以下に、本発明に係る空気入りタイヤの実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施形態によりこの発明が限定されるものではない。また、下記実施形態における構成要素には、当業者が置換可能、且つ、容易に想到できるもの、或いは実質的に同一のものが含まれる。
[実施形態1]
[空気入りタイヤ]
図1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。
なお、同図において、タイヤ子午線方向の断面とは、タイヤ回転軸(図示省略)を含む平面でタイヤを切断したときの断面をいう。また、符号CLは、タイヤ赤道面であり、タイヤ回転軸方向にかかるタイヤの中心点を通りタイヤ回転軸に垂直な平面をいう。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
この空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、トレッド部2と、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10と、カーカス層13と、ベルト層14と、インナーライナ18とを備える(図1参照)。このうち、一対のサイドウォール部3、3と、一対のビード部10、10とは、それぞれタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側に1つずつが配設されている。
一対のビード部10、10は、一対のサイドウォール部3、3のタイヤ径方向内側に位置しており、それぞれビードコア11と、ビードフィラー12と、リムクッションゴム17と、チェーファ20とを有している。即ち、タイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLの両側には、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、一対のリムクッションゴム17、17と、一対のチェーファ20、20とが配設されている。
一対のビードコア11、11は、複数のビードワイヤを束ねて成る環状部材であり、一対のビード部10、10のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外側にそれぞれ配置されてビード部10を補強する。
カーカス層13は、1枚のカーカスプライから成る単層構造、或いは複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有し、タイヤ幅方向における両側に位置するビード部10、10間に、トロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13のカーカスプライは、スチール、或いはアラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなどの有機繊維材から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成されている。このカーカス層13のカーカスプライは、タイヤ周方向に対するカーカスコードの延在方向の傾斜角として定義されるカーカス角度が、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下の範囲内になっている。
例えば、図1に示す構成では、カーカス層13が、単層構造を有し、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11間に連続して架け渡されている。また、カーカス層13の両端部が、ビードコア11及びビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止されている。つまり、カーカス層13は、タイヤ子午線方向の断面視における両端部付近が、ビードコア11及びビードフィラー12のタイヤ幅方向内側からタイヤ径方向内側を通り、タイヤ幅方向外側に巻き返されている。
また、カーカス層13のカーカスプライは、カーカスコードのコートゴムの60[℃]のtanδ値が、0.20以下であることが好ましく、また、カーカスコードのコートゴムの体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]以上であることが好ましい。これらにより、タイヤの転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率を有するコートゴムは、例えば、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用することにより生成される。さらに、コートゴムは、シリカを使用せずに構成されても良いし、シリカを含有させて補強されても良い。
なお、60[℃]のtanδ値は、(株)東洋精機製作所製、粘弾性スペクトロメーターを用いて、初期歪10%、振幅±0.5%、周波数20Hzの条件で測定される。
また、体積抵抗率(体積固有抵抗)は、JIS K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム−体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満、もしくは表面抵抗率が1×10^8[Ω/cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制可能な導電性を有するといえる。
一対のビード部10、10が有する一対のリムクッションゴム17、17は、タイヤ幅方向両側のビードコア11、11及びカーカス層13の巻き返し部のタイヤ径方向内側にそれぞれ配置されて、リムRのリムフランジ部に対するビード部10の接触面を構成する。リムクッションゴム17の体積抵抗率は、1×10^7[Ω・cm]以下であることが好ましい。
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とをタイヤ径方向に積層することにより構成され、カーカス層13のタイヤ径方向外側に配置されてカーカス層13の外周に掛け廻されている。一対の交差ベルト141、142は、スチール或いは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、タイヤ周方向に対するベルトコードの延在方向の傾斜角であるベルト角度が、絶対値で20[deg]以上65[deg]以下の範囲内になっている。また、一対の交差ベルト141、142は、ベルト角度が相互に異符号となり、ベルトコードの延在方向を相互に交差させて積層される、いわゆるクロスプライ構造になっている。即ち、一対の交差ベルト141、142は、タイヤ周方向に対するタイヤ幅方向へのベルトコードの傾斜方向が、互いに反対方向になっている。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチール或いは有機繊維材から成る複数のコードを圧延加工して構成され、ベルト角度が絶対値で0[deg]以上10[deg]以下の範囲内になっている。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
トレッド部2は、ゴム組成物であるトレッドゴム15を有して構成され、カーカス層13及びベルト層14のタイヤ径方向外側に配置されていると共に、空気入りタイヤ1のタイヤ径方向の最も外側で露出している。このため、トレッド部2は、外周表面が空気入りタイヤ1の輪郭の一部を構成しており、トレッド部2には、タイヤ周方向に延びる周方向主溝6やラグ溝(図示省略)等の溝が複数形成されている。また、トレッド部2を構成するトレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152とを有している。
キャップトレッド151は、トレッド部2のタイヤ径方向における最も外側に位置してタイヤ接地面を構成するゴム部材であり、単層構造を有しても良いし(図1参照)、多層構造を有しても良い(図示省略)。キャップトレッド151の60[℃]のtanδ値は、0.25以下であることが好ましい。また、キャップトレッド151の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつキャップトレッド151は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
