はじめに、本発明に係る加飾用シートの一実施形態をその製造方法の一例に沿って詳しく説明する。
本実施形態の加飾用シートの製造方法においては、はじめに、カチオン染料可染性ポリエステル繊維を含む布帛と、布帛に含浸付与された高分子弾性体とを含む人工皮革基材を準備する。カチオン染料可染性ポリエステル繊維とは、後述するような、カチオン染料の染着座を分子中に含むポリエステル繊維である。
布帛としては、不織布,織物,編物等が挙げられるが、不織布、とくには、成形時に伸びやすく、また、インモールド成形を行う場合には、人工皮革基材に溶融樹脂を浸透させにくくすることにより高い繊維感を維持させることができる点から極細繊維の絡合不織布(以下、単に不織布とも称する)がとくに好ましく用いられる。本実施形態においては、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の布帛の一例として、カチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の絡合不織布について代表例として詳しく説明する。
カチオン染料可染性ポリエステル繊維の繊度は、特に限定されず、例えば、1dtex以上のようなレギュラー繊維であっても、1dtex未満のような極細繊維であってもよいが、カチオン染料の移行を抑制する点から、0.05〜5dtex、さらには0.1〜3dtexであることが好ましい。繊度が比較的高い場合には繊度が低い場合に比べて、繊維の表面積が小さくなるために、同一色を発色させる場合には少ない染料含有量で染色することができるために染料が移行しにくくなる一方、スエード調に仕上げた際にライティング効果の減少、立体感の減少等の外観の低下と風合いが硬くなる傾向があったり、加熱による軟化時の延伸性が低下して、成形時に正確な形状を賦形しにくくなったりする傾向がある。
カチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の絡合不織布の製造においては、はじめに、極細繊維発生型繊維の絡合不織布を製造する。極細繊維発生型繊維の絡合不織布の製造方法としては、例えば、極細繊維発生型繊維を溶融紡糸し、これを意図的に切断することなく長繊維のまま捕集して繊維ウェブを形成した後、または、極細繊維発生型繊維を所定の長さで切断処理したステープルを用いてカード法などにより繊維ウェブを形成した後、公知の絡合処理を施すような方法が挙げられる。なお、長繊維とは、ステープルではない、長さ方向に連続した繊維のことであり、フィラメントとも言う。長繊維の繊維長は、例えば、100mm以上、さらには、200mm以上であることが繊維密度を充分に高めることができる点から好ましい。長繊維の上限は、特に限定されないが、連続的に紡糸された数m、数百m、数kmあるいはそれ以上の繊維長であってもよい。本実施形態においては、代表例として、長繊維ウェブを製造する場合について詳しく説明する。
極細繊維発生型繊維とは、例えば、紡糸後の繊維に化学的な後処理または物理的な後処理を施すことにより、繊度の小さい極細繊維を発生させる繊維である。本実施形態では、極細繊維発生型繊維として海島型複合繊維を用いた製造方法を説明するが、海島型複合繊維の代わりに、剥離分割型複合繊維等の公知の極細繊維発生型繊維を用いてもよい。
海島型複合繊維は少なくとも2種類のポリマーからなる多成分系複合繊維であり、海成分ポリマーからなるマトリクス中に島成分ポリマーが分散した断面を有する。海島型複合繊維の長繊維ウェブは、海島型複合繊維を溶融紡糸し、これを切断せずに長繊維のままネット上に捕集して形成される。
本実施形態においては、島成分ポリマーとして、下記式(I)で表される成分を1.5〜3モル%含み、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分とを含む共重合モノマーを共重合させて得られる、カチオン染料の染着座を分子中に含むカチオン染料可染性ポリエステルを用いることが好ましい。
[上記式(I)中、Rは水素、炭素数1〜10個のアルキル基又は2−ヒドロキシエチル基を表し、Xは金属イオン、4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
式(I)で表される化合物としては、5−スルホイソフタル酸のアルカリ金属塩(リチウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、ルビジウム塩、セシウム塩)や、5−テトラブチルホスホニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルホスホニウムスルホイソフタル酸などの5−テトラアルキルホスホニウムスルホイソフタル酸や、5−テトラブチルアンモニウムスルホイソフタル酸,5−エチルトリブチルアンモニウムスルホイソフタル酸などの5−テトラアルキルアンモニウムスルホイソフタル酸等が挙げられる。式(I)で表される化合物は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。これらの中では、Xが4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンである式(I)で表される化合物を含むことが機械的特性及び高速紡糸性に優れるカチオン染料可染性ポリエステルが得られる点から好ましい。好ましくは式(I)で表される化合物、とくにはXが4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンである式(I)で表される化合物を1.5〜3モル%含み、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と、エチレングリコールを主成分とするグリコール成分とを含む共重合モノマーを共重合させることにより得られる可染性ポリエステルが濃色に染色した場合であっても色移りを抑制しやすい点から好ましい。
