以下、本発明の実施形態を、図面を参照しつつ説明する。
(第1の実施形態)
図1は、本発明の実施形態における液体吐出装置の概略構成を示す側面図である。ここに示す液体吐出装置は、インクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置(以下、記録装置とも称す)1000を構成している。なお、実施形態に係る記録装置は、プリンタ、複写機、通信システムを有するファクシミリ、プリンタ部を有するワードプロセッサなどの装置、さらには各種処理装置と複合的に組み合わせた産業記録装置に適用可能である。例えば、バイオチップ作製や、電気回路印刷などの用途としても用いることができる。
記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるライン型の液体吐出ヘッド3と、液体吐出ヘッド3にインクなどの液体を供給する液体供給手段と、コントローラ(制御手段)3000などを備える。
記録媒体2としては、カット紙や、連続したロール媒体などを使用することが可能である。本実施形態における記録装置は、記録媒体2を連続的もしくは間欠的に搬送しながら1パスで記録を行うライン型記録装置となっている。液体吐出ヘッド3は、記録媒体の搬送方向と交差する方向(図1では直交方向)に沿って複数の吐出口を配列した記録素子基板10を、吐出口の配列方向に沿って複数配置し、全体として長尺な吐出口列を構成したものとなっている。各吐出口内には、インクなどの液体を吐出する吐出エネルギーを発生する記録素子が設けられ、記録素子を駆動することによって吐出口に充填されているインクを液滴の状態で記録媒体2に向けて吐出する。本実施形態では、各記録素子基板10の中にシアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクを吐出するための吐出口列が形成されており、これらの吐出口列からインクを吐出することによりフルカラー記録を行うことが可能になっている。
また、記録装置1000は、インク等の液体を液体供給源と液体吐出ヘッド3との間で循環させる形態を採り、この液体の循環は液体供給手段によって行なう。液体供給手段は、液体供給源としてのタンク(バッファタンク)1003と、液体吐出ヘッド3に連通する上流共通流路161および下流共通流路162と、第1、第2循環ポンプ1004、1012と、下流側流路162の開閉を行なう弁237などで構成される。コントローラ3000は、第1、第2循環ポンプ1004、1012の駆動、弁237の開閉、液体吐出ヘッド3における記録素子の駆動、および搬送手段の駆動など、各部の制御を行うものであり、CPU、ROM、RAM、および入出力装置などを備える。
記録装置1000においてインクを吐出可能な状態にするためには、液体吐出ヘッド3にインクを充填する必要がある。液体吐出ヘッド3へのインクの充填は、第1循環ポンプ1001と第1循環ポンプ1012のいずれか一方または双方を駆動(ON)して、タンク1003から液体吐出ヘッド3へとインクを付与することによって行なう。また、液体吐出ヘッド3に供給されたインクは、液体吐出ヘッド3内の流路および吐出口13内を通過した後、液体吐出ヘッド3から流出し、下流共通流路162を介して再びインクタンク45へと回収される。このように、本実施形態では、タンク1003内のインクが液体吐出ヘッド3を経て、再びタンク1003に戻る、というインクの循環が行なわれる。
次に、液体吐出ヘッド3の構成例を図2および図3に示す。図2は液体吐出ヘッド3の斜視図である。また、図3において(a)は図2のA面に沿う断面図、(b)は図2のB面に沿う断面図、(c)は図2のC面に沿う断面図である。図2に示すように、共通流路部材67の上には複数の個別流路部材50が配置され、複数の個別流路部材50の上には、それぞれ記録素子基板10が配置されている。前述のように、各記録素子基板には、イエロー、シアン、マゼンタ、ブラックの4色のインクを吐出するための吐出口列が形成されている。この記録素子基板を吐出口列における吐出口の配列方向に沿って複数配置することによって長尺な吐出口列が、各インク色に対応して形成される。
また、図3(a)に示すように、共通流路部材67には、記録素子基板10に配列方向に沿って延在する共通供給流路211と共通回収流路212が平行に形成されている。また、個別流路部材50には、吐出口列を構成する複数の吐出口の各々に対応して個別共通流路213と個別回収流路214が形成されている。この個別共通流路213と個別回収流路214は、吐出口の配列方向と交差(図では直交)する方向に沿って延在している。個別共通流路213は、その一端部が共通供給流路211に連通し、他端部が記録素子基板10の吐出口13に連通している。また、個別回収流路214は、その一端部が共通回収流路212に連通し、他端部が吐出口13に連通している。インクは共通供給流路211から個別共通流路213を通り、吐出口13を経由して個別回収流路214へと流れ、共通回収流路212へと排出される。
次に、図1および図3(b)、図3(c)に基き、液体吐出ヘッド3の長手方向におけるインクの流れを説明する。まず、液体吐出ヘッド3の内部または外部で上流共通流路161から分岐した、共通流路部材67内の共通供給流路211と共通回収流路212(図1および図4参照)へインクが供給される。共通供給流路211に供給されたインクは、共通供給流路211と個別共通流路213とに分流する。個別共通流路213に流れたインクは、吐出口13内に流入すると共に、個別回収流路214へと流出する。個別回収流路214へ流出したインクは、共通回収流路212に供給されたインクと合流し、共通回収流路212の下流へと流れて液体吐出ヘッド3から排出される。なお、以下の説明では、上流共通流路161と下流共通流路162を総称して共通流路160と記載することもある。
図4は、第1の実施形態におけるインクの供給・回収流路を模式的に示す説明図である。上流共通流路161は、接続部235において、共通供給流路211と共通回収流路212とに分岐する。さらに、共通供給流路211と共通回収流路212は、接続部236において下流共通流路162と合流する。さらに共通供給流路211は接続部231において各個別共通流路213と分岐する。なお、231eは、共通供給流路231と各個別流路との接続部のうち、最下流に位置する接続部を示し、232eは共通回収流路212と各個別流路214との接続部のうち、最下流に位置する接続部を示している。このように、本実施形態では、上流共通流路161から共通供給流路211と共通回収流路212とに分岐させ、共通供給流路211と共通回収流路212とを下流共通流路162で合流させる構成としている。しかし、共通供給流路211と共通回収流路212とを、分離した流路として、そのまま上流、下流へ延長した構成とすることも可能である。但し、この場合には、共通供給流路211と共通回収流路212の上流側と下流側に1つずつポンプが必要となる。
ここで、共通供給流路211から個別共通流路213、記録素子基板10、個別回収流路214を経て共通回収流路へと流出させるためには、共通供給流路211の圧力が、共通回収流路212の圧力よりも高くなければならない。すなわち、接続部231の圧力の方が接続部232の圧力よりも高い必要がある。そのためには、例えば、接続部235から接続部231の間の共通供給流路211で生じる圧力損失よりも、接続部235から接続部232の間の共通回収流路212で生じる圧力損大きくなるように構成すればよい。具体的には共通回収流路212を共通供給流路211に比べて長くする、または細くする、または絞りを入れるなどで流抵抗を大きくすることが挙げられる。
本実施形態では、液体吐出ヘッド3の吐出口13に対するインクの充填・回復を行う際、下流共通流路162上に配置した弁(切換手段)237を閉じた後に、第2循環ポンプ1004によって加圧する。このとき、上流共通流路161から共通供給流路211と個別共通流路213との接続部231eまでと、共通回収流路212と個別回収流路214との接続部232eまでの流路内の気泡は吐出口13から排出される。しかし、接続部231eと弁237の間と、接続部232eと弁237の間の流路内には気泡が残留する可能性がある。そして、流路内に残留した気泡は、弁237開放(OPEN)時に起こる共通供給流路211と共通回収流路212の圧力バランスの変化に伴って移動し、個別共通流路213と個別回収流路214に流入する。個別共通流路213や個別回収流路214内に気泡が存在すると、吐出特性の均一性に悪影響を及ぼしたり、吐出自体が行われなくなる可能性がある。つまり、残留した気泡によって吐出時に印加した圧力が吸収されてしまい、吐出口毎に吐出特性が変化し、各吐出口の液滴吐出が不均一になってしまう。また、残留した気泡が加熱等の要因で成長して流路を塞いでしまうと、吐出口13へのインクの供給、または吐出口からのインクの排出が妨げられ、吐出口でのインクの流動が阻害される。この場合、吐出口におけるインクの固着を招き、吐出が正常に行われなくなる。また、個別共通流路213と個別回収流路214が共に気泡によって閉塞されると、吐出口13へのインクの供給、排出が行われなくなり、吐出口13内のインクが不足し、吐出不能となる。つまり、液体吐出ヘッド3へのインクの充填・回復時に接続部231eと弁237の間、接続部232eと弁237の間の流路内に発生する気泡の残留を抑制する必要がある。
液体吐出ヘッド3へのインクの充填・回復時に接続部231eと弁237の間、接続部232eと弁237との間の流路内の気泡残留を抑制するには、弁237を閉じずに共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路160にインクを充填することが望ましい。この充填・回復モードにおける一連の動作を図5のフローチャートに示し、充填・回復時におけるインクの流れを図6に示す。
充填・回復モードに移行する信号が入力されると、図5(a)のフローチャートに示すように、弁237を開き(OPEN)、その後に、第2循環ポンプ1004によって加圧する(S101、S102)。これにより図6(a)に示すように、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160にインクが充填される(S103)。この第2循環ポンプ1004による加圧動作では、気泡が、液体吐出ヘッド3から下流共通流路162を経て下流へと排出されるまで弁237を開いた状態で待機する。待機時間には、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160へインクを充填するのに要する時間を予め実測しておき、その時間を使用する。続いて、図6(b)に示すように、弁237を閉じ(S104)、その後、第2循環ポンプ1004による加圧によって個別共通流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10内の流路へとインクを充填し(S105)、流路内の気泡を吐出口13から排出する。以上の動作により、個別共通流路213、個別回収流路214、記録素子基板10の充填・回復が完了となる。最後に、弁237を開け(OPEN)(S106)、第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)して(S107)動作を終了する。
充填・回復動作を行った後、吐出モードに移行する信号が入力されると、弁237を開けた状態で、図5(b)に示すフローチャートに示すように、第2循環ポンプ1004と第1循環ポンプ1012の一方または両方を動作させる(S108)。このとき既に液体吐出ヘッド3内の各流路および共通流路160内の気泡の残留は抑制された状態にあるため、図6(c)の矢印に示すようなインクの循環が、気泡に妨げられることなく適正に行なわれ、インク吐出口13はインク吐出に適した状態となる。
また、充填・回復動作と吐出動作を続けて行う場合には、充填・回復動作の最後に第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)させず、図5(c)に示すように第1循環ポンプ1012を駆動(ON)して、液体吐出ヘッド3内のインクを循環させればよい。
以上のように本実施形態では、共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路160にインクを充填して気泡を排出した後、記録素子基板10と個別共通流路213、個別回収流路214へインクを充填する。これにより、液体吐出ヘッド3内の気泡残留を抑制し、液体吐出ヘッド3に良好な吐出性能を維持することができる。
さらに、充填動作時においては吐出口13にメニスカスが形成されていない。このため、共通供給流路211と共通回収流路212、共通流路160へインクを充填する際、吐出口13からの空気の流入を防ぐために接続部231eと接続部232eの圧力が大気圧以上となるように第2循環ポンプ1004の圧力を定めることが好ましい。
また、回復動作時においては、共通供給流路211と共通回収流路212、および共通流路160内の気泡を下流共通流路162へ流す際、接続部231eと接続部232eの圧力が負圧であってもよい。つまり、第2循環ポンプ1004ではなく、第1循環ポンプ1012のみを動作させる、または第2循環ポンプ1004と第1循環ポンプ1012の両方を動作させて回復を行ってもよい。但し、ポンプを動作させる場合は、吐出口13や個別共通流路213、個別回収流路214に形成されたメニスカスが破壊せず、空気が共通供給流路211や共通回収流路212に流入しない負圧範囲にとどめる必要がある。
さらに本実施形態における記録ヘッド3は、少なくとも1つの記録素子基板10と少なくとも1つの個別共通流路213と個別回収流路214からなる構成であればよい。図7に示すように、記録素子基板10が1つの構成でも成り立つ。
