<本発明の一実施形態>
以下、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
(1)窒化物結晶基板の製造方法
本実施形態では、以下に示すステップ1〜5を実施することで、窒化物結晶基板として、窒化ガリウム(GaN)の結晶からなる結晶基板(以下、GaN基板ともいう)を製造する例について説明する。
(ステップ1:種結晶基板の用意)
本実施形態では、GaN基板を製造する際、図2(a)に平面視を例示するような円板状の外形を有する結晶成長用基板20(以下、基板20とも略す)を用いる。そこで本ステップでは、まず、基板20を構成する種結晶基板10(以下、基板10とも略す)を作製する際に用いられるベース材料として、図1(a)に実線で外形を示すような、GaN結晶からなる小径種基板(結晶基板、材料基板)5(以下、基板5とも略す)を複数用意する。基板5は、作製しようとする基板10よりも大きな外径を有する円形の基板であって、例えば、サファイア基板等の下地基板上にGaN結晶をエピタキシャル成長させ、成長させた結晶を下地基板から切り出してその表面を研磨すること等により作製することができる。GaN結晶は、気相成長法や液相成長法を問わず、公知の手法を用いて成長させることができる。現在の技術水準では、直径2インチ程度のものであれば、その主面(結晶成長の下地面)内におけるオフ角のばらつき、すなわち、オフ角の最大値と最小値との差が、例えば0.3°以内と比較的小さく、また、欠陥密度や不純物濃度の少ない良質な基板を、比較的安価に得ることができる。ここでオフ角とは、基板5の主面の法線方向と、基板5を構成するGaN結晶の主軸方向(主面に最も近い低指数面の法線方向)と、のなす角をいう。
本実施形態では、一例として、直径が2インチ程度であって、厚さTが0.2〜1.0mmである基板を、基板5として用いる場合について説明する。また、本実施形態では、基板5の主面すなわち結晶成長面が、GaN結晶のc面に対して平行であるか、或いは、この面に対して±5°以内、好ましくは±1°以内の傾斜を有するような基板を、基板5として用いる場合について説明する。また、本実施形態では、複数の基板5を用意する際、それぞれの基板5の主面内におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.3°以内、好ましくは0.15°以内であり、かつ、複数の基板5間におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.3°以内、好ましくは0.15°以内であるような基板群を、複数の基板5として用いる例について説明する。
なお、本明細書で用いる「c面」という用語は、GaN結晶の+c面、すなわち、(0001)面に対して完全に平行な面だけでなく、上述のように、この面に対してある程度の傾斜を有する面を含み得る。この点は、本明細書において「a面」、「M面」という用語を用いる場合も同様である。すなわち、本明細書で用いる「a面」という用語は、GaN結晶のa面、すなわち、(11−20)面に対して完全に平行な面だけでなく、この面に対して上記と同様の傾斜を有する面を含み得る。また、本明細書で用いる「M面」という用語は、GaN結晶のM面、すなわち、(10−10)面に対して完全に平行な面だけでなく、この面に対して上記と同様の傾斜を有する面を含み得る。
基板5としては、ナノインデンテーション硬度(ナノインデンテーション硬さ、以下、単に硬度ともいう)が33.7GPa以下、好ましくは31.5GPa以下である基板を用いることができる。そして、本実施形態では、複数の基板5を用意する際、これらの間における硬度の差が例えば3.7GPa以内、好ましくは2.1GPa以内の所定の大きさとなるように、各基板をそれぞれ選定する。なお、ここでいう「基板5のナノインデンテーション硬度」とは、「基板5を構成するGaN結晶の塑性変形のしやすさの度合い」を意味している。具体的には、本明細書において、「基板5のナノインデンテーション硬度が高い」、すなわち「基板5が硬い」とは、基板5を構成するGaN結晶が塑性変形しにくいことを意味し、「基板5のナノインデンテーション硬度が低い」、すなわち「基板5が脆い」とは、基板5を構成するGaN結晶が塑性変形しやすいことを意味する。
基板5の硬度の調整は、例えばシリコン(Si)濃度およびゲルマニウム(Ge)濃度の調整により行うことができる。すなわち、本実施形態では、複数の基板5を用意する際、硬度の差を上述の範囲内とするために、複数の基板5の間におけるSi濃度の差およびGe濃度の差が所定の大きさとなるように、各基板をそれぞれ選定することが好ましい。具体的には、Si濃度の差が例えば1.5×1018at/cm3以内、好ましくは0.9×1018at/cm3以内の所定の大きさを満たし、Ge濃度の差が例えば1.1×1018at/cm3以内の所定の大きさを満たすように、各基板をそれぞれ選定することが好ましい。なお、基板5の硬度の調整は、Si濃度、Ge濃度の他に、水素(H)濃度、鉄(Fe)濃度および空孔密度(ガリウム空孔の密度)のうちの少なくともいずれかの調整により行うこともできると考えられる。
なお、ここでは、硬度の差の上限について記載したが、これらの下限については特に制限は存在せず、これらはゼロであること、すなわち、複数の基板5間で硬度に差がないことが好ましい。
ナノインデンテーション硬度(GPa)は、ナノインデンテーション装置(例えば、MTS systems corporation製の超微小硬度計Nano Indenter XP)を用いて測定することができる。ナノインデンテーション硬度は、ナノインデンテーション装置が有する圧子を試料である基板5の表面に押し込んだときの圧子にかかる最大荷重Pmax(mN)と、圧痕(圧子を押し込んだ後に試料に残った圧子の痕)の投影面積A(nm2)と、から、下記の式(1)より算出することができる。
ナノインデンテーション硬度=最大荷重Pmax/圧痕の投影面積A・・・式(1)
上記式(1)中の圧痕の投影面積A(nm2)は、下記の式(2)より算出することができる。
圧痕の投影面積A=ηkhc 2・・・式(2)
ここで、ηは圧子先端形状の補正係数である。kは圧子の幾何学形状から求まる定数であり、圧子としてBerkovich圧子を用いた場合、k=24.56となる。hcは有効接触深さ(nm)であり、下記の式(3)より算出することができる。
hc=h−ε{P/(dP/dh)}・・・式(3)
ここで、hは測定される全変位である。dP/dhは図12に一例を示す荷重―押し込み深さ線図における除荷時の初期勾配である。なお、荷重―押し込み深さ線図は、静置された試料に対し、圧子を用いて押し込み負荷/除荷試験を行うことで取得することができる。εは圧子の幾何学形状から求まる定数であり、圧子としてBerkovich圧子を用いた場合、ε=0.75となる。
なお、本実施形態では、ナノインデンテーション硬度を連続剛性測定法により測定している。連続剛性測定法とは、押し込み試験中に圧子を微小振動させ、振動に対する応答振幅、位相差を時間の関数として取得し、押し込み深さの連続的変化に対応して、上記dP/dhを連続的に算出する方法である。
ナノインデンテーション硬度の測定条件としては、以下が例示される。
圧子:ダイヤモンド製三角錐圧子(Berkovich圧子)
最大荷重(Pmax):620〜639mN
測定雰囲気:室温、大気中
基板5を用意したら、図1(b)に示すように、結晶成長面(+c面)の反対側の面である裏面(−c面)に凹溝、すなわちスクライブ溝を形成する。凹溝は、例えば、レーザ加工法や機械加工法のような公知の手法を用いて形成することが可能である。凹溝を形成した後、図1(c)に示すように、凹溝に沿って基板5を劈開させてその周縁部を除去することで、基板10が得られる。図1(d)に、基板10の平面構成を示す。
基板10の平面形状は、基板10を同一平面上に複数並べた場合に、これらを平面充填させること、すなわち、隙間なく敷き詰めることが可能な形状とするのが好ましい。また、本実施形態のように基板10の主面(結晶成長面)を+c面とする場合、後述する理由から、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する総ての面、すなわち、他の基板10の側面と対向する(向かい合う)総ての面をM面又はa面とし、かつ、互いに同一方位の面(等価な面)とするのが好ましい。GaN結晶は六方晶系の結晶構造を有することから、上述の要求を満たすようにするには、少なくとも基板20の周縁部(円弧部)以外の部分を構成する基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形(内角60°および120°)、台形(内角60°および120°)、正六角形、および、平行六辺形のうちいずれかの形状とするのが好ましい。基板10の平面形状を正方形や長方形とすると、基板10の側面のうちいずれかの面をa面とした場合に、その面に直交する側面が必然的にM面となってしまい、総ての面を同一方位の面とすることは不可能となる。また、基板10の平面形状を円形や楕円形とすると、平面充填させることができず、また、基板10の側面をM面又はa面とし、かつ、互いに同一方位の面とすることは不可能となる。
