本発明は、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いた心不全検出方法、心不全検出用器具、サンドイッチ免疫学的測定方法、両抗体の組合せなどに関連する。
心不全(heart failure)は、心臓の血液拍出が不充分であり、全身が必要とするだけの循環量を保てない病態のことである。心臓に影響を及ぼす多くの病気、例えば、先天性心疾患、弁膜疾患(例えば、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症など)、心筋疾患(例えば、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心筋炎など)、糸状虫症、血管疾患(例えば、血栓症、塞栓症、動脈硬化症など)、高血圧症などが心不全の原因となる。
心不全は、初期病態においてはほとんど顕著な症状を示さない場合が多く、その後、数日から場合によっては数年かけて、徐々に息切れ、疲労などの症状が顕在化する。心不全症状は、長い間安定している場合もあるが、気付かない間にゆっくりと進行する場合も多々ある。全般的に、心不全は充分な治療が行われなければ次第に重症度が増悪していく進行性の疾患であり、予後も悪い場合が多いことから、早期発見が重要である。
ANP(Atrial natriuretic peptide;心房性ナトリウム利尿ペプチド)は、28個のアミノ酸からなる生理活性を有したペプチドである。ANPは、心房の体液量増加、内圧上昇などが刺激となって心房筋細胞などから血液中へ分泌される。ホルモンとして作用し、腎臓・血管などを標的器官とし、強力なナトリウム利尿作用、血管拡張・血圧下降作用を有する。但し、血液中での半減期は約100秒であり、その血中濃度を測定することは困難である。
ANPは、心房筋細胞などにおいて、その前駆体proANP(Proatrial natriuretic peptide)として生合成される。ANPの前駆体proANPは、126個のアミノ酸からなり、アミノ酸配列1〜98位のNT-proANP(N-terminal proANP)と、同99〜126位のANPとからなる。心房筋細胞などから血液中に分泌される際に、NT-proANPとANPとに切断される。
ヒト・イヌなどで、うっ血性心不全などの際、血液中のANPが増加すること、そのため、ANPが心不全などのマーカーとして有用なことが知られている。しかし、上述の通り、ANPは血液中での安定性が低くその半減期が短いため、その簡易かつ高精度な測定が難しい。そこで、ANPの代わりに、血液中のNT-proANPを心不全などのマーカーとして利用することが試みられ、種々提案されている。
例えば、特許文献1には、Nペプチドのアミノ酸配列43〜66位を認識する第一又は第二の抗体を用いたサンドイッチ免疫学的測定法などが、特許文献2には、NT-proANPのアミノ酸配列53〜72位を認識する第一の抗体と同73〜90位を認識する第二の抗体とを用いたサンドイッチイムノアッセイなどが、特許文献3には、イヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜40位を認識する抗体と同74〜82位を認識する抗体とを用いた免疫学的測定方法及びイヌの心疾患検出方法などが、それぞれ記載されている。
なお、非特許文献1には、ヒトのNT-proANPが、血液循環中に、アミノ酸配列1〜30位、同31〜67位、同79〜98位の三つにさらに切断・分解されること、及び、ヒトのNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位の断片がうっ血性心不全のマーカーとして最も感度が高かったことが記載されている。
特開平8-226919号公報
特表2006-523298号公報
特開2014-210761号公報
Sreedevi Daggubati, James R. Parks, Rose M. Overton, Guillermo Cintron, Douglas D. Schocken, David L. Vesely, "Adrenomedullin, endothelin, neuropeptide Y, atrial, brain, and C-natriuretic prohormone peptides compared as early heart failure indicators". Cardiovascular Research (36)246-255, 1997
本発明は、より簡易かつ高精度に心不全を検出することなどを目的とする。
本発明者らは、血液循環中において実際にはNT-proANPの全長はほとんど保持されておらず早期に断片化されている可能性が高いことを独自に見出すとともに、その知見に基づき、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位であり、かつエピトープが相互に重複しない二種類の抗体の作製を試みてそれに成功し、さらに、それらの抗体を用いたサンドイッチ免疫学的測定を行うことで、簡易かつ高精度に生体試料中のNT-proANPを測定でき、心不全を検出できることを実証した。
そこで、本発明では、生体から採取された試料を用いた心不全検出方法であって、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより心不全を検出する心不全検出方法などを提供する。
本発明では、捕捉用と標識用の二種類の抗体のエピトープが、いずれもNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位の中にあるため、たとえNT-proANPが、血液循環中に、アミノ酸配列1〜30位、同31〜67位、同68〜98位の三つにさらに切断・分解された場合であっても、切断・分解前のNT-proANPと同じ物質量の断片を検出することが可能である。従って、これらの抗体の組合せを用いてNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより、簡易かつ高精度に生体試料中のNT-proANPを測定でき、心不全を検出できる。
サンドイッチ免疫学的測定方法として、例えば、イムノクロマトグラフィー法を採用してもよい。イムノクロマトグラフィー法によって、より具体的には、例えば、(1)毛細管現象によって液体が展開していく流路の上流側に前記試料を供給する手順と、(2)前記液体を前記流路の上流側から下流側へ展開させつつ、順に、標識物質で標識された前記第二抗体が保持された第一領域、及び、前記流路上に前記第一抗体が固定化された第二領域を前記試料に通過させる手順と、によって、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片を測定することにより、実質的に、試料を流路の上流側に供給するだけの簡易な作業でNT-proANPを測定し心不全を検出することが可能となる。また、この方法は比較的簡易な構成の器具として実現化することが可能であり、その器具の量産化も比較的容易であるため、多くの個体に対し、比較的簡易かつ低廉に、心不全の検査・検出を行うことが可能であり、汎用性が高い。
本発明は、ヒトを含む哺乳動物の心不全の検出に適用でき、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ又はネコの心不全を検出するのにも有効である。例えばイヌ又はネコでは、僧帽弁閉鎖不全症、心筋症、糸状虫症など、重篤で比較的発生頻度も高い心疾患が存在し、それらの疾患を早期に発見するために、心不全の早期発見に対する必要性は高い。一方、非ヒト哺乳動物の場合、その個体自身が自ら不調を訴えることはできないため、飼主の観察や定期診断などによって心不全の微細な徴候を発見するしかなく、ヒトと比べて早期発見が特に難しい場合が多い。それに対し、本発明では、それらの個体から採取された試料でサンドイッチ免疫学的測定を行うだけの簡易な手順で、高精度に心不全を検出することが可能であり、非ヒト哺乳動物における心不全検出に特に有用性が高い。
本発明により、簡易かつ高精度に心不全を検出することが可能となる。
<本発明に係る抗体の組合せについて>
本発明は、サンドイッチ免疫学的測定に用いる捕捉用及び標識用の二種類の抗体の組合せであって、前記両抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位であり、かつそれぞれのエピトープが相互に重複しない抗体の組合せをすべて包含する。
