以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。なお、図面の寸法比率は、説明の都合上、誇張されて実際の比率とは異なる場合がある。
<第1実施形態>
本発明の第1実施形態に係る薬剤コート層40は、図1〜3に示すように、薬剤溶出型のバルーンカテーテル10のバルーン30の表面に設けられる。なお、本明細書では、バルーンカテーテル10の生体管腔に挿入する側を「遠位側」、操作する手元側を「近位側」と称することとする。
まず、バルーンカテーテル10の構造を説明する。バルーンカテーテル10は、長尺なカテーテル本体20と、カテーテル本体20の遠位部に設けられるバルーン30と、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40と、カテーテル本体20の近位端に固着されたハブ26とを有している。
カテーテル本体20は、遠位端および近位端が開口した管体である外管21と、外管21の内部に配置される管体である内管22とを備えている。内管22は、外管21の中空内部に納められており、カテーテル本体20は、遠位部において二重管構造となっている。内管22の中空内部は、ガイドワイヤを挿通させるガイドワイヤルーメン24である。また、外管21の中空内部であって、内管22の外側には、バルーン30の拡張用流体を流通させる拡張ルーメン23が形成される。内管22は、開口部25において外部に開口している。内管22は、外管21の遠位端よりもさらに遠位側まで突出している。内管22の遠位部に、別部材である先端チップが設けられてもよい。
バルーン30は、近位側端部のバルーン融着部34が外管21の遠位部に融着され、遠位側端部のバルーン融着部35が内管22の遠位部に融着されている。なお、バルーン30を、外管21および内管22に固定する方法は、融着に限定されず、例えば接着されてもよい。これにより、バルーン30の内部が拡張ルーメン23と連通している。拡張ルーメン23を介してバルーン30に拡張用流体を注入することで、バルーン30を拡張させることができる。拡張用流体は気体でも液体でもよく、例えばヘリウムガス、CO2ガス、O2ガス、N2ガス、Arガス、空気、混合ガス等の気体や、生理食塩水、造影剤等の液体を用いることができる。
バルーン30の軸心方向における中央部には、拡張させた際に外径が等しい円筒状のストレート部31(拡張部)が形成され、ストレート部31の軸心方向の両側に、外径が徐々に変化するテーパ部33が形成される。そして、ストレート部31の表面の全体に、薬剤を含む薬剤コート層40が形成される。なお、バルーン30において薬剤コート層40を形成する範囲は、ストレート部31のみに限定されず、ストレート部31に加えてテーパ部33の少なくとも一部が含まれてもよく、または、ストレート部31の一部のみであってもよい。
ハブ26は、外管21の拡張ルーメン23と連通して拡張用流体を流入出させるポートとして機能する近位開口部27が形成されている。
バルーン30の軸心方向の長さは特に限定されないが、好ましくは5〜500mm、より好ましくは10〜300mm、さらに好ましくは20〜200mmである。バルーン30の拡張時の外径は、特に限定されないが、好ましくは1〜10mm、より好ましくは2〜8mmである。
バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であり、非多孔質である。バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、膜を貫通しない微小な孔があってもよい。または、バルーン30の薬剤コート層40が形成される前の表面は、平滑であって非多孔質である範囲と、膜を貫通しない微小な孔がある範囲の両方を備えてもよい。微小な孔の大きさは、例えば、直径が0.1〜5μm、深さが0.1〜10μmであり、1つの結晶に対して、1つまたは複数の孔を有してもよい。また、微小な孔の大きさは、例えば、直径が5〜500μm、深さが0.1〜50μmであり、1つの孔に対して、1つまたは複数の結晶を有してもよい。
バルーン30は、ある程度の柔軟性を有するとともに、血管や組織等に到達した際に拡張されて、その表面に有する薬剤コート層40から薬剤を放出できるようにある程度の硬度を有するものが好ましい。具体的には、金属や、樹脂で構成されるが、薬剤コート層40が設けられるバルーン30の少なくとも表面は、樹脂で構成されていることが好ましい。バルーン30の少なくとも表面の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、エチレン−プロピレン共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体、アイオノマー、あるいはこれら二種以上の混合物等のポリオレフィンや、軟質ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアミド、ポリアミドエラストマー、ナイロンエラストマー、ポリエステル、ポリエステルエラストマー、ポリウレタン、フッ素樹脂等の熱可塑性樹脂、シリコーンゴム、ラテックスゴム等が使用できる。そのなかでも、好適にはポリアミド類が挙げられる。すなわち、薬剤をコートするバルーン30の表面の少なくとも一部がポリアミド類である。ポリアミド類としては、アミド結合を有する重合体であれば特に制限されないが、例えば、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプロラクタム(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリヘキサメチレンセバカミド(ナイロン610)、ポリヘキサメチレンドデカミド(ナイロン612)、ポリウンデカノラクタム(ナイロン11)、ポリドデカノラクタム(ナイロン12)などの単独重合体、カプロラクタム/ラウリルラクタム共重合体(ナイロン6/12)、カプロラクタム/アミノウンデカン酸共重合体(ナイロン6/11)、カプロラクタム/ω−アミノノナン酸共重合体(ナイロン6/9)、カプロラクタム/ヘキサメチレンジアンモニウムアジペート共重合体(ナイロン6/66)などの共重合体、アジピン酸とメタキシレンジアミンとの共重合体、またはヘキサメチレンジアミンとm,p−フタル酸との共重合体などの芳香族ポリアミドなどが挙げられる。さらに、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン11、ナイロン12などをハードセグメントとし、ポリアルキレングリコール、ポリエーテル、または脂肪族ポリエステルなどをソフトセグメントとするブロック共重合体であるポリアミドエラストマーも、バルーン30の材料として用いられる。上記ポリアミド類は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。特に、バルーン30はポリアミドの滑らかな表面を有することが好ましい。
バルーン30は、その表面上に、後述する方法によって、直接またはプライマー層等の前処理層を介して薬剤コート層40が形成される。薬剤コート層40は、図2、3に示すように、複数の薬剤結晶を有する結晶層41と、アモルファス型の薬剤を有するアモルファス層51と、を有している。
