JP6946848B2 - 方向性電磁鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
(1)スラブが、C:0.005%を超え、好ましくは0.02〜0.10%、Si:2.5〜6.5%、及び、Mn:0.03〜0.15%、S:0.010超〜0.050%、Al:0.010〜0.035%、N:0.0045〜0.0120%、Cu:0.020〜0.300%を含有し、残部が不純物を含むFeである。
(2)製造されたスラブを、熱間圧延に先立ち、特定Si含有量に依存する硫化マンガン固溶温度T1より低い温度で、かつ、特定Si含有量に依存する硫化銅固溶温度T2より高い温度で均熱する。
(3)均熱されたスラブを中間厚みに熱間粗加工し、続いて、又は、その後直ちに、熱間仕上圧延して、1.5〜7mmの最終板厚とする。仕上げ圧延機への装入温度を少なくとも960℃とし、最終圧延温度を880℃〜1000℃の範囲とする。以上の工程により熱間圧延鋼帯を製造する。この工程において、全窒素含有量の少なくとも60%の量の窒素を析出させて粗いAlN粒子を形成させる。
(4)熱間圧延鋼帯を880〜1150℃の温度で100〜600秒焼鈍し、その後、15K/秒より高い冷却速度で冷却する。これにより、全窒素含有量のうち最大可能量までを粗い及び微細なAlN粒子の形態で析出させ、かつ、微細な硫化銅粒子を析出させる。
熱間圧延工程は、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程と、仕上げ圧延後冷却工程とを含む。粗圧延工程では、質量%で、C:0.005超〜0.10%、Si:2.5〜6.5%、Mn:0.03〜0.15%、S:0.010超〜0.050%、Al:0.010〜0.035%、N:0.0045〜0.0120%、Cu:0.020〜0.300%、Sn:0〜0.15%、及び、残部がFe及び不純物からなる鋼材に対して、粗圧延機を用いて熱間圧延を実施して粗鋼板を製造する。仕上げ圧延工程では、粗鋼板に対して、仕上げ圧延機を用いて熱間圧延を実施して仕上げ鋼板を製造する。仕上げ圧延後冷却工程では、仕上げ鋼板を冷却して熱延鋼板とする。仕上げ圧延工程において、仕上げ圧延機で熱間圧延を開始するときの粗鋼板の温度を960℃以上とし、仕上げ圧延機で熱間圧延を完了したときの仕上げ鋼板の温度を900〜1000℃とする。仕上げ圧延後冷却工程において、仕上げ鋼板の表面温度が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
熱延板焼鈍工程では、第1焼鈍工程と、第2焼鈍工程と、第2焼鈍後冷却工程とを含む。第1焼鈍工程では、熱延鋼板を1080〜1200℃で70〜120秒間保持する。第2焼鈍工程では、第1焼鈍工程後、熱延鋼板を900〜980℃まで冷却し、熱延鋼板を900〜980℃で30〜450秒保持する。第2焼鈍後冷却工程では、第2焼鈍工程後、熱延鋼板を冷却して焼鈍鋼板とし、熱延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
冷間圧延工程では、焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する。
脱炭焼鈍工程は、脱炭工程と、脱炭後冷却工程とを含む。脱炭工程では、冷延鋼板を800〜950℃で脱炭焼鈍する。脱炭後冷却工程では、脱炭工程後の冷延鋼板を冷却して、鋼中におけるCuS析出物が質量%で5ppm以下である脱炭焼鈍鋼板とする。脱炭後冷却工程では、冷延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
仕上げ焼鈍工程では、脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを含有する焼鈍分離剤を塗布して、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に対して1150〜1250℃で5〜30時間の仕上げ焼鈍を実施する。
