[本開示の実施形態の概要]
まず、本開示の実施形態の概要について説明する。本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示す。結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に”−”(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現する。
(1)本開示に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素単結晶基板10と、炭化珪素層20とを備えている。炭化珪素単結晶基板10は、第1主面11を有する。炭化珪素層20は、第1主面上にある。炭化珪素層20は、炭化珪素単結晶基板10と接する面14と反対側の第2主面30を含んでいる。第2主面30は、(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。第2主面30の最大径111は、100mm以上である。炭化珪素層20のポリタイプは、4H−SiCである。炭化珪素層20の導電型は、n型である。第2主面30は、第2主面30の外縁54から3mm以内の外周領域52と、外周領域52に取り囲まれた中央領域53とを有する。中央領域53と平行な方向において、炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値に対するキャリア濃度の標準偏差の比率は、5%未満である。キャリア濃度の平均値は、1×1014cm-3以上5×1016cm-3以下である。中央領域53と平行な方向において、炭化珪素層20の厚み113の平均値に対する厚みの標準偏差の比率は、5%未満である。中央領域53の算術平均粗さ(Sa)は、1nm以下である。中央領域53のヘイズは、50以下である。
(2)上記(1)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53を一辺が6mmの正方領域に区分した場合において、全ての正方領域の数に対する、ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかがある正方領域の数の比率は、10%以下であってもよい。これにより、炭化珪素エピタキシャル基板を用いて製造される炭化珪素半導体装置の歩留まりを向上することができる。
(3)上記(1)または(2)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、炭化珪素層20の厚みの平均値は、5μm以上50μm以下であってもよい。
(4)上記(1)〜(3)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53における、貫通らせん転位23に起因するピット87がある場合があるが、ピット87は少ない方がよい。ピットの面密度は、100個cm-2以下であってもよい。ピット内において、中央領域53からの最大深さ116は、8nm以上であってもよい。
(5)上記(4)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、ピット87の面密度は、好ましくは10個cm-2以下である。
(6)上記(5)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、ピット87の面密度は、好ましくは1個cm-2以下である。
(7)上記(4)〜(6)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、ピット内における、中央領域53からの最大深さは、20nm以上であってもよい。
(8)上記(4)〜(7)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53に垂直な方向から見て、ピット87の平面形状は、第1方向に延びる第1辺61と、第1方向と垂直な第2方向に延びる第2辺62とを含んでいてもよい。第1辺61の幅は、第2辺62の幅の2倍以上であってもよい。
(9)上記(1)〜(8)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53において、台形状の窪みである台形状欠陥70がある場合があるが、台形状欠陥70は少ない方がよい。台形状欠陥70の面密度は、好ましくは10個cm-2以下である。台形状欠陥70は、中央領域53に垂直な方向から見て<11−20>方向と交差する上底部72および下底部74を含んでいてもよい。上底部72の幅は、0.1μm以上100μm以下であってもよい。下底部74の幅は、50μm以上5000μm以下であってもよい。上底部72は、突起部73を含んでいてもよい。下底部74は、複数のステップバンチング75を含んでいてもよい。
(10)上記(1)〜(9)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53において、基底面転位24がある場合があるが、基底面転位24は少ない方がよい。基底面転位の面密度が、好ましくは10個cm-2以下である。
(11)上記(1)〜(10)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53には、<11−20>方向に対して垂直な直線に沿って並ぶ第1ハーフループ1の第1転位列2がある場合があるが、第1転位列2は少ない方がよい。第1ハーフループ1は、中央領域53に露出する一対の貫通刃状転位を含んでいてもよい。中央領域53における第1転位列2の面密度は、好ましくは10本cm-2以下である。
通常、炭化珪素エピタキシャル基板には、貫通刃状転位の転位列が存在している。当該転位列は、半導体装置の耐圧の低下、リーク電流の増大および半導体装置の信頼性の低下等の原因となる。そのため、当該転位列の低減が求められている。
貫通刃状転位の転位列は、主に3種類に分類されると考えられる。第1種類目の転位列は、炭化珪素単結晶基板からエピタキシャル成長により形成される炭化珪素層に引き継がれる転位列である。第2種類目の転位列は、炭化珪素層のエピタキシャル成長の途中で発生する転位列である。当該転位列を構成する複数のハーフループの各々の深さは、当該ハーフループが発生した時点における炭化珪素層の厚みにより決定される。そのため、当該転位列を構成する複数のハーフループの各々の深さは異なっている。また複数のハーフループの各々が並ぶ方向(即ち、転位例の長手方向)は、ステップフロー成長方向(オフ方向)の成分を有している。つまり、当該転位列の長手方向は、オフ方向に対して垂直ではない。第3種類目の転位列は、炭化珪素層のエピタキシャル成長の終了後に発生する転位列である。当該転位列は、エピタキシャル成長終了後に、炭化珪素層中の基底面転位がオフ方向に対して垂直な方向にスライドすることによって形成されると考えられる。そのため、当該転位列の長手方向は、オフ方向に対して垂直である。また当該転位列を構成する複数のハーフループの各々の深さはほぼ同じである。
発明者らは、特に第3種類目の転位列の発生を抑制することに着目した。基底面転位は、炭化珪素層内の応力を緩和するようにオフ方向に対して垂直な方向にスライドすることにより、炭化珪素層内にハーフループが形成されると考えられる。また炭化珪素層内の応力は、主に炭化珪素エピタキシャル基板を冷却する工程において発生していると考えられる。以上の知見に基づき、発明者らは、炭化珪素エピタキシャル基板を冷却する工程において、炭化珪素エピタキシャル基板の冷却速度を後述のように制御することにより、炭化珪素エピタキシャル基板内の応力を緩和し、第3種類目の転位列の発生を抑制可能であることを見出した。これにより、オフ方向に対して垂直な直線に沿って並ぶ第1ハーフループの第1転位列の面密度を低減することができる。
(12)上記(11)に係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53には、<11−20>方向に対して傾斜する直線に沿って並ぶ第2ハーフループ4の第2転位列5がある場合があるが、第2転位列5は少ない方がよい。第2ハーフループ4は、中央領域53に露出する一対の貫通刃状転位を含んでいてもよい。中央領域53おいて、第1転位列2の面密度は、第2転位列5の面密度よりも低くてもよい。
(13)上記(1)〜(12)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、中央領域53に純水を滴下した場合において、純水の接触角の平均値は、45°以下であり、接触角の最大値および最小値の差の絶対値は10°以下であってもよい。
(14)上記(1)〜(13)のいずれかに係る炭化珪素エピタキシャル基板100において、炭化珪素単結晶基板10の厚みは、600μm以下であってもよい。warpは、30μm以下であってもよい。bowの絶対値は、20μm以下であってもよい。bowが正の場合、第2主面30の3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最高の高さを有する位置は、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径の2/3までの範囲にあってもよい。bowが負の場合、3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最低の高さを有する位置は、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径の2/3までの範囲にあってもよい。
(15)本開示に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法は、上記(1)〜(14)のいずれかに記載の炭化珪素エピタキシャル基板100を準備する工程と、炭化珪素エピタキシャル基板100を加工する工程とを備えていてもよい。
[本開示の実施形態の詳細]
次に、図に基づいて本開示の実施形態の詳細について説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
(炭化珪素エピタキシャル基板)
図1および図2に示されるように、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、炭化珪素単結晶基板10と、炭化珪素層20とを有している。炭化珪素単結晶基板10は、第1主面11と、第1主面11と反対側の第3主面13とを含んでいる。炭化珪素層20は、第1主面11上にある。炭化珪素層20は、炭化珪素単結晶基板10と接する第4主面14と、第4主面14と反対側の第2主面30を含んでいる。図1に示されるように、第2主面30は、外周領域52と、外周領域52に取り囲まれた中央領域53とを含む。外周領域52は、第2主面30の外縁54から3mm以内の領域である。言い換えれば、第2主面30の径方向において、外縁54と、外周領域52および中央領域53の境界との距離112は、3mmである。
炭化珪素エピタキシャル基板100の外縁54は、オリエンテーションフラット55と、曲率部57とを有していてもよい。オリエンテーションフラット55は、第1方向101に沿って延在する。曲率部57は、オリエンテーションフラット55の両端と連なっている。第1方向101は、たとえば<11−20>方向である。オリエンテーションフラット55が延在する第1方向101に対して垂直な第2方向102は、たとえば<1−100>方向である。
炭化珪素単結晶基板10(以下「単結晶基板」と略記する場合がある)は、炭化珪素単結晶から構成される。炭化珪素単結晶のポリタイプは、たとえば4H−SiCである。4H−SiCは、電子移動度、絶縁破壊電界強度等において他のポリタイプより優れている。炭化珪素単結晶基板10は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素単結晶基板10の導電型は、たとえばn型である。第1主面11は、たとえば(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。第1主面11の傾斜方向(オフ方向)は、たとえば<11−20>方向である。
炭化珪素層20は、炭化珪素単結晶基板10上に形成されたエピタキシャル層である。炭化珪素層20のポリタイプは、4H−SiCである。炭化珪素層20は、第1主面11に接している。炭化珪素層20は、たとえば窒素などのn型不純物を含んでいる。炭化珪素層20の導電型は、n型である。炭化珪素層20が含むn型不純物の濃度は、炭化珪素単結晶基板10が含むn型不純物の濃度よりも低くてもよい。
図1に示されるように、第2主面30の最大径111(直径)は、100mm以上である。最大径111の直径は150mm以上でもよいし、200mm以上でもよいし、250mm以上でもよい。最大径111の上限は特に限定されない。最大径111の上限は、たとえば300mmであってもよい。
第2主面30は、(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。第1主面11の傾斜方向(オフ方向)は、たとえば<11−20>方向である。オフ方向は、たとえば<1−100>方向でもよいし、<11−20>方向成分と<1−100>方向成分とを含む方向であってもよい。(0001)面からの傾斜角(オフ角)は、1°以上であってもよいし、2°以上であってもよい。オフ角は、7°以下であってもよいし、6°以下であってもよい。
(キャリア濃度の面内均一性)
炭化珪素層20は、ドーパントとしてたとえば窒素を含有する。なお、本願におけるキャリア濃度とは、実効キャリア濃度を意味する。たとえば、炭化珪素層がドナーとアクセプタとを含む場合、実効キャリア濃度とは、ドナー濃度(Nd)とアクセプタ濃度(Na)との差の絶対値(|Nd−Na|)として計算される。キャリア濃度の測定方法は後述する。
炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値は、1×1014cm-3以上5×1016cm-3以下である。キャリア濃度の平均値は、2×1016cm-3以下であってもよいし、9×1015cm-3以下であってもよい。キャリア濃度の平均値は、たとえば1×1015cm-3以上であってもよいし、5×1015cm-3以上であってもよい。
中央領域53と平行な方向において、炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値に対するキャリア濃度の標準偏差の比率(つまり標準偏差/平均値)は、5%未満である。炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値に対するキャリア濃度の標準偏差の比率は、4%未満であってもよいし、3%未満であってもよいし、2%未満であってもよい。炭化珪素層20のキャリア濃度の最大値から最小値を除した値を、平均値の2倍の値で除した比率は、たとえば、5%以下であり、好ましくは、4%以下であり、より好ましくは、3%以下であり、さらに好ましくは、2%以下である。
図3に示されるように、たとえば、第2主面30の中心Oを通りかつ第1方向101に平行な第1直線8と、第2主面30の中心Oを通りかつ第2方向102に平行な第2直線7とが想定される。中央領域53の半径をR(言い換えれば、第2主面30の最大径から6mm(外周領域52の幅の2倍)を引いた値の半分)とした場合、中央領域53は、第2主面30の中心Oを中心とした半径R/3の円に囲まれた第1領域65と、中心Oを中心とした半径2R/3の円と中央領域53の外縁とに囲まれた第3領域67と、第1領域65および第3領域67に挟まれた第2領域66とに区分される。第1領域65は中心Oを含む。なお、曲率部57上における任意の3点により形成される三角形の外接円の中心が、第2主面30の中心Oとされてもよい。
第1領域65における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値と、中央領域53における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値との差の絶対値は、たとえば5%以下であり、好ましくは3%以下である。同様に、第2領域66における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値と、中央領域53における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値との差の絶対値は、たとえば5%以下であり、好ましくは3%以下である。同様に、第3領域67における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値と、中央領域53における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値との差の絶対値は、たとえば7%以下であり、好ましくは4%以下である。
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100によれば、第1領域65における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値と、第3領域67における炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値との差の絶対値は、たとえば7%以下であり、好ましくは4%以下である。
好ましくは、炭化珪素層20のキャリア濃度のプロファイルは、M型またはW型である。キャリア濃度のプロファイルがM型の場合、キャリア濃度の極小値を示す位置が第1領域65もしくは第3領域67にあり、かつキャリア濃度の極大値を示す位置が第2領域66または第3領域67にある。キャリア濃度のプロファイルがW型の場合、キャリア濃度の極大値を示す位置が第1領域65もしくは第3領域67にあり、かつキャリア濃度の極小値を示す位置が第2領域66または第3領域67にある。
次に、キャリア濃度の測定方法について説明する。キャリア濃度は、たとえば水銀プローブ方式のC−V測定装置により測定される。プローブの面積は、たとえば0.01cm2である。キャリア濃度は、中央領域53において測定される。図3に示されるように、たとえば、第1直線8上において、中心Oから±10mm、±20mm、±30mm、±40mm、±50mmおよび±60mm離れた点がキャリア濃度の測定位置とされる。同様に、第2直線7上において、中心Oから±10mm、±20mm、±30mm、±40mm、±50mmおよび±60mm離れた点がキャリア濃度の測定位置とされる。中心Oもキャリア濃度の測定位置とされる。つまり、図3においてハッチングされた円で示された計25カ所の測定領域25においてキャリア濃度が測定される。計25カ所の測定位置におけるキャリア濃度の平均値と標準偏差とが計算される。
図4に示されるように、縦軸を1/C2(キャパシタンスの二乗の逆数)とし、横軸を電圧(V)とし、測定データ161がプロットされる。図4に示されるように、電圧が大きくなると、キャパシタンスの二乗の逆数の値は大きくなる。測定データ161の直線の傾きから、キャリア濃度が求められる。測定データ161の傾きの絶対値が大きい程、キャリア濃度は高い。キャリア濃度の測定深さは、印加される電圧に依存する。本実施の形態においては、たとえば0Vから5V(図4における電圧V1)まで炭化珪素層20内において空乏層が広がる方向に電圧が掃引される。これにより、中央領域53から第1主面11に向かって5μm〜10μm程度以内である中央表面層29(図2参照)におけるキャリア濃度が測定される。
(炭化珪素層の厚みの面内均一性)
中央領域53において、炭化珪素層20の厚み113の平均値は、たとえば、5μm以上50μm以下である。炭化珪素層20の厚み113の平均値は、10μm以上でもよいし、15μm以上でもよいし、20μm以上でもよい。炭化珪素層20の厚み113の上限は、特に限定されない。炭化珪素層20の厚み113の上限は、たとえば150μmであってもよい。
中央領域53と平行な方向において、炭化珪素層20の厚み113の平均値に対する厚みの標準偏差の比率(つまり標準偏差/平均値)は、5%未満である。炭化珪素層20の厚み113の平均値に対する厚みの標準偏差の比率は、好ましくは、4%未満であり、より好ましくは3%未満であり、さらに好ましくは2%未満であり、さらに好ましくは1%未満である。炭化珪素層20の厚み113の最大値から最小値を除した値を、平均値の2倍の値で除した比率は、たとえば、5%以下であり、好ましくは、4%以下であり、より好ましくは、3%以下であり、さらに好ましくは、2%以下である。
炭化珪素層20の厚み113は、たとえばFT−IR(Fourier Transform−InfraRed spectrometer)を用いて測定することができる。炭化珪素層20の厚みの測定領域25は、たとえばキャリア濃度の測定位置と同じであってもよい。たとえば、図3においてハッチングされた円で示された計25カ所の測定領域25において炭化珪素層20の厚みが測定される。計25カ所の測定位置における炭化珪素層20の厚みの平均値と標準偏差とが計算される。
炭化珪素層20の厚みは、たとえば島津製作所製フーリエ変換赤外分光光度計(IRPrestige−21)および同社製の赤外顕微鏡(AIM−8800)を組み合わせて測定することができる。FT−IRによる炭化珪素層20の厚み測定は、炭化珪素層20と炭化珪素単結晶基板10とのドーピング濃度差により生じる光学定数差を利用して求められる。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板100に対して赤外光を照射して、炭化珪素層20の表面の反射と、炭化珪素層20と炭化珪素単結晶基板10との界面からの反射による干渉を計測することにより、炭化珪素層20の厚みが計測される。測定波数範囲は、たとえば1000cm-1から4000cm-1までの範囲である。測定間隔は、たとえば4cm-1程度である。炭化珪素エピタキシャル基板100に対する赤外光の入射角度は約27°である。測定により得られた干渉波形から以下の算出式に従って、炭化珪素層20の厚みが求められる。算出式において、dは炭化珪素層の厚みであり、nは炭化珪素層の屈折率(2.7)であり、θは試料への入射角(25°)であり、mは計算波数範囲のピーク数であり、k2は計算波数範囲のピークの最大波数であり、k1は計算波数範囲のピークの最小波数である。
(算術平均粗さ:Ra)
中央領域53の算術平均粗さ(Ra)は、1nm以下である。算術平均粗さ(Ra)は、たとえばAFM(Atomic Force Microscope)により測定することができる。AFMとしては、たとえばVeeco社製の「Dimension3000」等を採用することができる。AFMのカンチレバーには、Bruker社製の型式「NCHV−10V」等が好適である。AFMの条件を、次のように設定することができる。測定モードはタッピングモードに設定する。タッピングモードでの測定領域は5μm四方に設定する。タッピングモードにおけるサンプリングに関しては、測定領域内での走査速度を1周期あたり5秒、走査ライン数を512、1走査ラインあたりの測定ポイントを512とする。カンチレバーの制御変位は15.50nmに設定する。算術平均粗さ(Ra)の測定範囲は、たとえば5μm×5μmの正方形領域である。中央領域53の算術平均粗さ(Ra)は、好ましくは、0.3nm以下であり、より好ましくは、0.2nm以下である。
図23に示されるように、たとえば、中央領域53において、第2主面30の中心Oを通りかつ第1方向101に平行な第1直線8と、第2主面30の中心Oを通りかつ第2方向102に平行な第2直線7とが想定される。第1直線8上において、中心Oから左右に一定の距離156だけ離れた点を含む正方形領域と、第2直線7上において、中心Oから上下に一定の距離156だけ離れた点を含む正方形領域と、中心Oを含む正方形領域とが、算術平均粗さRaの測定領域とされる。たとえば、第1直線8上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、第2直線7上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、中心Oを含む正方形領域(つまり、図23においてハッチングで示された計5カ所の測定領域25)において、算術平均粗さRaが測定される。
(算術平均粗さ:Sa)
中央領域53の算術平均粗さ(Sa)は、1nm以下である。算術平均粗さ(Sa)は、二次元の算術平均粗さ(Ra)を三次元に拡張したパラメータである。算術平均粗さ(Sa)は、たとえば白色干渉顕微鏡により測定することができる。白色干渉顕微鏡として、たとえばニコン社製のBW−D507を用いることができる。算術平均粗さ(Sa)の測定範囲は、たとえば255μm×255μmの正方形領域である。中央領域53の算術平均粗さ(Sa)は、好ましくは、0.3nm以下であり、より好ましくは、0.2nm以下である。たとえば、第1直線8上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、第2直線7上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、中心Oを含む正方形領域(つまり、図23においてハッチングで示された計5カ所の測定領域25)において、算術平均粗さSaが測定される。
(ヘイズ)
中央領域53のヘイズは、50以下である。中央領域53におけるヘイズは、30以下であってもよいし、20以下であってもよい。ヘイズとは、表面粗さの程度を表す指標である。表面がフラットに近づくとヘイズの値は小さくなる。完全にフラットな表面のヘイズは0である。ヘイズの単位は無次元である。ヘイズは、たとえばレーザーテック株式会社製のWASAVIシリーズ「SICA 6X」を用いて測定される。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板の表面に対して水銀キセノンランプなどの光源から波長546nmの光が照射され、当該光の反射光が、たとえばCCD(Charge−Coupled Device)等の受光素子により観察される。観察された画像中のある一つの画素の明るさと、当該ある一つの画素の周囲の画素の明るさとの違いが数値化される。ヘイズは、観察された画像が含む複数の画素の明るさの違いを以下の方法により数値化したものである。
具体的には、1.8mm±0.2mm角の一つの観察視野を64分割した矩形領域の最大ヘイズ値が導出される。一つの観察視野は、1024×1024画素の撮像領域を含む。最大ヘイズ値は、観察視野の水平方向および垂直方向のエッジ強度をSobelフィルタで算出し、その絶対値として導出される。上記手順により、第2主面30から外周領域52が除外された中央領域53の全面において、各観察視野の最大ヘイズ値が観測される。各観察視野の最大ヘイズ値の平均値が中央領域53におけるヘイズ値とされる。
(ダウンフォール欠陥および三角欠陥)
中央領域53にマクロ欠陥がある場合があるが、マクロ欠陥は少ない方がよい。マクロ欠陥は、平面寸法がたとえば10μm以上であり、かつ高さまたは深さなどの垂直方向の寸法が数十ナノメートル以上の欠陥である。マクロ欠陥は、たとえば、ダウンフォール欠陥、三角欠陥、積層欠陥およびキャロット欠陥などである。ダウンフォール欠陥は、エピタキシャル成長時に、成長装置内の堆積物が炭化珪素基板の表面に落下した粒子状の炭化珪素結晶である。ダウンフォールの平面寸法(直径)は、たとえば10μm以上1mm以下である。ダウンフォール欠陥は、たとえば4H−SiCの場合もあるし、3C−SiCの場合もあるし、あるいは断熱材起因の場合もある。ダウンフォール欠陥は、グラファイト成分を含む場合もある。中央領域53において、ダウンフォール欠陥の面密度は、たとえば1.0cm-2以下であり、好ましくは0.5cm-2以下であり、より好ましくは0.1cm-2以下である。
