は例えばLi7La3Zr2−xTaxO12)、リン酸リチウムアルミニウムゲルマニウム(略称LAGP、化学式は例えばLi1.5Al0.5Ge1.5(PO4)3)、リチウムイオン導電性ガラスセラミックス(略称LLOGS、化学式は例えばLi2O−Al2O3−SiO2−P2O5−TiO2−GeO2)またはこれらの組み合わせである。したがって、いくつかの実施形態によれば、図3で提示された粘着層15を含むコアシェル構造は、上述の図2で提示されたコアシェル構造の長所を備えるだけでなく、直接圧延して加工を行ってコアシェル構造を互いに粘着させることができ、均一に分布する集電体フリー電極を形成することもできる。さらに、粘着層15に固体電解質が添加されているため、固体電池に適用することができる。
さらに、上述した本開示のいくつかの実施形態により提供された例えば図3に示されるようなコアシェル構造は、コア粒子(例えば高ニッケル正極材料)の表面に形成された複合構造膜層は、それほど厚みがなくても、上記の例えば耐化学性、保護、および構造の膨張収縮の低減等、優れた効果を発揮し得る。いくつかの実施形態において、複合構造膜層の総厚は約20nmから約200nmの範囲である。
さらに、いくつかの実施形態において、コア粒子12上の有機重合体層13の厚さはそれほど厚みがなくても、コア粒子(例えば高ニッケル正極材料)の表面と電解液との反応を阻止する保護の効果を発揮し得る。有機重合体層13が厚過ぎると、リチウムイオンの伝導には影響しないが、電子の伝導に影響する恐れがある。
いくつかの実施形態において、図3に示されるように、有機無機複合構造層14の厚さt2または粘着層15の厚さt3は有機重合体層13の厚さt1より大きくてもよい。いくつかの実施形態において、有機重合体層13の厚さt1は約5nmから約10nmの範囲であり、有機無機複合構造層14の厚さt2は約15nmから約75nmの範囲であり、粘着層15の厚さt3は約25nmから約100nmの範囲である。当然、前述の厚さの数値は例示に過ぎず、各材料層の実際の厚さは、本開示の実施形態の条件を応用する際の必要に応じて適宜選択する必要がある。
また、上述した本開示のいくつかの実施形態では、粘着層15(図3)に固体電解質を添加する例で説明しているが、本開示はこれに限定されることはない。いくつかの実施形態においては、コア体、例えば高ニッケル正極材料の表面を先ず固体電解質で被覆してから(このときのコア体と固体電解質を、上述した実施形態におけるコア粒子と見なすことができる)、固体電解質の表面にて、後続の複合構造膜層、例えば有機重合体層13、有機無機複合構造層14および粘着層15の作製を行うこともできる。本開示はこの点について多くを限定しない。
さらに、本開示の実施形態によれば、多種の異なる方法でコア粒子(例えば高ニッケル正極材料)の表面に、実施形態で提示した1層または多層の材料層を被覆することができる。例えば、いくつかの実施形態において、造粒方法は次のようにすることができる。粉体溶液を作ってからそれを一定時間均一に撹拌し、その後、真空抽出装置につないで溶媒を除去し(溶媒除去中、粉体溶液を絶えず撹拌し続ける)、次いで、表面被覆材料層の粒子を高温の方法で乾燥させて収集する。いくつかの実施形態では、十分に均一に混合された粉体溶液を作った後に、噴霧造粒方法に乾燥システムを組み合わせ、表面被覆材料層の粒子を作製し、収集することもできる。また、同じまたは異なる製法を用いて異なる材料層の被覆および造粒を行うこともできる。この点に関して本開示は多くを限定しない。
本開示の上述およびその他の目的、特徴、ならびに利点がより明らか且つ分かり易くなるよう、以下に関連する実施例を挙げ、図面と対応させながら詳しく説明する。以下、電子伝導特性およびイオン伝導特性を有するスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体の作製方法を提示し、例を挙げてそのうち1つのイオン伝導材料の作製について説明する。
<イオン伝導材料−スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体の作製>
(A)式(6)で示される化合物P3STの合成
式(6)で示される化合物P3STの合成工程は下記のとおりである:
上記式(4)で示される化合物〜式(6)で示される化合物の合成工程をそれぞれ以下に詳細に説明する。
先ず、無水無酸素の操作条件下、−78℃で2.5MのN−ブチルリチウム(n−BuLi)(ヘキサン中2.33mL、5.82mmol)を5,5’−ジブロモ−3,3’−ビス(テトラデシルチオ)−2,2’−ビチオフェン(5,5’-dibromo-3,3’-bis(tetradecylthio)-2,2’-bithiophene)(式(4)で示される)(Tokyo Chemical Industry Co. Ltdより購入)(1.34g、5.82mmol)/テトラヒドロフラン(THF)(30mL)に加え、室温で2時間撹拌し、室温で塩化トリメチルスズ(Me3SnCl)を加え、加熱還流し、12時間反応させた。反応が完了した後、脱イオン水を加えると共に、エーテルおよび脱イオン水で抽出を行って有機層を収集し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィーで精製して(溶離液:ヘキサン)、(3,3’ビス(テトラデシルチオ)−[2,2’−ビチオフェン]−5,5’−ジイル)ビス(トリメチルスタンナン)((3,3'-bis(tetradecylthio)-[2,2'-bithiophene]-5,5'-diyl)Bis(trimethylstannane))(式(5)で示される)を得た。生成物は白色の固体であった。
続いて、無水無酸素の操作条件下で、5,5’−ジブロモ−3,3’−ビス(テトラデシルチオ)−2,2’−ビチオフェン(式(4)で示される)(0.30g、0.384mmol)/クロロベンゼン30mLおよび(3,3’−ビス(テトラデシルチオ)−[2,2’−ビチオフェン]−5,5’−ジイル)ビス(トリメチルスタンナン)(式(5)で示される)(0.364g、0.384mmol)/クロロベンゼン30mLを、室温でトリ(o−トリル)ホスフィン(58mg、0.192mmol)に加えて5分撹拌してから、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(tris(dibenzylideneacetone)-dipalladium(0))(17.5mg、0.019mmol)を加えて5分撹拌し、120℃まで昇温した。120℃に達したときに反応を開始し、48時間反応させた。反応が完了したら、120℃で2−ブロモチオフェン(0.35mL)を加えて15分撹拌し、120℃でトリメチル(チオフェン−2−イル)スタンナン(trimethyl(thiophen-2-yl)stannane)(0.35mL)を加えて15分撹拌し、室温まで冷却し、メタノール(MeOH)50mLを加えてから、濃塩酸20mLを加え、固体をろ過して分離し、その固体をソックスレー抽出で精製し、ヘキサン、ジクロロメタン、クロロホルムおよびクロロベンゼンを順に用いて抽出を行い、抽出が完了したポリマーをアセトンで洗浄すると共にろ過して生成物P3ST化合物(式(6)で示される)を分離した。生成物は紫黒色の薄膜状固体であった。
(B)式(11)で示される化合物P3ST−T2の合成
式(11)で示される化合物P3ST−T2の合成工程は下記のとおりである:
上記式(7)で示される化合物〜式(11)で示される化合物の合成工程をそれぞれ以下に詳細に説明する。
