<発明者の得た知見>
まず、発明者の得た知見について説明する。
III族窒化物の単結晶からなる複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、隣り合う側面同士が対向するように配置し、結晶成長用基板を作製する工程と、該結晶成長用基板上に結晶膜を成長させる工程と、を行うことで、大径の窒化物結晶基板を製造することがある。
この方法において、種結晶基板の主面の法線に沿った方向の成長レートが種結晶基板の主面に沿った方向の成長レート以下である成長条件下で、所定の結晶膜を成長させて、種結晶基板同士を接合する場合について考える。この場合、種結晶基板の主面に沿った方向の結晶膜の成長(横方向成長)が促進される。結晶膜の横方向成長が促進されることで、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙のうちの上方が、早い段階で閉塞してしまう。このため、結晶膜の成長中において、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙内に、III族原料ガスおよび窒化剤等の成膜ガスを行き届かせることができなくなる。当該間隙内に成膜ガスが行き届かないと、隣り合う種結晶基板の側面のそれぞれ結晶膜を成長させることができず、隣り合う種結晶基板の側面同士を結晶膜により接合することができなくなる。
その結果、種結晶基板同士の接合が種結晶基板の主面上に成長した結晶膜のみに依存することとなり、種結晶基板同士の接合強度を充分に向上させることができない可能性がある。種結晶基板の主面上に成長した結晶膜のみで種結晶基板同士が接合された状態では、各種の後工程(例えば、自立工程、スライス工程など)において、結晶膜が割れてしまい、種結晶基板同士の接合が破断してしまう可能性がある。
本発明は、発明者が見出した上記新規課題に基づくものである。
<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)窒化物結晶基板の製造方法
図1〜図10を用い、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法について説明する。本実施形態では、以下に示すS100〜S400を実施することで、窒化物結晶基板(窒化物半導体基板、窒化物自立基板)として、窒化ガリウム(GaN)の結晶からなる基板(以下、GaN基板ともいう)を製造する例について説明する。なお、ステップを「S」と略す。
以下、ウルツ鉱構造を有するIII族窒化物の結晶において、<0001>軸(例えば[0001]軸)を「c軸」といい、(0001)面を「c面」という。なお、(0001)面を「+c面(III族元素極性面)」といい、(000−1)面を「−c面(窒素(N)極性面)」ということがある。また、<1−100>軸(例えば[1−100]軸)を「m軸」といい、{1−100}面を「m面」という。なお、m軸は<10−10>軸と表記してもよい。また、<11−20>軸(例えば[11−20]軸)を「a軸」といい、{11−20}面を「a面」という。
また、以下において、所定の基板の主面の法線に対して結晶の主軸(c軸)がなす角度を「オフ角」という。
図1に示すように、本実施形態に係る窒化物結晶基板の製造方法は、例えば、結晶成長用基板作製工程S100と、結晶膜成長工程S200と、スライス工程S300と、研磨工程S400と、を有している。
(S100:結晶成長用基板作製工程)
まず、本実施形態に係る結晶成長用基板作製工程S100では、例えば、GaNの単結晶からなる複数の種結晶基板10(以下、基板10と略すことがある)を、それらの主面10msが互いに平行となり、隣り合う側面10ss同士が対向するように配置し、結晶成長用基板20(以下、基板20と略すことがある)を作製する。
図2に示すように、具体的には、結晶成長用基板作製工程S100は、例えば、種結晶基板用意工程S110と、配置工程S120と、接合工程S130と、自立工程S140と、を有している。
(S110:種結晶基板用意工程)
種結晶基板用意工程S110では、複数の基板10を用意する。
まず、基板10を作製する際に用いられるベース材料として、GaN結晶からなる材料基板(結晶基板、小径種基板)7(以下、基板7と略す)を複数枚用意する。ここでは、例えば、いわゆるVAS(Void−Assisted Separation)法により基板7を作製する。
基板7の平面形状は、例えば、円形であり、基板7の直径は、作製しようとする基板10よりも大きく、例えば、1インチ以上である。基板7の厚さは、例えば、200μm以上1mm以下である。基板7の導電型は、特に限定されないが、例えば、n型である。基板7中のn型不純物は、例えば、シリコン(Si)またはゲルマニウム(Ge)である。基板7中のn型不純物濃度は例えば1.0×1018cm−3以上1.0×1020cm−3以下である。なお、基板7の導電型は、例えば、p型や、半絶縁型であってもよい。
基板7の主面7sは、例えば、鏡面化されている。基板7の主面7sの表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下である。
基板7の主面7sに対して最も近い低指数の結晶面は、例えば、c面である。なお、当該c面は、例えば、Ga極性面である。また、基板7を構成するGaN結晶のc軸は、基板7の主面7sの中心の法線に対して所定のオフ角を有していてもよい。本実施形態では、基板7のc面は、VAS法に起因して、主面7sに対して凹の球面状に湾曲している。基板7の主面7sの中心の法線に対してc軸がなすオフ角は、所定の分布(ばらつき)を有している。オフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)は、例えば、0.3°以内、好ましくは0.15°以内である。
基板7の主面7s内の転位密度(平均転位密度)は、例えば、2×106cm−2以上6×106cm−2未満である。
基板7を用意したら、図3(b)に示すように、基板7の結晶成長面(+c面)である主面7sの反対側の面である裏面(−c面)に凹溝、すなわち、スクライブ溝を形成する。凹溝は、例えば、レーザ加工法や機械加工法のような公知の手法を用いて形成することが可能である。凹溝を形成した後、図3(c)に示すように、凹溝に沿って基板7を劈開させてその周縁部を除去することで、基板10が得られる。図3(d)に、基板10の平面構成を示す。
基板10の平面形状は、基板10を同一平面上に複数並べた場合に、これらを平面充填させること、すなわち、隙間なく敷き詰めることが可能な形状とするのが好ましい。
また、この場合、後述する理由から、基板10の側面10ssのうち、隣り合う他の基板10の側面10ssと対向する全ての面、すなわち、隣り合う他の基板10の側面10ssと対向する全ての面をm面を除く面とし、かつ、互いに等価な面とするのが好ましい。例えば、本実施形態のように基板10の主面10ms(結晶成長面)をc面とする場合、基板10の側面10ssのうち、隣り合う他の基板10の側面10ssと対向する全ての面をa面とするのが好ましい。
GaN結晶は六方晶系の結晶構造を有することから、上述の要求を満たすようにするには、少なくとも基板20の周縁部(円弧部)以外の部分を構成する基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形(内角60°および120°)、台形(内角60°および120°)、正六角形、および、平行六辺形のうちいずれかの形状とするのが好ましい。基板10の平面形状を正方形や長方形とすると、基板10の側面10ssのうちいずれかの面をa面とした場合に、その面に直交する側面が必然的にm面となってしまう。また、基板10の平面形状を円形や楕円形とすると、平面充填させることができず、また、基板10の側面10ssを、m面を除く等価な面とすることは不可能となる。
なお、上述した数種類の形状のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板10の平面形状は、図3(d)に示すように正六角形とするのが特に好ましい。この場合、平面形状が円形である基板7から、基板10を、最大限の大きさで効率よく取得、すなわち、材料取りすることが可能となる。また、後述するS120において基板10を同一平面上に平面充填させる際、その配列はハニカムパターンを構成することになり、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合わさるように配列することになる。これにより、配列させた複数の基板10に対して面内方向に沿って外力が加わったとき、その方向によらず、基板10の配列ずれを抑制することが可能となる。これに対し、基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形、台形、正方形、長方形等とした場合には、基板10の平面形状を正六角形とする場合に比べ、特定の方向からの外力の影響を受けやすくなり、基板10の配列ずれが生じやすくなる。本実施形態では、基板10の平面形状を正六角形とする場合について説明している。なお、後述の基板20の周縁部を構成する基板10の平面形状は、図4(a)に示すように、正六角形の一部を、円板状の基板20の外周に沿うように円弧状に切り出した形状となる。基板20の周縁部を構成する基板10、すなわち、小面積の基板10については、1枚の基板7から、1枚以上、好ましくは2枚以上を一緒に取得することが好ましい。1枚の基板7から複数枚の基板10を取得する場合、基板7の無駄を少なくすることができ、また、基板10の品質を揃えやすくなる点で、好ましい。