三角欠陥は、平面視において三角形の外形を有する拡張欠陥である。拡張欠陥は、炭化珪素層の表面に対して垂直な方向から見て、2次元的な広がりを有する欠陥である。拡張欠陥は、たとえば完全転位から分かれた2つの部分転位と、当該2つの部分転位の間を結ぶ帯状の積層欠陥とから構成される拡張転位であってもよい。三角欠陥は、たとえば4H−SiCの場合もあるし、3C−SiCの場合もある。中央領域53において、三角欠陥の面密度は、たとえば1.0cm-2以下であり、好ましくは0.5cm-2以下であり、より好ましくは0.1cm-2以下である。
中央領域53を一辺が6mmの正方領域に区分した場合において、全ての正方領域の数に対する、ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかがある正方領域の数の比率は、たとえば10%以下である。具体的には、中央領域53が6mm×6mmの複数の正方領域に仮想的に分割される。全ての正方領域が、たとえばSICAにより観測される。ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかが存在する正方領域が特定される。ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかが存在する正方領域の数を、全ての正方領域の数で除することにより、ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかがある正方領域の比率が計算される。ダウンフォール欠陥および三角欠陥の少なくともいずれかがある正方領域の比率は、好ましくは、5%以下であり、より好ましくは1%以下である。
(キャロット欠陥)
中央領域53には、キャロット欠陥がある場合があるが、キャロット欠陥は少ない方がよい。キャロット欠陥は、拡張欠陥の一種である。キャロット欠陥は、第2主面30に対して垂直な方向から見た場合、長細い形状を有している。キャロット欠陥90の長手方向の幅は、典型的には、100μm以上500μm以下である。キャロット欠陥90の短手方向の幅の最大値は、たとえば10μm以上100μm以下である。キャロット欠陥、第2主面30から突出した部分を有する。突出した部分の高さは、たとえば0.1μm以上2μm以下である。
キャロット欠陥の数を、浅いピット86および深いピット87の数の合計で除した値は、1/500以下である。キャロット欠陥の数を、浅いピット86および深いピット87の数の合計で除した値は、好ましくは、1/1000以下であり、より好ましくは、1/5000以下である。中央領域53におけるキャロット欠陥の密度は、中央領域53における全てのキャロット欠陥の数を中央領域53の面積で除した値である。キャロット欠陥の密度は、たとえば1cm-2以下である。キャロット欠陥の密度は、好ましくは0.5cm-2以下であり、より好ましくは、0.1cm-2以下である。
ダウンフォール欠陥、三角欠陥およびキャロット欠陥は、たとえば共焦点微分干渉顕微鏡を備える欠陥検査装置を用いて第2主面30を観察することにより特定することができる。共焦点微分干渉顕微鏡を備える欠陥検査装置としては、たとえば前述のレーザーテック株式会社製のWASAVIシリーズ「SICA 6X」を用いることができる。対物レンズの倍率はたとえば10倍である。当該欠陥検査装置の検出感度の閾値は、標準試料を用いて取り決められる。予め、ダウンフォール欠陥、三角欠陥およびキャロット欠陥の典型的な平面形状、寸法などを考慮して、ダウンフォール欠陥、三角欠陥およびキャロット欠陥が定義される。観測された画像に基づいて、定義を満たす欠陥の種類、位置および個数が特定される。
(積層欠陥)
中央領域53には、積層欠陥がある場合があるが、積層欠陥は少ない方がよい。中央領域53に対して垂直な方向から見た場合、積層欠陥の形状は、たとえば三角形または台形である。積層欠陥は、2H−SiCの場合もあるし、3C−SiCの場合もあるし、8H−SiCの場合もある。中央領域53において、積層欠陥の面密度は、たとえば1.0cm-2以下であり、好ましくは0.5cm-2以下であり、より好ましくは0.1cm-2以下である。積層欠陥は、たとえばPL(Photo Luminescence)イメージング法により測定することができる。PL測定装置としては、たとえば、Photon Design製のPLIS−100を用いることができる。水銀キセノンランプからの光を313nmのバンドパスフィルターを通してサンプルに入射し、PL光を750nmのローパスフィルターを通して検出する。周囲とのコントラスト差を用いて、積層欠陥を測定することができる。
(ピット)
図5に示されるように、中央領域53には、最大深さ115が8nm未満である浅いピット86と、最大深さ116が8nm以上である深いピット87とがある場合があるが、浅いピット86および深いピット87は少ない方がよい。これらのピットは、エピタキシャル層中の貫通らせん転位(Threading Screw Dislocation:TSD)、貫通刃状転位(Threading Edge Dislocation:TED)等に起因する場合がある。浅いピット86および深いピット87は、炭化珪素単結晶基板10および炭化珪素層20を伸展する貫通らせん転位に起因する場合がある。図5に示されるように、炭化珪素単結晶基板10中の基底面転位(Basal Plane Dislocation:BPD)が、炭化珪素単結晶基板10と炭化珪素層20との境界でTEDに転換され、炭化珪素層20中に伸展するTEDに起因する浅いピット86が第2主面30に露出していてもよい。炭化珪素単結晶基板10および炭化珪素層20中を伸展するTEDに起因する浅いピット86が第2主面に露出していてもよい。浅いピット86は、溝状の微小欠陥である。浅いピット86は、炭化珪素層20内の貫通らせん転位、貫通刃状転位および貫通混合転位に由来すると考えられる。本願明細書では、らせん転位成分を含む貫通混合転位も貫通らせん転位とみなす。
図5に示されるように、深いピット87内において、中央領域53からの最大深さ116は、8nm以上である。中央領域53において、深いピット87の面密度は、たとえば100個cm-2以下である。深いピット87の面密度は低いほど望ましい。深いピット87の面密度は、好ましくは10個cm-2以下であり、より好ましくは1個cm-2以下である。深いピット87内における、中央領域53からの最大深さは、20nm以上であってもよい。言い換えれば、貫通らせん転位23に起因し、かつ中央領域53からの最大深さが20nm以上の深いピット87の面密度は、たとえば100個cm-2以下であり、好ましくは10個cm-2以下であり、より好ましくは1個cm-2以下である。
図6に示されるように、第2主面30に対して垂直な方向から見て、深いピット87の平面形状は、円形状であってもよい。図7に示されるように、第2主面30に対して垂直な方向から見て、深いピット87の平面形状は、三角形状であってもよいし、図8に示されるように棒状であってもよい。
図8に示されるように、中央領域53に垂直な方向から見て、棒状の深いピット87の平面形状は、第1方向101に延びる第1辺61と、第1方向101と垂直な第2方向102に延びる第2辺62とを含んでいてもよい。第1辺61の幅117は、たとえば第2辺62の幅118の2倍以上である。第1辺61の幅117は、第2辺62の幅118の5倍以上でもよい。第1辺61の幅117は、たとえば5μm以上でもよいし、25μm以上でもよい。第1辺61の幅117は、たとえば50μm以下でもよいし、35μm以下でもよい。第2辺62の幅118は、たとえば1μm以上でもよいし、2μm以上でもよい。第2辺62の幅118は、たとえば5μm以下でもよいし、4μm以下でもよい。
ピットが貫通らせん転位に起因するか否かは、たとえばエッチピット法によって確認することができる。エッチピット法によれば、たとえば次のようにして、貫通らせん転位に起因するピットを判別できる。ここで示すエッチング条件はあくまで一例であり、エッチング条件は、たとえばエピタキシャル層の厚さ、ドーピング濃度等に応じて、変更してもよい。以下の条件は、エピタキシャル層の厚さが10μm〜50μm程度の場合を想定している。
エッチングには、たとえば水酸化カリウム(KOH)融液が用いられる。KOH融液の温度は、500〜550℃程度とする。エッチング時間は、5〜10分程度とする。エッチング後、第2主面30を、ノルマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察する。貫通らせん転位に由来するピットは、貫通刃状転位に由来するピットよりも大型のエッチピットを形成する。貫通らせん転位に由来するエッチピットは、たとえば平面形状が六角形状であり、かつ六角形の対角線の長さは、典型的には30〜50μm程度となる。貫通刃状転位に由来するエッチピットは、たとえば平面形状が六角形状であり、かつ貫通らせん転位に由来するエッチピットよりも小さい。貫通刃状転位に由来するエッチピットにおいて、六角形の対角線の長さは、典型的には15〜20μm程度となる。
ピット内における第2主面30からの最大深さは、AFMを用いて測定することができる。AFMとしては、たとえばVeeco社製の「Dimension3000」等を採用することができる。AFMのカンチレバーには、Bruker社製の型式「NCHV−10V」等が好適である。AFMの条件を、次のように設定することができる。測定モードはタッピングモードに設定する。タッピングモードでの測定領域は5μm四方に設定する。タッピングモードにおけるサンプリングに関しては、測定領域内での走査速度を1周期あたり5秒、走査ライン数を512、1走査ラインあたりの測定ポイントを512とする。カンチレバーの制御変位は15.50nmに設定する。
ピットの形状は、共焦点微分干渉顕微鏡を備える欠陥検査装置を用いて第2主面30を観察することにより特定することができる。共焦点微分干渉顕微鏡を備える欠陥検査装置としては、前述のレーザーテック株式会社製のWASAVIシリーズ「SICA 6X」等を用いることができる。対物レンズの倍率は10倍とする。当該欠陥検査装置の検出感度の閾値は、標準試料を用いて取り決められる。これにより、当該欠陥検査装置を用いることにより、被測定サンプルに形成されたピットの形状を定量的に評価することができる。
第2主面30からの最大深さが8nm以上であるピットの面密度は、AFM測定と、欠陥検査装置とを併用して行う。AFM測定における深さデータと、共焦点顕微鏡測定におけるピット画像とを関連付けることにより、最大深さが8nm以上であるピットの形状を定義する。中央領域53を全面分析して、定義を満たすピットを検出する。検出されたピットの個数を測定面積で除することにより、ピットの面密度を算出することができる。
(台形状欠陥)
図9に示されるように、中央領域53において、台形状の窪みである台形状欠陥70がある場合があるが、台形状欠陥70は少ない方がよい。中央領域53において、台形状欠陥70の面密度は、たとえば10個cm-2以下である。台形状欠陥の欠陥密度は低いほど好ましい。台形状欠陥の欠陥密度は、好ましくは、5個cm-2以下であり、より好ましくは、1個cm-2以下である。
台形状欠陥70は、中央領域53に垂直な方向から見て<11−20>方向と交差する上底部72および下底部74を含んでいる。上底部72の幅150は、たとえば0.1μm以上100μm以下である。下底部74の幅152は、たとえば50μm以上5000μm以下である。<11−20>方向と平行な方向における上底部72と下底部74との間の距離151は、上底部72よりも短くてもよい。上底部72は、突起部73を含んでいてもよい。下底部74は、複数のステップバンチング75を含んでいてもよい。
図10は、図9におけるX−X線に沿った断面模式図である。図10に示されるように、上底部72は、突起部73(バンプ)を含んでいてもよい。突起部73は、上底部72の略中央に位置していてもよい。上底部72において、突起部73は、第2主面30から、第2主面30に対してほぼ垂直な方向に突出していてもよい。突起部73の高さ119は、5nm以上20nm以下程度である。突起部73の高さ153は、たとえば白色干渉顕微鏡(ニコン社製の「BW−D507」)によって測定できる。白色干渉顕微鏡の光源には水銀ランプを採用することができる。観察視野は250μm×250μmとすることができる。
図11は、図9のXI−XI線に沿った断面模式図である。台形状欠陥70の内部である上底部72と下底部74との間の領域では、炭化珪素層20の表面が、単結晶基板10側に向かって僅かに後退している。言い換えれば、台形状欠陥70は第2主面30に設けられた凹部を含む。台形状欠陥70は、単結晶基板10と炭化珪素層20との界面に起点71を有する場合がある。図10に示されるように、起点71から延びる転位は、前述の突起部73と繋がっている場合がある。
図12は、図9の領域XIIの拡大図である。図12に示されるように、下底部74は、複数のステップバンチング75を含む場合がある。ステップバンチングとは、複数の原子ステップが束をなし、1nm以上の段差となった線状欠陥である。ステップバンチングにおける段差の大きさは、たとえば1〜5nm程度である。ステップバンチングにおける段差の大きさは、たとえばAFMによって測定できる。下底部74に含まれるステップバンチング75の個数は、たとえば2〜100個程度でもよいし、2〜50個程度でもよい。
第2主面30における台形状欠陥は、たとえばノマルスキータイプの光学顕微鏡(たとえば製品名「MX−51」、オリンパス社製)を用いて観測することができる。たとえば50倍〜400倍の倍率で、中央領域53を全面分析し、検出された各欠陥の個数を中央領域53の面積で除することにより、台形状欠陥70の欠陥密度の算出することができる。
(基底面転位)
