リチウムイオン二次電池などに用いられる電池極板は、供給ロールから巻取りロールまで搬送される板状の基材に対して、活物質、バインダー、増粘剤、溶媒を含んでなる塗工液を、ダイ先端から吐出することで、均一な厚みの塗膜を形成し、それらを乾燥させることで製造される。電池は、正極極板と負極極板の間にセパレータを挟み、巻回または積層させて缶内に電解液とともに封入させることにより、構成されている。
近年は車載用電池としての普及が進む中で、高容量化および安全性が課題となっており、いかに均一な厚みかつ高密度な塗膜を有する極板を製造するかが重要となっている。
電池の高容量化を実現するためには、基材の使用量を削減しつつ活物質の量を増やす必要がある。そのためには基材の両面に塗膜を形成する必要がある。
また低価格化が進行する中で、いかに生産性を高めるかが各社の課題であり、様々な技術が開発されている。
例えば、バックアップロールにより基材を支持しながら基材の上面に塗膜を形成し、乾燥装置にて乾燥させた後に、基材面を反転させ、バックアップロールにより基材を支持しながら基材の下面にも塗膜を形成する方法が提案されている。
この方法により、塗膜を安定的に製造できるものの、乾燥工程が2箇所必要になることや、基材の下面に塗膜を形成する際に基材をひっくり返す必要があるため、設備コストが大きくなる、工程が長くなる、スペースが必要になるなどの問題があり、生産性が限られていた。
この課題を解決する方法として特許文献1には、スリットダイ吐出口を対向させて配置し、塗工液を同時に吐出させながら基材の両面に塗膜を形成し、基材の上面と下面に形成した塗膜を同時に乾燥させることで、基材の両面に極板を一括で形成する方法が提案されている。
しかしながらこの方法では、スリットダイごとに吐出圧力が異なる場合は、基材の位置がその影響を受けて変形しやすく、上面と下面の塗工液の塗布厚みに差異が生じるという課題がある。
また、特許文献2には、バックアップロールにより基材を支持しながら基材の上面にスリットダイにより塗膜を形成し、その基材を水平方向に搬送させ、基材の鉛直下面に鉛直上方に吐出口を有したダイを設置し、基材の下面に塗膜を形成することで基材両面に極板を一括で形成する方法が提案されている。
特許文献2の方法では、2つのスリットダイ間の吐出圧力の差による塗工厚みへの影響を受け難く、連続的に塗膜を形成する場合には適しているものの、吐膜が形成された塗工部と吐膜を形成していない未塗工部を、基材の長手方向に交互に繰り返して形成する間欠塗工を実施した場合には、塗工部の終端の形状が悪化する問題がある。
これを図12〜図16に基づいて説明する。
両面塗工基材の搬送については、両面略同時に塗工が完了した後、塗工面の乾燥完了までは塗工面が濡れた状態であるので、長尺のロール等で基材を支持することができない。そこで、基材3の幅方向の両縁部を把持する機構を設けたり、乾燥装置内で基材の上下から気体を噴出させることによって基材を浮遊・搬送させるが、基材自身の重量や塗工された塗工液の重量の影響により、図12に示すように搬送中の基材3が幅方向に撓み易く、特に基材3の幅方向中央部が基材3の両縁部に比べて下側にH1だけ撓んで、上下方向に不安定な状態で搬送されるため、基材3の両縁部と幅方向中央部とで塗工状態が異なる。9は基材3の搬送方向を示している。
図13(a)のT1〜T5は基材3の両縁部での塗工状態の経過を示している。図13(b)のT1〜T6は基材3の幅方向中央部での塗工状態の経過を示している。
水平方向に搬送中の薄板状の基材3に、バックアップロールを用いずにスリットダイ1から塗工液を吐出して塗膜を形成した場合、基材3の両縁部では、スリットダイ1から吐出中の塗工液を停止した直後の図13(a)のT2〜T5のように、スリットダイ1から塗工液の吐出を停止した後も、液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれることなく搬送されていく。
これに対して、基材3の幅方向中央部においては、基材3が撓みやすく上下位置が不安定なことから、図13(b)のT2〜T6のように、塗工液の吐出停止後に液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれてしまい、基材3の両縁部付近での挙動に比べて、液溜りが途切れるタイミングが遅れると共に、その遅れの期間に基材3と塗工液が接し続けていることから、幅方向中央部の液キレが遅れる。そのため、図14に示すように、塗工部4の終端4eの塗布膜の形状が、円弧状に悪化する。Yは尾引き長さを示している。
塗工間欠時の終端形状を改善させる方法としては、スリットダイ1からの塗工液の吐出停止だけでなく、スリットダイ1からの塗工液の吐出停止とともに、スリットダイと基材3との隙間(以下、塗工ギャップと記す)を変化させることが考えられる。