配列番号1は、イヌproANPのアミノ酸配列の例であり、その1〜98位がNT-proANP、99〜126位がANPである。proANPが心房筋細胞などから血液中に分泌される際に、セリンプロテアーゼなどによってNT-proANPとANPとに切断されるとされている。
NT-proANP(配列番号1の配列中の1〜98位)には、さらに、30-31位間、67-68位間に、それぞれアスパラギン酸プロテアーゼ、セリンプロテアーゼによる切断部位が存在し、ヒトでは、NT-proANPは、血液循環中に、アミノ酸配列1〜30位、同31〜67位、同68〜98位の三つにさらに切断・分解されるとされている。
本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定では、捕捉用の第一抗体及び標識用の第二抗体に、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位であり、かつそれぞれのエピトープが相互に重複しない抗体を用いる。二種類の抗体のエピトープが相互に重複しないことで、両抗体がそれぞれNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位又はその部位を含む断片中の別の領域に結合できるため、即ち競合せずに同時に結合できるため、一方を捕捉用、一方を標識用とすることで、サンドイッチ免疫学的測定に適用できる。また、両抗体ともNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位に結合するため、測定時にNT-proANPの全長が保持されている場合だけでなく、たとえ測定前にNT-proANPが30-31位間及び/又は67-68位間で切断された場合であっても、切断・分解前に元々存在したNT-proANPと同じ物質量を検出することが可能である。従って、これらの抗体の組合せを用いてNT-proANPのサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより、高精度に生体試料中のNT-proANPを測定でき、心不全を検出できる。
この二種類の抗体は、心不全を検出したい動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位を認識でき、互いに認識領域が重複しないものの組合せであればよい。本発明は、どの動物種のNT-proANPのアミノ酸配列であるか、認識領域がNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中の具体的にどの領域かなどによって狭く限定されない。また、モノクローナル抗体が好適であるが、それのみに狭く限定されない。
例えば、心不全を検出したい動物種によって、その動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの領域を認識できる抗体、即ち、その動物種のNT-proANPのいずれかのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位をエピトープとする抗体を採用してもよい。例えば、ヒト、イヌ、ネコの心不全を検出する場合は、それぞれ、ヒトNT-proANP、イヌNT-proANP、ネコNT-proANPのアミノ酸配列に基づいて抗体を作製する。なお、一対の抗体の両方のエピトープが動物種間で共通する配列である場合、その抗体は、元々の動物種とは異なる動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの領域をも認識できるため、同一の抗体の組合せで、二種以上の動物種の心不全を検出することが可能である。例えば、NT-proANPの45〜64位のアミノ酸配列は、ヒトとイヌとで完全同一であるであるため、ヒト又はイヌのNT-proANPのアミノ酸配列45〜64位中のいずれかの領域を認識できる一対の抗体、即ち、同45〜64位中のいずれかの部位をエピトープとする一対の抗体を採用した場合、同一の抗体の組合せでヒトとイヌの両方のNT-proANPを測定でき、心不全を検出できる。
例えば、(1)一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位、もう一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体の組合せ、(2)一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜42位中のいずれかの部位、もう一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体の組合せ、若しくは(3)一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜42位中のいずれかの部位、もう一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列49〜60位中のいずれかの部位である抗体の組合せなどを採用してもよい。その他、例えば、一対の抗体の組合せのうち一方の抗体のエピトープがNT-proANPのアミノ酸配列39〜51位又は39〜54位中のいずれかの部位であるものを採用してもよい。
これらの組合せに係る各抗体は、いずれも公知の方法によって作製することができる。
例えば、これらの抗体を作製するために用いる抗原として、心不全を検出したい動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位と同じアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いてもよい。例えば、NT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位のアミノ酸配列を有する合成ペプチド、及び、同55〜64位中のいずれかの部位のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いてそれぞれ動物を免疫することで、各抗体を作製してもよい。また、例えば、NT-proANPのアミノ酸配列31〜42位中のいずれかの部位、同39〜51位又は39〜54位中のいずれかの部位、同49〜60位中のいずれかの部位のアミノ酸配列を有する合成ペプチドを用いて動物を免疫することで、一対のうちの一方の抗体を作製してもよい。これらの合成ペプチドは、公知の方法で化学合成できる。
これらの合成ペプチドを、例えば、ウシ血清アルブミン(BSA)、ヘモシアニン(KLH)、ウシチオグロブリン(BTG)などの公知のキャリアタンパク質、若しくはポリアミノ酸類、ポリスチレン類、ポリアクリル類などの合成高分子担体に結合させてから、動物を免疫してもよい。合成ペプチドとキャリアタンパク質又は合成高分子担体との結合は、公知の方法、例えば、ジアゾニウム化合物、ジアルデヒド化合物、ジマレイミド化合物、マレイミド活性エステル化合物、カルボジイミド化合物などを用いた方法により行ってもよい。
このように調製した抗原を、動物に投与して免疫する。免疫に用いる動物は特に限定されない。免疫する動物として、例えば、サル、ウサギ、イヌ、モルモット、マウス、ラット、ヒツジ、ヤギなどを用いてもよく、好適にはマウスを用いてもよい。これらの動物への抗原の投与量・投与方法も公知の方法を採用すればよく、特に限定されない。例えば、腹腔内投与、静脈投与、皮下投与などで、4日〜6週間ごとに計2〜10回、免疫してもよい。また、抗原を適切なアジュバント(例えば、フロイントの完全アジュバントなど、フロイント不完全アジュバントなど)を適量混合して乳濁させてから動物に投与して免疫してもよい。
