JP6916670B2 - 密封装置およびその製造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、密封装置およびその製造方法に関し、特に、自動車等の車両用の自動変速機(AT(Automatic Transmission)やCVT(Continuously Variable Transmission)等)に用いられるクラッチピストン機構の密封装置に関する。
従来、自動車等の車両の自動変速機に用いられるクラッチピストン機構の密封装置は、ボンデッドピストンシール、キャンセラシールおよび、ボンデッドピストンシールとキャンセラシールとの間に設けられたリターンスプリングを備えている(例えば、特許文献1を参照。)。
ボンデッドピストンシールは、シリンダ状のクラッチハウジング(以下、これを「ハウジング」ともいう。)の内部に設けられた多板クラッチの締結に使用されるゴムリップ加硫接着タイプのピストンシールを備えている。以下の説明では、ボンデッドピストンシールを、単にピストンシールとも呼ぶ。
ピストンシールは、一般に自動変速機の多板クラッチを締結または解放させるため、ハウジングの内部に供給される作動油の供給油圧に応じて当該ハウジングの軸方向に沿って作動(往復動)する金属環からなり、当該金属環に一体形成されたピストンリップを備えている。
ピストンシールが装着されるハウジングの内周面と、当該ピストンシールとの間にはピストン油圧室が形成されており、ハウジングに形成された油穴を介してピストン油圧室に作動油が供給される。
ピストンシールは、この作動油の供給油圧にしたがってハウジングの内周面をピストンリップが摺動しながら軸方向に移動し、当該ピストンシールに設けられたフランジ状の押圧部材により当該クラッチ板を締結させる往動作と、供給油圧が解放されたときリターンスプリングの付勢力によりクラッチ板から押圧部材を離間するように移動して元の基準位置まで戻る復動作とが繰り返し行われる。
キャンセラシールは、駆動軸と一体に回転するハウジングの高速回転時に、ピストンシールの外周側端部にかかる遠心油圧をキャンセルするために当該ピストンシールと対向配置される金属環からなり、当該金属環に一体形成されたキャンセラリップを備えている。
ただし、駆動軸と一体に回転するハウジングの高速回転時には、ピストン油圧室に対して遠心力により生じる圧力(以下、これを「遠心油圧」ともいう。)が発生する。この遠心油圧は、ピストンシールとキャンセラシールとの間のキャンセル油圧室に取り付けられたリターンスプリングによる当該ピストンシールの復動作を阻害することになる。
一方、ピストンシールとキャンセラシールとの間に形成されたキャンセル油圧室には、ハウジングの高速回転時に、ピストン油圧室に発生する遠心油圧と同じ遠心油圧が発生する。これにより、ハウジングの高速回転時において、ピストン油圧室に発生する遠心油圧を、キャンセル油圧室に発生する遠心油圧でキャンセルすることができる。このため、密封装置では、回転速度依存性が無くなり、ピストンシールの応答性を向上させることができる。
特開2008−256057号公報
このような上述した構成の密封装置においては、ピストンシールおよびキャンセラシールともに全体環状かつ板状の金属環であり、当該金属環の端部にはハウジングの内周面と摺動するピストンリップや、ピストンリップの内周面と摺動するキャンセラリップが一体に接着固定されている。
密封装置において、金属環にピストンリップやキャンセラリップを一体に接着するためには、ピストンリップやキャンセラリップのゴム生地と金属環とを加熱した状態でゴム金型によりゴム生地をプレス成形する必要がある。
その際、図10に示すように、金属環101においては、その板厚t0に寸法誤差があるため、板厚t0が規定の厚さよりも薄い場合、上側ゴム金型201および下側ゴム金型202と金属環101との間に隙間C1、C2が生じてしまう。
このような場合、その隙間C1、C2からリップ成形用のゴム生地210が流れ出し、ゴムが付着してはいけない部分についてまで被覆してしまうことがあった。そうなると、ゴムの被覆により金属環101の板厚寸法が変化し、所望の板厚寸法に形成できないおそれが生じていた。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであり、その目的は、金属環と一体に成形されるゴムリップのゴム生地が当該ゴムリップとして不要な部分にまで流れ出すことを未然に防止した密封装置およびその製造方法を提供することである。
