以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る解析装置、方法及びプログラムについて説明する。
<1.スイング解析システムの概要>
図1〜図4に、本発明の一実施形態に係る解析装置1を含むスイング解析システム100の全体構成図を示す。スイング解析システム100は、ゴルファーGにスイングされるゴルフクラブ5の挙動を解析するように構成されている。ゴルフクラブ5の挙動は、第1計測器MD1及び第2計測器MD2により計測される。第1計測器MD1及び第2計測器MD2は、解析装置1とともにスイング解析システム100を構成する。
ゴルフクラブ5の特にシャフト52及びグリップ51の部分は、弾性体であり、スイング中に変形する性質を有している。解析装置1は、第1計測器MD1及び第2計測器MD2から出力される計測データに基づいて、スイング中のシャフト52及びグリップ51の変形をシミュレートする機能を有している。また、詳細は後述するが、第1計測器MD1には、角速度センサ42が含まれ、シャフト52及びグリップ51の変形は、角速度センサ42の出力値である角速度データに基づいてシミュレートされる。ところで、一般に、角速度センサ42から出力される角速度データには、ドリフト誤差とも呼ばれるバイアス成分が含まれる。本実施形態では、角速度データに基づくシャフト52及びグリップ51の変形のシミュレーションの精度を向上させるべく、角速度データに含まれるバイアス成分が精度よく除去される。
概要を説明すると、本実施形態では、第1計測器MD1により計測されるゴルフクラブ5のグリップエンド51aの運動を表す計測データ(第1計測データ)に基づいて、スイング中のゴルフクラブ5のシャフト52及びグリップ51の変形がシミュレートされる。さらに、シャフト52及びグリップ51の変形のシミュレート結果に基づいて、ゴルフクラブ5のスイングによる運動の結果を表す指標値(第1指標値)が導出される。本実施形態でいう指標値は、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、ブロー角及び軌道角、並びにヘッド53のフェース面53a上におけるボール55の打点位置である。一方で、第2計測器MD2により計測されるゴルフクラブ5のヘッド53の運動を表す計測データ(第2計測データ)からも、ゴルフクラブ5のスイングによる運動の結果を表す指標値(第2指標値)が特定される。
そして、第1計測データに基づく第1指標値が、第2計測データに基づく第2指標値と整合するように、角速度データのバイアス成分を除去するための補正パラメータが決定され、この補正パラメータに応じて、角速度データが補正される。その後、補正後の角速度データを含む第1計測データに基づいて、シャフト52及びグリップ51の変形が再シミュレートされる。以上より、角速度センサ42とは別の第2計測器MD2による計測の結果に基づいて、角速度データのバイアス成分が決定される。従って、バイアス成分が精度よく除去された角速度データに基づいて、シャフト52及びグリップ51の挙動を高精度に解析することができる。
以下、第1計測器MD1、第2計測器MD2及び解析装置1の構成について説明した後、解析処理の流れについて説明する。
<2.各部の詳細>
本実施形態に係る第1計測器MD1は、慣性センサユニット40と、2台構成の距離画像センサ2A,2Bとから構成される。一方、本実施形態に係る第2計測器MD2は、高性能撮影システムから構成される。以下、順に説明する。
<2−1.第1計測器>
<2−1−1.慣性センサユニット>
慣性センサユニット40は、図1に示すとおり、ゴルフクラブ5のグリップ51におけるヘッド53と反対側の端部であるグリップエンド51aに取り付けられており、グリップエンド51aの運動を計測する。図5に示すとおり、ゴルフクラブ5は、一般的なゴルフクラブであり、シャフト52と、シャフト52の一端に設けられたヘッド53と、シャフト52の他端に設けられたグリップ51とから構成される。慣性センサユニット40は、スイング動作の妨げとならないよう、小型且つ軽量に構成されている。
図4に示すように、本実施形態に係る慣性センサユニット40には、加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43が搭載されている。また、慣性センサユニット40には、これらのセンサ41〜43から出力されるセンサデータ(第1計測データ)を、通信線17を介して解析装置1等の外部のデバイスに送信するための通信装置44も搭載されている。なお、本実施形態では、通信装置44は、スイング動作の妨げにならないように無線式であるが、ケーブルを介して有線式に解析装置1に接続するようにしてもよい。センサデータは、通信装置44を介してセンサ41〜43からリアルタイムに解析装置1に送信される。しかしながら、例えば、慣性センサユニット40内の記憶装置にセンサデータを格納しておき、スイング動作の終了後に当該記憶装置からセンサデータを取り出して、解析装置1に受け渡すようにしてもよい。
加速度センサ41、角速度センサ42及び地磁気センサ43はそれぞれ、xyz局所座標系における加速度、角速度及び地磁気を計測する。より具体的には、加速度センサ41は、x軸、y軸及びz軸方向のグリップエンド51aの加速度ax,ay,azを計測する。角速度センサ42は、x軸、y軸及びz軸周りのグリップエンド51aの角速度ωx,ωy,ωzを計測する。地磁気センサ43は、グリップエンド51aにおけるx軸、y軸及びz軸方向の地磁気mx,my,mzを計測する。これらの加速度、角速度及び地磁気に関するセンサデータは、所定の短いサンプリング周期の時系列データとして取得される。
なお、xyz局所座標系は、図5に示すとおりに定義される3軸直交座標系である。すなわち、z軸は、シャフト52の延びる方向に一致し、ヘッド53からグリップ51に向かう方向が、z軸正方向である。y軸は、ゴルフクラブ5のアドレス時の飛球方向にできる限り沿うように、すなわち、フェース−バック方向に概ね沿うように配向され、バック側からフェース側に向かう方向がy軸正方向である。x軸は、y軸及びz軸に直交するように、すなわち、トゥ−ヒール方向に概ね沿うように配向され、ヒール側からトゥ側に向かう方向がx軸正方向である。xyz局所座標系の原点は、グリップエンド51aである。
また、xyz局所座標系の他、図1〜図3に示される3軸直交座標系である、XYZ慣性座標系も定義される。Z軸は、鉛直下方から上方に向かう方向であり、X軸は、ゴルファーGの背から腹に向かう方向であり、Y軸は、地平面に平行でボール55の打球地点から目標地点に向かう方向である。
なお、ゴルフスイングは、一般に、アドレス、トップ、インパクト、フィニッシュの順に進む。アドレスとは、ヘッド53をボール55近くに配置した静止状態を意味し、トップとは、アドレスからゴルフクラブ5をテイクバックし、最もヘッド53が振り上げられた状態を意味する。インパクトとは、トップからゴルフクラブ5が振り下ろされ、ヘッド53がボール55と衝突した瞬間の状態を意味し、フィニッシュとは、インパクト後、ゴルフクラブ5を前方へ振り抜いた状態を意味する。
<2−1−2.距離画像センサ>
距離画像センサ2A,2Bは、ゴルファーGがゴルフクラブ5を試打する様子を二次元画像として撮影するとともに、被写体までの距離を測定する測距機能を有するカメラである。従って、距離画像センサ2A,2Bは、時系列の二次元画像とともに、時系列の深度画像を出力することができる。なお、ここでいう二次元画像とは、撮影空間の像をカメラの光軸に直交する平面内へ投影した画像である。また、深度画像とは、カメラの光軸方向の被写体の奥行きのデータを、二次元画像と略同じ撮像範囲内の画素に割り当てた画像である。本実施形態では、図1に示すとおり、1台目の距離画像センサ2Aは、ゴルフスイングをゴルファーGの正面側から撮影すべく、ゴルファーGの前方に設置される。一方、2台目の距離画像センサ2Bは、ゴルフスイングを距離画像センサ2Aとは異なる方向から撮影すべく、具体的には、ゴルファーGを右側から撮影すべく、ゴルファーGの右側に設置される。
図4に示すとおり、両距離画像センサ2A,2Bは同様の構成を有している。よって、以下では、簡単のため、距離画像センサ2Aの構成について説明するが、距離画像センサ2Bについても同様であるものとする。なお、解析装置1は、複数台のコンピュータから構成されていてもよく、例えば、距離画像センサ2A,2Bが異なるコンピュータに接続されていてもよい。