モノクローナル抗体を作製するために、その抗体を産生するハイブリドーマを樹立してもよい。ハイブリドーマの樹立は、公知の方法により行うことができる。例えば、免疫した動物のうち抗体価の上昇した個体を選抜し、最終免疫の1〜8日後にその脾臓又はリンパ節を採取し、免疫動物と同一の動物由来のミエローマ細胞と融合して、モノクローナル抗体産生ハイブリドーマ株を作出してもよい。例えば、マウス由来のミエローマ細胞株として、P3(P3-X63Ag8、P3U1(P3-X63Ag8U1))、X63.653(X63Ag8.653)、SP2(Sp2/0-Ag14)、FO、NS-1(NSI/1-Ag4-1)、NSO/1、FOX-NYなどを、ラット由来のミエローマ細胞株として、例えば、Y3-Ag1.2.3、YB2/0、IR983Fなどを用いてもよい。例えば、マウスを免疫した場合は、マウス由来のミエローマ細胞が好適である。脾臓細胞とミエローマ細胞との融合には、例えば、PEG(ポリエチレングリコール)を用いてもよい。例えば、免疫した動物から採取した抗体産生細胞(脾臓、リンパ節などの細胞)とミエローマ細胞とを培養液中で1:1〜10:1程度の割合でよく混合し、PEG溶液(例えば、平均分子量1,000〜6,000程度のもの)を37℃に加温し、両細胞にPEGを30〜60%(w/v)の濃度で添加し、混合し、両細胞を融合する。細胞融合後、PEGを除去し、融合細胞を所定濃度で播種し、HAT選択培地(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む培地)などで数日〜数週間培養し、ハイブリドーマ以外の細胞を死滅させてハイブリドーマを選択培養する。選択培養液で生存したハイブリドーマの中から、目的の抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングする。スクリーニング方法は特に限定されないが、例えば、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)法、フローサイトメトリー法、ウエスタンブロット法、ドットブロット法、ラジオイムノアッセイ法などの系で抗原とハイブリドーマ培養上清中の抗体との結合性の有無を調べることにより、目的のハイブリドーマ株を選抜できる。そして、目的の抗体を産生するハイブリドーマを選抜し、必要に応じてモノクローニングし、抗体産生ハイブリドーマを樹立する。
例えば、樹立したハイブリドーマ株を公知の培地・条件で培養し、その培養上清を得ることで、モノクローナル抗体を取得できる。また、例えば、そのハイブリドーマ株をマウスなどの腹腔内に投与して増殖させ、その腹水を回収することで、高濃度のモノクローナル抗体を得ることができる。
培養上清・腹水中などに含有する抗体を公知の方法で精製してもよい。例えば、アルコール沈殿法、等電点沈殿法、電気泳動法、イオン交換カラム(例えば、DEAE)による吸脱着法、超遠心法、ゲルろ過法、活性吸着剤(プロテインA、プロテインGなど)を用いた方法、アフィニティークロマトグラフィー法などにより、抗体を高純度に精製することができる。
樹立されたハイブリドーマ株として、例えば、受託番号NITE BP-02602(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、所在地:日本国2920818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、原寄託日:2017年12月27日)、受託番号NITE BP-02603(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、所在地:日本国2920818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、原寄託日:2017年12月27日)、受託番号NITE BP-02604(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、所在地:日本国2920818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、原寄託日:2017年12月27日)、受託番号NITE BP-02605(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、所在地:日本国2920818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、原寄託日:2017年12月27日)、受託番号NITE BP-02606(寄託機関:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター、所在地:日本国2920818千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8、原寄託日:2017年12月27日)のいずれかを一対の組み合わせとして用いてもよい。受託番号NITE BP-02602のハイブリドーマ株は、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜42位中のいずれかの部位である抗体を産生する株であり、受託番号NITE BP-02603のハイブリドーマ株は、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列49〜60位中のいずれかの部位である抗体を産生する株であり、受託番号NITE BP-02604のハイブリドーマ株は、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位である抗体を産生する株であり、受託番号NITE BP-02605のハイブリドーマ株は、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体を産生する株であり、受託番号NITE BP-02606のハイブリドーマ株は、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体を産生する株である。従って、例えば、(1)受託番号NITE BP-02602のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体、及び、受託番号NITE BP-02603のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体を本発明に係る抗体の組合せ、(2)受託番号NITE BP-02602のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体、及び、受託番号NITE BP-02604のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体を本発明に係る抗体の組合せ、(3)受託番号NITE BP-02602のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体、及び、受託番号NITE BP-02605又は同NITE BP-02606のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体を本発明に係る抗体の組合せ、(4)受託番号NITE BP-02604のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体、及び、受託番号NITE BP-02605又は同NITE BP-02606のハイブリドーマ株の産生するモノクローナル抗体を本発明に係る抗体の組合せなどが採用可能である。
<本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定方法について>
本発明は、上述の抗体の組合せを用いたサンドイッチ免疫学的測定方法、即ち、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いたサンドイッチ免疫学的測定方法をすべて包含する。
上述のように、本発明では、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位であり、かつそれぞれのエピトープが相互に重複しない捕捉用の第一抗体及び標識用の第二抗体を用いる。そのため、両抗体を用いることで、血液中などに存在する全長のproANP(1〜126位)、全長のNT-proANP(1〜98位)に加え、31〜98位又は31〜126位のアミノ酸配列を有した断片(30-31位間で切断された産物)、1〜67位のアミノ酸配列を有した断片(67-68位間で切断された産物)、さらには31〜67位のアミノ酸配列を有した断片(30-31位間及び67-68位間で切断された産物)なども、すり抜けさせずに捕捉し検出することが可能である。即ち、切断されたかどうか、若しくはどの部位で切断されたかに関わらず、原理的に、proANP又はその切断産物であるNT-proANPと同等の物質量を検出できる。
