ところで、エンジンの熱効率を非常に高いレベルにまで高めようとする場合には、エンジンの圧縮比を大きくする必要がある。しかし、エンジンの圧縮比を大きくすると、エンジンの振動及びそれに起因する騒音が顕著になってくるという問題があり、上記特許文献1のような対策だけでは、十分とはいえなくなる。
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、エンジンの圧縮比を大きくしても、エンジンの振動を効果的に抑制可能なエンジンを提供することにある。
上記の目的を達成するために、本発明では、ピストンからクランク軸までの爆発荷重の伝達経路を構成する荷重伝達部材の一部に設けられた振動伝達減衰機構を備えたエンジンを対象として、上記振動伝達減衰機構は、所定の微少間隙を介して互いに噛み合う櫛歯状部を含みかつ該微少間隙により互いに摺動が許容された少なくとも一対の摺動許容部材を有し、上記少なくとも一対の摺動許容部材における櫛歯状部には、複数の歯部が、該櫛歯状部が噛み合う一対の摺動許容部材が互いに対向する面において、該面が対向する方向である第1方向に突出しかつ該第1方向に対して垂直な第2方向に連続的に延びるとともに、該第1方向及び該第2方向の両方向に対して垂直な第3方向に並ぶように、突条状に形成されており、上記少なくとも一対の摺動許容部材は、上記微少間隙により、上記第1方向、上記第2方向及び上記第3方向のいずれの方向にも、互いに摺動が許容されている、という構成とした。
上記の構成により、ピストンの作動時に該ピストンに生じる振動によって、振動伝達減衰機構の少なくとも一対の摺動許容部材が互いに摺動し、この摺動により、摩擦熱が発生する。ピストンやコネクティングロッドのような荷重伝達部材の内部においては、摺動許容部材の摺動部分の面積を大きく確保することができて、多量の摩擦熱を発生させるようにすることができる。このようにピストンに生じる振動が摩擦熱に変換されて、振動伝達が減衰される。一方、爆発荷重については、荷重伝達部材において振動伝達減衰機構(摺動許容部材)が設けられていない部分で受けるように構成しておけば、荷重伝達部材に摺動許容部材が設けられていても、高い爆発荷重をピストンからクランク軸まで、伝達ロスを殆ど生じさせることなく伝達することができるようになる。したがって、エンジンの圧縮比を大きくしても、エンジンの振動を効果的に抑制することができる。
上記振動伝達減衰機構を備えたエンジンにおいて、上記微少間隙に金属粉末が充填されている、ことが好ましい。
このことにより、金属粉末によって、より多量の摩擦熱を発生させることができるようになり、エンジンの振動をより一層効果的に抑制することができる。
上記振動伝達減衰機構を備えたエンジンにおいて、上記微少間隙の間隙量が、0.1mm以上3.0mm以下に設定されている、ことが好ましい。
このことで、ピストンの作動時に該ピストンに生じる振動によって、少なくとも一対の摺動許容部材を互いに摺動させて十分な摩擦熱を発生させることができ、エンジンの振動をより一層効果的に抑制することができる。
上記振動伝達減衰機構を備えたエンジンの一実施形態では、上記振動伝達減衰機構が設けられた荷重伝達部材は、ピストンであり、上記振動伝達減衰機構は、上記ピストンにおいてピストンピンを支持する一対のピストンピン支持部の中心軸を通りかつ該ピストンの中心軸に垂直な平面に対して頂部側の部分の一部に設けられている。
すなわち、ピストンにおける上記平面に対して頂部側の部分は、ピストンの作動時に特に振動し易い部分である。したがって、ピストンにおける上記平面に対して頂部側の部分の一部に振動伝達減衰機構を設けることで、振動伝達減衰機構の少なくとも一対の摺動許容部材が、ピストンの作動時に互いに摺動し易くなる。よって、エンジンの振動をより一層効果的に抑制することができる。
上記一実施形態において、上記ピストンにおける上記平面に対して頂部側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構の上記少なくとも一対の摺動許容部材は、上記第2方向が該ピストンの中心軸方向となるように設けられている、ことが好ましい。
