JP6976106B2 - 鉄筋コンクリート構造物 - Google Patents

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Description

本開示は、鉄筋コンクリート構造物に関するものである。
従来、鉄道の高架橋等の土木構造物として、鉄筋コンクリート(Reinforced Concrete :RC)製の鉄筋コンクリート構造物(RC構造物)が広く使用されている。このようなRC構造物における柱と梁との接合部であるRC柱梁接合部は、一般に地震発生時の変形を考慮して、その仕様が決定されるので、変形性能を向上することができれば、合理的な構造物とすることができる。そして、鉄道の高架橋柱、橋脚等の耐震設計においては、一般に柱が先行して降伏し、破壊するように設計されていることも考慮して、RC柱梁接合部の変形性能を向上することが重要となる。
また、RC柱梁接合部では、接合部内での軸方向鉄筋の定着(固定)が重要である。そこで、土木構造物においては、軸方向鉄筋の定着工法として、半円形フックのような標準フックを使用する工法が採用されている。なお、土木学会コンクリート標準示方書設計編(2012年)には、標準フックとして、半円形フック、直角フック又は鋭角フックが規定されている。しかし、部材のスリム化、耐震性能向上のための鉄筋の太径化等に伴い、RC柱梁接合部においては、接合部内での配筋が過密化している。
図1は従来のRC柱梁接合部における接合部内での配筋の例を示す写真である。なお、図において、(a)は接合部内での過密配筋の例を示す写真、(b)は過密配筋に起因する施工不良の例を示す写真である。
図1(a)に示されるように、従来の仕様で配筋すると、接合部内においては柱軸方向鉄筋の標準フックや梁軸方向鉄筋の折曲げ定着が三次元的に輻輳してしまう。そのため、鉄筋組立の作業性が悪化し、また、鉄筋のあき(鉄筋の面同士の距離)が十分に確保されなくなるのでコンクリート打設の施工性が低下し、図1(b)に示されるように、施工不良が発生する可能性がある。
そこで、標準フックを使用する工法に代えて、鉄筋に機械式定着部材を取り付ける機械式定着工法を採用することが提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
特開2010−037777号公報
しかしながら、従来から、機械式定着工法には、様々なものがあり、軸方向鉄筋用と横方向鉄筋用とに区分され、それぞれ、公的審査機関による評定を取得しているが、軸方向鉄筋用として認められているものは、建築評定が多く、土木評定はほとんどない(例えば、非特許文献1参照。)。そのため、土木構造物においては、軸方向鉄筋への機械式定着工法の採用が進んでいない。また、各種の機械式定着工法の性能評価試験(静的耐力、高応力繰返し性能等)では、軸方向鉄筋をマッシブなコンクリートに埋め込んだ状態、すなわち、十分なかぶり(鉄筋表面からコンクリート表面までの最短距離)が確保された状態で行われており、実際のRC柱梁接合部のように、かぶりが100〔mm〕前後である状態での軸方向鉄筋の挙動が十分に解明されていない。
土木学会、「コンクリートライブラリー128号 鉄筋定着・継手指針〔2007年版〕」、2007.8
なお、実際の使用状況を想定した要素試験又は要素実験として、かぶりや横方向鉄筋比をパラメータとして一軸引張特性を確認する静的引張試験や、RC柱梁接合部におけるL型接合部の軸方向鉄筋に機械式定着部材を有する鉄筋を適用した正負交番載荷実験が行われている(例えば、非特許文献2及び3参照。)。
田所敏弥、谷村幸裕、徳永光宏、米田大樹、「高架橋接合部における機械式定着を用いた定着部の静的引張特性」、コンクリート工学年次論文集、Vol.31、No.2、2009 吉住陽行、他、「RCラーメン高架橋の柱梁接合部における柱軸方向鉄筋の定着性能に関する実験的検討」、土木学会第64回年次学術講演会、V−500、2009.9
図2は従来のコンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋の引張試験を説明する図、図3は従来の正負交番載荷実験を説明する図である。なお、図2において、(a)は一軸引張特性試験の概念図、(b)はコンクリートの破壊状況を示す写真であり、図3において、(a)は正負交番載荷実験の概念図、(b)はコンクリートの破壊状況を示す写真である。
