JP4052773B2 - 軽油組成物 - Google Patents
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Description
【産業上の利用分野】
本発明は、自動車用ディーゼル燃料などに用いられる軽油組成物に関し、特に、粒子状物質などの排出を低減し環境対応性に優れた軽油組成物に関する。
【0002】
【従来の技術】
現在、ディーゼルエンジンは、自動車、鉄道、船舶等の交通、輸送機関はもとより、各種産業機械、発電機の動力源として、また発電機と給湯、空調などと組み合わせたコ・ジェネレーションシステムの動力源、熱源として、産業用及び民生用の用途に広く利用されている。これは、ガソリンエンジンと比較してディーゼルエンジンは非常に優れた熱効率を有していることによるものと認められる。従来、環境に関してディーゼルエンジンは、振動、騒音が比較的大きく、黒煙や粒子状物質(PM:particulate matter)を排出しやすいとされてきたが、ディーゼルエンジンなどの改良により、環境上問題ない程度に低減されている。しかしながら、環境問題に対応していないディーゼルエンジンも多く用いられており、このようなエンジンを用いる場合や、さらに厳しい条件での問題を回避するためには、燃料の改善により、燃費に優れると同時に、PM排出などの環境上の問題を低減することが望まれている。
【0003】
ディーゼルエンジンから排出されるPMは、いわゆる有機可溶成分(SOF)と有機不溶成分(ISF)に分けられ、一般的に低負荷において排出されるPMの主成分はSOFであり、高負荷において排出されるPMの主成分はISFであるといわれている。PMを低減するためには、このSOF及びISFの少なくとも一方、好ましくはその両方を低減する必要がある。さらに、優れた燃料消費率(燃費)を発揮できる燃料であることも二酸化炭素の排出を低減するためには重要な課題である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上述の問題を解決するものであり、PMの排出量を低減するとともに、優れた燃料消費率を発揮できる軽油組成物を提供することを課題とするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明の軽油組成物は、沸点250℃以下の留分からなる低沸点留分、沸点250〜300℃の留分からなる中沸点留分及び沸点300℃以上の留分からなる高沸点留分から構成される軽油組成物において、低沸点留分、中沸点留分及び高沸点留分の含有量をそれぞれF1、F2及びF3とし、各留分の炭素/水素原子比をR1、R2及びR3とし、高沸点留分に含まれる3環以上の芳香族含有量をArとし、軽油組成物の15℃における密度をG、そして、その低発熱量をHとしたとき(ここで、含有量は軽油組成物に対する重量%で、密度はg/cm3で、及び低発熱量はJ/gで表す。)、次の式(1)、(2)及び(3)を満足することを特徴とする。
【数1】
0.01F3+0.001F2+0.02Ar<0.25 … (1)
【数2】
0.02F1R1+0.04F2R2+0.04F3R3<1.9 … (2)
【数3】
G×H>34500 … (3)
【0006】
本発明の軽油組成物は、上記の構成としたことにより、SOF及びISFの排出量が少なくなり、ディーゼルエンジンの運転条件によらず粒子状物質(PM)全体の排出量を押さえることができ、しかも、優れた燃費を発揮するので相対的に二酸化炭素の排出量が少ない。したがって、環境に対する負荷を総合的に低減することが可能となる。
【0007】
【好ましい実施の態様】
本発明による軽油組成物は、上記の式(1)、(2)及び(3)を満足するものでなければならない。このような軽油組成物は、通常、原油を精製して得られるものであるが、石炭液化油などの他の炭化水素油から製造されてもよい。一般的には原油を常圧蒸留及び/又は減圧蒸留して得られた軽油留分を水素化脱硫して製造されるが、常圧蒸留や減圧蒸留から得られた重質留分を軽油の生産を目的として熱分解や接触分解して得られた軽油留分から製造されることもある。また、石油精製において各種の石油製品を製造する段階で、副生された軽油留分なども本発明の軽油組成物を製造するために用いられる。これらの軽油留分あるいはその水素化脱硫製品などを上記の式(1)、(2)及び(3)を満足するように混合(ブレンド)して、本発明による軽油組成物を製造することができる。これらの軽油留分は、最終製品となる軽油組成物を調製するためのブレンド基材ということができる。ブレンド基材としては、上述の軽油留分以外に、灯油や、改質装置から副生される芳香族を主成分とする留分やその他の石油製品、半製品なども使用することができる。また、上記軽油留分に含まれる硫黄分や不安定な不飽和炭化水素分を減ずるために適宜水素化脱硫や水素添加処理されたものなども使用することができる。