先ず、無水無酸素の操作条件下、−70℃で2.5MのN−ブチルリチウム(n−BuLi)(ヘキサン中43.0mL、0.108mmol)を1,2−オキサチアン2,2−ジオキシド(1,2-oxathiane 2,2-dioxide)(13.96g、0.102mol)/テトラヒドロフラン(THF)(300mL)にゆっくり滴下し、−70℃で1時間反応させ、この温度下でチオフェン3−カルバルデヒド(式(7)で示される)(Sigma-Aldrich Corporationより購入)(11.50g、0.102mol)をゆっくり滴下し、−70℃で30分反応させ、室温に戻してからさらに6時間反応させると、溶液は次第に透明な黄色になった。反応が完了した後、溶液に塩酸を加えると中性を呈し、2回脱イオン水およびエーテルで抽出し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィーで精製を行い(溶離液:ヘキサン:EA=70:30)、最後に再結晶させて3−(ヒドロキシ(チオフェン−3−イル)メチル)−1,2−オキサチアン−2,2−ジオキシド(3-(hydroxy(thiophen-3-yl)methyl)-1,2-oxathiane 2,2-dioxide)(式(8)で示される)を得た(白色の固体)。
次いで、無水無酸素の条件下、0℃で3−(ヒドロキシ(チオフェン−3−イル)メチル)−1,2−オキサチアン−2,2−ジオキシド(式(8)で示される)(19.1g、0.077mol)を60%水素化ナトリウム(NaH)(2.21g、0.092mol)/テトラヒドロフラン(THF)(150mL)に加え、0℃で30分反応させ、この温度下で95%ヨードメタン(MeI)(13.80g、0.092mol)を加え、0℃で10分反応させ、室温に戻した後、引き続き30分反応させた。反応が完了した後、直接濾板を用いて塩類をろ過し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、カラムクロマトグラフィーで精製を行って(溶離液:ヘキサン:EA=75:25)、3−(メトキシ(チオフェン−3−イル)メチル)−1,2−オキサチアン2,2−ジオキシド(3-(methoxy(thiophen-3-yl)methyl)-1,2-oxathiane 2,2-dioxide)(式(9)で示される)を得た(黄色の液体)。
次いで、室温で N-ブロモスクシンイミド(NBS)(9.8g、0.055mmol)を3−(メトキシ(チオフェン−3−イル)メチル)−1,2−オキサチアン2,2−ジオキシド(式(9)で示される)(5.8g、0.022mol)/テトラヒドロフラン(THF)(100mL)に加え、60℃で還流し12時間反応させた。反応が完了した後、濾板を用いて塩類をろ過し、ロータリーエバポレーターで溶媒を除去し、回転濃縮後、カラムクロマトグラフィーで精製を行って(溶離液:ヘキサン:EA=80:20)、黄色の粘稠な液体を得てから、エタノールで再結晶したところ、3−((2,5−ジブロモチオフェン−3−イル)(メトキシ)メチル)−1,2−オキサチアン2,2−ジオキシド(3-((2,5-dibromothiophen-3-yl)(methoxy)methyl)-1,2-oxathiane 2,2-dioxide)(式(10)で示される)が得られた(白色の固体)。
次いで、無水無酸素の操作条件下、5,5’−ジブロモ−3,3’−ビス(テトラデシルチオ)−2,2’−ビチオフェン(式(5)で示される)(0.16g、0.381mmol)/クロロベンゼン30mLおよび3−((2,5−ジブロモ−3−チオフェンイル)(メトキシ)メチル)−1,2−オキサチアン2,2−ジオキシド(式(10)で示される)(0.16g、0.382mmol/クロロベンゼン30mLを、室温でトリ(o−トリル)ホスフィン(0.017g、0.019mmol)/クロロベンゼン30mLに加えて5分撹拌してから、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)(0.057g、0.19mmol)/クロロベンゼン30mLを加えて5分撹拌し、120℃まで昇温し、120℃に達したときに反応を開始し、72時間反応させた。反応が完了したら、120℃で2−ブロモチオフェン(0.35mL)を加えて15分撹拌し、120℃でトリメチル(チオフェン−2−イル)スタンナン(0.35mL)を加えて15分撹拌し、室温まで冷却し、メタノール(MeOH)50mLを加え、続いて濃塩酸20mLを加え、有機層を取って回転濃縮した後、減圧蒸留で全ての溶媒を蒸発させ、得られた固体をソックスレー抽出で精製し、先ずはヘキサンで分子量の過度に小さい重合体を洗い流してから、エーテルで生成物を洗い出し、適量のエーテルで溶かし、大量のヘキサンを加えて再結晶を行うと共に、固体をソックスレー抽出で精製し、ヘキサン、エーテルを順に用いて抽出した。得られた生成物は深紅色の固体(0.1g、30%)であった。mおよびnの値はいずれも30よりも大きい正の整数であり、例えばmの値は50〜100の正の整数、nの値は50〜100の正の整数であり、Meはメチル基である。上述の合成工程を繰り返し行って、1gを超える収量で導電ポリマー化合物P3ST−T2(式(11)で示される)を収集した。
(C)スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12)で示される)の合成
水酸化リチウム(LiOH)(0.0015g、0.06mmol)を、上記にて作製した導電ポリマー化合物P3ST−T2(式(11)、式中R=C14H29)(1g、0.0207mmol)を含む脱イオン水30mLの溶液中に加え,室温で24時間撹拌してリチウム化の置換反応を進行させると共に、絶えずサンプルを採取してゲル浸透クロマトグラフィーによりGPC分析を行い、反応程度の初期判断の基準とした。図4は、本発明のいくつかの実施形態におけるスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12)で示される)のゲル浸透クロマトグラフィーのグラフであり、縦軸はmV(millivolts)で、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。反応が完了したら、減圧蒸留で全ての水溶媒を蒸発させ、得られた固体をソックスレー抽出で精製し、先ずはヘキサンで分子量の過度に小さい重合体を洗い流してから、エーテルで生成物を洗い出し、適量のエーテルで溶かし、大量のヘキサンを加えて再結晶を行うと共に、固体をソックスレー抽出で精製し、ヘキサン、エーテルを順に用いて抽出した。得られた生成物はスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))、白色の固体であった。式中、nおよびmの値は30より大きい。スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体の電子移動度>0.1cm2/Vsであった。構造はO−およびSO3−基を有しており、F−の侵蝕を阻止して材料の安定性を高めることができ、さらにリチウムイオンの伝導率を高めることもできる。
上述(および後述する関連)のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)の分析の操作条件は次のとおりとした。(1)GPCカラムシステムは主にShodex KD−801/KD802/KD−802/KD802.5の計4本のカラムを直列接続して組み立て、(2)溶媒系はDMFを使用し、(3)流速を0.8ml/minにセットし、および(4)オーブンの温度を40.0℃に設定する。
スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))は即ち、上述した実施形態の構造式(1)を有するリチウム含有線状重合体である。
実施形態におけるイオン伝導材料をどのように窒素含有高分岐ポリマー中に分散して埋め込ませて、実施形態における有機無機複合構造層14に含まれる組成物を作製するのかについて、以下に説明する。
そのうちの1つの合成工程の流れは以下のとおりである。窒素含有高分岐ポリマー(リチウム含有線状重合体のキャリアとなる)を、式(13)で示されるビスマレイミドと式(14)で示されるバルビツール酸とを共重合させて作り、かつ上記スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))と反応させる。以下、2つの合成例を挙げ、2つの上記スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))を含む窒素含有高分岐ポリマーの作製方法を説明する。
<スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物1>
N,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタン(CAS番号:13676-54-5)(式(13))1.312g(3.66mmol)とバルビツール酸(CAS番号:67-52-7)(式(14))0.234g(1.83mmol)とをN−メチルピロリドン(NMP,CAS番号 :872-50-4)溶媒50g中に入れ室温で撹拌して先ず溶解させると、溶液は透明な黄色を呈した。次いで、その溶液にスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))0.25g(0.005mmol)を入れ、引き続き撹拌した。式(12)で示されるスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体自体は、N−メチルピロリドンに溶解しないため、このときN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタンとバルビツール酸とのN−メチルピロリドン溶液中に分散した状態となった。反応器をオイルバスで加熱し、溶液温度を次第に高めていくと、溶液の色が次第に褐色に変わった。温度が100℃に達した後、式(12)で示されるスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体が次第に凝集する現象が生じ、温度が115℃に達したとき、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体は小塊状の凝集を生じ、温度が120℃に達した後、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))は凝集し、比較的大きな1つの塊となる現象が生じた。このとき、温度が上昇し続けると、凝集した大きな塊は、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))がN,N’−ビスマレイミド−4,4’−ジフェニルメタンとバルビツール酸とが反応して構築された高分岐ポリマー構造中に次第に埋め込んでいくことで徐々に縮小し、温度が130℃に達した後、溶液全体は透明な褐色を呈し、未溶解の粒子粉末が見られなくなった。反応の際、絶えずサンプルを採取して、ゲル浸透クロマトグラフィーでGPC分析を行い、反応程度の初期判断の基準とした。
図5は、本発明のいくつかの実施形態における、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物1のゲル浸透クロマトグラフィーのグラフである。縦軸はmVで、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。GPC分析の操作条件は前述を参照されたい。
上記の溶液を130℃で48時間続けて反応させた後、加熱を停止すると共にオイルバスを外し、温度が室温に下がるまで撹拌を続け、次いで反応器内の溶液、即ち5重量%のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))を含む窒素含有高分岐ポリマー1溶液を回収フラスコに注ぎ入れた。この溶液の含有物(溶媒ではない)が、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物1である。
<スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物2>
フェニルメタンマレイミドのオリゴマー(CAS番号:67784-74-1)1.312gとバルビツール酸(CAS番号:67-52-7)0.234g(1.83mmol)とをN−メチルピロリドン(NMP)溶媒50g中に入れ室温で撹拌して先ず溶解させると、溶液は透明な黄色を呈した。次いで、その溶液に、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))0.5g(0.01mmol)を入れ、引き続き撹拌した。スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))自体はN−メチルピロリドンに溶解しないため、このときフェニルメタンマレイミドのオリゴマーとバルビツール酸とのN−メチルピロリドン溶液中に分散した状態となった。反応器をオイルバスで加熱し、溶液温度を次第に高めていくと、溶液の色が次第に褐色に変わった。温度が100℃に達した後、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))が次第に凝集する現象が生じ、温度が115℃に達したとき、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))は小塊状の凝集を生じ、温度が120℃に達した後、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))は凝集し、比較的大きな1つの塊となる現象が生じた。このとき、温度が上昇し続けると、凝集した大きな塊は、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))がフェニルメタンマレイミドのオリゴマーとバルビツール酸とが反応して構築された高分岐ポリマー構造中に次第に埋め込んでいくことで、徐々に縮小していった。温度が130℃に達した後、溶液全体は透明な褐色を呈し、未溶解の粒子粉末が見られなくなった。反応時、絶えずサンプルを採取して、ゲル浸透クロマトグラフィーでGPC分析を行い、図6に示されるように、反応程度の初期判断の基準とした。
図6は、本発明のいくつかの実施形態における、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物2のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のグラフである。縦軸はmVで、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。GPC分析の操作条件は前述を参照されたい。
