以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[吸着性組成物]
まず、本発明の吸着性組成物について説明する。
本発明の吸着性組成物は、非晶質性を示し、水和水の一部が脱離した炭酸型エトリンガイトを含有することを特徴とする。
本発明者は、鋭意研究の結果、非晶質性を示し、水和水の一部が脱離した炭酸型エトリンガイト(以下、「非晶質性炭酸型エトリンガイト」とも言う。)は、高い吸着性能、特に、高い水蒸気吸着性(吸湿性)を有している。したがって、本発明の吸着性組成物は、高い吸着性能を有するものとなる。また、本発明の吸着性組成物は、吸放湿量が大きく、優れた調湿性能を有するものとなる。また、一般に、吸着剤においては、水蒸気吸着性(吸湿性)と有害ガスの吸着性との間には高い相関が認められ、水蒸気吸着性(吸湿性)が高いものは、有害ガスの吸着性にも優れているといえる。本発明の吸着性組成物(後述する本発明の成形体、建材も同様)においても、水蒸気吸着性(吸湿性)が高いだけでなく、有害ガスの吸着性にも優れている。
(炭酸型エトリンガイト)
炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)は、通常のエトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaSO4・32H2O)中のSO4 2−をCO3 2−で置換した化合物である。
炭酸型エトリンガイトは、{Ca6[Al(OH)6]2・2H2O}6+からなる柱状の骨格構造を有し、この間にCO3 2−と水分子をもつ[(CO3)3〜H2O]6−のチャンネルからなる六方晶である。一般に六方晶は(001)面の発達した六角板状あるいは(010)面の発達した針状の結晶外形を示す。
炭酸型エトリンガイトは、一般に、幅0.1〜0.5μm×長さ30μm〜150μm程度、アスペクト比300以上の繊維状の結晶をなすものである。
そして、本発明の吸着性組成物は、このような炭酸型エトリンガイト(結晶性の炭酸型エトリンガイト)から水和水の一部が脱離した構造を有し、非晶質性を示すもの(非晶質性炭酸型エトリンガイト)を含有している。
本発明者は、鋭意研究の結果、非晶質性炭酸型エトリンガイトでは、水和水の一部が脱離することに伴い、通常の炭酸型エトリンガイト(結晶性の炭酸型エトリンガイト)から凝集構造が大きく変化して、高い吸着性能、特に、高い水蒸気吸着性(吸湿性)を発揮することを見出した。
非晶質性炭酸型エトリンガイト中に残存する水和水、すなわち、非晶質性炭酸型エトリンガイトを「3CaO・Al2O3・3CaCO3・nH2O」と示した場合におけるnの値は、5以上15以下であるのが好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能(主に、非晶質性炭酸型エトリンガイトによる吸着性能)をより優れたものとすることができる。
吸着性組成物中に非晶質性炭酸型エトリンガイトが含まれることは、例えば、XRD測定、NMRスペクトル測定等により確認することができる。
非晶質性炭酸型エトリンガイトが粒子状をなすものである場合、当該粒子の平均粒径は、0.5μm以上480μm以下であるのが好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をより優れたものとすることができる。また、吸着性組成物の取扱いのし易さ等をさらに優れたものとすることができる。
本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径をいう。
なお、前記粒子は、非晶質性炭酸型エトリンガイト以外の成分(例えば、後述する非晶質性の炭酸カルシウム、触媒、その他の成分等)を含むものであってもよい。
前記粒子の比表面積は、100m2/g以上であるのが好ましく、150m2/g以上であるのがより好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をより優れたものとすることができる。
なお、本明細書において、「比表面積」とは、BET法(気体吸着法)によって求められるBET比表面積のことをいう。
本発明の吸着性組成物中における非晶質性炭酸型エトリンガイトの含有率は、特に限定されないが、30質量%以上であるのが好ましく、50質量%以上であるのがより好ましく、65質量%以上であるのがさらに好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をより優れたものとすることができる。
(炭酸カルシウム)
本発明の吸着性組成物は、非晶質性炭酸型エトリンガイトに加え、さらに、非晶質性の炭酸カルシウムを含有していてもよい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をより優れたものとすることができる。
吸着性組成物中に非晶質性の炭酸カルシウムが含まれることは、例えば、FT−IRスペクトルの測定等により確認することができる。
本発明の吸着性組成物中における非晶質性の炭酸カルシウムの含有率は、特に限定されないが、1質量%以上40質量%以下であるのが好ましく、2質量%以上35質量%以下であるのがより好ましく、3質量%以上30質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をさらに優れたものとすることができる。
