JP6916519B2 - 蛍光観察用フィルタ及び蛍光観察顕微鏡 - Google Patents
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Description
これまで、高精度な蛍光観察技術が開発され実用化されているが、蛍光観察顕微鏡が大型かつ高コストであることが課題の1つとなっている。感染症の拡大防止を図るために、医療設備が整っていない環境であっても利用できるような小型かつ簡便な蛍光観察顕微鏡が求められている。
上記のように、干渉フィルタは、性能は高いものの角度依存性がある。図14に示すように、干渉フィルタ2のフィルタ面に対して、垂直に入射する励起光8aは、干渉フィルタ2を透過せず反射するが(8d)、入射角が傾くと励起光8bが干渉フィルタ2を透過してしまう(8e)。また、観察試料7により励起光8cが当たると一部は反射するが(8f)、一部は散乱され、入射角が傾くためにその散乱光9が干渉フィルタ2を透過してしまう。これらの励起光8cの散乱光9は、イメージセンサの感度を下げる要因となり、蛍光検出性能が低下することになる。レンズ光学系ではこの問題を回避可能であるが、レンズレス光学系では、ほとんどの場合、観察対象自体によって励起光が散乱され、干渉フィルタに斜めに入射することにより透過する光成分が現れるといった問題がある。
しかしながら、吸収フィルタは、図15に示すように、吸収フィルタの構成物質により、吸収された励起光8のエネルギーの一部が自家蛍光10となり、その自家蛍光10が観察試料由来の蛍光と波長が重なり、イメージセンサにおいて区別ができず、観察試料由来の蛍光と一緒になって観察されることになる。この自家蛍光10は、イメージセンサの直上で発生すると無視できない蛍光強度になり、これがノイズとなりS/N比を低下させる。なお、自家蛍光10は、等方的に放射されるため、イメージセンサから離せる光学系であれば回避することができる。
このように、吸収フィルタは励起光のエネルギーを吸収するため、自家蛍光が発生することから、励起光は除去できるが、観察対象と同波長の蛍光が発生することで、蛍光観察性能が低下するという問題がある。
干渉フィルタ12と吸収フィルタ13は、蛍光の進行方向に直列配置され、蛍光に相当する波長帯域の光を十分に透過させながら、試料に照射される励起光に相当する波長帯域の光を遮光する。
しかしながら、干渉フィルタと吸収フィルタを蛍光の進行方向に直列配置する構成だけでは、十分な観察性能を得ることが困難であり、干渉フィルタ12と吸収フィルタ13を直列配置した蛍光側フィルタ部(Fem)の後に結像レンズ32を用いたレンズ光学系の構成とし、蛍光観察性能を高めている。
一方、小型かつ簡便な蛍光観察顕微鏡を実現するため、レンズレス光学系にし、イメージセンサの直上に観察試料を配置する装置構成とすることが要望されている。
積層される干渉フィルタ層と吸収フィルタ層は、励起光波長の透過特性が互いに同じである。ここで、透過特性が互いに同じとは厳密な一致は必要なく、実質的に同じであればよく、例えば、ほぼ同じ波長透過スペクトル、例えば、両フィルタが共に、ショートパスフィルタ、又は、ほぼ同じ波長帯域のバンドパスフィルタであることでも構わない。
或は、透過特性が互いに同じ干渉フィルタ層と吸収フィルタ層が積層され、光入射角制限層が干渉フィルタ層に積層される。
ここで、スペーサは、イメージセンサにおける画素センサ間の境界部に合せて設けられることが好ましい態様である。
光入射角制限層として、空気層や真空層を用いた構成については、干渉フィルタ層の剥離および転写方法と空気層への周囲媒質の侵入を防ぐ封止方法の開発が必要である。なお、剥離については、レーザーを用いた剥離や、犠牲層を挟んだフィルタの利用など既存技術を応用した方法を用いて実施することができる。
また、励起光を短波長化すること、又は、干渉フィルタ層のカットオフ波長を長波長化すること、の少なくとも何れかによって、光入射角制限層(空気層、真空層、ポーラス材質層の何れか)の厚さを小さくすることができる。
ファイバオプティックプレートとは、光ファイバを束にして板状にしたものである。ここで、ファイバオプティックプレートの開口数(NA)は、0.7より大きい場合、ファイバオプティックプレートの両面にそれぞれ干渉フィルタ層と吸収フィルタ層を搭載し、観察試料は干渉フィルタ層側に配置するのがよい。これにより、入射する励起光のエネルギーの大部分を除去できる。また、光入射角制限層として、ファイバオプティックプレートを用いることで、フィルタ全体の剛性を大きくできる。フィルタサイズに制約が無い化学分析等で適用することができる。
本発明の蛍光観察用フィルタにおいて、干渉フィルタ層が最表面にある方が、明視野観察をする上で高い空間分解能が期待できる。生体埋植など光散乱が多い条件下では、吸収フィルタ層だけでは散乱した励起光が除去しきれないため、干渉フィルタ層と吸収フィルタ層の間に配置するファイバオプティックプレートで、散乱した励起光が除去されるようにする。
