以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る自動運針器の側面図であり、図2は、第1実施形態に係る自動運針器の斜視図である。また、図3は、自動運針器の先端部分の斜視図であり、図4は、先端部分の平面図である。説明の便宜上、図1〜図4ではXYZ座標系を示す。第1実施形態で説明する自動運針器1は、医療用糸付針を用いて対象となる組織等を縫合する際に用いられる。対象となる組織としては、例えば脳深部等が挙げられ、自動運針器1は、鼻腔内を経由して脳深部の組織を縫合する際に用いられる。ただし、縫合の対象となる組織は上記に限定されない。また、以下の実施形態で説明する自動運針器は、脳外科、耳鼻科、あるいは眼科領域で用いられるが、使用される領域はこれらに限定されない。
図1および図2に示すように、自動運針器1は、先端に第1針支持部21を有する第1シャフト11(第2のシャフト)と、先端に第2針支持部22を有する第2シャフト12(第1のシャフト)と、を有する。2つのシャフトである第1シャフト11と第2シャフト12とは、同一方向(X軸方向)に延びていて、第2シャフト12は、第1シャフト11に対して延在方向(X軸方向)に沿ってスライド可能とされている。
また、第1針支持部21は、第1シャフト11の延在方向に対して交差する方向(自動運針器1の場合、Z軸正方向)に突出している。また、第2針支持部22は、第2シャフト12の延在方向に対して交差する方向であり、且つ、第1針支持部21の突出方向と同じ方向(自動運針器の場合、Z軸正方向)に突出している。これにより、第1針支持部21および第2針支持部22は、第1シャフト11に対する第2シャフト12のスライドにより相対的な位置関係が変化する。図1では、第1針支持部21と第2針支持部22とが当接した状態を示している。第1針支持部21および第2針支持部22は、医療用糸付針を支持する機能を有しているが、詳細は後述する。
自動運針器1は、第2シャフト12を第1シャフト11に対してスライドさせるためのハンドル30を有している。ハンドル30は、第1シャフト11と第2シャフト12とのスライドを制御する制御部として機能する。ハンドル30は、第1ハンドル31および第2ハンドル32を含んでいる。第1ハンドル31は第1シャフト11の一端側(第1針支持部21が設けられる端部側とは逆側)に対して取り付けられていて、自動運針器1の使用者が第1ハンドル31を操作するために指を挿入する開口33を有している。また、第2ハンドル32は、第2シャフト12の一端側(第2針支持部22が設けられている端部側とは逆側)に対して軸35により回動可能に軸支される。さらに、第2ハンドル32は、第1ハンドル31に対して軸36により回動可能に軸支されると共に、自動運針器1の使用者が第2ハンドル32を操作するために指を挿入する開口34を有している。
図2に示すように、第1シャフト11に対して固定されている第1ハンドル31は、第2シャフト12のスライド方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に沿って延びる溝部37を有する。第2シャフト12は、その一部が溝部37内に収容された状態で、第1シャフト11に対してスライド可能となるように、第2ハンドル32と連結されている。さらに、図2に示すように、第2シャフト12には長手方向に沿って開口13が設けられている一方、第1シャフト11には、開口13に挿入可能な位置に突起14が設けられている(図3および図4も参照)。
上記の自動運針器1では、第2ハンドル32が第1ハンドル31から離間するように操作すると、第2ハンドル32が軸36を中心に回動する。これにより、第2ハンドル32に対して軸35を介して軸支されている第2シャフト12が、スライド方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に沿ってスライドする。第2ハンドル32が第1ハンドル31から離間するように操作をすることで、第2ハンドル32の開口34が設けられている側とは逆側(軸35が設けられている側)の端部は、図2で示す矢印A方向(X軸正方向)へ移動する。この結果、軸35を介して第2ハンドル32と接続されている第2シャフト12が同じく矢印A方向へスライドする。これにより、第2シャフト12の先端に設けられた第2針支持部22が、第1シャフト11の先端に設けられた第1針支持部21から離間する。
一方、第2ハンドル32が第1ハンドル31に対して近接するように操作すると、第2ハンドル32が軸36を中心に回動し、第2ハンドル32に対して軸35を介して軸支されている第2シャフト12が、スライド方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に沿ってスライドする。第2ハンドル32が第1ハンドル31に対して近接するように操作をすることで、第2ハンドル32の開口34が設けられている側とは逆側の端部は、図2で示す矢印A方向とは逆方向(X軸負方向)へ移動する。この結果、軸35を介して第2ハンドル32と接続されている第2シャフト12が同じく矢印A方向とは逆方向へスライドする。これにより、第2シャフト12の先端に設けられた第2針支持部22は、第1シャフト11の先端に設けられた第1針支持部21に近接し、当接する。
なお、第1ハンドル31に設けられた溝部37内に第2シャフト12が収容されること、および、第2シャフト12に設けられた開口13に対して第1シャフト11の突起14が挿入されていることにより、第1シャフト11に対する第2シャフト12の移動方向が規制される。この結果、スライド方向が第2シャフト12の長手方向となるように、第2シャフト12は第1シャフト11に対してスライドする。
第1シャフト11の第1針支持部21側への第2シャフト12のスライドは、第1針支持部21と第2針支持部22との当接、および、第2シャフト12による第1ハンドル31の溝部37への当接などで規制されるが、規制の方法は特に限定されない。また、第1シャフト11の第1針支持部21から離間する側への第2シャフト12のスライドは、溝部37に収容された状態で第2ハンドル32を回動させた際の第2シャフト12の可動範囲により規制されるが、規制の方法は特に限定されない。
第1シャフト11および第2シャフト12を含む自動運針器1の材質は、自動運針器1を使用する対象となる組織に対して影響を与えない材質であれば特に限定されず、例えば、ステンレスまたはチタン合金等を用いることができる。そのほか、例えば、手術器具の材質として一般に用いられる、洗浄、消毒、または滅菌が可能な材質を用いることができる。また、自動運針器1全体の材質を共通とする必要は無く、例えば、第1シャフト11および第2シャフト12のみを上記の材質としてもよい。
第1シャフト11および第2シャフト12の長さは、自動運針器1を使用する対象となる組織に到達するのに十分な長さであれば特に限定されず、自動運針器1を使用する対象となる組織を有する患者等の体格、縫合対象の組織と自動運針器1の操作者との位置関係などに応じて適宜選択することができる。自動運針器1を、鼻腔内を経由する脳深部の縫合に使用する場合には、第1シャフト11および第2シャフト12の長さは、例えば、150mm〜170mm程度とすることができる。さらに、第1シャフト11および第2シャフト12の断面形状は特に限定されないが、例えば、四角形状とすることができる。また、第1シャフト11および第2シャフト12を合わせた外径は、自動運針器1を使用する対象となる組織に到達することが可能な外径であれば特に限定されず、自動運針器1を使用する対象となる組織を有する患者等の体格などに合わせて適宜選択することができる。自動運針器1を、鼻腔内を経由する脳深部の縫合に使用する場合には、第1シャフト11および第2シャフトを合わせた外径は、例えば、2mm〜3mm程度とすることができる。
