JP6977666B2 - 低ソーダα−アルミナ粉体及びその製造方法 - Google Patents

低ソーダα−アルミナ粉体及びその製造方法 Download PDF

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この発明は、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムから製造されるα−アルミナ粉体であり、特に低ソーダであると共に樹脂やゴム中に高充填可能な粘度特性に優れた低ソーダα−アルミナ粉体及びその製造方法に関する。
アルミナは、従来から種々の樹脂に充填するフィラーとして幅広く用いられており、その主な用途の一つとして、電気絶縁性と化学的安定性を兼ね備えた放熱フィラーとしての使用があり、例えば、放熱シート、光ピックアップ部品、放熱グリース、回路基板のポッティング剤、放熱性を付与したテープや接着剤、種々の射出成型品、モーターやICの封止材、銅張積層基板等を始めとして、様々な分野で幅広い用途に使用されている。
このような工業的に用いられるアルミナとして、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを焼成した、か焼アルミナが大量に生産されている。ところが、バイヤー法由来の水酸化アルミニウムには、ソーダ分が不可避的に含まれており、これがアルミナにそのまま持ち込まれると、ソーダ分が電気絶縁性を阻害する要因になるため、ソーダ分をできるだけ除去する必要がある。
また、アルミナを樹脂充填用の放熱フィラーとして用いる場合、その目的を十分に果たすためには、ソーダ分が低いことに加えて、アルミナを樹脂又はゴム中に可及的に高い配合割合で充填して高い熱伝導性を達成することが求められる。しかしながら、通常、樹脂又はゴム中への充填率が高くなると、得られたアルミナ充填樹脂組成物の粘度(樹脂充填時粘度)が高くなり、流動性が悪化して成形加工性が低下し、また、放熱シート等の用途に用いた場合には、その硬度が上昇し、可撓性が不足して、被覆対象物の凹凸に追従できなくなることがあるほか、脱気が困難となり、ボイドが発生する。更には、アルミナの充填量が上がらず、目的の熱伝導率が得られない等の問題が生じる。
そこで、特許文献1では、バイヤー法で得られたソーダ分がNaOとして0.3質量%以下の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、特定の焼成容器を使用して成形密度(成型圧:98.07MPa)2.05g/cm3以上及びBET比表面積0.9m2/g以下となるように焼成し、次いで粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が所定の値の範囲内に収まるように粉砕することにより、低ソーダであると共に平均粒子径が2〜5μmであり、しかも、粒度分布がシャープなα−アルミナ粉体を得ている。
この特許文献1におけるα−アルミナ粉体は、樹脂充填時の分散性が良く、樹脂充填時の粘度が低くて、樹脂充填用のアルミナとして有用なものである。ところが、絶縁材料や電子部品材料等の放熱フィラーや、セラミックス用途等として使用する場合には、ソーダ分を更に低減させたいという要望がある。
そこで、例えば特許文献2に記載されているように、α-アルミナ粉体をリパルプ洗浄し、更に純水を通水して洗浄して、ソーダ分を低減させる方法が知られている。ところが、このような洗浄処理を特許文献1に記載されたα−アルミナ粉体に適用すると、ソーダ分の低減効果は確認されるものの、樹脂への充填性や樹脂充填時の粘性が悪化してしまうという新たな問題を引き起こすおそれがあることが分かった。
なお、例えば特許文献3や特許文献4のように、シランカップリング剤で処理してアルミナの表面を被覆することで、マトリックスの樹脂やゴムとの相溶性を向上させたり、アルミナ充填樹脂組成物を硬化させた硬化物の機械的強度が高められることなどが知られているが、これらのシランカップリング剤による被覆処理は、アルミナのソーダ分を除去するものとは異なる。
特開2015−166294号公報 特開2008−150238号公報 特開平11−209618号公報 特開平3−237151号公報
上述した特許文献1に記載されたα−アルミナ粉体を水で洗浄した場合に問題となる樹脂への充填性や樹脂充填時の粘性の悪化について、その原因を究明すべく検討を重ねたところ、洗浄後のα−アルミナ粉体のBET比表面積が上昇していることが確認された。この理由については現時点では完全に明らかになっていないが、アルミナ粒子の表面が水和することが関係していると考えられる。すなわち、水和によってアルミナ粒子の表面が荒れてBET比表面積が高くなり、樹脂への充填性や粘性が悪化するものと考えられる。また、BET比表面積が高くなるとアルミナ粒子同士が凝集し易くなり、フィラー用途として望ましくない品質となってしまい、更には、水和により耐熱性を低下させてしまうおそれもある。また、シリコーン樹脂の硬化阻害を起こすおそれがある。
そこで、本発明者らは、ソーダ分を更に低減しながら、樹脂やゴム中に高充填可能であって、粘度特性に優れた低ソーダα−アルミナ粉体を得るために鋭意検討した結果、加水分解性基を有した有機シラン化合物が水に添加された処理水溶液にα−アルミナ粉体を入れて、攪拌することで、ソーダ分を除去することができると共に、アルミナ粒子の表面の水和が抑制されて、BET比表面積の上昇を防ぐことができることを見出した。そして、このようにして得られた低ソーダα−アルミナ粉体は樹脂やゴム中に高充填可能であり、粘度特性にも優れることから、本発明を完成させた。
したがって、本発明の目的は、低ソーダであると共に、樹脂やゴム中に高充填可能であり、粘度特性にも優れた低ソーダα−アルミナ粉体を提供することにある。
また、本発明の別の目的は、バイヤー法で得られた安価な水酸化アルミニウムを原料にして、低ソーダであると共に樹脂やゴム中に高充填可能で粘度特性にも優れた低ソーダα−アルミナ粉体を得ることができる低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法を提供することにある。
