JP2017124608A - 液体吐出装置および液体吐出ヘッド - Google Patents
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Abstract
Description
このような液体の増粘現象に対する対策の1つとして、液体吐出ヘッドに供給するインクを循環経路に沿って循環させる方法が知られている。特許文献1には、吐出口が形成された部材と発熱抵抗体が形成された基板との間に形成された流路内の液体を循環させることで、吐出口からの液体蒸発に伴う吐出口の目詰まりを抑制する液体吐出ヘッドが記載されている。
しかしながら、特許文献1に記載の液体吐出ヘッドでは、このような吐出不良については考慮されていない。したがって、休止後の1発目の液体吐出の際に発生する吐出不良により、画質の劣化を招くおそれがある。
そこで、本発明の目的は、より高精細で高品位な画像形成が可能な液体吐出装置および液体吐出ヘッドを提供することである。
また、本発明の液体吐出ヘッドは、液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する記録素子と、前記記録素子を内部に備えた圧力室と、前記圧力室に液体を供給するための液体供給路と、前記圧力室から液体を回収するための液体回収路と、を備え、比誘電率εrがεr≦40.7の関係を満たす液体が、前記液体供給路、前記圧力室、前記液体回収路を順に介して循環されることを特徴とする。
このような液体吐出装置および液体吐出ヘッドでは、液体の比誘電率を低下させることで、吐出動作を一定時間休止した後でも液体中の固形分が吐出口の周縁付近に滞留することを抑制することができる。その結果、固形分量が多い液体の場合でも、休止後1発目の液体吐出の際に吐出不良が発生することを抑制して、画質の劣化を抑制することが可能になる。
本適用例は、インク等の液体をタンクと液体吐出ヘッド間で循環させる形態のインクジェット記録装置(記録装置)であるが、その他の形態であっても良い。例えばインクを循環せずに、液体吐出ヘッド上流側と下流側に2つのタンクを設け、一方のタンクから他方のタンクへインクを流すことで、圧力室内のインクを流動させる形態であっても良い。また本適用例は被記録媒体の幅に対応した長さを有する、所謂ライン型ヘッドであるが、被記録媒体に対してスキャンを行いながら記録を行う、所謂シリアル型の液体吐出ヘッドにも本発明を適用できる。シリアル型の液体吐出ヘッドとしては、例えばブラックインク用、およびカラーインク用記録素子基板を各1つずつ搭載する構成があげられるが、これに限られるものではない。数個の記録素子基板を吐出口列方向に吐出口をオーバーラップさせるよう配置した、被記録媒体の幅よりも短い、短尺のラインヘッドを作成し、それを被記録媒体に対してスキャンさせる形態のものであっても良い。
(インクジェット記録装置の説明)
本発明の、液体を吐出する装置、特にはインクを吐出して記録を行うインクジェット記録装置1000(以下、記録装置とも称す)の概略構成を図1に示す。記録装置1000は被記録媒体2を搬送する搬送部1、被記録媒体の搬送方向と略直交して配置されるライン型(ページワイド型)の液体吐出ヘッド3とを備えている。記録装置1000は複数の被記録媒体2を連続もしくは間欠に搬送しながら1パスで連続記録を行うライン型記録装置である。被記録媒体2はカット紙に限らず、連続したロール紙であってもよい。液体吐出ヘッド3はCMYKインクによる(シアン、マゼンタ、イエロー、ブラック)フルカラー印刷が可能である。液体吐出ヘッド3には、後述するように液体を液体吐出ヘッドへ供給する供給路である液体供給手段、メインタンクおよびバッファタンク(図2参照)が流体的に接続される。また、液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。吐出ヘッド3内における液体経路及び電気信号経路については後述する。
図2は、本適用例の記録装置に適用される循環経路の1形態である第1の循環経路を示す模式図である。図2には、液体吐出ヘッド3を、流動手段である第1循環ポンプ(高圧側)1001、第1循環ポンプ(低圧側)1002、及びバッファタンク1003等に流体的に接続した図が示されている。なお図2では、説明を簡略化するためにCMYKインクの内の一色のインクが流動する経路のみを示しているが、実際には4色分の循環経路が、液体吐出ヘッド3及び記録装置本体に設けられる。メインタンク1006と接続される、サブタンクとしてのバッファタンク1003はタンク内部と外部とを連通する大気連通口(不図示)を有し、インク中の気泡を外部に排出することが可能である。バッファタンク1003は、補充ポンプ1005とも接続されている。補充ポンプ1005は、インクを吐出しての記録や吸引回復等、液体吐出ヘッドの吐出口からインクを吐出(排出)することによって液体吐出ヘッド3で液体が消費された際に、消費されたインク分をメインタンク1006からバッファタンク1003へ移送する。
2つの第1循環ポンプ1001,1002は、液体吐出ヘッド3の液体接続部111から液体を引き出してバッファタンク1003へ流す役割を有する。液体吐出ヘッド3内の液体を流動させる流動手段としての第1循環ポンプとしては定量的な送液能力を有する容積型ポンプが好ましい。具体的にはチューブポンプ、ギアポンプ、ダイヤフラムポンプ、シリンジポンプ等が挙げられるが、例えば一般的な定流量弁やリリーフ弁をポンプ出口に配して一定流量を確保する形態であっても用いることが出来る。液体吐出ユニット300の駆動時には第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002によって、それぞれ共通供給経路211、共通回収流路212内をある一定量のインクが流れる。この流量としては、液体吐出ヘッド3内の各記録素子基板10間の温度差が、記録画質に影響しない程度以上に設定することが好ましい。もっとも、あまりに大きな流量を設定すると、液体吐出ユニット300内の流路の圧損の影響により、各記録素子基板10で負圧差が大きくなり過ぎて画像の濃度ムラが生じてしまう。そのため、各記録素子基板10間の温度差と負圧差を考慮しながら、流量を設定することが好ましい。
