以下、図面を参照して本発明の各実施形態や各変形例について説明する。尚、インク等の液体を吐出する本発明の液体吐出ヘッドおよび液体吐出ヘッドを搭載した液体吐出装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置に適用可能である。さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や電子回路印刷や半導体基板作製などの用途としても用いることができる。
また、以下に述べる各実施形態や各変形例は、本発明の適切な具体例であるから、技術的に好ましい様々の限定が付けられている。しかし、本発明の思想に沿うものであれば、本適用例および実施形態は、本明細書の適用例、実施形態、その他の具体的方法に限定されるものではない。
(実施形態1)
(液体吐出装置の説明)
図1は、本発明の記録液体(以下「液体」とも記す)を吐出する液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置に代表される液体吐出装置(以下、記録装置とも称す)1000の概略構成を示した図である。液体吐出装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッド3とを備え、複数の記録媒体2を連続もしくは間欠に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。液体吐出ヘッド3は、循環経路内の圧力(負圧および正圧)を制御する圧力制御ユニット230と、液体供給ユニット220と、液体供給ユニット220へのインクの供給および排出口となる液体接続部111と、筺体80とを備えている。記録媒体2は、カット紙に限らず、連続したロール媒体であってもよい。液体吐出ヘッド3は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクによるフルカラー記録が可能であり、液体を液体吐出ヘッド3へ供給する供給路である液体供給手段、メインタンクおよびバッファタンク(後述する図2参照)が流体的に接続される。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。液体吐出ヘッド3内における液体経路および電気信号経路については後述する。
液体吐出装置1000は、インク等の液体を後述するタンクと液体吐出ヘッド3との間で循環させる形態の液体吐出装置である。その循環の形態は、液体吐出ヘッド3の下流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を可動することで循環させる第1循環形態と、液体吐出ヘッド3の上流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を可動することで循環させる第2循環形態とがある。以下、この循環の第1循環形態と第2循環形態とについて説明する。
(第1循環形態の説明)
図2は、本実施形態の液体吐出装置1000に適用される循環経路の第1循環形態を示す模式図である。液体吐出ヘッド3は、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002およびバッファタンク1003等に流体接続されている。なお図2では、説明を簡略化するため、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクの内の1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が、液体吐出ヘッド3および記録装置本体に設けられる。
第1循環形態では、メインタンク1006に収容されるインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給され、その後、第2循環ポンプ1004によって液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3の液体供給ユニット220に供給される。なお、本実施形態において、メインタンク1006およびバッファタンク1003は、記録液体を収容する液体収容容器に相当する。その後、液体供給ユニット220に接続された圧力制御ユニット230で異なる2つの圧力(高圧、低圧)に調整されたインクは、高圧側と低圧側の2つの流路に分かれて循環する。なお、本実施形態において、圧力制御ユニット230は、異なる2つの負圧を制御する態様について説明するが、後述の変形例においては、圧力制御ユニット230が、正圧および負圧を制御する態様について説明する。液体吐出ヘッド3内のインクは、液体吐出ヘッド3の下流にある第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ヘッド内を循環し、液体吐出ヘッド3から排出されてバッファタンク1003に戻る。なお、本実施形態において、第1循環ポンプ1001、1002と、第2循環ポンプ1004と、圧力制御ユニット230とは、第1循環形態における循環機構に相当する。
サブタンクであるバッファタンク1003は、メインタンク1006と接続され、タンク内部と外部とを連通する不図示の大気連通口を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003とメインタンク1006との間には、補充ポンプ1005が設けられている。補充ポンプ1005は、インクを吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッド3の吐出口からインクを吐出(排出)することによって消費されたインクをメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
2つの第1循環ポンプ1001、1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1003へ流す。第1循環ポンプとしては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。また、流量センサーを循環経路内に設けて、センサー出力値に基づいて、本体内の制御回路からポンプの回転数を制御して一定流量を確保する形態も好ましく用いることができる。これらの実施形態の詳細は後述する。液体吐出ヘッド3の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002を稼働することによって、それぞれ共通供給流路211、共通回収流路212内を所定流量のインクが流れる。このようにインクを流すことで、記録時の液体吐出ヘッド3の温度を最適の温度に維持している。液体吐出ヘッド3駆動時の所定流量は、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が記録画質に影響しない程度に維持可能である流量以上に設定することが好ましい。もっとも、あまりに大きな流量に設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり画像の濃度ムラが生じてしまう。そのため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら流量を設定することが好ましい。
圧力制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路に設けられている。この圧力制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の差等によって循環系におけるインクの流量が変動した場合でも、圧力制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する。圧力制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、圧力制御ユニット230よりも下流の圧力を、所望の制御圧を中心とした一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような圧力調整機構を用いてもよい。一例としては所謂「減圧弁・減圧レギュレータ」と呼ばれる減圧機構を採用することができる。本実施形態における循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して圧力制御ユニット230の上流側を加圧している。このようにすると、バッファタンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、液体吐出装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
第2循環ポンプ1004としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば圧力制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。図2に示したように圧力制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、相対的に高圧設定側(図2でHと記載)、相対的に低圧側(図2でLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211、共通回収流路212に接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給流路211、共通回収流路212、各記録素子基板と連通する個別流路215(個別供給流路213、個別回収流路214)が設けられている。共通供給流路211には、圧力調整機構Hが、共通回収流路212には圧力調整機構Lが接続されており、2つの共通流路間に差圧が生じている。個別流路215は、一対の共通流路のうち一方の共通供給流路211と他方の共通回収流路212とを接続し、記録素子基板10の吐出口13と連通している。かかる構成により、液体の一部が、共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(図2の矢印)が発生する。
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211および共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212を流れるインクによって記録素子基板10の外部へ排出することができる。またこのような構成により、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることができる。これによって、吐出口内で増粘したインクの粘度を低下させることで、インクの増粘を抑制することができる。また、増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、本実施形態の液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
(第2循環形態の説明)
