以下、本発明の実施形態に係る疲労強度改善装置および疲労強度改善方法について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る疲労強度改善装置を示す図である。なお、図1(a)においては、本実施形態に係る疲労強度改善装置の本体部の側面を示し、図1(b)においては、上記本体部の正面を示している。また、図1においては、互いに直交する第1方向、第2方向および第3方向を示している。他の図においても、適宜、互いに直交する第1方向、第2方向および第3方向を示している。
図1を参照して、本実施形態に係る疲労強度改善装置10(以下、改善装置10と略記する。)は、本体部12および駆動源14(図1(a)参照)を備えている。本体部12は、駆動力伝達部16と、押圧ユニット18と、支持ユニット20とを備えている。本実施形態では、駆動力伝達部16は、第1方向において押圧ユニット18と支持ユニット20との間に配置されている。また、本実施形態では、押圧ユニット18および支持ユニット20は、駆動力伝達部16に対して着脱可能に設けられている。
図2は、駆動力伝達部16を示す図である。詳細は後述するが、駆動力伝達部16は、流体によって押圧ユニット18を第1方向に移動させる。本実施形態では、駆動力伝達部16として、例えば、油圧ジャッキ(出力は、例えば、5kN以上200kN以下)が用いられる。図1および図2を参照して、駆動力伝達部16は、保持部16a、取付部16b、およびピストン16cを含む。
図2を参照して、本実施形態では、保持部16aは、扁平な筒形状を有している。図1および図2を参照して、保持部16aは、第1方向において互いに平行な第1面161および第2面162、並びに第1面161の外縁と第2面162の外縁とを接続するように第1方向に延びる外周面163を有している。
ピストン16cは、第1方向に進退可能に保持部16aに保持されている。保持部16a内には、ピストン16cを第1方向に移動させるための流体(本実施形態ではオイル)が充填されている。ピストン16cのストロークは、例えば、10mm以下に設定される。
保持部16aは、取付部16bを介して駆動源14に接続されている。本実施形態では、駆動源14として、油圧ポンプが用いられる。駆動源14によって発生された油圧が、保持部16a内のオイルからピストン16cに伝達され、ピストン16cが、第1面161から突出するように第1方向に移動する。これにより、第1方向において、後述する押し子部18aが、後述する支持部20aから相対的に離れるように移動する。このように、本実施形態では、駆動源14によって発生される油圧が、ピストン16cおよび押圧ユニット18を移動させるための駆動力として用いられる。
図1を参照して、本実施形態では、第2方向における駆動力伝達部16の長さは、第3方向における駆動伝達部16の長さより長く、例えば、第3方向における駆動力伝達部16の長さの4倍以上(好ましくは、5倍以上)に設定される。これにより、後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)内に本体部12を配置するために、本体部12を細長い形状にする場合でも、保持部16a内においてピストン16cが流体(オイル)から圧力を受ける部分の面積を十分に大きくすることができる。その結果、後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)内に本体部12を配置できるようにしつつ、駆動力伝達部16においてピストン16cに十分な駆動力を伝達することができる。なお、第2方向における駆動力伝達部16の長さは、保持部16aの第2方向における長さとピストン16cの第2方向における長さのうち長い方のことを表す。また、第3方向における駆動力伝達部16の長さは、保持部16aの第3方向における長さとピストン16cの第3方向における長さのうち長い方のことを表す。
第1方向における駆動力伝達部16の長さ(ピストン16cが伸びきったときの長さ)は、例えば、15〜20mmに設定される。第2方向における駆動力伝達部16の長さは、例えば、100mm以下に設定される。第3方向における駆動力伝達部16の長さは、例えば、20mm以下に設定される。なお、駆動力伝達部16の大きさは後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)の形状に応じて適宜変更することができ、例えば、第2方向における駆動力伝達部16の長さは、5mm以上50mm以下に設定され、第3方向における駆動力伝達部16の長さは、1mm以上5mm以下に設定される。