すなわち、本発明は、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下であると共に、粒子表面に付着して洗浄除去可能なフリーのソーダ(f-Na2O)分含有量が0.001質量%以上0.015質量%以下であり、BET比表面積が1.0m2/g以上2.0m2/g未満であることを特徴とする低ソーダα−アルミナ粉体である。
また、本発明は、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、かつ全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下のα−アルミナ粉体からなる原料アルミナ粉体を、加水分解性基を有した有機シラン化合物が水に添加された処理水溶液に対して、原料アルミナ粉体に対する処理水溶液中の有機シラン化合物の割合が0.010mol/kg-Al2O3以上となるように投入して攪拌するシラン処理を行い、固液分離して、固形成分を乾燥させた後、解砕することで、粒子表面に付着して洗浄除去可能なフリーのソーダ(f-Na2O)分含有量が0.001質量%以上0.015質量%以下であり、BET比表面積が1.0m2/g以上2.0m2/g未満の低ソーダα−アルミナ粉体を得ることを特徴とする低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法である。
本発明の粘度特性に優れた低ソーダα−アルミナ粉体は、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下、原料がバイヤー法由来の水酸化アルミニウムであり、分散性や熱伝導性を考慮すると好ましくは2.5μm以上4.0μm以下であり、また、全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下、電気絶縁性を考慮すると好ましくは0.08質量%以下であり、更に、粒子表面に付着して洗浄除去可能なフリーのソーダ(f-Na2O)分含有量が0.001質量%以上0.015質量%以下、好ましくは0.001質量%以上0.012質量%以下であり、更にまた、BET比表面積が1.0m2/g以上2.0m2/g未満、好ましくは1.2m2/g以上1.8m2/g以下である。
このうち、平均粒子径(Dp50)については、この平均粒子径を大きくすれば、フィラーとして樹脂やゴムに充填した組成物からなる成形物の熱伝導率がそれだけ高くなるが、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを原料とする場合にはαアルミナの一次粒子径を5μm以上にすることが難しい。
また、全ソーダ(T-Na2O)分含有量については、α−アルミナ粉体の用途によっても異なるが、例えば電子部品用途においては0.1質量%以下であることが必須であり、この0.1質量%を超えると電気絶縁性が得られないという問題が生じる。ここで、本発明におけるシラン処理前の原料アルミナ粉体には、0.02〜0.03質量%程度のフリーのソーダ(f-Na2O)分が含まれるが、シラン処理によってこのフリーのソーダ(f-Na2O)分が低減されることから、本発明に係る低ソーダα−アルミナ粉体の全ソーダ(T-Na2O)分は、上記のような好ましい含有量(0.08質量%以下)にすることができる。また、この全ソーダ(T-Na2O)分の含有量は少なくなるのがよいことは勿論であるが、バイヤー法由来の水酸化アルミニウムを原料にすることを考慮すると、本発明に係る低ソーダα−アルミナ粉体や後述する原料アルミナ粉体における全ソーダ分含有量は、現在の技術では0.001質量%より少なくすることは困難であると考えられる。
また、BET比表面積については、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを原料とし、それを焼成して得られたアルミナを粉砕した場合には、BET比表面積が1.0m2/gより小さいものを得るのが難しく、反対に2.0m2/gを超えると、結果的に樹脂やゴムへの充填性が悪化して、放熱シートの場合には熱伝導率が劣るものとなってしまう。
ここで、本発明におけるアルミナ粉体の粒子径に関しては、いずれもレーザー散乱法粒度測定器〔日機装社製Microtrac 9320HRA(×100)〕を用いて測定したものであり、平均粒子径(Dp50)は積算粒度分布率50体積%に対応する粒子径(Dp50)である。また、後述する粒子径(Dp90)は積算粒度分布率90体積%に対応する粒子径(Dp90)であり、粒子径(Dp10)は積算粒度分布率10体積%に対応する粒子径(Dp10)である。また、BET比表面積は、比表面積自動測定装置(マイクロメリテックス製フローソーブII2300形)を用い、N2ガス吸着法により測定された値である。
また、全ソーダ(T-Na2O)分含有量は、蛍光X線分析装置(リガク製、ZSX100e)を用いて、蛍光X線強度を測定し、事前に求めた検量線から含有量(質量%)を定量したものである。一方、フリーのソーダ(f-Na2O)分含有量は、アルミナ粉体に水を加え(質量比でアルミナ粉体:水=1:60)、沸騰している湯煎で30分間Naを溶出させて、原子吸光分光光度計(日立ハイテクノロジーズ製、Z−2000、測定モード;原子吸光、測定波長範囲;589.0nm)を用いて測定し、NaO換算して求めたものである。
また、本発明における低ソーダα−アルミナ粉体は、好ましくは二酸化ケイ素(SiO2)含有量が0.040質量%以上0.500質量%以下であるのがよい。一般に、α−アルミナ粉体は、原料に由来するものや焼成の過程で混入すると考えられるSiOを不純物として含有するが、その含有量は0.01〜0.03質量%程度である。それに対して、本発明では、シラン処理において有機シラン化合物由来のSiが更に含まれるようになることから、上記のSiO含有量を指標にすることで、水和によってアルミナ粒子の表面が荒れてBET比表面積が高くなることが抑制されると言うことができる。なお、二酸化ケイ素(SiO2)含有量は、ダブルビーム分光光度計(日立製作所製、U−3010)を用いて、モリブデン青吸光光度法によりSiを定量、SiOへ換算したものである。
