上記のオイルポンプでは、車両の前進時に加えて、後進時にも、オイルポンプを所定方向に回転させることにより、減速機やモータの潤滑及び冷却が可能である。しかし、このオイルポンプでは、モータの回転速度が上昇するのに伴い、駆動軸の回転速度も上昇し、それにより、ポンプ本体の回転速度が必要以上に高くなることがある。この場合、ポンプ本体内のオイルにおいて、キャビテーションが発生し、それにより、ポンプ本体が損傷するおそれがある。
本発明は、以上のような課題を解決するためになされたものであり、ポンプ本体が必要以上の回転速度で回転するのを抑制でき、それにより、キャビテーションの発生を効果的に防止することができる車両用のオイル供給装置を提供することを目的とする。
上記の目的を達成するために、請求項1に係る発明は、車両走行用の駆動源としてのモータ2によって駆動されることにより、車両Vの所定箇所にオイルを供給する車両用のオイル供給装置1であって、モータのロータ2aと一体に回転する第1シャフト(実施形態における(以下、本項において同じ)モータシャフト2c)と、モータに連結された所定の減速機4を介して回転する第2シャフト(駆動シャフト5)と、所定の回転体(インナーロータ35)を有し、回転体が回転駆動されることにより、吸入部(オイル吸入口31b)を介してオイルを吸入し、吐出部(オイル吐出口31c)を介してオイルを吐出するポンプ本体30と、第1シャフトと回転体を連結し、第1シャフトが所定の第1回転速度(回転速度Q)以上で回転するときに、連結を解除する第1クラッチ41と、第2シャフトと回転体を連結可能に設けられ、第2シャフトが第1回転速度以下の所定の第2回転速度(回転速度P)以上で回転するときに、第2シャフトと回転体を連結する第2クラッチ42と、を備えていることを特徴とする。
この構成によれば、モータが作動、すなわちそのモータのロータが回転すると、それと一体に第1シャフトが回転する。この第1シャフトとポンプ本体の回転体は、第1クラッチによって連結されている。この第1クラッチは、第1シャフトが所定の第1回転速度以上で回転するときに、第1シャフトとポンプ本体の回転体との連結を解除するように構成されている。逆に言うと、第1シャフトが第1回転速度未満で回転しているときには、その第1シャフトと一体に、ポンプ本体の回転体が回転し、それにより、ポンプ本体において、吸入部からオイルを吸入し、吐出部を介してオイルを吐出することで、オイルを車両の所定箇所に適切に供給することができる。
また、モータの回転速度が上昇し、減速機を介して回転する第2シャフトが、第1回転速度以下の所定の第2回転速度以上で回転するときに、第2クラッチを介して、第2シャフトとポンプ本体の回転体とが連結される。そして、モータの回転速度の上昇により、第1シャフトが第1回転速度以上で回転すると、第1クラッチによる第1シャフトとポンプ本体の回転体との連結が解除され、ポンプ本体の回転体は、第2シャフトと一体に回転する。この第2シャフトは、モータに直結した第1シャフトと異なり、モータに連結された減速機を介して回転するので、モータ自体の回転速度が上昇しても、第2シャフトの回転速度を抑制し、その結果、ポンプ本体の回転体の回転速度が抑制される。以上のように、本発明によれば、モータの低回転から高回転の広い速度範囲にわたって、オイルを適切に供給することができ、また、ポンプ本体が必要以上の回転速度で回転するのを抑制できることにより、キャビテーションの発生を効果的に防止することができる。
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の車両用のオイル供給装置において、第1クラッチは、第1シャフトの外周に沿って配置され、回転体と一体に回転可能にかつ第1シャフトの径方向に移動可能に構成された複数の第1係合片(クラッチ片44)と、これらの複数の第1係合片を、第1シャフトの径方向内側に付勢することにより、複数の第1係合片を第1シャフトに係合させる第1付勢手段(コイルばね45)と、を有していることを特徴とする。