結晶層41は、水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42と、長尺体42の間に配置される添加剤43(賦形剤)と、を有している。複数の長尺体42は、各々が独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である。長尺体42の基端45は、バルーン30の表面と直接接触する。なお、基端45がバルーン30の表面と接触しない長尺体42が存在してもよい。長尺体42の先端46は、添加剤43から突出している。なお、長尺体42の先端46は、添加剤43から突出しなくてもよい。結晶層41の薬剤結晶は、結晶であれば、長軸を有する結晶でなくてもよい。また、添加剤43は、設けられなくてもよい。結晶層41は、アモルファス型の薬剤を有してもよい。結晶層41において、単位面積当たりのアモルファス型の薬剤の質量は、単位面積当たりの薬剤結晶の質量よりも小さい。
複数の長尺体42は、バルーン30の表面に規則的に配置されてもよい。または、複数の長尺体42は、バルーン30の表面に不規則に配置されてもよい。
長尺体42の長軸の、バルーン30の表面に対する傾斜角度は、特に限定されないが、45度〜135度であり、好ましくは60度〜120度であり、より好ましくは75度〜105度であり、さらに好ましくは略90度である。
薬剤コート層40に含まれる薬剤量は、特に限定されないが、0.1μg/mm2〜10μg/mm2、好ましくは0.5μg/mm2〜5μg/mm2の密度で、より好ましくは0.5μg/mm2〜3.5μg/mm2、さらに好ましくは1.0μg/mm2〜3μg/mm2の密度で含まれる。薬剤コート層40の結晶の量は、特に限定されないが、好ましくは5〜500、000[crystal/(10μm2)](10μm2当たりの結晶の数)、より好ましくは50〜50、000[crystal/(10μm2)]、さらに好ましくは500〜5、000[crystal/(10μm2)]である。
各々独立した長軸を有する複数の長尺体42は、これらが組み合された状態で存在していてもよい。隣接する複数の長尺体42同士が異なる角度を形成した状態で接触して存在してもよい。複数の長尺体42はバルーン表面上で空間(結晶を含まない空間)をおいて位置していてもよい。バルーン30の表面に、組み合された状態の複数の長尺体42と、互いに離れて独立した複数の長尺体42の両方が存在してもよい。複数の長尺体42は、異なる長軸方向を有して円周状にブラシ状として配置されてもよい。各々の長尺体42は独立して存在しており、ある長さを有し、その長さ部分の一端(基端45)が、添加剤43またはバルーン30に固定されている。長尺体42は隣接する長尺体42と複合的な構造を形成せず、連結していない。長尺体42の長軸は、ほぼ直線状である。
長尺体42は、互いに接触せずに独立して立っていることが好ましい。長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触していてもよい。または、長尺体42の基端45は、バルーン30上で他の基端45と接触せずに独立していてもよい。
長尺体42は、中空である場合と、中実である場合がある。バルーン30の表面に、中空の長尺体42と、中実の長尺体42の両方が存在してもよい。長尺体42は、中空である場合、少なくともその先端付近が中空である。長尺体42の長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面は中空を有する。当該中空を有する長尺体42は長軸に直角な(垂直な)面における長尺体42の断面が多角形である。当該多角形は、例えば3角形、4角形、5角形、6角形などである。したがって、長尺体42は先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)とを有し、先端46(または先端面47)と基端45(または基端面)との間の側面が複数のほぼ平面で構成された長尺多面体として形成される。また、長尺体42は、針状であってもよい。この結晶形態型(中空長尺体結晶形態型)は基端45が接する表面において、ある平面の全体または少なくとも一部を構成する。
長軸を有する長尺体42の長軸方向の長さは5μm〜20μmが好ましく、9μm〜11μmがより好ましく、10μm前後であることがさらに好ましい。長軸を有する長尺体42の径は、0.01μm〜5μmであるのが好ましく、0.05μm〜4μmであるのがより好ましく、0.1μm〜3μmであるのがさらに好ましい。
上述した長軸を有する長尺体42は、結晶層41の表面の薬剤結晶全体に対して50体積%以上、より好ましくは70体積%以上である。
長軸を有する長尺体42は、体内に送達する際に、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い。長尺体42が中空の結晶構造である場合、薬剤が組織に移行した時に結晶の一つの単位が小さくなるために組織への浸透性が良く、かつ、良好な溶解性を有するため、有効に作用して狭窄を抑制できる。また、薬剤が大きな塊として組織に残留することが少ないために毒性が低くなると考えられる。
また、結晶層41は、複数の、長軸を有するほぼ均一な長尺体42を有し、かつ基端45が接する表面にほぼ均一に並び立っている形態型である。したがって、組織に移行する結晶の大きさ(長軸方向の長さ)が約10μmと小さい。そのために病変患部に均一に作用し、組織浸透性が高まる。さらに、移行する結晶の寸法が小さいために、過剰量の薬剤が、過剰時間、患部に留まることがなくなる。このため、毒性を発現することなく、高い狭窄抑制効果を示すことが可能であると考えられる。
添加剤43は、林立する複数の長尺体42の間の空間に分配されて存在する。添加剤43は、長尺体42がある領域に存在し、長尺体42がない領域にはなくてもよい。添加剤43は、マトリックスを形成しない。添加剤43は、マトリックスを形成してもよい。マトリックスとは、比較的高分子の物質(ポリマーなど)が連続して構成された層であり、網目状の三次元構造を形成し、その中に微細な空間が存在する。したがって、結晶を構成する水不溶性薬剤はマトリックス物質中に付着していない。結晶を構成する水不溶性薬剤は、マトリックス物質中に埋め込まれてもいない。
添加剤43は、バルーン30の表面で水溶液の状態でコートされた後、乾燥して形成される。添加剤43はアモルファス(非結晶質)である。添加剤43は、結晶粒子であってもよい。または、添加剤43は、水不溶性薬剤を含まない独立した層として形成されてもよい。
アモルファス層51は、バルーン30の表面の結晶層41に囲まれる複数の点状の範囲に設けられる。アモルファス層51は、アモルファス型の水不溶性薬剤である非晶質部52と、非晶質部52の間に配置される添加剤53(賦形剤)と、を有している。添加剤53は、結晶層41の添加剤43と共通する。添加剤53は、設けられなくてもよい。アモルファス層51は、薬剤結晶を有してもよい。アモルファス層51において、単位面積当たりの薬剤結晶の質量は、単位面積当たりのアモルファス型の薬剤の質量よりも小さい。
アモルファス型の非晶質部52は、結晶である長尺体42よりも剥がれやすく、血管に接触した後の組織移行性が速く即効性がある。これに対し、結晶である長尺体42は、アモルファス型の非晶質部52よりも、血管に接触した後の組織移行性の持続性が高い。したがって、バルーン30に結晶層41とアモルファス層51の両方を設けることで、アモルファスの速効性と結晶の持続性の両方の効果を期待できる。