バックアップロール有りで基材3の上面に塗工する場合を図15(a)〜(d)に示す。図15(a)の上段(1)は塗工中の状態のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図、図15(a)の中段(2)は塗工中の状態のスリットダイ1の吐出口における液溜りを搬送方向9の上手側から見た図を示す。図15(a)の下段(3)は基材3に塗工中の上面塗工部6の形状を示す。
この図15(a)の塗工中の状態から塗工ギャップをそのままにしてスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図15(b)の上段(1)に示す。図15(b)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図15(b)の下段(3)は基材3の上面塗工部6の終端6eの尾引きを示す。
図15(a)の塗工中の状態から塗工ギャップを大きくするとともにスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図15(c)の上段(1)に示す。図15(c)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図15(c)の下段(3)は基材3の上面塗工部6の終端6eの尾引きを示す。
図15(a)の塗工中の状態から塗工ギャップを小さくするとともにスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図15(d)の上段(1)に示す。図15(d)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図15(d)の下段(3)は基材3の上面塗工部6の終端6eの尾引きを示す。
バックアップロールを用いずに基材3の下面に塗工する場合を図16(a)〜(d)に示す。図16(a)の上段(1)は塗工中の状態のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図、図16(a)の中段(2)は塗工中の状態のスリットダイ1の吐出口における液溜りを搬送方向9の上手側から見た図を示す。図16(a)の下段(3)は基材3に塗工中の下面塗工部4の形状を示す。
この図16(a)の塗工中の状態から塗工ギャップをそのままにしてスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図16(b)の上段(1)に示す。図16(b)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図16(b)の下段(3)は基材3の下面塗工部4の終端4eの尾引きを示す。
図16(a)の塗工中の状態から塗工ギャップを大きくするとともにスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図16(c)の上段(1)に示す。図16(c)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図16(c)の下段(3)は基材3の下面塗工部4の終端4eの尾引きを示す。
図16(a)の塗工中の状態から塗工ギャップを小さくするとともにスリットダイ1からの塗工液の吐出を停止させた場合のスリットダイ1の吐出口における液溜りの側面図を、図16(d)の上段(1)に示す。図16(d)の中段(2)は搬送方向9から見たそのときの液溜りを示す。図16(d)の下段(3)は基材3の下面塗工部4の終端4eの尾引きを示す。
図15のようにバックアップロール有りで基材3の上面に塗工する場合には、スリットダイ吐出口での基材3はバックアップロールに密着した状態で保持されるため、塗工中および間欠時に基材位置が変動することによる塗工ギャップの変化は生じない。
そこで、図15(a)に示す塗工中の状態から塗工液の吐出を停止させることにより間欠させると、図15(b)(2)に示すように、幅方向両縁部から幅方向中央部に向かい液溜りが途切れていくことで上面塗工部6の終端6eが形成されるため、幅方向中央部が幅方向両縁部周辺に比べて液キレが遅れ、円弧状の終端形状となる。なお、この円弧状となる程度に関しては、粘度や表面張力といった塗工液の物性や、塗工液と基材3およびスリットダイ1先端部との濡れ性の関係にも影響される。
そこで図15(c)に示すように、塗工液の吐出停止に合わせてスリットダイ1を上昇して塗工ギャップを広げると、図15(c)(2)に示すように液溜りの途切れを促進でき、図15(d)に示すように終端6eが円弧状になる程度が軽減されることで、上面塗工部6の終端6eの直線性が向上する。
塗工液の吐出停止に合わせた塗工ギャップの変化としては、吐出停止に合わせてスリットダイ1を下降して塗工ギャップを狭くすることも考えられるが、その場合、図15(d)(2)に示すようにダイヘッド吐出部の液溜りを基材3側へ押し潰すことになり、図15(d)(3)に示すように上面塗工部6の塗布幅が広がってしまうため、通常は、塗工液の吐出停止に合わせてスリットダイ1を上昇して塗工ギャップを広げる方法が用いられる。
