JP6928473B2 - コーティング剤、被膜、及び被膜の製造方法 - Google Patents

コーティング剤、被膜、及び被膜の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、コーティング剤、及びそのコーティング剤による被膜に関する。
表面に撥水撥油性が付与された物品は様々な分野で使用されている。そのような物品としては、例えば、ディスプレーなどの画像表示部材、レンズなどの光学部材、食品などの包装材、レインコートなどの衣類、窓ガラス及び外壁などの構造物用部材、医療用部材、並びに太陽光発電用パネルなどが挙げられる。その効果としては、防汚性、防湿性、撥水性、耐薬品性、及び耐有機溶剤性などが挙げられる。
基材の表面に撥水撥油性を付与させる手段としては、例えば、基材の表面にフッ素化合物を塗布する方法や、フッ素系ポリマーをコーティングして被膜を形成する方法などが従来から採られている。例えば、特許文献1には、ポリフルオロアルキル基含有ポリマーが、グリコールエーテル系溶媒から選ばれた少なくとも1種の水溶性有機溶媒を含有する水系媒体中に乳化分散されてなる撥水撥油剤組成物が開示されている。また、特許文献2には、フルオロアルキル基含有単量体や所定のアルキル(メタ)アクリレートなどで形成される重合体セグメントから構成されるブロック共重合体と、所定の脂肪族炭化水素系溶剤とから構成される撥水撥油性組成物が開示されている。
特開平6−17034号公報 特開平9−328677号公報
しかしながら、フッ素化合物を塗布する方法では、フッ素化合物は分子量が小さいため、環境や使用方法によっては基材から容易に脱落し、撥水撥油性の性能が長期に亘って維持できない場合がある。また、フッ素系ポリマーをコーティングして被膜を形成する方法では、基材との密着性が非常に乏しい場合があり、そのため、基材から被膜が脱落してしまい、撥水撥油性が十分に持続しない場合がある。
したがって、本発明は、撥水撥油性及び耐久性に優れた被膜を形成することが可能なコーティング剤を提供しようとするものである。
本発明は、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤であって、前記A鎖のポリマーブロックは、(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレート、(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下のものであり、前記B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であり、かつ、前記A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである、コーティング剤を提供する。
本発明によれば、撥水撥油性及び耐久性に優れた被膜を形成することが可能なコーティング剤を提供することができる。
基材に設けられた本発明の一実施形態のコーティング剤中のA−Bブロックコポリマーの状態を模式的に表した、A鎖及びB鎖の各ポリマーブロックの機能の説明図である。
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。
<コーティング剤>
本発明の一実施形態のコーティング剤は、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有する。A鎖のポリマーブロックは、(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレート、(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まないものである。また、A鎖のポリマーブロックは、数平均分子量(以下、「Mn」と記載することがある。)が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下のものである。なお、本明細書において、分子量分布は、Mw/Mn(Mwは重量平均分子量を表す。)で表される分子量分散指数(polydispersity index)を意味し、以下、分子量分布を「Mw/Mn」及び「PDI」と記載することがある。
一方、B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むものである。また、B鎖のポリマーブロックは、数平均分子量(Mn)が5000以下であり、かつ、A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである。
まず、コーティング剤に含有させるA−Bブロックコポリマーは、上記のA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックの構成の通り、ポリマー(コポリマー)の合成原料(モノマー)であるメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含む。メタクリレート系モノマーは、様々な構造のアルコール残基のエステルを得ることができることから、メタクリレート系モノマーを使用して得られるポリマーにおける様々な性能や物性を調整することに適している。また、得られるポリマーのガラス転移温度(Tg)を高くすることができる。さらには、得られるポリマーは、エステル基(アルコキシカルボニル基)が結合している炭素原子に結合している炭素原子の数が3である3級のエステル構造を有するため、加水分解し難く、耐薬品性及び耐水性などの耐性を向上させることができる。また、A−Bブロックコポリマーの原料にメタクリレート系モノマーを使用することで、後述する好適な重合方法によって、温和な条件下で、高収率であり、後処理が不要であり、かつ、分子量分布が狭い好適なA−Bブロックコポリマーを得ることができる。したがって、A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーの主成分として、メタクリレート系モノマーが使用される。
A−Bブロックコポリマーは、上記のA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックの構成の通り、特定のメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含むとともにアルコキシシリル基を含むブロックコポリマーである。この特定のA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤によって、撥水撥油性及び耐久性に優れた被膜を形成することが可能である。
より詳細には、A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックは、上記の構成を有することによって、コーティング剤で形成される被膜に撥水撥油性を付与することが可能となる。また、B鎖のポリマーブロックは、上記の構成を有することによって、コーティング剤が設けられる対象となる基材と反応し、かつ、自己架橋して三次元網目構造を形成することができ、被膜における基材への密着性と、耐久性を向上させることが可能となる。反応性基であるアルコキシシリル基を、A鎖のポリマーブロックには導入せず、B鎖のポリマーブロックに集中させているため、A鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが担う機能を明確に分けることが可能となる。
上述したA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが有する機能について、図面を参照しながらさらに説明する。図1は、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックの各機能を説明するための図であり、基材に設けられたコーティング剤(コーティング剤による被膜)中のA−Bブロックコポリマーの状態を模式的に表した図である。A鎖のポリマーブロックは、A−Bブロックコポリマーにおいて、反応性基であるアルコキシシリル基を含まないポリマーブロックの部分である。そのため、A鎖のポリマーブロックは、B鎖におけるアルコキシシリル基と反応せず、架橋による三次元構造をとらないポリマー鎖となる。一方、B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むため、反応性鎖として機能することで、基材と反応して密着し、かつ、自己架橋して三次元網目構造を形成することが可能である。そのため、A鎖のポリマーブロックが基材の表面にグラフトしたような構造をとり、その構造によって、被膜に高度な撥水撥油性をもたらすことができると考えられる。
本明細書において、被膜における「撥水撥油性」とは、撥水性及び撥油性の両方を併せ持つ性質をいう。具体的には、被膜の表面に付着しようとする水や油(例えば有機溶剤及び有機化合物など)といった物質が被膜の表面に接触しても、その被膜の撥水撥油性の作用である小さい表面自由エネルギーによって、当該物質がはじかれる性質をいう。例えば、当該物質が、被膜の表面に接触した際に、その被膜に著しく浸透することなく、液滴などとなって表面に留まったり、簡単に除去できたりする場合、その被膜は撥水撥油性を有するといえる。
[A−Bブロックコポリマー]