押圧ユニット18は、押し子部18aおよびベース部18bを有している。押し子部18aとベース部18bとは固定されている。ベース部18bは、ピストン16cに取り付けられる。本実施形態では、ベース部18bは、ピストン16cに対して取り外し可能に設けられる。これにより、押し子部18aの損傷および後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)の形状等に応じて、押圧ユニット18を取り替えることができる。なお、詳細な説明は省略するが、押圧ユニット18は、例えば、ネジ等の締結部材を用いてピストン16cに取り付けることができる。
支持ユニット20は、支持部20aおよびベース部20bを有している。支持部20aとベース部20bとは固定されている。ベース部20bは、保持部16aの第2面162に固定される。本実施形態では、ベース部20bは、保持部16aに対して取り外し可能に設けられる。これにより、支持部20aの損傷および後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)の形状等に応じて、支持ユニット20を取り替えることができる。なお、詳細な説明は省略するが、支持ユニット20は、例えば、ネジ等の締結部材を用いて保持部16aに取り付けることができる。本実施形態では、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向に見た場合に、押し子部18aおよび支持部20aが互いに重なる位置に位置付けられるように、押圧ユニット18および支持ユニット20が設けられている。言い換えると、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向に投影した場合に、押し子部18aおよび支持部20aが重なるように、押圧ユニット18および支持ユニット20が設けられている。
本実施形態では、第2方向における押し子部18aの長さは、第3方向における押し子部18aの長さよりも大きい。
図3(a)は、図1(a)のA−A線断面における押圧ユニット18を示す図であり、図3(b)は、図1(b)のB−B線断面における押圧ユニット18を示す図である。なお、図3(a)に示す断面は、第2方向における押し子部18aの中心を通る断面である。また、図3(b)に示す断面は、第3方向における押し子部18aの中心を通る断面である。
図1および図3を参照して、押し子部18aの外面は、第2方向に直交する断面(図3(a)に示す断面)において、駆動力伝達部16に対して支持部20aとは反対側に向かって凸となりかつ円弧状に湾曲する湾曲面181を有する。また、本実施形態では、押し子部18aの湾曲面181は、第3方向に直交する断面(図3(b)に示す断面)においても、駆動力伝達部16に対して支持部20aとは反対側に向かって凸となりかつ円弧状に湾曲する。言い換えると、湾曲面181は、第1方向において、支持部20aとは反対に向かって凸となる。
本実施形態では、第3方向に直交する断面(図3(b)に示す断面)における湾曲面181の先端部の曲率半径は、例えば、第2方向に直交する断面(図3(a)に示す断面)における湾曲面181の先端部の曲率半径の5倍以上100倍以下に設定される。第2方向に直交する断面における湾曲面181の先端部の曲率半径は、後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)の大きさおよび形状等に応じて適宜設定され、例えば、3mm以下に設定される。なお、第2方向に直交する断面において、押し子部18aのうち、溶接止端部を押す部分(すなわち、湾曲面181の先端部)の曲率半径は、溶接止端部(後述の図6の溶接止端部44a参照)の表面の曲率半径よりも多少大きいことが好ましい。具体的には、溶接止端部の表面の曲率半径は、通常、1mm以下程度であるので、第2方向に直交する断面(図3(a)に示す断面)における湾曲面181の先端部の曲率半径は、例えば、1mm以上に設定される。
図4(a)は、図1(a)のA−A線断面における支持ユニット20を示す図であり、図4(b)は、図1(b)のB−B線断面における支持ユニット20を示す図である。なお、図4(a)に示す断面は、第2方向における支持部20aの中心を通る断面である。また、図4(b)に示す断面は、第3方向における支持部20aの中心を通る断面である。
