以下、本発明の実施の形態について図面を参照し説明する。
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の第1の実施の形態に係るオイルシールの装着状態を示す断面図である。図2は、本発明の第1の実施の形態に係るオイルシールの単体の構成を示す拡大断面図である。図3は、本発明の第1の実施の形態に係るスリンガーの構成を示す平面図である。図4は、本発明の第1の実施の形態に係るスリンガーの他の構成例を示す平面図である。図5は、従来のメインリップとスリンガーのフランジ部との接触角度に応じた潤滑油の貯留量の説明に供する断面図である。図6は、本発明の第1の実施の形態に係るオイルシールにおいて、メインリップとスリンガーのフランジ部との接触角度に応じた潤滑油の貯留量の説明に供する平面図である。図7は、本発明の第1の実施の形態に係るオイルシールの薄肉先端部が折れ曲がる湾曲面の中心と最先端面との間の曲げ距離Lを示す略線的断面図である。図8は、本発明の第1の実施の形態に係る曲げ距離としめしろとの関係を表すグラフである。
以下、説明の便宜上、軸線x方向において矢印a(図1参照)方向を外側とし、軸線x方向において矢印b(図1参照)方向を内側とする。より具体的には、外側とは、エンジンから離れる機外B側であり、内側とは、エンジンの内部方向であり機内A側である。また、軸線xに垂直な方向(以下、「径方向」ともいう。)において、軸線xから離れる方向(図1の矢印c方向)を外周側とし、軸線xに近づく方向(図1の矢印d方向)を内周側とする。
<オイルシールの構成>
図1および図2に示すように、本発明の実施の形態に係る密封装置としてのオイルシール1は、機内Aに潤滑油が存在する自動車用エンジン(特にガソリンエンジン)のシールとして用いられ、機内Aの潤滑油が機外Bへ漏洩するのを防止するとともに、機外Bから機内Aへダスト等の異物が侵入するのを防止するものである。
オイルシール1は、エンジンハウジング(以下、これを単に「ハウジング」ともいう。)202の内周側(矢印d方向)の面である内周面202aに装着されるシール部10と、ハウジング202に対して回転する回転軸としてのクランクシャフト201の外周側(矢印c方向)の面である外周面201aに装着されるスリンガー30とを備え、これらが組み合わされて構成されている。
シール部10は、補強環20と、当該補強環20と一体に形成された弾性体部21とを備えている。補強環20は、軸線xを中心とする環状の金属材からなる。補強環20の金属材としては、例えば、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)がある。一方、弾性体部21の弾性体としては、例えば、各種ゴム材がある。各種ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)等の合成ゴムである。
補強環20は、例えばプレス加工や鍛造によって製造され、弾性体部21は成形型を用いて架橋(加硫)成型によって成形される。この架橋成型の際に、補強環20は成形型の中に配置されており、弾性体部21が架橋(加硫)接着により補強環20に接着され、弾性体部21が補強環20と一体的に成形される。
補強環20は、例えば、断面略L字状の形状を呈しており、円筒部20a、外周側円盤部20b、テーパー部20c、および、内周側円盤部20dを備え、円筒部20a、外周側円盤部20b、テーパー部20c、および、内周側円盤部20dが全て一体に形成されている。
この場合、円筒部20aは、外周側(矢印c方向)に向かって凸状に膨出した湾曲形状を有している。また、外周側円盤部20b、テーパー部20c、および、内周側円盤部20dは、全体略S字状のフランジ部を形成している。
円筒部20aは、軸線xに沿って略平行に延びる円筒状の部分であり、ハウジング202の内周面202aに対して内嵌される。外周側円盤部20bは、軸線xと略垂直な方向、すなわち、円筒部20aの外側(矢印a方向)の端部から内周側(矢印d方向)へ向かって広がる中空円盤状の部分である。テーパー部20cは、外周側円盤部20bの内周側(矢印d方向)の端部から更に内周側(矢印d方向)および内側(矢印b方向)に向かって斜めに延びる中空円盤状の部分である。内周側円盤部20dは、テーパー部20cの内周側(矢印d方向)の端部からさらに内周側(矢印d方向)に向かって拡がる中空円盤状の部分である。
