以下、図面を参照して実施形態について説明する。なお、以下の説明においては、「第1前段フィルタ19A」および「第2前段フィルタ19B」のように、同一、類似または対応する構成について、異なる大文字のアルファベットを付すことがある。また、この場合において、単に「前段フィルタ19」のように、大文字のアルファベットを省略して両者を区別しないことがある。
(通信装置の全体構成)
図1は、実施形態に係る通信装置1の要部構成を示す模式図である。
通信装置1は、例えば、電波を受信して所定の処理を実行する装置として構成されている。通信装置1は、例えば、電波の受信側から順に、アンテナ3、フィルタモジュール5、RF−IC(Radio Frequency Integrated Circuit)7およびBB−IC(BaseBand Integrated Circuit)9が接続されて構成されている。
アンテナ3は、受信した無線信号(電波)を電気信号に変換する。フィルタモジュール5は、アンテナ3からの電気信号を増幅するとともに、当該電気信号から所定の通過帯域(後述するように複数の通過帯域)の電気信号を取り出して出力する。RF−IC7は、例えば、フィルタモジュール5からの電気信号に対して、復調、周波数の引き下げ、及びデジタル化を行う。BB−IC9は、例えば、RF−IC7からの信号に対して種々の処理を行う。
通信装置1は、種々の用途に用いられてよく、その用途に応じて、搬送周波数(フィルタモジュール5の通過帯域の周波数)、ベースバンドの周波数およびBB−IC9の処理内容等が決定されてよい。例えば、通信装置1は、GPS(Global Positioning System)等のGNSS(Global Navigation Satellite System)に用いられるものである。フィルタモジュール5の通過帯域は、例えば、GNSSの規格に従って設定されてよく、一例として、1000MHz以上3000MHz以下である。
(フィルタモジュールの構成)
フィルタモジュール5は、例えば、アンテナ3側から順に、前段増幅器11、前段フィルタデバイス13、後段増幅器15および後段フィルタデバイス17を有している。
前段増幅器11は、入力端子11aおよび出力端子11bを有しており、入力端子11aに入力された電気信号を増幅して出力端子11bから出力する。入力端子11aは、アンテナ3に接続されている。前段増幅器11は、例えば、いわゆる低雑音増幅器(LNA:Low Noise Amplifier)によって構成されてよい。LNAのNF(Noise Figure)は、例えば、0.5dB以上1dB以下である。
なお、前段増幅器11の構成は、種々の公知の構成と同様とされてよい。特に図示しないが、前段増幅器11は、例えば、電源端子、入力信号の基準電位端子、出力信号の基準電位端子、制御用(例えば前段増幅器11のON・OFF用)端子を有している。入力端子11aは、図示の例では1つだが、2つであってもよい。このように増幅器の構成が公知の構成とされてよいことは、後段増幅器15についても同様である。
前段フィルタデバイス13は、前段増幅器11の出力端子11bに接続された複数(図示の例では4つ)の第1前段フィルタ19A〜第4前段フィルタ19Dを有している。各前段フィルタ19は、入力された電気信号から所定の周波数帯(通過帯域)の信号を取り出して出力する。複数の前段フィルタ19の通過帯域は互いに異なっている。
後段増幅器15は、入力端子15aおよび出力端子15bを有しており、入力端子15aに入力された電気信号を増幅して出力端子15bから出力する。後段増幅器15は、例えば、前段増幅器11と同様に、LNAによって構成されている。なお、前段増幅器11および後段増幅器15は、互いに同一の構成(同一の製品)であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
後段増幅器15の入力端子15aは、第1前段フィルタ19A〜第4前段フィルタ19Dの出力端子25(図2参照)に接続されている。従って、複数の前段フィルタ19それぞれの通過帯域の電気信号は、1つに纏められて後段増幅器15に入力される。なお、図2では、出力端子25は、複数の前段フィルタ19のそれぞれに設けられているが、複数の前段フィルタ19に共通して1つの出力端子25が設けられていてもよい。
後段フィルタデバイス17は、後段増幅器15の出力端子15bに接続された複数(図示の例では4つ)の第1後段フィルタ21A〜第4後段フィルタ21Dを有している。各後段フィルタ21は、入力された電気信号から所定の周波数帯(通過帯域)の信号を取り出して出力する。複数の後段フィルタ21の通過帯域は互いに異なっている。
複数の後段フィルタ21の数は、例えば、複数の前段フィルタ19の数と同一である。また、各後段フィルタ21の通過帯域は、符号に同一の大文字のアルファベットを付した前段フィルタ19の通過帯域と同一である。すなわち、第1後段フィルタ21Aの通過帯域は、第1前段フィルタ19Aの通過帯域と同一である。第2後段フィルタ21Bの通過帯域は、第2前段フィルタ19Bの通過帯域と同一である。第3後段フィルタ21Cの通過帯域は、第3前段フィルタ19Cの通過帯域と同一である。第4後段フィルタ21Dの通過帯域は、第4前段フィルタ19Dの通過帯域と同一である。互いに同一の通過帯域の前段フィルタ19と後段フィルタ21とは、互いに同一の構成であってもよいし、互いに異なる構成であってもよい。
なお、通過帯域が同一といっても、互いに対応する前段フィルタ19と後段フィルタ21とで通過特性が厳密に一致していなくてもよいことはもちろんである。両者の通過帯域が同一か否かは、仕様書、両者の通過特性、フィルタモジュール5が適用される技術分野において要求されるフィルタリングの精度、および/または当該技術分野における技術常識等を考慮して適宜に判断されてよい。
複数の後段フィルタ21は、それぞれ後段増幅器15の出力端子15bに接続されている。従って、複数の前段フィルタ19それぞれの通過帯域の電気信号は、後段増幅器15によって共に増幅された後、再度、複数の後段フィルタ21によって、これらの通過帯域の信号に分けられる。
複数の後段フィルタ21は、例えば、出力側が互いに接続されている。従って、複数の後段フィルタ21によってフィルタリングされた複数の通過帯域の電気信号は、1つに纏められてRF−IC7に入力される。