図1および図4を参照して、支持部20aの外面は、第2方向に直交する断面(図4(a)に示す断面)において、駆動力伝達部16に対して押し子部18aとは反対側に向かって凸となりかつ円弧状に湾曲する湾曲面201を有する。言い換えると、湾曲面201は、第1方向において、押し子部18aとは反対に向かって凸となる。本実施形態では、支持部20aの湾曲面201は、第3方向に直交する断面(図4(b)に示す断面)において、第2方向に直線状に延びる。このように、第2方向に直線状に延びるように湾曲面201を形成することによって、後述する貫通孔40a,40b,40c(図6参照)内に本体部12を配置する際に、支持部20aと溶接継手30との接触面積を大きくできる。これにより、支持部20aによって本体部12を安定して支持することができる。また、接触面積が大きくなることによって、支持部20aとの接触部における溶接継手30の変形を抑制することができる。
第2方向に直交する断面(図4(a)に示す断面)における湾曲面201の先端部の曲率半径は、例えば、第2方向に直交する断面(図3(a)に示す断面)における湾曲面181の先端部の曲率半径の2倍以上10倍以下に設定される。第2方向に直交する断面(図4(a)に示す断面)における湾曲面201の先端部の曲率半径は、例えば、2mm以上20mm以下に設定される。
図1を参照して、本実施形態では、第2方向において、支持部20aの長さは、押し子部18aの長さよりも大きい。第2方向における支持部20aの長さは、例えば、5mm以上50mm以下に設定される。
本実施形態に係る改善装置10は、切欠き部を有しかつ金属からなる板状の接合部材を含む複数の金属部材を備えており、前記切欠き部によって前記接合部材の板厚方向に深さを有する孔が形成されるように前記複数の金属部材が溶接されており、かつ、少なくとも2つの前記金属部材を接合する溶接部が前記孔内に形成されている溶接継手において、前記孔内に形成された前記溶接部の溶接止端部の疲労強度を改善する際に好適に利用される。なお、建築構造物などで利用される溶接継手においては、半径が35mm程度の円に相当する大きさのスカラップが形成される場合が多い。本実施形態に係る改善装置10は、このようなスカラップ内に形成された溶接部の溶接止端部の疲労強度を適切に改善することができる。
以下、改善装置10の使用方法の一例について説明する。図5は、疲労強度改善方法が実施される溶接継手の一例を示す図である。なお、図5には、溶接継手の一例として、鋼床版が示されている。
図5を参照して、鋼床版30は、デッキプレート32と、主桁34と、横リブ36と、縦リブ38とを有している。横リブ36は、複数の切欠き部36a,36b,36cを有している。切欠き部36aによって、デッキプレート32と主桁34と横リブ36との間に、横リブ36(より具体的には、横リブ36のウェブ)を板厚方向に貫通する貫通孔40aが形成されている。また、切欠き部36bによって、横リブ36と縦リブ38との間に貫通孔40bが形成され、切欠き部36cによって、デッキプレート32と横リブ36と縦リブ38との間に貫通孔40cが形成されている。
なお、図5の鋼床版30においては、デッキプレート32、主桁34、横リブ36、および縦リブ38がそれぞれ金属部材の例であり、横リブ36のウェブが板状の接合部材の例である。
図5を参照して、溶接部42a,42b,42cそれぞれの一部は、貫通孔40a内に形成されている。本実施形態では、貫通孔40aを通るように、溶接部42a,42b,42cが形成されている。溶接部42aは、デッキプレート32と主桁34とを接合し、溶接部42bは、デッキプレート32と横リブ36とを接合し、溶接部42cは、主桁34と横リブ36とを接合している。また、詳細な説明は省略するが、横リブ36と縦リブ38とを接合する溶接部42dの一部は、貫通孔40b内に形成されている。また、溶接部42dの他の一部は、貫通孔40c内に形成されている。本実施形態では、溶接部42dは、貫通孔40bおよび貫通孔40cを通るように形成されている。また、デッキプレート32と縦リブ38とを接合する溶接部42eの一部、およびデッキプレート32と横リブ36とを接合する溶接部42fの一部はそれぞれ、貫通孔40c内に形成されている。本実施形態では、溶接部42e,42fはそれぞれ、貫通孔40cを通るように形成されている。