自動運針器1では、上記の第1シャフト11に対する第2シャフト12のスライドを利用して、第1針支持部21と第2針支持部22との間で医療用糸付針の受け渡しを行う。この点について、図3および図4を参照しながら説明する。
まず、自動運針器1で使用できる糸付針50(医療用糸付針)について説明する。図3等に示すように、糸付針50は、直線状の針である直針51と、直針の基部に対して接続する糸52と、を有する。糸52は、例えば、自動運針器1の操作者により保持された状態で、自動運針器1で使用される。自動運針器1では、第2針支持部22から第1針支持部21へ向けて糸付針50の直針51を受け渡す動作が行われる。
図3および図4に示すように、第1針支持部21および第2針支持部22は、それぞれ、第1シャフト11および第2シャフト12からZ軸正方向に突出している第1爪部23および第2爪部24を有している。第1爪部23および第2爪部24の突出長(Z軸方向に沿った長さ)は、例えば、3mm〜4mm程度とされる。また、第1爪部23および第2爪部24の長さ(第1シャフト11および第2シャフト12の長手方向の厚さ:X軸方向に沿った長さ)は、例えば、1mm〜2mm程度とされる。また、第1爪部23および第2爪部24の材質は、第1シャフト11および第2シャフト12と同じであってもよいし、異なっていてもよい。
また、第1針支持部21の第1爪部23には、スライド方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に延びる第1溝部25が設けられている。第1溝部25の幅は、直針51の径よりも小さくされている。ただし、第1溝部25の幅は、第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿って直針51を挿入した際に、第1爪部23の弾性によって直針51が挿入可能であり、且つ、第1溝部25と直針51との摩擦により、第1溝部25において直針51を保持可能な程度の大きさとされる。例えば、糸付針50の直針51の外径が0.4mmであり、第1爪部23の材質がステンレスである場合には、第1溝部25の幅を0.1mm〜0.3mm程度とすることができる。
図4に示すように、第1溝部25は、第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿ってみたときに、その中程に最も幅が小さくなる縮幅部26を有している。また、第1溝部25の幅は、その両端部から縮幅部26へ向けて徐々に小さくなるテーパ状となっている。これにより、第1溝部25に対して直針51が挿入された際には、直針51は、縮幅部26において最も大きな摩擦を受けて、第1溝部25により支持される。また、テーパ状となっている部分は、第1溝部25に対して挿入された直針51の移動方向を規制し、縮幅部26へ向けて直針51を誘導する機能を有する。
第1溝部25のうち、縮幅部26へ向けてテーパ状となっている部分のテーパ角は特に限定されないが、例えば、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向に対して2°〜45°程度とすることができる。このうち、縮幅部26よりも第2針支持部22に近い側のテーパ状となっている部分のテーパ角は、例えば、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向に対して10°〜45°程度とすることができる。上記の部分のテーパ角を上記の範囲とすることで、縮幅部26への直針51の誘導を好適に行うと共に、縮幅部26による直針51の支持を好適に行うことができる。また、第2針支持部22から遠い側のテーパ状となっている部分のテーパ角は、例えば、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向に対して2°〜10°程度とすることができ、好ましくは2°〜5°とすることができ、より好ましくは、2°〜3°とすることができる。縮幅部26よりも第2針支持部22から遠い側のテーパ状となっている部分のテーパ角を上記の範囲とすることで、縮幅部26による直針51の支持を好適に行うことができる。
また、第2針支持部22の第2爪部24には、スライド方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に延びる第2溝部27が設けられている。第2溝部27は、第1針支持部21側に設けられてその幅が直針51の径よりも大きい第1領域28と、ハンドル30側に設けられてその幅が直針51の径よりも小さく且つ糸52の径よりも大きい第2領域29と、を有する。したがって、第1針支持部21側に直針51が配置されている状態で、第2溝部27に糸付針50の糸52を挿入し、糸52をハンドル30側へ引くと、糸付針50の直針51が第2溝部27の第2領域29に引っかかることで、第2溝部27内で直針51が支持される。例えば、糸付針50の直針51の外径が0.4mmであり、糸52の外径が0.15mmであり、第2爪部24の材質がステンレスである場合には、第2溝部27の第1領域28の幅を0.41mm〜0.42mm程度とし、第2領域29の幅を0.2mm〜0.3mm程度とすることができる。第2領域29の長さ(第2シャフト12の長手方向の厚さ:X軸方向に沿った長さ)は、第2領域29において直針51を支持可能であれば、特に限定されない。
図4に示すように、第1針支持部21を構成する第1爪部23の第2針支持部22側の端面、および、第2針支持部22を構成する第2爪部24の第1針支持部21側の端面は、いずれも、互いに平行な平坦面とされている。したがって、第1針支持部21と第2針支持部22とが当接した状態では、第1針支持部21の第1溝部25と、第2針支持部22の第2溝部27とが連続した状態が形成される。
上記の自動運針器1では、第2針支持部22が、受け渡し前の直針51を保持する針保持部として機能し、上記の第2爪部24および第2溝部27が、針保持部における第1の爪部および第1の溝部として機能する。また、第1針支持部21が、受け渡し後の直針51を保持する針受け部として機能し、上記の第1爪部23および第1溝部25が、針受け部における第2の爪部および第2の溝部として機能する。
次に、図5を参照しながら、自動運針器1での糸付針50(特に直針51)の受け渡しについて、説明する。
最初に、図5(a)に示すように、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21と第2針支持部22とが離間した状態とし、糸付針50の糸52を第2針支持部22の第2溝部27内に収容する。このとき、糸付針50の直針51は第1針支持部21側に配置される。この状態で、自動運針器1の操作者が糸付針50の糸52をハンドル30側へ引くと、図5(b)に示すように、糸付針50の直針51が第2溝部27の第2領域29に引っかかる。これにより、糸付針50の直針51が第2針支持部22の第2溝部27内に保持される状態となる。
