(実施形態1)
(1)概要
本実施形態に係る電圧印加装置1は、図1に示すように、電圧印加回路2と、制御回路3と、を備えている。電圧印加装置1は、放電電極41を含む負荷4に電圧を印加することにより、放電電極41に放電を生じさせる装置である。
また、本実施形態に係る放電装置10は、図1に示すように、電圧印加装置1と、負荷4と、液体供給部5と、を備えている。負荷4は、放電電極41及び対向電極42を有している。対向電極42は、放電電極41と隙間を介して対向するように配置される電極である。負荷4は、放電電極41と対向電極42との間に電圧が印加されることにより、放電電極41と対向電極42との間で放電を生じさせる。液体供給部5は、放電電極41に液体50を供給する機能を有する。つまり、放電装置10は、電圧印加回路2、制御回路3、液体供給部5、放電電極41及び対向電極42を、構成要素に含んでいる。ただし、放電装置10は、電圧印加装置1及び放電電極41を最低限の構成要素として含んでいればよく、対向電極42及び液体供給部5の各々は、放電装置10の構成要素に含まれていなくてもよい。
本実施形態に係る放電装置10は、例えば、放電電極41の表面に液体50が付着することで放電電極41に液体50が保持されている状態において、放電電極41を含む負荷4に電圧印加回路2から電圧を印加する。これにより、少なくとも放電電極41にて放電が生じ、放電電極41に保持されている液体50が、放電によって静電霧化される。すなわち、本実施形態に係る放電装置10は、いわゆる静電霧化装置を構成する。本開示において、放電電極41に保持されている液体50、つまり静電霧化の対象となる液体50を、単に「液体50」とも呼ぶ。
電圧印加回路2は、負荷4に印加電圧を印加することにより、少なくとも放電電極41に放電を生じさせる。特に、本実施形態では、電圧印加回路2は、印加電圧の大きさを周期的に変動させることにより、放電を間欠的に生じさせる。印加電圧が周期的に変動することで、液体50には機械的な振動が生じる。本開示でいう「印加電圧」は、放電を生じさせるために電圧印加回路2が負荷4に印加する電圧を意味する。本開示においては、放電を生じさせるための「印加電圧」を、後述する「持続電圧」とは区別して説明する。本実施形態では、電圧印加回路2は制御回路3にて制御されるので、上述したような印加電圧の大きさの調整は制御回路3にて実施される。
詳しくは後述するが、負荷4に電圧(印加電圧)が印加されることにより、放電電極41に保持されている液体50は、図2Aに示すように、電界による力を受けてテイラーコーン(Taylor cone)と呼ばれる円錐状の形状を成す。そして、テイラーコーンの先端部(頂点部)に電界が集中することで、放電が発生する。このとき、テイラーコーンの先端部が尖っている程、つまり円錐の頂角が小さく(鋭角に)なる程に、絶縁破壊に必要な電界強度が小さくなり、放電が生じやすくなる。放電電極41に保持されている液体50は、機械的な振動に伴って、図2Aに示す形状と図2Bに示す形状とに、交互に変形する。その結果、上述したようなテイラーコーンが周期的に形成されるため、図2Aに示すようなテイラーコーンが形成されるタイミングに合わせて、放電が間欠的に発生することになる。
ところで、本実施形態に係る電圧印加装置1では、電圧印加回路2は、互いに隙間を介して対向するように配置される放電電極41及び対向電極42間に印加電圧V1(図5A参照)を印加することにより、放電を生じさせる。電圧印加装置1は、放電の発生時には、図5Aに示すように、放電電極41と対向電極42との間に、部分的に絶縁破壊された放電経路L1を形成する。放電経路L1は、第1絶縁破壊領域R1と、第2絶縁破壊領域R2と、を含む。第1絶縁破壊領域R1は、放電電極41の周囲に生成される。第2絶縁破壊領域R2は、対向電極42の周囲に生成される。
すなわち、放電電極41と対向電極42との間には、全体的にではなく部分的(局所的)に、絶縁破壊された放電経路L1が形成される。本開示でいう「絶縁破壊」は、導体間を隔離している絶縁体(気体を含む)の電気絶縁性が破壊され、絶縁状態が保てなくなることを意味する。気体の絶縁破壊は、例えば、イオン化された分子が電場により加速されて他の気体分子に衝突してイオン化し、イオン濃度が急増して気体放電を起こすために生じる。要するに、本実施形態に係る電圧印加装置1による放電の発生時には、放電電極41と対向電極42とを結ぶ経路上に存在する気体(空気)において、部分的に、つまり一部でのみ、絶縁破壊が生じることになる。このように、放電電極41と対向電極42との間に形成される放電経路L1は、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された経路である。
そして、放電経路L1は、放電電極41の周囲に生成される第1絶縁破壊領域R1と、対向電極42の周囲に生成される第2絶縁破壊領域R2と、を含んでいる。つまり、第1絶縁破壊領域R1は、放電電極41の周囲の絶縁破壊された領域であって、第2絶縁破壊領域R2は、対向電極42の周囲の絶縁破壊された領域である。これら第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2は、互いに接触しないように離れて存在している。そのため、放電経路L1は、少なくとも第1絶縁破壊領域R1と第2絶縁破壊領域R2との間において、絶縁破壊されていない領域(絶縁領域)を含んでいる。よって、放電電極41と対向電極42との間の放電経路L1は、少なくとも一部に絶縁領域を残しつつ、部分的に絶縁破壊が生じることで電気的な絶縁性が低下した状態になる。
以上説明したような電圧印加装置1及び放電装置10によれば、放電電極41と対向電極42との間に、全体的にではなく部分的に、絶縁破壊された放電経路L1が形成される。このように、部分的な絶縁破壊が生じた放電経路L1、言い換えれば、一部は絶縁破壊されていない放電経路L1であっても、放電電極41と対向電極42との間には、放電経路L1を通して電流が流れ、放電が生じる。このように、部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成される形態の放電を、以下では「部分破壊放電」と称する。部分破壊放電について詳しくは、「(2.4)放電形態」の欄で説明する。
このような部分破壊放電においては、コロナ放電と比較して大きなエネルギーでラジカルが生成され、コロナ放電と比較して2〜10倍程度の大量のラジカルが生成される。このようにして生成されるラジカルは、除菌、脱臭、保湿、保鮮、ウイルスの不活化にとどまらず、様々な場面で有用な効果を奏する基となる。ここで、部分破壊放電によってラジカルが生成される際には、オゾンも発生する。ただし、部分破壊放電では、コロナ放電と比較して2〜10倍程度のラジカルが生成されるのに対して、オゾンの発生量はコロナ放電の場合と同程度に抑えられる。
また、部分破壊放電とは別に、コロナ放電から進展して絶縁破壊(全路破壊)に至る、という現象が間欠的に繰り返される形態の放電がある。このような形態の放電を、以下では「全路破壊放電」と称する)。全路破壊放電では、コロナ放電から進展して絶縁破壊(全路破壊)に至ると比較的大きな放電電流が瞬間的に流れ、その直後に印加電圧が低下して放電電流が遮断され、また印加電圧が上昇して絶縁破壊に至る、という現象が繰り返される。全路破壊放電においては、部分破壊放電と同様に、コロナ放電と比較して大きなエネルギーでラジカルが生成され、コロナ放電と比較して2〜10倍程度の大量のラジカルが生成される。ただし、全路破壊放電のエネルギーは、部分破壊放電のエネルギーに比べても更に大きい。そのため、エネルギー準位が「中」の状態で、オゾンが消失しラジカルが増加することによって、ラジカルが大量に発生したとしても、その後の反応経路においてエネルギー準位が「高」となることで、ラジカルの一部が消失する可能性がある。
言い換えれば、全路破壊放電では、その放電に係るエネルギーが高すぎるが故に、生成されたラジカル等の有効成分(空気イオン、ラジカル及びこれを含む帯電微粒子液等)の一部が消失して、有効成分の生成効率の低下につながる可能性がある。結果的に、部分破壊放電を採用した本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10によれば、全路破壊放電と比較しても、有効成分の生成効率の向上を図ることができる。したがって、本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10では、コロナ放電及び全路破壊放電のいずれの放電形態と比較しても、ラジカル等の有効成分の生成効率の向上を図ることができる、という利点がある。
ところで、本実施形態に係る電圧印加装置1では、電圧印加回路2は、液体50を保持する放電電極41を含む負荷4に印加電圧V1(図5A参照)を印加することにより、放電電極41に放電を生じさせる。電圧印加回路2は、印加電圧V1の大きさを周期的に変動させて放電を間欠的に生じさせる。電圧印加回路2は、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間T2(図6参照)において、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2(図6参照)を負荷4に印加する。
すなわち、本実施形態では、電圧印加回路2が印加電圧V1の大きさを周期的に変動させることにより、放電を間欠的に生じさせている。これにより、放電電極41に保持されている液体50は周期的に伸縮し(図2A及び図2B参照)、液体50には機械的な振動が生じる。このような液体50の機械的な振動に際して、放電発生後の液体50の収縮が過度になると、液体50の機械的な振動の振幅が大きくなり過ぎて、液体50の振動に起因する音が大きくなる可能性がある。