図2に示されるような一軸引張特性を確認する静的引張試験の場合、機械式定着部材である定着板を有する鉄筋は設計引張耐力を満足したものの、鉄筋が引張降伏する前に、接合部内における定着板の位置におけるかぶり部分のコンクリートにひび割れが発生し、側面剥離破壊が生じ、脆性的な破壊状態を示す試験体があった。
また、図3に示されるような正負交番載荷実験の場合、鉄筋が引張降伏した後に、図2に示される例と同様に、機械式定着部材である定着板の位置におけるかぶり部分のコンクリートに剥落が生じて定着力を失い、設計耐力に到達する前に荷重が低下した。
前記静的引張試験及び正負交番載荷実験の結果から、RC柱梁接合部のように、かぶりが小さい部位における鉄筋に機械式定着工法を採用すると、要求性能を満足することができない可能性があることが分かる。
機械式定着部材を有する鉄筋の引張耐力には、機械式定着部材の取付位置からの鉄筋の長さである定着長さと、機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力とが寄与する。しかし、鉄筋が引張降伏すると、塑性域が進展して鉄筋の表面に沿う付着力が小さくなっていき、終局状態での鉄筋の引張耐力は、ほぼ機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力によって決定される。
図4は従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力の相違を説明する図、図5は従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材の定着具合を示す写真である。なお、図4及び5において、(a)は鉄筋が標準フックを有する場合の図及び写真、(b)は鉄筋が機械式定着部材を有する場合の図及び写真である。
図において、21はコンクリートであり、11は、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋としての主鉄筋である。そして、図4(a)における主鉄筋11は、その上端に標準フックとしての半円形フック13が形成され、図4(b)における主鉄筋11は、その上端に機械式定着部材としての定着板14が取り付けられている。該定着板14は、例えば、主鉄筋11よりも外径の大きな円板であって、主鉄筋11の端部にねじ止めによって取り付けられる板材であるが、いかなる種類の部材であってもよい。
図4(a)に示されるように、主鉄筋11に矢印で示されるような引張力P1が付与されると、半円形フック13からの力である支圧力P2は、コンクリート21の内側へ向かって伝達される。一方、図4(b)に示されるように、定着板14は、半円形フック13と比較すると、定着部として機能する部分の体積や占める範囲が小さいので、局所的に、かつ、コンクリート21の表面21aに向かって支圧力P2を伝達する。そのため、定着板14におけるかぶり、すなわち、定着板14の表面からコンクリート21の表面21aまでの最短距離が小さい場合、かぶり部分にひび割れが発生し、図5(b)に示されるように、側面剥離破壊のようなかぶり部分におけるコンクリート21の剥離や剥落が発生する。この場合、定着板14が完全に露出し、引張抵抗を失ってしまう。一方、半円形フック13の場合、図5(a)に示されるように、かぶり部分におけるコンクリート21の剥離や剥落が発生しても、半円形フック13の定着部として機能する部分がコンクリート21の内側に位置するので、ある程度の引張力を期待することができる。このように、機械式定着工法を採用すると変形性能が低下する可能性がある(例えば、非特許文献4参照。)。
古屋卓稔、渡辺健、田所敏弥、服部尚道、「ラーメン高架橋の柱梁接合部の配筋・定着方式が柱の部材性能に及ぼす影響」、コンクリート工学年次論文集、Vol.39、No.2、2017
ここでは、前記従来の技術の問題点を解決して、鉄筋コンクリート柱梁接合部における機械式定着部材を有する軸方向鉄筋と並んで延在する補強鉄筋を配設することによって、軸方向鉄筋に機械式定着工法を採用することができるとともに、鉄筋の降伏に起因する損傷箇所を柱のスパン中央寄りに移動させることができ、変形性能が向上した鉄筋コンクリート構造物を提供することを目的とする。