本実施形態における第1の変形例として、図9に示す構成が挙げられる。この第1の変形例は、上流共通流路161において、第2循環ポンプ1004と接続部235との間に弁(切換手段)238を追加した構成を有する。この弁238は、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214にインクを充填・回復する時、共通供給流路211と共通回収流路212、共通流路160を流れるインクの方向を逆にする場合に使用する。
図8は、この変形例における充填・回復動モードにおける一連の動作を示すフローチャート、充填・回復時におけるインクの流れを示す模式図である。充填・回復モードに移行する信号が入力(ON)されると弁237、238を開いた(OPEN)後、第2循環ポンプ1004を駆動(ON)する(S201、202)。ここで、図9(a)に示すように、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160へインクが充填されるまで待機する(S203)。この後、図9(b)に示すように第2循環ポンプ1004をOFFにして弁238を閉じ(S204、205)、第1循環ポンプ1012を逆流させる(S206)。これによりインクは加圧され、図9(b)に示すように、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214にインクを充填することができる(S207)。インクの充填が終了した後、ポンプ1012の駆動を停止(OFF)し、弁238を開(OPEN)とし(S208、S209)、一連の充填・回復動作を終了する。
なお、弁237、238を開いた状態で第1循環ポンプ1012を逆方向へ駆動し、上流共通流路161へとインクを流すことで、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212へのインクの充填・回復を行うことも可能である。
さらに、インクの流れる向きを逆転させ得る構成は、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212における圧力損失が大きい場合の充填・回復にも有効である。例えば、液体吐出ヘッド3の短手方向の幅を縮小するのに伴って流路幅が小さくなる、または液体吐出ヘッド3を長手方向に延長して流路が長くなる場合に有効である。すなわち、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212内で生じる圧力損失が大きくなる構成では、液体吐出ヘッド3へインクを供給する側から離れた記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214にインクを充填・回復するのに十分な圧力を印加できなくなることがある。この場合、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212を流すインクの向きを逆転できる構成とすれば、十分な圧力を印加できない箇所に対し、適正にインクの充填・回復を行うことができる。すなわち、インクを流す向きを逆転した時には、インクを順方向に流したときの下流側が上流側となるため、インクを充填・回復するのに必要な圧力を印加できるようになる。つまり、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160を流れるインクの方向を逆転することで、流路内へインクを送液する際に生じる圧力損失の影響を抑えたインクの充填・回復が可能になる。
このインクを逆流させることによってインクの充填・回復を行う、本実施形態の第2の変形例について、図8(b)および図9(c)を参照しつつ説明する。図8(b)のフローチャートはこの第2の変形例により充填・回復を行う際の一連の動作を示し、図9(c)は、充填・回復時におけるインクの流れを示す図である。この第2の変形例では、まず、第1の変形例の(S201〜203)と同様に、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212へ充填・回復を行う(S211〜213)。この後、弁237を閉じ(S237)、第2循環ポンプ1004の駆動によって下流共通流路162へ向けてインクを送り(S215)、個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10に対しインクの充填・回復を行う。これにより、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214の中で第2循環ポンプ1004に近い位置にある部分には、十分な圧力を確保することができるため、インクを適正に充填・回復させることができる。但し、第2循環ポンプ1004から比較的離れた部分に対しては、十分な圧力が得られない可能性もある。そこで、この第2の変形例では、S215による充填・回復動作の後、弁237を開(OPEN)とすると共に、第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)する(S216、217)。次いで、弁238を閉じ(CLOSE)、第1循環ポンプ1012を逆方向に駆動(ON)させ(S1012)、上流共通流路161へ向けてインクを送り、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214、に対するインクの充填・回復が行われる。この際、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214のうち、第1循環ポンプ1012に近い部分には、充填に必要な圧力が確保される。すなわち、S215で行った充填・回復動作では、十分に充填・回復されていない部分にも確実にインクの充填・回復が行われる。これによって、液体吐出ヘッド3内の全ての記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214に対するインクの充填・回復を、より確実に行うことができる。
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態を図10ないし図19を参照しつつ説明する。なお、この第2の実施形態においても、図1ないし図3に示す構成を備えるものとし、図10ないし図19において、上記第1の実施形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。
図10は、第2の実施形態におけるインクの供給・回収回路を模式的に示す説明図である。本実施形態は、吐出口13内のインク循環流速を安定化させるため、共通供給流路211と共通回収流路212の圧力差を一定の範囲内に保つ機能を有する圧力調整機構を記録素子基板10の上流側に配置した構成を備える。具体的には、共通供給流路211において、記録素子基板10と個別共通流路213との接続部231より上流側の位置に上流圧力調整機構Hを配置している。また、共通回収流路212において、記録素子基板10と個別回収流路214との接続部232より上流側の位置に上流圧力調整機構Lを配置している。上流圧力調整機構H、Lは、いずれも、内部を通過した後の流体の圧力を調整するものであり、上流圧力調整機構Lにより調整された流体の圧力は、上流圧力調整機構Hにより調整された流体の圧力よりも低くなるように圧力調整を行うようになっている。但し、両圧力調整機構の基本的な構成は、圧力調整値が異なる点を除き同一であるため、ここでは、上流圧力調整機構Lを例に採り説明する。
図11は、上流圧力調整機構Lの内部構造を示す縦断側面図である。上流圧力調整機構Lは、圧力調整機構の外殻をなす筺体部255を備える。筐体部255内には、筐体部255の内部と外部との圧力差により可動する受圧部材251と、受圧部材251の動作を緩和するように作用するバネ部材252と、受圧部材251とバネ部材252とに連動して動く弁体253とが設けられている。受圧部材251は、所定の剛性を有する受圧板251aと、受圧板251aの周囲に設けられたシート状の可撓性部材251bとにより構成されている。可撓性部材251bは受圧板251aと筐体部255との間を封止しており、筐体部255内に流入した流体が受圧板251aと筐体部255の間から外部へ漏出するのを阻止し、かつ受圧板251aの可動性を阻害しない部材によって構成されている。受圧板251aは、シャフト256を介して弁体253に連結されており、弁体253と一体に移動する。また、シャフト256は筐体部255に形成されたオリフィス255aに所定の隙間が形成されるように遊挿されており、この隙間を通じて圧力調整室257と液体連通室258とが連通可能となっている。なお、液体連通室258は、この圧力調整機構Lより上流側に位置する共通回収流路212に連通し、その内部には弁体253およびバネ部材252が収容されている。また、圧力調整室257は、受圧部材251と筐体部255とにより形成され、圧力調整機構Lより下流側に位置する共通回収流路212に連通している。
このように構成された圧力調整機構Lでは、共通回収流路212から液体連通室258内にインクが流入する。このとき、弁体256が筐体部255と接触してオリフィス255aを閉塞した状態、すなわち弁体253が閉(CLOSE)となっている状態では、液体連通室258から圧力調整室257へのインクの流入は遮断される。また、弁体256が筐体部255から離間してオリフィス255aと弁体256との間に隙間が形成された状態、すなわち弁体253が開(OPEN)となった状態では、液体連通室258内に流入したインクはオリフィス255aを経て圧力調整室257に流入する。
弁体256の開閉は、圧力調整室257の減圧、加圧によって行われる。圧力調整室257が加圧されると、受圧板251aは圧力調整室256を拡大させる方向、つまり筐体部255から離間する方向へと移動し、シャフト256を介して弁体253を筐体部255に密接させ、オリフィス255aを閉塞する(弁体253が閉となる)。これに対し、圧力調整室257が減圧されると、受圧板251aは圧力調整室257を縮小させる方向、つまり筐体部255に近づく方向に移動する。その結果、シャフト256に押圧されて弁体253は筐体部255から離間し、オリフィス255aを介して液体連通室258と圧力調整室257とが連通した状態(弁体253が開)となる。弁体253が開となることにより、液体連通室258内のインクはオリフィス255aを経て圧力調整室257に流入する。このように、圧力調整機構Lでは、下流側を減圧すると弁体253が開き、下流側を加圧すると弁体253が開く逆止弁構造をなしている。
また、圧力調整機構Lでは、弁体253を通過する液体の流量が少ない時には弁体253の開き具合(開度)が小さく、流抵抗が大きくなる。逆に、流量が多い時には弁体253の開度が大きく、流抵抗が小さくなる。このように、本実施形態における圧力調整機構Lは、弁体253を通過するインク流量が変化した場合に、弁体253を通過する時に生じる圧力損失の変化を小さくすることを特徴の一つとしている。つまり、弁体253の開き具合により、流量に拘りなく弁体253の下流の圧力を一定の範囲に制御することができる。但し、弁体253が開ききってしまうと圧力制御が不能になるため、圧力制御可能な流量には上限がある。
以上、上流圧力調整機構Lについて説明したが、上流圧力調整機構Hについても同様の構成を有し、同様の機能を有する。上流圧力調整機構Hと下流圧力調整機構Lとの違いは、共通供給流路211に接続され、共通供給流路211の圧力が、共通回収流路212より高い圧力に保つように設定されている点である。
上流圧力調整機構H、Lの各々によって制御する圧力については、接続部231の圧力が接続部232の圧力よりも高く、接続部231eの圧力が接続部232eの圧力よりも高くなるように設定してあればよい。例えば、共通供給流路211に配置された上流圧力調整機構Hの方が、共通回収流路212に配置された上流圧力調整機構Lよりも高くなるようにする。さらに、上流圧力調整機構Hの出口から接続部231までの流路抵抗と上流圧力調整機構Lの出口から接続部232までの流路抵抗との差が小さくなるようにする。これによって、接続部231の圧力が接続部232の圧力よりも高くなるようにする。
制御する圧力を上流圧力調整機構Hと上流圧力調整機構Lとで異ならせる方法としては、バネ部材252のバネ定数や、弁体バネの動作時の長さを異ならせることによって、動作時のバネ荷重を異ならせる方法がある。また他の方法として、受圧部材21の大きさを異ならせ、筺体内外の圧力差を受ける面積を異ならせる方法、あるいは、弁体253の面積を変えて、筺体内の弁構造通過前後の圧力差を受ける面積を異ならせる方法などが挙げられる。
また、上流圧力調整機構Hの制御圧力値と上流圧力調整機構Lの制御圧力値が同程度であっても、上流圧力調整機構H、Lの設置高さを変えて圧力差を生じさせることも可能である。さらに、上流圧力調整機構Hの出口から接続部231までの流路抵抗を上流圧力調整機構Lの出口から接続部232までの流路抵抗よりも小さくして、圧力損失に差を生じさせ、接続部231の圧力を接続部232の圧力よりも高くするようにしてもよい。同様に、接続部231から接続部231eで発生する圧力損失が接続部232から接続部232eで発生する圧力損失と同等または小さくなるようにし、結果的に接続部231eの圧力が接続部232eの圧力よりも高くなるようにすればよい。
上記構成において、液体吐出ヘッド3に対するインクの充填・回復動作は、下流共通流路162上に配置した弁237を閉じ、上流圧力調整機構H、Lの受圧部材21を空気による加圧または機械的な加圧によって強制的に弁を開けて行うことも可能である。但し、この場合には、第2循環ポンプ1004によって加圧を行うと、液体吐出ヘッド3内に気泡が残留してしまうため、充填・回復時に接続部231eと弁237の間、接続部232eと弁237との間の流路内に気泡が残留する可能性がある。
そこで、本実施形態では、充填・回復動作時に接続部231eから弁237に至る流路内の残留気泡、および接続部232eから弁237に至る流路内の気泡残留の抑制を行う。これは、弁237を閉じずに共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160へのインクの充填・回復を行うことによって可能となる。この充填・回復における一連の動作を図12のフローチャートに、充填・回復時におけるインクの流れを図13にそれぞれ示す。