上述の一対の抗体をそれぞれ捕捉用及び標識用として用いることで、サンドイッチ免疫学的測定方法により、NT-proANP又はその断片を簡易かつ高精度に捕捉し、検出することができる。サンドイッチ免疫学的測定方法については、公知の方法を広く採用でき、特に限定されない。例えば、ELISA(Enzyme-linked immunosorbent assay)などのサンドイッチ酵素免疫測定法(EIA法)、サンドイッチ法に基づくイムノクロマトグラフ法、サンドイッチ放射免疫測定法(RIA法)、サンドイッチ蛍光免疫測定法(FIA法)、サンドイッチ発光免疫測定法(CLIA法)、サンドイッチ発光酵素免疫測定法(CLEIA法)などを採用してもよい。
ELISA法によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、捕捉用の一次抗体を固相化する手順と、試料を添加する手順と、酵素標識された第二抗体を添加する手順と、基質溶液を添加する手順と、吸光度を測定する手順とを含む方法により行ってもよい。具体的には、例えば、まず、96ウエルプレート、ポリスチレンビーズなどのビーズ、チューブ、ニトロセルロースなどのメンブレンなどの支持体に捕捉用の第一抗体を固相化し、洗浄し、ブロッキング剤を添加し、洗浄する。次に、試料を添加し、インキュベートした後、洗浄する。次に、酵素標識された標識用の第二抗体を添加し、インキュベートした後、洗浄する。次に、酵素に対する色原性基質溶液を添加し、一定時間、酵素反応により基質を色素に変化させた後、反応停止液を添加して、酵素反応を停止させる。酵素反応停止後、吸光度を測定し、この色素の呈色の度合に基づいて、測定試料中の抗原量を算出する。これらの手順により、NT-proANP又はその断片を定量的に測定することができる。標識に用い得る酵素として、例えば、βガラクトシダーゼ(βGAL)、アルカリホスファターゼ(ALP)、西洋ワサビペルオキシダーゼ(HRP)などを、色原性基質として、例えば、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン)などを、反応停止液として、例えば、硫酸などの酸を用いてもよい。
イムノクロマトグラフ法によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、毛細管現象によって液体が展開していく流路の上流側に前記試料を供給する手順と、前記液体を前記流路の上流側から下流側へ展開させつつ、順に、標識物質で標識された前記第二抗体が保持された第一領域、及び、前記流路上に前記第一抗体が固定化された第二領域を前記試料に通過させる手順と、を含む方法により行ってもよい。流路上の特定領域に捕捉用の第一抗体を固定化した上で、その流路上の上流に試料を供給することで、試料が流路の上流から下流へ浸透移動していき、途中で試料中の抗原と標識された第二抗体とが結合し、その抗原抗体複合体がさらに下流へ浸透移動していく。そして、その抗原抗体複合体が捕捉用の第一抗体に捕捉され、その領域に留まるため、標識物質によるその領域の着色の度合に基づき、NT-proANP又はその断片を半定量的又は定性的に、かつ簡易かつ高精度に測定することができる。なお、標識物質による第二抗体の標識化は公知の方法により行うことができる。標識物質として、例えば、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体などの有機高分子のラテックス着色粒子、金コロイド、銀コロイドなどの金属コロイド、金属硫化物などの金属粒子などを用いてもよい。
サンドイッチ放射免疫測定法(RIA法)によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、捕捉用の一次抗体を固相化する手順と、試料を添加する手順と、放射性同位元素で標識された第二抗体を添加する手順と、放射活性を測定する手順とを含む方法により行ってもよい。具体的には、例えば、まず、試料に、捕捉用の第一抗体を固相化したビーズを加えて混和し、25〜37℃で、1〜4時間インキュベートし、洗浄する。次に、放射性同位元素で標識された第二抗体を含む溶液を加え、25〜37℃で、1〜4時間インキュベートし、洗浄する。次に、ビーズを回収し、ビーズに結合した抗原抗体複合体の放射能量をγ線カウンターなどで検出する。標識に用いる放射性元素として、例えば、14C、3H、32P、125I、131Iなどを用いてもよい。放射性同位元素による抗体の標識化は、公知の方法、例えば、クロラミンT法、ペルオキシダーゼ法、Iodogen法、ボルトンハンター法などで行うことができる。
サンドイッチ蛍光免疫測定法(FIA法)によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、捕捉用の一次抗体を固相化する手順と、試料を添加する手順と、蛍光物質で標識された第二抗体を添加する手順と、蛍光強度を測定する手順とを含む方法により行ってもよい。蛍光物質として、例えば、フルオレセイン、フルオレサミン、フルオレスカミン、フルオレセインイソチオシアネート、テトラメチルローダミンイソチオシアネートなどを用いてもよい。
サンドイッチ化学発光免疫測定法(CLIA法)によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、捕捉用の一次抗体を固相化する手順と、試料を添加する手順と、発光物質で標識された第二抗体を添加する手順と、発光強度を測定する手順とを含む方法により行ってもよい。発光物質として、例えば、ルシフェリン、ルミノール、ルミノール誘導体、アクリジニウムエステルなどを用いてもよい。
サンドイッチ化学発光酵素免疫測定法(CLEIA法)によるサンドイッチ免疫学的測定では、公知の方法、例えば、捕捉用の一次抗体を抗体結合性磁性粒子に固相化する手順と、試料を添加する手順と、蛍光物質で標識された第二抗体を添加する手順と、磁力によってその複合体を集磁する手順と、発光強度を測定する手順とを含む方法により行ってもよい。発光物質として、例えば、ルシフェリン、ルミノール、ルミノール誘導体、アクリジニウムエステルなどを用いてもよい。
<本発明に係る心不全検出方法について>
本発明は、上述のサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより心不全を検出する心不全検出方法、即ち、生体から採取された試料を用いた心不全検出方法であって、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより心不全を検出する心不全検出方法をすべて包含する。
上述の通り、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位で、かつ前記第一抗体と重複しない部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANPのサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより、NT-proANP又はその断片を簡易かつ高精度に捕捉し、検出することができる。ANPの前駆体であるproANPは、心房の内圧上昇・体液量増加などが刺激となって心房筋細胞などから血液中に分泌され、その際にNT-proANPとANPとに切断される。そのため、うっ血性心不全などで血液中のANPが増加した際には、血液中のNT-proANP又はその断片も同じ物質量で増加すると推定できる。ANPよりもNT-proANP又はそのアミノ酸配列31〜67位を含む断片の方が、安定性が高く半減期が長いと推定されるため、本発明に係る方法でNT-proANP又はその断片を高精度に検出することにより、心不全を簡易かつ高精度に検出できる。
本発明は、心不全、即ち、心臓の血液拍出が不充分であり、全身が必要とするだけの循環量を保てない病態の検出に適用できる。特に、うっ血性心不全など、心房の内圧上昇・体液量増加などの症状を示す病態を早期発見するのに有効である。例えば、ISACHC分類I〜II、若しくはACVIM(American College of Veterinary Internal Medicine、以下同じ)ガイドラインのステージA〜B2、即ち無症状〜中程度の心房性慢性心不全の検出などに適用してもよい。また、本発明によって心不全を早期にかつ高精度に検出できるため、心不全の原因となる疾患(先天性心疾患を除く。)、例えば、弁膜疾患(例えば、僧帽弁閉鎖不全症、三尖弁閉鎖不全症、大動脈弁閉鎖不全症、肺動脈弁閉鎖不全症など)、心筋疾患(例えば、拡張型心筋症、肥大型心筋症、心筋炎など)、糸状虫症、血管疾患(例えば、血栓症、塞栓症、動脈硬化症など)、高血圧症などの検出・早期発見にも有効である。
