JP6914173B2 - 軸肥大加工方法 - Google Patents
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Description
なお、用語「軸肥大」は、高周波熱錬株式会社の登録商標である。以下においては、説明の便宜上、「登録商標」という文言を付さずに、用語「軸肥大」を用いるものとする。
これにより、軸部材における曲げ力の作用部周りに、軸部材よりも大径の肥大部が形成される。
特許文献1の軸肥大加工方法で、シーブ部を有するプーリ部品を作製する場合、シーブ部の外径が大きくなるほど、軸肥大加工により形成する肥大部の外径が大きくなる。
そうすると、形成する肥大部の外径が大きくなるほど、肥大部の外径側や付根部に割れが生じやすくなる傾向がある。
そのため、割れなどを生じることなく肥大部を形成することが求められている。
金属製の軸部材を、当該軸部材の中心軸の軸方向で間隔をあけた第1金型および第2金型によって把持し、
前記軸部材における前記第1金型と前記第2金型との間の領域を曲げ、前記軸部材を前記中心軸回りに回転させながら、前記軸部材に圧縮応力を作用させることで、前記軸部材における前記第1金型と前記第2金型との間の領域に、前記軸部材よりも大径の肥大部を形成する軸肥大加工方法であって、
前記肥大部を形成する際の加工条件に基づいて、前記肥大部を形成する際に前記肥大部に作用する応力振幅値を算出し、
算出した応力振幅値に基づいて、前記肥大部を形成する際の前記軸部材の累積回転数の上限である許容累積回転回数を決定し、
前記肥大部の形成開始からの前記累積回転数が、前記許容累積回転回数に達するまでを限度として、前記肥大部の形成を実施する構成とした。
図1は、本実施形態にかかる軸肥大加工方法の実施に用いられる軸肥大加工装置1の主要構成を説明する概略図である。
なお、図1では、説明の便宜上、軸肥大加工装置1の金型10と、他の構成要素との具体的な接続関係の図示を省略して、簡略的に示している。
第1金型11と第2金型12は、ワークWの中心軸X1上で対向して配置されている。
軸肥大加工装置1では、第1金型11と第2金型12が基準位置に配置されると、第1金型11と第2金型12が、ワークWの中心軸X1の軸方向に間隔Saをあけて配置される。
第1金型11と第2金型12は、駆動用モータの出力回転が伝達されて、中心軸X1回りに回転する。
第1金型11と第2金型12の中心軸X1回りの回転は、制御装置2が制御する。
制御装置2は、ワークWに肥大部Waを形成する際に、第1金型11と第2金型12を、所定の回転速度N1で中心軸X1回りに回転させる。
図2は、軸肥大加工装置1を用いて、ワークWに肥大部Waを形成する過程を説明する図である。
図2の(a)は、金型10にセットしたワークWを、中心軸X1回りに回転させている状態を示す図である。図2の(b)は、ワークWを中心軸X1回りに回転させている状態で、ワークWに中心軸X1の軸方向の圧縮圧力Paを作用させた状態を示す図である。図2の(c)は、さらにワークWを所定角度θで曲げた状態(ワークWに曲げ力Pbを作用させている状態)を示す図である。図2の(d)は、ワークWの曲げを解消した状態(曲げ戻している状態)を示す図である。図2の(e)は、最終的に得られるワークWであって、長手方向の途中位置に肥大部Waが目的の外径Dtで形成されたワークWを示す図である。
図3は、従来例にかかる軸肥大加工方法により肥大部Waを形成する過程での圧縮圧力Paと曲げ角度θの変化を説明する図である。
図4は、従来例にかかる軸肥大加工方法を説明するフローチャートである。
これにより、圧縮圧力Paが時刻t0から一定の割合で増加して、時刻t1において、所定の圧縮圧力P2に到達する(図3:Phase1参照)。
圧縮圧力Paが圧縮圧力P2に到達するまでの間で、中心軸X1の軸方向に圧縮されたワークWの領域Kに、肥大部WaがワークWの外径D1よりも大きい外径で形成される。
なお、この時刻t1から時刻t2までの間、圧縮圧力Paは、圧縮圧力P2のままで保持される。
そうすると、ワークWが領域Kを境にして、第1金型11で保持された領域と、第2金型12で保持された領域とが、所定角度θで曲げられた状態となる。