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通供給流路211及び共通回収流路212内をそれぞれ通過するように液体を流しつつ、一部の液体が各記録素子基板10内を通過するような流れが発生する。このため、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211および共通回収流路212の流れで記録素子基板10の外部へ排出することが出来る。またこのような構成により、液体吐出ヘッド3による記録を行っている際に、記録を行っていない吐出口や圧力室においてもインクの流れを生じさせることが出来るので、その部位におけるインクの増粘を抑制できる。また増粘したインクやインク中の異物を共通回収流路212へと排出することができる。このため、本適用例の液体吐出ヘッド3は、高速で高画質な記録が可能となる。
図3は、本適用例の記録装置に適用される循環経路のうち、上述した第1の循環経路とは異なる循環形態である第2の循環経路を示す模式図である。前述の第1の循環経路との主な相違点は、負圧制御ユニット230を構成する2つの圧力調整機構が共に、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を、所望の設定圧を中心として一定範囲内の変動で制御する機構であることである。この機構は、所謂「背圧レギュレーター」と同作用の機構部品である。また、他の相違点は、第2循環ポンプ1004が負圧制御ユニット230の下流側を減圧する負圧源として作用するものであることである。さらに、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002が液体吐出ヘッド上流側に配置され、負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド下流側に配置されていることも相違点である。
第2の循環経路において負圧制御ユニット230は、次のように作動する。即ち、液体吐出ヘッド3により記録を行う際の記録Dutyの変化によって生じる流量の変動があっても、自身の上流側(即ち液体吐出ユニット300側)の圧力変動を、予め設定された圧力を中心として一定範囲内に安定にするように作動する。図3に示すように、第2循環ポンプ1004によって、液体供給ユニット220を介して負圧制御ユニット230の下流側を加圧することが好ましい。このようにすると液体吐出ヘッド3に対するバッファタンク1003の水頭圧の影響を抑制できるので、記録装置1000におけるバッファタンク1003のレイアウトの選択幅を広げることができる。第2循環ポンプ1004の代わりに、例えば負圧制御ユニット230に対して所定の水頭差をもって配置された水頭タンクであっても適用可能である。
1つ目の利点は、第2循環経路では負圧制御ユニット230が液体吐出ヘッド3の下流側に配置されているので、負圧制御ユニット230から発生するゴミや異物がヘッドへ流入する懸念が少ないことである。2つ目の利点は、第2の循環経路では、バッファタンク1003から液体吐出ヘッド3へ供給する必要流量の最大値が、第1の循環経路の場合よりも少なくて済むことである。その理由は次の通りである。記録待機時に循環している場合の、共通供給流路211及び共通回収流路212内の流量の合計をAとする。Aの値は、記録待機中に液体吐出ヘッド3の温度調整を行う場合に、液体吐出ユニット300内の温度差を所望の範囲内にするために必要な、最小限の流量として定義される。また液体吐出ユニット300の全ての吐出口からインクを吐出する場合(全吐時)の吐出流量をFと定義する。そうすると、第1循環経路の場合(図2)では、第1循環ポンプ(高圧側)1001及び第1循環ポンプ(低圧側)1002の設定流量がAとなるので、全吐時に必要な液体吐出ヘッド3への液体供給量の最大値はA+Fとなる。
しかしながら一方で、第1循環経路の方が、第2循環経路に対して有利になる点もある。すなわち、第2循環経路では、記録待機時に液体吐出ユニット300内を流れる流量が最大であるため、記録Dutyの低い画像であるほど、各ノズルに高い負圧が印加された状態となる。このため、特に共通供給流路211及び共通回収流路212の流路幅(液体の流れ方向と直交する方向の長さ)を小さくしてヘッド幅(液体吐出ヘッドの短手方向の長さ)を小さくした場合、サテライト滴の影響が大きくなる虞がある。これは、ムラの見えやすい低Duty画像でノズルに高い負圧が印加されるためである。一方、第1循環経路の場合、高い負圧がノズルに印加されるのは高Duty画像形成時であるため、仮にサテライトが発生しても視認されにくく、画像への影響は小さいという利点がある。2つの循環経路の選択は、液体吐出ヘッドおよび記録装置本体の仕様(吐出流量F、最小循環流量A、及びヘッド内流路抵抗)に照らして、好ましい選択を採ることができる。
図30は、本適用例の記録装置における循環経路の1形態である第3の循環経路を示す模式図である。上記第1および第2の循環経路と同様な機能、構成については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。
本循環経路では、液体吐出ヘッド3の中央部の2か所と、液体吐出ヘッド3の一端部の1か所の計3か所から液体吐出ヘッド3内に液体が供給される。液体は、共通供給流路211から各圧力室23を経た後に共通回収流路212に回収され、液体吐出ヘッド3の他端部にある回収開口から外部へ回収される。個別流路213は共通供給経路211及び共通回収流路212と連通しており、各個別流路213の経路中に記録素子基板10およびその記録素子基板内に配される圧力室23が設けられている。よって、第1循環ポンプ1002で流す液体の一部は、共通供給流路211から記録素子基板10の圧力室23内を通過して、共通回収流路212へと流れる(図30の矢印)。これは、共通供給流路211に接続された圧力調整機構Hと、共通回収流路212に接続された圧力調整機構Lとの間に圧力差が設けられ、第1循環ポンプ1002が共通回収流路212のみに接続されているからである。
このようにして、液体吐出ユニット300では、共通回収流路212内を通過するような液体の流れと、共通供給流路211から各記録素子基板10内の圧力室23を通過し共通回収流路212に流れが発生する。このため、圧力損失の増大を抑制しつつ、各記録素子基板10で発生する熱を共通供給流路211から共通回収流路212への流れで記録素子基板10の外部へ排出することが出来る。また、本循環経路によれば、上記第1および第2の循環経路に比べて液体の輸送手段であるポンプの数を少なくすることが可能となる。