また、アンダートレッド152は、キャップトレッド151のタイヤ径方向内側に積層される部材である。アンダートレッド152の体積抵抗率は、キャップトレッド151の体積抵抗率よりも低いことが好ましい。
一対のサイドウォール部3、3は、それぞれサイドウォールゴム16を有して構成され、一対のサイドウォール部3、3が有する一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されている。サイドウォールゴム16の60[℃]のtanδ値は、0.20以下であることが好ましい。また、サイドウォールゴム16の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、1×10^10[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましく、1×10^12[Ω・cm]以上の範囲にあることがより好ましい。これらにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗が低下する。かかる体積抵抗率をもつサイドウォールゴム16は、カーボン配合量が少ない低発熱コンパウンドを使用し、また、シリカ含有量を増加させて補強することにより生成される。
なお、キャップトレッド151の体積抵抗率の上限値、アンダートレッド152の体積抵抗率の下限値、サイドウォールゴム16の体積抵抗率の上限値及びリムクッションゴム17の体積抵抗率の下限値は、特に限定がないが、これらがゴム部材であることから物理的な制約を受ける。
インナーライナ18は、タイヤ内表面に配置されてカーカス層13を覆う空気透過防止層であり、カーカス層13の露出による酸化を抑制し、また、タイヤに充填された空気の洩れを防止する。また、インナーライナ18は、例えば、ブチルゴムを主成分とするゴム組成物、熱可塑性樹脂、熱可塑性樹脂中にエラストマー成分をブレンドした熱可塑性エラストマー組成物などから構成される。特に、インナーライナ18が熱可塑性樹脂あるいは熱可塑性エラストマー組成物から成る構成では、インナーライナ18がブチルゴムから成る構成と比較して、インナーライナ18を薄型化できるので、タイヤ重量を大幅に軽減できる。
なお、インナーライナ18の空気透過係数は、一般に、温度30[℃]でJIS K7126−1に準拠して測定した場合に、100×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることが好ましく、50×10^−12[cc・cm/cm^2・sec・cmHg]以下であることがより好ましい。また、インナーライナ18の体積抵抗率は、1×10^8[Ω・cm]以上の範囲にあることが好ましく、一般に1×10^9[Ω・cm]以上であることが好ましい。
ブチルゴムを主成分とするゴム組成物としては、例えば、ブチルゴム(IIR)、ブチル系ゴムなどが採用され得る。ブチル系ゴムは、例えば、塩素化ブチルゴム(Cl−IIR)、臭素化ブチルゴム(Br−IIR)などのハロゲン化ブチルゴムであることが好ましい。
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリアミド系樹脂〔例えばナイロン6(N6)、ナイロン66(N66)、ナイロン46(N46)、ナイロン11(N11)、ナイロン12(N12)、ナイロン610(N610)、ナイロン612(N612)、ナイロン6/66共重合体(N6/66)、ナイロン6/66/610共重合体(N6/66/610)、ナイロンMXD6、ナイロン6T、ナイロン9T、ナイロン6/6T共重合体、ナイロン66/PP共重合体、ナイロン66/PPS共重合体〕、ポリエステル系樹脂〔例えばポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンイソフタレート(PEI)、ポリブチレンテレフタレート/テトラメチレングリコール共重合体、PET/PEI共重合体、ポリアリレート(PAR)、ポリブチレンナフタレート(PBN)、液晶ポリエステル、ポリオキシアルキレンジイミドジ酸/ポリブチレンテレフタレート共重合体などの芳香族ポリエステル〕、ポリニトリル系樹脂〔例えばポリアクリロニトリル(PAN)、ポリメタクリロニトリル、アクリロニトリル/スチレン共重合体(AS)、メタクリロニトリル/スチレン共重合体、メタクリロニトリル/スチレン/ブタジエン共重合体〕、ポリ(メタ)アクリレート系樹脂〔例えばポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリメタクリル酸エチル、エチレンエチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレンアクリル酸共重合体(EAA)、エチレンメチルアクリレート樹脂(EMA)〕、ポリビニル系樹脂〔例えば酢酸ビニル(EVA)、ポリビニルアルコール(PVA)、ビニルアルコール/エチレン共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリ塩化ビニル(PVC)、塩化ビニル/塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニリデン/メチルアクリレート共重合体〕、セルロース系樹脂〔例えば酢酸セルロース、酢酸酪酸セルロース〕、フッ素系樹脂〔例えばポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリフッ化ビニル(PVF)、ポリクロルフルオロエチレン(PCTFE)、テトラフロロエチレン/エチレン共重合体(ETFE)〕、イミド系樹脂〔例えば芳香族ポリイミド(PI)〕などが採用され得る。
エラストマーとしては、例えば、ジエン系ゴムおよびその水素添加物〔例えばNR、IR、エポキシ化天然ゴム、SBR、BR(高シスBRおよび低シスBR)、NBR、水素化NBR、水素化SBR〕、オレフィン系ゴム〔例えばエチレンプロピレンゴム(EPDM、EPM)、マレイン酸変性エチレンプロピレンゴム(M−EPM)〕、ブチルゴム(IIR)、イソブチレンと芳香族ビニルまたはジエン系モノマー共重合体、アクリルゴム(ACM)、アイオノマー、含ハロゲンゴム〔例えばBr−IIR、Cl−IIR、イソブチレンパラメチルスチレン共重合体の臭素化物(Br−IPMS)、クロロプレンゴム(CR)、ヒドリンゴム(CHC、CHR)、クロロスルホン化ポリエチレン(CSM)、塩素化ポリエチレン(CM)、マレイン酸変性塩素化ポリエチレン(M−CM)〕、シリコーンゴム〔例えばメチルビニルシリコーンゴム、ジメチルシリコーンゴム、メチルフェニルビニルシリコーンゴム〕、含イオウゴム〔例えばポリスルフィドゴム〕、フッ素ゴム〔例えばビニリデンフルオライド系ゴム、含フッ素ビニルエーテル系ゴム、テトラフルオロエチレン−プロピレン系ゴム、含フッ素シリコン系ゴム、含フッ素ホスファゼン系ゴム〕、熱可塑性エラストマー〔例えばスチレン系エラストマー、オレフィン系エラストマー、ポリエステル系エラストマー、ウレタン系エラストマー、ポリアミド系エラストマー〕などが採用され得る。
[帯電抑制構造]
図2は、図1のタイヤ幅方向におけるタイヤ赤道面CLから一方側の領域の詳細図である。本実施形態1に係る空気入りタイヤ1は、帯電抑制構造5として導電部52を備える。導電部52は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率を有し、カーカス層13の表面に沿って一対のビード部10、10間に延在して配置されている。一対のビード部10、10間に延在する導電部52は、タイヤ径方向外側の位置ではベルト層14に対してタイヤ径方向に重なり、導電部52のタイヤ径方向内側の端部は、ビードコア11の近傍に位置してリムクッションゴム17に接触している。これにより、導電部52からベルト層14に至る導電経路が確保されると共に、リム嵌合面からリムクッションゴム17を介して導電部52に至る導電経路が確保され、ビード部10からベルト層14までの導電経路が確保される。