開口数が0.4以上の高空間分解能のファイバオプティックプレートを用いる場合には、明視野観察での空間分解能が低減するが、開口数が0.4より小さい場合は、ファイバオプティックプレートと干渉フィルタ層と吸収フィルタ層の順番に積層したものでも空間分解能の低減は少ない。細胞やDNAチップの微小蛍光液滴など光散乱が比較的少ない条件下では、ファイバオプティックプレートの開口数を高めて、高空間分解能を図ることができる。
1)蛍光観察用フィルタは、干渉フィルタ層と吸収フィルタ層がファイバオプティックプレートを介して積層され、干渉フィルタ層の直上に観察試料が配置され、吸収フィルタ層の真下にイメージセンサが配置される。
2)蛍光観察用フィルタは、干渉フィルタ層と吸収フィルタ層が積層され、ファイバオプティックプレートが干渉フィルタ層に積層され、ファイバオプティックプレートの直上に観察試料が配置され、吸収フィルタ層の真下にイメージセンサが配置される。蛍光観察用フィルタの表面の強度を重視する場合は、ファイバオプティックプレートを最表面に配置するのがよい。
誘電体多層膜からなる干渉フィルタ層と色素を添加した吸収フィルタ層を同時に備えたハイブリッド構成であることで、自家蛍光成分を低減し、かつ、励起光成分を高い性能で除去できる。
ファイバオプティックプレートを光入射角制限層に用いることにより、蛍光観察用フィルタに高い機械強度を確保することができる。また、空間分解能をほぼ低下させずに、蛍光観察用フィルタ表面を平坦化できる。機械強度が高く、平坦な表面のファイバオプティックプレートは、干渉フィルタ2と吸収フィルタ3の作製を容易にできる。すなわち、ファイバオプティックプレートの表面に直接的に液剤を塗布して干渉フィルタ2を作製することが可能である。また、ファイバオプティックプレートの裏面に液剤を塗布して吸収フィルタ3を作製することが可能である。このように、ファイバオプティックプレートは、直接的に液剤を塗布できる基板として用いることが可能であり、様々な実装プロセスを実現することができる。例えば、厚さ2.54mmのファイバオプティックプレートの表面と裏面にそれぞれ5μmの厚さの薄膜を形成し、それぞれの薄膜を干渉フィルタ2と吸収フィルタ3として用いる。さらに、裏面にはイメージセンサデバイス5、表面には蛍光物質7aから成る観察試料7を載せて、上から励起光8を照射することにより、蛍光物質7aを観察できる。
観察試料には、緑色のカラーフィルタレジストのパターン(“N”の文字パターン)を用いた。このレジストは青色光を照射した場合にわずかな緑色蛍光を発するものである。
蛍光観察用フィルタ57において、干渉フィルタは、510nmのロングパスフィルタ(LPF)を用い、吸収フィルタは、青色光を吸収する色素添加膜を用いた。光入射角制限層には、ファイバオプティックプレート(2.54mmt)を用いた。
蛍光観察用フィルタ57を透過する蛍光をイメージセンサ58で撮像し、コンピュータ59に撮像画像データを伝送して、蛍光観察画像の確認を行った。
図5に蛍光観察の比較結果を示す。まず、図5(a)は、緑色のカラーフィルタレジストのパターン(“N”の文字パターン)の観察試料であり、図5(b)は、干渉フィルタのみの場合における蛍光観察の結果であり、図5(c)は、吸収フィルタのみの場合における蛍光観察の結果である。そして、図5(d)が、干渉フィルタと吸収フィルタが光入射角制限層(ファイバオプティックプレート)を介して積層された蛍光観察用フィルタによる蛍光観察の結果である。
図5(b)に示す干渉フィルタのみの結果は、表面の傷やレジストのエッジ部分で励起光が散乱して透過しており、表面の傷は実装法により改善の可能性があるが、エッジ部分の散乱は殆どの観察対象について問題となっていた。また、図5(c)に示す吸収フィルタのみの結果は、レジスト部分の蛍光が明るく観察できているものの、レジストがない部分も明るくなりコントラストが低下していた。これは、吸収フィルタの蛍光のためであり、膜厚を増加させても改善は限られる。
一方、図5(d)に示す蛍光観察用フィルタによる結果では、使用した撮像系では、ほぼ検出されない程度まで励起光が除去されており、高いコントラストが得られていた。これらの結果から、本発明の蛍光観察用フィルタによれば、微弱な蛍光観察を行う性能が高いことがわかる。
モル濃度10μMのフルオレセインの蛍光の実験結果について、図6〜8を参照して説明する。実験は、ガラス基板に直径5μmの微小なフルオレセイン液滴を30μmピッチで多数配置したものを用い、上面カバーには石英ガラス板を用いた。
