JP6941584B2 - 燃料油組成物及びその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、燃料油組成物及びその製造方法に関する。
燃料油は、燃焼に際して燃料油中に含まれる硫黄分に起因する硫黄酸化物等の環境汚染物質が発生することから、近年、燃料油中の硫黄分を低減することが求められている。
従来、C重油相当の燃料油は、石油精製の工程で得られる減圧残渣分を軽油留分などの比較的軽質な基材で所望の粘度に調製して製造した後、ボイラー、船舶用内燃機関等に使用されている。減圧残渣分は硫黄分が非常に高い基材であるため、燃料油中の硫黄分を低減するためには、比較的硫黄分の低い基材を用いることが望まれている。
特に、船舶用の燃料油(以下、「舶用油」とも称する。)については、これまで、国際海事機関(IMO)の枠組みの中で締結されたMARPOL条約を核とした環境規制によって、指定海域及び一般海域の硫黄分が段階的に規制されてきた。そして西暦2020年より、船舶油は、硫黄分を一般海域でも0.5質量%以下にすることが必要になった。
また、船舶はその性質上、世界各地で燃料油の供給が必要であることから、国際的な舶用油の規格として「ISO8217」が規定されており、燃料供給側は、この規格に適合した性状を有する燃料を供給することを求められる。
内燃機関で燃料油を使用する場合は、着火性及び燃焼性が重要な性能とされており、これまでも燃焼性が悪い燃料油によるトラブルが報告されている。船舶用のディーゼルエンジンで使用されるC重油相当の燃料油も、同様に一定の燃焼性能が求められており、「ISO8217」の中では、着火性及び燃焼性の指標として、燃料油の15℃における密度、及び50℃における動粘度から算出されるCCAI(Calculated Carbon Aromaticity Index)が規定されている。CCAIは着火性の指標とされており、一般的にはCCAIの数値が高い燃料油ほど着火性が悪く、使用時の燃焼トラブルを起こし易いとされている。
燃料油の燃焼性の指標としては、CCAIに加えて、「IP541法」に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価(ECN:Estimated Cetane Number)が挙げられる。「IP541法」は、定容燃焼室を有する燃焼装置を用いて、ある条件下における燃焼室内圧力変化から、燃料油の燃焼状態を測定するものである。CCAIが高くなるほどECNは低くなる傾向にあることが、報告されている(例えば、非特許文献1参照)。
一般に、舶用油では、着火性の指標として簡便で有効性のあるCCAIが用いられており、着火性改善のために、CCAI低減の要求が一層望まれている。過去の報告では、低速2サイクルエンジンにおいて、舶用油を燃焼させた際に、燃料に起因する燃焼障害が発生したケースでは、全て燃料油のCCAIが850以上であったということが報告されている(例えば、非特許文献2参照)。
一方、近年の社会情勢として、エネルギー供給構造高度化法(正式名称:「エネルギー供給事業者による非化石エネルギー源の利用及び化石エネルギー原料の有効な利用の促進に関する法律」)の制定に代表されるように、石油資源の有効活用が着目されている。かかる観点から、石油精製各社は、重質油の分解装置の装備率を上げてきており、接触分解装置などから留出するスラリーオイル等の分解系基材(以下、単に「分解系基材」とも称する。)の有効活用は、今後の石油精製業において非常に重要な事項である。
スラリーオイルの特徴の一つは、石油精製の脱硫工程を経ているため、減圧残渣分と比べて、比較的硫黄分が低いという点である。このため、環境に配慮した船舶用燃料油の基材として使用することなど、スラリーオイルの有効活用が望まれている。
しかし、スラリーオイル等の分解系基材は、他の基材に比し、CCAIが高くなることから、内燃機関における使用には適していないとされている。実際の検討として、減圧蒸留残渣油にスラリーオイル相当の留分を混合した燃料では、スラリーオイル相当の留分比率が増加すると着火性が悪化することが報告されている(例えば、非特許文献3参照)。これまで、燃料油のCCAI低減のためには、CCAIが高い分解系基材の配合割合を低下させる必要があるため、分解系基材の使用は制限されてきた。
「日本マリンエンジニアリング学会誌」、第48巻、第3号、第71頁〜75頁 「日本舶用機関学会誌」、第26巻、第1号、第33頁〜41頁 「日本マリンエンジニアリング学会誌」、第44巻、第4号、第126頁〜130頁
上記のとおり、分解系基材の一態様であるスラリーオイルは比較的硫黄分が低く、また、スラリーオイルの使用は石油資源の有効活用にもなることから、燃料油における硫黄分の低減が望まれる現況において、スラリーオイルを適用した燃料油に対する要求がある。しかし、スラリーオイルを積極的に活用し、かつ良好な着火性を有する燃料油組成物は、未だ提供されていないのが現状である。
本発明は、このような状況を踏まえたものであり、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