上述のサンドイッチ免疫学的測定による測定値は、心不全の進行度と有意な相関性を表す。従って、例えば、上述の、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行う手順と、該測定値によって心不全の進行度を判定する手順と、によって、得られた定量的測定値に基づいて心不全の進行ステージを判定してもよい。
また、例えば、心不全の進行ステージに対応する閾値を予め設定しておき、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行う手順と、該測定値が、前記閾値を越えていた場合に、該閾値に対応した進行ステージであると判定する手順と、によって、心不全の進行ステージを判定してもよい。これらにより、心不全の検出にとどまらず、その進行度まで簡易かつ高精度に検出することができる。
本発明に係る心不全検出方法は、ヒトを含む哺乳動物の心不全の検出に適用でき、非ヒト哺乳動物、例えば、イヌ又はネコの心不全を検出するのにも有効である。その場合、上述のように、それぞれ、心不全を検出したい動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの領域を認識できる一対の抗体、即ち、その動物種のNT-proANPのいずれかのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位をエピトープとする一対の抗体を用いてサンドイッチ免疫学的測定を行い、その動物種における心不全を検出する。例えば、ヒトNT-proANP、イヌNT-proANP、ネコNT-proANPのアミノ酸配列に基づいて一対の抗体を作製し、それらを用いて、それぞれ、ヒト、イヌ、ネコの心不全を検出するようにしてもよい。
なお、一対の抗体の両方のエピトープが動物種間で共通する配列である場合、その抗体は、元々の動物種とは異なる動物種のNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの領域をも認識できるため、同一の抗体の組合せで、二種以上の動物種の心不全を検出することが可能である。例えば、イヌNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位及び55〜64位は、ヒトNT-proANPの同部位の配列と完全に同一であるため、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位である抗体と、イヌNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体との組合せでサンドイッチ免疫学的測定を行うことにより、同一の抗体の組合せで、イヌとヒトの心不全を検出することが可能である。
心不全検出を行う際に採用するサンドイッチ免疫学的測定方法については、上述のものを広く採用できる。例えば、ELISA法によって、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片を測定する場合には、心不全の発症、その重篤度、若しくはそのリスクの度合いを定量的に測定でき、イムノクロマトグラフ法によって、前記試料中に含有したNT-proANPを測定する場合には、心不全の発症、その重篤度、若しくはそのリスクの度合いを定性的又は半定量的に測定できる。
この心不全検出方法(又はサンドイッチ免疫学的測定方法)に供する試料として、例えば、血液、血清、血漿、尿など、生体から採取された対象動物の体液・排泄物などが挙げられる。
<本発明に係る心拡大検出方法について>
本発明は、心不全の進行度の指標である心拡大(の病態)の検出方法であって、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である捕捉用の第一抗体と、エピトープがNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である標識用の第二抗体とを用いて、前記試料中に含有したNT-proANP又はその断片のサンドイッチ免疫学的測定を行う手順と、該測定値が、予め設定されたカットオフ値を越えていた場合に心拡大と判定する手順と、を含む心拡大検出方法などを広く包含する。
心不全の進行において心拡大が認められる段階は、例えばACVIMガイドラインではステージB2に相当する。ステージCになると心不全を発症し、治療が難しくなるため、ステージB2は、まだ臨床症候がないが、治療の開始が必要なステージであり、早期発見の観点からも非常に重要なステージである。それに対し、本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定において、その測定値が予め設定された特定のカットオフ値を越えているかどうかを判定することにより、心拡大が認められるステージかどうかを、簡易かつ高精度に検出することが可能になる。
カットオフ値の設定は、例えば、サンドイッチ免疫学的測定に用いる抗体の結合性・感度などにより適宜定めることができる。例えば、進行ステージが予め診断されている複数の検体から採取した各試料を用いてそれぞれサンドイッチ免疫学的測定を行い、その測定値に基づいて、適した閾値をカットオフ値として設定してもよい。
<本発明に係る心不全検出用器具について>
本発明は、上述の抗体の組合せを用いてイムノクロマトグラフ法により心不全を検出するための器具をすべて包含する。具体的構成として、例えば、毛細管現象によって液体が展開していく流路に、生体から採取された試料を供給し、イムノクロマトグラフ法によって心不全を検出する心不全検出用器具であって、前記流路が、上流側から順に、(1)前記試料が供給される試料供給部と、(2)標識物質で標識された第二抗体を保持する標識抗体保持部と、(3)細長部材で形成された本体部分であり、前記細長部材の所定位置に長手方向に対して略垂直方向に、略線状に捕捉用の第一抗体が固定化されている測定部と、を備え、前記両抗体のエピトープが、NT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位である心不全検出用器具であってもよい。
図1は、本発明に係る心不全検出用器具の例を示す内部構造の斜視模式図である。なお、本発明は図1に示す形態のもののみに狭く限定されない。
図1の心不全検出用器具Aでは、試料が供給される試料供給部1と、標識物質で標識された第二抗体を保持する標識抗体保持部2と、細長部材で形成された本体部分である測定部3と、展開してきた試料を吸収する吸収部4とが配置され、試料供給部1と標識抗体保持部2、標識抗体保持部2と測定部3、(及び測定部3と吸収部4)がそれぞれ接触していることで、液体が毛細管現象によって上流側C1から下流側C2に向けて展開していく一連の流路Cが形成されている。
試料供給部1は、試料を供給する部位である。例えば、測定対象の試料を試料供給部1の上面の略中央領域11に滴下することで、心不全検出用器具Aに試料を供給する。図1では略矩形の板片上に形成された試料供給部1の下面の少なくとも一部を標識抗体保持部2の上面と面接触させており、供給された試料は、標識抗体保持部2へ展開していく。
試料供給部1の材質は、供給された試料を標識抗体保持部2へ展開させることができるものであればよく、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、セルロース繊維、ガラス繊維、ポリウレタン、ポリアセテート、酢酸セルロース、ナイロンなどで形成されたものを用いてもよい。
標識抗体保持部2は、標識物質で標識された第二抗体を保持する部位である。例えば、一定量の標識化抗体溶液をこの部位に滴下し又は浸し、乾燥しておくことで、標識物質で標識された第二抗体を保持させておくことができる。図1では、略矩形の板片上に形成された標識抗体保持部2の上面の少なくとも一部を試料供給部1の下面と面接触させており、試料供給部1に供給された試料は、標識抗体保持部2に展開していく。また、略矩形の板片上に形成された標識抗体保持部2の下面の少なくとも一部を測定部3の上面と面接触させており、標識抗体保持部2に展開してきた試料は、標識部3に展開していく。その際、試料中にNT-proANP又はその断片が含有していた場合には、そのNT-proANPなどと標識第二抗体との複合体として標識部3に展開していく。
