荷電粒子線装置の光学条件の変化に伴い光軸ずれや視野ずれが発生する原理について、図面を参照して説明する。
図1は、荷電粒子線装置の一つである、走査電子顕微鏡の概略図である。ただし、以後の説明は走査電子顕微鏡に限られるものではなく、透過電子顕微鏡、走査透過電子顕微鏡、および集束イオンビーム装置などにも適用が可能である。
この走査電子顕微鏡は、試料14に照射するための一次電子ビーム4を放出するフィラメント1、一次電子ビーム4を集束するウェネルト2、ウェネルト2を通過した一次電子ビーム4を所定の加速電圧Vaccで加速し、一次電子ビーム4を下流(後段)の電子光学系に導く陽極3、ステージ制御回路27によって制御される、試料14を載置するためのステージ15、装置全体を制御するコンピュータ28などを備える。
ここで、フィラメント1に流れる電流、ウェネルト2に印加される電圧および加速電圧Vaccなどは高電圧制御回路19で制御されている。
後述するように、実施例における光軸調整方法は、フィラメント1が熱放出型である場合に特に効果的である。しかし、フィラメント1は熱放出型に限らず、電界放出型や、ショットキー型でも構わない。
電子光学系は、フィラメント1の仮想位置や一次電子ビーム4の傾斜具合を調整することが可能な上段ガンアライメントコイル5および下段ガンアライメントコイル6、一次電子ビーム4を所定の縮小率で集束するための第一集束レンズ7および第二集束レンズ8、一次電子ビーム4を試料14上で二次元的に走査するための上段偏向コイル11および下段偏向コイル12、一次電子ビーム4を試料14上にフォーカスさせるための対物レンズ13などを備える。
また、電子光学系は、一次電子ビーム4を対物レンズ13の中心へ通過させるためのアライナー10を備える。
これらの電子光学系の要素は、一次電子ビーム4に対し電磁気力を働かせ、一次電子ビーム4の試料への照射条件を調整するものであり、目的に応じて静電誘導方式と電磁誘導方式を自由に組み合わせることができる。
これらの要素には、それぞれガンアライメント制御回路20、第一集束レンズ制御回路21、第二集束レンズ制御回路22、アライナー制御回路23、偏向制御回路24、対物レンズ制御回路25などが接続されている。各制御回路は、各要素の電流量や電圧値などを調整することで、各要素の動作を制御している。
さらに、電子光学系は、一次電子ビーム4の試料14への照射量を制限するための対物絞り9を備える。対物絞り9は、対物レンズ13よりフィラメント1側に配置され、望ましくは第二集束レンズ8と対物レンズ13との間に配置される。なお、電子光学系の内部には、対物レンズ絞り9以外の他の絞りが存在しても良い。
ここでは、ガンアライメントコイルの段数は二段としたが、ガンアライメントコイルの段数は一段でも二段以上でもよい。ただし、次の理由から二段以上のほうが望ましい。
フィラメント1が斜めに取り付いている場合には、一次電子ビーム4は傾斜して放出される。その場合、一次電子ビーム4の最も輝度の高い部分を使用するためには、ガンアライメントコイルを用いて一次電子ビーム4を偏向し、一次電子ビーム4の傾斜を補償する必要がある。
ガンアライメントコイル(偏向器)が一段の場合は、ガンアライメントコイルにより一次電子ビーム4を偏向したときに、一次電子ビーム4の傾斜を補償すると同時に、フィラメント1の仮想位置も変化させてしまう。フィラメント1の仮想位置の変化は、光軸にも影響を与えてしまう。一方、ガンアライメントコイルが二段以上の場合は、仮想的な光源位置を変化させずに、一次電子ビーム4の傾斜角度のみを変化させる制御が可能となる。そのため、ガンアライメントコイルが二段以上の場合は、光軸を維持した状態で、試料像の輝度が最大となるように調整することができる。
第一集束レンズ7や第二集束レンズ8は、電磁レンズの励磁を制御して、一次電子ビーム4の縮小率を変化させている。縮小率が変化することで、対物絞り9を通過する際の一次電子ビーム4の広がり角が変化する。一次電子ビーム4の広がり角が大きい場合(縮小率が大きい場合)は、対物絞り9による一次電子ビーム4の遮断量が大きくなるため、一次電子ビーム4の試料14への照射量は小さくなる。一方、一次電子ビーム4の広がり角が小さい場合(縮小率が小さい場合)は、一次電子ビーム4の遮断量が小さくなるため、試料14への照射量は多くなる。すなわち、集束レンズにより一次電子ビーム4の縮小率を変化させることで、一次電子ビーム4の試料14への照射量を調整することができる。
なお、本明細書では、「集束レンズによる一次電子ビーム4の縮小率」を「一次電子ビーム4の縮小率」もしくは「集束レンズの縮小率」と呼ぶ場合がある。
ここでは、集束レンズの段数は二段としたが、集束レンズの段数は一段でも二段以上でもよい。複数段の集束レンズを備えることで、より大きい縮小率を得ることができる。幅広い観察条件に対応するためにも、集束レンズの縮小率の制御範囲は大きい方が望ましい。
なお、縮小率は小数や分数(たとえば0.2倍や1/5など)で表される場合がある。一次電子ビーム4を全く縮小しない場合、その縮小率は1となる。本明細書においては、「縮小率が大きい場合」とは、「(一次電子ビーム4を)より強く縮小した場合」と換言できる場合がある。縮小率が0.2倍(1/5)である場合と1である場合とを比較すると、数値としては0.2倍のほうが小さいが、縮小率としては0.2倍の方が大きい。
また、対物レンズ13はアウトレンズ式としたが、これはセミインレンズ(シュノーケルレンズ)式やインレンズ式などであってもよい。
電子光学系を通過した一次電子ビーム4は、試料14に照射される。試料14の一次電子ビーム照射点から発生する二次電子および反射電子、ならびにX線などの信号16を、検出器17で検出し、信号制御回路26に接続された増幅器18で増幅することで、試料表面の電子顕微鏡像などを取得する。
コンピュータ28は、各種の制御回路と接続されており、装置全体を制御する。