上記の溶液を130℃で48時間続けて反応させた後、加熱を停止すると共にオイルバスを外し、温度が室温に下がるまで撹拌を続け、次いで反応器内の溶液、即ち3重量%のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体(式(12))を含む窒素含有高分岐ポリマー2溶液を回収フラスコに注ぎ入れた。この溶液の含有物(溶媒ではない)が、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物2である。
また、上述したように、いくつかの他の実施形態では、改質プルシアンブルーをイオン伝導材料とし、かつ窒素含有高分岐ポリマーをそのキャリアとする。以下、2つの合成例を挙げ、2つの改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーの作製方法を説明する。
<(1)改質プルシアンブルーの窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体コンビネーション1の作製>
先ず、粉砕機を用い、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(bisphenol A diphenylether bismaleimide,CAS番号:79922-55-7)78.50g(0.138mole)および5,5−ジメチルバルビツール酸(CAS番号:24448-94-0)21.5g(0.138mole)、ならびにピグメントブルー27(またはプルシアンブルーとも称する(Fe4[Fe(CN)6]3))(CAS番号:12240-15-2) 10.36g(0.012 mole)および硝酸カリウム(KNO3, CAS番号:7757-79-1)14.62g(0.145mole)2つの組み合わせをそれぞれ予め粉砕混合して固体粉末とした。次いで、上記2つの組み合わせの固体粉末を合わせ、再度粉砕機を用いて粉砕混合を行った。得られた固体混合粉末は、改質プルシアンブルーの窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体コンビネーションである。
いくつかの実施形態において、プルシアンブルー(K4Fe(CN)6)を改質するのに用いる硝酸カリウム(KNO3)とプルシアンブルーとの重量パーセント比は例えば(限定されないが)1.41重量%:1重量%である。また、1例において、改質後のプルシアンブルーを水溶液に調製した場合、固形分は1.5%、濃度は20mM、pH値は6.93であり、かつ剪断速度100 1/秒で粘度は1.89cPsであった。
<(2)改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液1の作製>
上記改質プルシアンブルーの窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体コンビネーション1を3.75gを取り、NMP溶媒71.25gと共に250ml三口フラスコに入れてから、撹拌子を入れ、事前に撹拌を行って均一にした。上記した改質プルシアンブルーの窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体のNMP溶液が入った250ml三口反応フラスコを、冷却管/乾燥裝置/オイルバス/ヒーター/過昇温防止装置/温度プローブを組んだセットシステムに取り付けた。ヒーターの合成温度を設定し(130℃)、温調撹拌の合成反応を行うと共に、絶えずサンプルを採取して、ゲル浸透クロマトグラフィーでGPC分析を行い、反応程度の初期判断の基準とした。いくつかの実施形態において、改質プルシアンブルーの分子式はK4Fe(CN)6である。
図7は、本発明のいくつかの実施形態における、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液1のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)グラフであり、縦軸はmVで、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。GPC分析の操作条件は前述を参照されたい。
さらに、反応の過程で、窒素含有高分岐ポリマー構造は次第に形を成していくと同時に、構造のキレート効果が生じ、改質プルシアンブルーをその高分岐の構造内に取り込んだ。130℃で64時間反応させた後、加熱システムを外し、温度が室温まで下がったときにろ過を行うと、5重量%の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液1が得られた。
<(3)窒素含有高分岐ポリマー3の反応前駆体コンビネーションの作製>
先ず、粉砕機を用い、フェニルメタンマレイミドのオリゴマー(CAS番号:67784-74-1)71.68g(0.2mole)および2−チオバルビツール酸(2-Thiobarbituric acid,CAS番号:504-17-6)14.42g(0.1mol)の組み合わせの混合物を取り、粉砕して固体粉末とした。得られた固体混合粉末が即ち、窒素含有高分岐ポリマー3の反応前駆体コンビネーションである。
<(4)改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液2の作製>
上述の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体コンビネーション1を1g取り、50gの窒素含有高分岐ポリマー3(後述する)のNMP溶液が入った250ml三口反応フラスコに加えてから、撹拌子を入れ、事前に撹拌を行って均一にした。上記した改質プルシアンブルーの窒素含有高分岐ポリマーの反応前駆体コンビネーション1の窒素含有高分岐ポリマー3のNMP溶液が入った250ml三口反応フラスコを、冷却管/乾燥裝置/オイルバス/ヒーター/過昇温防止装置/温度プローブを組んだセットシステムに取り付けた。ヒーターの合成温度を設定し(130℃)、温調撹拌の合成反応を行うと共に、絶えずサンプルを採取して、ゲル浸透クロマトグラフィーでGPC分析を行い、反応程度の初期判断の基準とした。図8は、本発明のいくつかの実施形態における、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液2のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のグラフであり、縦軸はmVで、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。GPC分析の操作条件は前述を参照されたい。
反応の過程で、窒素含有高分岐ポリマー構造は次第に形を成していくと同時に、構造のキレート効果が生じ、プルシアンブルーをその高分岐の構造内に取り込んだ。130℃で48時間反応させた後、加熱システムを外し、温度が室温まで下がったときにろ過を行うと、5重量%の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液2が得られた。
<(5)窒素含有高分岐ポリマー3溶液の作製>
上述の窒素含有高分岐ポリマー3の反応前駆体コンビネーションを1.5g取り、NMP溶媒48.5gと共に250ml三口フラスコに入れてから、撹拌子を入れ、事前に撹拌を行って均一にした。上記した窒素含有高分岐ポリマー3の反応前駆体コンビネーションのNMP溶液が入った250ml三口反応フラスコを、冷却管/乾燥裝置/オイルバス/ヒーター/過昇温防止装置/温度プローブを組んだセットシステムに取り付けた。ヒーターの合成温度を設定し(130℃)、温調撹拌の合成反応を行うと共に、絶えずサンプルを採取して、ゲル浸透クロマトグラフィーでGPC分析を行い、反応程度の初期判断の基準とした。図9は、窒素含有高分岐ポリマー3のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)のグラフであり、縦軸はmVで、検出器の信号強度(または感度)を表し、横軸は時間である。GPC分析の操作条件は前述を参照されたい。