吸着性組成物中における非晶質性炭酸型エトリンガイトの含有率をX1[質量%]、吸着性組成物中における非晶質性の炭酸カルシウムの含有率をX2[質量%]としたとき、0.01≦X2/X1≦1.3の関係を満足するのが好ましく、0.02≦X2/X1≦0.70の関係を満足するのがより好ましく、0.04≦X2/X1≦0.46の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をさらに優れたものとすることができる。
(触媒)
本発明の吸着性組成物は、さらに、触媒を含有していてもよい。
これにより、主に非晶質性炭酸型エトリンガイト等の作用で吸着した所定の物質を、効率よく他の物質に変換することができる。その結果、例えば、有害物質を効率よく無害化、低害化したり、吸着物質を原料に、目的物質(例えば、有用物質)を効率よく得ること等ができる。
触媒としては、公知のものを含め、いかなるものを用いてもよいが、例えば、TiO2、ZnO、Bi2O3、BiVO4、SrTiO3、CdS、InP、InPb、GaP、GaAs、BaTiO3、BaTiO4、BaTi4O9、K2NbO3、Nb2O5、Fe2O3、Ta2O5、Ta3N5、K3Ta3Si2O3、WO3、SnO2、NiO、Cu2O、SiC、MoS2、RuO2、CeO2等の光触媒;白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム等の金属系触媒;アルミノケイ酸塩(ゼオライト等);金属錯体触媒等が挙げられる。また、触媒は、担体に担持されたものであってもよい。
中でも、光触媒が好ましく、酸化チタンがより好ましい。
これにより、比較的安価で、より長期間にわたって安定的に優れた触媒機能を発揮することができる。特に、酸化チタンは、非晶質性炭酸型エトリンガイトとの親和性が高く、非晶質性炭酸型エトリンガイトにより好適に担持される。
触媒の形状は、特に限定されず、例えば、粒子状、鱗片状、板状、針状、紡錘形状、繊維状、ブロック状、不定形状等が挙げられるが、粒子状であるのが好ましい。
これにより、吸着性組成物中等において、非晶質性炭酸型エトリンガイト等とより好適な混合状態を維持することができる。また、吸着性組成物中等において、前述したような触媒を含むことによる効果をより顕著に発揮させることができる。
また、触媒は、緻密体であってもよいし、内部に空隙を有するもの(多孔質体等)であってもよい。
触媒の大きさは、特に限定されないが、触媒が粒子状をなるものである場合、その平均粒径は、0.001μm以上1μm以下であるのが好ましく、0.01μm以上0.5μm以下であるのがより好ましい。
これにより、吸着性組成物中等において、非晶質性炭酸型エトリンガイト等とさらに好適な混合状態を維持することができる。また、吸着性組成物中等において、前述したような触媒を含むことによる効果をさらに顕著に発揮させることができる。
なお、本明細書において、平均粒径とは、体積基準の平均粒径をいう。
触媒は、いかなる形態で吸着性組成物に含まれていてもよく、例えば、非晶質性炭酸型エトリンガイトから独立して含まれていてもよいが、非晶質性炭酸型エトリンガイトの表面(例えば、非晶質性炭酸型エトリンガイトが空孔を有するものである場合、空孔内表面を含む)に担持されているのが好ましい。
これにより、非晶質性炭酸型エトリンガイト等が吸着した成分(吸着物質)を、触媒とより好適に接触させることができ、前述したような触媒を含むことによる効果をさらに顕著に発揮させることができる。
本発明の吸着性組成物中における触媒の含有率は、特に限定されないが、0.01質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、0.02質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましく、0.05質量%以上1.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
これにより、前述したような非晶質性炭酸型エトリンガイトおよび触媒を含むことによる効果がより顕著に発揮される。
これに対し、触媒の含有率が前記下限値未満であると、前述したような触媒を含むことによる効果が十分に発揮されない可能性がある。
一方、触媒の含有率が前記上限値を超えると、相対的に非晶質性炭酸型エトリンガイト等の含有率が低下し、吸着性能そのものが低下し、触媒を含むことによる効果も十分に発揮されにくくなる。
吸着性組成物中における非晶質性炭酸型エトリンガイトの含有率をX1[質量%]、吸着性組成物中における触媒の含有率をX3[質量%]としたとき、0.0002≦X3/X1≦0.3の関係を満足するのが好ましく、0.0003≦X3/X1≦0.1の関係を満足するのがより好ましく、0.0006≦X3/X1≦0.02の関係を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述したような非晶質性炭酸型エトリンガイトおよび触媒を含むことによる効果がより顕著に発揮される。
(その他の成分)
本発明の吸着性組成物は、上記以外の成分(その他の成分)を含有していてもよい。
このような成分としては、例えば、非炭酸型のエトリンガイトや当該エトリンガイトの水和水の一部が脱離したもの、結晶としての炭酸カルシウム、溶媒や分散媒として機能する液性媒体、樹脂等のバインダー、各種顔料、染料等の着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、分散剤、凝集剤、潤滑剤、光沢剤等が挙げられる。