また、カーカス層13に沿って配置される導電部52は、カーカス層13の内周面側の表面に沿って配置されている。つまり、導電部52は、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なる位置では、カーカス層13のタイヤ径方向内側でカーカス層13の表面に沿って配置されており、サイドウォール部3やビード部10の位置では、導電部52はカーカス層13のタイヤ幅方向内側でカーカス層13の表面に沿って配置されている。また、導電部52は、一対のビード部10、10間に延在するため、ベルト層14に対してタイヤ径方向に重なる位置ではタイヤ幅方向に近い方向に延在し、サイドウォール部3やビード部10の位置ではタイヤ径方向に近い方向に延在している。
さらに、導電部52は、カーカス層13の表面から離間する離間部53を少なくとも一箇所有している。導電部52の離間部53は、本実施形態1では、一対のビード部10、10とベルト層14との間のそれぞれの領域のうち、一方の領域のビード部10とベルト層14との間に位置している。つまり、離間部53は、タイヤ幅方向における両側に位置するサイドウォール部3、3のうち、一方のサイドウォール部3側に位置しており、他方のサイドウォール部3側には形成されていない。
なお、本実施形態1では、ビード部10とは、リム径の測定点からタイヤ断面高さSHの1/3までの領域をいう。また、タイヤ断面高さSHとは、タイヤ外径とリム径との差の1/2をいい、空気入りタイヤ1を規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に無負荷状態として測定される。
ここで、規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、或いはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、或いはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
図3は、図2のA部詳細図である。離間部53は、導電部52がカーカス層13の表面13aから離間する方向に凸状に湾曲することにより形成されている。導電部52は、サイドウォール部3の位置ではカーカス層13のタイヤ幅方向内側に配置されるため、離間部53は、導電部52がタイヤ幅方向内側に凸状に湾曲することにより形成されている。導電部52は、このようにタイヤ幅方向内側に凸状に湾曲して離間部53が形成されることにより、離間部53の位置ではカーカス層13の表面13aから離間しており、カーカス層13の表面13aから離れる方向にカーカス層13に対して弛んで配置されている。
図4は、図2のB−B方向の断面図であり、トレッド部2の位置での導電部52の配置構造についての説明図である。図5は、導電部52単体の説明図である。これらの図において、図4は、ベルト層14及び導電部52の径方向断面図を模式的に示している。また、図5は、導電部52の撚り線構造を示している。
導電部52は、導電線状体521を含む線状構造を有している。かかる導電部52は、少なくとも1本の導電線状体521を含む複数本の線状体を撚り合わせて成る撚り線構造を有している。なお、導電部52は、導電物質から成る単線のコードであっても良い(図示省略)。導電部52が線状構造を有する構成では、導電部がタイヤに追加設置されたゴム層から成る構成と比較して、タイヤの転がり抵抗が小さい点で好ましい。
導電線状体521は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電物質を線状に成形して成る線状体である。従って、導電線状体521は、導電性物質から成る単繊維自体、糸自体、或いは、コード自体を意味する。従って、例えば、金属や炭素繊維などから成るコード、ステンレスなどの金属を繊維化して成る金属繊維などが、導電線状体521に該当する。
導電部52の撚り線構造(図5参照)としては、例えば、(1)複数本の炭素繊維を撚り合わせて成る構造、(2)1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率を持つ導電線状体521と、1×10^8[Ω/cm]以上の電気抵抗率をもつ非導電線状体522とを撚り合わせて成る構造などが挙げられる。線状体の撚り線構造は、特に限定がなく、任意のものを採用できる。
上記(2)における非導電線状体522としては、例えば、ポリエステル繊維、ナイロン繊維などを採用できる。特に、導電部52が、金属繊維から成る導電線状体521と、ポリエステル繊維等の有機繊維から成る非導電線状体522とを撚り合わせて成る混紡糸であることが好ましい。
電気抵抗率[Ω/cm]は、繊維の糸長方向に長さ3[cm]以上の試験片を採取し、試験片の間(両端間)に500[V]の電圧をかけて、測定環境20[℃]、20[%]RHの条件下、東亜電波工業(株)製の抵抗値測定機「SME−8220」を使用して測定される。
また、導電部52の総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲にあることが好ましく、150[dtex]以上350[dtex]以下の範囲にあることがより好ましい。総繊度の下限を上記の範囲とすることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、総繊度の上限を上記の範囲とすることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
総繊度は、JIS L1017(化学繊維タイヤコード試験方法 8.3 正量繊度)に準拠して測定される。
また、導電部52の伸び率、即ち、導電部52の伸度が、1.0[%]以上70.0[%]以下の範囲にあることが好ましい。伸度を1.0[%]以上とすることにより、タイヤ製造時における導電部52の断線が抑制される。また、伸度を70.0[%]以下とすることにより、タイヤ転動時における導電部52の断線が抑制される。
線状体の伸度は、JIS L1017(化学繊維タイヤコード試験方法 8.5 引張強さ及び伸び率)に準拠して測定される。
また、本実施形態1では、導電部52は、ヤーンであり、カーカス層13と隣接部材との間に挟み込まれて配置される。また、導電部52は、図5に示すように、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体521と、1×10^8[Ω/cm]以上の電気抵抗率をもつ非導電線状体522とを撚り合わせて成る撚り線構造を有している。
ヤーンとは、カーカス層13の表面に沿って配置される線状体であり(図4参照)、グリーンタイヤ成型工程にて、カーカス層13と隣接部材との間に微少な隙間を形成して残留エアを排出させる機能を有する。
例えば、本実施形態1では、図2及び図4に示すように、導電部52は、カーカス層13の内周面側に位置し、カーカス層13とインナーライナ18及びタイゴム19との間に挟み込まれて配置されている。
このとき、導電部52とインナーライナ18との距離が、1.0[mm]以下であることが好ましく、0.5[mm]以下であることがより好ましい。特に、インナーライナ18が熱可塑性樹脂から成る構成では、タイヤ転動時の摩擦により静電気が発生して、インナーライナ18が帯電する。従って、導電部52がインナーライナ18に近接して配置されることにより、インナーライナ18から導電部52への導電経路が適正に確保される。
図6は、図3のC部詳細図である。導電部52が有する離間部53とカーカス層13との間には、導電部52をカーカス層13の表面13aから離間させるスペーサ30が配置されている。スペーサ30は、導電部52の延在方向における幅Wが、1[mm]以上10[mm]以下の範囲内であるのが好ましく、カーカス層13の表面13aからの高さHが、0.5[mm]以上2[mm]以下の範囲内であるのが好ましい。本実施形態1では、スペーサ30は、線状の形状でカーカス層13の内周面側の表面13aに沿って配置される線状体31により構成されている。
図7は、図3のD−D矢視方向の導電部52と線状体31との関係を示す模式図である。表面13aに導電部52が配置されるカーカス層13が有するカーカスコード131は、タイヤ周方向に対して80[deg]以上95[deg]以下の範囲内で傾斜しており、導電部52は、概ねカーカス層13のカーカスコード131に沿った方向に延びている。即ち、導電部52は、カーカスコード131に対してほぼ平行になる向きで配設されている。このように、カーカスコード131に対してほぼ平行に配設される導電部52は、カーカスコード131に対する角度が30[deg]以下の範囲内であるのが好ましい。