図3は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路のうち、上述した第1循環形態とは異なる循環形態である第2循環経路を示す模式図である。前述の第1循環形態との主な相違点は、圧力制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が共に、圧力制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動で制御する点である。また、第1循環形態との相違点として、第2循環ポンプ1004が圧力制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用する点がある。更に、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置され、圧力制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている点も相違する点である。
第2循環形態では、メインタンク1006内のインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給される。その後インクは2つの流路に分けられ、液体吐出ヘッド3に設けられた圧力制御ユニット230の作用で高圧側と低圧側の2つの流路で循環する。高圧側と低圧側の2つの流路に分けられたインクは、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ヘッド3に液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3に供給される。その後、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ヘッド内を循環したインクは、圧力制御ユニット230を経て、液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3から排出される。排出されたインクは、第2循環ポンプ1004によってバッファタンク1003に戻される。なお、本実施形態において、第1循環ポンプ1001、1002と、第2循環ポンプ1004と、圧力制御ユニット230とは、第2循環形態における循環機構に相当する。
第2循環形態で圧力制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の変化によって生じる流量の変動があっても、圧力制御ユニット230の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定させる。圧力制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、圧力制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の制御圧を中心とした一定範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような圧力調整機構を用いてもよい。一例としては所謂「背圧弁・背圧レギュレータ」と呼ばれる背圧機構を採用することができる。本実施形態の循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して圧力制御ユニット230の下流側を加圧している。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、液体吐出装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば圧力制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。第2循環形態は第1循環形態と同様に、圧力制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの負圧調整機構の内、高圧設定側(図3で230Hと記載)、低圧設定側(図3で230Lと記載)はそれぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給流路211および共通回収流路212に接続されている。2つの負圧調整機構により、共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くすることで、共通供給流路211から個別流路215および各記録素子基板10の内部流路を介して共通回収流路212へと流れるインク流れが発生する。
このような第2循環形態では、液体吐出ユニット300内には第1循環形態と同様のインク流れ状態が得られるが、第1循環形態の場合とは異なる2つの利点がある。1つ目の利点は、圧力制御ユニット230に混入するゴミや異物が液体吐出ヘッド3へ流入することを防ぐことである。すなわち、第2循環形態では圧力制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置され、後述のフィルタ221が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている。そのため、第1循環ポンプ1001、1002および第2循環ポンプ1004の稼動により、循環経路にインクを循環させる際に、圧力制御ユニット230に混入する異物を液体から取り除き、液体吐出ヘッド3に異物が流入することを防ぐことができる。第2循環形態では、圧力調整ユニットは液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている。従って、圧力調整機構を構成する弁(バルブ)が開閉することなどにより、万一異物が循環経路に混入したとしても、液体吐出ヘッド3に到達する前に、混入した異物はフィルタ221によって取り除かれる。2つ目の利点は、第2循環形態では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1循環形態の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。
記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211、共通回収流路212、および個別流路215内の流量の合計を流量Aとする。流量Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整にあたり、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐出時)の吐出流量を流量F(1吐出口当りの吐出量×単位時間当たりの吐出周波数×吐出口数)と定義する。
図4は、第1循環形態と第2循環形態とにおける、液体吐出ヘッド3へのインクの流入量の違いを示した概略図である。図4(a)は、第1循環形態における待機時を示しており、図4(b)は、第1循環形態における全吐出時を示している。図4(c)から図4(f)は、第2循環流路を示しており、図4(c)、(d)が流量F<流量Aの場合で、図4(e)、(f)が流量F>流量Aの場合であり、それぞれ、待機時と全吐出時の流量を示している。
定量的な送液能力を有する第1循環ポンプ1001、1002が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている第1循環形態の場合(図4(a)、(b))、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の合計設定流量は流量Aとなる。この流量Aによって、待機時の液体吐出ユニット300内の温度管理が可能となる。そして、液体吐出ヘッド3で全吐出が行われる場合、第1循環ポンプ1001、1002の合計設定流量は流量Aのままであるが、液体吐出ヘッド3で吐出によって生じる負圧が作用する。そのため、液体吐出ヘッド3へ供給される最大流量は、合計設定流量の流量Aに全吐出による消費分(流量F)が加算される。よって、液体吐出ヘッド3への供給量の最大値は、流量Fが流量Aに加算されるため流量A+流量Fとなる(図4(b))。
ここで、第1循環形態(図2)において、複数の記録素子基板10のうち、一部の記録素子基板10が記録待機中であり、その他の記録素子基板10の全ての吐出口13からインクを吐出している全吐出中である場合を考える。図2に示されるように、液体吐出ユニット300の記録素子基板10のうち、網掛けで示されるものは全吐出中の記録素子基板10を、白抜きで示されるものは記録待機中の記録素子基板10であるものとして説明する。このとき、全吐出中の記録素子基板10には、共通供給流路211からのインク供給(白抜き矢印方向)に加えて、共通回収流路212から(黒塗り矢印方向)も一定量のインク供給が行われる。一方、記録待機中の記録素子基板10にも、共通供給流路211からのインク供給(白抜き矢印方向)も継続して行われる。液体吐出ユニット300へのインク流入量が増大するため、共通供給流路211と共通回収流路212との間の差圧は多少変動するものの、共通流路の断面積を充分に確保することができれば、その影響は無視することができる。
このように、本実施形態の第1循環形態では、一部の記録素子基板10が記録待機中に、その他の記録素子基板10が全吐出中になった場合であっても、記録待機中の記録素子基板10にもインクが供給されるように構成されている。かかる構成により、液体吐出ヘッド3へのインク供給量も好適に制御することができる。すなわち、記録待機中の記録素子基板10における個別流路215を通過するインクの流量を、当該記録素子基板10における全ての吐出口13から吐出されるインクの吐出流量よりも小さくなるように、共通流路の差圧を制御する。共通供給流路211と共通回収流路212との間の差圧を上記のように制御することにより、液体吐出ヘッド3の吐出口13からのインク吐出流量の変動にかかわらず、記録待機中の記録素子基板10に循環させるインク量を抑制することができる。記録待機中の記録素子基板10に循環させるインク量を抑制することができれば、液体吐出ヘッド3からの排熱を抑制することができ、循環流路内のインクを冷却するための冷却機構なども簡略化することができる。
第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態の場合(図4(c)から図4(f))は、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は、第1循環形態と同様に流量Aである。従って、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態では、流量Fよりも流量Aが多い場合(図4(c)、(d))には、全吐出時でも液体吐出ヘッド3への供給量は流量Aで十分である。その際、液体吐出ヘッド3からの排出流量は、流量A−流量Fとなる(図4(d))。しかし、流量Aよりも流量Fが多い場合(図4(e)、(f))には、全吐出時には液体吐出ヘッド3への供給流量を流量Aとすると流量が足りなくなってしまう。そのため、流量Aよりも流量Fが多い場合には、液体吐出ヘッド3への供給量を流量Fとする必要がある。その際、全吐出が行われると、液体吐出ヘッド3では流量Fが消費されるため、液体吐出ヘッド3からの排出流量は、ほとんど排出されない状態となる(図4(f))。なお、流量Aよりも流量Fが多い場合で、吐出は行うが全吐出ではない場合には、流量Fから吐出で消費された分が引かれた量が液体吐出ヘッド3から排出される。