【0008】
本発明の軽油組成物に規定する次の式(1);
【数1】
0.01F3+0.001F2+0.02Ar<0.25 … (1)
において、F2及びF3は、沸点250〜300℃の留分からなる中沸点留分及び沸点300℃以上の留分からなる中沸点留分の軽油組成物に対する重量%(wt%)で表した数値を示す。また、Arは、沸点が300℃以上の留分に含まれる3環以上の芳香族分の含有量を軽油組成物に対する重量%(wt%)で表した数値を示す。F2及びF3は、当該軽油組成物を蒸留して250〜300℃及び300℃〜終点の温度範囲で留出した油の重量をそれぞれ測定することによって求めることができる。また、Arは、F3に対応する300℃〜終点の温度範囲で留出した油をガスクロマトグラフィなどの分析法により定量した3環以上の芳香族分の重量から算出することができる。
【0009】
式(1)を満足する軽油組成物は極めて少ないSOF排出量である。すなわち、式(1)の左辺の値が0.25未満の軽油組成物は、低負荷時において排出されるPMの主成分であるSOFの排出量は極めて少ないといえる。また、式(1)の左辺の値が小さくなるほど、その軽油組成物のSOF排出量は少なくなる傾向を示す。したがって、式(1)の左辺は0.15未満が好ましく、0.10未満がより好ましい。また、式(1)左辺の各項の係数から高沸点留分の芳香族含有量(すなわち、Ar)、次いで高沸点留分(F3)を少なくすると効果的に式(1)左辺の値を小さくすることができる。
【0010】
同様に式(2);
【数2】
0.02F1R1+0.04F2R2+0.04F3R3<1.9 … (2)
において、F1は、当該軽油組成物における沸点250℃以下の留分の含有量を重量%(wt%)で表した数値を示す。F2及びF3は、上記式(1)で説明したものである。R1は、F1に対応する沸点250℃以下の留分を構成する炭素原子数と水素原子数の比(いわゆる、C/H比)を示し、同様にR2及びR3は、それぞれF2及びF3に対応する留分のC/H比を示す。F1は、当該軽油組成物を蒸留して初留点〜250℃の温度範囲で留出した油の重量を測定することによって求めることができる。また、C/H比は、対応する留分(油組成物)を元素分析することで求められる。
【0011】
式(2)を満足する軽油組成物は少ないISF排出量である。すなわち、式(2)の左辺の値が1.9未満、特には1.8未満の軽油組成物は、高負荷時におけるPMの主成分であるISFの排出量の少ないものである。また、式(2)左辺の各項の係数から高沸点留分(F3)を少なくするとともに、C/H比を小さくすると効果的に式(2)左辺の値を小さくすることができる。
【0012】
同様に式(3);
【数3】
G×H>34500 … (3)
において、Gは当該軽油組成物の15℃における密度(g/cm3)を示し、またHは当該軽油組成物の低発熱量(J/g)を示す。G×Hは燃費と相関し、この値が小さくなるほど燃費が悪くなる。G×Hは34800以上がより好ましい。
【0013】
本発明は、式(1)、(2)及び(3)全部を同時に満足する軽油組成物であり、その結果、PMの排出量を低減するとともに、優れた燃料消費率で二酸化炭素の排出が少ない、実用性能を有する軽油組成物を提供するものである。式(1)、(2)及び(3)全部を同時に満足する軽油組成物は、既に述べたように軽油ブレンド基材から、3式を満足するよう適宜選択、抽出してブレンドし製造することができる。一般的に、本発明の軽油組成物の性状は、セタン指数が40〜60、特には45〜55であり、15℃における密度が0.76〜0.92g/cm3、特には0.80〜0.88g/cm3であり、30℃における動粘度が1.5〜5.0mm2/sである。
【0014】
本発明の軽油組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、エーテル化合物やエステル化合物に代表される含酸素化合物などの基材を、例えば、5〜20重量%程度配合することもできる。さらに、流動点降下剤、耐摩耗性向上剤、セタン価向上剤、酸化防止剤、金属不活性化剤、腐食防止剤などの添加剤も必要に応じて添加することができる。例えば、耐摩耗性向上剤として炭素数12〜24の脂肪酸又はその脂肪酸エステルを10〜500ppm添加することができる。
