JP6904009B2 - 油脂の製造方法 - Google Patents
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また、新たな課題として、リパーゼによるエステル交換の際に、モノグリセリドおよびジグリセリドからなる部分グリセリドの発生が認められた。
すなわち、本発明は下記の〔1〕、〔2〕および〔3〕である。
前記配合油脂を、α−位に特異的に作用するリパーゼで反応させるリパーゼ反応工程を、備える、β−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
〔2〕 前記パーム由来の油脂を含む油脂原料をランダムエステル交換するエステル交換反応工程、を備える、〔1〕に記載のβ−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
〔3〕 前記パーム由来の油脂を含む油脂原料は、大豆油を含有する、〔1〕又は〔2〕に記載のβ−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
本発明における第2の発明によれば、トリグリセリド中のパルミチン酸のβ−位結合比率をさらに上昇させることができるうえ、油脂原料中のクロロプロパノール類およびその脂肪酸エステル、グリシドールおよびその脂肪酸エステルを減少させることができる、油脂の製造方法を提供できる。
本発明における第3の発明によれば、より母乳脂肪の脂肪酸組成に近い油脂の製造方法を提供できる。
本発明の油脂の製造方法は、以下となる。
パーム由来の油脂を含む油脂原料を5〜60質量%及び、オレイン酸の含有量が70〜80質量%のオレイン酸含有脂肪酸を40〜95質量%、を含む配合油脂を調整する配合工程、並びに、
前記配合油脂を、α−位に特異的に作用するリパーゼで反応させるリパーゼ反応工程を備える、β−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
本発明におけるリパーゼ反応前の油脂原料としては、パルミチン酸を多く含み、且つ安定的に入手できる油脂が望ましいため、パーム系油脂が適している。原料となるパーム系油脂は未加工のパーム油だけではなく、その分別油、極度硬化油であってもよい。また、目的とする脂肪酸組成の範囲内において、上記パーム油の一部をパーム核油、その分別油、その極度硬化油に置き換えてもよい。
本発明における油脂原料であるパーム由来の油脂は、パーム由来の油脂のランダムエステル交換油であることがより好ましい。パーム由来の油脂をランダムエステル交換することにより、トリグリセリドのα−位に多く結合しているパルミチン酸が、α−位とβ−位へランダムに配列されるため、その後のリパーゼ処理によりβ−位へのパルミチン酸結合比率をより効率的に高めることができる。
本発明における脂肪酸は、オレイン酸含量が70〜80質量%の脂肪酸である。オレイン酸含量が70質量%以下である場合、α−位に結合しているパルミチン酸との置換が不充分となるため、得られる油脂のパルミチン酸のβ−位結合比率が低い値となる。また、オレイン酸含量が80質量%以上である場合、脂肪酸の原価が上昇するため、実製造を想定した際に経済的に非現実的となる。
また、オレイン酸含量が70〜80質量%の脂肪酸を使用することにより、部分グリセリドの発生を抑制するという効果を奏する。
本発明における油脂原料と脂肪酸との配合において、パーム由来の油脂を含む油脂原料は5〜60質量%であり、オレイン酸含有脂肪酸は40〜95質量%である。
油脂原料が5質量%未満、オレイン酸が95質量%超では、得られるトリグリセリドが極端に少なく製造上非効率的となる。原料油脂が60質量%超、オレイン酸が40質量%未満では、パルミチン酸のβ−位結合比率が充分に上昇せず、また、部分グリセリドが一部残る場合がある。
(リパーゼ)