熱間圧延工程は、鋼材に対して粗圧延機を用いて熱間圧延を実施して粗鋼板を製造する粗圧延工程と、粗鋼板に対して仕上げ圧延機を用いて熱間圧延を実施して仕上げ鋼板を製造する仕上げ圧延工程と、仕上げ鋼板を冷却して熱延鋼板とする仕上げ圧延後冷却工程とを含む。仕上げ圧延後冷却工程において、鋼板(仕上げ鋼板の表面温度)が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。以降の説明において、900〜750℃の温度域を「特定温度域」という。鋼板の特定温度域での平均冷却速度を30〜150℃/秒にすることにより、熱延鋼板中でのCuS析出物の析出を抑えることができる。この場合、鋼中に固溶Cuが十分に存在する状態で、次工程である第1焼鈍工程(熱延板焼鈍工程)を実施できる。そのため、十分な量の固溶Cuにより、微細MnSを多数析出させることができる。
熱延板焼鈍工程は、次の3つの工程を含む。
第1焼鈍工程:熱延鋼板の温度が第1焼鈍温度(1080〜1200℃)になるように、熱延鋼板を加熱する。そして、第1焼鈍温度となった熱延鋼板を第1保持時間(70〜120秒)保持して焼鈍を実施する。これにより、熱延鋼板中において、CuS析出物の析出を抑制しつつ、固溶Cuを利用して、微細MnSの析出を促進する。
第2焼鈍工程:第1焼鈍工程後、熱延鋼板の温度を第2焼鈍温度(900〜980℃)に下げる。その後、第2焼鈍温度で第2保持時間(30秒〜450秒)保持して焼鈍を実施する。これにより、第1焼鈍工程で生成した微細MnSを生成核として、十分な量の微細AlNを析出させる。
第2焼鈍後冷却工程:第2焼鈍工程後の熱延鋼板を冷却して焼鈍鋼板とする。このとき、冷却中の熱延鋼板温度が900〜750℃の範囲(特定温度域)では、30〜150℃/秒の平均冷却速度で冷却する。特定温度域において上記平均冷却速度で冷却を実施することにより、鋼中におけるCuS析出物の析出を抑え、かつ、微細なAlNを追加で析出させる。
脱炭焼鈍工程は、冷延鋼板を脱炭焼鈍する脱炭工程と、脱炭工程後の鋼板を冷却して脱炭焼鈍鋼板とする脱炭後冷却工程とを含む。脱炭後冷却工程中の鋼板(冷延鋼板)の特定温度域での平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。鋼板(冷延鋼板)の特定温度域での平均冷却速度を30〜150℃/秒にすることにより、脱炭後冷却工程後の脱炭焼鈍鋼板中でのCuS析出物の析出を抑えることができる。
窒化処理工程は、脱炭焼鈍鋼板を窒化する窒化工程と、窒化工程後の鋼板を冷却して窒化処理鋼板とする窒化後冷却工程とを含む。窒化後冷却工程において、鋼板の特定温度域(900〜750℃)での平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。鋼板の特定温度域での平均冷却速度を30〜150℃/秒にすることにより、窒化処理鋼板中でのCuS析出物の析出を抑えることができる。
熱間圧延工程は、粗圧延工程と、仕上げ圧延工程と、仕上げ圧延後冷却工程とを含む。粗圧延工程では、質量%で、C:0.005超〜0.10%、Si:2.5〜6.5%、Mn:0.03〜0.15%、S:0.010超〜0.050%、Al:0.010〜0.035%、N:0.0045〜0.0120%、Cu:0.020〜0.300%、Sn:0〜0.15%、及び、残部がFe及び不純物からなる鋼材に対して、粗圧延機を用いて熱間圧延を実施して粗鋼板を製造する。仕上げ圧延工程では、粗鋼板に対して、仕上げ圧延機を用いて熱間圧延を実施して仕上げ鋼板を製造する。仕上げ圧延後冷却工程では、仕上げ鋼板を冷却して熱延鋼板とする。仕上げ圧延工程において、仕上げ圧延機で熱間圧延を開始するときの粗鋼板の温度を960℃以上とし、仕上げ圧延機で熱間圧延を完了したときの仕上げ鋼板の温度を900〜1000℃とする。仕上げ圧延後冷却工程において、仕上げ鋼板の表面温度が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
熱延板焼鈍工程では、第1焼鈍工程と、第2焼鈍工程と、第2焼鈍後冷却工程とを含む。第1焼鈍工程では、熱延鋼板を1080〜1200℃で70〜120秒間保持する。第2焼鈍工程では、第1焼鈍工程後、熱延鋼板を900〜980℃まで冷却し、熱延鋼板を900〜980℃で30〜450秒保持する。第2焼鈍後冷却工程では、第2焼鈍工程後、熱延鋼板を冷却して焼鈍鋼板とし、熱延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
冷間圧延工程では、焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する。