以上のように、フィルタモジュール5全体は、入力された電気信号から複数の通過帯域の信号を抽出し、これを纏めて出力する。この際、電気信号の増幅も行われる。また、信号の増幅および抽出は、フィルタモジュール5内において2段階で行われる。なお、前段フィルタデバイス13は、デマルチプレクサとして捉えられてよく、後段フィルタデバイス17またはフィルタモジュール5(前段フィルタデバイス13および後段フィルタデバイス17の組み合わせ)はマルチプレクサと捉えられてよい。
RF−IC7および/またはBB−IC9は、不図示のデマルチプレクサを含んでおり、入力された電気信号を複数の前段フィルタ19(後段フィルタ21)の通過帯域(BB−IC9の場合は対応する通過帯域等)の信号に分波する。そして、BB−IC9は、分波された信号を選択的に利用する処理、および/または分波された信号を併用する処理を実行する。
(フィルタデバイスの構成)
図2は、前段フィルタデバイス13の要部構成を示す模式図である。
前段フィルタデバイス13は、既述の複数の前段フィルタ19と、複数の前段フィルタ19がそれぞれ接続されている共通端子23と、複数の前段フィルタ19毎に設けられた出力端子25とを有している。
複数の前段フィルタ19は、共通端子23から見て互いに分岐している。具体的には、例えば、共通端子23と複数の前段フィルタ19とは配線24によって接続されており、配線24は、共通端子23から複数の前段フィルタ19へ延びる過程で分岐している。配線24のうち、分岐して前段フィルタ19の1つのみに対応する部分を分岐配線24a〜24dというものとする。図示の例では、配線24は、分岐点24wで二つに分岐し、さらにその分岐した2本の配線それぞれは、分岐点24vまたは24xで分岐配線24a〜24dに分岐している。
なお、図示の例とは異なり、例えば、1つの分岐点において、1本の配線から4本の分岐配線24a〜24dに分岐してもよいし、複数の分岐配線24a〜24dがそれぞれ共通端子23に直接に接続されていてもよい(共通端子23が分岐点であってもよい。)。
また、前段フィルタデバイス13は、例えば、複数の前段フィルタ19に共通の共通整合回路51と、複数の前段フィルタ19のうち一部又は全部(図示の例では一部(19B及び19C))に対して個別に設けられた個別整合回路53Bおよび53Cとを有している。さらに、前段フィルタデバイス13は、前段フィルタ19、共通整合回路51および個別整合回路53に基準電位を付与することに利用される基準電位部55を有している。基準電位部55は、例えば、特に図示しないが、外部(例えば前段フィルタデバイス13が実装される回路基板)から基準電位が付与される端子および当該端子に接続される配線を含んで構成されている。
(フィルタの構成例)
各前段フィルタ19は、例えば、いわゆるラダー型共振子フィルタによって構成されている。ラダー型共振子フィルタは、共通端子23と出力端子25との間に直列に接続された複数(1つでも可)の直列共振子27Sと、その直列のライン(直列腕)と基準電位部55とを接続する複数(1つでも可)の並列共振子27P(並列腕)とを有している(以下、単に共振子27といい、両者を区別しないことがある。)。
複数の直列共振子27Sは、基本的に、共振周波数が互いに同等とされるとともに、反共振周波数が互いに同等とされている。複数の並列共振子27Pは、基本的に、共振周波数が互いに同等とされるとともに、反共振周波数が互いに同等とされている。また、直列共振子27Sの共振周波数と並列共振子27Pの反共振周波数とは概ね同等とされている。これにより、並列共振子27Pの共振周波数から直列共振子27Sの反共振周波数までの周波数範囲よりも若干狭い範囲を通過帯域とするフィルタが構成される。
なお、直列共振子27Sの数および並列共振子27Pの数は、前段フィルタ19毎に適宜に設定されてよい。また、最も共通端子23側または最も出力端子25側の共振子27が、直列共振子27Sおよび並列共振子27Pのいずれであるかも、前段フィルタ19毎に適宜に設定されてよい。
特に図示しないが、後段フィルタ21それぞれは、例えば、図2に示す前段フィルタ19と同様に、ラダー型共振子フィルタによって構成されてよい。また、複数の後段フィルタ21は、例えば、複数の前段フィルタ19と同様に、入力側および出力側が纏められて、入力側または出力側から見たときに互いに分岐している。
(整合回路の構成例)
共通整合回路51は、例えば、配線24と基準電位部55とを接続するインダクタ57によって構成されている。インダクタ57の配線24に対する接続位置は、共通端子23から分岐点24w(別の観点では全ての前段フィルタ19の入力側)までの間(共通端子23および分岐点24wを含む)である。インダクタ57のインダクタンスは適宜に設定されてよい。
個別整合回路53Bは、第2前段フィルタ19Bを他の前段フィルタ19から単独で分岐させる分岐点24vと、第2前段フィルタ19Bとの間に接続されている。個別整合回路53Bは、例えば、分岐点24vと第2前段フィルタ19Bとの間に位置しているキャパシタ59と、キャパシタ59と第2前段フィルタ19Bとの間の位置と、基準電位部55との間に位置しているインダクタ61とを有している。キャパシタ59は、換言すれば、第2前段フィルタ19Bの入力側に直列に接続されている。
同様に、個別整合回路53Cは、第3前段フィルタ19Cを他の前段フィルタ19から単独で分岐させる分岐点24xと、第3前段フィルタ19Cとの間に接続されており、キャパシタ59およびインダクタ61を有している。個別整合回路53Cのキャパシタ59およびインダクタ61の、分岐点24xおよび第3前段フィルタ19Cに対する接続関係は、個別整合回路53Bのキャパシタ59およびインダクタ61の、分岐点24vおよび第2前段フィルタ19Bに対する接続関係と同様である。
(共振子の構成)
図3は、共振子27の要部構成を示す模式的な平面図である。