本実施形態で使用される距離画像センサ2Aは、二次元画像を赤外線画像(以下、IR画像という)として撮影する。また、深度画像は、赤外線を用いたタイムオブフライト方式やドットパターン投影方式等の方法により得られる。従って、図1に示すように、距離画像センサ2Aは、赤外線を前方に向けて発光するIR発光部21と、IR発光部21から照射され、被写体に反射して戻ってきた赤外線を受光するIR受光部22とを有する。IR受光部22は、光学系及び撮像素子等を有するカメラである。本実施形態では、IR発光部21及びIR受光部22は、同じ筐体20内に収容され、筐体20の前方に配置されている。
距離画像センサ2Aには、距離画像センサ2Aの動作全体を制御するCPU23の他、撮影された時系列のIR画像及び深度画像の画像データ(第1計測データ)を少なくとも一時的に記憶するメモリ24が搭載されている。距離画像センサ2Aの動作を制御する制御プログラムは、メモリ24内に格納されている。また、距離画像センサ2Aには、通信部25も内蔵されており、当該通信部25は、撮影された画像データを、有線又は無線の通信線17を介して、解析装置1等の外部のデバイスへと出力することができる。本実施形態では、CPU23及びメモリ24も、IR発光部21及びIR受光部22とともに、筐体20内に収納されている。なお、解析装置1への画像データの受け渡しは、必ずしも通信部25を介して行う必要はない。例えば、メモリ24が着脱式であれば、これを筐体20内から取り外し、解析装置1のリーダー(後述する通信部15に対応)に挿入する等して、解析装置1で画像データを読み出すことができる。
本実施形態では、以上のとおり、距離画像センサ2A,2Bにより赤外線撮影が行われ、撮影されたIR画像に基づいて、グリップエンド51aの挙動が解析される。従って、図5では省略されているが、距離画像センサ2A,2Bによるグリップエンド51aの運動の計測が容易となるように、グリップエンド51aには、赤外線を効率的に反射する反射シートがマーカーとして貼付されている。また、シャフト52にも、同様の赤外線の反射シートがマーカーとして貼付されている。
<2−2.第2計測器>
第2計測器MD2の詳細な構成は、図2及び図3に示されている。なお、図1では、第2計測器MD2が省略されているが、反対に図2及び図3では、第1計測器MD1が省略されている。第2計測器MD2は、複数台のカメラ3A〜3Hを備える高性能撮影システムであり、これらのカメラ3A〜3Hにより、様々な方向からスイング中のヘッド53の運動を計測した時系列の画像データ(第2計測データ)が撮影される。カメラ3A〜3Hは、ストロボ式である。従って、第2計測器MD2は、カメラ3A〜3Hの撮影範囲を照射するストロボ4A〜4Hをさらに備えるとともに、カメラ3A〜3H及びストロボ4A〜4Hの作動のタイミングを決定するトリガー装置8も備える。
カメラ3A〜3Hは、インパクト付近でのヘッド53の近傍の様子を撮影する。すなわち、インパクト付近のヘッド53の運動が、複数台のカメラ3A〜3Hにより複数の方向から撮影される。そのため、複数台のカメラ3A〜3Hから出力される複数系列の画像データにより、ヘッド53の運動が三次元的に捉えられる。
カメラ3A〜3Hは、天井に吊り下げられる等、ゴルファーGの頭上に配置される。このうち、カメラ3A〜3Dは、ゴルファーGの直上近傍に配置され、カメラ3E〜3Hは、ゴルファーGを基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。カメラ3A〜3Hは、有線又は無線の通信線18を介して解析装置1に接続されている。カメラ3A〜3Hにより撮影された画像データは、解析装置1にリアルタイムに送信される。なお、カメラ3A〜3Hに内蔵される記憶装置内に画像データを保存しておき、後に記憶装置から解析装置1に受け渡すこともできる。
ストロボ4A〜4Hは、カメラ3A〜3Hの撮影を補助する発光装置である。ストロボ4A〜4Hも、天井に吊り下げられる等、ゴルファーGの頭上に配置される。このうち、ストロボ4A〜4Eは、ゴルファーGの直上近傍に配置され、ストロボ4F〜4Hは、ゴルファーGを基準としてY軸方向正側にやや離間して配置される。ストロボ4A〜4Hは、カメラ3A〜3Hに同期して作動する。
図6に示すように、ヘッド53には、複数のマーカーM1〜M5が取り付けられている。マーカーM1〜M5は、ストロボ4A〜4Hから照射される光を効率的に反射し、カメラ3A〜3HにおいてマーカーM1〜M5の位置、ひいてはヘッド53の運動を捉え易くするために貼付される。マーカーM1〜M4は、ヘッド53においてボール55を打撃するフェース面53aに取り付けられており、好ましくは、フェース面53aでのボール55の打撃の妨げとならないよう、フェース面53a上における中央付近の領域を避けて貼付される。マーカーM5は、ヘッド53のトップ面においてフェース面53aの上縁中央付近に沿って細長く延びるように取り付けられている。なお、ここでのマーカーM1〜M5の貼付位置は、例示である。
トリガー装置8は、複数組のタイミングセンサと、タイミング制御装置9とを備える。より具体的には、投光器6Aと受光器7A、投光器6Bと受光器7B、並びに投光器6Cと受光器7Cが、各々1組のタイミングセンサを構成している。投光器6A〜6C及び受光器7A〜7Cは、ゴルファーGの足元付近に配置される。タイミング制御装置9は、投光器6A〜6C及び受光器7A〜7Cに加え、カメラ3A〜3H、ストロボ4A〜4H及び解析装置1に接続されている。
各タイミングセンサに含まれる投光器及び受光器は、X軸に概ね平行な直線上に配置されており、互いに対向している(図3参照)。スイング中、投光器6A〜6Cは、それぞれ常時受光器7A〜7Cに向けて光を照射しており、受光器7A〜7Cがこれを受光する。しかしながら、ゴルフクラブ5が投光器6A〜6Cと受光器7A〜7Cとの間を通過するタイミングでは、投光器6A〜6Cからの光がゴルフクラブ5により遮断されるため、受光器7A〜7Cはこれを受光することができない。受光器7A〜7Cは各々、このタイミングを検出し、このタイミングに基づいて、タイミング制御装置9がカメラ3A〜3H及びストロボ4A〜4Hを作動させるタイミングを生成する。タイミング制御装置9により生成されたタイミングの信号は、タイミング制御装置9からカメラ3A〜3H及びストロボ4A〜4Hに送信される。これを受けて、これらのカメラ3A〜3H及びストロボ4A〜4Hは、撮影及び発光を行う。
<2−3.解析装置>
解析装置1は、ハードウェアとしては汎用のコンピュータであり、例えば、タブレットコンピュータ、スマートフォン、ノート型コンピュータ、デスクトップ型コンピュータとして実現される。図4に示すとおり、解析装置1は、CD−ROM等のコンピュータで読み取り可能な記録媒体30から解析プログラム31を汎用のコンピュータにインストールすることにより製造される。解析プログラム31は、第1及び第2計測器MD1,MD2からそれぞれ送られてくる第1及び第2計測データに基づいて、ゴルフスイングを解析するためのソフトウェアであり、解析装置1に後述する動作を実行させる。
解析装置1は、表示部11、入力部12、記憶部13、制御部14及び通信部15を備える。これらの部11〜15は、互いにバス線16を介して接続されており、相互に通信可能である。表示部11は、液晶ディスプレイ等で構成することができ、ゴルフスイングの解析の結果等をユーザに対し表示する。なお、ここでいうユーザとは、ゴルファーG自身やそのインストラクター、ゴルフ用品の開発者等、ゴルフスイングの解析の結果を必要とする者の総称である。入力部12は、マウス、キーボード、タッチパネル等で構成することができ、解析装置1に対するユーザからの操作を受け付ける。
記憶部13は、ハードディスク等で構成することができる。記憶部13内には、解析プログラム31が格納されている他、第1及び第2計測器MD1,MD2から送られてくる第1及び第2計測データも保存される。制御部14は、CPU、ROMおよびRAM等から構成することができる。制御部14は、記憶部13内の解析プログラム31を読み出して実行することにより、仮想的に第1取得部14a、第2取得部14b、シミュレーション部14c、特定部14d、補正部14e及び再シミュレーション部14fとして動作する。各部14a〜14fの動作の詳細については、後述する。通信部15は、慣性センサユニット40、距離画像センサ2A,2B及びカメラ3A〜3Hを含む外部のデバイスから通信線17,18を介してデータを受信する通信インターフェースとして機能する。