本発明者らは、上記の技術課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上の基材とを含有する燃料油組成物において、スラリーオイル以外の1種又は2種以上の基材のCCAIを特定の値以下としかつその配合量を特定の範囲内にすることにより、分解系基材であるスラリーオイルを含有しつつ、硫黄分の含有量が低減され、かつ着火性に優れた燃料油組成物が提供されることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、上記課題を解決するための手段には、以下の実施態様が含まれる。
<1> スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物。
<2> CCAIが860以下である、<1>に記載の燃料油組成物。
<3> IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価が30以上である、<1>又は<2>に記載の燃料油組成物。
<4> 引火点が60℃以上である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の燃料油組成物。
<5> スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む、燃料油組成物の製造方法。
本発明によれば、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物、及びその製造方法を提供することができる。
従来の船舶用燃料油と実施例1〜実施例14の燃料油組成物との比較を示すグラフである。
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「〜」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「〜」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の比率又は量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の比率又は量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
本明細書において、下記項目の値は、以下の試験法方及び計算を用いて求めた値を意味する。
(15℃における密度)
JIS K 2249−1(2011)「原油及び石油製品−密度試験方法」によって測定した値を意味する。
(50℃における動粘度)
JIS K 2283(2000)「原油及び石油製品−動粘度試験方法」によって測定した値を意味する。
(硫黄分)
下記2つの測定方法1又は2のいずれかにより測定する。測定方法は、測定対象物に含有される硫黄量に応じて選択される。
測定方法1(硫黄分が0.0051質量%以上の場合):
JIS K 2541−7(2003)「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」波長分散蛍光X線法によって測定した値を意味する。
測定方法2(硫黄分が0.0050質量%以下の場合):
JIS K 2541−6(2013)「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」紫外蛍光法によって測定した値を意味する。
(引火点)
JIS K 2265−3(2007)「引火点の求め方−ペンスキーマルテンス密閉法」A法によって測定した値を意味する。
(実在セジメント)
ISO 10307−1:2009「Petroleum products −Total sediment in residual fuel oils−」によって測定した値を意味する。
(CCAI)
下記の式(1)に示す計算方法で求めた値を意味する。
CCAI=D−140.7log10log10(V+0.85)−80.6 ・・・(1)
式(1)中、Dは15℃における密度(kg/m3)、Vは50℃における動粘度(mm2/s)を示す。
「推定セタン価(ECN)」
Fuel Tech社の「Combustion Analyzer」を用いて、下記表1に示す条件で試験を行ない、当該試験により得られた主燃焼遅れ期間(MCD:Main Combustion Delay)の測定値を用いて、下記式(2)により算出される値である。
ECN=153.15e−0.2861MCD ・・・式(2)
式(2)中、MCDは、燃料噴射開始時の圧力(初圧)から燃焼室内の圧力が最大圧力の10%に到達するまでの時間を指し、単位はmsecである。
Figure 0006941584
[燃料油組成物]
本発明の燃料油組成物は、スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である。
本発明の燃料油組成物は、上記の構成を満たすことにより、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物を提供することができる。