また、本発明における低ソーダα−アルミナ粉体は、好ましくは、DOP吸油量が15ml/100g以上25ml/100g以下であるのがよく、より好ましくは15ml/100g以上20ml/100g以下であるのがよい。DOP吸油量がこの範囲内であれば、樹脂やゴムとの混練性に加えて、成形時等における流動性が良好となり、粘度特性や充填性に優れるほか、例えば、成形時にボイドが発生するようなおそれもない。ここで、DOP吸油量は、JIS K5101−1991に準拠して測定したものであり、具体的には、アルミナ粒子5.0gにDOP油を滴下し、1つの団子状にまとまるまでの油量をアルミナ粒子100gに換算した量を示す。
これらのような低ソーダα−アルミナ粉体は、下記の製造方法によって得ることができる。
すなわち、本発明の低ソーダα−アルミナ粉体は、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、かつ全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下のα−アルミナ粉体を原料アルミナ粉体として、これを、加水分解性基を有した有機シラン化合物が水に添加された処理水溶液に投入し、攪拌するシラン処理を行い、固液分離し、固形成分を乾燥させた後に解砕して製造する。
先ず、シラン処理に用いる処理水溶液については、加水分解性基を有した有機シラン化合物が水に添加されたものであり、この加水分解性基の少なくとも一部が加水分解してシラノール化した加水分解水溶液(すなわち有機シラノールを含んだ処理水溶液)である。このような処理水溶液で原料アルミナ粉体を処理することで、アルミナ粒子の表面に付着したフリーのソーダ(f-Na2O)分を洗浄することができると共に、アルミナ粒子の表面に有機シラノールが付着するため、アルミナ粒子の水和が抑えられ、BET比表面積の上昇を抑制することができる。
ここで、有機シラン化合物については、好ましくは、下記一般式(1)や(2)で表されるように、1つの分子中に有機官能基(R3及びR5)と加水分解性基(OR1及びOR4)を有したものであり、例えば、このような有機シラン化合物の1種又は2種以上を水に添加して攪拌することで、上記のような処理水溶液を得ることができる。
(RO)3−m Si−R (1)
(式中、Rは独立に置換基を有していてもよい炭素原子数1〜2のアルキル基を表し、Rは置換基を有していてもよい炭素原子数1のアルキル基を表し、Rは鎖中及び/又は末端に、エポキシ基、スチリル基、メタクリル基、アクリル基、アミノ基、ウレイド基、メルカプト基、及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1つの官能基を有するアルキル基を表し、mは0〜1の整数を表す。)
(RO)4−nSi−R (2)
〔式中、Rは独立に置換基を有していてもよい炭素数1〜2のアルキル基を表す。Rは独立に炭素数1〜10の有機基(アルキル基、アルケニル基またはアリール基)を表し、具体的には、メチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基、ビニル基、フェニル基等が挙げられる。また、nは1〜2の整数を表す〕
原料アルミナ粉体を処理水溶液で処理するに際しては、原料アルミナ粉体1kg当りの有機シラン化合物のモル数で規定すれば、原料アルミナ粉体に対する処理水溶液中の有機シラン化合物の割合〔有機シラン化合物のモル数(mol)/原料アルミナ粉体(kg-Al2O3)〕が0.010mol/kg-Al2O3以上、好ましくは0.011mol/kg-Al2O3以上となるように、原料アルミナ粉体を処理水溶液に投入して攪拌する。この割合が0.010mol/kg-Al2O3未満であるとアルミナ粒子の水和が十分に抑えられずに、BET比表面積が上昇してしまう。アルミナ粒子の水和を確実に抑制する観点で言えばこの割合が高くなる分には問題はないが、高くなり過ぎても効果が飽和するばかりか、固液分離の際に有機シラン化合物由来の有機シラノールの過剰分は除かれてしまうため費用対効果が低下し、しかも、原料アルミナ粉体の処理量が相対的に少なくなって、処理効率(歩留まり)が低下してしまう。そのため、上限を規定するとすれば0.20mol/kg-Al2O3程度で十分である。
また、処理水溶液における有機シラン化合物の添加量については、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下であるのがよく、より好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下であるのがよい。この添加量が0.1質量%以上であれば、アルミナ粒子の水和を確実に抑えて、BET比表面積の上昇を抑制することができる。一方で、処理水溶液における有機シラン化合物の添加量が多くなり過ぎると、ソーダ分の除去効果が低下するおそれや、過剰なシランが装置へ付着し、使用した機器の清掃により多くの手間が掛かるおそれがあることから、5.0質量%以下であるのがよい。
原料アルミナ粉体を処理水溶液で処理するにあたっては、原料アルミナ粉体が投入された処理水溶液を1〜24時間程度攪拌するのがよく、ソーダ分の除去を確実にするために、好ましくは12時間以上攪拌するのがよい。一方で、攪拌時間が24時間を超えても効果が飽和するため、経済性等を考慮すると攪拌時間の上限は24時間程度であると言える。
また、好ましくは、シラン処理後の二酸化ケイ素(SiO2)含有量の増加分が0.02質量%以上になるように、原料アルミナ粉体を処理水溶液で処理するようにするのがよい。すなわち、原料アルミナ粉体における二酸化ケイ素(SiO2)の含有量C1とシラン処理後の低ソーダα−アルミナ粉体における二酸化ケイ素(SiO2)の含有量C2とを比較して、これらの差分C2−C1が0.02質量%以上となるようにするのがよい。また、この差分C2−C1の上限は特に制限されないが、0.10質量%であれば十分であると言える。