そのために、鉄筋コンクリート構造物においては、コンクリートと、該コンクリート に埋め込まれた軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋と少なくとも一部がオーバーラップして前記コンクリートに埋め込まれ、重ね継手と同様の応力伝達メカニズムによって前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達される補強鉄筋とを備え、前記軸方向鉄筋は先端に取り付けられた機械式定着部材を含み、前記補強鉄筋は、前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達されるために必要な長さ以上の必須オーバーラップ範囲に亘って、前記軸方向鉄筋の内側において、該軸方向鉄筋と並んで延在する鉄筋コンクリート構造物であって、前記軸方向鉄筋は柱の延在方向に直線的に延在し、前記機械式定着部材は柱と梁との接合部内に位置し、前記必須オーバーラップ範囲は、接合部端面の柱側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記軸方向鉄筋が引張力を受けた場合、前記軸方向鉄筋に生じるひずみは、前記必須オーバーラップ範囲の端であって接合部端面と反対側の端の近傍で最大となる。
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記補強鉄筋は、前記必須オーバーラップ範囲外において、前記軸方向鉄筋から受けた引張力を周囲のコンクリートに伝達するために必要な長さ以上の必要定着範囲に亘って延在する。
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が湾曲して延在する範囲である。
更に他の鉄筋コンクリート構造物においては、さらに、前記必要定着範囲において、前記補強鉄筋は、曲げ内半径が直径の10倍以上となるように湾曲している。
本開示によれば、鉄筋コンクリート柱梁接合部における機械式定着部材を有する軸方向鉄筋と並んで延在する補強鉄筋を配設する。これにより、軸方向鉄筋に機械式定着工法を採用することができるとともに、鉄筋の降伏に起因する損傷箇所を柱のスパン中央寄りに移動させることができ、変形性能を向上させることが可能となる。
従来のRC柱梁接合部における接合部内での配筋の例を示す写真である。 従来のコンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋の引張試験を説明する図である。 従来の正負交番載荷実験を説明する図である。 従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材からコンクリートに伝達される支圧力の相違を説明する図である。 従来の鉄筋の標準フック及び機械式定着部材の定着具合を示す写真である。 第1の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の模式断面図である。 第1の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の比較例の模式断面図である。 第2の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の模式断面図である。
以下、本実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
図6は第1の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の模式断面図、図7は第1の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の比較例の模式断面図である。
図6において、20は、本実施の形態における鉄筋コンクリート構造物であって、鉄筋コンクリート製の柱22と梁23との接合部24及びその周辺部分であるものとする。前記鉄筋コンクリート構造物20は、典型的には高架橋等の土木構造物であって、鉄道用のものであってもよいし、道路用のものであってもよいし、いかなる用途のものであってもよいが、ここでは、説明の都合上、鉄道用の高架橋におけるRC柱梁接合部及びその周辺部分であるものとして説明する。
なお、本実施の形態においては、「発明が解決しようとする課題」の項における説明を援用し、鉄筋コンクリート構造物20における各部の構造、動作及び効果であって、「発明が解決しようとする課題」の項において説明したのと同じものについては、図4に示される符号と同じ符号を付与することによって、適宜、説明を省略する。
また、本実施の形態において、鉄筋コンクリート構造物20の各部及びその他の部材の構成及び動作を説明するために使用される上、下、左、右、前、後等の方向を示す表現は、絶対的なものでなく相対的なものであり、前記鉄筋コンクリート構造物20の各部及びその他の部材が図に示される姿勢である場合に適切であるが、その姿勢が変化した場合には姿勢の変化に応じて変更して解釈されるべきものである。
