JP7097575B2 - 耐浸炭特性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金及びその製造方法 - Google Patents

耐浸炭特性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金及びその製造方法 Download PDF

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Description

本発明は耐浸炭特性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金及びその製造方法に関する。
金属、合金では複数の機能を付与する目的で表面処理がなされる。特に使用の多い鋼では内部は組織を低炭素とし、その表面を硬くして耐摩耗性を付与する表面処理の一つとして浸炭処理がなされる場合が多い。この浸炭処理の多くはCOガスを含有するガス組成を900℃前後に加熱した雰囲気槽内に鋼部品等を挿入・浸炭処理をする。
このような処理炉ではその内部に使用される炉材やその周辺設備も高温浸炭雰囲気にさらされてメタルダスティングによる材質劣化が生じ、部品交換を余儀なくされる。またナフサ等の化石燃料の改質(リフォーミング)プラントおよびそれに付随する周辺機器において浸炭現象に伴うメタルダスティングによる材質劣化が挙げられる。
近年,化石燃料の供給チェーン安定確保や環境問題の高まりから,天然ガスを利用したクリーン燃料のひとつとしてGTL(Gas To Liquids)およびDME(ジメチルエーテル)が注目されている。これらの製造においても装置材料のメタルダスティングが懸念されている。
以上から製造設備の寿命延長とメンテナンス期間の延長のため、浸炭しにくい材料開発が喫緊の課題であると言える。
浸炭に伴うメタルダスティングを解決するために耐熱鋳鋼が使用されることが多く、現在ではNiやCrを多量に含有した、もはや鉄基合金ではなくNi基の高価な耐熱鋳鋼が使用されるに至っている。
しかし、これらの耐熱鋳鋼やNi基の耐熱合金は第一に高価である。第二にγ相であるため鋼のもう一つの基地相であるα相と比較して基本的に炭素を固溶しやすい。このことは鉄―炭素平衡状態図からも明らかである。
このためα相基地を有する鉄系材料を使用すれば浸炭現象が抑制されることが期待される。
しかし、通常の鉄系材料では約700℃の高温で基地がα相からγ相に変態するため浸炭抑制が期待されない。このため高温までα相基地となるCrを多量に含有させた高Cr鋼の適用が考えられるが、約600℃から800℃の温度で長期間使用すると、σ相と呼称される脆い組織が析出し、破損に至ることが多発したことから耐メタルダスティング材料として不適とされている。
特開2004-197149号公報 特開2006-075841号公報 特開2007-186727号公報 特開2008-214734号公報 特開2012-000647号公報 国際公開第09/107585号公報 特許004280898号公報 Zairyo-to-Kankyo, 56, 84-90(2007) 金属便覧3版P670 図5・11 日本金属学会編 丸善1971年発行
上記文献での材料はいずれも高ニッケル、高クロム量としたγ相耐熱合金である。
本発明は、上記したような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、耐浸炭性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金及び高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造方法を提供することを課題とする。
上記課題を想起するに至った動機が以下の2点である。
(1)本発明の課題であるメタルダスティングのメカニズム(一例として)は高温のCOガスが合金表面に吸着され分解して原子状のCとOになる。この原子状のCが合金表面から内部に固溶され、浸炭が生じるとされている。(一例として非特許文献1)
(2)上記した従来技術の問題点、すなわち従来メタルダスティングが問題となる耐熱鋼の多くが炭素固溶量の高いγ相を有するオーステナイト系である。
以上の2点を考慮して、本発明者らは、一般的な鋼の基本となる鉄-炭素2元系平衡状態図(一例として非特許文献2)において、γ相に固溶される炭素量が最大約2.14%であるのに対し、α相のそれが0.02%と極めて低いことに着目した。しかし、鉄-炭素2元系合金ではα相が911℃で消失しそれ以上の高温まで存在しない。しかし、合金元素を選択し、合金元素添加量を調整することで、炭素の基地固溶量が少なく浸炭が生じにくいと考えられるα相を高温まで存在させることが達成されたなら、耐浸炭性に優れた耐熱材料を獲得できる可能性があるとの考えに至った。
本発明者らは鉄基合金においてα相を安定化させ、平衡状態計算結果図上においてα相領域を拡大させる元素であるSi、Cr、Vに注目し、これらの元素を適宜変化させた合金組成について平衡状態計算を行うことにより、高温・高炭素量までα相が存在する組成を探索した。