脱炭焼鈍工程は、脱炭工程と、脱炭後冷却工程とを含む。脱炭工程では、冷延鋼板を800〜950℃で脱炭焼鈍する。脱炭後冷却工程では、脱炭工程後の冷延鋼板を冷却して、鋼中におけるCuS析出物が質量%で5ppm以下である脱炭焼鈍鋼板とする。脱炭後冷却工程では、冷延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする。
仕上げ焼鈍工程では、脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを含有する焼鈍分離剤を塗布して、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に対して1150〜1250℃で5〜30時間の仕上げ焼鈍を実施する。
[製造工程フロー]
図1は、本発明の第1の実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、鋼材に対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する熱間圧延工程(S1)と、熱延鋼板に対して2段階焼鈍及び冷却を実施して焼鈍鋼板を製造する熱延板焼鈍工程(S2)と、焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する冷間圧延工程(S3)と、冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して脱炭焼鈍鋼板を製造する脱炭焼鈍工程(S4)と、脱炭焼鈍鋼板に対して仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程(S6)とを含む。以下、各工程について説明する。
熱間圧延工程(S1)では、準備された鋼材に対して熱間圧延を実施して熱延鋼板を製造する。鋼材は、方向性電磁鋼板の素材に相当し、たとえば、スラブである。鋼材の化学組成は、次の元素を含有する。
C:0.005超〜0.10%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。しかしながら、C含有量が0.005%以下であれば、上記効果が十分に得られない。一方、C含有量が0.060%を超えれば、脱炭焼鈍に要する時間が長くなりすぎる。なお、脱炭焼鈍が不十分であれば、優れた磁気特性が得られにくい。したがって、C含有量は0.005超〜0.10%である。C含有量の好ましい下限は0.03%であり、さらに好ましくは0.04%である。C含有量の好ましい上限は0.08%であり、さらに好ましくは0.07%である。
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の電気抵抗を高めて、鉄損の一部を構成する渦電流損を低減する。Si含有量が2.5%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Si含有量が6.5%を超えれば、鋼の冷間加工性が低下する。したがって、Si含有量は2.5〜6.5%である。Si含有量の好ましい下限は2.8%であり、さらに好ましくは3.0%である。Si含有量の好ましい上限は3.7%であり、さらに好ましくは3.5%である。
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減させる。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、熱延板焼鈍工程において、Sと結合して微細なMnSを形成する。微細MnSは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱延板焼鈍工程において、微細MnSの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.03%未満であれば、十分な量の微細MnSが析出しない。一方、Mn含有量が0.15%を超えれば、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。したがって、Mn含有量は0.03〜0.15%である。Mn含有量の好ましい下限は0.05%であり、さらに好ましくは0.07%である。Mn含有量の好ましい上限は0.12%であり、さらに好ましくは0.10%である。