本発明の吸着性組成物中におけるその他の成分の含有率は、特に限定されないが、20質量%以下であるのが好ましく、10質量%以下であるのがより好ましく、5.0質量%以下であるのがさらに好ましい。
吸着性組成物は、全体としていかなる形態を有するものであってもよいが、粉末状またはペースト状であるのが好ましい。
これにより、吸着性組成物の取扱いのし易さ等をより優れたものとすることができる。
吸着性組成物が粉末状である場合、その平均粒径は、0.5μm以上480μm以下であるのが好ましい。
これにより、吸着性組成物の吸着性能をより優れたものとすることができる。また、吸着性組成物の取扱いのし易さ等をさらに優れたものとすることができる。
[吸着性組成物の製造方法]
次に、本発明の吸着性組成物の製造方法について説明する。
本発明の吸着性組成物の製造方法は、炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2Oの組成を有し、結晶性を有するもの)に加熱処理を施し、水和水の一部を脱離させるとともに、非晶質化させる加熱工程を有することを特徴とする。
これにより、前述したような優れた特徴を有する吸着性組成物を効率よく製造することができる。
特に、本実施形態では、炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)として、水酸化カルシウムを含む第1の液体と、アルミン酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含む第2の液体とを用意し、これらを混合、撹拌した後に、固液分離することにより、得られたものを用いる。
これにより、より効率よく炭酸型エトリンガイトを生成することができる。
以下、各工程について詳細に説明する。
(液体用意工程)
液体用意工程では、水酸化カルシウムを含む第1の液体と、アルミン酸ナトリウムおよび炭酸ナトリウムを含む第2の液体とを用意する。
第1の液体は、例えば、第1の溶媒に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を添加し、十分に溶解させることにより調製することができる。
また、第2の液体は、例えば、第2の溶媒にアルミン酸ナトリウム(NaAlO2)および炭酸ナトリウム(Na2CO3)を添加し、十分に溶解させることにより調製することができる。
第1の溶媒および第2の溶媒としては、水が好ましく用いられる。第1の溶媒および第2の溶媒として水を用いる場合、これらの溶液の調製には、炭酸ガスの吸収を避けるため煮沸した純水を用いるのが好ましい。
モル比で、アルミン酸ナトリウム100部に対する水酸化カルシウムの使用量は、90部以上280部以下であるのが好ましく、120部以上250部以下であるのがより好ましい。
また、モル比で、アルミン酸ナトリウム100部に対する炭酸ナトリウムの使用量は、90部以上280部以下であるのが好ましく、130部以上200部以下であるのがより好ましい。
炭酸型エトリンガイトの生成は、後述する混合工程における初期反応溶液のpH、初期Ca/Alモル比、Co3 2−濃度等によって影響される。
アルミン酸ナトリウムに対する水酸化カルシウムおよび炭酸ナトリウムの使用量を前記範囲内の値とすることにより、反応溶液のpH、初期Ca/Alモル比、Co3 2−濃度等を炭酸型エトリンガイトの生成に最適な条件とすることができ、炭酸型エトリンガイトを効率よく生成することができる。
第1の液体および第2の液体のうち少なくとも一方は、有機化合物を含むものであるのが好ましい。
これにより、後の混合工程において反応溶液中のカルシウムイオン(Ca2+)濃度を好適に高めることができ、炭酸型エトリンガイトの生成反応を促進することができる。
有機化合物としては、例えば、果糖、ブドウ糖等の単糖類、ショ糖、乳糖等の二糖類、オリゴ糖、デキストリン等の多糖類等の糖類;クエン酸、酒石酸、グルコン酸、リンゴ酸、乳酸、ギ酸、酢酸、サリチル酸等の有機酸やそれらの塩;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ヘキサメチレンテトラミン等のアミン化合物;グリシン等のアミノ酸;尿素等が挙げられる。
中でも、有機化合物としては、糖が好ましく、ショ糖がより好ましい。
これにより、炭酸型エトリンガイトの生成反応をより好適に進行させることができる。また、コストや入手の容易性の観点からも有利である。
第1の液体および第2の液体の少なくとも一方に有機化合物を含有させる場合、後の混合工程で得られる混合液(第1の溶液と第2の溶液との混合液)中における前記有機化合物の含有率は、0.1質量%以上10質量%以下であるのが好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であるのがより好ましい。
混合液中における有機化合物の含有率が低すぎると、上述したような炭酸型エトリンガイトの生成反応を促進する効果を十分に高めることが困難になる可能性がある。一方、混合液中における有機化合物の含有率が高すぎると、有機化合物が析出するという問題を生じる可能性がある。
(混合工程)
液体用意工程で用意した第1の溶液と第2の溶液とを混合し、所定時間撹拌する。これにより、結晶性の炭酸型エトリンガイトを生成させる。
本工程(混合、撹拌時)における第1の液体および第2の液体の温度は、5℃以上40℃以下であるのが好ましい。
これにより、炭酸型エトリンガイトの生成効率をより優れたものとすることができる。