なお、補強環20の円筒部20aは、この場合、外周側(矢印c方向)に向かって凸状に膨出した湾曲形状を有しているが、これに限るものではなく、軸線xに沿って真っ直ぐに延びる円筒状の部分であってもよい。また、補強環20は、外周側円盤部20b、テーパー部20c、および、内周側円盤部20dにより全体略S字状に形成されているが、外周側円盤部20b、テーパー部20c、および、内周側円盤部20dが軸線xと略垂直な方向に真っ直ぐに延びていてもよい。
弾性体部21は、補強環20に一体に取り付けられており、当該補強環20を外側(矢印a方向)、外周側(矢印c方向)の一部、および、内周側(矢印d方向)を覆うように当該補強環20と一体的に成形されている。
弾性体部21は、補強環20の円筒部20aにおける外周側(矢印c方向)の一部を覆うリップ被覆部21aと、補強環20の外周側円盤部20bを外側(矢印a方向)から覆うリップ被覆部21bと、補強環20のテーパー部20cを覆うリップ被覆部21cと、補強環20の内周側円盤部20dを外側(矢印a方向)から覆うリップ被覆部21dと、リップ被覆部21dと一体化されたリップ腰部21eと、当該リップ腰部21eに一体形成されたメインリップ22、ダストリップ23、中間リップ24とを備えている。
弾性体部21のリップ腰部21eは、補強環20の内周側円盤部20dにおける内周側(矢印d方向)の端部の近傍に位置する部分であり、メインリップ22、ダストリップ23、および、中間リップ24の基部である。
弾性体部21のメインリップ22は、リップ腰部21eの内側(矢印b方向)の端部から更に内側(矢印b方向)かつ外周側(矢印c方向)に向かって斜めに延びる、軸線xを中心とした環状のリップ部分であり、内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かって拡径している。
メインリップ22は、外周側(矢印c方向)の面である外周面22gと、内周側(矢印d方向)の面である内周面22uとの間の幅すなわち厚さがリップ腰部21eから先端側へ向かって同様の太さで延びている。メインリップ22のリップ先端側には、後述するスリンガー30のフランジ部33の外側面33gと接触しない外周面22gにおいて部分的に切り欠かれて切除されたような形状であり、メインリップ22の本体よりも肉厚の薄い薄肉先端部22pを備えている。
メインリップ22の薄肉先端部22pは、湾曲面22w、薄肉外周面22gt、最先端面22e、および、薄肉内周面22usによって画成されている。
薄肉先端部22pの湾曲面22wは、外周面22gにおいて、最先端面22eから所定の長さ(例えば、1mm程度)だけリップ腰部21eに近づいた切欠位置22cから弧状に湾曲した面であり、外周面22gから切欠位置22cを介して最先端面22eへ続く面である。
薄肉外周面22gtは、湾曲面22wから滑らかに続き、スリンガー30のフランジ部33の外側面33gと接触する薄肉内周面22usとほぼ平行に最先端面22eまで直線状に延びる平坦な面である。ただし、これに限るものではなく、薄肉外周面22gtは、薄肉内周面22usとほぼ平行ではなく、最先端面22eに向かって薄肉内周面22usとの幅が次第に狭くなるように傾斜した平坦な面であってもよい。この場合、薄肉先端部22pは先端側に向かうに連れて肉厚が僅かに薄くなる先細形状となる。
最先端面22eは、メインリップ22の最先端の端面であり、薄肉外周面22gtおよび薄肉内周面22usとほぼ垂直な平坦面である。ただし、これに限るものではなく、最先端面22eは丸みを帯びた湾曲面であってもよい。
薄肉内周面22usは、メインリップ22の内周面22uのうち、後述するスリンガー30のフランジ部33の外側(矢印a方向)の面である外側面33gと接触するリップ先端側の接触面である。なお、内周面22uのうち、薄肉内周面22usとリップ腰部21eとの間の面は厚肉内周面22ukとなっている。この厚肉内周面22ukは、スリンガー30のフランジ部33の外側面33gとは接触することのない基端側の非接触面である。
弾性体部21のダストリップ23は、リップ腰部21eの内周側(矢印d方向)の端部から外側(矢印a方向)かつ内周側(矢印d方向)に向かって斜めに延びる、軸線xを中心とした環状のリップ部分であり、外周側(矢印c方向)から内周側(矢印d方向)へ向かって拡径している。なお、ダストリップ23が延びる延び方向は、メインリップ22の延び方向とはほぼ反対向きである。
弾性体部21の中間リップ24は、リップ腰部21eにおいてメインリップ22よりも内周側(矢印d方向)に位置し、かつ、ダストリップ23よりも内側(矢印b方向)に位置し、リップ腰部21eの内周側(矢印d方向)の端部から内側(矢印b方向)に向かって僅かに延びる、軸線xを中心とした環状のリップ部分である。中間リップ24は、そのリップ長が短く、リップ先端がスリンガー30と接触することはない。