この構成によれば、第1クラッチの複数の第1係合片が、第1付勢手段によって、第1シャフトの径方向内側に付勢されることにより、その第1シャフトに係合する。これにより、第1シャフトが、第1クラッチを介して、ポンプ本体の回転体に連結される。また、第1クラッチが第1回転速度以上で回転するときに作用する遠心力によって、各第1係合片が第1付勢手段の付勢力に抗して外方に移動することにより、各第1係合片の第1シャフトに対する係合が解除される。これにより、第1シャフトと回転体の連結が解除される。以上のように、上述した複数の第1係合片及び第1付勢手段により、第1シャフトと回転体を連結するとともにそれを解除する第1クラッチを、容易に構成することができる。
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の車両用のオイル供給装置において、回転体(インナーロータ35の円筒凸部37)と第2クラッチとの間に設けられ、第2シャフトが所定の一方向に回転したときにのみ、第2シャフトの回転トルクを第2クラッチを介して、回転体に伝達するワンウェイベアリング49を、さらに備えていることを特徴とする。
この構成によれば、ポンプ本体の回転体と第2クラッチとの間に、上記のワンウェイベアリングが設けられているので、回転体が第1クラッチを介して連結されている第1シャフトと一体に回転しているときに、回転体が第2クラッチ及びワンウェイベアリングを介して第2シャフトに連結された場合、第2シャフトの回転速度が第1シャフトのそれよりも低いので、第2シャフトは回転体に対して空転する。一方、モータの回転速度の上昇に伴い、第1クラッチによる第1シャフトと回転体の連結が解除されたときには、第2シャフトの回転トルクが、第2クラッチ及びワンウェイベアリングを介して、回転体に伝達される。このように、モータの回転速度が上昇するときに、回転体への第1シャフトから第2シャフトによる回転トルクの伝達を円滑に行うことができる。
請求項4に係る発明は、請求項3に記載の車両用のオイル供給装置において、ワンウェイベアリングは、回転体に固定された外輪49bと、その内側に回転自在に配置された内輪49aとを有しており、第2クラッチは、第2シャフトの外周に沿って配置され、第2シャフトと一体に回転可能にかつ第2シャフトの径方向に移動可能に構成された複数の第2係合片(クラッチ片46)と、これらの複数の第2係合片を、第2シャフトの径方向内側に付勢する第2付勢手段(コイルばね47)と、を備え、第2シャフトが第2回転速度(回転速度P)以上で回転するときに、複数の第2係合片が第2付勢手段の付勢力に抗して第2シャフトの径方向外側に移動することにより、複数の第2係合片をワンウェイベアリングの内輪に係合させることを特徴とする。
この構成によれば、ワンウェイベアリングの外輪が回転体に固定されている。また、第2クラッチの複数の第2係合片が、第2シャフトの外周に沿って、上記のように配置されている。すなわち、各第2係合片は、第2シャフトと一体に回転可能にかつその径方向に移動可能に構成され、第2付勢手段によって、第2シャフトの径方向内側に付勢された状態で配置されている。また、第2シャフトが第2回転速度以上で回転するときに作用する遠心力によって、各第2係合片が第2付勢手段の付勢力に抗して第2シャフトの径方向外側に移動する。これにより、各第2係合片は、ワンウェイベアリングの内輪に係合し、その結果、第2シャフトが、第2クラッチを介して、回転体に外輪が固定されたワンウェイベアリングに連結される。以上のように、上述した複数の第2係合片及び第2付勢手段により、第2シャフトが第2回転速度以上で回転するときに、第2シャフトとワンウェイベアリングとを連結する第2クラッチを、容易に構成することができる。
請求項5に係る発明は、請求項1から4のいずれかに記載の車両用のオイル供給装置において、ポンプ本体は、トロコイドポンプで構成され、回転体がトロコイドポンプのインナーロータであることを特徴とする。
この構成によれば、トロコイドポンプで構成されたポンプ本体において、回転体としてのインナーロータを回転させることにより、オイルの吸入及び吐出を円滑に行うことができる。また、ポンプ本体としてトロコイドポンプを採用することにより、2つのギヤが互いに噛み合うギヤポンプなどに比べて、ポンプ本体を比較的コンパクトに構成することができる。
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態によるオイル供給装置を、これを適用した車両の駆動ユニットとともに模式的に示している。同図に示すように、このオイル供給装置1は、左右の車輪WL及びWRをモータ2で駆動する四輪車両(以下「車両V」という)などに適用され、そのモータ2で駆動されることにより、後述する減速機4の潤滑やモータ2の冷却などのために、それらにオイルを供給するものである。