増幅器18で増幅された二次電子などの信号16の情報は、コンピュータ28に接続された表示装置29に表示される。
コンピュータ28には、表示装置29以外にも、観察画像や計算結果を保存するための記憶手段30と、観察条件などを入力するための入力手段31が接続されている。その他、表示装置29上に表示された観察画像を画像情報として取得するための画像取得手段、観察画像に対して種々の画像処理を行う画像処理手段、電子光学系の感度パラメータなどを計算する計算手段などが接続されていてもよい。
制御回路などの構成は、複数の制御機能を有する制御回路を用いる構成や、複数のコンピュータや表示装置を用いる構成などでもよい。
図2は、第一集束レンズ7および第二集束レンズ8の縮小率を変化させた際に、光軸ずれや視野ずれが発生する原理の説明図である。図2(a)は、フィラメント1から試料14までの全体図であり、図2(b)は、第二集束レンズ8および対物絞り9近傍を拡大して示した図である。
図2において、フィラメント1、第一集束レンズ7、第二集束レンズ8は、それぞれの中心軸が対物レンズ13の中心軸(光軸32)と一致するように配置され、対物絞り9は第二集束レンズ8の下段にLC2_APTだけ離れた位置に設置され、その中心軸は光軸32からΔrAPTずれている場合を想定する。また、対物レンズ13は対物絞り9の下段にLOBJ_APTだけ離れた位置に設置されるものとする。
なお、本明細書では、対物レンズ13の中心軸を光軸32として説明するが、その他の構成要素の軸を基準とし、光軸32として考えても良い。
図2の例では、対物絞り9の中心軸が光軸からずれている場合を考えたが、フィラメント1、第一集束レンズ7および/または第二集束レンズ8の中心軸が光軸からずれている場合でも同様に考えることができる。
アライナー10は、対物レンズ13の上段にLOBJ_ALの距離で設置される。アライナー10は、ビーム中心軌道が対物レンズ13の中心を通過するよう、一次電子ビーム4を調整する。
第一集束レンズ7および/または第二集束レンズ8の縮小率を変化させたとき、対物絞り9の中心が光軸からずれている場合、縮小率の大小により、対物絞り9を通過できる一次電子ビーム4の角度が異なるため、ビーム中心軌道が変化する。以後、集束レンズの縮小率が大きい場合のビーム中心軌道を第一の中心軌道33、集束レンズの縮小率が小さい場合のビーム中心軌道を第二の中心軌道34として説明する。
対物レンズ13の主面35上において、第一の中心軌道33が光軸32上を通過している理想的な状態から、縮小率を下げた場合を考える。縮小率を下げることで、対物レンズ13の主面35上におけるビーム中心軌道の位置は、P1_HMからP1_LMに移動する。すなわち、第二の中心軌道34は光軸32の外側を通過することになる。前述のように、対物レンズ13の主面35上で、ビーム中心軌道が光軸32の外側を通過すると、軸外色収差が大きくなり、高分解能の試料像が得られなくなってしまう。
さらに、対物絞り9の中心軸が光軸32からずれている状態で縮小率を下げた場合、試料14上における一次電子ビーム4の照射位置が、P2_HMからP2_LMに移動する。このため、縮小率を変化させた際に、視野ずれが発生する。
また、主面35上で、ビーム中心軌道が光軸32の外側を通過している場合、縮小率を変化させなくとも、対物レンズ13の焦点の変化によって観察位置が変化してしまう。結果として、荷電粒子線装置の焦点の調整が困難となる。
以上のように、光軸ずれ(対物絞り9の中心軸のずれ、もしくは第一の中心軌道33と第二の中心軌道34のずれ)が大きい場合、光学条件の変化による悪影響が大きい。そのため、光学条件を変化させるたび、アライナー10により、主面35上でビーム中心軌道が光軸32を通過するように調整する必要があった。
図3は、図2のうち、第二集束レンズ8から対物レンズ13の間の拡大図である。ただし、上段偏向コイル11および下段偏向コイル12の図示は省略している。
第一集束レンズ7や第二集束レンズ8は、縮小率を制御することで、形成する集束点の位置を変化させている。図3の例では、縮小率が大きい場合の集束点OC2_HMは第二集束レンズ8からb2_HMの距離に位置し、縮小率が小さい場合の集束点OC2_LMは第二集束レンズ8からb2_LMの距離に位置している。
フィラメント1、第一集束レンズ7、第二集束レンズ8の中心が光軸32上に配置されている場合、それぞれの集束点OC2_HM、OC2_HMも光軸32上に形成される。
試料に照射される電子ビームの中心軌道は、集束点と対物絞り9を結ぶ直線の軌道で決定される。対物絞り9を通過する際の第一の中心軌道33(縮小率が大きい場合)の傾きθC2_HMは、以下の式で表される。
θC2_HM=ΔrAPT/(LC2_APT-b2_HM)
第一の中心軌道33は、アライナー10の位置において光軸32からΔrAL_HMだけ離軸しており、ΔrAL_HMは以下の式で表される。
ΔrAL_HM=(LC2_APT-b2_HM+LOBJ_APT-LOBJ_AL)θC2_HM
第一の中心軌道33が主面35上で光軸32を通過するよう、アライナー10を調整すると、アライナー10によるビーム中心軌道の偏向角θALは以下の式で与えられる。
θAL=ΔrAL_HM/LOBJ_AL+θC2_HM
一方、対物絞り9を通過する際の第二の中心軌道34(縮小率が小さい場合)の傾きθC2_LMおよびアライナー10における第二の中心軌道34の離軸量ΔrAL_LMは、以下の式で表される。
θC2_LM=ΔrAPT/(LC2_APT-b2_LM)
ΔrAL_LM=(LC2_APT-b2_LM+LOBJ_APT-LOBJ_AL)θC2_LM
縮小率が小さい場合のアライナー10の動作条件が、縮小率が大きい場合と変わらないとすれば、アライナー10による偏向角θALも変わらない。そのため、主面35上では、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34との間に、以下の式で表される光軸ずれ(P1_LM-P1_HM)が発生する。