カチオン染料可染性ポリエステル中の、式(I)に由来する下記式(II):
[上記式(II)中、Xは金属イオン、4級ホスホニウムイオン又は4級アンモニウムイオンを表す。]
で表される単位の割合は1.5〜3モル%、さらには1.6〜2.5モル%であることが好ましい。式(II)で表される単位の割合が、1.5モル%未満の場合には、カチオン染料で染色したときの染色堅牢性が低下する傾向がある。一方、式(II)で表される単位の割合が、3モル%を超える場合には、高速紡糸性が低下することにより極細繊維が得られにくくなるとともに、得られる加飾用シートの引裂強力等の機械的特性が著しく低下する傾向がある。
ここで、テレフタル酸を主成分とするとは、共重合モノマー中のジカルボン酸成分のうち50モル%以上がテレフタル酸であることを意味する。ジカルボン酸成分のうちテレフタル酸の含有割合は、75モル%以上であることが好ましい。また、カチオン染料による染色堅牢性を向上させ、高速紡糸性を向上させ、また、人工皮革基材を成形用途に使う場合の賦形性を向上させるために、ガラス転移温度を低下させることを目的として、ジカルボン酸成分として、式(I)で表される化合物を除く、その他のジカルボン酸を含んでもよい。その他のジカルボン酸成分の具体例としては例えば、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸や、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸などのシクロへキサンジカルボン酸や、アジピン酸などの脂肪族ジカルボン酸等のその他のジカルボン酸又はその誘導体を含んでもよい。これらの中では、イソフタル酸、または、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸とアジピン酸との組み合わせ、又はその誘導体を用いることが機械的特性と高速紡糸性に優れる点からとくに好ましい。
ジカルボン酸成分として、その他のジカルボン酸の共重合割合は、2〜12モル%、さらには3〜10モル%であることが好ましい。その他のジカルボン酸の共重合割合が2モル%未満の場合には、ガラス転移温度が充分に低下せず、繊維内部における非晶部位の配向度が高くなるために染色性が低下する傾向がある。一方、その他のジカルボン酸の共重合割合が12モル%を超える場合には、ガラス転移温度が低下しすぎて、繊維内部における非晶部位の配向度が低くなるために繊維強度が低下する傾向がある。なお、その他のジカルボン酸単位としてイソフタル酸単位を含有する場合には、ジカルボン酸単位として、イソフタル酸単位を1〜6モル%、さらには2〜5モル%含有することが機械的特性と高速紡糸性に優れる点から好ましい。また、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位とアジピン酸単位とを含有する場合には、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位及びアジピン酸単位をそれぞれ1〜6モル%、さらには2〜5モル%含有することが機械的特性と高速紡糸性に優れるカチオン染料可染性ポリエステルが得られる点から好ましい。
また、エチレングリコールを主成分とするとは、共重合モノマー中のグリコール成分のうち50モル%以上がエチレングリコールであることを意味する。グリコール成分のうちエチレングリコールの含有割合は、75モル%以上、さらには90モル%以上であることが好ましい。また、その他の成分としては、例えば、ジエチレングリコールやポリエチレングリコール等が挙げられる。
カチオン染料可染性ポリエステルのガラス転移温度(Tg)は特に限定されないが、60〜70℃、さらには、60〜65℃であることが好ましい。Tgが高すぎる場合には高速延伸性が低下し、また、得られる加飾用シートを熱成形して用いる場合に、賦形性が低下する傾向がある。
また、カチオン染料可染性ポリエステルには、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の着色剤、耐候剤、防黴剤等を必要に応じて、配合してもよい。
海成分ポリマーとしては、カチオン染料可染性ポリエステルよりも溶剤に対する溶解性または分解剤による分解性が高いポリマーが選ばれる。海成分ポリマーの具体例としては、例えば、水溶性ポリビニルアルコール系樹脂(水溶性PVA)、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−プロピレン系共重合体、エチレン−酢酸ビニル系共重合体、スチレン−エチレン系共重合体、スチレン−アクリル系共重合体などが挙げられる。