なお、共振子27は、いずれの方向が上方または下方とされてもよいが、以下では、便宜的に、D1軸、D2軸およびD3軸からなる直交座標系を定義するとともに、D3軸の正側を上方として、上面、下面等の用語を用いることがある。また、平面視という場合、特に断りがない限りは、D3軸方向に見ることをいう。なお、D1軸は、後述する圧電基板の上面に沿って伝搬するSAWの伝搬方向に平行になるように定義され、D2軸は、圧電基板の上面に平行かつD1軸に直交するように定義され、D3軸は、圧電基板の上面に直交するように定義されている。
共振子27は、例えば、弾性表面波(SAW:Surface Acoustic Wave)を利用するSAW共振子によって構成されている。より具体的には、共振子27は、例えば、いわゆる1ポートSAW共振子によって構成されており、紙面両側に図示された2つの配線29(共振子27の位置によっては配線29は図2の配線24によって構成される。)の一方から電気信号が入力されると所定の周波数において共振を生じ、その共振を生じた信号を2つの配線29の他方へ出力する。
共振子27は、例えば、圧電基板31と、圧電基板31の上面に設けられたIDT(InterDigital Transducer)電極33と、IDT電極33の両側に位置する1対の反射器35とを含んでいる。
圧電基板31は、例えば、圧電性を有する単結晶によって構成されている。単結晶は、例えば、タンタル酸リチウム(LiTaO3)、ニオブ酸リチウム(LiNbO3)または水晶(SiO2)からなる。圧電基板31のカット角、平面形状および各種寸法は適宜に設定されてよい。圧電基板31の下面には、温度変化による共振子27の特性変化を補償するための基板が貼り合わされていてもよい。
IDT電極33および反射器35は、圧電基板31上に設けられた層状導体によって構成されている。IDT電極33および反射器35は、例えば、互いに同一の材料および厚さで構成されている。これらを構成する層状導体は、例えば、Al等の金属である。層状導体は、複数の金属層から構成されていてもよい。層状導体の厚さは、共振子27に要求される電気特性等に応じて適宜に設定される。一例として、層状導体の厚さは50nm〜600nmである。
IDT電極33は、1対の櫛歯電極37を含んでいる。なお、視認性を良くするために、一方の櫛歯電極37にはハッチングを付している。各櫛歯電極37は、バスバー39と、バスバー39から互いに並列に延びる複数の電極指41と、複数の電極指41間においてバスバー39から突出するダミー電極43とを含んでいる。1対の櫛歯電極37は、複数の電極指41が互いに噛み合うように(交差するように)配置されている。
各電極指41は、例えば、一定の幅でSAWの伝搬方向に直交する方向(D2軸方向)に直線状に延びている。一方の櫛歯電極37の複数の電極指41と他方の櫛歯電極37の複数の電極指41とは、SAWの伝搬方向において、基本的には交互に配置されている。複数の電極指41のピッチp(例えば互いに隣り合う2本の電極指41の中心間距離)は、IDT電極33内において基本的に一定である。
なお、電極指41の本数、長さおよび幅等は、共振子27に要求される電気特性等に応じて適宜に設定されてよい。なお、図3は模式図であることから、電極指41の本数は少なく示されている。IDT電極33は、いわゆるアポダイズが施されてもよいし、ダミー電極43を有さないものであってもよいし、IDT電極33の一部に狭ピッチ部または広ピッチ部を有するものであってもよい。
反射器35は、例えば、SAWの伝搬方向に直交する方向に並列に延びる複数のストリップ電極(符号省略)を有する格子状に形成されている。そのピッチは、IDT電極33の電極指41のピッチと同等である。反射器35とIDT電極33との間隔は、例えば、電極指41のピッチと同等である。各反射器35は、例えば、電気的に浮遊状態とされてもよいし、基準電位が付与されてもよい。
なお、特に図示しないが、圧電基板31の上面は、IDT電極33および反射器35の上から、SiO2またはSi3N4等からなる保護膜によって覆われていてもよい。保護膜は、単にIDT電極33等の腐食を抑制するためのものであってもよいし、温度補償に寄与するものであってもよい。また、保護膜が設けられる場合等において、IDT電極33および反射器35の上面または下面には、SAWの反射係数を向上させるために、絶縁体または金属からなる付加膜が設けられてもよい。
IDT電極33によって圧電基板31の上面に電圧が印加されることによって圧電基板31の上面をD1軸方向に伝搬するSAWが励振され、ピッチpを半波長とするSAWの定在波が立つ。この定在波により生じた信号は、IDT電極33によって取り出される。このようにして、共振子27における共振が利用される。共振子27の共振周波数は、定在波(ピッチpを半波長とするSAW)の周波数と概ね同等となる。反共振周波数は、共振周波数と容量比とによって決定され、容量比は、主として圧電基板31によって規定され、電極指41の本数、交差幅または膜厚等によって調整される。
(圧電基板の共用)
図2に戻る。この図では、IDT電極33および当該IDT電極33を挟む1対の反射器35の全体が長方形によって示されている。また、圧電基板31も模式的に示されている。
各前段フィルタ19において、複数の共振子27は、例えば、共通の圧電基板31に設けられている。また、複数の前段フィルタ19は、例えば、共通の圧電基板31に設けられている。すなわち、複数の前段フィルタ19は、圧電基板31を共用しつつ、それぞれのIDT電極33を有している。共通端子23および出力端子25は、例えば、圧電基板31上に設けられている。
なお、圧電基板31の平面視における、共通端子23、出力端子25および複数の共振子27の配置は、適宜に設定されてよい。図2は、あくまで模式図であり、同図のように複数の前段フィルタ19が1列に並んでいる必要は無いし、各前段フィルタ19において、直列共振子27Sが直線状に並んでいる必要も無いし、各前段フィルタ19において複数の並列共振子27Pが複数の直列共振子27Sに対して同一側(紙面下方側)に位置している必要も無い。
特に図示しないが、後段フィルタデバイス17も同様である。すなわち、各後段フィルタ21において、複数の共振子27は、例えば、共通の圧電基板31に設けられている。また、複数の後段フィルタ21は、例えば、共通の圧電基板31に設けられている。なお、前段フィルタデバイス13と後段フィルタデバイス17とは、例えば、別個の圧電基板31に設けられている。ただし、これらを共通の圧電基板31に設けることも可能である。