すなわち、領域Kの肉が、第2金型12の曲げ方向側に肥大化する(図2の(c)参照)。
さらに、設定圧縮圧力Ptに到達するまでの間に、ワークWの領域Kに形成された肥大部Waの外径が大きくなる。
なお、この時刻t2から時刻t3までの間、曲げ角度θは、設定曲げ角度θtのままで保持される。
これにより、領域Kに形成された肥大部Waの外径が、時間の経過と共に大きくなる(図3:Phase3参照)。
具体的には、制御装置2は、肥大部Waの外径が、肥大部Waの目標の外径Dtを基準とした所定の閾値範囲Dt±αに到達したか否かを確認する。
これにより、肥大部Waの外径Dが目標の外径Dtを基準とした所定の閾値範囲Dt±αに到達した時点(時刻t4)において、圧縮圧力Paが圧縮圧力P3に変更される(図3、Phase4参照)。
これにより、目標の外径Dtを基準とした所定の閾値範囲Dt±αの外径の肥大部Waを持つワークWが得られることになる(図2の(e)参照)。
例えば、軸肥大加工方法により作成される対象物が、図5の(a)に示すような車両用無段変速機のプーリ3(プーリ部品)である場合には、軸肥大加工により形成したシーブ部31では、シーブ端面31aと、シーブ付根30aに割れ(亀裂)が生じることがある。
(a)シーブ端面31aの割れは、曲げ角度θが大きく、圧縮圧力Paが大きいほど生じやすい。
(b)シーブ付根30aの割れは、曲げ角度θが大きく、圧縮圧力Paが小さいほど生じやすい。
さらに、以下の点を確認した。
(c)軸肥大加工時におけるワークWの加工回転回数(累積回転回数)が多くなると、割れの発生が顕著になる。
加工回転回数は、ワークWの位相が中心軸X1回りに360°変化した時点を1回転としてカウントし、シーブ部31の形成が完了するまでに、ワークWの1回転(位相の360°の変化)が、合計何回行われたのかを意味する。
例えば、加工回転回数が2回である場合には、シーブ部31を形成する過程でワークWが中心軸X1回りに、2回転したことを意味している。
この際に、ワークWでは、曲げ側に位置する領域の素材(肉)が圧縮される一方で、曲げ側とは反対側に位置する領域の素材(肉)が引っ張られて伸張する。
よって、中心軸X1回りに回転するワークWには、シーブ部31を形成する過程で、圧縮力と引張り力が交互に作用する。そのため、シーブ部31を形成する際にワークWに作用する応力は一定の振幅を持って変動しており、形成途中のシーブ部31に作用する応力に応力振幅が発生している。
図5の(a)は、軸肥大加工によりシーブ部31を形成したプーリ3におけるシーブ付根30aとシーブ端面31aの位置を説明する図である。
図5の(b)は、シーブ付根30aにおける応力振幅(GPa)と、加圧力(kN)および曲げ角度(θ)との関係と、シーブ端面31aにおける応力振幅(GPa)と、加圧力(kN)および曲げ角度(θ)との関係を説明する図である。
本件発明者は、軸肥大加工の際の加圧力と曲げ角度θが、応力振幅に与える影響を、実験やシミュレーションにより検討した。
なお、図5の(b)は、前記した軸肥大加工におけるPhase3(図3参照)での応力振幅を示している。
これは、加圧力が大きくなるほど、肥大している途中のワークWの素材と金型10(第1金型11、第2金型12)との接触面積が広くなるからである。
曲げ角度が大きくなるほど、シーブ付根30aに作用する曲げモーメントが大きくなる。そして、曲げモーメントは、ワークWにおける曲げ側に位置する領域(図2の(c)の場合には、上側の領域)に作用し、ワークWにおける曲げ側に位置する領域と、曲げ側と反対側に位置する領域(図2の(c)の場合には、下側の領域)に作用するモーメントとの差が大きくなる。そのため、シーブ付根30aに作用する応力振幅(応力の変動)が大きくなるからである。
これは、シーブ端面31a側は、軸肥大加工時に中心軸X1方向の両側に位置する金型10(第1金型11、第2金型12)と、中心軸X1周りの周方向の全周に亘って接触していないためである。
そのため、シーブ端面31a側の素材が、ワークWにおける曲げ側に位置する場合と、曲げ側とは反対側に位置する場合で、加圧力の変動が大きくなり、応力振幅が増加するからである。