図6に示される例において、コンクリート21に埋め込まれた軸方向鉄筋としての主鉄筋11は、柱22の延在方向(上下方向)に延在する鉄筋である。なお、コンクリート21には、多数本の軸方向鉄筋が埋め込まれているが、図6においては、図示の都合上、柱22におけるコンクリート21の左右両側の表面21aに最も近接した2本の主鉄筋11のみが示されている。また、該主鉄筋11の軸方向は、コンクリート21の表面21aと平行であるものとする。さらに、主鉄筋11の先端(上端)は接合部24内に位置し、そこには機械式定着部材としての定着板14が取り付けられている。
そして、前記主鉄筋11の内側(表面21aと反対側)には、補強鉄筋12が配設されている。なお、該補強鉄筋12の配設位置は、必ずしも、主鉄筋11の内側に限定されるものでなく、鉄筋のあきが確保されているのであれば、主鉄筋11同士の間(主鉄筋11と補強鉄筋12の表面12aからの距離は同じ)であってもよい。前記補強鉄筋12は、主鉄筋11と平行に直線的に延在する直筋であるが、その長さは、主鉄筋11よりも短い。具体的には、補強鉄筋12の上端は、接合部24内であるが、定着板14の位置よりもわずかに低い位置にあり、補強鉄筋12の下端は、接合部端面24aより下方の柱22内に位置する。なお、前記接合部端面24aは、接合部24と柱22との境界であって、図6に点線で示されるように、梁23の下側面を水平方向に延長した箇所に相当する。
このように、主鉄筋11と補強鉄筋12とは、互いに近接して平行に並んで、柱22の延在方向の所定範囲に亘って、オーバーラップした状態となっている。したがって、一般的なRC構造物において使用されている鉄筋の重ね継手における応力伝達メカニズムと同様に、オーバーラップした部分においては、主鉄筋11の受ける引張力は、周囲のコンクリート21との付着力によって、補強鉄筋12に伝達される。図6に示される例において、主鉄筋11と補強鉄筋12とのオーバーラップ範囲は、接合部端面24aの下側の第1の範囲A1と、接合部端面24aの上側の第2の範囲A2とを含んでいる。必須オーバーラップ範囲としての第1の範囲A1の長さは、主鉄筋11の受ける引張力を補強鉄筋12に伝達するために必要な長さ以上に設定される。また、必要定着範囲としての第2の範囲A2の長さは、一般的なRC構造物において使用されている鉄筋の定着長さ、すなわち、補強鉄筋12の受ける引張力を周囲のコンクリート21に伝達するために必要な長さである必要定着長以上に設定される。
なお、2010年版RC規準によると、一般的には、鉄筋の定着長さをL、鉄筋の直径をD、鉄筋の短期引張強度をft、鉄筋の付着割裂の基準となる強度をfa、構造部材による修正係数をS、横補強筋に関する補正係数をαとした場合、必要定着長を
L=(S×α×ft×D)/10fa
にすることが提案されている。
また、RC構造物において使用されている鉄筋の重ね継手の長さは、鉄筋の直径をDとすると、40D以上とするのが一般的である。
そして、柱22に地震力等の外力Fが付与されると、主鉄筋11が引張力を受け、主鉄筋11の表面が周囲のコンクリート21と付着しているので、矢印で示されるような付着力P3が主鉄筋11からコンクリート21に伝達される。また、主鉄筋11の受ける引張力が補強鉄筋12に伝達されるので、該補強鉄筋12からも付着力P3がコンクリート21に伝達される。なお、図6においては、図示の都合上、柱22の左側に位置する主鉄筋11及び補強鉄筋12の周囲のみに矢印が付与されているが、柱22の右側に位置する主鉄筋11及び補強鉄筋12からも、付着力P3がコンクリート21に伝達される。
補強鉄筋12とオーバーラップしていることによって、主鉄筋11の受ける引張力が補強鉄筋12に伝達されるので、オーバーラップ範囲及びそれより上側の範囲では、主鉄筋11の受ける引張力は、補強鉄筋12とオーバーラップしていない場合よりも、減少する。これにより、主鉄筋11の先端に取り付けられた定着板14が受ける引張力も減少するので、定着板14からコンクリート21に伝達される支圧力も減少する。また、定着板14の近傍の主鉄筋11からコンクリート21に伝達される付着力P3も減少する。したがって、定着板14の表面からコンクリート21の表面21aまでの最短距離が小さくても、定着板14の近傍のかぶり部分にひび割れが発生することがない。
