JP6955890B2 - 安全弁並びにそれに用いるノズル及びジスク - Google Patents
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Description
安全弁は、バルブの入口側の圧力が予め設定した圧力以上になったときに自動的に弁体が開き、流体を排出するものである。代表的な安全弁の構造図を図1に示す。
弁座にはたらく流体閉止力は、上方に配置しているばねによって与えられている。そのばね力は、安全弁が指定された圧力(設定圧力)に対応して作動する様に調整されている。プラント運転中に圧力容器・配管等の流体圧が設定圧力まで上昇した時、流体圧によってジスクにはたらく上方向の力がばねカに打ち勝ち、安全弁が動作する。この時ジスクが上方に動作するので、流体はノズルとジスクの間を通り、二次側(横方向)に流れる。これによって圧力容器・配管の内部圧力の上昇を防止するのが本来の安全弁の機能である。
流体中に(ハロゲンの様な)特別に腐食性のある成分が存在しない、水蒸気に代表される様な高温酸化性サービスにおいて、直接流体に接触する部材であるノズルとジスクは、一般的に18Cr−8Ni系のオーステナイト系ステンレス鋼が使われることが多い。
水蒸気に代表される様な高温酸化性流体に使用される配管部材では、配管内部に酸化スケールが発生することはよく知られている。配管部材の主要構成部材であるステンレス鋼の場合で言えば、生成する酸化膜はFe203,Fe304を主体とする鉄系酸化物であることが幾つかの論文で報告されている(非特許文献1〜非特許文献4)
しかし、その研究範囲は火力発電所のボイラ過熱器管からの酸化スケールの剥離による各種の弊害を対策しようとするものであり、以下に述べる本発明の様な安全弁の内部に発生する問題を解決しようとするものではない。
本発明は、高温の水蒸気雰囲気に長期間曝し続けた場合であっても安全弁が作動する設定圧力に変動が無い、安全弁並びにそれに用いるノズル及びジスクを提供することを目的とする。
請求項2に係る発明は、安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスクである。
請求項3に係る発明は、スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド部は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器である。
請求項4に係る発明は、スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド部は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器である。
請求項5に係る発明は、前記ステンレス鋼は、Cr含有量が20重量%未満のオーステナイト系ステンレス又はフェライト系ステンレスである請求項1又は2記載のノズル又はジスク又は請求項3又は4記載の機器である。
請求項6に係る発明は、安全弁におけるノズル又はジスクの少なくともシール面は、酸化雰囲気内において鉄酸化物を成長させない材料からなることを特徴とするノズル又はジスクである。
請求項7に係る発明は、請求項1ないし6のいずれか1項記載のノズル又はジスクのいずれか一方又は両方を用いた安全弁である。
請求項8に係る発明は、前記安全弁は、過熱水蒸気その他の高温酸化性流体で使用される請求項7記載の安全弁である。
水蒸気環境に曝される前のオーステナイト系ステンレス鋼製のシール面(弁座)は、ラッピングで鏡面状態にまで研磨され、表面には極薄い自然酸化膜しか無い状態になっている。これを高温酸化性雰囲気に所定時間暴露することにより、酸素が内部に侵入して合金成分と直接反応し、酸化膜が厚く成長する。
これを更にもう一度作動させると、設定圧は元の値に戻る。これは、一度作動させることにより、固着状態が解除され、作動を妨げる固着力=0になるため設定圧は元に戻ることになる。
実際の運用においては、運転立ち上げ時に実流体で作動検査を行うとか、微小な異物が噛み込んで弁座の接触面積が減少する。運搬やプラントの運転時の振動で弁座が傾く、メンテナンス時の再研磨のレベルが低いことにより弁座シール面が粗い等、固着しない方向の要因が多々存在し問題を覆い隠しているケースも多く存在する。
しかし、理想的な平滑シール面を創製し、弁座が完全に密着する安全弁は、この固着問題は最大化することになる。
請求項1に係る発明の形態では、安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されている。
ここにおいてステンレス鋼としては、Cr含有量が20重量%未満のステンレスが好適である。Crが20%以上の場合には後述するように鉄酸化物を予め形成しなくとも固着力の低減効果を有している。
オーステナイト系
SUS201;:Ni(3.5-5.5%)、Cr(16-18%)、Mn(5.5-
7%)、N(0.25%以下)
SUS202::Ni(4-6%)、Cr (17-19%)、Mn(7.5-10%)、N(0.25%以下)
SUS301:Ni(6-8%)、Cr(16-18%)
SUS302:Ni(8-10%)、Cr(17-19%)