本実施形態では、上述の改善装置10を各貫通孔40a〜40c内に配置して、各貫通孔40a〜40cの内面(より具体的には、各溶接部42a〜42fの溶接止端部)を押し子部18aで押すことによって、溶接止端部に圧縮残留応力を付与することができる。これにより、各貫通孔40a〜40c内において、各溶接部42a〜42fの溶接止端部の疲労強度を改善することができる。その結果、鋼床版30の疲労強度を改善することができる。なお、本実施形態では、押し子部18aが各貫通孔40a〜40cの内面を押している際には、支持部20aも各貫通孔40a〜40cの内面を押している。言い換えると、押し子部18aが各貫通孔40a〜40cの内面を押す際には、支持部20aは、各貫通孔40a〜40cの内面に接触することによって駆動力伝達部16および押圧ユニット18(押し子部18a)を支持する。本実施形態では、押し子部18aが各貫通孔40a〜40cの内面を押す時間は、例えば、1秒以上に設定される。なお、押し子部18aが各貫通孔40a〜40cの内面を押す時間を1秒未満に設定する場合には、押し子部18aによって同じ箇所を繰り返し押すことが好ましい。
以下、貫通孔40a内に改善装置10を配置する場合の一例を挙げて、疲労強度改善方法についてより具体的に説明する。
図6は、貫通孔40aの周辺および貫通孔40a内に配置された改善装置10を示す概略図である。また、図7は、図6において矢印Xで示す方向にデッキプレート32、横リブ36および溶接部42bを見た図である。なお、図7においては、デッキプレート32、横リブ36および溶接部42bの位置関係を明確にするために、横リブ36にハッチングを付している。
図6および図7を参照して、溶接部42bは、回し溶接部44を含む。回し溶接部44は、溶接部42bのうち、横リブ36の切欠き部36a側の端部を回るように形成された部分である。
本実施形態では、図6に示すように、貫通孔40a内に改善装置10を配置することによって、押し子部18aによって、回し溶接部44の溶接止端部44aを押すことができる。これにより、従来の装置では困難であった、貫通孔40a内に形成された回し溶接部44の疲労強度の改善が可能になる。
また、本実施形態では、図1に示したように、第2方向における押し子部18aの長さは、第3方向における押し子部18aの長さよりも大きい。このような形状の押し子部18aによって、図7に破線で示すように、溶接止端部44aに沿って延びる所定長さの領域50を、一度の処理によって押すことができる。これにより、少ない処理回数で、鋼床版30の疲労強度を向上させることができる。また、処理回数が少なくなることによって、例えば、超音波振動を用いた打撃処理を溶接止端部44aに施す場合に比べて、溶接止端部44aの損傷(剥離等)を抑制することができる。なお、溶接止端部は、完全な直線状ではなく、湾曲した部分(うねるように延びる部分)を有している場合がある。溶接止端部がこのような形状を有している場合でも、第2方向および第3方向における押し子部18aの長さをそれぞれ適切に設定することによって、溶接止端部に沿った十分な長さの領域を、一度の処理で適切に押すことが可能になる。
なお、上述の実施形態では、押し子部18aと支持部20aとの形状が異なる場合について説明したが、押し子部18aと支持部20aとが同様の形状であってもよい。この場合、押し子部18aおよび支持部20aの両方によって、溶接止端部に圧縮残留応力を付与することができる。
また、上述の実施形態では、押圧ユニット18がピストン16cに取り付けられる場合について説明したが、改善装置10の構成は上述の例に限定されない。すなわち、押圧ユニット18および支持ユニット20のうちの一方のみをピストンに取り付けてもよく、駆動力伝達部に一対のピストンを設け、押圧ユニット18および支持ユニット20の両方をピストンに取り付けてもよい。
また、上述の実施形態では、駆動力伝達部16が、第2方向における長さが第3方向における長さよりも長いピストン16cを備える場合について説明したが、ピストンの構成は上述の例に限定されない。例えば、図8に示すように、駆動力伝達部16が、上述のピストン16cの代わりに、第2方向に並ぶように配置された複数の円筒形のピストン16dを備えていてもよい。この場合、各ピストン16dについて、第2方向における長さを第3方向における長さよりも長くしなくてもよいので、既製品のピストンを活用できる。したがって、改善装置の製造コストを低減する観点からは、図8に示すように、円筒形のピストン16dを並べた構成とすることが好ましい。なお、図8においては、各構成部材の位置関係を分かり易くするために、押圧ユニット18のベース部18bを図示しているが、押し子部18aの図示は省略している。