第1の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構成について説明する。図4(a)及び図4(b)は本適用例に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は1つの記録素子基板10でC/M/Y/Kの4色のインクを吐出可能な記録素子基板10を直線上に15個配列(インラインに配置)されるライン型の液体吐出ヘッドである。図4(a)に示すように、液体吐出ヘッド3には各記録素子基板10と、フレキシブル配線基板40および電気配線基板90を介して電気的に接続された信号入力端子91と電力供給端子92を備える。信号入力端子91及び電力供給端子92は記録装置1000の制御部と電気的に接続され、それぞれ、吐出駆動信号及び吐出に必要な電力を記録素子基板10に供給する。電気配線基板90内の電気回路によって配線を集約することで、信号出力端子91及び電力供給端子92の数を記録素子基板10の数に比べて少なくできる。これにより、記録装置1000に対して液体吐出ヘッド3を組み付ける時又は液体吐出ヘッドの交換時に取り外しが必要な電気接続部数が少なくて済む。図4(b)に示すように、液体吐出ヘッド3の両端部に設けられた液体接続部111は、記録装置1000の液体供給系と接続される。これによりCMYK4色のインクが記録装置1000の供給系から液体吐出ヘッド3に供給され、また液体吐出ヘッド3内を通ったインクが記録装置1000の供給系へ回収されるようになっている。このように各色のインクは、記録装置1000の経路と液体吐出ヘッド3の経路を介して循環可能である。
液体吐出ユニット300は、複数の吐出モジュール200、流路部材210からなり、液体吐出ユニット300の被記録媒体側の面にはカバー部材130が取り付けられる。ここで、カバー部材130は図5に示したように、長尺の開口131が設けられた額縁状の表面を持つ部材であり、開口131からは吐出モジュール200に含まれる記録素子基板10及び封止材による封止部110(図9)が露出している。開口131の周囲の枠部は、記録待機時に液体吐出ヘッド3をキャップするキャップ部材の当接面としての機能を有する。このため、開口131の周囲に沿って接着剤、封止材、充填材等を塗布し、液体吐出ユニット300の吐出口面上の凹凸や隙間を埋めることで、キャップ時に閉空間が形成されるようにすることが好ましい。
図9(a)に1つの吐出モジュール200の斜視図を、図9(b)にその分解図を示す。吐出モジュール200の製造方法としては、まず記録素子基板10及びフレキシブル配線基板40を、予め液体連通口31が設けられた支持部材30上に接着する。その後、記録素子基板10上の端子16と、フレキシブル配線基板40上の端子41とをワイヤーボンディングによって電気接続し、その後にワイヤーボンディング部(電気接続部)を封止材で覆って封止部110を形成する。フレキシブル配線基板40の記録素子基板10と反対側の端子42は、電気配線基板90の接続端子93(図5参照)と電気接続される。支持部材30は、記録素子基板10を支持する支持体であるとともに、記録素子基板10と流路部材210とを流体的に連通させる流路部材である為、平面度が高く、また十分に高い信頼性をもって記録素子基板と接合できるものが好ましい。材質としては例えばアルミナや樹脂材料が好ましい。
本適用例における記録素子基板10の構成について説明する。図10(a)は記録素子基板10の吐出口13が形成される側の面の平面図を示し、図10(b)は図10(a)のAで示した部分の拡大図を示し、図10(c)は図10(a)の裏面の平面図を示す。図10(a)に示すように、記録素子基板10の吐出口形成部材12に、各インク色に対応する4列の吐出口列が形成されている。なお、以後、複数の吐出口13が配列される吐出口列が延びる方向を「吐出口列方向」と呼称する。
図10(b)に示すように、各吐出口13に対応した位置には液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する発熱素子である記録素子15が配置されている。隔壁22により、記録素子15を内部に備える圧力室23が区画されている。記録素子15は記録素子基板10に設けられる電気配線(不図示)によって、図10(a)の端子16と電気的に接続されている。記録素子15は、記録装置1000の制御回路から電気配線基板90(図5)及びフレキシブル配線基板40(図9)を介して入力されるパルス信号に基づいて発熱して液体を沸騰させる。この沸騰による発泡の力で液体を吐出口13から吐出する。図10(b)に示すように、各吐出口列に沿って、一方の側には液体供給路18が、他方の側には液体回収路19が延在している。液体供給路18及び液体回収路19は記録素子基板10に設けられた吐出口列方向に伸びた流路であり、それぞれ供給口17a、回収口17bを介して吐出口13と連通している。
図12は、隣り合う2つの吐出モジュールにおける、記録素子基板の隣接部を部分的に拡大して示す平面図である。図10に示すように、本適用例では略平行四辺形の記録素子基板を用いている。図12に示すように各記録素子基板10における吐出口13が配列される各吐出口列(14a〜14d)は、被記録媒体の搬送方向に対し一定角度傾くように配置されている。それによって記録素子基板10同士の隣接部における吐出列は、少なくとも1つの吐出口が被記録媒体の搬送方向にオーバーラップするようになっている。図12では、D線上の2つの吐出口が互いにオーバーラップ関係にある。このような配置によって、仮に記録素子基板10の位置が所定位置から多少ずれた場合でも、オーバーラップする吐出口の駆動制御によって、記録画像の黒スジや白抜けを目立たなくするようにすることができる。複数の記録素子基板10を千鳥配置ではなく直線上(インライン)に配置した場合にも、図12の構成により液体吐出ヘッド3の被記録媒体の搬送方向の長さの増大を抑えつつ、記録素子基板10同士のつなぎ部における黒スジや白抜け対策を行うことが出来る。なお、本適用例では記録素子基板の主平面は平行四辺形であるが、本発明はこれに限るものではなく、例えば長方形、台形、その他形状の記録素子基板を用いた場合でも、本発明の構成を好ましく適用することができる。
図31〜図34を用いて上述した液体吐出ヘッド構成の変形例について説明する。上述した例と同様な構成、機能については説明を省略し、異なる点について主体的に説明する。本変形例では、図31、図32に示すように、液体吐出ヘッド3と外部との液体の接続部である複数の液体接続部111は、液体吐出ヘッド3の長手方向の一端側に集約して配置されている。液体吐出ヘッド3の他端側には複数の負圧制御ユニット230を集約して配置している(図33)。液体吐出ヘッド3に含まれる液体供給ユニット220は、液体吐出ヘッド3の長さに対応した長尺状のユニットとして構成され、供給する4色の液体に対応した流路およびフィルタ221を備える。図33に示すように、液体吐出ユニット支持部81に設けられる開口83〜86も上述した液体吐出ヘッド3とは異なる位置に設けられている。