図13に示されるように、中央領域53において、基底面転位24がある場合があるが、基底面転位24は少ない方がよい。基底面転位24は、(0001)面内を伸展する転位である。基底面転位24の一方端は第3主面13に露出し、基底面転位24の他方端は第2主面30に露出していてもよい。中央領域53において、基底面転位24の面密度は、たとえば10cm-2以下である。中央領域53において、基底面転位24の面密度は、好ましくは、1cm-2以下であり、より好ましくは、0.1cm-2以下である。
(貫通らせん転位および貫通刃状転位)
中央領域53において、貫通らせん転位がある場合があるが、貫通らせん転位は少ない方がよい。中央領域53における貫通らせん転位の面密度は、たとえば1000cm-2以下である。中央領域53における貫通らせん転位の面密度は、好ましくは500cm-2以下であり、より好ましくは100cm-2以下である。同様に、中央領域53において、貫通刃状転位がある場合があるが、貫通刃状転位は少ない方がよい。中央領域53における貫通刃状転位の面密度は、たとえば5000cm-2以下である。中央領域53における貫通らせん転位の面密度は、好ましくは3000cm-2以下であり、より好ましくは1000cm-2以下である。
次に、基底面転位、貫通らせん転位および貫通刃状転位の面密度の測定方法について説明する。
上記転位の面密度は、たとえばエッチピット法によって確認することができる。エッチングには、たとえば水酸化カリウム(KOH)融液が用いられる。KOH融液の温度は、500〜550℃程度とする。エッチング時間は、5〜10分程度とする。エッチング後、第2主面30を、ノルマルスキー微分干渉顕微鏡を用いて観察する。測定領域25は、0.3mm×0.3mmの正方形領域とすることができる。たとえば、第1直線8上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、第2直線7上において、中心Oから±60mm離れた点を含む正方形領域と、中心Oを含む正方形領域(つまり、図23においてハッチングで示された計5カ所の測定領域25)において上記転位が測定される。なお、基底面転位は、PL(Photo Luminescence)イメージング法により測定されてもよい。PLイメージング法の場合、測定領域の面積は、たとえば6mm×6mmである。
(オフ方向に対して垂直な直線に沿って並ぶハーフループの転位列)
図14および図16に示されるように、中央領域53には、オフ方向に対して垂直な直線に沿って並ぶ第1ハーフループ1の第1転位列2がある場合があるが、第1転位列2は少ない方がよい。第1転位列2は、複数の第1ハーフループ1から構成されている。オフ方向が第1方向101の場合、オフ方向に対して垂直な方向は第2方向102である。第1ハーフループ1は、第2主面30(図15参照)に露出する一対の貫通刃状転位を含む。中央領域53における第1転位列2の面密度は、10本cm-2以下である。好ましくは、中央領域53における第1転位列2の面密度は、5本cm-2以下であり、より好ましくは1本cm-2以下である。
次に、転位列の面密度の測定方法について説明する。
まず、溶融KOH(水酸化カリウム)で中央領域53がエッチングされることにより、中央領域53にエッチピットが形成される。溶融KOHの温度は、たとえば515℃である。溶融KOHによるエッチング時間は、たとえば8分である。次に、光学顕微鏡を用いて中央領域53に形成されたエッチピットが観察される。中央領域53が、たとえば格子状に1cm×1cmの正方形領域に分割される。全ての正方形領域において転位列の面密度が測定される。中央領域53における第1転位列2の面密度は、10本cm-2以下であるとは、全ての正方形領域において第1転位列2の面密度が10本cm-2以下であることを意味する。なお、中央領域53の外周付近は、ラウンド状であるため正方形の領域に分割できない。転位列の面密度の計算に際して、このような正方形の領域に分割できない領域における面密度は考慮しない。
図16に示されるように、第1ハーフループ1は、略U字型を有している。第1ハーフループ1の湾曲部は炭化珪素層20内に設けられている。一対の貫通刃状転位の端部3は第2主面30に露出している。第1ハーフループ1の湾曲部は、貫通刃状転位以外の転位であってもよい。炭化珪素エピタキシャル基板100は、基底面転位34を含んでいる。基底面転位34は、第1部分31と、第2部分32と、第3部分33とにより構成されている。第1部分31は、炭化珪素単結晶基板10中に存在する基底面転位である。第2部分32は、炭化珪素単結晶基板10と炭化珪素層20との界面に存在する界面転位である。第3部分33は、炭化珪素層20中に存在する基底面転位である。第1部分31は、第2部分32と繋がっている。第2部分32は、第3部分33と繋がっている。第1部分31は、炭化珪素単結晶基板10の第3主面13に露出する。第3部分33は、炭化珪素層20の第2主面30に露出する。言い換えれば、基底面転位34の一方の端部35は第2主面30に露出し、他方の端部は第3主面13に露出する。
図16に示されるように、第1転位列2は、第1部分31を、第1部分31の伸展方向に沿って炭化珪素層20側に延長した仮想線37が第2主面30に露出した点36と、基底面転位34の一方の端部35との間に位置してもよい。言い換えれば、第1転位列2が含む複数の第1ハーフループ1の各々は、点36と端部35との間に位置していてもよい。つまり、第2主面30に対して垂直な方向から見て、第1転位列2は、仮想線37と第3部分33との間に位置していてもよい。
図17に示されるように、第2方向102において、第1転位列2の長さ123は、たとえば0.1mm以上50mm以下である。第1方向101において、一方の端部3と他方の端部3と間の距離122は、たとえば1μm以上10μm以下である。第2方向102において、隣り合う2つの第1ハーフループ1の間の距離121は、たとえば1μm以上100μm以下である。距離121は、距離122よりも長くてもよい。2つの端部3は、第1方向101上に位置していてもよい。隣り合う2つの第1ハーフループ間の間隔は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。第2主面30に対して垂直な方向から見て、複数の第1ハーフループ1の各々は、第2方向102に平行な直線と重なっている。第1転位列2の長手方向は、第2方向102である。第1転位列2の長手方向は、界面転位の伸展方向と平行であってもよい。
図18に示されるように、第2主面30に対して垂直な方向において、複数の第1ハーフループ1の各々の深さは、ほぼ同じであってもよい。第1ハーフループ1の深さとは、第2主面30に対して垂直な方向におけるハーフループの長さである。第1ハーフループ1の深さは、炭化珪素層20の厚みより小さくてもよい。第1ハーフループ1は、炭化珪素単結晶基板10から離間していてもよい。
(オフ方向に対して傾斜する直線に沿って並ぶハーフループの転位列)
図14および図19に示されるように、中央領域53には、オフ方向に対して傾斜する直線に沿って並ぶ第2ハーフループ4の第2転位列5がある場合があるが、第2転位列5は少ない方がよい。第2転位列5は、複数の第2ハーフループ4から構成されている。第2ハーフループ4は、第1方向101および第2方向102の双方に対して傾斜する直線に平行な第3方向103に沿って並んでいる。第2ハーフループ4は、第2主面30に露出する一対の貫通刃状転位を含む。中央領域53おいて、第1転位列2の面密度は、第2転位列5の面密度よりも低くてもよい。中央領域53における第2転位列5の面密度は、10本cm-2よりも高くてもよい。第1転位列2は、外周領域52の近くに多く存在し、第2転位列5は、中央領域53の中心付近に多く存在する場合がある。
図19に示されるように、第2ハーフループ4は、略U字型を有している。第2ハーフループ4の湾曲部は炭化珪素層20内に設けられており、一対の貫通刃状転位の端部6が第2主面30に露出している。第2ハーフループ4の湾曲部は、貫通刃状転位以外の転位であってもよい。炭化珪素エピタキシャル基板100は、基底面転位44を含んでいる。基底面転位44は、第4部分41と、第5部分42と、第6部分43とにより構成されている。第4部分41は、炭化珪素単結晶基板10中に存在する基底面転位である。第5部分42は、炭化珪素単結晶基板10と炭化珪素層20との界面に存在する界面転位である。第6部分43は、炭化珪素層20中に存在する基底面転位である。第4部分41は、第5部分42と繋がっている。第5部分42は、第6部分43と繋がっている。第4部分41は、炭化珪素単結晶基板10の第3主面13に露出する。第6部分43は、炭化珪素層20の第2主面30に露出する。言い換えれば、基底面転位44の一方の端部45は第2主面30に露出し、他方の端部は第3主面13に露出する。第2主面30に対して垂直な方向から見て、第2転位列5は、第4部分41を、第4部分41の伸展方向に沿って炭化珪素層20側に延長した仮想線47と、第6部分43との間に位置していてもよい。言い換えれば、第2転位列5は、仮想線47が第2主面30に露出した点46と、基底面転位44の一方の端部45との間に位置してもよい。
図20に示されるように、第3方向103において、第2転位列5の長さ126は、たとえば0.1mm以上50mm以下である。第3方向103に対して垂直な方向において、一方の端部6と他方の端部6と間の距離125は、たとえば1μm以上10μm以下である。第3方向103において、隣り合う2つの第2ハーフループ4の間の距離124は、たとえば1μm以上100μm以下である。距離124は、距離125よりも長くてもよい。2つの端部6は、第3方向103方向に対して垂直な直線上に位置していてもよい。第2主面30に対して垂直な方向から見て、複数の第2ハーフループ4の各々は、第3方向103に平行な直線と重なっている。隣り合う2つの第2ハーフループ間の間隔は、同じであってもよいし、異なっていてもよい。
図21に示されるように、第2主面30に対して垂直な方向において、複数の第2ハーフループ4の各々の深さは、異なっていてもよい。第2ハーフループ4の深さとは、第2主面30に対して垂直な方向におけるハーフループの長さである。具体的には、第2ハーフループ4の深さは、オフ方向に向かって小さくなっていてもよい。言い換えれば、第2主面30に対して垂直な方向から見て、第4部分41に近い第2ハーフループ4の深さは、第6部分43に近い第2ハーフループ4の深さよりも大きい。第2ハーフループ4の深さは、炭化珪素層20の厚みより小さくてもよい。第2ハーフループ4は、炭化珪素単結晶基板10から離間していてもよい。
(接触角)
図22に示されるように、第2主面30の中央領域53上に純水80が滴下された状態を想定する。中央領域53と純水80との境界面における純水80の表面の接線81と中央領域53との間の角度が純水80の接触角φである。図23に示されるように、ハッチングで示された5つの測定領域25において、純水80の接触角φが測定される。上記5つの測定領域25において、純水80の接触角φの平均値は、45°以下であり、かつ接触角φの最大値および最小値の差の絶対値は10°以下であってもよい。接触角φの平均値は、好ましくは、30°以下であり、より好ましくは、15°以下である。接触角φの最大値および最小値の差の絶対値は、好ましくは、5°以下であり、より好ましくは、3°以下である。接触角の測定は、たとえば次のようにして行うことができる。炭化珪素単結晶基板10の第2主面30に0.2mLの純水を滴下し、滴下された純水を第2主面30と平行の方向から撮影する。撮影した写真から、純水と大気の界面と、第2主面30とがなす角度を測定した値が接触角である。
具体的には、接触角φの平均値は、45°以下であり、かつ接触角φの最大値および最小値の差の絶対値は5°以下であってもよい。接触角φの平均値は、30°以下であり、かつ接触角φの最大値および最小値の差の絶対値は5°以下であってもよい。接触角φの平均値は、15°以下であり、かつ接触角φの最大値および最小値の差の絶対値は3°以下であってもよい。親水性が高くなると、接触角は小さくなる。接触角を小さくすることにより、炭化珪素エピタキシャル基板を洗浄する際、第2主面上のパーティクルを効果的に除去することができる。
(warpおよびbow)
次に、炭化珪素エピタキシャル基板100のwarpとbowについて説明する。まず、図24に示されるように、第2主面30の3点基準面94が決定される。3点基準面94とは、第2主面30上の3点(第1位置95、第2位置96および第3位置97)を含む仮想平面である。第1位置95、第2位置96および第3位置97を繋ぐことにより構成される三角形は、内部に第2主面30の中心Oを含む正三角形である。warpとbowは、たとえばTropel社製のFlatmasterにより測定することができる。
図25および図26に示されるように、3点基準面94と垂直な方向において、3点基準面94から見た第2主面30の最高位置92と3点基準面94との間の距離154と、3点基準面94から見た第2主面30の最低位置93と3点基準面94との間の距離155との合計がwarpである。本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100のwarpは、たとえば0μm以上30μm以下である。炭化珪素エピタキシャル基板100のwarpは、好ましくは、25μm以下であり、より好ましくは、20μm以下である。なお、炭化珪素単結晶基板10の厚みは、600μm以下である。
図25および図26に示されるように、3点基準面94と垂直な方向において、第2主面30の中心位置91と3点基準面94との間の距離がbowである。図25に示されるように、第2主面30の中心位置91が3点基準面94よりも低い場合、bowは負の値を示す。反対に、図26に示されるように、第2主面30の中心位置91が3点基準面94よりも高い場合、bowは正の値を示す。本実施の形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100のbowの絶対値は、たとえば20μm以下である。炭化珪素エピタキシャル基板100のbowの絶対値は、好ましくは、18μm以下であり、より好ましくは、15μm以下である。