スペーサ30として設けられる線状体31は、ビード部10とベルト層14との間の位置、即ち、サイドウォール部3の位置で、カーカス層13の内周面側の表面13aに沿ってタイヤ周方向に延びて配置されている。カーカスコード131に沿った方向に延びる導電部52は、ビード部10とベルト層14との間の位置ではタイヤ径方向に延びるため、導電部52は、ビード部10とベルト層14との間の位置においてタイヤ径方向に延在しつつ線状体31を跨いで配置されることにより、カーカス層13の表面13aから離間する離間部53が形成される。
スペーサ30として設けられる線状体31は、ゴム硬さが、カーカス層13が有するカーカスコード131を被覆するコートゴム132のゴム硬さより低い低硬度ゴム層32により形成されている。即ち、線状体31は、ゴム部材である低硬度ゴム層32が、線状或いは紐状の形状で形成されることにより形成されている。線状体31を構成する低硬度ゴム層32は、ゴム硬さが60以下になっている。なお、この場合におけるゴム硬さは、JIS−K6253に準拠したJIS−A硬度として測定される。また、線状体31を構成する低硬度ゴム層32のゴム硬さは、50以上60以下であるのが好ましい。
図8は、カーカス層13と長さに対する導電部52の長さについての説明図である。導電部52は、導電部52における一対のビード部10、10間の延在長さLaと、カーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係が、1.0<(La/Lp)≦1.2の範囲内になっている。この場合における導電部52の一対のビード部10、10間の延在長さLaは、導電部52における、タイヤ幅方向両側のリム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSHの1/3の位置同士の間の導電部52に沿った長さになっている。また、カーカス層13のペリフェリ長さLpは、カーカス層13における、タイヤ幅方向両側のリム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSHの1/3の位置同士の間のカーカス層13に沿った長さになっている。
つまり、導電部52の延在長さLaとカーカス層13のペリフェリ長さLpとは、同じ範囲の長さになっているが、導電部52の延在長さLaは、離間部53も含んだ導電部52の長さになっているため、導電部52の延在長さLaは、カーカス層13のペリフェリ長さLpよりも長くなっている。換言すると、導電部52は、カーカス層13から離れる方向にカーカス層13に対して弛んで配置されているため、導電部52の延在長さLaは、カーカス層13のペリフェリ長さLpよりも長くなっている。
さらに、導電部52は、ベルト層14のうちタイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14のタイヤ幅方向における端部144とビード部10との間の領域における、導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係が、1.03<(La1/Lp1)≦1.15の範囲内になっている。この場合における、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14のタイヤ幅方向における端部144とビード部10との間の領域は、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14のタイヤ幅方向における端部144からタイヤ径方向に垂線を引いた垂線上の位置と、リム径の測定点からタイヤ径方向外側にタイヤ断面高さSHの1/3の位置との間の領域になっている。
また、この領域での導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との比較は、タイヤ幅方向における両側で規定できる当該領域のうち、導電部52に離間部53が形成されている領域内の長さLa1、Lp1同士で比較する。この場合も、導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1とは、同じ範囲の長さになっているが、導電部52の延在長さLa1は、離間部53も含んだ導電部52の長さになっているため、導電部52の延在長さLa1は、カーカス層13のペリフェリ長さLp1よりも長くなっている。即ち、導電部52は、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14のタイヤ幅方向における端部144とビード部10との間の領域に離間部53が位置しており、この領域内でカーカス層13に対して弛んでいるため、導電部52の延在長さLa1は、カーカス層13のペリフェリ長さLp1よりも長くなっている。
本実施形態1に係る空気入りタイヤ1では、これらのように帯電抑制構造5が構成されることにより、リムRからリムクッションゴム17、導電部52を通りベルト層14に至る経路を、車両から路面へ静電気を放出するための導電経路として用いることができる。
なお、リムクッションゴム17、カーカス層13のコートゴム132及びベルト層14のコートゴムは、リムRからベルト層14に至る導電経路となる。このため、これらのゴムの体積抵抗率が低く設定されることが好ましい。これにより、リムRからベルト層14に至る導電効率が向上する。
また、本実施形態1に係る空気入りタイヤ1では、導電部52のタイヤ径方向内側の端部が、ビードコア11の近傍まで延在してリムクッションゴム17に接触している。かかる構成では、リム嵌合面からリムクッションゴム17を介して導電部52に至る導電経路が適正に確保される点で好ましい。
しかし、これに限らず、導電部52のタイヤ径方向内側の端部が、ビードコア11の径方向内側まで延在しても良い(図示省略)。また、導電部52のタイヤ径方向内側の端部が、ビードコア11を包み込むように巻き上げられて配置されても良い(図示省略)。これにより、リム嵌合面から導電部52への導電性がさらに向上する。また、導電部52のタイヤ径方向内側の端部が、リムクッションゴム17に接触することなく、例えば、ビードフィラー12の近傍で終端しても良い(図示省略)。かかる構成にしても、リム嵌合面から導電部52への導電性が必要十分に確保される。または、導電部52のタイヤ径方向内側の端部が、空気入りタイヤ1の表面に露出し、直接リムRに接するように配設しても良い(図示省略)。このような構成にすることにより、リムRから導電部52への導電性を、さらに向上させることができる。
[作用・効果]
実施形態1に係る空気入りタイヤ1を車両に装着して走行すると、空気入りタイヤ1におけるトレッド部2の表面のうち、下方に位置して路面に対向する部分が路面に接触しながら当該空気入りタイヤ1は回転する。空気入りタイヤ1は、このようにトレッド部2の表面が順次路面に接触することにより、路面との間で摩擦力を発生させることができる。これにより、車両は、空気入りタイヤ1と路面との間の摩擦力によって、駆動力や制動力、旋回力を路面に伝えることができ、これらの駆動力、制動力、旋回力によって走行することができる。
また、車両の走行中には静電気が発生することがあり、このような静電気は、リムRからリムクッションゴム17、導電部52を通ってベルト層14に流れ、ベルト層14からトレッドゴム15に流れてトレッドゴム15から路面に放出される。これにより、車両に発生した静電気は路面に放出され、静電気による車両の帯電が抑制される。
ここで、車両の走行時には、車両の走行状態に応じて発生する荷重によってトレッド部2やサイドウォール部3等が変形しながら回転する。トレッド部2やサイドウォール部3の内側には、カーカス層13が配設されているため、トレッド部2やサイドウォール部3等が変形した際には、これらの変形に伴ってカーカス層13も変形する。カーカス層13の内周面側には、カーカス層13の表面13aに沿って導電部52が配置されているため、カーカス層13が変形した場合、導電部52にはカーカス層13との間の摩擦力や接着力により大きな張力が作用することがある。
例えば、カーカス層13が変形した場合、カーカス層13に複数設けられるカーカスコード131のうち隣り合うカーカスコード131同士が、カーカスコード131の延在方向に互いにずれる方向に変形することがある。このような、隣り合うカーカスコード131同士がずれる変形であるカーカスコード131間のせん断変形が発生した場合、導電部52における、せん断変形が発生したカーカスコード131を跨ぐ部分には、カーカスコード131との間の摩擦力や接着力によって張力が発生する。特に、車両の制駆動時は、トレッド部2側とビード部10側とがタイヤ周方向に相対的にずれようとする方向に変形するため、これに伴い、カーカスコード131間のせん断変形も大きくなり、導電部52に発生する張力も大きくなる。導電部52に対して大きな張力が繰り返し作用した場合、導電部52は、この張力によって断線する虞がある。