ここで同様に、バックアップロールを用いずに基材3の下面に塗工する場合において実施した場合には、図16(a)に示す塗工中の状態から、塗工液の吐出を停止させることにより間欠させると、基材3が幅方向に撓み易く、特に基材幅方向中央部が上下方向に不安定な状態で搬送されることから、図16(b)(2)に示すように、幅方向両縁部から幅方向中央部に向かい液溜りが途切れていく挙動において、液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に引き込まれてしまい、幅方向中央部で液溜りが途切れるタイミングが幅方向端部付近に比べて大きく遅れるため、図16(b)(3)に示すように終端4eは非常に大きな円弧となってしまう。
そこで、図16(c)に示すように、塗工液の吐出停止に合わせてスリットダイ1を下降して塗工ギャップを広げると、図16(c)(2)に示すように液溜りの途切れを促進でき、図16(c)(3)に示すように下面塗工部4の終端4eが円弧状になる程度が図16(b)(3)に比べて軽減されるものの、バックアップロール有りで基材3の上面に塗工する場合(図15(c)(3))に比べると悪化してしまうという問題がある。
図16(d)に示すように塗工液の吐出停止に合わせてスリットダイ1を上昇して塗工ギャップを狭くした場合は図15(d)(3)と同様に、図16(d)(2)に示すようにダイヘッド吐出部の液溜りを基材3側へ押し潰すことになり、図16(d)(3)に示すように下面塗工部4の終端4eでの塗布幅が広がってしまうため、通常は、塗工液の吐出停止に合わせてスリットダイ1を下降して塗工ギャップを広げる方法が用いられる。
そこで本発明は、上記課題を鑑み、基材にスリットダイを用いて塗工液を間欠的にかつ均一な厚みにて塗工しながら、下面塗工部の終端の直線性が良好な電池極板を形成できる、電池極板の製造方法を提供することを目的とする。
本発明の電池極板の製造方法は、走行する基材に対して、吐出口が前記基材の下面に対向して配置したスリットダイによって塗工液を間欠して吐出して下面塗工部と未塗工部を繰り返し形成し、前記下面塗工部が塗布された前記基材を、乾燥装置を通過させて乾燥させる電池極板の製造方法であって、前記スリットダイの吐出口からの塗工液の停止の前に、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を狭くする動作を完了し、この後に前記スリットダイへの塗工液の供給を停止する、ことを特徴とする。
また、前記基材は、前記下面塗工部を形成するよりも前に上面に塗工液を塗布して乾燥前の上面塗工部が形成されている、ことがより好ましい。
また、前記スリットダイへの塗工液の供給を停止させた後に、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を広くする、ことがより好ましい。
また、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を狭くした状態では、前記スリットダイの先端部の上流端を前記基材の下面に接触させる、ことがより好ましい。
また、前記基材に対する前記スリットダイの角度を変更することで、前記基材との前記隙間を変更する、ことがより好ましい。
本発明の電池極板の塗工装置は、走行する基材に対して、吐出口が前記基材の下面に対向して配置したスリットダイによって塗工液を間欠して吐出して下面塗工部と未塗工部を繰り返し形成し、前記下面塗工部が塗布された前記基材を、乾燥装置を通過させて乾燥させる電池極板の塗工装置において、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間と上流端の基材との隙間を個別に変更できる位置変更部を設け、前記位置変更部を、前記スリットダイの吐出口からの塗工液の停止の前に、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を狭くする動作を完了し、この後に前記スリットダイへの塗工液の供給を停止するよう構成した、ことを特徴とする。
また、前記下面塗工部を形成するよりも前に前記基材の上面に塗工液を塗布して乾燥前の上面塗工部を形成する第2のスリットダイを設ける、ことがより好ましい。
また、前記位置変更部は、前記スリットダイへの塗工液の供給を停止させた後に、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を広くする、ことがより好ましい。
また、前記位置変更部は、前記スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を狭くした状態では、前記スリットダイの先端部の上流端を前記基材の下面に接触させる、ことがより好ましい。
また、前記位置変更部は、前記基材に対する前記スリットダイの角度を変更することで、前記基材との前記隙間を変更する、ことがより好ましい。
