JP6941584B2 - 燃料油組成物及びその製造方法 - Google Patents
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Description
従来、C重油相当の燃料油は、石油精製の工程で得られる減圧残渣分を軽油留分などの比較的軽質な基材で所望の粘度に調製して製造した後、ボイラー、船舶用内燃機関等に使用されている。減圧残渣分は硫黄分が非常に高い基材であるため、燃料油中の硫黄分を低減するためには、比較的硫黄分の低い基材を用いることが望まれている。
本発明は、このような状況を踏まえたものであり、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物、及びその製造方法を提供することを課題とする。
<1> スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物。
<2> CCAIが860以下である、<1>に記載の燃料油組成物。
<3> IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価が30以上である、<1>又は<2>に記載の燃料油組成物。
<4> 引火点が60℃以上である、<1>〜<3>のいずれか1つに記載の燃料油組成物。
<5> スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む、燃料油組成物の製造方法。
なお、本明細書中、数値範囲を現す「〜」は、その上限及び下限としてそれぞれ記載されている数値を含む範囲を表す。また、「〜」で表される数値範囲において上限値のみ単位が記載されている場合は、下限値も同じ単位であることを意味する。
本明細書に段階的に記載されている数値範囲において、ある数値範囲で記載された上限値又は下限値は、他の段階的な記載の数値範囲の上限値又は下限値に置き換えてもよい。
本明細書において組成物中の各成分の比率又は量は、組成物中の各成分に該当する物質が複数種存在する場合、特に断らない限り、組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の比率又は量を意味する。
本明細書において、2以上の好ましい態様の組み合わせは、より好ましい態様である。
JIS K 2249−1(2011)「原油及び石油製品−密度試験方法」によって測定した値を意味する。
(50℃における動粘度)
JIS K 2283(2000)「原油及び石油製品−動粘度試験方法」によって測定した値を意味する。
下記2つの測定方法1又は2のいずれかにより測定する。測定方法は、測定対象物に含有される硫黄量に応じて選択される。
測定方法1(硫黄分が0.0051質量%以上の場合):
JIS K 2541−7(2003)「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」波長分散蛍光X線法によって測定した値を意味する。
測定方法2(硫黄分が0.0050質量%以下の場合):
JIS K 2541−6(2013)「原油及び石油製品−硫黄分試験方法」紫外蛍光法によって測定した値を意味する。
JIS K 2265−3(2007)「引火点の求め方−ペンスキーマルテンス密閉法」A法によって測定した値を意味する。
(実在セジメント)
ISO 10307−1:2009「Petroleum products −Total sediment in residual fuel oils−」によって測定した値を意味する。
下記の式(1)に示す計算方法で求めた値を意味する。
CCAI=D−140.7log10log10(V+0.85)−80.6 ・・・(1)
式(1)中、Dは15℃における密度(kg/m3)、Vは50℃における動粘度(mm2/s)を示す。
Fuel Tech社の「Combustion Analyzer」を用いて、下記表1に示す条件で試験を行ない、当該試験により得られた主燃焼遅れ期間(MCD:Main Combustion Delay)の測定値を用いて、下記式(2)により算出される値である。
ECN=153.15e−0.2861MCD ・・・式(2)
式(2)中、MCDは、燃料噴射開始時の圧力(初圧)から燃焼室内の圧力が最大圧力の10%に到達するまでの時間を指し、単位はmsecである。
本発明の燃料油組成物は、スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である。
本発明の燃料油組成物の性状は、本発明の燃料油組成物が必須とする条件を満たすこと、すなわち、スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなる基材(混合用基材)とを含有すること、混合用基材のCCAIが850以下であること、燃料油組成物におけるスラリーオイル及び混合用基材の含有量が、それぞれ所定の範囲内であること、かつ、燃料油組成物の硫黄分が0.5質量%以下であること、を満たせば、特に限定されるものではない。以下に、本発明の燃料油組成物の好ましい性状について説明する。
本発明の燃料組成物は、硫黄分の含有量が、0.5質量%以下である。
硫黄分の含有量が0.5質量%以下であることにより、船舶、工業炉、ボイラー等で使用した際に排出されるSOx量を抑制することが可能であり、環境への負荷を低減し、かつ、煙道腐食等を抑制することができる。
本発明の燃料油組成物は、CCAIが860以下であることが好ましい。