上記目的を達成するために、本発明の密封装置は、ハウジングの内部においてクラッチ部材と対向したまま軸線に沿って往復動可能に配置され、当該ハウジングの前記軸線に沿った内周面と密封摺動する弾性体からなる環状のピストンリップを有し、前記ハウジングと共にピストン油圧室を形成する環状のピストンシールを備える密封装置であって、前記ピストンシールは、前記ピストンリップを架橋接着する際に用いられるゴム金型が前記ピストンシールと当接される部分に形成された凹状の溝部を有することを特徴とする。
本発明に係る密封装置において、前記溝部は、前記ピストンシールの表面および裏面の双方に対して設けられていることを特徴とする。
本発明に係る密封装置において、前記溝部は、前記ピストンシールの表面および裏面の双方に対して背向状態または非背向状態に設けられていることを特徴とする。
本発明に係る密封装置において、前記溝部は、前記ピストンシールの軸線方向に沿った断面においてテーパー状に形成されていることを特徴とする。
本発明に係る密封装置においては、前記ピストンシールに加えてキャンセラシールを備え、前記キャンセラシールは、環状の金属環からなり、当該金属環の端部に一体成形されて前記ピストンシールの内周面に沿って密封摺動するキャンセラリップを備え、前記キャンセラシールは、前記キャンセラリップを成形する際に用いられる金型が当接される部分に形成された凹状の溝部を有することを特徴とする。
本発明の密封装置の製造方法では、ゴム生地を製造するゴム生地製造工程と、前記ゴム生地製造工程と並行または前後して鋼材料に対するプレス加工により金属環を製造する金属環製造工程と、ゴム金型に前記ゴム生地と前記金属環とを配置した状態で前記金属環に所定の形状からなるゴムリップを一体に成形して密封装置を完成させる成形工程とを有し、前記金属環製造工程では、前記プレス加工において、前記ゴムリップを架橋接着する際の前記ゴム金型が前記金属環と当接される部分に凹状の溝部を形成することを特徴とする。
本発明によれば、金属環と一体に成形されるゴムリップのゴム生地が当該ゴムリップとして不要な部分にまで流れ出すことを未然に防止した密封装置およびその製造方法を実現することができる。
本発明の実施の形態に係る密封装置が変速機のハウジングに装着された状態を示す軸線に沿う断面における部分断面図である。 本発明の実施の形態に係る密封装置の金属環の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態に係る密封装置の金属環に対してピストンシールを一体に成形する際のゴム金型の構造を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態に係る密封装置の金属環に対してピストンリップをゴム金型により成形する時の構成を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態に係る密封装置のピストンリップを成形した後におけるゴム金型の離間状態を示す部分断面図である。 本発明の実施の形態に係る密封装置の製造方法の説明に供するフローチャートである。 本発明の実施の形態に係る金属環の溝部を形成する工程の説明に供する部分断面図である。 他の実施の形態に係る金属環の溝部を形成する工程の説明に供する部分断面図である。 他の実施の形態に係る金属環の溝部の構成を示す部分断面図である。 従来の密封装置におけるゴムリップの成形状態を示す部分断面図である。
<実施の形態>
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。ここでは、説明の便宜上、図1乃至図5において、密封装置1の径方向を矢印ab方向とする。外周側とは、密封装置1の外周側すなわち矢印a方向とし、内周側とは、密封装置1の内周側すなわち矢印b方向とする。また、筐体側とは、密封装置1の径方向(矢印ab方向)とは直交する矢印c方向とする。多板クラッチ側とは、密封装置1の径方向(矢印ab方向)とは直交する矢印d方向とする。なお、軸線xは、駆動軸(図示せず)やハウジング2の回転中心である。
<密封装置>
図1に示すように、密封装置1は、自動変速機に用いられるものであり、全体として円環状に形成され、ハウジング2の内部に装着されている。密封装置1は、ピストンシール3、キャンセラシール4、および、リターンスプリング6を備えている。なお、密封装置1がハウジング2に装着された状態で所定の機能を発揮するためには、スナップリング5を用いてキャンセラシール4およびリターンスプリング6がハウジング2に取り付けられる必要がある。