SUS303:Ni(8-10%)、Cr(17-19%)、Mo(0.60%以下の添加ができる)
SUS304:Ni(8-10.5
%)、Cr(18-20%)
SUS305:Ni(10.5-13%)、Cr(17-19%)
SUS316:Ni(10-14%)、Cr(16-18%)、Mo(2-3%)
SUS317:Ni(11-15%)、Cr(18-20%)、Mo(3-4%)
SUS403:Cr(11.5-13%)
SUS420:Cr(12-14%)
SUS630:Ni(3-5%)、Cr(15-17.5%)、Cu(3-5%)、Nb(0.15-0.45%)
フェライト系
SUS405:Cr(11.5-14.5%)、Al(0.1-0.3%)
SUS430:Cr(16-18%)
SUS430LX:Cr(16-19%)、TiまたはNb(0.1-1.0%)
請求項5に係る発明は、前記酸化雰囲気内において鉄酸化物を成長させない材料を用いる。かかる材料としてCr含入量20重量%以上のオーステナイト系ステンレスが用いられる。
Cr含入量20重量%以上のオーステナイト系ステンレスを高温水蒸気に暴露しても鉄酸化物が形成されないことを確認した。すなわち、この材料を250℃以上の水蒸気に暴露した場合、FeリッチではなくCrリッチの酸化物が形成され、かつ、Crリッチな酸化物の育成によっては固着力の上昇を招かないことを確認した。
SUS309S:Ni(12.00~15.00),Cr(22.00~24.00)
SUS310S:Ni(19.00~22.00),Cr(24.00~26.00)
SUS317J2:Ni(12.00~16.00),Cr(23.00~26.00)
SUS329J1:Ni(3-6)、Cr(23-28)、Mo(1-3)
本形態は、Cr含有量20重量%未満のオーステナイト系ステンレスにおいて少なくともシール面に鉄酸化物ではなくクロム酸化物を形成する形態である。
クロム酸化物を主成分とする酸化物の形成は、例えば、特許文献1あるいは非特許文献5に記載の方法により行えばよい。
また、ステンレス鋼表面にスパッタリング、溶射その他の方法によりCr膜を形成し、次いでベーキング後酸化性ガス雰囲気中例えば、400℃以上の温度で加熱をすることにより皮膜としてクロム酸化物を主成分とする酸化物を形成してもよい。
クロム酸化物を主成分とする酸化物の厚さは、特に限定しないが、シール性及び固着力の発生抑制効果の観点から5nm以上が好ましく10nm以上がより好ましい。
鉄酸化物を形成しない材料として非鉄系耐熱合金を用いる。例えば、ニッケル基合金、コバルト基合金、チタン合金又はアルミ合金が上げられる。
ニッケル基合金としては、Nb,Taなどの化合物の析出により硬化する析出硬化型合金(例えばインコネル718)やMoを含むことにより固溶強化がなされる固溶型合金(例えばハステロイC)などが好ましい。
これら合金は、高温腐食性環境下においても酸化されにくくまた酸化物が生じても固着力の上昇をもたらす酸化物ではない。
コバルト基合金としえは、例えばステライトが好ましい。この材料も酸化されにくいとともにその酸化物は固着力の上昇をもたらす酸化物ではない。
上述の形態は、酸化物の形成であり、また、熱処理による母材との反応により形成する例である。
一方、本形態は、少なくともシール面を酸化物以外の皮膜により被覆する形態である。また、母材との反応による方法以外の方法により表面に皮膜を形成してもよい。
例えば、ステンレス鋼の少なくともシール面を、鏡面に仕上げ、Cr、Co,Ni、Al、Ti若しくは合金又はその酸化物若しくは窒化物をスパッタリング、溶射、めっきなどにより形成してもよい。Al(Al203,AIN)、Ti(TiO、TiN)、Ti−Al−N等の皮膜についても同様の効果が期待できる。
弁体及び弁座のシール面は、シール性を高めるために鏡面に仕上げる。表面租度としては、Rmax(JIS B 0601:2001におけるRz)で10nm以下が好ましい。本発明の固着力の発生防止効果は、3nm〜10nmの範囲にある場合に特に有効である。
ノズル又はジスクのいずれか一方のみに本発明の弁座、弁体を用いれば固着力の抑制効果は生じる。従って、交換が困難な弁座は従来のままのものを用い、交換が容易な弁体のみを本発明に係る弁体に交換することも可能である。
(他の機器)
本発明は、スチーム(過熱蒸気)その他の酸化雰囲気下で使用される機器についても適用される。弁としては安全弁以外に例えば、調節弁、減圧弁であっても適用される。
また、弁以外の機器であっても適用される。部材同士が接触状態で酸化雰囲気下に保持され、適宜接触面が離反ないし移動するような部位を有する部材を組合わせて構成される機器についても適用される。かかる部材としては例えば、弁座部、ガイド部などがあげられる。
鏡面に仕上げたオーステナイト系ステンレス鋼SUS304製の弁座・弁体からなる安全弁を飽和水蒸気に曝した。暴露温度は140℃〜300℃の範囲で変化させて行った。暴露時間は19時間である。
水蒸気温度と固着面圧(単位面積当たりの固着荷重)を調査した結果を図2に示す。図2において横軸の試験温度は、流体である水蒸気温度である。すなわち、安全弁の弁体と弁座が暴露された温度である。一定の温度以上では固着が発生していることが判る。
図3に示す通り、水蒸気暴露試験後のオーステナイト系ステンレス鋼弁座表面は鉄主体の酸化膜になっており、弁座に固着力が発生している。