<3.解析方法>
以下、スイング中のゴルフクラブ5の挙動を解析する解析方法について説明する。本解析方法では、シャフト52及びグリップ51が変形する様子がシミュレートされるとともに、ゴルフクラブ5のスイングによる運動の結果として生じるヘッド53の挙動を表す指標値が導出される。
図7は、本実施形態に係る解析処理の流れを示すフローチャートである。まず、ゴルファーGにより、上述の慣性センサユニット40付きゴルフクラブ5がスイングされる。ステップS1では、このとき、第1計測器MD1に含まれる慣性センサユニット40により、ゴルフスイング中の加速度ax,ay,az、角速度ωx,ωy,ωz及び地磁気mx,my,mzのセンサデータ(第1計測データ)が検出される。また、これらのセンサデータは、慣性センサユニット40の通信装置44を介して解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第1取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、少なくともアドレスの少し前からフィニッシュまでの区間を含む、スイング中の各時刻における時系列のセンサデータが収集される。
また、ステップS2では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第1計測器MD1に含まれる距離画像センサ2A,2Bにより撮影される。すなわち、距離画像センサ2A,2Bにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第1計測データ)が検出される。ステップS2は、ステップS1と並行して、ステップS1と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、距離画像センサ2A,2Bの通信部25を介して解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第1取得部14aが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、スイング中の各時刻での時系列の画像データが収集される。
また、ステップS3では、ゴルフクラブ5のスイング動作が、第2計測器MD2により撮影される。すなわち、カメラ3A〜3Hにより、ゴルフスイングを捉えた画像データ(第2計測データ)が検出される。ステップS3は、ステップS1,S2と並行して、ステップS1,S2と同じスイング動作を対象として行われる。検出された画像データは、カメラ3A〜3Hから解析装置1に送信される。一方、解析装置1側では、第2取得部14bが通信部15を介してこれを受信し、記憶部13内に格納する。本実施形態では、スイング中の各時刻における時系列の画像データが収集される。
続くステップS4では、シミュレーション部14cは、スイング中の各時刻における第1計測データを補正する。この補正は、ゴルファーGによるスイング中のゴルフクラブ5における回転中心Cを考慮することにより行われる。多くの場合、ゴルファーGは、図8に示すように、ゴルフクラブ5の端部付近を把持してゴルフクラブ5をスイングする。そのため、従来、ゴルフクラブ5のスイング中の挙動を解析するためのシミュレーションモデルでは、ゴルフクラブ5はグリップエンド51aを中心として回転するものと仮定される。しかしながら、実際には、ゴルフクラブ5の回転中心Cは、グリップエンド51aではなく、ゴルフクラブ5においてゴルファーGがまさに把持する把持位置の近傍にくることが多い。従来、このようなゴルフクラブ5の真の回転中心は考慮されてこなかったが、これを把握することは、より正確なシミュレーションに寄与し得る。このグリップ51上の把持位置は、ゴルファーGに特有であり、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴を表す解析パラメータとして使用される。
具体的には、ステップS4では、シミュレーション部14cは、特定の回転中心Cの値を設定し、この回転中心Cに基づいて、ステップS1で取得されたセンサデータを補正する。なお、図7に示すとおり、ステップS4〜S9は、最終的にゴルファーGに特有の回転中心Cが決定される(ステップS11)まで繰り返し実行され、これにより回転中心Cの最適解が決定される。そのため、ステップS4では、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、回転中心Cの値が適宜選択される。最初のステップS4で設定される回転中心Cの値(初期値)は、補正前のセンサデータから推定されてもよいし、所定の値(回転中心がグリップエンド51aに一致することを意味する0とする場合が含まれる)としてもよい。
本実施形態においてステップS4の補正の対象となる第1計測データは、スイング中の各時刻における加速度ax,ay,azのセンサデータである。慣性センサユニット40により計測されるグリップエンド51aにおける加速度ax,ay,azには、慣性センサユニット40の位置が回転中心Cから距離dhだけオフセットしているため、回転中心C周りの回転成分が含まれる。この回転成分は、回転中心C周りの回転に伴って慣性センサユニット40の位置に発生する角速度及び角加速度の影響により生じる。シミュレーション部14cは、回転中心Cに基づいてこの回転成分を算出し、これをas=(ax,ay,az)から除去することにより、グリップエンド51aにおける補正後の加速度as’=(ax’,ay’,az’)のセンサデータを算出する。この回転成分は、([ωs_T][ωs_T]+[ωs_T’]){H}と表すことができる。なお、ωs_Tは、ωs=(ωx,ωy,ωz)のテンソル(外積を表す反対称テンソル)であり、ωs_T’は、ωs_Tの微分である。また、H=(0,0,dh)である。
図9は、本発明者らが実際に行ったシミュレーションにより導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。より具体的には、xyz局所座標系での加速度asの時系列データをXYZ慣性座標系での値に変換した後、変換後の加速度の時系列データを2回積分することにより、ゴルフスイング中のグリップエンドの位置を表す時系列データを算出した。図9中の「補正前」のグラフは、回転中心Cに基づく補正を行わず、加速度as及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフであり、「補正後」のグラフは、回転中心Cに基づく補正後の加速度as’及び角速度ωsの時系列データから導出されたグリップエンドの軌跡のグラフである。なお、補正後のグラフを算出するに当たり、回転中心Cを計算したところ、dh=19.15cmとなった。これらのグラフを比較すると分かるように、補正前のグラフはギザギザしており、同グラフには角速度及び角加速度によるものと思われるノイズが確認されるが、補正後のグラフからはこのようなノイズが除去されていることが分かる。
続くステップS5では、ステップS4で補正された時系列のセンサデータと、ステップS2で取得された時系列の画像データとの時刻合わせが行われる。言い換えると、シミュレーション部14cが、センサデータ(特に断らない限り、最新の補正後のセンサデータを意味する。以下同様)と画像データとを同期させる。
具体的には、まず、シミュレーション部14cは、センサデータに基づいて、アドレス、トップ及びインパクトの時刻を導出する。これらの時刻の導出方法としては、様々なものが公知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
続いて、シミュレーション部14cは、センサデータに基づいて、スイング中の各時刻における姿勢行列Nを導出する。今、姿勢行列Nを以下の式で表す。姿勢行列Nは、xyz局所座標系の値をXYZ慣性座標系の値に変換するための行列である。
姿勢行列Nの9つの成分の意味は、以下のとおりである。