図34に流路部材50、60、70の積層状態を示す。複数の流路部材50、60、70の最上層である第1流路部材50の上面に複数の記録素子基板10が直線状に配列される。各記録素子基板10の裏面側に形成される開口21(図19)に連通する流路は、液体の色ごとに、個別供給流路213が2つ、個別回収流路214が1つとなっている。これに対応して、記録素子基板10の裏面に設けられる蓋部材20に形成される開口21も、液体の色ごとに供給開口21が2つ、回収開口21が1つとなっている。図34に示すように、液体吐出ヘッド3の長手方向(複数の記録素子基板10の配列方向)に沿って延在する共通供給流路211と共通回収流路212とが交互に並列されている。
本発明を適用可能な第2の適用例によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。なお以降の説明においては、主として第1の適用例と異なる部分のみを説明し、第1の適用例と同様の部分については説明を省略する。
本発明の第2の適用例によるインクジェット記録装置を図20に示す。第2の適用例の記録装置1000はCMYKのインクごとに対応した単色用の液体吐出ヘッド3を4つ並列配置させることで被記録媒体へフルカラー記録を行う点が第1の適用例とは異なる。第1の適用例において1色あたりに使用できる吐出口列数が1列だったのに対し、本適用例において1色あたりに使用できる吐出口列数は20列となっている(図19(a))。このため、記録データを複数の吐出口列に適宜振り分けて記録を行うことで、非常に高速な記録が可能となる。更に、不吐になる吐出口があったとしても、その吐出口に対して被記録媒体の搬送方向に対応する位置にある、他列の吐出口から補間的に吐出を行うことで信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。第1の適用例と同様に、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003及びメインタンク1006(図2)が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。
第1の適用例と同様に、記録装置1000及び液体吐出ヘッド3間の液体循環経路としては、第1の適用例同様、図2又は図3に示した第1および第2の循環経路を用いることができる。
本発明の第2の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構造について説明する。図13(a)及び(b)は本適用例に係る液体吐出ヘッド3の斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線上に配列される16個の記録素子基板10を備え、1色の液体で記録が可能なインクジェット式のライン型記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、第1の適用例同様、液体接続部111、信号入力端子91及び電力供給端子92を備える。しかしながら本適用例の液体吐出ヘッド3は、第1の適用例に比べて吐出口列が多いため、液体吐出ヘッド3の両側に信号出力端子91及び電力供給端子92が配置されている。これは記録素子基板10に設けられる配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減のためである。
図17は、図16のF−F線における断面を示した図である。この図に示したように、共通供給流路は、連通口61、個別連通口53、連通口51を介して、吐出モジュール200へ接続されている。図8では不図示であるが、別の断面においては、個別回収流路が同様の経路で吐出モジュール200へ接続されていることは、図16を参照すれば明らかである。第1の適用例と同様に、各吐出モジュール200及び記録素子基板10には、各吐出口13に連通する流路が形成されており、供給した液体の一部または全部が、吐出動作を休止している吐出口13(圧力室23)を通過して、環流できるようになっている。また第1の適用例と同様に、共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と液体供給ユニット220を介して接続されている。そのため、その差圧によって、共通供給流路211から記録素子基板10の吐出口13(圧力室23)を通過して共通回収流路212へと流れる流れが発生する。
図18(a)に、1つの吐出モジュール200の斜視図を、図18(b)にその分解図を示す。第1の適用例との差異は、以下の点である。即ち、記録素子基板10の複数の吐出口列方向に沿った両辺部(記録素子基板10の各長辺部)に複数の端子16がそれぞれ配置され、それに電気接続されるフレキシブル配線基板40も、1つの記録素子基板10に対して2枚配置される点である。これは記録素子基板10に設けられる吐出口列数が20列あり、第1の適用例の8列よりも大幅に増加しているためである。即ち、端子16から、吐出口列に対応して設けられる記録素子15までの最大距離を短く抑制して、記録素子基板10内の配線部で生じる電圧低下や信号伝送遅れを低減することを目的としている。また支持部材30の液体連通口31は記録素子基板10に設けられ、全吐出口列を跨るように開口している。その他の点は、第1の適用例と同様である。
図19(a)は記録素子基板10の吐出口13が配される側の面の模式図、図19(c)は図19(a)の面の裏面を示す模式図である。図19(b)は図19(c)において、記録素子基板10の裏面側に設けられている蓋部材20を除去した場合の記録素子基板10の面を示す模式図である。図19(b)に示すように、記録素子基板10の裏面には吐出口列方向に沿って、液体供給路18と液体回収路19とが交互に設けられている。吐出口列数は第1の適用例よりも大幅に増加しているものの、第1の適用例との本質的な差異は、前述のように端子16が記録素子基板の吐出口列方向に沿った両辺部に配置されていることである。各吐出口列毎に一組の液体供給路18と液体回収路19が設けられていること、蓋部材20に、支持部材30の液体連通口31と連通する開口21が設けられていることなど、基本的な構成は第1の適用例と同様である。
本発明の第3の適用例によるインクジェット記録装置1000及び液体吐出ヘッド3の構成を説明する。第3の適用例の液体吐出ヘッドは、B2サイズの被記録媒体に対して1スキャンで記録を行うページワイド型である。第3の適用例は第2の適用例と類似している点が多いため、以降の説明においては、主として第2の適用例と異なる部分を説明し、第2の適用例と同様の部分については説明を省略する。
