以下、本発明の実施の形態に係る建設機械の代表例として、クローラ式の油圧ショベルを例に挙げ、図1ないし図11に従って詳細に説明する。なお、実施の形態では、車体を構成する上部旋回体の前,後方向を全体の前,後方向として説明し、上部旋回体の前,後方向と直交する上部旋回体の幅方向を左,右方向として説明する。
図1において、建設機械としての油圧ショベル1は、自走が可能なクローラ式の下部走行体2と、下部走行体2上に旋回装置3を介して旋回が可能に搭載され、下部走行体2と共に車体を構成する上部旋回体4と、上部旋回体4の前側に俯仰の動作が可能に設けられたフロント装置5とを備えている。フロント装置5は、土砂の掘削作業等を行うものである。
旋回フレーム6は、上部旋回体4の支持構造体を形成している。図2に示すように、旋回フレーム6は、前,後方向に延びる厚肉な鋼板等からなる平板状の底板6Aと、前,後方向と交差する左,右方向に所定の間隔をもった状態で底板6A上に立設され、前,後方向に延びた左縦板6B,右縦板6Cと、底板6A、各縦板6B,6Cから左,右方向の外側に向けて張出し、前,後方向に間隔をもって複数本設けられた張出しビーム6Dと、各縦板6B,6Cの左,右方向に間隔をもって前,後方向に延び、各張出しビーム6Dの先端側に取付けられた左サイドフレーム6E,右サイドフレーム6Fとを含んで構成されている。
カウンタウエイト7は、旋回フレーム6の後側、即ち、左,右の縦板6B,6Cの後部に取付けられている。カウンタウエイト7は、フロント装置5との重量バランスをとるもので、凸円弧状をした後面を有する重量物として形成されている。
エンジン8は、原動機を構成するもので、カウンタウエイト7の前側となる旋回フレーム6の後部位置に、旋回フレーム6に対して左,右方向に延びる横置き状態で設けられている。エンジン8の右側には、後述の油圧ポンプ装置11が取付けられている。
図6に示すように、エンジン8の右側には、出力軸を構成するフライホイール8Aが設けられ、このフライホイール8Aを取囲む位置には、油圧ポンプ装置11側に延びてホイール収容筒8Bが形成されている。ホイール収容筒8Bは、円形状の筒体として形成され、その内部には、後述のカップリング装置10が収容されている。ホイール収容筒8Bの油圧ポンプ装置11側の端面には、複数個のねじ穴8C(図6中に2個のみ図示)が間隔をもって設けられている。ホイール収容筒8Bには、後述する油圧ポンプ装置11のギヤケーシング21が取付けられている。
一方、エンジン8の左側には、冷却ファン8Dが設けられている(図2参照)。また、冷却ファン8Dの左側には、エンジン冷却水、作動油、エンジン吸気等を冷却するための熱交換器を備えた熱交換装置9が対面して設けられている。
カップリング装置10は、エンジン8のフライホイール8Aと油圧ポンプ装置11の主回転軸15とを連結するものである。これにより、カップリング装置10は、エンジン8の回転を油圧ポンプ装置11の各ポンプ14,17,19等に伝えることができる。図6に示すように、カップリング装置10は、ホイール収容筒8Bとギヤケーシング21のギヤフランジ21Cとによって形成された空間部に設けられている。カップリング装置10は、エンジン8のトルク変動、回転中心軸線のずれ等を吸収するために、エンジン8のフライホイール8Aと油圧ポンプ装置11の主回転軸15とを弾性的に連結している。
即ち、カップリング装置10は、エンジン8のフライホイール8Aに周方向(回転方向)に間隔をもって取付けられた複数個のエンジン側ブロック(図示せず)と、油圧ポンプ装置11の主回転軸15に取付けられ、円筒状のハブ部材を介して各エンジン側ブロック間に配置されたポンプ側ブロック10Aと、各エンジン側ブロックと各ポンプ側ブロック10Aとの間に取付けられた弾性体10Bとを含んで構成されている。
これにより、カップリング装置10は、例えば、エンジン8から油圧ポンプ装置11に伝わる衝撃やトルク変動を弾性体10Bによって緩和しつつ、エンジン8の回転力を油圧ポンプ装置11に伝達することができる。