このことにより、特にピストンへの爆発荷重の作用時に該ピストンに生じる振動によって、少なくとも一対の摺動許容部材が互いに第2方向に摺動し易くなる。また、歯部の第2方向の長さを、比較的長くすることができるので、摺動許容部材の摺動部分の面積を大きく確保することができるようになる。したがって、エンジンの振動をより一層効果的に抑制することができる。
上記振動伝達減衰機構は、上記ピストンにおける上記平面に対して頂部側の部分の一部に加えて、該ピストンにおける該平面に対して頂部とは反対側の部分の一部に設けられていてもよく、この場合、上記ピストンにおける上記平面に対して頂部とは反対側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構の上記少なくとも一対の摺動許容部材は、上記第2方向が、一対のスカート部が対向する方向となるように設けられている、ことが好ましい。
このように、ピストンにおける上記平面に対して頂部とは反対側の部分の一部に振動伝達減衰機構を設けることで、ピストンの作動時に、ピストンにおける上記平面に対して頂部とは反対側の部分における一対のスカート部の間に生じる振動を抑制することができるようになる。そして、一対のスカート部はシリンダの内周壁面に対して摺動するので、一対のスカート部の間の部分は、一対のスカート部が対向する方向に振動し易くなる。そこで、ピストンにおける上記平面に対して頂部とは反対側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構の少なくとも一対の摺動許容部材を、第2方向が、一対のスカート部が対向する方向となるように設けることで、少なくとも一対の摺動許容部材が互いに第2方向に摺動し易くなり、また、歯部の第2方向の長さを長くすることができるので、ピストンにおける上記平面に対して頂部とは反対側の部分における一対のスカート部の間に生じる振動を効果的に抑制することができる。
上記振動伝達減衰機構を備えたエンジンの別の実施形態では、上記振動伝達減衰機構が設けられた荷重伝達部材は、上記ピストンと上記クランク軸とを連結するコネクティングロッドである。
このことで、コネクティングロッドの振動、延いてはエンジンの振動を効果的に抑制することができる。
以上説明したように、本発明の振動伝達減衰機構を備えたエンジンによると、振動伝達減衰機構が、所定の微少間隙を介して互いに噛み合う櫛歯状部を含みかつ該微少間隙により互いに摺動が許容された少なくとも一対の摺動許容部材を有することにより、エンジンの圧縮比を大きくしても、エンジンの振動を効果的に抑制することができる。
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係るエンジンのピストン1及びコネクティングロッド21を示す。ピストン1及びコネクティングロッド21は、ピストン1からクランク軸31までの爆発荷重の伝達経路を構成する荷重伝達部材である。
ピストン1は、気筒サイクル(吸気行程、圧縮行程、燃焼行程(膨張行程)及び排気行程)を繰り返すことで、不図示のシリンダ内で、シリンダ軸心方向(ピストン1の中心軸方向と一致する)に往復動するものである。ピストン1は、特に高圧縮比(例えば幾何学的圧縮比が15以上35以下)のエンジンに好適であるが、これに限るものではない。
コネクティングロッド21は、ピストン1とクランク軸31とを連結する。図1及び図2に示すように、コネクティングロッド21は、コネクティングロッド21の一端部を構成する小端部22と、コネクティングロッド21の他端部を構成する大端部23と、小端部22と大端部23とを連結する棒状のロッド部24とを有する。
小端部22には、小径ピン孔22aが形成されている。この小径ピン孔22aに、ピストン1の径方向に延びるピストンピン8が挿通(嵌合)される。このピストンピン8は、後述の一対のピストンピン支持部7の挿入孔7aにも挿通(嵌合)される。このピストンピン8を介して、ピストン1とコネクティングロッド21とが連結される。
大端部23には、大径ピン孔23aが形成されており、この大径ピン孔23aにクランク軸31のクランクピン31aが挿通されることで、コネクティングロッド21とクランク軸31とが連結される。大径ピン孔23aの中心軸方向は、小径ピン孔22aの中心軸方向と一致している。尚、大端部23は、上側の大端部上部23bに下側の大端部下部23cを突き合わせて、これら両者を2つのボルト25により締結固定することで一体化される。大端部上部23bと大端部下部23cとの間に、大径ピン孔23aが形成される。