次に、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、図5(c)に示すように、第1針支持部21に対して第2針支持部22を当接させる。第2針支持部22の移動に伴って、第2針支持部22に支持された糸付針50の直針51も移動し、その先端が第1針支持部21の第1溝部25内に挿入される。
第1シャフト11に対する第2シャフト12のスライド速度は、自動運針器1の操作者によるハンドル30の操作速度によって決まるが、ある程度の速度を持って第1針支持部21と第2針支持部22とが当接することになる。第2針支持部22の第2溝部27で支持されていた直針51の先端は、第1針支持部21の第1溝部25内に挿入され、縮幅部26を通過することになる。これにより、縮幅部26により直針51の先端が挟み込まれ、直針51は、第1針支持部21の第1溝部25により保持される。
その後、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21と第2針支持部22とを離間させる。このとき、第1針支持部21による直針51の保持力は、第2針支持部22による保持力よりも大きいため、直針51は第1針支持部21により保持された状態となる。すなわち、直針51が第2針支持部22から第1針支持部21に対して受け渡された状態となる。
上記の一連の動作において、第1針支持部21と第2針支持部22との間に縫合対象となる組織が配置されるように、自動運針器1の先端部分を配置し、図5(c)〜図5(d)で示すように、第2針支持部22から第1針支持部21に対して直針51を受け渡すことで、縫合対象の組織等に対して直針51を貫通させることができる。縫合対象の組織に対して直針51を貫通させた後は、例えば、第1針支持部21と第2針支持部22との間に組織が配置されないように自動運針器1を移動させた上で、自動運針器1を操作者側に引き戻す。これにより、直針51の後段の糸52が、直針51により組織に形成された貫通孔を通過する。
このように、本実施形態に係る自動運針器1では、第1シャフト11の端部に針受け部として機能する第1針支持部21が設けられ、第1シャフト11と同一方向に延びる第2シャフト12の端部に針保持部として機能する第2針支持部22が設けられる。そして、第1シャフト11および第2シャフト12は、ハンドル30の操作により、第2シャフト12が第1シャフト11に対して長手方向に沿ってスライドする。この動作によって、第2針支持部22の針保持部から、第1針支持部21の針受け部に対して直針51を受け渡すことができる。したがって自動運針器1では、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面における、医療用糸付針の運針を行うことが可能である。
従来から、体内深部での組織の縫合等に運針器が用いられていたが、従来の運針器では、器具の長手方向に沿った運針を行うことが困難であった。そのため、縫合作業を行うための空間が十分に確保できない場所での縫合が困難であった。例えば、脳深部に対して鼻腔からアプローチする場合のように、体表の開口部から挿入して体内深部で縫合作業を行う場合には、体内深部へアプローチするための器具が移動可能な空間が限られているだけでなく、体内深部の縫合作業を行う空間も狭い。さらに、縫合面が器具の長手方向に対して交差する方向である場合、従来の運針器を用いた縫合作業は困難である場合が多かった。
これに対して、本実施形態に係る自動運針器1によれば、第2針支持部22の針保持部から、第1針支持部21の針受け部に対して直針51の受け渡しが可能な構成であるため、器具の長手方向に沿った運針が可能となる。そのため、特に、器具の長手方向に対して交差する方向の空間が狭く、器具の移動が制限される場合であっても、縫合のための運針を好適に行うことができる。
また、自動運針器1では、針受け部として機能する第1針支持部21は、第1シャフト11および第2シャフト12の長手方向に沿って、ハンドル30に対して針保持部として機能する第2針支持部22よりも離間している。そのため、針保持部から針受け部への直針の受け渡しにより、ハンドル30から離間する方向への直針の運針が可能となる。
また、自動運針器1では、第1針支持部21の第1溝部25は、第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿ってみたときに、その中程に縮幅部26を有していて、第1溝部25に対して挿入された直針51が、縮幅部26において最も大きな摩擦を受けて、第1溝部25により支持される構造とされている。このような構造を有していることで、第1針支持部21の第1溝部25において支持される直針51は、第1針支持部21により支持された状態を維持しながら、縮幅部26を軸として第1溝部25の形成面に沿った回動が可能とされる。そのため、例えば、第1針支持部21と第2針支持部22との間に組織が配置されないように自動運針器1を移動させる際に、直針51は、第1針支持部21の第1溝部25における縮幅部26を軸として回動することができる。したがって、第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿ってハンドル30から離間する方向(X軸負方向)へ直針51を移動させることなく、第1針支持部21と第2針支持部22との間に組織が配置されないように自動運針器1を(例えば、図3のZ軸負方向へ)移動させることができる。このように、第1溝部25が縮幅部26を有していることで、縫合作業を行う空間がより狭い場合であっても、直針51の運針を好適に行うことができる。
なお、上記実施形態では、第1針支持部21と第2針支持部22とが「当接する」場合について説明したが、第1針支持部21と第2針支持部22とは当接する必要はなく、第1シャフト11と第2シャフト12との間のスライドにより、第1針支持部21と第2針支持部22との間で直針51の受け渡しができる程度に近接可能であればよい。2つのシャフトとしての第1シャフト11および第2シャフト12のスライドにより、針保持部(第2針支持部22)と針受け部(第1針支持部21)とが近接し、針保持部(第2針支持部22)で保持される直針51を針受け部(第1針支持部21)に圧入することが可能とされていればよい。したがって、直針51の受け渡しを行う際に、第1針支持部21と第2針支持部22とが当接せず、例えば、1mm〜数mm程度のギャップが設けられていてもよい。この点については、以降の実施形態で説明する自動運針器においても同様である。
(第2実施形態)
次に、自動運針器の第2実施形態について、図6および図7を参照しながら説明する。図6は第2実施形態に係る自動運針器2の先端部分の斜視図であり、図7は、先端部分の平面図である。
図6および図7に示す自動運針器2は、自動運針器1と比較して以下の点が相違する。すなわち、自動運針器2では、第1針支持部21が、受け渡し前の直針51を保持する針保持部として機能し、第2針支持部22が、受け渡し後の直針51を保持する針受け部として機能する。したがって、自動運針器2では、第1針支持部21および第2針支持部22の機能が自動運針器1とは逆になる。
自動運針器2の第1針支持部21および第2針支持部22には、それぞれ第1シャフト11および第2シャフト12の長手方向に対して交差する方向に突出する第1爪部23および第2爪部24が設けられる。