次に、エンジン8によって駆動される油圧ポンプ装置11の構成について説明する。この油圧ポンプ装置11は、後述のポンプケーシング12、駆動ポンプ14、従動ポンプ17,19、従動回転軸18,20、ギヤケーシング21、ギヤ室23、駆動歯車24、従動歯車25,26、潤滑油27およびギヤ室拡大部28,29を含んで構成されている。
ポンプケーシング12は、油圧ポンプ装置11の一部を構成するもので、ギヤケーシング21を介してエンジン8のホイール収容筒8Bに取付けられている。図4ないし図6に示すように、ポンプケーシング12は、後述の駆動ポンプ14、各従動ポンプ17,19をまとめて収容するもので、共通の外形部分として形成されている。具体的には、ポンプケーシング12は、前,後方向に間隔をもって3個のポンプ14,17,19を並べて収容できるように、前,後方向に延びて設けられている。
ポンプケーシング12は、後述の各歯車24,25,26を挟んでギヤケーシング21の縦壁部21Bと反対側に端面部12Aを有している。この端面部12Aは、ギヤケーシング21との間に後述のギヤ室23を形成するための蓋体を構成するもので、前,後方向に長円形状に延びて形成されている。ポンプケーシング12には、エンジン8側の端部、即ち、端面部12Aの周囲に位置してポンプフランジ12Bが設けられている。このポンプフランジ12Bには、端面部12Aを取囲むように複数個のボルト挿通孔12B1が設けられている。
そして、ポンプケーシング12は、ポンプフランジ12Bの各ボルト挿通孔12B1に挿通したボルト13を、ギヤケーシング21の周壁部21Aに設けた後述のねじ穴21A1に螺着することにより、ギヤケーシング21に取付けられている。
図5に示すように、ポンプケーシング12の内部には、前,後方向に所定の間隔をもって3個のポンプ収容室12C,12D,12Eが形成されている。前,後方向の中央に位置するポンプ収容室12Cには、後述の駆動ポンプ14が収容されている。また、前,後方向の前側に位置するポンプ収容室12Dには、後述する第1の従動ポンプ17が収容され、前,後方向の後側に位置するポンプ収容室12Eには、後述する第2の従動ポンプ19が収容されている。このように、ポンプケーシング12は、3個のポンプ14,17,19を収容することにより、必要とする圧油の流量を確保することができる。
次に、下部走行体2、フロント装置5等に設けられた各油圧アクチュエータに圧油を供給する1台の駆動ポンプ14、2台の従動ポンプ17,19等について述べる。これらのポンプ14,17,19は、1個のポンプケーシング12を共通ケーシングとして水平方向(一般に油圧ショベル1は、上部旋回体4上における車幅方向にエンジン8が配置されており、エンジン8に直交する上部旋回体4の前,後方向)に並べられている。
駆動ポンプ14は、ポンプケーシング12のポンプ収容室12Cに設けられている。図6に示すように、駆動ポンプ14は、例えば可変容量型の斜軸式油圧ポンプとして構成されている。駆動ポンプ14は、後述の主回転軸15が回転駆動されることにより、吸込んだ作動油を圧油として吐出するものである。
主回転軸15は、エンジン8のフライホイール8Aの回転軸線(中心軸線)の方向、即ち、上部旋回体4の幅方向に延びて設けられている。主回転軸15は、軸方向の中間部が軸受16A,16Bを介してポンプケーシング12のポンプ収容室12Cに回転可能に支持されている。また、主回転軸15は、軸方向の一端側(エンジン8側)がポンプケーシング12の端面部12Aから突出してフライホイール8Aの近傍まで延びている。
主回転軸15の一端側には、例えばスプライン15Aが形成されている。このスプライン15Aの駆動ポンプ14側位置には、後述のギヤ室23内に位置して駆動歯車24が一体的に回転するように取付けられている。また、スプライン15Aの一端側の先端位置には、カップリング装置10のポンプ側ブロック10Aのハブ部材内に一体的に回転するように取付けられている。一方、主回転軸15の他端側(駆動ポンプ14側)は、駆動ポンプ14に連結されている。