シラン処理後は、原料アルミナ粉体が投入された処理水溶液を真空ろ過機や遠心分離機、加圧濾過機等を用いて固液分離し、固形成分を回収して、その固形成分を乾燥させた後、解砕する。この固形成分の乾燥処理では、100〜110℃程度に加熱して行うようにしてもよい。また、乾燥後の固形成分は一部凝集したような状態となることから、その解砕処理には、例えば、乳鉢やボールミル、その他一般的な粉体用解砕機及び粉砕機等を用いることで、原料アルミナ粉体由来の平均粒子径(Dp50)のものを得ることができる。
また、本発明において原料アルミナ粉体とする、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、かつ全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下のα−アルミナ粉体については、好適には、特開2015−166294号公報(特許文献1)に記載された方法によって得ることができる。すなわち、バイヤー法で得られた全ソーダ(T-Na2O)分0.3質量%以下の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、得られた混合物を所定の条件下に焼成し、次いで得られた焼成物を所定の条件下で粉砕する。
ここで、本発明における原料アルミナ粉体を得るためにアルミナ原料とする上記の水酸化アルミニウムは、好ましくはレーザー散乱法粒度測定器〔日機装社製Microtrac 9320HRA(×100)〕で測定された平均二次粒子径が10μm以上200μm以下、より好ましくは30μm以上150μm以下であるのがよい。この水酸化アルミニウムの平均二次粒子径が10μmより小さいと、求める粒径の原料アルミナ粉体を得るのが困難になり、また、ハンドリング性が悪化し生産効率が低下するおそれがある。反対に、200μmより大きくなると、粒子内に焼成ムラが発生し、粒度分布がブロードになり、また、粉砕に要する時間が増加したり、未粉砕粒子が残るおそれがある。なお、バイヤー法以外の方法、例えば中和法で得られるアルミナ原料は、概ね高比表面積であることから、本発明においてはその使用が困難である。
また、水酸化アルミニウムに添加するハロゲン系鉱化剤としては、例えば、弗化アルミニウム、弗化ナトリウム、氷晶石、弗化マグネシウム、弗化カルシウム等のフッ化物系鉱化剤や、塩化水素、塩化アンモニウム、塩化アルミニウム等の塩化物系鉱化剤や、沃化アンモニウム等の沃化物系鉱化剤等を挙げることができる。水酸化アルミニウムに対するハロゲン系鉱化剤の添加量については、使用する鉱化剤の種類によっても異なるが、例えばフッ化物系硬化剤の場合、混合物中における弗素換算の配合割合が0.05質量%以上1.0質量%以下、好ましくは0.1質量%以上0.5質量%以下となる割合である。このハロゲン系鉱化剤の添加量が0.05質量%より低いと、アルミナの粒子成長効果が不足し、十分な粒径のアルミナ粒子が得られない場合があり、反対に、1.0質量%より高くなると、アルミナ粒子が板状となり、粘性が悪化したり、粒子が割れ易くなるという問題が生じる。
次に、水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合して得られた混合物を焼成するが、混合物の焼成においては、混合物をシリカ含有アルミナセラミック製の焼成容器に充填し、得られた焼成物の成形密度(成型圧:98.07MPa)が2.05g/cm3以上、好ましくは2.1g/cm3以上2.5g/cm3以下であり、また、BET比表面積が0.9m2/g以下、好ましくは0.4m2/g以上0.8m2/g以下となるように焼成する。
ここで、具体的な焼成温度及び焼成時間については、アルミナ原料として用いる水酸化アルミニウムの粒子径や、添加するハロゲン系鉱化剤の種類や添加量等により異なるが、通常、焼成温度が1100℃以上1600℃以下、好ましくは1400℃以上1550℃以下の範囲であり、焼成時間が通常数分以上24時間以下、好ましくは数時間以上20時間以下である。また、得られた焼成物の成形密度(成型圧:98.07MPa)が2.05g/cm3より低いと、アルミナの粒子形状が板状傾向となり、粘性が悪化したり、目的の平均粒子径(Dp50)2〜5μmまで粉砕した場合、最終的に求められる本発明に係る低ソーダα−アルミナ粉体の樹脂充填時の粘性が悪化してしまうおそれがある。更には、BET比表面積が0.9m2/gを超えると、焼成による粒子成長が不十分であり、粉砕しても目的の平均粒子径(Dp50)を下回ったりしてしまうおそれがある。そして、上記の焼成温度が1100℃より低くなると一次粒子が目的の粒子径まで成長できなくなり、反対に1600℃を超えると、最終目的物である低ソーダα−アルミナ粉体の溶着等が発生してハンドリング性が悪化するおそれがある。
なお、上記の成形密度(成型圧:98.07MPa)は、油圧式20トン圧縮試験機(前川試験機製作所製)を用い、40mm×20mm×10mmに成形したピースの質量と体積とを測定して求められた値である。また、上記のBET比表面積は、比表面積自動測定装置(マイクロメリテックス製フローソーブII2300形)を用い、N2ガス吸着法により測定された値である。
以上のようにして得られた焼成物については、次に、粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.10以上1.45以下、好ましくは1.15以上1.40以下の範囲になるように粉砕する。この焼成物の粉砕において、上記の粒径比(Dav/DBET)が1.45より高いと、粉砕不足になり、最終的に求められる本発明の低ソーダα−アルミナ粉体の樹脂充填時の粘度が高くなって粘性が悪化するおそれがある。反対に、1.10より低いと、粉砕過多になってチッピング粒子(微粒子)の発生が多くなり、粒度分布がブロードになるほか、チッピング粒子が凝集した粗大粒子が発生し、最終目的物である低ソーダα−アルミナ粉体の均一分散が困難になるおそれがある。