なお、図7は模式図であるため、カーカスコード131と導電部52とは共にタイヤ径方向に延び、導電部52はカーカスコード131を跨いでいないが、カーカスコード131はタイヤ径方向に対して所定の範囲内で傾斜しているため、導電部52は実際にはカーカスコード131を跨いで配置されることが多くなる。このため、導電部52には、カーカスコード131間のせん断変形によって大きな張力が作用し、この張力によって断線する虞がある。
導電部52が断線をすると、リムRからベルト層14に至る導電経路が分断されるため、車両に発生した静電気が路面に放出され難くなるが、本実施形態1に係る空気入りタイヤ1は、導電部52は離間部53を有しているため、カーカス層13に対して弛んで導電部52は配置されている。これにより、導電部52に大きな張力が作用するような状況でも、導電部52は張力の方向に追随することができる。
図9は、導電部52に張力が作用した場合における説明図である。詳しくは、導電部52に張力が作用した場合、導電部52は、カーカス層13の表面13aから離れる方向にカーカス層13に対して弛んでいる離間部53がカーカス層13の表面13aに近付くことにより、張力の方向に延びることができる。即ち、導電部52に張力が作用した場合は、離間部53において導電部52とカーカス層13の表面13aとの間に配置される線状体31が、導電部52に作用する張力によって潰れることにより、離間部53はカーカス層13の表面13aに近付くことができる。これにより、導電部52に大きな張力が作用するような状況でも、導電部52は張力の方向に延びることができる。
従って、車両の制駆動時におけるカーカスコード131間のせん断変形によって導電部52に大きな張力が作用することに起因する導電部52の断線を抑制することができ、車両の走行時に制駆動が繰り返し行われても、新品の空気入りタイヤ1に対して導電部52による導電性を維持することができる。また、導電部52に大きな張力が作用した場合、導電部52は張力の方向に延びることができるため、導電部52に対して張力が繰り返し作用したりすることに起因する導電部52の断線を抑制することができる。これにより、新品の空気入りタイヤ1の使用開始後の走行距離が長くなっても、導電部52による導電性を維持することができる。これらの結果、導電部52の耐久性を向上させることができ、車両の帯電を抑制する性能である帯電抑制性能を維持することができる。
また、導電部52は、一対のビード部10、10間に延在し、且つ、導電部52における一対のビード部10、10間の延在長さLaと、カーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係が、1.0<(La/Lp)≦1.2の範囲内であるため、製造故障の発生を抑えつつ導電部52の断線を抑制することができる。つまり、導電部52の延在長さLaとカーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係が(La/Lp)≦1.0である場合は、導電部52はカーカス層13に対する弛みの効果が低いため、導電部52に大きな張力が作用した場合における導電部52の断線を抑制し難くなる虞がある。即ち、導電部52は、カーカス層13の内周面側に配置されるため、(La/Lp)≦1.0であったとしても、離間部53を設けることができる可能性はあるが、離間部53を設けることができたとしても、(La/Lp)≦1.0の場合は離間部53による弛みが小さ過ぎるため、離間部53を設けることの効果が小さく、導電部52の断線を抑制し難くなる虞がある。また、導電部52の延在長さLaとカーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係が(La/Lp)>1.2である場合は、カーカス層13に対する導電部52の弛みが大きくなり過ぎ、空気入りタイヤ1の製造時に離間部53の周囲にエアを保持し易くなるため、製造故障が増加する虞がある。つまり、本実施形態1では、導電部52は、カーカス層13とタイゴム19との間に配設されているが、離間部53が大き過ぎる場合は、離間部53の周囲のカーカス層13とタイゴム19との距離が大きくなり過ぎ、空気入りタイヤ1の製造時にこの部分に多くのエアが入り込むことによって製造故障が発生し易くなる虞がある。
これに対し、導電部52の延在長さLaとカーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係が1.0<(La/Lp)≦1.2の範囲内である場合は、空気入りタイヤ1の製造時に離間部53の周囲にエアが入り込み過ぎない程度の大きさで、導電部52をカーカス層13に対して弛ませることができる。これにより、製造故障の発生を抑えつつ、導電部52の断線をより確実に抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の製造時における製造故障の発生を抑えつつ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができ、帯電抑制性能を維持することができる。
また、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14の端部144とビード部10との間の領域における、導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係が、1.03<(La1/Lp1)≦1.15の範囲内であるため、製造故障の発生を抑えつつ、タイヤ転動時における変形が大きい領域における導電部52の断線を抑制することができる。つまり、この領域における導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係が(La1/Lp1)≦1.03である場合は、空気入りタイヤ1の転動時にカーカス層13が大きく変形する領域における、カーカス層13に対する導電部52の弛みが小さいため、導電部52に繰り返し張力が作用した場合における導電部52の断線を抑制し難くなる虞がある。また、この領域における導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係が(La1/Lp1)>1.15である場合は、カーカス層13に対する導電部52の弛みが大きくなり過ぎ、空気入りタイヤ1の製造時に離間部53の周囲のカーカス層13とタイゴム19との間に多くのエアが入り込むことにより製造故障が発生し易くなる虞がある。
これに対し、導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係が1.03<(La1/Lp1)≦1.15の範囲内である場合は、タイヤ転動時にカーカス層13が大きく変形する領域における導電部52を、空気入りタイヤ1の製造時に離間部53の周囲にエアが入り込み過ぎない程度の大きさでカーカス層13に対して弛ませることができる。これにより、製造故障の発生を抑えつつ、タイヤ転動時における変形が大きい領域における導電部52の断線を、より確実に抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の製造時における製造故障の発生を抑えつつ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができ、帯電抑制性能を維持することができる。
また、導電部52の離間部53とカーカス層13との間には、導電部52をカーカス層13の表面13aから離間させるスペーサ30が配置されるため、導電部52に容易に離間部53を設けることができる。この結果、導電部52の耐久性を容易に向上させることができる。
また、スペーサ30は、カーカス層13の表面13aに沿って配置される線状体31により構成されるため、導電部52に離間部53を設けるためのスペーサ30を、容易に配設することができる。また、導電部52は、線状体31を跨いで配置することによって離間部53が形成されるため、容易に離間部53を設けることができる。この結果、より容易に導電部52の耐久性を向上させることができる。