(P1_LM-P1_HM)=ΔrAL_LM-LOBJ_AL(θAL-θC2_LM)=LOBJ_APTΔrAPT(1/(LAPT-b2_LM)-1/(LAPT-b2_HM))
集束レンズによる一次電子ビーム4の縮小率は、試料像の分解能にも影響する。特に熱放出型電子銃の場合、電子源の実質的な直径は数10マイクロメートル程度となる。そのため、数ナノメートルの分解能を得たい場合、一次電子ビーム4の縮小率を1/300〜1/500程度にする必要がある。
一方、元素分析などの際に、試料に照射する一次電子ビーム4の照射量を大きくする必要がある場合は、集束レンズによる一次電子ビーム4の縮小率を小さくする。前述のように、縮小率を小さくすることで対物絞り9による一次電子ビーム4の遮断量も小さくなり、結果として一次電子ビーム4の照射量が大きくなるためである。汎用的な電子顕微鏡では、電子線量を最大にする場合、縮小率は1/5程度に制御されている。
このように、縮小率は観察の目的に応じて大きく変化する。縮小率が大きく変化すると、集束点OC2_HMとOC2_LMとの差も大きくなり、光軸ずれの量(P1_LM-P1_HM)も大きなものとなってしまう。
以下、図面を参照して本発明の実施例を説明する。
実施例では、試料に照射される荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、荷電粒子線を所定の縮小率で集束する集束レンズを少なくとも一つ含む集束レンズ系と、集束レンズ系のうち最も下流の集束レンズと荷電粒子源との間に位置し、荷電粒子源の仮想位置を移動させる偏向器と、偏向器および集束レンズ系を制御する制御手段と、を有し、制御手段は、集束レンズ系の縮小率の変化による、集束レンズ系の下流における荷電粒子線の中心軌道のずれを抑制する位置に、荷電粒子源の仮想位置を移動させるように、偏向器を制御する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、集束レンズ系が第一の縮小率を有する場合の集束レンズ系の下流における荷電粒子線の第一の中心軌道と、集束レンズ系が第一の縮小率よりも小さな第二の縮小率を有する場合の集束レンズ系の下流における荷電粒子線の第二の中心軌道を一致させるように制御する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、二つ以上の集束レンズを有し、集束レンズ系が第一の縮小率および第二の縮小率以外の第三の縮小率を有する場合、集束レンズ系と試料との間における荷電粒子線の集束点を移動させ、集束レンズ系が第三の縮小率を有する場合の集束レンズ系の下流における荷電粒子線の第三の中心軌道を、第一の中心軌道または第二の中心軌道と一致させるように制御する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、試料に荷電粒子線をフォーカスする対物レンズと、荷電粒子線の試料への照射条件を調整する調整手段と、を有し、集束レンズ系が第一の縮小率を有する場合に、第一の中心軌道が対物レンズの主面において対物レンズの中心軸を通過するように、調整手段を制御した後に、第一の中心軌道と第二の中心軌道を一致させるように制御する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、試料に荷電粒子線をフォーカスする対物レンズと、荷電粒子線の進路上に配置された絞りと、絞りの上で荷電粒子線を走査することで得られる信号を検出する検出器と、検出器の信号から、対物レンズの中心軸と、集束レンズ系の下流における荷電粒子線の中心軌道との位置関係を示す画像を形成する信号処理手段と、信号処理手段で形成された画像を表示するディスプレイと、制御部による調整手段および偏向器の制御条件を操作する条件操作手段を有する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、固定式の絞りを有する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、集束レンズ系が第一の縮小率を有する場合と、集束レンズ系が第二の縮小率を有する場合とにおいて、それぞれ独立して調整手段および偏向器の制御条件を操作可能である荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、試料に照射される荷電粒子線を放出する荷電粒子源と、荷電粒子線を所定の縮小率で集束する集束レンズを少なくとも一つ含む集束レンズ系と、集束レンズ系のうち最も下流の集束レンズと荷電粒子源との間に位置し、荷電粒子源の仮想位置を移動させる偏向器と、荷電粒子線の試料への照射条件を調整する調整手段と、試料に荷電粒子線をフォーカスする対物レンズと、荷電粒子線が物体に衝突することにより得られる信号を検出する検出器と、検出器の信号から、対物レンズの中心軸と、集束レンズ系の下流における荷電粒子線の中心軌道との位置関係の情報を収集する信号処理手段と、ディスプレイと、調整手段および偏向器の動作条件を操作する条件操作手段と、を有し、ディスプレイに、信号処理手段で収集された、対物レンズの中心軸と、荷電粒子線の中心軌道との位置関係の情報を表示させ、集束レンズ系が第一の縮小率を有する場合の集束レンズ系の下流における荷電粒子線の第一の中心軌道と、集束レンズ系が第一の縮小率よりも小さな第二の縮小率を有する場合の集束レンズ系の下流における荷電粒子線の第二の中心軌道を一致させるように、条件操作手段を操作するよう促すユーザーインターフェースをディスプレイに表示する荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、集束レンズ系が第一の縮小率を有する場合に、第一の中心軌道が対物レンズの主面において対物レンズの中心軸を通過するよう調整手段の動作条件を操作した後、第一の中心軌道と第二の中心軌道を一致させるように偏向器の動作条件を操作することを促す荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、荷電粒子線の進路上に配置された絞りを有し、検出器は、絞りの上で荷電粒子線を走査することで得られる信号を検出し、信号処理手段は、検出器の信号から、対物レンズの中心軸と、荷電粒子線の中心軌道との位置関係を示す画像を形成し、ディスプレイに、信号処理手段により形成された画像を表示させる荷電粒子線装置を開示する。