標識抗体保持部2の材質は、試料供給部1から展開してきた試料を測定部3へ展開させることができるものであればよく、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、セルロース繊維、ガラス繊維、不織布などで形成されたものを用いてもよい。なお、上述の通り、標識物質による第二抗体の標識化は公知の方法により行うことができる。標識物質として、例えば、ポリスチレン、スチレン-ブタジエン共重合体などの有機高分子のラテックス着色粒子、金コロイド、銀コロイドなどの金属コロイド、金属硫化物などの金属粒子などを用いてもよい。
測定部3は、シート状の細長部材で形成された本体部分であり、クロマトグラフ担体の部分である。図1では、測定部3の上流側の上面の一部に標識抗体保持部2の下面が面接触しており、試料(試料中にNT-proANP又はその断片が含有していた場合には、NT-proANPなどと標識第二抗体との複合体を含む。)が標識抗体保持部2から測定部3へ展開してきて、さらに測定部3を上流側C1から下流側C2へ展開していく。
測定部3の材質は、毛細管現象によって液体が展開していく材料、即ちクロマトグラフ担体として機能する材料であればよく、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。多孔性担体、例えば、ニトロセルロースメンブレン、セルロースメンブレン、アセチルセルロースメンブレン、ナイロンメンブレン、ガラス繊維、不織布などで形成されたものを用いてもよい。
図1では、測定部3の中辺域32の略下流側C2に、略線状の第一抗体固定化領域31が形成されている。この第一抗体固定化領域31では、測定部3の本体部分である前記細長部材の所定位置に長手方向に対して略垂直方向に、上方視略線状に捕捉用の第一抗体が固定化されている。測定部3を上流側C1から下流側C2に展開していく試料中にNT-proANP又はその断片と標識第二抗体との複合体が含まれている場合、この複合体が第一抗体固定化領域31で捕捉されることで、この領域31に標識物質が集積するため、試料中にNT-proANP又はその断片が含まれている場合には、第一抗体固定化領域31が着色し、抗原の有無が可視化される。この着色の有無又は度合を検出することにより、試料中にNT-proANP又はその断片が含まれているかどうかを測定でき、心不全を検出できる。
吸収部4は、試料供給部1、標識抗体保持部2を経て測定部3の下流側C2まで展開してきた試料を吸収によって回収する部位である。吸収部4の材質として、例えば、ろ紙などの吸収性能が高い材料などを用いてもよい。
このように、本器具Aでは、試料が試料供給部1から吸収部4まで、流路Cの上流側C1から下流側C2へ向けて展開していく中で、標識抗体保持部2でNT-proANP又はその断片と標識第二抗体との複合体が形成され、その複合体が、測定部3の第一抗体固定化領域31で捕捉されることで、標識物質により同領域31が着色する。この着色の有無又は度合を検出することにより、試料中にNT-proANP又はその断片が含まれているかどうかを定性的又は半定量的に測定でき、この結果に基づいて、心不全の発症、その重篤度、若しくはそのリスクの度合いを検出できる。
実施例1では、イヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位中のいずれかの部位に結合するモノクローナル抗体の作製を試みた。
二種類の合成ペプチド、イヌNT-proANPのアミノ酸配列32〜67位の配列のC末端側にシステインを加えた合成ペプチド、同じくイヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜66位のN末端側にシステインを加えた合成ペプチドを準備した。そして、前者の合成ペプチドではそのC末端側に、後者の合成ペプチドではそのN末端側に、それぞれKLHを結合させた。各合成ペプチドへのKLHの結合は、マレイミド系試薬を用いて行った。
作製した二種類のKLH結合ペプチドを抗原としてそれぞれマウスに投与し、免疫した。マウス(Balb/c、メス、7週齢、日本チャールス・リバー社)に、各KLH結合ペプチドを初回には100μgずつ、2回目以降には50μgずつ、2週間ごとに計5回腹腔内投与し、さらに、最終投与の9週間後にブースト免疫として腹腔内に126μg及び尾静脈に60μgを投与した。それぞれ、初回の免疫ではフロイント完全アジュバントに混合して、2〜5回目の免疫ではフロイント不完全アジュバントに混合して、ブースト免疫ではD’s PBS(-)に混合して投与した。
最終免疫の3日後、免疫した各マウスから脾臓を摘出し、50%のポリエチレングリコール(Merck社製)を用いてその脾臓細胞(6.27×108個)とミエローマ細胞(P3U1株;6.27×107個)とを融合し、HAT選択培地で培養して選抜した。
細胞融合の10日後、ELISA法により、イヌNT-proANPに結合する抗体を産生するハイブリドーマ株のスクリーニングを行った。ヤギ抗マウスIgG抗体をウエルの底面に固定化したドライプレートを準備し、0.05%のTween20を含むPBS(以下「PBST」とする。)で3回洗浄した後、各ウエルに25%ブロックエース(DSファーマバイオメディカル株式会社製)溶液200μLを添加して室温で1時間静置し、ブロッキングを行った。次に、PBSTで3回洗浄した後、各ウエルに各ハイブリドーマ株の培養上清を50μLずつ入れ、さらにイヌNT-proANPの31-67位の合成ペプチドのC端側にリジン-ビオチンを結合したものを0.1% BSA含有D’s PBS(-)で調製した後、各ウエルに50μLずつ入れ、室温で3時間反応させた。続いて、0.05% Tween20含有生理食塩水で4回洗浄した後、各ウエルにストレプトアビジンHRPコンジュゲートの溶液を100μLずつ加え、室温で2時間反応させ、さらに4回洗浄した後、OPD(SIGMA社製)を100μLずつ加えて室温で30分間して酵素反応を進行させ、1M硫酸溶液を100μL加えて反応を停止させた。プレートリーダーで、各ウエルの、主波長490nmの吸光度を測定した。
スクリーニングで陽性を示したハイブリドーマ株を、限界希釈法でクローニングし、イヌNT-proANPに結合する抗体を産生するシングルクローンのハイブリドーマ株を計11株樹立した。これらの株の培養上清を用いて、マウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(Roche社製)で産生抗体のサブクラスを調べた結果、IgG1(κ)又はIgG2b(κ)であった。
イヌNT-proANPの31〜67位中のアミノ酸配列の中のいずれかの部分の配列を有した10〜15アミノ酸の長さの合成ペプチドを複数準備し、それらの合成ペプチドを、それぞれ、炭酸ナトリウム-炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH9.6)で調製して96ウエルプレートの各ウエルに100μLずつ入れ、室温で5時間静置し、底面に固相化した。PBS液で2回洗浄した後、2%BSA溶液、4℃で一晩静置してブロッキング化した。PBS液で2回洗浄した後、培養上清100μLずつを加え、室温で2時間静置した。PBSTで3回、PBSで2回の計5回洗浄した後、0.5%BSA液で調製したヤギ抗マウスIgG抗体のAP標識体を100μLずつ加え、室温で1時間静置した。そして、PBSTで3回、PBSで2回の計5回洗浄した後、pNPP試液100μLを加え、室温で15〜60分間、405nmの吸光度を継続的に測定し、各ハイブリドーマが産生する抗体のエピトープマッピングを行った。その結果、得られたハイブリドーマ株は、エピトープが、それぞれイヌNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位、同49〜60位中のいずれかの部位、同55〜64位中のいずれかの部位、同31〜42位中のいずれかの部位、同45〜54位中のいずれかの部位、同39〜51位又は39〜54位中のいずれかの部位の抗体を産生する株であった。
