JP6959721B2 - 炭素繊維の熱処理方法 - Google Patents
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リサイクル回収技術では、回収した炭素繊維が幅広い用途で再利用可能とするために、回収した繊維の長さが長いことが好ましく、バージン繊維に対し大きく強度劣化しないことが最低限求められる。
特許文献1には、800℃以上の過熱水蒸気にて処理し、CFRPの樹脂成分を20〜32質量%残存させる炭素繊維の回収方法が開示されている。
特許文献2には、100℃以上700℃以下の水蒸気を供給しつつ樹脂を乾留し、一部を固定炭素に転換して炭素繊維の表面に付着させる乾留工程と、連続式炉により前記固定炭素が付着した炭素繊維を加熱し、固定炭素の一部を除去して再生炭素繊維を得る加熱除去工程を備える再生炭層繊維の製造方法が開示されている。
具体的には、これまでの引張強度試験後の炭素繊維断面をSEM観察し、破壊起点は炭素繊維に含まれる内部欠陥ではなく、ほとんどすべて繊維表面のき裂から起きていることを確認している。繊維表面のき裂は炭素繊維の表面形態と密接に関係すると考えられるが、表面形態の影響に関して調べられた先行技術はなかった。そこで、この炭素繊維の表面形態に着目し、酸化劣化が起きる際に炭素繊維の表面形態が引張強度に及ぼす影響を表面形態の異なる炭素繊維を使用し詳細に評価を重ねた。更に、酸化劣化に及ぼす酸素分圧の影響を厳密に調べるため、独自に開発した過熱水蒸気生成装置を用い、処理室内を過熱水蒸気で満たし酸素分圧を4×10−6atm以下となるベース雰囲気を形成した。その後、マスフローコントローラーで厳密に流量を制御された酸素を導入し、所定の酸素分圧を実現している。
また、炭素繊維の引張強度評価は「未処理」に対し、酸素を含む過熱水蒸気処理を比較し、相対的に酸化劣化が進行する条件を見出している。
1.表面に凸部を有し、断面画像を用いて、下記式(1)により求められる形状係数が1.05以上であることを特徴とする炭素繊維。
2.炭素繊維を含む素材を、酸素分圧が1×10−5atm以下である雰囲気において、500℃以上の温度で熱処理する工程を備えることを特徴とする、表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
3.上記雰囲気が過熱水蒸気を含む上記項2に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
4.上記熱処理工程の前に、飽和水蒸気を連続的に150℃以上に加熱して過熱水蒸気を生成し体積膨張させ、上記雰囲気を形成する工程を備える上記項2又は3に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
5.表面に凸部を有し、断面画像を用いて、下記式(2)により求められる形状係数が1.05以上である炭素繊維を含む素材を、酸素分圧が3×10−4atm以下である雰囲気において、500℃以上の温度で熱処理する工程を備えることを特徴とする、表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
6.上記雰囲気が過熱水蒸気を含む上記項5に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
7.上記熱処理工程の前に、飽和水蒸気を連続的に150℃以上に加熱して過熱水蒸気を生成し体積膨張させ、上記雰囲気を形成する工程を備える上記項5又は6に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
本発明の熱処理方法により、炭素繊維の表面酸化劣化を抑制することができる。
また、本発明の熱処理方法において、熱処理工程の前に、飽和水蒸気を連続的に150℃以上に加熱して過熱水蒸気を生成し体積膨張させ、特定の酸素分圧雰囲気を形成する工程を備える場合には、酸素分圧が4×10−6atm以下である雰囲気を短時間で設定することができるので、炭素繊維の種類に応じて、酸素を供給して、所定の酸素分圧を有する雰囲気とし、この中で炭素繊維の表面酸化劣化を抑制しつつ効率よく熱処理することができる。
本発明の炭素繊維、および、本発明の方法により熱処理された炭素繊維によれば、これらを単独で又は束状として、CFRP等の、樹脂中に炭素繊維又は炭素繊維束を分散させてなる複合材料の製造原料として好適である。