本発明におけるリパーゼとしては、各種油脂および各種脂肪酸の混合物に対し、トリグリセリドのα−位に特異性を示すリパーゼである。具体的には、アルカリゲネス属、ジオトリウム属、クロモバクテリウム属、リゾプス属、アスペルギルス属、ペニシリウム属、キャンディダ属、シュードモナス属、ムコール属、またはジオトリクム属などの微生物由来のリパーゼが挙げられる。これらリパーゼは、リパーゼそのものであってもよく、固定化担体に吸着結合したものであっても構わない。ただし、固定化担体に吸着結合させた方が高温で反応させた場合においてもリパーゼの反応期間を延長させることができ、カラム容器に充填して連続的に反応させることができるため、好ましい。固定化担体を具体的に例示すれば、活性炭、白土、シリカゲル、ケイソウ土、炭酸カルシウム、セライト、セルロースおよびその誘導体、キトサンおよびその誘導体、ガラス、樹脂のような素材で多孔質の吸着型担体を挙げることができる。また、固定化したリパーゼを一定の粒系にするために賦形剤などを用いて造粒してもよい。本発明では、固定化酵素として任意の粒径のものを使用することができるが、一般に粒径は50〜1000μmのもの、特に500〜1000μmのものを使用することが好ましい。
パーム由来の油脂原料と脂肪酸とをリパーゼ処理によりエステル交換をすると、得られた油脂中に遊離脂肪酸が含まれる。食用に適した状態とするという観点から、この遊離脂肪酸を除去することが好ましく、その除去方法としては蒸留が特に好ましい。蒸留の方法としては、薄膜蒸留や分子蒸留、水蒸気蒸留等が挙げられ、その工程を1回または2回以上行うことが好ましい。さらに、反応後の油脂中に微量に含まれる遊離脂肪酸は、通常の油脂の脱酸工程を行うことで食用に適した状態まで除去することができる。その脱酸工程は前述の中和精製、物理精製どちらを選択しても構わない。
上記手法により遊離脂肪酸を除去した油脂は、さらに、脱ガム工程、脱色工程、脱臭工程を行うことで、食用に適した状態とすることが好ましい。
なお、表1に実施例および比較例に、使用する油脂成分の構成脂肪酸組成、原料脂肪酸の構成脂肪酸組成の分析例を示す。各油脂成分及び原料脂肪酸の脂肪酸組成は「基準油脂分析試験法2.4.2.2−2013」にて分析した。
本発明では原料となるパーム由来の油脂として以下の製造例A〜Fを用意した。また、ランダムエステル交換は下記の方法にて行った。製造例A〜Fに使用した油脂及びその配合を表2に示す。なお、表2の下段の「ランダムエステル交換」の項には、ランダムエステル交換を行ったものを「〇」、行っていないものを「×」と記載する。
製造例A:パーム油
製造例B:パーム油の分別高融点部
製造例C:パーム油のランダムエステル交換油
製造例D:パーム油の分別高融点部のランダムエステル交換油
製造例E:パーム油分別高融点部、パーム核油、大豆油のランダムエステル交換油
製造例F:パーム油分別高融点部、パーム核油、大豆油、カノーラ油のランダムエステル交換油
ランダムエステル交換の反応方法および条件を以下に示す。反応容器に原料混合油を仕込み、窒素気流中、撹拌しつつ加熱した。100℃〜120℃の状態で3時間以上この状態を保ち、油脂中の水分が100ppm以下になるまで脱水した。その後、油脂を80℃まで冷却し、アルカリ触媒(ナトリウムメチラート)を0.1〜0.2質量部加え、撹拌下窒素気流中で30分間反応させた。触媒除去のため、反応液に70℃の温水を加え撹拌して洗浄した後、静置して油層と水層を分離した。分離した水層のpHが8以下になるまで温水洗浄を繰り返した後、窒素気流中、撹拌しつつ加熱し、100℃〜120℃で水分が蒸発しなくなるまで脱水した。次いで、活性白土を3質量部加え15分間脱色した後、濾過した。
本発明では以下の2種の脂肪酸を使用した。
脂肪酸I:オレイン酸含量74.3質量%、パーム油由来
脂肪酸II:オレイン酸含量95.4質量%、ハイオレイックヒマワリ油由来