これらのハイブリドーマ株のうち、エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜42位中のいずれかの部位であるIgG2b(κ)抗体を産生する株を「KS1 Clone 3B3-31」と命名して国際寄託し(受託番号NITE BP-02602)、同49〜60位中のいずれかの部位であるIgG2b(κ)抗体を産生する株を「KS1 Clone 19B7-31」と命名して国際寄託し(受託番号NITE BP-02603)、同45〜54位中のいずれかの部位であるIgG1(κ)抗体を産生する株を「KS1 Clone 20C-13」と命名して国際寄託し(受託番号NITE BP-02604)、同55〜64位中のいずれかの部位であるIgG1(κ)抗体を産生する株を「KS2 Clone 1C12-5」と命名して国際寄託し(受託番号NITE BP-02605)、もう一つの同55〜64位中のいずれかの部位であるIgG1(κ)抗体を産生する株を「KS2 Clone No.31-4」と命名して国際寄託した(受託番号NITE BP-02606)。
実施例2では、実施例1で樹立したハイブリドーマ株が産生する抗体を用いたNT-proANPのサンドイッチ免疫学的測定を行い、その反応性及び特異性を検証した。
96ウエルプレート(Nunc社製)の各ウエルに、一次抗体として実施例1で樹立したKS1 Clone 20C-13株(受託番号NITE BP-02604)が産生する抗体(エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列45〜54位中のいずれかの部位である抗体)を100μLずつ入れ、室温で一晩静置し、底面に固相化した。PBST300μLで3回洗浄した後、1〜3%BSAのPBS溶液300μLを添加して室温で2時間静置し、ブロッキングを行った。
次に、評価用抗原として、N末端側にHisタグのついたNT-proANP全長(組換体)、イヌNT-proANPのアミノ酸配列1〜30位の配列の合成ペプチド、同31〜67位の配列の合成ペプチド、同68〜98位の配列の合成ペプチド、の四種類のペプチドを準備し、各ウエルに、それぞれ0pg/mL、50pg/mL、100pg/mL、250pg/mL、500pg/mL、1,000pg/mL、2,500pg/mL、5,000pg/mLなどに適宜調製したいずれかのペプチド溶液を100μLずつ添加し、37℃で2時間静置し、PBST300μLで3回洗浄した。
次に、実施例1で樹立したKS2 Clone No.31-4株(受託番号NITE BP-02606)が産生する抗体(エピトープがイヌNT-proANPのアミノ酸配列55〜64位中のいずれかの部位である抗体)をビオチン化し、二次抗体として、各ウエルに100μLずつ添加して37℃で1時間静置し、PBST300μLで3〜5回洗浄した。
次に、ストレプトアビジン-HRP(R&D社製)を1/200に希釈し、各ウエルに100μLずつ添加し、37℃で1時間静置し、PBST300μLで3〜5回洗浄した後、TMB(3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン;KEM EN TEC社製)を100μLずつ加えて37℃で20分間、酵素反応を進行させ、1N硫酸溶液を50μL加えて反応を停止させた。そして、プレートリーダーで、各ウエルの、主波長450nmの吸光度を測定した。
結果を図2に示す。図2は、実施例1で樹立したハイブリドーマの産生する抗体を用いたサンドイッチELISAの結果を表すグラフである。同グラフ中、横軸は評価用抗原の添加濃度を、縦軸はOD値をそれぞれ表す。また、同グラフ中、「NT-proANP」の折線は評価用抗原としてNT-proANP全長を各濃度添加した場合の結果を、「断片1」の折線は評価用抗原としてイヌNT-proANPのアミノ酸配列1〜30位の配列の合成ペプチドを各濃度添加した場合の結果を、「断片2」の折線は同アミノ酸配列31〜67位の配列の合成ペプチドを各濃度添加した場合の結果を、「断片3」の折線は同アミノ酸配列68〜98位の配列の合成ペプチドを各濃度添加した場合の結果をそれぞれ表す。
図2に示す通り、実施例1で樹立したハイブリドーマの産生する一対の抗体を用いてサンドイッチELISAを行った結果、イヌNT-proANPのアミノ酸配列1〜30位の配列の合成ペプチド(断片1)及び同68〜98位の配列の合成ペプチド(断片3)を検出しなかったのに対し、イヌNT-proANP全長及びイヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位の配列の合成ペプチドをペプチド濃度依存的に検出した。また、イヌNT-proANP全長の分子量(10,466.5)及びイヌNT-proANPのアミノ酸配列31〜67位の配列のペプチドの分子量(3,815.2)を勘案すると、このサンドイッチELISAによって検出されたNT-proANP全長とNT-proANPの31〜67位の断片の物質量はほぼ同等であると推測された。
本結果より、実施例1で樹立したハイブリドーマの産生する一対の抗体を用いたサンドイッチELISAによって、イヌNT-proANP全長又はその31〜67位の断片を高精度かつ特異的に検出できることが実証された。
実施例3では、実施例1で樹立したハイブリドーマ株が産生する抗体を用いたサンドイッチ免疫学的測定による心不全の検出を試みた。
聴診の結果心不全の症候のなかった野外健常犬50匹から血液を採取し、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液により適宜希釈し、それを評価用抗原の試料として、実施例2と同様のサンドイッチELISAによって、NT-proANP又はその断片の定量を試みた。検量線は、評価用抗原として、実施例2における、N末端側にHisタグのついたNT-proANP全長(組換体)を各濃度添加して同時に測定することにより作成した。
その結果、野外健常犬50匹の血液中のNT-proANP又はその断片の濃度は、平均4ng/mLであった。
一方、ISACHC分類IIの心不全の疑われた犬4匹について、健常犬と同様に、血液を採取し、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液(pH5.5)により適宜希釈し、それを評価用抗原の試料として、実施例2と同様のサンドイッチELISAによって、NT-proANP又はその断片の定量を試みた。なお、この試験に参加した各犬の所見などは次の通りである。(1)避妊雌、体重4.35kg、ICACHC分類II、心雑音:左Livine分類IV・収縮期雑音・逆流あり、右Livine分類II・収縮期雑音・逆流あり、僧帽弁粘液腫様変性・失神の所見あり、(2)雌、体重23.3kg、ICACHC分類II、心雑音:左Livine分類IV・収縮期雑音・逆流あり、右Livine分類III・収縮期雑音・逆流あり、三尖弁異形成症・肺高血圧症・肺動脈弁狭窄の所見あり、(3)雌、体重6.45kg、ICACHC分類II、心雑音:Livine分類VI、僧帽弁粘液腫様変性・三尖弁逆流の所見あり、(4)去勢雄、体重3.15kg、ICACHC分類II、心雑音:左Livine分類VI・収縮期雑音・逆流あり、右Livine分類V・収縮期雑音・逆流あり、僧帽弁粘液腫様変性の所見あり。
その結果、心不全の疑われた犬4匹の血液中のNT-proANP又はその断片の濃度は、それぞれ、平均27.9ng/mL、12.0ng/mL、13.8ng/mL、17.1ng/mLであり、野外健常犬における濃度(平均4ng/mL)と比較して、有意に上昇していた。
実施例4では、ネコを検体とし、サンドイッチ免疫学的測定による心不全の検出を試みた。
聴診の結果心不全の症候のなかった健常ネコ15匹から血液を採取し、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液(pH5.5)により適宜希釈し、それを評価用抗原の試料として、実施例3と同様の手順で、サンドイッチELISAによるNT-proANP又はその断片の濃度を測定した。なお、一次抗体(固相抗体)には実施例1で樹立したKS1 Clone 19B7-31株(受託番号「BP-02603」)が産生する抗体を、二次抗体(標識抗体)には同KS1 Clone 3B3-31(受託番号BP-02602)が産生する抗体を、それぞれ用いた。