そして、間欠期間T2においては、放電を生じさせるために電圧印加回路2が負荷4に印加する印加電圧V1に加えて、持続電圧V2が負荷4に印加されることで、持続電圧V2の分だけ、負荷4に印加される電圧が底上げされる。その結果、持続電圧V2を用いて、このような放電発生後の液体50の過度の収縮の発生を抑制し、結果的に、液体50の振動に起因する音を生じにくくする。したがって、本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10によれば、液体50の振動に起因する音を低減することができる、という利点がある。
(2)詳細
以下、本実施形態に係る電圧印加装置1、及び放電装置10について、より詳細に説明する。
(2.1)全体構成
本実施形態に係る放電装置10は、図1に示すように、電圧印加回路2と、制御回路3と、負荷4と、液体供給部5と、を備えている。負荷4は、放電電極41及び対向電極42を有している。液体供給部5は、放電電極41に液体50を供給する。図1では、放電電極41及び対向電極42の形状を模式的に表している。
放電電極41は、棒状の電極である。放電電極41は、長手方向の一端部に先端部411(図3B参照)を有し、長手方向の他端部(先端部とは反対側の端部)に基端部412(図3B参照)を有する。放電電極41は、少なくとも先端部411が先細り形状に形成された針電極である。ここでいう「先細り形状」とは、先端が鋭く尖っている形状に限らず、図2A等に示すように、先端が丸みを帯びた形状を含む。
対向電極42は、放電電極41の先端部に対向するように配置されている。対向電極42は、例えば板状であって、中央部に開口部421を有する。開口部421は、対向電極42を対向電極42の厚み方向に貫通する。ここで、対向電極42の厚み方向(開口部421の貫通方向)が放電電極41の長手方向に一致し、かつ放電電極41の先端部が対向電極42の開口部421の中心付近に位置するように、対向電極42と放電電極41との位置関係が決められている。つまり、対向電極42と放電電極41との間には、少なくとも対向電極42の開口部421によって隙間(空間)が確保される。言い換えれば、対向電極42は、放電電極41に対して隙間を介して対向するように配置され、放電電極41とは電気的に絶縁されている。
より詳しくは、放電電極41及び対向電極42は、一例として、図3A及び図3Bに示すような形状に形成される。すなわち、対向電極42は、支持部422と、複数(ここでは4つ)の突出部423と、を有している。複数の突出部423の各々は、支持部422から放電電極に向けて突出する。放電電極41及び対向電極42は、電気絶縁性を有する合成樹脂製のハウジング40に保持されている。支持部422は、平板状であって、円形状に開口する開口部421が形成されている。図3Aでは、開口部421の内周縁を想像線(二点鎖線)で示している(後述する図4A及び図4Bでも同様)。
4つの突出部423は、開口部421の周方向において等間隔で配置されている。各突出部423は、支持部422における開口部421の内周縁から、開口部421の中心に向けて突出する。各突出部423は、長手方向の先端部(開口部421の中心側の端部)に先細り形状の延出部424を有する。本実施形態では、対向電極42は、支持部422及び複数の突出部423が全体として平板状に形成されている。つまり、各突出部423は、平板状の支持部422の厚み方向の両面間に収まるように、支持部422に形成された開口部421の内周縁から、支持部422の厚み方向に傾くことなく、開口部421の中心に向けてまっすぐに突出している。各突出部423がこのような形状に形成されることにより、各突出部423の延出部424で電界集中が生じやすくなる。その結果、各突出部423の延出部424と放電電極41の先端部411との間で、全路破壊放電が安定的に生じやすくなる。
さらに、放電電極41は、図3Aに示すように、平面視において、つまり放電電極41の長手方向の一方から見て、開口部421の中心に位置する。言い換えれば、放電電極41は、平面視において、開口部421の内周縁の中心点上に位置する。さらに、図3Bに示すように、放電電極41と対向電極42とは、放電電極41の長手方向(対向電極42の厚み方向)においても、互いに離れた位置関係にある。つまり、放電電極41の長手方向において、基端部412と対向電極42との間に、先端部411が位置している。
放電電極41及び対向電極42のより具体的な形状については、「(2.3)電極形状」の欄で説明する。
液体供給部5は、放電電極41に対して静電霧化用の液体50を供給する。液体供給部5は、一例として、放電電極41を冷却して、放電電極41に結露水を発生させる冷却装置51を用いて実現される。具体的には、冷却装置51は、一例として、図3Bに示すように、一対のペルチェ素子511と、一対の放熱板512とを備えている。一対のペルチェ素子511は、一対の放熱板512に保持されている。冷却装置51は、一対のペルチェ素子511への通電によって放電電極41を冷却する。各放熱板512の一部がハウジング40に埋め込まれることにより、一対の放熱板512はハウジング40に保持されている。一対の放熱板512のうち、少なくともペルチェ素子511を保持する部位は、ハウジング40から露出している。
一対のペルチェ素子511は、放電電極41の基端部412に対して、例えば、半田にて機械的かつ電気的に接続されている。一対のペルチェ素子511は、一対の放熱板512に対して、例えば、半田にて機械的かつ電気的に接続されている。一対のペルチェ素子511への通電は、一対の放熱板512及び放電電極41を通じて行われる。したがって、液体供給部5を構成する冷却装置51は、基端部412を通じて放電電極41の全体を冷却する。これにより、空気中の水分が凝結して放電電極41の表面に結露水として付着する。すなわち、液体供給部5は、放電電極41を冷却して放電電極41の表面に液体50としての結露水を生成するように構成されている。この構成では、液体供給部5は、空気中の水分を利用して、放電電極41に液体50(結露水)を供給できるため、放電装置10への液体の供給及び補給が不要になる。
電圧印加回路2は、図1に示すように、駆動回路21と、電圧発生回路22と、を有している。駆動回路21は、電圧発生回路22を駆動する回路である。電圧発生回路22は、入力部6からの電力供給を受けて、負荷4に印加する電圧(印加電圧及び持続電圧)を生成する回路である。入力部6は、数V〜十数V程度の直流電圧を発生する電源回路である。本実施形態では、入力部6は電圧印加装置1の構成要素に含まないこととして説明するが、入力部6は電圧印加装置1の構成要素に含まれていてもよい。
電圧印加回路2は、例えば、絶縁型のDC/DCコンバータであって、入力部6からの入力電圧Vin(例えば13.8V)を昇圧し、昇圧後の電圧を出力電圧として出力する。電圧印加回路2の出力電圧は、印加電圧及び/又は持続電圧として負荷4(放電電極41及び対向電極42)に印加される。
電圧印加回路2は、負荷4(放電電極41及び対向電極42)に対して電気的に接続されている。電圧印加回路2は、負荷4に対して高電圧を印加する。ここでは、電圧印加回路2は、放電電極41を負極(グランド)、対向電極42を正極(プラス)として、放電電極41と対向電極42との間に高電圧を印加するように構成されている。言い換えれば、電圧印加回路2から負荷4に高電圧が印加された状態では、放電電極41と対向電極42との間に、対向電極42側を高電位、放電電極41側を低電位とする電位差が生じることになる。ここでいう「高電圧」とは、放電電極41に部分破壊放電が生じるように設定された電圧であればよく、一例として、ピークが5.0kV程度となる電圧である。ただし、電圧印加回路2から負荷4に印加される高電圧は、5.0kV程度に限らず、例えば、放電電極41及び対向電極42の形状、又は放電電極41及び対向電極42間の距離等に応じて適宜設定される。
ここで、電圧印加回路2の動作モードには、第1モードと、第2モードとの2つのモードが含まれている。第1モードは、印加電圧V1を時間経過に伴って上昇させ、コロナ放電から進展して部分的に絶縁破壊された放電経路L1を形成して放電電流を生じさせるためのモードである。第2モードは、負荷4を過電流状態として、制御回路3等により放電電流を遮断するためのモードである。本開示でいう「放電電流」は、放電経路L1を通して流れる比較的大きな電流を意味しており、放電経路L1が形成される前のコロナ放電において生じる数μA程度の微小電流を含まない。本開示でいう「過電流状態」とは、放電により負荷が低下し、想定値以上の電流が負荷4に流れる状態を意味する。
本実施形態では、制御回路3は、電圧印加回路2の制御を行う。制御回路3は、電圧印加装置1が駆動される駆動期間において、電圧印加回路2が第1モードと第2モードとを交互に繰り返すように、電圧印加回路2を制御する。ここで、制御回路3は、電圧印加回路2から負荷4に印加される印加電圧V1の大きさを、駆動周波数にて周期的に変動させるように、駆動周波数にて第1モードと第2モードとの切り替えを行う。本開示でいう「駆動期間」は、放電電極41に放電を生じさせるように電圧印加装置1が駆動される期間である。
すなわち、電圧印加回路2は、放電電極41を含む負荷4に印加する電圧の大きさを一定値に保つのではなく、所定範囲内の駆動周波数にて、周期的に変動させる。電圧印加回路2は、印加電圧V1の大きさを周期的に変動させることにより、放電を間欠的に生じさせる。つまり、印加電圧V1の変動周期に合わせて、放電経路L1が周期的に形成され、放電が周期的に発生する。以下では、放電(部分破壊放電)が生じる周期を「放電周期」ともいう。これにより、放電電極41に保持されている液体50に作用する電気エネルギーの大きさが駆動周波数にて周期的に変動することになり、結果的に、放電電極41に保持されている液体50が駆動周波数にて機械的に振動する。