次に、コーティング剤に含有させるA−BブロックコポリマーにおけるA鎖及びB鎖のそれぞれのポリマーブロックの構成について、詳細に説明する。
(A鎖のポリマーブロック)
A鎖のポリマーブロックは、(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレート、(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)の片末端メタクリル変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含む。
(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレートにおけるアルキル基は、直鎖でも分岐鎖でもよい。そのアルキル基の炭素原子数は6〜20であることが好ましく、6〜18であることがより好ましく、6〜16であることがさらに好ましい。
(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレートの好適な具体例としては、ヘキシルメタクリレート、オクチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ノニルメタクリレート、デシルメタクリレート、イソデシルメタクリレート、ラウリルメタクリレート、イソラウリルメタクリレート、セチルメタクリレート、イソセチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、イソステアリルメタクリレート、及びベヘニルメタクリレートなどを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を使用することができる。
(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレートにおけるポリフルオロアルキル基は直鎖でも分岐鎖でもよい。そのポリフルオロアルキル基の炭素原子数は2〜16であることが好ましく、2〜14であることがより好ましく、2〜12であることがさらに好ましい。また、ポリフルオロアルキル基におけるフッ素原子数は2以上(2〜37)であればよく、アルキル基における水素原子の全てがフッ素原子で置換されているパーフルオロアルキル基でもよい。ポリフルオロアルキル基のフッ素原子数は、3〜29であることが好ましく、3〜25であることがより好ましく、3〜21であることがさらに好ましい。
(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレートの好適な具体例としては、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、2,2,3,3−テトラフルオロプロピルメタクリレート、2,2,3,3,3−ペンタフルオロプロピルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロイソプロピルメタクリレート、2,2,3,4,4,4−ヘキサフルオロブチルメタクリレート、2,2,3,3,4,4,5,5−オクタフルオロペンチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6−オクタフルオロヘキシルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルメタクリレート、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,10,10,10−ヘプタデカフルオロデシルメタクリレートなどを挙げることができる。これらの1種又は2種以上を使用することができる。
(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンは、シロキサン結合(Si−O−Si)の繰り返し単位を主骨格とする線状ポリシロキサン構造の片末端に、メタクリロイル基を有するものである。そして、このメタクリロイル基(CH2=C(CH3)−C(=O)−)がオキシアルキレン基(−O−R−)を介して、線状ポリシロキサン分子における片末端のSiに結合したものである。これらの構造を含む限り、側鎖などのその他の部分の構造については特に制限されない。片末端メタクリル変性ポリシロキサンとしては、片末端メタクリル変性ポリジメチルシロキサンが好ましい。線状ポリジメチルシロキサン構造の片末端に、Siに結合する有機基として、メタクリロキシアルキル基(CH2=C(CH3)−C(=O)−O−R−)を有するものがより好ましい。このメタクリロキシアルキル基におけるアルキルの炭素原子数は1〜4であることがさらに好ましい。
(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンの平均分子量は、200〜5000であることが好ましい。(a3)の平均分子量が200以上であることにより、線状ポリシロキサン構造の分子鎖が長く、コーティング剤による被膜に撥水撥油性を付与する効果を発揮しやすくなる。この観点から、(a3)の平均分子量は500以上であることがより好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。一方、(a3)の平均分子量が5000以下であることにより、重合性が良好であり、重合せずに残存するようなことを生じ難くすることができる。なお、(a3)の平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の値、又はNMRなどから求められる、メタクリル基を官能基とする官能基当量から算出される値である。
A鎖のポリマーブロックは、上記(a1)に由来する構成単位、上記(a2)に由来する構成単位、及び上記(a3)に由来する構成単位からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構成単位を含むことができる。撥油性にさらに優れた被膜を得る観点からは、A鎖のポリマーブロックは、(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサン(好ましくはその平均分子量が200〜5000のもの)の少なくとも一方に由来する構成単位を含むことがさらに好ましい。
A鎖のポリマーブロックは、上述した(a1)、(a2)、及び(a3)からなる群より選ばれる1種又は2種以上に由来する構成単位のみで構成されていてもよい。また、本発明の目的を損なわない範囲において、A鎖のポリマーブロックは、(a1)〜(a3)と共重合可能な他のメタクリレート系モノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。A鎖のポリマーブロックを構成するモノマー中、(a1)〜(a3)の合計の使用量は、特に限定されず、使用されるモノマーの種類及びそれによって形成されるA鎖のポリマーブロックに由来する性能に応じて、適宜決定することができる。(a1)〜(a3)の合計の使用量は、A鎖のポリマーブロックを構成するモノマーの全質量を基準として、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましい。
他のメタクリレート系モノマーとしては、上述した(a1)〜(a3)以外のメタクリレート系モノマーであり、かつ、前述の通り、B鎖のポリマーブロックに使用される、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを除くメタクリレート系モノマーである。A鎖のポリマーブロックには、他のメタクリレート系モノマーの1種又は2種以上が用いられてもよい。
他のメタクリレート系モノマーとしては、炭素原子数5以下のアルキル基を有するメタクリレート、シクロアルキル基を有するメタクリレート、芳香族基を有するメタクリレート、アルケニル基を有するメタクリレートなどを挙げることができる。炭素原子数5以下のアルキル基を有するメタクリレートの具体例としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t−ブチルメタクリレート、及びペンチルメタクリレートなどを挙げることができる。シクロアルキル基を有するメタクリレートの具体例としては、シクロヘキシルメタクリレート、t−ブチルシクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、2,2,4−トリメチルシクロヘキシルメタクリレート、シクロデシルメタクリレート、及びシクロデシルメチルメタクリレートなどを挙げることができる。芳香族基を有するメタクリレートの具体例としては、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、及びナフチルメタクリレートなどを挙げることができる。アルケニル基を有するメタクリレートの具体例としては、ビニルメタクリレート及びアリルメタクリレートなどを挙げることができる。