また、炭酸型エトリンガイトの生成は、初期反応溶液のpH、初期Ca/Alモル比、CO3 2−濃度等によって影響される。
本工程で得られる第1の溶液と第2の溶液との混合液中におけるCa/Alモル比は、0.3以上2.0以下であるのが好ましく、0.4以上1.8以下であるのがより好ましい。
これにより、炭酸型エトリンガイトをより効率よく生成することができる。
また、第1の溶液と第2の溶液との混合直後の混合液(初期反応溶液)のpH(初期反応溶液のpH)は11.7以上であるのが好ましく、11.7以上12.1以下であるのがより好ましい。
これにより、炭酸型エトリンガイトの生成の安定性をより優れたものとすることができる。
また、炭酸型エトリンガイトの水溶液中でのアルミン酸イオンの形態はpHにより変化し複雑であるが、酸性領域では[Al(H2O)6]3+を形成して溶解し、塩基性領域ではアルミン酸ナトリウムを形成して溶解しているものと考えられる。この炭酸型エトリンガイトを、pH調整した水溶液中に浸漬すると、pH11.7以上では、Ca2+、Al2+の溶出率は低下する。すなわち、pH11.7以上で炭酸型エトリンガイトが比較的安定であることが分かる。
炭酸型エトリンガイトの合成原料に水酸化カルシウム(Ca(OH)2)を用いることで、本工程での反応溶液のpHを11.7以上12.1以下に好適に保持することができる。
初期反応溶液のCO3 2−濃度は、1.0×10−3mol/L以上であるのが好ましい。
これにより、炭酸型エトリンガイトをより効率よく生成することができる。
本工程は、例えば、初期反応溶液のCa/Alモル比:0.5、CO3 2−濃度:3.8×10−3mol/Lの条件で行うことができる。
(固液分離工程)
固液分離工程では、合成された炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)を固体物として溶媒から分離する。
固液分離方法としては、例えば、フィルタを用いた濾過方式、圧力方式、遠心分離方式等が挙げられる。
なお、固液分離した後、さらに、風乾、真空乾燥、減圧乾燥等の公知の乾燥手法により炭酸型エトリンガイトを乾燥してもよい。
(粉砕工程)
このようにして得られた炭酸型エトリンガイトに、粉砕処理を施してもよい。
粉砕処理には、例えば、振動ボールミル、回転ボールミル、遊星型ボールミル、ロールミル、メディアミル、ディスクミル、高速回転羽根による高速ミキサー、ホモミキサー等の粉砕装置を用いることができる。
後の加熱工程に供される炭酸型エトリンガイトの平均粒径は、1μm以上500μm以下であるのが好ましい。
これにより、得られる吸着性組成物を壁等の建材に用いる場合の塗工性が向上する。また、後述する加熱工程において、水和水の脱離等を効率よく行うことができる。
炭酸型エトリンガイトの比表面積は、100m2/g以上であるのが好ましく、150m2/g以上であるのがより好ましい。
比表面積が小さすぎると、加熱工程を経て得られる非晶質性炭酸型エトリンガイトの比表面積が小さくなり、その効果を十分に発揮することができない可能性がある。
(加熱工程)
加熱工程では、結晶性の炭酸型エトリンガイトに加熱処理を施し、水和水の一部を脱離させるとともに、非晶質化させ、非晶質性炭酸型エトリンガイトに変換する。
炭酸型エトリンガイトは、加熱することによって水和水の一部が脱離するとともに、結晶構造が崩れ非晶質化する。これにより、凝集構造が大きく変化して、高い吸着性能、特に、高い水蒸気吸着性(吸湿性)を発揮することができる。
また、結晶性の炭酸型エトリンガイトに対して加熱処理を施すことにより、通常、当該結晶性の炭酸型エトリンガイトを非晶質性炭酸型エトリンガイトに変換できるとともに、非晶質性の炭酸カルシウムも生成し、これらを含む組成物を得ることができる。
なお、加熱工程には、結晶性の炭酸型エトリンガイトを含む材料を供すればよく、当該材料は、結晶性の炭酸型エトリンガイト以外の成分を含むものであってもよい。例えば、結晶性の炭酸型エトリンガイトの合成原料に用いた水酸化カルシウム、アルミン酸ナトリウム、炭酸ナトリウムの未反応分等を含むものであってもよい。
加熱工程での加熱温度は、70℃以上150℃以下であるのが好ましく、80℃以上110℃以下であるのがより好ましい。
加熱温度が低すぎると、水和水の脱離および非晶質化が十分に進行しない可能性がある。一方、加熱温度が高すぎると、炭酸型エトリンガイトから多くの水和水が離脱して骨格構造が崩壊し、非晶質化が生じにくくなる。
[成形体]
次に、本発明の成形体について説明する。
本発明の成形体は、非晶質性を示し、水和水の一部が脱離した炭酸型エトリンガイト(非晶質性炭酸型エトリンガイト)を含有することを特徴とする。
これにより、高い吸着性能、特に、高い水蒸気吸着性(吸湿性)を有する成形体が得られる。また、優れた調湿性能を有する成形体が得られる。
本発明の成形体中に含まれる非晶質性炭酸型エトリンガイトは、前述した吸着性組成物の項目で説明したのと同様の条件を満足するものであるのが好ましい。これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
本発明の成形体は、非晶質性炭酸型エトリンガイト以外の成分を含むものであってもよい。このような成分としては、例えば、前述した吸着性組成物の項目で説明したのと同様のものが挙げられる。これらの成分については、前述した吸着性組成物の項目で説明したのと同様の条件を満足するものであるのが好ましい。これにより、前述したのと同様の効果が得られる。