この焼成物の粉砕においては、粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)を1.10以上1.45以下の範囲に管理するために、具体的には、焼成物の粉砕を始める前にこの焼成物のBET比表面積S(m2/g)を測定し、このBET比表面積S(m2/g)の測定値と原料アルミナ粉体とするα−アルミナ粉体の密度(真比重ρ:3.98g/cm3)とを用い、下記のBET比表面積S(m2/g)及び密度(真比重)ρ(g/cm3)との関係式、すなわちBET相当径(DBET)=6/Sρ(但し、SはBET比表面積を、また、ρはα−アルミナ粉体の真比重3.98である。)からBET相当径(DBET)を算出し、このBET相当径(DBET)を指標にして粉砕後の平均粒子径(Dav)との粒径比(Dav/DBET)が1.10以上1.45以下の範囲内となるように粉砕を行う。
上記の焼成物を粉砕する手段については、目標とする粒径比(Dav/DBET)1.10以上1.45以下を達成できれば、特に制限されるものではないが、例えば、振動ミルや、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星ミル等の容器駆動媒体ミルや、媒体撹拌ミルや、ジェットミル、カウンタージェットミル、ジェットマイザー等の気流式粉砕機等を用いることができる。
上述した方法によって製造されたα−アルミナ粉体は、バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムをアルミナ原料としているにもかかわらず、全ソーダ(T-Na2O)分が0.1質量%以下であって、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、本発明に係る低ソーダα−アルミナ粉体を製造するための原料アルミナ粉体として好適である。しかも、このようにして得られたα−アルミナ粉体は、その粒度分布として、好ましくは45μm篩上量(+45μm)が100ppm以下であり、分布の広さを表すスパン値〔(Dp90−Dp10)/Dp50〕が1.1以下、より好ましくは1.0以下とシャープである。そのため、このα−アルミナ粉体を原料アルミナ粉体として製造される本発明の低ソーダα−アルミナ粉体は、同様の粒度分布を示すことから、樹脂やゴム中の充填時粘度の低い高充填性低ソーダα−アルミナ粉体になる要因のひとつになる。
本発明の低ソーダα−アルミナ粉体は、ソーダ分が更に低減されており、しかも、樹脂やゴム中に高充填可能であって、粘度特性に優れることから、樹脂充填用のアルミナとして極めて有用である。加えて、本発明の低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法では、バイヤー法由来の水酸化アルミニウムを焼成したか焼アルミナを用いており、上記のような粘度特性に優れた低ソーダα−アルミナ粉体を安価に、かつ工業的有利に製造することができる。
図1は、α−アルミナ粉体の水処理による影響を調べるための事前試験で得られたものであって、水処理前後でのα−アルミナ粉体のBET比表面積をグラフにしたものである。 図2は、原料アルミナ粉体に対する処理水溶液中の有機シラン化合物の割合(原料アルミナ粉体1kg当りの有機シラン化合物のモル数)とBET比表面積との関係をグラフにしたものである。 図3は、原料アルミナ粉体に対する処理水溶液中の有機シラン化合物の割合(原料アルミナ粉体1kg当りの有機シラン化合物のモル数)とフリーのソーダ(f-Na2O)分との関係をグラフにしたものである。 図4は、原料アルミナ粉体Aを比較例2と同様の方法で水処理した水処理後の原料アルミナ粉体Aと、原料アルミナ粉体Aを原料とした実施例1のα−アルミナ粉体の示差熱分析結果である。
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの内容に制限されるものではない。なお、下記物性等の評価は、特に断りのない限り、上述した測定機器、測定方法により行ったものである。
〔事前実験:α−アルミナ粉体の水処理による影響〕
先ず、α−アルミナ粉体の水処理による影響を調べるために、下記のような事前実験を行った。
バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム〔平均二次粒子径:55μm及び全ソーダ(T-Na2O)分:0.2質量%〕にハロゲン系鉱化剤として弗化アルミニウムをアルミナ換算で0.4質量%の割合で添加して混合し、得られた混合物を、シリカを含むアルミナセラミックス製の焼成容器内に充填し、トンネルキルン炉を用いて1500℃±10℃、約15時間の条件で焼成した。その際の成形密度(成型圧:98.07MPa)、及び得られた焼成物のBET比表面積は、表1に示したとおりである。
次に、6リットル(L)のポット内に15mmφのアルミナボール7.6kgが収容された振動ボールミル(中央化工機社製)を用い、上記の焼成で得られた焼成物1.5kgを粉砕し、α−アルミナ試料を得た。その際、粉砕時間を変えるようにして、粉砕時間が0時間(実験No.1)、粉砕時間が2時間(実験No.2)、粉砕時間が5時間(実験No.3)、粉砕時間が10時間(実験No.4)、及び粉砕時間が15時間(実験No.5)の5つのα−アルミナ試料を準備した。表1にはこれらのα−アルミナ試料を得る際の粉砕条件〔粉砕時間、粒径比(Dav/DBET)〕と、各α−アルミナ試料の物性等(水処理前のα−アルミナ試料)をまとめて示している。