ここで、液体50の変形量を大きくするには、印加電圧V1の変動の周波数である駆動周波数は、放電電極41に保持されている液体50の共振周波数(固有振動数)を含む所定範囲内、つまり液体50の共振周波数付近の値に設定されることが好ましい。本開示でいう「所定範囲」は、その周波数で液体50に加わる力(エネルギー)を振動させたときに、液体50の機械的な振動が増幅されるような周波数の範囲であって、液体50の共振周波数を基準として下限値及び上限値が規定された範囲である。つまり、駆動周波数は、液体50の共振周波数付近の値に設定される。この場合、印加電圧V1の大きさが変動することに伴う液体50の機械的な振動の振幅は、比較的大きくなり、結果的に、液体50の機械的な振動に伴う液体50の変形量が大きくなる。液体50の共振周波数は、例えば、液体50の体積(量)、表面張力及び粘度等に依存する。
すなわち、本実施形態に係る放電装置10では、液体50は、その共振周波数付近の駆動周波数で機械的に振動することにより比較的大きな振幅で振動するため、電界が作用した際に生じるテイラーコーンの先端部(頂点部)がより尖った(鋭角な)形状となる。したがって、液体50が、その共振周波数から離れた周波数で機械的に振動する場合に比べて、テイラーコーンが形成された状態において絶縁破壊に必要な電界強度が小さくなり、放電が生じやすくなる。よって、例えば、電圧印加回路2から負荷4に印加される電圧(印加電圧V1)の大きさのばらつき、放電電極41の形状のばらつき、又は放電電極41に供給される液体50の量(体積)のばらつき等があっても、放電(部分破壊放電)が安定的に発生可能となる。また、電圧印加回路2は、放電電極41を含む負荷4に印加する電圧の大きさを比較的低く抑えることができる。そのため、放電電極41周辺における絶縁対策のための構造を簡略化したり、電圧印加回路2等に用いる部品の耐圧を下げたりすることができる。
ところで、本実施形態では、電圧印加回路2は、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間T2(図6参照)において、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2(図6参照)を負荷4に印加する。すなわち、本実施形態では、電圧印加回路2が印加電圧V1の大きさを周期的に変動させることにより、放電を間欠的に生じさせている。そのため、放電が生じて次に放電が生じるまでの間には、放電経路L1が形成されず、放電電流が流れない間欠期間T2が生じる。ここでは一例として、放電周期T1(図6参照)のうち、電圧印加回路2が第2モードで動作する期間を、間欠期間T2とする。つまり、間欠期間T2においては、放電を生じさせるために電圧印加回路2が負荷4に印加する印加電圧V1に加えて、持続電圧V2が負荷4に印加されることで、持続電圧V2の分だけ、負荷4に印加される電圧が底上げされる。言い換えれば、負荷4には、印加電圧V1と持続電圧V2との合計電圧(V1+V2)が印加されることになる。これにより、間欠期間T2においては、時間経過に伴って負荷4に印加される電圧は徐々に低下するものの、持続電圧V2の分だけ下げ幅が縮小されることになる。
その結果、本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10によれば、液体50の振動に起因する音を低減することができる。持続電圧V2を用いた音対策について詳しくは、「(2.5)音対策」の欄で説明する。
上述したように、電圧印加回路2が、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2を負荷4に印加することで、見かけ上、電圧印加回路2から負荷4に印加される電圧が大きくなる。そのため、持続電圧V2の印加は、電圧印加回路2からの出力電圧の変更により実現される。具体的には、制御回路3(電圧制御回路31)、駆動回路21及び電圧発生回路22の回路定数(抵抗値又は容量値等)の調整によって、電圧印加回路2からの出力電圧が変更され、持続電圧V2の印加が実現される。また、回路定数を変化させる構成に限らず、例えば、制御回路3に含まれるマイクロコンピュータで用いるパラメータ等の調整によって、電圧印加回路2からの出力電圧が変更され、持続電圧V2の印加が実現されてもよい。
本実施形態では、制御回路3は、監視対象に基づいて電圧印加回路2を制御する。ここでいう「監視対象」は、電圧印加回路2の出力電流及び出力電圧の少なくとも一方からなる。
ここでは、制御回路3は、電圧制御回路31と、電流制御回路32と、を有している。電圧制御回路31は、電圧印加回路2の出力電圧からなる監視対象に基づいて、電圧印加回路2の駆動回路21を制御する。制御回路3は、駆動回路21に対して制御信号Si1を出力しており、制御信号Si1によって駆動回路21を制御する。電流制御回路32は、電圧印加回路2の出力電流からなる監視対象に基づいて、電圧印加回路2の駆動回路21を制御する。すなわち、本実施形態では、制御回路3は、電圧印加回路2の出力電流、及び出力電圧の両方を監視対象として、電圧印加回路2の制御を行う。ただし、電圧印加回路2の出力電圧(二次側電圧)と、電圧印加回路2の一次側電圧との間には相関関係があるので、電圧制御回路31は、電圧印加回路2の一次側電圧から間接的に電圧印加回路2の出力電圧を検出してもよい。同様に、電圧印加回路2の出力電流(二次側電流)と、電圧印加回路2の入力電流(一次側電流)との間には相関関係があるので、電流制御回路32は、電圧印加回路2の入力電流から間接的に電圧印加回路2の出力電流を検出してもよい。
制御回路3は、監視対象の大きさが閾値未満であれば電圧印加回路2を第1モードで動作させ、監視対象の大きさが閾値以上になると電圧印加回路2を第2モードで動作させるように構成されている。すなわち、監視対象の大きさが閾値に達するまでは、電圧印加回路2は第1モードで動作し、印加電圧V1が時間経過に伴って上昇する。このとき、放電電極41においては、コロナ放電から進展して部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成されて放電電流が生じることになる。監視対象の大きさが閾値に達すると、電圧印加回路2は第2モードで動作し、印加電圧V1が低下する。このとき、負荷4が過電流状態となり、制御回路3等により放電電流が遮断されることになる。言い換えれば、制御回路3等が、電圧印加回路2を介して負荷4の過電流状態を検知し、印加電圧を低下させることにより放電電流を消滅(立ち消え)させる。
これにより、駆動期間において、電圧印加回路2は、第1モードと第2モードとを交互に繰り返すように動作し、印加電圧V1の大きさが駆動周波数にて周期的に変動する。その結果、放電電極41においては、コロナ放電から進展して部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成される、という現象が間欠的に繰り返される形態の放電(部分破壊放電)が発生する。つまり、放電装置10においては、部分破壊放電により、放電電極41の周囲に放電経路L1が間欠的に形成され、パルス状の放電電流が繰り返し発生する。
また、本実施形態に係る放電装置10は、放電電極41に液体50(結露水)が供給(保持)されている状態で、電圧印加回路2から負荷4に電圧を印加する。これにより、負荷4においては、放電電極41及び対向電極42間の電位差によって、放電電極41と対向電極42との間に放電(部分破壊放電)が生じる。このとき、放電電極41に保持されている液体50が、放電によって静電霧化される。その結果、放電装置10では、ラジカルを含有するナノメータサイズの帯電微粒子液が生成される。生成された帯電微粒子液は、例えば、対向電極42の開口部421を通して、放電装置10の周囲に放出される。
(2.2)動作
以上説明した構成の放電装置10は、制御回路3が以下のように動作することで、放電電極41と対向電極42との間に部分破壊放電を生じさせる。
すなわち、制御回路3は、放電経路L1が形成されるまでの期間においては、電圧印加回路2の出力電圧を監視対象とし、監視対象(出力電圧)が最大値α以上になると、電圧制御回路31にて、電圧発生回路22に投入されるエネルギーを減少させる。一方、放電経路L1の形成後においては、制御回路3は、電圧印加回路2の出力電流を監視対象とし、監視対象(出力電流)が閾値以上になると、電流制御回路32にて、電圧発生回路22に投入されるエネルギーを減少させる。これにより、負荷4に印加される電圧を低下させ、負荷4を過電流状態として放電電流を遮断する第2モードにて、電圧印加回路2が動作する。つまり、電圧印加回路2の動作モードが、第1モードから第2モードに切り替わることになる。
このとき、電圧印加回路2の出力電圧及び出力電流が共に低下するため、制御回路3は、駆動回路21の動作を再開させる。これにより、負荷4に印加される電圧が時間経過に伴って上昇し、コロナ放電から進展して部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成される。
ここにおいて、電流制御回路32が作動した以降は、電流制御回路32の影響により、電圧印加回路2の出力電圧の上昇率が決定される。要するに、図6の例において、放電周期T1における単位時間当たりの電圧印加回路2の出力電圧の変化量は、電流制御回路32における積分回路の時定数等によって決定される。最大値αは固定値であるので、言い換えれば、放電周期T1は、電流制御回路32の回路定数等によって決定される。