また、実施例では、荷電粒子線が第一の縮小率で縮小される場合に、電子光学系による荷電粒子線の偏向角度を調整することで、レンズ効果の発生前後における荷電粒子線の第一の中心軌道を変化させる工程と、荷電粒子線が第一の縮小率よりも小さな第二の縮小率で縮小される場合に、電子光学系により荷電粒子源の仮想位置を調整することで、レンズ効果の発生前後における荷電粒子線の第二の中心軌道を第一の中心軌道と一致させる工程と、を含む荷電粒子線装置の調整方法を開示する。
また、実施例では、第一の中心軌道を変化させる工程において、第一の中心軌道がレンズ効果をもたらす電磁場の中心を通過するように、荷電粒子線の偏向角度を調整する荷電粒子線装置の調整方法を開示する。
また、実施例では、信号処理手段が、荷電粒子線が物体に衝突することにより得られる信号から、レンズ効果をもたらす電磁場の中心と、レンズ効果の発生後における荷電粒子線の第一の中心軌道との位置関係の情報を収集し、第一の中心軌道を変化させる工程において、信号処理手段が、位置関係の情報から荷電粒子源の偏向角度の調整量を算出する荷電粒子線装置の調整方法を開示する。
また、実施例では、信号処理手段が、荷電粒子線が物体に衝突することにより得られる信号から、レンズ効果をもたらす電磁場の中心と、レンズ効果の発生後における荷電粒子線の第一の中心軌道との位置関係の情報を収集し、第二の中心軌道を第一の中心軌道と一致させる工程において、信号処理手段が、位置関係の情報から荷電粒子源の仮想位置の調整量を算出する荷電粒子線装置の調整方法を開示する。
また、実施例では、信号処理手段が、荷電粒子線が物体に衝突することにより得られる信号から、レンズ効果をもたらす電磁場の中心と、レンズ効果の発生後における荷電粒子線の中心軌道との位置関係の情報を収集し、荷電粒子線の第一の中心軌道を変化させる工程において、信号処理手段が、電磁場の中心と、第一の中心軌道との位置関係を表示するためのユーザーインターフェースを画面上に表示し、第二の中心軌道を第一の中心軌道と一致させる工程において、信号処理手段が、電磁場の中心と、第二の中心軌道との位置関係を表示するためのユーザーインターフェースを画面上に表示する荷電粒子線装置の調整方法を開示する。
本実施例における荷電粒子線装置の基本構成は、図1に示した装置と同等のものを採用できる。
これまで説明してきた光軸ずれは、第二集束レンズ8の後段に形成される集束点OC2_HMとOC2_LMとが、同一の軌道上にないことが要因となる。換言すれば、集束点OC2_HMとOC2_LMとを同一の軌道上に位置させることができれば、縮小率の変化による光軸ずれを抑制することが可能になる。
そこで本実施例では、ガンアライメントコイルにより仮想的な電子源の位置(仮想位置36)を移動させることで、縮小率が小さい場合の集束点を、縮小率が大きい場合のビーム中心軌道上に配置する。
従来、ガンアライメントコイルは、上段ガンアライメントコイル5および/または下段ガンアライメントコイル6で一次電子ビーム4を走査することにより得られる像(フィラメントイメージ)を用いて、そのときどきの光学条件における試料像の輝度を最大とするために用いられてきた。
本実施例のように、ガンアライメントコイルにより、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34を一致させるといった調整は行われていなかった。そのため、従来は、光学条件を変えたときに光軸ずれが生じていた。
特に熱電子放出型電子銃の場合はフィラメント1の交換頻度が高く、その際にガンアライメントコイル等を用いてフィラメント1の仮想位置36の調整を行う。そのため、調整の都度に光学条件が変化してしまう。
そこでフィラメント交換時などに本実施例で示す手法で調整することで、光学条件が変化した際の光軸ずれを抑制できる。
図4は、ガンアライメントコイルにより、縮小率が小さい場合の集束点OC2_LMを、第一の中心軌道33上に配置する際のビーム軌道図である。図5は、第二集束レンズ8と対物絞り9の間の拡大図である。
上段ガンアライメントコイル5および下段ガンアライメントコイル6により、フィラメント1の近傍でビームを偏向させることで、フィラメント1の仮想位置36はOGからOG_ALに移動する。これに伴い、第二集束レンズ8の集束点の位置が移動するが、その移動量ΔOC2は集束レンズの縮小率MCで決定される。仮想位置36の移動量は(OG-OG_AL)であるから、ΔOC2=(OG-OG_AL)×MCとなる。
縮小率の小さい場合の縮小率をMC_LMとする。仮想位置36の移動量(OG-OG_AL)を、(OG-OG_AL)=(ΔOC2_LM/MC_LM)となるよう上段ガンアライメントコイル5および/または下段ガンアライメントコイル6を制御することで、縮小率が小さい場合の新たな集束点OC2_LMを、第一の中心軌道33上に配置することができる(第一の中心軌道33と第二の中心軌道34がほぼ同一となる)。
ここで、仮想位置36の移動は、縮小率が大きい場合の集束点にも影響し、縮小率が大きい場合の新たな集束点はOC2_HMとなる。そのため、ガンアライメントコイルの駆動前後で、第一の中心軌道33が変化してしまうとも考えられる。