上述の実施形態では、貫通孔内に溶接部が形成されている溶接継手において改善装置を用いる場合について説明した。しかしながら、本実施形態にかかる改善装置は、接合部材を貫通していていない孔内に溶接部が形成された溶接継手においても、疲労強度を改善するために用いることができる。例えば、当初は溶接継手において接合部材の板厚方向に貫通する孔が形成されていたが、他の構造物によってその孔の一端側が塞がれた場合でも、その孔内に形成されている溶接部の溶接止端部の疲労強度を、改善装置を用いて改善することができる。なお、接合部材を貫通していない孔内に溶接部が形成された溶接継手において改善装置を用いる場合には、孔の深い場所に位置している溶接止端部を押すことができる形状の押し子部を用いることが好ましい。孔が深い場合でも、疲労き裂の起点が孔の深い場所に位置している溶接止端部でない場合(すなわち、孔の深い場所に位置している溶接止端部に圧縮残留応力を付与しなくてもよい場合)には、種々の形状の押し子部を利用することができる。なお、孔内の全ての溶接止端部に圧縮残留応力を付与しやすいため、溶接部が形成されている孔は貫通孔であることが好ましい。
上述の実施形態では、改善装置が、溶接継手の孔内に配置可能な保持部を有する駆動力伝達部を備える場合について説明したが、駆動力伝達部の構成は上述の例に限定されない。図9は、本発明の他の実施形態に係る疲労強度改善装置を示す図である。
図9を参照して、本実施形態に係る疲労強度改善装置200(以下、改善装置200と略記する。)は、本体部220および駆動源240を備えている。本体部220は、駆動力伝達部260と、上述の押圧ユニット18と、上述の支持ユニット20とを備えている。なお、改善装置200のうち押圧ユニット18および支持ユニット20以外の構成については、公知の油圧ジャッキの構成を利用できるので、以下においては、改善装置200の構成を簡単に説明する。
本実施形態では、駆動源240として、例えば、手動ポンプが用いられる。なお、詳細な説明は省略するが、駆動源が電動ポンプであってもよい。駆動力伝達部260は、保持部260a、ベース部260b、ピストン(ラム)260c、アーム部260d、および爪部260eを含む。保持部260aは、第1方向に進退可能にピストン260cを保持する。本実施形態では、保持部260aおよびピストン260cとして、ラムシリンダが用いられる。
駆動源240および保持部260aは、ベース部260bに支持されている。ベース部260b内には、駆動源240と保持部260aとを連通する流路が形成されている。駆動源240、ベース部260bの流路、および保持部260aには、ピストン260cを第1方向に移動させるための流体(本実施形態ではオイル)が充填されている。
アーム部260dはL字形状を有し、第2方向に延びかつピストン260cに取り付けられる第1アーム部261と、第1アーム部261の第2方向における一端からベース部260b側に向かって第1方向に延びる第2アーム部262とを含む。爪部260eは、第2アーム部262のベース部260b側の端部に固定される。爪部260eは、第2アーム部262の上記端部から、第2方向において保持部260aから離れる方向に延びている。
本実施形態では、爪部260eに押圧ユニット18が固定され、ベース部260bに支持ユニット20が固定されている。具体的には、押し子部18aが爪部260eに対してベース部260bとは反対側に向かって凸となるように、爪部260eに押圧ユニット18が固定されている。また、支持部20aがベース部260bに対して爪部260eとは反対側に向かって凸となるように、ベース部260bに支持ユニット20が固定されている。本実施形態においても、上述の実施形態と同様に、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向に見た場合に、押し子部18aおよび支持部20aが互いに重なる位置に位置付けられるように、押圧ユニット18および支持ユニット20が設けられている。言い換えると、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向に投影して得られる投影図において、押し子部18aおよび支持部20aが重なるように、押圧ユニット18および支持ユニット20が設けられている。