なお、応力振幅(GPa)の程度は、シーブ部31の付根(シーブ付根30a)のほうが、外周部(シーブ端面31a)よりも大きくなる。
この図6では、割れを生じさせることなくシーブ部31を形成できる加工回転回数(許容累積回転回数)が、割れ限界線Lとして規定されている。
そして、この割れ限界線Lと、軸肥大加工時に許容できる応力振幅(許容応力振幅範囲)との関係が示されている。
そして、シーブ部31(肥大部)を形成する際の加工条件(図3:Phase3)において、加工回転回数と応力振幅を変更した場合について、シーブ付根30aとシーブ端面31aにおける割れの発生の有無を、シミュレーションおよび実験を通じて検討した。
なお、図6では、軸肥大加工時に割れが生じた場合を「白丸」で、割れが生じなかった場合を「黒丸」で示している。
(a)応力振幅(GPa)が小さくなるほど、シーブ部31を形成する際に割れなどの不具合を生じさせずに済む加工回転回数が多くなる。
(b)応力振幅(GPa)が大きくなるほど、シーブ部31を形成する際に割れなどの不具合を生じさせずに済む加工回転回数が少なくなる(図6参照)。
(c)割れなどの不具合を生じさせずに済む加工回転回数(許容累積回転回数)は、シーブ付根30aのほうがシーブ端面31aよりも少ない。
そのため、加工回転回数の増加により蓄積される疲労が、応力振幅が大きいほど多くなるので、割れなどの不具合を生じさせずに済む加工回転回数(許容累積回転回数)が、応力振幅(GPa)が大きくなるほど少なくなるからである。
さらに、軸肥大加工時の応力振幅は、シーブ付根30aのほうがシーブ端面31aよりも大きいからである。
そして、この割れ限界線Lは、軸肥大加工時にワークWが1回転する間に発生する応力振幅(平均)と加工回転回数との積が、軸肥大加工時に蓄積される加工エネルギーに比例すると仮定して、2つの変数(応力振幅、加工回転回数)のグラフで求めたものである。
応力振幅が小さくなると、割れが生じ難くなるものの、シーブ部31の形成に必要な加工回転回数が増加する。そのため、シーブ部31の形成に要する時間(加工時間)が長くなり、プーリ3の作製コストが高くなる。
そのため、プーリ3の作製コストを考慮して、加工回転回数の上限値NUを決定し、この決定した上限値NUと割れ限界線Lとの交点から、応力振幅の下限値VLを設定した。
軸肥大加工に用いるワークWのロット差などにより、軸肥大加工時の応力振幅が大きくなる方向に振れる場合がある。かかる場合であっても、割れが生じる可能性がある領域まで応力振幅が増加することがない応力振幅の値を、上限値VUとした。
続いて、制御装置2は、算出した応力振幅値が、応力振幅(GPa)と加工回転回数(rev)との関係を説明する図6において、許容応力振幅範囲内であるか否かを確認する(ステップS203)。
また、算出された応力振幅値Vx’が、応力振幅の下限値VLよりも小さい場合には、修正後の加工条件から新たに算出される応力振幅値が大きくなるように、加工条件(曲げ角度θ、圧縮圧力Pa)を修正する。
曲げ角度θを保持したままで圧縮圧力Paを増加させると、形成途中のシーブ部31(肥大部)と、第1金型11および第2金型12との接触面積が増加して、応力振幅が低下するからである。
応力振幅が大きくなるほど、肥大部の根元(付け根)に不具合が生じやすくなる。
そのため、圧縮圧力を増加させても、応力振幅が所定の応力範囲内(許容応力振幅範囲内)に達しない場合に、曲げ角度を減ずることで、応力振幅を所定の応力範囲内に納めることが可能になる。
そして、修正後の加工条件(曲げ角度θt、設定圧縮圧力Pt)が、それぞれ、軸肥大加工の際の設定曲げ角度θt、設定圧縮圧力Ptとして設定される(ステップS205)。
本実施形態にかかる軸肥大加工方法は、ステップS301からステップS303までの処理と、ステップS306の処理が、それぞれ、前記した従来例にかかる軸肥大加工方法のステップS101からステップS103までの処理と、ステップS105の処理と同じである。よって、ここでは異なる処理について主として説明をし、他の処理については必要に応じて説明する。
そうすると、制御装置2は、軸肥大加工が完了したか否かを確認する(図8:ステップS304)。