なお、上述した数種類の形状のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板10の平面形状は、図1(d)に示すように正六角形とするのが特に好ましい。この場合、平面形状が円形である基板5から、基板10を、最大限の大きさで効率よく取得、すなわち、材料取りすることが可能となる。また、後述するステップ2において基板10を同一平面上に平面充填させる際、その配列はハニカムパターンを構成することになり、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合わさるように配列することになる。これにより、配列させた複数の基板10に対して面内方向に沿って外力が加わったとき、その方向によらず、基板10の配列ずれを抑制することが可能となる。これに対し、基板10の平面形状を、正三角形、平行四辺形、台形、正方形、長方形等とした場合には、基板10の平面形状を正六角形とする場合に比べ、特定の方向からの外力の影響を受けやすくなり、基板10の配列ずれが生じやすくなる。本実施形態では、基板10の平面形状を正六角形とする場合について説明している。なお、基板20の周縁部を構成する基板10の平面形状は、図2(a)に示すように、正六角形の一部を、円板状の基板20の外周に沿うように円弧状に切り出した形状となる。基板20の周縁部を構成する基板10、すなわち、小面積の基板10については、1枚の基板5から、1枚以上、好ましくは2枚以上を一緒に取得することが好ましい。1枚の基板5から複数枚の基板10を取得する場合、基板5の無駄を少なくすることができ、また、基板10の品質を揃えやすくなる点で、好ましい。
基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する総ての面をM面又はa面とすれば、「M面又はa面」以外の面である場合に比べて、以下の点で好ましいものとなる。
例えば、総ての面をM面とすれば、基板10の加工精度を高めることができる。これは、GaN結晶の取り得る面方位のうち、M面については、単位面積あたりの結合手密度が小さい(原子間の結合が弱い)等の理由により、劈開させることが容易となるからである。
また、例えば、総ての面をa面とすれば、他の側面と対向する接合部分の再破壊が生じ難くなり、基板10の精度を高く維持し得るようになる。これは、GaN結晶の取り得る面方位のうち、a面については、単位面積あたりの結合手密度がM面における結合手密度よりも大きい(原子間の結合が強い)等の理由による。ただし、このことは、劈開させることが比較的困難となる要因にもなり得る。この点に関して、本実施形態では、上述したように基板5の裏面に凹溝(スクライブ溝)を形成してから劈開作業を行うこととしている。これにより、基板5を、M面以外の劈開性の弱い面(劈開しにくい面)方位で正確に劈開させることが可能となる。図1(e)に、上述の手法で得られた基板10の側面構成図を示す。図1(e)に示すように、基板10の側面には、基板5の裏面に凹溝を形成することで生じた融解面(レーザ加工面)或いは切削面(機械加工面)と、凹溝に沿って基板5を劈開させることで生じた劈開面と、が形成されることとなる。ここでいう融解面とは、例えば、結晶が一度融けた後に急激に固化することで形成されたアモルファス面等を含む面のことである。また、ここでいう切削面とは、例えば、裂開面等を含む表面粗さの比較的大きな面のことである。
なお、凹溝は、あくまで、基板5を劈開させる際の制御性を高めるために設けるものである。そのため、凹溝を形成する際は、基板5を完全に切断(フルカット)してしまうことがないよう、その深さを調整する必要がある。凹溝の深さは、基板5の厚さTに対して60%以上90%以下の範囲内の深さとするのが好ましい。凹溝の深さが基板5の厚さTに対して60%未満の深さとなると、劈開性の高いM面に沿って基板5が割れてしまうなど、所望の劈開面を得ることが困難となる場合がある。凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して60%以上の深さとすることで、M面以外の面方位、例えばa面に沿って劈開を成功させる等、所望の劈開面を得ることが可能となる。また、凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して90%を超える深さとすると、劈開面の面積が過小となることで基板10間の接合強度が不足し、基板20を自立させることが困難となる場合がある。凹溝の深さを、基板5の厚さTに対して90%以下の深さとすることで、劈開面の面積を充分に確保でき、基板10間の接合強度を高めることが可能となる。
なお、発明者等の鋭意研究によれば、凹溝を用いた基板5の劈開は、直線部だけでなく、円弧部においても実施可能であることが分かっている。そのため、複数の基板10のうち、基板20の周縁部(円弧部)を構成する基板10を取得する際、それらの全ての側面(直線状および円弧状の側面)を、凹溝を利用した劈開作業により形成するのが好ましい。このようにした場合、基板20上に成長させる結晶膜の品質を、その面内全域にわたり、すなわち、周縁部においても向上させることが可能となる。
劈開位置を正確に制御するため、凹溝の断面形状は、図1(b)に示すようなV字状(開口部が広いテーパー状)の断面形状とするのが好ましい。なお、凹溝の開口幅については特に制限はないが、例えば0.2〜1.8mmが例示される。このように溝の寸法や形状を制御することで、基板5を劈開させる際の制御性を高めつつ、基板5を劈開させた際に形成される劈開面の幅(厚さ方向における幅)を充分に確保することが可能となる。これにより、後述するステップ3(結晶成長工程)において隣接する基板10の接合強度を高めたり、基板10の接合部周辺に成長する結晶膜の品質を向上させたりすることが可能となる。
上述の加工を施すと、基板5の切粉が大量に発生して基板10に付着し、そのままでは後述の結晶成長に悪影響を及ぼす場合がある。そこで、切粉を除去する洗浄処理を行う。その手法としては、例えば、塩化水素(HCl)と過酸化水素水(H2O2)とを1対1で混合して得た薬液を用いたバブリング洗浄が挙げられる。
(ステップ2:種結晶基板の配置)
基板10を複数取得したら、ステップ2を行う。本ステップでは、GaN結晶からなる複数の基板10を、それらの主面が互いに平行となり、それらの側面が互いに対向(当接)するように、すなわち、隣接する基板10の側面同士が対向(当接)するように、平面状に、また円形状に配置(平面充填)する。
上述したように、ステップ1では、基板10のベース材料である基板5を複数用意する際、これらのナノインデンテーション硬度に対し、所定の要件を課すようにしている。その結果、ステップ2で配列させた隣接する基板10間、さらには全ての基板10間においても、ナノインデンテーション硬度が揃うこととなる。
なお、ここでいう「複数の基板10をそれらの主面が互いに平行となるように配置する」とは、隣接する基板10の主面同士が、完全に同一平面上に配置される場合だけでなく、これらの面の高さに僅かな差がある場合や、これらの面が互いに僅かな傾きを持って配置される場合を含むものとする。すなわち、複数の基板10を、これらの主面がなるべく同じ高さとなり、また、なるべく平行となるように配置することを意味する。但し、隣接する基板10の主面の高さに差がある場合であっても、その大きさは、最も大きい場合で例えば100μm以下、好ましくは50μm以下とするのが望ましい。また、隣接する基板10の主面間に傾きが生じた場合であっても、その大きさは、最も大きい面で例えば1°以下、好ましくは0.5°以下とするのが望ましい。また、複数の基板10を配置する際は、これらを配列させることで得られる基板群の主面内におけるオフ角のばらつき(全主面内におけるオフ角の最大値と最小値との差)を、例えば0.3°以内、好ましくは0.15°以内とするのが望ましい。これらが大きすぎると、後述するステップ3,5(結晶成長工程)で成長させる結晶の品質が低下する場合があるためである。