(電極膜厚)
図4は、圧電基板31の上面の一部を示す断面図である。この図では、第1前段フィルタ19Aの一部と、第4前段フィルタ19Dの一部とを示している。
一般には、同一の圧電基板31上に形成されるIDT電極33および反射器35の膜厚(以下、電極膜厚)は、複数の共振子27間で同一である。ただし、図示のように、電極膜厚は、複数の前段フィルタ19間で異なっていてもよい。具体的には、例えば、少なくとも1つの前段フィルタ19の電極膜厚は、当該前段フィルタ19よりも通過帯域の周波数が低い(別の観点ではピッチpが大きい)他の少なくとも1つの前段フィルタ19の電極膜厚よりも薄くされてよい。
後述するように、本実施形態では、通過帯域が低いものから順に、第1前段フィルタ19A、第2前段フィルタ19B、第3前段フィルタ19C、第4前段フィルタ19Dとなっている。従って、例えば、第4前段フィルタ19Dのピッチp4は、第1前段フィルタ19Aのピッチp1よりも小さい。そして、図4では、第4前段フィルタ19Dの電極膜厚t4は、第1前段フィルタ19Aの電極膜厚t1よりも薄くされている。
電極膜厚t4と電極膜厚t1の差は、例えば、20nm以上200nm以下である。別の観点では、厚い電極膜厚t1に対して、電極膜厚t4が1.05〜1.50としてもよい。なお、各周波数帯に最適な電極膜厚は圧電基板材料やカット角により異なるが、例えばタンタル酸リチウム(LT)基板42°YカットX伝搬であれば、概ね波長(ピッチの2倍)の6%〜9%で設定される。具体的には、ピッチp4は1.23μm〜1.29μmであり、電極膜厚t4は200nmとし、ピッチp1は1.58μm〜1.73μmであり、電極膜厚t1は250nmとする。このように、通過帯域周波数の差によりピッチが異なり、電極膜厚も適切に設定される。ピッチと電極膜厚とを調整して、最適な組み合わせを設定することで、通過帯域が大きく異なり、本来LT基板のカット角を異ならせて作製するフィルタを同一基板に作製することができる。また、同一カット角の基板に複数のフィルタを作りこんでも、このように、電極膜厚を20nm以上異ならせることで、フィルタ特性を良好に保つことができる。例えば、他のバンドの位相特性が悪化する周波数帯から通過帯域の周波数を若干ずらすことで、反射係数を高め、ロスを抑制することができる。
このような電極膜厚の差は、例えば、第1前段フィルタ19AのIDT電極33と、第4前段フィルタ19DのIDT電極33とを別個のプロセスで形成したり、第1前段フィルタ19AのIDT電極33の下部と、第4前段フィルタ19DのIDT電極33とを同一のプロセスで形成し、その後に、第1前段フィルタ19AのIDT電極33の上部を形成したりすることにより実現されてよい。膜厚が互いに異なるIDT電極33は、例えば、膜厚が異なるだけで、互いに同一の材料によって構成されている。
なお、複数の前段フィルタ19の電極膜厚は、通過帯域の周波数が高いものほど電極膜厚が薄くなるように全ての前段フィルタ19間で互いに異なっていてもよいし、これらのうち2つまたは3つの前段フィルタ19の電極膜厚(通過帯域の周波数が近いもの同士)は互いに同一とされていてもよい。また、特に図示しないが、後段フィルタデバイス17においても、同様に、少なくとも1つの後段フィルタ21の電極膜厚は、当該後段フィルタ21よりも通過帯域の周波数が低い後段フィルタ21の電極膜厚よりも薄くされてよい。もちろん、実施形態とは異なり、全ての前段フィルタ19の電極膜厚が同一とされても構わない。
(キャパシタの構成例)
図5(a)〜図5(c)は、それぞれ個別整合回路53のキャパシタ59の構成例を示す模式図である。
図5(a)の例では、キャパシタ59は、いわゆるチップコンデンサによって構成されている。チップコンデンサは、半田等の接合材63によって面実装が可能なものであればよく、誘電体の材料および電極の構造等は適宜なものとされてよい。チップコンデンサとして代表的なものとしては、積層型のセラミックコンデンサを挙げることができる。また、チップコンデンサは、例えば、誘電材料の品質係数Q(=1/tanδ。tanδは誘電正接)が比較的高い、いわゆるHigh−Q型のものであってもよい。
図示の例では、チップコンデンサからなるキャパシタ59は、概略直方体状とされ、その長手方向両端側の表面に形成された不図示の外部電極を有している。そして、圧電基板31上に設けられた不図示のパッドに対して実装されている。なお、キャパシタ59は、圧電基板31(別の観点では前段フィルタ19または前段フィルタデバイス13)が実装される回路基板に実装されてもよい。
図5(b)の例では、キャパシタ59は、圧電基板31上に設けられたキャパシタ電極65を含んでいる。キャパシタ電極65は、IDT電極33と同様に、互いに噛み合う1対の櫛歯電極67を有している。1対の櫛歯電極67は、例えば、IDT電極33の1対の櫛歯電極37と同様に、複数の電極指41をそれぞれ有している。静電容量は、主として、互いに隣接する電極指41同士の互いに対向する長さ(電極指41の交差幅)、電極指41の本数、電極膜厚および圧電基板31の誘電率によって規定される。
ただし、キャパシタ電極65は、IDT電極33とは異なり、弾性波を利用するように構成される必要はない。従って、複数の電極指41の配列方向は、弾性波の伝搬方向(D1軸方向)でなくてよいし、複数の電極指41のピッチは一定である必要はないし、1対の反射器35が設けられる必要もない。キャパシタ電極65における電極指41のピッチp(図3参照)は、例えば、IDT電極33における電極指41のピッチpに比較して、大きくてもよいし、同等でもよいし、小さくてもよく、例えば、小さい。キャパシタ電極65のピッチpがIDT電極33のピッチpよりも小さい場合、その差は適宜に設定されてよいが、例えば、IDT電極33のピッチpの10%以上小さい。
図5(c)の例では、キャパシタ59は、図5(b)の例と同様に、1対の櫛歯電極71を含むキャパシタ電極69を有している。ただし、図5(b)の例とは異なり、キャパシタ電極69は、IDT電極33と同様に、共振子73を構成している。例えば、キャパシタ電極69において、複数の電極指41は、IDT電極33の複数の電極指41と同様に、概ね一定のピッチでSAWの伝搬方向に配列されている。また、キャパシタ電極69に対して、SAWの伝搬方向の両側には、1対の反射器35が配置されている。