第1針支持部21の第1爪部23には、スライド方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に延びる第1溝部25が設けられている。ただし、自動運針器2の第1溝部25は、自動運針器1の第2溝部27と同様に、第2針支持部22側に設けられてその幅が直針51の径よりも大きい第1領域28と、自動運針器2の先端側に設けられてその幅が直針51の径よりも小さく且つ糸52の径よりも大きい第2領域29と、を有する(図7参照)。したがって、第1針支持部21の第1領域28を利用して直針51を第1溝部25に対して保持させることができる。
また、第2針支持部22の第2爪部24には、スライド方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に延びる第2溝部27が設けられている。第2溝部27の幅は、直針51の径よりも小さくされている。ただし、第2溝部27の幅は、第2溝部27の延在方向(第2シャフト12の長手方向:X軸方向)に沿って、第1針支持部21側から直針51を挿入した際に、第2爪部24の弾性によって直針51が挿入可能であり、且つ、第2溝部27と直針51との摩擦により、第2溝部27において直針51を保持可能な程度の大きさとされる。また、第2溝部27においても、縮幅部26が設けられる。
上記の構造を有する自動運針器2においても、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面における、医療用糸付針の運針を行うことが可能である。ただし、運針方向が自動運針器1とは逆になる。自動運針器2による運針の手順は概略自動運針器1と同じであるが、針保持部と針受け部とが逆の配置になっているため、運針の方向が逆転する。
具体的な手順は以下の通りである。まず、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21と第2針支持部22とが離間した状態とし、糸付針50の糸52を第1針支持部21の第1溝部25内に収容する。このとき、糸付針50の直針51は第2針支持部22側に配置される。この状態で、自動運針器1の操作者が糸付針50の糸52を自動運針器2の先端側(ハンドル30側とは逆側)へ引くと、糸付針50の直針51が第2溝部27の第2領域29に引っかかる。これにより、糸付針50の直針51が第1針支持部21の第2溝部27内に保持される状態となる。
次に、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21に対して第2針支持部22を当接させる。第2針支持部22が第1針支持部21に当接すると、直針51の先端は、第2針支持部22の第2溝部27内に挿入され、縮幅部26を通過することになる。これにより、縮幅部26により直針51の先端が挟み込まれ、直針51は、第2針支持部22の第2溝部27により保持される。
その後、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21と第2針支持部22とを離間させる。このとき、第2針支持部22による直針51の保持力は、第1針支持部21による保持力よりも大きいため、直針51は第2針支持部22により保持された状態となる。すなわち、直針51が第1針支持部21から第2針支持部22に対して受け渡された状態となる。図6では、糸付針50の直針51が第1針支持部21から第2針支持部22に対して受け渡された状態を示している。
上記の一連の動作において、第1針支持部21と第2針支持部22との間に縫合対象となる組織が配置されるように、自動運針器2の先端部分を配置し、第1針支持部21から第2針支持部22に対して直針51を受け渡すことで、縫合対象の組織等に対して直針51を貫通させることができる。縫合対象の組織に対して直針51を貫通させた後は、例えば、第1針支持部21と第2針支持部22との間に組織が配置されないように自動運針器1を移動させた上で、自動運針器1を操作者側に引き戻す。これにより、直針51の後段の糸52が、直針51により組織に形成された貫通孔を通過する。
このように、自動運針器2では、第1シャフト11の端部に針保持部として機能する第1針支持部21が設けられ、第1シャフト11と同一方向に延びる第2シャフト12の端部に針受け部として機能する第2針支持部22が設けられる。そして、第1シャフト11および第2シャフト12は、ハンドル30の操作により、第2シャフト12が第1シャフト11に対して長手方向に沿ってスライドする。この動作によって、第1針支持部21の針保持部から、第2針支持部22の針受け部に対して直針51を受け渡すことができる。したがって自動運針器2においても、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面における、医療用糸付針の運針を行うことが可能である。
また、自動運針器1および自動運針器2では、直針51の運針方向が互いに逆となる。自動運針器1では、ハンドル30側から自動運針器1の先端方向(第1針支持部21および第2針支持部22が設けられる側)へ、すなわち、ハンドル30から離間する方向(X軸負方向)への直針51の運針を行うことができる。一方、自動運針器2では、自動運針器1の先端方向(第1針支持部21および第2針支持部22が設けられる側)からハンドル30側へ、すなわち、ハンドル30に対して近接する方向(X軸正方向)への直針51の運針を行うことができる。
したがって、自動運針器1および自動運針器2を組み合わせて使用することで、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面において、操作者から離間する方向および近接する方向の双方向での医療用糸付針の運針を行うことが可能となり、縫合面の縫合を好適に行うことができる。なお、自動運針器1および自動運針器2を用いた組織の縫合の具体的な手順は、以下のとおりである。例えば、体深部組織の2点間を縫合したい場合、まず、体外で自動運針器1に糸付針50をセットして体内に挿入し、組織の1点に直針51を貫通させた後、そのまま体外に引き出す。次に体外にて自動運針器1から糸付針50を取り外し、自動運針器2にセットし直して、糸52のたるみを取りながら再び体内に挿入し、縫合対象の組織の他点に針を貫通させる。最後に、自動運針器2と共に糸付針50を体外に引き出し、結び目を作ったうえでノットプッシャー等により結び目を体内に送り込むことで結紮し、縫合が完了する。このように、自動運針器1および自動運針器2を組み合わせて使用することで、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面での縫合を好適に行うことが可能となる。
(第3実施形態)
次に、自動運針器の第3実施形態について、図8〜図10を参照しながら説明する。図8は第3実施形態に係る自動運針器3の概略構成図であり、図9および図10は、先端部分の斜視図であって、自動運針器3の使用方法を説明する図である。