しかし、縮小率が大きい場合の縮小率MC_HMは、MC_LMの100倍以上となる。そのため、縮小率が大きい場合の集束点の移動量ΔOC2_HMは、ΔOC2_LMに比べ1/100以下となり、仮想位置36の移動の影響をほとんど無視できる(OC2_HM≒OC2_HMとなる)。つまり、縮小率が小さい場合は集束点がOC2_LMからOC2_LMに移動しビーム軌道が変化するが、縮小率が大きい場合は集束点がほとんど移動しない。すなわち、仮想位置36の移動によらず、第一の中心軌道33は維持される。
以上のように、ガンアライメントコイルを用いて仮想位置36を移動させ、OC2_LMを第一の中心軌道33上に配置することで、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34がほとんど同一のものとなる。その結果、対物絞り9の中心軸が光軸32からずれていたとしても、光学条件の変化に伴う光軸ずれ、視野ずれを抑制できる。
従来の荷電粒子線装置では、対物絞り9の中心軸が光軸32からずれた場合に、対物絞り9を理想的な位置に戻すための対物絞り可動機構が設けられていた。本実施例に示す手法を用いることで、対物絞り可動機構が不要となる。
次に、本実施例における調整の流れについて説明する。図6は、本実施例における調整順序のフローチャートである。
STEP601:オペレータは、入力手段31を介して、コンピュータ28に調整を開始する指示を出す。コンピュータ28は、第一集束レンズ制御回路21および第二集束レンズ制御回路22に指示を出し、第一集束レンズ7および/または第二集束レンズ8の二つの集束レンズの縮小率を大きい状態に設定する。
STEP602:縮小率が大きい状態の光学条件が最適でない場合、オペレータもしくはコンピュータ28は、必要に応じて後述する方法で光学条件の調整を行う。
STEP603:コンピュータ28は、必要に応じて集束レンズの縮小率が大きい状態での光学条件(第一の中心軌道33の情報を含む)を記憶手段30に記憶する。
STEP604:オペレータもしくはコンピュータ28は、第一集束レンズ制御回路21および第二集束レンズ制御回路22に指示を出し、第一集束レンズ7および/または第二集束レンズ8の二つの集束レンズの縮小率を小さい状態に設定する。
STEP605:オペレータもしくはコンピュータ28は、記憶手段30に記憶した光学条件を参照しつつ、ガンアライメント制御回路20に指示を出し、上段ガンアライメントコイル5および/または下段ガンアライメントコイル6を調整する。調整は、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34を一致させるように行われる。
以上のステップにより調整が完了する。その結果、光学条件を変更した場合など、荷電粒子線の状態が変化しても光軸や視野のずれを抑制することが可能になる。
また、STEP602〜603において、集束レンズの縮小率が大きい状態で光学条件を調整し、光学条件を記憶手段30に記録し、STEP604〜605で第一の中心軌道33と第二の中心軌道34を一致させるためには、代表的には以下に記す方法のいずれか(もしくはそれらの組み合わせ)を用いることができる。
1つ目の方法は、STEP602において、対物レンズ制御回路25を用いて対物レンズ13の励磁を変化(周期的な正弦波状、三角波状、または矩形波状に変化させることが望ましいが、これに限らない)させて、そのときの試料像の視野ずれが最小となるようにアライナー制御回路23を用いてアライナー10を調整する行う方法である。
対物レンズ13の励磁が変化すると、一次電子ビーム4のフォーカス位置が変化する。前述のように、一次電子ビーム4が光軸32から外れているほど、フォーカス位置の変化に伴う視野ずれが大きい。フォーカス位置の変化に伴う視野ずれが最小になるようにアライナー10を調整することで、第一の中心軌道33が主面35において光軸32を通過していることを実現できる。
その後、STEP604で集束レンズの縮小率を小さい状態にすると、光軸ずれによる視野ずれが発生する。
そこでSTEP605において、STEP602と同様に、対物レンズ制御回路25を用いて対物レンズ13の励磁を変化させ、試料像の視野ずれが最小となるように調整する。ただし、STEP602の場合と異なり、STEP605では、ガンアライメント制御回路20を用いて上段ガンアライメントコイル5および/または下段ガンアライメントコイル6を調整する。
対物絞り9の位置が不変である場合、対物レンズ13の励磁変化による視野ずれが最小となるような、ビーム中心軌道の条件は一意である。そのため、この方法を用いることで、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34を一致させることができる。
2つ目の方法は、STEP603において、試料像で表示される視野の位置を記憶手段30で記憶しておいたり、表示装置29上に試料像の基準点や基準図形の位置を描画しておく方法である。
その後、STEP604で集束レンズの縮小率を小さい状態にすると、光軸ずれによる視野ずれが発生する。
STEP605では、集束レンズの縮小率が小さい状態でガンアライメント制御回路20を用いて上段ガンアライメントコイル5および/または下段ガンアライメントコイル6を調整し、STEP603において記憶した視野と現在の視野を一致させる。
3つ目の方法は、対物レンズ13もしくは対物レンズ13に設置された電子光学系内部の真空度を制御するための絞り(図示せず)などの上で、一次電子ビーム4を走査し、その際に得られる円形像を用いる方法である。ここで、一次電子ビーム4の走査は、上段偏向コイル11および下段偏向コイル12の偏向電流の比を変えることで実現される。
図7は、この手法において得られる円形像の模式図である。