この構成によると、スリットダイの先端部の下流端の前記基材との隙間を変化させずに、前記スリットダイの先端部の上流端の前記基材との隙間を狭くする動作を完了し、この後に前記スリットダイへの塗工液の供給を停止するので、塗膜を均一な膜厚で間欠的に形成でき、間欠部での形状直線性も良好な電池極板を製造することができる。
以下、本発明の電池極板の製造方法を、具体的な各実施の形態に基づいて説明する。
(実施の形態1)
以下に、本発明における第1の実施形態について説明する。
図1は、水平に走行する基材3の下面に塗膜を形成する塗工装置8を示す。
塗工装置8は、巻出機(図示しない)より供給される基材3を、搬送ロール7を介して一定の速度で水平方向に搬送し、搬送ロール7より搬送方向9の下流側で基材3に対して鉛直下方に設置したスリットダイ1により塗工液を基材3の下面に基材3の長手方向に間欠的に塗布する。これによって基材3の下面には、塗工液が塗布された下面塗工部4と塗工液を塗布しない未塗工部5が繰り返し形成される。
下面塗工部4と未塗工部5が繰り返し形成された基材3は、乾燥装置16を通過して塗布された塗工液が乾燥されて、巻取機(図示しない)にて回収される。
スリットダイ1にはタンク10とポンプ11とバルブ12が、記載の順番で直列に接続されており、塗工液を定量供給することで、スリットダイ1の吐出口より定量吐出され、均一な厚みの塗膜を形成する。
スリットダイ1は基材3に対して塗工ギャップの空間を有して設置されている。用いられる塗工液の特性によっても異なるが、塗工ギャップは0.01以上1.0mm以下程度設けられる。ポンプ11は定量的かつ連続的に塗工液をスリットダイ1に供給する必要があり、例えば、スクリューポンプやダイアフラムポンプなどがあるが、脈動を考慮してスクリューポンプが選択されることが多い。
バルブ12は詳細には図示しないが、リザーバとバルブ部を備えており、ポンプ11から供給された塗工液が、流路を通ってリザーバに入った後に、流路を通ってバルブ部に向かい、その後、流路が2分岐されてバルブより排出される構造をしている。バルブ部からは、スリットダイ1に向かう流路と、タンク10に向かう流路に分岐されており、ポンプ11は連続的かつ定量的に塗工液を送りながら、バルブ12のバルブ部をエアシリンダーにより切り替えることによって、間欠時にはスリットダイ1側に向かう塗工液をタンク10側へ循環させ、間欠塗工を実現することができる。
タンク10内には塗工液が常温常圧化にて常時充填されており、ポンプ11に供給される。ポンプ11からの塗工液供給量にもよるが、特に沈降しやすい塗工液を使用する場合は、図示しないミキサーなどで常時撹拌しておくことが望ましい。
塗工装置8の運転中のスリットダイ1の姿勢は、位置変更部17によって制御されている。位置変更部17は、下面塗工部4の終端4eに近づいた時に、スリットダイ1の先端部での上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を制御するもので、スリットダイ先端部の下流端HLの基材3との隙間と上流端HUの基材3との隙間を個別に変更できる。
位置変更部17の構成を、図2の動作フローと図3に基づいて説明する。
図2(a)は位置変更部17によってスリットダイ1の姿勢がT1〜T6にわたって制御された場合の基材3の幅方向両縁部付近での液溜りの挙動を示している。T1が塗工中のスリットダイ1の姿勢を示す。このときのスリットダイ1の先端の上流端HUおよび下流端HLと基材3の下面との隙間は同じで、目的の厚さの塗膜を形成するに必要な塗工ギャップに設定されている。バルブ12からスリットダイ1への塗工液の供給停止のタイミングは、図3に示すT2とT3の間のTsに設定されている。T6が下面塗工部4の終端4eでスリットダイ1から基材3への塗工液の供給が終了したタイミングを示している。このようにスリットダイ1の姿勢が制御した場合の幅方向中央部での液溜りの挙動を図2(b)に示す。
図2(a)T1と図2(b)T1に示す塗工中から、バルブ12からスリットダイ1への塗工液の供給停止のタイミングTsよりも手前のT2に、スリットダイ1の姿勢が、先ず、図2(a)T2、(b)T2に示すように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、基材3に対するスリットダイの角度を変更することで、スリットダイ先端部での下流端HLの基材3との隙間を変化させず、上流端HUの基材3との隙間をT1〜T2の期間で狭くする。T2〜T6の期間においてスリットダイ1の先端の上流端HUは基材3の下面には当接していない。そして、スリットダイ1から基材3への塗工液の供給が終了したT6以降のタイミングに、上流端HUの基材3との隙間を下流端HLの基材3との隙間と同じになるまで戻す。