図35に本適用例のインクジェット記録装置の模式図を示す。記録装置1000は、液体吐出ヘッド3から被記録媒体2に直接記録を行わず、一度、中間転写体(中間転写ドラム1007)に液体を吐出し画像を形成した後に、その画像を被記録媒体2に転写する構成である。記録装置1000では、CMYKの4種類のインクに夫々対応した4つの単色用の液体吐出ヘッド3が、中間転写ドラム1007に沿って円弧状に配置されている。これによって中間転写体上にフルカラー記録が行われ、その記録画像は、中間転写体上で適切な乾燥状態にされた後、紙搬送ローラー1009によって搬送される被記録媒体2へ、転写部1008で転写される。第2の適用例の紙搬送系は主にカット紙を意図した水平搬送であったのに対し、本適用例においては本体ロール(不図示)から供給される連続紙にも対応可能である。このようなドラム搬送系では、紙に一定の張力をかけながら搬送することが容易なため、高速記録時においても搬送ジャムが少ない。このため装置の信頼性が向上し、商業印刷などに好適である。第1及び第2の適用例と同様、各液体吐出ヘッド3に対して、記録装置1000の供給系、バッファタンク1003及びメインタンク1006が流体的に接続される。また、それぞれの液体吐出ヘッド3には、液体吐出ヘッド3へ電力及び吐出制御信号を伝送する電気制御部が電気的に接続される。
第2の適用例と同様に、記録装置1000のタンクと液体吐出ヘッド3との間における液体循環経路としては、図2又は図3に示した第1および第2の循環経路も適用可能であるが、図36に示す循環経路が好適である。図3の第2の循環経路との主な差異は、第1循環ポンプ1001、1002及び第2循環ポンプ1004各々の流路の流路に連通するバイパス弁1010が付加されていることである。このバイパス弁1010は予め設定された圧力を超過すると弁が開くことで、バイパス弁1010上流側の圧力を下げるという機能(第1の機能)を有する。また記録装置本体の制御基板からの信号によって、任意のタイミングで弁を開閉する機能(第2の機能)も有する。
また第2の機能により、循環駆動停止時には、第1循環ポンプ1001,1002及び第2循環ポンプ1004の停止後に、本体側からの制御信号に基づいて、速やかに全てのバイパス弁1010を開放する。これにより、液体吐出ヘッド3の下流部(負圧制御ユニット230から第2循環ポンプ1004までの間)の高負圧(例えば、数〜数十kPa)を短時間に開放することができる。循環ポンプとしてダイヤフラムポンプなど容積型ポンプを使用した場合には、通常、ポンプ内に逆止弁が内蔵されている。しかしながら、バイパス弁を開くことで、下流側のバッファタンク1003側からも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放を行える。上流側からだけでも液体吐出ヘッド3の下流部の圧力解放は行えるが、液体吐出ヘッドの上流側流路と液体吐出ヘッド内流路には圧力損失がある。そのため、圧力開放に時間が掛かり、過渡的に液体吐出ヘッド3内の共通流路内の圧力が下がり過ぎて、吐出口のメニスカスが破壊される虞がある。液体吐出ヘッド3の下流側のバイパス弁1010を開くことで、液体吐出ヘッドの下流側の圧力解放が促進されるため、吐出口のメニスカス破壊のリスクが軽減される。
本発明の第3の適用例に係る液体吐出ヘッド3の構造について説明する。図37(a)は本適用例に係る液体吐出ヘッド3の斜視図、図37(b)はその分解斜視図である。液体吐出ヘッド3は液体吐出ヘッド3の長手方向に直線状(インライン)に配列される36個の記録素子基板10を備え、1色の液体で記録を行うインクジェット式のページワイド型の記録ヘッドである。液体吐出ヘッド3は、第2の適用例同様、信号入力端子91及び電力供給端子92を備える他、ヘッドの長手側面を保護するシールド板132を備える。
図37(b)には、液体吐出ヘッド3を構成する各部品またはユニットがその機能毎に分割されて表示されている(シールド板132は不図示)。各ユニット及び各部材の役割や、液体吐出ヘッド3内の液体流通の順は第2の適用例と同様である。第2の適用例との主な相違点は、複数分割されて配置された電気配線基板90、負圧制御ユニット230の位置、および第1流路部材50の形状である。本適用例のように、例えばB2サイズの被記録媒体に対応した長さを有する液体吐出ヘッド3の場合、液体吐出ヘッド3の使用電力が大きいため、8枚の電気配線基板90が設けられる。各々の電気配線基板90は、液体吐出ユニット支持部81に取り付けられた長尺の電気配線基板支持部82の両側面に4枚ずつ取り付けられる。
液体供給ユニット220内には液体接続部111とフィルタ221が設けられるとともに、負圧制御ユニット230が液体供給ユニット220の下方に一体化して形成されている。これによって負圧制御ユニット230と記録素子基板10との高さ方向の距離が、第2の適用例に比べて短くなっている。この構成により、本適用例には、液体供給ユニット220内の流路接続部の数が減り、記録液体の漏洩に対する信頼性が向上するだけでなく、部品点数や組み立て工程数も低減できるという利点がある。
また負圧制御ユニット230と吐出口が形成される面とにおける水頭差が相対的に小さくなるので、本適用例は、図35に示すような、液体吐出ヘッド3の傾斜角度が、各液体吐出ヘッドごとに異なるような記録装置へ好適に適応できる。これは、水等差が小さくできるため、複数の液体吐出ヘッド3を異なる傾斜角で用いても、それぞれの記録素子基板の吐出口に加わる負圧差を低減できるためである。また、本適用例は、負圧制御ユニット230から記録素子基板10間の距離が小さくなることでその間の流抵抗が小さくなるので、液体の流量変化による圧損差も小さくなり、より安定な負圧制御が行える点でも好ましい。
共通供給流路211及び共通回収流路212の下流側には、それぞれ負圧制御ユニット230が接続される。また、共通供給流路211の途中には複数の個別供給流路213aへの分岐部があり、共通回収流路212の途中には複数の個別回収流路213bへの分岐部がある。個別供給流路213a及び個別回収流路213bは複数の第1流路部材50内に形成されており、夫々の個別流路は、記録素子基板10の裏面に設けられた蓋部材20の開口21(図19(c)参照)と連通している。
図38(b)にHとLで示した負圧制御ユニット230は、高圧側(H)と、低圧側(L)とを合わせたユニットである。それぞれの負圧制御ユニット230は、相対的に高(H)または低(L)の負圧で、負圧制御ユニット230よりも上流側の圧力を制御するように設定された背圧型圧力調整機構である。共通供給流路211は負圧制御ユニット230(高圧側)と接続され、共通回収流路212は負圧制御ユニット230(低圧側)と接続されており、それにより共通供給流路211と共通回収流路212の間には差圧が発生する。その差圧によって、液体が、共通供給流路211から個別供給流路213a、記録素子基板10内の吐出口13(圧力室23)、個別回収流路213bを順に通過して共通回収流路212へと流れる。