図7において、円形像37の中心38は、対物レンズの中心(光軸32)を表している。画像全体の中心39は、一次電子ビーム4の中心(第一の中心軌道33または第二の中心軌道34)を表している。円形像37により、光軸32と一次電子ビーム4の中心の位置関係を可視化できる。
なお、図7には、円形像37の中心38を示すため、円形像37の内部に黒線で十字を描いている。この十字は、便宜的に描いたものであり、必ずしも必要な表示ではない。
図7(a)のように、円形像37の中心38と画像全体の中心39がずれている場合は、STEP602においてアライナー制御回路23を用いてアライナー10を調整して、円形像37の中心38と、画像全体の中心39を一致させた状態(図7(b)の状態)とする。その結果、一次電子ビーム4は、主面35上において光軸32を通過することとなる。
その後、STEP605においても円形像37を用いて、円形像37の中心38が、画像全体の中心39と一致するよう、ガンアライメント制御回路20を用いて上段ガンアライメントコイル5と下段ガンアライメントコイル6を調整する。
上記の方法では、集束レンズの縮小率が大きいSTEP602において、アライナー10で円形像37の中心38を、画像全体の中心39に一致させる調整を行う。この調整方法の他にも、STEP603で円形像37の中心38の位置を記憶手段30に記憶し、STEP605における円形像37の中心38の位置(縮小率が小さい場合の位置)を記憶した位置(縮小率が大きい場合の位置)に一致させるものとしてもよい。
図8は、集束レンズの縮小率が変化した際に発生する、光軸ずれの大きさのシミュレーション結果である。本実施例に示した調整を行った場合と、従来の場合の二通りのシミュレーションを行っている。
シミュレーションは、対物絞り9が対物レンズ13の中心軸から100マイクロメートル離軸している場合(ΔrAPT=100マイクロメートル)を想定している。また、集束レンズの縮小率は、0.0029〜0.18倍まで連続的に制御できる装置を用いた場合を想定している。光軸ずれの大きさ(縦軸)は、アライナー10によりビーム中心軌道を対物レンズ13の中心に通すための偏向角度の変化量で表している。
本実施例に示した調整は、集束レンズの縮小率が最大の場合(0.0029倍)と最小の場合(0.18倍)とで、第二集束レンズ8の後段でのビーム中心軌道を一致させるように行うと想定した。
従来の場合(図8点線)は、縮小率が小さくなるにつれて光軸ずれ量も大きくなる。本実施例による調整を行った場合(図8実線)は、縮小率が最大の場合と最小の場合とで、第一の中心軌道33と第二の中心軌道34をほぼ一致させるため、この二点における光軸ずれ量はほぼ0となる。その他の縮小率の場合においても光軸ずれは抑制される。
本実施例に示した調整を行った場合における、光軸ずれ量の最大値は、およそ0.84ミリラジアン(縮小率0.1〜0.12倍前後)となった。一方、従来の場合の光軸ずれ量の最大値は、およそ3.5ミリラジアン(縮小率0.18倍)となった。すなわち、本実施例に示した調整により、光軸ずれの最大値は76%抑制される。本実施例に示した調整により、集束レンズの縮小率を変えた場合に発生する光軸ずれを抑制することができ、縮小率の変化に伴うアライナー10の再調整が不要となる。
また、上記の例では、集束レンズの縮小率が最大の場合と最小の場合を基準として、ビーム中心軌道が一致するようにガンアライメントコイルを調整する場合を想定したが、基準とする縮小率は最大・最小でなくともよい。
図9は、最大の縮小率と、任意の縮小率との間で、ビーム中心軌道を一致させた際の光軸ずれの抑制率のシミュレーション結果である。光軸ずれの抑制率は(1−(光軸ずれ量の最大値)/(従来の場合の光軸ずれ量の最大値))により求めた。
図9に示すとおり、最大の縮小率と、任意の縮小率との間でビーム中心軌道を一致させたとしても、光軸ずれを抑制することができる。たとえば、縮小率が最大の場合(0.0029倍)と、縮小率が0.02倍程度の場合のビーム中心軌道を一致させた場合は、光軸ずれを約70%抑制することができる。
上記の例では、最大の縮小率と任意の縮小率との間で、ビーム中心軌道を一致させるものとした。しかし、任意の縮小率と最小の縮小率との間でビーム中心軌道を一致させてもよいし、任意の縮小率と任意の縮小率との間でビーム中心軌道を一致させてもよい。
縮小率が大きい場合は、試料に照射される電子線量が少なくなるため、試料像のシグナル/ノイズ比が悪くなる。その結果、試料像などを観察しながらの調整を行いにくくなる。そこで、最大の縮小率を基準とせず、たとえば0.02倍の縮小率を基準として、ビーム中心軌道を一致させることで、シグナル/ノイズ比を向上させながら、本実施例による調整を行うことができる。
実施例2は、実施例1と同等の構成を備える荷電粒子線装置において、さらに光軸ずれを抑制できる光軸調整方法についてのものである。以下、実施例1との相違点を中心に説明する。
実施例1では、あらかじめ決められた2つの縮小率(例えば、最大縮小率と最小縮小率)におけるビーム中心軌道が同一になるよう調整している。しかしながら、図8に示すように、集束レンズ縮小率MCを2つの縮小率以外に設定した場合は、光軸ずれが残存してしまう。
集束レンズの縮小率MCに応じて、第二集束レンズ8の集束点の位置を次のように制御することで、残存している光軸ずれをさらに抑制することができる。
図10(a)は、b2_HM≦b2_MM≦b2_LMの任意の位置b2_MMに、第二集束レンズ8の集束点OC2_MMがある場合の、第二集束レンズ8と対物絞り9の間の拡大図である。b2_MMを通過するビーム中心軌道を、第三の中心軌道40とする。
集束点OC2_MMと、第一の中心軌道33(縮小率が大きい場合)の(レンズ中心軸に対して垂直方向の)距離ΔOC2_MMは、以下の式で表される。
ΔOC2_MM=θC2_HM*(b2-b2_HM)
θC2_HM=ΔOC2_LM/(b2_LM-b2_HM)