スリンガー30は、クランクシャフト201の外周面201aに装着された状態で、当該クランクシャフト201の回転とともに連れ回る例えば金属製の板状部材であり、円筒部31と、フランジ部33とを備えている。スリンガー30は、例えば板状部材を曲げ加工により形成することが可能である。
スリンガー30の円筒部31は、軸線xに沿って略平行に延びる円筒状の部分であり、ハウジング202に対して回転するクランクシャフト201の外周面201aに圧入して固定することにより装着される。スリンガー30の円筒部31は、外周側(矢印c方向)の面である外周面31aを有しており、その外周面31aに対して弾性体部21のダストリップ23のリップ先端が摺動自在に接触する。これにより、機外Bからダスト等の異物が機内Aに侵入することを防止している。
スリンガー30のフランジ部33は、機内A側に膨らんだ中空円盤状の膨出部分33bと、当該膨出部分33bの外周側の端部から機外B側へ折り曲げられた後に外周側(矢印c方向)へ拡がる中空円盤状の円盤部分33aとを備えている。
フランジ部33の膨出部分33bの外周側(矢印c方向)への高さは、中間リップ24のリップ先端の位置よりも高く、当該膨出部分33bと中間リップ24のリップ先端とが対向するように配置されている。
このオイルシール1では、フランジ部33の円盤部分33aの軸方向における機外B側の端面である外側面33gに対して、弾性体部21のメインリップ22の薄肉先端部22pが摺動可能に密接することにより、機内Aに存在する潤滑油(オイル)が機外Bへ漏洩することを防止している。
このオイルシール1において、メインリップ22の薄肉先端部22pが摺動可能に密接する外側面33gの端部領域には、空間Sに侵入した潤滑油G1(図6)を機外Aへ排出するために用いられる4本の螺旋溝状のネジ溝34が設けられている。
ネジ溝34は、一定の間隔でそれぞれ独立して配置され、クランクシャフト201の回転方向に対応して内径側から外径側へ右回転で進む4等配の螺旋状の溝であり、個々の溝の始点および終点がそれぞれ異なっている。このネジ溝34は、スリンガー30におけるフランジ部33の円盤部分33aの外側面33gに形成され、弾性体部21のメインリップ22の薄肉先端部22pが4本のネジ溝34の範囲内で接触している。
これら4本のネジ溝34は、図3に示すように、それぞれの始点stが互いに90度ずつ離間した位置に形成されるとともに、それぞれの終点etについても互いに90度ずつ離間した位置に形成されている。ネジ溝34は、始点stから終点etまで約1周分程度の螺旋状に形成されているが、これに限るものではなく、半周程度、3/4周程度等の1周以下であったり、1周半程度、2周程度等の1周以上の螺旋状に形成されていてもよい。
また、ネジ溝34は、フランジ部33の内径側から外径側へ向かって右回転向き(時計回り)に次第に半径を大きくしながら進む4等配の溝としてそれぞれ独立して形成されている。ただし、これに限るものではなく、ネジ溝34は、2等配、3等配、6等配等のその他種々の本数であってもよい。なお、この場合、スリンガー30は、ネジ溝34とは逆に図中矢印で示すように左回転(反時計回り)するものとする。
ただし、スリンガー30のフランジ部33の外側面33gに形成される溝としては、ネジ溝34である必要は必ずしもない。例えば、図4(A)に示すように、スリンガー30sでは、フランジ部33の外側面33gの内径側から外径側へ向かって延びる放射状であり、スリンガー30の軸線とは垂直な方向へ直線状に延びる放射状溝37(37a〜37h)であってもよい。この場合、メインリップ22の薄肉先端部22pがフランジ部33の外側面33gと摺動するのは、例えば放射状溝37のほぼ中央付近の位置POS1となる。
同様に、図4(B)に示すように、スリンガー30vでは、フランジ部33の外側面33gの内径側から外径側へ向かって延びるが、内径側から外径側の外周方向へ向かって図中右側へ傾斜するように直線状に延びる傾斜状溝38(38a〜38h)であってもよい。この場合、メインリップ22の薄肉先端部22pがフランジ部33の外側面33gと摺動するのは、例えば傾斜状溝38のほぼ中央付近よりもやや外周寄りの位置POS2となる。
この場合、放射状溝37および傾斜状溝38は、ネジ溝34に比べて始点stから終点etまでの長さが非常に短くなり、放射状溝37、傾斜状溝38を伝って潤滑油G1を短時間のうちに振り切り、機内A側へ戻すことが可能となる。また、放射状溝37および傾斜状溝38は、ネジ溝34に比べて溝本数を多く形成することができるので、ネジ溝34よりも短時間のうちに多くの量の潤滑油G1を機内A側へ戻すことが可能となる。