また、他のメタクリレート系モノマーとしては、ヒドロキシ基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、及び4−ヒドロキシブチルメタクリレートなどのヒドロキシアルキルメタクリレート(アルキレングリコールのモノメタクリレート)、並びに3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレートなどが挙げられる。なお、ヒドロキシ基を有するメタクリレートを用いると、A鎖の構造中に存在するヒドロキシ基が、B鎖に存在するアルコキシシリル基と反応するため、A鎖のポリマーブロックとB鎖におけるアルコキシシリル基が分子鎖間で反応してゲル化を引き起こす可能性がある。しかし、その反応で得られたものは水分や熱によって加水分解してシラノールとなるので、ゲル化したとしても、コーティング剤として使用可能であり、また、コーティング剤の使用条件の設定などにより、ゲル化を防止することも可能である。
他のメタクリレート系モノマーとしては、ポリアルキレングリコールのモノメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリテトラメチレングリコールモノメタクリレート、エチレングリコール又はポリエチレングリコールと、プロピレングリコール又はポリプロピレングリコールとのランダムコポリマー又はブロックコポリマーのモノメタクリレートなどが挙げられる。なお、上記のポリアルキレングリコールのモノメタクリレートにおけるポリアルキレングリコールの「ポリ」は、アルキレン基の繰り返し数が2以上であることを意味する。
さらには、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエーテルモノメタクリレート、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキルエステルモノメタクリレート、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキレンエーテルモノメタクリレート、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキレンエステルモノメタクリレート、(ポリ)アルキレングリコールモノアルキンエーテルモノメタクリレート、及び(ポリ)アルキレングリコールモノアルキンエステルモノメタクリレートを挙げることもできる。それらの具体例としては、(ポリ)エチレングリコールモノメチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノオクチルエーテルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノステアリン酸エステルメタクリレート、(ポリ)エチレングリコールモノノニルフェニルエーテルメタクリレート、(ポリ)プロピレングリコ−ルモノメチルエーテルメタクリレート、及び(ポリ)エチレングリコール(ポリ)プロピレングリコールモノメチルエーテルメタクリレートなどを挙げることができる。なお、上記の「(ポリ)アルキレン」との文言には、「アルキレン」及び「ポリアルキレン」の両方が含まれることを意味し、「ポリ」は、アルキレン基の繰り返し数が2以上であることを意味する。
他のメタクリレート系モノマーとしては、アミノ基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、2−アミノエチルメタクリレート、t−ブチルアミノエチルメタクリレート、テトラメチルピペリジルメタクリレート、ジメチルアミノエチルメタクリレート、ジエチルアミノエチルメタクリレート、ペンタメチルピペリジルメタクリレート、N−エチルモルホリノメタクリレート、塩化トリメチルアミノエチルメタクリレート、塩化ジエチルメチルアミノエチルメタクリレート、塩化ベンジルジメチルアミノエチルメタクリレート、及びトリメチルアミノエチルメタクリレートメチル硫酸塩などが挙げられる。
他のメタクリレート系モノマーとしては、ヘテロ原子として酸素原子を含む複素環を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、モルホリノメタクリレート、メチルモルホリノメタクリレート、及びメチルモルホリノエチルメタクリレートなどが挙げられる。さらには、他のメタクリレート系モノマーとしては、アセチル基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、1−アセチルエチルメタクリレート、アセトアセチルエチルメタクリレート、及び2−アセトアセチルオキシエチルメタクリレートなどが挙げられる。
他のメタクリレート系モノマーとしては、イソシアネート基を有するメタクリレートを挙げることもできる。その具体例としては、メタクリロキシエチルイソシアネート、メタクリロキシエトキシエチルイソシアネート、及びそれらをカプロラクタムなどでブロックしてあるブロック化イソシアネート含有メタクリレートなどが挙げられる。
さらには、A鎖のポリマーブロックは、メタクリレート系モノマー以外の他のモノマーに由来する構成単位を含んでいてもよい。他のモノマーとしては、上述の他のメタクリレート系モノマーの具体例に対応するアクリレート系モノマーを挙げることができる。また、他のモノマーとしては、例えば、カルボキシ基を有するモノマーが挙げられる。カルボキシ基を有するモノマーとしては、例えば、アクリル酸;メタクリル酸;2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート及び4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレートなどのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートに、無水マレイン酸、無水コハク酸、又は無水フタル酸を反応させたモノマーなどを挙げることができる。
また、他のモノマーとしては、例えば、メタクリロイロキシエチルモノ又はポリカプロラクトンなどのような、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルを開始剤として、ε−カプロラクトン及びγ−ブチロラクトンなどのラクトン類を開環重合して得られるポリエステル系モノ(メタ)アクリル酸エステル;2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルフタレート及び2−(メタ)アクリロイロキシエチル−2−ヒドロキシエチルサクシネートなどのような、(ポリ)アルキレングリコールモノ(メタ)アクリル酸エステルに2塩基酸を反応させてハーフエステル化した後、2塩基酸のもう一方のカルボキシ基に、アルコール又はアルキレングリコールを反応させたエステル系(メタ)アクリレート;2−(4−ベンゾキシ−3−ヒドロキシフェノキシ)エチルメタクリレート、2−(2’−ヒドロキシ−5−(メタ)アクリロイロキシエチルフェニル)−2H−ベンゾトリアゾールの如き紫外線を吸収するモノマー;ポリメタクリル酸メチルやポリスチレンの末端にメタクリロキシ基を導入したマクロモノマーなどが挙げられる。
A鎖のポリマーブロックの原料には、上記のモノマーを使用することができるが、前述したA鎖としての機能を発揮できるように、カルボキシ基、ヒドロキシ基、エポキシ基、及びイソシアネート基を有しないモノマー(より好ましくはメタクリレート)を使用することが好ましい。なお、これらの反応性基を有するメタクリレートを使用し、それらの反応性基による反応を利用してポリマーを改質してもよい。
A鎖のポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は、3000〜50000であり、好ましくは5000〜50000である。A鎖のポリマーブロックのMnが3000未満であると、コーティング剤で形成される被膜に撥水撥油性を付与する効果が十分に得られない場合がある。一方、A鎖のポリマーブロックのMnが50000を超えると、A鎖の分子量が大きすぎてB鎖の重合率が低下したり、それにより、B鎖を構成するモノマーが残存したりする場合があり、また、その結果、B鎖の反応による固定化が十分になされずに脱落するポリマー成分が出る場合がある。
本明細書において、A鎖のポリマーブロックのMnは、A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックに相当するA鎖のポリマーについて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算の値である。例えば、後述する実施例で採られた以下に示す測定条件にてGPCによる測定を行うことができる。
装置:ショウデックスGPC−104(昭光通商社製)
カラム:LF−404R(昭光通商社製) 2本
溶離液:THF
流速:0.1mL/min
温度:40℃
検出方法:示差屈折計(RI(Refractive Index)検出器)
A鎖のポリマーブロックの分子量分布(Mw/Mn;PDI)は、1.50以下であり、好ましくは1.48以下である。このA鎖のポリマーブロックの分子量分布は、上述の通り測定されるA鎖のポリマーブロックのMnと、A鎖のポリマーブロックの重量平均分子量(Mw)とから算出される。A鎖のポリマーブロックのMwは、上述のMnと同様、A−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックに相当するA鎖のポリマーについて、GPCにより測定される、ポリスチレン換算の値である。A鎖のポリマーブロックのMw/Mnを1.50以下とすることにより、B鎖のポリマーブロックを重合成長させるときに、B鎖の分子量も均一に伸びると考えられる。