反応の過程で、窒素含有高分岐ポリマー構造は次第に形を成していき、130℃で24時間反応させた後、加熱システムを外し、温度が室温まで下がるまで撹拌を続けると、3重量%の窒素含有高分岐ポリマー3溶液が得られた。
<コアシェル構造の作製方法>
以下に本開示のいくつかの実施形態によるコアシェル構造の作製方法を提示する。例として挙げる2組のコアシェル構造におけるコア粒子12表面に形成される複合構造膜層は、1組が2層の材料層、例えば図2に示される有機重合体層13および有機無機複合構造層14を含み、もう1組が1層の材料層、例えば図1に示される有機無機複合構造層14を含む。
[第1の組のコアシェル構造:複合構造膜層が、上記スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーの組成物2を含む]
第1の組のコアシェル構造の例において、下記工程Aで述べるように、先ずコア粒子の表面を窒素含有高分岐ポリマーで表面改質し、例えば有機重合体層13を形成する。
次いで、下記工程Bで述べるように、上記にて作製したスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー2溶液を取り、例えば混合撹拌またはその他の適した方法により、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー組成物2で、窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の表面を被覆する、即ち、例えば有機重合体層13上に有機無機複合構造層14を形成する。この工程では、例えば噴霧造粒方法を用いて、2層の材料層を備えたコアシェル構造の粒子を収集する。
また、有機無機複合構造層14中に導電添加剤を加えて、有機無機複合構造層14の導電機能を高めることもできる。下記工程Cで述べるように、窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の表面に、導電添加剤を含む有機無機複合構造層を被覆し、被覆完了後に、例えば噴霧造粒方法により、2層の材料層を備えたコアシェル構造の粒子を収集する。
以下に工程A〜Cを詳しく説明する。
A.窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の作製工程
(1)ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド(CAS番号:79922-55-7)を0.3g取って三角フラスコに入れ、アセトン溶媒45gを加え、撹拌して完全に溶解させた。
(2)上述の完全に溶解した溶液の1/3を、正極材料(NMC811粒子粉末)300gの入った丸形フラスコに加えて激しく撹拌し、粉体を溶液中に完全に分散させた。このとき、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミドはNMC811正極材料の強アルカリ性(pH値>11)を利用して重合反応を進行し、その正極材料表面が一層の窒素含有高分岐ポリマー膜で被覆される。
(3)丸形フラスコを真空吸引装置に接続して溶媒を除去した。窒素含有高分岐ポリマーが正極材料粉体粒子表面に均一に分布できるよう、溶媒除去中、粉体溶液を絶えずかき回しておく必要がある。
(4)目視で丸形フラスコ中に溶媒がなくなるまで溶媒を除去したら、さらに1/3の溶媒を加えて工程(2)〜(3)を繰り返し行い、溶液を全部使い切るまで繰り返した。
(5)正極材料が塊から分散し粉末状になるまで溶媒を除去し続け、次いで、得られた0.1重量%窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の粒子粉末を真空オーブンに入れ、温度50〜120℃、乾燥時間4〜24時間に設定して乾燥を行い、冷却させて後の使用に備えた。
B.スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の作製工程
(1)3重量%のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー2溶液を25g取り、丸底反応フラスコに入れ、エタノール溶媒125gを加え、撹拌して十分に混合させてから、上述の工程Aで得られた窒素含有高分岐ポリマー表面改質NMC811正極材料150gをバッチ的に加え、引き続き撹拌して十分均一に混合させた。このときの固形分は約50%であった。
(2)噴霧乾燥システム(BUCHI B−290噴霧乾燥機)を用い、上記溶液で、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の作製を行った。収集した粒子粉末が即ち、0.5重量%のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料である。ここ(および後述)で使用した噴霧乾燥システムの操作条件は、(1)使用した噴霧ノズルの直径0.7mm、(2)入口温度および出口温度はそれぞれ110℃および80℃に設定し、(3)蠕動ポンプの速度は600rpm/60Hzに設定し、(4)アスピレーターの吸引速度は100%に調節した。
C.導電添加剤を含むと同時に、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料の作製工程
(1)3重量%のスルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマー2溶液50gおよびカーボンナノチューブ混合溶液(カーボンナノチューブ0.2重量%、粘着剤2%、少量の分散剤、残りはNMP溶媒)70gを取り、丸底反応フラスコに入れ、アセトン溶媒250gを加え、撹拌して十分に混合させてから、上記にて得られたA.窒素含有高分岐ポリマー表面改質NMC811正極材料150gをバッチ的に加え、引き続き撹拌して十分均一に混合させた。このときの固形分は約41%であった。
(2)噴霧乾燥システム(BUCHI B−290噴霧乾燥機)を用い、上記溶液で、導電添加剤を含むと同時に、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料の作製を行った。収集した粒子粉末が即ち、導電添加剤を含むと同時に、スルホン酸リチウムを含むチオフェン構造の共重合体を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料約1重量%である。噴霧乾燥システムの操作条件は上記を参照されたい。
[第2の組のコアシェル構造:複合構造膜層が、上記の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液1を含む]
第2の組のコアシェル構造作製の例では、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーを用い、コア粒子の表面を一層の材料層で被覆する。作製工程は次のとおりである:
A.改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の作製工程