図1に示すように、駆動ユニット3は、車両Vを走行させる駆動源としてのモータ2と、このモータ2に連結された減速機4と、この減速機4から出力されるトルクを左右の車輪WL及びWRに伝達するための駆動シャフト5とを備えている。モータ2は、ロータ2a及びステータ2bを有しており、ロータ2aと一体に回転する中空状のモータシャフト2cの一方の端部(図1の左端部)に、後述するサンギヤ11が設けられている。
減速機4は、左右に並んだ状態で設けられた2つの第1及び第2遊星歯車機構10、20を備えている。具体的には、第1遊星歯車機構10は、モータ2のモータシャフト2cに設けられたサンギヤ11と、これに噛み合う複数(図1では2つのみ図示)のピニオンギヤ12と、これらのピニオンギヤ12を覆った状態で不動に設けられ、各ピニオンギヤ12に噛み合うリングギヤ13と、全てのピニオンギヤ12を回動自在にかつ公転自在に支持するキャリア14などで構成されている。
一方、第2遊星歯車機構20は、第1遊星歯車機構10のキャリア14の中心部に設けられたサンギヤ21と、これに噛み合う複数(図1では2つのみ図示)のピニオンギヤ22と、これらのピニオンギヤ22を覆った状態で不動に設けられ、各ピニオンギヤ22に噛み合うリングギヤ23と、全てのピニオンギヤ22を回転自在にかつ公転自在に支持するキャリア24などで構成されている。そして、このキャリア24の中心部から、駆動シャフト5が左方及び右方にそれぞれ延びている。特に、右側の駆動シャフト5は、中空のモータシャフト2c内及びオイル供給装置1内を通って、右方に延びている。なお、この駆動シャフト5は、モータシャフト2c内及びオイル供給装置1の後述するベース31内においてそれぞれ、ニードルベアリング6及びボールベアリング7を介して、回動自在に支持されている(図2(b)参照)。
また、図1に示すように、駆動ユニット3の右部には、オイル供給装置1が設けられている。図2は、オイル供給装置1を示しており、図3は、そのオイル供給装置1を分解して示している。両図に示すように、オイル供給装置1は、ポンプ本体30と、モータ2の回転トルクをポンプ本体30に伝達する伝達機構40とで構成されている。なお、オイル供給装置1についての以下の説明では、オイル供給装置1のモータ2側(図2(a)及び図3の左下側、図2(b)の左側)を「前」、モータ2の反対側(図2(a)及び図3の右上側、図2(b)の右側)を「後」として説明するものとする。
図4は、分解したポンプ本体30を拡大して示している。同図及び図2、3に示すように、このポンプ本体30は、トロコイドポンプであり、ベース31及びカバー32で構成されたケーシング33と、このケーシング33内において回転自在に収納されたアウターロータ34と、このアウターロータ34の後述する内歯34aに係合し、モータ2によって回転駆動されるインナーロータ35とを備えている。
ケーシング33のベース31は、図4及び図5(c)に示すように、正面形状がほぼ8角形に形成され、中央部に所定の外径を有しかつ前方に所定長さ突出する肉厚円筒状のロータ支持部31aが形成されている。また、ベース31には、ロータ支持部31aの左右両側に、前後方向に貫通し、周方向に所定長さ延びる長孔状に形成されたオイル吸入口31b(吸入部)及びオイル吐出口31c(吐出部)が設けられている。なお、ベース31の外周部には、ポンプ本体30を駆動ユニット3にねじ止めするための複数(本実施形態では8つ)の取付け孔31dが設けられている。
一方、ケーシング33のカバー32は、正面形状が所定の径を有する円形に形成されるとともに前後方向に所定の深さを有し、後面が開放するケース状に形成されている。また、カバー32には、前後方向に貫通し、インナーロータ35の後述する円筒凸部37の外径とほぼ同じ経を有する開口部32aが形成されている。
アウターロータ34は、正面形状がリング状に形成され、所定の外径、内径及び厚さを有している。また、アウターロータ34の内周面には、周方向に沿って、複数(本実施形態では16個)の所定形状の内歯34aが形成されている。