(B鎖のポリマーブロック)
次に、A−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックについて説明する。B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含み、その構成により、A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能する。B鎖のポリマーブロックには、アルコキシシリル基を有するメタクリレートのうちの1種又は2種以上を使用することができる。
好適なアルコキシシリル基を有するメタクリレートとしては、例えば、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン(別称:3−(ジメトキシメチルシリル)プロピルメタクリレート)、及び3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン(別称:3−(ジエトキシメチルシリル)プロピルメタクリレート)などのメタクリロキシプロピルアルキルジアルコキシシラン;3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(別称:3−(トリメトキシシリル)プロピルメタクリレート)、及び3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(別称:3−(トリエトキシシリル)プロピルメタクリレート)などのメタクリロキシプロピルトリアルコキシシランを挙げることができる。アルコキシシリル基を有するメタクリレートとしては、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランがさらに好ましい。
また、グリシジルメタクリレート及びメタクリロキシエチルイソシアネートなどの反応性基(グリシジル基及びイソシアネート基など)を有するモノマーに、アミノ基を有するシランカップリング剤(例えば、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、及び3−アミノプロピルメトキシシランなど)を反応させて得られる、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを使用してもよい。さらには、メタクリル酸などのカルボキシ基を有するモノマーに、グリシジル基を有するシランカップリング剤(例えば、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、及び3−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなど)、又は上記のアミノ基を有するシランカップリング剤を反応させて得られる、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを使用してもよい。
また、A鎖を得た後、イソシアネート基、グリシジル基、又はカルボキシ基を有するモノマーを使用してブロックコポリマーとしてから、さらに、それらの基と反応する基を有するシランカップリング剤を反応させて、A−Bブロックコポリマーとしてもよい。その場合は、A鎖にはそのイソシアネート基、グリシジル基、又はカルボキシ基を有するモノマーを使用しないことが必要である。
なお、B鎖のポリマーブロックにおいては、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを100質量%使用することが好ましいが、前述の他のメタクリレートを1種以上使用して、共重合鎖としてもよいし、A鎖の残留モノマーがB鎖に導入されてもよい。
B鎖のポリマーブロックの数平均分子量(Mn)は、5000以下であり、好ましくは4000以下、より好ましくは500〜4000、さらに好ましくは1000〜3500である。このB鎖のポリマーブロックのMnは、A−BブロックコポリマーのMnから、前述したA鎖のポリマーブロックのMnを差し引いた値である。B鎖のポリマーブロックのMnが5000を超えると、B鎖が結合、粒子化して異物となる場合がある。B鎖のポリマーブロックはMnが5000以下というA鎖に比べて短い分子鎖であり、かつ、アルコキシシリル基をB鎖のポリマーブロックに集中させていることによって、B鎖のポリマーブロックが基材との反応と自己反応によって、均一な膜形成をすることができる。
以上述べたA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーは、メタクリレート系モノマーで構成されていることが好ましい。A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーが全てメタクリレート系モノマーである場合、前述の通り、加水分解し難く、耐薬品性及び耐水性などの耐性が良好であり、かつ、分子量分布が狭いA−Bブロックコポリマーが得られ易い。コーティング剤により、撥水撥油性及び耐久性に優れた被膜を形成するために、A−Bブロックコポリマーの分子量分布(Mw/Mn;PDI)は、1.60以下であることが好ましく、1.55以下であることがより好ましい。これは分子量分布が狭い、すなわち、分子量が揃っているということを表す。このような分子量分布を有するA−Bブロックコポリマーは、A−Bブロックコポリマーにおける多くの又はほぼ全ての高分子鎖が、前述したA鎖及びB鎖の各ポリマーブロックが担う機能を発揮できることになるので好ましい。また、A−Bブロックコポリマーの数平均分子量(Mn)は、3500〜55000であることが好ましく、5500〜55000であることがより好ましく、6000〜52000であることがさらに好ましい。A−BブロックコポリマーのMn及びMwは、前述のA鎖のポリマーブロックのMn及びMwと同様、GPCにより測定される、ポリスチレン換算の値である。
A−Bブロックコポリマーの重合方法は、特に限定されないが、リビングラジカル重合により、A−Bブロックコポリマーを得ることが好ましい。このリビングラジカル重合は、下記一般反応式(1)で表される反応機構で進み、ドーマント種Polymer−X(P−X;Xは保護基)の成長ラジカルへの可逆的活性反応である。
Figure 0006928473
この重合機構は、後述するリビングラジカル重合の種類によって変わる可能性があるが、P−Xから保護基であるXが触媒や熱によってX・のラジカルとして脱離して、できたP・にモノマーMが付加する。しかし、P−Xの方が化学的に安定なので、脱離したX・がすぐに結合して、末端を保護する。その作用によって、ラジカル重合の副反応である停止反応を防止することができ、これを繰り返すことで、分子量が均一で、そのXの量で分子量を調整することができ、さらには、ブロックコポリマーなどの今までのラジカル重合で得ることができないポリマーを得ることができる。
リビングラジカル重合は、具体的には、アミンオキシドラジカルの解離と結合を利用するニトロキサイド法(Nitroxide mediated polymerization:NMP法);銅やルテニウム、ニッケル、鉄などの重金属、そして、それと錯体を形成するリガンドを使用して、ハロゲン化合物を開始化合物として重合する原子移動ラジカル重合法(Atom transfer radical polymerization:ATRP法);ジチオカルボン酸エステルやザンテート化合物などを開始化合物として、付加重合性モノマーとラジカル開始剤を使用して重合する可逆的付加開裂型連鎖移動重合法(Reversible addition− fragmentation chain transfer:RAFT法)や、MADIX(Macromolecular Design via Interchange of Xanthate)法;有機テルルや有機ビスマス、有機アンチモン、ハロゲン化アンチモン、有機ゲルマニウム、ハロゲン化ゲルマニウムなどの重金属を用いる方法(Degenerative transfer:DT法);ヨウ素化合物を開始剤化合物としたヨウ素移動重合法(Iodine Transfer Polymerization:ITR法);ヨウ素や臭素化合物を重合開始剤とし、有機化合物やヨウ素イオンを有する化合物を重合触媒とする可逆的移動触媒重合法(Reversible Transfer Catalized Polymerization:RTCP法やReversible Complexation Mediated Polymerization :RCMP法);が用いられる。
上記のリビングラジカル集合法のなかでも、環境やコストの面を考慮すると、特殊な化合物や金属等を使用しないITR法、RTCP法、及びRCMP法が好ましい。ITR法、RTCP法、及びRCMP法では、メタクリレートを使用することで、その重合の過程で保護基Xが結合した末端が3級となるため、その反応性の点からも好ましい。これらの重合条件、後処理方法、使用する開始化合物、及び触媒などは、特に限定されず、従来公知の方法、条件、及び材料などを適宜採用することができる。得られたポリマーはそのままでもよいし、精製してもよい。