硫黄(S)は、熱延板焼鈍工程中の第1焼鈍工程において、Mnと結合して、微細MnSを形成する。S含有量が0.010%以下であれば、十分な量の微細AlNを生成するための生成核となる十分な量の微細MnSが得られない。一方、S含有量が0.050%を超えれば、仕上げ焼鈍工程後の鋼板中においてもMnSが残存する場合がある。この場合、磁気特性が低下する。したがって、S含有量は0.010超〜0.050%である。S含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.02%である。S含有量の好ましい上限は0.035%であり、さらに好ましくは0.025%である。
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.010%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、sol.Al含有量が0.035%を超えれば、AlNが粗大化して、インヒビター強度が低下する。したがって、sol.Al含有量は0.010〜0.035%である。sol.Al含有量の好ましい下限は0.015%であり、さらに好ましくは0.02%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.03%であり、さらに好ましくは0.025%である。なお、本明細書において、sol.Alは酸可溶Alを意味する。したがって、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量である。
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量が0.0045%未満であれば、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。一方、鋼材中のN含有量が0.0120%を超えれば、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。したがって、N含有量は0.0045〜0.0120%である。N含有量の好ましい下限は0.0050%であり、さらに好ましくは0.0060%である。N含有量の好ましい上限は0.0100%であり、さらに好ましくは0.0090%である。
銅(Cu)は熱延板焼鈍工程において、AlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。Cu含有量が0.010%未満であれば、上記効果が十分に得られない。一方、Cu含有量が高すぎれば、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上げ焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存していれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。したがって、Cu含有量は0.020〜0.300%である。Cu含有量の好ましい下限は0.050%であり、さらに好ましくは0.100%である。Cu含有量の好ましい上限は0.250%であり、さらに好ましくは0.200%である。
上述の鋼材は、Feの一部に代えて、Snを含有してもよい。
すず(Sn)は、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上し、仕上げ焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質も向上する。Snはさらに、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上する。Snはさらに、粒界偏析元素であり、二次再結晶を安定化する。しかしながら、Sn含有量が0.15%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。したがって、Sn含有量は0〜0.15%である。上記効果をより有効に得るためのSn含有量の好ましい下限は0.01%である。Sn含有量のさらに好ましい下限は0.04%であり、さらに好ましい上限は0.10%である。
仕上げ圧延開始温度:960℃以上
仕上げ圧延終了温度:900〜1000℃