具体的には、制御装置2は、シーブ部31(肥大部)の外径が、シーブ部31の目標の外径Dtを基準とした所定の閾値範囲Dt±αに到達したか否かを確認する。
許容累積回転回数Nxに達していない場合には(ステップS305、No)、ステップS304の処理に移行する。
よって、実験やシミュレーションの結果を踏まえて、割れが生じないように設定された設定曲げ角度θtと、設定圧縮圧力Ptと、許容累積回転回数Nxとを用いて、ワークWの軸肥大加工を行うことで、シーブ付根30aやシーブ端面31aに割れを生じさせることなく、プーリ3を作製することが可能になる。
よって、加工する部品の形状が変化(発生応力が変化)しても、同じ材料、熱処理であれば同様の考え方を適用できるため、新部品設計にも適用できる。
ここで、軸肥大加工時の割れの生じやすさは、ワークW(円柱形状の鋼材:軸部材)を構成する素材の組成に応じて変化する。
そのため、加工回転回数の上限(許容累積回転回数)を規定する割れ限界線Lもまた、ワークWを構成する素材の組成に応じて、加工回転回数の増減方向(図9における左右方向)に変化する。
本件発明者は、ワークW(円柱形状の鋼材)の軸肥大加工によりシーブ部31を形成するにあたり、ワークWを構成する素材の組成であって、シーブ付根30aやシーブ端面31aに割れを生じ難くすることができる最適の組成を鋭意検討した。
その結果、以下のような組成のワークWが、好ましいことを見いだした。
重量%で、
C :0.10〜0.25%、
Si:≦0.35%、
Mn:0.30〜1.0%、
P :≦0.03%、
S :≦0.025%、
Cu:≦0.3%、
Ni:≦0.3%、
Cr:0.3〜1.5%、
Mo:≦0.2%、
Al:0.030〜0.050%、
N :0.005〜0.030%、
残部が、実質的にFeから成る。
そして、ワークW(軸部材)は、軟化熱処理前におけるフェライト+パーライト組織の比率が95%以上、かつ下記式(1)のVpの値が40%以下である鋼材に対して軟化熱処理により、硬さHを、85HRB以下としたものであることが好ましい。
Vp=183.36×C+2.6×Mn+3.8×Cu+2.8×Ni+8.05×Cr−15.18≦40・・・(1)
"電気製鋼"、1994、第65巻、第1号p.67−75 "電気製鋼"、1998、第69巻、第1号p.57−64
C(炭素)は、ワークW(円柱形状の鋼材)の強度を確保するために含まれる元素である。ワークWは、強度を確保するためにCを0.1%以上含んでいる必要がある。
ただし、Cの含有量が多くなると、ワークWの硬さが硬くなりすぎて、ワークWの変形抵抗が大きくなる。そうすると、冷間加工性が損なわれてしまう。
そのため、Cの含有量の上限を0.25%以下とする。Cの含有量は、0.10〜0.2%が好ましい。
ただし、Siの含有量が多くなると、Cの場合と同様に、冷間加工性が損なわれてしまう。
そのため、Siの含有量の上限を0.35%以下とする。なお、焼き入れ性を考慮すると、Siの含有量は、0.05〜0.25%が好ましい。
ただし、Mnの含有量が多くなると、ワークWが硬くなりすぎて、冷間加工性が損なわれてしまう。
そのため、Mnの含有量の上限を、1.0%以下とする。Mnの含有量は、0.30〜1.0%が好ましい。
そのため、Pの含有量の上限を、0.03%以下とする。なお、Pの含有量は、0.02%以下であることが好ましい。
そのため、Sの含有量の上限を、0.020%以下とする。
なお、Sは、ワークWを構成する素材に含まれるMnと反応してMnSを生成する。MnSは、鋼材の被削性を向上させる。具体的には、切削抵抗を低減させて工具寿命を向上させる。
そのため、被削性を向上させるためにSを添加することが好ましいが、添加しなくても良い。なお、添加する場合のSの含有量は、0.005%〜0.020%以下であることが好ましい。
ただし、Crの含有量が多くなりすぎると、圧延時に硬質なベイナイトが生成されて、冷間加工性が損なわれてしまう。
そのため、Crの含有量の上限を、1.50%とする。Crは、0.3%以上含まれていれば、焼き入れ性を高める効果を発揮する。そのため、Crの含有量は、0.3%以上、1.5%以下が好ましい。