図7に示される比較例においては、主鉄筋11とオーバーラップする補強鉄筋12が存在しない。そのため、主鉄筋11の受ける引張力は、減少せずに大きいままであり、定着板14が受ける引張力も大きく、定着板14からコンクリート21に伝達される支圧力は大きい。また、定着板14の近傍の主鉄筋11からコンクリート21に伝達される付着力P3も大きい。したがって、定着板14の近傍のかぶり部分におけるコンクリート21には、大きな支圧力と大きな付着力P3とが伝達されるので、領域26において、コンクリート21の破壊が発生してしまう。
また、引張力を受けることによって生じる主鉄筋11のひずみは、εで示されるように、分布する。図7に示されるひずみの分布から分かるように、ひずみが最大値εmaxとなる箇所は、接合部端面24aの直下である。外力Fが大きく、主鉄筋11の受ける引張力が大きい場合、ひずみが最大値εmaxとなる箇所で主鉄筋11が引張降伏する蓋然性が高い。つまり、主鉄筋11の降伏箇所11aは、接合部端面24aの直下及びその近傍となる。そして、主鉄筋11が引張降伏すると、降伏箇所11aの周囲のコンクリート21に損傷が発生するから、損傷発生箇所25は接合部端面24aの直下及びその近傍となる。そのため、柱22に先行して、接合部24又は梁23で破壊が発生する可能性がある。
これに対して、主鉄筋11とオーバーラップする補強鉄筋12が存在すると、主鉄筋11の受ける引張力が補強鉄筋12に伝達されるので、引張力を受けることによって生じる主鉄筋11のひずみの分布εは、図6に示されるようになる。すなわち、ひずみが最大値εmaxとなる箇所が、接合部端面24aの直下からより下方に、すなわち、柱22のスパン中央寄りに誘導されて、第1の範囲A1の下端の近傍に相当する箇所となる。それに伴って、損傷発生箇所25も、柱22のスパン中央寄りに誘導されて、第1の範囲A1の下端に相当する箇所となる。これにより、柱22が他の部材に先行して破壊するように設計されている鉄筋コンクリート構造物20の変形性能が向上する。なお、前記第1の範囲A1の長さは、主鉄筋11の受ける引張力を補強鉄筋12に伝達するために必要な長さ以上、かつ、損傷発生箇所25の誘導に必要な長さ以上に設定される。
このように、本実施の形態における鉄筋コンクリート構造物20は、コンクリート21と、コンクリート21に埋め込まれた主鉄筋11と、主鉄筋11と少なくとも一部がオーバーラップしてコンクリート21に埋め込まれた補強鉄筋12とを備え、主鉄筋11は先端に取り付けられた定着板14を含み、補強鉄筋12は、主鉄筋11の受ける引張力が伝達されるために必要な長さ以上の第1の範囲A1に亘って、主鉄筋11の内側において、主鉄筋11と並んで延在する。これにより、主鉄筋11の受ける引張力の少なくとも一部が補強鉄筋12に伝達されるので、定着板14からコンクリート21に伝達される支圧力も主鉄筋11からコンクリート21に伝達される付着力P3も減少するので、機械式定着工法を採用しても、定着板14の近傍のかぶり部分におけるコンクリート21の破壊が効果的に防止される。また、主鉄筋11の降伏に起因するコンクリート21の損傷箇所を柱22のスパン中央寄りに誘導するので、他の部材に先行して破壊するように設計されている柱22の変形性能の向上が可能となる。
なお、主鉄筋11は柱22の延在方向に直線的に延在し、定着板14は柱22と梁23との接合部24内に位置し、第1の範囲A1は、接合部端面24aの柱22側において、補強鉄筋12が主鉄筋11に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。
また、主鉄筋11が引張力を受けた場合、主鉄筋11に生じるひずみは、第1の範囲A1の端であって接合部端面24aと反対側の端の近傍で最大となる。したがって、主鉄筋11の受ける引張力が大きい場合、主鉄筋11の降伏箇所11a及び損傷発生箇所25は、柱22のスパン中央寄りに誘導され、第1の範囲A1の端であって接合部端面24aと反対側の端の近傍となる。これにより、他の部材に先行して破壊するように設計されている柱22の変形性能が向上する。
さらに、補強鉄筋12は、第1の範囲A1外において、主鉄筋11から受けた引張力を周囲のコンクリート21に伝達するために必要な長さ以上の第2の範囲A2に亘って延在する。なお、第2の範囲A2は、接合部端面24aの接合部24側において、補強鉄筋12が主鉄筋11に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である。したがって、補強鉄筋12は、コンクリート21に確実に定着される。
次に、第2の実施の形態について説明する。なお、第1の実施の形態と同じ構造を有するものについては、同じ符号を付与することによってその説明を省略する。また、前記第1の実施の形態と同じ動作及び同じ効果についても、その説明を省略する。