ただし、キャパシタ電極69を含む共振子73は、共振子27とは異なり、ラダー型フィルタの直列共振子27Sまたは並列共振子27Pを構成する必要はない。すなわち、共振子73の周波数(別の観点では電極指41のピッチp)は、適宜に設定されてよい。例えば、共振子73における電極指41のピッチpは、共振子27における電極指41のピッチpに比較して、大きくてもよいし、同等でもよいし、小さくてもよく、例えば、小さい。キャパシタ電極65のピッチpがIDT電極33のピッチpよりも小さい場合、その差は適宜に設定されてよいが、例えば、IDT電極33のピッチpの10%以上小さい。
なお、キャパシタ電極69を含む共振子73は反射器35を備えていなくてもよい。また、図5(b),図5(c)において、キャパシタ電極65,69はその上面に絶縁体が位置してもよい。
上述のようなキャパシタ59,キャパシタ電極65,69は、その後段に位置するフィルタの通過帯域における周波数は通過させるが、直流的には前段と切断されるためインダクタ58とインダクタ61とが合成されることがない。このため、個別整合回路が接続されたフィルタ19B、19Cのみ個別にアンテナ側のインピーダンスを変化させることができる。
なお、インダクタンスの発現には、チップ素子や、圧電基板を覆った樹脂などの上面に形成した金属配線など、種々の実現手段が利用可能である。
(フィルタデバイスの通過特性)
図6は、前段フィルタデバイス13の通過帯域およびインピーダンスを示す図である。この図において、横軸fは周波数を示しており、縦軸|Z|はインピーダンスの絶対値を示している。
この図では、第1前段フィルタ19Aの通過帯域B1、第2前段フィルタ19Bの通過帯域B2、第3前段フィルタ19Cの通過帯域B3および第4前段フィルタ19Dの通過帯域B4が示されている。図示の例では、周波数が低い順から、通過帯域B1、B2、B3、B4となっている。
また、図示の例では、相対的に、通過帯域B1〜B3は互いに近く、通過帯域B4は通過帯域B1〜B3から比較的離れている。一例として、通過帯域B1〜B3は、1100MHz以上1300MHz以下の範囲に収まっており、通過帯域B4は、1500MHz以上1600MHz以下の範囲に収まっている。また、例えば、通過帯域B1〜B3が収まっている周波数の幅は、これらのうち最も通過帯域B4に近いもの(図示の例では通過帯域B3)と、通過帯域B4との間の幅(周波数差)以下である。
図7(a)〜図7(d)は、共通端子23から、各前段フィルタ19に対応する出力端子25への通過特性の一例を示す図である。また、図8(a)〜図8(d)は、図7(a)〜図7(d)の一部を拡大して示す図である。
具体的には、図7(a)および図8(a)は、第1前段フィルタ19Aに対応している。図7(b)および図8(b)は、第2前段フィルタ19Bに対応している。図7(c)および図8(c)は、第3前段フィルタ19Cに対応している。図7(d)および図8(d)は、第4前段フィルタ19Dに対応している。
これらの図において、横軸は周波数(MHz)を示し、縦軸は通過特性(dB)を示している。これらの図は、シミュレーション計算から得られている。これらの図では、通過帯域B1〜B4も矢印で示されている。
これらの図に示されているように、通過特性は、通過帯域において高くなり、通過帯域外において低くなる。その具体的な値は、要求される仕様等に応じて適宜に設定されてよい。
(フィルタデバイスのインピーダンス)
図6に戻り、プロットP1〜P4は、前段フィルタデバイス13のインピーダンスの絶対値を示している。このインピーダンスは、共通端子23から複数の前段フィルタ19側を見たインピーダンスである。別の観点では、図示のインピーダンスは、複数の前段フィルタ19全体としてのインピーダンスである。
前段フィルタデバイス13のインピーダンスは、周波数依存性を有している。前段フィルタデバイス13のインピーダンスは、少なくとも複数の通過帯域B1〜B4における値が互いに概ね同等になるように設定される。図6では、通過帯域B1〜B4それぞれの中央の周波数における|Z|の値を示すプロットP1〜P4が互いに同一の|Z|の値を示しており、これにより、インピーダンスが複数の通過帯域B1〜B4で概ね同等であることが模式的に示されている。実際には、図示の例よりもばらつきが存在してもよい。
図9(a)〜図9(d)は、スミスチャートであり、前段フィルタデバイス13のインピーダンスの値(線Ln1〜Ln4)を反射係数平面において示している。図9(a)は、通過帯域B1におけるインピーダンスを示している。図9(b)は、通過帯域B2におけるインピーダンスを示している。図9(c)は、通過帯域B3におけるインピーダンスを示している。図9(d)は、通過帯域B4におけるインピーダンスを示している。インピーダンスは、周波数依存性を有しており、各通過帯域内においても変化することから、これらの図において線により示されている。これらの図は、シミュレーション計算によって得られている。
スミスチャートの中心点において反射係数は0である。その反射係数0の点を中心とする円C1は、VSWR(Voltage Standing Wave Ratio)の値が2となる値を示している。前段フィルタデバイス13が適用される具体的な技術分野または製品にもよるが、インピーダンスが円C1の内部に位置すれば、インピーダンス整合に関して要求される仕様は概ね満たされると考えられる。そして、図9(a)〜図9(d)に示されているように、本実施形態の前段フィルタデバイス13では、インピーダンスは、通過帯域B1〜B4のいずれにおいても、上記の円C1に収まっている。
別の観点では、キャパシタ59のキャパシタンスおよびインダクタ61のインダクタンス等は、共通端子23から前段フィルタデバイス13側を見たインピーダンスの、通過帯域B1〜B4それぞれにおける値が、円C1内に収まるように設定されている。