図25に示されるように、bowが負の場合、3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最低の高さを有する位置PLは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの2/3までの範囲にある。3点基準面94から見て最低の高さを有する位置PLは、好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/2までの範囲にあり、より好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/3までの範囲にある。同様に、3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最高の高さを有する位置PHは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの2/3までの範囲にあり、好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/2までの範囲にあり、より好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/3までの範囲にある。
図26に示されるように、bowが正の場合、第2主面30の3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最高の高さを有する位置PHは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの2/3までの範囲にある。3点基準面94から見て最高の高さを有する位置PHは、好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/2までの範囲にあり、より好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/3までの範囲にある。同様に、3点基準面94に対して垂直な方向において、3点基準面94から見て最低の高さを有する位置PLは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの2/3までの範囲にあり、好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/2までの範囲にあり、より好ましくは、第2主面30の中心Oから第2主面30の半径Rの1/3までの範囲にある。
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造装置)
本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造装置200の構成について説明する。
図27に示されるように、製造装置200は、たとえばホットウォール方式の横型CVD(Chemical Vapor Deposition)装置である。製造装置200は、反応室201と、ガス供給部235と、制御部245と、発熱体203、石英管204、断熱材205、誘導加熱コイル206とを主に有している。
発熱体203は、たとえば筒状の形状を有しており、内部に反応室201を構成している。発熱体203は、たとえば黒鉛製である。断熱材205は、発熱体203の外周を取り囲んでいる。断熱材205は、石英管204の内周面に接するように石英管204の内部に設けられている。誘導加熱コイル206は、たとえば石英管204の外周面に沿って巻回されている。誘導加熱コイル206は、外部電源(図示せず)により、交流電流が供給可能に構成されている。これにより、発熱体203が誘導加熱される。結果として、反応室201が発熱体203により加熱される。
反応室201は、発熱体203に取り囲まれて形成された空間である。反応室201内には、炭化珪素単結晶基板10が配置される。反応室201は、炭化珪素単結晶基板10を加熱可能に構成されている。反応室201には、炭化珪素単結晶基板10を保持するサセプタプレート210が設けられている。サセプタプレート210は、回転軸212の周りを自転可能に構成されている。
製造装置200は、ガス導入口207およびガス排気口208をさらに有している。ガス排気口208は、図示しない排気ポンプに接続されている。図27中の矢印は、ガスの流れを示している。ガスは、ガス導入口207から反応室201に導入され、ガス排気口208から排気される。反応室201内の圧力は、ガスの供給量と、ガスの排気量とのバランスによって調整される。
製造装置200は、ガス導入口207および発熱体203の間に位置する加熱部211をさらに有していてもよい。加熱部211は、発熱体203よりも上流側に位置している。発熱体203は、たとえば1500℃以上1700℃以下程度に加熱されるように構成されていてもよい。
ガス供給部235は、反応室201に、たとえば、シラン(SiH4)ガスと、プロパン(C3H8)ガスと、アンモニア(NH3)ガスと、水素(H2)ガスとを含む混合ガスを供給可能に構成されている。具体的には、ガス供給部235は、第1ガス供給部231と、第2ガス供給部232と、第3ガス供給部233と、キャリアガス供給部234とを含んでもよい。
第1ガス供給部231は、炭素原子を含む第1ガスを供給可能に構成されている。第1ガス供給部231は、たとえば第1ガスが充填されたガスボンベである。第1ガスは、たとえばプロパンガスである。第1ガスは、たとえばメタン(CH4)ガス、エタン(C2H6)ガス、アセチレン(C2H2)ガス等であってもよい。
第2ガス供給部232は、珪素原子を含む第2ガスを供給可能に構成されている。第2ガス供給部232は、たとえば第2ガスが充填されたガスボンベである。第2ガスは、たとえばシランガスである。第2ガスは、シランガスと、シラン以外の他のガスとの混合ガスでもよい。
第3ガス供給部233は、アンモニアガスを含む第3ガスを供給可能に構成されている。第3ガス供給部233は、たとえば第3ガスが充填されたガスボンベである。第3ガスは、たとえばアンモニアガスである。アンモニアガスは、三重結合を有する窒素ガスに比べて熱分解されやすい。アンモニアガスを用いることにより、キャリア濃度の面内均一性の向上が期待できる。アンモニアガスは、たとえば水素ガスによって希釈されている。この場合、第3ガスは、アンモニアガスと、水素ガスとを含む。水素ガスに対するアンモニアガスの濃度は、0.01%(100ppm)以上10%以下程度である。
キャリアガス供給部234は、たとえば水素などのキャリアガスを供給可能に構成されている。キャリアガス供給部234は、たとえば水素が充填されたガスボンベである。
制御部245は、ガス供給部235から反応室201に供給される混合ガスの流量を制御可能に構成されている。具体的には、制御部245は、第1ガス流量制御部241と、第2ガス流量制御部242と、第3ガス流量制御部243と、キャリアガス流量制御部244とを含んでいてもよい。各制御部は、たとえばMFC(Mass Flow Controller)である。制御部245は、ガス供給部235とガス導入口207との間に配置されている。言い換えれば、制御部245は、ガス供給部235とガス導入口207とを繋ぐ流路に配置されている。
反応室201は、炭化珪素単結晶基板10を取り囲む第1加熱領域213と、第1加熱領域213よりも上流側に位置する第2加熱領域214とを含んでいる。図27に示されるように、第2加熱領域214は、混合ガスの流れ方向(反応室201の軸方向)において、断熱材205と発熱体203との上流側の境界から、上流側の炭化珪素単結晶基板10が配置される領域の端部までの領域である。第2加熱領域214と第1加熱領域213との境界部は、サセプタプレート210に設けられた凹部の上流側の側面であってもよい。第1加熱領域213の下流側の端部は、断熱材205と発熱体203との下流側の境界であってもよい。
反応室201の軸方向において、誘導加熱コイル206の巻き密度を変化させてもよい。巻き密度(回/m)とは、装置の軸方向の単位長さあたりのコイルの周回数である。たとえば、上流側でアンモニアを効果的に熱分解させるために、第2加熱領域214において、上流側の誘導加熱コイル206の巻き密度は、下流側の誘導加熱コイル206の巻き密度よりも高くてもよい。
第2加熱領域214は、アンモニアの分解温度以上の温度に加熱可能に構成されている。アンモニアの分解温度は、たとえば500℃である。第2加熱領域214の温度は、たとえば放射温度計により測定可能である。第2加熱領域214を構成する発熱体203の部分の温度は、たとえば1500℃以上1700℃以下である。混合ガスの流れ方向において、第2加熱領域214の長さ222は、60mm以上であってもよいし、70mm以上であってもよいし、80mm以上であってもよい。混合ガスの流れ方向において、第1加熱領域213の長さ221は、第2加熱領域214の長さ222よりも大きくてもよい。
図28に示されるように、アンモニアガスを含む第3ガス供給部233と反応室201との間に、第1MFC251および第2MFC252が配置されていてもよい。水素ガスを含むキャリアガス供給部234は、第1MFC251および第2MFC252の間を繋ぐ配管253に接続されている。前述のように、アンモニアガスの濃度は非常に低いため、アンモニアガスの濃度を精度良く制御することが望ましい。上記構成により、アンモニアガスの濃度を精度良く制御することができる。
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。
まず、たとえば昇華法により、ポリタイプ4Hの炭化珪素単結晶が製造される。次に、たとえばワイヤーソーによって、炭化珪素単結晶をスライスすることにより、炭化珪素単結晶基板10が準備される(図29および図30参照)。炭化珪素単結晶基板10は、第1主面11と、第1主面11と反対側の第3主面13とを有する。図30に示されるように、第1主面11は、(0001)面がオフ方向に傾斜した面である。
具体的には、第1主面11は、たとえば(0001)面が0.5°以上8°以下傾斜した面である。(0001)面からの傾斜角(オフ角)は、1°以上であってもよいし、2°以上であってもよい。オフ角は、7°以下であってもよいし、6°以下であってもよい。オフ方向は、たとえば<11−20>方向であってもよいし、<1−100>方向であってもよいし、<11−20>方向と<1−100>方向とに挟まれた方向であってもよい。
炭化珪素単結晶基板10の厚みは、たとえば1mmであってもよいし、2mmであってもよい。炭化珪素単結晶基板10を厚くスライスすることにより、炭化珪素単結晶基板10のwarpおよびbowが向上する。炭化珪素単結晶基板10の第1主面11および第3主面13に対して、MP(Mechanical Polishing)およびCMP(Chemical Mechanical Polishing)が行われる。これにより、第1主面11および第3主面13が平坦化される。MP工程およびCMP工程後における炭化珪素単結晶基板10の厚みは、たとえば600μmである。
次に、炭化珪素単結晶基板10が、前述した製造装置200内に配置される。具体的には、炭化珪素単結晶基板10は、第1主面11がサセプタプレート210から露出するように、サセプタプレート210の凹部に配置される。
図38に示されるように、第1時点(t1)は、サセプタプレート210に炭化珪素単結晶基板10をサセプタプレート210の凹部に配置した時点を示す。第1時点(t1)では、反応室201内の温度は第1温度(T1)であり、反応室201内の圧力は、たとえば大気圧である。第1温度(T1)は、たとえば室温である。第2時点(t2)より、反応室201内の減圧が開始される。第3時点(t3)において、反応室201内の圧力は第1圧力(P1)に達する。第1圧力(P1)は、たとえば1×10-6Pa程度である。
第3時点(t3)から第4時点(t4)まで反応室201の昇温が開始される。本開示では、昇温途中の第4時点(t4)から第5時点(t5)までの間、反応室201内の温度は、第2温度(T2)に保持される。第2温度(T2)は、たとえば1100℃である。保持時間は、たとえば10分である。この操作により、サセプタプレート210の温度と、炭化珪素単結晶基板10の温度との乖離が小さくなり、炭化珪素単結晶基板10の面内における温度分布が均一になることが期待される。
第5時点(t5)において反応室201の昇温が再開される。本開示では、第5時点(t5)より、キャリアガスである水素ガスが反応室201に導入される。水素ガスの流量は、たとえば120slm程度である。流量の単位「slm」は、標準状態(0℃、101.3kPa)における「L/min」を示す。この操作により、たとえば反応室201内の残留窒素の低減が期待される。また炭化珪素単結晶基板10の第1主面11が水素によりエッチングされる。水素ガスの導入により、反応室201内の圧力は、第1圧力(P1)から第2圧力(P2)に変化する。第2圧力(P2)は、たとえば80mbar(8kPa)である。反応室201の温度が第3温度(T3)に達した後、反応室201が一定時間、第3温度(T3)に維持される。第3温度(T3)は、たとえば、1630℃である。第3温度(T3)は、エピタキシャル成長が進行する成長温度である。
第6時点(t6)より、第1ガスとしてのシランガスと、第2ガスとしてのプロパンガスと、ドーピングガスとが反応室201に導入される。本開示では、ドーピングガスにアンモニアガスを用いる。アンモニアガスを用いることにより、面内均一性の向上が期待できる。アンモニアガスは、反応室201に導入される前の段階で、予め熱分解させておいてもよい。