このように、第2循環形態の場合、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値は、流量Aまたは流量Fの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2循環形態における必要供給量の最大値(流量Aまたは流量F)は、第1循環形態における必要供給流量の最大値(流量A+流量F)よりも小さくなる。なお、本実施形態の第2循環形態においても、一部の記録素子基板10が記録待機中に、その他の記録素子基板10が全吐出中になった場合であっても、記録待機中の記録素子基板10にもインクが供給されるように構成されている。共通供給流路211と共通回収流路212との間の差圧を制御することにより、液体吐出ヘッド3の吐出口13からのインク吐出流量の変動にかかわらず、記録待機中の記録素子基板10に循環させるインク量を抑制する態様についても第1循環形態と同じである。
第2循環形態の場合、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができ、記録装置のコストを低減できるという利点がある。この利点は、流量Aまたは流量Fの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
しかしながら一方で、第1循環形態の方が、第2循環形態に対して有利になる点もある。すなわち第2循環形態では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、単位面積当たりの吐出量が少ない画像(以下、低Duty画像ともいう)であるほど、各吐出口に高い負圧が印加された状態となる。このため、流路幅が狭く高い負圧である場合、ムラの見えやすい低Duty画像で吐出口に高い負圧が印加されるため、インクの主滴に伴って吐出される所謂サテライト滴が多く発生して記録品位が低下する虞がある。
一方、第1循環形態の場合、高い負圧が吐出口に印加されるのは単位面積当たりの吐出量が多い画像(以下、高Duty画像ともいう)形成時であるため、仮にサテライト滴が発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。これら2つの循環形態の選択は、液体吐出ヘッドおよび記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、およびヘッド内流路抵抗)に照らして好ましい選択を採ることができる。
(液体吐出ヘッド構成の説明)
実施形態1に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。図5(a)および図5(b)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド3を示した斜視図である。液体吐出ヘッド3は、1つの記録素子基板10でシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックKの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線状に15個配列(インラインに配置)されるライン型の液体吐出ヘッドである。図5(a)に示すように液体吐出ヘッド3は、各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91および電力供給端子92は、液体吐出装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ吐出駆動信号および吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号入力端子91および電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくすることができる。これにより、液体吐出装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時または液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。図5(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、液体吐出装置1000の液体供給系と接続される。これによりシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックK4色のインクが液体吐出装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通ったインクが液体吐出装置1000の回収系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、液体吐出装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
図6は、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220および電気配線基板90が筺体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(図3参照)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(図2、図3参照)が設けられる。2つの液体供給ユニット220は、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。液体は、フィルタ221を通過する際に異物が取り除かれ、それぞれの色に対応して液体供給ユニット220上に配置された圧力制御ユニット230へ供給される。圧力制御ユニット230は、各色の圧力調整弁からなるユニットであり、それぞれの内部に設けられる弁やバネ部材などの働きで液体の流量の変動に伴って生じる液体吐出装置1000の供給系内(液体吐出ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させる。これによって圧力制御ユニット230は、圧力制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化させることが可能である。各色の圧力制御ユニット230内には、図2で記述したように各色2つの圧力調整弁が内蔵されている。2つの圧力調整弁は、それぞれ異なる制御圧に設定され、高圧側が液体吐出ユニット300内の共通供給流路211(図2参照)、低圧側が共通回収流路212(図2参照)と液体供給ユニット220を介して連通している。
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81および電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300および電気配線基板90を支持するとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は、電気配線基板90を支持するためのものであり、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して、複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、材質としてはSUSやアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される液体は、ジョイントゴムを介して液体吐出ユニット300を構成する第3流路部材70へと導かれる。
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は、図6に示したように長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10および封止材部110(後述する図10参照)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
次に、液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。図6に示したように流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60および第3流路部材70を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
図7(a)〜(f)は、第1〜第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。図7(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、図7(f)は、第3流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。第1流路部材50と第2流路部材60とは、夫々の流路部材の当接面である図7(b)と図7(c)が対向するように接合し、第2流路部材と第3流路部材とは、夫々の流路部材の当接面である図7(d)と図7(e)が対向するように接合する。第2流路部材60と第3流路部材70とを接合することにより、共通流路溝62と71とが、流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路(211a、211b、211c、211d、212a、212b、212c、212d)を形成する。これにより色毎に共通供給流路211と共通回収流路212のセットが流路部材210内に形成される。共通供給流路211から液体吐出ヘッド3にインクが供給されて、液体吐出ヘッド3に供給されたインクは共通回収流路212によって回収される。第3流路部材70の連通口72(図7(f)参照)は、ジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220(図6参照)と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には、連通口61(共通供給流路211と連通する連通口61−1、共通回収流路212と連通する連通口61−2)が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により流路部材の中央側へ流路を集約することが可能となる。
第1〜第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
図8は、図7(a)のα部を示しており、第1〜第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大して示した透視図である。共通供給流路211と共通回収流路212とは、両端部の流路からそれぞれ交互に共通供給流路211と共通回収流路212とが配置されている。ここで、流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。