Moは高価であり、Moの含有量が多くなると、圧延時に硬質なベイナイトが生成されて、冷間加工性が損なわれてしまう。
Moは、微量の添加で効果を発揮するので、Moの含有量の上限は、0.2%以下、より好ましくは0.15%以下であることが好ましい。
Alの含有量は、製造コストを考慮に入れつつ、これらの効果を得るためには、0.030〜0.050%以下であることが好ましい。
ただし、Nの含有量が0.030%を超えると、浸炭時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果が飽和する。
Nの含有量は、0.005〜0.030%であることが好ましい。
これらのものは、浸炭時のオーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果を発揮する。
ただし、Nbの含有量が0.1%を超えると、オーステナイト結晶粒の粗大化を防止する効果が飽和する。さらに、ワークが硬くなりすぎて冷間鍛造性が損なわれてしまう。
そのため、Nbの含有量の上限を0.1%とする。なお、Nbの含有量は、0.05%以下であることが好ましい。
ただし、Bの含有量が0.0030%を超えると、焼き入れ性を高める効果が飽和する。そのため、Bの含有量は、0.0030%以下であることが好ましい。
Bは、焼き入れ性を向上させるためにワークを構成する素材に含まれているが、BがNと結合してしまうと、目的とする焼き入れ性を確保できなくなる。
すなわち、Tiは、Bの添加による焼き入れ性を確保するために、ワークを構成する素材に添加される。
ここで、前記したNの含有量の上限が、0.030%であることを考慮すると、Tiの含有量の上限は、0.20%であることが好ましい。
(a)軟化熱処理前おけるフェライト+パーライト組織の比率が95%以上である。
(b)下記式(1)のVpの値が、40%以下である。
Vp=183.36×C+2.6×Mn+3.8×Cu+2.8×Ni+8.05×Cr−15.18≦40・・・(1)
Vpの値が40を超える(>40)と、第2相(パーライト層)を起点とした成型時の割れが顕著になる傾向がある。
具体的には、焼き鈍し後の硬さが硬くなると、必要な形に成型する際に必要な成形荷重が増える。そのため、焼き鈍し後の硬さHが85HRBを超えると、冷間加工により目的の形状に加工することが困難になる。
(i)冷間加工に用いる鍛造設備の能力を高くする必要がある。(ii)成形に用いる金型の寿命が低下するので、寿命の低下を抑えるための対策が必要になる。
そのため、焼き鈍し後の硬さHは、上限を85HRBとして、80HRB以下であることが好ましい。
ここで、ワークWの加工回転回数の上限を示す割れ限界線L1が、ワークWの焼き鈍し後の硬さHの減少により、割れ限界線L2(許容累積回転回数)までシフトした場合を例に挙げて説明する。
よって、この許容累積回転回数の増加分だけ、軸肥大加工時の許容累積回転回数の上限に余裕ができる(図9、交差したハッチングの領域参照)ので、軸肥大加工によりプーリ3を作成する場合の歩留まりの向上が期待できる。
(1)軸肥大加工方法では、金属製の軸部材であるワークWを、当該ワークWの中心軸X1の軸方向で間隔をあけた第1金型11および第2金型12によって把持し、
ワークWにおける第1金型11と第2金型12との間の領域Kを曲げ、ワークWを中心軸X1回りに回転させながら、ワークWに圧縮応力を作用させることで、ワークWにおける第1金型11と第2金型12との間の領域Kに、ワークWよりも大径の肥大部Waを形成する。
ワークWにおける第1金型11と第2金型12との間の領域Kの曲げ角度θと、ワークWに作用させる圧縮圧力Paとにより生じる応力振幅であって、ワークWと肥大部Waに作用する応力振幅を検出する。
検出した応力振幅の数値に応じて、割れを生じさせることなく肥大部Waを形成できる加工回転回数の上限(許容累積回転回数)を算出する。
第1金型11と第2金型12で把持されたワークWの累積回転回数(現時点での加工回転回数)を検出する。
検出した累積回転回数が、許容累積回転回数内となるようにして加工する。
肥大部を形成する際に不具合を生じさせずに済むワークWの累積回転回数である許容累積回転回数は、軸肥大加工の際の応力振幅に応じて決まる。