そして、主回転軸15は、カップリング装置10を介してエンジン8によって回転されることにより、駆動ポンプ14を駆動するものである。一方で、主回転軸15は、後述の駆動歯車24、各従動歯車25,26を介して各従動ポンプ17,19も駆動することができる。
第1の従動ポンプ17は、駆動ポンプ14と並んでポンプケーシング12に設けられている(図5中に点線で図示)。具体的には、第1の従動ポンプ17は、ポンプ収容室12Cよりも前側に位置するポンプ収容室12Dに設けられている。第1の従動ポンプ17は、駆動ポンプ14と同様に、例えば可変容量型の斜軸式油圧ポンプとして構成されている。第1の従動ポンプ17は、後述の第1の従動回転軸18が回転駆動されることにより、吸込んだ作動油を圧油として吐出するものである。
第1の従動回転軸18は、主回転軸15と平行に延びるように、ポンプケーシング12のポンプ収容室12Dに回転可能に支持されている。また、第1の従動回転軸18の軸方向の一端側は、ポンプケーシング12の端面部12Aからギヤ室23に突出し、その周囲にはスプライン18Aが形成されている。このスプライン18Aには、第1の従動歯車25が一体的に回転するように取付けられている。一方、第1の従動回転軸18の他端側は、第1の従動ポンプ17に連結されている。そして、第1の従動回転軸18は、第1の従動ポンプ17を駆動するもので、駆動歯車24、第1の従動歯車25を介してエンジン8によって回転される。
第2の従動ポンプ19は、駆動ポンプ14と並んでポンプケーシング12に設けられている(図5中に点線で図示)。具体的には、第2の従動ポンプ19は、ポンプ収容室12Cよりも後側に位置するポンプ収容室12Eに設けられている。第2の従動ポンプ19は、駆動ポンプ14と同様に、例えば可変容量型の斜軸式油圧ポンプとして構成されている。第2の従動ポンプ19は、後述の第2の従動回転軸20が回転駆動されることにより、吸込んだ作動油を圧油として吐出するものである。
第2の従動回転軸20は、主回転軸15と平行に延びるように、ポンプケーシング12のポンプ収容室12Eに回転可能に支持されている。また、第2の従動回転軸20の軸方向の一端側は、ポンプケーシング12の端面部12Aからギヤ室23に突出し、その周囲にはスプライン20Aが形成されている。このスプライン20Aには、第2の従動歯車26が一体的に回転するように取付けられている。一方、第2の従動回転軸20の他端側は、第2の従動ポンプ19に連結されている。そして、第2の従動回転軸20は、第2の従動ポンプ19を駆動するもので、駆動歯車24、第2の従動歯車26を介してエンジン8によって回転される。
ギヤケーシング21は、エンジン8とポンプケーシング12との間に設けられている。ギヤケーシング21は、ポンプケーシング12との間にギヤ室23を形成するものである。ギヤケーシング21は、後述するように、油圧ショベル1の傾きに対応して、傾斜するものである。図7に示すように、ギヤケーシング21は、後述の駆動歯車24および各従動歯車25,26を取囲んだ状態で、ポンプケーシング12に取付けられた周壁部21Aと、駆動歯車24および各従動歯車25,26を挟んでポンプケーシング12と反対側に配置され、周壁部21Aを閉塞した縦壁部21Bとにより構成されている。
ここで、周壁部21Aは、ギヤケーシング21の一方側となるポンプケーシング12側に位置して設けられている。周壁部21Aは、ポンプケーシング12のポンプフランジ12Bと対面するもので、前,後方向に延びた長円形状の筒体(環状体)として形成されている。また、図9に示すように、周壁部21Aには、ポンプフランジ12Bの各ボルト挿通孔12B1に対応する位置に複数個のねじ穴21A1が設けられている。一方、縦壁部21Bは、ギヤケーシング21の他方側となるエンジン8側に位置して設けられている。縦壁部21Bは、ポンプケーシング12の端面部12Aと平行となるように、この端面部12Aと所定の隙間をもって対面している。
さらに、ギヤケーシング21は、縦壁部21Bのエンジン8側から拡開するギヤフランジ21Cを有している。このギヤフランジ21Cの外周側は、エンジン8のホイール収容筒8Bに対応するように円形状に形成されている。また、ギヤフランジ21Cの外周側には、エンジン8の各ねじ穴8Cに対応するように複数個のボルト挿通孔21C1が形成されている。