流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a、211b、211c、211d)および共通回収流路212(212a、212b、212c、212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路(213a、213b、213c、213d)が連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路(214a、214b、214c、214d)が連通口61を介して接続されている。このような流路構成により各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することができる。また記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212にインクを回収することができる。
図9は、図8のIX−IXにおける断面を示した図である。それぞれの個別回収流路(214a、214c)は連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。図9では個別回収流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては図8に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10に設けられる記録素子15に供給するための流路が形成されている。更に、支持部材30および記録素子基板10には、記録素子15に供給した液体の1部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。
ここで、各色の共通供給流路211は、対応する色の圧力制御ユニット230(高圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されており、また共通回収流路212は圧力制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。この圧力制御ユニット230により、共通供給流路211と共通回収流路212間に差圧(圧力差)を生じさせるようになっている。このため、図8および図9に示したように、各流路を接続した本実施形態の液体吐出ヘッド内では、各色で共通供給流路211〜個別供給流路213〜記録素子基板10〜個別回収流路214〜共通回収流路212へと順に流れる流れが発生する。
(吐出モジュールの説明)
図10(a)は、1つの吐出モジュール200を示した斜視図であり、図10(b)は、その分解図である。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10およびフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止部材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(図6参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
(記録素子基板の構造の説明)
図11(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図を示し、図11(b)は、図11(a)のXIBで示した部分の拡大図を示し、図11(c)は、図11(a)の裏面の平面図を示す。ここで、本実施形態における記録素子基板10の構成について説明する。図11(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。図11(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を熱エネルギにより発泡させるための発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。記録素子15は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。そして記録素子15は、液体吐出装置1000の制御回路から、電気配線基板90(図6参照)およびフレキシブル配線基板40(図10参照)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。図11(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18および液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
図11(c)に示すように、記録素子基板10の、吐出口13が形成される面の裏面にはシート状のカバープレート20が積層されており、カバープレート20には、後述する液体供給路18および液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。本実施形態においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21がカバープレート20に設けられている。図11(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、図7(a)に示した複数の連通口51と連通している。カバープレート20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このためカバープレート20の材質として、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このようにカバープレート20は、開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが望ましく、フィルム状の部材で構成されることが望ましい。
図12は、図11(a)におけるXII−XIIの断面を示す斜視図である。ここで、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。カバープレート20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18および液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。記録素子基板10は、Siにより形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面にはカバープレート20が接合されている。基板11の一方の面側には、記録素子15が形成されており(図11参照)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路18および液体回収路19を構成する溝が形成されている。基板11とカバープレート20とによって形成される液体供給路18および液体回収路19は、それぞれ流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。吐出口13から液体を吐出して記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口では、この差圧によって基板11内に設けられた液体供給路18内の液体が、供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる(図12の矢印C)。この流れによって、記録を休止している吐出口13や圧力室23において、吐出口13からの蒸発によって生じる増粘インク、泡および異物などを液体回収路19へ回収することができる。また吐出口13や圧力室23のインクが増粘するのを抑制することができる。液体回収路19へ回収された液体は、カバープレート20の開口21および支持部材30の液体連通口31(図10b参照)を通じて、流路部材210内の連通口51、個別回収流路214、共通回収流路212の順に回収される。つまり、記録装置本体から液体吐出ヘッド3へ供給される液体は、下記の順に流動し、供給および回収される。
液体は、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から液体吐出ヘッド3の内部に流入する。そして液体は、ジョイントゴム100、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、カバープレート20に設けられた開口21、基板11に設けられた液体供給路18および供給口17aを順に介して圧力室23に供給される。圧力室23に供給された液体のうち、吐出口13から吐出されなかった液体は、基板11に設けられた回収口17bおよび液体回収路19、カバープレート20に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後液体は、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61および共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71および連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そして液体は、液体供給ユニット220に設けられた液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ流動する。
図2に示す第1循環形態の形態においては、液体接続部111から流入した液体は、圧力制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給される。また図3に示す第2循環形態の形態においては、圧力室23から回収された液体は、ジョイントゴム100を通過した後、圧力制御ユニット230を介して液体接続部111から液体吐出ヘッドの外部へ流動する。また液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から流入した全ての液体が、個別供給流路213を経由して圧力室23に供給されるわけではない。つまり、共通供給流路211の一端から流入した液体で、個別供給流路213に流入することなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動する液体もある。このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、本実施形態のような微細で流抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を備える場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このように、本実施形態の液体吐出ヘッド3では、圧力室23や吐出口近傍部の液体の増粘を抑制することができるので、吐出のヨレや不吐出を抑制することができ、結果として高画質な記録を行うことができる。
(記録素子基板間の位置関係の説明)