本発明の成形体は、例えば、前述したような本発明の吸着性組成物を所定の形状に成形することにより、製造することができる。この場合、例えば、本発明の吸着性組成物と、他の材料とを併用してもよい。より具体的には、例えば、本発明の吸着性組成物が前述したような触媒を含まないものである場合に、成形体の製造時に、本発明の吸着性組成物と触媒とを混合して用いてもよい。
また、本発明の成形体は、結晶性の炭酸型エトリンガイトを含む組成物を所定の形状に成形し、その後、前述したような吸着性組成物の製造方法と同様の処理(加熱処理)を施すことにより、製造することができる。
[吸着性組成物、成形体の用途]
本発明の吸着性組成物、成形体は、主に、非晶質性炭酸型エトリンガイトの機能により、吸着性等の特性に優れている。
本発明の吸着性組成物、成形体の用途は、特に限定されないが、例えば、吸湿剤(乾燥剤)、調湿剤、ガス吸着剤、建築材料(建材)等が挙げられる。
(吸湿剤(乾燥剤))
本発明の吸着性組成物、成形体を吸湿剤(乾燥剤)として用いる場合、例えば、雰囲気中の湿気により品質が低下しやすい物品に対して適用することができる。より具体的には、例えば、食品、医薬品用の吸湿剤(乾燥剤)として用いることができる。
吸湿することにより品質が低下し易い食品としては、例えば、粉末だしの素のような粉末調味料、海苔および干し椎茸のような乾物、せんべいおよびクッキーのような乾燥菓子類等が挙げられる。このような食品は、吸湿により、食感が低下したり、カビが生えやすくなる等の問題がより顕著に生じやすい。
吸湿することにより品質が低下し易い医薬品としては、例えば、水分の吸収により、変質や変色を起こす吸湿易変質薬、より具体的には、尿検査用試験紙のような検査薬医薬品、粉末透析用剤、透析用剤の原料、輸液の原料等が挙げられる。
本発明の吸着性組成物を吸湿剤(乾燥剤)としての製品に適用する形態としては、例えば、吸着性組成物を、通気性に優れた袋等に充填したものを、物品を収容する容器に添着させること(例えば、容器の蓋に貼り付けること)、または、物品とともに包装材内部に封入すること等が挙げられる。
本発明の吸着性組成物、成形体は、上述した食品用、医薬品用以外にも、空気中の湿気を吸湿することにより品質が低下しやすい物品として、例えば、被服、履物、電子部品、電子機器、二次電池等の吸湿剤として用いることができる。より具体的には、例えば、二次電池用外装材、二次電池用吸湿材、履物の中敷き、衣類のカバー等として有用である。また、その他の吸湿剤としては、例えば、靴・靴箱用吸湿剤、タンス・衣装ケース用吸湿剤、押し入れ用吸湿剤、クローゼット(ウォークインクローゼットを含む)用吸湿剤等が挙げられる。
(ガス吸着剤)
本発明の吸着性組成物、成形体は、高い吸着性能を有するので、ガスを吸着するガス吸着剤、特に有害ガスの吸着剤として用いることができる。
なお、本明細書中での説明では、前記ガスは、その使用条件下において気体状態で安定的に存在する物質の他、液体から揮発したもの、固体から揮発(昇華)したものも含む概念である。
有害ガスとしては、例えば、硫化水素(H2S)、窒素酸化物(NOX)、硫黄酸化物(SOX)、一酸化炭素、メチルメルカプタン、アンモニア、トリメチルアミンや、ホルムアルデヒド、d−リモネン、トルエン、アセトン、エタノール、2−プロパノール、ヘキサナール、DDT、クロルデン等の殺虫剤、フタル酸化合物等の可塑剤、PCB、PBB等の難燃剤等のVOC(揮発性有機化合物)等が挙げられる。また、本明細書では、有害ガスには、健康に悪影響を及ぼす可能性が低いものであっても、不快な匂い成分が含まれるものとする。ガス吸着剤が、不快な匂い成分の吸着の効果を期待するものである場合、当該ガス吸着剤は、脱臭剤(消臭剤を含む)として用いることができる。脱臭剤としては、例えば、冷蔵庫用脱臭剤、ごみ箱用脱臭剤、靴・靴箱用脱臭剤、居室空間用(トイレ用、玄関用等を含む)脱臭剤、タンス・衣装ケース用脱臭剤、押し入れ用脱臭剤、クローゼット(ウォークインクローゼットを含む)用脱臭剤等が挙げられる。
ガス吸着剤は、前述した非晶質性炭酸型エトリンガイトに加え、有害ガスを他の成分に変換する反応に寄与する触媒を含むものであるのが好ましい。
これにより、被処理物(例えば、雰囲気や排気ガス等)中に含まれる有害ガスを効率よく吸着することができるとともに、吸着した有害ガスを効率よく他の成分に変換することができる。したがって、いったん、吸着された有害ガスが再放出されることをより効果的に防止することができる。
また、通常の条件においては有害ガスを他の成分に変換する効率(変換効率)が比較的低い触媒を用いた場合でも、ガス吸着剤に有害ガスが吸着されることにより、触媒と有害ガスとの接触機会が増大し、結果として、有害ガスの他の成分への変換効率を高めることができる。したがって、例えば、安価な触媒を用いた場合でも、他の成分への変換率を十分に高いものとすることができ、ガス吸着剤の生産コストの抑制の観点からも有利である。
また、従来の使用形態では、高温でないとその機能を十分に発揮させることができない触媒を用いた場合であっても、本発明においては、上記のように、触媒とガスとの接触機会を増大させることができるため、比較的低い温度(例えば、100℃以下)であっても、他の成分への変換率を十分に高いものとすることができる。
また、ガス吸着剤として触媒を含まないものを用いた場合には、有害ガスの吸着量に限界があり、吸着能を超える効果を期待することができない。また、一旦吸着された有害ガスが、再度放出されることによる問題が生じやすくなる。