上述したように、メインリップ22の薄肉先端部22pは、メインリップ22の本体部分よりも肉薄形状であるため、フランジ部33の外側面33gと接触する際の相対的な接触角度θ1(図2、図6)を、従来の接触角度θ0(図5)に比して小さくすることが可能である。
この場合、接触角度θ1が従来の接触角度θ0よりも小さくなる分だけ、メインリップ22の薄肉先端部22pとフランジ部33の外側面33gとの接触面積が増大するため密封性を維持し易くなる。ここで、接触角度θ1は、メインリップ22の薄肉先端部22pがフランジ部33の外側面33gに押し付けられた際、当該メインリップ22の本体部分が折れ曲がることのない程度のしめしろでフランジ部33の外側面33gと接触した状態にあることを前提とする。
このように、オイルシール1は、スリンガー30のフランジ部33における外側面33gと接触する弾性体部21のメインリップ22が機内A側に配置されて潤滑油が滲み出すことを防止するとともに、スリンガー30の円筒部31の外周面31aに接触する弾性体部21のダストリップ23が機外B側に配置されてダストの侵入および機外B側へ潤滑油が漏洩することを防止する構造を有している。
ところで、一般的にハブベアリングに用いられるハブシールは、スリンガーのフランジ部と接触する弾性体部のサイドリップ(メインリップ22に相当)が機外B側に配置されてダストの侵入を防止するとともに、スリンガーの円筒部と接触するラジアルリップ(ダストリップ23に相当)が機内A側に配置されて潤滑油の漏洩を防止する構造を有している。
すなわち、本発明のオイルシール1は、ハブベアリングに用いられるハブシールと比べて、スリンガー30と接触するメインリップ22の配置が真逆であり、かつ、その役割についても逆であるため、ハブシールとは根本的に異なるシール構造を有するものである。
このような構成のオイルシール1において、弾性体部21のメインリップ22、ダストリップ23、および、スリンガー30の円筒部31の外周面31a、および、フランジ部33の外側面33gによって軸線xを中心とした環状の閉じた空間S(図6)が形成されている。
この空間Sは、スリンガー30のフランジ部33における外側面33gとメインリップ22の薄肉先端部22pとの隙間を伝って機内A側から当該空間Sに滲み出た潤滑油G1(図6)を貯留する空間である。この空間Sに貯留された潤滑油G1は、ダストリップ23の存在により機外B側へ漏洩することが抑制されている。
<作用および効果>
以上の構成において、第1の実施の形態におけるオイルシール1は、シール部10がハウジング202の内周面202aに圧入して固定されるとともに、スリンガー30がクランクシャフト201の外周面201aに圧入して固定されることにより装着される。
このとき、シール部10における弾性体部21のダストリップ23をスリンガー30の円筒部31の外周面31aに所定のしめしろで接触させるとともに、当該弾性体部21のメインリップ22をスリンガー30のフランジ部33の外側面33gに所定のしめしろで接触させる。この場合、メインリップ22は、当該メインリップ22の薄肉先端部22pが当該メインリップ22の本体部である外周面22gと厚肉内周面22ukとの間の厚さよりも薄いため、フランジ部33の外側面33gに押し付けられた薄肉先端部22pが湾曲面22wのほぼ中心を起点として折り曲げられることになる。
このとき、メインリップ22の薄肉先端部22pにおける薄肉内周面22usは、4本のネジ溝34の何れかと必ず接触するように、シール部10とスリンガー30とが組み合わされる。
上述したように組み合わされて取り付けられたシール部10とスリンガー30とからなるオイルシール1は、クランクシャフト201の回転に伴ってスリンガー30が左回転(反時計回り)する。
このとき、オイルシール1は、フランジ部33の外周側(矢印c方向)の端部領域に形成された4本のネジ溝34の影響により、空間Sに滲み出た潤滑油G1を内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かって移動させ、フランジ部33の外側面33gとメインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとの隙間から機内A側へ吸い込んで排出する(ネジ作用)ことができる。すなわち、ネジ溝34は、潤滑油G1を空間Sから機内A側へ吸い込んで排出する油排出作用を機能として有している。