また、ここでいう「複数の基板10をそれらの側面が互いに対向するように配置する」とは、複数の基板10を、これらの側面間になるべく隙間が生じないように近接して対向させて配置することを意味する。すなわち、隣接する基板10の側面同士が、完全に、すなわち、隙間なく接触する場合だけでなく、これらの間に僅かな隙間が存在する場合も含むものとする。但し、隙間が大きすぎると、後述するステップ3を実施した際に、隣接する基板10間が接合しなかったり、接合したとしてもその強度が不足したりする場合があるため、なるべく隙間が生じないようにすることが望ましい。また、ステップ3を実施した後における隣接する基板10間の接合強度を高めるため、隣接する基板10を、それらの側面のうち少なくとも劈開面が当接するように配置することが好ましい。
図2(a)は、基板10の配列パターンの一例を示す平面図である。本実施形態のように、平面形状が正六角形である基板10を用いる場合、基板10が平面充填されることでハニカムパターン(蜂の巣パターン)が構成されることとなる。複数の基板10のうち、少なくとも基板20の周縁部以外の部分を構成する基板は、平面形状が正六角形である主面を有することとなる。本図に示すように、基板10の主面を組み合わせたハニカムパターンは、基板20の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上、本配置例では6回の回転対称性を有するように配置される。
なお、この図に示すように、配列させた複数の基板10の中から任意に選択された基板10は、少なくとも2つ以上の他の基板10と対向するように構成されていることが分かる。また、基板10の側面は、互いに直交しないように構成されていることも分かる。これらの事象は、基板10の平面形状として例えば正六角形、正三角形、平行四辺形、台形を選択し、複数の基板10を、この図に示すように略円形に(一方向だけでなく多方向に)平面充填させた場合に得られる固有のものであるといえる。また、この図に示すように、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合って(組み合って)おり、ステップ3やその後の工程において、基板10の配列ずれが生じにくくなるように配置されていることも分かる。この事象は、基板10の平面形状を正六角形とし、複数の基板10を、この図に示すように略円形に平面充填させた場合に得られる固有のものであるといえる。
なお、ステップ3における取り扱いを容易とするため、複数の基板10は、例えば、平板として構成された保持板(支持板)12上に固定するのが好ましい。図2(b)に、複数の基板10が円板状の保持板12上に接着されてなる組立基板13の断面構成を示す。本図に示すように、基板10は、その主面(結晶成長面である+c面)が上面となるように、保持板12上に、接着剤11からなる層を介して設置される。言い換えると、基板10と保持板12との間には、接着剤11からなる層が設けられている。
保持板12の材料としては、後述するステップ3での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有し、また、基板10やステップ3で成長させるGaN結晶膜14(以下、GaN膜14ともいう。)を構成する結晶と、同等或いはそれより小さい線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。保持板12の材料としてこのような材料を用いることで、ステップ3において基板10間に隙間が形成されたり、基板10間に形成された隙間が広がったりしてしまうことを抑制できるようになる。ここでいう線膨張係数とは、基板10の主面(c面)に平行な方向、すなわち、基板10を構成するGaN結晶のa軸方向における線膨張係数をいう。GaN結晶のa軸方向における線膨張係数は5.59×10−6/Kである。線膨張係数がこれらに比べて同等もしくは小さく、安価で入手が容易であり、ある程度の剛性を示す材料としては、例えば、等方性黒鉛、異方性黒鉛(パイロリティックグラファイト(以下、PGとも呼ぶ)等)、Si、石英、炭化珪素(SiC)などが挙げられる。また、後述する理由から、これらの中でも、表層が剥離しやすいPGを特に好ましく用いることができる。また、等方性黒鉛、Si、石英、SiC等の平板基材の表面を、PG等の剥離しやすく耐蝕性に優れた材料により被覆(コーティング)してなる複合材料を、好適に用いることもできる。
接着剤11の材料としては、ステップ3での成膜温度よりも遙かに低い温度条件下にて所定時間保持されることで固化するような材料、例えば、常温〜300℃の範囲内の温度条件下で数分〜数十時間乾燥させることで固化するような材料を好適に用いることができる。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、接着剤11を固化させるまでの間、保持板12上に配置された基板10の位置、高さ、傾き等をそれぞれ微調整することが可能となる。例えば、基板10の主面に高さの差がある場合や、基板10の主面間に傾きがある場合には、平坦であることが予め確認されたガラス板等を、保持板12上に配置された複数の基板10の主面群に対して押し当てるようにすることで、複数の基板10の高さや傾きを、それらの主面が互いに平行となるように微調整することが可能となる。また、ステップ3を開始する前の比較的低温条件下にて接着剤11の固化(基板10の固定)を完了させることができ、これにより、基板10の位置ずれが抑制された状態でステップ3を開始することが可能となる。これらの結果、ステップ3で成長させるGaN膜14の品質を向上させ、基板10間の接合強度を高めることが可能となる。また、基板10の接着作業を例えば手作業でも実施することが可能となり、接着作業の簡便性を著しく向上させ、接着作業に要する設備を簡便にすることが可能となる。
接着剤11の材料としては、後述するステップ3での成膜温度、成膜雰囲気に耐えられる耐熱性、耐蝕性を有する材料を用いることが好ましい。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、ステップ3における昇温中に接着剤11が熱分解等し、基板10の固定が解除されることを回避できるようになる。また、基板10の固定が不充分のままGaN膜14が成長することで最終的に得られる基板20に反りが生じることを回避できるようになる。また、接着剤11の熱分解による成長雰囲気の汚染を回避することができ、これにより、GaN膜14の品質低下や基板10間の接合強度の低下を防ぐことが可能となる。
また、接着剤11の材料としては、基板10やステップ3で成長させるGaN膜14を構成する結晶と近い線膨張係数を有する材料を用いることが好ましい。なお、「線膨張係数が近い」とは、接着剤11の線膨張係数と、GaN膜14を構成する結晶の線膨張係数と、が実質的に同等であること、例えば、これらの差が10%以内であることを意味する。接着剤11の材料としてこのような材料を用いることで、後述するステップ3を行う際、接着剤11との線膨張係数差に起因して基板10の面内方向に加わる応力を緩和させることができ、基板10に反りやクラック等が生じることを回避することが可能となる。
これらの要件を満たす接着剤11の材料としては、例えば、耐熱性(耐火性)セラミックスと無機ポリマとを主成分とする耐熱性無機接着剤を用いることができ、特に、ジルコニアやシリカ等を主成分とする材料を好ましく用いることができる。このような接着剤としては、例えば、市販のアロンセラミックC剤やE剤(アロンセラミックは東亞合成株式会社の登録商標)が挙げられる。これらの接着剤は、例えば常温〜300℃の範囲内の温度で乾燥させて固化させることにより、1100〜1200℃の高温に耐える硬化物を形成し、ステップ3での成膜雰囲気に対して高い耐蝕性を有するとともに、基板10の位置ずれなどを生じさせない高い接着強度を示すことを確認済みである。また、基板10上に成長させる結晶に影響を及ぼさないことも確認済みである。また、固化する前の段階で、常温下において例えば40000〜80000mPa・s程度の適正な粘性を示すことから、保持板12上への基板10の仮留めや位置合わせ等を行う際に、非常に好適であることも確認済みである。
基板10を保持板12上に接着する際は、接着剤11が基板10の主面側に回り込んではみ出ることのないよう、基板10の少なくとも周縁部を除く領域、例えば周縁部から所定幅離れた領域であって、好ましくは中央付近にのみ接着剤11を塗布するのが好ましい。接着剤11が主面側に回り込むと、その回り込んだ箇所及びその周辺において、GaN膜14の品質が著しく劣化したり、GaN膜14の成長が妨げられたりする場合がある。なお、接着剤11の回り込みを防ぐような構造を、保持板12の表面に設けるようにしてもよい。例えば、隣接する基板10の周縁部の下方に位置する保持板12の表面に凹溝を形成し、基板10を接着する際に余分となった接着剤11をこの凹溝内へ逃がすことにより、基板10の主面側への接着剤11の回り込みを抑制することが可能となる。