ここで、α−アルミナ試料の強熱減量(LOI)の測定については、試料であるアルミナ粉体をW(g)秤り取り、大気中、1100℃で1時間強熱し、冷却後のアルミナ粉体の減量W’(g)を求め、また、別途アルミナ粉体をw(g)秤り取り、大気中、300℃で3時間加熱し、冷却後のアルミナ粉体の減量w’(g)を求めて、下記式(3)から算出した。このうち、300℃で3時間の加熱による減量w’は、アルミナ粒子に付着した付着水分に相当するものであり、この減量(%)を除くことで、アルミナ粒子の表面のアルミナ水和物(結晶水)に相当する減量(%)を評価することができる。
強熱減量(%)=〔(W’/W)×100〕−〔(w’/w)×100〕 (3)
次に、上記で準備した5つのα−アルミナ試料について、実験No.ごとに100gのα−アルミナ試料を200ミリリットル(mL)の純水が入ったポリプロピレン製容器に入れて、スリーワンモータで撹拌しながら1時間処理した。処理後はブフナー漏斗を用いて固液分離し、回収したα−アルミナ試料を110℃で24時間乾燥させた後、それぞれ同じ条件となるように乳鉢で粗大凝集粒子がなくなるまで解砕して、水(純水)処理後のα−アルミナ試料を得た。このようにして得たα−アルミナ試料について、表1に物性等(水処理後のα−アルミナ試料)をまとめて示した。また、図1には、これらのα−アルミナ試料の水処理前後でのBET比表面積についてグラフで表している。
Figure 0006977666
図1から明らかなように、焼成物の粉砕時間が0時間(実験No.1)のものと、粉砕時間が2時間(実験No.2)のものでは、水処理の前後でBET比表面積はほとんど変わらない。一方で、粉砕時間がこれらより長いものでは、水処理後のα−アルミナ試料のBET比表面積が上昇していることが分かる。このような違いは水処理前のα−アルミナ試料を得る際の粉砕の程度によると考えられる。すなわち、実験No.1や実験No.2のα−アルミナ試料は、焼成物を粉砕した後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.10〜1.45の範囲の上限から外れており、粉砕の程度が弱いもの(粉砕残り)では、水処理によるBET比表面積への影響は無いものの、粉砕の程度が強いもの(一次粒子に近い状態のもの)では、水処理によってBET比表面積が上昇する。
この点について、表1に示したα−アルミナ試料の強熱減量(LOI)を見れば明らかであり、実験No.1及びNo.2では水処理の前後で値の変化はさほどなく、実験No.3〜5では水処理後の値が大きくなっている。つまり、実験No.3〜5のα−アルミナ試料は、水処理によってアルミナ粒子の表面が水和したものと推察される。
〔原料アルミナ粉体の調整〕
(原料アルミナ粉体A)
バイヤー法で得られた水酸化アルミニウム(平均二次粒子径:55μm及び全ソーダ(T-Na2O)分:0.2質量%)にハロゲン系鉱化剤として弗化アルミニウムをアルミナ換算で0.4質量%の割合で添加して混合し、得られた混合物を、シリカを含むアルミナセラミックス製の焼成容器内に充填し、トンネルキルン炉を用いて1500℃±10℃、約15時間の条件で焼成した。その際の成形密度(成型圧:98.07MPa)、及び得られた焼成物のBET比表面積は、表2に示したとおりである。
次に、ボールミルの内容積に対して44vol%に相当する量の20mmφのアルミナボールを充填した回転ボールミル(中工精機社製)を用い、上記の焼成で得られた焼成物をボールミルの内容積1リットル当たり0.18kgの量で、粉砕後の平均粒子径(Dav)が3.1μmであって、この粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.27となるように粉砕し、原料アルミナ粉体Aを得た。表2にはこの原料アルミナ粉体Aを得る際の粉砕条件〔粉砕時間、粒径比(Dav/DBET)〕と、原料アルミナ粉体Aの物性等をまとめて示している。また、原料アルミナ粉体Aの45μm篩上量(+45μm)は18ppmであり、スパン値は1.1であった。なお、45μm篩上量(+45μm)は、JIS Z8801-1の試験用ふるい(目開45μm)を用いて測定した。また、スパン値は、レーザー散乱法粒度測定器(日機装社製Microtrac 9320HRA(X100))を用いて、積算粒度分布率90体積%に対応する粒子径(Dp90)、積算粒度分布率50体積%に対応する粒子径(Dp50)、及び積算粒度分布率10体積%に対応する粒子径(Dp10)をそれぞれ測定し、〔(Dp90-Dp10)/Dp50〕から求めた。
Figure 0006977666
(原料アルミナ粉体B)
原料アルミナ粉体Aで用いたバイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを用いて、原料アルミナ粉体Aと同様の方法で焼成物を得た。その際の成形密度(成型圧:98.07MPa)及び得られた焼成物のBET比表面積を表2に示す。次に、得られた焼成物を粉砕後の平均粒子径(Dav)が3.0μmであって、粒径比(Dav/DBET)が1.18となるように粉砕したこと以外は原料アルミナ粉体Aと同様の方法で粉砕し、原料アルミナ粉体Bを得た。表2にはこの原料アルミナ粉体Bを得る際の粉砕条件〔粉砕時間、粒径比(Dav/DBET)〕と、原料アルミナ粉体Bの物性等をまとめて示している。
(原料アルミナ粉体C)
原料アルミナ粉体Aで用いたバイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを用いて、原料アルミナ粉体Aと同様の方法で焼成物を得た。その際の成形密度(成型圧:98.07MPa)及び得られた焼成物のBET比表面積を表2に示す。次に、得られた焼成物を粉砕後の平均粒子径(Dav)が2.9μmであって、粒径比(Dav/DBET)が1.14となるように粉砕したこと以外は原料アルミナ粉体Aと同様の方法で粉砕し、原料アルミナ粉体Cを得た。表2にはこの原料アルミナ粉体Cを得る際の粉砕条件〔粉砕時間、粒径比(Dav/DBET)〕と、原料アルミナ粉体Cの物性等をまとめて示している。
(原料アルミナ粉体D)