その結果、γ相を抑制し、液相に至る高温までα相となる合金組成を見出し、これらの合金組成の試料を溶製し、ガス浸炭処理を行った結果、浸炭組織が皆無であることを確認した。
請求項1に係る発明は、C:0wt%を超えて0.24wt%以下、Si:0.50~5.0wt%、Mn:0.20~0.50wt%、Cr:2.92~6.13wt%、V:1.92~6.55wt%、Nb:0wt%を超えて1.81wt%以下、Mo:0.02~2.61wt%、Ni:0wt%を超えて1.02wt%以下であり、残部がFe及び不可避不純物である高温フェライト基地鉄系耐熱合金であって、930℃以下において基地組織にはγ相が存在しない高温フェライト基地鉄系耐熱合金に関する。
請求項2に係る発明は、請求項1の組成であって、浸炭雰囲気下で、メタルダスティングと呼称される高温腐食や浸炭による材質劣化・破損などが発生することが危惧される環境で使用される機器・部材に用いられる請求項1に記載の高温フェライト基地鉄系耐熱合金に関する。
請求項3に係る発明は、C:0wt%を超えて0.24wt%以下、Si:0.50~5.0wt%、Mn:0.20~0.50wt%、Cr:2.92~6.13wt%、V:1.92~6.55wt%、Nb:0wt%を超えて1.81wt%以下、Mo:0.02~2.61wt%、Ni:0wt%を超えて1.02wt%以下であり、残部がFe及び不可避不純物である金属溶湯を鋳造することにより得られる高温フェライト基地鉄系耐熱合金であって、930℃以下において基地組織にはγ相が存在しない高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造法に関する。


請求項4に係る発明は、請求項3の製造方法の後に鋳放し、あるいは900℃~1100℃で2~3時間、焼鈍熱処理を行い、焼鈍後は炉冷あるいは焼ならしとすることを特徴とする請求項3に記載の高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造法に関する。
請求項1に係る発明の高温フェライト基地鉄系耐熱合金によれば、合金組成の組織観察と平衡状態計算図においてα相が高温まで存在することにより優れた耐浸炭特性を有する。
請求項2に係る発明の高温フェライト基地鉄系耐熱合金によれば、浸炭雰囲気下で、メタルダスティングと呼称される高温腐食や浸炭による材質劣化・破損などが発生することが危惧される環境で使用される機器・部材に用いられることを可能とする。
請求項3に係る発明の高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造方法によれば、前記組成の金属溶湯を鋳造することにより、α相が高温まで存在する組織を有し、耐浸炭特性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金を容易に製造することができる。
請求項4に係る発明の高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造方法によれば、鋳造後の熱処理により鋳造歪が取り除かれ、また組織が均質化されるので、割れ等の損傷のおそれが少なくなる。また組織不均一により耐浸炭特性が損なわれることを防止できる。
本発明の平衡状態計算による実施例合金の組成を示す図である。 本発明の状態図計算による浸炭に関連する特性・数値を示す図である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金の組成を示す図であり、(b)は本発明の状態図計算による浸炭に関連する特性・数値と浸炭処理後の浸炭の有無を示す図である。 (a)は本発明の比較例合金の組成を示す図であり、(b)は本発明の状態図計算による浸炭に関連する特性と浸炭処理後の浸炭の有無・特徴を示す図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金1の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金2の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金3の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金4の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金5の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金6の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金7の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金8の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金9の