このように、上流端HUの基材3との隙間をT2〜T6で狭くすることで、スリットダイ先端部と基材3との間の液溜りの体積が小さくなるため、基材3が撓みやすく上下動が不安定な基材3の幅方向中央部においても、間欠時に液溜りの表面張力により引き込まれる挙動が制限される。そのため、幅方向端部付近での挙動に比べて幅方向中央部で液溜りが途切れるタイミングが遅れるということが抑制でき、図13と図14で説明したような終端4eでの直線性が悪化することなく、図4に示すような良好な間欠形状をもつ電池極板が形成できる。
また、スリットダイ先端部での下流端HLの基材3との隙間を変化させず、上流端HUの基材3との隙間を狭くするため、下流端HLの基材3との隙間が確保されているため、図15(d)(3)および図16(d)(3)に示すような、終端の塗布幅が広がる問題は生じない。
(実施の形態2)
図5は実施の形態2の動作フローを示す。
実施の形態1の位置変更部17では、図2(a)(b)に示したようにT2〜T6において、スリットダイ先端部での上流端HUは基材3の下面には当接していない。これに対して実施の形態2では、スリットダイ先端部での上流端HUが基材3の下面には当接している点だけが、実施の形態1とは異なる。
図5(a)は基材3の幅方向両縁部付近での液溜りの挙動を示し、図5(b)は幅方向中央部での液溜りの挙動を示す。
図5(a)T1と図5(b)T1に示す塗工中から、バルブ12からスリットダイ1への塗工液の供給停止のタイミングTsよりも手前のT2に、スリットダイ1の姿勢が、先ず、図5(a)T2と図5(b)T2に示すように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、基材3に対するスリットダイ1の角度を変更する。このときスリットダイ先端部の上流端HUが基材3の下面に当接するまでスリットダイ1を回動させる。スリットダイ先端部の上流端HUが基材3の下面に当接したこの状態は、T6まで継続する。
このように、スリットダイ先端部の上流端HUと基材3とを接触させることで、スリットダイ先端部と基材3との間の液溜りの体積を実施の形態1に比べて更に小さくでき、基材3を下側から支持する効果も得られるため、基材3が撓みやすく上下動が不安定な基材3の幅方向中央部において、間欠時に液溜りの表面張力により引き込まれる挙動を実施の形態1に比べて更に制限できる。
この実施の形態2におけるスリットダイ先端部での上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間と、塗工液の供給停止タイミングを定性的に図示した場合は、実施の形態1の場合の図3と同じである。
(実施の形態3)
図6と図7は実施の形態3を示す。
実施の形態1の位置変更部17では、図2(a)(b)に示したようにT2〜T6において、スリットダイ先端部での下流端HLは、T1における下流端HLと同じ位置であって、スリットダイ先端部と基材3の下面との隙間がT2〜T6において同じであった。これに対して実施の形態3では、T5〜T6において、スリットダイ先端部が上流端HUを支点にして下流端HLが、下流端HLと基材3との隙間を広くする方向に回動している点だけが、実施の形態1とは異なる。
図6(a)は基材3の幅方向両縁部付近での液溜りの挙動を示し、図6(b)は幅方向中央部での液溜りの挙動を示す。図7は実施の形態3におけるスリットダイ先端部での上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間と、塗工液の供給停止タイミングを示している。
図6および図7に示すように、図6(a)T1と図6(b)T1に示す塗工中から、図6(a)T2と図6(b)T2に示すように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、基材3に対するスリットダイ1の角度を変更することで、スリットダイ先端部での下流端HLの基材3との隙間を変化させず、上流端HUの基材3との隙間を狭くし、その後、塗工液の供給を停止させる。そして更に、図6(a)T5,T6と図6(b)T5,T6に示すように、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として、基材3に対するスリットダイの角度を変更することで、スリットダイ先端部での上流端HUの基材3との隙間を変化させずに、下流端HLと基材3との隙間を広くする。
このようにT5〜T6において、スリットダイ先端部での下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、スリットダイ吐出口の液溜りが途切れることを促進できるため、幅方向端部付近に比べて幅方向中央部で液溜りが途切れるタイミングが遅れるという挙動を実施の形態1に比べて更に抑制できる。その結果、特に撓みが生じ易い、例えば電池の高容量化において要望される塗工重量の重い塗工条件や肉厚の薄い基材3の場合においても、図13、図14に示したような終端部での直線性が悪化することなく、良好な間欠形状をもつ電池極板が形成できる。
また、実施の形態3によると、図15(d)(3)および図16(d)(3)に示すような、終端で塗布幅が広がる問題は生じない。
(実施の形態4)