ここで、図15に示した第2の適用例とは異なり、第1流路部材50の下面(第2流路部材60側の面)にある個別連通口53は、第2流路部材50の上面に形成される連通口61に対して十分大きな開口となっている。この構成により、吐出モジュール200を第2流路部材60上にマウントする際に位置がズレた場合でも、第1流路部材50と第2流路部材60の間で確実に流体連通が行われるようになっている。そのため、ヘッド製造時の歩留まりが向上しコストダウンが図れるようになっている。
次に、本発明の具体的な実施形態について説明する。以下では、図1から図12に示した第1の適用例に係る液体吐出ヘッドの場合について説明するが、その他の適用例に係る液体吐出ヘッドの場合も同様である。
図21は、記録素子基板の吐出口近傍を詳細に説明する模式図である。図21(a)は、液体が吐出される吐出方向から見た平面図、図21(b)は、図21(a)のG−G線における断面図、図21(c)は、図21(a)のG−G線における断面を示す斜視図である。
記録素子基板10において、吐出動作を行っていない吐出口13では、上述したように、基板11内に設けられた液体供給路18内の液体が供給口17a、圧力室23、回収口17bを経由して液体回収路19へ流れる循環流Cが形成されている。圧力室内の循環流Cの速度は、例えば0.1〜100mm/s程度であり、液体が流動する状態で吐出動作を行っても、着弾精度等の影響が少ない速度である。このとき、吐出口13には、液体のメニスカス、すなわち、液体と大気との界面である吐出口界面24が形成されている。なお、吐出口13は、図21(b)に示すように、吐出口形成部材12に形成された貫通路25の開口部であって、吐出口形成部材12の液体が吐出される側の面に開口する開口部である。以下の説明では、この貫通路25を「吐出口部」と称する。また、吐出口13から液体が吐出される方向(図21(b)の上下方向)を「吐出方向」と称し、圧力室23内の液体の流れ方向(図21(b)の左右方向)を単に「流れ方向」と称する。
ここで、圧力室23および吐出口部25の寸法を以下のように定義する。すなわち、図21(b)に示すように、圧力室23の、吐出口部25との連通部分に対して流れ方向の上流側での高さをHと定義し、吐出口部25の吐出方向における長さをP、流れ方向における長さをWとそれぞれ定義する。これらの寸法は、一例として、Hが3〜30μm、Pが3〜30μm、Wが6〜30μmである。また、以下の説明では、吐出される液体として、不揮発性溶媒濃度が30%、色材濃度が3%、粘度が0.002〜0.003Pa・sに調整されたインクを用いた場合を例に挙げる。
吐出口13からのインクの蒸発により、インクの色材濃度には変化が生じるが、上述した寸法の記録素子基板10は、そのようなインクが吐出口13および吐出口部25に滞留することを抑制するようになっている。すなわち、図22に示すように、圧力室23内の循環流Cが、一部が吐出口部25の内部に流れ込み、吐出口13に形成されたメニスカス位置(メニスカス界面近傍)まで到達した後、再び吐出口部25から圧力室23に戻るようになっている。これにより、蒸発の影響を受けやすい吐出口部25だけでなく、蒸発の影響が特に大きい吐出口界面24近傍のインクまでもが、吐出口部25の内部に滞ることなく圧力室23へと流れ出すことが可能となる。ここで、循環流Cは、吐出口界面24の少なくとも中央部(吐出口の中心部)近傍において、流れ方向(図21(b)の左から右方向)の速度成分(以下、「正の速度成分」という)を持つことが特徴的である。なお、以下では、図22に示すような、吐出口界面24の少なくとも中央部近傍において循環流Cが正の速度成分を持つ流れのモードを「流れモードA」と呼ぶ。また、後述するように、吐出口界面24の中央部近傍で正の速度成分とは逆の、負の速度成分(図21(b)の右から左方向)を持つ流れのモードを「流れモードB」と呼ぶことにする。
H−0.34×P−0.66×W>1.7 (1)
したがって、式(1)の関係を満たす液体吐出ヘッドでは、図22に示すような流れモードAが実現され、式(1)の関係を満たさない液体吐出ヘッドでは、流れモードBが実現される。なお、式(1)の左辺を判定値Jと呼ぶ。
一方、HとPとWが以下の関係を満す液体吐出ヘッドでは流れモードBが実現される。
H−0.34×P−0.66×W≦1.7 (4)
なお、流れモードBの液体吐出ヘッドは、吐出口部25の吐出方向における長さP、すなわち吐出口形成部材12の厚さを厚くすることができるため、吐出口形成部材12の割れを抑制することができる点で有利である。また、圧力室23の高さHを高くすることができるため、循環流Cを生じさせるために必要な圧力差を小さくすることができる点でも有利である。
図24の点Aに示す液体吐出ヘッドは、Hが3μm、Pが9μm、Wが12μmであり、式(1)の左辺である判定値Jは1.93となって1.7より大きい。この場合、実際の吐出口部25内の流れは、図25(a)に示すように、吐出口界面24の中央部近傍で正の速度成分を持った流れモードAとなる。図24の点Bに示す液体吐出ヘッドは、Hが8μm、Pが9μm、Wが12μmであり、判定値Jは1.39となって1.7より小さい。この場合、実際の吐出口部25内の流れは、図25(b)に示すように、吐出口界面24の中央部近傍で負の速度成分を持った流れモードBとなる。図24の点Cに対応する液体吐出ヘッドは、Hが6μm、Pが6μm、Wが12μmであり、判定値Jは2.0となって1.7より大きい。この場合、実際の吐出口部25内の流れは、図25(c)に示すように、吐出口界面24の中央部近傍で正の速度成分を持った流れモードAとなる。図24の点Dに対応する液体吐出ヘッドは、Hが6μm、Pが6μm、Wが6μmであり、判定値Jは1.0となって1.7より小さい。この場合、実際の吐出口部25内の流れは、図25(d)に示すように、吐出口界面24の中央部近傍で負の速度成分を持った流れモードBとなる。