本実施形態では、駆動源240によって発生された油圧が、ベース部260b内および保持部260a内のオイルを介してピストン260cに伝達され、ピストン260cが、保持部260aから突出するように第1方向に移動する。これにより、アーム部260dおよび爪部260eがベース部260bから離れるように第1方向に移動する。その結果、押し子部18aが、支持部20aから相対的に離れるように第1方向に移動する。このように、本実施形態では、駆動源240によって発生される油圧が、ピストン260cおよび押圧ユニット18を移動させるための駆動力として用いられる。
本実施形態に係る改善装置200を用いる場合には、押圧ユニット18および支持ユニット20が溶接継手の孔(スカラップ)内に挿入される。その状態で、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向において相対的に離れる方向に移動させることによって、上述の改善装置10と同様に、孔内に形成された溶接部の溶接止端部の疲労強度を適切に改善することができる。また、本実施形態では、保持部260aを溶接継手の孔の外に配置した状態で、押し子部18aによって、孔の内面を押すことができる。このため、保持部260aの寸法を、孔内に挿入可能な大きさに制限する必要がない。これにより、保持部260aにおいて大きな力でピストン260cを押すことが可能になり、押し子部18aが孔の内面を押す力を十分に大きくすることが可能になる。
また、上述の実施形態では、疲労強度改善装置10の本体部12として油圧ジャッキを用いる場合について説明したが、疲労強度改善装置の構成は上述の例に限定されない。例えば、駆動力伝達部が、オイル以外の非圧縮性流体によって駆動力を伝達してもよい。また、例えば、駆動力伝達部内に駆動源としてのモータが収容され、モータによって発生される駆動力が、複数のギア等によって押し子部18aに伝達されてもよい。
図10は、油圧ジャッキを用いていない疲労強度改善装置の一例を示す概略図であり、図10(a)は疲労強度改善装置の側面図、図10(b)は疲労強度改善装置の内部構造を示す一部断面図である。
図10を参照して、本実施形態に係る疲労強度改善装置300(以下、改善装置300と略記する。)は、駆動力伝達部360と、上述の押圧ユニット18と、上述の支持ユニット20とを備えている。
駆動力伝達部360は、移動ユニット362と回転部材364とを備えている。移動ユニット362の内部には、テーパー状の空洞部が形成されている。移動ユニット362の内面には、ねじ溝が形成されている。第1方向において、押圧ユニット18は、移動ユニット362の一方側の端部に固定され、支持ユニット20は、移動ユニット362の他方側の端部に固定されている。本実施形態では、移動ユニット362は、第1方向において2分割された構成を有し、第1部材62aおよび第2部材62bを有している。本実施形態では、第1部材62aに押圧ユニット18が固定され、第2部材62bに支持ユニット20が固定されている。
本実施形態では、第1部材62aは、側面視において第1方向の一方側に向かって凹む凹部621を有している。第2部材62bは、側面視において第1方向の一方側に向かって突出し、かつ凹部621に嵌る凸部622を有している。本実施形態では、第1部材62aと第2部材62bとは、第1方向において相対的に移動可能に、互いに組み合わされている。
回転部材364は、頭部64aと、頭部64aから第2方向に延びるねじ部64bとを備えている。頭部64aは、第2方向に直交する断面において、多角形状を有している。ねじ部64bは、第2方向において頭部64aから離れるほど細くなるように、テーパー形状を有している。本実施形態では、ねじ部64bのねじ山が移動ユニット362の内面のねじ溝にねじ込まれるように、移動ユニット362に回転部材364が挿入されている。
本実施形態では、頭部64aを回転させることによって、ねじ部64bが回転し、第1部材62aと第2部材62bとが、第1方向において相対的に離れる方向または近付く方向に移動する。これにより、押し子部18aと支持部20aとが、第1方向において相対的に離れるように、または近付くように移動する。本実施形態では、作業者が工具を用いて頭部64aを回転させることができる。なお、工具としては、通常のレンチの他、ラチェットレンチおよびインパクトレンチ等を用いることもできる。