原料アルミナ粉体Aで用いたバイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを用いて、原料アルミナ粉体Aと同様の方法で焼成物を得た。その際の成形密度(成型圧:98.07MPa)及び得られた焼成物のBET比表面積を表2に示す。次に、6リットル(L)のポット内に15mmφのアルミナボール7.6kgが収容された振動ボールミル(中央化工機社製)を用い、上記の焼成で得られた焼成物1.5kgについて、粉砕後の平均粒子径(Dav)が2.6μmであって、粒径比(Dav/DBET)が1.25となるように粉砕し、原料アルミナ粉体Dを得た。表2にはこの原料アルミナ粉体Dを得る際の粉砕条件〔粉砕時間、粒径比(Dav/DBET)〕と、原料アルミナ粉体Dの物性等をまとめて示している。
(実施例1)
1.0gのビニルトリメトキシシラン(信越化学工業社製商品名:KBM-1003、分子量148.2)を400ミリリットル(mL)の純水が入ったポリプロピレン製容器に入れて、テフロン(登録商標)製の攪拌翼で1時間攪拌し、処理水溶液を得た。この処理水溶液に、原料アルミナ粉体Aを400g投入し、室温で24時間攪拌してシラン処理を行った。このとき、原料アルミナ粉体1kg当りのビニルメトキシシランのモル数(以下、シランの割合と言う)は0.017mol/kg-Al2O3となる。次いで、ブフナー漏斗を使って固液分離して、固形成分を110℃で一昼夜乾燥後、乳鉢で解砕して低ソーダα−アルミナ粉体を得た。
得られた低ソーダα−アルミナ粉体の全ソーダ(T-Na2O)分含有量、フリーのソーダ(f-Na2O)分含有量、二酸化ケイ素(SiO2)含有量、シラン処理後の二酸化ケイ素(SiO2)含有量の増加分、平均粒子径(Dp50)、BET比表面積、及びDOP吸油量を測定した。結果を表3に示す。また、この低ソーダα−アルミナ粉体の45μm篩上量(+45μm)は0ppmであり、スパン値は1.1であった。
(実施例2〜6)
表3に示したように、原料アルミナ粉体の種類と、シラン処理で用いる有機シラン化合物の種類並びにシラン添加量(処理水溶液における有機シラン化合物の添加量)及びシランの割合を変更した以外は実施例1と同様にして、低ソーダα−アルミナ粉体を得た。
得られた低ソーダα−アルミナ粉体の全ソーダ(T-Na2O)分含有量、フリーのソーダ(f-Na2O)分含有量、二酸化ケイ素(SiO2)含有量、シラン処理後の二酸化ケイ素(SiO2)含有量の増加分、平均粒子径(Dp50)、BET比表面積、及びDOP吸油量を測定した。結果を表3に示す。なお、表3中、ビニルシランはビニルトリメトキシシラン(同上)を表し、エポキシシランは3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製商品名:KBM-403、分子量236.3)を表し、メチルシランはメチルトリメトキシシラン(信越化学工業製商品名:KBM-13、分子量136.2)を表す。
Figure 0006977666
(比較例1)
シラン処理や水による洗浄処理を一切行わずに、上記で得られた原料アルミナ粉体Dを比較例1として、得られたα−アルミナ粉体の全ソーダ(T-Na2O)分含有量、フリーのソーダ(f-Na2O)分含有量、二酸化ケイ素(SiO2)含有量、シラン処理後の二酸化ケイ素(SiO2)含有量の増加分、平均粒子径(Dp50)、BET比表面積、及びDOP吸油量を測定した。結果を表4に示す。
(比較例2)
水と原料アルミナ粉体Dとを、質量比で水:原料アルミナ粉体D=1:2で混合し、1時間攪拌した。この水溶液をブフナー漏斗を使って固液分離し、アルミナ:純水=1:1の通水を1回行い、固形成分を110℃で一昼夜乾燥後、乳鉢で解砕してα−アルミナ粉体を得た。
得られたα−アルミナ粉体について、上記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
(比較例3及び4)
原料アルミナ粉体Aと表4に示した有機シラン化合物(液体)を、原料アルミナ粉体1kg当りの処理水溶液中の有機シラン化合物のモル数が表4に示した値となるようにヘンシェルミキサーへ投入し、20分間攪拌して、原料アルミナ粉体Aを有機シラン化合物で乾式処理した。
得られたα−アルミナ粉体について、上記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
(比較例5)
原料アルミナ粉体Bとビニルトリメトキシシラン(ビニルシラン)とを用いて、表4に示したシラン添加量(処理水溶液における有機シラン化合物の添加量)及びシランの割合(原料アルミナ粉体1kg当りの処理水溶液中の有機シラン化合物のモル数)となるように変更した以外は実施例1と同様にして、α−アルミナ粉体を得た。
得られたα−アルミナ粉体について、上記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
(比較例6及び7)
1.0kgのアルミナ粉体Bを2.0リットル(L)の純水が入ったポリプロピレン製容器に添加して、スリーワンモータで1時間攪拌してアルミナスラリーを得た。また、表4に示した5.0gの有機シラン化合物を2.0リットル(L)の純水が入った高密度ポリエチレン製容器に入れて、テフロン(登録商標)製の攪拌翼を使って1時間攪拌し、処理水溶液を得た。得られたアルミナスラリーにこの処理水溶液を添加して、室温で24時間攪拌し、ブフナー漏斗を使って固液分離し、固形成分を110℃で一昼夜乾燥させた後、ボールミルで解砕してα−アルミナ粉体を得た。
得られたα−アルミナ粉体について、上記と同様にして測定した。結果を表4に示す。
Figure 0006977666
表3及び4に示されるように、実施例1〜6の低ソーダα−アルミナ粉体は、フリーのソーダ(f-Na2O)分が低減(0.001質量%以上0.015質量%以下)されながらも、BET比表面積の上昇が抑えられており(1.0m2/g以上2.0m2/g未満)、DOP吸油量も低い値を示した。