充填・回復モードに移行する信号が入力(ON)されると弁237、238を開く(OPEN)(S301)。その後、上流圧力調整機構H、Lの受圧部材21を空気による加圧または機械的な加圧によって強制的に上流側圧力調整機構H、Lの弁体253を開く(S302)。次いで、弁体253を開いた状態で第2循環ポンプ1004を駆動(ON)し、図13(a)に示すように、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160にインクを充填する(S304)。これにより、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160内に存在する気泡を、下流共通流路162を通して液体吐出ヘッド3より下流へ排出する。
続いて、弁237を閉じ(CLOSE)、第2循環ポンプ1004によって加圧することにより、図13(b)に示すように、個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10に対してインクの充填を行う(S306)。これにより、個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10内の気泡は吐出口13から排出され、吐出・回復は完了する。最後に、弁237を開き、ポンプ1004をOFFとした後(S307、308)、上流圧力調整機構H、Lの受圧部材251への加圧を解放して(FREE)、一連の充填・回復動作を終了する。
このようにして充填・回復動作を行った後、吐出モードに移行する信号が入力されると、図5(b)に示すフローチャートに従って動作を行う。この吐出モードでは、図13(c)に示すように、弁237を開けた状態で、第2循環ポンプ1004と第1循環ポンプ1012の一方または両方を動作させてインクを流す。このとき既に液体吐出ヘッド3内の各流路および共通流路160内の気泡の残留は抑制された状態にあるため、図13(c)の矢印に示すようなインクの循環が、気泡に妨げられることなく適正に行なわれ、インク吐出口はインク吐出に適した状態となる。
また、前述の充填・回復動作と吐出動作を続けて行う場合には、図12(b)のフローチャートに示すように、充填・回復動作の終盤に第2循環ポンプ1004をOFFにせず、弁237を閉じればよい。なお、図12(b)に示すフローチャートにおけるS311〜S317の動作は、図12(a)のS301〜S317の動作と同様である。図12(a)に示す動作と、図12(b)に示す動作との違いは、弁体237を開とした後、上流圧力調整機構H、Lの解放動作を行う点(S318)、および、第1循環ポンプ1012を駆動する点(S319)である。
以上で述べたように、第2の実施形態では、共通供給流路211と共通回収流路212、共通流路160へインクを充填して気泡を排出した後、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214へのインクの充填を行う。これにより、液体吐出ヘッド3内の気泡の残留を抑制することができる。
さらに本実施形態では第1の実施形態と同様、充填動作時に接続部231eと接続部232eの圧力が大気圧以上であることが好ましい。また、本実施形態では第1の実施形態と同様、回復動作時に空気が共通供給流路211や共通回収流路212に流入しない負圧範囲にとどめる必要がある。
また、本実施形態における液体吐出ヘッド3は、第1の実施形態と同様、図24に示すように、記録素子基板10が1つの構成でも成り立つ。
さらに本実施形態における液体吐出ヘッドは、1つの上流圧力調整機構311のみを設けた構成とすることも可能である。例えば、図15に示すように、上流共通流路161上に上流圧力調整機構311を配置し、接続部235の分岐から接続部232までの圧力損失が接続部235から接続部231までの圧力損失よりも大きくなるようにしてもよい。すなわち、接続部235から接続部232までの流路抵抗が接続部235から接続部231までの流路抵抗よりも大きくなる構造、例えば絞りなどの抵抗を追加する等して、接続部231の圧力の方が接続部232の圧力よりも高くなるように構成されていればよい。
さらに本実施形態における第1の変形例として、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214にインクを充填・回復する時、共通供給流路211と共通回収流路212、共通流路160を流れるインクの方向を逆にすることも可能である。この場合、弁237が不要になり、構成を簡略化することができる。
ここで、第2の実施形態における第1の変形例の動作を図16のフローチャートおよび図17の動作説明図などを参照しつつ説明する。充填・回復モードに移行する信号が入力されると、共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路160に対するインクの充填が行われる(S401〜404)。次に、S405において第2循環ポンプ1004の駆動を停止すると共に、上流圧力調整機構H、Lの弁体253を強制的に閉じるために加えていた力を解除した状態(FREE)で、第1循環ポンプ1012を逆方向に駆動(ON)する(S407)。これにより、下流共通流路162から液体吐出ヘッド3へとインクが逆流し、上流圧力調整機構H、Lに設けられた弁体253が加圧されて自動的に閉じる(AUTO CLOSE)(S408)。その結果、共通供給流路211および共通回収流路212が上流圧力調整機構H、Lによって遮断され、第1循環ポンプ1012による加圧によって記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214にインクが充填される。このインクの充填により記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路21内に存在していた気泡は吐出口から排出される。
また、弁237、238、上流圧力調整機構H、Lを開き、第1循環ポンプ1012を逆方向へ駆動して上流共通流路161へとインクを流すことで、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212へのインクの充填・回復を行うことも可能である。
図18および図19は、第2の実施形態における第2の変形例を示す図である。この第2の変形例では、インクの流れを逆転させ得る構成において、図18のフローチャートに示す動作を行うことにより、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212の圧力損失が大きい場合にも、確実に充填・回復を行うことが可能になる。この充填・回復動作では、まず、弁237を閉じ、上流圧力調整機構H、Lを開いた状態で、第2循環ポンプ1004を順方向へと駆動し、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160に対してインクの充填・回復を行う(S501〜504)。次に、弁237を閉じ、第2循環ポンプ1004の順方向への駆動を行う。これにより、図19(a)に示すように、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214の中で、インクの充填に必要な圧力が確保できる部分、すなわち第2循環ポンプ1004に近い部分に対してインクが充填される(S505、506)。その後、第2循環ポンプ1004の駆動を停止すると共に、上流圧力調整機構H、Lの受圧部材251に加えていた力を解放し、弁237を開けた状態で、第1循環ポンプ1012を逆方向に駆動する(S507〜510)。第1循環ポンプ1012の逆方向への駆動によって、上流圧力調整機構H、Lに設けられた弁体253は自動的に閉じられ、インクは、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214へと充填される。このとき、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214には、インクの充填に必要な圧力が確保できる部分、すなわち第1循環ポンプ1012に近い部分にインクが充填されることとなる。これにより、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214の全域にわたってインクが充填されることとなる。
(第3の実施形態)
次に、本発明の第3の実施形態を図20ないし図29を参照しつつ説明する。なお、この第3の実施形態においても、図1ないし図3に示す構成を備えるものとし、図20ないし図29において、上記第1、第2の実施形態と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。
図20は、第3の実施形態におけるインクの供給・回収流路を模式的に示す説明図である。本実施形態は、吐出口13内のインク循環流速を安定化させるため、共通供給流路211と共通回収流路212の圧力差を一定の範囲内に保つ機能を有する圧力調整機構を記録素子基板10の下流側(接続部231eと236の間)に配置した構成を備える。具体的には、共通供給流路211において、記録素子基板10と個別共通流路213との接続部231eより下流側の位置に下流圧力調整機構Hを配置している。また、共通回収流路212において、記録素子基板10と個別回収流路214との接続部232eより下流側の位置に下流圧力調整機構Lを配置している。上流圧力調整機構H、Lは、いずれも、内部を通過した後の流体の圧力を調整するものであり、下流圧力調整機構Lにより調整された流体の圧力は、上流圧力調整機構Hにより調整された流体の圧力よりも低くなるように圧力調整を行うようになっている。但し、両圧力調整機構の基本的な構成は、圧力調整値が異なる点を除き同一であるため、ここでは、下流側力調整機構Lを例に採り説明する。
第3の実施形態では、筺体部265内に形成された上流側と下流側の2つの空間領域のうち、上流側の空間領域を圧力を調整するための圧力調整室267とし、下流側の空間領域を液体連通室268としており、この点が第2の実施形態の圧力調整機構Lと異なる。以下、第3の実施形態における下流圧力調整機構Lの具体的な構成を説明する。
図21は、下流圧力調整機構Lの内部構造を示す縦断側面図である。下流圧力調整機構Lは、下流圧力調整機構の外殻をなす筺体部265を供える。筐体部265内には、筐体部265の内部と外部との圧力差により可動する受圧部材261と、受圧部材261の動作を緩和するように作用するバネ部材262と、受圧部材261とバネ部材262とに連動して動く弁体263とが設けられている。なお、図中、269はバネ部材262の一端部に圧接するバネ受け部材である。受圧部材261は、所定の剛性を有する受圧板261aと、受圧板261aの周囲に設けられたシート状の可撓性部材261bとにより構成されている。可撓性部材261bは受圧板261aと筐体部265との間を封止しており、筐体部265内に流入した流体が受圧板261aと筐体部265の間から外部へ漏出するのを阻止し、かつ受圧板261aの可動性を阻害しない部材によって構成されている。受圧板261aには弁体263が固定され、弁体263はシャフト266を介してバネ受け部材268に連結されている。このため、受圧板261a、弁体253およびバネ受け部材269は一体に移動する。また、シャフト266は筐体部265に形成されたオリフィス265aに所定の隙間が形成されるように遊挿されており、この隙間を通じて圧力調整室267と液体連通室268とが連通可能となっている。なお、圧力調整室267は、受圧部材261と筐体部265とにより形成され、この下流圧力調整機構Lより上流側に位置する共通回収流路212に連通している。この圧力調整室267の内部には弁体263が収容されている。また、液体連通室268は、この下流圧力調整機構Lより下流側に位置する共通回収路212に連通したており、その内部にバネ部材262およびバネ受け部材269が収容されている。
このように構成された第3の実施形態における下流圧力調整機構Lでは、共通回収流路212から圧力調整室267内にインクが流入する。このとき、弁体266が筐体部265と接触してオリフィス265aを閉塞した状態、すなわち弁体263が閉(CLOSE)となっている状態では、圧力調整室267から液体連通室268へのインクの流入は遮断される。また、弁体266が筐体部265から離間してオリフィス265aと弁体266との間に隙間が形成された状態、すなわち弁体263が開(OPEN)となった状態では、圧力調整室267内に流入したインクはオリフィス265aを経て液体連通室268に流入する。
弁体266の開閉は、圧力調整室267の減圧、加圧によって行われる。圧力調整室257が減圧されると、受圧板261aは圧力調整室256を縮小させる方向、つまり筐体部265に近づく方向へと移動する。これにより、受圧板261aに固定されている弁体263も同方向へと移動し、筐体部255に密接してオリフィス265aを閉塞する(弁体263が閉となる)。これに対し、圧力調整室265が加圧されると、受圧板261aは圧力調整室267を拡大させる方向、つまり筐体部265から離れる方向に移動する。その結果、受圧板261aと共に弁体253も同方向へと移動して筐体部255から離間し、オリフィス265aを介して圧力調整室267と液体連通室268とが連通した状態(弁体263が開)となる。弁体263が開となることにより、圧力調整室267内のインクは、オリフィス265aを経て液体連通室268内に流入する。このように、下流圧力調整機構Lでは、上流側を加圧すると弁体263が開き、上流側を減圧すると弁体263が閉じる逆止弁構造をなしている。