なお、以下の説明では、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材を、適宜「混合用基材」と総称する。本明細書において、「混合用基材」なる用語は、スラリーオイルとの混合の用に供されて燃料油基材を構成する「スラリーオイル以外の1種又は2種以上の基材」を総称する用語として用いられる。
〜燃料油組成物の性状〜
本発明の燃料油組成物の性状は、本発明の燃料油組成物が必須とする条件を満たすこと、すなわち、スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなる基材(混合用基材)とを含有すること、混合用基材のCCAIが850以下であること、燃料油組成物におけるスラリーオイル及び混合用基材の含有量が、それぞれ所定の範囲内であること、かつ、燃料油組成物の硫黄分が0.5質量%以下であること、を満たせば、特に限定されるものではない。以下に、本発明の燃料油組成物の好ましい性状について説明する。
(硫黄分)
本発明の燃料組成物は、硫黄分の含有量が、0.5質量%以下である。
硫黄分の含有量が0.5質量%以下であることにより、船舶、工業炉、ボイラー等で使用した際に排出されるSOx量を抑制することが可能であり、環境への負荷を低減し、かつ、煙道腐食等を抑制することができる。
(CCAI)
本発明の燃料油組成物は、CCAIが860以下であることが好ましい。
CCAIが860以下であることにより、内燃機関で燃焼させた際の着火性をより良好に維持することが可能である。また、分解系基材の有効活用の面から、少なくとも820以上であることが好ましい。
(推定セタン価)
本発明の燃料油組成物は、IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価(ECN)が30以上であることが好ましい。
推定セタン価が30以上であることにより、燃料油組成物が優れた着火性を有することの指標となる。
(引火点)
本発明の燃料油組成物は、引火点が60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましく、70℃以上が更に好ましい。
燃料油組成物の引火点が60℃以上であることにより、取り扱いが容易になる。
(実在セジメント)
本発明の燃料油組成物は、実在セジメント量が、燃料油組成物の全質量に対して0.10質量%以下であることが好ましい。
燃料油組成物の、実在セジメント量が0.10質量%以下であることにより、通油におけるフィルタ目詰まりなどのトラブルを抑制することが可能である。
(密度及び動粘度)
本発明の燃料油組成物の15℃における密度及び50℃における動粘度は、特に限定されるものではないが、本発明において用いられる燃料油組成物の用途を考慮すると、15℃における密度が、0.90g/cm〜1.01g/cmであることが好ましく、また50℃における動粘度が5.000mm/s〜100.0mm/sであることが好ましい。燃料油組成物の密度が上記範囲内にあることにより、燃焼障害の発生を抑制でき、また、動粘度が上記範囲内にあることにより、良好な噴霧状態が得られるため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができるため、好ましい。
〔燃料油基材〕
本発明の燃料油組成物は、スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材(混合用基材)とを含有する。すなわち、本発明の燃料油組成物における燃料油基材は、スラリーオイルと混合用基材とから構成される。
なお、本明細書において「燃料油基材」なる用語は、燃料油組成物に含有される1種又は2種以上の基材を総称する用語として用いられる。
本発明において燃料油基材は、スラリーオイルとCCAIが850以下の混合用基材とから構成され、スラリーオイルの含有量は、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、CCAIが850以下の混合用基材の含有量は、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%である。
燃料油基材の種類及び含有量を上記の態様とすることで、分解系基材であるスラリーオイルを有効活用しつつ、硫黄分の含有量を0.5質量%以下に低減し、かつ着火性に顕著に優れた燃料油組成物とすることができる。
以下、本発明の燃料油組成物を構成する各基材の詳細について説明する。
<スラリーオイル>
本発明の燃料油組成物はスラリーオイルを含有する。
スラリーオイルは、流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置から得られる残渣油であり、一般に、軽油相当留分以上の沸点範囲を有する。
流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置としては、特に制限はなく、公知の装置を用いることができる。
スラリーオイルは、石油精製の脱硫工程を経ているため、減圧残渣分等と比べて、比較的硫黄分が低いという特徴を有する。このため、燃料油基材がスラリーオイルを含むことで、燃料油組成物における硫黄分の効果的な低減が容易となる。
また、燃料油基材が分解系基材の一態様であるスラリーオイルを含むことで、分解系基材を有効に活用することができる。