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金10の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金11の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金12の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金13の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金14の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金15の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金16の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金17の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金18の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金19の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金20の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金21の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金22の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金23の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金24の平衡状態計算図である。 (a)は平衡状態計算による実施例合金25の平衡状態計算図であり、(b)は平衡状態計算による実施例合金26の平衡状態計算図である。 平衡状態計算による実施例合金27の平衡状態計算図である。 (a)は溶解による実施例合金28の平衡状態計算図であり、(b)は溶解による実施例合金29の平衡状態計算図である。 (a)は溶解による実施例合金30の平衡状態計算図であり、(b)は溶解による実施例合金31の平衡状態計算図である。 (a)は溶解による実施例合金32の平衡状態計算図であり、(b)は溶解による実施例合金33の平衡状態計算図である。 溶解による実施例合金34の平衡状態計算図である。 (a)は比較例合金1の平衡状態計算図であり、(b)は比較例合金2の平衡状態計算図である。 (a)は比較例合金3の平衡状態計算図であり、(b)は比較例合金4の平衡状態計算図である。 比較例合金5の平衡状態計算図である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金28の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金28の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金29の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金29の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金30の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金30の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金31の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金31の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金32の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金32の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金33の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金33の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 (a)は本発明の溶解による実施例合金34の鋳放し試料の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍であり、(b)は本発明の溶解による実施例合金34の1050℃で焼鈍・炉冷した試料にガス浸炭処理した後の表面近傍部の光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 本発明の比較例合金1のガス浸炭処理後の表面近傍部光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 本発明の比較例合金2のガス浸炭処理後の表面近傍部光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 本発明の比較例合金3のガス浸炭処理後の表面近傍部光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 本発明の比較例合金4のガス浸炭処理後の表面近傍部光学顕微鏡写真100倍と500倍である。 