例えば、薬剤がパクリタキセルである場合、形成される結晶層41は、白色に近く、アモルファス層51は、透明に近い。したがって、結晶層41およびアモルファス層51を、目視により容易に判別できる。また、薬剤の結晶およびアモルファスは、顕微鏡により判別可能である。
次に、上述したバルーン30上の薬剤コート層40を形成するためのバルーンコーティングシステムを説明する。本システムは、バルーン30に薬剤コート層40を形成するためのバルーンコーティング装置60(図4、5を参照)と、薬剤コート層40が形成されたバルーン30を折り畳むためのバルーン折り畳み装置(図8、10を参照)とを備えている。
まず、バルーンコーティング装置60について説明する。バルーンコーティング装置60は、図4、5に示すように、バルーンカテーテル10を回転させる回転機構部61と、バルーンカテーテル10を支持する支持台70とを有する。バルーンコーティング装置60は、さらに、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布するディスペンシングチューブ94が設けられる塗布機構部90と、バルーン30の表面に溶媒を供給する溶媒用チューブ114が設けられる溶媒供給部110とを有する。バルーンコーティング装置60は、さらに、ディスペンシングチューブ94および溶媒用チューブ114をバルーン30に対して移動させる移動機構部80と、バルーンコーティング装置60を制御する制御部100とを有する。
回転機構部61は、バルーンカテーテル10のハブ26を保持し、内蔵されるモータ等の駆動源によってバルーンカテーテル10を、バルーン30の軸心を中心に回転させる。バルーンカテーテル10は、ガイドワイヤルーメン24内に芯材62が挿通されて保持されるとともに、芯材62によってコーティング溶液のガイドワイヤルーメン24内への流入が防止されている。また、バルーンカテーテル10は、拡張ルーメン23への流体の流通を操作するために、ハブ26の近位開口部27に、流路の開閉を操作可能な三方活栓が接続される。
支持台70は、カテーテル本体20を内部に収容して回転可能に支持する管状の近位側支持部71と、芯材62を回転可能に支持する遠位側支持部72とを備えている。なお、遠位側支持部72は、可能であれば、芯材62ではなしにカテーテル本体20の遠位部を回転可能に支持してもよい。
移動機構部80は、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動可能な移動台81と、ディスペンシングチューブ94を保持するチューブ保持部83と、溶媒用チューブ114を保持する溶媒用チューブ保持部84と、を備えている。移動台81は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動可能である。したがって、移動台81が移動することで、ディスペンシングチューブ94および溶媒用チューブ114が、バルーン30の軸心と平行な方向へ直線的に移動する。また、移動台81は、塗布機構部90および溶媒供給部110が載置されており、塗布機構部90および溶媒供給部110を軸心に沿う両方向へ直線的に移動させる。
チューブ保持部83は、ディスペンシングチューブ94の上端を移動台81に対して移動可能に保持している。チューブ保持部83は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、ディスペンシングチューブ94を、略鉛直方向へ直線的に移動させることができる。これにより、チューブ保持部83は、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して近接および離間するように移動させることができる。
溶媒用チューブ保持部84は、溶媒用チューブ114の上端を移動台81に対して移動可能に保持している。溶媒用チューブ保持部84は、内蔵されるモータ等の駆動源によって、溶媒用チューブ114を、略鉛直方向へ直線的に移動させることができる。これにより、溶媒用チューブ保持部84は、溶媒用チューブ114を、バルーン30に対して近接および離間するように移動させることができる。
塗布機構部90は、バルーン30の表面にコーティング溶液を塗布する部位である。塗布機構部90は、コーティング溶液を収容する容器92と、任意の送液量でコーティング溶液を送液する送液ポンプ93と、コーティング溶液をバルーン30に塗布するディスペンシングチューブ94とを備えている。
送液ポンプ93は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、容器92から吸引チューブ91を介してコーティング溶液を吸引し、供給チューブ96を介してディスペンシングチューブ94へコーティング溶液を任意の送液量で供給することができる。送液ポンプ93は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、送液ポンプ93は、コーティング溶液を送液可能であればシリンジポンプに限定されず、例えばチューブポンプであってもよい。
ディスペンシングチューブ94は、供給チューブ96と連通しており、送液ポンプ93から供給チューブ96を介して供給されるコーティング溶液を、バルーン30の表面へ吐出する部材である。ディスペンシングチューブ94は、可撓性を備えた円管状の部材である。ディスペンシングチューブ94は、チューブ保持部83に上端が固定されており、チューブ保持部83から鉛直方向下方へ延在し、下端である吐出端97に開口部95が形成されている。ディスペンシングチューブ94は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される送液ポンプ93とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。ディスペンシングチューブ94はバルーン30に押し付けられて撓んだ状態で、コーティング溶液をバルーン30の表面に供給可能である。
なお、ディスペンシングチューブ94は、コーティング溶液を供給可能であれば、円管状でなくてもよい。また、ディスペンシングチューブ94は、開口部95からコーティング溶液を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。
ディスペンシングチューブ94は、バルーン30への接触負担を低減し、かつバルーン30の回転に伴う接触位置の変化を撓みにより吸収できるように、柔軟な材料であることが好ましい。ディスペンシングチューブ94の構成材料は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、環状ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ETFE(テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)等のフッ素系樹脂等を適用できるが、可撓性を有して変形可能であれば、特に限定されない。
ディスペンシングチューブ94の外径は、特に限定されないが、例えば0.1mm〜5.0mmである。ディスペンシングチューブ94の内径は、特に限定されないが、例えば0.05mm〜3.0mmである。ディスペンシングチューブ94の長さは、特に限定されないが、バルーン直径の5倍以内の長さであることがよく、例えば1.0mm〜50mmである。