駆動期間においては、制御回路3が上述した動作を繰り返すことにより、電圧印加回路2は、第1モードと、第2モードと、を交互に繰り返すように動作する。これにより、放電電極41に保持されている液体50に作用する電気エネルギーの大きさが駆動周波数にて周期的に変動することになり、液体50は駆動周波数にて機械的に振動する。
要するに、電圧印加回路2から、放電電極41を含む負荷4に電圧が印加されることにより、放電電極41に保持されている液体50には、電界による力が作用して液体50が変形する。このとき、放電電極41に保持されている液体50に作用する力F1は、液体50に含まれる電荷量q1と電界E1との積によって表される(F1=q1×E1)。特に、本実施形態では、放電電極41の先端部411と対向する対向電極42と放電電極41との間に電圧が印加されるので、液体50には、電界によって対向電極42側に引っ張られる向きの力が作用する。その結果、図2Aに示すように、放電電極41の先端部411に保持されている液体50は、電界による力を受けて、放電電極41と対向電極42との対向方向において対向電極42側に伸び、テイラーコーンと呼ばれる円錐状の形状を成す。図2Aに示す状態から、負荷4に印加される電圧が小さくなれば、電界の影響によって液体50に作用する力も小さくなり、液体50が変形する。その結果、図2Bに示すように、放電電極41の先端部411に保持されている液体50は、放電電極41と対向電極42との対向方向において縮むことになる。
そして、負荷4に印加される電圧の大きさが駆動周波数にて周期的に変動することにより、放電電極41に保持されている液体50は、図2Aに示す形状と図2Bに示す形状とに、交互に変形する。テイラーコーンの先端部(頂点部)に電界が集中することで放電が発生するので、図2Aに示すようにテイラーコーンの先端部が尖っている状態で絶縁破壊が生じる。したがって、駆動周波数に合わせて放電(部分破壊放電)が間欠的に発生する。
ところで、駆動周波数が高くなる、つまり放電周期T1が短くなると、部分破壊放電によってラジカルが生成される際に発生するオゾンの発生量が増加する可能性がある。すなわち、駆動周波数が高くなると、放電が生じる時間間隔が短くなり、単位時間(例えば1秒)当たりの、放電の発生回数が増加し、単位時間当たりのラジカル及びオゾンの発生量を増加することがある。駆動周波数が高くなることに伴う単位時間当たりのオゾンの発生量の増加を抑制するための手段としては、以下の2つの手段がある。
1つ目の手段は、印加電圧V1の最大値αを下げることである。すなわち、駆動期間に放電電極41に生じる放電による単位時間当たりのオゾンの発生量が規定値以下となるように、駆動期間における印加電圧の最大値αが規定電圧値以下に調整される。印加電圧V1の最大値αが規定電圧値以下に下げられることにより、部分破壊放電によってラジカルが生成される際に発生するオゾンの発生量は抑制される。これにより、駆動周波数が高くなることに伴うオゾンの発生量の増加を、抑制することが可能である。
2つ目の手段は、放電電極41に保持されている液体50の体積を増やすことである。すなわち、駆動期間に放電電極41に生じる放電による単位時間当たりのオゾンの発生量が規定値以下となるように、駆動期間における液体50の体積が規定体積以上に調整される。放電電極41に保持されている液体50の体積が増えることにより、部分破壊放電によってラジカルが生成される際に発生するオゾンの発生量は抑制される。これにより、駆動周波数が高くなることに伴うオゾンの発生量の増加を、抑制することが可能である。
本実施形態に係る放電装置10では、1つ目の手段、つまり駆動期間における印加電圧の最大値αを下げることによって、単位時間当たりのオゾンの発生量の増加を抑制している。これにより、放電装置10では、例えば、オゾン濃度を0.02ppm程度に抑えることが可能である。ただし、放電装置10は、2つ目の手段を採用してもよいし、また1つ目の手段と2つ目の手段との両方を採用してもよい。
(2.3)電極形状
次に、本実施形態に係る放電装置10で用いている電極(放電電極41及び対向電極42)のより詳細な形状について、図4A〜図4Cを参照して説明する。図4A〜図4Cでは、負荷4を構成する放電電極41及び対向電極42の要部を模式的に示しており、放電電極41及び対向電極42以外の構成については適宜図示を省略する。
すなわち、本実施形態では、上述したように、対向電極42は、支持部422と、支持部422から放電電極41に向けて突出する1以上(ここでは4つ)の突出部423と、を有している。ここで、図4Aに示すように、支持部422からの突出部423の突出量D1は、放電電極41と対向電極42との間の距離D2に比べて小さいことが好ましい。さらには、突出部423の突出量D1は、放電電極41と対向電極42との間の距離D2の2/3以下であることが、より好ましい。つまり、「D1≦D2×2/3」の関係式を満たすことが好ましい。ここでいう「突出量D1」は、突出部423の長手方向における開口部421の内周縁から突出部423の先端までの距離のうち、最長距離を意味する(図4B参照)。また、ここでいう「距離D2」は、放電電極41の先端部411から対向電極42の突出部423までの距離のうち、最短距離(空間距離)を意味する。言い換えれば、「距離D2」は、突出部423の延出部424から放電電極41までの最短距離である。
一例として、放電電極41と対向電極42との間の距離D2が3.0mm以上4.0mm未満である場合、支持部422からの突出部423の突出量D1は2.0mm以下であれば、上記の関係式を満たすことになる。このように、突出部423の突出量D1が、放電電極41と対向電極42との間の距離D2に比べて相対的に小さいことで、突出部423での電界の集中を緩めることができ、部分破壊放電が生じやすくなる。
本実施形態では、突出量D1及び距離D2の各々は、複数(ここでは4つ)の突出部423の全てにおいて、均等である。つまり、複数の突出部423のうちの1つの突出部423は、他の3つのうちのいずれの突出部423とも、突出量D1が同一である。また、複数の突出部423のうちの1つの突出部423は、他の3つのうちのいずれの突出部423とも、放電電極41までの距離D2が同一である。つまり、各突出部423から放電電極41までの距離は、複数の突出部423において均等である。
また、突出部423の先端面は、図4Bに示すように、曲面を含んでいる。本実施形態では、上述したように突出部423が先細り形状の延出部424を有しているので、延出部424の先端面、つまり開口部421の中心側を向いた面が、曲面を含んでいる。ここでは、突出部423の先端面は、平面視において、突出部423の側面から連続的につながる半円弧状に形成されており、角を含まない。つまり、突出部423の先端面は全体が曲面(湾曲面)である。
一方で、放電電極41の先端面もまた、図4Cに示すように、曲面を含んでいる。本実施形態では、上述したように放電電極41は先細り形状の先端部411を有しているので、先端部411の先端面、つまり対向電極42の開口部421側を向いた面が、曲面を含んでいる。ここでは、放電電極41の先端面は、放電電極41の中心軸を含む断面形状が、先端部411の側面から連続的につながる弧状に形成されており、角を含まない。つまり、放電電極41の先端面は全体が曲面(湾曲面)である。
一例として、放電電極41の先端面の曲率半径r2(図4C参照)は、0.2mm以上であることが好ましい。このように、放電電極41の先端部411がアール形状を有することで、放電電極41の先端部411が尖っている場合に比べて、放電電極41の先端部411での電界の集中を緩めることができ、部分破壊放電が生じやすくなる。
ここで、突出部423の先端面の曲率半径r1(図4B参照)は、放電電極41の先端面の曲率半径r2(図4C参照)の1/2以上であることが好ましい。つまり、「r1≧r2×1/2」の関係式を満たすことが好ましい。ここでいう「曲率半径」は、突出部423の先端面及び放電電極41の先端面のいずれについても、最小値、つまり曲率が最大となる部位の曲率半径を意味する。ただし、図4Bと図4Cとでは縮尺が異なっているため、図4B中の「r1」と図4C中の「r2」とが、直ちに「r1」と「r2」との比を表す訳ではない。
一例として、放電電極41の先端面の曲率半径r2が0.6mmである場合、突出部423の先端面の曲率半径r1は0.3mm以上であれば、上記の関係式を満たすことになる。さらに、突出部423の先端面の曲率半径r1は、放電電極41の先端面の曲率半径r2よりも大きいことがより好ましい。このように、突出部423の先端面の曲率半径r1が、放電電極41の先端面の曲率半径r2に比べて相対的に大きいことで、部分破壊放電が生じやすくなる。
(2.4)放電形態
以下、放電電極41及び対向電極42間に印加電圧V1を印加した場合に発生する放電形態の詳細について、図5A〜図5Cを参照して説明する。図5A〜図5Cは、放電形態を説明するための概念図であって、図5A〜図5Cでは、放電電極41及び対向電極42を模式的に表している。また、本実施形態に係る放電装置10では、実際には、放電電極41には液体50が保持されており、この液体50と対向電極42との間で放電が生じるが、図5A〜図5Cでは、液体50の図示を省略する。また、以下では、放電電極41の先端部411に液体50が無い場合を想定して説明するが、液体50が有る場合には、放電の発生箇所等について「放電電極41の先端部411」を「放電電極41に保持された液体50」に読み替えればよい。
ここではまず、本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10で採用されている部分破壊放電について、図5Aを参照して説明する。