図13は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。本実施形態では略平行四辺形の記録素子基板を用いている。各記録素子基板10における吐出口13が配列される各吐出口列(14a〜14d)は、記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。そして、記録素子基板10同士の隣接部における吐出口列は、少なくとも1つの吐出口が記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。図13では、線D上の2つの吐出口が互いにオーバーラップする関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく、直線状(インライン)に配置した場合も、図13と同様に液体吐出ヘッド3の記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。なお、本実施形態では記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、これに限るものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
(圧力制御ユニットの構造の説明)
図14(a)(b)は、第1の循環形態で用いられる圧力制御ユニット230の圧力調整機構230H(減圧弁)を示した外観斜視図であり、図14(c)はその断面図である。低圧設定側の圧力調整機構230Lも制御圧(バネの初期荷重)が異なるだけで他は同一構成のものが用いられるため、圧力調整機構230Lの説明を割愛する。図14における圧力調整機構230Hの動作原理は、一般に「減圧弁」と呼ばれるものと同様である。
図14(b)は、圧力調整機構230Hの内部を見やすくするために可撓性フィルム232を不図示にした状態を示している。図14(c)は図14(a)におけるXIV−XIVの断面を示した図である。図14(b)および(c)に示されるように、圧力調整機構230Hは、受圧板231と、液体吐出ヘッド3が接続される下流側に設けられる第1圧力室233と、受圧板231と第1圧力室233とを流体的にシールする可撓性フィルム232とから構成される。本実施形態において、受圧板231は、第1圧力室内のインクの増減に応じて変位し、可撓性部材である可撓性フィルム232と接合される。また、圧力室233の上流側には、第2循環ポンプ1004が接続される上流側に設けられる第2圧力室238と、受圧板231とシャフト234とによって連結された弁235(バルブ)と、弁235に嵌合するオリフィス236がある。本実施形態のオリフィス236は、第1圧力室233と第2圧力室238との境界に設けられている。シャフト234と、弁235と、受圧板231とは一体となって動く必要があり、接着剤や嵌合穴などで接合されている。また受圧板231および弁235は付勢部材237(バネ)によって、弁235が閉塞する方向に付勢されている。
図14(c)において、弁235はオリフィス236よりも上流側に設けられており、受圧板231が上方に移動するとオリフィス236と弁235との間のギャップが縮小する。圧力調整機構230Hの流入口(Inlet)から入ったインクは、弁235とオリフィス236との間のギャップを通り第1圧力室233へと流入し、その圧力を受圧板231へと伝達する。その後、インクは、圧力調整機構230Hの流出口(Outlet)から液体吐出ヘッド3へと排出される。
第1圧力室233内の圧力は、各部に加わる力の釣り合いを示す下記の関係式から決定される。付勢部材237の力を変更することにより、P1を所望の制御圧に設定することができる。なお、図14(c)に示される実施形態においては、付勢部材237が2つの連成バネで構成されているが、合成バネ力が所望の負圧値を満足することができれば圧力調整機能に支障は無いため、どちらか一方のバネだけを用いる構成でもよい。付勢部材237の力を変更するには、定数Kを変更するか、動作時における付勢部材237の長さを変更する。
P2=P0−(P1Sv+Kx)/Sd ・・・(式1)
ここで、各パラメータが示す値は以下の通りである。
Sd:受圧板面積
Sv:弁の受圧面積
P0:大気圧
P1:オリフィス上流側の圧力
P2:第1圧力室内の圧力
K:バネ定数
x:バネ変位
式1において、右辺第2項は常に正の値を取るため、P2<P0となり、P2は負圧となる。
また弁の流抵抗をR、圧力調整機構230H内を通過する流量をQとすると、次式が成立する。
P2=P1−QR ・・・(式2)
ここで、弁235の流抵抗Rと、弁開度とは、例えば図15のような関係になるように設計する。すなわち、弁235の弁開度が増大する(低下する)とともに流抵抗Rは低下する(増大する)ように、流抵抗Rが可変する。(式1)(式2)が同時に成立するように弁235の位置が決まることで、P2が導出される。
圧力制御ユニット230への流量Qが増加した場合、圧力調整機構230Hの上流に接続されている加圧源の圧力は一定であるので、流量が増大したことによる圧力調整機構230Hからバッファタンク1003までの間の流抵抗増加分だけ、P1は減少する。このため弁235を開放する力P1Svが減少し、(式1)の通りにP2が瞬時的に上昇する。
また(式2)からR=(P1−P2)/Qが導出される。ここでQ、P2は増加し、P1は低下しているので、Rは低下することになる。Rが低下すると弁開度が増加する。
図14(c)に示される通り、弁開度が増加すると付勢部材237の長さは短くなるため、自由長からの変位であるxは増加し、付勢部材237の作用力kxは大きくなる。このため(式1)からP2は瞬時的に減少する。P2が瞬時的に増加すると、上述とは逆の作用によりP2が瞬時的に減少する。この現象が短い期間に間欠して繰り返されることにより、流量Qに応じて弁開度が変化しつつ(式1)(式2)を両立する結果、P2が一定に制御されるので、圧力調整機構230Hの流出口側(下流側)の圧力は一定に制御される。
図16(a)(b)は、第2の循環形態で用いられる圧力制御ユニット230(背圧弁)のを示した外観斜視図であり、図16(c)はその断面図である。低圧設定側の圧力調整機構230Lも制御圧(バネの初期荷重)が異なるだけで他は同一構成のものが用いられるため、圧力調整機構230Lの説明を割愛する。図16における圧力調整機構230Hの動作原理は、一般に「背圧弁」と呼ばれるものと同様である。図16(b)は、圧力調整機構230Hの内部を見やすくするために受圧板231および可撓性フィルム232を不図示にした状態を示している。図16(c)は図16(a)におけるXVIC−XVICの断面を示した図である。
図16(c)に示されるように、図14の減圧方式の圧力調整機構230Hとの相違点は、弁235が第1圧力室233内に配置され、オリフィス236の向きもそれに合わせて反転されている点である。さらに、図16(c)の圧力調整機構230Hは、受圧板231が上方へ移動すると、オリフィス236と弁235との間のギャップが拡大するようになっている点、圧力調整機構230Hのインク流入口と流出口とが逆になっている点が図14の構成と異なる。さらに、受圧板231および弁235はバネ部材である付勢部材237によって、弁235を開放する方向に付勢されている点も図14と相違する。
圧力調整のメカニズムは、上述した(式1)(式2)でP1をオリフィス236の下流側の圧力とする以外は、図14で説明した手法で説明することができる。
(インク充填時の説明)
次に、インクジェット記録装置に代表される本実施形態の液体吐出装置1000にインクを充填する操作について説明する。図17は、本実施形態におけるインク充填時の圧力調整機構230Hの構成を示す断面図である。本実施例では、第2の循環形態で用いられる圧力調整機構230Hを例に説明するが、第1の循環形態で用いられる圧力調整機構230Hであっても同様に構成することができる。低圧設定側の圧力調整機構230Lも制御圧(バネの初期荷重)が異なるだけで他は同一構成のものが用いられるため、圧力調整機構230Lの説明を割愛する。
本実施形態において、液体吐出ヘッド3の共通供給流路211、共通回収流路212、および個別流路215内にインクを充填する際、まず補充ポンプ1005を駆動して、所定量のインクをメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
次いで、図17に示されるように、拘束板241の一端が受圧板231に当接し弁235が閉鎖するように、ネジ242を調整して拘束板241の位置を固定する。拘束板241の他端はネジ242を介して保持部材243に連結されている。保持部材243は圧力調整機構230H本体に固定されており、拘束板241を固定する。拘束板241と、ネジ242と、保持部材243とは、第1循環ポンプ1001、1002および第2循環ポンプ1004からの加圧によって受圧板231が受ける圧力に対して、受圧板231の変形を小さくさせる剛性を備える。本実施形態では、拘束板241の位置固定のために、ネジ242を用いたが、その他手動式のレバー機構やモーター等を用いてもよい。
次いで、第1循環ポンプ1001、1002および第2循環ポンプ1004を駆動して循環経路内のインクを加圧することにより、液体吐出ヘッド3の共通供給流路211、共通回収流路212、および個別流路215内にインクを充填する。循環ポンプ1001〜1004が駆動する際、圧力調整機構230Hの受圧板231は、拘束板241によって弁235を閉鎖されているため、圧力調整機構内の圧力が上昇しても弁235は開放されることがない。そのため液体吐出ヘッド3内の流路を加圧状態に維持してインクを充填することができる。液体吐出ヘッド3内の流路にインクが充填された後、ネジ242を開放して拘束板241を受圧板231から離間させる。すると、弁235が開となり、インクが圧力制御ユニット230(圧力調整機構230H、圧力調整機構L)およびバッファタンク1003への循環流路に充填される。
圧力調整機構230Hに、拘束板241、ネジ242、保持部材243などの強制閉塞機構を用いることにより、インク循環経路に別途バルブなどを設けることなく液体吐出装置1000内にインクを充填することができる。かかる構成により、液体吐出装置1000にインクを補充する際に、液体吐出ヘッド内に圧力を印加するための機構を必要とすることがないため、コストアップと装置構造の複雑化とを抑制することができる。
(変形例1)
以下、本実施形態の変形例1を説明する。本変形例では、第1循環形態において、圧力調整機構230Hの制御圧を正圧にする。記録待機中の吐出口13における圧力は、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との中間の圧力になる。本変形例では、吐出口13における圧力を下げ過ぎることなく、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧を大きくすることにより、吐出口13を通過するインクの流量を増加させることができる。