成分a:慣性座標系のX軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分b:慣性座標系のY軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分c:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のx軸とのなす角度の余弦
成分d:慣性座標系のX軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分e:慣性座標系のY軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分f:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のy軸とのなす角度の余弦
成分g:慣性座標系のX軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分h:慣性座標系のY軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
成分i:慣性座標系のZ軸と、局所座標系のz軸とのなす角度の余弦
ここで、ベクトル(a,b,c)は、x軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(d,e,f)は、y軸方向の単位ベクトルを表し、ベクトル(g,h,i)は、z軸方向の単位ベクトルを表している。
なお、慣性センサユニットから出力されるセンサデータに基づいて、姿勢行列Nを算出する方法としては、様々知られているため、ここでは詳細な説明を省略する。必要であれば、同出願人らによる特開2016−2429号公報や特開2016−2430号公報、特開2017−119102号公報等に記載の方法に従うことができる。
続いて、シミュレーション部14cは、距離画像センサ2Aに由来するスイング中の各時刻における画像データ(以下、正面画像データという)を画像処理することにより、各時刻の直線状のシャフト52の像を検出し、時系列のシャフト52の向きの向きを特定する。また、スイング中の各時刻における姿勢行列Nから特定される、z軸の方向を表すベクトル(g,h,i)に基づいて、シャフト52の向きを特定する。そして、シミュレーション部14cは、センサデータ由来の時系列のシャフト52の向きと、正面画像データ由来の時系列のシャフト52の向きとの一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。
続いて、正面画像データと、距離画像センサ2Bにより右側から撮影された画像データ(以下、右側画像データという)との同期が取られる。具体的には、シミュレーション部14cは、正面画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。同様に、シミュレーション部14cは、右側画像データを画像処理することにより、スイング中の各時刻におけるグリップエンド51aの三次元座標を導出する。
続いて、シミュレーション部14cは、正面画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標と、右側画像データ由来の時系列のグリップエンド51aの三次元座標との一致度が最も高くなるように、両時系列データを位置合わせする。以上により、正面画像データを介して、右側画像データとセンサデータも時刻合わせされる。
続くステップS6では、シミュレーション部14cは、スイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢を導出する。グリップ51の姿勢は、地面に対して固定されているXYZ慣性座標系の中での上述したxyz局所座標系の向きにより表すことができる。従って、本実施形態では、グリップ51の姿勢として、XYZ慣性座標系をxyz局所座標系に変換するための姿勢行列であるNT(右肩のTは転置行列を表す)が導出される。
ステップS5の説明の中で述べたとおり、姿勢行列NTはセンサデータのみからでも算出可能であるが、本実施形態では、さらに解析の精度を向上させるべく、ステップS2で取得された画像データも参照して、姿勢行列NTが算出される。すなわち、ステップS1で取得されたセンサデータ(ステップS4で補正されたセンサデータ)も、ステップS2で取得された画像データも、ゴルフクラブ5の同じ動作を捉えたものである。よって、ステップS4のセンサデータ及びステップS2の画像データを用いて、姿勢行列NTを含む所定の目的関数を定義し、これを最小化又は最大化するような最適解として、姿勢行列NTを導出することができる。例えば、特開2017−119102号公報に記載の方法に従うことができる。
続くステップS7では、シミュレーション部14cが、スイング中の各時刻におけるXYZ慣性座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の位置及び速度、xyz局所座標系におけるグリップ51(より正確には、グリップエンド51a)の加速度、角速度及び角加速度を導出する。これらの値の導出方法は、適宜選択することができるが、本実施形態では、一例として、特開2017−119102号公報に記載の方法に従うことができる。簡単に説明すると、グリップ51の位置及び速度は、カルマンフィルタを用いて、距離画像センサ2A,2Bによる画像データから導出される3次元のグリップ51の位置(仮の位置)のデータを、加速度のデータに基づいてスムージングすることにより導出される。なお、スムージングに用いられる加速度のデータは、ステップS4での加速度as’の値をステップS6のグリップ51の姿勢に基づいてXYZ慣性座標系の値に変換した後、そこから重力分をキャンセルすることにより導出される。また、xyz局所座標系におけるグリップ51の加速度は、スムージングにより得られたグリップ51の速度に疑似微分フィルタを掛けた後、ステップS6のグリップ51の姿勢に基づいてxyz局所座標系の値に変換することにより導出される。xyz局所座標系におけるグリップ51の角速度は、ステップS6のグリップ51の姿勢に疑似微分フィルタを掛けることにより得られる姿勢の微分と、ステップS6のグリップ51の姿勢とを掛け合わせた値に、係数2を乗ずることにより導出される。xyz局所座標系におけるグリップ51の角加速度は、こうして得られた角速度の値に疑似微分フィルタを掛けることにより導出される。
続くステップS8では、シミュレーション部14cは、スイング中の各時刻におけるシャフト52及びグリップ51の変形をシミュレートする。本実施形態に係るシャフト52及びグリップ51の変形の解析モデルは、有限要素法に従うモデルである。シャフト52及びグリップ51は多段円筒梁要素と仮定され、ヘッド53は剛体と仮定される。図10に示すように、グリップ51及びシャフト52は、それぞれ長手方向に沿って複数の微小な要素に分割される。本実施形態では、グリップ51と、シャフト52において最もグリップ51近傍の要素とは、物理領域とされ、残りの領域は、弾性変形領域とされる。
また、グリップ51は、ゴルファーGに把持されるが、固定端のように硬く把持されるのではなく、柔軟な手の動きを伴って移動するように把持される。従って、本解析モデルでは、このような柔軟な把持条件を表現するために、図10に示すように、グリップ51をバネモデルでモデル化して、シャフト52及びグリップ51の変形が解析される。バネモデルにおいて、以上の把持条件は、グリップ51に対応する要素のバネ定数で表現される。バネ定数は、ゴルファーGがグリップ51を把持する把持力の強さを表し、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときのゴルファーGに特有の特徴を表す。また、一般的に、把持力の強さは、スイング期間中において一定ではなく、アドレスからトップまでは比較的小さく、トップ以降のダウンスイング中は比較的大きい。そのため、本バネモデルでは、バネ定数は、アドレスからトップまでは一定値であり、トップからインパクトまでは線形的に上昇するものと仮定される。よって、本バネモデルにおいて、バネ定数は、アドレス時(より詳細には、アドレスからトップまで)のx、y及びz方向の成分kax,kay,kazと、インパクト時のx、y及びz方向の成分kix,kiy,kizとにより表される。バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizは、本解析モデルの解析パラメータとなる。