CCAIが860以下であることにより、内燃機関で燃焼させた際の着火性をより良好に維持することが可能である。また、分解系基材の有効活用の面から、少なくとも820以上であることが好ましい。
本発明の燃料油組成物は、IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価(ECN)が30以上であることが好ましい。
推定セタン価が30以上であることにより、燃料油組成物が優れた着火性を有することの指標となる。
本発明の燃料油組成物は、引火点が60℃以上であることが好ましく、65℃以上であることがより好ましく、70℃以上が更に好ましい。
燃料油組成物の引火点が60℃以上であることにより、取り扱いが容易になる。
本発明の燃料油組成物は、実在セジメント量が、燃料油組成物の全質量に対して0.10質量%以下であることが好ましい。
燃料油組成物の、実在セジメント量が0.10質量%以下であることにより、通油におけるフィルタ目詰まりなどのトラブルを抑制することが可能である。
本発明の燃料油組成物の15℃における密度及び50℃における動粘度は、特に限定されるものではないが、本発明において用いられる燃料油組成物の用途を考慮すると、15℃における密度が、0.90g/cm3〜1.01g/cm3であることが好ましく、また50℃における動粘度が5.000mm2/s〜100.0mm2/sであることが好ましい。燃料油組成物の密度が上記範囲内にあることにより、燃焼障害の発生を抑制でき、また、動粘度が上記範囲内にあることにより、良好な噴霧状態が得られるため、燃焼の不均一性及び失火を抑制することができるため、好ましい。
本発明の燃料油組成物は、スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材(混合用基材)とを含有する。すなわち、本発明の燃料油組成物における燃料油基材は、スラリーオイルと混合用基材とから構成される。
本発明の燃料油組成物はスラリーオイルを含有する。
スラリーオイルは、流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置から得られる残渣油であり、一般に、軽油相当留分以上の沸点範囲を有する。
流動接触分解装置又は残油流動接触分解装置としては、特に制限はなく、公知の装置を用いることができる。
また、燃料油基材が分解系基材の一態様であるスラリーオイルを含むことで、分解系基材を有効に活用することができる。
そのため、スラリーオイル中に触媒が残存している場合には、燃料油基材として配合する前に、静置による沈降、遠心分離、電気泳動などに代表される種々の措置によって、予め、触媒濃度を低減させる、又は、触媒自体を除去することが好ましい。
スラリーオイルの含有量は、燃料油組成物の全容量に対して20.0容量%〜85.0容量%であり、20.0容量%〜83.0容量%であることがより好ましく、20.0容量%〜80.0容量%であることが更に好ましい。
スラリーオイルの硫黄分含有量は、スラリーオイルの全質量に対して、0.1質量%〜1.3質量%であることが好ましく、0.1質量%〜1.2質量%であることがより好ましい。
スラリーオイルの硫黄分含有量が、0.1質量%〜1.3質量%の範囲内であれば、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%に調製するために好適である。
スラリーオイルのCCAIは、850〜970であることが好ましく、850〜960であることがより好ましく、850〜950であることが更に好ましい。
スラリーオイルのCCAIが上記範囲内にあることにより、燃料油組成物のCCAIを、所望とする一定の範囲に留めることが容易となり、分解系基材の有効活用の面から好ましい。
スラリーオイルの引火点は、50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましい。
スラリーオイルの引火点が50℃以上であることにより、燃料油組成物の引火点を低下させることなく、取り扱い性を良好に維持することができる。
スラリーオイルの15℃における密度及び、50℃における動粘度は、特に制限されないが、スラリーオイルの分留工程による変動を考慮した場合、15℃における密度は0.94g/cm3〜1.20g/cm3、50℃における動粘度は20.00mm2/s〜700.0mm2/sの範囲にあることが一般的である。
燃料油組成物が含有する1種又は2種以上のスラリーオイルは、全て上記の好ましい性状の範囲内の性状を有することが好ましい。
スラリーオイル以外の1種又は2種以上の基材(混合用基材)としては、上述したスラリーオイルと共に、燃料油基材として含有され、CCAIが850以下であり、硫黄分0.5質量%以下の燃料油組成物を調整し得る基材であれば特に制限はない。
混合用基材の種類及び組み合わせ、混合用基材の含有量、等の諸態様は、スラリーオイルとの併用において、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%とした上で、CCAIを所望とする一定の範囲に留めつつ、かつ着火性を向上させる観点から設定すればよい。
本発明においては、これらの留分から1種を選択し、又は、2種以上を選択して混合して混合用基材とすることができ、CCAIが850以下の混合用基材とすることが好ましい。
混合用基材の含有量としては、燃料油組成物の全容量に対して15.0容量%〜80.0容量%であり、17.0容量%〜80.0容量%であることがより好ましく、20.0容量%〜80.0容量%であることが更に好ましい。