ピストンシール3は、ハウジング2の軸線xを中心とする環状の金属材からなる金属環であり、ハウジング2に装着された状態で当該ハウジング2の回転と共に連れ回るものである。ピストンシール3の金属材としては、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)等があり、主にSPFH(熱間圧延鋼)、SAPH(熱間圧延鋼)である。ピストンシール3は、例えば、プレス加工や鍛造により製造される。
ピストンシール3は、軸線xに沿って延び当該軸線xを中心とする板状の環状の部分である内周側円筒部31と、内周側円筒部31の筐体側(矢印c方向)の端部から外周側(矢印a方向)に向かって延びる軸線xを中心とする板状の環状の部分である内周側フランジ部32と、内周側フランジ部32の外周側(矢印a方向)の端部から多板クラッチ側(矢印d方向)に向かって延びる軸線xを中心とする板状の環状の部分である外周側円筒部33と、外周側円筒部33の多板クラッチ側(矢印d方向)の端部から外周側(矢印a方向)に向かって延びる軸線xを中心とする板状の環状の部分である外周側フランジ部34とを備えている。
外周側フランジ部34は、ピストンシール3全体の軸線xに沿った動きに応じて、多層構造の多板クラッチ8を多板クラッチ側(矢印d方向)に向かって押圧する部分、または、多板クラッチ8から離れる部分であり、多板クラッチ8の締結または解放を行う。
ピストンシール3の内周側円筒部31は、その多板クラッチ側(矢印d方向)の端部から内周側(矢印b方向)に向かって延びる軸線xを中心とする板状の環状の部分である内周側突部30を有し、その内周側突部30の内周側(矢印b方向)の先端部分に内周側ピストンリップ35が架橋接着されている。内周側突部30には、内周側ピストンリップ35の近傍であり、当該内周側ピストンリップ35よりも外周側(矢印a方向)の位置に対して、後述する溝部30m、30pが設けられている。
内周側ピストンリップ35は、内周側円筒部31の内周側突部30において、その先端部がハウジング2の内周面2aと摺接するように内周側(矢印b方向)かつ筐体側(矢印c方向)に向かって延在している。すなわち、密封装置1のハウジング2に対する装着時、内周側ピストンリップ35の先端部がハウジング2の内周面2aに対して軸線x方向に沿って摺動するように当接される。
ピストンシール3における内周側フランジ部32の外周側(矢印a方向)の端部であり、かつ、外周側円筒部33の筐体側(矢印c方向)の端部には、外周側ピストンリップ39が架橋接着されている。ピストンシール3における内周側フランジ部32の外周側(矢印a方向)の端部には、外周側ピストンリップ39の近傍であり、当該外周側ピストンリップ39よりも内周側(矢印b方向)の位置に上述した溝部30m、30pが設けられている。
外周側ピストンリップ39は、内周側フランジ部32の外周側(矢印a方向)の端部および外周側円筒部33の筐体側(矢印c方向)の端部を外周側(矢印a方向)および筐体側(矢印c方向)から覆い、かつ、その先端部がハウジング2の内周面2aと軸線xに沿って摺接するように外周側(矢印a方向)かつ筐体側(矢印c方向)へ向かって延在している。すなわち、密封装置1のハウジング2に対する装着時、外周側ピストンリップ39の先端部がハウジング2の内周面2aに対して軸線x方向に沿って摺動するように当接される。
内周側ピストンリップ35および外周側ピストンリップ39は、弾性体であり、例えば、各種のゴム状弾性部材により構成されている。ゴム状弾性部材としては、例えば、二トリルゴム(NBR)、水素添加ニトリルゴム(H−NBR)、アクリルゴム(ACM)、フッ素ゴム(FKM)、シリコンゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)等の合成ゴムが用いられる。
ピストンシール3は、ハウジング2の内部に装着された状態において、当該ピストンシール3の筐体側(矢印c方向)の上面とハウジング2の内周面2a(天井面)との間にピストン油圧室38が形成されている。ピストン油圧室38は、ハウジング2に形成されたポート2bと連通されている。
ピストンシール3を軸線xに沿って移動させるためのATF(Automatic Transmission Fluid)等からなる作動油は、このポート2bを介してピストン油圧室38へ供給される。すなわち、ピストンシール3は、ポート2bを介してピストン油圧室38に供給される作動油の油圧に応じて、ハウジング2の内周面2aを軸線xに沿って当該ハウジング2と相対移動する移動部材である。