仕上げ圧延工程において、仕上げ圧延機で熱間圧延を開始するときの粗鋼板の温度を「仕上げ圧延開始温度」(℃)と定義する。具体的には、仕上げ圧延機において、最初に圧下する仕上げ圧延スタンドの入側での粗鋼板の表面温度を、「仕上げ圧延開始温度」(℃)と定義する。また、仕上げ圧延工程において、仕上げ圧延機で熱間圧延を完了したときの鋼板(仕上げ鋼板)の温度を「仕上げ圧延終了温度」と定義する。具体的には、仕上げ圧延機において、最後に鋼板を圧下する仕上げ圧延スタンドの出側での仕上げ鋼板の表面温度を、「仕上げ圧延終了温度」(℃)と定義する。
仕上げ圧延後冷却工程(S13)では、仕上げ圧延工程(S12)後の仕上げ鋼板に対して、冷却を実施して熱延鋼板とする。このとき、仕上げ鋼板の温度が900℃から750℃になるまでの(つまり、鋼板温度が特定温度域での)平均冷却速度を30〜150℃/秒にする。ここで、鋼板温度は次の方法で特定する。仕上げ圧延機の最後に圧下する圧延スタンドの出側及びその下流には、鋼板の幅中央部の温度を測定できる測温計(放射温度計、サーモグラフィ等)が下流に向かって複数取付けられている。各測温計により、鋼板幅方向中央部での鋼板の表面温度を測定する。各測温計で測定された鋼板の表面温度、各測温計の配置位置、仕上げ圧延機の最後に圧下する圧延スタンドの出側以降の熱延鋼板の通板速度等に基づいて、鋼板温度が900℃から750℃になるまでに掛かった時間を求め、求めた時間に基づいて、平均冷却速度を求める。
製造された熱延鋼板に対して、熱延板焼鈍工程を実施して、焼鈍鋼板を製造する。図2は、図1中の熱延板焼鈍工程の詳細を示すフロー図である。図2を参照して、熱延板焼鈍工程(S2)は、第1焼鈍工程(S21)と、第2焼鈍工程(S22)と、第2焼鈍後冷却工程(S23)とを含む。熱延板焼鈍工程では、第1焼鈍工程(S21)、第2焼鈍工程(S22)、第2焼鈍後冷却工程(S23)の順に、各工程を実施する。第1焼鈍工程(S21)では主として、Cuを利用して微細MnSを多数析出させる。第2焼鈍工程(S22)では主として、微細MnSを析出核として微細AlNを多数析出させる。第2焼鈍後冷却工程(S23)では、微細AlNをさらに追加して析出させ、かつ、CuS析出物の析出を抑制する。以下、各工程S21〜S23について詳述する。
第1焼鈍工程では、熱処理炉を用いて、熱延鋼板の温度が第1焼鈍温度(1080〜1200℃)になるように、熱延鋼板を加熱する。そして、第1焼鈍温度となった熱延鋼板を第1保持時間(70〜120秒)保持して焼鈍を実施する。これにより、熱延鋼板中に、微細AlNの析出核となる微細MnSを析出させる。鋼中の固溶Cuは、第1焼鈍工程において、微細MnSの析出を促進させる。第1焼鈍工程(S21)での製造条件は次のとおりである。
第1保持時間:70〜120秒
第1焼鈍温度は、熱処理炉の炉温に相当する。第1焼鈍温度が1080℃未満であれば、微細AlNの析出させるための十分な量の微細MnSが析出しない。一方、第1焼鈍温度が1200℃を超えれば、析出したMnSが粗大化する。MnSが粗大化すれば、AlNの析出挙動が変化して、第2焼鈍工程(S22)において、十分な量の微細AlNが析出しない。第1焼鈍温度が1080〜1200℃であれば、第1保持時間が適切であることを前提として、十分な量の微細MnSが析出する。
第1焼鈍工程(S21)後、引き続き、第2焼鈍工程(S22)を実施する。第2焼鈍工程(S22)では、第1焼鈍工程(S21)と同じ熱処理炉内において、熱延鋼板の温度を第2焼鈍温度(900〜980℃)に下げる。具体的には、第1焼鈍工程(S21)後、炉温を第1焼鈍温度(1080〜1200℃)から第2焼鈍温度(900〜980℃)に下げる。炉温を下げて熱延鋼板の温度を第2焼鈍温度とした後、第2焼鈍温度で第2保持時間(30〜450秒)保持して焼鈍を実施する。第2焼鈍工程(S22)を実施することにより、第1焼鈍工程(S21)で生成した微細MnSを析出核として、十分な量の微細AlNを析出させる。第2焼鈍工程(S22)ではさらに、インヒビターとして機能する微細なTiNも析出する。第2焼鈍工程(S22)での製造条件は次のとおりである。
第2保持時間:30〜450秒
第2焼鈍温度は、熱処理炉の炉温に相当する。第2焼鈍温度が900℃未満である場合、十分な量の微細AlNが析出せず、非常に微細なAlNが不安定に少量析出する。この場合、AlNがインヒビターとして機能しにくい。一方、第2焼鈍温度が980℃を超える場合、粗大なAlNが少量析出するものの、適切な量の微細AlNが析出しにくい。第2焼鈍温度が900〜980℃であれば、熱延板焼鈍工程での他の条件が適切であることを前提として、十分な量の微細AlNが析出する。