逆に、光触媒物質のみを使用し、有害ガスの吸着成分を用いなかった場合には、有害ガスを他の成分に変換する変換効果を十分に得るためには、より広い範囲にわたって触媒を配置する必要があり、触媒の使用量を多くしなければならない。したがって、ガス吸着剤が大型のものでないと、十分な効果が得られない。
これに対し、ガス吸着剤が、前述した非晶質性炭酸型エトリンガイトに加え、有害ガスを他の成分に変換する反応に寄与する触媒を含むものであると、このような問題の発生を効果的に防止することができる。
触媒としては、例えば、吸着性組成物の構成成分として説明した条件(例えば、組成、形状、粒径等)のものを好適に用いることができる。
(建材)
本発明の建材は、非晶質性を示し、水和水の一部が脱離した炭酸型エトリンガイト(非晶質性炭酸型エトリンガイト)を含有することを特徴とする。
これにより、高い吸着性能を有する建材を提供することができる。
また、本発明の吸着性組成物、成形体は、高い吸着性能を有するので、建物の床、壁および天井等を構成する建材(壁体材、内装材)に適用することで、建材は、吸湿・放出機能(調湿機能)を有する調湿建材として好適に用いることができる。
特に、吸着性組成物を、セメント系の建材材料に混和することにより、調湿機能および吸着機能を複合化した機能を有する水硬性複合材料(建材用組成物)が得られ、建材は、機能性建材として好適に利用することができる。
また、本発明に係る建材は、水蒸気のみならず、有害ガス等の吸着性にも優れているため、ハウスシック症候群の予防等にも効果的である。また、本発明では、脱臭機能も発揮することができるため、この点においても、本発明を建材に適用することは好適である。また、本発明に係る建材が触媒を含むものであると、有害ガスだけでなく、建材表面に付着した汚染物質(例えば、タバコのヤニ、食品等)を分解する性能も発揮される。
このようなことから、本発明を建材に適用した場合、その付加価値を特に顕著に高めることができる。
さらに、本発明の吸着性組成物(主に、非晶質性炭酸型エトリンガイト)は、吸湿・放湿のヒステリシスが大きく、分子内に多くの水を蓄えることができる。水は、比熱が大きい(4.184×103J/kg・K(18℃))ため、水を吸収した吸着性組成物、成形体も比熱が大きくなる。したがって、本発明を建材に適用することにより、建材の断熱性を優れたものとすることができる。
また、非晶質性炭酸型エトリンガイトは、構造内に大量の水分を維持することで膨潤を引き起こすため、例えば、本発明をコンクリート系の建材に適用した場合、非晶質性炭酸型エトリンガイトは、膨張材としての機能も発揮する。
コンクリート系の建材を作製する場合、コンクリートは、打設した後の乾燥や経時的な劣化によって体積が減少し、結果として建材にひび割れ(乾燥収縮ひび割れ)を引き起こす場合がある。
コンクリートを含む建材中に、本発明の吸着性組成物を膨張材として含有させてもよい。非晶質性炭酸型エトリンガイトが水を吸って膨潤することにより、コンクリートの硬化初期段階における収縮や経時劣化による収縮を抑制することができ、結果として建材のひび割れ発生の防止や寸法安定性に寄与する。
セメントを用いた建材用組成物に、吸着性組成物を膨張材として含有させる場合、非晶質性炭酸型エトリンガイトの含有量は、コンクリート100質量部に対して2質量部以上6質量部以下とするのが好ましい。これにより、膨張材としての効果がより効果的に発揮されるとともに、建材としての強度を十分に優れたものとすることができる。
なお、本発明に係る建材は、非晶質性炭酸型エトリンガイトを含んでいればよく、本発明の吸着性組成物の構成成分の一部が変性したものや除去されたものであってもよい。より具体的には、例えば、本発明の吸着性組成物が非晶質性炭酸型エトリンガイトを分散する液状の分散媒を含む場合に、建材は、当該分散媒が除去されたものであってもよい。また、例えば、本発明の吸着性組成物が硬化性樹脂を含む場合に、建材は、当該硬性樹脂の硬化物を含むものであってもよい。
建材の具体例としては、例えば、床材(例えば、板材、タイル、コルク床、シート床、舗装材等)、壁材(例えば、サイディング;外装木材、シート建材、外装膜材、外壁仕上げ材、外装仕上げ材等の外装材;内装仕上げ材、意匠材、化粧板、木製内装材等の内装材;目隠しルーバー、スクリーン、装飾ルーバー等の外装ルーバー;フェンス材、ブロック等の外構壁面;壁紙;障子;襖等)、屋根材、天井材等が挙げられる。
本発明に係る建材は、例えば、その表面に透湿性の紙やクロス等が貼着されてもよく、透湿性の塗料が塗着されてもよい。
本発明に係る建材の表面は、平坦であってもよく、凹凸が設けられてもよい。この凹凸は細かなものであってもよく、明瞭に視覚される大きな凹凸であってもよい。建材の表面に凹凸を設けることにより表面積を増大させ、前述したような効果をより顕著に発揮させることができる。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
例えば、本発明の吸着性組成物の製造方法では、炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)に加熱処理を施し、水和水の一部を脱離させるとともに、非晶質化させる加熱工程を有していればよく、他の工程を有していなくてもよい。また、本発明の吸着性組成物の製造方法では、前述した工程に加えて、他の工程(前処理工程、中間処理工程、後処理工程)を有していてもよい。
また、本発明の吸着性組成物は、非晶質性を示し、水和水の一部が脱離した炭酸型エトリンガイト(非晶質性炭酸型エトリンガイト)を含有していればよく、前述した方法で製造されたものに限定されない。