また、スペーサ30として設けられる線状体31は、ゴム硬さが、カーカス層13が有するコートゴム132のゴム硬さより低い低硬度ゴム層32により形成されるため、線状体31は外部からの力によって容易に変形することができる。これにより、導電部52に大きな張力が作用して離間部53がカーカス層13の表面13aに近付こうとする際に、導電部52から線状体31に対して入力される力によって線状体31は容易に変形することができ、導電部52は、張力の方向に延びることができる。この結果、導電部52の断線をより確実に抑制することができ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができる。
また、線状体31を構成する低硬度ゴム層32は、ゴム硬さが60以下であるため、線状体31は、外部からの力によってより確実に容易に変形することができる。これにより、導電部52に大きな張力が作用した際に、線状体31は導電部52から入力される力によってより確実に容易に変形することができ、導電部52は張力の方向に延びることができる。この結果、導電部52の断線をより確実に抑制することができ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができる。
また、導電部52は、少なくとも1本の導電線状体521を含む複数本の線状体を撚り合わせて成るため、所望の電気抵抗率を確保しつつ、導電部52の強度を確保することができる。即ち、導電部52を複数本の線状体の撚り線構造とすることにより、導電部52が単線である構成と比較して、繰り返し疲労や伸びに対する強度を向上させることができる。この結果、帯電抑制性能を確保しつつ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができる。
また、導電部52が、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体521と、1×10^8[Ω/cm]以上の電気抵抗率をもつ非導電線状体522とを撚り合わせて成るため、所望の電気抵抗率を確保しつつ、導電部52の弱点を非導電線状体522によって補うことができる。この結果、導電部52の強度や耐熱性、寸法安定性を適正に確保することができ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができる。
[実施形態2]
実施形態2に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と略同様の構成であるが、スペーサ30として設けられる線状体31は繊維材33で構成される点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
図10は、実施形態2に係る空気入りタイヤ1に用いられる導電部52の離間部53の詳細図であり、線状体31についての説明図である。実施形態2に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と同様に、一対のビード部10、10間に延在し、カーカス層13の表面13aに沿って配置される導電部52を備えている。また、導電部52は、スペーサ30として設けられる線状体31を跨いで配置されることにより、カーカス層13の表面13aから離間する離間部53を有している。
導電部52は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と同様に離間部53を有しているが、離間部53を形成するために用いられる線状体31が実施形態1と異なっており、実施形態2に係る空気入りタイヤ1では、線状体31は、繊維材33によって構成されている。線状体31を構成する繊維材33は、総繊度が、20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲内になっている。また、繊維材33によって構成される線状体31は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電物質を線状に成形して成る導電線状体を含んで構成されている。
なお、線状体31は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体のみで構成されていてもよく、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体と、1×10^8[Ω/cm]以上の電気抵抗率をもつ非導電線状体とを撚り合わせて構成されていてもよい。
導電部52とカーカス層13の表面13aとの間に配置する線状体31に繊維材33を用いた場合でも、導電部52をカーカス層13に対して弛ませて離間部53を形成することができると共に、導電部52に張力が作用した際に線状体31が潰れることにより、導電部52は張力の方向に延びることができる。
また、線状体31を構成する繊維材33は、総繊度が20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲内であるため、製造故障の発生を抑えつつ導電部52の断線を抑制することができる。つまり、繊維材33の総繊度が20[dtex]未満である場合は、総繊度が小さいことにより線状体31が細くなり過ぎるため、離間部53での導電部52とカーカス層13の表面13aとの距離が小さくなり、カーカス層13に対する導電部52の弛みが小さくなり過ぎる虞がある。この場合、導電部52に繰り返し張力が作用した際における導電部52の断線を抑制し難くなる虞がある。また、繊維材33の総繊度が1000[dtex]より大きい場合は、総繊度が大きいことにより線状体31が太くなり過ぎるため、空気入りタイヤ1の製造時にカーカス層13とタイゴム19との間に入り込んだエアが線状体31によって阻害されて抜け難くなり、製造故障が発生し易くなる虞がある。
これに対し、繊維材33の総繊度が20[dtex]以上1000[dtex]以下の範囲内である場合は、空気入りタイヤ1の製造時におけるエア抜けを阻害しない程度の太さの線状体31を用いて、適度な大きさで導電部52をカーカス層13に対して弛ませることができる。これにより、製造故障の発生を抑えつつ、導電部52の断線をより確実に抑制することができる。この結果、空気入りタイヤ1の製造時における製造故障の発生を抑えつつ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができ、帯電抑制性能を維持することができる。
また、線状体31は、1×10^8[Ω/cm]未満の電気抵抗率をもつ導電線状体を含んで構成されるため、電気抵抗をさらに低減することができ、より確実に帯電抑制性能を向上させることができる。
[実施形態3]
実施形態3に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と略同様の構成であるが、スペーサ30が、リング状部材35により構成される点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
図11は、実施形態3に係る空気入りタイヤ1に用いられる導電部52の離間部53の詳細図であり、リング状部材35についての説明図である。図12は、図11のE−E断面図である。実施形態3に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と同様に、一対のビード部10、10間に延在してカーカス層13の表面13aに沿って配置される導電部52を備えており、導電部52は、カーカス層13の表面13aから離間する離間部53が、スペーサ30によって形成されている。
導電部52に離間部53を形成するために用いられるスペーサ30は、実施形態1と異なり、リング状部材35により構成されている。即ち、スペーサ30として用いられるリング状部材35は、環状の形状で形成されており、導電部52は、リング状部材35の内側を通って配置されている。これにより、導電部52は、リング状部材35の内側を通る部分が、カーカス層13の表面13aから離間することになり、この部分が離間部53として形成される。