溶媒供給部110は、バルーン30の表面に、水不溶性薬剤の結晶を溶解可能な溶媒を供給する部位である。溶媒供給部110は、溶媒を収容する溶媒容器112と、任意の送液量で溶媒を送液する溶媒用ポンプ113と、溶媒をバルーン30に向かって放出する溶媒用チューブ114とを備えている。
溶媒用ポンプ113は、例えばシリンジポンプであり、制御部100によって制御されて、溶媒容器112から溶媒吸引チューブ111を介して溶媒を吸引し、溶媒搬送チューブ116を介して溶媒用チューブ114へ溶媒を任意の送液量で供給できる。溶媒用ポンプ113は、移動台81に設置され、移動台81の移動により直線的に移動可能である。なお、溶媒用ポンプ113は、溶媒を送液可能であればシリンジポンプに限定されない。
溶媒用チューブ114は、溶媒搬送チューブ116と連通しており、溶媒用ポンプ113から溶媒搬送チューブ116を介して供給される溶媒を、バルーン30の外表面へ吐出する部材である。溶媒用チューブ114は、可撓性を備えた円管状の部材である。なお、溶媒用チューブ114は、可撓性を備えなくてもよい。溶媒用チューブ114は、溶媒用チューブ保持部84に上端が固定されており溶媒用チューブ保持部84から鉛直方向下方へ延在し、下端に開口部115が形成されている。開口部115は、バルーン30から離れている。溶媒用チューブ114は、移動台81を移動させることで、移動台81に設置される溶媒用ポンプ113とともに、バルーンカテーテル10の軸心方向に沿う両方向へ直線的に移動可能である。溶媒用チューブ114はバルーン30から所定長さ離れた状態で、溶媒をバルーン30の外表面に供給可能である。溶媒用チューブ114から放出された溶媒は、薬剤結晶を溶解させた後、蒸発することで薬剤をアモルファス型に変質させる。なお、溶媒用チューブ114は、バルーン30の表面に接触してもよい。
溶媒用チューブ114の形状や構成材料は、溶媒を供給可能であれば、限定されない。例えば、溶媒用チューブ114の形状や構成材料は、ディスペンシングチューブ94と共通してもよい。また、溶媒用チューブ114は、開口部115から溶媒を吐出可能であれば、鉛直方向に延在していなくてもよい。
制御部100は、例えばコンピュータにより構成され、回転機構部61、移動機構部80、塗布機構部90および溶媒供給部110を統括的に制御する。したがって、制御部100は、バルーン30の回転速度、ディスペンシングチューブ94のバルーン30に対する軸心方向への移動速度、ディスペンシングチューブ94からの薬剤吐出速度、溶媒用チューブ114からの溶媒の吐出の開始および停止のタイミング、溶媒の吐出速度、溶媒用チューブ114のバルーン30に対する距離等を、統括的に制御できる。
ディスペンシングチューブ94によりバルーン30に供給されるコーティング溶液は、薬剤コート層40の構成材料を含む溶液または懸濁液であり、水不溶性薬剤、添加剤(賦形剤)、有機溶媒および水を含んでいる。コーティング溶液がバルーン30の表面に供給された後、有機溶媒および水が揮発することで、バルーン30の表面に、独立した長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42を有する薬剤コート層40が形成される。
コーティング溶液の粘度は、0.5〜1500cP、好ましくは1.0〜500cP、より好ましくは1.5〜100cPである。
水不溶性薬剤とは、水に不溶または難溶性である薬剤を意味し、具体的には、水に対する溶解度が、pH5〜8で5mg/mL未満である。その溶解度は、1mg/mL未満、さらに、0.1mg/mL未満でもよい。水不溶性薬剤は脂溶性薬剤を含む。
いくつかの好ましい水不溶性薬剤の例は、免疫抑制剤、例えば、シクロスポリンを含むシクロスポリン類、ラパマイシン等の免疫活性剤、パクリタキセル等の抗がん剤、抗ウイルス剤または抗菌剤、抗新生組織剤、鎮痛剤および抗炎症剤、抗生物質、抗てんかん剤、不安緩解剤、抗麻痺剤、拮抗剤、ニューロンブロック剤、抗コリン作動剤およびコリン作動剤、抗ムスカリン剤およびムスカリン剤、抗アドレナリン作用剤、抗不整脈剤、抗高血圧剤、ホルモン剤ならびに栄養剤を含む。
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つが好ましい。本明細書においてラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、エベロリムスとは、同様の薬効を有する限りそれらの類似体および/またはそれらの誘導体を含む。例えば、パクリタキセルとドセタキセルは類似体の関係にある。ラパマイシンとエベロリムスは誘導体の関係にある。これらのうちでは、パクリタキセルがさらに好ましい。
添加剤43、53は、水溶性の低分子化合物を含む。水溶性の低分子化合物の分子量は、50〜2000であり、好ましくは50〜1000であり、より好ましくは50〜500であり、さらに好ましくは50〜200である。水溶性の低分子化合物は、水不溶性薬剤100質量部に対して、好ましくは10〜5000質量部、より好ましくは50〜3000質量部、さらに好ましくは100〜1000質量部である。水溶性の低分子化合物の構成材料は、セリンエチルエステル、グルコースなどの糖類、ソルビトールなどの糖アルコール、クエン酸エステル、ポリソルベート、ポリエチレングリコール、尿素、水溶性ポリマー、造影剤、アミノ酸エステル、短鎖モノカルボン酸のグリセロールエステル、医薬として許容される塩および界面活性剤等、あるいはこれら二種以上の混合物等が使用できる。水溶性の低分子化合物は、親水基と疎水基を有し、水に溶解することを特徴とする。水溶性の低分子化合物は、非膨潤性または難膨潤性であることが好ましい。水溶性の低分子化合物を含む添加剤43、53は、バルーン30の表面上で水不溶性薬剤を均一に分散させる効果を有する。添加剤43、53は、ハイドロゲルでないことが好ましい。添加剤43、53は低分子化合物を含有することで、水溶液に接すると膨潤することなく速やかに溶解する。さらに、血管内でのバルーン30の拡張時に添加剤43、53が溶解しやすくなることで、バルーン30の表面上の水不溶性薬剤の結晶粒子を放出しやすくなり、血管への薬剤の結晶粒子の付着量を増加させる効果を有する。添加剤43、53がウルトラビスト(Ultravist)(登録商標)のような造影剤からなるマトリクスである場合、結晶粒子がマトリクスに埋め込まれ、バルーン30上からマトリクスの外側に向かって結晶が生成しない。
有機溶媒は、特に限定されず、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートである。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。
有機溶媒と水の混合例として、例えば、テトラヒドロフランと水、テトラヒドロフランとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンと水、アセトンとエタノールと水、テトラヒドロフランとアセトンとエタノールと水が挙げられる。
溶媒容器112に収容されて溶媒用ポンプ113によりバルーン30に供給される溶媒は、前述のコーティング溶液に含まれる水不溶性薬剤を溶解可能な有機溶媒である。水不溶性薬剤を溶解可能な有機溶媒は、水不溶性薬剤を溶解できれば特に限定されず、例えば、テトラヒドロフラン、アセトン、グリセリン、エタノール、メタノール、ジクロロメタン、ヘキサン、エチルアセテートである。中でも、テトラヒドロフラン、エタノール、アセトンのうち、これらのいくつかの混合溶媒が好ましい。なお、溶媒は、有機溶媒とともに水を含んでもよい。