ステップS8では、シミュレーション部14cは、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを設定し、このバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizを上述したシャフト52及びグリップ51の変形の解析モデルに入力する。なお、ステップS8は、ゴルファーGに特有の把持力の強さ、すなわちバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの最適解が決定される(ステップS11)まで繰り返し実行される。従って、ステップS8では、採用される最適化方法のアルゴリズムに従って、バネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値が適宜選択される。最初のステップS8で設定されるバネ定数kax,kay,kaz,kix,kiy,kizの値(初期値)は、第1計測データから推定されてもよいし、所定の値としてもよい。さらに、シミュレーション部14cは、ステップS6,S7で算出されたスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢、並びにグリップ51の位置、加速度、角速度及び角加速度を、上述したシャフト52の変形の解析モデルに入力する。これにより、シャフト52及びグリップ51の各要素の変形量が算出される。
なお、本実施形態に係るシャフト52及びグリップ51の変形の解析モデルの基本的な考え方は、非特許文献1にも示されている。従って、本解析モデルは、非特許文献1を参照することで、より詳細に理解することができる。
続くステップS9では、シミュレーション部14cは、ステップS8で算出された変形のシミュレート結果、すなわち、グリップ51及びシャフト52の各要素の変形量に基づいて、ゴルフクラブ5の運動の結果を表す所定の指標値(第1指標値)を特定する。本実施形態での第1指標値は、ヘッド53の挙動に関するものであり、より具体的には、インパクト直前のヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimである。
ステップS9の実行時においては、これまでのステップにより、スイング中の各時刻におけるゴルフクラブ5の各要素の変形量等が導出されている。従って、シミュレーション部14cは、この情報に基づいて、スイング中の各時刻におけるシャフト52上の最もヘッド53側の要素(以下、最終要素という)の挙動を導出する。そして、この最終要素の挙動、並びにヘッド53の形状のデータから、スイング中の各時刻におけるヘッド53の様々な注目点(ヘッド53の重心を含む)の位置を算出する。ヘッド53の形状のデータとは、例えば、ヘッド53の設計時のCADデータであり、記憶部13内に予め記憶されているものとする。そして、シミュレーション部14cは、これらの時系列のヘッド53の様々な注目点の位置に基づいて、上述したようなヘッド53の挙動を導出する。
また、ステップS4〜S9と並行して、ステップS10が実行される。ステップS10では、特定部14dは、ステップS3で取得された第2計測器MD2からの第2計測データに基づいて、ステップS9と同様の、ゴルフクラブ5の運動の結果を表す所定の指標値(第2結果値)を特定する。すなわち、ここでは、第2結果値として、高精度の第2計測器MD2の計測結果に由来する、インパクト直前のヘッド速度HSMot、フェース角FAMot、ブロー角BAMot及び軌道角PATHMot、並びにヘッド53のフェース面53a上におけるボール55の打点位置Rv_Mot,Rh_Motが導出される。Rv_Motは、上下方向(Z軸方向)の打点位置を表し、Rh_Motは、左右方向(X軸方向)の打点位置を表す。具体的には、ステップS3で取得されたスイング中の各時刻における画像データを画像処理することにより、マーカーM1〜M5の像を検出し、検出されたマーカーM1〜M5の像の位置及び向きに基づいて、第2指標値が算出される。
続くステップS11では、シミュレーション部14cは、第1指標値が第2指標値と整合するように、回転中心C及び把持力の強さに関する解析パラメータを決定する。本実施形態では、第1指標値が第2指標値に一致する又は近付くように解析パラメータを最適化することにより、解析パラメータの最適解が特定される。つまり、高精度の解析性能を有する第2計測器MD2の計測結果である第2指標値は、極めて真値に近く、第1指標値をこれに一致させる又は近付けることにより、回転中心C及び把持力の強さの最適解を取得することができる。
具体的には、シミュレーション部14cは、以下の目的関数Jを定義し、目的関数Jが最小化されるような回転中心C及び把持力の強さを、それぞれの最適解として決定する。そのために、シミュレーション部14cは、直前のステップS9により算出された第1指標値と、ステップS10により算出された第2指標値とを以下の式に代入し、これらの値が0に近い所定の範囲内の値に収束する(以下、終了条件)かどうかを判断する。そして、終了条件が満たされる場合には、最適化の処理を終了し、最新の回転中心C及び把持力の強さを、ゴルファーGに特有の回転中心C及び把持力の強さとして決定する。一方、終了条件が満たされない場合には、ステップS4に戻る。
続くステップS12では、補正部14eは、ステップS1で取得されたスイング中の各時刻における第1計測データ、より具体的には、角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータを補正する。この補正は、角速度ωx,ωy,ωzのバイアス成分を考慮することにより行われる。すなわち、一般に、角速度センサ42(ジャイロセンサ)の出力値には、誤差として、バイアス成分が含まれる。特に、ダウンスイング期間に概ね相当するインパクト直前においてはゴルフクラブ5が高速に運動するため、バイアス成分が大きくなる。従って、このようなバイアス成分を除去することで、より高精度のゴルフスイングのシミュレーションが可能になる。
図11は、角速度センサ42の計測値である角速度ωiと、その真値との関係を概念的に示すグラフである(i=x,y,z)。同図に示すように、角速度ωiの計測値と真値とは、角速度ωiの大きさが小さい場合には線形の関係にあるが、角速度ωiの大きさが大きくなると線形の関係が崩れる。その結果、バイアス成分は、角速度ωiの高速域(ωi>THi)では大きくなり、角速度ωiの低速域(ωi<−THi)では小さくなる。従って、本実施形態では、角速度ωiが以下の補正式に従って補正される。なお、ωi’は、補正後の角速度(バイアス成分を加味した角速度)であり、THiは、真値と計測値との線形関係が維持される範囲を定める閾値であり、kiは、補正係数である。なお、下式中、上下の閾値の絶対値を同じとしているが、異なるように設定することもできる。
ωi’=THi+(ωi−THi)×ki (ωi>THiの場合)
ωi’=−THi+(ωi+THi)×ki (ωi<−THiの場合)
THi及びkiは、角速度ωiのバイアス成分を除去するための補正パラメータである。本実施形態では、閾値THiは、ステップS1で取得されたセンサデータと、ステップS3で取得された第2計測器MD2からの第2計測データとに基づいて設定される。具体的には、補正部14eは、ステップS9で算出されたヘッド速度HSSim及びフェース角FASimが、ステップS10で算出されたヘッド速度HSMot及びフェース角FAMotと整合する、より具体的には、一致する又は近付くような閾値THiを算出する。そして、補正部14eは、この閾値THiに基づいて、上記補正式に従って、スイング中の各時刻における角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータを補正する。
図12は、ステップS12に含まれる、閾値TH
iを算出するための処理を示すフローチャートである。本処理のアルゴリズムは、本発明者らが実験を通して得た以下の知見に基づく。すなわち、ゴルフクラブ5のような慣性センサ付きのゴルフクラブを様々な被験者に多数回スイングさせ、そのときのスイングデータを解析したところ、閾値TH
xを大きくすると、ヘッド速度HS
Simがより速くなり、フェース角FA
Simがより閉じる傾向が見られた。また、閾値TH