なお、保持板12の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がある場合、特に、これらの差が大きい場合、基板10の裏面側に塗布する接着剤11の量を「極少量」に制限するのが好ましい。というのも、ステップ3を実施することで、保持板12上に配置された隣接する基板10は互いに接合された状態となる。複数の基板10を一体化(合体)させて基板20を得た後は、基板20および保持板12を、成膜温度から、例えば常温付近にまで降温させることになる。保持板12および基板10の線膨張係数に上述の差がある場合、これらの部材の熱収縮量の差に起因して、基板20の面内方向に、引張応力或いは圧縮応力が加わることになる。線膨張係数の差によっては、基板20の面内方向に大きな応力が加わり、基板20を構成する基板10や接合部にクラック等を生じさせる場合がある。このような課題に対し、発明者は、接着剤11の量を適正に制限することが非常に有効であるとの知見を得ている。接着剤11の量を適正に制限することで、基板20の面内方向に上述の応力が加わったとき、固化した接着剤11を適正なタイミングで破断させたり、固着させた接着剤11を基板10或いは保持板12から剥離させたりすることができ、これにより、基板10の破損等を回避することが可能となるのである。従って、ここで用いる「極少量」という文言は、少なくともステップ3を進行させるにあたり保持板12上への基板10の固定および位置ずれをそれぞれ防止することが可能な量であって、かつ、上述の線膨張係数差に起因して降温時の基板20に対して応力が加わったとき、固化した状態の接着剤11が破断或いは剥離することで基板10等の破損を回避することが可能となるような、所定の幅を持ちうる量を意味している。
また、保持板12の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がない場合であっても、或いは、これらの差が非常に小さい場合であっても、接着剤11の線膨張係数と基板10の線膨張係数との間に差がある場合、特に、これらの差が大きい場合には、接着剤11の量を上述の「極少量」とするのが好ましい。これにより、接着剤11と基板10との線膨張係数差に起因して基板10の面内方向に加わる応力を緩和させることができ、基板10に反りやクラック等が生じることを回避することが可能となる。
なお、接着剤11の量を極小量に制限する場合、接着剤11は、基板10の中心部に塗布するのが好ましい。接着剤11を基板10の中心部に塗布する方が、基板10の中心部以外の領域に塗布するよりも、基板10の姿勢を調整したり、それを維持したりすることが容易となる。また、接着剤11の主面側への回り込みもより確実に防止できるようになる。また、保持板12上に接着された各基板10は、後述するステップ3等で昇降温される際、接着剤11により接着された箇所を基点として周囲方向に膨張或いは収縮することになる。この場合、接着剤11を基板10の中心部に接着することにより、隣接する基板10間の隙間を基板20面内で均等なものとすることが可能となる。また、隣接する基板10間に隙間が存在しない場合においては、隣接する基板10の側面(当接面)に加わる応力の分布を、基板20面内で均等なものとすることが可能となる。但し、ここで用いる「基板10の中心部」という文言は、必ずしも基板10の幾何学的な中心に限らず、基板10の幾何学的な中心を含む領域、或いは、幾何学的中心を含まないがその近傍の領域を意味している。
接着剤11を介して保持板12上に基板10を配置し、接着剤11を固化させることで、組立基板13の作製が完了する。なお、接着剤11の固化が、複数の基板10の主面が互いに平行となり、また、隣接する基板10の側面が当接した状態で完了するように、接着剤11が固化するまでの間、必要に応じて、基板10の位置、傾き、高さをそれぞれ調整するのが好ましい。なお、接着剤11の固化は、ステップ3の開始前に完了させておくのが好ましい。このようにすることで、後述するHVPE装置200への組立基板13の投入および結晶成長のそれぞれを、複数の基板10の位置ずれが抑制された状態で行うことが可能となる。
なお、この組立基板13を、すなわち、後述するGaN膜14を成長させる前の状態の組立基板13を、本実施形態における基板20の一態様として考えることもできる。すなわち、ここで得られた組立基板13の主面(結晶成長面)上に、ハイドライド気相成長(HVPE)法等を用いて後述するGaN結晶膜21(以下、GaN膜21ともいう。)を厚く成長させ、この厚く成長させたGaN膜21をスライスすることにより、複数のGaN基板30を得るようにしてもよい。但し、後述するステップ3を実施し、複数の基板10間がGaN膜14によって接合されてなる自立可能な接合基板を作製し、これを基板20として用いる方が、基板10の位置ずれ等を確実に防止でき、その取り扱いが容易となる点から、好ましい。
(ステップ3:結晶成長による接合)
接着剤11が固化し、組立基板13の作製が完了したら、図5に示すHVPE装置200を用い、平面状に配置させた複数の基板10の表面上に、第1結晶膜(接合用薄膜)としてのGaN膜14を成長させる。
HVPE装置200は、石英等の耐熱性材料からなり、成膜室201が内部に構成された気密容器203を備えている。成膜室201内には、組立基板13や基板20を保持するサセプタ208が設けられている。サセプタ208は、回転機構216が有する回転軸215に接続されており、回転自在に構成されている。気密容器203の一端には、成膜室201内へHClガス、窒化剤としてのアンモニア(NH3)ガス、窒素(N2)ガスを供給するガス供給管232a〜232cが接続されている。ガス供給管232cには水素(H2)ガスを供給するガス供給管232dが接続されている。ガス供給管232a〜232dには、上流側から順に、流量制御器241a〜241d、バルブ243a〜243dがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aの下流には、原料としてのGa融液を収容するガス生成器233aが設けられている。ガス生成器233aには、HClガスとGa融液との反応により生成された原料ガス(原料のハロゲン化物)である塩化ガリウム(GaCl)ガスを、サセプタ208上に保持された組立基板13等に向けて供給するノズル249aが接続されている。ガス供給管232b,232cの下流側には、これらのガス供給管から供給された各種ガスをサセプタ208上に保持された組立基板13等に向けて供給するノズル249b,249cがそれぞれ接続されている。気密容器203の他端には、成膜室201内を排気する排気管230が設けられている。排気管230にはポンプ231が設けられている。気密容器203の外周にはガス生成器233a内やサセプタ208上に保持された組立基板13等を所望の温度に加熱するゾーンヒータ207が、気密容器203内には成膜室201内の温度を測定する温度センサ209が、それぞれ設けられている。HVPE装置200が備える各部材は、コンピュータとして構成されたコントローラ280に接続されており、コントローラ280上で実行されるプログラムによって、後述する処理手順や処理条件が制御されるように構成されている。
ステップ3は、上述のHVPE装置200を用い、例えば以下の処理手順で実施することができる。まず、ガス生成器233a内に原料としてGa融液を収容し、また、組立基板13を、気密容器203内へ投入(搬入)し、サセプタ208上に保持する。そして、成膜室201内の加熱および排気を実施しながら、成膜室201内へ、H2ガス、或いは、H2ガスとN2ガスとの混合ガスを供給する。そして、成膜室201内が所望の成膜温度、成膜圧力に到達し、また、成膜室201内の雰囲気が所望の雰囲気となった状態で、ガス供給管232a,232bからガス供給を行い、組立基板13(基板10)の主面(表面)に対し、成膜ガスとしてGaClガスとNH3ガスとを供給する。これにより、図6(a)に断面図を示すように、基板10の表面上に、GaN結晶がエピタキシャル成長し、GaN膜14が成長する。GaN膜14が成長することで、隣接する基板10は、GaN膜14によって互いに接合され、一体化した状態となる。その結果、隣接する基板10が接合されてなる基板20が得られる。なお、成膜処理の過程での基板10を構成する結晶の分解を防止するため、NH3ガスを、HClガスよりも先行して(例えば成膜室201内の加熱前から)供給するのが好ましい。また、GaN膜14の面内膜厚均一性を高め、隣接する基板10の接合強度を面内でむらなく向上させるため、ステップ3は、サセプタ208を回転させた状態で実施するのが好ましい。