図8は実施の形態4の動作フローを示す。
実施の形態2の位置変更部17では、図5(a)(b)に示したようにT2〜T6において、スリットダイ先端部での上流端HUは基材3の下面に当接するとともに、スリットダイ先端部での下流端HLの位置がT1〜T6において同じであった。これに対して実施の形態4では、T5〜T6において、スリットダイ先端部での上流端HUを支点として基材3に対するスリットダイ1の角度を変更することで、下流端HLと基材3との隙間を広くしている点だけが、実施の形態2とは異なる。
図8(a)は基材3の幅方向両縁部付近での液溜りの挙動を示し、図8(b)は幅方向中央部での液溜りの挙動を示す。
このように、実施の形態2の動作フローに加えて、スリットダイ先端部での下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、スリットダイ吐出口の液溜りが途切れることを促進できるため、幅方向端部付近に比べて幅方向中央部で液溜りが途切れるタイミングが遅れるという挙動を実施の形態2に比べて更に抑制できる。
この実施の形態4におけるスリットダイ先端部での上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間と、塗工液の供給停止タイミングを定性的に図示した場合は、実施の形態3の場合の図7と同じである。
その結果、特に撓みが生じ易い、例えば電池の高容量化において要望される塗工重量の重い塗工条件や肉厚の薄い基材3の場合においても、図13、図14に示したような終端での直線性が悪化することなく、良好な間欠形状をもつ電池極板が形成できる。また、本実施の形態によると、図15(d)(3)および図16(d)(3)に示すような、終端の塗布幅が広がる問題は生じない。
(実施の形態5)
図9は水平に走行する基材3の両面に塗膜を形成する実施の形態5の塗工装置8を示す。
塗工装置8は、巻出機(図示しない)より供給される基材3をバックアップロール18から搬送ロール7の順で搬送され、搬送ロール7以降は一定の速度で水平方向に搬送される。
バックアップロール18に対向してスリットダイ2が空間を有して設置されている。このスリットダイ2により基材3の上面に上面塗工部6を形成する。スリットダイ2にはタンク13とポンプ14とバルブ15が、記載の順番で直列に接続されており、塗工液を定量供給することで、スリットダイ2の吐出口より定量吐出され、均一な厚みの塗膜の上面塗工部6を形成する。
その後、上面塗工部6はバックアップロール18および搬送ロール7によって搬送方向9に向かって搬送される。その後、既に上面に乾燥前の上面塗工部6が形成されている基材3の下面に、実施の形態1と同様の構成で、スリットダイ1とタンク10とポンプ11とバルブ12によって下面塗工部4が形成される。上面塗工部6と下面塗工部4が形成された基材3は、乾燥装置16を通過して塗布された塗工液が乾燥されて、巻取機(図示しない)にて回収される。
ポンプ11およびポンプ14は互いに異なる系統であることが望ましく、またバルブ12およびバルブ15も互いに異なる系統であることが望ましいが、タンク10およびタンク13は同じ系統であっても良い。
またバルブ15はスリットダイ2に向かう配管と、タンク13に向かう配管に分岐されており、ポンプ14は連続的かつ定量的に塗工液を送りながら、バルブ15を切り替えることによってスリットダイ2側に向かう塗工液をタンク13側へ循環させ、上面塗工部6を間欠的に形成することができる。
間欠塗工時におけるスリットダイ1の先端部での上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間の制御は、前述の実施の形態1〜4に記載と同様に、位置変更部17によって、基材3に対するスリットダイ1の角度を変更することで、スリットダイ先端部での下流端HLと基材3との隙間を変化させず上流端HUと基材3との隙間を狭く、もしくは上流端HUと基材3を接触させる。もしくは更にその後、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として基材3に対するスリットダイの角度を変更することで、スリットダイ先端部での上流端HUの基材3との隙間を変化させず、下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、図13、図14に示したような終端部での直線性が悪化することなく、図4に示すような良好な間欠形状をもつ電池極板が形成できる。更に、図15(d)(3)および図16(d)(3)に示すような、塗布幅の広がる問題は生じない。
なお、上記の各実施の形態においては、位置変更部17を図3、図7に示したように、スリットダイ1先端部の上流端HUの基材3との隙間を変化させた後のタイミングTsにスリットダイ1への塗工液の供給を停止していたが、図10または図11に示すように、スリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を変化させる途中で塗工液の供給を停止させるように位置変更部17を構成した場合においても、同様に間欠部の良好な終端形状が得られている。