本発明の比較例合金4のガス浸炭処理後の内部未浸炭組織の光学顕微鏡写真500倍である。 本発明の比較例合金5のガス浸炭処理後の表面近傍部光学顕微鏡写真100倍と500倍である。
以下、本発明に係る高温フェライト基地鉄系耐熱合金の好適な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
本実施形態の高温フェライト基地鉄系耐熱合金は、C:0wt%を超えて1.5wt%、Si:0.50~5.0wt%、Mn:0.20~0.50wt%、Cr:0wt%を超えて6.13wt%、V:1.0~6.55wt%、Nb:0wt%を超えて1.81wt%、Mo:0.02~2.61wt%、Ni:0wt%を超えて2.01wt%であり、残部がFe及び不可避不純物である高温フェライト基地鉄系耐熱合金であって、この組成で構成される合金の平衡状態計算図において930℃あるいはそれ以上の温度域まで基地組織がα相のみで、γ相が存在せず、α相基地とMC系炭化物からなる。
本実施形態の高温フェライト基地鉄系耐熱合金に含有させる各元素について以下に説明する。
Cは、溶解時の酸化防止と脱酸、また鋳造時の湯流れを良好にして、健全な鋳造品の製造には欠くことのできない元素である。しかし、Cがγ相安定化元素であることにより、高温度になることによりγ相を析出させ、本実施形態の合金がα相基地による耐浸炭性が損なわれることが危惧される。
本実施形態の合金においては、Cの含有量の下限は0wt%を超えてであり、好ましくは0.03wt%であり、更に好ましくは0.05wt%である。また、Cの含有量の上限はγ相が析出しない1.50wt%であり、好ましくは1.2wt%であり、更に好ましくは1.0wt%である。
このことにより、浸炭が進行しやすい900℃を超える高温においても基地すべてに浸炭が生じないα相となり、耐浸炭性に優れた合金を供することが可能となる。
Siは、溶解時の酸化防止と脱酸、また鋳造時の湯流れを良好にして鋳造性を確保する効果を有する。また、α相安定化作用を有し、高温強度を高くする。
Siの含有量の下限は0.50wt%であり、好ましくは0.80wt%であり、更に好ましくは1.00wt%である。また、Siの含有量の上限は5.00wt%であり、好ましくは4.50wt%であり、更に好ましくは4.00wt%である。
Siの含有量が上記下限未満であると、Siを含有させることによる効果が得られなくなって、鋳造性が悪化するおそれがあるとともに、γ相析出を促し、耐浸炭性を低下させる。一方、Siの含有量が上記上限を超えると、室温での靱性が低下するおそれがある。
Mnは、溶解時の脱酸調整作用、脱硫作用に有効であり、また、耐食性や耐熱性、靱性を向上させる効果を有する。しかし、Mnはγ相析出を促進するため前述の脱酸調整作用、脱硫作用に有効に働く範囲に留めることが必要である。
そして、Mnの含有量の下限は0.20wt%であり、上限は0.50wt%である。
Mnの含有量が上記下限未満であると、Mnを含有させることによる効果が得られなくなるおそれがある。一方、基地のγ相安定化に働く作用を有しているため本合金の耐浸炭性を低下させるおそれがある。
Mnがγ相領域を拡大させる元素であるであるため、Mnの含有量が上限を超えて含有されるとオーステナイト相が析出する炭素量が低値領域になるため好ましくない。
Crは、基地に固溶して基材の強度を増加させ、また炭化物を形成し高温強度を高くする効果を有するとともにα相安定化作用を有し、α相が存在する範囲を拡大させる。
Crの含有量の下限は0wt%を超えてであり、好ましくは0.10wt%であり、更に好ましくは0.15wt%である。また、Crの含有量の上限は6.13wt%であり、好ましくは6.00wt%であり、更に好ましくは5.90wt%である。
Crの含有量が上記下限未満であると、Crを含有させることによる効果が得られなくなるおそれがある。一方、上記上限を超える場合には、高温において脆いσ相が析出するために靭性値が低下するおそれがある。
Vはα相安定化元素であり、高温までα相が安定して存在する範囲を拡大する。そして、Vの含有量の下限は1.00wt%であり、好ましくは1.20wt%であり、更に好くは1.40wt%である。また、Vの含有量の上限は6.55wt%であり、好ましくは6.40wt%であり、更に好ましくは6.20wt%である。
Vの含有量が上記下限未満であると、γ相が析出して耐浸炭性を低下させるおそれがある。一方上記上限を超える場合には、結晶粒界に粗大なVC系炭化物が偏析するために室温での靭性値が低下するおそれがある。