ギヤフランジ21Cは、縦壁部21Bから径方向の外側に延びるときに、エンジン8側に傾斜することにより、傾斜角度をもった円錐状に形成されている。ギヤフランジ21Cは、円錐状に形成することで強度を高めることができる。一方で、図5、図11に示すように、ギヤフランジ21Cは、円錐状に形成したことにより、外周側の位置を縦壁部21Bとの間で厚肉に形成することができる。ギヤフランジ21Cの外周側に位置する厚肉部分21C2には、カップリング装置10に干渉しない状態で、後述のギヤ室拡大部28,29を形成することができる。そして、ギヤケーシング21は、ギヤフランジ21Cの各ボルト挿通孔21C1に挿通したボルト22を、エンジン8のホイール収容筒8Bに設けたねじ穴8Cに螺着することにより、エンジン8に取付けられている。
さらに、図5、図9に示すように、ギヤケーシング21には、周壁部21Aの後部から後方に突出してパイロットポンプ取付部21Dが設けられている。パイロットポンプ取付部21Dは、左,右方向に扁平な中空構造体として形成され、パイロットポンプ取付部21Dには、後述のパイロットポンプ30が取付けられている。
ここで、ギヤケーシング21は、後述の駆動歯車24、第1の従動歯車25および第2の従動歯車26が水平方向で並んだ状態が水平状態(図7に示す状態)となる。一方、ギヤケーシング21は、前,後方向の一方が低く、他方が高くなった状態、具体例としては、前側の第1の従動歯車25が低く、後側の第2の従動歯車26が高くなった状態が傾斜状態(図8に示す状態)となる。
図5、図6に示すように、ギヤ室23は、ギヤケーシング21内に形成されている。具体的には、ギヤ室23は、ポンプケーシング12とギヤケーシング21との間に形成されている。このギヤ室23は、ポンプケーシング12の端面部12Aとギヤケーシング21の周壁部21Aおよび縦壁部21Bとの間に密閉空間として形成されている。
ギヤ室23は、後述する各歯車24,25,26の歯幅寸法よりも所定の寸法だけ大きな内幅寸法W1(図11参照)を有している。この内幅寸法W1は、端面部12Aとギヤケーシング21の縦壁部21Bとの間の距離寸法となっている。内幅寸法W1は、ギヤケーシング21を左,右方向でコンパクトに形成した上で、例えば、ギヤ室23内の潤滑油27を跳ね掛け方式によって各歯車24,25,26に効率よく供給できる隙間を形成するための寸法であり、また、各歯車24,25,26が回転するときの抵抗を抑えることができる寸法である。
駆動歯車24は、ギヤ室23に位置して各従動ポンプ17,19へエンジン8の回転力を伝えるために、主回転軸15に一体的に回転するように取付けられている。駆動歯車24は、例えば、平歯車、はすば歯車からなり、後述の各従動歯車25,26と噛合している。
第1の従動歯車25は、ギヤ室23に位置して駆動歯車24の前側に配置されている。具体的には、第1の従動歯車25は、第1の従動回転軸18を介して駆動歯車24の回転力を第1の従動ポンプ17へ伝えるために、ギヤ室23内における駆動歯車24の水平方向に噛合した状態で配置されている。第1の従動歯車25は、駆動歯車24と同様に、例えば、平歯車、はすば歯車として形成されている。第1の従動歯車25は、その中心部が第1の従動回転軸18に一体的に回転するように取付けられている。これにより、第1の従動歯車25は、駆動歯車24から伝わる回転力を第1の従動回転軸18を介して第1の従動ポンプ17へ伝えることができる。
第2の従動歯車26は、ギヤ室23に位置して駆動歯車24の後側に配置されている。具体的には、第2の従動歯車26は、第2の従動回転軸20を介して駆動歯車24の回転力を第2の従動ポンプ19へ伝えるために、ギヤ室23内における駆動歯車24の水平方向に噛合した状態で配置されている。第2の従動歯車26は、駆動歯車24、第1の従動歯車25と同様に、例えば、平歯車、はすば歯車として形成されている。第2の従動歯車26は、その中心部が第2の従動回転軸20に一体的に回転するように取付けられている。これにより、第2の従動歯車26は、駆動歯車24から伝わる回転力を第2の従動回転軸20を介して第2の従動ポンプ19へ伝えることができる。