ロッド部24における小径ピン孔22aの中心軸方向(大径ピン孔23aの中心軸方向でもある)に対向する両側の面には、凹部24aがロッド部24の長手方向に延びるようにそれぞれ形成されている。これら両側の面における凹部24aは、該面の周縁部以外の部分に設けられている。
本実施形態では、ピストン1の一部に振動伝達減衰機構50が設けられている。このピストン1の構成を、図3〜図9により詳細に説明する。以下、ピストン1において、ピストン1の中心軸方向をZ方向といい、ピストンピン8の中心軸方向をX方向といい、Z方向及びX方向の両方向に垂直な方向をY方向という(図3〜図9参照)。
ピストン1の上部は、ピストン1の作動時に上記シリンダの内周壁面に対して摺動する円筒状部2と、この円筒状部2の上側の開口を塞ぐ頂部3とで形成されている。頂部3の外周部を除く部分は、燃焼室のペントルーフ形状に対応して上側に突出しており、頂部3の中央部(最も突出した部分)には、キャビティ3aが形成されている(図4では、僅かな凹みしか見えていないが、もう少し下側へ凹んでいる)。また、円筒状部2の外周面には、不図示のピストンリングが嵌められる複数(本実施形態では、3つ)の凹溝部2aがそれぞれ全周に亘って形成されている。
ピストン1の下部(円筒状部2の下側)には、一対のスカート部4が、Y方向に対向するように設けられている。一対のスカート部4は、円筒状部2の半径と略同じ半径を有する円弧状に形成されている。一対のスカート部4も、円筒状部2と同様に、ピストン1の作動時に上記シリンダの内周壁面に対して摺動する。
一対のスカート部4は、Y方向に延びる一対の連結壁部5によって互いに連結されている。一対の連結壁部5は、一対のスカート部4における周方向の一端部同士及び他端部同士をそれぞれ連結する。一対の連結壁部5は、互いにX方向に対向している。一対の連結壁部5の上面は、頂部3の裏面に接続されている。一対の連結壁部5の下面は、一対のスカート部4の下面よりも上側に位置している。
一対の連結壁部5に対してピストン1の径方向外側には、各連結壁部5の上部と円筒状部2とを連結して各連結壁部5を補強する2つの補強部6(合計4つの補強部6)が設けられている。各連結壁部5を補強する2つの補強部6は、互いにY方向に間隔をあけてX方向に延びている。
2つの連結壁部5には、ピストンピン8を支持する一対のピストンピン支持部7がそれぞれ設けられている。一対のピストンピン支持部7は、周壁7bを有する略円筒状に形成されている。一対のピストンピン支持部7は、同軸に配置されていて、一対のピストンピン支持部7の中心軸は、ピストンピン8の中心軸と一致する。ピストンピン8の中心軸方向(つまり、一対のピストンピン支持部7の中心軸方向)は、クランク軸31の軸方向と一致する。
一対のピストンピン支持部7は、一対の連結壁部5のY方向中央部からピストン1の径方向内側にそれぞれ突出して設けられている。一対のピストンピン支持部7の周壁7bにおける該突出部分の上部は、頂部3の裏面に接続されている。
一対のピストンピン支持部7の間に、コネクティングロッド21の小端部22が位置する。ピストンピン8の中心軸方向の中央部が、小端部22の小径ピン孔22aに嵌合され、ピストンピン8の中心軸方向の両端部が一対のピストンピン支持部7の挿入孔7aに嵌合されることで、一対のピストンピン支持部7は、ピストンピン8を、該ピストンピン8の両端部で支持する。
図10に示すように、振動伝達減衰機構50は、所定の微少間隙53を介して互いに噛み合う櫛歯状部52aを含みかつ微少間隙53により互いに摺動が許容された少なくとも一対の摺動許容部材52(本実施形態では、複数対の摺動許容部材52)を有する。図10には、a方向に並ぶ八対の摺動許容部材52をブロック状に纏めた振動伝達減衰ブロック51が示されている。図10では、a方向の両端に位置する摺動許容部材52以外の摺動許容部材52は、a方向の一方側に隣接する摺動許容部材52と対をなす摺動許容部材52と、a方向の他方側に隣接する摺動許容部材52と対をなす摺動許容部材52とが一体化されたものである。本実施形態では、ピストン1の作動時に、各対の摺動許容部材52を互いに摺動させて摩擦熱を発生させ、これにより、エンジンの振動を抑制する。