吐出口13の圧力を考慮する必要がなければ、圧力調整機構230Hの制御圧をそのままにしつつ、圧力調整機構230Lの制御圧を低圧にすることにより、個別流路215を通過するインクの流量を増加させることができる。しかしながら、吐出口13における圧力が低くなると、吐出口13のメニスカス位置が過度に個別流路215内に落ち込むように変位してしまい、吐出口13から吐出される液滴形成に影響を与えることがある。具体的には、吐出後の液滴のサテライトが多くなったり、微小なサテライトが発生したりする。液滴のサテライトによる画質の低下を招き、微小なサテライトがミスト化することにより液体吐出装置1000内部が汚染する恐れがある。
本変形例によれば、吐出口13における圧力が過度に低くなることが無いので、サテライトの発生を防止することができるだけでなく、インクの増粘や泡異物の除去効果を高められる。圧力調整機構230Hの制御圧を正圧にするには、例えば、上述の(式1)におけるバネ定数とバネ変位との積であるバネ力kxの作用の向きを反転する構成を採用できる。その場合(式1)における右辺第二項は(P1Sv−Kx)/Sdとなるので、P1Sv<Kxの条件下、P2>P0となり、P2が正圧となる。
図18は、本変形例における第1循環ポンプ1001、1002停止前後の、共通供給流路211および共通回収流路212内の圧力変化を示した遷移図である。図18に示されるように、第1循環ポンプ1001、1002が停止すると、共通回収流路212の圧力は共通供給流路211の圧力に近づくように上昇する。これは、第1循環ポンプ1001、1002の停止直後には、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧を解消しようとする方向に、インクが個別供給経路213、個別回収経路214を流れるためである。
本変形例の圧力調整機構230Hは減圧弁型の圧力調整機構なので、圧力調整機構230Lは制御圧よりも高い圧力が印加され、この結果圧力調整機構230Lの弁235は閉じることになる。一方、圧力調整機構230Hは、インクが流れると弁235が開いた状態が継続し、第1圧力室233の圧力は制御圧に維持される。インクの流れが継続して、圧力調整機構230Lにおける第1圧力室233の圧力が、圧力調整機構230Hの制御圧まで上昇すると、インクの流れが停止して圧力調整機構230Hの弁235が閉じる。かかる構成により、本変形例では図18に示されるように、共通回収流路212の圧力は共通供給流路211の圧力に近づくように上昇して、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧が解消されていく。
なお、本変形例では、第1循環ポンプ1001、1002を停止すると、共通供給流路211の圧力が上昇している。この現象は減圧弁を用いた圧力制御手法では一般的なものである。すなわち、弁235が完全に閉じる間際、バネ力との力の釣合式が崩れた状態で微小な振動などによって弁235が閉じるため、停止時に圧力調整機構230Hの制御圧が若干、加圧源である第2循環ポンプ1004の影響を受けて上昇するものと推定される。このため本変形例では、第1循環ポンプ1001、1002が停止すると、停止前よりも液体吐出ヘッド3内における流路の圧力が高い正圧状態となる。このままでは吐出口13からインクが漏れてしまうので、本変形例においては吐出口13外のインク供給経路に、別途負圧源およびバルブを設けて、印刷停止時にその上昇した圧力を解放するような制御システムが別途必要である。
(変形例2)
以下、本実施形態の変形例2を説明する。本変形例では、第2循環形態において、圧力調整機構230Hの制御圧を正圧にする。記録中および記録待機中におけるインク流れや、吐出口13における圧力は変形例1と同様であり、吐出口13の圧力を下げ過ぎることなく、吐出口13を通過するインクの流量を増加させることができる。本変形例が変形例1と異なる点は、記録終了後に循環ポンプを停止した際の共通供給流路211および共通回収流路212内の圧力変化である。
図19は変形例2における第1循環ポンプ1001、1002停止前後の、共通供給流路211および共通回収流路212内の圧力変化を示した遷移図である。図19に示されるように、循環ポンプが停止する前は、第1循環ポンプ1001、1002による脈動によって圧力値は上下している。第1循環ポンプ1001、1002が停止すると、共通供給流路211の圧力は共通回収流路212の圧力に近づくように低下する。これは、第1循環ポンプ1001、1002停止直後には、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧を解消しようとする方向に、インクが個別供給経路213、個別回収経路214を流れるためである。
本変形例の圧力調整機構230Hは背圧弁型の圧力調整機構なので、圧力調整機構230Lは制御圧よりも高い圧力が印加され、この結果圧力調整機構230Lの弁235が開き第1圧力室233の圧力は制御圧に維持される。一方、圧力調整機構230Hは、インクが流れると第1圧力室233の圧力が低下するので、弁235が閉じることになる。インクの流れが継続して、圧力調整機構230Hにおける第1圧力室233の圧力が、圧力調整機構230Lの制御圧まで低下すると、インクの流れが停止して圧力調整機構230Lの弁235が閉じる。かかる構成により、本変形例では図19に示されるように、共通回収流路212の圧力は共通供給流路211の圧力に近づくように上昇して、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧が解消されていく。
なお、本変形例では、第1循環ポンプ1001、1002を停止すると、共通回収流路212の圧力が低下している。この現象は背圧弁を用いた圧力制御手法では一般的なものである。すなわち、弁235が完全に閉じる間際、バネ力との力の釣合式が崩れた状態で微小な振動などによって弁235が閉じるため、停止時に圧力調整機構230Lの制御圧が若干、負圧源である第2循環ポンプ1004の作用を受けて低下するものと推定される。このため本変形例では、第1循環ポンプ1001、1002が停止すると、停止前よりも液体吐出ヘッド3内における流路の圧力が低い負圧状態となる。よって、記録中および記録待機中では、共通供給流路211内が正圧になっていても、液体吐出ヘッド3の吐出口13からインクが漏れてしまう事態を防ぐことができる。
図20は、実施形態1、変形例1、変形例2において、液体吐出装置1000の動作停止後、液体吐出ヘッド3における圧力変動を比較した模式図である。図20に示されるように、変形例1では、共通回収流路212の圧力は共通供給流路211の圧力に近づくように上昇して、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧が解消される。一方、変形例2では、共通供給流路211の圧力は共通回収流路212の圧力に近づくように低下して、共通供給流路211の圧力と共通回収流路212の圧力との差圧が解消される。特に、変形例2によれば、吐出口13における圧力を低下させることなくインクが通過する流量を大きくでき、かつ液体吐出装置1000の動作停止時に、液体吐出ヘッド3内の圧力を自律的に負圧で停止させることができるという利点を有している。
(実施形態2)
以下、図面を参照して本発明の実施形態2による液体吐出装置2000および液体吐出ヘッド2003の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として実施形態1と異なる部分のみを説明し、実施形態1と同様の部分については説明を省略する。
(液体吐出装置の説明)
図21は、本実施形態を適用可能な、液体を吐出して記録を行う液体吐出装置2000を示した図である。本実施形態の液体吐出装置2000は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクごとに対応した単色用の液体吐出ヘッド2003を4つ並列配置させることで記録媒体へフルカラー記録を行う点が実施形態1とは異なる。実施形態1において1色あたりに使用できる吐出口列数が1列だったのに対し、本実施形態においては、1色あたりに使用できる吐出口列数は20列となっている。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。更に、不吐出になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して記録媒体の搬送方向に対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上し、商業記録などに好適である。実施形態1と同様に、各液体吐出ヘッド2003に対して、液体吐出装置2000の供給系、バッファタンク1003(図2、図3参照)およびメインタンク1006(図2、図3参照)が流体的に接続されている。また、それぞれの液体吐出ヘッド2003には、液体吐出ヘッド2003へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続されている。
(循環経路の説明)
実施形態1と同様に、液体吐出装置2000および液体吐出ヘッド2003間の液体循環経路としては、実施形態1同様、図2または図3に示した第1および第2循環形態を用いることができる。
(液体吐出ヘッド構造の説明)
図22(a)および(b)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド2003を示した斜視図である。ここで、本実施形態に係る液体吐出ヘッド2003の構造について説明する。液体吐出ヘッド2003は、液体吐出ヘッド2003の長手方向に直線状に配列される16個の記録素子基板2010を備え、1色の液体で記録が可能なインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド2003は、実施形態1と同様、液体接続部111、信号入力端子91および電力供給端子92を備える。しかしながら本実施形態の液体吐出ヘッド2003は、実施形態1に比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド2003の両側に信号入力端子91および電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板2010に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減するためである。
