JP6961442B2 - 薬剤コート層の形成方法 - Google Patents

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Description

本発明は、バルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法に関する。
近年、生体管腔内に生じた病変部(狭窄部)の改善のために、バルーンカテーテルが用いられている。バルーンカテーテルは、通常、長尺なシャフト部と、シャフト部の遠位側に設けられて径方向に拡張可能なバルーンとを備えている。収縮されているバルーンを、細い生体管腔を経由して体内の目的場所まで到達させた後に拡張させることで、病変部を押し広げることができる。
しかしながら、病変部を強制的に押し広げると、平滑筋細胞が過剰に増殖して病変部に新たな狭窄(再狭窄)が発症する場合がある。このため、最近では、バルーンの表面に狭窄を抑制するための薬剤をコーティングした薬剤溶出バルーン(Drug Eluting Balloon:DEB)が用いられている。薬剤溶出バルーンは、拡張することで表面にコーティングされている薬剤を病変部へ瞬時に放出し、これにより、再狭窄を抑制することができる。
近年では、バルーンの表面にコーティングされる薬剤の形態型(morphological form)が、病変部におけるバルーン表面からの薬剤の放出性や組織移行性に影響を及ぼすことが明らかになりつつある。
ところで、バルーンの表面の薬剤は、血管内で脱落しやすい。このため、例えば特許文献1には、折り畳まれたバルーンの折り目に薬剤をノズル等で供給し、折り目によって薬剤を保護する方法が記載されている。
また、特許文献2には、折り畳まれたバルーンを低粘度活性物質溶液に浸すことによって、溶液を折り目の中にも浸透させ、乾燥させた後、外面に付着したコートを取り除いて、バルーンの折り目の中に活性物質を配置する方法が記載されている。
特開2012−166038号公報 特開2017−153992号公報
しかしながら、特許文献1および特許文献2に記載の方法は、バルーンを折り畳んだ後に、折り畳まれたバルーンの折り目の内側に、薬剤を配置する。このため、バルーンの折り目の内側に、アモルファス型の薬剤を配置することが困難である。
本発明は、上述した課題を解決するためになされたものであり、アモルファス型の薬剤を生体へ効果的に作用させることができる薬剤コート層を形成できる薬剤コート層の形成方法を提供することを目的とする。
上記目的を達成する本発明に係る薬剤コート層の形成方法は、径方向の外側へ突出する羽根部を備えるとともに当該羽根部が折り畳まれるバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、アモルファス型の水不溶性薬剤を含むアモルファス層を、前記羽根部に対応して前記バルーンの表面の複数の領域に形成するステップと、複数の前記アモルファス層の間に、水不溶性薬剤の結晶を含む結晶層を形成するステップと、前記バルーンに径方向の外側へ突出する羽根部を形成し、当該羽根部を前記バルーンの周方向に沿って折り畳むステップと、を有し、前記折り畳むステップにおいて、前記羽根部が折り畳まれることで重なって対向する前記バルーンの表面に前記アモルファス層を配置し、前記羽根部が折り畳まれる前記バルーンの外部へ露出する位置に前記結晶層を配置する。
上記のように構成した薬剤コート層の形成方法は、即効性があるがバルーンから剥がれやすいアモルファス層を、外部から力が作用し難い羽根部の隙間に効果的に配置できる。このため、アモルファス型の薬剤を生体へ効果的に作用させることができる薬剤コート層をバルーンに形成できる。
前記薬剤コート層の形成方法は、複数の前記アモルファス層の間に、水不溶性薬剤の結晶を含む結晶層を形成するステップをさらに有し、前記折り畳むステップにおいて、前記羽根部が折り畳まれる前記バルーンの外部へ露出する位置に前記結晶層を配置する。これにより、バルーンから剥がれ難い結晶層をバルーンの外部へ露出する位置に配置することで、アモルファス層と結晶層を、バランスよくバルーンに配置できる。
前記羽根部を折り畳むステップにおいて、前記羽根部の折り目に、前記アモルファス層と結晶層の境界を配置してもよい。これにより、バルーンから剥がれやすいアモルファス層を、外部から力が作用し難い羽根部の隙間に正確に配置でき、バルーンから剥がれ難い結晶層を、バルーンの外部へ露出する位置に正確に配置できる。
前記アモルファス層の数は、前記羽根部の数と等しくてもよい。これにより、全ての羽根部の隙間にアモルファス層を配置できる。このため、アモルファス層を、バルーンに対して無駄なく効果的に配置できる。
前記バルーンに前記羽根部を折り畳むための折り目を形成した後、前記アモルファス層を形成してもよい。これにより、バルーンの羽根部の位置に対応して、正確にアモルファス層を配置できる。
前記水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
薬剤コート層を有するバルーンカテーテルを示す正面図である。 バルーンカテーテルの遠位部を示す図であり、(A)は断面図、(B)は正面図である。 図2のA−A線に沿う断面図である。 バルーンの表面の薬剤コート層を示す断面図である。 バルーンコーティング装置を示す正面図である。 ディスペンシングチューブによりバルーンの表面に結晶層を形成している状態を示す図であり、(A)は正面図、(B)は(A)のB−B線に沿う断面図である。 ディスペンシングチューブによりバルーンの表面にアモルファス層を形成している状態を示す正面図である。 プリーティング部のブレードを示す正面図である。 プリーティング部のブレードを回動させてバルーンに羽根部を形成した状態を示す正面図である。 フォールディング部のブレードを示す正面図である。 フォールディング部のブレードを回動させてバルーンの羽根部を畳んだ状態を示す正面図である。 バルーン折り畳み装置により折り畳まれるバルーンを示す断面図であり、(A)はバルーンの折り畳み前の状態、(B)はプリーティング部により羽根部が形成された状態、(C)はフォールディング部により羽根部が折り畳まれた状態を示す。 薬剤コート層を有するバルーンが折り畳まれたバルーンカテーテルを示す断面図である。 バルーンの表面に薬剤コートを形成する方法の変形例を示す図であり、(A)は正面図、(B)は(A)のC−C線に沿う断面図である。
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る薬剤コート層の形成方法は、図1〜4に示すように、薬剤溶出型のバルーンカテーテル10のバルーン30の表面に、薬剤コート層40を形成する。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の遠位部に設けられるバルーン30と、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40と、カテーテル本体20の近位端に固着されたハブ26とを有している。
カテーテル本体20は、遠位端および近位端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、遠位部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の遠位端よりもさらに遠位側まで突出している。内管22の遠位部に、別部材である先端チップが設けられてもよい。
バルーン30は、近位側端部のバルーン融着部34が外管21の遠位部に融着され、遠位側端部のバルーン融着部35が内管22の遠位部に融着されている。なお、バルーン30を、外管21および内管22に固定する方法は、融着に限定されず、例えば接着されてもよい。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、COガス、Oガス、Nガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