第3実施形態として説明する自動運針器3は、自動運針器1および自動運針器2としての機能を有している。すなわち、自動運針器3は、器具の長手方向(第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向)に対して交差する縫合面での操作者から離間する方向および近接する方向の双方向での医療用糸付針の運針を可能とする。したがって、自動運針器3は、自動運針器1における第1シャフト11および第2シャフト12と同様に長手方向に延びるシャフト部60と、シャフト部60の先端部に設けられて自動運針器1における針保持部(第2シャフト12の第2針支持部22)と同様の機能を有する針保持部61と、シャフト部60の先端部に設けられて自動運針器1における針受け部(第1シャフト11の第1針支持部21)と同様の機能を有する針受け部62と、針保持部61および針受け部62の動作を制御する制御部70と、を有する。
シャフト部60は、第1シャフト11および第2シャフト12を一体的に構成したものであり、第1シャフト11および第2シャフト12と同様の機能を有する。すなわち、針保持部61と針受け部62との位置関係を変更するための機能を有する。また、シャフト部60は、制御部70による、後述の針保持部61および針受け部62の回動に係る制御や、針保持部61におけるフック67の動作等の制御動作を、各部に伝達する機能を有する。
針保持部61は、自動運針器1および自動運針器2における針保持部と同様に、爪部63と、爪部63内に形成された溝部64と、を有する。溝部64は、第2針支持部22側(針受け部と対向する側)に設けられてその幅が直針51の径よりも大きい第1領域と、ハンドル30側(針受け部と離間する側)に設けられてその幅が直針51の径よりも小さく且つ糸52の径よりも大きい第2領域と、を有する。したがって、針保持部61における直針51の保持能力は、自動運針器1および自動運針器2における針保持部と同程度とされる。さらに針保持部61は、針保持部61が直針51を保持している場合に、直針51を物理的に保持するフック67を有する。フック67を利用して、針受け部62から針保持部61への直針51の受け渡しを行う。詳細は後述する。
針受け部62は、自動運針器1および自動運針器2における針受け部と同様に、爪部65と、爪部65内に形成された溝部66と、を有する。溝部66は、シャフト部60の移動方向に延びる。溝部66の幅は、直針51の径よりも小さくされている。ただし、溝部66の幅は、溝部66の延在方向に沿って針保持部61側から直針51を挿入した際に、爪部63の弾性によって直針51が挿入可能であり、且つ、溝部66と直針51との摩擦により、溝部66において直針51を保持可能な程度の大きさとされる。
針保持部61および針受け部62は、シャフト部60の先端に設けられた回動軸68を中心に回動可能とされている。回動軸68は、シャフト部60の延在方向に対して交差する方向(図9および図10に示す例では、シャフト部60の延在方向に対して直交する方向)に延びている。また、針受け部62は、針保持部61に対してシャフト部60の延在方向に沿ってスライド可能とされている。したがって、針保持部61と針受け部62との距離は変更可能であり、自動運針器1および自動運針器2と同様に、針保持部61と針受け部62とは当接可能であり、且つ、離間可能である。
制御部70は、回動軸68を中心とした針保持部61および針受け部62の回動、シャフト部60の延在方向に沿った針受け部62の移動(スライド)、および、針保持部61におけるフック67の制御等を行う機能を有する。そのため、制御部70は、操作レバー71〜73等を有する。操作レバー71〜73の配置、および、操作レバー71〜73それぞれの機能等は特に限定されない。
次に、図9および図10を参照しながら、自動運針器3での糸付針50(特に直針51)の運針について、説明する。
最初に、図9(a)に示すように、針保持部61と針受け部62とが離間した状態とし、糸付針50の糸52を針保持部61の溝部64内に収容する。このとき、糸付針50の直針51の先端は針受け部62側に配置される。この状態で、自動運針器3の操作者が糸付針50の糸52をハンドル30側へ引くと、図9(a)に示すように、糸付針50の直針51が第2溝部27の第2領域に引っかかる。これにより、糸付針50の直針51が針保持部61の溝部64内に保持される状態となる。
次に、図9(b)に示すように、制御部70の制御によって針受け部62に対して針保持部61を当接させる。針保持部61の移動に伴って、針保持部61に支持された糸付針50の直針51も移動し、その先端が針受け部62の溝部66内に挿入される。
その後、針受け部62と針保持部61とを離間させる。このとき、針受け部62による直針51の保持力は、針保持部61による保持力よりも大きいため、直針51は針受け部62により保持された状態となる。すなわち、図9(c)に示すように、直針51が針保持部61から針受け部62に対して受け渡された状態となる。
上記の一連の動作において、針受け部62と針保持部61との間に縫合対象となる組織が配置されるように、自動運針器3の先端部分を配置し、針保持部61から針受け部62に対して直針51を受け渡すことで、縫合対象の組織等に対して直針51を貫通させることができる。
縫合対象の組織に対して直針51を貫通させた後は、例えば、針受け部62と針保持部61との間に組織が配置されないように自動運針器1を移動させた上で、直針51を針受け部62から針保持部61側に引き戻す。具体的には、縫合対象の組織等から離れた場所で、再度針受け部62に対して針保持部61を当接させる。このとき、針受け部62側に保持されている直針51の糸52側端部が針保持部61の溝部64内に収容された状態となる。ここで、フック67を利用して針保持部61の溝部64内で直針51を固定し、その状態で針受け部62と針保持部61とを離間させる。すると、直針51は再び針保持部61側へ移動する。この直針51の針保持部61側への受け渡しは、自動運針器3の先端部分を縫合対象の組織の付近から操作者側へ引き戻した状態で行うことができる。
次に、縫合面において直針51が操作者側へ向かうように運針を行う。まず、図10(a)および図10(b)に示すように、針保持部61と針受け部62とが離間した状態とし、回動軸68を軸心として針保持部61および針受け部62を約180度回動させる。この結果、回動前(図9(a)〜図9(c)に示す状態)は、針受け部62に対して針保持部61が操作者側に設けられていたが、回動後(図10(b)に示す状態)は、針受け部62に対して針保持部61が遠方側(操作者から離間した側)に配置される。すなわち、シャフト部60の長手方向に沿った針保持部61と針受け部62との位置関係が逆転する。また、直針51は、針保持部61に保持されたまま回動するので、回動後はその先端が操作者側に向くように配置される。
図10(b)に示す状態では、針受け部62をシャフト部60に沿ってスライドさせて、針保持部61と針受け部62とが離間した状態となっている。この状態で、制御部70の制御により、図10(c)に示すように針受け部62に対して針保持部61を当接させる。すると、針保持部61の移動に伴って、針保持部61に支持された糸付針50の直針51も移動し、その先端が針受け部62の溝部66内に挿入される。
その後、針受け部62と針保持部61とを離間させる。このとき、針受け部62による直針51の保持力は、針保持部61による保持力よりも大きいため、直針51は針受け部62により保持された状態となる。すなわち、図10(d)に示すように、直針51が針保持部61から針受け部62に対して受け渡された状態となる。
針保持部61および針受け部62を回動軸68に沿って回動した後の一連の動作において、針受け部62と針保持部61との間に縫合対象となる組織が配置されるように、自動運針器3の先端部分を配置し、針保持部61から針受け部62に対して直針51を受け渡すことで、縫合対象の組織等に対して直針51を貫通させることができる。このときの直針51の貫通方向は、操作者の遠方側から操作者に近い側へ向かう方向、すなわち操作者へ近接するとなる。