溶媒容器112に収容される溶媒の粘度は、0.5〜1500cP、好ましくは0.5〜500cP、より好ましくは0.5〜100cPである。
次に、上述したバルーンコーティング装置60を用いてバルーン30の表面に薬剤コート層40を形成する方法を説明する。
初めに、バルーンカテーテル10の近位開口部27に接続した三方活栓を介して拡張用の流体をバルーン30内に供給する。次に、バルーン30を拡張させた状態で三方活栓を操作して拡張ルーメン23を密封し、バルーン30を拡張させた状態を維持する。バルーン30は、血管内での使用時の圧力(例えば8気圧)よりも低い圧力(例えば4気圧)で拡張される。なお、バルーン30を拡張させずに、バルーン30の表面に薬剤コート層40を形成することもでき、その場合には、拡張用の流体をバルーン30内に供給する必要はない。
次に、ディスペンシングチューブ94がバルーン30の表面と接触しない状態で、バルーンカテーテル10を支持台70に回転可能に設置し、ハブ26を回転機構部61に連結する。
次に、移動台81の位置を調節して、ディスペンシングチューブ94を、バルーン30に対して位置決めする。このとき、バルーン30において薬剤コート層40を形成する最も遠位側の位置に、ディスペンシングチューブ94を位置決めする。一例として、ディスペンシングチューブ94の延在方向(吐出方向)は、バルーン30の回転方向と逆方向である。したがって、バルーン30は、ディスペンシングチューブ94を接触させた位置において、ディスペンシングチューブ94からのコーティング溶液の吐出方向と逆方向だけに回転させることができる。これにより、コーティング溶液に物理的な刺激を与え、薬剤結晶の結晶核の形成を促すことができる。そして、ディスペンシングチューブ94の開口部95へ向かう延在方向(吐出方向)が、バルーン30の回転方向と逆方向であることで、バルーン30の表面に形成される水不溶性薬剤の結晶は、独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型(morphological form)を含んで形成されやすい。なお、ディスペンシングチューブ94の延在方向は、バルーン30の回転方向と逆方向でなくてもよく、したがって同方向とすることができ、またはバルーン30の表面と垂直とすることもできる。
次に、送液ポンプ93により送液量を調節しつつコーティング溶液をディスペンシングチューブ94へ供給し、回転機構部61によりバルーンカテーテル10を回転させる。さらに、移動台81を移動させて、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って徐々に近位方向へ移動させる。ディスペンシングチューブ94の開口部95から吐出されるコーティング溶液は、ディスペンシングチューブ94がバルーン30に対して相対的に移動することで、バルーン30の外周面に螺旋を描きつつ塗布される。なお、ディスペンシングチューブ94からコーティング溶液をバルーン30に塗布する際には、溶媒を供給する溶媒供給部110は、使用されない。溶媒供給部110の溶媒用チューブ114は、バルーン30から離れた位置に保持される。
ディスペンシングチューブ94の移動速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜2mm/sec、好ましくは0.03〜1.5mm/sec、より好ましくは0.05〜1.0mm/secである。コーティング溶液のディスペンシングチューブ94からの吐出速度は、特に限定されないが、例えば0.01〜1.5μL/sec、好ましくは0.01〜1.0μL/sec、より好ましくは0.03〜0.8μL/secである。バルーン30の回転速度は、特に限定されないが、例えば10〜300rpm、好ましくは30〜250rpm、より好ましくは50〜200rpmである。コーティング溶液を塗布する際のバルーン30の直径は、特に限定されないが、例えば1〜10mm、好ましくは2〜7mmである。
この後、バルーン30の表面に塗布されたコーティング溶液に含まれる有機溶媒が水よりも先に揮発する。したがって、バルーン30の表面に、水不溶性薬剤、水溶性低分子化合物および水が残された状態で、有機溶媒が揮発する。このように、水が残された状態で有機溶媒が揮発すると、水不溶性の薬剤が、水を含む水溶性低分子化合物の内部で析出し、結晶核から結晶が徐々に成長して、図6に示すように、バルーン30の表面に、結晶が各々独立した長軸を有する複数の長尺体42を含む形態型の薬剤結晶が形成される。有機溶媒が揮発して薬剤結晶が複数の長尺体42として析出した後、水が有機溶媒よりもゆっくり蒸発し、水溶性低分子化合物を含む添加剤43が形成される。水が蒸発する時間は、薬剤の種類、水溶性低分子化合物の種類、有機溶媒の種類、材料の比率、コーティング溶液の塗布量等に応じて適宜設定されるが、例えば、1〜600秒程度である。
そして、バルーン30を回転させつつディスペンシングチューブ94を徐々にバルーン30の軸心方向へ移動させることで、バルーン30の表面に、軸心方向へ向かって、複数の長尺体42および添加剤43を含む結晶層41を徐々に形成する。バルーン30のコーティングする範囲の全体に、結晶層41が形成された後、チューブ保持部83によりディスペンシングチューブ94をバルーン30から離す。この後、回転機構部61によるバルーンカテーテル10の回転を停止させ、塗布機構部90によるコーティング溶液の供給を停止させる。
次に、移動機構部80を制御して、溶媒用チューブ114を、バルーン30の結晶層41が形成された範囲の遠位側(または近位側)の位置に位置決めする。次に、回転機構部61によりバルーンカテーテル10を回転させつつ、移動台81を近位側(または遠位側)へ移動させて、ディスペンシングチューブ94をバルーン30の軸心方向に沿って徐々に近位方向(または遠位方向)へ移動させる。さらに、溶媒用ポンプ113および溶媒用チューブ保持部84を制御して、図7(A)に示すように、溶媒用チューブ114の開口部115をバルーン30の表面に近づけ、所定量の溶媒を所定時間供給する。これにより、溶媒が、バルーン30の結晶層41に供給される。この後、図7(B)に示すように、溶媒用チューブ114の開口部115をバルーン30の表面から離し、溶媒の供給を停止する。そして、溶媒用チューブ114をバルーン30に近づけて溶媒を供給し、溶媒用チューブ114をバルーン30から離して溶媒の供給を停止することを繰り返す。これにより、溶媒用チューブ114から供給される溶媒からなる液状部49が、バルーン30の結晶層41の螺旋軌道上の点状(ドット状)の範囲に配置される。各々の液状部49は、隣接する他の液状部49に対して、バルーン30の周方向および軸方向へ離れて独立している。液状部49は、バルーン30の表面上を流れない量で供給される。溶媒用チューブ114からの溶媒の単位面積当たりの供給量は、特に限定されないが、例えば1〜10μL/mm2である。溶媒用チューブ114からの溶媒の単位面積当たりの供給量は、ディスペンシングチューブ94からのコーティング溶液の単位面積当たりの供給量よりも少ないことが好ましいが、これに限定されない。溶媒用チューブ114からの溶媒の単位面積当たりの供給量は、多すぎないことで、バルーン30の表面上を溶媒が流れることを抑制できる。バルーン30の周方向に並ぶ液状部49は、周方向へ一定の間隔を空けて並ぶことが好ましい。なお、バルーン30の周方向に並ぶ液状部49の間隔は、位置によって変化してもよい。液状部49が並ぶ螺旋のピッチ間距離は、一定であることが好ましい。なお、液状部49が並ぶ螺旋のピッチ間距離は、位置によって変化してもよい。