バルーン30の軸心方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31(拡張部)が形成され、ストレート部31の軸心方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の表面の全体に、薬剤を含む薬剤コート層40が形成される。なお、バルーン30において薬剤コート層40を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する近位開口部27が形成されている。
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5〜500mm、より好ましくは10〜300mm、さらに好ましくは20〜200mmである。バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜8mmである。
バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であり、非多孔質である。バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、膜を貫通しない微小な孔があってもよい。または、バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であって非多孔質である範囲と、膜を貫通しない微小な孔がある範囲の両方を備えてもよい。微小な孔の大きさは、例えば、直径が0.1〜5μm、深さが0.1〜10μmであり、1つの結晶に対して、1つまたは複数の孔を有してもよい。また、微小な孔の大きさは、例えば、直径が5〜500μm、深さが0.1〜50μmであり、1つの孔に対して、1つまたは複数の結晶を有してもよい。
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その表面に有する薬剤コート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成されるが、薬剤コート層40が設けられるバルーン30の少なくとも表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートするバルーン30の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、バルーン30の材料として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、バルーン30はポリアミドの滑らかな表面を有することが好ましい。
バルーン30は、その表面上に、後述する方法によって、直接またはプライマー層等の前処理層を介して薬剤コート層40が形成される。薬剤コート層40は、図2〜4に示すように、複数の薬剤結晶を有する結晶層41と、アモルファス型の薬剤を有するアモルファス層51と、を有している。結晶層41とアモルファス層51は、バルーン30の周方向へ交互に3つずつ配置されている。
結晶層41は、水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42と、長尺体42の間に配置される添加剤43(賦形剤)と、を有している。複数の長尺体42は、各々が独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である。長尺体42の基端45は、バルーン30の表面と直接接触する。なお、基端45がバルーン30の表面と接触しない長尺体42が存在してもよい。長尺体42の先端46は、添加剤43から突出している。なお、長尺体42の先端46は、添加剤43から突出しなくてもよい。結晶層41の薬剤結晶は、結晶であれば、長軸を有する結晶でなくてもよい。また、添加剤43は、設けられなくてもよい。結晶層41は、アモルファス型の薬剤を有してもよい。結晶層41において、アモルファス型の薬剤の単位面積当たりの質量は、薬剤結晶の単位面積当たりの質量よりも小さい。
複数の長尺体42は、バルーン30の表面に規則的に配置されてもよい。または、複数の長尺体42は、バルーン30の表面に不規則に配置されてもよい。
長尺体42の長軸の、バルーン30の表面に対する傾斜角度は、特に限定されないが、45度〜135度であり、好ましくは60度〜120度であり、より好ましくは75度〜105度であり、さらに好ましくは略90度である。
薬剤コート層40に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm〜10μg/mm、好ましくは0.5μg/mm〜5μg/mmの密度で、より好ましくは0.5μg/mm〜3.5μg/mm、さらに好ましくは1.0μg/mm〜3μg/mmの密度で含まれる。薬剤コート層40の結晶の量は、特に限定されないが、好ましくは5〜500、000[crystal/(10μm)](10μm当たりの結晶の数)、より好ましくは50〜50、000[crystal/(10μm)]、さらに好ましくは500〜5、000[crystal/(10μm)]である。
各々独立した長軸を有する複数の長尺体42は、これらが組み合された状態で存在していてもよい。隣接する複数の長尺体42同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の長尺体42はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。バルーン30の表面に、組み合された状態の複数の長尺体42と、互いに離れて独立した複数の長尺体42の両方が存在してもよい。複数の長尺体42は、異なる長軸方向を有して円周状にブラシ状として配置されてもよい。各々の長尺体42は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端45)が、添加剤43またはバルーン30に固定されている。長尺体42は隣接する長尺体42と複合的な構造を形成せず、連結していない。長尺体42の長軸は、ほぼ直線状である。
長尺体42は、互いに接触せずに独立して立っていることが好ましい。長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触していてもよい。または、長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触せずに独立していてもよい。
長尺体42は、中空である場合と、中実である場合がある。バルーン30の表面に、中空の長尺体42と、中実の長尺体42の両方が存在してもよい。長尺体42は、中空である場合、少なくともその先端付近が中空である。長尺体42の長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面は中空を有する。当該中空を有する長尺体42は長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面が多角形である。当該多角形は、例えば3角形、4角形、5角形、6角形などである。したがって、長尺体42は先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)とを有し、先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。また、長尺体42は、針状であってもよい。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基端45が接する表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。