yを大きくすると、ヘッド速度HS
Simがより遅くなり、フェース角FA
Simがより開く傾向が見られた。また、閾値TH
zを大きくすると、ヘッド速度HS
Simがより遅くなり、フェース角FA
Simがより開く傾向が見られた。この関係を表1にまとめる。
以上の知見に基づいて、補正部14eは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度H
SMotよりも第1値以上速いかを判断する(ステップS21)。速い場合には、ステップS22に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THx及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0rad/s、1rad/s)に設定する。また、ステップS22では、二分法を用いて、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くような閾値THyを設定する。
また、補正部14eは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotよりも、第1値より小さい第2値以上速いかを判断する(ステップS23)。速い場合には、ステップS24に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THx、THy及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0.5rad/s、0rad/s、1rad/s)に設定する。
また、補正部14eは、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotよりも第3値以上遅いかを判断する(ステップS25)。遅い場合には、ステップS26に進み、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くように、閾値THy及びTHzをそれぞれ所定値(例えば、それぞれ0rad/s、1rad/s)に設定する。また、ステップS26では、二分法を用いて、ヘッド速度HSSimがヘッド速度HSMotに一致する又は近付くような閾値THxを設定する。
ステップS21〜S26によりヘッド速度についての調整が終わると、次に、フェース角についての調整が行われる(ステップS27,S28)。なお、ヘッド速度についての調整の後、フェース角についての調整を行ってもよい。ステップS27では、補正部14eは、フェース角FASimがフェース角FAMotから所定値以上離れているかを判断する。離れている場合には、ステップS28に進み、二分法を用いて、フェース角FASimをフェース角FAMotに一致させる又は近付けるような閾値THzを設定する。
その後、ステップS13では、再シミュレーション部14fは、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータを含む第1計測データ、並びにステップS11で決定された回転中心C及び把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS4〜S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52及びグリップ51の変形を再シミュレートするとともに、第1指標値を計算する。ただし、ここで計算される第1指標値は、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimである。
続くステップS14では、補正部14eは、ステップS6で導出されたグリップ51の姿勢を補正する。この補正は、ステップS13で計算されたブロー角BASim及び軌道角PATHSimに関する第1指標値と、ステップS10で算出されたブロー角BAMot及び軌道角PATHMotに関する第2指標値とに基づいて行われる。具体的には、補正部14eは、ステップS13のブロー角BASim及び軌道角PATHSimが、それぞれブロー角BAMot及び軌道角PATHMotと整合するように、ステップS6のグリップ51の姿勢Nを補正する。
より詳細には、補正部14eは、軌道角PATH
Simと軌道角PATH
Motとを比較する。そして、これらの差θ
1=|PATH
Sim−PATH
Mot|が所定値(例えば、1.5°)以上であれば、軌道角PATH
Simが軌道角PATH
Motに一致する又は近付くように、以下の式に従って、ステップS13で導出されたスイング中の各時刻におけるグリップ51の姿勢行列Nを、角度θ
1だけZ軸周りに回転させる(図13A参照)。これにより、補正された姿勢行列N
'が導出される。ただし、θ
1が所定値よりも小さければ、本補正は省略され、N
'=Nとなる。
さらに、ステップS14では、補正部14eは、ブロー角BA
Simとブロー角BA
Motとを比較する。そして、これらの差θ
2=|ブロー角BA
Sim−ブロー角BA
Mot|が所定値(例えば、1.5°)以上であれば、ブロー角BA
Simがブロー角BA
Motに一致する又は近付くように、以下の式に従って、スイング中の各時刻における姿勢行列N
'を角度θ
2だけX軸周りに回転させる(図13B参照)。これにより、補正された姿勢行列N
''が導出される。ただし、θ
2が所定値よりも小さければ、本補正は省略され、N
''=N
'となる。
続くステップS15では、再シミュレーション部14fは、ステップS14による補正後の姿勢行列N''のデータ、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータを含む第1計測データ、及びステップS11で決定された把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS7〜S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52及びグリップ51の変形を再シミュレートするとともに、第1指標値を計算する。ただし、ここで計算される第1指標値は、ヘッド53のフェース面53a上におけるボール55の打点位置である。ここでは、打点位置として、上下方向(Z軸方向)の打点位置Rv_Simが計算される。打点位置Rv_Simは、例えば、第1計測データに基づいてヘッド53のフェース面53a上のXYZ慣性座標系での複数の所定の位置を算出した後、これらの位置のデータに基づいて、ステップS10の第2計測データに基づく場合と同様の方法で算出される。
続くステップS16では、補正部14eは、ステップS15での再シミュレーションにより導出されたグリップ51の位置を補正する。この補正は、第1計測データに基づくボール55の打点位置に関する第1指標値と、ステップS10による第2計測データに基づくボール55の打点位置に関する第2指標値とに基づいて行われる。
具体的には、補正部14eは、ステップS15による上下方向の打点位置Rv_SimとステップS10による打点位置Rv_Motとを比較し、これらの差r1を算出し、ステップS15で導出されたグリップ51の位置をZ軸方向に差r1だけ平行移動するようにオフセットする。すなわち、打点位置Rv_Simが打点位置Rv_Motと整合するように、より具体的には、一致する又は近付くように、グリップ51の位置を補正する。続いて、再シミュレーション部14fは、この補正後のグリップ51の位置のデータ、ステップS14による補正後の姿勢行列N''のデータ、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータを含む第1計測データ、及びステップS11で決定された把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS8,S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52及びグリップ51の変形を再シミュレートするとともに、第1指標値を計算する。ただし、ここで計算される第1指標値は、ヘッド53のフェース面53a上におけるボール55の左右方向(X軸方向)の打点位置Rh_Simである。