また、本実施形態3では、リング状部材35は、実施形態1における線状体31と同様に、低硬度ゴム層32により形成されている。即ち、リング状部材35は、所謂Oリング状に形成されている。このように形成されるリング状部材35は、カーカス層13の表面13aにおける導電部52が配置される位置に配置されると共に、リング状部材35の形状である環状の軸方向がカーカスコード131の延在方向に近い方向になる向きで配置される。導電部52は、リング状部材35が配置される位置では、環状のリング状部材35の内周側を通ることにより、リング状部材35の内周側を通る部分がカーカス層13の表面13aから離間し、これにより導電部52には離間部53が形成される。
スペーサ30としてリング状部材35を用いた場合でも、導電部52をカーカス層13に対して弛ませて離間部53を形成することができると共に、導電部52に張力が作用した際にリング状部材35が潰れることにより、導電部52は張力の方向に延びることができる。
また、リング状部材35は、空気入りタイヤ1の製造時において導電部52を配置する際に、予めリング状部材35の内周側に導電部52を通した状態で導電部52を所定の位置に配置することにより、リング状部材35も容易に配置することができ、導電部52に容易に離間部53を形成することができる。この結果、容易に導電部52の耐久性を向上させることができ、帯電抑制性能を維持することができる。
また、スペーサ30にリング状部材35を用いることにより、離間部53を形成する部分のみにスペーサ30を配置することができるので、スペーサ30の材料費を抑えることができる。この結果、導電部52の耐久性を向上させる際における製造コストの上昇を抑えることができる。
[実施形態4]
実施形態4に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と略同様の構成であるが、帯電抑制構造5にアーストレッド51も用いる点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
図13は、実施形態4に係る空気入りタイヤ1を示すタイヤ子午線方向の断面図である。実施形態4に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と同様に、帯電抑制構造5として、離間部53を有する導電部52を備えている。実施形態4に係る空気入りタイヤ1では、帯電抑制構造5として、さらにアーストレッド51を備えている。アーストレッド51は、トレッドゴム15に埋設されてタイヤ接地面に露出する導電ゴムである。導電部52とアーストレッド51とを有する帯電抑制構造5では、導電部52によってベルト層14に流された車両からの静電気が、ベルト層14からアーストレッド51を介して路面に放出されて、車両の帯電が抑制される。
詳しくは、アーストレッド51は、トレッドゴム15の踏面に露出し、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通してベルト層14に導電可能に接触する。即ち、アーストレッド51は、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面に露出する。本実施形態4では、アーストレッド51は、キャップトレッド151及びアンダートレッド152を貫通し、タイヤ径方向における内側の端部がベルトカバー143に導電可能に接触する。これにより、ベルト層14から路面への導電経路が確保される。
また、アーストレッド51は、タイヤ全周に渡って延在する環状構造を有し、その一部をトレッド踏面に露出させつつタイヤ周方向に連続的に延在している。従って、空気入りタイヤ1の転動時にて、アーストレッド51が常に路面に接触することにより、ベルト層14から路面への導電経路が常に確保される。本実施形態4では、アーストレッド51のタイヤ幅方向における幅は、トレッド部2にタイヤ周方向に延びて形成される周方向主溝6の溝幅よりも狭くなっており、タイヤ幅方向に隣り合う周方向主溝6同士の間に形成されている。
また、アーストレッド51は、トレッドゴム15よりも低い体積抵抗率を有する導電性ゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド51の体積抵抗率が、1×10^8[Ω・cm]未満であることが好ましく、1×10^6[Ω・cm]以下であることがより好ましい。
本実施形態4に係る空気入りタイヤ1では、これらのように導電部52の他にアーストレッド51も用いて帯電抑制構造5を構成することにより、リムRからリムクッションゴム17、導電部52及びベルト層14を通りアーストレッド51に至る経路を、車両から路面へ静電気を放出するための導電経路として用いることができる。つまり、アーストレッド51は、1×10^8[Ω・cm]未満の体積抵抗率を有すると共に、少なくともキャップトレッド151を貫通してタイヤ接地面に露出するため、ベルト層14側から路面への導電経路を、アーストレッド51によって確保することができる。これにより、導電部52から路面への導電経路を確保することができ、リムRからアーストレッド51に至る導電経路を、より確実に確保することができる。従って、リムRと路面との間の電気抵抗を、より確実に下げることができ、車両に発生した静電気をより確実に路面に放出することができる。この結果、より確実に帯電抑制性能を確保することができる。
また、アーストレッド51を設けることにより、空気入りタイヤ1の転がり抵抗を低減して低燃費性能を向上させることを目的としてキャップトレッド151、アンダートレッド152、サイドウォールゴム16などを構成するゴムコンパウンドのシリカ含有量を増加させた場合における帯電抑制性能の低下を抑制することができる。つまり、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッド151のシリカ含有量が増加すると、キャップトレッド151の体積抵抗値が増加して帯電抑制性能が低下するが、アーストレッド51を設けることにより、ベルト層14と路面との導電経路が確保することができる。この結果、転がり抵抗を低減する場合における帯電抑制性能を確保することができる。
[実施形態5]
実施形態5に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と略同様の構成であるが、線状体31が導電部52の延在方向に近い方向に延在する点に特徴がある。他の構成は実施形態1と同様なので、その説明を省略すると共に、同一の符号を付す。
図14は、実施形態5に係る空気入りタイヤ1に用いられる導電部52と線状体31との関係を示す模式図である。実施形態5に係る空気入りタイヤ1は、実施形態1に係る空気入りタイヤ1と同様に、導電部52は一対のビード部10、10間に延在し、概ねカーカス層13のカーカスコード131の延在方向に沿った方向に延びている。一方、スペーサ30として設けられる線状体31は、実施形態1とは異なり、本実施形態5では、導電部52と同様に、概ねカーカスコード131の延在方向に沿った方向に延びている。つまり、導電部52と線状体31とは、サイドウォール部3やビード部10の位置では、共にタイヤ径方向に近い方向に延在している。
詳しくは、導電部52と線状体31とは、共にタイヤ径方向に近い方向に延在しつつ、タイヤ径方向に対するタイヤ周方向への傾斜方向が僅かに異なっている。このため、導電部52と線状体31とは交差しており、導電部52と線状体31とが交差する位置で、線状体31が導電部52とカーカス層13との間に位置することにより、導電部52には離間部53が形成される。
このように、線状体31の延在方向を、導電部52の延在方向に近い方向にして配置する場合でも、導電部52には離間部53を形成することができ、導電部52の耐久性を向上させることができる。また、線状体31の延在方向を、導電部52の延在方向に近い方向にして配置することにより、空気入りタイヤ1の製造時における線状体31や導電部52を配置する工程で、同じ装置或いは同じ手法を用いて配置することができる。このため、製造時における容易性を高めることができ、製造コストを抑えることができる。この結果、製造コストの上昇を抑えつつ、帯電抑制性能を維持することができる。
[変形例]