なお、オイルシール1では、弾性体部21の中間リップ24の存在により、空間Sに滲み出てきた潤滑油G1を受け止めることができるので、ダストリップ23に潤滑油G1が直接到達することを防ぎながら空間Sに侵入した潤滑油G1を機内A側へ吸い出すことができる。
また、オイルシール1は、スリンガー30のフランジ部33の回転に伴う遠心力によって空間S内の潤滑油G1を内周側(矢印d方向)から外周側(矢印c方向)へ向かって移動させ、フランジ部33の外側面33gとメインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとの隙間から機内A側へ潤滑油G1を振り切りながら排出する(振切作用)ことができる。
すなわち、オイルシール1は、ネジ溝34の影響による空間Sの潤滑油G1に対するネジ作用と、フランジ部33の遠心力による空間Sの潤滑油G1に対する振切作用とにより、空間Sに存在する潤滑油G1を機内Aに吸い込んで排出するポンピング効果を働かせることができる。
ところで、図5に示すように、従来の密封装置100(図11)ではメインリップ111の内側の面である内側面111uとフランジ部103の外側面103aとの相対的な接触角度θ0を有する。これに比べて、図6に示すように、本発明のオイルシール1ではメインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1の方が接触角度θ0よりも小さくなっている(θ0>θ1)。
従来の密封装置100では、メインリップ111とフランジ部103との接触角度θ0が大きいため、当該メインリップ111の内側面111uとフランジ部103の外側面103aとの間に表面張力により付着される潤滑油G0の量が少ない。そのため、ポンピング効果が働いても、空間Sに侵入した潤滑油G0が全て効率良く機内A側へ排出されることがないので一部残留してしまう。
これに対して、本発明のオイルシール1では、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1が従来の接触角度θ0よりも小さい。このため、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着して貯留される潤滑油G1の量が従来よりも多くなっている。
すなわち、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとに付着される潤滑油G1の付着面積が従来よりも大きくなっている。具体的には、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usおよびフランジ部33の外側面33gに付着される潤滑油G1の付着幅W1が従来の密封装置100(図5)よりも大きい。
このため、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着された潤滑油G1がそのまま全てポンピング作用によって機内A側へ効率よく排出されるため、空間Sに潤滑油G1が残留してしまうことを防止することができる。
かくしてオイルシール1では、エンジンの回転数が所定回転数以上に高くなった場合であっても、フランジ部33の遠心力による潤滑油G1の振切作用と、ネジ溝34により潤滑油G1を機内A側へ戻すネジ作用が効果的に働くことになる。
すなわちオイルシール1では、機内A側から空間Sに滲み出た潤滑油G1を当該空間Sから機内A側へ効率的かつ短時間のうちに戻すポンピング効果を十分に発揮させることができる。かくして、オイルシール1は、機内Aの潤滑油G1が空間Sに滲み出たとしても、空間Sに残留してしまい、当該空間Sから機外Bへ潤滑油G1が漏洩することを大幅に低減することができる。
さらに、オイルシール1では、メインリップ22の薄肉先端部22pは、メインリップ22の外周面22gから切り欠かれたようなメインリップ22の本体よりも肉厚の薄い形状を有しているため、従来に比して少ないしめしろで容易に折れ曲がる。これにより、薄肉先端部22pの薄肉内周面22usがフランジ部33の外側面33gと密着し、ネジ溝34を塞ぐことになるため、静止漏れを抑制するとともに、メインリップ22の摺動抵抗についても低減させることができる。
<実施例>