一般に、スラリーオイルの精製に適用される流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置では、アルミニウムやシリカを主成分とする触媒が使用されており、残渣分であるスラリーオイル中にはこれらの触媒が混入している場合がある。これらの触媒が、燃料油組成物中に高濃度で存在し、内燃機関の燃焼室内に混入した場合、ピストンのシリンダ又はライナー部を異常摩耗させる等のトラブルが発生する懸念がある。
そのため、スラリーオイル中に触媒が残存している場合には、燃料油基材として配合する前に、静置による沈降、遠心分離、電気泳動などに代表される種々の措置によって、予め、触媒濃度を低減させる、又は、触媒自体を除去することが好ましい。
なお、スラリーオイルは、使用用途等によって、「クラリファイドオイル」等と呼称される場合もある。
(スラリーオイルの含有量)
スラリーオイルの含有量は、燃料油組成物の全容量に対して20.0容量%〜85.0容量%であり、20.0容量%〜83.0容量%であることがより好ましく、20.0容量%〜80.0容量%であることが更に好ましい。
スラリーオイルの含有量が上記範囲内にあることにより、燃料油組成物が優れた着火性を有すると共に、硫黄分の含有量をより低減でき、かつ分解系基材の有効活用が可能となる。
スラリーオイルの好適な性状を以下に説明する。
(硫黄分)
スラリーオイルの硫黄分含有量は、スラリーオイルの全質量に対して、0.1質量%〜1.3質量%であることが好ましく、0.1質量%〜1.2質量%であることがより好ましい。
スラリーオイルの硫黄分含有量が、0.1質量%〜1.3質量%の範囲内であれば、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%に調製するために好適である。
(CCAI)
スラリーオイルのCCAIは、850〜970であることが好ましく、850〜960であることがより好ましく、850〜950であることが更に好ましい。
スラリーオイルのCCAIが上記範囲内にあることにより、燃料油組成物のCCAIを、所望とする一定の範囲に留めることが容易となり、分解系基材の有効活用の面から好ましい。
(引火点)
スラリーオイルの引火点は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
スラリーオイルの引火点が50℃以上であることにより、燃料油組成物の引火点を低下させることなく、取り扱い性を良好に維持することができる。
(密度及び動粘度)
スラリーオイルの15℃における密度及び、50℃における動粘度は、特に制限されないが、スラリーオイルの分留工程による変動を考慮した場合、15℃における密度は0.94g/cm〜1.20g/cm、50℃における動粘度は20.00mm/s〜700.0mm/sの範囲にあることが一般的である。
スラリーオイルは、1種単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
燃料油組成物が含有する1種又は2種以上のスラリーオイルは、全て上記の好ましい性状の範囲内の性状を有することが好ましい。
<スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下の基材>
スラリーオイル以外の1種又は2種以上の基材(混合用基材)としては、上述したスラリーオイルと共に、燃料油基材として含有され、CCAIが850以下であり、硫黄分0.5質量%以下の燃料油組成物を調整し得る基材であれば特に制限はない。
混合用基材としては、灯油留分、軽油留分、重油留分、及び残渣分の中から選ばれる1種又は2種以上の基材からなり、CCAIを850以下とした基材が挙げられる。
なお、基材全体のCCAIが850以下の混合用基材とは、CCAIが850以下の1種の基材であってもよいし、2種以上の基材を組み合わせてCCAIを850以下とした混合物であってもよいことを意味する。すなわち、混合用基材のCCAIとは、混合用基材の基材全体としてのCCAIを意味する。
スラリーオイルとCCAIが850以下の混合用基材とを含有することで、燃料油組成物のCCAIを、所望とする一定の範囲に留めつつ、かつ優れた着火性を維持させることが容易となる。また、ISO規格相当の舶用油として好適な燃料油組成物とすることもできる。
混合用基材の種類及び組み合わせ、混合用基材の含有量、等の諸態様は、スラリーオイルとの併用において、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%とした上で、CCAIを所望とする一定の範囲に留めつつ、かつ着火性を向上させる観点から設定すればよい。
混合用基材を構成する留分としては、例えば、直留灯油、水素化脱硫灯油、熱分解灯油等に代表される灯油留分;直留軽油(LGO)、減圧軽油(VGO)、直接脱硫軽油、水素化脱硫軽油、間接脱硫軽油、熱分解軽油、接触分解軽油、脱硫減圧軽油等に代表される軽油留分;直接脱硫重油、間接脱硫重油、接触分解重油等に代表される重油留分;及び直留残渣油、減圧残渣油等に代表される残渣分が挙げられる。混合用基材としては、カットバック残渣油を用いてもよい。