第2焼鈍工程(S22)後に、第2焼鈍後冷却工程(S23)を実施する。第2焼鈍後冷却工程(S23)では、第2焼鈍工程(S22)後の鋼板(熱延鋼板)を冷却する。このとき、鋼板温度が900〜750℃の範囲(特定温度域)では、30〜150℃/秒の平均冷却速度で冷却する。特定温度域において上記平均冷却速度で冷却を実施することにより、微細なAlNを追加で析出させる。さらに、CuS析出物は特定温度域で生成しやすいため、上述の平均冷却速度で鋼板を冷却することにより、CuS析出物の析出を抑制する。冷却工程(S23)での製造条件は次のとおりである。
特定温度域での平均冷却速度が30℃/秒未満の場合、過剰なCuS析出物が析出する。この場合、仕上げ焼鈍後においても鋼中にCuS析出物が残存する。そのため、磁気特性が低下する。一方、特定温度域での平均冷却速度が150℃/秒を超える場合、鋼板の冷却が不均一になる。この場合、特定温度域において微細なAlNが不均一に追加析出してしまう。そのため、二次再結晶が均一に発生しにくくなり、方向性電磁鋼板における磁気特性のばらつきが大きくなる。特定温度域での平均冷却速度を30〜150℃/秒とすれば、特定温度域について、鋼板中に微細なAlNを均一に析出しやすくなり、かつ、CuS析出物の過剰な析出を抑制できる。
冷間圧延工程(S3)では、製造された焼鈍鋼板に対して、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷間圧延は、冷間圧延機を用いて実施する。冷間圧延機は、一列に配列された複数の冷間圧延スタンドを備える。各冷間圧延スタンドは、複数の冷間圧延ロールを含む。
冷延率(%)=1−最後の冷間圧延後の冷延鋼板の板厚/最初の冷間圧延開始前の焼鈍鋼板の板厚×100
脱炭焼鈍工程(S4)では、冷間圧延工程(S3)により製造された冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現し、脱炭焼鈍鋼板を製造する。脱炭焼鈍工程(S4)は、脱炭工程(S41)と、脱炭後冷却工程(S42)とを含む。脱炭工程(S41)では、冷延鋼板を脱炭して一次再結晶を発現させる。脱炭後冷却工程(S42)では、脱炭後の鋼板を冷却する。以下、脱炭工程(S41)及び脱炭後冷却工程(S42)について説明する。
脱炭工程(S41)では、冷間圧延工程(S3)により製造された冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。脱炭焼鈍はたとえば、次の方法で実施する。冷間圧延鋼板を熱処理炉に装入する。熱処理炉の温度(脱炭焼鈍温度)を800〜950℃とし、熱処理炉の雰囲気を、水素及び窒素を含有する湿潤雰囲気とする。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭工程の製造条件は次のとおりである。
脱炭焼鈍温度は、上述のとおり、熱処理炉の炉温に相当し、脱炭焼鈍中の冷延鋼板の温度に相当する。脱炭焼鈍温度が800℃未満であれば、一次再結晶発現後の脱炭焼鈍鋼板の結晶粒が小さすぎる。この場合、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。一方、脱炭焼鈍温度が950℃を超えれば、一次再結晶発現後の脱炭焼鈍鋼板の結晶粒が大きすぎる。この場合も、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現しない。脱炭焼鈍温度が800〜950℃であれば、一次再結晶後の脱炭焼鈍鋼板の結晶粒が適切なサイズとなり、仕上げ焼鈍工程(S6)において、二次再結晶が十分に発現する。
脱炭後冷却工程(S42)では、脱炭工程(S41)後の鋼板に対して、冷却を実施する。脱炭後冷却工程において、鋼板の温度が900℃から750℃になるまでの(つまり、鋼板温度が特定温度域での)平均冷却速度を30〜150℃/秒にする。
まずCuS析出物の質量の測定に用いられる化学分析用のサンプルの採取方法について説明する。初めに、鋼板の幅方向における中央部から、供試材を採取する。供試材の表面に形成されているスケール等の酸化被膜等を、化学的研磨、又は、機械的研磨処理により除去する。その後、供試材を電解して、介在物や析出物等を供試材から離脱させて残渣として回収する。この回収された残渣をサンプルとする。