【0015】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をより具体的に説明する。
【0016】
本発明の軽油組成物を評価するために、次の軽油ブレンド基材から後述の供試油1〜7として示す軽油組成物を調製した。
SHNP:実質的にn−パラフィンからなる基材。
MN−7:実質的にイソ−パラフィンからなる基材。
LCO−1、2:流動接触分解プロセスから得られた軽質分解 軽油留分。
HGO−1、2:脱硫プロセスから得られた重質分解軽油留分 。
これらの物性を表1に示す。供試油の調製に際して、LCO−1は、留出温度260℃から290℃の留分をLCO−1A、また、留出温度290℃から320℃の留分をLCO−1Bとして用いた。LCO−2は、留出温度320℃から350℃の留分をLCO−2A、また、留出温度350℃から390℃の留分をLCO−2Bとして用いた。
【0017】
【表1】
【0018】
供試油1〜7はSHNPとMN−7混合した混合油をベース基材とし、そこにLCO−1A、1B、2A、2B、HGO−1又はHGO−2を20容量%混合してセタン価50を目途に調製した。これらの基材を用いて調製した供試油1〜7の調合割合を表2に示す。
【0019】
【表2】
【0020】
供試油1〜7及び市販軽油(供試油8)の物性、組成(芳香族含有量、C/H比)等を測定し、その結果を表3に示す。供試油2は実施例に該当し、他は全て本発明を外れるものである(供試油1及び3〜8)。さらに、これらの供試油について、SOF及びISF排出量及び燃費悪化率を測定し評価した。評価結果は、表3の下部に示した。
【0021】
【表3】
【0022】
なお、供試油の試験方法として、密度はJIS K 2249に、蒸留性状、動粘度及びセタン価はJIS K 2204にそれぞれ準拠した。芳香族含有量は高速液体クロマトグラフィにより、C/H比は元素分析により測定した。
【0023】
SOF及びISF排出量及び燃費を測定するためのディーゼルエンジン試験は、次のようにして行った。供試エンジンとしてAVL社製の高圧噴射装置付き単気筒直噴ディーゼルエンジンを用い、回転数900rpm、潤滑油温80℃、冷却水温80℃、吸入空気温度25℃、燃料噴射時期5゜BTDCの条件で運転した。燃料噴射量は、低負荷域では15.7cm3/分、高負荷域では33.6cm3/分とした。
【0024】
SOF及びISF排出量の測定は、供試エンジンからの排気ガス中のパーティキュレート(PM)を粒子状物質試験法(TRIAS23−1992)に従って採取し測定した後、ソックスレー抽出法によりSOF排出量を測定した。また、PM排出量からSOF排出量を差し引いた重量をISF排出量とした。低負荷域及び高負荷域で、SOF及びISF排出量を測定し、表3では、低負荷域運転でのSOF排出量と、高負荷域運転でのISF排出量を示した。
【0025】
燃費悪化率は、供試油を用い、供試エンジンを高負荷域で運転した燃費を、供試油8(市販灯油)を用いた際を基準とし、それからの悪化を百分率(%)で示した。
【0026】
表3から次のことが認められる。供試油2は、本発明の実施例であり、式(1)〜(3)の全てを満足する。しかし、比較例1〜7(供試油1、3〜7及び供試油8の市販軽油)は、いずれも式(1)〜(3)のうち1乃至2個の式を満足していない。その結果、市販軽油は、燃費性能には優れているが、SOF排出量及びISF排出量が多い。また、供試油3、4及び5は、燃費性能は比較的良いが、市販軽油と同程度にSOF及びISFの排出量が多い。一方、これらの排出量の比較的少ない供試油1、6及び7は、燃費性能がひどく悪いことが認められる。実施例の供試油2は、SOF排出量及びISF排出量はほぼ供試油1と殆ど同じ程度であり、しかも燃費性能は比較的良く、総合的に見て最も優れている軽油組成物であることが認められる。
【0027】
【発明の効果】
本発明による軽油組成物は、その低沸点留分、中沸点留分及び高沸点留分の含有量、各留分の炭素/水素原子比、高沸点留分に含まれる3環以上の芳香族含有量、密度、そして、低発熱量が所定の関係式を満たすものである。この結果ディーゼルエンジン燃料として、SOF及びISFの排出量が少なく、しかも良好な燃費性能を示すため、広範な運転条件において粒子状物質の排出が少なく、かつ、二酸化炭素の排出量の増加も抑えられるという優れた実用性能を有しているので、特に自動車に有効に使用できる。
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