なお、GaN結晶の取り得る面方位のうち、m面については、単位面積あたりの結合手密度が小さい(原子間の結合が弱い)等の理由により、劈開させることが容易である。これに対し、本実施形態で採用しようとするm面以外の面方位(例えばa面)については、単位面積あたりの結合手密度がm面における結合手密度よりも大きい(原子間の結合が強い)等の理由により、劈開させることが比較的困難となる。このような課題に対し、本実施形態では、上述したように、基板7の裏面(−c面)に凹溝(スクライブ溝)を形成してから劈開作業を行うこととしている。これにより、基板7を、m面以外の劈開性の弱い面(劈開しにくい面)方位で正確に劈開させることが可能となる。
図3(e)に、上述の手法で得られた基板10の側面構成図を示す。図3(e)に示すように、基板10の側面10ssには、基板7の裏面に凹溝を形成することで生じた融解面(レーザ加工面)或いは切削面(機械加工面)と、凹溝に沿って基板7を劈開させることで生じた劈開面と、が形成されることとなる。ここでいう融解面とは、例えば、結晶が一度融けた後に急激に固化することで形成されたアモルファス面等を含む面のことである。また、ここでいう切削面とは、例えば、裂開面等を含む表面粗さの比較的大きな面のことである。図3(e)に示すように、劈開面を結晶成長面に近い側に配置することで、後述するS130において、隣り合う基板10の接合強度を高めたり、基板10の接合部周辺に形成される結晶膜の品質を向上させたりすることが可能となる。
劈開位置を正確に制御するため、凹溝の断面形状は、図3(b)に示すようなV字状(開口部が広いテーパー状)の断面形状とするのが好ましい。なお、凹溝の開口幅については特に制限はないが、例えば0.2〜1.8mmが例示される。このように溝の寸法や形状を制御することで、基板7を劈開させる際の制御性を高めつつ、基板7を劈開させた際に形成される劈開面の幅(厚さ方向における幅)を充分に確保することが可能となる。これにより、後述するS130において、隣り合う基板10の接合強度を高めたり、基板10の接合部周辺に形成される結晶膜の品質を向上させたりすることが可能となる。
上述の加工を施すと、基板7の切粉が大量に発生して基板10に付着し、そのままでは後述の結晶成長に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、切粉を除去する洗浄処理を行う。その手法としては、例えば、塩化水素(HCl)と過酸化水素水(H2O2)とを1対1で混合して得た薬液を用いたバブリング洗浄が挙げられる。
(S120:配置工程)
基板10を複数枚取得したら、配置工程S120を行う。本ステップでは、GaN結晶からなる複数の基板10を、それらの主面10msが互いに平行となり、また、それらの側面10ss同士が互いに対向するように、配置する。すなわち、複数の基板10を、隣り合う基板10の側面10ss同士が対向するように、平面状に、また、円板状に配置(平面充填)する。
図4(a)は、基板10の配列パターンの一例を示す平面図である。本実施形態のように、平面形状が正六角形である基板10を用いる場合、基板10が平面充填されることでハニカムパターン(蜂の巣パターン)が構成される。複数の基板10のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板は、平面形状が正六角形である主面10msを有する。本図に示すように、基板10の主面10msを組み合わせたハニカムパターンは、基板20の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上、本配置例では6回の回転対称性を有するように配置される。
なお、ここでいう「複数の基板10をそれらの主面10msが互いに平行となるように配置する」とは、隣り合う基板10の主面10ms同士が、完全に同一平面上に配置される場合だけでなく、これらの面の高さに僅かな差がある場合や、これらの面が互いに僅かな傾きを持って配置される場合を含むものとする。すなわち、複数の基板10を、これらの主面10msがなるべく同じ高さとなり、また、なるべく平行となるように配置することを意味する。但し、隣り合う基板10の主面10msの高さに差がある場合であっても、その大きさは、最も大きい場合で例えば20μm以下、好ましくは10μm以下とするのが望ましい。また、隣り合う基板10の主面10ms間に傾きが生じた場合であっても、その大きさは、最も大きい面で例えば1°以下、好ましくは0.5°以下とするのが望ましい。また、複数の基板10を配置する際は、これらを配列させることで得られる基板群の主面内におけるオフ角のばらつき(全主面内におけるオフ角の最大値と最小値との差)を、例えば0.3°以内、好ましくは0.15°以内とするのが望ましい。これらが大きすぎると、後述するS130,S200で成長させる結晶膜の結晶性が低下する(良好な表面モフォロジが得られない)場合があるためである。
また、ここでいう「複数の基板10をそれらの側面10ssが互いに対向するように配置する」とは、隣り合う基板10の側面10ss同士が、完全に当接する、すなわち、隙間なく接触する場合だけでなく、これらの間に僅かな隙間が存在する場合も含むものとする。すなわち、複数の基板10を、隣り合う基板10の側面10ss間になるべく隙間が生じないように近接して対向させることを意味する。但し、隣り合う基板10の側面10ss間に隙間が生じた場合であっても、室温条件におけるその大きさは、最も大きい場所で例えば100μm以下、好ましくは50μm以下とするのが望ましい。隙間が大きすぎると、後述するS130を実施した際に、隣り合う基板10同士が接合しなかったり、接合したとしてもその強度が不足したりする場合があるためである。また、S130を実施した後における隣り合う基板10間の接合強度を高めるため、隣り合う基板10を、それらの側面10ssのうち少なくとも劈開面が対向するように配置することが好ましい。
なお、S130における取り扱いを容易とするため、複数の基板10は、例えば、平板として構成された保持板(支持板)12上に固定するのが好ましい。図4(b)に、複数枚の基板10が円板状の保持板12上に接着されてなる組み立て基板13の断面構成を示す。本図に示すように、基板10は、その主面10ms(結晶成長面であるc面)が上面となるように、保持板12上に、接着剤11からなる層を介して設置される。言い換えると、基板10と保持板12との間には、接着剤11からなる層が設けられている。
保持板12の材料としては、後述するS130での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有し、また、基板10やS130で形成するGaN結晶膜14を構成する結晶と、同等或いはそれより小さい線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。保持板12の材料としてこのような材料を用いることで、S130において基板10間に隙間が形成されたり、基板10間に形成された隙間が広がったりしてしまうことを抑制できるようになる。ここでいう線膨張係数とは、基板10の主面10ms(c面)に平行な方向、すなわち、基板10を構成するGaN結晶のa軸方向における線膨張係数をいう。GaN結晶のa軸方向における線膨張係数は5.59×10−6/Kである。線膨張係数がこれに比べて同等もしくは小さく、安価で入手が容易であり、ある程度の剛性を示す材料としては、例えば、等方性黒鉛、異方性黒鉛(パイロリティックグラファイト等)、シリコン(Si)、石英、炭化珪素(SiC)などが挙げられる。また、後述する理由から、これらの中でも、表層が剥離しやすいパイロリティックグラファイト(以下、PGとも呼ぶ)を特に好ましく用いることができる。また、等方性黒鉛、Si、石英、SiCなどの平板基材の表面を、PG等の剥離しやすく耐蝕性に優れた材料により被覆(コーティング)してなる複合材料を、好適に用いることもできる。
接着剤11の材料としては、S130での成膜温度よりも遙かに低い温度条件下にて所定時間保持されることで固化するような材料、例えば、常温〜300℃の範囲内の温度条件下で数分〜数十時間乾燥させることで固化するような材料を好適に用いることができる。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、接着剤11を固化させるまでの間、保持板12上に配置された基板10の位置、高さ、傾き等をそれぞれ微調整することが可能となる。また、S130を開始する前の比較的低温条件下にて接着剤11の固化(基板10の固定)を完了させることができ、これにより、基板10の位置ずれが抑制された状態でS130を開始することが可能となる。これらの結果、S130で成長させるGaN結晶膜14の品質を向上させ、基板10間の接合強度を高めることが可能となる。また、基板10の接着作業を例えば手作業でも実施することが可能となり、接着作業の簡便性を著しく向上させ、接着作業に要する設備を簡便にすることが可能となる。
また、接着剤11の材料としては、後述するS130での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有する材料を用いることが好ましい。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、S130における昇温中に接着剤11が熱分解等し、基板10の固定が解除されることを回避できるようになる。また、基板10の固定が不充分のままGaN結晶膜14が成長することで最終的に得られる基板20に反りが生じすることを回避できるようになる。また、接着剤11の熱分解による成長雰囲気の汚染を回避することができ、これにより、GaN結晶膜14の品質低下や基板10間の接合強度の低下を防ぐことが可能となる。