海島型複合繊維は海成分ポリマーと島成分ポリマーであるカチオン染料可染性ポリエステルとを複合紡糸用口金から溶融押出する溶融紡糸により製造することができる。海島型複合繊維の繊度はとくに限定されないが、0.5〜10dtex、さらには0.7〜5dtexであることが好ましい。
口金から吐出された溶融状態の海島型複合繊維は、冷却装置により冷却され、さらに、エアジェットノズルなどの吸引装置により目的の繊度となるように牽引細化される。そして牽引細化された長繊維を移動式ネットなどの捕集面上に堆積させることにより長繊維ウェブが得られる。なお、必要に応じて、形態を安定化させるために長繊維ウェブをさらにプレスすることにより部分的に圧着させてもよい。
そして、得られた長繊維ウェブに絡合処理を施すことにより海島型複合繊維の絡合不織布を製造する。長繊維ウェブの絡合処理の具体例としては、例えば、長繊維ウェブをクロスラッパー等を用いて厚さ方向に複数層重ね合わせた後、その両面から同時または交互に少なくとも1つ以上のバーブが貫通する条件でニードルパンチするような処理が挙げられる。
また、海島型複合繊維には海島型複合繊維の紡糸工程から絡合処理までのいずれかの段階において、油剤や帯電防止剤を付与してもよい。さらに、必要に応じて、海島型複合繊維を70〜150℃程度の温水に浸漬する収縮処理を行うことにより、海島型複合繊維の絡合不織布の絡合状態を予め緻密にしておいてもよい。また、ニードルパンチの後、熱プレス処理することによりさらに繊維密度を緻密にして形態安定性を付与してもよい。このようにして得られる海島型複合繊維の絡合不織布の目付としては100〜2000g/m2程度の範囲であることが好ましい。
また、海島型複合繊維の絡合不織布を必要に応じて熱収縮させることにより繊維密度および絡合度合が高められる処理を施してもよい。また、熱収縮処理により緻密化された海島型複合繊維の絡合不織布をさらに緻密化するとともに、海島型複合繊維の絡合不織布の形態を固定化したり、表面を平滑化したりすること等を目的として、必要に応じて、熱プレス処理を行うことによりさらに、繊維密度を高めてもよい。
そして、緻密化された海島型複合繊維の絡合不織布中の海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去することにより、カチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の絡合不織布が得られる。海島型複合繊維から海成分ポリマーを除去する方法としては、海成分ポリマーのみを選択的に除去しうる溶剤または分解剤で絡合ウェブを処理するような従来から知られた極細繊維の形成方法が特に限定なく用いられうる。具体的には、例えば、海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合には溶剤として熱水が用いられる。
海成分ポリマーとして水溶性PVAを用いる場合、85〜100℃の熱水中で100〜600秒間処理することにより、水溶性PVAの除去率が95〜100質量%程度になるまで抽出除去することが好ましい。なお、ディップニップ処理を繰り返すことにより、水溶性PVAを効率的に抽出除去できる。
このようにして得られるカチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の絡合不織布の目付は、140〜3000g/m2、さらには200〜2000g/m2であることが好ましい。
本実施形態の人工皮革基材の製造においては、海島型複合繊維のような極細繊維発生型繊維を極細繊維化する前後の何れか一方または両方において、カチオン染料可染性ポリエステルの極細繊維の絡合不織布に形態安定性や充実感を付与するために、絡合不織布の内部空隙にポリウレタン等の高分子弾性体を含浸付与する。
高分子弾性体の具体例としては、例えば、ポリウレタン,アクリロニトリルエラストマー,オレフィンエラストマー,ポリエステルエラストマー,ポリアミドエラストマー,アクリルエラストマー等が挙げられる。これらの中では、ポリウレタンが好ましい。
なお、高分子弾性体は、本発明の効果を損なわない範囲で、カーボンブラック等の顔料や染料などの着色剤、凝固調節剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、蛍光剤、防黴剤、浸透剤、消泡剤、滑剤、撥水剤、撥油剤、増粘剤、増量剤、硬化促進剤、発泡剤、ポリビニルアルコールやカルボキシメチルセルロースなどの水溶性高分子化合物、無機微粒子、導電剤などをさらに含有してもよい。
高分子弾性体の含有割合としては、カチオン染料可染性ポリエステル繊維との合計量に対して、0.1〜50質量%、さらには3〜40質量%、とくには5〜25質量%、ことには10〜15質量%であることが、カチオン染料で染色された加飾用シートから被加飾成形体や他の部材にカチオン染料を移行させにくくし、また、充実感としなやかさ等のバランスに優れた人工皮革基材が得られる点から好ましい。