ここで、第1の従動歯車25と第2の従動歯車26は、駆動歯車24を挟んで両側に設けられている。また、図7に示すように、各歯車24,25,26は、水平方向に並んだ状態で、下側に位置する歯たけ部分が後述の潤滑油27に浸かった状態となっている。
潤滑油27は、駆動歯車24および各従動歯車25,26を潤滑するために、ギヤ室23に貯溜されている。潤滑油27は、各歯車24,25,26間の噛合部分を潤滑すると共に、各歯車24,25,26を冷却するものである。潤滑油27は、下部走行体2および上部旋回体4が水平状態にあるとき、即ち、駆動歯車24、第1の従動歯車25および第2の従動歯車26が水平方向で並んだギヤケーシング21の水平状態(図7の状態)で、駆動歯車24の下部位置および各従動歯車25,26の下部位置が浸かる液面高さH1をもってギヤ室23に貯溜されている。この場合、各歯車24,25,26の下部位置とは、下側に位置する歯の歯たけ全体を含む位置である。
次に、本実施の形態の特徴部分となるギヤ室拡大部28の構成および機能について説明する。
ギヤ室拡大部28,29は、ポンプケーシング12の端面部12Aと対面してギヤケーシング21の縦壁部21Bに設けられている。ギヤ室拡大部28,29は、各歯車24,25,26の並び方向の両側、即ち、各従動歯車25,26に対面する縦壁部21Bの前側位置と後側位置に離間して配置されている。具体的には、ギヤ室拡大部28,29は、ギヤケーシング21の水平状態で潤滑油27の液面H1の高さ位置よりも下側に配置されている。即ち、前側のギヤ室拡大部28は、第1の従動歯車25の下側部位に対面する位置に配置され、後側のギヤ室拡大部29は、第2の従動歯車26の下側部位に対面する位置に配置されている。ギヤ室拡大部28,29は、ギヤケーシング21の縦壁部21Bをカップリング装置10側に向かって突出させることで、カップリング装置10を収容するための空間を利用して配置されている。これにより、ギヤ室拡大部28,29は、ギヤ室23の容積を拡大するから、ギヤ室23内に貯留される潤滑油27の充填量を増大することができる。
各ギヤ室拡大部28,29は、ギヤ室23をカップリング装置10側に向かって突出させることにより、換言すれば、ギヤケーシング21の縦壁部21Bをカップリング装置10側に凹陥させることにより形成されている。図11に示すように、前側のギヤ室拡大部28は、縦壁部21Bの縦面21B1をギヤケーシング21のギヤフランジ21C側に凹陥させることにより形成されている。この場合、前側のギヤ室拡大部28が形成されている位置は、円錐状のギヤフランジ21Cによって厚肉部分21C2となっている。これにより、ギヤ室拡大部28は、ギヤフランジ21Cよりもギヤ室23側、即ち、カップリング装置10に干渉しない位置に、厚肉部分21C2を利用して大きく形成することができる。この場合、ギヤ室拡大部28の位置では、奥底面28Aとポンプケーシング12の端面部12Aとの間の内幅寸法W2は、ギヤ室23の標準的な内幅寸法W1よりも大きな値にすることができる。
一方、後側のギヤ室拡大部29は、主回転軸15(駆動歯車24)を挟んでギヤ室拡大部28と前,後方向で対称となる位置に、対称形状をなして設けられている。このため、ギヤ室拡大部29の説明は省略するものとする。
ここで、2個のギヤ室拡大部28,29は、ギヤ室23に開口するようにギヤケーシング21の縦壁部21Bに設けられているから、各ギヤ室拡大部28,29を潤滑油27の貯留スペースとして利用することができる。従って、潤滑油27の液面H1の位置を上げることなく、潤滑油27の充填量(貯留量)を増大することができる。これにより、各歯車24,25,26が必要以上に潤滑油27に浸かって回転時の撹拌抵抗が増加したり、潤滑油の温度が上昇したりするのを防止することができる。
次に、前側のギヤ室拡大部28と後側のギヤ室拡大部29の機能、即ち、ギヤ室23における潤滑油27の液面位置の変化について説明する。