ステップ3を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(組立基板13の温度):980〜1100℃、好ましくは、1050〜1100℃
成膜圧力(成膜室201内の圧力):90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:2〜6
N2ガスの流量/H2ガスの流量:1〜20
上述の条件下でGaN膜14を成長させることで、隣接する基板10は互いに接合された状態となる。GaN膜14の膜厚は、目的に応じ、所定の幅を有する膜厚帯から適宜選択することができ、例えば、基板20の外径をDcmとした場合に、3Dμm以上、好ましくは10Dμm以上の所定の厚さとすることができる。GaN膜14の膜厚が3Dμm未満であると、隣接する基板10の接合力が不足し、基板20の自立状態が解除され、その後のステップを進行させることが不可能となる。
なお、GaN膜14の膜厚について特に上限はないが、ここで行う結晶成長は、あくまでも複数の基板10を接合させて自立可能な状態とする目的に止めておくようにしてもよい。言い換えれば、GaN膜14の膜厚は、後述するステップ4において、互いに接合された基板10からなる基板20を保持板12から取り外して洗浄等を行った状態であっても、隣接する基板10の接合状態、すなわち、基板20の自立状態が維持されるのに必要かつ最小の厚さに止めておくようにしてもよい。本実施形態のように、本格的な結晶成長工程としてステップ5を別途行うのであれば、ステップ3で成長させるGaN膜14の膜厚を厚くしすぎると、成膜に用いる各種ガスの浪費や、GaN基板のトータルでの生産性低下を招いてしまう場合があるためである。このような観点から、GaN膜14の膜厚は、例えば、基板20の外径をDcmとした場合に、100Dμm以下の厚さとしてもよい。
これらのことから、本実施形態では、基板10の外径が2インチ、基板20の外径が6〜8インチである場合、GaN膜14の膜厚は、例えば45μm以上2mm以下、好ましくは150μm以上2mm以下の範囲内の厚さとすることができる。
なお、GaN膜14によって基板10を接合させる際、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する総ての面をM面又はa面とし、かつ、互いに同一方位の面とすることで、それらの接合強度をさらに高めることが可能となる。GaN膜14の膜厚を同一膜厚とする場合、隣接する基板10を「M面又はa面」以外の面同士で接合させた場合よりも、隣接する基板10をM面同士又はa面同士で接合させた場合、特にa面同士で接合させた方が、基板10の接合強度を高めることが可能となる。
(ステップ4:保持板剥がし、洗浄)
GaN膜14の成長が完了し、隣接する基板10が互いに接合された状態となったら、成膜室201内へNH3ガス、N2ガスを供給し、成膜室201内を排気した状態で、ガス生成器233a内へのHClガス、成膜室201内へのH2ガスの供給、ヒータ207による加熱をそれぞれ停止する。そして、成膜室201内の温度が500℃以下となったらNH3ガスの供給を停止し、その後、成膜室201内の雰囲気をN2ガスへ置換して大気圧に復帰させるとともに、成膜室201内を搬出可能な温度にまで低下させた後、成膜室201内から組立基板13を搬出する。
その後、隣接する基板10が接合されてなる基板20を保持板12から引き剥がし、これらを分離させる(基板20を自立させる)。
保持板12の材料として、例えばPGのような材料(基板10よりも表層が剥離しやすい材料)を用いた場合、図6(b)に示すように、保持板12の表層が犠牲層(剥離層)12aとなって薄く剥がれることで、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。また、保持板12の材料として、等方性黒鉛等からなる平板基材の表面をPG等によりコーティングしてなる複合材料を用いた場合にも、同様の効果が得られるようになる。なお、PGと比べて高価ではあるが、保持板12の材料として、パイロリティックボロンナイトライド(PBN)を用いた場合においても、同様の効果が得られる。また、保持板12の材料として、例えば等方性黒鉛、Si、石英、SiC等の材料、すなわち、表層を犠牲層として作用させることができない材料を用いた場合であっても、接着剤11の量を上述のように極少量とすれば、基板20の面内方向に上述の応力が加わったとき、固化した接着剤11を適正なタイミングで破断或いは剥離させることができる。これにより、保持板12からの基板20の自立が容易に行われるようになる。
自立させた基板20の裏面(基板10の裏面)に付着している接着剤11および犠牲層12aは、フッ化水素(HF)水溶液等の洗浄剤を用いて除去する。これにより、図6(c)に示すような自立状態の基板20が得られることとなる。基板20は、その主面(GaN膜14の表面)が結晶成長用の下地面として用いられ、100mm、さらには150mm(6インチ)を超える大径基板として、この状態で市場に流通する場合がある。なお、基板20の裏面の研磨を実施するまでは、その洗浄を実施した後であっても、接着剤11や犠牲層12aの残留成分が付着した痕跡が、基板10の裏面に残る場合がある。
(ステップ5:結晶成長、スライス)
本ステップでは、図5に示すHVPE装置200を用い、ステップ3と同様の処理手順により、自立した状態の基板20の主面上に、第2結晶膜(本格成長膜)としてのGaN膜21を成長させる。図7(a)に、基板20が有する下地面、すなわち、GaN膜14の表面上に、気相成長法によりGaN膜21を厚く成長させた様子を示す。
なお、本ステップの処理手順はステップ3とほぼ同様であるが、図7(a)に示すように、本ステップは、自立可能に構成された基板20をサセプタ208上に直接載置した状態で行われる。すなわち、本ステップは、基板20とサセプタ208との間に、保持板12や接着剤11が存在しない状態で行われる。このため、サセプタ208と基板20との間の熱伝達が効率的に行われ、基板20の昇降温に要する時間を短縮させることが可能となる。また、基板20の裏面全体がサセプタ208に接触することから、基板20が、その面内全域にわたり均等に加熱されるようになる。結果として、基板20の主面、すなわち、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたり均等なものとすることが可能となる。また、隣接する基板10が一体に接合した状態で加熱処理が行われることから、隣接する基板10間での直接的な熱伝達(熱交換)、すなわち、基板20内における熱伝導が速やかに行われることになる。結果として、結晶成長面における温度条件を、その面内全域にわたってより均等なものとすることが可能となる。すなわち、本ステップでは、自立可能に構成された基板20を用いて結晶成長を行うことから、結晶成長の生産性を高め、また、基板20上に成長させる結晶の面内均一性等を向上させることが可能となる。
これに対し、図13に例示するような、保持板上に接着剤を介して複数の種結晶基板を並べて接着し、その後、これら複数の種結晶基板上に結晶をそれぞれ成長させ、結晶成長を継続することで複数の結晶を一体化させるという代替手法も考えられる。しかしながら、この手法では、上述した種々の効果のうち、一部の効果が得られにくくなる場合がある。というのも、この手法では、サセプタから種結晶基板への熱伝達が、これらの間に介在する保持板や接着剤によって阻害されることがあり、基板の加熱効率が低下する場合がある。また、サセプタから基板へ向かう熱伝達の効率は、接着剤の塗布量や塗布位置などによって大きく影響を受けることから、この代替手法では、基板間における加熱効率が不揃いとなる場合がある。また、複数の種結晶基板を、隣接する種結晶基板間が離間した状態となるよう配置した場合(隣接する種結晶基板が一体に接合していない場合)、これら種結晶基板間での直接的な熱伝達(熱交換)が行われにくくなり、結果として、結晶成長面における温度条件が種結晶基板間で不揃いとなる場合がある。これらの結果、この代替手法では、本実施形態の手法に比べ、結晶成長の生産性が低下したり、最終的に得られる結晶の面内均一性が低下したりする場合がある。
このように、自立可能に構成された基板20を用いる本実施形態の結晶成長の手法は、図13に例示されるような代替手法に比べ、生産性や品質の向上に非常に大きな利益をもたらすものといえる。