すなわち、放電装置10は、まず放電電極41の先端部411で局所的なコロナ放電を生じさせる。本実施形態では、放電電極41は負極(グランド)側であるから、放電電極41の先端部411に生じるコロナ放電は負極性コロナである。放電装置10は、放電電極41の先端部411に生じたコロナ放電を、更に高エネルギーの放電にまで進展させる。この高エネルギーの放電により、放電電極41と対向電極42との間には、部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成される。
また、部分破壊放電は、一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間での部分的な絶縁破壊を伴うものの、絶縁破壊が継続的に生じるのではなく、絶縁破壊が間欠的に発生する放電である。そのため、一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間に生じる放電電流についても、間欠的に発生する。すなわち、放電経路L1を維持するのに必要な電流容量を電源(電圧印加回路2)が有さない場合等においては、コロナ放電から部分破壊放電に進展した途端に一対の電極間に印加される電圧が低下し、放電経路L1が途切れて放電が停止する。ここでいう「電流容量」は、単位時間に放出可能な電流の容量である。このような放電の発生、及び停止が繰り返されることにより、放電電流が間欠的に流れることになる。このように、部分破壊放電は、放電エネルギーの高い状態と放電エネルギーの低い状態とを繰り返す点において、絶縁破壊が継続的に発生する(つまり放電電流が継続的に発生する)グロー放電及びアーク放電とは相違する。
より詳細には、電圧印加装置1は、互いに隙間を介して対向するように配置される放電電極41及び対向電極42間に印加電圧V1を印加することにより、放電電極41と対向電極42との間に放電を生じさせる。そして、放電の発生時には、放電電極41と対向電極42との間には、部分的に絶縁破壊された放電経路L1が形成される。このとき形成される放電経路L1には、図5Aに示すように、放電電極41の周囲に生成される第1絶縁破壊領域R1と、対向電極42の周囲に生成される第2絶縁破壊領域R2と、が含まれている。
すなわち、放電電極41と対向電極42との間には、全体的にではなく部分的(局所的)に、絶縁破壊された放電経路L1が形成される。このように、部分破壊放電においては、放電電極41と対向電極42との間に形成される放電経路L1は、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された経路である。
「(2.3)電極形状」の欄でも説明したように、放電電極41の先端部411の形状(アール形状)、及び突出部423の突出量D1について、電界の集中を適度に緩めるように適切に設定されることで、部分破壊放電を実現しやすくなる。つまり、先端部411の形状及び突出量D1が、放電電極41の長さ及び印加電圧V1等の他の因子と共に、電界の集中を緩めるように適切に設定されることで、電界の集中を適度に緩めることができる。その結果、放電電極41及び対向電極42間に電圧が印加されたときに、全路破壊放電のような全路破壊には至らず、部分的な絶縁破壊が生じるまでにとどめることができる。その結果、部分破壊放電を実現することができる。
ここで、放電経路L1は、放電電極41の周囲に生成される第1絶縁破壊領域R1と、対向電極42の周囲に生成される第2絶縁破壊領域R2と、を含んでいる。つまり、第1絶縁破壊領域R1は、放電電極41の周囲の絶縁破壊された領域であって、第2絶縁破壊領域R2は、対向電極42の周囲の絶縁破壊された領域である。ここで、放電電極41に液体50が保持されており、液体50と対向電極42との間に印加電圧V1が印加されている場合には、第1絶縁破壊領域R1は、放電電極41の周囲のうち特に液体50の周囲に生成される。
これら第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2は、互いに接触しないように離れて存在している。言い換えれば、放電経路L1は、少なくとも第1絶縁破壊領域R1と第2絶縁破壊領域R2との間において、絶縁破壊されていない領域(絶縁領域)を含んでいる。そのため、部分破壊放電においては、放電電極41と対向電極42との間の空間について、全路破壊には至らず、部分的に絶縁破壊された状態で、放電経路L1を通して放電電流が流れることになる。要するに、部分的な絶縁破壊が生じた放電経路L1、言い換えれば、一部は絶縁破壊されていない放電経路L1であっても、放電電極41と対向電極42との間には、放電経路L1を通して放電電流が流れ、放電が生じる。
ここにおいて、第2絶縁破壊領域R2は、基本的には、対向電極42のうち、放電電極41までの距離(空間距離)が最短となる部位の周囲に生じる。本実施形態では、対向電極42は、突出部423の先端部に形成された先細り形状の延出部424において、放電電極41までの距離D2(図4A参照)が最短となるので、第2絶縁破壊領域R2は延出部424の周囲に生成される。つまり、図5Aに示す対向電極42は、実際には突出部423の延出部424に相当する。
また、本実施形態では、上述したように、対向電極42は、複数(ここでは4つ)の突出部423を有しており、各突出部423から放電電極41までの距離D2(図4A参照)は、複数の突出部423において均等である。そのため、第2絶縁破壊領域R2は、複数の突出部423のうち、いずれか1つの突出部423の延出部424の周囲に生成されることになる。ここで、第2絶縁破壊領域R2が生成される突出部423は、特定の突出部423には限定されず、複数の突出部423の中でランダムに決まることになる。
ところで、部分破壊放電においては、図5Aに示すように、放電電極41の周囲の第1絶縁破壊領域R1は、放電電極41から相手方となる対向電極42に向けて延びている。対向電極42の周囲の第2絶縁破壊領域R2は、対向電極42から相手方となる放電電極41に向けて延びている。言い換えれば、第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2は、それぞれ放電電極41及び対向電極42から、互いに引き合う向きに延びている。そのため、第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2の各々は、放電経路L1に沿った長さを有することになる。このように、部分破壊放電においては、部分的に絶縁破壊された領域(第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2の各々)は、特定の方向に長く延びた形状を有する。
次に、コロナ放電について、図5Bを参照して説明する。
一般的には、一対の電極間にエネルギーを投入して放電を生じさせると、投入したエネルギーの量に応じて、放電形態がコロナ放電から、グロー放電、又はアーク放電へと進展する。
グロー放電及びアーク放電は、一対の電極間での絶縁破壊を伴う放電である。グロー放電及びアーク放電においては、一対の電極間にエネルギーが投入されている間は、絶縁破壊によって形成される放電経路が維持され、一対の電極間に放電電流が継続的に発生する。これに対して、コロナ放電は、図5Bに示すように、一方の電極(放電電極41)で局所的に発生する放電であり、一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間の絶縁破壊を伴わない放電である。要するに、放電電極41及び対向電極42間に印加電圧V1が印加されることで、放電電極41の先端部411で局所的なコロナ放電が発生する。ここで、放電電極41は負極(グランド)側であるから、放電電極41の先端部411に生じるコロナ放電は負極性コロナである。このとき、放電電極41の先端部411の周囲には、局所的に絶縁破壊された領域R3が生じ得る。この領域R3は、部分破壊放電における第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2の各々のように、特定の方向に長く延びた形状ではなく、点状(又は球状)となる。
ここで、電源(電圧印加回路2)から一対の電極間に対して単位時間当たりに放出可能な電流容量が十分に大きければ、一度形成された放電経路は途切れることなく維持され、上述のようにコロナ放電から、グロー放電又はアーク放電へと進展する。
次に、全路破壊放電について、図5Cを参照して説明する。
全路破壊放電は、図5Cに示すように、コロナ放電から進展して一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間の全路破壊に至る、という現象が間欠的に繰り返される放電形態である。つまり、全路破壊放電においては、放電電極41と対向電極42との間には、放電電極41と対向電極42との間において、全体的に絶縁破壊された放電経路が生じる。このとき、放電電極41の先端部411と、対向電極42(いずれかの突出部423の延出部424)との間には、全体的に絶縁破壊された領域R4が生じ得る。この領域R4は、部分破壊放電における第1絶縁破壊領域R1及び第2絶縁破壊領域R2の各々のように、部分的に生じるのではなく、放電電極41の先端部411と対向電極42との間をつなぐように生じる。
また、全路破壊放電は、一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間での絶縁破壊(全路破壊)を伴うものの、絶縁破壊が継続的に生じるのではなく、絶縁破壊が間欠的に発生する放電である。そのため、一対の電極(放電電極41及び対向電極42)間に生じる放電電流についても、間欠的に発生する。すなわち、上述したように放電経路を維持するのに必要な電流容量を電源(電圧印加回路2)が有さない場合等においては、コロナ放電から全路破壊に進展した途端に一対の電極間に印加される電圧が低下し、放電経路が途切れて放電が停止する。このような放電の発生、及び停止が繰り返されることにより、放電電流が間欠的に流れることになる。このように、全路破壊放電は、放電エネルギーの高い状態と放電エネルギーの低い状態とを繰り返す点において、絶縁破壊が継続的に発生する(つまり放電電流が継続的に発生する)グロー放電及びアーク放電とは相違する。