また、接着剤11の材料としては、基板10やS130で形成するGaN結晶膜14を構成する結晶と近い線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。なお、「線膨張係数が近い」とは、接着剤11の線膨張係数と、GaN結晶膜14を構成する結晶の線膨張係数と、が実質的に同等であること、例えば、これらの差が10%以内であることを意味する。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、後述するS130を行う際、接着剤11との線膨張係数差に起因して基板10の面内方向に加わる応力を緩和させることができ、基板10に反りやクラック等が生じることを回避することが可能となる。
これらの要件を満たす接着剤11の材料としては、例えば、耐熱性(耐火性)セラミックスと無機ポリマとを主成分とする耐熱性無機接着剤を用いることができ、特に、ジルコニアやシリカ等を主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような接着剤としては、例えば、市販のアロンセラミックC剤やE剤(アロンセラミックは東亞合成株式会社の登録商標)が挙げられる。これらの接着剤は、例えば常温〜300℃の範囲内の温度で乾燥させて固化させることにより、1100〜1200℃の高温に耐える硬化物を形成し、S130での成膜雰囲気に対して高い耐蝕性を有するとともに、基板10の位置ずれなどを生じさせない高い接着強度を示すことを確認済みである。また、基板10上に成長させる結晶に影響を及ぼさないことも確認済みである。また、固化する前の段階で、常温下において例えば40000〜80000mPa・s程度の適正な粘性を示すことから、保持板12上への基板10の仮留めや位置合わせ等を行う際に、非常に好適であることも確認済みである。
基板10を保持板12上に接着する際は、接着剤11が基板10の側面10ss側に回り込んではみ出ることのないよう、基板10の少なくとも周縁部を除く領域に塗布するのが好ましい。例えば、基板10の周縁部から所定幅離れた領域であって、好ましくは中央付近にのみ接着剤11を塗布するのが好ましい。接着剤11が側面10ss側に回り込むと、その回り込んだ箇所及びその周辺において、後述の第1層50の成長が妨げられ、第1層50による基板10同士の接合強度が低下する可能性がある。
接着剤11を介して保持板12上に基板10を配置し、接着剤11を固化させることで、組み立て基板13の作製が完了する。なお、接着剤11の固化が、複数の基板10の主面10msが互いに平行となり、また、隣り合う基板10の側面10ssが対向した状態で完了するように、接着剤11が固化するまでの間、必要に応じて、基板10の位置、傾き、高さをそれぞれ調整するのが好ましい。なお、接着剤11の固化は、S130の開始前に完了させておくのが好ましい。このようにすることで、後述するHVPE装置200への組み立て基板13の投入および結晶成長のそれぞれを、複数の基板10の位置ずれが抑制された状態で行うことが可能となる。
(S130:接合工程)
接着剤11が固化し、組み立て基板13の作製が完了したら、図5に示すHVPE装置200を用い、平面状に配置させた複数の基板10の表面上に、接合膜としてのGaN結晶膜14を成長させる。
HVPE装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、組み立て基板13や基板20を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器203の一端には、成膜室201内へHClガス、窒化剤としてのアンモニア(NH3)ガス、窒素(N2)ガスを供給するガス供給管232a〜232cが接続されている。ガス供給管232cには水素(H2)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a〜232dには、上流側から順に、流量制御器241a〜241d、バルブ243a〜243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成されたIII族原料ガス(原料のハロゲン化物)である塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に保持された組み立て基板13等に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に保持された組み立て基板13等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上に保持された組み立て基板13等を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
S130は、上述のHVPE装置200を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器233a内に原料としてGa多結晶を収容し、また、組み立て基板13を、気密容器203内へ投入(搬入)し、サセプタ208上に保持する。そして、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へH2ガス(あるいはH2ガスとN2ガスとの混合ガス)を供給する。そして、成膜室201内が所望の成膜温度、成膜圧力に到達し、また、成膜室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行い、組み立て基板13(基板10)の主面に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH3ガスとを供給する。
これにより、図6(a)、図6(b)および図7(a)に示すように、基板10の表面上に、GaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN結晶膜14が形成される。GaN結晶膜14が形成されることで、隣り合う基板10は、GaN結晶膜14によって互いに接合され、一体化した状態となる。その結果、隣り合う基板10が接合されてなる基板20が得られる。
なお、成膜処理の過程での基板10を構成する結晶の分解を防止するため、NH3ガスを、HClガスよりも先行して、例えば、成膜室201内の加熱前から供給するのが好ましい。また、GaN結晶膜14の面内膜厚均一性を高め、隣り合う基板10の接合強度を面内でむらなく向上させるため、S130は、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
また、GaN結晶膜14によって基板10を接合させる際、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と当接する全ての面を、m面を除く面とし、かつ、互いに等価な面とすることで、それらの接合強度を高めることが可能となる。GaN結晶膜14の膜厚を同一膜厚とする場合、隣り合う基板10をm面同士で接合させた場合よりも、隣り合う基板10をa面同士で接合させた方が、基板10の接合強度を高めることが可能となる。
ここで、本実施形態の接合工程S130は、例えば、成長条件に基づいて、2つの工程に分類される。具体的には、本実施形態の接合工程S130は、例えば、第1層成長工程S132と、第2層成長工程S134と、を有している。これらの工程により、GaN結晶膜14は、例えば、第1層50と、第2層60と、を有することとなる。
(S132:第1層成長工程)
S132では、図6(a)に示すように、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、複数の基板10のそれぞれの主面10ms上および側面10ssにGaNの単結晶からなる第1層50をエピタキシャル成長させる。
ここでいう「基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レート」とは、基板10の主面10msの法線方向だけでなく、基板10の主面10msの法線から若干傾斜した方向を含んでいる。また、ここでいう「基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レート」とは、例えば、「c軸に沿った方向の成長レート」と言い換えることができる。
また、ここでいう「基板10の主面10msに沿った方向の成長レート」とは、基板10の主面10msに完全に平行な方向だけでなく、基板10の主面10msから若干傾斜した方向を含んでいる。また、ここでいう「基板10の主面10msに沿った方向の成長レート」とは、例えば、c軸に垂直な方向(a軸またはm軸)に沿った方向の成長レートと言い換えることができる。
基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、第1層50を成長させることで、基板10の主面10msに沿った方向の第1層50の成長(横方向成長)を抑制することができる。第1層50の横方向成長を抑制することで、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制することができる。これにより、第1層50の成長中において、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙内に、III族原料ガスおよび窒化剤等の成膜ガスを行き届かせることができる。当該間隙内に成膜ガスを行き届かせることで、隣り合う基板10の側面10ssのそれぞれに第1層50を成長させることができる。第1層50を成長させていくと、一対の基板10のうちの一方の基板10の側面10ssに成長した第1層50と、他方の基板10の側面10ssに成長した第1層50と、が会合する。これにより、基板10の側面10ss間の間隙内を第1層50により埋め込むことができる。その結果、隣り合う基板10の側面10ss同士を第1層50により接合することが可能となる。