以上のとおり、本実施形態では、前段フィルタデバイス13は、共通端子23と、3以上の前段フィルタ19と、個別整合回路53とを有している。3以上の前段フィルタ19は、共通端子23に接続され、共通端子23から見て互いに分岐しており、通過帯域B1〜B4が互いに異なる。個別整合回路53は、3以上の前段フィルタ19のうちの第1フィルタ(第2前段フィルタ19Bまたは第3前段フィルタ19C。以下、第2前段フィルタ19Bを例に取る。)と、分岐点24vとの間に接続されている。分岐点24vは、共通端子23から見て第2前段フィルタ19Bが他の前段フィルタ19から分岐して単独になる分岐点である。第2前段フィルタ19Bの通過帯域B2は、3以上の前段フィルタ19の通過帯域B1〜B4のうちの最も周波数が低い通過帯域B1および最も周波数が高い通過帯域B4の間に位置する。個別整合回路53Bは、キャパシタ59とインダクタ61とを有している。キャパシタ59は、分岐点24vと第2前段フィルタ19Bとの間に位置している。インダクタ61は、キャパシタ59と第2前段フィルタ19Bとの間の位置と、基準電位部55との間に位置している。
従って、例えば、共通端子23と前段フィルタ19との間にキャパシタ59およびインダクタ61を介在させることになり、各前段フィルタ19のインピーダンスの、他の前段フィルタ19の通過帯域における位相回転を調整できる。その結果、インピーダンスを好適に整合させることができる。特に、複数の通過帯域B1〜B4のうち最も周波数が低い通過帯域B1および最も周波数が高い通過帯域B4の間の通過帯域B2および/またはB3に対応する前段フィルタ19(19Bおよび/または19C)に個別整合回路53を接続することから、インピーダンスの容量性および誘導性の少なくとも一部を相殺させることが容易である。具体的には、以下のとおりである。
図12(a)〜図12(d)は、前段フィルタ19のインピーダンスの値を示すスミスチャートである。図示のインピーダンスの値は、シミュレーション計算によって得られている。図12(a)は、通過帯域B1におけるインピーダンスの値を示している。図12(b)は、通過帯域B2におけるインピーダンスの値を示している。図12(c)は、通過帯域B3におけるインピーダンスの値を示している。図12(d)は、通過帯域B4におけるインピーダンスの値を示している。
これらの図において、線Ln1は、第1前段フィルタ19Aのインピーダンスの値を示している。線Ln2は、第2前段フィルタ19Bのインピーダンスの値を示している。線Ln3は、第3前段フィルタ19Cのインピーダンスの値を示している。線Ln4は、第4前段フィルタ19Dのインピーダンスの値を示している。
図12(a)〜図12(d)において線Ln1〜Ln4で示されているインピーダンスの値は、図9(a)〜図9(d)とは異なり、複数の前段フィルタ19が互いに接続されていない状態でのものである。すなわち、複数の前段フィルタ19は、実施形態とは異なり、共通端子23に共に接続されておらず、また、個別整合回路53は設けられていないものと仮定している。
図12(a)に示すように、通過帯域B1においては、通過帯域B1に対応する第1前段フィルタ19Aのインピーダンスの値は、VSWRの値が2である値を示す円C1内に収まっている。一方、それ以外の前段フィルタ19のインピーダンスの値は、反射係数が0であるスミスチャートの中心点から離れている。
同様に、通過帯域B2においては、第2前段フィルタ19Bのインピーダンスの値のみが円C1内に収まる(図12(b))。通過帯域B3においては、第3前段フィルタ19Cのインピーダンスの値のみが円C1内に収まる(図12(c))。通過帯域B4においては、第4前段フィルタ19Dのインピーダンスの値のみが円C1内に収まる(図12(d))。
ここで、最も周波数が低い通過帯域B1において(図12(a))、最も周波数が高い通過帯域B4を有する第4前段フィルタ19Dのインピーダンスの値(線Ln4)は、容量性になっている。また、最も周波数が高い通過帯域B4において(図12(d))、最も周波数が低い通過帯域B1を有する第1前段フィルタ19Aのインピーダンスの値(線Ln1)は、容量性になっている。
一方、上記以外の、各通過帯域における、他の通過帯域に対応する前段フィルタ19のインピーダンスは、誘導性になったり、容量性になったりしている。例えば、通過帯域B1(図12(a))においては、第3前段フィルタ19Cのインピーダンス(線Ln3)が誘導性である。通過帯域B2(図12(b))においては、第1前段フィルタ19Aおよび第3前段フィルタ19Cのインピーダンス(線Ln1およびLn3)が誘導性である。通過帯域B3(図12(c))においては、第2前段フィルタ19Bのインピーダンス(線Ln2)が誘導性である。通過帯域B4(図12(d))においては、第3前段フィルタ19Cのインピーダンス(線Ln3)が誘導性である。
従って、第1前段フィルタ19Aおよび第4前段フィルタ19Dを除く他の前段フィルタ19(19Bおよび/または19C)にインダクタ61を接続し、第2前段フィルタ19Bおよび/または第3前段フィルタ19Cのインピーダンスを誘導性に調整することによって、複数の通過帯域B1〜B4のいずれにおいても、他の通過帯域に対応する複数の前段フィルタ19のインピーダンスの容量性と誘導性とが相殺されるようにインピーダンス整合を図ることが容易化される。
各通過帯域において、他の通過帯域に対応する複数の前段フィルタ19のインピーダンスの容量性と誘導性とが相殺されることによって、例えば、共通端子23から複数の前段フィルタ19側を見ると、他の通過帯域の前段フィルタ19のインピーダンスは、開放端のインピーダンスに近づき、反射係数は1に近づく。その結果、例えば、各通過帯域の前段フィルタ19のインピーダンスに及ぼす他の通過帯域の前段フィルタ19の影響が低減される。
より具体的には、最も周波数の高い通過帯域B4を有するフィルタ17Dは、そのほかのフィルタの通過帯域において全て容量性になっている(図12(a)〜図12(c))。また、最も周波数の低い通過帯域B1を有するフィルタ17Aは、そのほかのフィルタの通過帯域において誘導性から容量性にふれていき、通過帯域B4の周波数帯には容量性が大きくなっている(図12(b)〜図12(d))。このように、最も周波数の高い通過帯域を備えるフィルタ17Dと、最も周波数の低い通過帯域を備えるフィルタ17Aとが共に容量性にふれる傾向を有しているため、それ以外の中間の周波数の通過帯域を備えるフィルタ(19B,19C)は誘導性にふれるよう、個別整合回路で調整している。