また、下流圧力調整機構Lでは、弁体263を通過する液体の流量が少ない時には弁体263の開き具合(開度)が小さく、流抵抗が大きくなる。逆に、流量が多い時には弁体263の開度が大きく、流抵抗が小さくなる。このように、この第3の実施形態における下流圧力調整機構Lにあっても、弁体263を通過するインク流量が変化した場合に、弁体263を通過する時に生じる圧力損失の変化を小さくすることを特徴の一つとしている。但し、弁体263が開ききってしまうと圧力制御が不能になるため、圧力制御可能な流量には上限がある。
以上、下流圧力調整機構Lについて説明したが、下流圧力調整機構Hについても同様の構成を有し、同様の機能を有する。上流圧力調整機構Hと下流圧力調整機構Lとの違いは、共通供給流路211に接続され、共通供給流路211の圧力が、共通回収流路212より高い圧力に保つように設定されている点である。
また下流圧力調整機構H、Lが制御する圧力値については、接続部231の圧力が接続部232の圧力よりも高く、接続部231eの圧力が接続部232eの圧力よりも高くなるように設定されていればよい。例えば、共通供給流路211に配置された下流圧力調整機構Hの方が、共通回収流路14上の下流圧力調整機構Lよりも高くなるようにする。さらに、下流圧力調整機構Hの入口から接続部231eまでの流路抵抗と、下流圧力調整機構Lの入口から接続部232eまでの流路抵抗の差が小さくなるようにする。これによって接続部231eの圧力が接続部232eの圧力よりも高くなるようにする。制御する圧力を、下流圧力調整機構Hと下流圧力調整機構Lとで異ならせる方法は、第2の実施形態2と同様である。
また、下流圧力調整機構Hの制御圧力値と下流圧力調整機構Lの制御圧力値が同程度であっても、下流圧力調整機構H、Lの設置高さを変えて圧力差を生じさせることも可能である。さらに、下流圧力調整機構Hの入口から接続部231eまでの流路抵抗を下流圧力調整機構Lの入口から接続部232eまでの流路抵抗よりも小さくして、圧力損失に差を生じさせ、接続部231eの圧力を接続部232eの圧力よりも高くするようにしてもよい。同様に、接続部231から接続部231eで発生する圧力損失が接続部232から接続部232eで発生する圧力損失と同等または小さくなるようにし、結果的に接続部231の圧力が接続部232の圧力よりも高くなるようにすればよい。
上記構成において、液体吐出ヘッド3のインク充填・回復動作は、下流共通流路162上に配置した弁237を閉じた状態で第2循環ポンプ1004により加圧を行うと、液体吐出ヘッド3内に気泡が残留する可能性がある。
このため、本実施形態では、充填・回復時に接続部231eから弁237に至る流路内の残留気泡、および接続部232eから弁237に至る流路内の残留気泡を抑制すると共に、下流圧力調整機構L、H内の残留気泡の抑制も行う。これは、弁237を閉じずに共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160へのインクの充填・回復を行うことにより可能となる。この充填・回復における一連の動作を図22のフローチャートに、充填・回復時におけるインクの流れを図232にそれぞれ示す。
充填・回復モードに移行する信号が入力(ON)されると、弁237を開いた後(OPEN)(S601)、第2循環ポンプ1004を駆動(ON)して加圧を行う(S602)。この加圧により下流圧力調整機構H、Lの弁体256が自動的に開き、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160にはインクが充填される。これにより、各流路211、212、160に残留していた気泡は下流供給通路162を経て下流へと排出される。続いて、弁237を閉じ(CLOSE)、第2循環ポンプ1004によって加圧することにより、図23(b)に示すように、個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10に対してインクの充填を行う(S606)。これにより、個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10内の気泡は吐出口13から排出される。以上の動作により、個別共通流路213、個別回収流路214、記録素子基板10への充填・回復動作は完了する。最後に、弁237を開き、第2循環ポンプ1004の駆動をOFFにして、一連の充填・回復動作を終了する。
吐出モードに移行する信号が入力されると、弁237を開けた状態で、図5(b)に示すフローチャートに示すように、第2循環ポンプ1004と第1循環ポンプ1012の一方または両方を動作させる(S108)。このとき既に液体吐出ヘッド3内の各流路および共通流路160内の気泡の残留は抑制された状態にあるため、図6(c)の矢印に示すようなインクの循環が、気泡に妨げられることなく適正に行なわれ、インク吐出口13はインク吐出に適した状態となる。
また、充填・回復動作と吐出動作を続けて行う場合には、充填・回復動作の最後に第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)させず、図22(b)に示すように第1循環ポンプ1012を駆動して、液体吐出ヘッド3内のインクを循環させればよい。
以上のように本実施形態では、共通供給流路211と共通回収流路212、共通流路160にインクを充填して気泡を排出した後、記録素子基板10と個別共通流路213、個別回収流路214へインクを充填する。これにより、液体吐出ヘッド3内の気泡残留を抑制し、液体吐出ヘッド3に良好な吐出性能を維持することができる。
さらに本実施形態では第1の実施形態と同様に、充填動作時に接続部231eと接続部232eの圧力が大気圧以上となっていることが好ましい。また、回復動作時には、空気が共通供給流路211や共通回収流路212に流入しない負圧範囲にとどめる必要がある。さらに本実施形態においても、図24に示すように、記録素子基板10が1つの構成でも成り立つ。
さらに本実施形態における液体吐出ヘッド3は第2の実施形態と同様、少なくとも1つの下流圧力調整機構があればよい。図25に示す液体吐出ヘッドでは、共通流路160上に下流圧力調整機構312を配置し、接続部232eから接続部236までの圧力損失が、接続部231eから接続部236までの圧力損失よりも大きくなるように構成されている。すなわち、接続部232eから接続部236までの流路抵抗が接続部231eから接続部236までの流路抵抗よりも大きくなるように構成されている。この構成としては、例えば絞りなどの抵抗を追加することが挙げられるが、他の手段をとることも可能である。要は、接続部231eの圧力の方が接続部232eの圧力よりも高くなるように圧力制御がなされる構成であればよい。
本実施形態における記録ヘッドへインクを充填・回復する際、下流圧力調整機構H、Lの受圧部材251を空気による加圧または機械的に加圧することで強制的に弁を閉じてもよい。本構成であれば、弁237が不要になり、構成を簡略化することができる。記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214へインクを充填するために第2循環ポンプ1004から下流共通流路162へとインクを送るとき、下流圧力調整機構H、L内の弁構造を使用することもできる。すなわち、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160のか下流側を下流圧力調整機構H、Lを閉塞させることで、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214へのインク充填が可能となる。
本実施形態において、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214に対する充填・回復を、共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路160に流れるインクの方向を逆にして行うためには、弁238が必要となる。図26は、第3の実施形態における第1の変形例を示すフローチャート、図27はこの第1の変形例における充填・回復動作時のインクの流れを示す図である。
充填・回復モードに移行する信号が入力されると、弁237、238を開いた後(OPEN)(S701)、第2循環ポンプ1004を駆動(ON)して(S702)、共通供給流路211、共通回収流路212、共通流路160へインクが充填されるまで待機する。その後、第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)し、弁238を閉じる(S704、705)。次いで、第1循環ポンプ1012を逆方向に駆動して加圧すると(S706)、下流圧力調整機構H、Lの弁体253は自動的に開き、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214にインクが充填される。
また、弁237、238を開け、第1循環ポンプ1012を逆方向へ駆動して上流共通流路161へとインクを流すことにより、共通流路160、共通供給流路211、共通回収流路212に対する充填・回復動作を行うことも可能である。
図28は第3の実施形態における第2変形例における充填・回復動作を示すフローチャート、図29は第2変形例における充填・回復動作時のインクの流れを示す説明図である。この変形例では、インクの流れを逆転させ得る構成において、図28のフローチャートに示す動作を行うことにより、共通流路160、共通供給流路211、および共通回収流路212の圧力損失が大きい場合にも、確実に充填・回復を行うことが可能になる。
充填・回復モードに移行する信号が入力されると、まず、弁237、238を開いた状態で、第2循環ポンプ1004を順方向へと駆動し、共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路160に対してインクの充填・回復を行う(S801〜803)。次に、弁237を閉じると(S804)、順方向へ駆動されている第2循環ポンプ1004によって、充填・回復動作が行われる。この充填・回復動作では、図29(a)に示すように、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214の中でインクの充填に必要な圧力が確保できる部分、すなわち第2循環ポンプ1004に近い部分に対してインクが充填される(S805)。その後、第2循環ポンプ1004の駆動を停止(OFF)する(S807)。ここで弁238を閉じ(S808)、第1循環ポンプ1012を逆方向に駆動する(S809)。この第1循環ポンプ1012の逆方向への駆動(ON)によって、上流圧力調整機構H、Lに設けられた弁体253は自動的に閉じられ、インクは、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214に充填される(S810)。このとき、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214には、図29(b)に示すように、インクの充填に必要な圧力が確保できる部分、すなわち第1循環ポンプ1012に近い部分にインクが充填されることとなる。これにより、記録素子基板10、個別共通流路213、個別回収流路214の全域にわたってインクが充填されることとなる。充填・回復が完了すると、最後に弁238を開き(S811)、第1循環ポンプ1012の駆動を停止(OFF)して(S812)、一連のインクの充填・回復動作が終了する。
(第4の実施形態)
図30は、本発明に係る第4の実施形態における液体吐出装置の概略構成を示す側面図である。なお、図1に示す構成と同一もしくは相当部分には同一符号を付し、重複説明は省略する。この第4の実施形態は、2つのインクタンク1013、1014を備えることで、上記第1ないし第3の実施形態とは異なる方法でインクの循環を行う。例えば、2つのインクタンク1013、1014の設置高さを変え、水頭の違いにより圧力差を発生させることにより、インクを流す動力として使用していたポンプが不要になり、装置コストを削減できる。
また、図30に示す例では、インクタンク1013の液面をインクタンク1014の液面より高くしたことによって発生する水頭差を利用している。すなわち、インクタンク1013から上流共通流路161を通して共通供給流路211、共通回収流路212へとインクが供給される。各流路211、212に供給されたインクは個別供給流路211、吐出口、個別回収流路212を通って共通回収流路232へと排出される部分と、共通供給流路12、共通回収流路212を流れる部分とに分離された後、下流共通流路162へと送られてインクタンク1014に回収される。
インクタンク1014へ回収されたインクは、再利用可能であれば、ポンプや水頭差を用いて再び吐出に使用することができる。これは、弁237を閉じ、弁239を開いた状態でインクタンク1014の液面をインクタンク1013の液面より高くすれば、水頭差によってインクタンク1014からインクタンク1013へとインクを戻すことができる。また、46のポンプ等、圧力差を発生させる装置を用いる事で、水頭差と同様に、インクタンク1014からインクタンク1013へインクを戻すことができる。また、インクの吐出時において、インクタンク1014を上流、インクタンク1013を下流とし、逆流させて循環流を発生させる構成を用いることも可能である。
以上のように、2つの分離したインクタンクを液体吐出ヘッド3の上流と下流とに設け、両インクタンク圧力差を生じさせれば、第1ないし第3の実施形態と同様に、液体吐出ヘッド3の中で、インクを循環させることが可能になる。
また、第2の実施形態、および第3の実施形態で示した、上流圧力調整機構と下流圧力調整機構の双方を用いて圧力を制御して、液体吐出ヘッド3内のインクを循環させることも可能である。
このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、液体吐出ヘッド3にインク循環流を生じさせることができる。このため、吐出口からの水分蒸発による液滴の吐出速度低下や色材濃度の変調を抑制することが可能となり、より高精度で高品位な画像形成が可能となる。