(実施例1)
なお、図面において、304はSUS304、310はSUS310、IN718はインコネル718(登録商標)、HC276はハステロイC276(登録商標)、ST6はステライト6(登録)、ST12はステライト12(登録商標)である。これらの材料は、オーステナイト系ステンレス鋼で固着した条件で固着は発生していない。
(実施例2)
図7において、「304_G/304_G」で表記する試料が本実施例に係る試料である。
本例では固着は発生しない結果が得られた。
(実施例3)
ただ、本例では、ノズルにのみ保護膜を形成した。ジスクについては未処理である。
その結果を図7に示す。図7における「304_CrN/304」が、本例に係る試料である。保護膜を形成しない場合に比べて固着力が1/3以下に抑制された結果が得られている。
(実施例4−1)
Cr20%以上のオーステナイト系ステンレス鋼をそのまま用いることにより水蒸気暴露状態での酸化膜の組成が変わり、Fe系酸化膜の最表面での成長を抑制することができた。図6にCr20%以上のオーステナイト系ステンレス鋼の研磨直後と水蒸気暴露試験後の深さ方向分布を示す。図3のCrl8%オーステナイト系ステンレス鋼の深さ方向分布と比較して、最表面付近がCrリッチになっており、酸化膜の成長が抑制されていることが判る。
本例の評価試験結果は図7に示す。図7における「310S/310S」が本実施例に係る試料である。250℃の高温水蒸気暴露試験では固着しない結果を生んでいる。
(実施例4−2)
すなわち、電解研磨後、ベーキングを行うことにより母材表面から水分を除去し、次いで、不純物の含有量が1ppb以下の酸化性ガス雰囲気中において、400℃以上の温度で加熱した。これにより母材表面にクロム酸化物を主成分とする酸化物を形成した。なお、この酸化物は不動態膜であり、本明細書、図面においては「G+F」で表している。
この試料につき高温水蒸気暴露試験を行った。その結果を図7に示す。図7において「310S_G+F/304」が本実施例に係る試料である。本試料は、ノズルに処理を行った材料を用い、ジスクは未処理のSUS304オーステナイト系ステンレスを用いた。
(実施例5)
すなわち、表面に、鉄酸化物を含まないクロム酸化物層を形成した。
この試料につき高温水蒸気暴露試験を行った。その結果を図7に示す。図7において「304_G+F/304_G+F」が本実施例に係る試料である。なお、本試料は、ノズル及びジスクに処理を行った。
本例では、280℃〜290℃℃の暴露試験でも固着力はほとんど発生しなかった。
通常のCr18%オーステナイト系ステンレス鋼であっても、熱処理によって最表面にCr203膜を析出させることができる。Al含有ステンレス鋼においては、Al203を析出させることも有効である。
(実施例6)
以上の実施例の水蒸気暴露試験における固着評価結果を図7に集約した。
Crl8%オーステナイト系ステンレス鋼研磨品は200℃以上の飽和水蒸気環境で固着が発生する。
高級耐酸化材料、およびオーステナイト系ステンレス鋼であっても予め鉄酸化物を形成したものは弁座固着の温度範囲を拡大することができた。
(実施例7)
図8の左8個の結果に示される様に片側だけの対策であっても一定の効果が得られている。
これは、ある一定期間使用した安全弁に弁座固着防止を施そうとする場合に、部品交換が困難なノズルを再利用して、ジスク側だけを交換するという行為で処置できることになり、実際のメンテナンス上、非常に有益な結果となる。
2 ノズル
3 ジスク
4 流出口
5 ホディー
6 バネ
7 弁棒
8 シール面(弁座)
10 安全弁
Claims (8)
- 安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
- 安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
- スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド部は、鏡面を有するステンレス鋼上に20nm以上の鉄酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器。
- スチームその他の酸化雰囲気下で使用される調節弁、減圧弁であり、酸化被膜成長によって機能低下する弁座部、ガイド部は、鏡面を有するステンレス鋼上にクロム酸化物を主成分とする酸化物が予め形成されていることを特徴とする機器。
- 前記ステンレス鋼は、Cr含有量が20重量%未満のオーステナイト系ステンレス又はフェライト系ステンレスである請求項1又は2記載のノズル又はジスク又は請求項3又は4記載の機器。
- 安全弁におけるノズル又はジスクであり、少なくともシール面は、鏡面を有するステンレス鋼上Cr、Co,Ni、Al、Ti若しくは合金又はその酸化物若しくは窒化物よりなる皮膜が予め形成されていることを特徴とするノズル又はジスク。
- 請求項1ないし6のいずれか1項記載のノズル又はジスクのいずれか一方又は両方を用いた安全弁。
- 前記安全弁は、過熱水蒸気その他の高温酸化性流体で使用される請求項7記載の安全弁。
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