本実施形態に係る改善装置300を用いる場合には、押圧ユニット18、支持ユニット20および駆動力伝達部360が溶接継手の孔(スカラップ)内に挿入される。その状態で、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向において相対的に離れる方向に移動させることによって、上述の改善装置10,200と同様に、孔内に形成された溶接部の溶接止端部の疲労強度を適切に改善することができる。
また、本実施形態では、駆動力伝達部360は、油圧を用いることなく、機械的な構造によって、頭部64aの回転力(駆動力)を、第1方向の力として、押し子部18aおよび支持部20aに伝達することができる。このように、本実施形態では、駆動力を押し子部18aおよび支持部20aに伝達するための流体が不要となるので、改善装置300の小型化が容易になる。
なお、詳細な説明は省略するが、図11に示す疲労強度改善装置300a(以下、改善装置300aと略記する。)のように、回転部材364の代わりに楔366を用いてもよい。この場合、図示しない槌等の工具によって楔366を打ち付けることによって、押し子部18aおよび支持部20aを移動させることができる。
図12は、油圧ジャッキを用いていない疲労強度改善装置のその他の例を示す概略図であり、図12(a)は疲労強度改善装置の側面図、図12(b)は疲労強度改善装置の内部構造を示す一部断面図である。
図12を参照して、本実施形態に係る疲労強度改善装置400(以下、改善装置400と略記する。)は、駆動力伝達部410と、上述の押圧ユニット18と、上述の支持ユニット20とを備えている。
駆動力伝達部410は、第1移動ユニット412と、第2移動ユニット414と、回転部材416とを備えている。第1移動ユニット412の内部には、互いに連通するテーパー状の空洞部412a,412bが形成されている。空洞部412a,412bは、第2方向において第1移動ユニット412を貫通するように形成されている。本実施形態では、空洞部412a,412bはそれぞれ、第2方向における第1移動ユニット412の中心に近付くほど直径が小さくなるように、円錐台形状を有している。
第1方向において、押圧ユニット18は、第1移動ユニット412の一方側の端部に固定され、支持ユニット20は、第1移動ユニット412の他方側の端部に固定されている。本実施形態では、第1移動ユニット412は、第1方向において2分割された構成を有し、第1部材121および第2部材122を有している。本実施形態では、第1部材121に押圧ユニット18が固定され、第2部材122に支持ユニット20が固定されている。
本実施形態においても、第1部材121は、第1部材62a(図10参照)と同様に、側面視において第1方向の一方側に向かって凹む凹部121aを有している。また、第2部材122は、第2部材62b(図10参照)と同様に、側面視において第1方向の一方側に向かって突出し、かつ凹部121aに嵌る凸部122aを有している。本実施形態においても、第1部材121と第2部材122とは、第1方向において相対的に移動可能に、互いに組み合わされている。
第2移動ユニット414は、第1挿入部材141および第2挿入部材142を有している。第1挿入部材141および第2挿入部材142はそれぞれ、円錐台形状を有している。第1挿入部材141は、ねじ孔141aを有している。ねじ孔141aは、第1挿入部材141の軸方向に延びて第1挿入部材141を貫通するように形成されている。第1挿入部材141は、第1移動ユニット412の空洞部412aに挿入されている。第2挿入部材142は、貫通孔142aを有している。貫通孔142aは、第2挿入部材142の軸方向に延びて第2挿入部材142を貫通するように形成されている。第2挿入部材141は、第1移動ユニット412の空洞部412bに挿入されている。
本実施形態では、回転部材416は、頭部416a、円筒部416bおよびねじ部416cを有するねじである。本実施形態では、ねじ部416cがねじ孔141aにねじ込まれ、かつ頭部416aが第2挿入部材142に接触するように、回転部材416が第1挿入部材141および第2挿入部材142に差し込まれている。