重合の形態としては、特に限定されない。塊状重合、懸濁重合、沈殿重合、乳化重合、分散重合、及び溶液重合などを挙げることができ、好ましくは溶液重合である。溶液重合に用いる溶媒をそのままコーティング剤に含有させる溶剤成分として利用することができ、溶液重合により、A−Bブロックコポリマー及び溶媒(溶剤)を含有するコーティング剤を得ることができる。この際に用いる溶媒は、特に限定されず、下記のものが例示できる。
溶液重合に用いる溶媒としては、例えば、ヘキサン、オクタン、デカン、イソデカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、トルエン、キシレン、及びエチルベンゼンなどの炭化水素系溶剤; メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、ヘキサノール、ベンジルアルコール、及びシクロヘキサノールなどのアルコール系溶剤; エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールプロピルエーテル、ジグライム、トリグライム、ジプロピリングリコールジメチルエーテル、ブチルカルビトール、ブチルトリエチレングリコール、メチルジプロピレングリコール、メチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどのグリコール系溶剤; ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルシクロプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びアニソールなどのエーテル系溶剤; メチルエチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、イソホロン、及びアセトフェノンなどのケトン系溶剤; 酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、カプロラクトン、乳酸メチル、及び乳酸エチルなどのエステル系溶剤; クロロホルム、及びジクロロエタンなどのハロゲン化溶剤; ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ピロリドン、N−メチルピロリドン、カプロラクタム、3−メトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミド、及び3−ブトキシ−N,N−ジメチルプロピオンアミドなどのアミド系溶剤; ジメチルスルホキシド、スルホラン、テトラメチル尿素、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、及び炭酸ジメチルなどが挙げられる。これらの1種を単独で又は2種以上の混合溶剤として用いることができる。
上記のような方法で得られる重合液の固形分(モノマー濃度)は、特に限定されないが、好ましくは5〜80質量%、より好ましくは10〜60質量%である。重合が完結するように、重合液の固形分は、5質量%以上であることが好ましく、10質量%以上であることがより好ましい。一方、重合液の撹拌作業や重合収率を確保する観点から、重合液の固形分は、80質量%以下であることが好ましく、70質量%以下であることがより好ましく、60質量%以下であることがさらに好ましい。
重合温度は特に限定されず、好ましくは0℃〜150℃、さらに好ましくは30℃〜120℃である。重合温度は、それぞれの重合開始剤の半減期によって調整される。また、重合時間は、モノマーがなくなるまで重合を続けることが好ましいが、特に限定されず、例えば、0.5時間〜48時間、実用的な時間として好ましくは1時間〜24時間、さらに好ましくは2時間〜12時間である。
A−Bブロックコポリマーを得る好ましい方法としては、A鎖を構成するモノマーを重合させて、その重合が完結していなくとも、アルコキシシリル基を有するメタクリレートを添加してB鎖のポリマーブロックを得るようにすることである。さらには、A鎖を構成するモノマーが完全に重合していなくても、B鎖のポリマーブロックが前述した分子量になればよく、A鎖を構成するモノマーの重合率が50%以上、さらに好ましくは80%以上になった時点で、B鎖を構成するモノマーを添加して重合してもよい。その添加は、一度に添加してもよいし、滴下装置で滴下して行ってもよい。滴下することで、A−Bブロックコポリマーは、B鎖のポリマーブロックにおけるモノマー組成が分子鎖に沿って連続的に変化する(濃度勾配をもつ)こと、すなわち、グラジエントポリマーとなることができる。
以上のようにして、A−Bブロックコポリマーを得ることができる。A−Bブロックコポリマーを得た後、このアルコキシシリル基を含むブロックコポリマーの保存において、そのブロックコポリマーを含有する重合液をそのまま保存してもよい。この際、重合液への外部からの水の進入を防止して、アルコキシシリル基の加水分解による消失を防止することが好ましい。また、重合液に、必要に応じて脱水剤を添加することが好ましい。その脱水剤としては、例えば、オルトギ酸トリメチル、オルトギ酸トリエチル、オルト酢酸トリメチル、オルト酢酸トリエチル、及びオルト酢酸トリプロピルなどのオルトカルボン酸エステルを挙げることができる。これらの脱水剤の1種又は2種以上を用いることができる。脱水剤は、A−Bブロックコポリマー100質量部に対し0.1〜30質量部添加することが好ましい。
[溶剤]
コーティング剤には、前述したA−Bブロックコポリマーに加えて、溶剤を含有させることができる。この溶剤としては、従来公知のものが使用され、特に限定されない。その具体例としては、前述した溶液重合の際に用いることが可能な溶媒と同様のものを挙げることができる。コーティング剤を塗布し、乾燥させて被膜を形成する際の乾燥温度や乾燥時間を抑えるために、好ましくは沸点が200℃以下、より好ましくは150℃以下の溶剤を用いるのが良い。コーティング剤には、1種又は2種以上の溶剤を含有させることができる。
[その他の成分]
コーティング剤には、必要に応じて、前述したA−Bブロックコポリマー及び溶剤のほか、その他の成分を含有させてもよい。その他の成分としては、公知の材料を用いることができ、コーティング剤の用途に合わせて、適宜選択して用いることができる。その材料としては、例えば、染料及び顔料などの着色剤;紫外線吸収剤、抗酸化剤、及び光安定剤などの耐久性向上剤;レベリング剤、消泡剤、芳香剤、抗菌剤、防かび剤、可塑剤、つや消し剤、顔料分散剤、沈降防止剤、光塩基発生剤、光酸発生剤、表面調整剤、及びチクソトロピック剤などを挙げることができる。さらに必要であれば、他のポリマー成分として、ポリオレフィン、アクリル樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、及びポリウレタンなどの熱可塑性樹脂;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、及びメラミン等の熱硬化性樹脂などをコーティング剤に含有させてもよい。また、アルコキシシリル基の反応性を上げるために、水及び塩酸などの酸性触媒、並びにアンモニア及びトリエチルアミンなどの塩基性触媒をコーティング剤に添加してもよい。上述したその他の成分は、予めコーティング剤に含有させておいてもよいし、コーティング剤を塗布する直前にコーティング剤に添加してもよい。
[コーティング剤の組成など]
コーティング剤中の各成分の含有量は、コーティング剤の用途に応じて、適宜設計されるが、例えば、A−Bブロックコポリマーの含有量は、コーティング剤の全質量を基準として、10〜80質量%程度であることが好ましい。また、コーティング剤は、適度な流動性を示す程度の適度な粘度を有することが好ましく、コーティング剤の粘度は、例えば、1.0〜10000mPa・s程度であることが好ましい。
コーティング剤は、従来公知の方法で得られ、その製造方法は特に限定されない。前述したA−Bブロックコポリマー、及び必要に応じて用いられる溶剤などの各成分を配合した後、ディスパーなどの撹拌機にて良く混合して、場合によってはフィルターにて、粗大粒子、異物、及びゴミなどを除去して、コーティング剤を製造することができる。
<コーティング剤の使用及び被膜>
本発明の一実施形態のコーティング剤を用いて、被膜を作製することができる。コーティング剤を様々な物品である基材に塗布し、コーティング剤の乾燥及び反応により、被膜を形成することができる。コーティング剤を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、インクジェット法、スクリーン印刷法、ドクタープレード法、ロールコート法、ディップ法、スプレー法、フレキソ印刷法、及びリバースロールコーター法などにより、コーティング剤を基材に塗布することができる。
コーティング剤が塗布される基材としては、特に限定されず、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、表示材料分野、エネルギー分野、分離機能材分野、及び医療材料分野などに使用される基材を挙げることができる。それらの分野における物品の表面コーティング剤や表面処理剤として、コーティング剤を好適に使用することができる。具体的には、基材の材質としては、ステンレス及び銅などの金属、ガラス、セラミック、無機酸化物、シリコン、木材、紙、ポリオレフィン及びナイロンなどのプラスチック材料、並びに炭素材料などが挙げられる。