次に、本発明に係る液体吐出装置の各部をより具体的に示した、第5および第6の実施形態を説明する。
(第5の実施形態)
次に、本発明の第5の実施形態を説明する。この第5の実施形態では、本発明に係る液体吐出装置の各部のより具体的な構成を示している。
(インクジェット記録装置の説明)
図31は、本発明の液体を吐出する液体吐出装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置(以下、記録装置とも称す)1000の概略構成を示した図である。記録装置1000は、記録媒体2を搬送する搬送部1と、記録媒体2の搬送方向と略直交して配置されるライン型の液体吐出ヘッド3とを備え、複数の記録媒体2を連続的もしくは間欠的に搬送しながら1パスで記録を行うライン型記録装置である。液体吐出ヘッド3は循環経路内の圧力(負圧)を制御する負圧制御ユニット230と、負圧制御ユニット230と流体連通した液体供給ユニット220と、液体供給ユニット220へのインクの供給および排出口となる液体接続部111と、筺体80とを備えている。記録媒体2は、カット紙に限らず、連続したロール媒体であってもよい。液体吐出ヘッド3は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクによるフルカラー記録が可能であり、液体を液体吐出ヘッド3へ供給する供給路である液体供給手段、メインタンクおよびバッファタンク(後述する図2参照)が流体的に接続される。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。液体吐出ヘッド3内における液体経路および電気信号経路については後述する。
記録装置1000は、インク等の液体を後述するタンクと液体吐出ヘッド3との間で循環させる形態のインクジェット記録装置である。その循環の形態は、液体吐出ヘッド3の下流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を稼動することで循環させる第1循環形態と、液体吐出ヘッド3の上流側で2つの循環ポンプ(高圧用、低圧用)を稼動することで循環させる第2循環形態とがある。以下、この循環の第1循環形態と第2循環形態とについて説明する。
(循環形態の説明)
図32は、本実施形態の記録装置1000に適用される循環経路の第1循環形態を示す模式図である。液体吐出ヘッド3は、第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002およびバッファタンク1003等に流体的に接続されている。なお図32では、説明を簡略化するため、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKのインクの内の1色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が、液体吐出ヘッド3および記録装置本体に設けられる。
第1循環形態では、メインタンク1006内のインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給され、その後、第2循環ポンプ1004によって液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3の液体供給ユニット220に供給される。その後、液体供給ユニット220に接続された負圧制御ユニット230で異なる2つの負圧(高圧、低圧)に調整されたインクは、高圧側と低圧側の2つの流路に分かれて循環する。液体吐出ヘッド3内のインクは、液体吐出ヘッド3の下流にある第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ヘッド内を循環し、液体接続部111を介して液体吐出ヘッド3から排出されてバッファタンク1003に戻る。
サブタンクであるバッファタンク1003は、メインタンク1006と接続され、タンク内部と外部とを連通する不図示の大気連通口を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003とメインタンク1006との間には、補充ポンプ1005が設けられている。補充ポンプ1005は、インクを吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッド3の吐出口からインクを吐出(排出)することによって消費されたインクをメインタンク1006からバッファタンク1005へ移送する。
2つの第1循環ポンプ1001、1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1003へ流す。第1循環ポンプとしては、定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であってもよい。液体吐出ヘッド3の駆動時には、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002を稼働することによって、それぞれ共通供給経路211、共通回収流路212内を所定流量のインクが流れる。このようにインクを流すことで、記録時の液体吐出ヘッド3の温度を最適の温度に維持している。液体吐出ヘッド3駆動時の所定流量は、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が記録画質に影響しない程度に維持可能である流量以上に設定することが好ましい。もっとも、あまりに大きな流量に設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり画像の濃度ムラが生じてしまう。そのため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら流量を設定することが好ましい。
負圧制御ユニット230は、第2循環ポンプ1004と液体吐出ユニット300との間の経路に設けられている。この負圧制御ユニット230は、単位面積あたりの吐出量の差等によって循環系におけるインクの流量が変動した場合でも、負圧制御ユニット230よりも下流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力を予め設定した一定圧力に維持するように動作する。負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構としては、負圧制御ユニット230よりも下流の圧力を、所望の設定圧を中心として一定の範囲以下の変動で制御できるものであれば、どのような機構を用いてもよい。一例としては所謂「減圧レギュレータ」と同様の機構を採用することができる。本実施形態における循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の上流側を加圧している。このようにすると、バッファタンク1003の液体吐出ヘッド3に対する水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの自由度を広げることができる。
第2循環ポンプ1004としては、液体吐出ヘッド3の駆動時に使用するインク循環流量の範囲において、一定圧以上の揚程圧を有するものであればよく、ターボ型ポンプや容積型ポンプなどを使用できる。具体的には、ダイヤフラムポンプ等が適用可能である。また第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対してある一定の水頭差をもって配置された水頭タンクでも適用可能である。図232に示したように負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの圧力調整機構の内、相対的に高圧設定側(図232でHと記載)、相対的に低圧側(図232でLと記載)は、それぞれ、液体供給ユニット220内を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211、共通回収流路212に接続されている。液体吐出ユニット300には、共通供給経路211、共通回収流路212、各記録素子基板と連通する個別流路213(個別供給流路213a、個別回収流路213b)が設けられている。共通供給流路211には、圧力調整機構Hが、共通回収流路212には圧力調整機構Lが接続されており、2つの共通流路間に差圧が生じている。そして、個別流路213は、共通供給経路211および共通回収流路212と連通しているので、液体の一部が、共通供給流路211から記録素子基板10の内部流路を通過して共通回収流路212へと流れる流れ(図232の矢印)が発生する。
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211および共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212を流れるインクによって記録素子基板10の外部へ排出することができる。またこのような構成により、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることができる。これによって、吐出口内で増粘したインクの粘度を低下させることで、インクの増粘を抑制することができる。また、増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、本実施形態の液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
さらに、この第1循環形態において液体吐出ヘッドに対する充填・回復を行う場合には、まず、共通供給流路211と共通回収流路212、およびこれらの流路に接続される共通流路へインクを充填して気泡を排出する。その後、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214へのインクの充填を行う。これにより、液体吐出ヘッド3内の気泡の残留を抑制することができる。具体的には、次のような動作を行うことによって液体吐出ヘッド3の充填・回復を行う。まず、第2循環ポンプ1004、第1循環ポンプ1001、1002を共に駆動すると共に、負圧制御ユニット230内の弁を開放する。この駆動により、インクは、第2循環ポンプ1004から負圧制御ユニット230、液体供給ユニット220、液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220を経て第1循環ポンプ1001、1002に至り、バッファタンク1003に回収される。このインクの流動により、液体吐出ヘッド3の共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路内に存在していた気泡は液体吐出ヘッド3の外部へと排出される。その後、第1循環ポンプ1001、1002の駆動を停止し、液体吐出ヘッド3より下流で、バッファタンク1003との間に配置された不図示の弁を閉じ、第2循環ポンプ1004のみを駆動して加圧を行う。これにより、液体吐出ヘッド3に設けられた個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10の内部流路に対する充填・回復が行われる。
(第2循環形態の説明)
図33は、本実施形態の記録装置に適用される循環経路のうち、上述した第1循環形態とは異なる循環形態である第2循環形態を示す模式図である。前述の第1循環形態との主な相違点は、負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が共に、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力の変動を、所望の設定圧を中心として一定範囲内に抑えるように制御する点である。また、第1循環形態との相違点として、第2循環ポンプ1004が負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用する点がある。更に、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置され、負圧制御ユニット230が液体吐出ユニット300の下流側に配置されている点も相違する点である。
第2循環形態では、メインタンク1006内のインクは、補充ポンプ1005によってバッファタンク1003に供給される。その後インクは2つの流路に分けられ、液体吐出ヘッド3に設けられた負圧制御ユニット230の作用で高圧側と低圧側の2つの流路で循環する。高圧側と低圧側の2つの流路に分けられたインクは、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ヘッド3に液体接続部111を介して供給される。その後、第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002の作用で液体吐出ユニット300内を循環したインクは、液体供給ユニット220および負圧制御ユニット230を経て、液体接続部111から排出される。排出されたインクは、第2循環ポンプ1004によってバッファタンク1003に戻される。
第2循環形態で負圧制御ユニット230は、単位時間あたりの吐出量の変化によって生じる流量の変動があっても、負圧制御ユニット230の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を予め設定された圧力を中心として一定範囲内に抑える。本実施形態の循環流路では、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧している。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。第2循環形態は第1循環形態と同様に、負圧制御ユニット230は、それぞれが互いに異なる制御圧が設定された2つの圧力調整機構を備えている。2つの圧力調整機構の内、高圧設定側(図33でHと記載)、低圧設定側(図3でLと記載)はそれぞれ、液体供給ユニット220を経由して、液体吐出ユニット300内の共通供給経路211および共通回収流路212に接続されている。2つの圧力調整機構により、共通供給流路211の圧力を共通回収流路212の圧力より相対的に高くすることで、共通供給流路211から、個別流路213a、各記録素子基板10の内部流路、および個別流路213bを介して共通回収流路212へと流れるインク流れが発生する。