また、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、第1層50を成長させることで、第1層50として、c面以外のファセットを露出させた連続層が、基板10の主面10ms上に形成される。すなわち、S132では、鏡面化された基板10の主面10msを荒らすように、第1層50が3次元成長することとなる。
このとき、第1層50の成長過程では、基板10内においてc軸に沿った方向に延在していた複数の転位のうちの少なくとも一部は、基板10から第1層50のc軸に沿った方向に向けて伝播する。当該第1層50のc軸に沿った方向に伝播した転位は、第1層50のc面以外のファセットが露出した位置で、該ファセットに対して略垂直な方向に向けて屈曲して伝播する。すなわち、転位は、c軸に対して傾斜した方向に屈曲して伝播する。これにより、後述の第2層成長工程S134において、転位がc面以外のファセットの会合部上で局所的に集められることとなる。
本実施形態の第1成長条件としては、例えば、第1層成長工程S132での成長温度を、後述の第2層成長工程S134での成長温度よりも低くする。具体的には、第1層成長工程S132での成長温度を、例えば、900℃以上970℃以下、好ましくは940℃以上960℃以下とする。第1層成長工程S132での成長温度が900℃未満であると、第1層50が単結晶とならず、多結晶となってしまう可能性がある。これに対し、第1層成長工程S132での成長温度を900℃以上とすることで、第1層50を単結晶とすることができる。さらに、第1層成長工程S132での成長温度を940℃以上とすることで、第1層50にクラックが生じることを抑制することができる。一方で、第1層成長工程S132での成長温度が970℃超であると、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが、基板10の主面10msに沿った方向の成長レート以下となってしまう可能性がある。このため、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方が閉塞してしまう可能性がある。これに対し、第1層成長工程S132での成長温度を970℃以下することで、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートを、基板10の主面10msに沿った方向の成長レートよりも安定的に高くすることができる。これにより、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制することができる。さらに、第1層成長工程S132での成長温度を960℃以下することで、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方が閉塞することを安定的に抑制し、隣り合う基板10の側面10ss同士を、厚さ方向の広い範囲に亘って第1層50により接合することができる。
また、本実施形態の第1成長条件としては、例えば、第1層成長工程S132でのIII族原料ガスとしてのGaClガスの分圧に対する窒化剤ガスとしてのNH3ガスの流量の分圧の比率(以下、「V/III比」ともいう)を調整してもよい。例えば、第1層成長工程S132でのV/III比を、後述の第2層成長工程S134でのV/III比よりも大きくしてもよい。具体的には、第1層成長工程S132でのV/III比を、例えば、1以上4以下とする。
また、本実施形態の第1成長条件のうちの他の条件は、例えば、以下のとおりである。
成長圧力:90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
N2ガスの流量/H2ガスの流量:0〜1
また、本実施形態において、基板10の主面10ms上における第1層50の厚さは、例えば、少なくとも隣り合う基板10間の最大間隙の1.5倍以上とする。具体的には、基板10の主面10ms上の第1層50の厚さは、例えば、15μm以上200μm以下とする。第1層50の厚さが15μm未満であると、隣り合う基板10の側面10ss同士を充分に接合できない可能性がある。これに対し、第1層50の厚さを15μm以上とすることで、隣り合う基板10の側面10ss同士を充分に接合することができる。一方で、第1層50による接合強度の観点では、第1層50の厚さは厚ければ厚いほどよい。しかしながら、第1層50は後述のように表面が荒れるため、第1層50の厚さが200μm超であると、GaN結晶膜14のうちの第2層60が平坦化するまでの厚さが厚くなる可能性がある。これに対し、第1層50の厚さを200μm以下とすることで、GaN結晶膜14のうちの第2層60が平坦化するまでの厚さを薄くすることができる。
本実施形態では、上述の配置工程S120において、隣り合う基板10を、それらの側面10ssのうち少なくとも劈開面が対向するように配置したことで、隣り合う基板10の側面10ss間の間隔を狭くすることができる。これにより、第1層成長工程S132において、隣り合う基板10の側面10ss同士を接合する第1層50の厚さを薄くすることができる。また、第1層成長工程S132において、隣り合う基板10の劈開面同士を第1層50により接合することで、基板10同士を、主面10msが平坦となるようにバランスよく接合させることができる。
(S134:第2層成長工程)
S134では、図6(b)に示すように、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、第1層50上にGaNの単結晶からなる鏡面化した第2層60をエピタキシャル成長させる。
基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、第2層60を成長させることで、基板10の主面10msに沿った方向の第2層60の成長(横方向成長)を促進させることができる。第2層60の横方向成長を促進させることで、隣り合う基板10の側面10ss同士を接合した第1層50上に、第2層60を形成することができる。すなわち、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙の上方に形成されたV字状の第1層50の溝部(符号不図示)内を、第2層60により埋め込むことができる。これにより、複数の基板10の主面10ms上で、該主面10msの全体に亘って、第2層60を連続的に形成することができる。その結果、基板10同士を第1層50および第2層60の両方により接合することができる。すなわち、第1層50による基板10同士の接合を、第2層60により補強することができる。
基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、第2層60を成長させることで、第2層60として、基板10の主面10msの上方でc面以外のファセットが消失し鏡面化された表面を有する層が形成されることとなる。具体的には、第2層60の主面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下となる。
このとき、第2層60の成長過程では、基板10の主面10msの上方で転位を局所的に集めることで、第2層60の主面のうち平面視で基板10の主面10msと重なる六角形の領域(以下、「種対応領域」ともいう)内での転位密度を低減させることができる。具体的には、上述の第1層50においてc軸に対して傾斜した方向に向けて伝播した転位は、第2層60においても同じ方向に伝播し続ける。第2層60においてc軸に対して傾斜した方向に向けて伝播した転位は、隣接するファセットの会合部に集められる。第2層60において隣接するファセットの会合部に集められた複数の転位のうち、バーガースベクトルが互いに層反する転位同士は、会合時に消失する。一方で、第2層60において隣接するファセットの会合部に集められた複数の転位のうちの他部は、その伝播方向をc軸に対して傾斜した方向からc軸に沿った方向に再度変化させ、第2層60の主面まで伝播する。このように複数の転位の一部を消失させることで、第2層60の種対応領域における転位密度を低減することができる。また、転位を局所的に集めることで、第2層60の種対応領域内において、該種対応領域内で比較したときに、転位が相対的に少ない疎部と、転位が相対的に若干多い密部とが形成される。少なくとも疎部の転位密度は、基板10の主面10ms内の転位密度の30%以下となる。
本実施形態の第2成長条件としては、第2層成長工程S134での成長温度を、例えば、990℃以上1100℃以下、好ましくは1050℃以上1100℃以下とする。第2層成長工程S134での成長温度が990℃未満であると、c軸に沿った方向の成長レートを、c軸に沿った方法以外の方向の成長レート以下とすることができなくなる可能性がある。これに対し、第2層成長工程S134での成長温度を990℃以上とすることで、c軸に沿った方向の成長レートを、安定的に、c軸に沿った方法以外の方向の成長レート以下とすることができる。さらに、第2層成長工程S134での成長温度を1050℃以上とすることで、結晶性が良好な第2層60を安定的に得ることができる。一方で、第2層成長工程S134での成長温度が1100℃超であると、III族極性面としてのGa極性面がサーマルエッチングされ易く、平坦な第2層60を得ることができなくなる可能性がある。また、HVPE装置200における石英製の気密容器203がダメージを受ける可能性がある。これに対し、第2層成長工程S134での成長温度を1100℃以下することで、III族極性面としてのGa極性面が過度にサーマルエッチングされることを抑制することができ、平坦な第2層60を得ることができる。また、HVPE装置200における石英製の気密容器203のダメージを抑制することができる。