図10では、振動伝達減衰ブロック51は、a方向、b方向及びc方向の長さが全て同じ(例えば10mm)である立方体状に形成されているが、例えば、c方向の長さをより長くして、c方向に並ぶ後述の歯部52bの数をより多くしてもよく、b方向の長さをより長くしてもよい。特にb方向の長さは、後述の如く、長い方が好ましく、ピストン1において振動伝達減衰ブロック51が設けられる部分の形状に応じて設定すればよい。
振動伝達減衰機構50は、上記のような振動伝達減衰ブロック51を複数有していてもよく、この場合、複数の振動伝達減衰ブロック51が、a方向及びc方向に並べられることが好ましい。
各対の摺動許容部材52における櫛歯状部52aには、複数の歯部52bが、該各対の摺動許容部材52が互いに対向する面において、該面が対向する方向である第1方向(図10のa方向)に突出しかつ該第1方向に対して垂直な第2方向(図10のb方向)に連続的に延びるとともに、該第1方向及び該第2方向の両方向に対して垂直な第3方向(図10のc方向)に並ぶように、突条状に形成されている。
各対の摺動許容部材52のうち一方の摺動許容部材52における櫛歯状部52aの各歯部52bが、他方の摺動許容部材52における櫛歯状部52aの相隣接する2つの歯部52bの間(つまり、2つの歯部52bにより形成された凹部52c)に位置して、各対の摺動許容部材52の櫛歯状部52aが互いに噛み合うことになる。そして、各歯部52bの側面と該歯部52bが位置する凹部52cの側面との間、及び、各歯部52bの先端面と該歯部52bが位置する凹部52cの底面との間に、微少間隙53が生じており、該微少間隙53により、各対の摺動許容部材52は、上記第1方向(a方向)、上記第2方向(b方向)及び上記第3方向(c方向)のいずれの方向にも、互いに摺動が許容されている。
各歯部52bの突出量(a方向の長さ)は、1.8mm以上4.5mm以下に設定されることが好ましい。また、微少間隙53の間隙量δは、0.1mm以上3.0mm以下でかつ各歯部52bの突出量(a方向の長さ)よりも小さい値に設定されることが好ましい。この間隙量δが0.1mmよりも小さいと、ピストン1の作動時に各対の摺動許容部材52が互いに摺動し難くなる一方、間隙量δが3.0mmよりも大きいと、各対の摺動許容部材52が滑らかに摺動して摩擦熱が生じ難くなる。したがって、間隙量δを上記のような範囲に設定することにより、ピストン1の作動時に、各対の摺動許容部材52を互いに摺動させて十分な摩擦熱を発生させることができ、エンジンの振動を効果的に抑制することができるようになる。本実施形態では、間隙量δは、各歯部52bの側面と凹部52cの側面との間と、各歯部52bの先端面と凹部52cの底面との間とで、同じ量に設定されているが、異なっていてもよい。
各歯部52bのc方向の長さ(各歯部52bの幅)は、a方向の長さに応じて設定され、各歯部52bの突出先端に対しc方向に所定の力が作用しても、各歯部52bの突出先端の撓み量が所定値以下となるような長さに設定される。上記所定の力は、ピストン1に作用する力の最大値である。また、各歯部52bのb方向の長さ(つまり振動伝達減衰ブロック51のb方向の長さ)は、摺動許容部材52の摺動部分の面積を大きく確保する観点から、長い方が好ましい。
微少間隙53には、金属粉末が充填されていることが好ましい。この金属粉末を介して、各対の摺動許容部材52が互いに摺動するときに、摺動許容部材52と金属粉末とが擦れるとともに、金属粉末同士も擦れるので、より多量の摩擦熱を発生させることができるようになり、エンジンの振動をより一層効果的に抑制することができるようになる。金属粉末の粒径は、例えば、20μm以上60μm以下にされる。
摺動許容部材52及び金属粉末の材料は、ピストン1の母材(アルミニウム合金)と同じ材料であってもよく、異なる材料(例えば、鉄、ステンレス鋼、チタン等)であってもよい。また、摺動許容部材52及び金属粉末の材料が同じであってもよく、互いに異なっていてもよい。