このようにしてカチオン染料可染性ポリエステルの不織布に高分子弾性体が含浸付与されて、人工皮革基材の原反が得られる。人工皮革基材の原反はそのまま人工皮革基材として用いても、必要に応じて厚さ方向に垂直な方向に複数枚にスライスしたり、研削したりすることにより厚さ調節して人工皮革基材として用いてもよい。また、必要に応じて、少なくとも一面を好ましくは120〜600番手、さらに好ましくは320〜600番手程度のサンドペーパーやエメリーペーパーを用いてバフィングすることにより起毛処理を施してスエード調やヌバック調の起毛調の人工皮革基材にしてもよい。
人工皮革基材は、カチオン染料を用いて染色される。人工皮革基材をカチオン染料で染色することにより、カチオン染料可染性ポリエステルのカチオン染料の染着座になる下記式(I
a):
で表される単位中に含まれるスルホニウムイオンにカチオン染料がイオン結合により固定されて優れた染色堅牢性を発揮する。
カチオン染料としては、従来から知られているカチオン染料であればとくに限定なく用いられる。なお、カチオン染料は染色液中で溶解してカチオン性を示す例えば4級アンモニウム基等を有する染料イオンとなってカチオン染料可染性ポリエステル繊維にイオン結合する。このようなカチオン染料は一般的には、塩素イオン等のアニオンと塩を形成している。このような塩素イオン等のアニオンはカチオン染料中に含まれるが、染色後の洗浄により洗い流される。カチオン染料の具体例としては、C.I.Basic Blue 54やC.I.Basic Blue 159等のアゾ系青色カチオン染料や、C.I.Basic Blue 3,C.I. Basic Blue 6,C.I. Basic Blue 10,C.I. Basic Blue 12,C.I.Basic Blue75,C.I. Basic Blue 96等のオキサジン系青色カチオン染料、C.I.Basic Yellow 40等のクマリン系染料、C.I.Basic Yellow 21等のメチン系染料,C.I.Basic Yellow 28等のアゾメチン系染料,アゾ系赤色染料であるC.I.Basic Red 29やC.I.Basic Red 46、キサンテン系染料であるC.I.Basic Violet 11 等が挙げられる。これらは単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
染色方法は特に限定されないが、例えば、液流染色機、ビーム染色機、ジッガーなどの染色機を用いて染色する方法が挙げられる。染色加工の条件としては、高圧で染色してもよいが、常圧で染色することが環境負荷が低く、染色コストを低減できる点からも好ましい。常圧で染色する場合、染色温度としては60〜100℃、さらには80〜100℃であることが好ましい。また、染色の際に、酢酸や芒硝のような染色助剤を用いてもよい。
カチオン染料を用いて染色を行う場合、染料液中のカチオン染料の濃度は、染められる人工皮革基材に対して、0.05〜20%owf、さらには、0.1〜15%owf、となるような範囲であることが、カチオン染料可染性ポリエステル繊維が充分に濃色に発色するとともに、カチオン染料が、被加飾成形体や他の部材に移行しにくくなる点から好ましい。染料液のカチオン染料の濃度が高すぎる場合には、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の染着座に固定されないカチオン染料が多く含まれることにより、カチオン染料が被加飾成形体に移行しやすくなる傾向がある。また、カチオン染料の濃度が低すぎる場合には、明度L*値≦50のような濃色に発色させることが困難になる傾向がある。
本実施形態においては、カチオン染料で染色された人工皮革基材を、アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中で洗浄処理することにより、結合力の低いカチオン染料を除去することが好ましい。このような洗浄処理により、結合力の低いカチオン染料が充分に除去されることにより、カチオン染料が被加飾成形体や他の部材に移行しにくくなる。アニオン系界面活性剤の具体例としては、例えば、日成化成(株)製のソルジンR,センカ(株)製のセンカノールA−900,明成化学工業(株)製のメイサノールKHM等が挙げられる。
アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中での洗浄処理は、50〜100℃、さらには60〜80℃の湯浴で行うことが好ましい。また、湯浴の槽としては、染色処理を行った染色機を用いることが製造工程が簡略化できる点から好ましい。また、洗浄は、10〜30分間、さらには、15〜20分間程度行うことが好ましい。また、洗浄は、1回以上、好ましくは2回以上繰り返すことが好ましい。カチオン染料で染色された人工皮革基材は、洗浄された後、乾燥される。このような洗浄方法により、カチオン染料中の洗浄可能な塩素を染色された人工皮革基材の重量に対して、90ppm以下程度にまで充分に洗浄することにより、カチオン染料の色移りが充分に抑制される点から好ましい。
人工皮革基材には、必要に応じて、各種仕上げ処理が施されてもよい。仕上げ処理としては、揉み柔軟化処理、逆シールのブラッシング処理、防汚処理、親水化処理、滑剤処理、柔軟剤処理、酸化防止剤処理、紫外線吸収剤処理、蛍光剤処理、難燃剤処理等が挙げられる。
このようにしてカチオン染料で染色された人工皮革基材である加飾用シートが得られる。加飾用シートは、JIS法(JIS L 0846)による水堅牢度の綿汚染の判定が4−5級以上であることが好ましい。加飾用シートの水堅牢度が4−5級以上である場合には、加飾用シートに水との接触によって脱落するようなイオン結合されていないカチオン染料が少なく、その結果、色移りが抑制される。