なお、バルーン30の結晶層41に、複数の液状部49を離れて配置できるのであれば、溶媒用ポンプ113による溶媒の供給を停止する際に、溶媒用チューブ114をバルーン30から離さなくてもよい。また、バルーン30の結晶層41に、複数の液状部49を離れて配置できるのであれば、溶媒用チューブ114をバルーン30から離す際に、溶媒用ポンプ113による溶媒の供給を停止しなくてもよい。
バルーン30の結晶層41の目的の範囲の全体に液状部49を配置した後、溶媒用ポンプ113による溶媒の供給を停止させ、溶媒用チューブ保持部84により溶媒用チューブ114をバルーン30から離す。この後、回転機構部61および移動機構部80を停止させる。
バルーン30の結晶層41に供給された液状部49は、含んでいる溶媒により、結晶層41の結晶である長尺体42を溶解する。液状部49の溶媒は、長尺体42を含む薬剤結晶を溶解した後、徐々に蒸発する。液状部49の溶媒が蒸発すると、図2、3に示すように、アモルファス型の非晶質部52および添加剤53を有するアモルファス層51が形成される。すなわち、液状部49の溶媒が蒸発する際に、薬剤が結晶化する条件(例えば、物理的な刺激)が満たされ難いため、アモルファス型の非晶質部52が形成されやすい。
バルーン30に結晶層41およびアモルファス層51を有する薬剤コート層40が形成された後、バルーンカテーテル10をバルーンコーティング装置60から取り外して、バルーン30のコーティングが完了する。
次に、バルーン折り畳み装置について説明する。バルーン折り畳み装置は、バルーン30を内管22に対し巻き付けるように折り畳むことのできる装置である。
バルーン折り畳み装置は、図8に示すプリーティング部120と、図10に示すフォールディング部130とを備えている。プリーティング部120は、図9に示すように、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成できる。フォールディング部130は、図11に示すように、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせて畳むことができる。バルーン30に形成される羽根部32は、バルーン30の略軸心方向に延びる折り目によって形成され、バルーン30の軸心に対して垂直な断面で見たとき、折り目がバルーン30の長軸から周方向に突出するように形成される。羽根部32の長軸方向の長さは、バルーン30の長さを超えない。羽根部32がカテーテル本体20から周方向に突出する方向の長さは、約1〜8mmである。羽根部32の数は特に限定されず、例えば2〜7枚であるが、本実施形態では3枚である。
まず、プリーティング部120について説明する。プリーティング部120は、図8、9に示すように、内部に3つのブレード122を有している。各ブレード122は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード122は、バルーン30が挿通される中心位置を基準として、それぞれが120度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード122は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード122は、外周端部付近に回動中心部122aを有し、この回動中心部122aを中心として回動することができる。また、ブレード122は、回動中心部122aより内周側に、軸心方向に延びる移動ピン122dを有している。移動ピン122dは、回動中心部122aを中心として移動可能である。移動ピン122dが移動すると、各々のブレード122が回動中心部122aを中心として回動する。3つのブレード122が回動することにより、ブレード122に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード122の数は、2つ以上であれば、特に限定されない。
ブレード122は、回動中心部122aと反対側の内周端部に、略弧状の第1形状形成部122bと第2形状形成部122cとを有している。第1形状形成部122bは、ブレード122が回動するのに伴い、プリーティング部120内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に径方向に突出する羽根部32を形成することができる。第2形状形成部122cは、ブレード122が回動するのに伴い、バルーン30に形成される羽根部分に当接し、羽根部32を所定方向に湾曲させることができる。また、プリーティング部120は、ブレード122を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
ブレード122には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第1フィルム123および第2フィルム124が供給される。第1フィルム123は、上部に配置されているブレード122の表面に係っている。第2フィルム124は、下部に配置されている2つのブレード122に係っている。これらにより、バルーン30が挿通されるプリーティング部120の中心位置は、第1フィルム123と第2フィルム124に囲まれた状態となっている。
第1フィルム123と第2フィルム124は、バルーン30がプリーティング部120に挿入され、ブレード122が回動してバルーン30に羽根部32を形成する際に、バルーン30がブレード122の表面に直接接触しないように保護する。バルーン30の羽根部32を形成した後、第1フィルム123と第2フィルム124は所定長さ移動する。すなわち、第1フィルム123および第2フィルム124のバルーン30に一度接触した部分は、再度バルーン30に接触せず、バルーン30が挿入される度に新しい部分がプリーティング部120の中心位置に供給される。
次に、フォールディング部130について説明する。フォールディング部130は、図10、11に示すように、内部に10個のブレード132を有している。各ブレード132は、挿入されるバルーンカテーテル10の軸心方向に沿う各位置における断面形状が、同形状で形成される板状の部材である。ブレード132は、バルーンが挿通される中心位置を基準として、それぞれが36度の角度をなすように配置されている。すなわち、各ブレード132は、周方向において等角度毎に配置されている。ブレード132は、略中央付近に回動中心部132aを有し、この回動中心部132aを中心として回動することができる。また、各ブレード132は、略外周端部付近に、軸方向に延びる移動ピン132cを有している。移動ピン132cは、回動中心部132aを中心に移動可能である。移動ピン132cが移動すると、各々のブレード132が回動中心部132aを中心として回動する。10個のブレード132が回動することにより、ブレード132に囲まれた中心部の空間領域を狭めることができる。なお、ブレード132の数は、10個に限定されない。