さらに、補正部14eは、左右方向の打点位置Rh_SimとステップS10による打点位置Rh_Motとを比較し、これらの差r2を算出し、最新のグリップ51の位置をX軸方向に差r2だけ平行移動するようにオフセットする。すなわち、打点位置Rh_Simが打点位置Rh_Motと整合するように、より具体的には、一致する又は近付くように、グリップ51の位置を補正する。続いて、再シミュレーション部14feは、この補正後のグリップ51の位置のデータ、ステップS14による補正後の姿勢行列N''のデータ、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータを含む第1計測データ、及びステップS11で決定された把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS8,S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52及びグリップ51の変形を再シミュレートするとともに、第1指標値を計算する。ただし、ここで計算される第1指標値は、ボール55の上下方向(Z軸方向)のボールの打点位置Rv_Simである。
さらに、補正部14eは、最新の上下方向の打点位置Rv_SimとステップS10による打点位置Rv_Motとを比較し、これらの差r3を算出し、最新のグリップ51の位置をZ軸方向に差r3だけ平行移動するようにオフセットする。すなわち、最新の打点位置Rv_Simが打点位置Rv_Motと整合するように、より具体的には、一致する又は近付くように、グリップ51の位置を補正する。続いて、再シミュレーション部14fは、この補正後のグリップ51の位置のデータ、ステップS14による補正後の姿勢行列N''のデータ、ステップS12による補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータを含む第1計測データ、及びステップS11で決定された把持力の強さの最適解を用いて、再度ステップS8,S9と同様の処理を行う。すなわち、シャフト52及びグリップ51の変形を再シミュレートするとともに、第1指標値を計算する。ただし、ここで計算される第1指標値は、ヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSim、並びにボール55の上下方向(Z軸方向)の打点位置Rh_Sim及び左右方向(X軸方向)の打点位置Rh_Simである。
その後、ステップS17では、これまでのシミュレーションの結果が表示部11上に表示される。例えば、ステップS16で算出された最新のヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSim、並びにボール55の打点位置Rh_Sim,Rh_Sim値が表示され、これに代えて又は加えて、ステップS16でシミュレートされた最新のスイング中のグリップ51及びシャフト52の変形がグラフィック表示される。以上により、ゴルフスイングの解析処理が終了する。
<4.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
<4−1>
同じ角速度センサ42に由来する角速度データについては、同じ補正パラメータを用いて精度よくバイアス成分を除去することが可能である。従って、同じ角速度センサ42が用いられる2打目以降のゴルフスイングの解析には、既出の補正パラメータを流用することができる。また、同じゴルファーGは同じ特徴を有するものと考えられるため、同じゴルファーGが行う2打目以降のゴルフスイングの解析には、既出の解析パラメータを流用することができる。よって、2打目以降の解析処理は、図14に示すように実施することができる。図7及び図14の解析処理は、多くの点で共通するため、以下、両解析処理の相違点について説明する。
図14に示す2打目以降の解析処理では、ステップS1〜S3の後、シミュレーション部14cは、1打目の閾値THiを用いて、ステップS12の補正式に従って、角速度ωx,ωy,ωzのセンサデータからバイアス成分を除去する(ステップS30)。その後、補正後の角速度ωx’,ωy’,ωz’のセンサデータ、並びに1打目の回転中心C及び把持力の強さの最適解を用いて、ステップS4〜S9,S10,S14〜17と同様の処理が実行される。これにより、2打目以降のシャフト52及びグリップ51の変形がシミュレートされるとともに、ヘッド速度HSSim、フェース角FASim、ブロー角BASim及び軌道角PATHSimを含む第1指標値が計算され、さらにこれらの解析結果が表示部11上に表示される。
また、2打目以降の解析処理は、図15に示すように実施することもできる。すなわち、グリップ51の姿勢の補正及びグリップ51の位置の補正を省略する場合には、2打目以降の解析処理においては、第2計測器MD2を省略することもできる。
<4−2>
上記実施形態に係る解析装置、方法及びプログラムは、ゴルフクラブ5の挙動を解析するのに適するように構成されていたが、同様のアルゴリズムは、様々な弾性体の挙動、特にスイングされる打具の挙動を解析するのに用いることができる。
<4−3>
第1計測器MD1及び第2計測器MD2の上述した構成は例示であり、第1計測器MD1及び第2計測器MD2は、様々に構成することができる。例えば、第1計測器MD1は、1台の距離画像センサ2Aと慣性センサユニット40のみから構成することもできるし、慣性センサユニット40のみから構成することもできるし、1又は複数台の距離画像センサのみから構成することもできる。また、慣性センサユニット40から地磁気センサ43を省略することもできる。
第2計測器MD2は、複数台のカメラからなる高性能のモーションキャプチャシステムとすることもできる。ただし、第2計測器MD2からの第2計測データは、第1計測器MD1よりも高精度にゴルフクラブ5の挙動を計測できる装置であることが好ましい。
<4−4>
ステップS9,S10等で特定されるゴルフクラブ5の運動の結果を表す指標値は、上述したヘッド速度、フェース角、ブロー角、軌道角及び打点の例に限らず、ヘッド53のその他の様々な挙動が特定されてもよいし、ヘッド53以外の様々な部位の様々な挙動が特定されてもよい。また、指標値は、複数である必要はなく、1つであってもよい。例えば、第1計測データに基づくヘッド速度のみが第2計測データに基づく同指標に整合するように、補正パラメータ及び/又は解析パラメータを決定することができる。
<4−5>
上記実施形態では、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの特徴を表す解析パラメータとして、回転中心C及び把持力の強さが使用されたが、これらの一方のみを使用することもできる。また、解析パラメータとして、回転中心Cや把持力の強さの他にも、ゴルファーGがゴルフクラブ5をスイングするときの様々な特徴を解析パラメータとして使用することができる。
<4−6>
上記実施形態では、回転中心C及び把持力の強さを決定し、これらに基づいてシャフト52及びグリップ51の変形を解析した後、バイアス成分を除去する補正が行われたが、両処理を逆の順番で実行することもできる。これに代えて又は加えて、バイアス成分の除去、グリップ51の姿勢の補正及びグリップ51の位置の補正の順番も、適宜入れ替えることができる。
<4−7>
上記実施形態では、回転中心Cは、最適化計算されたが、回転中心Cを決定する方法は、これに限られない。例えば、以下の方法が考えられる。
ゴルフスイング時、ゴルファーGは手でグリップ51を把持して、ゴルフクラブ5に回転運動及び並進運動を組み合わせた運動を与える。ここで、ゴルファーGがアドレス前に行うワッグル動作時のゴルフクラブ5の運動は、主として回転中心C周りの回転運動となり、並進成分は殆ど発生しない。よって、ワッグル動作中、ゴルフクラブ5の動きは、回転中心Cにおいて最小化される。従って、ワッグル動作中、ゴルフクラブ5において動きが最小化される位置、より具体的には、ゴルフクラブ5において加速度の大きさがゼロとなる位置を、回転中心Cの位置として算出することができる。
以上より、シミュレーション部14cは、第1計測器MD1により計測されたセンサデータの中から、アドレスの前に行われるワッグル動作時のセンサデータ(以下、ワッグルデータという)を抽出する。ここで、xyz局所座標系におけるゴルフクラブ5上の任意の点の座標Hは、H=(0,0,d
h)と表すことができる。Hは、xyz局所座標系の原点であるグリップエンドに対する相対位置を表しており、そのz成分のd