(実施例1)
実施の形態1〜4において、幅1300mmの銅箔の基材3に塗工液のウェット膜厚200μmまたは300μm、塗工長さ1m、未塗工部5の長さ15cm、塗工速度35m/分にて、1000m塗工した場合での下面塗工部4における塗工液尾引き不良発生率についての結果を表1に示す。
ここで、ウェット膜厚200μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を200μm、間欠時に狭くした上流端HUの基材3との隙間を30μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を400μmとした。
ウェット膜厚300μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を300μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を30μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を500μmとした。
なお、尾引きは塗工厚みが厚くなるほど、塗工速度が速くなるほど発生し易い傾向にある。また、良否判定基準として図14の尾引き長さY=1.5mmを超えるものを不良とした。比較例として、図16(b),図16(c)に示す従来技術で同様に実施した尾引き不良率を表1に合わせて示す。
このように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、スリットダイ先端部の下流端HLの基材3との隙間を変化させずに、スリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を狭くした後、塗工液の供給を停止する、もしくは更にその後、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として基材3に対するスリットダイの角度を変更した。
スリットダイ先端部での上流端HUの基材3との隙間を変化させず、下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、一定の速度で水平方向搬送中にバックアップロールを用いずに基材3の下面に塗膜を形成する場合でも、基材自身の重量や塗工された塗工液の重量の影響により、搬送中での基材幅方向の撓みが生じ易くなること、および特に基材幅方向中央部が上下方向に不安定な状態で搬送されることにより終端4eにおいて液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれることなく、幅方向にわたり直線性の良好な終端形状を持つ電池極板を得ることができる。
(実施例2)
基材3の両面に塗膜を形成する図9に示した実施の形態5の塗工装置8において、ウェット膜厚を基材3の上面と下面に100μmまたは200μmとしたた他は全て実施例1と同じ条件とした場合の下面塗工部4における塗工液尾引き不良発生率についての結果を表2に示す。
ここで、ウェット膜厚100μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を100μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を20μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を300μmとした。また、ウェット膜厚200μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を200μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を20μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を400μmとした。
このように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、スリットダイ先端部の下流端HLの基材3との隙間を変化させずに、スリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を狭くした後、塗工液の供給を停止する、もしくは更にその後、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として、基材3に対するスリットダイの角度を変更することで、スリットダイ先端部での下流端HLの基材3との隙間を変化させず、下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、一定の速度で水平方向搬送中にバックアップロールを用いずに基材3の両面に塗膜を形成する場合でも、基材自身の重量や塗工された塗工液の重量の影響により搬送中での基材幅方向の撓みが生じ易くなること、および特に基材幅方向中央部が上下方向に不安定な状態で搬送されることにより塗布終端部において液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれることなく、幅方向にわたり直線性の良好な終端形状を持つ電池極板を得ることができる。