NbはV同様にα相安定化に働き、炭化物生成元素である。Nbは高温までα相が安定して存在する範囲を拡大するとともに、凝固時の液相と固相の共存する温度範囲を狭める働きがある。この凝固温度範囲の狭小化によりNbは凝固時のミクロポロシティと呼称される鋳造欠陥の発生を減退させる効能がある。
Nbの含有量の下限は0wt%を超えてであり、好ましくは0.20wt%であり、更に好くは0.40wt%である。また、Nbの含有量の上限は1.81wt%であり、好ましくは1.70wt%であり、更に好ましくは1.60wt%である。
Nbの含有量が上限を超えて含有されると、ラーベス相と呼称される硬質な脆い相が低炭素領域に多く析出するため材質上好ましくない。
MoはV同様にα相安定化に働き、炭化物生成元素である。本開発合金で1%Mo以上添加するとMoを主とするMC炭化物が生成し、靭性が低下する傾向がある。
Moの含有量の下限は0.02wt%であり、好ましくは0.10wt%であり、更に好くは0.20wt%である。また、Moの含有量の上限は2.61wt%であり、好ましくは2.50wt%であり、更に好ましくは2.20wt%である。
Moの含有量が上限を超えて含有されると、γ相が低温度・低炭素域で析出するようになるため、かつMoを含有する板状炭化物が析出し、脆くなるため材質上好ましくない。
Moの含有量が下限未満であると、高温度域での耐酸化性が低下するため好ましくない。
Niは、γ相安定化に働く作用を有し、フェライト存在温度域を低下させるため本開発合金ではできる限り低値であることが望ましい。Niの含有量の好ましい下限は0wt%を超えてであり、許容されるNiの含有量の上限は2.01wt%である。
Niがγ相領域を拡大させる元素であるため、Niの含有量が上限を超えて含有されると、オーステナイト析出炭素量が低炭素領域になるため好ましくない。
400℃から800℃の浸炭性ガス高温雰囲気下では鉄基合金が極めて急速に腐食・減肉するメタルダスティングが顕著に生じることが古くから報告されている。
その具体的事例として化学産業におけるナフサ等の化石燃料の改質(リフォーミング)プラントおよびそれに付随する周辺機器において浸炭現象に伴うメタルダスティングによる材質劣化が上げられる。以上から製造設備の寿命延長とメンテナンス期間の延長のため、浸炭しにくい材料開発が喫緊の課題であると言える。
浸炭に伴うメタルダスティングの解決するために耐熱鋳鋼が使用されることが多く、現在ではNiやCrを多量に含有した、もはや鉄基合金ではなくNi基の高価な耐熱合金が使用されるに至っている。
しかし、これらの耐熱鋳鋼やNi基の耐熱合金は基地がγ相であるため鋼のもう一つの基地相であるα相と比較して基本的に炭素を固溶しやすい性質を有している。このことは鉄―炭素平衡状態図からも明らかである。このためα相基地を有する鉄系材料を使用すれば浸炭現象が抑制されることが期待される。
この発明に係る高温フェライト基地鉄系耐熱合金は、炭素の基地固溶量が少なく浸炭が生じにくいα相が高温まで存在し、かつCr量を抑制した鉄基合金の開発を行ったことで、Ni、Crの使用を抑制した省資源でコストの低い耐浸炭性に優れた耐熱材料を産業界に提供できる効果を有する。
実施例にもとづいて本発明を更に詳細に説明する。しかしながら、本発明は実施例に限定されるものではない。
[平衡状態計算による組成探索]
鉄基合金においてα相を安定化させ、平衡状態計算結果図上においてα相領域を拡大させる元素であるSi、Cr、Vに注目し、これらの元素を適宜変化させた合金組成について平衡状態計算を行うことにより、高温・高炭素量までα相が存在する組成を探索した。
この探索に平衡状態図計算ソフト(サーモカルク社製、Thermo-Calc WindowsGUI(TCW3.0))と平衡状態図計算用データベース(サーモカルク社製、TCFe3 TCS Steel DatabaseV3)とを用いた。
27種の仮定された組成について平衡状態計算を行った。図1(a)に、本発明の平衡状態計算に用いられた仮定条件である「平衡状態計算による実施例合金」の組成を示す。
本計算において注目されるのは、α相領域を拡大させる元素であるSi、Cr、Vである。これらを、それぞれ0.5~5.0wt%、0.0~6.0wt%、1.0~4.5wt%の範囲で変化させた。
逆にγ相領域を拡大させる元素であるMnおよびNiについては、それぞれ0.0~0.3wt%および0.0~2.0wt%の範囲で変化させた。また、Nb、Moについては、それぞれ0.0~0.8wt%および0.0~1.0wt%の範囲で変化させた。
本計算で明らかにしたいのは、仮定されたある組成に対し、どの程度の高温、どの程度の高浸炭濃度までα相が維持されるかである。
したがって、浸炭の度合いを示す指標となる炭素(C)量は、0.2wt%を典型的な指標の値とし0.0wt%から最大1.5wt%まで変化させ、温度は930℃を典型的な指標の値とし600℃から最大1600℃まで変化させ、平衡状態を計算した。
その結果、γ相を抑制し、930℃のような高温までα相となる合金組成が存在する可能性を見出した。