そして、部分破壊放電(図5A参照)においては、コロナ放電(図5B参照)と比較して大きなエネルギーでラジカルが生成され、コロナ放電と比較して2〜10倍程度の大量のラジカルが生成される。このようにして生成されるラジカルは、除菌、脱臭、保湿、保鮮、ウイルスの不活化にとどまらず、様々な場面で有用な効果を奏する基となる。ここで、部分破壊放電によってラジカルが生成される際には、オゾンも発生する。ただし、部分破壊放電では、コロナ放電と比較して2〜10倍程度のラジカルが生成されるのに対して、オゾンの発生量はコロナ放電の場合と同程度に抑えられる。
また、部分破壊放電(図5A参照)においては、全路破壊放電(図5C参照)と比較しても、過大なエネルギーによるラジカルの消失を抑制でき、全路破壊放電と比較してもラジカルの生成効率の向上を図ることができる。すなわち、全路破壊放電では、その放電に係るエネルギーが高すぎるが故に、生成されたラジカルの一部が消失して、有効成分の生成効率の低下につながる可能性がある。これに対して、部分破壊放電では、全路破壊放電と比較して放電に係るエネルギーが小さく抑えられるため、過大なエネルギーに晒されることによるラジカルの消失量を低減し、ラジカルの生成効率の向上を図ることができる。
結果的に、部分破壊放電を採用した本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10によれば、コロナ放電及び全路破壊放電と比較して、有効成分(空気イオン、ラジカル及びこれを含む帯電微粒子液等)の生成効率の向上を図ることができる、という利点がある。
さらに、部分破壊放電では、全路破壊放電に比較して電界の集中が緩められる。そのため、全路破壊放電では、全路破壊された放電経路を通じて放電電極41及び対向電極42間には、瞬間的に大きな放電電流が流れ、その際の電気抵抗は非常に小さくなっている。これに対して、部分破壊放電では、電界の集中が緩められることで、部分的に絶縁破壊された放電経路L1の形成時に、放電電極41及び対向電極42間に瞬間的に流れる電流の最大値が、全路破壊放電に比べて小さく抑えられる。これにより、部分破壊放電では、全路破壊放電に比較して、窒化酸化物(NOx)の発生が抑制され、さらに電気ノイズが小さく抑えられる。
(2.5)音対策
次に、持続電圧V2を用いた音対策について詳しくは、図6及び図7を参照して説明する。図6は、横軸を時間軸として、縦軸に電圧印加回路2の出力電圧(負荷4に印加される電圧)を示すグラフである。図7は、横軸を周波数軸として、縦軸に放電装置10から発する音の大きさ(音圧)を示すグラフである。
上述した通り、本実施形態では、図6に示すように、電圧印加回路2は、印加電圧V1の大きさを周期的に変動させて放電を間欠的に生じさせている。つまり、印加電圧V1の変動の周期を放電周期T1とした場合に、放電周期T1で放電(部分破壊放電)が発生することになる。ここでは、放電が発生する時点を第1時点t1と定義する。
そして、図6に示すように、電圧印加回路2は、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間T2において、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2を負荷4に印加する。本実施形態では一例として、放電周期T1のうち、電圧印加回路2が第2モードで動作する期間を、間欠期間T2としている。
すなわち、間欠期間T2においては、放電を生じさせるために電圧印加回路2が負荷4に印加する印加電圧V1に加えて、持続電圧V2が負荷4に印加されることで、持続電圧V2の分だけ、負荷4に印加される電圧が底上げされる。言い換えれば、負荷4には、印加電圧V1と持続電圧V2との合計電圧(V1+V2)が印加されることになる。そのため、図6に破線で示すように、持続電圧V2が印加されない場合(つまり印加電圧V1のみが印加される場合)に比べると、放電の発生する第1時点t1後において、負荷4に印加される電圧の落ち込み具合が低減される。これにより、間欠期間T2においては、時間経過に伴って負荷4に印加される電圧は徐々に低下するものの、持続電圧V2の分だけ下げ幅が縮小されることになる。
ここにおいて、上述したように、放電電極41と対向電極42との間に電圧が印加されるので、放電電極41に保持されている液体50には、電界によって対向電極42側に引っ張られる向きの力が作用する。このとき、放電電極41に保持されている液体50は、電界による力を受けて、放電電極41と対向電極42との対向方向において対向電極42側に引き伸ばされ、テイラーコーンと呼ばれる円錐状の形状を成す。そして、液体50が伸びてテイラーコーンの先端部が尖っている状態で、テイラーコーンの先端部(頂点部)に電界が集中することで放電が発生する。第1時点t1にて放電が開始すると、電界の影響が小さくなるので、テイラーコーン(液体50)を引き伸ばす向きの力が減少し、テイラーコーン(液体50)は収縮する。第1時点t1からある時間が経過した後に電界が強まると、再度、テイラーコーン(液体50)が引き伸ばされる。このように、負荷4に印加される電圧の大きさが駆動周波数にて周期的に変動することにより、放電電極41に保持されている液体50は周期的に伸縮し(図2A及び図2B参照)、液体50には機械的な振動が生じる。
ところで、このような液体50の機械的な振動に際して、放電発生後の液体50の収縮が過度になると、液体50の機械的な振動の振幅が大きくなり過ぎて、液体50の振動に起因する音が大きくなる可能性がある。例えば、図6に破線で示すように、持続電圧V2が印加されない場合、放電の発生する第1時点t1後において、電界の影響が小さくなり過ぎて、テイラーコーン(液体50)は液体50の表面張力等により急速に収縮する可能性がある。このような場合に、液体50の機械的な振動の振幅が大きくなり過ぎて、液体50の振動に起因する音が大きくなる可能性がある。
本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10では、持続電圧V2を用いて、このような放電発生後の液体50の過度の収縮の発生を抑制し、結果的に、液体50の振動に起因する音を生じにくくする。すなわち、電圧印加装置1及び放電装置10では、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間T2において、負荷4には印加電圧V1に加えて持続電圧V2が印加される。持続電圧V2が加算されたことにより、電圧印加装置1及び放電装置10では、液体50の表面張力等によるテイラーコーン(液体50)の収縮を遅延させる程度の電界が、放電の発生時点(第1時点t1)後も維持される。その結果、液体50の機械的な振動の振幅が大きくなり過ぎることを抑制でき、結果的に、液体50の振動に起因する音を低減することが可能である。
より詳細には、液体50は放電の周期(放電周期T1)に応じて機械的に振動、つまり伸縮を繰り返している。ここで、液体50が伸びきった直後の第2時点t2(図6参照)において負荷4に印加される電圧の大きさβが、放電が発生する第1時点t1に負荷4に印加される電圧の大きさ(最大値α)の2/3以上であることが好ましい。さらに、第2時点t2において負荷4に印加される電圧の大きさβは、第1時点t1に負荷4に印加される電圧の大きさα以下である。つまり、「α≧β≧α×2/3」の関係式を満たすことが好ましい。ここでいう「直後」は、液体50が伸びきった時点以降で、伸びきった液体50が収縮を開始してしばらくの期間を含む。ただし、「直後」は、液体50が伸びきった時点以降で、伸びきった液体50が収縮する向きに加速している期間であることがより好ましい。また、「直後」は、液体50が伸びきった時点以降で、伸びきった液体50が収縮を開始するまでの期間であることがより好ましい。
すなわち、液体50が機械的な振動をしている間は液体50には慣性力も作用しているので、放電が発生する第1時点t1において液体50に対する電界の影響が小さくなっても、第1時点t1後もしばらくは、液体50は引き伸ばされる向きの変形を続ける。そして、液体50を引き伸ばす向きの慣性力と、液体50を収縮させる向きの表面張力等とが釣り合った時点で、液体50は伸びきることになり、以降は、液体50は表面張力等により収縮する。このような液体50が伸びきった直後の第2時点t2における電圧の大きさβが、第1時点t1における電圧の大きさαに対して相対的に、ある程度の大きさを持つことで、表面張力等によるテイラーコーン(液体50)の収縮を遅延させることができる。
一例として、第1時点t1に負荷4に印加される電圧の大きさαが6.0kVである場合、第2時点t2に負荷4に印加される電圧の大きさβは4.0kV以上であれば、上記の関係式を満たすことになる。図6の例において、持続電圧V2が印加されない場合(つまり印加電圧V1のみが印加される場合)には、第2時点t2に負荷4に印加される電圧の大きさγは、第1時点t1に負荷4に印加される電圧の大きさαの2/3未満である。つまり、持続電圧V2が印加されることにより、少なくとも第2時点t2に負荷4に印加される電圧の大きさは「β−γ」の分だけ底上げされることになり、表面張力等によるテイラーコーン(液体50)の収縮を遅延させることができる。