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
なお、以下の説明において、特に温度条件を示していない処理は、室温(23℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても、特に温度条件を示していないものは、室温(23℃)、相対湿度50%における数値である。
[炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)の合成]
以下のようにして、結晶性の炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)を合成した。
まず、ショ糖5質量%水溶液355mLに、水酸化カルシウム35.5g(0.48mol)を加え、30分間撹拌することにより、第1の溶液を調製した。
他方、ショ糖5質量%水溶液545mLに、アルミン酸ナトリウム39.3g(0.48mol)と、炭酸ナトリウム15.2g(0.14mol)とを加え、30分間撹拌することにより、第2の溶液を調製した。
上記の合成には、関東化学製特級試薬の炭酸ナトリウム(Na2CO3)、および一級試薬のアルミン酸ナトリウム(NaAlO2,Na2O/Al2O3=1.2)を原料として使用した。なお、これらの溶液の調製には、炭酸ガスの吸収を避けるため煮沸した純水を用いた。
次に、上記の第1の溶液と第2の溶液とを、CaO:Al2O3:CO3 2−の混合比が、モル比で、2:1:0.6となるようにして混合し、20℃の環境で4時間撹拌した。
なお、これらの合成過程中においては大気中のCO2ガスの吸収を防止するため、すべてN2ガス雰囲気中で行った。
生成物はガラスフィルター(G5)で濾過した後、アセトンを用いて洗浄後、室温(23℃)で減圧乾燥することにより、炭酸型エトリンガイトを得た。
得られた試料は粉末X線回析によって炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)単相であることが確認された。また、このようにして得られた炭酸型エトリンガイトの比表面積は、35.3m2/gであった。
[組成物(吸着性組成物)]
(実施例1)
上記のようにして得られた炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)を粉砕し、平均粒径が50μmの粉末を得た。
その後、粉砕された炭酸型エトリンガイトに対して、110℃で3時間加熱処理を施し、組成物(吸着性組成物)を得た。得られた組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、167.78m2/gであった。
(実施例2)
上記のようにして得られた炭酸型エトリンガイト(3CaO・Al2O3・3CaCO3・32H2O)を粉砕し、平均粒径が50μmの粉末を得た。
その後、粉砕された炭酸型エトリンガイトに対して、80℃で24時間加熱処理を施し、組成物(吸着性組成物)を得た。得られた組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、151.83m2/gであった。
(比較例1)
普通ポルトランドセメントの硬化体(W/C(水セメント比)=0.55)を組成物(吸着性組成物)として用意した。この組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、177.92m2/gであった。
(比較例2)
セメントC−S−H(CaO/SiO2モル比=1.0)を組成物(吸着性組成物)として用意した。この組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、196.3m2/gであった。
(比較例3)
セメントC−S−H(CaO/SiO2モル比=1.5)を組成物(吸着性組成物)として用意した。この組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、122.1m2/gであった。
(比較例4)
活性炭(シンエイコール)を組成物(吸着性組成物)として用意した。この組成物(吸着性組成物)のBET比表面積は、776.3m2/gであった。
[XRD分析]
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)、および、実施例1、2の組成物(吸着性組成物)について、炭酸型エトリンガイトの相組成の確認のためにXRD/Rietveld解析を行った。
XRDの測定は、ターゲットCu−Ka、管電圧40kV、管電流30mA、走査範囲2θ=5〜70°、ステップ幅0.02°、スキャンスピード0.4°/minの条件で行った。また、Rietveld解析にはTopas4.2(BrukerAXS)を使用した。
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)、および、実施例1、2の吸着性組成物についてのXRDチャートを図1に示す。
図1に示すように、実施例1、2の組成物では、いずれも、18°付近の結晶性を示すピークが消失しており、非晶質性炭酸型エトリンガイトに変換されたことが分かる。
[IR分析]
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)、および、実施例1、2の組成物(吸着性組成物)について、サンプル中に含まれる分子構造を確認するため、フーリエ変換赤外分光光度計(FT−IR)による測定を行った。