このような第2循環形態では、液体吐出ユニット300内には第1循環形態と同様のインク流れ状態が得られるが、第1循環形態の場合とは異なる2つの利点がある。1つ目の利点は、第2循環形態では負圧制御ユニット230が液体吐出ユニット300の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物が液体吐出ユニット300へ流入する懸念が少ないことである。2つ目の利点は、第2循環形態では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1循環形態の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。
記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211および共通回収流路212内の流量の合計を流量Aとする。流量Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整にあたり、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口から同時にインクを吐出する場合(全吐出時)の吐出流量を流量F(1吐出口の1回の吐出動作当りの吐出量×吐出周波数×吐出口数)と定義する。
図34は、第1循環形態と第2循環形態とにおける、液体吐出ヘッド3へのインクの流入量の違いを示した概略図である。図34(a)は、第1循環形態における待機時を示しており、図34(b)は、第1循環形態における全吐出時を示している。図34(c)から図34(f)は、第2循環形態を示しており、図34(c)、(d)が流量F<流量Aの場合で、図34(e)、(f)が流量F>流量Aの場合であり、それぞれ、待機時と全吐出時の流量を示している。
定量的な送液能力を有する第1循環ポンプ(高圧側)1001および第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されている第1循環形態の場合(図34(a)、(b))、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の合計設定流量は流量Aとなる。この流量Aによって、待機時の液体吐出ユニット300内の温度管理が可能となる。そして、液体吐出ヘッド3で全吐出が行われる場合には、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の合計設定流量は流量Aのままであるが、液体吐出ヘッド3の吐出によって生じる負圧が作用して、液体吐出ヘッド3へ供給される最大流量は、合計設定流量の流量Aに全吐出による消費分(流量F)が加算される。よって、液体吐出ヘッド3への供給量の最大値は、流量Fが流量Aに加算されるため流量A+流量Fとなる(図34(b))。
一方で、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態の場合(図34(c)から図34(f))は、記録待機時に必要な液体吐出ヘッド3への供給量は、第1循環形態と同様に流量Aである。従って、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002が液体吐出ヘッド3の上流側に配置されている第2循環形態では、流量Fよりも流量Aが多い場合(図34(c)、(d))には、全吐出時でも液体吐出ヘッド3への供給量は流量Aで十分である。その際、液体吐出ヘッド3からの排出流量は、流量A−流量Fとなる(図34(d))。しかし、流量Aよりも流量Fが多い場合(図34(e)、(f))には、液体吐出ヘッド3への供給流量を流量Aとすると、全吐出時には記録ヘッド3においてインク不足が発生する。そのため、流量Aよりも流量Fが多い場合には、液体吐出ヘッド3への供給流量を流量Fとする必要がある。その際、全吐出が行われると、液体吐出ヘッド3では流量Fが消費されるため、液体吐出ヘッド3からは殆ど液体が排出されない状態となる(図34(f))。なお、流量Aよりも流量Fが多い場合で、吐出は行うが全吐出ではない場合には、流量Fから吐出で消費された分が引かれた量が液体吐出ヘッド3から排出される。
このように、第2循環形態の場合、第1循環ポンプ1001および第1循環ポンプ1002の設定流量の合計値、即ち必要供給流量の最大値は、流量Aまたは流量Fの大きい方の値となる。このため、同一構成の液体吐出ユニット300を使用する限り、第2循環形態における必要供給量の最大値(流量Aまたは流量F)は、第1循環形態における必要供給流量の最大値(流量A+流量F)よりも小さくなる。
そのため第2循環形態の場合、適用可能な循環ポンプの自由度が高まり、例えば構成の簡便な低コストの循環ポンプを使用したり、本体側経路に設置される冷却器(不図示)の負荷を低減したりすることができ、記録装置のコストを低減できるという利点がある。この利点は、流量Aまたは流量Fの値が比較的大きくなるラインヘッドであるほど大きくなり、ラインヘッドの中でも長手方向の長さが長いラインヘッドほど有益である。
しかしながら一方で、第1循環形態の方が、第2循環形態に対して有利になる点もある。すなわち第2循環形態では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、単位面積当たりの吐出量が少ない画像(以下、低デューティ画像ともいう)であるほど、各吐出口に高い負圧が印加された状態となる。このため、流路幅が狭く高い負圧である場合、ムラの見えやすい低デューティ画像で吐出口に高い負圧が印加されるため、インクの主滴に伴って吐出される所謂サテライト滴が多く発生して記録品位が低下する虞がある。
一方、第1循環形態の場合、高い負圧が吐出口に印加されるのは単位面積当たりの吐出量が多い画像(以下、高デューティ画像ともいう)形成時であるため、仮にサテライト滴が発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。これら2つの循環形態のうち、いずれを選択するかは、液体吐出ヘッドおよび記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、およびヘッド内流路抵抗)に照らして決定すればよい。
また、この第2循環形態において液体吐出ヘッドに対する充填・回復を行う場合には、まず、共通供給流路211と共通回収流路212、およびこれらの流路に接続される共通流路へインクを充填して気泡を排出する。その後、記録素子基板10、個別共通流路213、および個別回収流路214へのインクの充填を行う。これにより、液体吐出ヘッド3内の気泡の残留を抑制することができる。
具体的には、次のような動作を行う。まず、第2循環ポンプ1004、第1循環ポンプ1001、1002を共に駆動する。この駆動により、インクは、第1循環ポンプ1001、1002から液体供給ユニット220、液体吐出ユニット300、負圧制御ユニット230、液体供給ユニット220を経て第2循環ポンプ1004に至り、バッファタンク1003に回収される。このインクの流動により、液体吐出ヘッド3の共通供給流路211、共通回収流路212、および共通流路内に存在していた気泡は液体吐出ヘッド3の外部へと排出される。その後、第2循環ポンプ1004の駆動を停止し、液体吐出ヘッド3より下流で、バッファタンク1003との間に配置された不図示の弁を閉じ、第1循環ポンプ1001、1002を駆動して加圧を行う。これにより、液体吐出ヘッド3に設けられた個別供給流路213、個別回収流路214、および記録素子基板10の内部流路に対する充填・回復が行われる。
また、この第5の実施形態においても、第1ないし第4の実施形態と同様に、弁をもしいた充填・回復動作、あるいはインクを逆流させて行う充填・回復動作などを適用することも可能である。
(液体吐出ヘッド構成の説明)
第1の実施形態に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。図35(a)および図35(b)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド3を示した斜視図である。液体吐出ヘッド3は、1つの記録素子基板10でシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックKの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)されるライン型の液体吐出ヘッドである。図35(a)に示すように液体吐出ヘッド3は、各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91および電力供給端子92は、記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ吐出駆動信号および吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91および電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくすることができる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時または液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。図35(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりシアンC/マゼンタM/イエローY/ブラックK4色のインクが記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
図36は、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットを示した分解斜視図である。液体吐出ユニット300、液体供給ユニット220および電気配線基板90が筺体80に取り付けられている。液体供給ユニット220には液体接続部111(図33参照)が設けられるとともに、液体供給ユニット220の内部には、供給されるインク中の異物を取り除くため、液体接続部111の各開口と連通する各色別のフィルタ221(図32、図33参照)が設けられている。2つの液体供給ユニット220は、それぞれに2色分ずつのフィルタ221が設けられている。フィルタ221を通過した液体は、それぞれの色に対応して液体供給ユニット220上に配置された負圧制御ユニット230へ供給される。負圧制御ユニット230は、各色別の圧力調整弁からなるユニットであり、それぞれの内部に設けられる弁やバネ部材などの働きで液体の流量の変動に伴って生じる記録装置1000の供給系内(液体吐出ヘッド3の上流側の供給系)の圧損変化を大幅に減衰させる。これによって負圧制御ユニット230は、圧力制御ユニットよりも下流側(液体吐出ユニット300側)の負圧変化をある一定範囲内で安定化させることが可能である。各色の負圧制御ユニット230内には、図2で記述したように各色2つの圧力調整弁が内蔵されている。2つの圧力調整弁は、それぞれ異なる制御圧力に設定され、高圧側が液体吐出ユニット300内の共通供給流路211(図2参照)、低圧側が共通回収流路212(図2参照)と液体供給ユニット220を介して連通している。
筐体80は、液体吐出ユニット支持部81および電気配線基板支持部82とから構成され、液体吐出ユニット300および電気配線基板90を支持するとともに、液体吐出ヘッド3の剛性を確保している。電気配線基板支持部82は、電気配線基板90を支持するためのものであり、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めによって固定されている。液体吐出ユニット支持部81は、液体吐出ユニット300の反りや変形を矯正して、複数の記録素子基板10の相対位置精度を確保する役割を有し、それにより記録物におけるスジやムラを抑制する。そのため液体吐出ユニット支持部81は、十分な剛性を有することが好ましく、材質としてはSUSやアルミなどの金属材料、もしくはアルミナなどのセラミックが好適である。液体吐出ユニット支持部81には、ジョイントゴム100が挿入される開口83、84が設けられている。液体供給ユニット220から供給される液体は、ジョイントゴムを介して液体吐出ユニット300を構成する第3流路部材70へと導かれる。
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は、図36に示したように長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10および封止材部110(後述する図310参照)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
次に、液体吐出ユニット300に含まれる流路部材210の構成について説明する。図36に示したように流路部材210は、第1流路部材50、第2流路部材60および第3流路部材70を積層したものであり、液体供給ユニット220から供給された液体を各吐出モジュール200へと分配する。また流路部材210は、吐出モジュール200から環流する液体を液体供給ユニット220へと戻すための流路部材である。流路部材210は、液体吐出ユニット支持部81にネジ止めで固定されており、それにより流路部材210の反りや変形が抑制されている。