図8は第2の実施の形態における鉄筋コンクリート構造物の模式断面図である。
本実施の形態においては、補強鉄筋12の一部が湾曲している。具体的には、補強鉄筋12における接合部端面24aの上側の第2の範囲A2に対応する部分は、曲げ内半径が10φ(φは補強鉄筋12の直径)以上に湾曲されている。なお、補強鉄筋12における接合部端面24aの下側の第1の範囲A1に対応する部分は、前記第1の実施の形態と同様に、主鉄筋11の内側で該主鉄筋11と平行に直線的に延在する直筋となっている。
これは、例えば、補強鉄筋12が受け持つ力が大きい場合や、梁23の高さ方向の寸法が小さくて直筋であると必要定着長を確保することができない場合には、補強鉄筋12における第2の範囲A2に対応する部分を、曲げ内半径を10φ以上に湾曲させることによって、第2の範囲A2に対応する部分を定着長さに含めることができるからである(例えば、非特許文献5参照。)。
鉄道総合技術研究所、「鉄道構造物等設計標準・同解説 コンクリート構造物」、2004.4
なお、鉄筋コンクリート構造物20のその他の点の構成、動作及び効果については、前記第1の実施の形態と同様であるので、その説明を省略する。
このように、本実施の形態における鉄筋コンクリート構造物20では、第2の範囲A2は、接合部端面24aの接合部24側において、補強鉄筋12が湾曲して延在する範囲である。そして、第2の範囲A2において、補強鉄筋12は、曲げ内半径が直径の10倍以上となるように湾曲している。これにより、例えば、補強鉄筋12が受け持つ力が大きい場合や、梁23の高さ方向の寸法が小さくて直筋であると必要定着長を確保することができない場合であっても、補強鉄筋12がコンクリート21に確実に定着される。
なお、本明細書の開示は、好適で例示的な実施の形態に関する特徴を述べたものである。ここに添付された特許請求の範囲内及びその趣旨内における種々の他の実施の形態、修正及び変形は、当業者であれば、本明細書の開示を総覧することにより、当然に考え付くことである。
本開示は、鉄筋コンクリート構造物に適用することができる。
11 主鉄筋
12 補強鉄筋
14 定着板
20 鉄筋コンクリート構造物
21 コンクリート
22 柱
23 梁
24 接合部
24a 接合部端面

Claims (6)

  1. コンクリートと、該コンクリートに埋め込まれた軸方向鉄筋と、該軸方向鉄筋と少なくとも一部がオーバーラップして前記コンクリートに埋め込まれ、重ね継手と同様の応力伝達メカニズムによって前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達される補強鉄筋とを備え、
    前記軸方向鉄筋は先端に取り付けられた機械式定着部材を含み、
    前記補強鉄筋は、前記軸方向鉄筋の受ける引張力が伝達されるために必要な長さ以上の必須オーバーラップ範囲に亘って、前記軸方向鉄筋の内側において、該軸方向鉄筋と並んで延在する鉄筋コンクリート構造物であって、
    前記軸方向鉄筋は柱の延在方向に直線的に延在し、
    前記機械式定着部材は柱と梁との接合部内に位置し、
    前記必須オーバーラップ範囲は、接合部端面の柱側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲であることを特徴とする鉄筋コンクリート構造物。
  2. 前記軸方向鉄筋が引張力を受けた場合、前記軸方向鉄筋に生じるひずみは、前記必須オーバーラップ範囲の端であって接合部端面と反対側の端の近傍で最大となる請求項1に記載の鉄筋コンクリート構造物。
  3. 前記補強鉄筋は、前記必須オーバーラップ範囲外において、前記軸方向鉄筋から受けた引張力を周囲のコンクリートに伝達するために必要な長さ以上の必要定着範囲に亘って延在する請求項1又は2に記載の鉄筋コンクリート構造物。
  4. 前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が軸方向鉄筋に近接して平行に並んで直線的に延在する範囲である請求項3に記載の鉄筋コンクリート構造物。
  5. 前記必要定着範囲は、接合部端面の接合部側において、前記補強鉄筋が湾曲して延在する範囲である請求項3に記載の鉄筋コンクリート構造物。
  6. 前記必要定着範囲において、前記補強鉄筋は、曲げ内半径が直径の10倍以上となるように湾曲している請求項5に記載の鉄筋コンクリート構造物。
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