本発明のオイルシール1において、メインリップ22の薄肉先端部22pがスリンガー30のフランジ部33に任意のしめしろで当接されたときに、図7に示すように、薄肉先端部22pの最先端面22eから当該薄肉先端部22pが折れ曲がる湾曲面22wの例えば中心位置までの距離(以下、これを「曲げ距離」ともいう。)Lと規定する。図7において、実線で示されるのは薄肉先端部22pが形成されているメインリップ22の場合であり、破線で示されるのは薄肉先端部22pが形成されていない従来のメインリップの場合である。ただし、これに限るものではなく、薄肉先端部22pの最先端面22eから切欠位置22cまでの距離を曲げ距離Lと規定してもよく、薄肉先端部22pの最先端面22eから薄肉外周面22gtと湾曲面22wとの境界点迄の距離を曲げ距離Lと規定してもよい。
ここで、図8には、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usがスリンガー30のフランジ部33の外側面33gに当接されたときに、当該薄肉先端部22pの薄肉内周面22usが外側面33gから浮き上がることないしめしろの最大値と、薄肉先端部22pの曲げ距離Lとの関係が示されている。
ここで、曲げ距離Lが「0」とは、薄肉先端部22pが存在していない従来のメインリップ(破線)の場合を意味する。また、曲げ距離L[mm]が「0.5」、「1」、「1.5」のように増加しているのは、メインリップ22の最先端面22eから薄肉先端部22pの湾曲面22wの中心位置までの距離の変化である。すなわち、図8に示すグラフでは、曲げ距離L[mm]が大きくなるほど、つまり、薄肉先端部22pが長くなるほど、小さなしめしろで薄肉先端部22pが容易に折れ曲がることが示されている。
曲げ距離Lが大きく薄肉先端部22pが湾曲面22wの中心位置で容易に折れ曲がるということは、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1が従来の接触角度θ0よりも容易に小さくなるということを意味する。
したがって、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着された潤滑油G1(図6)がそのまま全てポンピング作用によって機内A側へ効率よく排出され、空間Sに潤滑油G1が残留してしまうことを防止することができる。
このように、オイルシール1は、従来に比して、クランクシャフト201の回転数が所定以上の高速回転時であっても、メインリップ22の薄肉先端部22pの薄肉内周面22usとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1を小さなしめしろで容易に小さくすることができる。これによりオイルシール1は、メインリップ22の摺動抵抗を上げることなく、機内A側から空間Sに滲み出した潤滑油G1を機内A側へ効率的に戻し、空間Sに潤滑油G1が貯留されることを防止することができる。
<第2の実施の形態>
図9は、本発明の第2の実施の形態に係るオイルシール200の単体の構成を示す拡大断面図である。図2との対応部分に同一符号を付した図9に示すように、オイルシール200は、シール部220と、クランクシャフト201の外周面201aに装着されるスリンガー30とを備え、これらが組み合わされて構成されている。
すなわち、オイルシール200は、シール部10に替えてシール部220を有し、シール部220は、補強環20と、当該補強環20と一体に形成された弾性体部221とを備えている。この場合、第1の実施の形態における弾性体部21のメインリップ22に替えて弾性体部221のメインリップ232を用いている点を特徴とする。
メインリップ232は、外周側(矢印c方向)の面である外周面232gと、内周側(矢印d方向)の面である内周面232uとの間の厚さがリップ腰部221eから先端側へ向かって同様の太さで延びている。メインリップ232のリップ先端側には、スリンガー30のフランジ部33の外側面33gと接触する内周面232uにおいて部分的に切り欠かれて切除されたような形状であり、メインリップ22の本体よりも肉厚の薄い薄肉先端部232pを備えている。
メインリップ232の薄肉先端部232pは、第1の実施の形態におけるメインリップ22の薄肉先端部22pとは反対側の内周面232uに形成されており、湾曲面232w、薄肉内周面232ut、最先端面232e、および、外周面232gによって画成されている。
薄肉先端部232pの湾曲面232wは、内周面232uにおいて、最先端面232eから所定の長さ(例えば、1mm程度)だけリップ腰部221eに近づいた切欠位置232cから弧状に湾曲した面であり、内周面232uから切欠位置232cを介して最先端面232eへ続く面である。
薄肉内周面232utは、湾曲面232wから滑らかに続き、外周面232gとほぼ平行に最先端面232eまで直線状に延びる平坦な面である。ただし、これに限るものではなく、薄肉内周面232utは、外周面232gとほぼ平行ではなく、最先端面232eに向かって外周面232gとの幅が狭くなるように傾斜した平坦な面であってもよい。