また、加飾用シートは、人工皮革基材100質量部に対して、0.05〜20質量部、さらには0.1〜15質量部、とくには0.1〜10質量部のカチオン染料を含有することが好ましい。人工皮革基材100質量部に対するカチオン染料の含有量が多すぎる場合には、カチオン染料の移行が充分に抑制されにくくなる傾向がある。一方、カチオン染料の含有量が少なすぎる場合には、明度L*値≦50、さらには、L*値≦35、のような濃色の染色が困難になる傾向がある。
本実施形態の加飾用シートはカチオン染料で染色されているために、例えば、明度L*値≦50のような濃色であっても、被加飾成形体や他の部材に染料が移行しにくい。また、染色された加飾用シートがL*値≦35であるような濃色である場合には、本発明の効果がより顕著になる。なお、L*値≦35の場合には、染色だけではなく、カチオン染料可染性ポリエステル繊維や高分子弾性体にカーボンブラック等の顔料を含有させることにより、色移り性を抑制してもよい。このような加飾用シートは、濃色であっても、上述したようなカチオン染料可染性ポリエステル繊維を用い、アニオン系界面活性剤を含有する湯浴中で洗浄処理することにより上記のようなカチオン染料含有量の範囲にすることにより、色移りが充分に抑制される。
加飾用シートの見かけ密度は、0.3〜0.6g/cm3、とくには0.45〜0.55g/cm3であることがしなやかな風合いが得られる点から好ましい。
人工皮革基材はそのまま加飾用シートとして用いても、その表面の繊維を起毛してスエード調人工皮革の加飾用シートに仕上げて用いても、その表面に銀面調の樹脂層を設けた銀面調人工皮革の加飾用シートに仕上げて用いてもよい。
加飾用シートは、例えば以下のような方法により、被加飾成形体の表面に一体化されて立体形状を有する加飾成形体に成形される。
はじめに、加飾成形体の製造方法の一例として、金型のキャビティ内に加飾用シートを立体形状に成形したプリフォーム成形体を配置し、キャビティ内に溶融樹脂を注入し、固化させることにより、表層に加飾用シートを一体化した樹脂成形体を成形する方法について説明する。
はじめに、カチオン染料で染色された人工皮革基材を含む立毛調人工皮革である加飾用シートを真空成形することにより立体形状に成形してプリフォーム成形体を製造する方法について説明する。なお、プリフォーム成形体を得るための成形方法としては真空成形の代わりに、真空圧空成形,圧空成形,または熱プレス成形等の成形方法を用いてもよい。
図1(a)に示すように、加飾用シート1に、通気性のない熱可塑性樹脂シート2を載置して積重体3を形成する。熱可塑性樹脂シート2は真空成形において加飾用シート1に気密性を付与するために用いられる。
熱可塑性樹脂シートは真空成形の際に加熱により賦形可能に軟化し、また、ピンホール等のない気密を維持でき、後の工程で選択的に剥離可能なシートまたはフィルムであればとくに限定なく用いられる。このような熱可塑性樹脂シートを形成する熱可塑性樹脂としては、(メタ)アクリル系樹脂等の非晶性の熱可塑性樹脂や、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等の融点の低い結晶性の熱可塑性樹脂が挙げられる。熱可塑性樹脂シートの厚さとしては、10〜300μm、さらには15〜200μm、とくには30〜100μm程度であることが好ましい。熱可塑性樹脂シートが厚すぎる場合には賦形性が低下する傾向がある。また、熱可塑性樹脂シートが薄すぎる場合には、プリフォーム成形の後に、加飾用シート1から熱可塑性樹脂シート2を剥離することが困難になる傾向がある。
そして、積重体3は、図1(a)に示すように、ヒーターHで加熱されて軟化される。ヒーターHによる加熱温度は、積重体3を真空成形機Mの成形型M1に沿った形に変形させうるような温度であって、完全溶融させないような、例えば、100〜180℃の範囲から選択される。
加熱されて軟化された積重体3は、図1(b)に示すように真空成形機Mを用いて真空成形される。具体的には、図1(c)に示すように、軟化された積重体3に真空成形機Mの成形型M1を密着させ、積重体3と成形型M1との間の空気を成形型M1に形成された真空孔vから真空ポンプで排気することにより積重体3を成形型M1に吸着させて大気圧で密着させた後、賦形された積重体3を冷却して固化させる。このようにしてプリフォーム成形体4’が成形される。
そして、図1(d)に示すように、成形型M1からプリフォーム成形体4’を離型する。プリフォーム成形体4’は、図1(e)に示すように、必要に応じて、不要な部分Nがトリミングされる。
そして、図1(f)に示すように、プリフォーム成形体4’から熱可塑性樹脂シート2を剥離することによりプリフォーム成形体4が得られる。