インナーロータ35は、アウターロータ34の内歯34aに係合する係合部36と、この係合部36から前方に所定長さ突出する円筒凸部37とを有している。係合部36は、所定の外径及び厚さを有するとともに、円筒凸部37と同じ内径を有している。また、係合部36の外周面には、周方向に沿って、前記アウターロータ34の内歯34aよりも1つ少ない複数(本実施形態では15個)の所定形状の外歯36aが形成されている。
一方、円筒凸部37は、その前面端部に前壁37aを有している。また、前壁37aには、その中央に、所定の径を有する開口部37bが形成されるとともに、開口部37bの直ぐ外側に、3つの支持ピン37cが突設されている。これらの支持ピン37cは、互いに周方向に等角度で配置され、前方に所定長さ突出している。そして、これらの支持ピン37cには、伝達機構40の後述する第1クラッチ41の3つのクラッチ片44がそれぞれ支持される。
図5(c)は、アウターロータ34及びインナーロータ35をケーシング33のベース31に組み付けた状態を示している。この状態では、アウターロータ34の内歯34に、インナーロータ35の外歯36aの一部(図5(c)の右側部分)が噛み合い、また、インナーロータ35がアウターロータ34に対し、径方向(図5(c)の右方)に若干、偏心している。そして、アウターロータ34の内歯34aと、インナーロータ35の外歯36aとの間には、オイルが収容されるセル38が画成されている。インナーロータ35が所定方向(例えば図5(c)の反時計方向)に回転すると、アウターロータ34も同一方向に回転する。
この場合、図5(c)に示すように、セル38は、その容積が右側のオイル吐出口31cから左側のオイル吸入口31bに向かって、連続的に増加するとともに、左側のオイル吸入口31bから右側のオイル吐出口31cに向かって、連続的に減少する。これにより、オイル吸入口31bを介して吸入され、セル38に収容されたオイルは、加圧されながら、オイル吐出口31cを介して吐出される。
図6は、分解した伝達機構40を拡大して示している。同図及び図2、3に示すように、伝達機構40は、モータシャフト2cとポンプ本体30のインナーロータ35とを連結及びそれを解除する第1クラッチ41と、モータシャフト2c内を通って右方に延びる駆動シャフト5とインナーロータ35とを連結及びそれを解除する第2クラッチ42とを備えている。これらの第1クラッチ41及び第2クラッチ42は、遠心力を利用して上記の連結及び解除を実行する遠心クラッチで構成されている。
具体的には、図6に示すように、第1クラッチ41は、各々が円弧状に延びるように形成され、モータシャフト2cの外周に、端部同士が重なった状態のリング状に配置された3つのクラッチ片44と、互いに隣接するクラッチ片44、44同士を連結する3つのコイルばね45とで構成されている。各クラッチ片44には、その長さ方向の中央付近に前後方向に貫通し、径方向に若干のびる長孔44aが形成されるとともに、内周面の長さ方向の中央付近に摩擦板44bが取り付けられている。一方、コイルばね45は、引張りばねで構成されており、隣接するクラッチ片44、44同士を、周方向に引っ張るように付勢している。つまり、3つのクラッチ片44は、3つのコイルばね45によって、第1クラッチ41の内径を小さくする方向に付勢されている。
このように構成された第1クラッチ41は、3つのクラッチ片44の長孔44aにそれぞれ、前記インナーロータ35の3つの支持ピン37cが後方(図2(b)の右方)から挿入されるとともに、各クラッチ片44が、内側に、すなわちモータシャフト2c側に付勢されている。したがって、第1クラッチ41では、各クラッチ片44の摩擦板44bが、モータシャフト2cの外周面に押し付けられた状態に係合し、これにより、モータシャフト2cとインナーロータ35が連結される(第1クラッチ41:ON状態)。一方、第1クラッチ41に所定の大きさ以上の遠心力が作用したときには、各クラッチ片44が、コイルばね45の付勢力に抗して、径方向外側に移動し、それにより、摩擦板44bがモータシャフト2cの外周面から離れることによって、モータシャフト2cとインナーロータ35との間の連結が解除される(第1クラッチ41:OFF状態)。