(1)5重量%の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液1を48g取って三角フラスコに入れ、エタノール溶媒250gを加え、撹拌して完全に混合させた。
(2)上述の完全に混合した溶液の1/3を、正極材料(NMC811粒子粉末)300gの入った丸形フラスコに加えて激しく撹拌し、粉体を溶液中に完全に分散させた。このとき、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーは正極材料表面にて被覆を進行し、その正極材料表面を一層の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー膜が覆う。
(3)丸形フラスコを真空吸引装置に接続して溶媒を除去した。改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーが正極材料粉体粒子表面に均一に分布できるよう、溶媒除去中、粉体溶液を絶えずかき回しておく必要がある。
(4)目視で丸形フラスコ中に溶媒がなくなるまで溶媒を除去したら、さらに1/3の溶媒を加えて工程(2)〜(3)を繰り返し行い、溶液を全部使い切るまで繰り返した。
(5)正極材料が塊から分散し粉末状になるまで溶媒を除去し続けた後、得られた改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーの正極材料粒子粉末を真空オーブンに入れ、温度50〜120℃、乾燥時間4〜24時間に設定して乾燥を行い、冷却させて後の使用に備えた。
B.導電添加剤を含むと同時に、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料の作製工程
(1)5重量%の改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー溶液2を50g、およびカーボンナノカプセルを0.5g取って丸底反応フラスコに入れ、エタノール溶媒250gを加え、撹拌して十分に混合させてから、NMC811正極材料250gをバッチ的に加え、引き続き撹拌して十分に均一に混合させた。このときの固形分は約50%であった。
(2)噴霧乾燥システム(BUCHI B−290噴霧乾燥機)を用い、上記溶液で、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料の作製を行った。収集した粒子粉末が即ち、改質プルシアンブルーを含む窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極材料である。噴霧乾燥システムの操作条件は上記を参照されたい。
以下、本開示のいくつかの実施例および比較例による正極板の作製方法を提示すると共に、正極板を用いた電池の製造方法を提示する。
<正極板の作製>
導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極板は次のように作製する。上述の導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料粉末を、導電添加剤、バインダー等のその他の成分と直接撹拌混合して、電極板スラリー組成物を作る。得られた電極板スラリー組成物を金属箔片(例えばアルミニウム箔)に塗布した後、乾燥、ロール圧延し、改質された電極板を形成することができる。
本発明の導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極材料粉末は、リチウム金属複合酸化物、例えばLiMnO2、LiMn2O4、LiCoO2、Li2Cr2O7、Li2CrO4、LiNiO2、LiFeO2、LiNixCol−xO2(0<x<1)、LiMPO4(M=遷移金属)、LiMn0.5Ni0.5O2、LiNixCoyMnzO2(x+y+z=1)、LiNixCoyAlzO2(x+y+z=1)、LiMc0.5Mn1.5O4、またはこれらの組み合わせであってよく、式中Mcは二価金属である。粒径は約1μmから30μmの間である。
得られた正極材料表面改質粉末、導電添加剤、およびバインダーを溶媒に分散して正極スラリー組成物を得る。正極材料表面改質粉末:導電添加剤:バインダーの重量比は約85〜99:0.1〜6:0.1〜6であり、好ましい範囲は約92〜96:1〜4:1〜4である。導電添加剤はカーボンブラック、グラファイト、カーボンナノチューブ、グラフェン、アセチレンブラック、ニッケル粉、アルミニウム粉、チタン粉またはステンレス粉等、またはこれらの組み合わせであってよい。バインダーは、電極の機械特性を高めることができ、適したバインダーは、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアミド、メラミン樹脂、またはこれらの組み合わせであってよい。適した溶媒には(限定はされないが)、γ-ブチロラクトン、プロピレンカーボネート、N−メチルピロリドンの単溶媒または共溶媒系が含まれる。また、正極スラリー組成物は、さらにその他の添加剤、例えば界面活性剤、反応開始剤等を含んでいてもよい。
図10は、本発明の1実施形態によるリチウム電池20の断面図を示しており、それは1対の正極板21と負極板23を含み、正極板21は、本発明の前述した方法で製造された改質正極板である。正極板21と負極板23との間にはセパレータ25があり、収容領域22を画成する。収容領域22中には電解質溶液が含まれている。また、上記構造の外側はパッケージ構造26であり、正極板21、負極板23、セパレータ25、および電解質溶液を包み覆う。
図11は改質正極板21の一部拡大図を示している。導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質をした後の正極板21において、導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマー203は電極材料201の表面を覆っている。
なお、当業者であれば、本発明の改質プロセスに基づいて負極板材料を改質できること、およびさらに電極板スラリー組成物の調製によって、これを金属箔片(例えば銅箔)に塗布した後に乾燥、ローラ圧延を行って改質負極板を形成できるということが、理解されなければならない。
本発明の導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した負極板の材料に用いられるものには、炭化物およびリチウム合金が含まれ得る。このうち、炭化物は、炭素粉体、グラファイト、炭素繊維、カーボンナノチューブ、グラフェンまたはこれらの混合物であり得る。本発明の1実施形態では、炭化物は炭素粉体であり、粒径は約1μmから30μmの間である。金属系負極は、Al、Zn、Bi、Cd、Sb、Si、Pb、Sn、Li3FeN2、Li2.6Co0.4N、Li2.6Cu0.4N、またはこれらの組み合わせであってよい。上記の2種の物質の他、負極板は、金属酸化物、例えばSnO、SnO2、GeO、GeO2、In2O、In2O3、PbO、PbO2、Pb2O3、Pb3O4、Ag2O、AgO、Ag2O3、Sb2O3、Sb2O4、Sb2O5、SiO、ZnO、CoO、NiO、FeO、TiO2、Li3Ti5O12またはこれらの組み合わせをさらに含んでいてよい。負極板には、バインダー、例えばポリフッ化ビニリデン、スチレンブタジエンゴム、ポリアミド、メラミン樹脂等が含まれ得る。
上記セパレータ5は絶縁材料であり、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、またはPE/PP/PEのようなこれらの多層構造であってよい。