キャンセラシール4は、ハウジング2の所定回転数以上の高速回転時に、ピストンシール3の内周側フランジ部32の外周側(矢印a方向)寄りの部分にかかる油圧(以下、これを「遠心油圧」ともいう。)をキャンセルするものである。キャンセラシール4は、ピストンシール3と対向配置された断面略S字状の金属環であり、ハウジング2に対してスナップリング5を介して固定されている。
キャンセラシール4は、ピストンシール3の外周側円筒部33の内周面33aと軸線xに沿って密封摺動する弾性体からなる環状のキャンセラリップ44を有している。キャンセラシール4の金属材としては、ピストンシール3と同様に、ステンレス鋼やSPCC(冷間圧延鋼)等があり、主にSPFH(熱間圧延鋼)、SAPH(熱間圧延鋼)である。キャンセラシール4についても、ピストシール3と同様に、例えば、プレス加工や鍛造により製造される。
キャンセラシール4は、軸線xとは直交する径方向(矢印ab方向)の外周側(矢印a方向)に向かって延び当該軸線xを中心とする板状の環状の部分である内周側フランジ部41と、内周側フランジ部41の外周側(矢印a方向)の端部から軸線xに沿って筐体側(矢印c方向)へ延び、当該軸線xを中心とする板状の環状の部分である円筒部42と、円筒部42の筐体側(矢印c方向)の端部から外周側(矢印a方向)に向かって延び当該軸線xを中心とする板状の環状の部分である外周側フランジ部43とを備えている。
キャンセラシール4の内周側フランジ部41における内周側(矢印b方向)の端部は、スナップリング5に固定されている。スナップリング5は、ハウジング2の内周面2aに固定されている。すなわち、キャンセラシール4は、スナップリング5を介してハウジング2に固定された固定部材であるが、ハウジング2に固定された状態で当該ハウジング2の回転と共に連れ回るものである。
キャンセラシール4の外周側フランジ部43の外周側(矢印a方向)の端部には、ピストンシール3の軸線xに沿った内周面33aと密封摺動する弾性体からなる環状のキャンセラリップ44が架橋接着されている。キャンセラリップ44は、外周側フランジ部43の外周側(矢印a方向)の端部において、外周側(矢印a方向)かつ筐体側(矢印c方向)へ向かって延在している。
すなわち、密封装置1のハウジング2に対する装着時、キャンセラリップ44の先端部がピストンシール3の外周側円筒部33の内周面33aに対して軸線xに沿って密封摺動するように当接される。キャンセラシール4における外周側フランジ部43の外周側(矢印a方向)の端部には、キャンセラリップ44の近傍であり、当該キャンセラリップ44よりも内周側(矢印b方向)の位置に上述した溝部30m、30pが設けられている。
キャンセラシール4とピストンシール3との間には、キャンセラ油圧室48が形成されている。キャンセラ油圧室48には、作動油が充填されており、ハウジング2の回転時には当該キャンセラ油圧室48に遠心油圧が発生し、ピストン油圧室38に発生する遠心油圧をキャンセルするように作用する。
ピストンシール3の内周側フランジ部32とキャンセラシール4の内周側フランジ部41との間には、リターンスプリング6が周方向に等配した状態で複数介装されている。リターンスプリング6は、例えば金属の圧縮コイルバネ等からなる弾性部材であり、キャンセラシール4からピストンシール3を離間させるように当該ピストンシール3を筐体側(矢印c方向)へ向かって付勢する付勢力を付与する。
かくして、ピストンシール3は、ハウジング2の高速回転時であっても、ピストン油圧室38の遠心油圧がキャンセラ油圧室48の遠心油圧によりキャンセルされるので、リターンスプリング6による当該ピストンシール3の軸線xに沿った方向に対する移動動作が阻害されずに済む。これにより、密封装置1は、回転速度依存性が無い状態でピストンシール3をハウジング2の内周面2aに対して円滑に作動させることが可能となる。
図2に示すように、ピストンシール3の内周側円筒部31における内周側突部30には、その最先端部分30sを包み込むように内周側ピストンリップ35が架橋接着される。
ピストンシール3における内周側突部30の最先端部分30sよりも外周側(矢印a方向)の部分における筐体側(矢印c方向)の面である筐体側面30a、および、多板クラッチ側(矢印d方向)の面であるクラッチ側面30bの両面には、凹状の溝部30m、30pが例えばプレス加工によって設けられている。ただし、これに限るものではなく、何れか一方の面にのみ溝部30mまたは30pが設けられていてもよい。なお、外周側ピストンリップ39およびキャンセラリップ44の近傍の溝部30m、30pについても内周側ピストンリップ35の構成と同様であるため、ここでは内周側ピストンリップ35の近傍の溝部30m、30pについてのみ説明する。