縫合対象の組織に対して直針51を貫通させた後は、例えば、針受け部62と針保持部61との間に組織が配置されないように自動運針器3を移動させた上で、自動運針器3の先端を操作者側へ引き戻す。これにより、自動運針器3による縫合、特に、操作者から離間する方向および近接する方向の双方向での直針51の運針が行われる。
このように、第3実施形態に係る自動運針器3においても、器具の長手方向(シャフト部60の延在方向)に対して交差する縫合面において、操作者から離間する方向および近接する方向の双方向での医療用糸付針の運針を行うことが可能となり、縫合面の縫合を好適に行うことができる。また、自動運針器3では、操作者から離間する方向および近接する方向の双方向での直針51の運針を行うことが可能となるため、自動運針器1および自動運針器2のように、特定の方向への直針51の運針を行うことができる運針器を持ち替えて使用する必要はなくなるため、作業効率が向上する。
(第4実施形態)
次に、自動運針器の第4実施形態について、図11を参照しながら説明する。第4実施形態では、第1実施形態で説明した自動運針器1のうち受け渡し後の直針51を保持する針受け部として機能する第1針支持部21の形状を変更した例について説明する。図11(a)および図11(b)は、第1針支持部21の変形例を示す図であり、第1針支持部の先端部分の平面図である。
第1実施形態では、第1針支持部21の第1爪部23に設けられた第1溝部25は、第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿ってみたときに、その中程に最も幅が小さくなる縮幅部26を有している場合について説明した。また、第1実施形態では、第1溝部25の幅は、その両端部から縮幅部26へ向けて徐々に小さくなるテーパ状となっていた。これに対して、図11(a)に示す第1針支持部21Aでは、その形状が異なっている。
具体的には、第1針支持部21Aの第1爪部23Aでは、第1溝部25はその幅が第1溝部25の延在方向(第1シャフト11の長手方向:X軸方向)に沿って同一とされている。すなわち、第1溝部25は、延在方向に沿った幅が均一である。なお、第1溝部25の幅は、第1溝部25と直針51との摩擦により、第1溝部25において直針51を保持可能な程度の大きさとされる。例えば、糸付針50の直針51の外径が0.4mmであり、第1爪部23Aの材質がステンレスである場合には、第1溝部25の幅を0.1mm〜0.2mm程度とすることができる。
また、第1針支持部21Aのうち、第2針支持部と対向する端面、すなわち直針51が挿入される側の端面211は、第1溝部25の延在方向(X軸方向)に対して直交する(すなわち、YZ平面に沿って延びる)平坦面とされている。この結果、第1針支持部21Aでは、第1溝部25の端面211側端部において、第1溝部25と端面211によって、平面視において端部の角度が90°となる一対の角部221,222が形成される。
直針51が第1針支持部21Aの第1爪部23Aに設けられた第1溝部25に挿入される際、直針51は角部221,222に当接し、且つ、角部221,222に挟まれた状態で第1溝部25に挿入される。このとき、直針51に対して当接する角部221,222は、平面視においてなす角度が90°とされている。これにより、一般的に円錐状である直針51の先端は、角部221,222に対して平面視において点で接触した状態となる。直針51を第2針支持部(針保持部)から第1針支持部21A(針受け部)へ受け渡す際には、直針51が縫合対象とする組織を貫通する必要があるが、この角部221,222と直針51との接点において組織が固定されることになる。このとき、角部221,222と直針51との接点において固定された組織は、直針51から離間する方向に向かう力を受ける。すなわち、直針51の先端部分が第1溝部25へ挿入された際に、直針51の移動に追随して組織が移動し、例えば、第1溝部25の内部へ入り込むことが防がれる。
このように、平面視において、第1針支持部21A(第1爪部23A)の第1溝部25の端部(直針51が挿入される側の端部)において、直針51と当接する角部221,222が90°またはそれ以下の鋭角とされている場合、直針51との当接部分において組織が固定されるため、その移動(特に、直針51に追随した第1溝部25内へ向かう方向の移動)を規制することができる。そのため、第1溝部25内への組織の入り込み等を防ぐことができる。この効果は、例えば、組織が硬膜である場合のように、直針51が貫通するためにはある程度の力が必要となるときに特に有効であると考えられる。ただし、貫通させる組織の硬さにかかわらず上記構成とすることで、直針51の受け渡し時(すなわち組織への直針51の貫通時)に、第1針支持部21Aの第1溝部25へ組織が入り込むことを防ぐことができる。
なお、平面視において角部221,222が直角または鋭角となるための簡単な構成の一例としては、図11(a)に示すように第1溝部25の幅がその延在方向に沿って均一であって、端面211が第1溝部25の延在方向に対して直交する面であることが挙げられる。ただし、この構成に限定されるものではない。
図11(b)は、図11(a)で示した第1針支持部21Aをさらに変形した第1針支持部21Bの第1爪部23Bを示している。第1針支持部21Bでは、第1針支持部21Aと同様に、平面視において、第1針支持部21B(第1爪部23B)の第1溝部25の端部(直針51が挿入される側の端部)において、直針51と当接する角部221,222が鋭角とされている。また、第1針支持部21Bでは、角部221,222が鋭角となるように、第1溝部25の幅が第1溝部25の延在方向(X軸方向)に対して均一となっているのではなく、角部221,222の内側に凹部25aが設けられている。このような第1針支持部21B(第1爪部23B)であっても、上記のように角部221,222が平面視において鋭角とされているので、直針51との当接部分において組織が固定されるため、その移動(特に、直針51に追随した第1溝部25内へ向かう方向の移動)を規制することができる。そのため、第1溝部25内への組織の入り込み等を防ぐことができる。
なお、図11(a)、図11(b)の両方において、第1針支持部21A,21Bの端面211が平坦面とされているが、この形状には限定されない。例えば、角部221,222が端面211よりも突出するような形状とされていてもよい。また、第1溝部25の形状も図11(b)に示すように適宜変更することができる。また、図11(a)、図11(b)では、針受け部が第1針支持部である場合について説明したが、自動運針器2のように針受け部が第2針支持部である場合にも、第2針支持部を上記の構造とすることで、上記の効果を得ることができる。
また、図11(a)、図11(b)で示した構成は、自動運針器1〜3のような構造とは異なる構造の自動運針器にも適用することができる。自動運針器1〜3は、概略、同一方向に延在し、長手方向に沿って互いにスライド可能な2つのシャフトと、2つのシャフトのうちの第1のシャフトの一端側に設けられた針保持部と、2つのシャフトのうちの第2のシャフトの一端側に設けられた針受け部と、を有している。また、自動運針器1〜3は、長手方向で見たときに針保持部および針受け部が設けられる一端側とは逆側に設けられて、前記2つのシャフトのスライドを制御する制御部を有し、制御部における制御によって、2つのシャフトをスライドさせることにより、針保持部と針受け部とが近接し、針保持部で保持される直針が針受け部へ受け渡される。これに対して、図11(a)、図11(b)で示す針受け部は、いわゆる横開き型の自動運針器にも適用することができる。