コーティング剤を基材に塗布した後、そのコーティング剤層から、溶剤が揮発などにより除去されて、被膜が形成される。この際、コーティング剤中のA−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックのアルコキシシリル基が、基材の表面と反応し、かつ自己架橋することで、B鎖のポリマーブロックが基材に密着し、かつ三次元網目構造を形成することができる。すなわち、本発明の一実施形態のコーティング剤を基材に塗布することによって、コーティング剤中のA−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックが、アルコキシシリル基により、基材の表面と反応及び自己縮合して得られる撥水撥油性被膜を基材に形成することが可能となる。
したがって、基材としては、その表面にヒドロキシ基を有しているものが好ましく、例えば、ガラス製やシリコン製の基材をそのまま使用することができ、また、それらの基材の表面に処理によってシラノール基を生成させたものを使用することができる。また、金属製の基材である場合には、その表面の金属酸化物をオゾンなどで還元してヒドロキシ基を生じさせたものが好ましい。木材や紙などの基材もそのまま使用できる可能性がある。さらには、セラミック、金属、及び炭素材料などの表面が不活性な基材の場合には、その基材の表面を予め酸化させた後、還元してヒドロキシ基を生じさせたものや、基材の表面にシリカ、アルミナ、及びジルコニアなどの処理を行い、ヒドロキシ基を付与させたものが好ましい。
A−BブロックコポリマーにおけるB鎖のポリマーブロックが有するアルコキシシリル基の反応は、次のような反応によって行われると考えられる。すなわち、A−Bブロックコポリマーの構造中のアルコキシシリル基が、熱や空気中の水分、又は必要に応じてコーティング剤に添加される水によって、アルコールとシラノール基となり、このシラノール基が脱水縮合し、また、基材表面のヒドロキシ基と脱水縮合すると考えられる。こうした反応によって、コーティング剤による被膜と基材との密着性を向上させ、かつ、三次元網目構造により、被膜の耐久性を向上させることができる。
より詳しく説明すると、基材の表面の活性水素官能基(好ましくはヒドロキシ基)と、B鎖におけるアルコキシシリル基の加水分解によるシラノール基との脱水縮合反応によって、A−Bブロックコポリマーを基材に結合させることができる。また、A−BブロックコポリマーにおけるB鎖は多数のアルコキシシリル基を有するポリマーブロックであることから、多点で基材表面と反応し、基材に対して優れた密着性を示す被膜が得られる。そしてさらに、B鎖は多数のアルコキシシリル基を有することから、基材だけでなく、自己架橋することによって、B鎖のポリマーブロックが三次元網目構造となって、被膜の耐久性をより向上させることができる。
このとき、A−Bブロックコポリマーだけで基材と反応させてもよいが、必要に応じて、クロロシランやジアルコキシシリル基以上のアルコキシシリル基を有する低分子化合物であるアルコキシシリル化合物をコーティング剤に添加して、ゾルゲル法にて架橋構造をとってもよい。その際に使用する低分子化合物であるクロロシランやアルコキシシリル化合物は、特に限定されない。例えば、テトラクロロシラン、ジメチルジメトキシシラン、トリメトキシメチルシラン、n−ヘキシルトリエトキシシラン、ヘキシメチルジシラザン、ビニルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられる。その量も特に限定されないが、好ましくは、A−Bブロックコポリマー100質量部に対して0〜50質量部となるようにすればよい。
また、コーティング剤に、触媒を加えてアルコキシシリル基の反応を促進させてもよい。触媒としては、塩酸などの酸類;アンモニア;トリエチルアミンなどのアミン類;ジブチル錫ジラウレート、ジブチル錫オキシド、及びジブチル錫アセチルアセトナートなどの錫化合物;イソプロポキシチタンビスアセチルアセトナート及びテトライソプロポキシチタネートなどのチタン化合物などが挙げられる。
被膜を形成させるためのコーティング剤の乾燥温度は、特に限定されない。例えば、好ましくは50〜300℃、より好ましくは70〜250℃、さらに好ましくは100〜230℃である。乾燥時間としては、使用する溶剤の種類及び被膜の厚さなどによって適宜変更しうるが、例えば、10分間〜3時間程度とすることができる。また、塗布したコーティング剤を数回に分けて乾燥してもよい。例えば、1回目の乾燥で溶剤を揮発させ、2回目の乾燥で、場合によっては、より高温として、アルコキシシリル基の反応を十分にさせるという方法をとることができる。
被膜の厚さは、特に限定されず、用途に応じて適宜設計される。被膜の厚さは、数nmという単層膜であってもよいし、数十μmという厚さであってもよい。
以上のようにして、本発明の一実施形態の撥水撥油性の被膜を物品に形成させることができる。この被膜の用途としては、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、表示材料分野、エネルギー分野、分離機能材分野、及び医療材料分野などが挙げられる。
以上詳述した本発明の一実施形態のコーティング剤及び被膜は、次のような構成をとることが可能である。
[1]A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤であって、前記A鎖のポリマーブロックは、(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレート、(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下のものであり、前記B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であり、かつ、前記A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである、コーティング剤。
[2]前記(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンの平均分子量が200〜5000である前記[1]に記載のコーティング剤。
[3]前記A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.60以下である前記[1]又は[2]に記載のコーティング剤。
[4]前記A鎖のポリマーブロックが、前記(a2)炭素原子数2〜18のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレート、及び前記(a3)片末端メタクリル変性ポリシロキサンの少なくとも一方に由来する構成単位を含む前記[1]〜[3]のいずれかに記載のコーティング剤。
[5]前記アルコキシシリル基を有するメタクリレートが、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含む前記[1]〜[4]のいずれかに記載のコーティング剤。
[6]前記A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーが、全てメタクリレート系モノマーである前記[1]〜[5]のいずれかに記載のコーティング剤。
[7]前記[1]〜[6]のいずれかに記載のコーティング剤を用いて作製された被膜。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明の一実施形態のコーティング剤をさらに具体的に説明するが、そのコーティング剤は以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の文中において、「部」及び「%」との記載は、特に断らない限り、質量基準(それぞれ「質量部」及び「質量%」)である。
<実施例1>
撹拌機、逆流コンデンサー、温度計、及び窒素導入管を取り付けた反応容器に、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMAcと略記)158.1部、2−アイオド−2−シアノ−プロパン(以下、CP−1と略記)1.56部、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNと略記)1.3部、N−アイオドコハクイミド(以下、NISと略記)を0.11部、ラウリルメタクリレート(以下、LMAと略記)を132.0部入れ、窒素を流しながら80℃で撹拌した。そして、4時間重合を行い、A鎖のポリマーを合成した。得られた重合液をサンプリングしてアルミ皿にとり、130℃の乾燥機で恒量に達するまで乾燥して、固形分を測定及び算出したところ(この方法を「固形分測定法1」とする)、その重合転化率は89%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーの数平均分子量(Mn)は15200、分子量分布(PDI)は1.42であった。