図7は、それぞれ観察領域について、100フレームの平均像を観察することにより、ノイズを低減し、コントラストを改善した画像(退色前、退色後、差分像)を示している。図7(1)が退色前の像、図7(2)が差分像、図7(3)が2時間照射後の退色後の像である。図7(3)の像はフルオレセインではなく、液滴パターン形成のための基板からの蛍光像と考えられる。すなわち、図7(2)の差分像は、ほぼフルオレセインのみの蛍光成分を示している。液滴アレイの配置パターンとして形成された“N”と“A”の文字パターンが明確に判別できることから、10μMの微小なフルオレセイン液滴を検出できる程度に高い励起光除去性能が実現されていることがわかる。なお、“N”と“A”の文字パターンは、上下左右が逆転(逆さま)になっている。センサの高感度化やノイズ低減手法を組み合わせることによって、蛍光観察の感度が更に上昇することが期待できる。
そして、励起光の入射角34〜49(deg.)の範囲“B”は、干渉フィルタを透過する斜め入射角の範囲“透過角度帯”である。励起光の入射角34(deg.)の時の透過光角度は48(deg.)であり、励起光の入射角49(deg.)の時(全反射)の透過光角度は90(deg.)である。励起光が透過し始める入射角34(deg.)を透過開始角とよぶ。このように、干渉フィルタを透過する斜め入射角の励起光成分が存在し、この励起光成分を除去する必要がある。
図10から、干渉フィルタから透過する励起光成分、すなわち、入射角34〜49(deg.)の励起光は、干渉フィルタと空気層(エアギャップ)との界面で屈折して、透過光角度は48〜90(deg.)になる。
図11に示すように、励起光8gの透過光成分8hの出射角をθ、スペーサ40の間隔(開口幅)をw、エアギャップ41の厚さをdとすると、厚さd=w/tanθの数式によって表すことができる。例えば、図11の場合において、干渉フィルタから透過する励起光の透過光成分を全てスペーサ40で吸収させて除去しようとするならば、厚さd=w/tan48となり、例えば、w=10μmであれば、d=9μmになる。
ファイバオプティックプレート4aは、開口数(NA)が0.4より小さいLow−NAのものを使用することができる。開口数の低いファイバオプティックプレートを最表面に用いることで、蛍光観察用フィルタの表面の強度を高くできる。生体内などの光散乱が大きい条件下でも、励起光を十分に低減し、高感度な蛍光観察を行うことができる。
2 干渉フィルタ
3 吸収フィルタ
4 光入射角制限層
4a ファイバオプティックプレート
4b 空気層
5 イメージセンサデバイス
5a 2次元イメージセンサ
5b イメージセンサ素子
6 蛍光
7 観察試料
7a 蛍光物質
8,8a〜8j 励起光
9 散乱光
10 自家蛍光
11 励起側フィルタ
12 蛍光側多層膜干渉フィルタ
13 吸収フィルタ
15 単波長光源
30 照射ユニット
31 観察試料
32 結像レンズ
38 2次元検出器
40 スペーサ
41 空気層(エアギャップ)
51 レーザダイオード(LD)
52 偏光子
53 励起フィルタ
54 ミラー
55 アイリス
56 観察試料
57 蛍光観察用フィルタ
58 イメージセンサ
59 コンピュータ
Claims (7)
- 観察試料に励起光を照射した際の蛍光をイメージセンサで観察するレンズレス蛍光イメージングにおける蛍光観察用フィルタであって、
励起光波長の透過特性が互いに同じ干渉フィルタ層と吸収フィルタ層と、厚さ方向に延びる励起光波長の吸収体が分散配置された光入射角制限層とを備え、
前記蛍光観察用フィルタは、前記光入射角制限層が空気層、真空層、ポーラス材質層の何れかであり、前記干渉フィルタ層と前記吸収フィルタ層が前記光入射角制限層を介して積層された、
又は、
前記蛍光観察用フィルタは、前記光入射角制限層がポーラス材質層であり、前記干渉フィルタ層と前記吸収フィルタ層が積層され、前記光入射角制限層が前記干渉フィルタ層に積層された、
ことを特徴とする蛍光観察用フィルタ。 - 前記光入射角制限層の屈折率は、前記干渉フィルタ層の屈折率よりも小さく、
前記吸収体は、前記干渉フィルタ層と前記吸収フィルタ層との間のスペーサとして用いられることを特徴とする請求項1に記載の蛍光観察用フィルタ。 - 前記スペーサは、イメージセンサにおける画素センサ間の境界部に合せて設けられたことを特徴とする請求項2に記載の蛍光観察用フィルタ。
- 前記吸収体の配置間隔を小さくすることによって、前記光入射角制限層の厚さを小さくしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の蛍光観察用フィルタ。
- 前記励起光を短波長化すること、又は、前記干渉フィルタ層のカットオフ波長を長波長化すること、の少なくとも何れかによって、前記光入射角制限層の厚さを小さくしたことを特徴とする請求項1〜4の何れかに記載の蛍光観察用フィルタ。
- 前記干渉フィルタ層は誘電体多層膜であり、前記吸収フィルタ層は色素添加膜であることを特徴とする請求項1〜5の何れかに記載の蛍光観察用フィルタ。
- 請求項1〜6の何れかの蛍光観察用フィルタを用い、
前記干渉フィルタ層もしくは前記光入射角制限層の直上に観察試料が配置され、前記吸収フィルタ層の真下にイメージセンサが配置される蛍光観察顕微鏡。
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