ピストンシール3の内周側突部30における筐体側面30aおよびクラッチ側面30bに形成された溝部30m、30pは、軸線x方向に沿った断面において互いに背中合わせとなる背向状態に設けられている。
また、溝部30m、30pは、ピストンシール3の軸線x方向に沿った断面においてテーパー状に形成されている。具体的には、溝部30m、30pは、筐体側面30ma、30pa、クラッチ側面30mb、30pbから底面30mz、底面30pzに向かって溝空間が先細くなるような凹状に形成された軸線xを中心とする環状の凹部空間である。
溝部30mは、平坦な面である底面30mz、外周側(矢印a方向)のテーパー面である外周側テーパー面30ma、および、内周側(矢印b方向)のテーパー面である内周側テーパー面30mbを有している。溝部30pは、平坦な面である底面30pz、外周側(矢印a方向)のテーパー面である外周側テーパー面30pa、および、内周側(矢印b方向)のテーパー面である内周側テーパー面30pbを有している。
ここで、溝部30m、30pについては、ピストンシール3の金属環の板厚精度よりも高い精度でプレス加工により形成されている。すなわち、ピストンシール3の金属環の板厚精度よりも、溝部30mの底面30mzと溝部30pの底面30pzとの間の板厚精度の方が高くなっている。
ところで、図3に示すように、ピストンシール3の最先端部分30sに内周側ピストンリップ35を成形するために、上側ゴム金型201および下側ゴム金型202が用いられる。
この上側ゴム金型201および下側ゴム金型202には、ピストンシール3の溝部30m、30pの底面30mz、30pzと対応する位置に、当該底面30mz、30pzと当接するように突出した突起部201a、202aが設けられている。
上側ゴム金型201の突起部201aおよび下側ゴム金型202の突起部202aにおけるテーパー面のテーパー角度は、溝部30m、30pの外周側テーパー面30ma、30pa、および、内周側テーパー面30mb、30pbのテーパー角度と同様である。ただし、これに限るものではなく、突起部201a、202aのテーパー角度が溝部30m、30pのテーパー角度よりも小さくてもよい。
上側ゴム金型201および下側ゴム金型202が閉じられ、ピストンシール3の溝部30m、30pの底面30mz、30pzに対して突起部201a、202aが当接された場合、ゴム生地210を素材として内周側ピストンリップ35を成形するための成形空間(キャビティ)が形成される。
以上の構成において、密封装置1のピストンシール3には、プレス加工により溝部30m、30pが形成されているため、溝部30mの底面30mzと溝部30pの底面30pzとの間の板厚t1(図3)における寸法誤差のばらつきをプレス加工しないときの従来の板厚t0(図10)よりも小さくすることができる。
これにより、内周側ピストンリップ35の射出成型時に、溝部30m、30pの底面30mz、底面30pzと、上側ゴム金型201の突起部201a、下側ゴム金型202の突起部202aとが当接されたときに生じる隙間を極力小さくすることができる。
また、ピストンシール3では、図4に示すように、圧縮成形時に、溝部30m、30pの底面30mz、底面30pzと、突起部201a、202aとが当接されるが、突起部201a、202aと底面30mz、30pzとの間に僅かな隙間が生じてゴム生地210が隙間から漏れ出た場合でも、隙間から漏れ出るゴム生地210fの量が従来よりも非常に少なくなる。このため、ピストンシール3では、隙間から漏れ出たゴム生地210fを溝部30m、30pの空間に留めることができる。
これにより、図5に示すように、圧縮成形を終了し、上側ゴム金型201と下側ゴム金型202とを離間させた際、突起部201a、202aから漏れ出たゴム生地210fが溝部20m、30pの空間内からはみ出ることの無い状態で内周側ピストンリップ35が成形される。ただし、ピストンシール3は、圧縮成形だけではなく、トランスファー成形や射出成形によって形成することも可能である。
すなわち、ピストンシール3の溝部30m、30pを超えた部分にまでゴム生地210fにより被覆されてしまうことを防止できるので、ゴムが付着してはいけない部分が被覆されてしまうことを予め回避することができる。かくして、密封装置1では、従来のように、不要なゴムの付着によりピストンシール3の板厚が太くなって所望の板厚寸法に形成できないという事態を未然に防止することができる。
<製造方法>