本発明においては、これらの留分から1種を選択し、又は、2種以上を選択して混合して混合用基材とすることができ、CCAIが850以下の混合用基材とすることが好ましい。
(混合用基材の含有量)
混合用基材の含有量としては、燃料油組成物の全容量に対して15.0容量%〜80.0容量%であり、17.0容量%〜80.0容量%であることがより好ましく、20.0容量%〜80.0容量%であることが更に好ましい。
なお、混合用基材の含有量とは、混合用基材が1種の基材からなる場合には、燃料油組成物における当該1種の基材の含有量であり、混合用基材が2種以上の基材の混合物である場合には、燃料油組成物における当該混合物の含有量である。
混合用基材の含有量が上記範囲内にあることにより、燃料油組成物の、CCAIを所望とする一定の範囲に留めることができると共に、スラリーオイルとの併用による硫黄分の含有量の低減効果により優れる。よって、燃焼ガス中の硫黄酸化物(SOx)量を低減できることから、環境負荷を低減し、かつ煙道腐食等を抑制することも可能である。
なお、混合用基材が1種類の基材からなる場合は、当該基材が、CCAIが850以下であり、かつ、下記に示す好適な性状を有することが好ましい。
また、混合用基材が性状の異なる2種以上の基材の混合物からなる場合は、混合物のCCAIが850以下であり、かつ下記に示す好適な性状を有することがより好ましい。
混合物とした基材のCCAIが850以下であれば、下記に示す好適な性状を有する基材と、それ以外の基材とを併用してもよい。
混合用基材の好適な性状を以下に説明する。
(硫黄分)
混合用基材における硫黄分の含有量は、混合用基材の全質量に対して、0.5質量%以下であることが好ましい。
硫黄分の含有量が0.5質量%以下であることにより、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%に調製するために好適である。
(密度及び動粘度)
混合基材の15℃における密度は、0.81g/cm〜0.98g/cmであることが好ましく、50℃における動粘度は、2.000mm/s〜400.0mm/sであることが好ましい。
15℃における密度が、上記範囲内にあることにより、燃料油組成物のCCAIを所望とする一定の範囲に留めることが容易になり、50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、特に内燃機関での使用に好適な燃料油組成物の粘度に調製することが容易となる。
〔添加剤〕
本発明の燃料油組成物は、必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、流動性向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、スラッジ分散剤、エマルジョン防止剤、燃焼促進剤、腐食防止剤等公知の燃料添加剤が挙げられる。添加剤は、1種単独であってもよく、又は2種以上組み合わせてもよい。
〜燃料油組成物の製造方法〜
燃料油組成物の製造方法は、スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む。
燃料油組成物の製造方法により、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物を得ることができる。
スラリーオイル、混合用基材、添加剤等の本製造方法に用いられる原料に関する事項、及び製造方法により得られる燃料油組成物に関する事項の詳細は、既述の燃料油組成物の項にて説明した事項と同じであり、ここでは説明を省略する。
スラリーオイルと、混合用基材と、を混合する方法及び混合条件としては、得られる硫黄分が0.5質量%以下であり、かつスラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%となるように調製できれば、特に制限はない。
例えば、スラリーオイルと、混合用基材との混合順序は、特に制限されるものではなく、両者を一度に混合しても良いし、一方に他方を混合しても良い。
本発明の燃料油組成物は、硫黄分の含有量が組成物の全質量に対して0.5質量%以下であり、かつ着火性に優れているため、特に船舶用燃料として好適である。また、本発明の燃料油組成物は、スラリーオイルを含むことから、分解系基材の有効活用を成しうる。
以下、本発明を実施例及び比較例によって更に詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら制限されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例にて示される基材又は燃料油組成物の各性状は、いずれも、既述の方法により測定した値である。
<スラリーオイル1〜4>
下記表2に、実施例及び比較例に用いたスラリーオイル1〜4の性状を示す。
Figure 0006941584

<混合用基材1〜11>
表3に示す性状を有する基材1〜基材10を、表4に示す割合で配合して、実施例及び比較例に用いた混合用基材1〜11を調製した。
Figure 0006941584

表3中に記載される基材1〜基材10の詳細は、以下のとおりである。