図1(b)に平衡状態計算の結果である浸炭に関連する特性、数値を示す。
図1(b)の第2列は炭素量0.2wt%、温度930℃におけるγ相の有無である。平衡状態計算による実施例合金1から27すべてにおいて、炭素量0.2wt%、温度930℃でγ相の存在は認められない。このことは図4から図17に示した平衡状態計算による実施例合金1から27の平衡状態計算図から明らかで、基地がα相単相となる領域が存在する。
図1(b)の第3列は930℃においてγ相が析出する最小の炭素量を示す。この数値が高い実施例が浸炭を抑制する効果が大きいと考えられる。
平衡状態計算による実施例合金23、24,25においてγ相が析出する最小の炭素量が1.000wt%を上回っており、他の平衡状態計算による実施例合金に比べて特に高いこと、したがって本材料が耐熱鋳鋼として有望であることがわかる。
これらの材料の組成は、いずれも4.0wt%以上の高いSi含有量、4.0wt%以上の高いCr含有量、4.0wt%以上の高いV含有量を有する組成であることから、本結果は、Si、Cr、Vがα相領域を拡大させている可能性を示唆しており、本結果は計算前の予測と矛盾しない。
[溶解実験および浸炭処理実験による検証]
上記平衡状態計算結果を検証する溶解実験、および浸炭処理実験を行った。
第一に、前の平衡状態計算に基づき鋳造に用いる材料の組成を7種類設定した。
第二に、前記1種の材料組成に対し2個づつの合金サンプル(計14個)を溶製した。そのうち1個を鋳放し試料とした。
第三に、前記1種の材料組成に対し2個作製したサンプルのうち1個を1050℃で焼鈍し、焼鈍試料とした。
第四に、前記14個のサンプルに対しカーボンポテンシャル1.10%・930℃で4時間の浸炭処理を行った。浸炭処理装置名は(株)日本テクノ製Nvg―SE―302020Sである。
第五に、ガス浸炭処理後のサンプル14個に対して組成および組織の評価を行った。該評価においては、試料表面近傍を研磨・腐食して光学顕微鏡観察により浸炭の有無を確認した。
第六に、溶解および浸炭実験の結果に対し、前に述べた平衡状態計算手法を用いて検証計算を行った。
浸炭温度の930℃に近い温度でのオーステナイト析出が平衡状態計算から推測される溶解による実施例合金28から、徐々にオーステナイト相析出範囲が浸炭温度の930℃よりも高く、かつオーステナイト領域が高炭素となるように、平衡状態計算による実施例合金1から27の状態図計算結果に基づいて、Si,Cr,Vの添加量を増加させた合金組成となる溶解による実施例合金29から溶解による実施例合金34の組成を選定した。
図2に上記実験の結果を示す。図2の(a)は、「溶解による実施例合金28~34」の組成分析値である。組成分析はサーモフィシャー製ARL4460を用いてJIS G1253スパーク放電発光分光分析法により行った。α相領域を拡大させる元素として注目したSiの濃度は0.43~3.46wt%、Crの濃度は2.92~6.13wt%、Vの濃度は1.92~6.55wt%の範囲にある。
図2の(b)の第4,5列は、ガス浸炭処理後のサンプルの浸炭組織の有無を示す。
第4列は鋳放しで作製したサンプルに対する結果であり、第5列は1050℃で焼鈍処理を行ったサンプルに対する結果である。
図2の(b)の第2、3列は、前述の溶解および浸炭実験の結果に対し検証の平衡状態計算を行った結果である。
第2列は、図2の(a)に示す材料組成測定値を有するサンプルが、930℃でγ相と成るか否かを計算した結果を示す。
溶解による実施例合金28から34すべてにおいて930℃においてγ相の存在は認められない。このことは図18から図21に示した溶解による実施例合金28から34の平衡状態計算図から明らかである。
第3列は、図2の(a)に示す材料組成測定値を有するサンプルにおいて、仮に、さらに強力な浸炭によって炭素濃度を増加させたとき、どの程度の炭素濃度でγ相が現れるかを計算した結果である。
溶解による実施例合金28は、930℃の浸炭温度において平衡計算によるγ相が析出する炭素量よりも僅かに高い炭素量であるが浸炭は図25に示すように認められなかった。同様に浸炭が全く認められなかった29から34は平衡計算によるγ相が析出する炭素量よりも歴然と低い炭素量であるため、図26から図31に示すように浸炭は認められない。
[比較例の浸炭処理実験]
さらに、比較例合金を用いて本発明の係る高温フェライト基地鉄系耐熱合金が、従来の耐熱鋳鋼を含む合金に対して耐浸炭特性において優位であるか否かの検証を行った。従来産業用に用いられてきた5種の合金を比較例合金とした。前記比較例合金5種に対し、前述の実験と同じ条件で浸炭処理を行い、ガス浸炭処理後のサンプルに対して組成および組織の評価を行うとともに、前述と同じ手順で検証計算も行った。
図3に本発明の比較例合金の組成、浸炭に関連する特性・数値と浸炭処理後の浸炭の有無を示す。
図3(a)は、比較例合金の材料組成分析結果を示す。
図3(b)の第3列は、ガス浸炭処理後のサンプルの浸炭組織の有無を示す。全てのサンプルにおいて浸炭が生じていることがわかる。図32~図37にその顕微鏡写真を示す。該顕微鏡写真には浸炭組織が観察される。