ところで、上述したような溝部30m、30pが設けられたピストンシール3を用いて密封装置1を製造する製造方法について次に説明する。図6に示すように、密封装置1を製造するに当たっては、混練機を用いたゴム生地210の製造工程(ステップSP1乃至ステップSP、および、プレス加工機を用いたピストンシール(金属環)3の製造工程(ステップSP11乃至ステップSP14)の後、ヒートプレス機を用いた成形工程(ステップSP21乃至ステップSP24)を経て密封装置1を完成させる。
ゴム生地210の製造工程では、RT1の開始ステップから入り、図示しない混練機により、ステップSP1において例えば合成ゴムのポリマーに補強剤となるカーボンを配合し、ステップSP2においてポリマーとカーボンとを混練することによりゴム生地の強度を向上させる。
その後、混連機では、ステップSP3において強度が向上したゴム生地を所定形状および所定サイズに裁断してゴム生地210を生成し、ゴム生地の製造工程を終了する。
一方、ピストンシール(金属環)3の製造工程では、図示しないプレス機により、ステップSP11において帯鋼から曲がりのない状態の金属板を打ち抜き、ステップSP12、ステップSP13、……、において当該金属板をプレス金型により段階的に所定形状に折り曲げる。
このとき、図7(A)および(B)に示すように、プレス機の上側プレス金型301と下側プレス金型302との間に金属板300を挟み付けた状態で両面からプレスすることにより、溝部30m、30pが設けられたピストンシール(金属環)3を形成する。なお、溝部30m、30pを形成する工程は、ステップSP12、SP13の何れかにおいて金属板の折り曲げ工程と同時に行われてもよく、或いは、ステップSP12、SP13の後、次のステップSP14の前の段階で改めて行われてもよい。
その後、ステップSP14において、溝部30m、30pが設けられたピストンシール(金属環)3に対して接着剤を塗布することによりピストンシール(金属環)3の製造工程を終了する。因みに、ゴム生地210の製造工程と、ピストンシール(金属環)3の製造工程とは同時並行して行なってもよく、或いは、時系列に何れかを先に行ってもよい。
ステップSP21において、ヒートプレス機を用いて、図4および図5に示したように、上側ゴム金型201および下側ゴム金型202により形成されるキャビティにピストンシール3の最先端部分30sおよびゴム生地210を配置する。
ステップSP22において、ヒートプレス機により加熱するとともにプレス成形することによりピストンシール3の最先端部分30sに対して内周側ピストンリップ35を強固に接着した後、上側ゴム金型201および下側ゴム金型202を離間して内周側ピストンリップ35が一体化されたピストンシール3を取り出す。最後に、ステップSP23において、ピストンシール3の最先端部分30sに成形された内周側ピストンリップ35の不要なバリを除去して完成させる。
<他の実施の形態>
なお、上述した実施の形態においては、ピストンシール(金属環)3の筐体側面30a、および、クラッチ側面30bの両面に、互いに背向するように凹状の溝部30m、30pを設けるようにした場合について述べた。しかしながら、本発明はこれに限らず、図8に示すように、プレス部分401a、402aが互いにシフトされた上側プレス金型401と下側プレス金型402との間に金属板300を挟み付けた状態で両面からプレスすることにより、金属板300の両面に互い違いに2つの溝部を設けるようにしてもよい。
また、上述した実施の形態においては、ピストンシール3の筐体側面30a、クラッチ側面30bから底面30mz、底面30pzに向かって溝空間が先細くなるように凹状に形成された軸線xを中心とする環状の凹部空間からなる溝部30m、30pを設けるようにした場合について述べた。しかしながら、本発明はこれに限らず、例えば、図9に示すように、ピストンシール3の筐体側面30a、クラッチ側面30bから底面30yz、底面30zzに向かって溝空間が拡がるようなテーパー面により凹状に形成された軸線xを中心とする環状の凹部空間からなる溝部30y、30zを設けるようにしてもよく、要は任意の断面形状からなる溝空間を持つ溝部であってもよい。
さらに、上述した実施の形態においては、ピストンシール3の内周側ピストンリップ35の近傍に溝部30m、30pを設けるとともに、ピストンシール3の外周側ピストンリップ39およびキャンセラシール4のキャンセラリップ44の近傍についても溝部30m、30pを設けるようにした場合について述べた。しかしながら、本発明はこれに限らず、必ずしも全てに溝部30m、30pを設ける必要はなく、最小限、ピストンシール3の内周側ピストンリップ35または外周側ピストンリップ39にのみ溝部30m、30pを設けられていればよい。