なお、吐出口部25内の循環流Cが流れモードAになるのか流れモードBになるのかについては、上記のH、P、Wの条件が支配的な影響を及ぼす。これら以外の条件、例えば、循環流Cの流速、インクの粘度、吐出口13の幅(流れ方向と直交する方向の長さ)などの条件については、H、P、Wの条件に比べて影響が非常に小さい。したがって、循環Cの流速やインクの粘度については、要求される液体吐出ヘッド(インクジェット記録装置)の仕様や使用される環境条件に合わせて適宜設定することができる。例えば、圧力室23における循環流Cの流速が0.1〜100mm/s、粘度が0.01Pa・s以下のインクを使用することができる。また、流れモードAの液体吐出ヘッドにおいて、使用時の環境変化等により吐出口からのインクの蒸発量が増加する場合には、循環流Cの流量を適宜多くすることで、流れモードAを維持することができる。一方で、流れモードBとなるように寸法設定された液体吐出ヘッドにおいては、循環流Cの流量をいくら多くしても流れモードAにはならない。なお、流れモードAになる液体吐出ヘッドのうち、特にHが20μm以下、Pが20μm以下、Wが30μm以下となる液体吐出ヘッドが好ましく、これにより、より高精細な画像形成が可能となる。
図39は、本発明の第2の実施形態に係る液体吐出ヘッド内を流れるインクのインク流の流れの様子を示す図である。図39に示すように、本実施形態の液体吐出ヘッドは、流路26と吐出口部25との連通部に段差部を有している。本実施形態において、吐出口13から上記段差部が形成される部位までの部分が吐出口部25であり、吐出口部25はこれより径の大きい部位(流路の一部)を介して流路26に接続される。よって、本実施形態におけるH、P、Wは、図に示すように規定される。このような形状の液体吐出ヘッドにおいても、式(3)を満たすようにH、P、Wを設定することで、流れモードAを生じさせることができる。このように、流路26から吐出口13に向かう部位を多段構成とすることで、記録素子15から吐出口13へ向かう方向の流抵抗を比較的小さくすることができる。
図40(a)および図40(b)は、本発明の第3の実施形態に係る液体吐出ヘッドの特に吐出口の形状の2例を示す図であり、吐出口13から液体が吐出される方向からみた平面図(模式図)である。本実施形態の吐出口13の形状は、対向する位置に吐出口の中心に向かって延在する突起部13dが形成されたものである。この突起部13dは、吐出口13の外表面から吐出口部25の内部にまで連続して延在している。これらの突起部を有する形状においても、上述した式(2)を満たすようにH、P、Wを設定することで、流れモードAを生じさせることができる。
図40(a)に示す例の吐出口には、流路26内の液体の流れと交差する方向に突出する突起部13dが、図40(b)に示す例の吐出口には、液体の流れの方向に突出する突起部13dが形成されている。吐出口13にこのような突起部13dを形成することにより、突起部13dの間に形成されるメニスカスが、吐出口13内のその他の部分のメニスカスに比べて維持され易くなる。それにより、吐出口13から延出する液滴の尾引きをより早いタイミングで切断することができ、主滴に付随して発生する微小液滴であるミストの発生を抑制することができる。
(インクの比誘電率低下による効果の説明)
上述したように、流れモードAの液体吐出ヘッドでは、正の速度成分を持つ循環流Cが吐出口界面24の近傍まで達することで、吐出口部25内のインク、特に吐出口界面24近傍のインクを圧力室23まで移動させることができる。そのため、吐出口部25内のインクの滞留を抑制することができ、吐出口13からのインクの蒸発に対しても、吐出口部25内のインクの色材濃度の上昇を軽減することができる。しかしながら、圧力室23内に循環流Cが存在する場合でも、吐出口13の周縁付近では、粘性の作用により循環流Cが発生しにくいため、インクの滞留を抑制しにくくなる。
図26(a)から図26(c)は、それぞれ、流れモードAまたは流れモードBの液体吐出ヘッドにおける、吐出口部25内のインク濃縮の様子を示す図である。具体的には、図26(a)は流れモードB(J=1.3:H=14μm、P=11μm、W=16μm)、図26(b)は流れモードA(J=2.3:H=14μm、P=6μm、W=18μm)の液体吐出ヘッドの様子を示している。また、図26(c)は流れモードA(J=3.5:H=5μm、P=5μm、W=18μm)の液体吐出ヘッドの様子を示している。図26(a)から図26(c)にかけて、循環流Cが吐出口界面24に到達しやすくなっている順に並べて示されている。図26(b)および図26(c)に示すように、流れモードAの液体吐出ヘッドの場合でも、吐出口13の周縁付近(「濃縮領域」として点線で囲んだ領域)では濃縮したインクの滞留が発生している。そのため、特にインク中における固形分量が多い場合(たとえば8重量%以上)、吐出口13の周縁付近では濃縮インクの影響を受けやすくなり、吐出不良が発生しやすくなる。ここで、インク中における固形分とは、顔料、樹脂や高分子ポリマーなどのエマルションを含む。
図27(a)および図27(b)は、固形分量が8重量%以上のインクを、流れモードA(J=2.3)の液体吐出ヘッドにおいて、循環流Cを発生させた状態で吐出口部25内の顔料の濃度分布を数値計算(シミュレーション)した結果を示す図である。図27(a)は、顔料の後退現象が実質的に発生していない場合を示し、図27(b)は、顔料の後退現象が発生している状態を示している。また、図27(c)および図27(d)は、同様に、固形分量が8重量%以上のインクを、流れモードA(J=2.3)の液体吐出ヘッドにおいて、循環流Cを発生させた状態で吐出口部25内の溶剤の濃度分布を数値計算した結果を示す図である。図27(c)は、顔料の後退現象が実質的に発生していない場合を示し、図27(d)は、顔料の後退現象が発生している状態を示している。
なお、図27(c)および図27(d)に示すように、吐出口13の周縁付近での溶剤の濃縮については、顔料の後退現象発生の有無にかかわらず同様に発生する。しかしながら、インクの増粘に与える影響としては、一般的に顔料などの固形分による影響が大きいため、インクの増粘による吐出への影響を抑制するという点では、インクの固形分の吐出口13の周縁付近での滞留抑制が特に重要となる。
処方A:グリセリン(Gly) 20重量% 比誘電率大(εr=45)
処方B:トリメチロールプロパン(TMP) 20重量% 比誘電率小(εr=30)
図28に示すように、比誘電率が相対的に低い処方B(図中黒丸)では、比誘電率が相対的に高い処方A(図中白丸)と比べて、休止後1発目(から数発目)の吐出速度の変化がより小さくなっている。これは、比誘電率を低下させることで、上述した顔料の後退現象による効果がより顕著になるためである。よって、休止後1発目(から数発目)の吐出速度の変化を小さくするには、比誘電率をより小さくするほうが好ましい。
インクの比誘電率εrは、以下の式で定義され、本明細書では、小数点以下第1位を四捨五入した整数値とする。