一方、第2クラッチ42は、駆動シャフト5に固定された回転支持プレート48に取り付けられるとともに、インナーロータ35の円筒凸部37の内側に配置されている。図6に示すように、回転支持プレート48は、駆動シャフト5が貫通した状態で、これに固定される円筒状の固定部48aと、この固定部48から径方向に広がるように形成されたプレート本体48bと、このプレート本体48bの所定位置から前方に突出する3つの支持ピン48cとを有している。
第2クラッチ42は、前述した第1クラッチ41とほぼ同様に構成されている。具体的には、図2(b)及び図6に示すように、第2クラッチ42は、各々が円弧状に延びるように形成され、回転支持プレート48の固定部48aの外周に、端部同士が重なった状態のリング状に配置された3つのクラッチ片46と、互いに隣接するクラッチ片46、46同士を連結する3つのコイルばね47とで構成されている。各クラッチ片46には、その長さ方向の所定端部に前後方向に貫通し、長さ方向に若干延びる長孔46aが形成されるとともに、外周面の所定位置に前記第1クラッチ41の摩擦板44bよりも長い摩擦板46bが取り付けられている。一方、コイルばね47は、前記第1クラッチ41のコイルばね45と同様、引張りばねで構成され、隣接するクラッチ片46、46同士を周方向に引っ張るように付勢している。
このように構成された第2クラッチ42は、3つのクラッチ片46の長孔46aにそれぞれ、回転支持プレート48の3つの支持ピン48cが後方(図2(b)の右方)から挿入された状態で、回転支持プレート48の固定部48aの外周に配置されている。また、この第2クラッチ42は、インナーロータ35の円筒凸部37の内周面に固定された後述するワンウェイベアリング49の内側に配置されている。したがって、第2クラッチ42の各クラッチ片46とワンウェイベアリング49の内輪49aとの間に隙間が生じているときには、駆動シャフト5とインナーロータ35との間は連結されていない(第2クラッチ42:OFF状態)。一方、第2クラッチ42に所定の大きさ以上の遠心力が作用したときには、各クラッチ片46は、コイルばね47の付勢力に抗して、長孔46a内の支持ピン48cを支点として外方に回動し、摩擦板46bがワンウェイベアリング49の内輪に押し付けられた状態に係合する。これにより、駆動シャフト5がワンウェイベアリング49を介してインナーロータ35に連結される(第2クラッチ42:ON状態)。
上記のワンウェイベアリング49は、回転トルクを一方向にのみ伝達するものであり、具体的には、第2クラッチ42の外径よりも若干大きい所定の径を有する内輪49aと、その外周面を覆うように配置され、インナーロータ35の円筒凸部37の内周面に固定された外輪49bとを有している。
次に、以上のように構成されたオイル供給装置1において、停車している車両Vがモータ2の作動によって走行するときの動作について説明し、併せて、モータ2からポンプ本体30のインナーロータ35への回転トルクの伝達経路について説明する。
図7(a)、(b)及び(c)は、回転速度と、第1クラッチ41、第2クラッチ42及びワンウェイベアリング49の動作との関係をそれぞれ示している。なお、同図に示すように、モータ2の回転速度が0、すなわち車両Vが停車している状態では、第1クラッチ41はON状態であり、モータシャフト2cとインナーロータ35が連結されている。一方、第2クラッチ42はOFF状態であり、駆動シャフト5とインナーロータ35との間は連結されていない。つまり、第2クラッチ42の各クラッチ片46とワンウェイベアリング49の内輪49aとの間に隙間が存在している。
上記の状態から、モータ2の作動により、ロータ2aと一体にモータシャフト2cが回転し始めると、ON状態の第1クラッチ41がモータシャフト2cと一体に回転し、これに伴い、第1クラッチ41と一体のインナーロータ35も回転する。つまり、図8(a)において太線の第1経路K1で示すように、モータ2による回転トルクは、モータシャフト2c、第1クラッチ41及びインナーロータ35の順に伝達される。これにより、ポンプ本体30では、インナーロータ35に係合するアウターロータ34も回転し、オイル吸入口31bから吸入したオイルが、オイル吐出口31cから吐出される。なお、吐出されたオイルは、図示しないオイル回路を介して、減速機4及びモータ2に供給され、それらを潤滑したり、冷却したりする。
また、上記のように、モータ2の作動によってモータシャフト2cが回転すると、これに伴い、駆動シャフト5は、減速機4によって減速され、モータシャフト2cよりも遅い回転速度で回転する。