なお、内周面232uのうち、リップ腰部221eと薄肉内周面232utとの間には厚肉内周面232ukがあり、この場合、メインリップ232がスリンガー30のフランジ部33に押し付けられた場合でも厚肉内周面232ukおよび切欠位置232cが当該フランジ部33の外側面33gと接触することのない程度のしめしろに設定されるものとする。
外周面232gは、薄肉内周面232utとは反対側でありスリンガー30のフランジ部33の外側面33gとは接触することのない非接触面である。
最先端面232eは、メインリップ232の最先端の端面であり、外周面232gおよび薄肉内周面232utとほぼ垂直な面である。ただし、これに限るものではなく、最先端面232eは丸みを帯びた湾曲面であってもよい。
このような構成のオイルシール200においては、第1の実施の形態と同様に、メインリップ232の薄肉先端部232pの薄肉内周面232utとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1が従来の接触角度θ0よりも小さくなる。このため、メインリップ232の薄肉先端部232pの薄肉内周面232utとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着して貯留される潤滑油G1の量が従来よりも多くなる。
このため、メインリップ232の薄肉先端部232pの薄肉内周面232utとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着された潤滑油G1がそのまま全てポンピング作用によって機内A側へ効率よく排出されるため、空間Sに潤滑油G1が残留してしまうことを防止することができる。
かくしてオイルシール200では、エンジンの回転数が所定回転数以上に高くなった場合であっても、フランジ部33の遠心力による潤滑油G1の振切作用と、ネジ溝34により潤滑油G1を機内A側へ戻すネジ作用が効果的に働くことになる。
すなわちオイルシール200では、機内A側から空間Sに滲み出た潤滑油G1を当該空間Sから機内A側へ効率的かつ短時間のうちに戻すポンピング効果を十分に発揮させることができる。かくして、オイルシール200は、機内Aの潤滑油G1が空間Sに滲み出たとしても、空間Sに残留してしまい、当該空間Sから機外Bへ潤滑油G1が漏洩することを大幅に低減することができる。
さらに、オイルシール200では、メインリップ232の薄肉先端部232pが、メインリップ232の内周面232uから切り欠かれたようなメインリップ232の本体よりも肉厚の薄い形状を有しているため、従来に比して少ないしめしろで容易に折れ曲がる。これにより、薄肉先端部232pの薄肉内周面232utがフランジ部33の外側面33gと密着し、ネジ溝34を塞ぐことになるため、静止漏れを抑制するとともに、メインリップ232の摺動抵抗を低減させることができる。
<第3の実施の形態>
図10は、本発明の第3の実施の形態に係るオイルシール250の単体の構成を示す拡大断面図である。図2との対応部分に同一符号を付した図10に示すように、オイルシール250は、シール部240と、クランクシャフト201の外周面201aに装着されるスリンガー30とを備え、これらが組み合わされて構成されている。
すなわち、オイルシール250は、シール部10に替えてシール部240を有し、シール部240は、補強環20と、当該補強環20と一体に形成された弾性体部241とを備えている。この場合、第1の実施の形態における弾性体部21のメインリップ22に替えて弾性体部241のメインリップ242を用いている点を特徴とする。
メインリップ242は、外周側(矢印c方向)の面である外周面242gと、内周側(矢印d方向)の面である内周面242uとの間の幅すなわち厚さがリップ腰部241eから先端側へ向かって同様の太さで延びている。メインリップ242のリップ先端側には、外周面242gおよび内周面242uの両面において部分的に切り欠かれて切除されたような形状であり、メインリップ242の本体よりも肉厚の薄い形状の薄肉先端部242pを備えている。
メインリップ242の薄肉先端部242pは、外周側湾曲面242gw、薄肉外周面242gt、最先端面242e、および、薄肉内周面242ut、内周側湾曲面242uwによって画成されている。