これに対して、比較例1〜7では、フリーのソーダ(f-Na2O)分の低減とBET比表面積の上昇抑制を同時に満たすものは得られなかった。すなわち、比較例2の水処理により得られたα−アルミナ粉体は、何も処理をしなかった場合の比較例1と比べてフリーのソーダ(f-Na2O)分は低い値を示したが、BET比表面積が高い値を示した。比較例3及び4の有機シラン化合物を乾式処理したα−アルミナ粉体は、BET比表面積は低い値を示したが、フリーのソーダ(f-Na2O)分が高い値を示した。比較例5のシラン添加量が少ないα−アルミナ粉体は、フリーのソーダ(f-Na2O)分は低い値を示したが、BET比表面積が高い値を示した。アルミナを水でスラリーにした上で、処理水溶液を添加して得られた比較例6及び7のα−アルミナ粉体は、フリーのソーダ(f-Na2O)分は低い値を示したが、BET比表面積が高い値を示した。
ここで、原料アルミナ粉体1kg当りの処理水溶液中の有機シラン化合物のモル数(シランの割合)が処理後のα−アルミナのBET比表面積に与える影響について確認するために、シランの割合とBET比表面積の関係を図2にグラフで表した。同様に、このシランの割合が処理後のα−アルミナのフリーのソーダ(f-Na2O)分に与える影響の確認のために、シランの割合とフリーのソーダ(f-Na2O)分の関係を図3にグラフで表した。なお、いずれも、丸(●)は実施例、菱形(◇)は比較例を表し、それぞれに付された数字は実施例、比較例の番号を示す。
また、BET比表面積の上昇原因を確認すべく、原料アルミナ粉体Aを比較例2と同様の方法で水処理した水処理後の原料アルミナ粉体Aと、原料アルミナ粉体Aを原料とした実施例1のα−アルミナ粉体とを、熱分析装置(リガク製、TG8120)を用いて示差熱分析を行った。結果は図4に示したとおりである。常圧、昇温速度10℃/minで測定したところ、水処理後の原料アルミナ粉体Aには、実施例1のα−アルミナ粉体には見られなかった特異的な吸熱ピークが250℃付近に観測された。BET比表面積の上昇が抑えられた実施例1のα−アルミナ粉体にはこのようなピークが見られず、この吸熱ピークは水和した水の脱離によるものと推察される。
以上のように、本発明によれば、BET比表面積の上昇を抑えながら、ソーダ分が更に低減された低ソーダα−アルミナ粉体を得ることができ、粘度特性等にも優れることから、樹脂充填用のアルミナとして極めて有用である。特に、本発明では、バイヤー法由来の水酸化アルミニウムを焼成したか焼アルミナを用いていることから、このような低ソーダα−アルミナ粉体を安価に、かつ工業的有利に製造することができる。

Claims (7)

  1. バイヤー法で得られた水酸化アルミニウムを焼成し、得られた焼成物を粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.10〜1.45の範囲になるように粉砕して製造した低ソーダα−アルミナ粉体であって、
    加水分解性基を有する有機シラン化合物が添加された処理水溶液によるシラン処理が施されており、平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下であると共に、粒子表面に付着して洗浄除去可能なフリーのソーダ(f-Na2O)分含有量が0.001質量%以上0.015質量%以下であり、二酸化ケイ素(SiO2)含有量が0.040質量%以上0.500質量%以下であり、BET比表面積が1.0m2/g以上2.0m2/g未満であることを特徴とする低ソーダα−アルミナ粉体。
  2. 粒度分布が45μm篩上量(+45μm)100ppm以下及びスパン値〔(Dp90−Dp10)/Dp50〕が1.1以下である請求項1に記載の低ソーダα−アルミナ粉体。
  3. 平均粒子径(Dp50)が2μm以上5μm以下であり、かつ全ソーダ(T-Na2O)分含有量が0.1質量%以下のα−アルミナ粉体からなる原料アルミナ粉体を、加水分解性基を有した有機シラン化合物が水に添加された処理水溶液に対して、原料アルミナ粉体に対する処理水溶液中の有機シラン化合物の割合が0.010mol/kg-Al2O3以上となるように投入して攪拌するシラン処理を行い、固液分離して、固形成分を乾燥させた後、解砕することで、粒子表面に付着して洗浄除去可能なフリーのソーダ(f-Na2O)分含有量が0.001質量%以上0.015質量%以下であり、BET比表面積が1.0m2/g以上2.0m2/g未満の低ソーダα−アルミナ粉体を得ることを特徴とする低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法。
  4. 前記処理水溶液における有機シラン化合物の添加量が0.1質量%以上5.0質量%以下である請求項3に記載の低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法。
  5. 前記原料アルミナ粉体が、バイヤー法で得られた全ソーダ(T-Na2O)分0.3質量%以下の水酸化アルミニウムにハロゲン系鉱化剤を添加して混合し、得られた混合物を、シリカ含有アルミナセラミックス製の焼成容器に充填して成形密度(成型圧:98.07MPa)2.05g/cm3以上及びBET比表面積0.9m2/g以下となるように1100〜1600℃の範囲で焼成し、次いで得られた焼成物を、粉砕後の平均粒子径(Dav)と粉砕前のBET相当径(DBET)との粒径比(Dav/DBET)が1.10〜1.45の範囲になるように粉砕して得られたものである請求項3又は4に記載の低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法。
  6. 前記シラン処理後の二酸化ケイ素(SiO2)含有量の増加分が0.02質量%以上である請求項3〜5のいずれかに記載の低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法。
  7. 得られる低ソーダα−アルミナ粉体の二酸化ケイ素(SiO2)含有量が0.040質量%以上0.500質量%以下である請求項3〜6のいずれかに記載の低ソーダα−アルミナ粉体の製造方法。
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