なお、個別整合回路における容量は、圧電基板上のIDT電極によっても得られ、電極ピッチを通過帯域近傍で共振・反共振が生じないように適宜設定することで容量として利用できる。また、個別整合回路におけるキャパシタにIDT電極を用いる場合には、ダミー電極,反射器等を省略し小型化することもできるし、IDT電極の向きを弾性波の伝搬方向と異なる方向に傾けてもよい。
図12(a)〜図12(d)は、既に述べたように、複数の前段フィルタ19が共通端子23に共に接続されておらず、かつ個別整合回路53が設けられていない状態を仮定したシミュレーション計算結果である。一方、図9(a)〜図9(d)は、複数の前段フィルタ19が共通端子23に共に接続されていること、および個別整合回路53が設けられていることを除いて、図12(a)〜図12(d)と同様の条件で行ったシミュレーション計算結果である。そして、個別整合回路53によって、容量性および誘導性の少なくとも一部を相殺することによって、図12(a)〜図12(d)に示されるインピーダンスに対する、図9(a)〜図9(d)に示されるインピーダンスの変化は低減されている。
その結果、例えば、各前段フィルタ19の自己の通過帯域におけるインピーダンスが円C1に収まっていれば(図12(a)〜図12(d))、複数の前段フィルタ19を共通端子23に共に接続しても、共通端子23から前段フィルタデバイス13側を見た各通過帯域におけるインピーダンスは、円C1に収まることが期待される。すなわち、設計が容易化される。
図10(a)〜図10(d)は、図7(a)〜図7(d)および図8(a)〜図8(d)と同様の図であり、共通端子23から、各前段フィルタ19に対応する出力端子25への通過特性の一例を示している。さらに、図10(a)〜図10(d)では、他の前段フィルタ19による損失も示されている。また、図11(a)〜図11(d)は、図10(a)〜図10(d)の一部を拡大して示す図である。
具体的には、図10(a)および図11(a)は、第1前段フィルタ19Aの通過特性と、他の前段フィルタ19による損失を示している。図10(b)および図11(b)は、第2前段フィルタ19Bの通過特性と、他の前段フィルタ19による損失を示している。図10(c)および図11(c)は、第3前段フィルタ19Cの通過特性と、他の前段フィルタ19による損失を示している。図10(d)および図11(d)は、第4前段フィルタ19Dの通過特性と、他の前段フィルタ19による損失を示している。
これらの図において、線Ln1は、第1前段フィルタ19Aに対応し、線Ln2は、第2前段フィルタ19Bに対応し、線Ln3は、第3前段フィルタ19Cに対応し、線Ln4は、第4前段フィルタ19Dに対応している。これらの図において、損失は、通過特性とは逆に、紙面下方(縦軸の下方)ほど値が大きい。これらの図は、シミュレーション計算によって得られている。その条件は、図12(a)〜図12(d)と同様である。
各通過帯域において、他の通過帯域の前段フィルタ19による損失を示す線は、0に近いほどよい。例えば、通過帯域B1を有する第1前段フィルタ19Aの通過特性(線Ln1)を示す図11(a)において、通過帯域B2〜B4に対応する第2前段フィルタ19B〜第4前段フィルタ19Dによる損失(線Ln2〜Ln4)は、0に近いほどよい。
ここで、例えば、通過帯域B2を有する第2前段フィルタ19Bの通過特性(線Ln2)を示す図11(b)において、通過帯域B2の高周波側において、通過帯域B3を有する第3前段フィルタ19Cによる損失(線Ln3)が相対的に大きくなっている。また、例えば、通過帯域B3を有する第3前段フィルタ19Cの通過特性(線Ln3)を示す図11(c)において、通過帯域B3の低周波側において、通過帯域B1を有する第1前段フィルタ19Aによる損失(線Ln1)が相対的に大きくなっている。
このような損失も、例えば、個別整合回路53によって、各通過帯域において、他の通過帯域に対応する前段フィルタ19の反射係数を1に近づけることによって、低減することができる。
個別整合回路53のキャパシタ59は、例えば、位相回転の調整の他、インダクタ61のインダクタンスが共通端子23側のインダクタンスと合成されてしまうおそれを低減することに寄与可能である。この観点からは、キャパシタ59は、直後の前段フィルタ19の通過帯域(B2またはB3)の信号の通過特性が高くなるように容量等の特性が設定されてよい。
また、キャパシタ59は、キャパシタ59の直後の前段フィルタ19の通過帯域(B2またはB3)の外側において、その分岐路の反射係数を高くすることに寄与可能である。この観点から、キャパシタ59の容量等の特性が設定されてもよい。
本実施形態では、複数の前段フィルタ19それぞれは、圧電基板31と、圧電基板31上に位置する励振電極(IDT電極33)とを有している弾性波フィルタを含んでいる。
弾性波フィルタの励振電極は、圧電基板31に電圧を印加して弾性波を生じさせるように互いに対向する1対の電極(例えば1対の櫛歯電極37)を含むから、前段フィルタ19のインピーダンスは、通過帯域から離れると、容量性となりやすい。従って、図12(a)〜図12(d)を参照して説明した効果が奏されやすくなる。
本実施形態では、複数の前段フィルタ19は、圧電基板31を共有しているとともに、それぞれの励振電極(IDT電極33)を有している。
本実施形態とは異なり、複数の前段フィルタ19が別個のチップとされている場合(このような態様も本開示に係る技術に含まれる。)、複数のチップが実装される実装基板が前段フィルタデバイス13のインピーダンスに影響を及ぼすおそれがある。しかし、上記のように圧電基板31の共用によって1個のチップにすることにより、そのようなおそれが低減される。すなわち、設計したインピーダンスの値を実現することが容易である。
本実施形態では、前段フィルタ19は、SAWフィルタである。キャパシタ59は、チップコンデンサを含んでいてよい。