以上、本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明は上記の実施の形態に係る密封装置1に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含む。また、上述した課題および効果の少なくとも一部を奏するように、各構成を適宜選択的に組み合わせてもよい。例えば、上記実施の形態における各構成要素の形状、材料、配置、サイズ等は、本発明の具体的使用態様によって適宜変更され得る。
本願発明の密封装置は、自動車等の車両およびその補機、一般産業機械、建設機械等の汎用機械においてピストンシールを移動させる際の部品点数を削減して簡素化および小型化する場合に利用することが可能である。
1……密封装置
2……ハウジング
2a……内周面
2b……ポート
3……ピストンシール
4……キャンセラシール
5……スナップリング
6……リターンスプリング
8……多板クラッチ
30……内周側突部
30a……筐体側面
30b……クラッチ側面
30s……最先端部分
30m、30p、30y、30z……溝部
30ma、30pa……外周側テーパー面
30mb、30pb……内周側テーパー面
30mz、30pz……底面
31……内周側円筒部
31a……内周側突部
32……内周側フランジ部
33……外周側円筒部
33a……内周面
34……外周側フランジ部
35……内周側ピストンリップ(ゴムリップ)
39……外周側ピストンリップ(ゴムリップ)
41……内周側フランジ部
42……円筒部
43……外周側フランジ部
44……キャンセラリップ
48……キャンセラ油圧室
201……上側ゴム金型
202……下側ゴム金型
201a、202a……突起部
210……ゴム生地
300……金属板
401……上側プレス金型
402……下側プレス金型
401a、402a……プレス部分
t0、t1……板厚
x……軸線

Claims (6)

  1. ハウジングの内部においてクラッチ部材と対向したまま軸線に沿って往復動可能に配置され、当該ハウジングの前記軸線に沿った内周面と密封摺動する弾性体からなる環状のピストンリップを有し、前記ハウジングと共にピストン油圧室を形成する環状のピストンシールを備える密封装置であって、
    前記ピストンシールは、前記ピストンリップが架橋接着される部分の近傍であって、当該ピストンシールの表面または裏面の少なくとも一方に形成された凹状の溝部を備え、
    前記ピストンリップが架橋接着された状態において、ゴム金型の突起部が前記溝部を形成している平坦な底面に当接されてい
    ことを特徴とする密封装置。
  2. 前記溝部は、前記ピストンシールの表面および裏面の双方に対して設けられている
    ことを特徴とする請求項1に記載の密封装置。
  3. 前記溝部は、前記ピストンシールの表面および裏面の双方に対して背向状態または非背向状態に設けられている
    ことを特徴とする請求項2に記載の密封装置。
  4. 前記溝部は、前記ピストンシールの軸線方向に沿った断面においてテーパー状に形成されている
    ことを特徴とする請求項1乃至3何れか一項に記載の密封装置。
  5. 前記密封装置は、前記ピストンシールに加えてキャンセラシールを備え、
    前記キャンセラシールは、環状の金属環からなり、当該金属環の端部に一体成形されて前記ピストンシールの内周面に沿って密封摺動するキャンセラリップを備え、
    前記キャンセラシールは、前記キャンセラリップが架橋接着される部分の近傍であって、当該キャンセラシールの表面または裏面の少なくとも一方に形成された凹状の溝部を備え、
    前記キャンセラリップが架橋接着された状態において、ゴム金型の突起部が前記溝部を形成している平坦な底面に当接されている
    ことを特徴とする請求項1乃至4何れか一項に記載の密封装置。
  6. ゴム生地を製造するゴム生地製造工程と、
    前記ゴム生地製造工程と並行または前後して鋼材料に対するプレス加工により金属環を製造すると共に、ゴムリップを架橋接着する部分の近傍であって当該金属環の表面または裏面の少なくとも一方に凹状の溝部を形成する金属環製造工程と、
    ゴム金型に前記ゴム生地と前記金属環とを配置した状態で前記金属環の前記溝部の近傍に所定の形状からなるゴムリップを一体に成形して密封装置を完成させる成形工程と
    を有し、
    前記成形工程では、前記ゴムリップを架橋接着する際、前記ゴム金型の突起部が前記溝部を形成している平坦な底面に当接される
    ことを特徴とする密封装置の製造方法。
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