長軸を有する長尺体42の長軸方向の長さは5μm〜20μmが好ましく、9μm〜11μmがより好ましく、10μm前後であることがさらに好ましい。長軸を有する長尺体42の径は、0.01μm〜5μmであるのが好ましく、0.05μm〜4μmであるのがより好ましく、0.1μm〜3μmであるのがさらに好ましい。
上述した長軸を有する長尺体42は、結晶層41の表面の薬剤結晶全体に対して50体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。
長軸を有する長尺体42は、体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。長尺体42が中空の結晶構造である場合、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えられる。
また、結晶層41は、複数の、長軸を有するほぼ均一な長尺体42を有し、かつ基端45が接する表面にほぼ均一に並び立っている形態型である。したがって、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する結晶の寸法が小さいために、過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなる。このため、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考えられる。
添加剤43は、林立する複数の長尺体42の間の空間に分配されて存在する。添加剤43は、長尺体42がある領域に存在し、長尺体42がない領域にはなくてもよい。添加剤43を構成する添加剤は、マトリックスを形成しない。添加剤43を構成する添加剤は、マトリックスを形成してもよい。マトリックスとは、比較的高分子の物質(ポリマーなど)が連続して構成された層であり、網目状の三次元構造を形成し、その中に微細な空間が存在する。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤は、マトリックス物質中に埋め込まれてもいない。
添加剤43は、バルーン30の表面で水溶液の状態でコートされた後、乾燥して形成される。添加剤43はアモルファス(非結晶質)である。添加剤43は、結晶粒子であってもよい。または、添加剤43は、水不溶性薬剤を含まない独立した層として形成されてもよい。
アモルファス層51は、アモルファス型の水不溶性薬剤である非晶質部52と、非晶質部52の間に配置される添加剤53(賦形剤)と、を有している。添加剤53は、結晶層41の添加剤43と共通する。添加剤53は、設けられなくてもよい。アモルファス層51は、薬剤結晶を有してもよい。アモルファス層51において、単位面積当たりの薬剤結晶の質量は、単位面積当たりのアモルファス型の薬剤の質量よりも小さい。
アモルファス型の非晶質部52は、結晶である長尺体42よりも剥がれやすく、血管に接触した後の生体組織への移行性が速く、即効性がある。これに対し、結晶である長尺体42は、アモルファス型の非晶質部52よりも、血管に接触した後の生体組織への移行性の持続性が高い。したがって、バルーン30に結晶層41とアモルファス層51の両方を設けることで、アモルファスの速効性と結晶の持続性の両方の効果を期待できる。
例えば、薬剤がパクリタキセルである場合、形成される結晶層41は、白色に近く、アモルファス層51は、透明に近い。したがって、結晶層41およびアモルファス層51を、目視により容易に判別できる。また、薬剤の結晶およびアモルファスは、顕微鏡により判別可能である。
次に、上述したバルーン30上の薬剤コート層40を形成するためのバルーンコーティングシステムを説明する。本システムは、バルーン30に薬剤コート層40を形成するためのバルーンコーティング装置60(図4を参照)と、薬剤コート層40が形成されたバルーン30を折り畳むためのバルーン折り畳み装置(図6、8を参照)とを備えている。
まず、バルーンコーティング装置60について説明する。バルーンコーティング装置60は、図5に示すように、バルーンカテーテル10を回転させる回転機構部61と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70とを有する。バルーンコーティング装置60は、さらに、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられる塗布機構部90とを有する。バルーンコーティング装置60は、さらに、ディスペンシングチューブ94をバルーン30に対して移動させる移動機構部80と、バルーンコーティング装置60を制御する制御部100とを有する。
回転機構部61は、バルーンカテーテル10のハブ26を保持し、内蔵されるモータ等の駆動源によってバルーンカテーテル10を、バルーン30の軸心を中心に回転させる。回転機構部61は、制御部100に制御されて、バルーンカテーテル10を任意の角度で回転させることができ、かつ所定の回転位置で、バルーンカテーテル10が回転しないように保持することができる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤルーメン24内に芯材62が挿通されて保持されるとともに、芯材62によってコーティング溶液のガイドワイヤルーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23への流体の流通を操作するために、ハブ26の近位開口部27に、流路の開閉を操作可能な三方活栓が接続される。
支持台70は、カテーテル本体20を内部に収容して回転可能に支持する管状の近位側支持部71と、芯材62を回転可能に支持する遠位側支持部72とを備えている。なお、遠位側支持部72は、可能であれば、芯材62ではなしにカテーテル本体20の遠位部を回転可能に支持してもよい。
移動機構部80は、バルーン30の軸心と平行な両方向へ直線的に移動可能な移動台81と、ディスペンシングチューブ94を保持するチューブ保持部83と、溶媒用チューブ114を保持する溶媒用チューブ保持部84と、を備えている。移動台81は、制御部100により制御されて、内蔵されるモータ等の駆動源によって、直線的に移動可能である。したがって、移動台81が移動することで、ディスペンシングチューブ94が、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動する。また、移動台81は、塗布機構部90が載置されており、塗布機構部90を軸心に沿う両方向へ直線的に移動させる。
チューブ保持部83は、ディスペンシングチューブ94の上端を移動台81に対して移動可能に保持している。チューブ保持部83は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、ディスペンシングチューブ94を、略鉛直方向へ直線的に移動させることができる。これにより、チューブ保持部83は、制御部100により制御されて、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して近接および離間するように移動させることができる。チューブ保持部83は、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して接触状態または非接触状態とすることができる。