(実施例3)
塗工速度を50m/分とした他は、全て実施例1と同じ条件とした場合の下面塗工部4における塗工液尾引き不良発生率についての結果を表3に示す。
ここで、ウェット膜厚200μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を200μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を30μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を400μmとした。また、ウェット膜厚300μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を300μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を30μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を500μmとした。
このように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、スリットダイ先端部の下流端HLの基材3との隙間を変化させずに、スリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を狭くした後、塗工液の供給を停止する、もしくは更にその後、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として、基材3に対するスリットダイの角度を変更することで、スリットダイ先端部での上流端HUの基材3との隙間を変化させず、下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、一定の速度で水平方向搬送中にバックアップロールを用いずに基材3の下面に下面塗工部4を高速に塗布形成する場合でも、基材自身の重量や塗工された塗工液の重量の影響により、搬送中での基材幅方向の撓みが生じ易くなること、および特に基材幅方向中央部が上下方向に不安定な状態で搬送されることにより塗布終端部において液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれることなく、幅方向にわたり直線性の良好な終端形状を持つ電池極板を得ることができる。
(実施例4)
塗工速度を50m/分とした他は、全て実施例2と同じ条件とした場合の下面塗工部4における塗工液尾引き不良発生率についての結果を表4に示す。
ここで、ウェット膜厚100μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を100μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を20μm、基材と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を300μmとした。また、ウェット膜厚200μmの場合は、塗工中のスリットダイ先端部の上流端HUおよび下流端HLの基材3との隙間を200μm、間欠時に狭くしたスリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を20μm、基材3と接触させる場合の隙間は0μmとし、塗工液供給停止後にスリットダイ先端部の下流端HLと基材3との隙間を広くする場合は、隙間を400μmとした。
このように、スリットダイ先端部の下流端HLを支点として、スリットダイ先端部の下流端HLの基材3との隙間を変化させずに、スリットダイ先端部の上流端HUの基材3との隙間を狭くした後、塗工液の供給を停止する、もしくは更にその後、スリットダイ先端部の上流端HUを支点として、基材3に対するスリットダイ1の角度を変更することで、スリットダイ先端部での上流端HUの基材3との隙間を変化させず、下流端HLと基材3との隙間を広くすることで、一定の速度で水平方向搬送中にバックアップロールを用いずに基材3の両面に塗膜を形成する場合に、下面塗工部4を高速に塗布形成する場合でも、基材自身の重量や塗工された塗工液の重量の影響により、搬送中での基材幅方向の撓みが生じ易くなること、および特に基材幅方向中央部が上下方向に不安定な状態で搬送されることにより塗布終端部において液溜りが途切れて表面張力により縮もうとする挙動に基材3が引き込まれることなく、幅方向にわたり直線性の良好な終端形状を持つ電池極板を得ることができる。