図10(b)のように、第一の中心軌道33と、第二の中心軌道34(縮小率が小さい場合)を一致させるようにガンアライメントコイルを調整すると、電子源の仮想的な移動量OG_ALとΔOC2_LMには次式で表される関係がある。
ΔOC2_LM=OG_AL*MC_LM
一方、ガンアライメントコイルの調整後では、任意のb2_MMにある集束点の移動量ΔOC2_MMは、このときの集束レンズの縮小率をMC_MMとすると以下の式で表される。
ΔOC2_MM=OG_AL*MC_MM
そこで、このときの移動量ΔOC2_MMとΔOC2_MMを一致させるように、縮小率MC_MMと集束点OC2_MMを調整することで、任意の縮小率に対しても光軸ずれを抑制することができる。換言すると、第一の中心軌道33、第二の中心軌道34、第三の中心軌道40のそれぞれがほぼ一致することとなる。
上記4つの式より、ΔOC2_MM=ΔOC2_MMとなる縮小率MC_MMは次式で表される。
MC_MM=MC_LM*(b2_MM-b2_HM)/(b2_LM-b2_HM)
第一集束レンズ7と第二集束レンズ8の励磁を、それぞれ相互に調整することで、集束点を保ちつつ縮小率を変化させることや、その逆(縮小率を保ちつつ集束点を変化させる)が可能であるため、任意のMC_MMについて、上記のような光軸ずれの抑制が可能になる。
図11に、実施例1および2で示した手法における、集束レンズの縮小率を変化させたときに発生する光軸ずれのシミュレーション結果を示す。実施例1の手法でも光軸ずれを抑制することができるが、実施例2の場合では、実施例1よりさらに光軸ずれを抑制できている。実施例2の場合、縮小率を変化させた場合でも、光軸ずれ量はほぼ一定に保たれている。
実施例1の場合に最も光軸ずれが大きい縮小率(0.1倍〜0.12倍前後)で、実施例1と実施例2を比較すると、実施例2の光軸ずれは、実施例1より約1/20になっている。
なお、本実施例ではb2_HM≦b2_MM≦b2_LMの任意の位置b2_MMに、第二集束レンズ8の集束点OC2_MMがある場合を説明したが、b2_HM>b2_MMであってもよいし、b2_MM>b2_LMであってもよい。
実施例1や2で説明した調整手法は、第一の中心軌道33の情報を把握し、縮小率が小さいときにガンアライメントコイルを調整するといった順序が重要となる。本実施例では、オペレータが容易に、望ましい順序に従った調整が可能になる方法について説明する。以下、これまでの実施例との相違点を中心に説明する。
本実施例では、STEP602〜605で示した三つの代表的な調整手法のうち、図7を用いて説明した、円形像37の中心38を画像全体の中心39に移動させる手法で調整する場合について説明する。ただし、その他の手法においても、本実施例で示す思想を適用することが可能である。
フィラメント1を交換した際や、オペレータが光学条件変更の際の光軸ずれに気づいた場合、オペレータは入力手段31を介して、コンピュータ28に調整の開始を指示することができる。コンピュータ28は、オペレータから調整の開始の指示を受けると、図12のフローに沿って処理を開始する。
図12の処理フローについて以下に詳細に説明する。
STEP1201:調整を行う前は、オペレータは任意の条件で試料を観察している。そのため、本実施例による調整を行う際は、調整に適した光学条件に設定することが望ましい。
本実施例では、図7で説明した、円形像37による調整手法を用いる。円形像37を得るため、コンピュータ28は、一次電子ビーム4が対物レンズ13内を走査するように設定する。
また、図7で説明した手法では、集束レンズの縮小率が大きい状態から調整を開始する。そこでコンピュータ28は、第一集束レンズ制御回路21、第二集束レンズ制御回路22などに指示を出し、集束レンズの縮小率を大きく設定する。
このときに表示される円形像37の明るさは、調整前の条件により変わってしまう。コンピュータ28は、信号制御回路26を通じ、円形像37の明るさを、調整に最適な明るさに設定する。
STEP1201では、上記の各設定の他にも、装置内部の真空度、一次電子ビーム4の焦点位置および/または試料14の位置などの種々のパラメータについて設定するものとしてよい。
STEP1202:コンピュータ28は、表示装置29に、図13(a)の画像を表示する。円形像37の中心38は対物レンズの中心(光軸32)を表している。画像全体の中心39は、一次電子ビーム4の中心(第一の中心軌道33)を表している。この画面には、Xスライダーバー41と、Yスライダーバー42が設けられている。
オペレータがXスライダーバー41および/またはYスライダーバー42を操作すると、コンピュータ28は、アライナー制御回路23もしくはガンアライメント制御回路20などに指示を出し、一次電子ビーム4の中心位置を移動させる。このときの移動量は、Xスライダーバー41および/またはYスライダーバー42の指定値に応じて決定される。
なお、一次電子ビーム4の中心位置を移動させる手段は、スライダーバーに限らない。たとえば、制御回路への入力値や、アライナー10などの電流値などを直接入力するものとしてもよい。入力値を増減させるボタンなどを設けてもよい。ハードウェアとして、トラックボールや十字キーなどのコントローラーを備え、コントローラーからの入力に応じて、一次電子ビーム4の中心位置を移動させるものとしてもよい。その他、種々の構成が可能である。
また、この画面には、オペレータの便宜のため、リセットボタン43を設けてもよい。オペレータがリセットボタン43を押下することにより、コンピュータ28は、Xスライダーバー41およびYスライダーバー42に応じた一次電子ビーム4の移動をリセットするよう、各構成要素を制御する(各スライダーバーが中央に戻る)。
STEP1203:コンピュータ28は、Xスライダーバー41およびYスライダーバー42による制御対象を、アライナー制御回路23(を介したアライナー10)に設定する。STEP1203により、オペレータは、縮小率が大きい場合にアライナー10を調整することが可能になる。