図37(a)〜(f)は、第1〜第3流路部材の各流路部材の表面と裏面を示した図である。図37(a)は、第1流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される側の面を示し、図37(f)は、第3流路部材70の、液体吐出ユニット支持部81と当接する側の面を示す。第1流路部材50と第2流路部材60とは、夫々の流路部材の当接面である図37(b)と図37(c)が対向するように接合し、第2流路部材と第3流路部材とは、夫々の流路部材の当接面である図37(d)と図37(e)が対向するように接合する。第2流路部材60と第3流路部材70を接合することで、各流路部材に形成される共通流路溝62と71とから、流路部材の長手方向に延在する8本の共通流路(211a、211b、211c、211d、212a、212b、212c、212d)が形成される。これにより色毎に共通供給流路211と共通回収流路212のセットが流路部材210内に形成される。共通供給流路211から液体吐出ヘッド3にインクが供給されて、液体吐出ヘッド3に供給されたインクは共通回収流路212によって回収される。第3流路部材70の連通口72(図37(f)参照)は、ジョイントゴム100の各穴と連通しており、液体供給ユニット220(図36参照)と流体的に流通している。第2流路部材60の共通流路溝62の底面には、連通口61(共通供給流路211と連通する連通口61−1、共通回収流路212と連通する連通口61−2)が複数形成されており、第1流路部材50の個別流路溝52の一端部と連通している。第1流路部材50の個別流路溝52の他端部には連通口51が形成されており、連通口51を介して複数の吐出モジュール200と流体的に連通している。この個別流路溝52により流路部材の中央側へ流路を集約することが可能となる。
第1〜第3流路部材は、液体に対して耐腐食性を有するとともに、線膨張率の低い材質からなることが好ましい。材質としては例えば、アルミナや、LCP(液晶ポリマー)、PPS(ポリフェニルサルファイド)やPSF(ポリサルフォン)を母材としてシリカ微粒子やファイバーなどの無機フィラーを添加した複合材料(樹脂材料)を好適に用いることができる。流路部材210の形成方法としては、3つの流路部材を積層させて互いに接着してもよいし、材質として樹脂複合樹脂材料を選択した場合には、溶着による接合方法を用いてもよい。
図38は、図37(a)のα部を示しており、第1〜第3流路部材を接合して形成される流路部材210内の流路を第1の流路部材50の、吐出モジュール200が搭載される面側から一部を拡大して示した透視図である。共通供給流路211と共通回収流路212とは、両端部の流路からそれぞれ交互に共通供給流路211と共通回収流路212とが配置されている。ここで、流路部材210内の各流路の接続関係について説明する。
流路部材210には、色毎に液体吐出ヘッド3の長手方向に伸びる共通供給流路211(211a、211b、211c、211d)および共通回収流路212(212a、212b、212c、212d)が設けられている。各色の共通供給流路211には、個別流路溝52によって形成される複数の個別供給流路(213a、213b、213c、213d)が連通口61を介して接続されている。また、各色の共通回収流路212には、個別流路溝52によって形成される複数の個別回収流路(214a、214b、214c、214d)が連通口61を介して接続されている。このような流路構成により各共通供給流路211から個別供給流路213を介して、流路部材の中央部に位置する記録素子基板10にインクを集約することができる。また記録素子基板10から個別回収流路214を介して、各共通回収流路212にインクを回収することができる。
図39は、図38のIX−IXにおける断面を示した図である。それぞれの個別回収流路(214a、214c)は連通口51を介して、吐出モジュール200と連通している。図39では個別回収流路(214a、214c)のみ図示しているが、別の断面においては図38に示すように個別供給流路213と吐出モジュール200とが連通している。各吐出モジュール200に含まれる支持部材30および記録素子基板10には、第1流路部材50からのインクを記録素子基板10に設けられる記録素子15に供給するための流路が形成されている。更に、支持部材30および記録素子基板10には、記録素子15に供給した液体の1部または全部を第1流路部材50に回収(環流)するための流路が形成されている。
ここで、各色の共通供給流路211は、対応する色の負圧制御ユニット230(高圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されており、また共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。この負圧制御ユニット230により、共通供給流路211と共通回収流路212間に差圧(差圧)を生じさせるようになっている。このため、図38および図39に示したように、各流路を接続した本実施形態の液体吐出ヘッド内では、各色で共通供給流路211〜個別供給流路213a〜記録素子基板10〜個別回収流路213b〜共通回収流路212へと順に流れる流れが発生する。
(吐出モジュールの説明)
図34(a)は、1つの吐出モジュール200を示した斜視図であり、図34(b)は、その分解図である。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10およびフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材110で覆って封止する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(図36参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材であるため、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
(記録素子基板の構造の説明)
図41(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図を示し、図41(b)は、図341(a)のAで示した部分の拡大図を示し、図41(c)は、図41(a)の裏面の平面図を示す。ここで、本実施形態における記録素子基板10の構成について説明する。図41(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。図41(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を熱エネルギにより発泡させるための発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。記録素子15は、記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、端子16と電気的に接続されている。そして記録素子15は、記録装置1000の制御回路から、電気配線基板90(図36参照)およびフレキシブル配線基板40(図40参照)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。図41(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18および液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
図41(c)に示すように、記録素子基板10の、吐出口13が形成される面の裏面にはシート状のカバープレート20が積層されており、カバープレート20には、後述する液体供給路18および液体回収路19に連通する開口21が複数設けられている。本実施形態においては、液体供給路18の1本に対して3個、液体回収路19の1本に対して2個の開口21がカバープレート20に設けられている。図41(b)に示すようにカバープレート20の夫々の開口21は、図37(a)に示した複数の連通口51と連通している。カバープレート20は、液体に対して十分な耐食性を有している物が好ましく、また、混色防止の観点から、開口21の開口形状および開口位置には高い精度が求められる。このためカバープレート20の材質として、感光性樹脂材料やシリコン板を用い、フォトリソプロセスによって開口21を設けることが好ましい。このようにカバープレート20は、開口21により流路のピッチを変換するものであり、圧力損失を考慮すると厚みは薄いことが望ましく、フィルム状の部材で構成されることが望ましい。
図42は、図41(a)におけるXII−XIIにおける記録素子基板10およびカバープレート20の断面を示す斜視図である。ここで、記録素子基板10内での液体の流れについて説明する。カバープレート20は、記録素子基板10の基板11に形成される液体供給路18および液体回収路19の壁の一部を形成する蓋としての機能を有する。記録素子基板10は、Siにより形成される基板11と感光性の樹脂により形成される吐出口形成部材12とが積層されており、基板11の裏面にはカバープレート20が接合されている。基板11の一方の面側には、記録素子15が形成されており(図41参照)、その裏面側には、吐出口列に沿って延在する液体供給路19および液体回収路18を構成する溝が形成されている。基板11とカバープレート20とによって形成される液体供給路18および液体回収路19は、それぞれ流路部材210内の共通供給流路211と共通回収流路212と接続されており、液体供給路18と液体回収路19との間には差圧が生じている。吐出口13から液体を吐出して記録を行っている際に、吐出を行っていない吐出口では、この差圧によって基板11内に設けられた液体供給路18内の液体が、供給口17a、圧力室22、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる(図42の矢印C)。この流れによって、記録を休止している吐出口13や圧力室22において、吐出口13からの蒸発によって生じる増粘インク、泡および異物などを液体回収路19へ回収することができる。また吐出口13や圧力室22のインクが増粘するのを抑制することができる。液体回収路19へ回収された液体は、カバープレート20の開口21および支持部材30の液体連通口31(図40b参照)を通じて、流路部材210内の連通口51、個別回収流路214、共通回収流路212の順に回収されて、記録装置1000の供給経路へと回収される。つまり、記録装置本体から液体吐出ヘッド3へ供給される液体は、下記の順に流動し、供給および回収される。
液体は、まず液体供給ユニット220の液体接続部111から液体吐出ヘッド3の内部に流入する。そして液体は、ジョイントゴム100、第3流路部材に設けられた連通口72および共通流路溝71、第2流路部材に設けられた共通流路溝62および連通口61、第1流路部材に設けられた個別流路溝52および連通口51の順に供給される。その後、支持部材30に設けられた液体連通口31、カバープレート20に設けられた開口21、基板11に設けられた液体供給路18および供給口17aを順に介して圧力室23に供給される。圧力室23に供給された液体のうち、吐出口13から吐出されなかった液体は、基板11に設けられた回収口17bおよび液体回収路19、カバープレート20に設けられた開口21、支持部材30に設けられた液体連通口31を順に流れる。その後液体は、第1流路部材に設けられた連通口51および個別流路溝52、第2流路部材に設けられた連通口61および共通流路溝62、第3流路部材70に設けられた共通流路溝71および連通口72、ジョイントゴム100を順に流れる。そして液体は、液体供給ユニット220に設けられた液体接続部111から液体吐出ヘッド3の外部へ流動する。
図2に示す第1循環形態の形態においては、液体接続部111から流入した液体は、負圧制御ユニット230を経由した後にジョイントゴム100に供給される。また図3に示す第2循環形態の形態においては、圧力室23から回収された液体は、ジョイントゴム100を通過した後、負圧制御ユニット230を介して液体接続部111から液体吐出ヘッドの外部へ流動する。また液体吐出ユニット300の共通供給流路211の一端から流入した全ての液体が、個別供給流路213aを経由して圧力室23に供給されるわけではない。つまり、共通供給流路211の一端から流入した液体で、個別供給流路213aに流入することなく、共通供給流路211の他端から液体供給ユニット220に流動する液体もある。このように、記録素子基板10を経由することなく流動する経路を備えることで、本実施形態のような微細で流抵抗の大きい流路を備える記録素子基板10を備える場合であっても、液体の循環流の逆流を抑制することができる。このように、本実施形態の液体吐出ヘッド3では、圧力室23や吐出口近傍部の液体の増粘を抑制することができるので、吐出のヨレや不吐出を抑制することができ、結果として高画質な記録を行うことができる。
(記録素子基板間の位置関係の説明)
図43は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示した平面図である。本実施形態では略平行四辺形の記録素子基板を用いている。各記録素子基板10における吐出口13が配列される各吐出口列(14a〜14d)は、記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。そして、記録素子基板10同士の隣接部における吐出口列は、少なくとも1つの吐出口が記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。図43では、線D上の2つの吐出口が互いにオーバーラップする関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく、直線上(インライン)に配置した場合も、図43のような構成により液体吐出ヘッド10の記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことができる。なお、本実施形態では記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、これに限るものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