塗布機構部90は、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布する部位である。塗布機構部90は、コーティング溶液を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング溶液を送液する送液ポンプ93と、コーティング溶液をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング溶液を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング溶液を任意の送液量で供給することができる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング溶液を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング溶液を、バルーン30の表面へ吐出する部材である。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ保持部83に上端が固定されており、チューブ保持部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング溶液をバルーン30の表面に供給可能である。ディスペンシングチューブ94は、撓まなくてもよい。ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の回転方向と同方向または逆方向へ傾いてよく、またはバルーン30の表面と垂直でもよい。ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の軸方向と垂直であるが、傾斜してもよい。
ディスペンシングチューブ94は、コーティング溶液を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング溶液を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。
ディスペンシングチューブ94は、バルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm〜5.0mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm〜3.0mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm〜50mmである。
制御部100は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部61、移動機構部80および塗布機構部90を統括的に制御する。したがって、制御部100は、バルーン30の回転角度、回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30の軸方向への移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する接触・非接触等を、統括的に制御できる。
ディスペンシングチューブ94によりバルーン30に供給されるコーティング溶液は、薬剤コート層40の構成材料を含む溶液または懸濁液であり、水不溶性薬剤、添加剤(賦形剤)、有機溶媒および水を含んでいる。コーティング溶液がバルーン30の表面に供給された後、有機溶媒および水が揮発することで、バルーン30の表面に、独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42を有する薬剤コート層40が形成される。
コーティング溶液の粘度は、0.5〜1500cP、好ましくは1.0〜500cP、より好ましくは1.5〜100cPである。
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
添加剤は、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50〜2000であり、好ましくは50〜1000であり、より好ましくは50〜500であり、さらに好ましくは50〜200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10〜5000質量部、より好ましくは50〜3000質量部、さらに好ましくは100〜1000質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、グルコースなどの糖類、ソルビトールなどの糖アルコール、クエン酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、尿素、水溶性ポリマー、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤は、バルーン30の表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。添加剤は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤は低分子化合物を含有することで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤が溶解しやすくなることで、バルーン30の表面上の水不溶性薬剤の結晶粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤の結晶粒子の付着量を増加させる効果を有する。添加剤がウルトラビスト(Ultravist)(登録商標)のような造影剤からなるマトリクスである場合、結晶粒子がマトリクスに埋め込まれ、バルーン30上からマトリクスの外側に向かって結晶が生成しない。
有機溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートである。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
有機溶媒と水の混合例として、例えば、テトラヒドロフランと水、テトラヒドロフランとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンと水、アセトンとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンとエタノールと水が挙げられる。
次に、上述したバルーンコーティング装置60を用いてバルーン30の表面に薬剤コート層40を形成する方法を説明する。
初めに、バルーンカテーテル10の近位開口部27に接続した三方活栓を介して拡張用の流体をバルーン30内に供給する。次に、バルーン30を拡張させた状態で三方活栓を操作して拡張ルーメン23を密封し、バルーン30を拡張させた状態を維持する。バルーン30は、血管内での使用時の圧力(例えば8気圧)よりも低い圧力(例えば4気圧)で拡張される。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の表面に薬剤コート層40を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ26を回転機構部61に連結する。
次に、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする。このとき、バルーン30において薬剤コート層40を形成する最も遠位側(または近位側)の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の表面と接触する。
次に、回転機構部61によりバルーンカテーテル10を回転しないように固定し、送液ポンプ93により送液量を調節しつつコーティング溶液をディスペンシングチューブ94へ供給する。さらに、制御部100により移動機構部80を制御して移動台81を移動させて、図6に示すように、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の遠位端から近位端まで(または、近位端から遠位端まで)移動させる。この移動を、主移動と定義する。そして、ディスペンシングチューブ94は、主移動をする際に、主移動の距離Lよりも短い距離で、バルーン30の軸方向に沿って往復移動を繰り返す。すなわち、ディスペンシングチューブ94は、主移動と同方向へ、主移動の距離Lよりも短い距離M1を前進した後、前進距離M1よりも短い後退距離M2を後退する。そして、ディスペンシングチューブ94は、前進および後退を繰り返して、往復移動の度に距離(M1−M2)だけ前進する。ディスペンシングチューブ94は、複数回の往復移動を繰り返すことで、最終的に、主移動の距離Lを移動する。