第6時点(t6)から第7時点(t7)にかけて、炭化珪素単結晶基板10上にバッファ層27がエピタキシャル成長により形成される。第6時点(t6)および第7時点(t7)の間において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は46sccmであり、プロパンガスの流量は14sccmであり、アンモニアガスの流量は0.7sccmである。原料ガスのC/Si比は、たとえば0.9である。バッファ層27の厚みは、たとえば1μmである。第6時点(t6)および第7時点(t7)までは、たとえば3分である。バッファ層27がエピタキシャル成長により形成されている間、サセプタプレート210は回転している。
第7時点(t7)から第8時点(t8)にかけて、バッファ層27上にドリフト層28がエピタキシャル成長により形成される。第7時点(t7)および第8時点(t8)の間において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は161sccmであり、プロパンガスの流量は52.5sccmであり、アンモニアガスの流量は1.4×10-2sccmである。水素ガスに対するシランガスの体積率(SiH4/H2)は、0.13%である。原料ガスのC/Si比は、たとえば1.0である。ドリフト層28の厚みは、たとえば15μmである。第7時点(t7)および第8時点(t8)までは、たとえば31分である。ドリフト層28がエピタキシャル成長により形成されている間、サセプタプレート210は回転している。第8時点(t8)において、シランガス、プロパンガスおよびアンモニアガスの供給が停止される。
好ましくは、炭化珪素層20の成長工程において、炭化珪素単結晶基板10の面内方向の温度が均一に維持される。具体的には、第6時点(t6)から第8時点(t8)までの間、炭化珪素単結晶基板10の第1主面11における最高温度と最低温度との差が30℃以下に維持される。好ましくは、最高温度と最低温度との差が10℃以下に維持される。
次に、炭化珪素単結晶基板10のある領域XXXI上における炭化珪素層20の部分の成長工程について詳細に説明する。
図29および図31に示されるように、第1時点(t1)において、炭化珪素単結晶基板10内のある領域XXXIには、(0001)面上に伸展する基底面転位34が存在している。基底面転位34の一方の端部は、第1主面11に露出し、他方の端部は第3主面13に露出している。基底面転位34は、オフ方向である第1方向101に沿って伸展している。
図32に示されるように、第6時点(t6)から第7時点(t7)において、バッファ層27が炭化珪素単結晶基板10上に形成される。基底面転位34は、炭化珪素単結晶基板10からバッファ層27に伝播する。基底面転位34は、第1方向101に沿ってバッファ層27を伸展する。基底面転位34の一方の端部は、バッファ層27の表面に露出し、他方の端部は第3主面13に露出している。
図33に示されるように、第7時点(t7)から第8時点(t8)において、ドリフト層28がバッファ層27上に形成される。基底面転位34は、ドリフト層28の成長に伴って、ドリフト層28中を伸展する。第7時点(t7)において、基底面転位34の一方の端部は炭化珪素層20の第2主面30に露出し、他方の端部は炭化珪素単結晶基板10の第3主面13に露出している。以上により、炭化珪素層20の形成が実質的に完了する。
次に、炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却工程について説明する。
図38に示されるように、成長工程終了後、冷却工程が実施される。第8時点(t8)から第9時点(t9)までが冷却工程である。冷却工程において、炭化珪素単結晶基板10と炭化珪素層20とを含む炭化珪素エピタキシャル基板100が冷却される。たとえば、第8時点(t8)から第9時点(t9)にかけて、炭化珪素エピタキシャル基板100の温度は、第3温度(T3)から第1温度(T1)まで低下する。第8時点(t8)から第9時点(t9)までの時間は、たとえば60分である。第3温度(T3)は、たとえば1600℃である。たとえば、炭化珪素エピタキシャル基板100は、約1時間で、1600℃から100℃まで冷却される。言い換えれば、炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却速度は、たとえば(1600−100)℃/1時間=1500℃/時間である。冷却工程における冷却速度は、1500℃/時間以下であってもよいし、1300℃/時間以下であってもよいし、1000℃/時間以下であってもよい。
図34に示されるように、冷却工程において、炭化珪素層20中に第1ハーフループ1から構成される第1転位列2が形成される場合がある。第1転位列2は、炭化珪素層20中の基底面転位の第3部分33が、オフ方向とは垂直な第2方向102にスライドすることにより発生すると考えられる。成長工程における基底面転位34(図33参照)は、冷却工程において第1部分31と第2部分32と第3部分33とにより構成される基底面転位34(図34)に変化するとともに、複数の第1ハーフループ1を形成する。言い換えれば、第1ハーフループ1は基底面転位34に起因して発生する。
好ましくは、炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却工程において、炭化珪素エピタキシャル基板100の面内方向の温度が均一に維持される。具体的には、第8時点(t8)から第9時点(t9)までの間、炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30における最高温度と最低温度との差が10℃以下に維持される。たとえば、冷却工程における炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却速度を低くすることにより、炭化珪素エピタキシャル基板100の面内方向の温度の均一性を向上することができる。結果として、炭化珪素エピタキシャル基板100内の応力を緩和することで、オフ方向に対して垂直な直線に沿って並ぶ第1ハーフループ1の第1転位列2の発生を抑制することができる。
次に、第9時点(t9)から第10時点(t10)において、反応室201は、大気圧および室温の条件で保持される。炭化珪素エピタキシャル基板100の温度が室温付近になった後、炭化珪素エピタキシャル基板100が反応室201から取り出される。以上のようにして、炭化珪素エピタキシャル基板100が完成する(図14参照)。
なお冷却工程において、反応室201内の圧力が低減されてもよい。反応室201内の圧力は、約10分間でたとえば100mbar(10kPa)から10mbar(1kPa)まで低減されてもよい。反応室201内の圧力の低下速度は、(10−1)kPa/10分=0.9kPa/分である。反応室201内の圧力の低減速度は、0.9kPa/分以上であってもよし、1.2kPa/分以上であってもよいし、1.5kPa/分以上であってもよい。冷却工程において反応室201の圧力を急速に低減することにより、反応室201内を外部から断熱し、炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却速度を低減することができる。
反応室201内の圧力は、たとえばキャリアガスの流量を低減することにより低減し得る。たとえば、成長工程におけるキャリアガスの流量が120slmであり、冷却工程におけるキャリアガスの流量が12slmであってもよい。成長工程において、反応室201にはキャリアガス、ドーパントガスおよび原料ガスが供給されている。冷却工程において、反応室201にはキャリアガスのみが供給されていてもよい。キャリアガスの流量は、成長工程終了直後に低減されてもよいし、冷却工程において成長工程における流量を一定時間維持した後低減されてもよい。
次に、炭化珪素単結晶基板10のある領域XXXV上における炭化珪素層20の部分の成長工程について詳細に説明する。
図29および図35に示されるように、第1時点(t1)において、炭化珪素単結晶基板10内のある領域XXXVには、(0001)面上に存在する基底面転位44が存在していてもよい。基底面転位44の一方の端部は、第1主面11に露出し、他方の端部は第3主面13に露出している。基底面転位は、オフ方向である第1方向101に沿って伸展している。
図36に示されるように、第6時点(t6)から第7時点(t7)の間において、炭化珪素単結晶基板10上にバッファ層27が形成される。この際、基底面転位44に起因して第2ハーフループ4が発生する。第2ハーフループ4の2つの端部は、バッファ層27の表面に露出する。バッファ層27中を伸展していた基底面転位の第6部分43は、第2方向(図36中の矢印の方向)にシフトする。結果として、基底面転位44は、炭化珪素単結晶基板10中に位置する第4部分41と、炭化珪素単結晶基板10とバッファ層27との界面に位置し、かつ第2方向に伸展する第5部分42と、バッファ層27中に位置する第6部分43とに転換され、第2ハーフループ4を発生させる。基底面転位44の一方の端部は、バッファ層27の表面に露出し、他方の端部は第3主面13に露出している。
図37に示されるように、さらに炭化珪素層20が成長すると、基底面転位44に起因して、別の第2ハーフループ4が発生する。別の第2ハーフループ4は、先に発生した第2ハーフループ4よりも第1方向101側であってかつ第2方向102側に発生する。先に発生した第2ハーフループ4の深さは、後に発生した第2ハーフループ4の深さよりも大きい。バッファ層27中に存在していた基底面転位の第6部分43(図36参照)は、さらに第2方向(図37中の矢印の方向)にシフトする。第6部分43は、炭化珪素層20の表面に露出する。以上のようにして、オフ方向とは傾斜した直線に沿って、複数の第2ハーフループ4が形成される。時間の経過につれて、第2ハーフループ4の数は増加する。第8時点(t8)において、オフ方向に対して傾斜する直線に沿って並ぶ第2ハーフループ4の第2転位列5が形成される(図19参照)。以上のように、第2転位列5は、炭化珪素層の形成工程(つまり成長工程)において形成される。言い換えれば、炭化珪素エピタキシャル基板100の冷却工程においては、第2転位列5は、発生することもなく、消滅することもないと考えられる。
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の第1変形例)
次に、第1変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。第1変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法は、主に、ドリフト層を形成する工程におけるシランガス流量、プロパンガス流量およびアンモニアガス流量において、上記実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法と異なっており、他の方法については上記実施形態に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法とほぼ同様である。
図39に示されるように、第7時点(t7)および第8時点(t8)の間において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は115sccmであり、プロパンガスの流量は37.5sccmであり、アンモニアガスの流量は3.3×10-3sccmであってもよい。この場合、水素ガスに対するシランガスの体積率(SiH4/H2)は、0.1%である。原料ガスのC/Si比は、たとえば1.0である。ドリフト層28の厚みは、たとえば30μmである。第7時点(t7)および第8時点(t8)までは、たとえば88分である。ドリフト層28がエピタキシャル成長により形成されている間、サセプタプレート210は回転している。
(炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法の第2変形例)
次に、第2変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法について説明する。第2変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法は、主に、ドリフト層を形成する工程におけるアンモニアガス流量において、第1変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法と異なっており、他の方法については第1変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法とほぼ同様である。
図40に示されるように、第7時点(t7)および第8時点(t8)の間において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は115sccmであり、プロパンガスの流量は37.5sccmであり、アンモニアガスの流量は7.8×10-3sccmであってもよい。この場合、水素ガスに対するシランガスの体積率(SiH4/H2)は、0.1%である。原料ガスのC/Si比は、たとえば1.0である。ドリフト層28の厚みは、たとえば15μmである。第7時点(t7)および第8時点(t8)までは、たとえば43分である。ドリフト層28がエピタキシャル成長により形成されている間、サセプタプレート210は回転している。
(炭化珪素半導体装置の製造方法)
次に、本実施形態に係る炭化珪素半導体装置300の製造方法について説明する。
本実施形態に係る炭化珪素半導体装置の製造方法は、エピタキシャル基板準備工程(S10:図41)と、基板加工工程(S20:図41)とを主に有する。
まず、エピタキシャル基板準備工程(S10:図41)が実施される。具体的には、前述した炭化珪素エピタキシャル基板の製造方法によって、炭化珪素エピタキシャル基板が準備される。