測定にはKBr錠剤法を用い、試料とKBrの質量比1:200、積算回数16回、分解能4cm−1とした。
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)、および、実施例1、2の吸着性組成物についてのFT−IRスペクトルを図2に示す。
図2に示すように、実施例1、2の組成物では、加熱によって1400cm−1付近のピークが分裂していることが分かる。これは、CO3 2−の非対称C−O伸縮振動に帰属するピークであり、非晶質炭酸カルシウムにおいて分裂が見られると報告されていることから、結晶性の炭酸型エトリンガイトは加熱によってその骨格構造が変化し、カルシウムと炭酸イオンが結合して非晶質炭酸カルシウムが形成されていることが分かる。すなわち、実施例1、2の組成物(吸着性組成物)には、非晶質炭酸カルシウムが含まれていることが分かる。
[NMR分析]
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)、および、実施例1、2の組成物(吸着性組成物)について、原子間距離の変動やアルミニウムの配位数を推定するため、固体27Al NMRスペクトル測定を行った。
測定には、JEOL ECAii−500分光計(27Al共鳴周波数:130.25MHz、静磁場強度:11.7T)を用い、MAS条件(回転速度18kHz)においてシングルパルス法によって測定した。また化学シフト基準は、AlCl3飽和水溶液のピークを−0.1ppmとし、18°パルスを用い、待ち時間0.3s、積算回数10000回とした。
結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)についての固体27Al NMRスペクトルを図3に示し、実施例1の吸着性組成物についての固体27Al NMRスペクトルを図4に示す。
固体27AlのNMRシフトはAlの配位数に大きく依存することが知られており、一般的に、6配位、5配位、4配位はそれぞれ−10〜15ppm、30〜40ppm、50〜80ppmにピークを示すと言われている。結晶性の炭酸型エトリンガイト(加熱処理を施す前の炭酸型エトリンガイト)では、6配位のAlを示す非常に鋭いピークが出現しており(図3参照)、既往の研究における結晶性のエトリンガイトのスペクトルで出現するピークとほぼ一致していた。これに対し、実施例1の組成物では、左右非対称の幅広な4配位、5配位のピークが観察され、また6配位ピークの低ppm側へのピークシフトも確認された(図4参照)。これは、水和水の脱離を受けて非晶質化したエトリンガイト(メタエトリンガイト)においても見られる挙動であり、4配位、5配位のピークは、非晶質物質の特徴的なピーク形状とされていることから、実施例1の組成物では、非晶質性炭酸型エトリンガイトに起因した物質あるいは炭酸型エトリンガイトの分解によって生成されたカルシウムアルミネート系非晶質物質が存在していることが強く示唆された。実施例2の組成物についても、実施例1の組成物と同様に、左右非対称の幅広な4配位、5配位のピークが観察され、また6配位ピークの低ppm側へのピークシフトも確認された。
また、実施例1、2の組成物(吸着性組成物)中に含まれる非晶質性炭酸型エトリンガイト中に残存する水和水、すなわち、非晶質性炭酸型エトリンガイトを「3CaO・Al2O3・3CaCO3・nH2O」と示した場合におけるnの値は、いずれも、5以上15以下であった。
[水蒸気吸脱着試験]
前記各実施例および各比較例の組成物について、20℃において水蒸気吸脱着試験を行った。本試験では定容法を採用し、平衡時間は120秒とした。
図5に、各実施例および各比較例の吸着性組成物についての水蒸気脱着等温線を示し、表1に各実施例および各比較例の吸着性組成物についての水蒸気吸脱着試験での水分の最大吸着量(最大吸湿量)を示した。
図5および表1から明らかなように、前記各実施例では、各比較例に比べて、吸着量が大幅に増大している。特に、図5において、前記各実施例では、80RH%ほどで大幅な吸着を示している。そして、吸着過程と脱離過程の間に広範囲にわたって顕著なヒステリシスが形成されており、10RH%での急落が確認できる。
[調湿建材の作製]
前記各実施例および各比較例の組成物(吸着性組成物)を用いて、それぞれ、以下のようにして建材を製造した。
すなわち、半水石膏と、セメントと、吸着性組成物と、光触媒としての酸化チタンとを所定の割合で混合し、さらに、所定量の水を加えて混練した後、成形ロールを用いて厚さ10mmのボード状に成形し、その後、80℃で24時間加熱処理を施し、硬化した建材を得た。
このようにして各実施例および各比較例に係る建材に対し、吸放湿試験を行ったところ、各実施例に係る建材は、各比較例に係る建材に比べて、水分の最大吸着量(最大吸湿量)が大きく、より大きな吸放湿量を有していることが確認された。
また、各実施例に係る建材では、各比較例に係る建材に比べて、高い光触媒機能が確認された。
また、結晶性の炭酸型エトリンガイトの調製に際して、アルミン酸ナトリウム100モル部に対する、水酸化カルシウムの使用量を90モル部以上280モル部以下の範囲で変更し、炭酸ナトリウムの使用量を35モル部以上200モル部以下の範囲で変更した以外は、前記と同様にして吸着性組成物、建材を製造し、これらについて前記と同様の評価を行ったところ、前記と同様の結果が得られた。