STEP1204:オペレータは、Xスライダーバー41および/またはYスライダーバー42を用いて、光軸32と、第一の中心軌道33を一致させる(円形像37の中心38と、画像全体の中心39を一致させる)。図13(b)は、これらが一致した際の表示装置29上の表示である。中心を一致させた後、オペレータは次ステップ遷移ボタン44を押下し、次のステップへ進む。
STEP1205:コンピュータ28は、第一集束レンズ制御回路21、第二集束レンズ制御回路22などに指示を出し、集束レンズの縮小率を小さく設定する。縮小率の変化により、明るさ等も変化しうるため、コンピュータ28は、明るさや、その他の光学条件設定もあわせて行う。
STEP1206:コンピュータ28は、表示装置29に、図13(c)の画面を表示する。Xスライダーバー41、Yスライダーバー42および/またはリセットボタン43などの挙動は、STEP1202で説明したものと同様である。
STEP1207:コンピュータ28は、Xスライダーバー41およびYスライダーバー42による制御対象を、ガンアライメント制御回路20(を介した上段ガンアライメントコイル5や下段ガンアライメントコイル6)に設定する。STEP1207により、オペレータは、縮小率が小さい場合にガンアライメントコイルを調整することが可能になる。
なお、複数のガンアライメントコイルを備える場合は、オペレータはそれぞれのガンアライメントコイルについて調整しなければならない。そこで、複数のガンアライメントコイルを備える場合は、複数のガンアライメントコイルの制御比をあらかじめ決めておくことで、オペレータが調整するパラメータを減少させることが可能である。
STEP1208:オペレータは、Xスライダーバー41およびYスライダーバー42を用いて、光軸32と、第一の中心軌道33を一致させる(円形像37の中心38と、画像全体の中心39を一致させる)。図13(d)は、これらが一致した際の表示装置29上の表示である。中心を一致させた後、オペレータは調整完了ボタン45を押下し、光学条件を決定する。
上記ステップにより調整することで、オペレータは容易に、望ましい順序に従って調整することができる。
なお、STEP1204において、円形像37を任意の位置に移動し、STEP1208における円形像37の位置(縮小率が小さいときの円形像)をSTEP1204で移動した円形像37の位置(縮小率が大きいときの円形像の位置)に合うように操作するものとしても良い。「円形像を任意の位置に移動」とは、円形像を全く移動させない場合もある。
実施例4は、これまでの実施例で示した調整を、自動的に行う方法について説明する。以下、これまでの実施例との相違点を中心に説明する。
図14に、本実施例の調整方法のフローチャートを示す。以下、フローの詳細について説明する。
STEP1401:コンピュータ28は、STEP1201と同等の処理(ビーム走査条件、縮小率、明るさなどの設定)を行う。
STEP1402:実施例3に示した調整手法では、オペレータが画面表示を見ながら手動で調整する、STEP1202が必要である。本実施例では、コンピュータ28が自動で調整を行うため、STEP1202に相当するステップは必ずしも必要ではない。そこでコンピュータ28は、次のステップ(STEP1403)の制御対象を、アライナー制御回路23(を介したアライナー10)に設定する。
STEP1403:コンピュータ28は、STEP1204に相当する処理である、光学条件の自動調整を行う。STEP1402により、自動調整の際の制御対象は、アライナー制御回路23となっている。
自動調整は、円形像37の中心38の位置を画像処理により計測し、円形像37の中心38の位置により、アライナー制御回路23への入力値を決定することなどで実現できる。自動調整の際、その他の既知の画像処理方法を用いてもよく、例えば円形像37の重心位置を求める処理に置き換えてもよい。なお、便宜上「画像」処理と表現したが、表示装置29に画像を表示する必要はない以上、処理の対象もまた画像化されている必要はない。コンピュータ28は、検出器17から、画像化されていない信号値を受け取り、その信号値からアライナー制御回路23への入力値を決定してもよい。
STEP1404:コンピュータ28は、STEP1205と同等の処理(ビーム走査条件、縮小率、明るさなどの設定)を行う。
STEP1405:コンピュータ28は、次のステップ(STEP1406)の制御対象を、ガンアライメント制御回路20(を介した上段ガンアライメントコイル5、下段ガンアライメントコイル6)に設定する。STEP1402で説明したとおり、本実施例では、STEP1206に相当するステップは、必ずしも必要ではない。
STEP1406:コンピュータ28は、STEP1208に相当する処理である、光学条件の自動調整を行う。STEP1405により、自動調整の際の制御対象は、ガンアライメント制御回路20となっている。
実施例3は、オペレータが表示装置29上の画像を見ながら、光学条件を調整するものである。本実施例では、実施例3のSTEP1204及びSTEP1208に相当するステップを自動で処理することで、オペレータが調整する手間を省くことができるほか、オペレータの技能に依らず安定した調整が可能となり、操作初心者であっても容易に調整を実施することが可能となる。
なお、STEP1403において、コンピュータ28が円形像37の位置を記憶手段30に記録し、STEP1406における円形像37の中心38の位置(縮小率が小さい場合)を、STEP1403で記録した位置(縮小率が大きい場合)と一致するように処理するものとしても良い。
以上、各実施例により本発明を説明したが、発明の要旨を変更しない範囲における、構成要素の置換、追加、削除や処理順序の入れ替えなどが可能である。