本発明の炭素繊維は、図1に示されるように、表面に凸部12を有する炭素繊維10である。本発明の炭素繊維は、通常、断面形状が円又は楕円の単繊維である。そして、電子顕微鏡等により得られた断面画像を用いて、下記式(1)により求められる形状係数は、酸化劣化耐性の観点から、1.05以上であり、好ましくは1.10以上、より好ましくは1.20以上、更に好ましくは1.25以上、特に好ましくは1.30以上である。尚、上限は、特に限定されないが、通常、1.50である。
尚、上記式(1)による形状係数は、炭素繊維10の断面の周囲長Lおよび断面積Aにより求めることができ、本発明においては、サンプル数20以上の平均値とする。
本発明の炭素繊維10が有する凸部12は、炭素繊維10の長さ方向の表面において点状でも線状でもよい。また、炭素繊維10の長さ方向に凸部12が連続する線となっている場合、直線および曲線のいずれでもよい。直線の場合、長さ方向に平行であってよいし、螺旋状であってもよい。これらの場合、複数の線状であることが好ましい。
上記炭素繊維の直径(繊維径)は、好ましくは4〜20μmである。
本発明の炭素繊維の熱処理方法は、炭素繊維を含む素材を、特定の雰囲気において、500℃以上の温度で熱処理する工程を備える。そして、第1熱処理方法では、上記雰囲気における酸素分圧を1×10−5atm以下とする。また、第2熱処理方法では、特定の炭素繊維を含む素材に対して熱処理を行い、上記雰囲気における酸素分圧を3×10−4atm以下とする。本発明の熱処理方法は、必要に応じて、この熱処理工程の前後に、他の工程を備えることができる。
また、炭素繊維を含む素材の熱処理温度は、500℃以上であり、好ましくは500℃〜800℃、より好ましくは500℃〜700℃である。この温度は、終始一定であってよいし、昇温および降温を組み合わせてもよい。尚、熱処理温度が高すぎると、過熱水蒸気による酸化反応が顕著となり、本発明の効果が得られない場合がある。
また、炭素繊維を含む素材の熱処理温度は、500℃以上であり、好ましくは500℃〜800℃、より好ましくは500℃〜700℃である。この温度は、終始一定であってよいし、昇温および降温を組み合わせてもよい。尚、熱処理温度が高すぎると、過熱水蒸気による酸化反応が顕著となり、本発明の効果が得られない場合がある。
また、飽和水蒸気の加熱温度は、150℃以上であり、好ましくは200℃〜800℃である。
上記熱処理工程の直前には、酸素分圧を確認し、所定の酸素分圧であれば、このまま、炭素繊維を含む素材の熱処理を行ってよいし、酸素を供給して酸素分圧を調整してから、熱処理を行ってもよい。
熱可塑性樹脂としては、ポリスチレン、スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体、(メタ)アクリル酸エステル・スチレン共重合体、ABS樹脂等のスチレン系樹脂;ゴム強化熱可塑性樹脂;ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等のオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の(メタ)アクリル酸エステルの1種以上を用いた(共)重合体等のアクリル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;ポリアセタール樹脂(POM);ポリカーボネート樹脂(PC);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂;ウレタン系樹脂;ポリ酢酸ビニル;ポリエチレンオキシド;ポリビニルアルコール;ポリビニルエーテル;ポリビニルブチラール;フェノキシ樹脂;生分解性プラスチック等が挙げられる。
また、硬化性樹脂としては、アクリル系樹脂(エポキシ基を有するアクリル系重合体を含む)、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、アルキド樹脂、メラミン樹脂、ウレタン系樹脂、尿素樹脂、シリコーン樹脂、ポリイミド樹脂、ビスマレイミド・トリアジン樹脂、フラン樹脂、キシレン樹脂、グアナミン樹脂、ジシクロペンタジエン樹脂等が挙げられる。そして、硬化性樹脂を含有する、熱硬化性樹脂組成物、光硬化性樹脂組成物、室温硬化性樹脂組成物等によりCFRPを形成することができる。
炭素繊維を樹脂埋めした後、イオンミリング装置を用いて、断面ミリングを行うことにより断面観察用サンプルを作製した。その後、走査型電子顕微鏡により撮影した画像より、炭素繊維の断面積および周囲長を測定し、上記式(1)により形状係数を求めた。測定数は20である。