次に、基板加工工程(S20:図41)が実施される。具体的には、炭化珪素エピタキシャル基板を加工することにより、炭化珪素半導体装置が製造される。「加工」には、たとえば、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成、ダイシング等の各種加工が含まれる。すなわち基板加工ステップは、イオン注入、熱処理、エッチング、酸化膜形成、電極形成およびダイシングのうち、少なくともいずれかの加工を含むものであってもよい。
以下では、炭化珪素半導体装置の一例としてのMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)の製造方法を説明する。基板加工工程(S20:図41)は、イオン注入工程(S21:図41)、酸化膜形成工程(S22:図41)、電極形成工程(S23:図41)およびダイシング工程(S24:図41)を含む。
まず、イオン注入工程(S21:図41)が実施される。開口部を有するマスク(図示せず)が形成された第2主面30に対して、たとえばアルミニウム(Al)等のp型不純物が注入される。これにより、p型の導電型を有するボディ領域132が形成される。次に、ボディ領域132内の所定位置に、たとえばリン(P)等のn型不純物が注入される。これにより、n型の導電型を有するソース領域133が形成される。次に、アルミニウム等のp型不純物がソース領域133内の所定位置に注入される。これにより、p型の導電型を有するコンタクト領域134が形成される(図42参照)。
炭化珪素層20において、ボディ領域132、ソース領域133およびコンタクト領域134以外の部分は、ドリフト領域131となる。ソース領域133は、ボディ領域132によってドリフト領域131から隔てられている。イオン注入は、炭化珪素エピタキシャル基板100を300℃以上600℃以下程度に加熱して行われてもよい。イオン注入の後、炭化珪素エピタキシャル基板100に対して活性化アニールが行われる。活性化アニールにより、炭化珪素層20に注入された不純物が活性化し、各領域においてキャリアが生成される。活性化アニールの雰囲気は、たとえばアルゴン(Ar)雰囲気でもよい。活性化アニールの温度は、たとえば1800℃程度でもよい。活性化アニールの時間は、たとえば30分程度でもよい。
次に、酸化膜形成工程(S22:図41)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100が酸素を含む雰囲気中において加熱されることにより、第2主面30上に酸化膜136が形成される(図43参照)。酸化膜136は、たとえば二酸化珪素(SiO2)等から構成される。酸化膜136は、ゲート絶縁膜として機能する。熱酸化処理の温度は、たとえば1300℃程度でもよい。熱酸化処理の時間は、たとえば30分程度でもよい。
酸化膜136が形成された後、さらに窒素雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、一酸化窒素(NO)、亜酸化窒素(N2O)等の雰囲気中、1100℃程度で1時間程度、熱処理が実施されてもよい。さらにその後、アルゴン雰囲気中で熱処理が行なわれてもよい。たとえば、アルゴン雰囲気中、1100〜1500℃程度で、1時間程度、熱処理が行われてもよい。
次に、電極形成工程(S23:図41)が実施される。第1電極141は、酸化膜136上に形成される。第1電極141は、ゲート電極として機能する。第1電極141は、たとえばCVD法により形成される。第1電極141は、たとえば不純物を含有し導電性を有するポリシリコン等から構成される。第1電極141は、ソース領域133およびボディ領域132に対面する位置に形成される。
次に、第1電極141を覆う層間絶縁膜137が形成される。層間絶縁膜137は、たとえばCVD法により形成される。層間絶縁膜137は、たとえば二酸化珪素等から構成される。層間絶縁膜137は、第1電極141と酸化膜136とに接するように形成される。次に、所定位置の酸化膜136および層間絶縁膜137がエッチングによって除去される。これにより、ソース領域133およびコンタクト領域134が、酸化膜136から露出する。
たとえばスパッタリング法により当該露出部に第2電極142が形成される。第2電極142はソース電極として機能する。第2電極142は、たとえばチタン、アルミニウムおよびシリコン等から構成される。第2電極142が形成された後、第2電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100が、たとえば900〜1100℃程度の温度で加熱される。これにより、第2電極142と炭化珪素エピタキシャル基板100とがオーミック接触するようになる。次に、第2電極142に接するように、配線層138が形成される。配線層138は、たとえばアルミニウムを含む材料から構成される。
次に、たとえばプラズマCVDにより、配線層138上にパッシベーション保護膜(図示せず)が形成される。パッシベーション保護膜は、たとえばSiN膜を含む。ボンディングワイヤを接続するため、パッシベーション保護膜の一部が配線層138までエッチングされ、パッシベーション保護膜に開口部が形成される。次に、炭化珪素単結晶基板10の第3主面13に対してバックグラインディングが行われる。これにより、炭化珪素単結晶基板10が薄くされる。次に、第3主面13に第3電極143が形成される。第3電極143は、ドレイン電極として機能する。第3電極143は、たとえばニッケルおよびシリコンを含む合金(たとえばNiSi等)から構成される。
次に、ダイシング工程(S24:図41)が実施される。たとえば炭化珪素エピタキシャル基板100がダイシングラインに沿ってダイシングされることにより、炭化珪素エピタキシャル基板100が複数の半導体チップに分割される。以上より、炭化珪素半導体装置300が製造される(図44参照)。
上記において、MOSFETを例示して、本開示に係る炭化珪素半導体装置の製造方法を説明したが、本開示に係る製造方法はこれに限定されない。本開示に係る製造方法は、たとえばIGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)、SBD(Schottky Barrier Diode)、サイリスタ、GTO(Gate Turn Off thyristor)、PiNダイオード等の各種炭化珪素半導体装置に適用可能である。
(評価1)
1−1.サンプル作製
まず、サンプル1〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100が準備された。サンプル1〜3は、実施例に係る炭化珪素エピタキシャル基板100である。サンプル4〜6は、比較例に係る炭化珪素エピタキシャル基板100である。サンプル1〜4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、ドーパントガスとしてアンモニアガスを使用して製造された。サンプル1〜4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100のドリフト層28を形成する工程におけるアンモニアガスの流量は、それぞれ1.4×10-2sccm、3.3×10-3sccm、7.8×10-3sccmおよび2.0×10-3sccmであった。一方、サンプル5および6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、ドーパントガスとして窒素ガスを使用して製造された。サンプル5および6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100のドリフト層28を形成する工程における窒素ガスの流量は、それぞれ4.5sccmおよび2.12sccmであった。
サンプル1〜3、5および6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法においては、バッファ層を形成する工程におけるC/Si比とドリフト層を形成する工程におけるC/Si比とが異なる。一方、サンプル4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法においては、バッファ層を形成する工程におけるC/Si比とドリフト層を形成する工程におけるC/Si比とが同じである。
特定的には、サンプル1、2、3、4、5および6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、それぞれ、図38、図39、図40、図45、図46および図47に示す方法により製造された。サンプル1、2および3に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法は、それぞれ実施形態、第1変形例および第2変形例に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法と同じである。
サンプル4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は以下のように製造された。図45に示されるように、バッファ層を形成する工程(つまり第6時点(t6)および第7時点(t7)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は46sccmであり、プロパンガスの流量は15sccmであり、アンモニアガスの流量は0.7sccmであった。原料ガスのC/Si比は、1.0であった。ドリフト層を形成する工程(つまり第7時点(t7)および第8時点(t8)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は46sccmであり、プロパンガスの流量は15sccmであり、アンモニアガスの流量は2.0×10-3sccmであった。原料ガスのC/Si比は、1.0であった。
サンプル5に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は以下のように製造された。図46に示されるように、バッファ層を形成する工程(つまり第6時点(t6)および第7時点(t7)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は46sccmであり、プロパンガスの流量は14sccmであり、アンモニアガスの流量は0.7sccmであった。原料ガスのC/Si比は、0.9であった。ドリフト層を形成する工程(つまり第7時点(t7)および第8時点(t8)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は115sccmであり、プロパンガスの流量は37.5sccmであり、窒素ガスの流量は4.5sccmであった。原料ガスのC/Si比は、1.0であった。
サンプル6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は以下のように製造された。図47に示されるように、バッファ層を形成する工程(つまり第6時点(t6)および第7時点(t7)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は46sccmであり、プロパンガスの流量は14sccmであり、アンモニアガスの流量は0.7sccmであった。原料ガスのC/Si比は、0.9であった。ドリフト層を形成する工程(つまり第7時点(t7)および第8時点(t8)の間)において、水素ガスの流量は120slmであり、シランガスの流量は115sccmであり、プロパンガスの流量は37.5sccmであり、窒素ガスの流量は2.12sccmであった。原料ガスのC/Si比は、1.0であった。
1−2.キャリア濃度測定実験
サンプル1〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度が、水銀プローブ方式のC−V測定装置により測定された。プローブの面積は0.01cm2である。印加電圧を0〜5Vとした。キャリア濃度は、中央領域53において測定された。図3に示されるように、第1直線8上において、中心Oから±10mm、±20mm、±30mm、±40mm、±50mmおよび±60mm離れた点がキャリア濃度の測定位置とされた。同様に、第2直線7上において、中心Oから±10mm、±20mm、±30mm、±40mm、±50mmおよび±60mm離れた点がキャリア濃度の測定位置とされた。中心Oもキャリア濃度の測定位置とされた。つまり、図3においてハッチングされた円で示された測定領域25においてキャリア濃度が測定された。全ての測定領域25におけるキャリア濃度の平均値、標準偏差、標準偏差/平均値、最大値、最小値、最大値−最小値および(最大値−最小値)/(2×平均値)が計算された。なおサンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100に関しては、上記25カ所の測定位置に加え、第2直線7上において中心Oから+70mmの位置と、中心Oから−65mmの位置と、第1直線8上において中心から±70mmの位置とが測定位置とされた(図48参照)。
1−3.キャリア濃度測定結果
図48は、サンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度分布を示している。図49は、サンプル2およびサンプル3に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度分布を示している。図50は、サンプル4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度分布を示している。図51は、サンプル5およびサンプル6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度分布を示している。図48〜図53において、「OF−COF」および「IF−CIF]は、それぞれ、図3における第2直線7および第1直線8上の測定位置における結果を示している。図51に示されるように、第2主面30の中心側(つまり、第1領域65)よりも外周側(つまり、第3領域67)において、キャリア濃度の値が高くなる場合がある。この場合、炭化珪素層20のキャリア濃度のプロファイルは、U字型を示す。