(第6の実施形態)
以下、図面を参照して本発明の第6の実施形態によるインクジェット記録装置2000および液体吐出ヘッド2003の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として第1の実施形態と異なる部分のみを説明し、第1の実施形態と同様の部分については説明を省略する。
(インクジェット記録装置の説明)
図51は、本実施形態を適用可能な、液体を吐出して記録を行うインクジェット記録装置2000を示した図である。本実施形態の記録装置2000は、シアンC、マゼンタM、イエローY、ブラックKの各インクに対応した単色用の液体吐出ヘッド2003を4つ並列配置させることで記録媒体へフルカラー記録を行う点が第1の実施形態とは異なる。第1の実施形態において1色あたりに使用できる吐出口列数が1列だったのに対し、本実施形態においては、1色あたりに使用できる吐出口列数は20列となっている。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。更に、不吐出になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して記録媒体の搬送方向に対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上し、商業記録などに好適である。第1の実施形態と同様に、各液体吐出ヘッド2003に対して、記録装置2000の供給系、バッファタンク1003(図32、図33参照)およびメインタンク1006(図32、図33参照)が流体的に接続されている。また、それぞれの液体吐出ヘッド2003には、液体吐出ヘッド2003へ電力および吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続されている。
(循環経路の説明)
第5の実施形態と同様に、記録装置2000および液体吐出ヘッド2003間の液体循環経路としては、第1の実施形態同様、図32または図33に示した第1および第2循環形態を用いることができる。また、液体吐出ヘッド2003に対する充填・回復動作も第5の実施形態と同様に行うことができる。
(液体吐出ヘッド構造の説明)
図44(a)および(b)は、本実施形態に係る液体吐出ヘッド2003を示した斜視図である。ここで、本実施形態に係る液体吐出ヘッド2003の構造について説明する。液体吐出ヘッド2003は、液体吐出ヘッド2003の長手方向に直線上に配列される16個の記録素子基板2010を備え、1色の液体で記録が可能なインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド2003は、第1の実施形態と同様、液体接続部111、信号入力端子91および電力供給端子92を備える。しかしながら本実施形態の液体吐出ヘッド2003は、第1の実施形態に比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド2003の両側に信号出力端子91および電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板2010に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減するためである。
図45は、液体吐出ヘッド2003を示した斜視分解図であり、液体吐出ヘッド2003を構成する各部品またはユニットをその機能毎に分割して示している。各ユニットおよび部材の役割や液体吐出ヘッド内の液体流通の順は、基本的に第1の実施形態と同様であるが、液体吐出ヘッドの剛性を担保する機能が異なる。第1の実施形態では主として液体吐出ユニット支持部81によって液体吐出ヘッド剛性を担保していたが、第2の実施形態の液体吐出ヘッド2003では、液体吐出ユニット2300に含まれる第2流路部材2060によって液体吐出ヘッドの剛性を担保している。本実施形態における液体吐出ユニット支持部81は、第2流路部材2060の両端部に接続されており、この液体吐出ユニット2300は記録装置2000のキャリッジと機械的に結合されて、液体吐出ヘッド2003の位置決めを行う。負圧制御ユニット2230を備える液体供給ユニット2220と、電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に結合される。2つの液体供給ユニット2220内にはそれぞれフィルタ(不図示)が内蔵されている。
2つの負圧制御ユニット2230は、それぞれ異なる、相対的に高低の負圧で圧力を制御するように設定されている。また、この図344のように、液体吐出ヘッド2003の両端部にそれぞれ、高圧側と低圧側の負圧制御ユニット2230を設置した場合、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延在する共通供給流路と共通回収流路における液体の流れが互いに対向する。このような構成では、共通供給流路と共通回収流路の間で熱交換が促進されて、2つの共通流路内における温度差が低減される。これによって、共通流路に沿って複数設けられる各記録素子基板2010における温度差が少なくなり、温度差による記録ムラが生じにくくなるという利点がある。
次に、液体吐出ユニット2300の流路部材2210の詳細について説明する。図345に示すように流路部材2210は、第1流路部材2050と第2流路部材2060とを積層したものであり、液体供給ユニット2220から供給された液体を各吐出モジュール2200へと分配する。また流路部材2210は、吐出モジュール2200から環流する液体を液体供給ユニット2220へと戻すための流路部材として機能する。流路部材2210の第2流路部材2060は、内部に共通供給流路および共通回収流路が形成された流路部材であるとともに、液体吐出ヘッド2003の剛性を主に担うという機能を有する。このため、第2流路部材2060の材質としては、液体に対する十分な耐食性と高い機械強度を有するものが好ましい。具体的にはSUSやTi、アルミナなど用いることができる。
図46(a)は、第1流路部材2050の、吐出モジュール2200がマウントされる面を示した図であり、図46(b)は、その裏面を示しており、第2流路部材2060と当接される面を示した図である。第1の実施形態とは異なり、本実施形態における第1流路部材2050は、各吐出モジュール2200毎に対応した複数の部材を隣接して配列したものである。このように分割した構造を採ることで、複数のモジュールを配列させて、液体吐出ヘッド2003の長さに対応することができるので、例えばB2サイズおよびそれ以上の長さに対応した比較的ロングスケールの液体吐出ヘッドに特に好適に適用することができる。図46(a)に示すように、第1流路部材2050の連通口51は、吐出モジュール2200と流体的に連通し、図46(b)に示すように、第1流路部材2050の個別連通口53は、第2流路部材2060の連通口61と流体的に連通する。図46(c)は、第2流路部材60の、第1流路部材2050と当接される面を示し、図46(d)は、第2流路部材60の厚み方向中央部の断面を示し、図46(e)は、第2流路部材2060の、液体供給ユニット2220と当接する面を示す図である。第2流路部材2060の流路や連通口の機能は、第1の実施形態の1色分と同様である。第2流路部材2060の共通流路溝71は、その一方が後述する図47に示す共通供給流路2211であり、他方が共通回収流路2212であり、夫々、液体吐出ヘッド2003の長手方向に沿って設けられており、その一端側から他端側に液体が供給される。本実施形態は第1の実施形態と異なり、共通供給流路2211と共通回収流路2212の液体の流れは互いに反対方向となっている。
図47は、記録素子基板2010と流路部材2210との液体の接続関係を示した透視図である。流路部材2210内には、液体吐出ヘッド2003の長手方向に延びる一組の共通供給流路2211および共通回収流路2212が設けられている。第2流路部材2060の連通口61は、各々の第1流路部材50の個別連通口53と位置を合わせて接続されており、第2流路部材2060の連通口72から共通供給流路2211を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路が形成されている。同様に、第2流路部材2060の連通口72から共通回収流路2212を介して第1流路部材2050の連通口51へと連通する液体供給経路も形成されている。
図48は、図47のXVIII−XVIII線における断面を示した図である。共通供給流路2211は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール2200へ接続されている。図48では不図示であるが、別の断面においては、共通回収流路2212が同様の経路で吐出モジュール2200へ接続されていることは、図47を参照すれば明らかである。第1の実施形態と同様に、各吐出モジュール2200および記録素子基板2010には、各吐出口に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口を通過して、環流できるようになっている。また第1の実施形態と同様に、共通供給流路2211は、負圧制御ユニット2230(高圧側)と、共通回収流路2212は負圧制御ユニット2230(低圧側)と液体供給ユニット2220を介して接続されている。従ってその差圧によって、共通供給流路2211から記録素子基板2010の吐出口を通過して共通回収流路2212へと流れる流れが発生する。
(吐出モジュールの説明)
図49(a)は、1つの吐出モジュール2200を示した斜視図であり、図49(b)は、その分解図である。第1の実施形態との差異は、記録素子基板2010の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板2010の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置されている点である。これに伴い記録素子基板2010と電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板2010に対して2枚配置されている。これは記録素子基板2010に設けられる吐出口列数が20列あり、第1の実施形態の8列よりも大幅に増加しているためであり、端子16から記録素子までの最大距離を短くして記録素子基板2010内の配線部で生じる電圧低下や信号遅れを低減するためである。また支持部材2030の液体連通口31は、記録素子基板2010に設けられ全吐出口列を跨るように開口している。その他の点は、第1の実施形態と同様である。
(記録素子基板の構造の説明)
図50(a)は、記録素子基板2010の吐出口13が配される面の模式図であり、図50(c)は、図350(a)の面の裏面を示す模式図である。図50(b)は図50(c)において、記録素子基板2010の裏面側に設けられているカバープレート2020を除去した場合の記録素子基板2010の面を示す模式図である。図50(b)に示すように、記録素子基板2010の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は、第1の実施形態よりも大幅に増加しているものの、第1の実施形態との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列毎に一組の液体供給路18と液体回収路19が設けられていること、カバープレート2020に、支持部材2030の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は第1の実施形態と同様である。
(他の実施形態)
なお、上記実施形態の記載は本発明の範囲を限定するものではない。一例として、本実施形態では発熱素子により気泡を発生させて液体を吐出するサーマル方式について説明したが、ピエゾ方式およびその他の液体吐出方式が採用された液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。
また、上記実施形態において、記録ヘッドへインクを充填・回復する際、保存用の液体または流動性が高い初期充填用の液体といった記録に使用するインクとは別の液体、例えば濡れ性が高い液体を充填した後に、記録に使用するインクに置換してもよい。
本発明における実施形態として、インク等の液体をタンクと液体吐出ヘッドとの間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)について説明したが、その他の形態であってもよい。例えばインクを循環せずに、液体吐出ヘッド上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで、液体吐出ヘッドにおける圧力室内のインクを流動させる形態であってもよい。
また本実施形態は、記録媒体の幅に対応した長さを有する、いわゆるライン型ヘッドを用いる例を説明したが、記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、いわゆるシリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用することができる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインクを吐出する記録素子基板とカラーインクを吐出する記録素子基板の各々を1つずつ搭載する構成が挙げられるが、これに限るものではない。つまり、複数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口がオーバーラップするよう配置した、記録媒体の幅よりも短い短尺の液体吐出ヘッドを作成し、それを記録媒体に対してスキャンさせる形態であってもよい。