また、放電電極41の放電の周波数は600Hz以上5000Hz以下であることが好ましい。この場合、印加電圧V1の変動の周波数(駆動周波数)も600Hz以上5000Hz以下となる。放電の周波数が500Hzであれば放電周期T1は0.002秒となり、放電の周波数が5000Hzであれば放電周期T1は0.0002秒となる。
また、第2時点t2は、第1時点t1から、放電の周期の1/10の時間が経過した時点であることが好ましい。つまり、第1時点t1から第2時点t2までの時間は放電周期T1の1/10の時間に設定されていることが好ましい。特に、上述したように600Hz以上5000Hz以下の範囲に放電の周波数(駆動周波数)がある場合においては、第1時点t1から放電周期T1の1/10程度の時間が経過することをもって液体50が伸びきることが多い。そのため、第2時点t2は、第1時点t1から、放電の周期の1/10の時間が経過した時点であることがより好ましい。
以上説明したように、本実施形態に係る電圧印加装置1及び放電装置10は、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2を負荷4に印加することで、図7に示すように、放電装置10から発する音の大きさ(音圧)を低減できる。図7において、曲線W1は、印加電圧V1に加えて持続電圧V2を負荷4に印加した場合のグラフ、曲線W2は、持続電圧V2が印加されない場合(つまり印加電圧V1のみが印加される場合)のグラフである。
図7から明らかなように、電圧印加装置1及び放電装置10によれば、印加電圧V1に加えて持続電圧V2を負荷4に印加することで、可聴域(20Hz〜20000Hz)の略全域において、放電装置10から発する音の大きさ(音圧)を低減することができる。図7の例では、比較的、耳につきやすい1000Hz〜2000Hzの周波数帯についても、音圧は低減されている。ここで、電圧印加装置1は、持続電圧V2を負荷4に印加することにより、液体50の機械的な振動に伴う音圧を1dB以上低下させることが好ましい。つまり、印加電圧V1に加えて持続電圧V2を負荷4に印加した場合に、持続電圧V2が印加されない場合(つまり印加電圧V1のみが印加される場合)に比べて、放電装置10から発する音が1dB以上は低下することが好ましい。1dB以上の音圧の低下は、可聴域(20Hz〜20000Hz)の少なくとも一部の周波数帯で実現されればよい。
また、印加電圧V1に加えて、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2を負荷4に印加することにより期待される効果として、音の低減以外に、例えば、エネルギー利用効率の向上がある。すなわち、持続電圧V2が印加されると、持続電圧V2が印加されない場合(つまり印加電圧V1のみが印加される場合)に比べると、放電の発生する第1時点t1後において、負荷4に印加される電圧の落ち込み具合が低減される。これにより、引き伸ばされたテイラーコーン(液体50)に蓄積された電荷の消失が抑制され、この電荷を、次の放電に有効に利用することで、負荷4に与えたエネルギーを放電に有効に利用できることになる。
(3)変形例
実施形態1は、本開示の様々な実施形態の一つに過ぎない。実施形態1は、本開示の目的を達成できれば、設計等に応じて種々の変更が可能である。また、本開示で参照する図面は、いずれも模式的な図であり、図中の各構成要素の大きさ及び厚さそれぞれの比が、必ずしも実際の寸法比を反映しているとは限らない。以下、実施形態1の変形例を列挙する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
(3.1)第1変形例
第1変形例では、図8A〜図8Dに示すように、対向電極42の形状が実施形態1とは相違する。図8A〜図8Dは、放電装置10の対向電極を含む要部の平面図である。
図8Aの例では、対向電極42Aは、各突出部423Aの形状が略三角形状である。この突出部423Aにおいては、三角形の頂点が開口部421の中心に向けられている。これにより、突出部423Aの先端部は尖った(鋭角な)形状となる。図8Bの例では、対向電極42Bは、支持部422から突出する2つの突出部423Bを有している。2つの突出部423Bは、それぞれ開口部421の中心に向けて突出しており、かつ等間隔で配置されている。
図8Cの例では、対向電極42Cは、支持部422から突出する3つの突出部423Cを有している。3つの突出部423Cは、それぞれ開口部421の中心に向けて突出しており、かつ等間隔で配置されている。このように、突出部423Cは、奇数個設けられていてもよい。図8Dの例では、対向電極42Dは、支持部422から突出する8つの突出部423Dを有している。8つの突出部423Dは、それぞれ開口部421の中心側に向けて突出しており、かつ等間隔で配置されている。
さらに、図8A〜図8Dの例に限らず、対向電極42及び放電電極41の各々の形状は適宜変更可能である。例えば、対向電極42が有する突出部423の個数は2〜4つ、8つに限らず、例えば、1つ、又は5つ以上であってもよい。さらに、複数の突出部423が開口部421の周方向において等間隔で配置されることは必須の構成ではなく、複数の突出部423は開口部421の周方向において適宜の間隔で配置されてもよい。
また、対向電極42の支持部422の形状についても、平板状に限らず、例えば、放電電極41との対向面の少なくとも一部に、凹曲面又は凸曲面を含んでいてもよい。対向電極42における放電電極41との対向面の形状によれば、放電電極41の先端部411での電界を均一に高めることができる。さらに、支持部422は、放電電極41を覆うようなドーム状に形成されていてもよい。
(3.2)その他の変形例
放電装置10は、帯電微粒子液を生成するための液体供給部5が省略されていてもよい。この場合、放電装置10は、放電電極41、及び対向電極42間に生じる部分破壊放電によって、空気イオンを生成する。
また、液体供給部5は、実施形態1のように放電電極41を冷却して放電電極41に結露水を発生させる構成に限らない。液体供給部5は、例えば、毛細管現象、又はポンプ等の供給機構を用いて、タンクから放電電極41に液体50を供給する構成であってもよい。さらに、液体50は、水(結露水を含む)に限らず、水以外の液体であってもよい。
また、電圧印加回路2は、放電電極41を正極(プラス)、対向電極42を負極(グランド)として、放電電極41と対向電極42との間に高電圧を印加するように構成されていてもよい。さらに、放電電極41と対向電極42との間に電位差(電圧)が生じればよいので、電圧印加回路2は、高電位側の電極(正極)をグランドとし、低電位側の電極(負極)をマイナス電位とすることで、負荷4にマイナスの電圧を印加してもよい。すなわち、電圧印加回路2は、放電電極41をグランドとし、対向電極42をマイナス電位としてもよいし、又は放電電極41をマイナス電位とし、対向電極42をグランドとしてもよい。
また、電圧印加装置1は、電圧印加回路2と、負荷4における放電電極41又は対向電極42との間に、制限抵抗を備えていてもよい。制限抵抗は、部分破壊放電において、絶縁破壊後に流れる放電電流のピーク値を制限するための抵抗器である。制限抵抗は、例えば、電圧印加回路2と放電電極41との間、又は電圧印加回路2と対向電極42との間に電気的に接続される。
また、電圧印加装置1の具体的な回路構成は適宜変更可能である。例えば、電圧印加回路2は、自励式のコンバータに限らず、他励式のコンバータであってもよい。また、電圧発生回路22は、圧電素子を有する変圧器(圧電トランス)にて実現されてもよい。
また、電圧印加装置1及び放電装置10が採用する放電形態は、実施形態1で説明した形態に限らない。例えば、電圧印加装置1及び放電装置10は、コロナ放電から進展して絶縁破壊に至る、という現象が間欠的に繰り返される形態の放電、つまり「全路破壊放電」を採用してもよい。この場合、放電装置10においては、コロナ放電から進展して絶縁破壊に至ると比較的大きな放電電流が瞬間的に流れ、その直後に印加電圧が低下して放電電流が遮断され、また印加電圧が上昇して絶縁破壊に至る、という現象が繰り返されることになる。
また、対向電極42における支持部422及び複数の突出部423が全体として平板状に形成されていることは必須の構成ではなく、例えば、支持部422が支持部422の厚み方向に突出する凸部を有する等、支持部422が立体的に形成されていてもよい。また、各突出部423は、例えば、先端部(延出部424)側程、放電電極41の長手方向における放電電極41までの距離が小さくなるように、開口部421の内周縁から斜めに突出していてもよい。
また、電圧印加回路2は、放電が生じて次に放電が生じるまでの期間に、液体50の収縮を抑えるための持続電圧V2を、印加電圧V1に加えて負荷4に印加すればよく、負荷4に印加される電圧波形は図6の例に限らない。例えば、図9Aに示すように、負荷4に印加される電圧は、時間経過に伴って段階的に低下するように、持続電圧V2にて底上げされてもよい。この場合、負荷4に印加される電圧波形は、図9Aに示すような、階段状の波形となる。また、他の例として、図9Bに示すように、負荷4に印加される電圧は、時間経過に伴って直線的に低下する、つまり略線形に変化するように、持続電圧V2にて底上げされてもよい。この場合、負荷4に印加される電圧波形は、図9Bに示すような、三角波状の波形となる。
また、放電装置10は、対向電極42が省略されていてもよい。この場合、全路破壊放電は、放電電極41と、放電電極41の周囲に存在する、例えば筐体等の部材と、の間で生じることになる。さらに、放電装置10は、液体供給部5と対向電極42との両方が省略されていてもよい。