上記電解質溶液の主要成分は有機溶媒、リチウム塩、および添加剤である。有機溶媒は、γ-ブチロラクトン(GBL)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピルアセテート(PA)、ジメチルカーボネート(DMC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、またはこれらの組み合わせであってよい。リチウム塩は、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiSbF6、LiClO4、LiAlCl4、LiGaCl4、LiNO3、LiC(SO2CF3)3、LiN(SO2CF3)2、LiSCN、LiO3SCF2CF3、LiC6F5SO3、LiO2CCF3、LiSO3F、LiB(C6H5)4、LiCF3SO3、LiB(C2O4)2またはこれらの組み合わせであってよい。
実施例1の正極板
バインダー(本例ではポリフッ化ビニリデン[PVDF]) 20gをN−メチルピロリドン(NMP)溶媒180gに加え、事前撹拌して十分な分散の程度に達してから、さらに引き続き撹拌した。次いで、表面が改質されたニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料[Li(Ni−Mn−Co)O2](本例では0.1%窒素含有高分岐ポリマー表面改質NMC811)粉末1000gおよび導電添加剤(本例ではsuper P)20gを混合した後、バッチ的に上記バインダー溶液に加え、25℃に調温して十分に撹拌し、その間N−メチルピロリドン(NMP)溶媒120gを2〜3回に分けてバッチ的に加え、2時間高速撹拌を行った。その後、脱泡およびろ過プロセスを行ってから、そのスラリー(固形分約72%)をアルミニウム箔に塗布し、次いで130℃で乾燥させ、圧縮し、カットして正極板を形成した。極板中のニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料、導電添加剤およびバインダーの組成の比率はそれぞれ96%、2%および2%であった。
実施例2の正極板
バインダー(本例ではポリフッ化ビニリデン[PVDF])20gをN−メチルピロリドン(NMP)溶媒180gに加え、事前撹拌して十分な分散の程度に達してから、さらに引き続き撹拌した。次いで、表面が改質されたニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料[Li(Ni−Mn−Co)O2](本例では0.3%の導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質されたNMC811)粉末1000gおよび導電添加剤(本例ではカーボンナノカプセルにカーボンナノチューブファイバーを加えたもので、カーボンナノカプセル:カーボンナノチューブファイバー=19:1w/w)20gを混合した後、バッチ的に上記バインダー溶液に加え、25℃に調温して十分に撹拌し、その間N−メチルピロリドン(NMP)溶媒120gを2〜3回に分けてバッチ的に加え、2時間高速撹拌を行った。その後、脱泡およびろ過プロセスを行ってから、そのスラリー(固形分約72%)をアルミニウム箔に塗布し、次いで130℃で乾燥させ、圧縮し、カットして正極板を形成した。極板中のニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料、導電添加剤およびバインダーの組成の比率はそれぞれ96.2%、1.9%および1.9%であった。
比較例1の正極板
バインダー(本例ではポリフッ化ビニリデン[PVDF])20gをN−メチルピロリドン(NMP)溶媒180gに加え、事前撹拌して十分な分散の程度に達してから、さらに引き続き撹拌した。次いで、未改質ニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料[Li(Ni−Mn−Co)O2](本例ではNMC811)粉末1000gおよび導電添加剤(本例ではsuper P)20gを混合した後、バッチ的に上記バインダー溶液に加え、25℃に調温して十分に撹拌し、その間N−メチルピロリドン(NMP)溶媒120gを2〜3回に分けてバッチ的に加え、2時間高速撹拌を行った。その後、脱泡およびろ過プロセスを行ってから、そのスラリー(固形分約72%)をアルミニウム箔に塗布し、次いで130℃で乾燥させ、圧縮し、カットして正極板を形成した。極板中のニッケルコバルトマンガン酸リチウム三元材料、導電添加剤およびバインダーの組成の比率はそれぞれ96%、2%および2%であった。
<電池の製造>
試験用半電池
半電池にボタン型電池(サイズCR2032)の形式を選び、電池の正極にはそれぞれ上述において得られた正極板、窒素含有高分岐ポリマー表面改質正極板、および導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質された正極板を用い、負極はリチウム金属とし、セパレータはPP/PE/PP3層膜とした。電解液の組成は、1.1MのLiPF6がプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)およびジエチルカーボネート(DEC)混合溶媒(重量比EC/PC/DEC=3/2/5)に溶解させてなるものとした。
試験用全電池
負極にはSiOx/C系負極材料を用いた。水系バインダー(本例ではNIPPON A&L 48% SBR SN−307R)42.2g、水系バインダー(本例では1.5%カルボキシメチルセルロースCMC2200)1170g、および0.4%カーボンナノチューブ溶液337.5gを事前撹拌して十分な分散の程度に達してから、さらに引き続き撹拌した。次いで、SiOx/C系負極材料(本例ではSiOx/C BTR 550)粉末1306.8gおよび導電添加剤(本例ではsuper P) 4.1gを混合した後、バッチ的に上記バインダー溶液に加え、25℃に調温して十分に撹拌し、その間脱イオン水140gを2〜3回に分けてバッチ的に加え、2時間高速撹拌を行った。その後、脱泡およびろ過プロセスを行ってから、そのスラリー(固形分約45%)を銅箔に塗布し、次いで130℃で乾燥させ、圧縮し、カットしてSiOx/C系負極板を形成した。極板中のSiOx/C、導電添加剤(カーボンナノチューブにカーボンナノカプセルを加えたもの)およびバインダー(SBR SN−307RにCMC2200を加えたもの)の組成の比率はそれぞれ96.8%、0.4%および2.8%であった。
上記にて得られた正極板、窒素含有高分岐ポリマー表面改質的正極板、および導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーで表面改質した正極板に、上記のSiOx/C系負極板、およびPP/PE/PP3層セパレータを合わせ、巻き取って電極芯体(ゼリーロール(jelly roll))を形成し、アルミニウムケースと組み合わせて503759(厚さ0.5cm、幅3.7cm、長さ5.0cm)電池を構成し、この際に3つの辺は封止し(封止圧着条件:4.0kgf/cm2、180℃/3s)、1辺は封止しないでおき、最後に標準リチウム電池電解液[1.1M LiPF6/EC+PC+DEC(体積比EC:PC:DEC=3:2:5)]を、封止していない1辺から注入し、ガス抜き後、最終的な封止(封止圧着条件:4.0kgf/cm2、180℃/3s)を行った。電池電解液の注液量は4.2g/個とした。最後に、標準的なフォーメーション工程を行ってリチウム電池を活性化し、比較例および実施例のリチウム電池の完成品を得た。