なお、本実施形態の第2成長条件としては、例えば、第2層成長工程S134でのV/III比を調整してもよい。例えば、第2層成長工程S134でのV/III比を、第1層成長工程S132でのV/III比よりも小さくしてもよい。
また、本実施形態の第2成長条件のうちの他の条件は、例えば、以下のとおりである。
成長圧力:90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
N2ガスの流量/H2ガスの流量:1〜20
また、本実施形態において、基板10の主面10msの上方における第2層60の厚さは、例えば、基板20の外径をD(cm)とした場合に、6Dμm以上とする。第2層60の厚さが6Dμm未満であると、第2層60による基板10同士の接合力が不足し、基板20の自立状態が維持できなくなる可能性がある。これに対し、第2層60の厚さを6Dμm以上とすることで、第2層60による基板10同士の接合力を充分に得ることができ、基板20の自立状態を維持させることができる。
なお、第2層60の厚さについて特に上限はないが、ここで行う第2層60の結晶成長は、あくまでも複数の基板10を接合させて自立可能な状態とする目的に止めておくようにしてもよい。言い換えれば、第2層60の厚さは、後述する自立工程S140において、互いに接合された基板10からなる基板20を保持板12から取り外して洗浄等を行った状態であっても、隣り合う基板10の接合状態、すなわち、基板20の自立状態が維持されるのに必要かつ最小の厚さに止めておくようにしてもよい。本実施形態のように、本格的な結晶成長工程としてS200を別途行うのであれば、生産性向上の観点から、第2層60の厚さは、例えば、100Dμm以下としてもよい。
これらのことから、本実施形態では、基板10の外径が2インチ、基板20の外径が6〜8インチである場合、第2層60の厚さは、例えば、100μm以上2mm以下とすることができる。
以上の第1層成長工程S132から第2層成長工程S134までの工程を、組み立て基板13(基板20)を大気暴露することなく、同一のHVPE装置200の成膜室201内で連続的に行う。これにより、第1層50と第2層60との間の界面に、意図しない酸化層(高酸素濃度層40よりも過剰に高い酸素濃度を有する層)が形成されることを抑制することができる。
(S140:自立基板)
GaN結晶膜14の成長が完了し、隣り合う基板10が互いに接合された状態となったら、成膜室201内へNH3ガス、N2ガスを供給し、成膜室201内を排気した状態で、ガス生成器233a内へのHClガス、成膜室201内へのH2ガスの供給、ヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、成膜室201内の温度が500℃以下となったらNH3ガスの供給を停止し、その後、成膜室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、成膜室201内を搬出可能な温度にまで低下させた後、成膜室201内から基板20を搬出する。
その後、隣り合う基板10が接合されてなる基板20を保持板12から引き剥がし、これらを分離させる(基板20を自立させる)。
保持板12の材料として、例えばPGのような材料(基板10よりも表層が剥離しやすい材料)を用いた場合、図7(b)に示すように、保持板12の表層が犠牲層(剥離層)12aとなって薄く剥がれることで、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。また、保持板12の材料として、等方性黒鉛等からなる平板基材の表面をPG等によりコーティングしてなる複合材料を用いた場合にも、同様の効果が得られるようになる。なお、PGと比べて高価ではあるが、保持板12の材料として、パイロリティックボロンナイトライド(PBN)を用いた場合においても、同様の効果が得られる。また、保持板12の材料として、例えば等方性黒鉛、Si、石英、SiC等の材料、すなわち、表層を犠牲層として作用させることができない材料を用いた場合であっても、接着剤11の量を極少量とすれば、固化した接着剤11を適正なタイミングで破断或いは剥離させることができる。これにより、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。
自立させた基板20の裏面(基板10の裏面)に付着している接着剤11や犠牲層12aは、フッ化水素(HF)水溶液等の洗浄剤を用いて除去する。これにより、図7(c)に示すような自立状態の基板20が得られる。基板20は、その主面(GaN結晶膜14の表面)が結晶成長用の下地面として用いられ、100mm、さらには150mm(6インチ)を超える大径基板として、この状態で市場に流通する場合がある。なお、基板20の裏面の研磨を実施するまでは、その洗浄を実施した後であっても、接着剤11や犠牲層12aの残留成分が付着した痕跡が、基板10の裏面に残る場合がある。
(基板20)
以上のS110〜S140により作製された基板20は、例えば、以下の特徴を有している。
図10に示すように、基板20の主面64sは、例えば、高転位密度領域HDと、低転位密度領域LDと、を有している。高転位密度領域HDは、隣り合う基板10の接合部の影響を受けて、相対的に転位密度が高くなっている。高転位密度領域HDは、基板20の主面64s内で連続して形成されている。本実施形態では、高転位密度領域HDは、例えば、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成している。当該ハニカムパターンは、基板20の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上の回転対称性を有し、本実施形態では、例えば、6回の回転対称性を有している。
一方で、低転位密度領域LDは、相対的に転位密度が低くなっている。低転位密度領域LDは、上述の種対応領域に相当し、高転位密度領域HDによって区分けされている。低転位密度領域LD内の転位密度は、高転位密度領域HD内の転位密度よりも1桁以上低い。
ここで、上述したように、第1層50および第2層60の成長過程において転位が局所的に集められることで、低転位密度領域LDは、該領域LD内で比較したときに、転位が相対的に少ない疎部と、転位が相対的に若干多い密部と、を有している。疎部および密部は、不規則に分布している。本実施形態の低転位密度領域LDの密部では、転位が相対的に若干多いとしても、転位密度を、基板10の主面内の転位密度と同等以下とすることができる。具体的には、密部の転位密度を、例えば、4×106cm−2未満とすることができる。一方、本実施形態の基板20の疎部では、転位密度を、基板10の主面内の転位密度の30%以下とすることができる。具体的には、疎部の転位密度を、例えば、9×105cm−2以下とすることができる。
(S200:結晶膜成長工程)
S200では、図5に示すHVPE装置200を用い、S130と同様の処理手順により、自立した状態の基板20の主面上に、本格成長膜としてのGaN結晶膜21を成長させる。図8(a)に、基板20の主面、すなわち、GaN結晶膜14の表面上に、気相成長法によりGaN結晶膜21が厚く形成された様子を示す。
なお、本ステップの処理手順はS130とほぼ同様であるが、図8(a)に示すように、本ステップは、自立可能に構成された基板20をサセプタ208上に直接載置した状態で行われる。すなわち、本ステップは、基板20とサセプタ208との間に、保持板12や接着剤11が存在しない状態で行われる。このため、サセプタ208と基板20との間の熱伝達が効率的に行われ、基板20の昇降温に要する時間を短縮させることが可能となる。また、基板20の裏面全体がサセプタ208に接触することから、基板20が、その面内全域にわたり均等に加熱されるようになる。結果として、基板20の主面、すなわち、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたり均等なものとすることが可能となる。また、隣り合う基板10が一体に接合した状態で加熱処理が行われることから、隣り合う基板10間での直接的な熱伝達(熱交換)、すなわち、基板20内における熱伝導が速やかに行われることになる。結果として、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたってより均等なものとすることが可能となる。すなわち、本ステップでは、自立可能に構成された基板20を用いて結晶成長を行うことから、結晶成長の生産性を高め、また、基板20上に成長させる結晶の面内均一性等を向上させることが可能となる。
これに対し、保持板上に接着剤を介して複数の種結晶基板を並べて接着し、その後、これら複数の種結晶基板上に結晶をそれぞれ成長させ、結晶成長を継続することで複数の結晶を一体化させるという代替手法も考えられる。しかしながら、この手法では、上述した種々の効果のうち、一部の効果が得られにくくなる場合がある。というのも、この手法では、サセプタから種結晶基板への熱伝達が、これらの間に介在する保持板や接着剤によって阻害されることがあり、基板の加熱効率が低下する場合がある。また、サセプタから基板へ向かう熱伝達の効率は、接着剤の塗布量や塗布位置などによって大きく影響を受けることから、この代替手法では、基板間における加熱効率が不揃いとなる場合がある。これらの結果、この代替手法では、本実施形態の手法に比べ、結晶成長の生産性が低下したり、最終的に得られる結晶の面内均一性が低下したりする場合がある。
このように、自立可能に構成された基板20を用いる本実施形態の結晶成長の手法は、上述の代替手法に比べ、生産性や結晶品質の向上に非常に大きな利益をもたらすものといえる。
なお、結晶膜成長工程S200における成長条件は、上述した第2層成長工程S134における第2成長条件と同様の条件とすることができる。なお、結晶膜成長工程S200における成長条件は、GaN結晶膜21の主面にc面以外のファセットが露出しない範囲で、第2成長条件と異ならせてもよい。