すなわち、応力振幅が大きくなると許容累積回転回数が少なくなり、応力振幅が小さくなると許容累積回転回数が多くなる。
そのため、軸肥大加工の際のワークWの回転回数(累積回転回数)を、軸肥大加工の際の応力振幅から決定した許容累積回転回数内に留めることで、不具合を生じさせることなく肥大部を形成できる。
すなわち、軸肥大加工の加工限界を、肥大部を形成する際の軸部材の許容累積回転回数として求めることで、肥大部を精度良く形成することができる。
(2)検出した応力振幅の数値が、所定の応力振幅範囲外である場合は、
圧縮圧力Pa(加圧力)と曲げ角度θを増減することで、応力振幅の数値が、所定の応力振幅範囲内(図6:許容応力振幅範囲内)になるようにすると共に、検出した累積回転回数が、許容累積回転回数内となるようにして加工する。
肥大部を形成する際の応力振幅を、不具合の生じ易さと加工時間とに基づいて設定した所定の応力振幅範囲内にして軸肥大加工を行うことで、不具合を生じさせることなく適切な加工精度で肥大部を形成できる。
また、軸肥大加工の加工条件である圧縮圧力と曲げ角度の増減を制御することで、肥大部を形成する際の応力振幅を、所定の応力振幅範囲内に納めることができる。
(3)検出した応力振幅の数値が、所定の応力振幅範囲(許容応力振幅範囲)外である場合は、
圧縮圧力を増加することで、応力振幅の数値が、所定の応力範囲(許容応力振幅範囲)内になるようにすると共に、検出した累積回転回数が、許容累積回転回数内となるようにして加工する。
よって、軸肥大加工の加工条件である圧縮圧力と曲げ角度の増減を制御することで、肥大部を形成する際の応力振幅を、所定の応力振幅範囲内に納めることができる。
(4)検出した応力振幅の数値が、所定の応力振幅範囲(許容応力振幅範囲)外である場合は、
圧縮圧力を増加すると共に、圧縮圧力を増加させた後も応力振幅が所定の応力範囲内に到達しない場合には、曲げ角度を減ずることで、応力振幅の数値が、所定の応力振幅範囲(許容応力振幅範囲)内になるようにする。
そのため、圧縮圧力を増加させても、応力振幅が所定の応力範囲内に達しない場合に、曲げ角度を減ずることで、応力振幅を所定の応力範囲内に納めることが可能になる。
よって、軸肥大加工の加工条件である圧縮圧力と曲げ角度の増減を制御することで、肥大部を形成する際の応力振幅を、所定の応力振幅範囲内に納めることができる。
(5)軸肥大加工方法において圧縮圧力と曲げ角度を所定時間保持する際に
検出した応力振幅の数値が所定の応力振幅範囲外であり、かつ検出した累積回転回数が、第1の所定回転回数以上第2の所定回転回数(許容累積回転回数)以内である場合に、応力振幅を所定の応力範囲内にするために、圧縮圧力を増加させる。
なお、累積回転回数は、軸肥大加工の開始からの回転回数であり、第1の所定回転回数は、1以上である。
(6)ワークW(円柱形状の鋼材)は、
重量%で、
C :0.10〜0.25%、
Si:≦0.35%、
Mn:0.30〜1.0%、
P :≦0.03%、
S :≦0.025%、
Cu:≦0.3%、
Ni:≦0.3%、
Cr:0.3〜1.5%、
Mo:≦0.2%、
Al:0.030〜0.050%、
N :0.005〜0.030%、
残部が、実質的にFeから成る。
そして、ワークW(軸部材)は、軟化熱処理前におけるフェライト+パーライト組織の比率が95%以上、かつ下記式(1)のVpの値が40%以下である鋼材に対して軟化熱処理により、硬さが85HRB以下としたものである。
Vp=183.36×C+2.6×Mn+3.8×Cu+2.8×Ni+8.05×Cr−15.18≦40・・・(1)
これにより、肥大部を形成する際の軸部材の許容累積回転回数が増えるので、割れの発生を防ぎつつ肥大部を所定の形状まで形成できる。
(7)ワークWは、JISG0561で規定されているジョミニー焼き入れ性試験において、J9値≧28HRCを満たす。
例えば、肥大部を有する軸部材が、車両用のベルト式の無段変速機のプーリである場合には、肥大部が、最終的にプーリのフランジ部となる。そのため、硬さと、ベルトが摺動するフランジ部の機能性(耐摩耗性、フランジ部の付け根の耐曲げ疲労性)を両立したプーリを提供できる。