なお、ステップ5における処理条件は、上述したステップ3における処理条件と同様の条件とすることもできるが、これと異ならせるようにするのが好ましい。というのも、ステップ3における成膜処理は、基板10の接合を主な目的として行うものである。そのため、ステップ3では、主面方向(c軸方向)に向けた成長よりも、主面(c面)に沿った方向(c軸に直交する方向、沿面方向)への成長を重視した条件下で結晶を成長させるのが好ましい。これに対し、ステップ5における成膜処理は、基板20上にGaN膜21を高速かつ厚く成長させることを主な目的として行うものである。そのため、ステップ5では、沿面方向に向けた成長よりも、主面方向に向けた成長を重視した条件下で結晶を成長させるのが好ましい。
上述の目的を達成する手法として、例えば、成膜室201内における雰囲気を、ステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5での成膜室201内におけるN2ガスの分圧のH2ガスの分圧に対する比率(N2/H2)が、ステップ3での成膜室201内におけるN2ガスの分圧のH2ガスの分圧に対する比率(N2/H2)よりも小さくなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
また、上述の目的を達成する他の手法として、例えば、成膜温度をステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5における成膜温度が、ステップ3における成膜温度よりも低くなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
また、上述の目的を達成するさらに他の手法として、例えば、NH3ガスの供給流量のGaClガスの供給流量に対する比率(NH3/GaCl)を、ステップ3とステップ5とで異ならせる手法がある。例えば、ステップ5におけるNH3/GaCl比率が、ステップ3におけるNH3/GaCl比率よりも大きくなるように設定する。これにより、ステップ3では沿面方向に向けた結晶成長が比較的活発となり、また、ステップ5では主面方向に向けた結晶成長が比較的活発となる。
ステップ5を実施する際の処理条件としては、以下が例示される。
成膜温度(基板20の温度):980〜1100℃
成膜圧力(成膜室201内の圧力):90〜105kPa、好ましくは、90〜95kPa
GaClガスの分圧:1.5〜15kPa
NH3ガスの分圧/GaClガスの分圧:4〜20
N2ガスの流量/H2ガスの流量:0〜1
所望の膜厚のGaN膜21を成長させた後、ステップ3終了時と同様の処理手順により成膜処理を停止し、GaN膜21を成長させた基板20を成膜室201内から搬出する。その後、GaN膜21をその成長面と平行にスライスすることにより、図7(b)に示すように、円板状の外形を有するGaN基板30を1枚以上得ることができる。GaN基板30も、100mm以上、さらには150mm(6インチ)を超える大径の円形基板となる。なお、基板20とGaN膜21との積層構造全体をGaN基板30と考えることもできる。また、GaN膜21から基板20を切り出す場合には、切り出した基板20を用いてステップ5を再実施すること、すなわち、切り出した基板20を再利用することもできる。
なお、GaN基板30は、基板10の接合部の影響を間接的に受けることで、欠陥密度や内部歪みが相対的に大きくなっている高欠陥領域、すなわち、強度や品質が相対的に低下している領域を有する場合がある。高欠陥領域は、GaN膜21における平均的な欠陥密度(或いは内部歪み)よりも大きな欠陥密度(内部歪み)を有する領域のことである。この高欠陥領域の存在は、表面に溝や段差が形成されることで目視できる場合もあるし、目視できない場合もある。目視できない場合であっても、X線回折等の公知の分析手法を用いることで、その存在を確認することが可能である。本実施形態のように基板10の主面を正六角形とした場合、GaN基板30が有する高欠陥領域は、図9に網掛けで示すように、平面形状が正六角形である輪郭形状を組み合わせたハニカムパターンを構成することとなる。図9に示すように、高欠陥領域は、GaN基板30の主面上に連続するように形成されることで、GaN基板30の主面上に存在する低欠陥領域を区分けしているともいえる。また、このハニカムパターンは、GaN基板30の主面の中心を通りこの主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、2回以上、本実施形態では6回の回転対称性を有しているともいえる。このハニカムパターンは、GaN膜21の厚さや成膜条件等に応じ、その形状がぼやけたり(輪郭が滲んだり)、変形したりする場合がある。特に、GaN膜21をスライスしてGaN基板30を複数取得する場合、GaN膜21の表面側から取得したGaN基板30において、その傾向が強くなる。
(2)本実施形態により得られる効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果が得られる。
(a)比較的小径の基板10を複数組み合わせることで、基板20の外径や形状を任意に変更することが可能となる。この場合、基板20を大径化させたとしても、その主面内におけるオフ角のばらつきの増加を抑制することが可能となる。例えば、基板20全体での主面内におけるオフ角のばらつきを、それぞれの基板10の主面内におけるオフ角のばらつきと同等以下とすることが可能となる。このように、オフ角のばらつきの少ない大径の基板20を用いることで、高品質なGaN基板30を製造することが可能となる。
(b)隣接する基板10間におけるナノインデンテーション硬度の差を3.7GPa以内、好ましくは2.1GPa以内とすることで、自立した基板20において、特定の基板10或いはその周囲の接合部に応力が集中することを抑制できる。すなわち、自立した基板20において、基板10或いはその周囲の接合部に加わる応力をその面内にわたり均等に分散させることができる。このため、GaN膜14,21の特定の箇所にクラックが入ることを抑制でき、高品質なGaN膜21を得ることができ、その結果、良質(高品質)なGaN基板30を得ることができる。また、GaN膜14にクラックが入ることを抑制することで、基板20が割れにくい良質な基板となる。これにより、基板20の自立状態を維持しやすくなり、基板20のハンドリング性を向上させることができる。例えば、ハンドル基板としての保持板12がなくても、基板20の自立状態を維持でき、基板20を自立させた状態で上述のステップ5を実施することができる。基板20を構成する全ての基板10間におけるナノインデンテーション硬度の差を3.7GPa以内、好ましくは2.1GPa以内とすることで、上述の効果を確実に得ることができる。
(c)基板10の平面形状を正六角形とすることで、基板10を組み合わせたハニカムパターンは、2回以上、本実施形態では6回の回転対称性を有することとなる。これにより、基板20に含まれる欠陥や歪み、すなわち、隣接する基板10の接合部の影響を受けることで生じた欠陥や歪みを、その面内にわたりより均等に(6回の回転対称性を有するように)分散させることが可能となる。その結果、基板20を用いて作製されたGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたって均等であり、割れにくい良質な基板とすることが可能となる。
(d)基板10の平面形状を正六角形とすることで、複数の基板10は、平面視において相互に噛み合わせるように配置される。これにより、ステップ2で接着剤11の固化が完了する前や、ステップ3やその後の工程において、基板10の配列ずれを抑制できるようになる。結果として、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させるGaN膜14,21の品質を向上させたりすることが可能となる。
(e)基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する面の総てをM面又はa面であって、かつ、互いに同一方位の面とすることで、ステップ3(結晶成長工程)で隣接する基板10を接合させる際、その接合強度を高めることが可能となる。例えば、基板10をM面同士又はa面同士で接合させること、特にa面同士で接合させることで、これらを「M面又はa面」以外の面同士で接合させる場合よりも、その接合強度を高めることが可能となる。