各対の摺動許容部材52は、c方向の両側端で、ピストン1の母材に直に一体的に固定される。或いは、各対の摺動許容部材52のうちの一方の摺動許容部材52が、b方向の一側端で、ピストン1の母材に一体的に固定され、他方の摺動許容部材52が、b方向の他側端で、ピストン1の母材に一体的に固定されてもよい。
振動伝達減衰機構50は、ピストン1において一対のピストンピン支持部7の中心軸を通りかつ該ピストン1の中心軸に垂直な平面P(図3参照)に対して頂部3側(上側)の部分の一部に設けられている。すなわち、振動伝達減衰機構50は、ピストン1における平面Pに対して頂部3側の部分において特定部を除く部分に設けられる。この特定部は、円筒状部2、一対のスカート部4における平面Pに対して頂部3側の部分、頂部3における一対のピストンピン支持部7の中心部の上側部分、頂部3における各連結壁部5を補強する2つの補強部6の間の部分、頂部3の最も突出した部分におけるキャビティ3aのX方向両側の部分、及び、一対のピストンピン支持部7の周壁7bにおける平面Pに対して頂部3側の部分である。したがって、振動伝達減衰機構50は、頂部3の一部(頂部3において上記特定部とされた部分以外の部分)、一対の連結壁部5における平面Pに対して頂部3側の部分、及び、補強部6に設けられる。上記特定部は、基本的に、ピストン1に作用する爆発荷重を受けてコネクティングロッド21に伝達する部分であるか、又は、シリンダの内周壁に対して摺動する部分であって、変形してはならない部分であるので、振動伝達減衰機構50(摺動許容部材52)は設けられず、中実とされている。一対のスカート部4は、平面Pに対して頂部3側の部分においても、頂部3とは反対側(下側)の部分においても、中実とされている。また、一対のピストンピン支持部7の周壁7bにおける平面Pに対して頂部3とは反対側の部分においては、上半分は、平面Pに対して頂部3側の部分と同様に中実とされている(周壁7bにおける図9の断面の部分は、中実である)が、下半分には、振動伝達減衰機構50が設けられる。尚、図7〜図9の断面図では、上記特定部の断面を黒塗りで示し、振動伝達減衰機構50(摺動許容部材52)が設けられた部分の断面を、グレーで示す。
ピストン1における平面Pに対して頂部3側の部分は、ピストン1の作動時に特に振動し易い部分であるので、この部分の一部に振動伝達減衰機構50を設けることで、ピストン1の振動を抑制する。
特に本実施形態では、ピストン1における平面Pに対して頂部3側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構50の各対の摺動許容部材52は、上記第2方向(b方向)がZ方向となるように設けられている。これにより、ピストン1における平面Pに対して頂部3側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構50における各対の摺動許容部材52は、特にピストン1への爆発荷重の作用時に該ピストン1に生じる振動によって、互いにb方向に摺動し易くなる。また、各歯部52bのb方向の長さを、比較的長くすることができるので、各対の摺動許容部材52の摺動部分の面積を大きく確保することができるようになる。この結果、各対の摺動許容部材52の摺動により、多量の摩擦熱を発生させることができる。このようにピストン1に生じる振動が摩擦熱に変換されて、振動伝達が減衰される。したがって、エンジンの圧縮比を大きくしても、ピストン1の振動、延いてはエンジンの振動を効果的に抑制することができる。
本実施形態では、振動伝達減衰機構50は、ピストン1における平面Pに対して頂部3側の部分の一部(上記特定部を除く部分)に加えて、該ピストン1における該平面Pに対して頂部3とは反対側(下側)の部分の一部にも設けられている。すなわち、振動伝達減衰機構50は、一対の連結壁部5における平面Pに対して頂部3とは反対側の部分、及び、一対のピストンピン支持部7の周壁7bにおける平面Pに対して頂部3とは反対側の部分の下半分にも設けられる。これにより、ピストン1の作動時に、ピストン1における平面Pに対して頂部3とは反対側の部分における一対のスカート部4の間に生じる振動を抑制することができるようになる。