図23は、液体吐出ヘッド2003を示した斜視分解図であり、液体吐出ヘッド2003を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割して示している。各ユニットおよび部材の役割や液体吐出ヘッド内の液体流通の順は、基本的に実施形態1と同様であるが、液体吐出ヘッドの剛性を担保する機能が異なる。実施形態1では主として液体吐出ユニット支持部81によって液体吐出ヘッド剛性を担保していたが、実施形態2の液体吐出ヘッド2003では、液体吐出ユニット2300に含まれる第2流路部材2060によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。本実施形態における液体吐出ユニット支持部81は、第2流路部材2060の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット2300は液体吐出装置2000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド2003の位置決めを行う。圧力制御ユニット2230を備える液体供給ユニット2220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット2220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。
2つの圧力制御ユニット2230は、それぞれ異なる、相対的に高低の圧力を制御するように設定されている。また、図22のように、液体吐出ヘッド2003の両端部にそれぞれ、高圧側と低圧側の圧力制御ユニット2230を設置した場合、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延在する共通供給流路と共通回収流路における液体の流れが互いに対向する。このような構成では、共通供給流路と共通回収流路の間で熱交換が促進されて、2つの共通流路内における温度差が低減される。これによって、共通流路に沿って複数設けられる各記録素子基板2010における温度差が少なくなり、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
次に、液体吐出ユニット2300の流路部材2210の詳細について説明する。図23に示すように流路部材2210は、第1流路部材2050と第2流路部材2060とを積層したものであり、液体供給ユニット2220から供給された液体を各吐出モジュール2200へと分配する。また流路部材2210は、吐出モジュール2200から環流する液体を液体供給ユニット2220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材2210の第2流路部材2060は、内部に共通供給流路および共通回収流路が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド2003の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材2060の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはSUSやTi、アルミナなど用いることができる。
図24(a)は、第1流路部材2050の、吐出モジュール2200がマウントされる面を示した図であり、図24(b)は、その裏面を示しており、第2流路部材2060と当接される面を示した図である。実施形態1とは異なり、本実施形態における第1流路部材2050は、各吐出モジュール2200毎に対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採ることで、複数のモジュールを配列させて、液体吐出ヘッド2003の長さに対応することができるので、例えばB2サイズおよびそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用することができる。図24(a)に示すように、第1流路部材2050の連通口51は、吐出モジュール2200と流体的に連通し、図24(b)に示すように、第1流路部材2050の個別連通口53は、第2流路部材2060の連通口61と流体的に連通する。図24(c)は、第2流路部材60の、第1流路部材2050と当接される面を示し、図24(d)は、第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、図24(e)は、第2流路部材2060の、液体供給ユニット2220と当接する面を示す図である。第2流路部材2060の流路や連通口の機能は、実施形態1の1色分と同様である。第2流路部材2060の共通流路溝71は、その一方が後述する図25に示す共通供給流路2211であり、他方が共通回収流路2212であり、夫々、液体吐出ヘッド2003の長手方向に沿って設けられており、その一端側から他端側に液体が供給される。本実施形態は実施形態1と異なり、共通供給流路2211と共通回収流路2212の液体の流れは互いに反対方向となっている。
図25は、記録素子基板2010と流路部材2210との液体の接続関係を示した透視図である。流路部材2210内には、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延びる一組の共通供給流路2211および共通回収流路2212が設けられている。第2流路部材2060の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続され、第2流路部材2060の連通口72から共通供給流路2211を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路を形成している。同様に、第2流路部材2060の連通口72から共通回収流路2212を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
図26は、図25のXXVI−XXVI線における断面を示した図である。共通供給流路2211は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール2200へ接続されている。図26では不図示であるが、別の断面においては、共通回収流路2212が同様の経路で吐出モジュール2200へ接続されていることは、図25を参照すれば明らかである。実施形態1と同様に、各吐出モジュール2200および記録素子基板2010には、各吐出口に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口を通過して、環流できるようになっている。また実施形態1と同様に、共通供給流路2211は、圧力制御ユニット2230(高圧側)と、共通回収流路2212は圧力制御ユニット2230(低圧側)と液体供給ユニット2220を介して接続されている。従ってその差圧によって、共通供給流路2211から記録素子基板2010の吐出口を通過して共通回収流路2212へと流れる流れが発生する。
(吐出モジュールの説明)
図27(a)は、1つの吐出モジュール2200を示した斜視図であり、図27(b)は、その分解図である。実施形態1との差異は、記録素子基板2010の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板2010の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置されている点である。これに伴い記録素子基板2010と電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板2010に対して2枚配置されている。これは記録素子基板2010に設けられる吐出口列数が20列あり、実施形態1の8列よりも大幅に増加しているためであり、端子16から記録素子までの最大距離を短くして記録素子基板2010内の配線部で生じる電圧低下や信号遅れを低減するためである。また支持部材2030の液体連通口31は、記録素子基板2010に設けられ全吐出口列を跨るように開口している。その他の点は、実施形態1と同様である。
(記録素子基板の構造の説明)
図28(a)は、記録素子基板2010の吐出口13が配される面の模式図であり、図28(c)は、図28(a)の面の裏面を示す模式図である。図28(b)は図28(c)において、記録素子基板2010の裏面側に設けられているカバープレート2020を除去した場合の記録素子基板2010の面を示す模式図である。図28(b)に示すように、記録素子基板2010の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は、実施形態1よりも大幅に増加しているものの、実施形態1との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列毎に一組の液体供給路18と液体回収路19が設けられていること、カバープレート2020に、支持部材2030の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は実施形態1と同様である。
なお、上記実施形態の記載は本発明の範囲を限定するものではない。1例として、本実施形態では発熱素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式について説明したが、ピエゾ方式およびその他の各種液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
本実施形態は、インク等の液体をタンクと液体吐出ヘッドとの間で循環させる形態の液体吐出装置(記録装置)について説明したが、その他の形態であってもよい。その他の形態は、例えばインクを循環せずに、液体吐出ヘッド上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であってもよい。
また本実施形態は、記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドを用いる例を説明したが、記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインクを吐出する記録素子基板およびカラーインクを吐出する記録素子基板を各1つずつ搭載する構成が挙げられるが、これに限るのもではない。つまり、複数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口がオーバーラップするよう配置した、記録媒体の幅よりも短い短尺の液体吐出ヘッドを作成し、それを記録媒体に対してスキャンさせる形態であってもよい。
(変形例3)
図29に本実施形態の変形例3について説明する。本変形例では、第2循環形態において、共通供給流路及211および共通回収流路212の上流側端を共に一つの第一循環ポンプ1001に接続している。このようにすることで、第一循環ポンプ数を減らすことができるので構成を簡略化し、コストを下げることができ、更には各ユニット間接続部の数も減らせるため漏洩リスクが小さくなり印字装置の耐久信頼性が向上する。共通回収流路212の上流端近傍に配置された流抵抗調整部216は、共通供給流路211と共通回収流路212の流量配分を主に決める機能を有する。共通回収流路212と共通供給流路211の抵抗が同じ場合、共通回収流路212の方が共通供給流路211よりも低圧であるので、循環ポンプ1001から供給される記録液体流量は、共通回収流路212の方に多く分配される。本変形例では流抵抗調整部216で流抵抗を調整することでこの分配量を所望の値に調整できる。この流量配分は共通供給流路211と共通回収流路212の分岐部分〜負圧制御ユニットまでの、各々の流抵抗の合計比で決まるので、流抵抗調整部216を図29のように設けずとも、例えば共通回収流路212全体の流抵抗を増やす等の構成でも同様のことが可能である。