S200を実施する際の成長条件としては、以下が例示される。
成長温度:990〜1100℃、好ましくは、1050〜1100℃
成長圧力:90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
N2ガスの流量/H2ガスの流量:0〜20
所望の膜厚のGaN結晶膜21を成長させた後、S130終了時と同様の処理手順により成膜処理を停止し、GaN結晶膜21が形成された基板20を成膜室201内から搬出する。
(S300:スライス工程)
次に、図8(b)に示すように、例えば、GaN結晶膜21の主面と略平行な切断面にワイヤーソーを案内することで、GaN結晶膜21をスライスする。これにより、アズスライス基板としての基板30を形成する。このとき、基板30の厚さを、例えば、300μm以上700μm以下とする。
(S400:研磨工程)
次に、研磨装置により基板30の両面を研磨する。なお、このとき、最終的な基板30の厚さを、例えば、250μm以上650μm以下とする。
その結果、円板状の外形を有するGaN基板30を1枚以上得ることができる。GaN基板30も、100mm以上、さらには150mm(6インチ)を超える大径の円形基板となる。なお、GaN結晶膜21から基板20を切り出す場合には、切り出した基板20を用いてS200を再実施すること、すなわち、切り出した基板20を再利用することもできる。
(GaN基板30)
以上のS200〜400により作製されたGaN基板30は、例えば、以下の特徴を有している。
(転位)
GaN基板30内の転位も、基板20のGaN結晶膜14内における転位と同様の特徴を有している。
すなわち、図10に示すように、GaN基板30の主面は、例えば、高転位密度領域HDと、低転位密度領域LDと、を有している。GaN基板30の主面における高転位密度領域HDは、例えば、基板20の主面における高転位密度領域HDと同様のハニカムパターンを構成している。
ただし、GaN基板30の主面における高転位密度領域HDが形成するハニカムパターンは、上述の基板20の主面64sにおける高転位密度領域HDが形成するハニカムパターンと比較して、GaN結晶膜21の厚さや成膜条件等に応じて、ぼやけたり(輪郭が滲んだり)、変形したりする場合がある。特に、GaN結晶膜21をスライスしてGaN基板30を複数枚取得する場合、GaN結晶膜21の表面側から取得したGaN基板30において、上述の傾向が強くなる。
GaN基板30の主面における低転位密度領域LDは、高転位密度領域HDによって区分けされている。低転位密度領域LD内の転位密度は、高転位密度領域HD内の転位密度よりも1桁以上低い。
低転位密度領域LDは、該領域LD内で比較したときに、転位が相対的に少ない疎部と、転位が相対的に若干多い密部と、を有している。密部の転位密度は、例えば、基板10の主面内の転位密度と同等以下である。一方、疎部の転位密度は、基板10の主面内の転位密度の30%以下である。
ただし、厚いGaN結晶膜21を成長させる過程で転位がばらける可能性があるため、GaN基板30の低転位密度領域LDにおける疎部および密部のそれぞれの転位密度は、基板20における疎部および密部のそれぞれの転位密度と比較して平均化されている場合がある。この場合であっても、低転位密度領域LDの転位密度(平均転位密度)は、例えば、基板10の主面内の転位密度よりも低くなる。
GaN基板30における高転位密度領域HD、および低転位密度領域LDの密部は、目視で確認可能な場合があるが、当該領域内の不純物濃度(特に酸素濃度)が高くなっていれば、蛍光顕微鏡を用いた観察や、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いたカソードルミネッセンス(CL)像の観察により、容易に確認することもできる。
GaN基板30を用いて半導体装置を製造する場合には、高転位密度領域HDをアンユーザブルエリア(非使用領域)とし、半導体装置を作製する可能なユーザブルエリア(使用領域)として低転位密度領域LDを選択的に使用することができる。
(極性反転区)
本実施形態のGaN基板30の主面は、高転位密度領域HDと低転位密度領域LDとの違いにかかわらず、極性反転区としてのインバージョンドメインを含まない。ここでいう「インバージョンドメイン」とは、周囲の結晶とは極性が反転した領域を意味する。本実施形態のように主面がGa極性面である場合には、N極性面が存在する領域がインバージョンドメインとなる。
ここで、GaN結晶の成長において、例えば種結晶層としてのGaN薄膜上にSiO2等からなるマスクを形成した場合を考えると、マスクは極性を有さないので、そのマスク上にGaN結晶の核が発生したときに、この核の上に形成されるGaN結晶の極性を一定の方向に揃えるように制御することは困難である。したがって、かかる場合には、GaN結晶によって構成される基板の表面から裏面に至るようにインバージョンドメインが必然的に発生してしまうことになる。
これに対して、本実施形態のGaN基板30においては、オフ角のばらつきを抑えた複数の基板10を配列してその上に基板20を形成し、さらに基板20上にGaN結晶膜21を形成し、そのGaN結晶膜21をスライスすることによりGaN基板30を得ている。つまり、GaN基板30を構成するGaN結晶については、その極性が一定の方向に揃うように制御されたものとなる。
したがって、本実施形態のGaN基板30の主面は、インバージョンドメインを含まない。すなわち、当該GaN基板30を構成するGaN結晶の極性は、一定の方向に揃ったものとなる。
主面にインバージョンドメインを含まなければ、その主面は、半導体装置を作製するための領域として、非常に高品質なものとなる。例えば、インバージョンドメインが含まれていると、そのインバージョンドメインが存在する領域の上において異常成長が発生し得るが、インバージョンドメインを含まなければ、異常成長が発生するおそれを排除できるからである。
このようなインバージョンドメインの有無は、例えば、透過型電子顕微鏡(Transmission Electron Microscope:TEM)を用いた収束電子線回折(Convergent Beam Electron Diffraction:CBED)法を用いてGaN結晶表面の極性を判定することにより判断できる。
(表面粗さ)
なお、GaN基板30の主面は、上述の研磨により鏡面化されており、該主面の表面粗さ(算術平均粗さRa)は、例えば、10nm以下、好ましくは5nm以下である。
(2)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)本実施形態の第1層成長工程S132では、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、複数の基板10のそれぞれの主面10ms上および側面10ssにGaNの単結晶からなる第1層50をエピタキシャル成長させる。これにより、基板10の主面10msに沿った方向の第1層50の成長(横方向成長)を抑制することができる。第1層50の横方向成長を抑制することで、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制することができる。隣り合う基板10の側面10ss間の間隙のうちの上方の閉塞を抑制することにより、第1層50の成長中において、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙内に、III族原料ガスおよび窒化剤等の成膜ガスを行き届かせることができる。当該間隙内に成膜ガスを行き届かせることで、隣り合う基板10の側面10ssのそれぞれに第1層50を成長させることができる。第1層50を成長させていくと、一対の基板10のうちの一方の基板10の側面10ssに成長した第1層50と、他方の基板10の側面10ssに成長した第1層50と、が会合する。これにより、基板10の側面10ss間の間隙内を第1層50により埋め込むことができる。その結果、隣り合う基板10の側面10ss同士を第1層50により接合することが可能となる。
このように、隣り合う基板10の側面10ss同士を第1層50により接合することで、基板10同士の接合強度を向上させることができる。これにより、基板10同士が第1層50により接合された基板20を安定的に自立させることができる。その結果、基板20を容易に大径化させることができる。
(b)本実施形態の第2層成長工程S134では、基板10の主面10msの法線に沿った方向の成長レートが基板10の主面10msに沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、第1層50上にGaNの単結晶からなる第2層60をエピタキシャル成長させる。第2成長条件下で第2層60を成長させることで、基板10の主面10msに沿った方向の成長(横方向成長)を促進させることができる。第2層60の横方向成長を促進させることで、隣り合う基板10の側面10ss同士を接合した第1層50上に、第2層60を形成することができる。すなわち、隣り合う基板10の側面10ss間の間隙の上方に形成されたV字状の第1層50の溝部(符号不図示)内を、第2層60により埋め込むことができる。これにより、複数の基板10の主面10ms上で、該主面10msの全体に亘って、第2層60を連続的に形成することができる。その結果、基板10同士を第1層50および第2層60の両方により接合することができる。すなわち、第1層50による基板10同士の接合を、第2層60により補強することができる。