なお、上述した実施形態1〜5では、導電部52の離間部53は1箇所に設けられているのみであるが、離間部53は、複数が設けられていてもよい。図15は、実施形態5に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部52が屈曲して配置される場合の説明図である。図16は、実施形態5に係る空気入りタイヤ1の変形例であり、導電部52が波状に配置される場合の説明図である。図17が、図16のF−F矢視方向の導電部52と線状体31との関係を示す模式図である。導電部52は、例えば、図15に示すように、サイドウォール部3やビード部10の位置で、タイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に屈曲することにより、タイヤ径方向に延びる線状体31に対して複数の位置で交差し、離間部53が複数形成されてもよい。
または、導電部52は、図16、図17に示すように、サイドウォール部3やビード部10の位置で、タイヤ径方向に延びつつタイヤ周方向に繰り返し屈曲することにより波状に形成され、線状体31に対して複数の位置で交差し、離間部53が複数形成されてもよい。これらのように、導電部52は、離間部53が複数形成されることにより、カーカス層13に対する弛みを大きくすることができるため、導電部52に張力が作用した際に、導電部52はより確実に張力の方向に延びることができる。この結果、導電部52の断線をより確実に抑制することができ、より確実に導電部52の耐久性を向上させることができる。
また、上述した実施形態1〜5では、導電部52の離間部53は、タイヤ幅方向における両側に位置するサイドウォール部3、3のうち、一方のサイドウォール部3側にのみに形成されているが、離間部53は、タイヤ幅方向における両方のサイドウォール部3、3に形成されていてもよい。導電部52の離間部53は、導電部52の断線を抑制することにより、リムRからベルト層14に至る導電経路を確保することができるため、一方のサイドウォール部3側にのみに離間部53を形成した場合でも、導電経路を確保する効果はあるが、両方のサイドウォール部3、3に形成することにより、導電経路を確保する効果を、より高めることができる。この結果、より確実に帯電抑制性能を維持することができる。
また、上述した実施形態1〜5では、導電部52は、一対のビード部10、10間に延在しているが、導電部52は、ビード部10、10間の全ての領域に延在していなくてもよい。導電部52は、カーカス層13の表面13aに沿って、少なくともビード部10からベルト層14まで連続して延在していればよい。導電部52は、ビード部10からベルト層14まで連続して延在することにより、リムRからベルト層14に至る導電経路を確保することができ、帯電抑制性能を確保することができる。
また、実施形態1、3では、スペーサ30は低硬度ゴム層32によって構成され、実施形態2では、スペーサ30は繊維材33によって構成されているが、スペーサ30の材質は、これら以外であってもよい。スペーサ30は、導電部52に張力が作用した際に、導電部52からスペーサ30に作用する力によってスペーサ30が変形することにより、離間部53が潰れて導電部52が張力の方向に延びることができるように構成されていれば、その材質は問わない。
また、上述した実施形態1〜5及び変形例は、適宜組み合わせてもよい。例えば、実施形態3のリング状部材35に実施形態2の繊維材33を適用したり、実施形態1〜3、5に実施形態4のアーストレッド51を適用したりしてもよい。少なくともビード部10からベルト層14まで連続して延在し、カーカス層13の表面13aに沿って配置される導電部52を備え、導電部52が、カーカス層13の表面13aから離間する離間部53を少なくとも一箇所有していれば、導電部52の形態や、離間部53を形成するための手法は問わない。
[実施例]
図18A、図18Bは、空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。以下、上記の空気入りタイヤ1について、従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する比較例の空気入りタイヤとについて行なった性能の評価試験について説明する。性能評価試験は、空気入りタイヤ1の転がり抵抗の低さについての性能である低転がり抵抗性能と、空気入りタイヤ1の新品時と試験走行後のそれぞれの帯電抑制性能とについて行った。また、空気入りタイヤ1の試験走行後の帯電抑制性能は、定速走行後の帯電抑制性能と、制駆動考慮走行後の帯電抑制性能とについての性能評価試験を行った。
性能評価試験は、JATMAで規定されるタイヤの呼びが195/65R15 91Hサイズの空気入りタイヤを、試験タイヤとして用いて行った。低転がり抵抗性能についての評価試験は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機が用いられ、JATMA Y/B2015年版の測定方法に準拠して、試験タイヤの転がり抵抗を測定することにより行った。低転がり抵抗性能は、転がり抵抗の測定結果を、後述する従来例の転がり抵抗の逆数を100とする指数で示した。この指数が大きいほど転がり抵抗が低く、低転がり抵抗性能が優れていることを示している。
また、空気入りタイヤ1の新品時の帯電抑制性能についての評価試験は、JATMA規定の測定条件に基づき、株式会社アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。
また、定速走行後の帯電抑制性能についての評価試験は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機で、空気圧200[kPa]、荷重が規定荷重の80[%]、速度81[km/h]の条件にて、60分走行後に、JATMA規定の測定条件に基づき、(株)アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。新品時と試験走行後の帯電抑制性能は、測定した数値が小さい程、電気抵抗が低く、帯電抑制性能が優れていることを示している。
また、制駆動考慮走行後の帯電抑制性能についての評価試験は、ドラム径1707[mm]の室内ドラム式タイヤ転動抵抗試験機で、空気圧200[kPa]、荷重が規定荷重の80[%]の条件で、速度を0[km/h]から81[km/h]まで上昇させて81[km/h]で5分間走行し、5分経過したら制動して速度を0[km/h]にすることを1回とし、これを120回繰り返した後に、(株)アドバンテスト製のR8340A ウルトラ・ハイ・レジスタンスメータを使用して、試験タイヤの電気抵抗[Ω]を測定した。新品時と各試験走行後の帯電抑制性能は、測定した数値が小さい程、電気抵抗が低く、帯電抑制性能が優れていることを示している。
性能評価試験は、従来の空気入りタイヤの一例である従来例の空気入りタイヤと、本発明に係る空気入りタイヤ1である実施例1〜11と、本発明に係る空気入りタイヤ1と比較する空気入りタイヤである比較例との13種類の空気入りタイヤについて行った。このうち、従来例の空気入りタイヤは、導電部52に離間部53が設けられていない。また、比較例の空気入りタイヤは、導電部52に離間部53が設けられているものの、導電部52の電気抵抗率が1×10^8[Ω/cm]以上の大きさになっている。
これに対し、本発明に係る空気入りタイヤ1の一例である実施例1〜11は、全て導電部52に離間部53が設けられており、導電部52の電気抵抗率は1×10^8[Ω/cm]未満になっている。さらに、実施例1〜11に係る空気入りタイヤ1は、導電部52における一対のビード部10、10間の延在長さLaとカーカス層13のペリフェリ長さLpとの関係(La/Lp)や、タイヤ幅方向における幅が最も広いベルト層14のタイヤ幅方向における端部144とビード部10との間の領域における導電部52の延在長さLa1とカーカス層13のペリフェリ長さLp1との関係(La1/Lp1)、スペーサ30の形態、スペーサ30の材質、低硬度ゴム層32のゴム硬さ、繊維材33の総繊度、繊維材33の電気抵抗率が、それぞれ異なっている。
これらの空気入りタイヤ1を用いて評価試験を行った結果、図18A、図18Bに示すように、実施例1〜11に係る空気入りタイヤ1は、従来例や比較例と比較して、定速走行後のみでなく制駆動考慮走行後においても、帯電抑制性能が新品時の帯電抑制性能に対して大幅に低下することを抑制できる。これらより、実施例1〜11に係る空気入りタイヤ1は、従来例や比較例と比較して、新品時と、定速走行後及び制駆動考慮走行後との間で、帯電抑制性能が大幅に変化しないようにすることができることが分かった。つまり、実施例1〜11に係る空気入りタイヤ1は、導電部52の耐久性を向上させることができ、帯電抑制性能を維持することができる。