<特性試験および分析>
本開示のいくつかの実施形態で提示した表面改質電極粉体(即ち、実施形態のコアシェル構造)で正極板および電池を製造し、特性試験および分析を行った。例えば、上述にて製造された実施例1、2および比較例1の正極板で半電池を作り、交流インピーダンス、充放電容量および放熱量等に関する試験をそれぞれ行った。
(1)交流インピーダンス試験
前述の方法により製造したリチウム電池の表面改質電極粉体(即ち、実施形態のコアシェル構造)で半電池(即ち、リチウム電池電極粉体を正極材料とし、純リチウム金属負極と組み合わせて構成される充放電可能システム)を作り、初期のインピーダンス測定(測定周波数は1kHz)を行うと共に、電極粉体の表面が未処理(比較例1)の半電池との比較を行った。結果を表1に示す。表1からわかるように、正極材料の表面改質の被覆層の厚さはわずか数ナノメートルであるため、電池のインピーダンスを増加させることはなく、ひいてはそのインピーダンス値は未改質の電極粉体電池よりも低いものであった。
備考:4本のプローブを比較例1および実施例1〜2の正極板表面に接触させて電流を印加し、電圧の変化値を測定した。4本のプローブは同一ライン上に配列させ、直流電流を外側2本のプローブに印加することにより、内側2本のプローブ間に電圧を生じさせて、正極板のシート抵抗を得た。
また、前述の方法で製造されたリチウム電池表面改質の電極粉体(即ち、実施形態のコアシェル構造)(実施例1)を非晶質炭素材負極材料と組み合わせて18650電池を作り、初期のインピーダンス測定および600サイクル試験後のインピーダンス測定を行うと共に、電極粉体の表面が未処理(比較例1)の半電池との比較を行った。その試験結果は図12に示すとおりである。
図12は電池の交流インピーダンスの測定結果である。図12に示されるように、正極材料の表面改質の被覆層の厚さはわずか数ナノメートルであり、電池のインピーダンスを増加させることはなく、そのインピーダンス値は未改質の電極粉体電池と同じであった。しかし、室温600サイクルの後、未改質のNMC正極材料を用いた電池はインピーダンスの上昇率が260%を超えているのに対し、表面改質した電極粉体を用いた電池ではインピーダンスの上昇率がわずか約105%であった。また、高温(55℃)充放電100回後、電極粉体が表面処理された電池は元の抵抗値を依然保っていたが、電極粉体がナノ被覆層で保護されていない電池のインピーダンスは、元の3倍も上昇した。よって、正極材料表面にこのナノ被覆層があると、正極材料を保護する効果が確実に発揮され、正極材料活物質と電解液との反応を有効に抑制し、不動態化層の生成を低減できることが示された。
(2)充放電容量(discharge capacity)および不可逆率(reversible ratio)の試験
ポテンショスタット(Biologic社製、VMP3)を用い、実施例1、実施例2および比較例1のリチウム電池に対し、室温(30℃)環境下、定電流/電圧で1サイクル目の充放電を行った。先ず、0.1Cの定電流で電池を4.3Vまで充電し、電流が0.025C以下になるまで続けた。次いで、定電流0.1Cで電池をカットオフ電圧3.0Vまで放電した。実施例1、実施例2および比較例1のリチウム電池の充放電容量および不可逆率を下の表2に示した。
表2の試験結果のデータからわかるように、正極材料表面を被覆するのが窒素含有高分岐ポリマー、または導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーのどちらであっても、正極材料の充放電中における電気的機能パフォーマンスの安定に寄与しており、その充放電の容量はいずれも、元のまま改質していない正極材料よりも高かった。実施例1、実施例2および比較例1三者の不可逆率はいずれも同じで、11%であった。
(3)放熱量試験
上記実施例1、実施例2および比較例1の電池を0.1Cの電流で4.3Vまで充電し、グローブボックス中で電池を分解し、正極板を取り出した。正極板の活物質を削ぎ取って10mg量り取り、示差走査熱量測定(DSC)装置のサンプルプレートに置いた。昇温速度を10℃/分に設定し、75℃から375℃まで加熱して、電極材料の昇温過程における放熱挙動を観察した。表3は、試験した実施例1および実施例2と比較例1の正極電極材料放熱量の結果の記録である。
表3の実施例1、実施例2および比較例1の電池の正極材料放熱量の試験結果からわかるように、正極材料表面を被覆するのが窒素含有高分岐ポリマー、または導電添加剤を含むと同時にイオン伝導材料を含む窒素含有高分岐ポリマーのどちらであっても、正極材料の充放電中における熱安定性パフォーマンスの安定に寄与しており、その材料の放熱量はいずれも、元のまま改質していない正極材料よりも低かった。比較例1と比較して、実施例1および実施例2の正極材料の放熱量低下率はそれぞれ17%および26%であった。
以上まとめると、本開示の実施形態により提供されたコアシェル構造は、コア粒子、例えば高ニッケル正極材料の表面に、安定性が高く多機能の複合構造膜層が形成されてなるものである。この複合構造膜層は、コア粒子構造の安定性および耐化学性を強化し、コア粒子、例えば高ニッケル正極材料の表面(例:Ni4+を有する)と電解液との反応を抑制して、コア粒子の表面を保護することができ、ひいては正極材料表面における相変化の発生を低減すると共に、正極材料構造の膨張収縮率を低減することができる。よって、実施形態によるコアシェル構造を電池に用いると、高温下における電池のサイクル寿命および安全性を高めることができる。さらに、実施形態で提供されたコアシェル構造中、有機無機複合構造層中のイオン伝導材料は少なくともイオン伝導特性を備え、かかるイオン伝導特性は、コア粒子のリチウムイオンの導電性を高めるのに役立つ。いくつかの実施形態によるイオン伝導材料は、さらにイオン伝導セグメント/基および電子伝導セグメント/基を兼ね備えているため、有機無機複合構造層14にイオン伝導および電子伝導の特性が同時に備わり、優れた電子伝導およびイオン伝導の効果が実現する。これにより、コア粒子表面を被覆する有機無機複合構造層の、正極材料の充放電容量およびエネルギー密度に対する影響が抑えられ、ひいては電池の充放電性能が高まる。さらに、いくつかの実施形態によるコアシェル構造は、放熱量が未改質の正極材料より低く、このため、実施形態により製造した正極材料を用いれば、充放電中により優れた熱安定性パフォーマンスが実現される。また、実施形態により提供されるコアシェル構造は、固体電極と固体電解質の材料体系に組み入れることもできる。実施形態で提供されたコアシェル構造は、高エネルギー、長寿命、高安全性および安定性など各種方面のニーズに対応でき、かつ湿式スラリー混錬プロセスで生じる不完全な改質、不均一な被覆、不安定な品質、低性能などの問題を解決することができる。
本開示の実施形態およびその他の利点を以上のように開示したが、当業者であれば、本開示の精神および範囲を逸脱することなく、変更、置換および修飾を加えることができるという点が理解されなければならない。また、本開示の保護範囲は、明細書に記載された特定の実施形態中の組成および工程に限定されることはなく、当業者であれば、本開示のいくつかの実施形態の記載内容から、既存の、または将来開発されるであろう組成および工程を理解することができ、本明細書で記載された実施形態とほぼ同じ機能を実現できるか、またはほぼ同じ結果を得ることができれば、いずれも本開示のいくつかの実施形態を基に利用することができる。