炭素繊維の単繊維の引張強さとして、JIS R7606に準拠する最大引張荷重を、インストロン社製「万能材料試験機5582」を用いて測定した。測定数は20である。
炭素繊維の熱処理装置は、図2に示される。この装置は、蒸気ボイラーを用いて、一旦、水を100℃超の飽和水蒸気に変換した後,それを誘導加熱方式で発熱するペレット型ヒーターを積層搭載したセラミックス管内に通すことで過熱水蒸気を生成させ、生成した過熱水蒸気を処理室に導入して、炭素繊維の熱処理を行う装置である。尚、処理室には、所定の温度(700℃)で安定的に熱処理するため、アシストヒーターを設置した。また、ペレット型ヒーターの手前で系外のマスフローコントローラーからセラミックス管内に酸素を導入することにより、処理室内の酸素分圧を制御するようにした。
炭素繊維として、下記の2種を用いた。いずれも、単繊維であり、炭素繊維を熱処理する際には、25℃のアセトン中、24時間浸漬した後、大気雰囲気中、120℃で乾燥したものを用いた。
(1)炭素繊維A
図3に示される表面および図4に示される断面を有し、上記式(1)による形状係数(平均値)が1.34(実測値は1.254〜1.420)であるポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた。この炭素繊維Aは、本発明の炭素繊維である。
(2)炭素繊維B
図5に示される表面および図6に示される断面を有し、上記式(1)による形状係数が1.00であるポリアクリロニトリル系炭素繊維を用いた。
炭素繊維Aを用い、熱処理装置の処理室内に載せ置き、飽和水蒸気をセラミックス管内で加熱して、800℃の過熱水蒸気を生成させた。その後、この過熱水蒸気を連続的に処理室に導入して、温度が700℃、酸素分圧が4×10−6atm程度となるベース雰囲気を形成した。その後、マスフローコントローラーで厳密に流量を制御された酸素を導入し、酸素分圧を、それぞれ、4×10−6atm、8×10−6atm、4×10−5atm、4×10−4atmおよび4×10−3atmとして炭素繊維の熱処理を行った。700℃における加熱処理を20分間行った後、アシストヒーターを制御して10℃/分の降温速度で200℃まで冷却し、更に、アシストヒーターの電源をオフとして放冷し、炭素繊維(以下、「熱処理炭素繊維」という)を回収した。
その後、熱処理炭素繊維の最大引張荷重を上記の方法により測定し、以下の平均値Sを得た。
酸素分圧4×10−6atmで熱処理したときのS=5.25GPa
酸素分圧8×10−6atmで熱処理したときのS=4.87GPa
酸素分圧4×10−5atmで熱処理したときのS=4.82GPa
酸素分圧4×10−4atmで熱処理したときのS=4.49GPa
酸素分圧4×10−3atmで熱処理したときのS=3.31GPa
熱処理を行う前の炭素繊維AのS=4.95GPa
図7から明らかなように、酸素分圧が3×10−4atm以下である雰囲気において炭素繊維を熱処理することにより、引張強さの低下、即ち、酸化劣化を抑制することができた。
炭素繊維Aに代えて、炭素繊維Bを用いた以外は、実験例1と同じ処理を行い、熱処理炭素繊維を得た。
その後、熱処理炭素繊維の最大引張荷重を上記の方法により測定し、以下の平均値Sを得た。
酸素分圧4×10−6atmで熱処理したときのS=4.59GPa
酸素分圧8×10−6atmで熱処理したときのS=5.19GPa
酸素分圧4×10−5atmで熱処理したときのS=4.63GPa
酸素分圧4×10−4atmで熱処理したときのS=3.94GPa
酸素分圧4×10−3atmで熱処理したときのS=3.32GPa
熱処理を行う前の炭素繊維BのS=4.98GPa
また、CFRPへの利用又は再利用に好適な炭素繊維は、その断面形状により、特定の熱処理条件、即ち、特定の酸素分圧を選択し、過熱水蒸気による処理を行うことにより、酸化劣化の低下が抑制された熱処理炭素繊維を得ることができる。
Claims (3)
- 前記酸素分圧が8×10−6atm〜1×10−4atmである請求項1に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
- 前記熱処理工程の前に、飽和水蒸気を連続的に150℃以上に加熱して過熱水蒸気を生成し体積膨張させ、次いで、酸素ガスを導入して前記雰囲気を形成する工程を備える請求項1又は2に記載の表面酸化劣化を抑制する炭素繊維の熱処理方法。
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