なお、前進距離M1および後退距離M2は、主移動の距離Lと等しい場合もあり得る。この場合、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の遠位端から近位端までを全体を往復移動しつつ、バルーン30にコーティング溶液を供給する。例えば、軸方向の長さが比較的短いバルーン30において、効果的である。バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の軸方向の距離Lは、特に限定されないが、例えば、バルーン30の軸方向の全長、またはストレート部31の軸方向の長さとすることができる。前進距離M1は、特に限定されないが、最大でバルーン30の塗布範囲の軸方向の距離Lと等しく、好ましくは距離Lの1/2、1/4、1/6、1/8、1/10、1/25、1/50とすることができる。前進距離M1は、好ましくは塗布範囲の距離Lの1/2〜1/25の距離、より好ましくは距離Lの1/2〜1/10、さらに好ましくは1/3〜1/4である。さらに、前進距離M1は、特に限定されないが、0.01〜200mmが好ましく、より好ましくは0.05〜100mm、さらに好ましくは0.1〜50mmである。後退距離M2は、前進距離M1以下であり、好ましくは前進距離M1未満であり、より好ましくは、前進距離M1の1/10〜1/2である。一例として、前進距離M1が0.1mmである場合に、後退距離M2は前進距離M1の1/2である0.05mmとすることができる。なお、前進距離M1および後退距離M2は、一定ではなく、変化してもよい。
ディスペンシングチューブ94がバルーン30の表面に接触しつつ前進および後退を繰り返して往復移動すると、ディスペンシングチューブ94から供給されるコーティング溶液に物理的な刺激が与えられる。これにより、薬剤結晶の結晶核の形成を促すことができる。そして、バルーン30の表面に形成される水不溶性薬剤の結晶は、独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型(morphological form)を含んで形成されやすい。
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜2mm/sec、好ましくは0.03〜1.5mm/sec、より好ましくは0.05〜1.0mm/secである。コーティング溶液のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜1.5μL/sec、好ましくは0.01〜1.0μL/sec、より好ましくは0.03〜0.8μL/secである。コーティング溶液を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1〜10mm、好ましくは2〜7mmである。
バルーン30の表面にコーティング溶液が塗布されると、コーティング溶液に含まれる有機溶媒が水よりも先に揮発する。したがって、バルーン30の表面に、水不溶性薬剤、水溶性低分子化合物および水が残された状態で、有機溶媒が揮発する。このように、水が残された状態で有機溶媒が揮発すると、水不溶性の薬剤が、水を含む水溶性低分子化合物の内部で析出し、結晶核から結晶が徐々に成長して、図4に示すように、バルーン30の表面に、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型の薬剤結晶が形成される。有機溶媒が揮発して薬剤結晶が複数の長尺体42として析出した後、水が有機溶媒よりもゆっくり蒸発し、水溶性低分子化合物を含む添加剤43が形成される。水が蒸発する時間は、薬剤の種類、水溶性低分子化合物の種類、有機溶媒の種類、材料の比率、コーティング溶液の塗布量等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜600秒程度である。
ディスペンシングチューブ94が、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の近位端に到達すると、制御部100は、移動機構部80を制御して、ディスペンシングチューブ94の移動を停止する。次に、制御部100は、回転機構部61を制御して、バルーンカテーテル10を所定の角度で回転させた後、回転しないように固定する。バルーンカテーテル10の回転角度は、バルーン30へ塗布されるコーティング溶液の幅W以下であることが好ましい。これにより、バルーン30に塗り斑ができることを抑制できる。
次に、送液ポンプ93によるコーティング溶液のディスペンシングチューブ94への供給を継続し、ディスペンシングチューブ94を逆方向、すなわち、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の近位端から遠位端まで移動させる。そして、ディスペンシングチューブ94は、移動方向を逆方向に切り替える前と同様に、主移動をしつつ、主移動の距離Lよりも短い距離で前進および後退を繰り返す。
ディスペンシングチューブ94が、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の遠位端に到達すると、制御部100は、移動機構部80を制御して、ディスペンシングチューブ94の移動を停止する。次に、制御部100は、回転機構部61を制御して、バルーンカテーテル10を所定の角度で回転させた後、回転しないように固定する。続いて、前述と同様に、送液ポンプ93によるコーティング溶液のディスペンシングチューブ94への供給を継続し、ディスペンシングチューブ94を逆方向、すなわち、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の遠位端から近位端まで移動させる。そして、ディスペンシングチューブ94は、移動方向を逆方向に切り替える前と同様に、主移動をしつつ、主移動の距離Lよりも短い距離で前進および後退を繰り返す。
そして、バルーン30の周方向の所定の範囲内へのコーティングが完了するまで、コーティング溶液の塗布範囲の遠位端および近位端で、バルーンカテーテル10を所定の角度で回転させ、ディスペンシングチューブ94の主移動の方向の入れ替えを繰り返し、コーティング溶液を塗布する。これにより、バルーン30の表面の所定の範囲に、独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む結晶層41が形成される。なお、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30のコーティング溶液の塗布範囲の近位端および/または遠位端において、往復移動する場合と、往復移動しない場合があり得る。ディスペンシングチューブ94が、塗布範囲の近位端および/または遠位端において往復移動する場合には、当該近位端および/または遠位端においても、薬剤は長尺体42(結晶)を含む形態型となる。ディスペンシングチューブ94が、塗布範囲の近位端および/または遠位端において往復移動しない場合には、当該近位端および/または遠位端において、薬剤はアモルファス型の非晶質部52を含む形態型となる。
3つの結晶層41のうちの1つがバルーン30の表面に形成された後、3つのアモルファス層51のうちの1つの形成を行う。アモルファス層51の形成では、図7に示すように、結晶層41の形成の際と同様に、ディスペンシングチューブ94は、主移動を行いつつ、コーティング溶液を供給する。なお、結晶層41の形成の際と異なり、ディスペンシングチューブ94の往復移動を行わない。また、ディスペンシングチューブ94は、バルーン30の表面に接触してもよいが、接触しなくてもよい。ディスペンシングチューブ94が往復移動せずに主移動をすると、ディスペンシングチューブ94から供給されるコーティング溶液に作用する物理的な刺激が少なくなる。これにより、薬剤結晶の結晶核の形成を促されず、アモルファス型の薬剤である非晶質部52が形成されやすい。したがって、バルーン30の表面にコーティング溶液が塗布されると、図4に示すように、コーティング溶液に含まれる有機溶媒および水が揮発し、バルーン30の表面に、非晶質部52および添加剤53が形成される。