まず、図7に示すように、駆動歯車24、第1の従動歯車25および第2の従動歯車26が水平方向で並んだギヤケーシング21の水平状態では、潤滑油27の液面H1の位置は、駆動歯車24の下部位置と各従動歯車25,26の下部位置が浸かる位置となっている。これにより、各歯車24,25,26が回転したときには、潤滑油27を跳ね上げて各歯車24,25,26間の噛合部分を潤滑し、かつ各歯車24,25,26を冷却することができる。
一方、図8に示すように、前側に位置する第1の従動歯車25が低く、後側に位置する第2の従動歯車26が高くなったギヤケーシング21の傾斜状態では、ギヤ室23の潤滑油27は、ギヤ室23の前側位置に移動する。
ここで、各ギヤ室拡大部28,29が設けられていない場合の従来例について述べる。この従来例では、ギヤケーシング21が傾斜状態となったときに二点鎖線で示す高さ位置が液面H2となる。この液面H2の高さ位置では、第1の従動歯車25の下部は潤滑油27に浸かっている。しかし、駆動歯車24と第2の従動歯車26は、潤滑油27から離れて浮いた状態で配置されてしまう。このように、第1の従動歯車25だけが潤滑油27に浸かっている状態では、潤滑油27を十分に跳ね上げることができない虞がある。
これに対し、本実施の形態では、各ギヤ室拡大部28,29を設ける構成としている。従って、ギヤケーシング21が前下がりに傾斜したときには、従来例として述べた液面H2の高さ位置に加え、後側に位置するギヤ室拡大部29から流れ出た潤滑油27を受けて、液面H2よりもΔHだけ高い位置に液面H3を配置することができる。この液面H3の位置は、駆動歯車24の下側に位置する部分、具体的には、駆動歯車24の周囲に形成された歯のうち、下側に位置する歯の全体(歯たけ)が浸かる高さとなっている。これにより、駆動歯車24と第1の従動歯車25とは、潤滑油27を十分に跳ね上げることができ、各歯車24,25,26間の噛合部の潤滑、各部の冷却を行うことができる。
なお、パイロットポンプ30は、ギヤケーシング21のパイロットポンプ取付部21Dに取付けられている。このパイロットポンプ30は、キャブ31内の各種操作レバーによって制御弁(いずれも図示せず)を動作するための動力源としてパイロット圧油を供給するものである。図5に示すように、パイロットポンプ30は、回転軸30Aに取付けられた歯車30Bが第2の従動歯車26に噛合されている。
本実施の形態による油圧ショベル1は上述の如き構成を有するもので、次に、その動作について述べる。
まず、エンジン8によって主回転軸15が回転されることにより、駆動ポンプ14が駆動される。このときには、主回転軸15に駆動歯車24、第1の従動歯車25を介して接続された第1の従動ポンプ17が同時に駆動される。さらに、主回転軸15に駆動歯車24、第2の従動歯車26を介して接続された第2の従動ポンプ19が同時に駆動される。これにより、3個のポンプ14,17,19から供給される圧油を動力源として、下部走行体2を走行させたり、フロント装置5を動作させたりすることができる。
ここで、油圧ショベル1は、傾斜地で作業を行うことがある。この場合には、例えば、上部旋回体4が前下がりになると、エンジン8に取付けられた油圧ポンプ装置11も前下がりに傾斜する。油圧ポンプ装置11が傾斜すると、ギヤ室23の潤滑油27が前側に移動し、駆動歯車24が潤滑油27よりも上側に配置される虞がある。
然るに、本実施の形態によれば、ギヤケーシング21の縦壁部21Bには、各歯車24,25,26の並び方向の両側に位置してギヤ室23の容積を拡大するギヤ室拡大部28,29が設けられている。この上で、ギヤ室拡大部28,29は、ギヤケーシング21の水平状態で潤滑油27の液面H1の高さ位置よりも下側に配置されている。
従って、ギヤケーシング21が前下がりに傾斜したときには、後側に位置するギヤ室拡大部29からギヤ室23の前側へ供給される潤滑油27により、駆動歯車24が浸かる位置まで潤滑油27の液面H3を高くすることができる。これにより、ギヤ室拡大部28,29は、ギヤ室23内に貯留される潤滑油27を増やすことができる。従って、駆動歯車24と第1の従動歯車25とによって潤滑油27を十分に跳ね上げることができ、各歯車24,25,26間の噛合部の潤滑、各歯車24,25,26の冷却を行うことができる。