本実施形態では、頭部416aを回転させることによって、ねじ部416cが回転し、第1挿入部材141が、第2方向において頭部416aに近付くように、または離れるように移動する。これにより、第1挿入部材141および第2挿入部材142が、第2方向において第1移動ユニット412の中心に近付くように、または中心から離れるように移動する。第1挿入部材141および第2挿入部材142のこのような動作に従って、第1部材121と第2部材122とが、第1方向において相対的に離れる方向または近付く方向に移動する。これにより、押し子部18aと支持部20aとが、第1方向において相対的に離れるように、または近付くように移動する。本実施形態においても、上述の改善装置300の場合と同様に、作業者が工具を用いて頭部416aを回転させることができる。
本実施形態に係る改善装置400を用いる場合には、押圧ユニット18、支持ユニット20および駆動力伝達部410が溶接継手の孔(スカラップ)内に挿入される。その状態で、押し子部18aおよび支持部20aを第1方向において相対的に離れる方向に移動させることによって、上述の改善装置10,200,300と同様に、孔内に形成された溶接部の溶接止端部の疲労強度を適切に改善することができる。また、本実施形態においても、上述の改善装置300の場合と同様に、駆動力を押し子部18aおよび支持部20aに伝達するための流体が不要となるので、改善装置400の小型化が容易になる。
図13は、油圧ジャッキを用いていない疲労強度改善装置のさらにその他の例を示す概略図である。図13に示す疲労強度改善装置400a(以下、改善装置400aと略記する。)では、第2挿入部材142の貫通孔142aは、ねじ孔である。具体的には、第1挿入部材141の貫通孔141aに形成されたねじ溝とは逆ねじになるように、貫通孔142aにねじ溝が形成されている。また、改善装置400aでは、上述の改善装置400の回転部材416の代わりに、回転部材(ねじ)417が設けられている。回転部材417が回転部材416と異なるのは、頭部416aとねじ部416cとの間にさらにねじ部417bが設けられている点である。ねじ部417bにおいては、ねじ部416cに対して逆ねじになるように、ねじ山が形成されている。
本実施形態では、頭部416aを回転させることによって、ねじ部416c,417bが回転し、第1挿入部材141および第2挿入部材142が第2方向において互いに近付くように、または離れるように移動する。これにより、第1挿入部材141および第2挿入部材142が、第2方向において第1移動ユニット412の中心に近付くように、または中心から離れるように移動する。第1挿入部材141および第2挿入部材142のこのような動作に従って、第1部材121と第2部材122とが、第1方向において相対的に離れる方向または近付く方向に移動する。これにより、押し子部18aと支持部20aとが、第1方向において相対的に離れるように、または近付くように移動する。このような改善装置400aの動作により、上述の改善装置400と同様の効果が得られる。また、本実施形態では、回転部材(ねじ)417の首への負担を低減することができる。
上述の実施形態では、図1に示したように、支持ユニット20において、ベース部20bから一方向(第1方向)に向かって突出するように支持部20aが設けられているが、支持ユニットの構成は上述の例に限定されない。例えば、図14に示す改善装置10aのように、支持ユニット20の代わりに支持ユニット250が設けられてもよい。なお、図14に示す支持ユニット250が上述の支持ユニット20と異なるのは、支持部20aの代わりに支持部25を備えている点である。以下、支持部25について簡単に説明する。
支持部25は、第1支持部25aと第2支持部25bとを有している。第1支持部25aは、上述の支持部20aと同様に、ベース部20bから一方向(第1方向)に向かって突出するように設けられている。一方、第2支持部25bは、第2方向から見て、第1支持部25aから上記一方向(第1方向)に対して交差する方向に突出するように設けられている。
支持ユニット250を備えた改善装置10aを用いる場合、例えば、図15に示すように、貫通孔40a内において、第1支持部25aおよび第2支持部25bによって駆動力伝達部16および押圧ユニット18を支持することができる。すなわち、本実施形態では、支持部25は、貫通孔40a内の2箇所で溶接継手30(本実施形態では、鋼床版)に接触することによって、駆動力伝達部16および押圧ユニット18を支持することができる。これにより、駆動力伝達部16および押圧ユニット18をより安定して支持することができる。なお、詳細な説明は省略するが、支持ユニットの形状は、貫通孔の形状に応じて適宜変更することができる。