薄肉先端部242pの外周側湾曲面242gwおよび内周側湾曲面242uwは、外周面242gおよび内周面242uにおいて、最先端面242eから所定の長さ(例えば、1mm程度)だけリップ腰部241eに近づいた切欠位置242gcおよび242ucから弧状に湾曲した面である。外周側湾曲面242gwおよび内周側湾曲面242uwは、外周面242gおよび内周面242uから切欠位置242gc、242ucを介して最先端面242eへ続く面である。
薄肉外周面242gtは、外周側湾曲面242gwから滑らかに続き、スリンガー30のフランジ部33の外側面33gと接触する薄肉内周面242utとほぼ平行に最先端面242eまで直線状に延びる平坦な面である。ただし、これに限るものではなく、薄肉外周面242gtは、薄肉内周面242utとほぼ平行ではなく、最先端面242eに向かって薄肉内周面242utとの幅が狭くなるように傾斜した平坦な面であってもよい。
最先端面242eは、メインリップ242の最先端の端面であり、薄肉外周面242gtおよび薄肉内周面242utとほぼ垂直な面である。ただし、これに限るものではなく、最先端面242eは丸みを帯びた湾曲面であってもよい。
なお、メインリップ242がスリンガー30のフランジ部33に押し付けられた場合でも、薄肉先端部242pの厚肉内周面242ukおよび切欠位置242ucが当該フランジ部33の外側面33gと接触することのない程度のしめしろに設定されるものとする。
メインリップ242の薄肉先端部242pは、メインリップ242の外周面242gおよび内周面242uの両方の面から切り欠かれたようなメインリップ242の本体部よりも肉厚の薄い形状を有しているため、第1および第2の実施の形態に比べて、更に少ないしめしろで容易に折れ曲がり、メインリップ242の摺動抵抗を低減させることができる。
このような構成のオイルシール250においては、第1および第2の実施の形態と同様に、メインリップ242の薄肉先端部242pの薄肉内周面242utとフランジ部33の外側面33gとの相対的な接触角度θ1が従来の接触角度θ0よりも小さくなる。このため、メインリップ242の薄肉先端部242pの薄肉内周面242utとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着して貯留される潤滑油G1の量が従来よりも多くなる。
このため、メインリップ242の薄肉先端部242pの薄肉内周面242utとフランジ部33の外側面33gとの間に表面張力により付着された潤滑油G1がそのまま全てポンピング作用によって機内A側へ効率よく排出されるため、空間Sに潤滑油G1が残留してしまうことを防止することができる。
かくしてオイルシール250では、エンジンの回転数が所定回転数以上に高くなった場合であっても、フランジ部33の遠心力による潤滑油G1の振切作用と、ネジ溝34により潤滑油G1を機内A側へ戻すネジ作用が効果的に働くことになる。
すなわちオイルシール250では、メインリップ242の薄肉先端部242pがスリンガー30のフランジ部33の外側面33gに接触したときの摺動抵抗を一段と低減させながら、機内A側から空間Sに滲み出た潤滑油G1を当該空間Sから機内A側へ効率的かつ短時間のうちに戻すポンピング効果を十分に発揮させることができる。かくして、オイルシール250は、機内Aの潤滑油G1が空間Sに滲み出たとしても、空間Sに残留してしまい、当該空間Sから機外Bへ潤滑油G1が漏洩することを大幅に低減することができる。
さらに、オイルシール250では、メインリップ242の薄肉先端部242pが、メインリップ242の両面から切り欠かれたようなメインリップ242の本体部よりも肉厚の薄い形状を有しているため、従来に比して少ないしめしろで容易に折れ曲がる。これにより、薄肉先端部242pの薄肉内周面242utがフランジ部33の外側面33gと密着し、ネジ溝34を塞ぐことになるため、静止漏れを抑制するとともに、メインリップ242の摺動抵抗を低減させることができる。
<他の実施の形態>
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の第1乃至第3の実施の形態に係るオイルシール1、200、250に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題および効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
また、本実施の形態に係る密封装置としてのオイルシール1、200、250は、自動車用エンジンのシールとして用いられるものとしたが、本発明に係る密封装置の適用対象はこれに限られるものではなく、他の汎用機械、産業機械等、本発明の奏する効果を利用し得る全ての構成に対して、本発明は適用可能である。