そして、バルーン30の周方向の所定の範囲内へのコーティングが完了するまで、コーティング溶液の塗布範囲の遠位端および近位端で、バルーンカテーテル10を所定の角度で回転させ、ディスペンシングチューブ94の主移動の方向の入れ替えを繰り返し、コーティング溶液を塗布する。これにより、バルーン30の表面の所定の範囲に、非晶質部52および添加剤53を含むアモルファス層51が形成される。
この後、図2、3に示すように、上述した方法で、バルーン30の表面に結晶層41とアモルファス層51を交互に3つずつ形成する。バルーン30の周方向の全体に結晶層41またはアモルファス層51を形成した後、移動機構部80および回転機構部61によるバルーンカテーテル10の移動を停止させ、塗布機構部90によるコーティング溶液の供給を停止させる。続いて、バルーンカテーテル10をバルーンコーティング装置60から取り外して、バルーン30のコーティングが完了する。
次に、バルーン折り畳み装置について説明する。バルーン折り畳み装置は、バルーン30を内管22に対し巻き付けるように折り畳むことのできる装置である。
バルーン折り畳み装置は、図8に示すプリーティング部120と、図10に示すフォールディング部130とを備えている。プリーティング部120は、図9に示すように、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成できる。フォールディング部130は、図11に示すように、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせて畳むことができる。バルーン30に形成される羽根部32は、バルーン30の略軸心方向に延びる折り目によって形成され、バルーン30の軸心に対して垂直な断面で見たとき、折り目がバルーン30の長軸から周方向に突出するように形成される。羽根部32の長軸方向の長さは、バルーン30の長さを超えない。羽根部32がカテーテル本体20から周方向に突出する方向の長さは、約1〜8mmである。羽根部32の数は特に限定されず、例えば2〜7枚であるが、本実施形態では3枚である。
まず、プリーティング部120について説明する。プリーティング部120は、図8、9に示すように、内部に3つのブレード122を有している。各ブレード122は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード122は、バルーン30が挿通される中心位置を基準として、それぞれが120度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード122は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード122は、外周端部付近に回動中心部122aを有し、この回動中心部122aを中心として回動することができる。また、ブレード122は、回動中心部122aより内周側に、軸心方向に延びる移動ピン122dを有している。移動ピン122dは、回動中心部122aを中心として移動可能である。移動ピン122dが移動すると、各々のブレード122が回動中心部122aを中心として回動する。3つのブレード122が回動することにより、ブレード122に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード122の数は、2つ以上であれば、特に限定されない。
ブレード122は、回動中心部122aと反対側の内周端部に、略弧状の第1形状形成部122bと第2形状形成部122cとを有している。第1形状形成部122bは、ブレード122が回動するのに伴い、プリーティング部120内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成することができる。第2形状形成部122cは、ブレード122が回動するのに伴い、バルーン30に形成される羽根部分に当接し、羽根部32を所定方向に湾曲させることができる。また、プリーティング部120は、ブレード122を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
ブレード122には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第1フィルム123および第2フィルム124が供給される。第1フィルム123は、上部に配置されているブレード122の表面に係っている。第2フィルム124は、下部に配置されている2つのブレード122に係っている。これらにより、バルーン30が挿通されるプリーティング部120の中心位置は、第1フィルム123と第2フィルム124に囲まれた状態となっている。
第1フィルム123と第2フィルム124は、バルーン30がプリーティング部120に挿入され、ブレード122が回動してバルーン30に羽根部32を形成する際に、バルーン30がブレード122の表面に直接接触しないように保護する。バルーン30の羽根部32を形成した後、第1フィルム123と第2フィルム124は所定長さ移動する。すなわち、第1フィルム123および第2フィルム124のバルーン30に一度接触した部分は、再度バルーン30に接触せず、バルーン30が挿入される度に新しい部分がプリーティング部120の中心位置に供給される。
次に、フォールディング部130について説明する。フォールディング部130は、図10、11に示すように、内部に10個のブレード132を有している。各ブレード132は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード132は、バルーンが挿通される中心位置を基準として、それぞれが36度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード132は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード132は、略中央付近に回動中心部132aを有し、この回動中心部132aを中心として回動することができる。また、各ブレード132は、略外周端部付近に、軸方向に延びる移動ピン132cを有している。移動ピン132cは、回動中心部132aを中心に移動可能である。移動ピン132cが移動すると、各々のブレード132が回動中心部132aを中心として回動する。10個のブレード132が回動することにより、ブレード132に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード132の数は、10個に限定されない。
ブレード132は、先端側が屈曲すると共に、先端部132bは尖った形状を有している。先端部132bは、ブレード132が回動するのに伴い、フォールディング部130内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせるように畳むことができる。また、フォールディング部130は、ブレード132を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
ブレード132には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第3フィルム133および第4フィルム134が供給される。第3フィルム133と第4フィルム134は、ブレード132によって囲まれた中央の空間領域を挟むように対向配置される。これら第3フィルム133と第4フィルム134は、バルーン30がフォールディング部130に挿入された際に、バルーン30がブレード132の表面に直接接触しないように保護する。