次いで、図7に示すように、モータ2の回転速度が上昇し、駆動シャフト5が所定の回転速度Pに達すると、第2クラッチ42がON状態になる。すなわち、駆動シャフト5と一体に回転する第2クラッチ42に作用する遠心力により、各クラッチ片46が径方向外側に回動し、その摩擦板46bがワンウェイベアリング49の内輪49bに押し付けられる。これにより、ワンウェイベアリング49の内輪49aは、駆動シャフト5と一体に回転する。
ただしこの場合、第1クラッチ41はON状態に維持されているので、モータシャフト2cと一体に回転しているインナーロータ35は、減速されている駆動シャフト5よりも速く回転している。このため、ワンウェイベアリング49の内輪49aは、外輪49bに対して空転しており、したがって、駆動シャフト5による回転トルクの伝達は行われない。
そして、モータ2の回転速度がさらに上昇し、所定の回転速度Q(第1回転速度)に達すると、第1クラッチ41がOFF状態になる。すなわち、モータシャフト2c及びインナーロータ35と一体に回転している第1クラッチ41に作用する遠心力により、各クラッチ片44が径方向外側に移動し、その摩擦板44bがモータシャフト2cの外周面から離れる。これにより、ワンウェイベアリング49において、回転する内輪49aと外輪49bの速度差が解消され、両者49a、49bが一体に回転する。つまり、図8(b)において太線の第2経路K2で示すように、モータ2による回転トルクは、駆動シャフト5、第2クラッチ42及びインナーロータ35の順に伝達される。これにより、インナーロータ35及びアウターロータ34の回転が継続し、ポンプ本体30による前述したオイルの吸入及び吐出が継続される。
以上詳述したように、本実施形態のオイル供給装置1によれば、モータシャフト2cが所定の回転速度Q未満で回転しているときには、そのモータシャフト2cと一体に、ポンプ本体30のインナーロータ35が回転し、それにより、ポンプ本体30において、オイルを吸入及び吐出することで、オイルを車両Vの所定箇所に適切に供給することができる。また、モータ2の回転速度が上昇し、モータシャフト2cが所定の回転速度Q以上で回転すると、第1クラッチ41によるモータシャフト2cとポンプ本体30のインナーロータ35との連結が解除され、そのインナーロータ35が、第2クラッチ42を介して、駆動シャフト5と一体に回転する。この駆動シャフト5は、モータ2に直結したモータシャフト2cと異なり、モータ2に連結された減速機4を介して回転するので、モータ2自体の回転速度が上昇しても、駆動シャフト5の回転速度を抑制し、その結果、ポンプ本体30のインナーロータ35の回転速度が抑制される。以上のように、本実施形態によれば、モータ2の低回転から高回転の広い速度範囲にわたって、オイルを適切に供給することができ、また、ポンプ本体30が必要以上の回転速度で回転するのを抑制できることにより、キャビテーションの発生を効果的に防止することができる。
また、オイル供給装置1では、インナーロータ35の円筒凸部37と第2クラッチ42との間に、ワンウェイベアリング49が設けられているので、モータ2の回転速度が上昇するときに、インナーロータ35へのモータシャフト2cから駆動シャフト5による回転トルクの伝達を円滑に行うことができる。さらに、ポンプ本体30としてトロコイドポンプを採用しているので、2つのギヤが互いに噛み合うギヤポンプなどに比べて、ポンプ本体30を比較的コンパクトに構成することができる。
なお、本発明は、説明した上記実施形態に限定されることなく、種々の態様で実施することができる。例えば、実施形態では、モータシャフト2c及び駆動シャフト5と、インナーロータ35と連結及びそれを解除する第1及び第2クラッチ41、42として、遠心クラッチを採用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のクラッチ(例えば湿式クラッチ)を採用することも可能である。また、ポンプ本体30として、トロコイドポンプを採用したが、本発明はこれに限定されるものではなく、他のポンプ(例えばギヤポンプ)を採用することも可能である。さらに、実施形態で示したオイル供給装置1の細部の構成などは、あくまで例示であり、本発明の趣旨の範囲内で適宜、変更することができる。