ブレード132は、先端側が屈曲すると共に、先端部132bは尖った形状を有している。先端部132bは、ブレード132が回動するのに伴い、フォールディング部130内に挿通されるバルーン30の表面に当接して、バルーン30に形成された羽根部32を周方向に寝かせるように畳むことができる。また、フォールディング部130は、ブレード132を加熱するためのヒーター(図示しない)を有している。
ブレード132には、一方向側へ流れるように供給される樹脂製の第3フィルム133および第4フィルム134が供給される。第3フィルム133と第4フィルム134は、ブレード132によって囲まれた中央の空間領域を挟むように対向配置される。これら第3フィルム133と第4フィルム134は、バルーン30がフォールディング部130に挿入された際に、バルーン30がブレード132の表面に直接接触しないように保護する。
次に、バルーン折り畳み装置を用いて、バルーンコーティング装置60により薬剤コート層が表面に形成されたバルーン30を折り畳む方法を説明する。
まず、バルーン30に羽根部32を形成するために、バルーンカテーテル10のバルーン30を、図8に示すプリーティング部120に挿入する。プリーティング部120のブレード122は、加熱されている。次に、図9に示すように、ブレード122を回動させる。これにより、各ブレード122の第1形状形成部122bが互いに近づき、ブレード122間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード122間の中心領域に挿入されたバルーン30は、第1形状形成部122bによって内管22に対し押し付けられる。バルーン30のうち第1形状形成部122bによって押圧されない部分は、ブレード122の先端部と、当該ブレード122に隣接するブレード122の第2形状形成部122cとの間の隙間に押し出され、一方に湾曲した羽根部32が形成される。ブレード122によりバルーン30は約50〜60度に加熱されるので、形成された羽根部32はそのままの形を維持することができる。このようにして、バルーン30に周方向3枚の羽根部32が形成される。
このとき、各ブレード122のバルーン30と接触する表面は、第1フィルム123および第2フィルム124によって覆われており、バルーン30はブレード122の表面に直接接触することはない。バルーン30に羽根部32を形成した後、ブレード122を元の位置に戻すように回動させ、バルーン30はプリーティング部120から引き抜かれる。なお、プリーティングの過程において、バルーン30の内部の体積が減少するため、それに合わせて、三方活栓を調節して拡張用流体を外部に排出してバルーン30を収縮(deflate)させることが好ましい。これにより、バルーン30に過剰な力が作用することを抑制できる。
バルーン30は、図12(A)に示すように、内部に拡張用流体が注入された状態で断面略円形状を有する。この状態から、バルーン30は、突出する羽根部32が形成されることで、図12(B)に示すように、第2形状形成部122cに押圧されて羽根部32の外側面を構成する羽根外側部34aと、ブレード122の先端部に押圧されて羽根部32の内側面を構成する羽根内側部34bと、第1形状形成部122bに押圧されて羽根外側部34aと羽根内側部34bの間に位置する中間部34cとが形成される。
次に、バルーンカテーテル10をプリーティング部120から引き抜く。次に、バルーンカテーテル10のバルーン30を、図10に示すフォールディング部130内に挿入する。フォールディング部130のブレード132は既に50〜60度程度に加熱されている。
羽根部32が形成されたバルーン30をフォールディング部130に挿入した後、図11に示すように、ブレード132を回動させる。これにより、各ブレード132の先端部132bが互いに近づき、ブレード132間の中心領域が狭まる。これに伴い、ブレード132間の中心領域に挿入されたバルーン30は、各ブレード132の先端部132bによって羽根部32が周方向に寝かされた状態となる。ブレード132は、バルーン30の挿入前に予め加熱されており、ブレード132によってバルーン30が加熱されるので、ブレード132により周方向に寝かされた羽根部32は、そのままの形を維持できる。このとき、各ブレード132のバルーン30と接触する表面は、第3フィルム133および第4フィルム134によって覆われており、バルーン30はブレード132の表面に直接接触することはない。
バルーン30の羽根部32が折り畳まれると、図12(C)に示すように、羽根内側部34bと中間部34cが重なって接触し、バルーン30の表面同士が対向して重なる重複部35が形成される。そして、中間部34cの一部および羽根外側部34aは、羽根内側部34bに覆われず、外側に露出する。また、バルーン30が折り畳まれた状態では、羽根部32の根元部と中間部34cとの間に、根元側空間部36が形成される。根元側空間部36の領域では、羽根部32と中間部34cとの間に、微小な隙間が形成される。一方、羽根部32の根元側空間部36よりも先端側の領域は、中間部34cに対して密接した状態となっている。
バルーン30の羽根部32を畳んだ後、ブレード132を元の位置に戻すように回動させる。次に、バルーン30をフォールディング部130から引き抜く。これにより、バルーン30の折り畳みが完了する。
次に、薬剤コート層40を有するバルーンカテーテル10の作用を説明する。
折り畳んだバルーン30を血管内に挿入して狭窄部に配置した後、図1、2に示すように、ハブ26の近位開口部27より、インデフレーターまたはシリンジ等を用いて拡張用流体を所定量注入し、拡張ルーメン23を通じてバルーン30の内部に拡張用流体を送り込む。これにより、折り畳まれたバルーン30が拡張する。これにより、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40が、狭窄部に接触する。薬剤コート層40を生体組織に押し付けると、薬剤コート層40に含まれる水溶性の低分子化合物である添加剤43、53が溶けつつ、薬剤が生体へ送達される。また、バルーン30が拡張することで添加剤43、53に亀裂が入って溶けやすくなり、添加剤43、53から薬剤結晶である長尺体42および非晶質部52が放出されやすくなる。
バルーン30の内部から、拡張用流体をハブ26の近位開口部27より吸引して排出すると、バルーン30が収縮して折り畳まれた状態となる。これにより、バルーンカテーテル10を、血管より抜去できる。
以上のように、実施形態に係る薬剤コート層40は、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40であって、バルーン30の表面に設けられる水不溶性の薬剤結晶を含む結晶層41と、バルーン30の表面の結晶層41と異なる位置に所定の範囲で設けられるとともに、アモルファス型の水不溶性薬剤を含むアモルファス層51と、を有する。
上記のように構成した薬剤コート層40は、薬剤の組織移行性が速く即効性のあるアモルファス層51と、薬剤の組織移行性の持続性のある結晶層41を有するため、速効性と持続性の両方の効果を備えることができる。また、アモルファス層51は、結晶層41と異なる位置に所定の範囲に設けられるため、任意の望ましい比率(面積比率または質量比率)で配置できる。したがって、薬剤コート層40は、薬剤の即効性と持続性を任意に調節しやすい。
アモルファス層51は、結晶層41に囲まれて点状または線状に設けられる。これにより、アモルファス層51を結晶層41の広い範囲に、望ましい比率で配置できる。