次いで、得られた重合液に3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBE−503」;以下、KBE−503と略記)を23.2部添加し、80℃で3時間重合を行い、B鎖を形成させた。重合後、ほぼ定量的に得られた。得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは17800であり、PDIは1.52であった。分子量がA鎖よりも大きくなっていることから、得られたポリマーは、A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーとなっていると考えられる。ここで、B鎖の分子量については、A−Bブロックコポリマー全体のMn値から、A鎖のポリマーブロックのMn値を引くことによって算出した。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは2600となった。以下、B鎖のMnは、このようにして算出した値である。
次いで、得られた重合液を冷却し、室温(25℃;以下の室温も同じ)付近になったらトリメチルオルト酢酸(以下、TMAと略記)1.58部とPGMAc1.58部の混合物を添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の固形分は、49.2%であった。この固形分は、得られた樹脂溶液の一部をアルミ皿にサンプリングし、80℃の真空乾燥機にて恒量に達するまで、乾燥させて、その残分から算出した値である(この方法を「固形分測定法2」とする)。また、ガスクロマトグラフィーで残留モノマーを測定したが、ほとんど検出されなかった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、実施例1のコーティング剤を作製した。このようにして、炭素原子数6〜22の範囲内のアルキル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<比較例1>
上記反応容器に、PGMAcを158.1部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、LMAを132.0部、KBE−503を23.2部入れ、80℃で9時間、実施例1で述べた方法と同様の方法で重合を行った。得られた重合液をサンプリングして、上記の固形分測定法2で固形分を測定したところ、ほぼ定量的であり、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは17300、PDIは1.42であった。得られた重合液を冷却して、TMAを2.8部添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、49.3%であった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、比較例1のコーティング剤を作製した。このようにして、実施例1で使用したモノマーの種類及び使用量が共通するランダムコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<比較例2>
上記反応容器に、PGMAcを158.1部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、NISを0.11部、LMAを132.0部入れ、80℃で9時間、実施例1で述べた方法と同様の方法で重合を行った。得られた重合液をサンプリングして、上記の固形分測定法1で固形分を測定したところ、ほぼ定量的であり、GPCにて分子量を測定したところ、Mnが16100、PDIが1.38であった。得られた重合液を冷却して取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法1による固形分は、49.8%であった。得られた重合液をPGMAcで固形分20%になるように希釈して、比較例2のコーティング剤を作製した。このようにして、実施例1で製造したコーティング剤中のA−BブロックコポリマーにおけるA鎖のポリマーブロックのみに対応する、アルコキシシリル基を有しないホモポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<実施例2>
上記反応容器に、PGMAc207.1部、CP−1を1.56部、AIBNを1.3部、N−アイオドコハクイミドを0.22部、ヘキシルメタクリレート(以下、HMAと略記)を51.0部、2−エチルヘキシルメタクリレート(以下、2EHMAと略記)を99.0部、ブチルメタクリレート(以下、BMAと略記)を34.1部入れ、実施例1で述べた方法及び条件と同様にして重合を行い、A鎖のポリマーを合成した。得られた重合液の固形分を固形分測定法1にて測定及び算出したところ、その重合転化率は91%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーの数平均分子量(Mn)は23000、PDIは1.32であった。
次いで、得られた重合液に3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製、商品名「KBM−503」;以下、KBM−503と略記)を20.0部添加し、80℃で3時間重合を行い、B鎖を形成させた。重合後、ほぼ定量的に得られた。得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは24500であり、PDIは1.49であった。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは1500となった。
次いで、得られた重合液を冷却し、室温付近になったらTMA1.0部とPGMAc1.0部の混合物を添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、49.2%であった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、実施例2のコーティング剤を作製した。このようにして、炭素原子数6〜22の範囲内のアルキル基を有するメタクリレートに由来する構成単位などを含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<実施例3>
上記反応容器に、PGMAcを117.9部、ヨウ素を1.5部、2,2’−アゾビス(2−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)(和光純薬社製、商品名「V−70」;以下、V−70と略記)を5.5部、3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8−トリデカフルオロオクチルメタクリレートを64.8部入れ、窒素を流しながら45℃に加温した。3時間でヨウ素の褐色が消えレモン色になり、開始基であるヨウ素化合物となり、次いで4時間重合を行って、A鎖のポリマーを合成した。不揮発分から換算した重合転化率は94%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーのMnは5800、PDIは1.21であった。
次いで、得られた重合液にKBE−503を20.8部、ベンジルメタクリレート(以下、BzMAと略記)を25.3部添加して、6時間重合を行い、B鎖を形成させた。得られた重合液をサンプリングして固形分を測定したところ、ほぼ定量的に得られた。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは9200、PDIは1.32であった。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは3400となった。
次いで、得られた重合液を冷却し、室温付近になったらTMAを2.6部添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、48.2%であった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して、実施例3のコーティング剤を作製した。このようにして、炭素原子数2〜18の範囲内のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<実施例4>
上記反応容器に、メチルエチルケトンを193.4部、ヨウ素を1.5部、V−70を5.5部、平均分子量4900の片末端メタクリロイル変性ポリシロキサン(信越化学工業社製、商品名「X−22−174DX」)を117.6部、メチルメタクリレートを48.0部入れ、窒素を流しながら45℃に加温した。3時間でヨウ素の褐色が消えレモン色になり、開始基であるヨウ素化合物となり、次いで4時間重合を行って、A鎖のポリマーを合成した。不揮発分から換算した重合転化率は90%であった。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、A鎖のポリマーのMnは49000、PDIは1.48であった。
次いで、得られた重合液にKBE−503を20.8部添加して、6時間重合を行い、B鎖を形成させた。得られた重合液をサンプリングして固形分を測定したところ、ほぼ定量的に得られた。また、得られた重合液をサンプリングして、GPCにて分子量を測定したところ、Mnは50100、PDIは1.55であった。この結果、B鎖のポリマーブロックのMnは1100となった。