ピストン1における平面Pに対して頂部3とは反対側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構50の各対の摺動許容部材52は、上記第2方向(b方向)が、一対のスカート部4が対向するY方向となるように設けられる。すなわち、一対のスカート部4は上記シリンダの内周壁面に対して摺動するので、一対のスカート部4の間の部分は、一対のスカート部4が対向するY方向に振動し易くなる。そこで、ピストン1における平面Pに対して頂部3とは反対側の部分の一部に設けられた振動伝達減衰機構50の各対の摺動許容部材52を、b方向がY方向となるように設けることで、各対の摺動許容部材52が互いにb方向に摺動し易くなり、また、各歯部52bのb方向の長さを長くすることができるので、ピストン1における平面Pに対して頂部3とは反対側の部分における一対のスカート部4の間に生じる振動を効果的に抑制することができるようになる。
上記のようなピストン1を製造するには、金属積層造型機(金属3Dプリンタ)を使用する。すなわち、ピストン1は、三次元積層造形法により形成される。この場合、摺動許容部材52及び金属粉末の材料は、ピストン1の母材と同じであることが好ましい。具体的には、例えばピストン1の頂部3側から層状に一層ずつ順に形成して、これらの層を積み重ねる。上記各層においては、粒径が例えば20μm以上60μm以下の金属粉末を一様に敷き、その敷いた金属粉末(微少間隙53の箇所を除く)をレーザー光でスキャンすることにより焼結する。このとき、各対の摺動許容部材52の間の微少間隙53の箇所においては、レーザー光を照射しないので、金属粉末がそのまま残る。この残った金属粉末を、そのまま残すことで、微少間隙53に金属粉末が充填されることになる。或いは、上記残った金属粉末を、最終的に、別途に設けた孔から取り除いてもよい。こうして、振動伝達減衰機構50が設けられたピストン1が完成する。
或いは、最初に、1つ又は複数(本実施形態では、複数)の振動伝達減衰ブロック51を作製する。このとき、微少間隙53に金属粉末を充填しておいてもよい。次いで、上記作製した1つ又は複数の振動伝達減衰ブロック51を鋳込むようにして、ピストン1を鋳造する。
したがって、本実施形態では、ピストン1の作動時に該ピストン1に生じる振動によって、ピストン1に設けた振動伝達減衰機構50の各対の摺動許容部材52が互いに摺動し、この摺動により、摩擦熱が発生する。このようにピストン1に生じる振動が摩擦熱に変換されて、振動伝達が減衰される。一方、爆発荷重については、振動伝達減衰機構50が設けられていない中実の上記特定部で受けるようにしているので、高い爆発荷重をピストン1からコネクティングロッド21に伝達することができる。よって、エンジンの圧縮比を大きくしても、エンジンの振動を効果的に抑制することができる。
ここで、図10のような振動伝達減衰ブロック51(摺動許容部材52の材料はアルミニウム合金)と、振動伝達減衰ブロック51と同様の形状の中実のブロックとについて、b方向の振動に対する損失係数を計算したところ、振動伝達減衰ブロック51の損失係数は、中実のブロックの損失係数の5倍の値となった。また、振動伝達減衰ブロック51の微少間隙53に、アルミニウム合金の金属粉末を充填した場合の振動伝達減衰ブロック51の損失係数は、中実のブロックの損失係数の20倍の値となった。したがって、振動伝達減衰ブロック51により振動伝達減衰効果が得られるとともに、微少間隙53に金属粉末を充填することにより、かなり大きな振動伝達減衰効果が得られることになる。
本発明は、上記実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
例えば、上記実施形態では、ピストン1の一部に振動伝達減衰機構50を設けたが、コネクティングロッド21の一部に振動伝達減衰機構50を設けてもよい。この場合、例えば図11に示すように、ロッド部24における小径ピン孔22aの中心軸方向(大径ピン孔23aの中心軸方向でもある)に対向する両側の面において、上記実施形態で凹部24aが形成されていた部分に、振動伝達減衰機構50(振動伝達減衰ブロック51)が設けられる。この振動伝達減衰ブロック51における各対の摺動許容部材52は、上記第2方向(b方向)がロッド部24の長手方向となるように設けられることが好ましい。
上述の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。