この場合、例えば、キャパシタ59の直後の前段フィルタ19の通過帯域(B2またはB3)の外側において、キャパシタ59の反射係数を高くすることが容易である。その結果、例えば、キャパシタ59の直後の前段フィルタ19以外の前段フィルタ19の通過帯域における損失を低減することができる。SAWフィルタからなる前段フィルタ19に、他の前段フィルタ19の通過帯域の信号が入力されると、圧電基板31に付与されたエネルギーがバルク波に変換されてしまい、損失が増加するおそれがある。従って、チップコンデンサからなるキャパシタ59は、前段フィルタ19がSAWフィルタである場合に特に有効である。
本実施形態では、キャパシタ59は、圧電基板31上に位置しており、複数の電極指41をそれぞれ有して互いに噛み合っている1対の櫛歯電極67を含んでいてもよい。
この場合、例えば、チップコンデンサによってキャパシタ59を構成する場合に比較して、前段フィルタデバイス13の小型化が容易である。また、電極指41の本数または長さ等を調整することによって容量を微調整できるから、インピーダンス整合の微調整が容易である。
本実施形態では、前段フィルタ19の励振電極(IDT電極33)は、複数の電極指41をそれぞれ有して互いに噛み合っている1対の櫛歯電極37を含み、弾性波共振子(SAW共振子27)を構成している。キャパシタ59の1対の櫛歯電極67は弾性波共振子(SAW共振子73)を構成していてもよい。また、キャパシタ59の1対の櫛歯電極67における電極指41のピッチは、IDT電極33の1対の櫛歯電極67における電極指41のピッチよりも小さくてよい。
この場合も、キャパシタ59を1対の櫛歯電極67によって構成するから、例えば、小型化およびインピーダンスの微調整が容易である。図11(d)に示されているように、通過帯域(B4)よりも周波数が低い他の通過帯域(B1〜B3)を有する前段フィルタ19は、前記の通過帯域(B4)において損失を生じにくい。キャパシタ59が構成する共振子73についても同様のことがいえる。従って、例えば、キャパシタ59の電極指ピッチを相対的に小さくすることによって、損失が低減される。
本実施形態では、複数の前段フィルタ19それぞれにおいて、励振電極(IDT電極33)は、複数の電極指41をそれぞれ有して互いに噛み合っている1対の櫛歯電極37を含み、弾性波共振子(SAW共振子27)を構成している。複数の前段フィルタ19において、最も周波数が高い通過帯域B4を有する第4前段フィルタ19Dの1対の櫛歯電極37は、最も周波数が低い通過帯域B1を有する第1前段フィルタ19Aの1対の櫛歯電極37よりも薄い。
IDT電極33では、その膜厚が薄いほど、高い周波数における損失が少なくなる傾向がある。従って、前段フィルタデバイス13内の複数のIDT電極33の膜厚を複数の前段フィルタ19の通過帯域に応じて異ならせることによって、損失を少なくすることができる。
本実施形態では、フィルタモジュール5は、上記のような前段フィルタデバイス13と、前段フィルタデバイス13の出力側に入力端子が接続されている1以上の後段増幅器15と、1以上の後段増幅器15の出力端子に接続されている複数の後段フィルタ21と、を有している。複数の後段フィルタ21は、複数の前段フィルタ19の複数の通過帯域B1〜B4を通過帯域としている。
従って、例えば、2重にフィルタリングがなされることになり、フィルタリングの精度が向上する。また、例えば、共通端子23から見て、インピーダンスに関して後段増幅器15以降は実質的に見えなくなる。これにより、例えば、インピーダンス整合に関する設計が容易化される。また、個別整合回路53が設けられることによって、後段増幅器15から見ても、前段フィルタデバイス13のインピーダンスは、適切に整合が図られてることが期待される。
なお、以上の実施形態において、前段フィルタデバイス13はフィルタデバイスの一例である。複数の前段フィルタ19は3以上のフィルタの一例であり、第2前段フィルタ19Bまたは第3前段フィルタ19Cは第1フィルタの一例である。個別整合回路53は整合回路の一例である。IDT電極33は励振電極の一例である。
本開示に係る技術は、以上の実施形態に限定されず、種々の態様で実施されてよい。
例えば、フィルタを構成する共振子は、IDT電極を励振電極とするものに限定されず、圧電薄膜共振子であってもよい。弾性波は、SAWに限定されず、例えば、バルク波または弾性境界波(ただしSAWの一種と捉えられてよい。)であってもよい。
フィルタは、ラダー型共振子フィルタに限定されない。例えば、フィルタは、多重モード型弾性波フィルタであってもよい。なお、本開示において、多重モードはダブルモードを含むものとする。
図13は、共振子型フィルタの一種である多重モード型弾性波フィルタ81の構成を示す模式的な平面図である。フィルタ81は、圧電基板31と、圧電基板31上に位置している複数のIDT電極33および1対の反射器35とを有している。複数のIDT電極33は、弾性波(例えばSAW)の伝搬方向に配列されている。1対の反射器35は、SAWの伝搬方向において複数のIDT電極33の両側に位置している。このようなフィルタ81は、例えば、前段フィルタデバイス13および/または後段フィルタデバイス17に含まれるいずれかのフィルタとして用いられてよい。
通信装置は、受信機能に代えて、または加えて、送信機能を有してよい。フィルタモジュールおよびフィルタデバイスについても同様である。フィルタモジュールは、2段のフィルタデバイスを有さず、前段フィルタデバイスのみを有していてもよい。後段増幅器は、複数の前段フィルタの全てに対して個別に設けられていてもよいし、複数の前段フィルタをいくつかのグループに分けたグループ毎に設けられていてもよい。
実施形態では、前段フィルタデバイス13は、共通端子23に入力された信号を複数の前段フィルタ19によってフィルタリングするものであった。ただし、フィルタデバイスは、複数のフィルタによってフィルタリングした信号を共通端子から出力するものであってもよい。この場合であっても、本開示の技術によって、例えば、共通端子から複数のフィルタ側を見たインピーダンスの値を好適に調整することができる。
整合回路(個別整合回路53)は、最も周波数が高い通過帯域と、最も周波数が低い通過帯域との間の通過帯域のフィルタ(19Bおよび/または19C)だけでなく、最も周波数が低い通過帯域のフィルタ(19A)および/または最も周波数が高い通過帯域のフィルタ(19D)について設けられてもよい。また、整合回路(53)は、全てのフィルタ(19A〜19D)について設けられてもよい。