表1は、サンプル1〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度の平均値、標準偏差、標準偏差/平均値、最大値、最小値、最大値−最小値および(最大値−最小値)/(2×平均値)を示している。表1に記載の値は、中心Oから±60mm以内の計25箇所の測定領域25におけるキャリア濃度を用いて計算されている(図3参照)。表1に示されるように、サンプル1〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度の標準偏差/平均値は、それぞれ、1.08%、2.91%、0.78%、7.38%、9.52%および9.12%であった。同様に、サンプル1〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度の(最大値−最小値)/(2×平均値)は、それぞれ、1.9%、4.9%、1.4%、13.2%、15.5%および15.0%であった。
図48に示されるように、サンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100に関しては、上記25箇所の測定領域に加え、第2直線7上における−65mmおよび+70mmの位置と、第1直線8上における±70mmの位置においてもキャリア濃度が測定された。上記追加の測定領域を考慮した場合、サンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度の標準偏差/平均値は、1.31%であり、キャリア濃度の(最大値−最小値)/(2×平均値)は、2.7%であった。つまり、外周側の炭化珪素層におけるキャリア濃度を考慮した場合においても、サンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、サンプル2に係る炭化珪素エピタキシャル基板100よりも、キャリア濃度の標準偏差/平均値およびキャリア濃度の(最大値−最小値)/(2×平均値)が低いことが確認された。
中央領域と平行な方向において、サンプル1〜3に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度のキャリア濃度の平均値に対するキャリア濃度の標準偏差の比率は、5%未満であった。一方、中央領域と平行な方向において、サンプル4〜6に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20のキャリア濃度のキャリア濃度の平均値に対するキャリア濃度の標準偏差の比率は、5%以上であった。
以上のように、ドーピングガスとして窒素ガスの代わりにアンモニアガスが採用され、かつアンモニアガスの流量を非常に低く(たとえば7.8×10-3sccm以下程度)とすることにより(つまり、サンプル1〜3に係る炭化珪素エピタキシャル基板)、キャリア濃度の面内均一性が向上可能であることが確認された。アンモニアガスは、三重結合を有する窒素ガスに比べて熱分解されやすい。そのため、ドーパントガスの流れ方向における窒素原子の濃度の均一性が向上し、結果として、キャリア濃度の面内均一性が向上していると考えられる。
また窒素ガスと比較して、アンモニアガスは、炭化珪素層に取り込まれやすい。そのため、エピタキシャル成長の際、アンモニアガスの流量を非常に低くした状態で、アンモニアガスの流量を精度良く制御することが求められる。発明者らは鋭意研究の結果、たとえば、予めアンモニアガスを水素ガスで希釈したボンベを用いることにより、アンモニアガスの流量を非常に低くした状態で、アンモニアガスの流量を精度良く制御可能であることを見出した。これにより、キャリア濃度の面内均一性を向上することができる。
また発明者らは、ドーパントガスとしてアンモニアを使用した上で、炭化珪素層のエピタキシャル成長速度を高くすることに着目した。具体的には、水素ガスに対する原料ガスの流量を高くした。水素ガスは炭化珪素をエッチングする性質を有する。水素ガスに対する原料ガスの割合を高く(たとえばSiH4/H2が0.1%以上程度)することで、炭化珪素層のエピタキシャル成長速度を高くすることができる。これにより、特に、炭化珪素層の外周側のキャリア濃度のばらつきを低減し、キャリア濃度の面内均一性を向上することができると考えられる。
1−4.膜厚測定実験
サンプル1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の膜厚がFT−IRにより測定された。膜厚の測定位置は、上記キャリア濃度の測定位置と同じである。つまり、図3においてハッチングされた円で示された測定領域25において炭化珪素層20の膜厚が測定された。全ての測定領域25における炭化珪素層20の膜厚の平均値、標準偏差、標準偏差/平均値、最大値、最小値、最大値−最小値および(最大値−最小値)/(2×平均値)が計算された。なおサンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100に関しては、上記25カ所の測定位置に加え、第2直線7上において中心Oから+70mmの位置と、中心Oから−65mmの位置と、第1直線8上において中心から±70mmの位置とが測定位置とされた(図52参照)。またサンプル4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100に関しては、中心Oは測定位置から除外された(図53参照)。
1−5.膜厚測定結果
図52は、サンプル1に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の膜厚分布を示している。図53は、サンプル4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の膜厚分布を示している。
表2は、サンプル1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20(つまりエピタキシャル層)の膜厚の平均値、標準偏差、標準偏差/平均値、最大値、最小値、最大値−最小値および(最大値−最小値)/(2×平均値)を示している。表2に示されるように、サンプル1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の膜厚の標準偏差/平均値は、それぞれ、0.92%および0.53%であった。同様に、サンプル1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の膜厚の(最大値−最小値)/(2×平均値)は、それぞれ、1.6%および0.5%であった。中央領域と平行な方向において、サンプル1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の炭化珪素層20の厚みの平均値に対する厚みの標準偏差の比率は、5%未満であった。
(評価2)
2−1.サンプル作製
まず、サンプル7〜10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100が準備された。サンプル7および8は、実施例に係る炭化珪素エピタキシャル基板100である。サンプル9および10は、比較例に係る炭化珪素エピタキシャル基板100である。サンプル7〜10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100は、ドーパントガスとしてアンモニアガスを使用して製造された。サンプル7および8に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法においては、バッファ層を形成する工程におけるC/Si比とドリフト層を形成する工程におけるC/Si比とが異なる。一方、サンプル9および10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法においては、バッファ層を形成する工程におけるC/Si比とドリフト層を形成する工程におけるC/Si比とが同じである。
特定的には、サンプル7、8および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法は、それぞれ、上記評価1におけるサンプル3、1および4に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法と同じである。サンプル10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法は、バッファ層およびドリフト層を形成する工程の第3温度(T3:図45)が1560℃である条件において、サンプル9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法と異なっており、その他の条件は、サンプル9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の製造方法と同様である。
2−2.実験条件
サンプル7〜10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30における欠陥の個数とヘイズとが測定された。欠陥の個数とヘイズは、レーザーテック社製SICAを用いて測定された。測定方法は前述の通りである。欠陥として、マクロ欠陥と、ピットと、バンプとが測定された。マクロ欠陥は、ダウンフォール欠陥と、三角欠陥とを含む。ピットは、深いピット87(図5参照)である。バンプは、台形型欠陥を伴うバンプ73(図9参照)である。欠陥密度は、欠陥の総数を、欠陥が測定された領域の面積で除することにより計算された。欠陥が測定された領域の面積は約170cm2である。
マクロ欠陥を含む6mm角測定領域の割合が以下のようにして計算された。マクロ欠陥が測定された領域が、複数の6mm×6mmの正方形領域(6mm角測定領域)に区分された。各6mm角測定領域において、マクロ欠陥が含まれているか否かが判断された。マクロ欠陥が含まれている6mm角測定領域の数を、全6mm角測定領域の数で除することにより、マクロ欠陥を含む6mm角測定領域の割合が計算された。
2−3.実験結果
図54および図55は、それぞれサンプル7および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるダウンフォール欠陥および三角欠陥の面内分布を示すマップである。図54においては、ダウンフォール欠陥および三角欠陥を、それぞれ四角形および三角形として表示している。図55においては、ダウンフォール欠陥および三角欠陥をまとめて四角形として表示している。図54および図55に示されるように、サンプル7に係る炭化珪素エピタキシャル基板100と比較して、サンプル9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30には、多数のダウンフォール欠陥および三角欠陥が分布している。ダウンフォール欠陥および三角欠陥は、第2主面30の中心よりも外周側に多く分布している。
表3に示されるように、サンプル7、8および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるマクロ欠陥の欠陥密度は、それぞれ、0.2cm-2、0.9cm-2および0.9cm-2であった。サンプル7、8、9および10に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるピットの欠陥密度は、それぞれ、0.3cm-2、6.8cm-2、0.6cm-2および900cm-2であった。サンプル7、8および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるバンプの欠陥密度は、それぞれ、1.8cm-2、10.1cm-2および2.1cm-2であった。サンプル7に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30のマクロ欠陥、ピットおよびバンプの欠陥密度は、サンプル7に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30のマクロ欠陥、ピットおよびバンプの欠陥密度よりも低い。
表4に示されるように、サンプル7、8および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるマクロ欠陥を含む6mm角測定領域の割合は、それぞれ、7.2%、25.3%および25.8%であった。サンプル8および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100と比較して、サンプル7に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるマクロ欠陥を含む6mm角測定領域の割合が低い。サンプル7および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30におけるヘイズは、それぞれ、18.8および19.1であった。つまり、サンプル7および9に係る炭化珪素エピタキシャル基板100の第2主面30の表面粗さは良好であった。以上のように、サンプル7に係る炭化珪素エピタキシャル基板100においては、キャリア濃度の面内均一性の向上しつつ、表面粗さを低減可能であることが確認された。
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施形態ではなく特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。