zの大きさは、グリップエンドから回転中心Cまでの距離を表す。このとき、座標Hの点の加速度は、以下の式に従って表される。Gは、xyz局所座標系からXYZ座標系への座標変換行列である。また、チルダは、テンソルを表し、ドットは、微分を表す。
そして、数5の加速度の大きさが最小化される、すなわち、ゼロとなるのは、以下の式が成り立つときである。従って、シミュレーション部14cは、数6の式に、ワッグルデータに含まれる加速度a
s及び角速度ω
sの値を代入することにより、Hを算出することができる。
以上のとおり、並進運動の影響が小さく、主として回転運動を含む運動時のデータに着目すれば、並進運動及び回転運動を分離し、回転運動の回転中心Cを精度よく導出することができる。この観点からは、例えば、ゴルファーGに並進運動を与えず、回転運動のみを与えることを意識させながらゴルフクラブをスイングさせ、上述したワッグルデータに代えて、このときのセンサデータに基づいて回転中心Cを精度よく算出することもできる。
<4−8>
上記実施形態では、把持力の強さは、最適化計算されたが、把持力の強さを決定する方法は、これに限られない。例えば、以下の方法が考えられる。
本発明者らは、以下に説明する実験を行った。本実験では、ゴルファーにゴルフスイングを行わせた。このとき、上述したゴルフクラブ5のような、グリップエンドに慣性センサが取り付けられたゴルフクラブが使用された。図16Aに、把持力の強いゴルファー(以下、強力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。また、図16Bに、強力ゴルファーよりも把持力の弱いゴルファー(以下、弱力ゴルファーという)によるゴルフスイング時に角速度センサから出力された角速度ωzの時系列データの一例を示す。図16A及び図16Bの横軸のゼロは、インパクトのタイミングを表している。
本発明者らは、強力ゴルファー及び弱力ゴルファーによるゴルフスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを多数蓄積してゆく中で、このようなスイングデータにはゴルファーの把持力の強弱に応じて特有の波形が出現することを発見した。より具体的には、図16Aに示すように、強力ゴルファーによりスイングされたゴルフクラブの動きの波形は比較的滑らかであるのに対し、弱力ゴルファーによる同様の波形には小刻みの山が観測された。すなわち、弱力ゴルファーの波形には、強力ゴルファーの波形よりも高周波成分が多く含まれるという知見を得た。
以上の知見をより正確に確認するべく、周波数分析を行った。図17A及び図17Bは、それぞれ図16A及び図16Bの時系列データをバンドパスフィルタ(5〜20Hzの帯域を抽出するもの)に通した後、周波数解析した周波数スペクトルのグラフである。同図からは、弱力ゴルファーの周波数スペクトルには7〜10Hz付近にピークが出現するが、強力ゴルファーの周波数スペクトルにはそのようなピークは出現しない。
以上の実験から、ゴルファーのスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データに含まれる周波数成分の大きさは、ゴルフクラブを把持する把持力の強さに応じて変化することが分かった。従って、ゴルファーのスイング時のゴルフクラブの動きを表す時系列データを取得し、これに含まれる所定の周波数成分の大きさを特定すれば、把持力の強さを判定することができるという知見を得た。これは、ゴルファーの把持力の強さに応じて、打具の振動の特性が変化するからであると考えられる。
なお、図18A及び図18Bは、同一ゴルファーに意図的に把持力を変化させてゴルフスイングを行わせたときの結果を示しており、図18Aが意図的に強く把持させた場合を、図18Bが意図的に弱く把持させた場合を示している。この実験の場合も、把持力が弱い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、7〜10Hz付近に大きなピークが存在するが、把持力が強い場合の角速度ωzの周波数スペクトルには、同様の大きなピークは存在しない。よって、以上の知見の確からしさがさらに確認された。
また、図16A及び図16Bに戻ると、主としてインパクト−2秒からインパクト−0.5秒の期間に高周波成分が確認される。この期間は、アドレスからトップまでのバックスイングの期間に相当する。すなわち、バックスイング中のようにゴルフフクラブを振り上げるときは、トップ以後のゴルフクラブを振り下ろすときに比べて、比較的ゆっくりとゴルフクラブが運動しているため、ゴルファーの把持力が小さいことの影響がより顕著に表れるためと考えられる。また、動きが速いときには、把持力が大きくなり易くなるため、ゆっくりの挙動の方が、ゴルファー間の差分が出やすい。よって、打具の動きが比較的ゆっくりとなる期間のデータに注目すれば、より正確な解析が可能なると考えられる。
以上より、把持力の強さは、以下の方法により決定することができる。具体的には、シミュレーション部14cは、第1計測器MD1により計測されたセンサデータ(例えば、ωzの時系列データ)に、所定の周波数成分のみを通過させるバンドパスフィルタを適用する。ここでいう所定の周波数成分とは、ゴルファーの把持力の強さに関する特徴が顕著に出現する所定の周波数帯域における波の成分であり、例えば、把持力が弱い場合の特徴が顕著に現れる5〜20Hzの帯域における波の成分である。なお、参考のため、図16Bには、5〜20Hzの周波数成分を通過させるバンドパスフィルタの適用後の波形が破線で示されている。
続いて、シミュレーション部14cは、バンドパスフィルタの通過後のセンサデータから、バックスイング時のゴルフクラブ5(より正確には、グリップエンド)の動きを表す時系列データを抽出する。そして、シミュレーション部14cは、以上の時系列データを周波数解析する。より具体的には、時系列データを高速フーリエ変換し、周波数スペクトルを導出する。そして、この周波数スペクトルを積分することにより、時系列データに含まれる所定の周波数成分の大きさDを特定する。
続いて、シミュレーション部14cは、所定の周波数成分の大きさDに応じて、ゴルファーの把持力の強さを判定する。ここで、Dは、把持力の強弱の差が顕著に現れる傾向にある7〜10Hzを含む周波数帯域の波の成分の大きさを表すため、把持力の強弱を的確に表すことができる。従って、Dを所定の閾値と比較し、Dが所定の閾値以下であれば、把持力が強いと判定し、所定の閾値よりも大きければ、把持力が弱いと判定することができる。ここで使用される閾値は、多数の実験を通して予め定めておく。
<参考例(真値)>
図19に示すように、ヘッドのクラウン部上におけるフェース面近傍の位置であって、トゥ側の端部付近とヒール側の端部付近とにマーカーを貼付したゴルフクラブを用意した。そして、複数台のカメラからなる高精度の三次元計測を可能にするモーションキャプチャシステムにより、このゴルフクラブを用いたスイング中のこれらのマーカーの軌道を計測した。そして、以上のマーカーの軌道から、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。
<実施例>
上記実施形態に係る図7の解析処理と同様の処理により、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。ただし、ここでは、ステップS4の回転中心Cに基づくセンサデータの補正を省略し、ステップS8においては、把持力の強さを考慮することなくバネ定数を一定として、シャフト及びグリップの変形をシミュレートした。また、これに合わせてステップS11も省略した。また、ここでは、第2計測器としては、モーションキャプチャシステムが用いられた。
<比較例>
上記実施例の処理から、さらにステップS3,S10,S12〜S16を省略し、インパクト直前のヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角を算出した。
<検証>
下表2は、参考例、実施例及び比較例に係るヘッド速度、フェース角、軌道角及びブロー角をまとめたものである。なお、実施例及び比較例の欄の括弧内の数値は、参考例に対する誤差である。同表からも分かるとおり、参考例に対する実施例の誤差は、参考例に対する比較例の誤差に比べて非常に小さかった。この結果から、実施例に係るアルゴリズムの効果が確認された。