上記式(5)で定義される比誘電率εrは、インク中の「水溶性有機溶剤で構成された水性媒体」の全体としての比誘電率を表すものであり、具体的には以下のように算出した値である。すなわち、水溶性有機溶剤に固有の比誘電率(無次元数)に、インク中の当該成分の含有量(インク全質量を基準とした含有量、単位:質量%)を乗じた値を各成分について足し合わせ、その合計を水溶性有機溶剤の合計含有量で割った値である。なお、比誘電率は一般的な誘電率計で測定することができる。また、インク中の水の含有量はカール・フィッシャー滴定などにより知ることができ、水溶性有機溶剤の種類や含有量はガスクロマトグラフィ(GC/MS)や高速液体クロマトグラフィ(LC/MS)などにより知ることができる。
本発明で用いられるインクは、必要に応じて種々の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、例えば、界面活性剤、pH調整剤、消泡剤、防錆剤、防腐剤、酸化防止剤、還元防止剤、蒸発促進剤、キレート化剤などが挙げられる。なお、一般的に、これらの添加剤はインク中の含有量もかなり少ないため、必ずしも比誘電率の算出の際に考慮する必要はない。
圧力室23内に循環流Cを発生させない構成においても、比誘電率の低下のために、インクの溶剤処方として貧溶媒を使用することができる。しかしながら、顔料などの固形分が多いインクを用いる場合、以下の2つの弊害によって、圧力室23内に循環流Cを発生させない構成ではインクの比誘電率を低下させにくくなる。
循環流Cを発生させない構成では、吐出動作を一定時間休止すると顔料が濃縮するため、休止後1発目のインクによる着弾ドットの光学反射濃度(OD)は高くなる傾向にある。それに対して、インクの比誘電率を低下させると顔料の後退現象が発生するため、休止後1発目の着弾ドットのODは逆に低下してしまう。これが1つの弊害である。
また、循環流Cを発生させない構成では、吐出口13からのインク蒸発に伴う固着対策の1つとして、保湿性の高いグリセリンなどの比誘電率の高い良溶媒を使用することで、顔料濃縮による固着を抑制する方法がある。また、比誘電率の低い貧溶媒を使用することで顔料の後退現象を発生させ、顔料濃縮を発生しにくくして固着を抑制する方法もある。しかしながら、顔料の後退現象の発生を過度に促進する、つまり比誘電率の低下を過度に促進すると、後退した顔料が圧力室23内で固着してしまう。そのため、比誘電率を大幅に低下させることが困難となる。これが2つめの弊害である。
10 記録素子基板
18 液体供給路
19 液体回収路
23 圧力室
Claims (17)
- 液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する記録素子を内部に備えた圧力室と、前記圧力室に液体を供給するための液体供給路と、前記圧力室から液体を回収するための液体回収路と、を備えた記録素子基板を有する液体吐出ヘッドと、
前記液体供給路、前記圧力室、前記液体回収路の順に液体を流動させるための流動手段と、
を有する液体吐出装置において、
前記流動手段によって前記圧力室内を流動する液体の比誘電率εrが、εr≦40.7の関係を満たすことを特徴とする液体吐出装置。 - 前記圧力室内を流動する液体の比誘電率εrが、εr≦33.8の関係を満たす、請求項1に記載の液体吐出装置。
- 前記圧力室内を流動する液体の比誘電率εrが、εr≦30.0の関係を満たす、請求項2に記載の液体吐出装置。
- 前記吐出口と前記圧力室とを連通する吐出口部を備え、
前記圧力室の、前記吐出口部との連通部分に対して前記液体の流れ方向の上流側での高さHと、前記吐出口部の液体の吐出方向における長さPと、前記吐出口部の前記液体の流れ方向における長さWとが、H−0.34×P−0.66×W>1.7の関係を満たす、請求項1から3のいずれか1項に記載の液体吐出装置。 - 前記高さHが20μm以下、前記長さPが20μm以下、前記長さWが30μm以下である、請求項4に記載の液体吐出装置。
- 前記圧力室内を流動する液体の流速が0.1〜100mm/sである、請求項1から5のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
- 前記液体の固形分量が8重量%以上である、請求項1から6のいずれか1項に記載の液体吐出装置。
- 液体を吐出するための吐出口と、液体を吐出するために利用されるエネルギーを発生する記録素子と、前記記録素子を内部に備えた圧力室と、前記圧力室に液体を供給するための液体供給路と、前記圧力室から液体を回収するための液体回収路と、を備え、
比誘電率εrがεr≦40.7の関係を満たす液体が、前記液体供給路、前記圧力室、前記液体回収路を順に介して循環されることを特徴とする液体吐出ヘッド。 - 前記液体の比誘電率εrが、εr≦33.8の関係を満たす、請求項8に記載の液体吐出ヘッド。
- 前記吐出口と前記圧力室とを連通する吐出口部を備え、
前記圧力室の、前記吐出口部との連通部分に対して前記液体の流れ方向の上流側での高さHと、前記吐出口部の液体の吐出方向における長さPと、前記吐出口部の前記液体の流れ方向における長さWとが、H−0.34×P−0.66×W>1.7の関係を満たす、請求項8または9に記載の液体吐出ヘッド。 - 前記高さHが20μm以下、前記長さPが20μm以下、前記長さWが30μm以下である、請求項10に記載の液体吐出ヘッド。
- 前記圧力室内を流動する液体の流速が0.1〜100mm/sである、請求項8から11のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
- 前記液体の固形分量が8重量%以上である、請求項8から12のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
- ページワイド型の液体吐出ヘッドであって、
前記記録素子を備える複数の記録素子基板と、
前記複数の記録素子基板を支持するとともに、前記複数の記録素子基板に液体を供給する流路部材と、
を備える、請求項8から13のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。 - 前記流路部材は、前記複数の記録素子基板が配列される配列方向に沿って延在し、前記複数の記録素子基板に液体を供給するための共通供給流路と、前記配列方向に沿って延在し、前記複数の記録素子基板から液体を回収するための共通回収流路と、を備える、請求項14に記載の液体吐出ヘッド。
- 前記複数の記録素子基板は、直線状に配されている、請求項14または15に記載の液体吐出ヘッド。
- 前記圧力室内の液体は当該圧力室の外部との間で循環される、請求項8から16のいずれか1項に記載の液体吐出ヘッド。
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