図3(b)の第2列は、図3の(a)に示す材料組成分析値を有するサンプルが、930℃でγ相と成るか否かを計算した結果を示す。図22の(a)~図24にその平衡状態計算結果を示す。比較例合金1から4については平衡状態計算結果から930℃においてγ組織が存在することがわかる。
比較例合金1はその組成からJIS規格G-5122に規定されている耐熱鋳鋼SCH13である。
比較例合金1は図22(a)の平衡状態計算結果に示すように炭素量0.38wt%・930℃ではγ相が存在する。
図32に比較例合金1の浸炭処理後の組織を示す。表面近傍だけでなく、粒界に沿って内部にまで浸炭が生じている。
比較例合金2はJIS規格G-4303に規定されているステンレス鋼SUS304である。
比較例合金2は図22(b)の平衡状態計算結果に示すように炭素量0.08wt%・930℃ではγ相が存在する。
図33に示した比較例合金2の浸炭処理後の組織には、表面に炭化物の生成が認められ、明らかに浸炭が生じている。
比較例合金3はJIS規格G-4404に規定されている合金工具鋼材のSKD61の組成に相当する鋳鋼である。
SKD61の組成であるため炭素量0.35wt%・930℃のような高温では図23(a)の平衡状態計算結果に示すようにγ組織が存在する。これにより図34に示すように炭化物の生成が認められ浸炭が生じている。
比較例合金4は耐熱性向上を目指した耐熱鋳鋼であり、図23(b)の平衡状態計算結果に示すように炭素量0.65wt%・930℃でγ相が存在する。
比較例合金4は高Ni、高Crの鋳鋼材料であるため図35に示すようにγ相基地への浸炭は認めにくいが、浸炭表面近傍の炭化物の成長という浸炭が認められる。このことは図36に示した比較例合金4の未浸炭組織の光学顕微鏡写真との比較で理解される。
比較例合金5は図24に示したように炭素量0.15wt%・930℃では基地はα相のみでγ相が認められない。しかし、顕著な浸炭が生じた。
このことは図37に示した浸炭処理後の顕微鏡写真において浸炭表面部に微細な炭化物の密集・分散が観察されることより明らかである。
この炭化物は比較例合金5に含有されるチタン(Ti)によるもので、Tiの炭化物生成傾向が極めて大きなことに起因するものである。つまりTiはフェライト安定化元素であるため基地をα相とすることが可能である。
しかし、同時にTiは炭化物を生成しやすいため、浸炭雰囲気下ではTiの炭化物が表面に生成され、浸炭が生じる。Ti添加は耐浸炭性を向上できず、むしろ浸炭を促進すると考えられる。
以上のような比較例合金を用いた実験結果より、本願発明の係る高温フェライト基地鉄系耐熱合金は従来の耐熱鋳鋼を含む合金に対して耐浸炭性に優れ、高い耐熱性を有することが判る。
本発明によれば、耐浸炭性に優れた高温フェライト基地鉄系耐熱合金及び高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造方法を提供することができることから、浸炭雰囲気下で、メタルダスティングと呼称される高温腐食や浸炭による材質劣化・破損などが発生することが危惧される環境で使用される機器・部材として用いられる効果を有する。

Claims (4)

  1. C:0wt%を超えて0.24wt%以下、Si:0.50~5.0wt%、Mn:0.20~0.50wt%、Cr:2.92~6.13wt%、V:1.92~6.55wt%、Nb:0wt%を超えて1.81wt%以下、Mo:0.02~2.61wt%、Ni:0wt%を超えて1.02wt%以下であり、残部がFe及び不可避不純物である高温フェライト基地鉄系耐熱合金であって、930℃以下において基地組織にはγ相が存在しない高温フェライト基地鉄系耐熱合金。
  2. 請求項1の組成であって、浸炭雰囲気下で、メタルダスティングと呼称される高温腐食や浸炭による材質劣化・破損などが発生することが危惧される環境で使用される機器・部材に用いられる請求項1に記載の高温フェライト基地鉄系耐熱合金。
  3. C:0wt%を超えて0.24wt%以下、Si:0.50~5.0wt%、Mn:0.20~0.50wt%、Cr:2.92~6.13wt%、V:1.92~6.55wt%、Nb:0wt%を超えて1.81wt%以下、Mo:0.02~2.61wt%、Ni:0wt%を超えて1.02wt%以下であり、残部がFe及び不可避不純物である金属溶湯を鋳造することにより得られる高温フェライト基地鉄系耐熱合金であって、930℃以下において基地組織にはγ相が存在しない高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造法。
  4. 請求項3の製造方法の後に鋳放し、あるいは900℃~1100℃で2~3時間、焼鈍熱処理を行い、焼鈍後は炉冷あるいは焼ならしとすることを特徴とする請求項3に記載の高温フェライト基地鉄系耐熱合金の製造法。
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