また第一循環ポンプ1001及びその下流に配置された流量センサー217は、印字装置本体の制御回路(不図示)と電気的に接続されており、制御回路は流量センサー217からの出力値に基づいて、第一循環ポンプの回転数を制御している。よって、環境温度の変化によりインクの粘度変化やポンプ自身の耐久劣化などが生じた場合でも、流量の変動が抑制されており、印字装置の信頼性が向上している。
(変形例4)
図30に本実施形態の変形例4の循環形態を模式的に示す。本変形例では、第1循環形態において、共通供給流路211及び共通回収流路212の下流端を共に一つの第一循環ポンプ1001に接続している。このようにすることで、変形例3と同様にコストダウンと耐久信頼性向上という好ましい効果が得られる。
また第一循環ポンプ1001及びその上流から分岐して配置された温度センサー218は、印字装置本体の制御回路(不図示)と電気的に接続されている。これにより制御回路は温度センサー218からの出力値に基づいて、記録液体の粘度変化を予め定められた係数によって推定し、第一循環ポンプ1001の回転数を制御する。変形例3のように流量を直接計測する構成よりも制御流量の精度は低くなるものの、温度センサー218は一般的に構造が単純で流量センサーよりも低コストであるので、変形例4は変形例3よりもローコストな循環形態である。
(変形例5)
図31は本実施形態の変形例5の循環形態を示す模式図である。本変形例では、図29の変形例3における第一循環ポンプ1001及び流量センサー217の代わりに、定流量弁機構250を配置し、更にバッファタンク1003にエアポンプ1007の吐出側を接続している。ヘッド駆動時は、エアポンプ1007によってバッファタンク1003内を加圧に維持し、記録液体は第二循環ポンプ1004で液体吐出ユニット300からバッファタンク1003へ還流される。一方、液体吐出ユニット300上流に設けられた定流量弁機構250は、バッファタンク1003内の加圧分を動力として、一定流量の記録液体を液体吐出ユニット300へ供給する。定流量弁機構250は、その上流及び下流の圧力が変動した場合でも、機構内部の弁・バネ機構によって予め設定された流量が流れるように内部抵抗を可変する機能を有する。記録液体の粘度変化に対しては、流量は必ずしも一定にならないものの、構造が簡単であるためコストが低い。またエアポンプ1007は他色の循環経路のバッファタンクに共通して接続しても良いので、記録装置一台にエアポンプは一台あれば良く、ノズルの吸引回復用としても使用できる。このため、第一循環ポンプ及びセンサーなどの補機を用いた循環形態よりも低コストの印字装置を提供することができる。なおエアポンプ1007を用いずに、第一循環ポンプを定流量弁機構250とバッファタンク1003間に配置しても、循環機能としては同じことが可能であるが、上記のコスト面でのメリットを考慮すれば本形態の方が好ましい。
(変形例6)
図32は本実施形態の変形例6の循環形態を示す模式図である。本変形例では、図30の変形例4における第一循環ポンプ1001及び温度センサー218の代わりに、定流量弁機構250を配置し、更にバッファタンク1003にエアポンプ1007の吸引側を接続している。ヘッド駆動時は、エアポンプ1007によってバッファタンク1003内を高負圧に維持され、記録液体は第二循環ポンプ1004でバッファタンク1003から液体吐出ユニット300へ供給される。一方、液体吐出ユニット300下流に設けられた定流量弁機構250は、バッファタンク1003内の高負圧を動力として、一定流量を記録液体を液体吐出ユニット300から回収する。定流量弁機構250は、その上流及び下流の圧力が変動した場合でも、内部の弁・バネ機構によって予め設定された流量が流れるように内部抵抗を可変する機能を有する。記録液体の粘度変化に対しては、流量は必ずしも一定にならないものの、構造が簡単であるためコストが低い。またエアポンプ1007は他色の循環経路のバッファタンクに共通して接続しても良いので、記録装置一台にエアポンプは一台あれば良く、ノズルの吸引回復用としても使用できる。
なお本変形例では低コスト化の利点の他に、もう一つ好ましい効果が得られる。すなわち、ヘッド駆動時は、バッファタンク1003内は常に負圧状態で循環による流れ場があるため、循環開始と同時におのずと記録液体が脱気されていく。このため循環駆動を行うことで、液体吐出ヘッド内の残留泡が少しずつ消泡していくので、長期使用しても泡による不吐などが生じにくい。このため本変形例の循環形態では、低コスト化のメリットだけでなく、ヘッド駆動の信頼性が向上し、ノズル詰まりの回復頻度を低下させて廃インク量を低減できるという効果をも同時に得ることができる。
(定流量弁機構の説明)
図33(a)〜(c)は、変形例5及び6に係る定量弁機構の構造の一例であり、この構成限らず、その他多様な「定量弁」「flowmatic valve」を備える機構を使用することも可能である。図33(a)は変形例5及び6における定流量弁機構の外観を示し、図33(b)は、分岐板252を外した状態の、図33(a)の下方から見た斜視図である。図33(c)は図33(a)のXXXIIIC−XXXIIIC線における断面図であり、矢印は記録液体の流れを示す。定流量弁機構250の流入口255から入った記録液体は、分岐板252内で絞り部254へと向かう流れと第3圧力室253へと向かう流れに分岐される。絞り部254を通過した記録液体は、第1圧力室内へと導かれ、その後、オリフィス236、第2圧力室238の順に通過して流出口256へ流れる。
第1圧力室233〜第2圧力室238における、受圧板231、付勢部材237、弁235、オリフィス236、可撓性フィルム232の配置や材質は、図16に示した圧力調整ユニット(背圧弁)と同様のものを好ましく用いることができる。また弁235の流抵抗Rと弁開度の関係も、同様に図15のような関係になる設計を用いることができる。図33(c)に示したように、第1圧力室233と第3圧力室253の差圧変化によって、例えば受圧板231が上方へ移動すると、オリフィス236と弁235との間のギャップが拡大するようになっており、受圧板231および弁235はバネ部材である付勢部材237によって、弁235を開放する方向に付勢されている。
絞り部254は流入口255〜第1圧力室233間の流抵抗を可変できるよう、ボディ251の雌ネジ部225と調整ボルト224、シール部材226とから成っており、この流抵抗調整によって、定流量弁機構の制御流量を設定或いは可変可能である。なお本実施形態での絞り部254は流抵抗を可変可能な構造としているが、所望の流量が固定である場合には別形態も適用可能である。すなわち、所望の流量に対応する固定流抵抗が流入口255〜第1圧力室233間で得られるならば、絞り部254の形状を変更可能である。例えば、絞り部254は単純なオリフィスや、或いは流出口256〜第1圧力室233間の流路全体であっても良い。また記録液体の色や種類によって粘度が異なるような場合には、記録液体種別に設計された流抵抗生成部品を交換可能に挿入するような構成とすることもできる。
第3圧力室253は、分岐板252内の受圧板231及び可撓性フィルム232によって第1圧力室233と流体的に離隔されて隣接して配置されており、絞り部254の上流に位置する分岐板内流路と流体的に連通している。
次に流量制御のメカニズムを説明する。第1圧力室233内の圧力は、受圧板231に関する力の釣り合いを示す下記の関係式から決定される。
P1=P3−(P2Sv+Kx)/Sd ・・・(式3)
ここで、各パラメータが示す値は以下の通りである。
Sd:受圧板面積
Sv:弁の受圧面積
P3:第3圧力室内の圧力
P1:第1圧力室内の圧力
P2:第2圧力室内の圧力
K:付勢部材237のバネ定数
x:付勢部材237(バネ)の変位
(式3)を変形すると、
P3−P1=(P2Sv+Kx)/Sd ・・・(式4)
また弁235の流抵抗をR、定流量弁機構250内を通過する流量をQとすると、次式が成立する。
P1=P2+QR ・・・(式5)
ここで、弁の流抵抗Rと、弁開度とは、例えば図15のような関係になるように設計する。すなわち、弁の弁開度が増大する(低下する)とともに流抵抗Rは低下する(弁の開閉度が低下する場合は流抵抗Rは増大する)ように、流抵抗Rが可変する。(式4)(式5)が同時に成立するように弁235の位置が決まることで、P1が導出される。
P2が減少した場合、弁235を開放する力が弱まるので、受圧板231は図33(c)の上方へと移動するので、付勢部材237の長さは短くなり、自由長からの変位であるxは増加し、付勢部材237の作用力kxは増大する。逆にP2が増大した場合にはkxは減少する。このため(式4)の右辺の()内ではP2の変動に対して常に相殺効果が働く。この相殺効果が十分に発揮されるように、付勢部材237のバネ定数K、受圧板面積Sd,弁部受圧面積Svの値を設計することにより、P3変動に対する(P3−P1)変化を十分小さくすることが可能である。
P3が増大した場合、受圧板231は図33(c)の上方へと移動するので、弁開度が低下するので弁抵抗Rは増大し、その結果(式5)から判るようにP1は増加する。逆にP3が低下した場合には、P1も低下する。P3が増大(低下)すると、付勢部材237の作用力kxは増大(減少)するので、(式4)からP3−P1は増大(減少)するが、この変動が十分小さくなるように、付勢部材237のバネ定数K、受圧板面積Sdの値を設計することにより、P3変動に対する(P3−P1)変化を十分小さくすることが可能である。
以上説明したように、定流量弁機構250では、その上流及び下流の圧力変動に対して、第3圧力室の内圧P3と第1圧力室内圧P1の差圧変動が小さく、ほぼ一定になるように設計されている。第3圧力室内には流れが無いことから、P3はほぼ絞り部254の手前の圧力とみなすことができるため、P3とP1の差圧がほぼ一定であることは、絞り部254の流抵抗と記録液体の粘度が一定である限り、流量Qがほぼ一定に維持されることを意味する。
より具体的な定流量弁機構内の動作は次のように説明できる。例えば、定流量弁機構上流の圧力が瞬時的に低下した場合、絞り部254での圧力差が小さくなるので流量Qは瞬時的に減少するが、同時に第3圧力室の内圧P3も低下する。すると、受圧板231は図33(c)の下方に向かって移動して弁開度が大きくなるので弁抵抗Rが低くなり、流量Qが回復する。また例えば、定流量弁機構の流入口から流入する流量Qが瞬時的に増加した場合、絞り部254の圧損により第1圧力室の内圧P1が低下する。すると、受圧板231は図33(c)の上方に向かって移動し弁開度が小さくなるので、弁流抵抗Rが瞬時的に増加する。このため定流量弁機構から流出する流量は増加しない。逆の場合には、逆の作用が発生するので、流量Qは一定に維持される。
記録液体の粘度は常に一定であるとは限らず、例えば温度変化や循環系内全体からの長期に渡る水分蒸発による濃縮などで変化する。このため、定流量弁機構とはいっても、その粘度変化に応じて実際の流量は多少変化する。実際の設計では、この流量変動が印字物の画質に影響が出ない範囲に収まるように注意することが必要である。