脱炭焼鈍工程(S4)後の鋼板(脱炭焼鈍鋼板)に対して、仕上げ焼鈍工程(S6)を実施する。仕上げ焼鈍工程(S6)では、はじめに、鋼板の表面に焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。そして、水性スラリーを塗布された鋼板に対して焼鈍(仕上げ焼鈍)を実施する。
仕上げ焼鈍温度での保持時間:5〜30時間
仕上げ焼鈍温度が1150℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が劣位となる。一方、仕上げ焼鈍温度が1250℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上げ温度が1150〜1250℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が健全に形成される。
本発明による方向性電磁鋼板の製造方法はさらに、必要に応じて次の製造工程を実施してもよい。
本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法ではさらに、仕上げ焼鈍工程後に、二次被膜形成工程を実施してもよい。二次被膜形成工程では、仕上げ焼鈍の降温後の方向性電磁鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁コーティング剤を塗布した後、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、張力絶縁被膜である二次被膜が形成される。
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、仕上げ焼鈍工程又は二次被膜形成工程後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
[製造工程フロー]
図3は、本発明の第2の実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図3を参照して、本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法は、図1と比較して、脱炭焼鈍工程(S4)と、仕上げ焼鈍工程(S6)との間に、新たに、窒化処理工程(S5)を備えてもよい。その他の工程は、図1と同じである。以下、窒化処理工程(S5)について詳述する。
窒化処理工程(S5)では、脱炭焼鈍工程(S4)後の脱炭焼鈍鋼板に対して、窒化処理を実施して、窒化処理鋼板を製造する。窒化処理工程(S5)は、窒化工程(S51)と、窒化後冷却工程(S52)とを含む。窒化工程(S51)では、脱炭焼鈍鋼板を窒化する。窒化後冷却工程(S52)では、窒化工程後の鋼板を冷却して窒化処理鋼板とする。以下、窒化工程(S51)及び窒化後冷却工程(S52)について説明する。
窒化工程(S51)では、脱炭焼鈍工程(S4)後の脱炭焼鈍鋼板に対して窒化処理を実施する。これにより、二次再結晶までに鋼中にさらに微細AlNが析出する。好ましい窒化処理条件は次のとおりである。
窒化処理炉内の雰囲気(窒化処理雰囲気):水素、窒素及びアンモニア等の窒化能を有するガスを含有する雰囲気
窒化処理温度が700℃未満であれば、又は、窒化処理温度が850℃を超えれば、窒化処理において、窒素が鋼板中に侵入しにくい。この場合、窒化工程において鋼板内部での窒素量が不足する。そのため、二次再結晶直前での微細AlN量との合計析出量が不足する。その結果、仕上げ焼鈍工程(S6)での二次再結晶が十分に発現しない。
窒化後冷却工程(S52)では、窒化工程(S51)後の鋼板に対して、冷却を実施する。窒化後冷却工程(S52)において、鋼板の温度が900℃から750℃になるまでの(つまり、鋼板温度が特定温度域での)平均冷却速度を30〜150℃/秒にする。
表1に示す化学組成の溶鋼を、真空溶解炉にて製造した。製造された溶鋼を用いて、連続鋳造法により鋼材(スラブ)を製造した。
[脱炭焼鈍工程後のCuS析出物含有量の測定試験]
各試験番号において、窒化処理工程後、仕上げ焼鈍工程前の窒化処理鋼板において、鋼中のCuS析出物含有量(質量%)を次の方法で測定した。
各試験番号において、脱炭焼鈍工程後、仕上げ焼鈍工程前の鋼板(脱炭焼鈍鋼板)において、鋼板の幅方向における中央部から、供試材を採取した。採取された供試材を用いて、鋼中のCuS析出物含有量(質量%)を上述の方法により測定した。