この結果、ギヤケーシング21の水平状態で、潤滑油27の液面H1が高くなるのを抑制することができる。この上で、油圧ポンプ装置11が傾いた場合でも、各歯車24,25,26を潤滑油27によって潤滑、冷却することができ、耐久性、信頼性等を向上することができる。また、ギヤ室23に充填される潤滑油27は、ギヤ室拡大部28,29によって増大することができるから、潤滑油27の寿命を延ばすことができ、メンテナンス性を向上することができる。
エンジン8とギヤケーシング21との間には、エンジン8のフライホイール8Aと油圧ポンプ装置11の主回転軸15とを連結するカップリング装置10が設けられている。エンジン8とギヤケーシング21との間にあってギヤケーシング21のエンジン8側には、カップリング装置10を収容するための空間が形成されている。さらに、ギヤ室拡大部28,29は、ギヤケーシング21の縦壁部21Bをカップリング装置10側に向かって突出させることで空間に配置されている。これにより、ギヤケーシング21の縦壁部21Bの一部を利用してギヤ室拡大部28,29を形成できるから、ギヤケーシング21の外形形状を変えることなくギヤ室拡大部28,29を形成することができる。また、ギヤ室拡大部28,29を形成した分だけギヤケーシング21の質量を低減することができ、ギヤケーシング21を製造する場合の材料費を削減することができる。
第1の従動歯車25と第2の従動歯車26は、駆動歯車24を挟んで両側に設けられている。そして、各ギヤ室拡大部28,29は、各従動歯車25,26に対面してギヤケーシング21の縦壁部21Bに設けられている。これにより、各ギヤ室拡大部28,29は、ギヤ室23で前,後方向に離れた位置に配置することができる。
さらに、ポンプケーシング12は、各歯車24,25,26を挟んでギヤケーシング21の縦壁部21Bと反対側に位置する端面部12Aを有している。また、ギヤ室23は、ポンプケーシング12の端面部12Aと、ギヤケーシング21の周壁部21Aおよび縦壁部21Bとの間に密閉空間として形成されている。そして、ギヤ室拡大部28,29は、ポンプケーシング12の端面部12Aと対面して縦壁部21Bに設けることができる。
なお、実施の形態では、3個のポンプ14,17,19を水平方向に並べて配置した場合を例に挙げて説明している。しかし、本発明はこれに限らず、例えば2個または4個以上のポンプを水平方向に並べて配置する構成としてもよい。
実施の形態では、動力源となる圧油を供給する3個のポンプ14,17,19と制御弁を作動させる圧油を供給する1個のパイロットポンプ30とを設けた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、パイロットポンプを廃止する構成としてもよい。この場合には、ギヤケーシング21が後下がりに傾斜した場合でも、前述した実施の形態と同様の効果を得ることができる。
一方、実施の形態では、原動機としてエンジン8を用いた場合を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限らず、例えば原動機として電動モータ、エンジンと電動モータを備えたハイブリッド装置等を用いてもよい。
また、実施の形態では、各ポンプ14,17,19として可変容量型の斜軸式油圧ポンプを用いた場合を例示している。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えば斜板式油圧ポンプを用いてもよく、さらに容量が一定の他の油圧ポンプを用いる構成としてもよい。
さらに、実施の形態では、建設機械としてクローラ式の下部走行体2を備えた油圧ショベル1を例に挙げて説明した。しかし、本発明はこれに限るものではなく、例えばホイール式の下部走行体を備えた油圧ショベルに適用してもよい。さらに、例えば油圧クレーン、ホイールローダ、トラクタ、ブルドーザ等の他の建設機械にも広く適用できるものである。