(8)ワークWは、Nbを、0.02から0.10重量%更に含む。
(9)ワークWは、B:0.0005から0.0030%、Ti:3.4×N〜0.2重量%更に含む。
よって、Bの含有量を上記のように構成することで、目的とする焼き入れ性を確保できる。
(9)ワークWが、ベルト式の無段変速機に用いられるプーリ3の作製に用いられる円柱形状の軸部材である。
軸肥大加工により形成する肥大部が、プーリ3におけるシーブ部31である。
ワークWにおけるシーブ部31(肥大部)にならない領域が、プーリ3における軸部30である。
軸部30とシーブ部31との境界が、シーブ付根30aである。
10 金型
11 第1金型
12 第2金型
2 制御装置
21 第1金型用駆動モータ
22 第2金型用駆動モータ
23 スライド機構
24 傾斜機構
30 軸部
3 プーリ
30a シーブ付根
31 シーブ部
31a シーブ端面
K 領域
L 割れ限界線
N1 回転速度
NU 上限値
Np 加工回転回数
Pb 曲げ力
Pt 設定圧縮圧力
θt 設定曲げ角度
VL 下限値
VU 上限値
Vx 許容累積回転回数
W ワーク
Wa 肥大部
X1 中心軸
Claims (5)
- 金属製の軸部材を、当該軸部材の中心軸の軸方向で間隔をあけた第1金型および第2金型によって把持し、
前記軸部材における前記第1金型と前記第2金型との間の領域を曲げ、前記軸部材を前記中心軸回りに回転させながら、前記軸部材に圧縮応力を作用させることで、前記軸部材における前記第1金型と前記第2金型との間の領域に、前記軸部材よりも大径の肥大部を形成する軸肥大加工方法であって、
前記肥大部を形成する際の加工条件に基づいて、前記肥大部を形成する際に前記肥大部に作用する応力振幅値を算出し、
算出した応力振幅値に基づいて、前記肥大部を形成する際の前記軸部材の累積回転数の上限である許容累積回転回数を決定し、
前記肥大部の形成開始からの前記累積回転数が、前記許容累積回転回数に達するまでを限度として、前記肥大部の形成を実施する、ことを特徴とする軸肥大加工方法。 - 前記算出した応力振幅値が、前記応力振幅値の下限値と前記応力振幅値の上限値との間の許容応力振幅範囲外である場合は、
前記加工条件を修正して、修正後の加工条件に基づいて算出した応力振幅値が、前記許容応力振幅範囲内となる加工条件を新たに設定し、
加工条件が新たに設定された場合には、
新たに設定された加工条件から算出した前記応力振幅値に基づいて、前記許容累積回転回数を決定する、ことを特徴とする請求項1に記載の軸肥大加工方法。 - 前記加工条件として、
前記軸部材における前記第1金型と前記第2金型との間の領域の曲げ角度と、前記軸部材に作用させる圧縮圧力があり、
前記加工条件の修正では、
前記圧縮圧力と前記曲げ角度を増減して、前記新たな加工条件が設定される、ことを特徴とする請求項2に記載の軸肥大加工方法。 - 前記算出した応力振幅値が、前記応力振幅値の上限値以上の場合の前記加工条件の修正では、前記圧縮圧力を増加させることで、前記新たな加工条件が設定され、
前記算出した応力振幅値が、前記応力振幅値の下限値以下の場合の前記加工条件の修正では、前記圧縮圧力を減ずることで、前記新たな加工条件が設定される、ことを特徴とする請求項3に記載の軸肥大加工方法。 - 前記算出した応力振幅値が、前記応力振幅値の上限値以上の場合の前記加工条件の修正では、前記圧縮圧力を増加させることで、前記新たな加工条件が設定されると共に、
前記圧縮圧力を増加させた後も前記応力振幅値が前記許容応力振幅範囲内に到達しない場合には、前記曲げ角度を減ずることで、前記新たな加工条件が設定され、
前記算出した応力振幅値が、前記応力振幅値の下限値以下の場合の前記加工条件の修正では、前記圧縮圧力を減ずることで、前記新たな加工条件が設定されると共に、
前記圧縮圧力を減じた後も前記応力振幅値が前記許容応力振幅範囲内に到達しない場合には、前記曲げ角度を増加させることで、前記新たな加工条件が設定される、ことを特徴とする請求項3に記載の軸肥大加工方法。
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