次の方法により、各試験番号の方向性電磁鋼板の磁気特性を評価した。具体的には、各試験番号の方向性電磁鋼板から圧延方向長さ300mm×幅60mmのサンプルを15個採取した。具体的には、方向性電磁鋼板の幅をt(mm)と定義した場合、方向性電磁鋼板の側縁から幅方向にt/2の位置において、圧延方向に2000mmピッチ(サンプルの重心間距離)で5つのサンプルを採取した。さらに、方向性電磁鋼板の側縁から幅方向にt/4の位置において、圧延方向に2000mmピッチで5つのサンプルを採取した。さらに、方向性電磁鋼板の側縁から3t/4の位置において、圧延方向に2000mmピッチで5つのサンプルを採取した。以上の採取工程により、方向性電磁鋼板の異なる部位から15個のサンプルを採取した。
得られた試験結果を表2に示す。表2を参照して、試験番号1〜6では、いずれも鋼材の化学組成が適切であり、かつ、各製造工程での条件も適切であった。その結果、窒化処理工程後であって、仕上げ焼鈍工程前の脱炭焼鈍鋼板におけるCuS析出物の含有量は、いずれの試験番号においても、5ppm以下であった。その結果、平均磁束密度B8aveは1.920T以上と高く、鉄損W17/50は0.85W/kg以下であり、優れた磁気特性を示した。さらに、偏差ΔB8は0.015T以下であり、磁気特性のばらつきは抑えられていた。
Claims (2)
- 質量%で、
C:0.005超〜0.10%、
Si:2.5〜6.5%、
Mn:0.03〜0.15%、
S:0.010超〜0.050%、
Al:0.010〜0.035%、
N:0.0045〜0.0120%、
Cu:0.020〜0.300%、
Sn:0〜0.15%、及び、
残部がFe及び不純物からなる鋼材に対して、粗圧延機を用いて熱間圧延を実施して粗鋼板を製造する粗圧延工程と、前記粗鋼板に対して、仕上げ圧延機を用いて熱間圧延を実施して仕上げ鋼板を製造する仕上げ圧延工程と、前記仕上げ鋼板を冷却して熱延鋼板とする仕上げ圧延後冷却工程とを含み、前記仕上げ圧延工程において、前記仕上げ圧延機で熱間圧延を開始するときの前記粗鋼板の温度を960℃以上とし、前記仕上げ圧延機で熱間圧延を完了したときの前記仕上げ鋼板の温度を900〜1000℃とし、前記仕上げ圧延後冷却工程において、前記仕上げ鋼板の表面温度が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする、熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を1080〜1200℃で70〜120秒間保持する第1焼鈍工程と、前記第1焼鈍工程後、前記熱延鋼板を900〜980℃まで冷却し、前記熱延鋼板を900〜980℃で30〜450秒保持する第2焼鈍工程と、前記第2焼鈍工程後、前記熱延鋼板を冷却して焼鈍鋼板とし、前記熱延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする第2焼鈍冷却後冷却工程とを含む、熱延板焼鈍工程と、
前記焼鈍鋼板に対して冷間圧延を実施して冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板を800〜950℃で脱炭焼鈍する脱炭工程と、前記脱炭工程後の前記冷延鋼板を冷却して、鋼中におけるCuS析出物が質量%で5ppm以下である脱炭焼鈍鋼板とする脱炭後冷却工程とを含み、前記脱炭後冷却工程では、前記冷延鋼板が900℃から750℃になるまでの平均冷却速度を30〜150℃/秒とする、脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを含有する焼鈍分離剤を塗布して、前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍鋼板に対して1150〜1250℃で5〜30時間の仕上げ焼鈍を実施する仕上げ焼鈍工程と、
を備える、方向性電磁鋼板の製造方法。 - 請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記鋼材の化学組成は、
Sn:0.01〜0.15%を含有する、方向性電磁鋼板の製造方法。
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