このようにして得られたプリフォーム成形体は被加飾成形体に一体化されて加飾成形体とされる。プリフォーム成形体を被加飾成形体に一体化する方法としては、射出成形により成形される樹脂成形体である被加飾成形体にプリフォーム成形体を一体化させるインモールド成形や、プリフォーム成形体の一面に接着剤を介して予め成形された被加飾成形体に接着するような方法が挙げられる。本実施形態においては、代表例として、インモールド成形により、プリフォーム成形体4を射出成形される被加飾成形体5に一体化して得られる加飾成形体10を製造する方法について図2を参照して説明する。なお、本実施形態では、プリフォーム成形体4’から熱可塑性樹脂シート2を剥離したプリフォーム成形体4を用いて、インモールド成形を行う方法について説明するが、プリフォーム成形体4の代わりに、熱可塑性樹脂シート2を剥離していないプリフォーム成形体4’をそのままインモールド成形に供し、インモールド成形後に熱可塑性樹脂シート2を剥離してもよい。
図2(a)に示すように、金型17は、キャビティ部Cを備える可動側金型17aと、固定側金型17bとを備える。また、可動側金型17aと固定側金型17bとの間にはストリッパプレート17cが配置されている。はじめに、プリフォーム成形体4をキャビティ部Cに配置する。
キャビティ部Cにプリフォーム成形体4を配置する方法は特に限定されないが、位置決めのためにプリフォーム成形体4はキャビティ部Cに固定されていることが好ましい。プリフォーム成形体4がキャビティ部Cに固定されていない場合、次工程での射出成形時に、射出樹脂の流動に伴ってプリフォーム成形体4がキャビティ部Cの中で位置ズレをおこすおそれがある。プリフォーム成形体4をキャビティ部Cに固定する方法の具体例としては、例えば、可動側金型の表面に粘着剤で固定する方法や、プリフォーム成形体4の形状に含まれる孔部や凹部をその形状に一致する可動側金型のコアにはめ込んで固定するような方法が挙げられる。
そして、図2(b)に示すように、射出成形によりキャビティ部C内に溶融樹脂5aを射出することにより、プリフォーム成形体4を表面で一体化した加飾成形体であるインモールド成形体を成形する。詳しくは可動側金型17aと固定側金型17bとを型締めし、射出成形機16のシリンダ18をノズル15が固定側金型17bのスプルーブッシュ17fに接触するまで前進させて、射出成形機のシリンダ18内で溶融された溶融樹脂5aをスクリュー19で射出することにより、金型17内に溶融樹脂5aを射出して射出成形する。射出された溶融樹脂5aは、金型17内の樹脂流路Rを流れてキャビティ部C内に流入し、充填される。このとき、プリフォーム成形体4の人工皮革基材に溶融樹脂5aが適度に浸透するために、射出成形により成形される被加飾成形体5である射出成形体が投錨効果による高い接着性を維持するようにプリフォーム成形体4と一体化される。
インモールド成形で成形される射出成形体を形成するための樹脂としては、ABS系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)やポリブチレンテレフタレート(PBT)等のポリエステル系樹脂、各種ポリアミド系樹脂のような各種熱可塑性樹脂が特に限定なく用いられ、用途に応じて適宜選択される。例えば、携帯電話、モバイル機器、家電製品等の筐体に用いる樹脂としては、ABS系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂等の耐衝撃性に優れた樹脂が好ましく用いられる。
射出成形条件は、射出する樹脂の融点および溶融粘度、成形体の形状、および樹脂厚みに応じて流動末端部まで樹脂流動が可能な条件(樹脂温度、金型温度、射出圧力、射出速度、射出後の保持圧力、冷却時間)が適宜選択される。
そして、射出終了後、図2(c)に示すように、溶融樹脂5aが冷却されて射出成形体である被加飾成形体5が形成される。このようにして、被加飾成形体5にプリフォーム成形体4が一体化された加飾成形体10が成形される。そして、金型17を型開きすることにより、可動側金型17aと固定側金型17bとが隔離されて、図2(d)に示すように、加飾成形体10が取り出される。このようにして、プリフォーム成形体4の一面に射出成形体である被加飾成形体5を一体化させた加飾成形体10が得られる。
このようにして得られた加飾成形体は、カチオン染料で染色された人工皮革基材を含む加飾用シートが表層に積層一体化されている。このような加飾成形体においては、明度L*値>50、さらには明度L*値>70のような淡色や白色、または透明の被加飾成形体を用いても、加飾成形体の製造時や使用時の加熱等によっても色移りが抑制される。また、加飾成形体は、加飾用シートと被加飾成形体とのL*値の差であるΔL*が10以上、さらには20以上、とくには30以上であることがコントラストに優れた色味を有するために意匠性に優れる点から好ましい。このような加飾成形体は、携帯電話やスマートフォン、各種モバイル機器,家電製品等の筐体や、車両,航空機等の内装部材、建材,家具等の外装部材として好ましく用いられる。
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明する。なお、本発明の範囲は実施例により何ら限定されるものではない。
[実施例1]
海成分の熱可塑性樹脂としてエチレン変性ポリビニルアルコール(PVA;エチレン単位の含有量8.5モル%、重合度380、ケン化度98.7モル%)、島成分の熱可塑性樹脂としてスルホイソフタル酸のテトラブチルホスホニウム塩で変性されたポリエチレンテレフタレート(PET):(スルホイソフタル酸のテトラブチルホスホニウム塩単位1.7モル%,1,4−シクロヘキサンジカルボン酸単位5モル%,アジピン酸単位5モル%含有;ガラス転移温度62℃)を含み、海成分と島成分との質量比が海成分/島成分=25/75である、海島型複合長繊維を三次元絡合させた不織布を調製した。