バルーン30は、径方向の外側へ突出するとともにバルーン30の周方向に沿って折り畳まれる複数の羽根部32を有し、結晶層41は、羽根部32が折り畳まれるバルーン30の外部へ露出する位置に設けられ、アモルファス層51は、羽根部32が折り畳まれることで重なって対向するバルーン30の表面に設けられてもよい。これにより、即効性があるがバルーン30から剥がれやすいアモルファス層51を、外部から力が作用し難い羽根部32の隙間に配置して、血管内での搬送時に剥がれることを抑制できる。そして、バルーン30から剥がれ難い結晶層41をバルーン30の外部へ露出する位置に配置することで、アモルファス層51と結晶層41を、バランスよくバルーン30に配置できる。
結晶層41は、長軸を有する水不溶性薬剤の結晶である複数の長尺体42を有する。これにより、毒性が低く、狭窄抑制効果が高い結晶である長尺体42を有する結晶層41を、アモルファス層51とともに生体へ有効に作用させることができる。
水不溶性薬剤は、ラパマイシン、パクリタキセル、ドセタキセル、およびエベロリムスからなる群から選択される少なくとも1つを含有する。これにより、結晶である長尺体42によって、血管内の狭窄部の再狭窄を良好に抑制できる。
また、本実施形態に係る薬剤コート層40の形成方法は、バルーン30の表面に設けられる薬剤コート層40の形成方法であって、水不溶性薬剤および溶媒を含むコーティング溶液をバルーン30の表面に供給して乾燥させて薬剤結晶を含む結晶層41をバルーン30の表面に形成するステップと、薬剤結晶を溶解可能な溶媒を結晶層41へ部分的に供給して薬剤結晶を部分的に溶解させるステップと、薬剤結晶を溶解させた溶媒を乾燥させてアモルファス型の薬剤を含むアモルファス層51を形成するステップと、を有する。
上記のように構成した薬剤コート層40の形成方法は、薬剤結晶を含む結晶層41をバルーン30に形成した後、その一部の薬剤結晶をアモルファス型に変質させてアモルファス層51とすることができる。このため、薬剤の即効性があるアモルファス層51と、薬剤の持続性が高い結晶層41を、任意の望ましい比率(面積比率または質量比率)で容易に形成できる。また、アモルファス層51は、結晶層41を変質させて形成されるため、結晶層41と異なる範囲に位置しつつも、結晶層41との間に隙間がなく、結晶層41から連続して形成される。このため、バルーン30の表面に、無駄なく効率的にアモルファス層51および結晶層41を形成できる。
薬剤結晶を溶解させるステップにおいて、薬剤結晶を溶解可能な溶媒を結晶層41へ点状または線状の範囲に供給する。これにより、アモルファス層51を結晶層41の広い範囲に、任意の望ましい比率で配置できる。したがって、即効性のあるアモルファス層51および持続性のある結晶層41を、望ましい比率で設けることができる。
なお、上述したバルーンコーティング装置60は、図4に示すように、ディスペンシングチューブ94を備える塗布機構部90と、溶媒用チューブ114を備える溶媒供給部110が、同じ移動機構部80に設置されている。しかしながら、塗布機構部90と、溶媒供給部110は、個別に移動可能な異なる移動機構部に設けられてもよい。または、塗布機構部90および溶媒供給部110は、異なる装置に設けられてもよい。すなわち、上述したバルーンコーティング装置60から塗布機構部90を除いた装置と、上述したバルーンコーティング装置60から溶媒供給部110を除いた装置の2つが存在してもよい。または、塗布機構部および溶媒供給部は、共用される1つの構成であり、コーティング溶液と溶媒を入れ替え可能であってもよい。この場合、1つのチューブから、コーティング溶液と溶媒を選択的に供給可能である。
<第2実施形態>
第2実施形態に係る薬剤コート層140は、図13に示すように、バルーン30を折り畳んだ後にアモルファス層142が形成される点で、第1実施形態と異なる。なお、第1実施形態と同様の機能を有する部位には、同一の符号を付し、説明を省略する。
薬剤コート層140は、複数の薬剤結晶を有する結晶層141と、アモルファス型の薬剤を有するアモルファス層142と、を有している。結晶層141は、羽根部32が折り畳まれるバルーン30の外部へ露出する位置に設けられる。アモルファス層142は、羽根部32が折り畳まれることで重なって対向するバルーン30の表面に設けられる。すなわち、アモルファス層142は、折り畳まれる羽根部32の隙間に設けられる。
薬剤コート層140を形成する際には、まず、第1実施形態と同様に、バルーンコーティング装置60を用いてアモルファス層51を形成する前までの方法により、バルーン30の表面に結晶層41を形成する(図6を参照)。すなわち、塗布機構部90のディスペンシングチューブ94からコーティング溶液をバルーン30に塗布して結晶層41を形成し、溶媒を供給する溶媒供給部110を使用しない。
次に、第1実施形態の方法とは異なり、アモルファス層を形成する前に、図8〜11に示すバルーン折り畳み装置により、バルーン30に羽根部32を形成し、羽根部32を折り畳む。次に、図14に示すように、折り畳まれたバルーン30の羽根部32の隙間に、薬剤結晶を溶解可能な溶媒を供給する。溶媒は、例えば、シリンジ150により供給される。なお、溶媒の供給方法は、これに限定されない。バルーン30の羽根部32の隙間に供給された溶媒は、毛細管現象により、バルーン30の羽根部32の隙間の全体に広がる。これにより、バルーン30の羽根部32の隙間に位置する結晶層41の薬剤結晶が溶解した状態となる。この後、溶媒が蒸発することで、図13に示すように、アモルファス型の薬剤を有するアモルファス層142が形成される。そして、3つの全ての羽根部32の隙間に溶媒を供給し、3つの羽根部32の隙間に、アモルファス層142を形成できる。バルーン30の外部に露出している部位に位置する結晶層41は、溶媒が供給されず、結晶層141としてバルーン30の表面に残る。
以上のように、第2実施形態に係る薬剤コート層140の形成方法は、薬剤結晶を溶解させるステップの前に、結晶層41を形成したバルーン30に径方向の外側へ突出する羽根部32を形成するステップと、羽根部32をバルーン30の周方向に沿って折り畳むステップと、を有し、薬剤結晶を溶解させるステップにおいて、羽根部32が折り畳まれることで重なるバルーン30の隙間に、薬剤結晶を溶解可能な溶媒を供給する。これにより、即効性があるがバルーン30から剥がれやすいアモルファス層142を、外部から力が作用し難い羽根部32の隙間に配置して、血管内での搬送時に剥がれることを抑制できる。そして、バルーン30から剥がれ難い結晶層141をバルーン30の外部へ露出する位置に配置することで、アモルファス層142と結晶層141を、バランスよくバルーン30に配置できる。
なお、本発明は、上述した実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内において当業者により種々変更が可能である。例えば、上述の実施形態に係るバルーンカテーテル10は、ラピッドエクスチェンジ型(Rapid exchange type)であるが、オーバーザワイヤ型(Over−the−wire type)であってもよい。
また、図15(A)に示す第1実施形態の第1の変形例のように、アモルファス層51は、線状の範囲に形成されてもよい。また、図15(B)に示す第1実施形態の第2の変形例のように、アモルファス層51は、周方向へ連続し、かつ軸方向へ離れている螺旋状の範囲に形成されてもよい。