また、実施形態1に係る電圧印加装置1と同様の機能は、電圧印加回路2の制御方法、コンピュータプログラム、又はコンピュータプログラムを記録した記録媒体等で具現化されてもよい。すなわち、制御回路3に対応する機能を、電圧印加回路2の制御方法、コンピュータプログラム、又はコンピュータプログラムを記録した記録媒体等で具現化してもよい。
また、二値間の比較において、「以上」としているところは、二値が等しい場合、及び二値の一方が他方を超えている場合との両方を含む。ただし、これに限らず、ここでいう「以上」は、二値の一方が他方を超えている場合のみを含む「より大きい」と同義であってもよい。つまり、二値が等しい場合を含むか否かは、閾値等の設定次第で任意に変更できるので、「以上」か「より大きい」かに技術上の差異はない。同様に、「未満」においても「以下」と同義であってもよい。
(実施形態2)
本実施形態に係る放電装置10Aは、図10に示すように、温度及び湿度の少なくとも一方を計測するセンサ7を更に備える点で、実施形態1に係る放電装置10と相違する。以下、実施形態1と同様の構成については、共通の符号を付して適宜説明を省略する。
センサ7は、放電電極41の周囲の状態を検出するセンサである。センサ7は、少なくとも温度及び湿度(相対湿度)の少なくとも一方を含む、放電電極41の周囲の環境(状態)に関連する情報を検出する。センサ7の検出対象となる放電電極41の周囲の環境(状態)には、温度及び湿度の他、例えば、臭気指数、照度、及び人の在/不在等が含まれる。本実施形態では、電圧印加装置1Aはセンサ7を構成要素に含むこととして説明するが、センサ7は電圧印加装置1Aの構成要素に含まれていなくてもよい。
本実施形態に係る放電装置10Aは、供給量調節部8を更に備えている。供給量調節部8は、センサ7の出力に基づいて、液体供給部5での液体50(結露水)の供給量を調節する。本実施形態では、電圧印加装置1Aは供給量調節部8を構成要素に含むこととして説明するが、供給量調節部8は電圧印加装置1Aの構成要素に含まれていなくてもよい。
実施形態1で説明したように、液体供給部5は、冷却装置51(図3B参照)にて放電電極41を冷却して、放電電極41に液体50(結露水)を発生させるので、放電電極41の周囲の温度又は湿度が変化すれば、液体50の生成量が変化する。したがって、温度及び湿度の少なくとも一方に基づいて、液体供給部5での液体50の生成量の少なくとも一方を調整することにより、温度及び湿度にかかわらず、液体50の生成量を一定に維持しやすくなる。
具体的には、電圧印加装置1Aは、マイクロコンピュータを備えており、供給量調節部8は、このマイクロコンピュータにて実現される。すなわち、供給量調節部8としてのマイクロコンピュータは、センサ7の出力(以下、「センサ出力」ともいう)を取得し、センサ出力に応じて、液体供給部5での液体50の生成量を調整する。
この供給量調節部8は、センサ7の出力に基づいて液体供給部5での液体50(結露水)の生成量を調整する。供給量調節部8は、例えば、放電電極41の周囲の温度が高くなるか、又は湿度が高くなる程に、液体供給部5での液体50(結露水)の生成量を少なくする。これにより、例えば、湿度が高く液体50(結露水)の生成量が増えるような状況では、液体供給部5での液体50(結露水)の生成量を抑えることにより、液体50の生成量を一定に維持しやすくなる。液体供給部5での液体50(結露水)の生成量の調整は、例えば、一対のペルチェ素子511への通電量(電流値)にて冷却装置51の設定温度を変化させることで実現される。
また、実施形態2のように、供給量調節部8がセンサ7の出力に基づいて、液体供給部5での液体50の供給量を調節することは、放電装置10Aに必須の構成ではない。つまり、供給量調節部8は、液体供給部5での液体50の供給量を調節する機能を有していればよい。
実施形態2で説明した構成(変形例を含む)は、実施形態1で説明した構成(変形例を含む)と適宜組み合わせて適用可能である。
(まとめ)
以上説明したように、第1の態様に係る電圧印加装置(1,1A)は、電圧印加回路(2)を備える。電圧印加回路(2)は、液体(50)を保持する放電電極(41)を含む負荷(4)に印加電圧(V1)を印加することにより、放電電極(41)に放電を生じさせる。電圧印加回路(2)は、印加電圧(V1)の大きさを周期的に変動させて放電を間欠的に生じさせる。電圧印加回路(2)は、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間(T2)において、印加電圧(V1)に加えて、液体(50)の収縮を抑えるための持続電圧(V2)を負荷(4)に印加する。
この態様によれば、間欠期間(T2)においては、印加電圧(V1)に加えて、持続電圧(V2)が負荷(4)に印加されることで、持続電圧(V2)の分だけ、負荷(4)に印加される電圧が底上げされる。その結果、持続電圧(V2)を用いて、放電発生後の液体(50)の過度の収縮の発生を抑制し、結果的に、液体(50)の振動に起因する音を生じにくくする。したがって、電圧印加装置(1,1A)によれば、液体(50)の振動に起因する音を低減することができる、という利点がある。
第2の態様に係る電圧印加装置(1,1A)では、第1の態様において、液体(50)は放電の周期に応じて機械的に振動している。液体(50)が伸びきった直後の第2時点(t2)において負荷(4)に印加される電圧の大きさ(β)が、放電が発生する第1時点(t1)に負荷(4)に印加される電圧の大きさ(α)の2/3以上である。
この態様によれば、第2時点(t2)における電圧の大きさ(β)が、第1時点(t1)における電圧の大きさ(α)に対して相対的に、ある程度の大きさを持つことで、表面張力等による液体(50)の収縮を遅延させることができる。
第3の態様に係る電圧印加装置(1,1A)では、第2の態様において、放電電極(41)の放電の周波数は600Hz以上5000Hz以下である。
この態様によれば、液体(50)の振動に起因する音のうち、特に可聴域の音の低減を図ることができる。
第4の態様に係る電圧印加装置(1,1A)では、第2又は3の態様において、第2時点(t2)は、第1時点(t1)から、放電の周期(T1)の1/10の時間が経過した時点である。
この態様によれば、液体(50)の伸縮を監視せずとも、液体(50)が伸びきった直後に第2時点(t2)を設定できる。
第5の態様に係る電圧印加装置(1,1A)は、第1〜4のいずれかの態様において、持続電圧(V2)を負荷(4)に印加することにより、液体(50)の機械的な振動に伴う音圧を1dB以上低下させる。
この態様によれば、液体(50)の機械的な振動に伴う音圧を十分に低下させることができる。
第6の態様に係る電圧印加装置(1,1A)は、第1〜5のいずれかの態様において、放電によって液体(50)が静電霧化される。
この態様によれば、ラジカルを含有する帯電微粒子液が生成される。したがって、ラジカルが単体で空気中に放出される場合に比べて、ラジカルの長寿命化を図ることができる。さらに、帯電微粒子液が例えばナノメータサイズであることで、比較的広範囲に帯電微粒子液を浮遊させることができる。
第7の態様に係る放電装置(10,10A)は、放電電極(41)と、電圧印加回路(2)と、を備える。放電電極(41)は、液体(50)を保持する。電圧印加回路(2)は、放電電極(41)を含む負荷(4)に印加電圧(V1)を印加することにより、放電電極(41)に放電を生じさせる。電圧印加回路(2)は、印加電圧(V1)の大きさを周期的に変動させて放電を間欠的に生じさせる。電圧印加回路(2)は、放電が生じて次に放電が生じるまでの間欠期間(T2)において、印加電圧(V1)に加えて、液体(50)の収縮を抑えるための持続電圧(V2)を負荷(4)に印加する。
この態様によれば、間欠期間(T2)においては、印加電圧(V1)に加えて、持続電圧(V2)が負荷(4)に印加されることで、持続電圧(V2)の分だけ、負荷(4)に印加される電圧が底上げされる。その結果、持続電圧(V2)を用いて、放電発生後の液体(50)の過度の収縮の発生を抑制し、結果的に、液体(50)の振動に起因する音を生じにくくする。したがって、放電装置(10,10A)によれば、液体(50)の振動に起因する音を低減することができる、という利点がある。
この態様によれば、第8の態様に係る放電装置(10,10A)は、第7の態様において、放電電極(41)に液体(50)を供給する液体供給部(5)を更に備える。
この態様によれば、放電電極(41)に対して液体供給部(5)により液体(50)が自動的に供給されるので、放電電極(41)に液体(50)を供給する作業が不要である。
第9の態様に係る放電装置(10,10A)は、第8の態様において、液体供給部(5)での液体(50)の供給量を調節する供給量調節部(8)を更に備える。
この態様によれば、放電電極(41)に供給される液体(50)の量を適切に調節できるので、放電電極(41)に保持されている液体(50)の量が不適当になることによる音圧の増大を抑制できる。
第10の態様に係る放電装置(10,10A)は、第7〜9のいずれかの態様において、放電電極(41)と隙間を介して対向するように配置される対向電極(42,42A,42B,42C,42D)を更に備える。放電電極(41)と対向電極(42,42A,42B,42C,42D)との間に電圧が印加されることにより、放電電極(41)と対向電極(42,42A,42B,42C,42D)との間で放電を生じさせる。
この態様によれば、放電電流が流れる放電経路を、放電電極(41)と対向電極(42,42A,42B,42C,42D)との間で安定的に生じさせることができる。
第2〜6の態様に係る構成については、電圧印加装置(1,1A)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。第8〜10の態様に係る構成については、放電装置(10,10A)に必須の構成ではなく、適宜省略可能である。