図12は、横開き型の自動運針器100の構成例を説明する図である。自動運針器100は、先端に第1針支持部121を有する第1シャフト111と、先端に第2針支持部122を有する第2シャフト112と、を有する。2つのシャフトである第1シャフト111と第2シャフト112とは、同一方向(X軸方向)に延びている。第2シャフト112の先端には、軸12bを基準に回動可能なスイングアーム112aが設けられていて、第2針支持部122はスイングアーム112aの先端に設けられている。
第1針支持部121は、第1シャフト111の延在方向に対して交差する方向(自動運針器100の場合、Z軸正方向)に突出している。また、第2針支持部122は、第2シャフト112のスイングアーム112aの延在方向に対して交差する方向であり、且つ、第1針支持部121に対向する方向(自動運針器100の場合、スイングアーム112aがX軸方向に延在している状態において、Z軸負方向)に突出している。これにより、第1針支持部121および第2針支持部122は、スイングアーム112aの回動によって相対的な位置関係が変化する。
自動運針器100は、第1シャフト111に対してスイングアーム112aを回動させるためのハンドル130を有している。ハンドル130は、第1ハンドル131および第2ハンドル132を含んでいる。第1ハンドル131は第1シャフト111の一端側(第1針支持部121が設けられる端部側とは逆側)に対して取り付けられていて、自動運針器100の使用者が第1ハンドル131を操作するために指を挿入する開口133を有している。また、第2ハンドル132は、第2シャフト112の一端側(第2針支持部122が設けられている端部側とは逆側)に対して軸135により回動可能に軸支される。さらに、第2ハンドル132は、第1ハンドル131に対して軸136により回動可能に軸支されると共に、自動運針器100の使用者が第2ハンドル132を操作するために指を挿入する開口134を有している。
上記の自動運針器100では、第2ハンドル132が第1ハンドル131から離間するように操作すると、第2ハンドル132が軸136を中心に回動する。第2ハンドル132が第1ハンドル131から離間するように操作をすることで、第2ハンドル132の開口134が設けられている側とは逆側(軸135が設けられている側)の端部は、X軸正方向へ移動する。この結果、軸135を介して第2ハンドル132と接続されている第2シャフト112においてスイングアーム112aが軸112bを中心に回動し、スイングアーム112aの先端に設けられた第2針支持部122が、第1シャフト111の先端に設けられた第1針支持部121に対して近接し離間する。
一方、第2ハンドル132が第1ハンドル131に対して近接するように操作すると、第2ハンドル132が軸136を中心に回動する。第2ハンドル132が第1ハンドル131に対して近接するように操作をすることで、第2ハンドル132の開口134が設けられている側とは逆側の端部は、X軸負方向へ移動する。この結果、軸135を介して第2ハンドル132と接続されている第2シャフト112においてスイングアーム112aが軸112bを中心に回動し、スイングアーム112aの先端に設けられた第2針支持部122が、第1シャフト111の先端に設けられた第1針支持部121に対して近接し当接する。
上記の自動運針器100において、第2針支持部122が針保持部として機能し、第1針支持部121が針受け部として機能する場合、第1針支持部121の第1爪部123には、自動運針器1〜3等と同様に、直針51の受け渡しに用いられる第1溝部が設けられる。また、第2針支持部122の第2爪部124にも、自動運針器1〜3等と同様に、直針51の受け渡しに用いられる第2溝部が設けられる。第1溝部および第2溝部は、それぞれ、直針51の延在方向(Z軸方向)に沿って延びるように設けられる。そして、第1溝部および第2溝部の間で直針51を受け渡すことで運針が行われる。この点は、自動運針器1〜3と同様である。
ここで、第1針支持部121が針受け部である場合、第1針支持部121(第1爪部123)の第1溝部の端部(直針51が挿入される側の端部)において、直針51と当接する角部221,222が設けられ、また、角部の先端の角度が90°またはそれ以下の鋭角とされている場合、直針51との当接部分において組織が固定されるため、その移動(特に、直針51に追随した第1溝部内へ向かう方向の移動)を規制することができる。そのため、運針時の第1溝部内への組織の入り込み等を防ぐことができる。この効果は、長手方向に2つのシャフトがスライドすることで運針が行われる自動運針器1〜3に限られず、いわゆる横開き型の自動運針器100でも同様の効果が奏される。なお、自動運針器100においても、第1針支持部121および第2針支持部122のどちらを針保持部とし、どちらを針受け部とするかは適宜変更することができる。また、横開き型の自動運針器100の動作機構は上記で説明したものに限定されない。
(第5実施形態)
図13を参照しながら、第5実施形態に係る自動運針器4について説明する。自動運針器4は、自動運針器1,2と比較して以下の点が相違する。すなわち、自動運針器4は、自動運針器1,2と比較して、第1針支持部21の第1爪部23および第2針支持部22の第2爪部24の突出方向が異なる。また、自動運針器4は、第1シャフト11および第2シャフト12は長手方向に沿って互いにスライド可能であると共に、長手方向に対して交差する方向にも相対位置が変化するようにスライド方向が異なる点も、自動運針器1,2と相違する。
図13に示すように、自動運針器4では、第1シャフト11および第2シャフト12が両端に回動軸を有する略棒状(長尺板状)のリンク部材80によって接続されている点が自動運針器1,2と異なる。自動運針器4のリンク部材80は、第1シャフト11上であって、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向(X軸方向)に対して直交する方向(Y軸方向)に沿って延びる第1軸81と、第2シャフト12上であって、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向(X軸方向)に対して直交する方向(Y軸方向)に沿って延びる第2軸82と、を有する。第1軸81および第2軸82は、リンク部材80の両端に設けられる。
第1シャフト11とリンク部材80とは第1軸81を軸心として互いに回動可能であり、第2シャフト12とリンク部材80とは第2軸82を軸心として互いに回動可能である。この結果、第1シャフト11および第2シャフト12は、長手方向に沿ってスライドする際に、リンク部材80による移動方向の規制を受ける。この結果、リンク部材80の延在方向によって、第1シャフト11と第2シャフト12との距離(Z軸方向の距離)が変化する構成が実現される。なお、自動運針器4では、制御部として機能するハンドル30側での第2シャフト12の移動が規制されないような構造とされている。例えば、自動運針器1では、第2シャフト12の一部が溝部37内に収容された状態で、第1シャフト11に対してスライド可能となるように、第2ハンドル32と連結されているが、溝部37が第2シャフト12の上下方向(Z軸方向)の移動に干渉する場合、その構造を変更してもよい。