そして、海島型複合長繊維を三次元絡合させた不織布に、ポリウレタンのエマルジョン(ポリカーボネート/エーテル系ポリウレタンを主体とするポリウレタンの固形分濃度30%のエマルジョン)を含浸させ、150℃の乾燥炉で乾燥することにより、ポリウレタンを付与した。そして、ポリウレタンを付与された海島型複合繊維を三次元絡合させた不織布を95℃の熱水中に20分間浸漬することにより海島型複合長繊維に含まれる海成分を抽出除去し、120℃の乾燥炉で乾燥した。このようにして、ポリウレタンを含浸付与されたカチオン染料可染性ポリエステル繊維の極細繊維の絡合不織布である人工皮革基材の原反を得た。人工皮革基材の原反をスライスして2分割し、表面を600番手のサンドペーパーでバフィングすることによりスエード調の表面に仕上げた。このようにして得られたスエード調の表面を有する人工皮革基材は、繊度0.08dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の絡合不織布を含み、ポリウレタン含有割合10質量%で、厚さ0.5mm、見かけ密度0.55g/cm3であった。
そして、人工皮革基材を、カチオン染料として、Nichilon Red-GL(日成化成(株)製) 18%owf、染色助剤として90%酢酸1g/Lを含有する90℃の染料液中に浴比1:30の割合で40分間浸漬して、赤色に染色した。そして、同一染色浴で、アニオン系界面活性剤としてソルジンR 2g/Lを含有する湯浴を用いて70℃でソーピングする工程を2回繰り返した。そして、ソーピング後、乾燥することにより、染色された加飾用シートを得た。
このようにして、0.08dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布とポリウレタンとを含む人工皮革基材をカチオン染料で濃赤色に染色したスエード調人工皮革である加飾用シートを得た。得られた加飾用シートは厚み0.55mmで、見かけ密度0.50g/cm3であった。また、以下の方法により測定したL*値は36で、水堅牢度は、4−5級であった。
[L*値]
分光光度計(ミノルタ社製:CM−3700)を用いて、JISZ 8729に準拠して、切り出された染色された加飾用シートの表面のL*a*b*表色系の座標値から明度L*を求めた。値は、試験片から平均的な位置を万遍なく選択して測定された3点の平均値である。
[水堅牢度]
JIS法(JIS L 0846)による綿布に対する水堅牢度試験として行った。具体的には、加飾用シートから6×6cmの試験片を切り出した。そして、試験片を常温の水に浸し、その後、汗試験機に取付けて約45Nの荷重を掛けた状態で、37±2℃の乾燥機中に入れて4時間保持した。そして、汚染用グレースケールと比較して、その堅ろう度を判定した。そして、そのときの級数を判定した。
そして、得られた加飾用シートを、プリフォーム成形体を得るためのキャビティ―を有する金型を用いて成形した。プリフォーム成形体の具体的な形状は、図3に示すような、底面から外表面までの高さが7mmになるスマートフォン用カバーを想定した皿状成形体であった。
具体的には、加飾用シートの一面に厚さ75μmの透明アクリルシートを載置して積重体を形成した。そして、積重体を150℃になるような温度に赤外線ヒーターで加熱し、各形状の金型で所定の圧空圧力で真空圧空成形した。真空圧空成形により、積重体を形成する透明アクリルシートの表面と加飾用シートとが熱圧着された熱可塑性樹脂シート付プリフォーム成形体が得られた。そして、熱可塑性樹脂シート付プリフォーム成形体から透明アクリルシートを剥離して、プリフォーム成形体を得た。
そして、得られたプリフォーム成形体を用いてインモールド成形を行った。具体的には、プリフォーム成形体の形状に対応するインモールド成形用金型を準備した。そして、金型を射出成形機に搭載し金型のキャビティ内にプリフォーム成形体を配置した。そして、樹脂温度240℃、金型温度50℃の条件で乳白色のABS樹脂((株)東レ製のトヨラックABS700)を射出成形した。このようにしてインモールド成形することにより加飾成形体を得た。なお、射出成形された被加飾成形体のL*値は92であった。
また、ABS樹脂の代わりにクリア色のポリカーボネート(三菱エンジニアリングプラスチックス(株)製のユーピロンS2000)を用い、樹脂温度280℃、金型温度80℃の条件に変更した以外は同様にして別の加飾成形体も成形した。射出成形された被加飾成形体のL*値は93であった。
そして、加飾成形体の色移行性を次の評価方法に従って評価した。
[加飾成形体の色移行性]
得られた加飾成形体を目視により観察し、被加飾成形体に対する染料の移行を、汚染用グレースケールを用いて1(移行大)〜5(移行無し)級に判定した。
[加飾成形体の促進試験による色移行性評価]
上記ABS樹脂、又は、ポリカーボネートの厚さ1.5mmで30×50mmの角板の表面に加飾用シートを重ね、荷重7.5g/cm2となるように均一に圧力をかけた。そして、70℃、95%RHの雰囲気下で24時間放置した。そして、放置前の角板と放置後の角板との色差ΔE*を、分光光度計を用いて測定し、下記基準により判定した。