(f)複数の基板10を保持板12上に接着させた状態(接着剤11を固化させた状態)でGaN膜14の結晶成長を行うことから、その過程での基板10の配列ずれを抑制でき、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させる結晶の品質を向上させたりすることが可能となる。また、接着剤11を用いずに、基板10を外周から治具で固定することで保持板12上に固定する場合に比べ、基板10間の接合強度を高めたり、これらの上に成長させる結晶の品質を向上させたりすることが可能となる。というのも、治具を用いる場合、少なくとも室温において、並べられた基板10にはその配列方向に沿って圧力が加わることとなる。すると、成膜温度では熱膨張の影響によりその圧力が増大し、基板10の配列が崩れたり、主面が同一平面上に存在し得なくなったり、基板10にチッピングやクラックが生じたりし、さらに、その際に発生したパーティクルが主面上に乗ったりする場合がある。接着剤11を用いて基板10を接着することで、これらの課題を回避することが可能となる。
(g)複数の基板10を保持板12上に接着させた状態(接着剤11を固化させた状態)で結晶成長を行うことから、各基板10上に成長する結晶が相互作用することで基板10に応力が加わったとしても、基板10の位置ずれ等を回避できるようになる。結晶成長を進行させると、各基板10上に成長する結晶の成長面が連続した面となるように、すなわち、基板10を傾けたり持ち上げたりするように相互作用が働くことになるが、本実施形態のように接着剤11を固化させた状態で結晶成長を行うことで、その過程で基板10が傾いたり持ち上がったりすることを回避できるようになる。結果として、最終的に得られる基板20の反りを抑制することができ、基板20の主面全体におけるオフ角のばらつきの増加を回避することができるようになる。
(h)基板20を円板状とすることで、基板20上に成長させる結晶の面内均一性を向上させることが可能となる。これは、本実施形態のようにHVPE装置200内で基板20を回転させて気相成長を行う際、基板20を円板状とすることで、基板20の面内における原料ガスなどの供給条件を均等なものとすることが可能となるためである。これに対し、図14(a)に示すような短冊状の種結晶基板を接合させてなる矩形状の結晶成長用基板を用いる場合や、図14(b)に示すような、同一寸法、同一形状の六角形の種結晶基板を接合させてなるハニカム形状の結晶成長用基板を用いる場合、それらの内周側(ゾーンA)と外周側(ゾーンB)とで、原料ガス等の供給量や消費量、温度等の諸条件に差異が生じやすくなる。そのため、これらの場合には、本実施形態のように結晶の面内均一性を高めることは困難となる。
<他の実施形態>
以上、本発明の実施形態を具体的に説明した。しかしながら、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
(a)上述の実施形態では、基板10を組み合わせたハニカムパターンが、基板20の主面の中心を通りその主面に直交する軸を中心軸として基板20を一回転させたとき、6回の対称性を有する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。
例えば、図3(a)に示すように、基板10を組み合わせたハニカムパターンが3回の回転対称性を有する場合であっても、上述の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。但し、図2(a)に示す配列の方が、図3(a)に示す配列よりも、基板20に含まれる欠陥や歪みをその面内にわたり均等に分散させることが可能となる点で好ましい。またその結果、最終的に得られるGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたってより均等であり、より割れにくい良質な基板とすることが可能となる点で、好ましい。また、ステップ3の終了時、降温に伴って基板20の面内方向に加わる応力をより均等に分散でき、基板20の損傷を回避しやすくなる点で、好ましい。
また例えば、図4(a)に示すように、基板10を組み合わせたハニカムパターンが2回の回転対称性(すなわち線対称性)を有する場合であっても、上述の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。但し、図2(a)や図3(a)に示す配列の方が、図4(a)に示す配列よりも、基板20に含まれる欠陥や歪みをその面内にわたりより均等に分散させることが可能となる点で好ましい。またその結果、最終的に得られるGaN基板30についても同様の効果が得られ、この基板を、反りの分布が面内にわたってより均等であり、より割れにくい良質な基板とすることが可能となる点で、好ましい。また、ステップ3の終了時、降温に伴って基板20の面内方向に加わる応力をより均等に分散でき、基板20の損傷を回避しやすくなる点で、好ましい。
(b)上述の実施形態では、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する総ての面をa面とする場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されず、a面以外の面で接合させるようにしてもよい。
例えば、基板10の側面のうち、他の基板10の側面と対向する総ての面をM面としてもよい。M面は劈開させやすい面であることから、基板5から基板10を、低コストで効率よく作製することが可能となる。この場合、基板5の裏面側に形成する凹溝(スクライブ溝)の深さは、基板Tの厚さの例えば20%以上60%以下の範囲内の深さとするのが好ましい。凹溝の深さを、a面で劈開させる場合に比べて浅く設定することで、スクライブ溝の形成に要する時間を短縮させることができ、基板20を製造する際の生産性を向上させることが可能となる。また、基板10の側面に出現させる劈開面の面積を広く確保することができ、結果として、M面接合の場合には不足しがちな隣接する基板10間の接合強度を補うことが可能となる場合がある。
また、この場合、複数の基板5を用意する際に、それぞれの基板5の主面内におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.1°未満であり、かつ、複数の基板5間におけるオフ角のばらつき(オフ角の最大値と最小値との差)が0.1°未満であることが好ましい。これにより、隣接する基板10の接合強度をさらに高めることが可能となる。
また、この場合、隣接する基板10の厚さを異ならせ、これらの主面の高さに差を設けることでも、隣接する基板10の接合強度を高めることが可能となる。これは、主面の高さに差を設けることで、隣接する基板10の接合部周辺におけるガス流を乱す(接合部周辺にガスの滞留を生じさせる)ことができ、これにより、接合部周辺での結晶成長を局所的に促進させることが可能となるためである。また、主面の高さに差を設けることで、接合部周辺を流れるガス流の向き等を適正に制御することができ、これにより、沿面方向に向けた結晶成長を促進させることができるためである。
(c)上述の実施形態では、保持板12と基板10とを異なる材料により構成し、これらを、接着剤11を用いて接合する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、GaN多結晶からなる基板(GaN多結晶基板)を保持板12として用い、保持板12と基板10とを接着剤11を介さずに直接接合するようにしてもよい。例えば、GaN多結晶からなる保持板12の表面をプラズマ処理することでその主面をOH基で終端させ、その後、保持板12の主面上に基板10を直接載置することで、これらを一体に接合させることができる。そして、保持板12と基板10とが接合されてなる積層体をアニール処理することで、保持板12と基板10との間に残留する水分等を除去することができ、この積層体を、上述の組立基板13、或いは、基板20として好適に用いることが可能となる。
(d)上述の実施形態では、ステップ3,5において結晶成長法としてハイドライド気相成長法(HVPE法)を用いる場合について説明したが、本発明はこのような態様に限定されない。例えば、ステップ3,5のうちいずれか、或いは、両方において、有機金属気相成長法(MOCVD法)や酸化物気相成長法(OVPE法)等のHVPE法以外の結晶成長法を用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