次に、バルーン折り畳み装置を用いて、バルーンコーティング装置60により薬剤コート層が表面に形成されたバルーン30を折り畳む方法を説明する。
まず、バルーン30に羽根部32を形成するために、バルーンカテーテル10のバルーン30を、図8に示すプリーティング部120に挿入する。プリーティング部120のブレード122は、加熱されている。次に、図9に示すように、ブレード122を回動させる。これにより、各ブレード122の第1形状形成部122bが互いに近づき、ブレード122間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード122間の中心領域に挿入されたバルーン30は、第1形状形成部122bによって内管22に対し押し付けられる。バルーン30のうち第1形状形成部122bによって押圧されない部分は、ブレード122の先端部と、当該ブレード122に隣接するブレード122の第2形状形成部122cとの間の隙間に押し出され、一方に湾曲した羽根部32が形成される。ブレード122によりバルーン30は約50〜60度に加熱されるので、形成された羽根部32はそのままの形を維持することができる。このようにして、バルーン30に周方向3枚の羽根部32が形成される。
このとき、各ブレード122のバルーン30と接触する表面は、第1フィルム123および第2フィルム124によって覆われており、バルーン30はブレード122の表面に直接接触することはない。バルーン30に羽根部32を形成した後、ブレード122を元の位置に戻すように回動させ、バルーン30はプリーティング部120から引き抜かれる。なお、プリーティングの過程において、バルーン30の内部の体積が減少するため、それに合わせて、三方活栓を調節して拡張用流体を外部に排出してバルーン30を収縮(deflate)させることが好ましい。これにより、バルーン30に過剰な力が作用することを抑制できる。
バルーン30は、図12(A)に示すように、内部に拡張用流体が注入された状態で断面略円形状を有する。この状態から、バルーン30は、突出する羽根部32が形成されることで、図12(B)に示すように、第2形状形成部122cに押圧されて羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、ブレード122の先端部に押圧されて羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、第1形状形成部122bに押圧されて羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。バルーン30の周方向位置を調整しつつ、プリーティング部120に配置することで、バルーン30のアモルファス層51を、羽根内側部34bと、羽根内側部34bから連続する中間部34cの一部に配置できる。また、結晶層41を、羽根外側部34aと、羽根外側部34aから連続する中間部34cの一部に配置できる。このとき、結晶層41とアモルファス層51の境界を、羽根部32の先端、すなわちバルーン30の折り目に配置することが好ましい。
次に、バルーンカテーテル10をプリーティング部120から引き抜く。次に、バルーンカテーテル10のバルーン30を、図10に示すフォールディング部130内に挿入する。フォールディング部130のブレード132は既に50〜60度程度に加熱されている。
羽根部32が形成されたバルーン30をフォールディング部130に挿入した後、図11に示すように、ブレード132を回動させる。これにより、各ブレード132の先端部132bが互いに近づき、ブレード132間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード132間の中心領域に挿入されたバルーン30は、各ブレード132の先端部132bによって羽根部32が周方向に寝かされた状態となる。ブレード132は、バルーン30の挿入前に予め加熱されており、ブレード132によってバルーン30が加熱されるので、ブレード132により周方向に寝かされた羽根部32は、そのままの形を維持できる。このとき、各ブレード132のバルーン30と接触する表面は、第3フィルム133および第4フィルム134によって覆われており、バルーン30はブレード132の表面に直接接触することはない。
バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、図12(C)に示すように、羽根内側部34bと中間部34cが重なって接触し、バルーンの表面同士が対向して重なる重複部35が形成される。そして、中間部34cの一部および羽根外側部34aは、羽根内側部34bに覆われず、外側に露出する。また、バルーン30が折り畳まれた状態では、羽根部32の根元部と中間部34cとの間に、根元側空間部36が形成される。根元側空間部36の領域では、羽根部32と中間部34cとの間に、微小な隙間が形成される。一方、羽根部32の根元側空間部36よりも先端側の領域は、中間部34cに対して密接した状態となっている。アモルファス層51は、羽根内側部34bと、羽根内側部34bから連続する中間部34cの一部に位置するため、図13に示すように、羽根部32の内側に配置される。結晶層41は、羽根外側部34aと、羽根外側部34aから連続する中間部34cの一部に位置するため、外部に露出する位置に配置される。
バルーン30の羽根部32を畳んだ後、ブレード132を元の位置に戻すように回動させる。次に、バルーン30をフォールディング部130から引き抜く。これにより、バルーン30の折り畳みが完了する。
次に、薬剤コート層40を有するバルーンカテーテル10の作用を説明する。
折り畳んだバルーン30を血管内に挿入して狭窄部に配置した後、図1、2に示すように、ハブ26の近位開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、折り畳まれたバルーン30が拡張する。これにより、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40が、狭窄部に接触する。薬剤コート層40を生体組織に押し付けると、薬剤コート層40に含まれる水溶性の低分子化合物である添加剤43、53が溶けつつ、薬剤が生体へ送達される。また、バルーン30が拡張することで添加剤43、53に亀裂が入って溶けやすくなり、添加剤43、53から薬剤結晶である長尺体42および非晶質部52が放出されやすくなる。
バルーン30の内部から、拡張用流体をハブ26の近位開口部27より吸引して排出すると、バルーン30が収縮して折り畳まれた状態となる。これにより、バルーンカテーテル10を、血管より抜去できる。
以上のように、第1実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法は、径方向の外側へ突出する羽根部32を備えるとともに当該羽根部32が折り畳まれるバルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40の形成方法であって、アモルファス型の水不溶性薬剤を含むアモルファス層51を、羽根部32に対応してバルーン30の表面の複数の領域に形成するステップと、バルーン30に径方向の外側へ突出する羽根部32を形成し、当該羽根部32をバルーン30の周方向に沿って折り畳むステップと、を有し、折り畳むステップにおいて、羽根部32が折り畳まれることで重なって対向するバルーン30の表面にアモルファス層51を配置する。
上記のように構成した薬剤コート層40の形成方法は、即効性があるがバルーン30から剥がれやすいアモルファス層51を、外部から力が作用し難い羽根部32の隙間に効果的に配置できる。このため、アモルファス型の薬剤を生体へ効果的に作用させることができる薬剤コート層40をバルーン30に形成できる。