また、自動運針器4においては、第1針支持部21Dの第1爪部23Dおよび第2針支持部22Dの第2爪部24Dは、それぞれ、第1シャフト11および第2シャフト12からZ軸正方向に対して第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向(X軸方向)に沿って(X軸負方向へ)45°傾斜した方向に突出している。このように、自動運針器4における第1爪部23Dおよび第2爪部24Dの突出方向は、自動運針器1,2とは異なっている。しかしながら、第1溝部25および第2溝部27は、自動運針器1,2と同様に、第1爪部23Dおよび第2爪部24Dの上側端部に形成されている。そのため、例えば第1溝部25に直針51を保持させた場合、図13に示すように、直針51は、第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向(X軸方向)に対して45°傾斜した状態で、第1針支持部21Dに保持される。
次に、図14を参照しながら、自動運針器4での糸付針50(特に直針51)の受け渡しについて、説明する。
最初に、図14(a)に示すように、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21Dと第2針支持部22Dとが離間した状態とし、糸付針50の直針51を第1針支持部21Dの第1溝部25内に収容した状態で保持する。糸付針50の第1針支持部21Dへの保持の仕方は、第1実施形態等で説明した手順と同様である。
次に、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、図14(d)に示すように、第1針支持部21Dに対して第2針支持部22Dを当接させる。このとき、リンク部材80によって、移動方向が規制されるので、図14(b)および図14(c)に示すように、第1軸81および第2軸82を軸心としてリンク部材80が回動するように第1シャフト11および第2シャフト12の相対位置が変化する。その結果、図14(b)の矢印Bで示すように、第1シャフト11の第1針支持部21Aに対して第2シャフト12の第2針支持部22Aが概円弧を描くようにして近接する。この結果、第1針支持部21D(第1爪部23D)の近傍では、直針51の延在方向に対して直交するように第2針支持部22D(第2爪部24D)が近接し、図14(d)に示すように、第1針支持部21Dに対して第2針支持部22Dが当接する。この動作により、第1針支持部21Dの第1溝部25で支持されていた直針51の先端は、第2針支持部22Dの第2溝部27内に挿入される。これにより、直針51は、第2針支持部22Dの第2溝部27により保持される。なお、第2溝部27には、上述の自動運針器1,2と同様に縮幅部が設けられていてもよい。また、第4実施形態と同様に、角部が直角または鋭角とされていてもよい。
その後、第1シャフト11に対して第2シャフト12をスライドさせて、第1針支持部21Dと第2針支持部22Dとを離間させることで、直針51は第2針支持部22Dにより保持された状態となる。すなわち、直針51が第1針支持部21Dから第2針支持部22Dに対して受け渡された状態となる。
上記では、自動運針器4における直針51の受け渡しの概略について説明したが、直針51の受け渡しの手順は自動運針器1,2と同様である。ただし、自動運針器4のように第1爪部23Dおよび第2爪部24Dの突出方向をZ軸方向に対して傾斜した状態とし、且つ、リンク部材80を利用して、第1シャフト11に対して第2シャフト12の移動方向を規制することで、直針の運針方向を第1シャフト11および第2シャフト12の延在方向(X軸方向)から変化させることができる。なお、リンク部材80の取り付け位置およびその大きさによって、第1シャフト11に対して第2シャフト12の移動方向(スライドする際に描く概円弧の形状)を制御することができる。直針51を受け渡す際に、第1爪部23D(第1針支持部21D)と第2爪部24D(第2針支持部22D)とが直針51の延在方向と同じ方向で移動することにより、直針51の受け渡しを適切に行うことができる。したがって、直針51を受け渡す際の第1爪部23Dと第2爪部24Dとの位置関係を考慮して、第1シャフト11に対して第2シャフト12の移動方向(スライドする際に描く概円弧の形状)を設計することができる。なお、概円弧状とは、円弧に類する形状である。リンク部材80で接続された第1シャフト11及び第2シャフト12の相対位置の変化によって生じる移動経路を「概円弧」と称しているものであって、厳密な円弧に限定されるものではない。
このように、自動運針器4では、針保持部として機能する第1針支持部21Dに対して針受け部として機能する第2針支持部22Dを概円弧状の軌道を描いて移動させることができるため、例えば、上記実施形態で説明したように、針保持部において支持される直針51の延在方向が2つのシャフトの長手方向とは異なる方向であっても、直針51の方向に応じた針受け部の移動を実現することができ、直針51の運針が可能となる。また、上記の自動運針器4では、第1爪部23Dおよび第2爪部24Dが2つのシャフトの長手方向に対して45°傾斜した状態であり、直針51も2つのシャフトの長手方向に対して45°傾斜した状態で支持されている。このような状態でも、リンク部材80が設けられていることで、針保持部から針受け部への受け渡しを適切に行うことができ、直針51の運針を行うことができる。
なお、自動運針器4では、第1針支持部21Dが針保持部としての機能を有し、第2針支持部22Dが針受け部としての機能を有する場合について説明したが、これらの機能は逆であってもよい。その場合も、上記のリンク部材80を用いることで、針保持部に対して針受け部が概円弧状の軌道を描くことになる。したがって、上記の自動運針器4と同様に、2つのシャフトの長手方向に対して45°傾斜した直針51の受け渡しを行うことができる。なお、自動運針器4では、一例として直針51の傾斜角度を45°としているが、この角度は特に限定されない。
図15は、自動運針器4の変形例であり、リンク部材80を2つ設けた例を示している。自動運針器4では、第1シャフト11の第1針支持部21Dに対して第2シャフト12の第2針支持部22Dが概円弧を描くようにして近接または離間すればよい。第1シャフト11および第2シャフト12の間に同一形状のリンク部材80を複数設けた場合でも、上記の構成は実現できる。したがって、リンク部材80およびその近傍への負荷を分散するために、リンク部材80を2つ以上設けてもよい。また、設計によっては、互いに異なる形状のリンク部材を複数設けてもよい。
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明は上記の実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。
例えば、第1シャフト11および第2シャフト12の形状、ハンドル30の形状等は適宜変更することができる。また、針保持部、針受け部、および、これらが設けられる爪部(第1の爪部、第2の爪部)の形状等についても適宜変更することができる。