(e)上述の実施形態では、保持板12から引き剥がすことで自立させた基板20を用意し、これを用いてGaN膜21を成長させてGaN基板30を製造する場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、組立基板13を用意した後、図8(a)に示すように基板10上にGaN膜14を厚く成長させ、その後、図8(b)に示すようにGaN膜14をスライスすることで1枚以上のGaN基板30を取得するようにしてもよい。すなわち、基板20を自立させる工程を経ることなく、組立基板13の用意からGaN基板30の製造までを一貫して行うようにしてもよい。この場合、上述の実施形態とは異なり、基板10の加熱が保持板12や接着剤11を介して行われることから、加熱効率が低下する。しかしながら、他の点では、上述の実施形態とほぼ同様の効果が得られる。この場合、ステップ3の気相成長工程を省略してもよい。また、ステップ3,5の成長条件を上述のように異ならせ、これらのステップをそれぞれ省略せずに行うようにしてもよい。
(f)上述の実施形態では、隣接する基板10を接合させて基板20として用いる場合、すなわち、基板20が基板10を含む場合について説明した。しかしながら、本発明はこのような態様に限定されない。すなわち、上述のように厚く成長させたGaN膜14をスライスすることで得られた1枚以上の基板のそれぞれを、基板20として用いるようにしてもよい。この場合であっても、上述の実施形態と同様の効果が得られる。
なお、このようにして得られた基板20は、上述の実施形態とは異なり基板10をその構成に含まないが、GaN基板30と同様、基板10の接合部の影響を間接的に受けることで、欠陥密度や内部歪みが相対的に大きくなっている高欠陥領域を有する場合がある。基板10の主面を正六角形とした場合、図9に網掛けで示すように、高欠陥領域がハニカムパターンを構成し、6回の回転対称性を有する点は、上述した通りである。
(g)本発明は、GaNに限らず、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、窒化アルミニウムガリウム(AlGaN)、窒化インジウム(InN)、窒化インジウムガリウム(InGaN)、窒化アルミニウムインジウムガリウム(AlInGaN)等の窒化物結晶、すなわち、AlxInyGa1−x−yN(0≦x+y≦1)の組成式で表されるIII族窒化物結晶からなる基板を製造する際にも、好適に適用可能である。
以下、本発明の効果を裏付ける各種実験結果について説明する。
(サンプル1)
複数の種結晶基板として、ナノインデンテーション硬度の差が3.7GPaである複数の種結晶基板からなる基板群を用意した。これら複数の種結晶基板を、それらの主面が互いに平行となり、それらの側面が互いに対向するように、接着剤を介して保持板上に配置して組立基板を作製した。これらの各組立基板の主面上に隣接する種結晶基板間を接合する接合膜(GaN結晶膜)を、上述の実施形態の条件の範囲内の条件で成長させた後、隣接する種結晶基板が接合されてなる結晶成長用基板を保持板から引き剥がし、結晶成長用基板を自立させた。この自立状態にある結晶成長用基板の主面上に上述の実施形態の条件の範囲内の条件で本格成長膜(GaN結晶膜)を成長させた。種結晶基板上に窒化物結晶を成長させた状態である、結晶成長用基板と本格成長膜との積層体をサンプル1とし、図10(a)にこの積層体の写真を示す。
(サンプル2,3)
サンプル2では、複数の種結晶基板として、ナノインデンテーション硬度の差が2.1GPaである基板群を用意した。サンプル3では、複数の種結晶基板として、ナノインデンテーション硬度の差が3.8GPaである基板群を用意した。その他はサンプル1と同様にして、接合膜、本格成長膜を成長させた。このときの結晶成長用基板と本格成長膜との積層体をサンプル2,3とし、図10(b)、図11にこれらの積層体の写真を示す。
図10(a)から、複数の種結晶基板間(隣接する種結晶基板間)で、そのナノインデンテーション硬度の差が3.7GPaであると、種結晶基板上に、クラックが殆どない高品質な窒化物結晶(本格成長膜)を成長させることができることを確認した。また、図10(b)から、複数の種結晶基板間でその硬度差が2.1GPaであると、クラックの発生がなく主面が鏡面である窒化物結晶、すなわち、図10(a)に示す場合よりもさらに高品質な窒化物結晶を種結晶基板上に成長させることができることを確認した。図11から、複数の種結晶基板間で硬度差が3.8GPaであると、本格成長膜のクラックの発生を抑制できず、本格成長膜の品質が低くなることを確認した。
<本発明の好ましい態様>
以下、本発明の好ましい態様について付記する。
(付記1)
本発明の一態様によれば、
主面が互いに平行となり、側面が互いに対向するように平面状に配置された窒化物結晶からなる複数の種結晶基板を備え、複数の前記種結晶基板の中から任意に選択された隣接する種結晶基板間におけるナノインデンテーション硬度の差が3.7GPa以内である結晶成長用基板を用意する第1工程と、
前記結晶成長用基板が有する下地面上に結晶膜を成長させる第2工程と、
を有する窒化物結晶基板の製造方法が提供される。
(付記2)
好ましくは、付記1に記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、前記隣接する種結晶基板間におけるナノインデンテーション硬度の差が2.1GPa以内である基板を用意する。
(付記3)
また好ましくは、付記1又は2に記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、前記結晶成長用基板が備える全ての前記種結晶基板間におけるナノインデンテーション硬度の差が3.7GPa以内である基板を用意する。
(付記4)
また好ましくは、付記1〜3のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、隣接する前記種結晶基板間におけるシリコン濃度の差が1.5×1018at/cm3以内である基板を用意する。
(付記5)
また好ましくは、付記1〜4のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、隣接する前記種結晶基板間におけるゲルマニウム濃度の差が1.1×1018at/cm3以内である基板を用意する。
(付記6)
また好ましくは、付記1〜5のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、複数の前記種結晶基板が総てGaN結晶からなり、それらの主面は総てc面で構成され、他の種結晶基板と対向する側面は総てa面のみ、或いは、総てM面のみで構成されている基板を用意する。
(付記7)
また好ましくは、付記1〜6のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、複数の前記種結晶基板の中から任意に選択された種結晶基板が、少なくとも2以上の他の種結晶基板と対向するように構成されている基板を用意する。
(付記8)
また好ましくは、付記1〜7のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、複数の前記種結晶基板の中から任意に選択された種結晶基板が有する2以上の側面が互いに直交しないように構成されている基板を用意する。
(付記9)
また好ましくは、付記1〜8のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、複数の前記種結晶基板のうち少なくとも前記結晶成長用基板の周縁部以外の部分を構成する基板が平面視で正六角形の主面を有し、前記結晶成長用基板の主面の中心を通り前記主面に直交する軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、前記種結晶基板を組み合わせたハニカムパターンが3回以上の対称性を有する基板を用意する。
(付記10)
また好ましくは、付記9のいずれかに記載の方法であって、
前記第1工程では、前記結晶成長用基板として、前記軸を中心軸として前記結晶成長用基板を一回転させたとき、前記ハニカムパターンが6回の対称性を有する基板を用意する。
(付記11)
また好ましくは、付記1〜10のいずれかに記載の方法であって、
前記結晶膜上にさらに窒化物結晶を成長させる工程と、
前記窒化物結晶の成長層から窒化物結晶基板を切り出す工程と、
をさらに有する。
(付記12)
本発明の他の態様によれば、
窒化物結晶を成長させる下地面を有する結晶成長用基板であって、
主面が互いに平行となり、側面が互いに対向するように平面状に配置された窒化物結晶からなる複数の種結晶基板を備え、
複数の前記種結晶基板の中から任意に選択された隣接する前記種結晶基板間におけるナノインデンテーション硬度の差が3.7GPa以内である結晶成長用基板が提供される。