・基材1:直接脱硫重質軽油
・基材2:水素化脱硫軽油1
・基材3:水素化脱硫軽油2
・基材4:水素化脱硫軽油3
・基材5:水素化脱硫軽質減圧軽油
・基材6:間接脱硫軽油
・基材7:接触分解軽油1
・基材8:接触分解軽油2
・基材9:接触分解重油
・基材10:カットバック残渣油
Figure 0006941584

(実施例1〜実施例14及び比較例1〜比較例4)
スラリーオイル1〜スラリーオイル4、及び、混合用基材1〜11を用いて、実施例1〜実施例14、及び、比較例2〜比較例4の燃料油組成物を調製した。
比較例1としては、市販品であるC重油(従来の船舶用燃料油組成物)を用いた。
実施例1〜14及び比較例2〜4の各燃料油組成物について、調製に用いたスラリーオイルと混用基材の種類及び配合量、並びに、得られた燃料油組成物の性状を表5及び表6に示す。
市販品である比較例1の燃料油組成物については、燃料油組成物の性状のみを測定し表6に示した。
Figure 0006941584
Figure 0006941584

表5及び表6中、各成分の配合量における「−」の記載は、該当する成分を含有していないことを示す。
燃料油組成物の推定セタン価(ECN)は、数値が大きいほど好ましい。本実施例及び比較例においては、着火性評価の指標としてECNを用い、ECNが30以上の場合を、特に着火性が優れているものと判断した。
表5に示すように、スラリーオイルと混合用基材とを含有する実施例の各燃料油組成物は、ECNが30.5〜47.3の範囲であり、着火性に優れるものと判断される。このことからは、分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が達成されていることが理解できる。
これに対し、市販品である比較較例1の燃料油組成物(従来の舶用燃料油組成物)は、ECNが18.3であり、優れた着火性は発揮されないと判断される。なお、比較例1の燃料油組成物は、硫黄分が2.28質量%であり、本発明に係る硫黄分(0.5質量以下)に比して多量の硫黄分を含む燃料油組成物である。
また、スラリーオイルのみを燃料油基材とした比較例2の燃料油組成物は、ECNが29.3であり、優れた着火性は得られないものと判断される。
比較例3及び比較例4の燃料油組成物は、ECNが、それぞれ22.5及び15.4と、いずれも30未満であり、これらの燃料油組成物は、燃料油基材を構成する基材としてスラリーオイルを含むものの、所望とする優れた着火性は得られないものと判断される。
また、各実施例からは、スラリーオイルと混合される混合用基材のCCAIは850以下であること、スラリーオイル及び混合用基材の好適な含有量は、本発明の燃料油組成物が必須とする所定の範囲内であることが分かる。
さらに、各実施例の燃料油組成物のCCAIは、いずれも、本発明の燃料油組成物における好適な範囲として既述の860以下である。このように、各実施例の燃料油組成物は、高いECNを示しながらも、スラリーオイルを含まない従来の燃料油組成物(比較例1、CCAI=859)と、同等かそれ以下のCCAIを有している。このことは、実施例の燃料油組成物によれば、CCAIは従来の燃料油組成物と同等レベルの範囲に留めながらも、ECNは向上させて、優れた着火性を示すものであることを示している。
図1に、これまで船舶油として市場に流通している321件の燃料油について、CCAIとECNで整理したプロット図が報告されている非特許文献1を基に、従来の舶用油群と実施例1〜実施例14で調製した燃料組成物群とを比較したグラフを示す。
図1からは、実施例1〜実施例14の燃料組成物群は、分解系基材であるスラリーオイルを使用しているが、CCAIは834〜860を示しており、同等レベルのCCAIを示す従来の舶用油群が示すCCAI及びECNの範囲と比較すると、実施例の燃料油組成物群は、ECNが大幅に高く、着火性が非常に良好であることが理解される。

Claims (5)

  1. スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、30容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物。
  2. CCAIが860以下である、請求項1に記載の燃料油組成物。
  3. IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価が30以上である、請求項1又は請求項2に記載の燃料油組成物。
  4. 引火点が60℃以上である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料油組成物。
  5. スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを混合し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、30容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む、燃料油組成物の製造方法。
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