(c)本実施形態の製造方法では、第1層50および第2層60の成長過程で、転位を局所的に集めることで、集められた複数の転位のうちの一部を消失させることができる。これにより、基板20の低転位密度領域LDにおける転位密度を低減することができる。その結果、基板10よりもさらに転位密度を低減させた低転位密度領域LDを有する基板20を得ることができる。
ここで、基板10を用い、c面以外のファセットを露出させること無く、III族窒化物半導体の単結晶からなる半導体層をエピタキシャル成長させる場合では、当該半導体層の厚さに反比例して、転位密度が低減される傾向がある。
これに対し、本実施形態によれば、第1層50の成長過程において、c面以外のファセットが露出した位置で、該ファセットに対して略垂直な方向に向けて、転位を屈曲させて伝播させることができる。これにより、転位の局所的な集合を早めることができる。このようにして集められた複数の転位のうちの一部を消失させることで、半導体層の厚さに反比例する傾向よりも急激に転位密度を低減させることができる。その結果、基板10よりもさらに転位密度を低減させた低転位密度領域LDを、効率よく得ることが可能となる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
上述の実施形態では、基板10としてVAS法により作製される基板を用いる場合について説明したが、基板10としてVAS法以外の方法により作製される基板を用いてもよい。
上述の実施形態では、基板10を組み合わせたハニカムパターンが、基板20の主面の中心を通りその主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、6回の対称性を有する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、基板10を組み合わせたハニカムパターンは、2回または3回の回転対称性を有していてもよい。
上述の実施形態では、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と当接する全ての面をa面とする場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されず、a面以外の面で接合させるようにしてもよい。例えば、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と当接する全ての面をm面としてもよい。m面は劈開させやすい面であることから、基板7から基板10を、低コストで効率よく作製することが可能となる。
上述の実施形態では、S130,S200において結晶成長法としてHVPE法を用いる場合について説明したが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、S130,S200のうちいずれか、或いは、両方において、MOVPE法等のHVPE法以外の結晶成長法を用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
上述の実施形態では、保持板12から引き剥がすことで自立させた基板20を用意し、これを用いてGaN結晶膜21を成長させてGaN基板30を製造する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、組み立て基板13を用意した後、図9(a)に示すように基板10上にGaN結晶膜14を厚く成長させ、その後、図9(b)に示すようにGaN結晶膜14をスライスすることで1枚以上のGaN基板30を取得するようにしてもよい。すなわち、基板20を自立させる工程を経ることなく、組み立て基板13の用意からGaN基板30の製造までを一貫して行うようにしてもよい。この場合、上述の実施形態とは異なり、基板10の加熱が保持板12や接着剤11を介して行われることから、加熱効率が低下する。しかしながら、他の点では、上述の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。なお、GaN結晶膜14をスライスする際は、基板10の裏面側に付着した接着剤11等を予め除去するようにしてもよい。
上述の実施形態では、隣り合う基板10を接合させて基板20として用いる場合、すなわち、基板20が基板10を含む場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、上述のように厚く成長させたGaN結晶膜14をスライスすることで得られた1枚以上の基板のそれぞれを、基板20として用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
上述の実施形態では、結晶成長用基板作製工程S100の接合工程S130において、第1層成長工程S132と、第2層成長工程S134と、を行う場合(すなわち、基板10同士を第1層50および第2層60により接合する場合)について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、第1層50のみにより基板10同士の接合強度を充分に確保することができる場合には、結晶成長用基板作製工程S100の接合工程S130において、第1層成長工程S132のみを行ってもよい。この場合、その後の自立工程S140において、複数の基板10が第1層50のみにより接合されてなる基板20を自立させる。基板20を自立させた後、結晶膜成長工程S200において、上述の実施形態の第2層成長工程S134と同様の第2成長条件下で、GaN結晶膜21を構成する少なくとも1層として、第2層60を第1層50上に成長させる。このような場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等の窒化物結晶、すなわち、AlxInyGa1−x−yN(0≦x≦1,0≦y≦1,0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物結晶からなる基板を製造する際に、好適に適用可能である。
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
(1)実験1
(1−1)結晶成長用基板の作製
上述の実施形態の接合工程S130において、第1層成長工程S132のみを行い、以下の条件で、結晶成長用基板を作製した。
(種結晶基板)
材質:GaN
作製方法:VAS法
直径:1インチ
厚さ:400μm
主面に対して最も近い低指数の結晶面:c面
(第1層)
材質:GaN
成膜方法:HVPE法
第1層の厚さ(種結晶基板の主面上):約131μm
成長温度:947℃
第1層の成長レート:262μm/h
(1−2)評価
光学顕微鏡を用い、上述の結晶成長用基板の表面側および裏面側の観察を行った。
(1−3)結果
図11(a)に示すように、結晶成長用基板の表面側を観察したところ、隣り合う種結晶基板間には、ギャップが形成されていた。このことから、第1層の成長中において、種結晶基板の主面の法線に沿った方向の成長レートが種結晶基板の主面に沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、第1層を成長させることで、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制することができたことを確認した。
一方、図11(b)に示すように、結晶成長用基板の裏面側を観察したところ、隣り合う種結晶基板同士は、第1層を介して接合されていた。このことから、第1層の成長中において、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制することで、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙内に成膜ガスを行き届かせることができたことを確認した。その結果、隣り合う種結晶基板の側面同士を第1層により接合することができたことを確認した。
(2)実験2
(2−1)結晶成長用基板の作製
上述の実施形態の接合工程S130を行い、以下の条件で、結晶成長用基板を作製した。
(種結晶基板)
実験1と同じ
なお、レーザによるスクライブ溝が形成された側を主面側とした。
(第1層)
実験1と同じ
(第2層)
材質:GaN
成膜方法:HVPE法
第2層の厚さ:約307μm
成長温度:1065℃
(2−2)評価
(SEM観察)
走査型電子顕微鏡(SEM)を用い、結晶成長用基板の表面および断面の観察を行った。結晶成長用基板の断面の観察では、カソードルミネッセンス(CL)像の観察も行った。
(転位密度の測定)
SEMを用い、上述の結晶成長用基板の主面におけるCL像を観察し、第2層の主面における転位密度(平均転位密度)を測定した。
(2−3)結果
(SEM観察:接合態様)
図12(c)と、該図12(c)のX部を拡大した図13とに示すように、隣り合う種結晶基板の側面のうち、裏面側に近い劈開面同士が、第1層により接合されていた。このことから、隣り合う種結晶基板の側面間の間隙の深いところにまで、成膜ガスを行き届かせることができたことを確認した。その結果、当該SEM像からも、隣り合う種結晶基板の側面同士を第1層により接合することができたことを確認した。
図12(a)〜(c)に示すように、結晶成長用基板の表面側から見て、隣り合う種結晶基板同士は、第2層を介して接合されていた。このことから、種結晶基板の主面の法線に沿った方向の成長レートが種結晶基板の主面に沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、第2層を横方向成長させることで、隣り合う種結晶基板の側面同士を接合した第1層上に、第2層を形成することができたことを確認した。その結果、第1層による種結晶基板同士の接合を、第2層により補強することができたことを確認した。
(転位密度)