上記の製造例A〜Fで得られた油脂原料(トリグリセリド)と脂肪酸Iを表3の割合で配合し、下記の方法によりリパーゼ処理によるエステル交換を行い油脂と遊離脂肪酸との混合物を得た。その混合物より遊離脂肪酸部を除去し、その組成を分析した。また、遊離脂肪酸除去後の油脂について部分トリグリセリド含量を分析した。
部分トリグリセライドは、「AOCS Official Method Cd11b−91」を基に分析を行った。また、その定量下限を0.05質量%とした。
リパーゼ処理によるエステル交換の反応方法および条件を以下に示す。「Novozym40086」(Rhizomucor miehei起源・固定化リパーゼ)35gを充填したカラムに60〜70℃の条件下において、上記実施例1〜8の原料を流量15〜50g油/時間で通液しながらエステル交換を行った。反応は、その反応率が90%以上となるよう通液流量を調節した。反応率は、理論値と測定値を基に算出したパルミチン酸における反応率にて確認した。
上記リパーゼによるエステル交換により得られた反応物から遊離脂肪酸を除去する方法および条件を以下に示す。本発明では薄膜蒸留を行った。まず、温度220〜230℃、真空度8〜12Paの条件下において、100〜200mL/hで反応物を通し蒸留を行った。得られた油脂に対し、再度同様の条件にて再度蒸留を行った。
蒸留後の油脂に対し、中和精製による脱酸処理を行った。得られた油脂を反応容器中に仕込み、60〜70℃に加熱、その酸価に応じて水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、遊離脂肪酸を中和した。生成し沈殿した脂肪酸セッケンを遠心分離により除去した。
さらに、上記方法にて得られた油脂の脂肪酸組成および、β−位に結合した脂肪酸組成の分析を行った。脂肪酸組成の分析は「基準油脂分析試験法2.4.2.2−2013」にて行い、β−位結合の脂肪酸組成分析は「基準油脂分析試験法2.4.5−2016」にて行った。これらの分析結果を基に、パルミチン酸のβ−位への結合比率を以下の計算式より求めた。
パルミチン酸のβ−位への結合比率(%)=
(β−位に結合したパルミチン酸含量/全体におけるパルミチン酸含量×3)×100
上記の製造例A〜Fにて得られた油脂原料と、脂肪酸Iもしくは脂肪酸IIとを表4の割合で配合し、上記方法にてリパーゼによるエステル交換、脂肪酸除去をした後、比較例1〜6の油脂を得た。また、上記方法に準じて除去した遊離脂肪酸の組成、および得られた油脂の脂肪酸組成とβ−位結合の脂肪酸組成を分析した。そして、油脂のパルミチン酸のβ−位結合比率を上記の計算式より求めた。
なお、比較例1、2、5、6を見ると、油脂原料が多くなると、部分グリセリドの発生が多くなるという傾向が認められる。一方で、実施例3、4と比較例3、4を対比すると、実施例3、4では、油脂原料を多く含むが、部分グリセリド含有量が低下している。すなわち、オレイン酸の含有量が70〜80質量%のオレイン酸含有脂肪酸(脂肪酸I)を使用することにより、部分グリセリドの発生を抑制するといえる。
Claims (3)
- パーム由来の油脂を含む油脂原料を5〜40質量%、オレイン酸の含有量が70〜80質量%のオレイン酸含有脂肪酸を60〜95質量%、を含む配合油脂を調整する配合工程、並びに、
前記配合油脂を、α−位に特異的に作用するリパーゼで反応させるリパーゼ反応工程を備える、β−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。 - 更に、前記パーム由来の油脂を含む油脂原料をランダムエステル交換するエステル交換反応工程を備える、請求項1に記載のβ−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
- 前記パーム由来の油脂を含む油脂原料は、大豆油を含有する、請求項1又は2に記載のβ−位にパルミチン酸を有する油脂の製造方法。
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