また、上記の薬剤コート層40の形成方法は、複数のアモルファス層51の間に、水不溶性薬剤の結晶を含む結晶層41を形成するステップをさらに有し、折り畳むステップにおいて、羽根部32が折り畳まれるバルーン30の外部へ露出する位置に結晶層41を配置する。これにより、バルーン30から剥がれ難い結晶層41をバルーン30の外部へ露出する位置に配置することで、アモルファス層51と結晶層41を、バランスよくバルーン30に配置できる。
羽根部32を折り畳むステップにおいて、羽根部32の折り目に、アモルファス層51と結晶層41の境界を配置してもよい。これにより、バルーン30から剥がれやすいアモルファス層51を、外部から力が作用し難い羽根部32の隙間に正確に配置でき、バルーン30から剥がれ難い結晶層41を、バルーン30の外部へ露出する位置に正確に配置できる。
アモルファス層51の数は、羽根部32の数と等しい。これにより、全ての羽根部32の隙間にアモルファス層51を配置できる。このため、アモルファス層51を、バルーン30に対して無駄なく効果的に配置できる。
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有してもよい。これにより、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
<第2実施形態>
第2実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法は、図14に示すように、バルーン30に折り目を形成した後に、コート層40を形成する点でのみ、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。
第2実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法では、バルーン30に薬剤コート層40を形成する前に、図8、9に示すように、プリーティング部120を用いて、バルーン30に羽根部32を形成する。なお、羽根部32の形成方法は、バルーン30に薬剤コート層40が形成されていない点以外は、第1実施形態と同様である。バルーン30は、羽根部32を形成することで、折り目37が形成される。折り目37は、バルーン30の表面で凸状となる山部37Aと、凹状となる谷部37Bとを備えている。
次に、ハブ26の近位開口部27から拡張用流体を供給し、バルーン30をある程度拡張させる。バルーン30を拡張させる程度は、バルーン30の折り目37を認識可能な程度である。バルーン30を拡張させ過ぎると、バルーン30の表面の折り目37を認識することが困難である。バルーン30をある程度拡張させることで、バルーンコーティング装置60により、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布することが容易となる。
次に、第1実施形態と同様に、バルーンコーティング装置60により、バルーン30の表面に薬剤コート層40を形成する。このとき、バルーン30に折り目37が形成されているため、結晶層41およびアモルファス層51を、バルーン30の望ましい位置に高精度に配置できる。すなわち、アモルファス層51は、図12(B)に示すように、羽根内側部34bと、羽根内側部34bから連続する中間部34cの一部へ高精度に配置できる。また、結晶層41は、羽根外側部34aと、羽根外側部34aから連続する中間部34cの一部へ高精度に配置できる。このとき、バルーン30の折り目37に、結晶層41とアモルファス層51の境界を配置できる。
バルーン30の表面に薬剤コート層40を形成した後、バルーンコーティング装置60からバルーンカテーテル10を取り外す。次に、バルーン30から拡張用流体を外部に排出してバルーン30を収縮させる。この後、図10、11に示すように、フォールディング部120を用いて、バルーン30の羽根部32を周方向へ折り畳む。これにより、バルーン30が折り畳まれる。このとき、図13に示すように、アモルファス層51は、羽根内側部34bと、羽根内側部34bから連続する中間部34cの一部に位置するため、羽根部32の内側に配置される。結晶層41は、羽根外側部34aと、羽根外側部34aから連続する中間部34cの一部に位置するため、外部に露出する位置に配置される。このとき、結晶層41とアモルファス層51の境界は、羽根部32の先端、すなわちバルーン30の折り目37に配置されることが好ましい。
以上のように、第2実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法は、バルーン30に羽根部32を折り畳むための折り目37を形成した後、結晶層41およびアモルファス層51を形成する。これにより、バルーン30の羽根部32の位置に対応して、正確に結晶層41およびアモルファス層51を配置できる。
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over−the−wire type)であってもよい。
また、バルーン30は、結晶層41を形成する部位とアモルファス層51を形成する部位で、色が異なってもよい。これにより、バルーン30の結晶層41およびアモルファス層51が設けられる位置を正確に認識できる。このため、アモルファス層51をバルーン30の羽根部32の内側に配置し、結晶層41を、バルーン30の外部に露出する位置に配置することが容易となる。
また、バルーン30の羽根部32の数は、3枚に限定されない。バルーン30の結晶層41およびアモルファス層51の数は、バルーン30の羽根部32の数に対応して、変えることができる。
また、上記の第1実施形態および第2実施形態において、バルーン30は、アモルファス層51のみを有し、結晶層41を有さなくてもよい。この場合、バルーン30の外部に露出する部位には、薬剤が塗布されない。したがって、薬剤コート層40を形成する際には、バルーン30の外部に露出する部位へは、ディスペンシングチューブ94が接触する必要はなく、かつコーティング溶液が供給される必要はない。
10 バルーンカテーテル
30 バルーン
32 羽根部
37 折り目
40 薬剤コート層
41 結晶層
42 長尺体
43 添加剤
51 アモルファス層

Claims (5)

  1. 径方向の外側へ突出する羽根部を備えるとともに当該羽根部が折り畳まれるバルーンの表面に設けられる薬剤コート層の形成方法であって、
    アモルファス型の水不溶性薬剤を含むアモルファス層を、前記羽根部に対応して前記バルーンの表面の複数の領域に形成するステップと、
    複数の前記アモルファス層の間に、水不溶性薬剤の結晶を含む結晶層を形成するステップと、
    前記バルーンに径方向の外側へ突出する羽根部を形成し、当該羽根部を前記バルーンの周方向に沿って折り畳むステップと、を有し、
    前記折り畳むステップにおいて、前記羽根部が折り畳まれることで重なって対向する前記バルーンの表面に前記アモルファス層を配置し、前記羽根部が折り畳まれる前記バルーンの外部へ露出する位置に前記結晶層を配置する薬剤コート層の形成方法。
  2. 前記羽根部を折り畳むステップにおいて、前記羽根部の折り目に、前記アモルファス層と結晶層の境界を配置する請求項に記載の薬剤コート層の形成方法。
  3. 前記アモルファス層の数は、前記羽根部の数と等しい請求項1または2に記載の薬剤コート層の形成方法。
  4. 前記バルーンに前記羽根部を折り畳むための折り目を形成した後、前記アモルファス層を形成する請求項1〜のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
  5. 前記水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する請求項1〜のいずれか1項に記載の薬剤コート層の形成方法。
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