結晶成長用基板の主面におけるCL像を観察したところ、結晶成長用基板の主面は、高転位密度領域および低転位密度領域を有していた。高転位密度領域は、平面視で種結晶基板の接合部と重なっており、低転位密度領域は、種対応領域に形成されていることを確認した。また、低転位密度領域内の転位密度は、高転位密度領域内の転位密度よりも1桁以上低いことを確認した。
また、結晶成長用基板の主面のうちの低転位密度領域には、該領域内で比較したときに、転位が相対的に少ない疎部と、転位が相対的に若干多い密部と、が形成されていたことを確認した。
また、低転位密度領域において、密部の転位密度は、3.11×106cm−2であった。種結晶基板の主面における転位密度がおよそ4×106cm−2であったことから、低転位密度領域の密部では、転位が相対的に若干多いとしても、転位密度を種結晶基板の主面における転位密度と同等以下とすることができたことを確認した。一方で、疎部の転位密度は、7.96×105cm−2であった。低転位密度領域の疎部では、転位密度を種結晶基板の主面における転位密度の30%以下とすることができたことを確認した。これらの結果により、結晶成長用基板では、第2層において局所的に集められた複数の転位のうちの一部を消失させることで、第2層の主面における転位密度を低減することができたことを確認した。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
結晶成長用基板を作製する工程と、
前記結晶成長用基板上に単結晶からなる結晶膜を成長させる工程と、
を有する窒化物結晶基板の製造方法であって、
前記結晶成長用基板を作製する工程は、
III族窒化物の単結晶からなる複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、隣り合う側面同士が対向するように配置する工程と、
前記種結晶基板の前記主面の法線に沿った方向の成長レートが前記種結晶基板の前記主面に沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、前記複数の種結晶基板のそれぞれの前記主面上および前記側面にIII族窒化物の単結晶からなる第1層をエピタキシャル成長させ、隣り合う種結晶基板の側面同士を前記第1層により接合する工程と、
前記種結晶基板の前記主面の法線に沿った方向の成長レートが前記種結晶基板の前記主面に沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、前記第1層上にIII族窒化物の単結晶からなる第2層をエピタキシャル成長させる工程と、
を有し、
前記結晶膜を成長させる工程では、
前記結晶成長用基板を加熱し、該加熱された結晶成長用基板上にIII族原料および窒化剤を供給し、III族窒化物の単結晶からなる前記結晶膜を成長させる
窒化物結晶基板の製造方法。
(付記2)
前記複数の種結晶基板を配置する工程では、
前記複数の種結晶基板を、接着剤を介して保持板上に接着し、
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記保持板上に接着された前記複数の種結晶基板に対して、前記第1層をエピタキシャル成長させ、
前記結晶成長用基板を作製する工程は、
前記第2層をエピタキシャル成長させる工程の後に、前記複数の種結晶基板が前記第1層および前記第2層により接合されてなる前記結晶成長用基板を自立させる工程を有する
付記1に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記3)
結晶成長用基板を作製する工程と、
前記結晶成長用基板上に単結晶からなる結晶膜を成長させる工程と、
を有する窒化物結晶基板の製造方法であって、
前記結晶成長用基板を作製する工程は、
III族窒化物の単結晶からなる複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、隣り合う側面同士が対向するように配置する工程と、
前記種結晶基板の前記主面の法線に沿った方向の成長レートが前記種結晶基板の前記主面に沿った方向の成長レートよりも高い第1成長条件下で、前記複数の種結晶基板のそれぞれの前記主面上および前記側面にIII族窒化物の単結晶からなる第1層をエピタキシャル成長させ、隣り合う種結晶基板の側面同士を前記第1層により接合する工程と、
を有し、
前記結晶膜を成長させる工程は、
前記種結晶基板の前記主面の法線に沿った方向の成長レートが前記種結晶基板の前記主面に沿った方向の成長レート以下である第2成長条件下で、前記第1層上にIII族窒化物の単結晶からなる第2層をエピタキシャル成長させる工程を有する
窒化物結晶基板の製造方法。
(付記4)
前記複数の種結晶基板を配置する工程では、
前記複数の種結晶基板を、接着剤を介して保持板上に接着し、
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記保持板上に接着された前記複数の種結晶基板に対して、前記第1層をエピタキシャル成長させ、
前記結晶成長用基板を作製する工程は、
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程の後に、前記複数の種結晶基板が前記第1層のみにより接合されてなる前記結晶成長用基板を自立させる工程を有する
付記3に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記5)
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記隣り合う種結晶基板の側面間の間隙のうちの上方が閉塞することを抑制しつつ、該側面間の間隙内にIII族原料および窒化剤を行き届かせる
付記1〜4のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記6)
前記第2層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記隣り合う種結晶基板の側面同士を接合した前記第1層上に前記第2層を形成し、前記複数の種結晶基板の前記主面上で該主面の全体に亘って前記第2層を連続的に形成する
付記1〜5のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記7)
前記第2層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記第2層の主面において、連続する高転位密度領域と、前記高転位密度領域によって区分けされる複数の低転位密度領域と、を形成する
付記1〜6のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記8)
前記第2層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記低転位密度領域内に、転位が相対的に少ない疎部と、転位が相対的に多い密部と、を形成し、
少なくとも前記疎部の転位密度を、前記種結晶基板の前記主面内の転位密度の30%以下とする
付記7に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記9)
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程での成長温度を、前記第2層をエピタキシャル成長させる工程での成長温度よりも低くする
付記1〜8のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記10)
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程での成長温度を900℃以上970℃以下とし、
前記第2層をエピタキシャル成長させる工程での成長温度を990℃以上1100℃以下とする
付記9に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記11)
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程から前記第2層をエピタキシャル成長させる工程までの工程を、前記複数の種結晶基板を大気暴露することなく、同一のチャンバ内で連続的に行う
付記1〜10のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記12)
前記結晶成長用基板を作製する工程は、
前記複数の種結晶基板を配置する工程の前に、前記複数の種結晶基板を用意する工程を有し、
前記複数の種結晶基板を用意する工程では、
前記種結晶基板が材料取りされる材料基板に対し、前記種結晶基板の前記主面側と反対の裏面側からレーザ光を照射することで、前記材料基板の前記裏面側にスクライブ溝を形成する工程と、
前記主面側の前記側面に劈開面が配置されるように、前記材料基板から劈開により前記種結晶基板を分離する工程と、
を有する
付記1〜11のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記13)
前記第1層をエピタキシャル成長させる工程では、
前記隣り合う種結晶基板の前記側面のうち前記劈開面同士を前記第1層により接合する
付記12に記載の窒化物結晶基板の製造方法。
(付記14)
付記1〜13のいずれか1つに記載の窒化物結晶基板の製造方法により得られる
窒化物結晶基板。
(付記15)
III族窒化物の単結晶からなり、主面が互いに平行となり、隣り合う側面同士が対向するように配置される複数の種結晶基板と、
III族窒化物の単結晶からなり、前記複数の種結晶基板のそれぞれの前記主面上および前記側面にエピタキシャル成長され、隣り合う種結晶基板の側面同士を接合する第1層と、
III族窒化物の単結晶からなり、前記第1層上にエピタキシャル成長された第2層と、
を有する
結晶成長用基板。