なお、混合用基材の含有量とは、混合用基材が1種の基材からなる場合には、燃料油組成物における当該1種の基材の含有量であり、混合用基材が2種以上の基材の混合物である場合には、燃料油組成物における当該混合物の含有量である。
また、混合用基材が性状の異なる2種以上の基材の混合物からなる場合は、混合物のCCAIが850以下であり、かつ下記に示す好適な性状を有することがより好ましい。
混合物とした基材のCCAIが850以下であれば、下記に示す好適な性状を有する基材と、それ以外の基材とを併用してもよい。
混合用基材における硫黄分の含有量は、混合用基材の全質量に対して、0.5質量%以下であることが好ましい。
硫黄分の含有量が0.5質量%以下であることにより、燃料油組成物の硫黄分を0.5質量%に調製するために好適である。
混合用基材の15℃における密度は、0.81g/cm3〜0.98g/cm3であることが好ましく、50℃における動粘度は、2.000mm2/s〜400.0mm2/sであることが好ましい。
15℃における密度が、上記範囲内にあることにより、燃料油組成物のCCAIを所望とする一定の範囲に留めることが容易になり、50℃における動粘度が上記範囲内にあることにより、特に内燃機関での使用に好適な燃料油組成物の粘度に調製することが容易となる。
本発明の燃料油組成物は、必要に応じて各種の添加剤を適宜配合することができる。添加剤としては、流動性向上剤、流動点降下剤、酸化防止剤、スラッジ分散剤、エマルジョン防止剤、燃焼促進剤、腐食防止剤等公知の燃料添加剤が挙げられる。添加剤は、1種単独であってもよく、又は2種以上組み合わせてもよい。
燃料油組成物の製造方法は、スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、20.0容量%〜85.0容量%であり、スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む。
燃料油組成物の製造方法により、硫黄分の含有量が低減され、着火性に優れ、かつ分解系基材であるスラリーオイルの有効活用が可能な燃料油組成物を得ることができる。
例えば、スラリーオイルと、混合用基材との混合順序は、特に制限されるものではなく、両者を一度に混合しても良いし、一方に他方を混合しても良い。
下記表2に、実施例及び比較例に用いたスラリーオイル1〜4の性状を示す。
表3に示す性状を有する基材1〜基材10を、表4に示す割合で配合して、実施例及び比較例に用いた混合用基材1〜11を調製した。
・基材1:直接脱硫重質軽油
・基材2:水素化脱硫軽油1
・基材3:水素化脱硫軽油2
・基材4:水素化脱硫軽油3
・基材5:水素化脱硫軽質減圧軽油
・基材6:間接脱硫軽油
・基材7:接触分解軽油1
・基材8:接触分解軽油2
・基材9:接触分解重油
・基材10:カットバック残渣油
スラリーオイル1〜スラリーオイル4、及び、混合用基材1〜11を用いて、実施例1〜実施例14、及び、比較例2〜比較例4の燃料油組成物を調製した。
比較例1としては、市販品であるC重油(従来の船舶用燃料油組成物)を用いた。
実施例1〜14及び比較例2〜4の各燃料油組成物について、調製に用いたスラリーオイルと混用基材の種類及び配合量、並びに、得られた燃料油組成物の性状を表5及び表6に示す。
市販品である比較例1の燃料油組成物については、燃料油組成物の性状のみを測定し表6に示した。
また、スラリーオイルのみを燃料油基材とした比較例2の燃料油組成物は、ECNが29.3であり、優れた着火性は得られないものと判断される。
比較例3及び比較例4の燃料油組成物は、ECNが、それぞれ22.5及び15.4と、いずれも30未満であり、これらの燃料油組成物は、燃料油基材を構成する基材としてスラリーオイルを含むものの、所望とする優れた着火性は得られないものと判断される。
図1からは、実施例1〜実施例14の燃料組成物群は、分解系基材であるスラリーオイルを使用しているが、CCAIは834〜860を示しており、同等レベルのCCAIを示す従来の舶用油群が示すCCAI及びECNの範囲と比較すると、実施例の燃料油組成物群は、ECNが大幅に高く、着火性が非常に良好であることが理解される。
Claims (5)
- スラリーオイルと、スラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを含有し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、30容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物。
- CCAIが860以下である、請求項1に記載の燃料油組成物。
- IP541法に準拠した定容燃焼試験により算出される推定セタン価が30以上である、請求項1又は請求項2に記載の燃料油組成物。
- 引火点が60℃以上である、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載の燃料油組成物。
- スラリーオイルとスラリーオイル以外の1種又は2種以上からなるCCAIが850以下である基材とを混合し、前記スラリーオイルの含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、30容量%〜85.0容量%であり、前記スラリーオイル以外の1種又2種以上の基材の含有量が、燃料油組成物の全容量に対して、15.0容量%〜80.0容量%であり、硫黄分が0.5質量%以下である燃料油組成物を得る工程を含む、燃料油組成物の製造方法。
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