その結果、健常ネコ15匹の血液中のNT-proANP又はその断片の濃度は、980、694、1,883、2,730、915、1,970、1,624、1,650、3,125、915、946、447、367、6,278、4,656pg/mL、平均1,945pg/mLであった。この結果より、ネコにおいても、この検出系で測定可能であることが分かった。
次に、心疾患を罹患したネコ2匹について、健常ネコと同様に、血液を採取し、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液(pH5.5)により適宜希釈し、それを評価用抗原の試料として、NT-proANP又はその断片の定量を試みた。なお、各ネコの所見などは次の通りである。(1)雑種、推定14才、去勢雄、体重3.7kg、肺動脈弁狭窄症、三尖弁異形成の所見あり。治療を要する。(2)雑種、12才7カ月、避妊雌、3.95kg、過剰調節帯型心筋症の所見あり。治療を要する。
その結果、心疾患を罹患したネコ2匹の血液中のNT-proANP又はその断片の濃度は、それぞれ、平均23,097pg/mL、及び、15,355pg/mLであり、健常ネコと比較して、有意に上昇していた。この結果より、本実験で使用した両抗体がネコのNT-proANPに交差性を有することに加え、ネコにおいても、この測定系で心不全を検出できることが示唆された。
実施例5では、ヒトを検体とした場合でも本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定が適用できるか、検討した。
ヒト(日本人、56才、女性、健常、薬物療法なし)から血液を採取し、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液(pH5.5)により適宜希釈し、実施例3と同様の手順で、サンドイッチELISAによるNT-proANP又はその断片の濃度を測定した。検量線は、評価用抗原として、NT-proANPの断片(アミノ酸配列31-76位)の合成ペプチドを各濃度添加して同時に測定することにより作成した。
その結果、血液中のNT-proANP又はその断片の濃度は、6.11ng/mLであった。この結果より、ヒトにおいても、この測定系を適用できる可能性が示唆された。
実施例6では、本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定による測定値と、心不全の進行度との相関性を調べるとともに、心不全の進行度を判定するためのカットオフ値を検討した。
ACVIMガイドラインに基づいて、ステージA1(40匹)、同B1(22匹)、同B2(37匹)、同C(15匹)、同D(8匹)と診断されたイヌ計122匹から、それぞれ血液を採取し、、得られた血液の血漿を、1%BSAを含むPBS溶液(pH5.5)により適宜希釈し、実施例5と同様の手順で、サンドイッチELISAによるNT-proANP又はその断片の濃度を測定した。
結果を図3に示す。図3は、心不全の進行度と、サンドイッチ免疫学的測定による測定値との相関性を示すグラフである。図中の横軸はACVIMに基づく心不全のステージを表し、縦軸は各ステージと診断された検体から採取された血液中のNT-proANP濃度を表す。同図では、各ステージにおけるNT-proANP濃度の値が五数要約として表されており、下端及び上端のwhiskerが最小値及び最大値を、boxが第1四分位点及び第3四分位点を、box内の横棒が中央値を表す。また、図中の丸印は、棄却検定によって棄却された値を表す。
図3に示す通り、心不全のステージの進行に伴いNT-proANPの測定値が上昇していた。この結果より、本発明に係るサンドイッチ免疫学的測定における測定値と、心不全の進行度との間に相関性があることが裏付けられたとともに、この測定系によって定量的・半定量的な測定が可能であることが示された。
続いて、ACVIMガイドラインのステージB1以上の病態を陽性(心不全検出)と判定するためのカットオフ値を検討した。NT-proANP濃度の任意値を閾値とし、その閾値の設定を変動させ、各閾値に設定した場合について、全122例のNT-proANP測定値がそれぞれ閾値よりも高い値であるかどうかで陽性/陰性の判断を下すとともに、ACVIMガイドラインによる実際の診断と照らし、その判断が正しい判定となったどうかのデータを取得した。次に、全122例について、陽性と正しく判定された割合を「感度(sensitivity)」、陰性と正しく判定された割合を特異度(specificity)とし、特異度を横軸に、感度を縦軸にして、ROC曲線をプロットした。そして、Youden Index法で最大値となる閾値を最適なカットオフ値として算出した結果、ACVIMガイドラインのステージB1以上の病態を陽性(心不全検出)と判定する場合の最適なカットオフ値は、6,281pg/mL(感度80.5%、特異度82.5%、陽性的中率90.3%、陰性的中率67.6%)と算出された。
この結果より、この測定系を適用した場合において、例えば、イヌ血中のNT-proANPの測定値が6,000pg/mL以上であった場合、ACVIMガイドラインのステージB1以上の心不全の病態を簡易・高精度に、かつ臨床症状の発現していない極めて早い時期に検出できることが示唆された。この知見に基づき、本測定系による、ACVIMガイドラインのステージB1以上かどうかを判定するためのカットオフ値として、6,000pg/mL以上の値を設定してもよい。例えば、該カットオフ値を、6,000〜6,500pg/mLの値とすることが好適であり、6,100〜6,400pg/mLの値とすることがより好適であり、6,200〜6,300pg/mLの値とすることが最も好適である。
次に、ACVIMガイドラインのステージB2以上の病態(具体的には、胸部X線検査でのVHS(Vetebral Heart Size)が10.2より大きい場合、又は、心エコー検査でのLA/Ao比が1.6以上の場合)、を陽性(心不全検出)と判定するためのカットオフ値を検討した。上記と同様、NT-proANP濃度の任意値を閾値とし、その閾値の設定を変動させ、各閾値に設定した場合について、全122例のNT-proANP測定値がそれぞれ閾値よりも高い値であるかどうかで陽性/陰性の判断を下すとともに、ACVIMガイドラインによる実際の診断と照らし、その判断が正しい判定となったどうかのデータを取得した。次に、全122例について、陽性と正しく判定された割合を「感度(sensitivity)」、陰性と正しく判定された割合を特異度(specificity)とし、特異度を横軸に、感度を縦軸にして、ROC曲線をプロットした。そして、Youden Index法で最大値となる閾値を最適なカットオフ値として算出した結果、ACVIMガイドラインのステージB2以上の病態を陽性(心不全検出)と判定する場合の最適なカットオフ値は、8,498pg/mL(感度83.7%、特異度78.4%、陽性的中率67.6%、陰性的中率89.9%)と算出された。
この結果より、この測定系を適用した場合において、例えば、イヌ血中のNT-proANPの測定値が8,000pg/mL以上であった場合、ACVIMガイドラインのステージB2以上の心不全の病態を簡易かつ高精度に、かつ臨床症状の発現していない早い時期に検出できることが示唆された。この知見に基づき、本測定系による、ACVIMガイドラインのステージB2以上かどうかを判定するためのカットオフ値として、8,000pg/mL以上の値を設定してもよい。例えば、該カットオフ値を、8,000〜9,000pg/mLの値とすることが好適であり、8,200〜8,800pg/mLの値とすることがより好適であり、8,400〜8,600pg/mLの値とすることが最も好適である。
なお、心不全の診断や治療開始を判断する際には、このステージにまで進行しているかどうかによって判断する場合が多い。従って、本発明に係るこの測定手段は、イヌにおいて、ACVIMガイドラインのステージB2以上の病態かどうかを簡易かつ高精度に判定できる点で、有用性が高い。
本発明に係る心不全検出用器具の例を示す内部構造の斜視模式図。
実施例2において、実施例1で樹立したハイブリドーマの産生する抗体を用いたサンドイッチELISAの結果を表すグラフ。
実施例6において、心不全の進行度と、サンドイッチ免疫学的測定による測定値との相関性を示すグラフ。
1 試料供給部
2 標識抗体保持部
3 測定部
4 吸収部
A 心不全検出用器具
C 流路
C1 上流側
C2 下流側