次いで、得られた重合液を冷却し、室温付近になったらTMAを1.9部添加し、撹拌後、取り出した。このように得られた樹脂溶液の上記固形分測定法2による固形分は、48.2%であった。得られた樹脂溶液をPGMAcで固形分20%に希釈して混合溶剤溶液のコーティング剤を作製した。このようにして、平均分子量200〜5000の範囲内の片末端メタクリル変性ポリシロキサンに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックと、B鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤を得た。
<被膜の作製>
実施例1〜4並びに比較例1及び2のそれぞれについて、各コーティング剤を用いて被膜を作製した。具体的には、溶剤でよく洗浄したガラス板(80mm四方、厚さ1mm)をスピンコーターにセットし、コーティング剤を最初300rpmで5秒間、次いで1200rpmで5秒間の条件でスピンコートした。次いで80℃で10分間プリベークを行った後、230℃で30分間乾燥させた。このようにして、ガラス板にコーティング剤による被膜を形成したサンプル板を作製した。実施例1〜4並びに比較例1及び2のそれぞれについて、サンプル板を4枚ずつ用意し、サンプル板の全てにおいて、厚さ1.6μmの被膜を形成した。
<評価試験>
(耐溶剤性)
500mLビーカーにテトラヒドロフラン(THF)を300mL入れ、作製したサンプル板を、ビーカーの蓋とした支持板に吊るした状態で、室温にてTHFに12時間浸漬させた。その後、サンプル板を取り出して、被膜の残存状態を目視にて確認し、以下に示す評価基準にしたがって、被膜の耐溶剤性を評価した。
○(良好):被膜が残存していた。
×(不良):被膜が残っていなかった。
(密着性)
JIS K5600−5−6に規定されるクロスカット法に基づいて、以下に示す評価基準にしたがって、ガラス板に対する被膜の密着性を評価した。
○(良好):被膜の剥がれが全く見られなかった。
×(不良):被膜の剥がれが見られた。
(撥水性)
作製したサンプル板における被膜上に、水を数滴たらして、その液滴の状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがって、被膜の撥水性を評価した。
○(良好):水が被膜上ではじいており、サンプル板を傾けたときに流れた。
×(不良):水が被膜に親和しており、サンプル板を傾けても流れなかった。
(撥油性)
作製したサンプル板における被膜上に、N−メチルピロリドン(以下、NMPと略記)を数滴たらして、その液滴の状態を観察し、以下に示す評価基準にしたがって、被膜の撥油性(以下、NMPを用いた撥油性試験を「撥油性1」と記載する。)を評価した。また、NMPをオレイン酸に変えて、撥油性1と同様の試験及び評価を行った(以下、オレイン酸を用いた撥油性試験を「撥油性2」と記載する。)。
○(良好):NMP又はオレイン酸が被膜上ではじいており、サンプル板を傾けたときに流れた。
×(不良):NMP又はオレイン酸が被膜に親和しており、サンプル板を傾けても流れなかった。
以上の試験の評価結果を表1に示す。
Figure 0006928473
比較例2のコーティング剤による被膜は、アルコキシシリル基を含まないポリマーが使用されたため、耐溶剤性と密着性に劣っていた。一方、実施例1〜4及び比較例1のコーティング剤による被膜は、コーティング剤に含有させたポリマーがアルコキシシリル基を含むため、良好な耐溶剤性と密着性を示した。これは、そのポリマーにおけるアルコキシシリル基がガラス板に反応し、かつ自己架橋して三次元網目構造を形成したためと考えられる。しかし、比較例1のコーティング剤による被膜は、撥水性及び撥油性に劣っていた。これは、比較例1のコーティング剤では、アルコキシシリル基がランダムに導入されたコポリマーが使用されたために、そのアルコキシシリル基を有するモノマーの反応性部分が被膜の表面に現れてしまい、その結果、十分な撥水性及び撥油性を示さなかったものと考えられる。
また、実施例1〜4及び比較例2のコーティング剤による被膜は、NMPを用いた撥油性(撥油性1)が良好な結果であった。これは、実施例1〜4のコーティング剤に含有させたA−Bブロックコポリマーは、その極性が低く、極性の高い溶媒であるNMPと相溶せず、はじいて撥油性が発現したものと考えられる。一方、撥油性2の試験で用いたオレイン酸は、脂肪酸(長鎖脂肪酸)であるため、実施例1及び2、並びに比較例1及び2のコーティング剤による被膜は、オレイン酸と親和し、その撥油効果は発現しなかった。しかし、実施例3及び4のコーティング剤による被膜は、オレイン酸を用いた撥油性(撥油性2)も良好な結果であった。これは、実施例3のコーティング剤に含有させたA−Bブロックコポリマーは、炭素原子数2〜18の範囲内のポリフルオロアルキル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックを含んでいたことによるものと考えられる。また、実施例4のコーティング剤に含有させたA−Bブロックコポリマーは、特定の分子量の片末端メタクリル変性ポリシロキサンに由来する構成単位を含むA鎖のポリマーブロックを含んでいたことによるものと考えられる。
以上の通り、本発明の一実施形態のコーティング剤は、撥水撥油性及び耐久性に優れた被膜を形成可能であることが確認された。
本発明の一実施形態のコーティング剤は、撥水撥油性に優れた被膜を形成可能であることから、そのコーティング剤で処理された物品にて、撥水撥油性を示す様々な用途や分野で使用されうる物品を得ることができる。例えば、ステンレス及び銅などの金属、ガラス、セラミック、無機酸化物、シリコン、木材、紙、ポリオレフィン及びナイロンなどのプラスチック材料、並びに炭素材料などの基材の撥水及び撥油加工にコーティング剤を利用することができる。そして、基材がコーティング剤によって撥水及び撥油加工された物品を、例えば、光学材料分野、電気材料分野、建築材料分野、表示材料分野、エネルギー分野、分離機能材分野、及び医療材料分野などに利用することができる。

Claims (9)

  1. A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤であって、
    前記A鎖のポリマーブロックは、(a3)平均分子量が200〜5000である片末端メタクリル変性ポリシロキサンに由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が3000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下のものであり、
    前記B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であり、かつ、前記A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである、コーティング剤。
  2. A鎖のポリマーブロック及びB鎖のポリマーブロックを含むA−Bブロックコポリマーを含有するコーティング剤であって、
    前記A鎖のポリマーブロックは、(a1)炭素原子数6〜22のアルキル基を有するメタクリレート、及び(a3)平均分子量が200〜5000である片末端メタクリル変性ポリシロキサンからなる群より選ばれる少なくとも1種に由来する構成単位を含むとともに、反応性基であるアルコキシシリル基を含まず、数平均分子量が5000〜50000であり、かつ、分子量分布が1.50以下のものであり、
    前記B鎖のポリマーブロックは、反応性基であるアルコキシシリル基を有するメタクリレートに由来する構成単位を含むとともに、数平均分子量が5000以下であって前記A鎖のポリマーブロックに比べて短い分子鎖であり、かつ、前記A−Bブロックコポリマーにおける反応性鎖として機能するものである、コーティング剤。
  3. 前記A鎖のポリマーブロックが、前記(a3)平均分子量が200〜5000である片末端メタクリル変性ポリシロキサンに由来する構成単位を含む請求項2に記載のコーティング剤。
  4. 前記A−Bブロックコポリマーの分子量分布が1.60以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載のコーティング剤。
  5. 前記アルコキシシリル基を有するメタクリレートが、メタクリロキシプロピルトリアルコキシシランを含む請求項1〜のいずれか1項に記載のコーティング剤。
  6. 前記A−Bブロックコポリマーを構成するモノマーが、全てメタクリレート系モノマーである請求項1〜のいずれか1項に記載のコーティング剤。
  7. 前記コーティング剤中の前記A−Bブロックコポリマーの含有量は、前記コーティング剤の全質量を基準として、10〜80質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のコーティング剤。
  8. 請求項1〜のいずれか1項に記載のコーティング剤を用いて作製された被膜。
  9. 基材に、請求項1〜7のいずれか1項に記載のコーティング剤を塗布し、前記B鎖のポリマーブロックにおける前記アルコキシシリル基を、前記基材の表面に反応させ、かつ、自己縮合させて被膜を形成する被膜の製造方法。
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