5級 :0.0≦ΔE*≦0.2
4−5級:0.2<ΔE*≦1.4
4級 :1.4<ΔE*≦2.0
3−4級:2.0<ΔE*≦3.0
3級 :3.0<ΔE*≦3.8
2−3級:3.8<ΔE*≦5.8
2級 :5.8<ΔE*≦7.8
1−2級:7.8<ΔE*≦11.4
1級 :11.4<ΔE*
結果を下記表1に示す。
[実施例2]
実施例1において、下記の染色条件で染色した以外は実施例1と同様にして人工皮革基材を染色して、加飾用シートを得た。
人工皮革基材を、カチオン染料として、Nichilon Blue-AZN(日成化成(株)製)を5%owf、染色助剤として90%酢酸1g/Lを含有する90℃の染料液中に浴比1:30の割合で40分間浸漬して、青色に染色した。そして、同一染色浴で、アニオン系界面活性剤としてソルジンR 2g/Lを含有する湯浴を用いて70℃でソーピングする工程を2回繰り返した。そして、ソーピング後、乾燥することにより、染色された加飾用シートを得た。
このようにして、0.08dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布とポリウレタンとを含む人工皮革基材をカチオン染料で濃青色に染色した加飾用シートを得た。得られた加飾用シートは厚み0.83mmで、見かけ密度0.47g/cm3であった。また、L*値は47であった。
そして、得られた加飾用シートを実施例1で得られた加飾用シートに代えて用いた以外は、実施例1と同様にしてプリフォーム成形体及び加飾成形体を成形し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例3]
実施例1で製造した人工皮革基材に代えて、繊度0.2dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布を含み、ポリウレタン割合10質量%で、厚さ0.82mm、見かけ密度0.46g/cm3の人工皮革基材を製造した。そして、人工皮革基材を、カチオン染料であるNichilon Red-GL(日成化成(株)製) 6%owf、染色助剤として90%酢酸1g/Lを含有する90℃の染料液中に浴比1:30の割合で40分間浸漬して、赤色に染色した。そして、同一染色浴で、アニオン系界面活性剤としてソルジンR 2g/Lを含有する湯浴を用いて70℃でソーピングする工程を2回繰り返した。そして、ソーピング後、乾燥することにより、カチオン染料で染色された人工皮革基材である加飾用シートを得た。得られた加飾用シートは、繊度0.2dtexのカチオン染料可染性ポリエステル繊維の不織布を含み、厚み1.19mmで、見かけ密度0.40g/cm3であった。また、L*値は42であった。
そして、得られた加飾用シートを実施例1で得られた加飾用シートに代えて用いた以外は、実施例1と同様にしてプリフォーム成形体及び加飾成形体を成形し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[実施例4]
実施例1において、下記の染色条件で染色した以外は実施例1と同様にして人工皮革基材を染色して、加飾用シートを得た。
人工皮革基材を、カチオン染料として、Nichilon Blue-AZN(日成化成(株)製)を18%owf、染色助剤として90%酢酸1g/Lを含有する90℃の染料液中に浴比1:30の割合で40分間浸漬して、青色に染色した。そして、同一染色浴で、70℃にて水洗を1回実施した。そして、乾燥することにより、染色された人工皮革基材である加飾用シートを得た。
得られた加飾用シートは厚み0.83mmで、見かけ密度0.47g/cm3であった。また、L*値は33であった。
そして、得られた加飾用シートを実施例1で得られた加飾用シートに代えて用いた以外は、実施例1と同様にしてプリフォーム成形体及び加飾成形体を成形し、実施例1と同様に評価した。結果を表1に示す。
[比較例1]
島成分の熱可塑性樹脂として、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の代わりにイソフタル酸で変性したPET(イソフタル酸単位6モル%含有)を用いた以外は実施例1と同様にして、人工皮革基材を得た。そして、人工皮革基材を分散染料であるD.Red-W,KiwalonRubin2GW, KiwalonYellow6GFを用いて、130℃で1時間液流染色し、同一染色浴で還元洗浄して、濃赤色に染色された人工皮革基材である加飾用シートを得た。そして、得られた加飾用シートを用いて、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。
[比較例2]
島成分の熱可塑性樹脂として、カチオン染料可染性ポリエステル繊維の代わりにイソフタル酸で変性したPET(イソフタル酸単位6モル%含有)を用いた以外は実施例1と同様にして、人工皮革基材を得た。そして、人工皮革基材を分散染料であるD Blue HLA, D Red HLA,D Yellow HLAを用いて、130℃で1時間液流染色し、同一染色浴で還元洗浄して、濃青色に染色された人工皮革基材である加飾用シートを得た。そして、得られた加飾用シートを用いて、実施例1と同様にして評価した。結果を表1に示す。